比企谷「海老名さんと付き合ってみる」(145)

俺ガイルSSです。初投稿でご迷惑かけるかもですが
ゆっくりがんばって行きます。

修学旅行も終わって学校の行事という行事は無くなって、今年もあと1ヶ月
といったころ。
風さえ吹かなきゃ暖かい小春日和の陽気に誘われて、ある日曜日に俺は
ちょっと遠くにある図書館へ行ってみることにした。

目的は最近興味を持った外国のSF作家の短編集がそこにしかなかったこと、
というのが発端だが、まぁ暇をもてあましてというのがもっとも大きな
理由だ。

二流のボッチは暇を嘆くが、一流のボッチは暇を上品に消費してゆくのである。あまり知らない街をゆっくりと歩いて行く俺。
やばい、ちょっと小説の一ページみたい。

で、図書館についたら目当ての本といくつかの読みたかった本をついでに
借りてぶらりと自販機コーナーで迷うことなくMAXコーヒーを購入して
顔を上げると―――。


「ひゃっはろ~、で良かったんだっけ? あ、それともヒャッハァだったかな?」


赤いフレームのめがねに指をかけて、ニコニコと俺に話しかける海老名さんが
居たのだった。

「なんでこんな所にいんの……?」


「本を探しにちょっとね。ああ、別に趣味の方ではなくて、まぁ勉強のため……かな?」


半眼で見つめているであろう俺の視線を受けても、彼女―――海老名姫菜は
芝居がかった照れ隠しのようなしぐさで頭を掻くふりをしている。

俺はというとMAXコーヒーを見ることもなく自販機の取り出し口から
手探りで取り出し、それをバックにつめて。


「そっか……。じゃ、またな」


軽く右手を上げてきびすを返すことにした。

まさに飛ぶぼっち後を濁さずの模範生である。

数秒後に海老名さんはここで
誰と会ったかも分からなくなるのではないかというくらい鮮やかなターンだ。

本当に我ながら惚れ惚れしちゃうぜ。
ターンのときに靴の裏がきゅっとも言わないんだぜ、足音殺すのが癖になっ
ちゃってるなこりゃ。

俺ガイル初じゃね?
期待

「ちょいちょい、まってよヒキタニくん。そんなに慌てて帰んなくてもいいん
じゃない? すこーし、私に付き合あおうぜ~」

「あ、ちょっとすそ引っ張るのなしなし! 手はなして、手。伸びんじゃん、
俺のお気に入りのコーデが台無しになっちゃうじゃん」

「ふむふむ、○ニクロか。1,980と見たけどいかに?」

「ちょ、ユニ○ロ馬鹿にしてるようじゃ、おしゃれ気取りのにわかって
呼ばれちゃうぜ」

「あれ、ズボンもユニク○? 全身ユニってるのもどうかと思うよ?」

「まぁ、母親が買ってきた服だし、俺が自分で欲しい服を着てるわけじゃない
から、俺のせいじゃないと思う」

「親が買ってきた服を黙って着ている方が痛い気がするけどね」

「まぁ、今日はたまたまだから許してくれ。あと、手を離して欲しいし、
帰りたい」

「手は離そう。服のセンスもまぁいいよ、色使いは気にしてるみたいだし。
でも、帰っちゃだめ」

「じゃあ、別の図書館に行くので家へは帰らない。また明日な」

「言い方が悪かったらごめんなさい。ここに、私と居て、少しおしゃべりを
しない? って言ってるんだけど」

「ええっと、今何分たった? もう「少し」まであとどのくらいかな」

「ヒキタニくんは本当に一人が好きなんだね。じゃあ、手間取らせちゃわるい
から、ちゃっちゃとそこの風除けがあるベンチに行こう」

「ちょっと、離して! そこ、服じゃない、パンツだからッ。下着引っ張ってる
から。食い込む! 食い込んじゃう!!」

強引かつ張り付き笑顔である種のポーカーフェイス―――海老名姫菜。
彼女とこうやって向き合って会話するのは、修学旅行以来だった。

ベンチには俺と海老名さんがサッカーボール一つ分くらいの間を空けて座って
いる。
風除けもあって寒くはない。てか、むしろ汗が、変な汗が背中を濡らしている。

下着を……、いや服を引っ張られて連れて来られたベンチに座り込む俺たち。
座って、現在会話のない空白状態が続いていた。

「あの、もし用がないのなら、俺……」

「あのね、やっぱりヒキタニ君は……いいね」

帰らせてはくれない海老名さんだったが、いきなり何を言い出すのか。

「『いいね』って、俺みたいに一人になりたいってことか?」

俺に対して羨ましがる所といえばもはや孤独のみ。
まぁ、三浦や由比ヶ浜や戸部やら人間関係とのしがらみは切っても切れんし、
そういう気持ちもあるのか。
俺が意外そうに彼女を見ていると、彼女がそんな俺の顔を見て苦笑する。

「いや、そこまでボッチに憧れはないけど……、ヒキタニ君は孤独を大切にし
ているのかな。うんうん、まぁどっちにしたって羨ましいってわけじゃなくて
ね。グット、って意味で私は言ったの。君は良いね、ってね」

「言っておくが、金ならない。今月は新刊が出た数が多かったのと、妹と遊び
に行った時にたかられたので、もう……使ったぜ。いや、もっとストレートに
言おう、貸せない。というかむしろ貸して欲しい」

「あはは、お金は無いんだね。それじゃ仕様が無いか。じゃあ、お金はいいよ。
それでね……」

「か、……体か? いやいやいやいや、体はもっと不味い。俺、体力は見かけ
どおり無いし、ホントだって! 腕立てもまともにできない奴なんだ。スマホ
で突き指するくらいだし……」


≫4 たぶん初じゃないが、俺がんばるぜ!

「くっ、ふふ! 上手すぎ、軸ぶらすの。どんだけ私に喋らせないつもり?
あははぁ、燃えてきた来たかも」

眼鏡のレンズがいい具合に光を反射して、目線を隠しているために―――
ちょっと怖い。やり過ぎた感が今更だが下腹をキリキリさせる。はぁ、
もうそろそろ終わらせるか。帰りたいし、本当に。

「って、燃えてきちゃうのかよ。……はぁ、んで。話があるんだろ。聞きますよ、
聞かせてくださいよ。じゃなきゃ、帰してくんなさそうだし、さ」

「……うしっ!」

え、牛? そう俺が気を取られた隙を、彼女は上手く突いてきた。
ひやり、っとした感触が自分の汗ばんだ手に重ねられて。

「ねぇ、ヒキタニ君」

「う、え……」

「お試しで、良いからさ」

「おた、え……」

「私に彼氏ってやつが居る気分を教えてくれないかな?」

「かれ、え……?」

「君さ、彼女いないよね? 結衣とは、まだ付き合ってないよね?」

「きみ、え……?」

「……ちょっと、めんどくさい。動揺する振り、いい加減にやめない?」

「……わりぃ、でもまだ言ってる意図は見えていないんだが。てか、近いし、
手を離してく……くださいよ」

「くふふ、やっと緊張してくれた? ヒキタニ君はさ、ちょっと面白すぎるん
だよね。凄く興味を持っちゃうというか、君ちょっと普通じゃないから」

「普通じゃないってどういう事? 俺はそこまで異常なボッチ者ってことか?」

「良い意味で、って前置きしなきゃだめなの? はぁ、私だって女の子なんだよ、
恥ずかしい事言ってるんだからさ、もう少し拾いに来て欲しいな。頭の回転は
いいのに、こういう自分への好意はシャットアウトしている感じなの?」

「自分で意識的にしてる訳じゃないけど。で、なんなの? 彼氏が欲しいって
こと? 奉仕部の俺に彼氏を探して来いってこと?」

「イ~エース! そんでもって、彼氏役も既に決定済み。比企谷君、
君が彼氏になって欲しいの。じゃ、そうだね。うん……、3週間は付き合って
みちゃおうっか? 私の事は姫菜って呼んでね、八幡」

「八幡って……、おい。冗談きついぜ。この前だって愛だ恋だよりも今の
友達関係が大事だって、そう言ってたばかりじゃねーか」

「八幡は私の友達じゃないじゃん。だから全然オッケーだよ、人間関係を
キープしながらも私には素敵なステディが!」

「ま、まてまて。海老名さんは男×男が大好きな、清く正しい腐女子で
いらっしゃいましたでしょう?」

「ふふふ、あ、いや、腐腐腐か! それは趣味だけど、私の性癖としては
いたって正常の男女交際を望むものでしてよ?」

「ちっ、……じゃあ、何で俺なんだよ。奉仕部の男は俺だけだからとか、
そういうことか? だいたい、奉仕部に依頼するんなら平日にしてくれよ。
俺が勝手に受けちゃったら、また怖い部長が更に金色夜叉として俺を攻め立て
に来るだろうが……」

「それは……厳しいかな」

テンポ良く、というと会話が弾んでいたかのように思われちゃうので迷うが、
ここに来て少し海老名さんの表情と声色が曇った。

「奉仕部にはさ、結衣と雪ノ下さんが居るでしょ。二人が居る前でこんな
お願いは出来ない」

「だったらこの依頼は受けられ……」

「ヒキタニ君はさ、葉山君と私、二択しか選択肢が無かったら、どっちを恋人
に選ぶ? どちらも選ばないっていうのは無しだよ」

「なんだよ、その二択は。男女って選択肢はおかしいだろ、普通。で、この
二択に答えた先に俺の依頼拒否を打ち消すなにかがあるっての?」

「君だって、いつか誰かと恋をして、告白して、付き合う……、いや付き合い
たいと思うよね」

「……そりゃ、まーな。普通だろ、そんなの」

「それは―――――――、男の子?」

たまに変なとこで改行してるのはなに?
PSPか何かの画面に合わせてんの?

「いや、女の子だよね、普通は。俺はいつからガチホモ扱いを受けてるの?
虐めなの? 遊び半分? 学校側ではいじめは認識していないの?」

「あはは、くくく。ごめん、嘘だよ、嘘。私がいいんだよね」

「いや、女の子がいいよ」

「私は女の子だよ」

「女の子であれば誰でもいいとか、俺って最悪なやつなの!?」

「選択肢では、男の子は葉山君で、女の子は私だったよ?」

「ああ、そこでその二択がくるの? で、結局何が言いたいのかが分からない
んだけど……」

「だからね、お互いに本命を目の前にしてもしくじらない様に、練習が必要だ
と思うんだけど、ヒキタニ君。君も決してテクニシャンじゃないんでしょう?」

「おい、テクニシャンって、なんかそのイヤラシイというか……」

「まぁ確かに。でもでも、3週間の試行期間でお互いに意気が統合すれば
ひょっとしたらヒキタニ君のテクニックが炸裂する機会だって……」

「おい、恋人の真似事で処女捧げちゃうって何事よ!」

「ふふん、処女って決め付けてくれるんだ。ふふっ、私って結構清純なイメー
ジが在るみたいだもんね。腐ってるのに」

「腐っているかどうかは知らないけど、ちょっと話を整理しようぜ。今の会話
で俺なりに読み解くと、お互いの今後の男女交際のテクニックについてレベル
アップを図ろう、と。そういう事でいいのか?」

ニコッと微笑んで、海老名姫菜は親指をぐぐっと立てて見せるのであった。



≫14
初めてで、改行の勝手が分からんのですタイ。当方PCです。

「なぁ、そりゃ俺も付き合った経験なんか無いわけだからありがたい研修なの
かもしれないけど、それって本当に海老名さんに必要なのか? しかもなぜ今
のタイミングで?」

「まぁ、そこは追々語っていくとして。ヒキタニくん的には、オッケーして
くれるって認識でいいのかな? それとも私みたいな腐った女子とは付き
合えない? 結衣や雪ノ下さんに悪いかな?」

かわいい、と正直にそう思う。

今だって、眉毛をへの字にして、それでも笑顔は絶やさずにこっちを伺って
くる彼女は美しいというより、可愛らしかった。

由比ヶ浜ともちがう、純粋な可愛らしさではなく、少し儚げで、それでいて
ミステリアスな、可憐な少女。
雪ノ下や由比ヶ浜のことがチラッと脳裏を掠めた。

二人とも喜びはしないだろうな―――と思った反面、悲しむ理由も思いつか
ない。
いや、正確に言うならば二人が俺に好意を寄せていて欲しいと思う願望はある
ものの、あくまでそれは願望で、俺が誰と付き合おうが彼女たちがヤキモチを
焼くなんて事は……想像するだけでも厚かましいことだと、そう思ったのだった。

「オッケーだ。というか、こんな事になるとは思わなかったけれど、俺だって
海老名さんと話すのは嫌じゃない。だけど、具体的にはどうすんの?
お互いに彼氏だ、彼女だと念じれば言い訳?」

「いやいや、それで何を学ぶことを期待したらいいわけ、私は。まずはメルア
ド交換しよ。電話番号は……変えるの大変だからパスしよっか。そもそも
電話って苦手だし」

「あ、それ分かるわ~。電話ってかかって来たらなんか緊張するし。あと、
寝てるときにかかってきても、寝てないって見栄張っちゃうし」

「うんうん、あと家族とかいたら話す内容聞かれるの嫌だし、冬の寒い日に
コタツから出て、気づいたら玄関で冷たくなってまで話さなきゃいけない友達
の恋バナとかこの世の中に存在するの?」

「「電話番号はなしで!!」」

「じゃあ、俺は海老名さんとメールで恋人の振りというか、お互いに恋人で
あるようなシミュレーションを行うという事か」

「メールだけじゃ寂しいな、という事で。週に一回はこの図書館周辺でお忍び
デートと行きましょう」

「えー! 遠い!」

「あー!? 比企谷君、君は約束したよね。私と恋人が出来た時の練習してく
れるって。メールだけで君は恋人と過ごすわけ?」

「うーん、省エネという捕らえ方で行けばそれも……」

「ない。というわけで、週に一回、待ち合わせ時間決めて、ここでデート、
の練習するからね。ふふふ、私が男であったのならば撮影班を組んでドキュメ
ンタリー映画を3本、いや4本は作れたものを!!!」

「海老名さんが男だった場合、俺が即効で拒否しているから」

「ですよねー。じゃあ、受けてくれたって事は、私のことぎりぎりでも女の子
としてみてくれてるでいいのかな?」

「ぎりぎりていうか、趣味の事はおいとくとしても海老名さんは可愛いと、
……思うのですがね、世の男性は」

「……うん、ありがと。ってか、なぜ一般論なのかな? かな?」

それで俺と彼女の奇妙な3週間が幕を開けたのだった。

明日以降つづくんじゃよ。今日は寝まする。

期待

完結してほしい



決まった文字数で改行してるわけじゃないみたいだし、単語の途中での改行はやめた方がいいぞ

おまたせー。って人がいるかどうかはしらんが。改行改善してみるよん。<BR>
<BR>
≫21、22 俺はやれる男の子だぜ! コメント乙

その日曜日から以降、俺と海老名さんは恋人になった。
試運転中ではあるが。

ただ、平日の昼間――学校に居る間の俺達のあり方には基本ほとんど変化は無い。
だが、決して手を抜いているわけでもなくて。

一、学校では付き合っている事を口外しない。
二、ただし、常に愛する恋人の事を慈しむ。
三、帰る際には手を振る、または何らかのサインを送る。
四、メールでの定例報告(雑談)を欠かさない。

などなど。まぁ、なんとなくでは在るが恋人ごっこを継続していた。

そう、もうあれから5日も経ったのに、いまだに続いているのである。
これは俺だけなのかもしれないけど、なんていうのか、単純に面白かったのだ。
海老名姫菜の性格が面白いのか、彼女のメールには読ませる何かがあるのかわからないが。まぁ、面白かった。
コメントへの返しの的確さや、表現の豊かさを生む語彙量の多さ、相手にきちんとイメージを与える文章が実に小気味よいのである。それはまるで趣味の合う友達のような……恋人か、今は。

まぁ結局だが、この件は淡々と終わらせようとしていたのに対し、大きな誤算というか、思ったより楽しいという状態が一週間近く続いている。

もっとも、俺の気持ちも露知らず、彼女はというと―――いつもどおりの腐女子っぷりで本当にメールを時々読み返さないとあれは夢だったのかとさえ思う始末である。

今日は金曜日。部活が終わったら、土、日の休みに入る。

今、彼女が教室から出て行く。
カバンの陰に隠してそっと手を振る彼女。俺も超控えめにそれに対して手を振り返していると―――そのちょっと後ろを行く女子、由比ヶ浜と偶然に視線がぶつかった。

「ヒッキー、どうしたの……帰るの? えっと、今日も部活来るよね? それとも私に何か用事?」

間違いなく今の今まで振っていた俺の右手に対する正当なリアクションである。ニコニコといつもどおり由比ヶ浜が小首をかしげて俺に話しかけてきた。

「ん、ちょっと購買部でパンとMAXコーヒー買って来るからさ、遅れるって伝えてこうかと」

「ああ、じゃあね、じゃあね~、パンさんのマーチ、ホワイトチョコの奴買って来てよ」

「ええー、俺がなんでお前に奢んなきゃいけねぇんだよ」

「出すよ、私が後で出すから! というか、何よヒッキー! 私ってそんなにいつも奢ってもらって無いじゃん。当然出すよ!」

「ああ、そうだったけ? わりぃ、オッケーだ。ホワイトチョコの奴な」

「あ……、うん。そう、後でお金返すからさ、よろしくね。先に部室行ってるから」

今度は堂々と肘より腕を上げて手を振る俺に、由比ヶ浜が手を振り返しながら部室の方へ歩いていった。
由比ヶ浜が角を曲がるまでなんとなく見送り、ため息をつく。

土日、どちらかが彼女との始めてのデートの日になるのだが、実際に会ってしゃべるのかと思うと、ちょっと億劫だった。

ごめんなさい、更新がめんどいんで上げちゃいます。

「気持ち悪いわね、比企谷君って。あ、ごめんなさい。急に今そんな事をひらめいたわけではなくて、前からずっと思っていたのだけれど。携帯を見つめながらそわそわする貴方を見て、今こそ伝えななければと決心がついただけだから」

俺を冷たい目つきで見つめながら、あいも変わらない氷点下の毒の結晶を吐き出されていらっしゃるのはもちろん雪ノ下雪乃である。

「俺が携帯の画面見て悩んじゃいけねーのかよ。何なの、俺はお前の不快度をあげる粒子を出す存在なの?」

「そうなのかしらね。ああ、遠くない将来そういった粒子の存在も確認されるかもね。……冗談ではないけれど、まぁいいわ」

ちっともよくは無いのだが、雪ノ下の話は続くようだった。

「これはついでに言う事だけれど、最近の貴方、何だか浮ついてる感じがして見ててもやもやするのよ。人の話を聞く際の集中力が著しく低下している感があるのだけれど、何か悩みがあるのであれば……、ごめんなさい。相談できる友達が居ないんだったわね」

「ゆきのん厳しいよ……。あ、あはは、ヒッキー、悩みがあるんだったら言ってよね。私でよければいつでも相談に乗るし」

「う、……へいへい、ありがとよ。けど、別に何にもないけどな」

意外と、というか俺が鈍いのかも知れんが……、女子二人は俺の異変というか、生活に変化が生まれた事をなんとなく気がついている感じがする。

昼間はなんとなしに海老名さんを目で追っちまっているし、夜はメールやチャットで盛り上がっちゃってるし。
恋人というか、なんか共通の趣味や思考を持った人間と話す(この場合は筆談だが)のは楽しい。
少し、いやこいつらが分かるくらいソワソワしてたんだろうな。気をつけないとそのうち墓穴を掘りかねん。

「で、何が原因なのかしら。私は別に知りたくも無いのだけれど、貴方のふわふわとした感じが由比ヶ浜さんや私にまで影響しそうでい嫌なのだけど」

「ヒッキー、最近何に悩んでるの? 小町ちゃんの進学とか? なんだかスマホ見て複雑な表情したり、教室でキョロキョロしている事もよく見るし、悩んでいるって言うか、なんかおかしいよ?」

それが核心でしたと言わんばかりに、さっきまでの遠まわしな言い方はやめて突っ込んでくる二人。
別段やましい事は無いのだが、海老名さんからは他言無用と言われている手前、クライアントの意向は無視できない。
とはいっても、そもそも奉仕部というより俺VS海老名さんでの依頼っぽいので、それだったらプライベートな事だし、
言わなくていいじゃん、とも思う。

「なんもねぇよ。んだよ、俺が情緒不安定みたいな言い方しやがって。雪ノ下が特にひどいな、俺のどこが浮ついてるって? 由比ヶ浜も心配しなくていいから。最近ちょっとある本にはまって、同じ作家の本とかをどこで買えるかとさ、オークションやら古本屋のサイトみて一喜一憂してんだよ。小市民なめんなよ」

「本って、どんな本なの……? そ、その、やらしい本とか?」

「ふふん、やらしい本……ね。とうとう通常の書店で入手できる範囲では飽き足らず違法ルートへと入り込んでいるのね。あ、こっち見ないでくれる、比○谷君。変な粘液が付くと困るから」

「おい! 人の名前に伏字使われている前提でピー入れるのやめろ!! 俺が本を探したらそんな扱いを受けるのかよ。普通にSFジャンルの、外国人作家の本だよ。ほら、雪ノ下お前は知ってるだろ、死刑囚がいろんな人の怪我や病気を治していく、映画化もしたあの本の作者だよ」

「ああ、知ってはいるわ。けれど、あの作者の作品って違法な取り扱いは受けては居ないわよ……?」

「もういい、それで引っ張るのはやめろ。でだ、もういいだろその話は。別に浮ついては居ないけど、そんなに集中もしていなかったのも事実だ。この一週間、まともな依頼もなかったしな。材木座のライトノベル? ともつかない駄文を読まされただけだし」

「じゃあ、別に悩みとかがある訳じゃないんだ」

「お前ら二人で何を話しているかは知らないが、俺は別にいたって平和だぞ。毎日代わり映えもしないし、喧嘩しようにも友達がいないからな」

「う……聞いてるほうが辛い。もう、卑屈すぎ」

「だったら、しゃんとなさい、しゃんと。貴方はただでさえ目は腐ってるわ、猫背だわでみっともないのだから」

何だってんだ、いったい。お前らは俺の母親なの!?
と思いつつ、ふぅっと溜息ひとつで華麗にスルーを決める俺がいるのである。


「あ、なんかその反応きもいしむかつく……」

「貴方、これだけ言われてよくも優雅に溜息がつけるものね。才能って間違ったほうに開花すると不快と思う事すら馬鹿馬鹿しくなるのね」

「もうこの話は終わり終わり。ほらほら、PCのメール着信音が聞こえたぞ。とっとと奉仕部らしい活動して帰ろうぜ。今日は花の金曜日だしな」

「えっ? 金曜日って花の日なの?」

「由比ヶ浜さん、花の金曜日と言うのは休日を前に思い切り遊べる日って意味なのだけど……まぁ、今となっては死語かしらね。比企谷君が年寄り臭いから出てくる単語なのでしょうけど」

「はぁ、もういいから。いやもう俺が悪いって事でいいからメール開け、メール」

とまぁ、紆余曲折あったものの、いつもどおりの部活の時間が過ぎていくのであった。

いつもどおり、下校時間を知らせる放送がすっかり暗くなった校内に流れる。

「んんっっと、んじゃ帰ろっか、ゆきのん」

「ええ、それじゃ昇降口で待っててくれるかしら、鍵を返してくるから。ああそうそう、比企谷君、もう暗いのだから私が帰って来る間くらい由比ヶ浜さんの側にいなさい。何かあったら貴方を恨むだけじゃすまないわよ」

「へぇへぇ」

雪ノ下と部室の前で一旦別れ、由比ヶ浜と俺は靴箱のある昇降口へと向かう。部活が終わって帰る生徒の中で、俺と由比ヶ浜は無言で雪ノ下を待っていた。こういう時間も悪くないか、最近と思う。雪ノ下とだと圧迫面接かもしれないが、由比ヶ浜とだったらこんな時間も苦ではなくなっていたんだと。

「あ、あのね、ヒッキー!」

「んん? ああ、どした?」

と、思っていたのは俺だけだったか。由比ヶ浜が思いつめたような声で話しかけてくるが、今更何に緊張すると言うのか。

「明日さ……、いや明後日でもいいんだけどっ、暇?」

「暇じゃない」

「えぇ~、いつもそう言って家にいるじゃん。どっちか暇じゃないの?」

「暇ではないな。本を読んだりゲームしたり、撮り溜めたアニメもチェックする必要があるしなぁ。HDDの容量がもう三倍くらいあればなぁ……。由比ヶ浜が買ってくんねぇかな、外付けHDD」

「何で私が! って、それってどうでもいい用事ばっかりじゃん! ヒッキー、あのね、その買い物に付き合って欲しいんだけど……」

「良いのか? んじゃ、1TBのHDDを二つ、三つばかり頼んじゃおっかな」

「なんでヒッキーの欲しいもの買わなきゃいけないの! 違うし!! サブレのね、犬用の新しい首輪を買いに行きたいの」

「一人で行きゃいいじゃん。なんなら三浦やら海老名さん誘ってみろよ」

「うううう……! ヒッキーのあほ、ボケ! そうじゃなくて、そう! 皆忙しくて、でも今週中に買わなきゃだし、サブレかわいそうだし、私一人だと、その一人だと……! 悩んで決められない優柔不断? だし、ヒッキーについてきて欲しいの。ねぇ、お昼ごはんくらいだったら奢るから、ねぇ、お願い!!」

「えーと……、もう突っ込むのはやめよう。分かった、分かったら。飯も割り勘で良いし、行くよ。ちょっと用事があるのは本当だから、また今日の夜にでもメールしていいか?」

「え、あ、うんうん!! 待ってるから。何時くらいかな? お風呂は先に入った方が……、でも湯冷めするかもか……」

「メールだから明日にでも返してくれよ。そこまで焦らんでもいいだろ」

「うん? ああ、うん、そ、そうだね!」

苦笑しつつ、由比ヶ浜から視線をはずすと遠くの渡り廊下から帰ってくる雪ノ下を見つける。
あいつ、遠くから見ても綺麗なのな。なんて、思いながら由比ヶ浜との予定を決めるための、"彼女"へのメールの文面を考え始めていた。

”へぇ、結衣とデートなんだね。もてるな、比企谷君は”

”からかうなよ。で、明日と明後日だけど、俺らはどうする?”

”うーん、基本はどっちでもいいけど”
”それって、私の都合優先してくれるって事?”

”優先と言うか、俺も由比ヶ浜も土日どちらも良いわけだから”
”あとは海老名さんが都合付かない日があれば、優先するけど”

”おい、彼氏野郎! 海老名さんじゃなくて『姫菜』ちゃんだろ”

”ちゃん付けをご希望ですか?”

”ああ、ちゃん付けでなければ……姫菜タン、だな”

”ないわ、それないわー。ってか、もうこの話で引っ張るのはやめようぜ”
”かれこれ一時間近くやってんぞ。そろそろ由比ヶ浜にメールしないと”

”ごめん、つい君と話すと楽しくて。というか、筆談か”

”じゃ、土曜日にするか? 11時にこの前の図書館集合で”

”何するか決まったの?”

”今から考える。図書館で本返して、飯食って、本屋に行く?”

”本尽くしとは! まぁ、私は八幡と話せればどこでもいいよ”
”幸いにして週末は天気いいみたいだしね”

”了解、んじゃ遅れたり、来れなかったら早めに連絡してくれ”

”ヾ(=´・∀・`=)”

なんというか、彼女らしい間の抜けた顔文字を確認して、スマホのアプリを立ち下げるて、ふうぅっと深い溜息をはいた。
嫌とかじゃないんだが、どうにも素に戻ったときに、あの海老名さんとこんなに、なんというか、親しげに? やり取りしている事への驚きと充実感に疲労してしまう。
風呂に入って、いつもならゲームして、本読んでと週末の俺時間を充足させに行くところだが、とりあえずはメールを起動して由比ヶ浜に日曜日にしないかと、メールを打つ。
あとはあいつがスケジュールまで含めた返信するだろうから、それにOK,NGを返すのみである。
ベットに背中から倒れこむと、汗でぬれたシャツが冷たくなって気持ち悪かった。
海老名姫菜……。正直、修学旅行までは彼女の存在はそこまで意識はしていなかった。見た目どおり、テンプレートで地いくような素直な性格ではないとは思っていたが、いざ向き合うと、ますます分からなくなる。

なぜ今なのか。
なぜ俺なのか。
彼氏彼女ごっこの先になにを考えているのか。

ただ、3週間限定と先に言われている分、何とかなるかと言う気持ちもあってか、そこまで不安があるわけでもない。
ただ、もし万が一にでも由比ヶ浜や雪ノ下へ知られたら―――、いや関係ない。比企谷八幡はいつからそんなに自分がもてると錯覚したのか。まぁ、からかわれて、事情を話して、それで終わりか。
本当に? 由比ヶ浜が、雪ノ下が、本当に何も思わないと―――

携帯の着信音が鳴った。半分寝ていたのか飛び起きて携帯を手に取ってしまう。

「ヒッキー? もしもし由比ヶ浜、です。ね、寝てた?」

「うあ、寝てねぇし!」

由比ヶ浜の声が、ただ可愛くて。
自分が何を考えていたか、忘れることにした。

と、ここまです。次回は週末予定です。

おつつ
めっちゃ楽しみにしてたよ
これからも期待してる



ちょっと読みやすくなった

おもろい

面白かった
続き待ってる

まだかなー

週末…

週が始まったお

まあいろいろあるんだろ
もう一週間くらい待ってみようぜ

土曜日は予報通りに晴れて暖かな日だった。

「おはよー、はちまん~」

約束した図書館の入り口で待つ俺に向こうからゆっくりと歩きながら手を振りすぎている、赤めがね。
今日も平常運転、残念系彼女だ。

「……はよーす、海老名さん」

「八幡んんーん? 私のことは、なんと?」

「えーと、海老名姫菜タソ?」

「あふふ、八幡がそれでいいのなら別に止めはしないけど。―――変更は許さないから」

「嘘だよ、ひ、姫菜……でいいんだろ」

「おおお、なんか、こうっ、恥ずかしいね、あはは!」

「はぁ、照れないでくれよ……。おもわず声が裏がえちまったじゃねーか。こっちも恥ずかしいんだからな」

「くふふ、八幡までテレ始めるともう収拾が。くくー、八幡って言うのにもテレが生じそうかも。もう、あれだ。腕でも組んじゃおうか?」

「止めてくれ、何で火にガソリン注いだ上にダイナマイトで爆破しなきゃならないんだ」

海老名さんが柄でもなく、照れてるのか少しほほを染めている。
可愛いんだからあんまりそんな表情は出さないで欲しい。真似事だけれども、ひょっとすると名残惜しくなっちゃうかもしれないだろ。
ボッチは惚れ易く振られ易し。
期待して、振られて。何回かそういうことがあって期待を持たないという鉄のルールを強いているにもかかわらず、忘れそうになる。

まぁ、そんなやり取りを図書館の前でやりつつ。
一時間程度本棚の前をぶらついて過ごし、だらだらっとした感じで飯に行くことにした。
海老名さんとはうろうろしては、本に関してのとりとめも無い会話をしていただけだったが、お互いに退屈とはならなかったようだ。
真面目にヤオイの歴史を語りだしたときには、さすがに周りを見渡したが。

「なんか食べれないものとかあるか? アレルギーとか苦手なものとか」

「百合」

俺達は図書館の裏手を回って、総合デパートの地下にあるレストラン街へ向かうことにした。デパチカでランチとは我ながら似合わないとは思うが。

「花なんかを食べるところを俺は知らないし、ましてや食事の好みに性癖を混ぜ込んでくる彼女と食べに行く飯は無いんだが。別れていいか?」

「やだやだ! キスして?」

「キスと言えば天ぷらが美味しいが、もう高校生なんだ。つゆじゃなくて塩でいただこうか。でも、予算をオーバーするから今日は天ぷらには行かない。てか、俺がいくら純情だからってキスって単語だけじゃ動揺は誘えないからなー」

「好きでーす」

「すき焼きの語源だが、好きな具材をいろいろ入れての『すき』では無く農具の鋤(すき)であるという説が多いのな。もっとも、俺は肉とうどんを卵で食べれれば何でもいいので鍋焼きうどんでもいいけどな」

「じゃあ、ハチハヤ」

「なんで昼間から葉山となんだよ! いやだよ、それ選ぶくらいなら冒頭でおれ葉山と付き合いたいって言っといて、今頃は葉山と飯食ってるよ。苦手なものは無いでいいんだな? てか、なによこの会話。まじめにデートする気が無いだろお前……」

前を向いたままで、会話をしていた俺だったが、次の瞬間ひやりとした声に横を向いた。

「そのまま返す。せっかくだよ? 姫菜って呼び方決めたのに八幡はさ、最初の一回だけで主語無しの会話とか『お前』って代名詞しょっちゅう使うしさ、ひどいと思うんだけど……ヒキタニ君はどうかな? 私は何回八幡って呼んだと思う? 数えていないけど、そりゃもう呼吸をするが如しだよ?」

「あー、その、悪い。俺さ、彼女がいたことなんて無いし――」

「ミートゥ!!」

「あえっと、恥ずかしい……のはお互い様、か」

「そうです。その通り。でも、私は八幡って呼んでるよ、大好きな彼氏だから。ヒキタニ君はさ、少しでも私のこと彼女って思えない? 少しでもいいからさ、好きになれない?」

ボボボボカーン!!
擬音語でいえばこんな感じで。
その時、その瞬間の海老名さんの上目遣いで、少し怒ってますよ的な表情に俺の中の対女子警報(別名:あ、勘違いしてるきもい警報)が最大級のサイレン音をけたたましく上げるとともに、ちょっとこれは本当に、本当かよという、なんとも表現できない甘酸っぱい気持ちがわいてきて、比企谷的自己嫌悪を味わうこととなった。長いね。

「私は期間限定で彼女で、君は彼氏で。今の私は比企谷八幡が大好きで、君は海老名姫菜を……」

そこで海老名さんの表情が一瞬、虚を突かれたようになって。
とん、と悲しげに目を細めて。
ととん、と何でもなかったように笑顔になりそうな所で。

「え、嘘……?」

「……セーフ。本当かどうかは分からんが、今は彼女だからセーフなんだよな?」

俺は……、まぁやっちゃたもんはしょうがないか。

「セー……フだよっ! うん、ぎりぎりだったけどね」

俺は、彼女を正面から抱きしめていた。
いや、抱きしめていたんだけど、今は俺は海老名さんの彼氏な訳で、オッケーデスよね? 誰かイエスといってくれ。

「あー、あっと。で、そろそろ離れようと思うんだけれど」

「ん? もうちょっとこのままでいいけど?」

軽く腰に手を回す海老名さん。
ちょっと軽く混乱してきたかもしれない。

「すいません、耐え切れそうにありません。離れてもらってもいいか、ひ、姫菜さん」

「ふふっ……、うん。いいよ、けど、また私が……」

「諦めそうになったらな。いやいや、そうならない様にきちんとやるよ。期間限定だけど」

「うん。でも、どうしようも無くなったらさ、さっきみたいな手段はありありだな~」

どきどきという、プリキュアならぬ俺の心臓。
二人は図書館の駐車場を抜けて歩道橋へと出る道の手前、人気の無い裏口で未だ抱き合っている。てか、柔らかいし暖かい。なんというか、その良い匂いがする。いやらしい意味じゃなくて!
これがセールスのお姉さまだったら間違いなく壷を買わされる! と思うことも出来るのだが、海老名さんとこんな事になる理由があるのか?


「ごめん、その、悪い。あの、うん」

混乱は収まってきた。我ながらとんでもないことしたとも思う。
だが、同時にさっきまで持ってたきらきらピカピカした何かよく分からないものが、ずずっと萎んでいくような錯覚が訪れる。

「ご飯、何にしよっか? パスタとかも良いね」

ニコリと離れる海老名さん。俺ももちろん拒む理由なんかない。
ビンタされないだけ遥かにマシだ。

悲しくて。
きっと海老名さんの事だから俺なんかには理解できない何かしろの目的があるのだろうが、これが嘘な関係だと思うと何もかもが空しくなって来た。
次に家に帰りたい、もうめんどくさいと思った。

「さてさて、じゃあ、多数決でパスタだぁー!」

その瞬間までは。

ぎゅっと握られる俺の汗で冷たくなった手のひら。
じわっと暖かくて。ちょっと待て。

「って、おい! うっかり惚れてまうやろ! ったく、いきなし手ぇ握るとか!!」

「何言ってんだか、私達カップルじゃーん!!」

そう言って引っ張る彼女にもう少しだけと、さっきまでの気持ちもどこへやら。
ニヤニヤと気持ち悪い顔で笑っているかもしれない、引っ張られる俺がいた。

≫37~44 感想、コメント多謝! 超やる気が出てるぜぃ!
本当はもう少し書き込んで、量をまとめて挙げたかったのですが、力量足りず。
次はもう少ししゃしゃっとやれればと。では!


続き待ってる

海老名SSはもっと増えるべき


いい感じですね

一瞬うまるちゃんのマブダチかと思った
支援

彼女欲しいわ…

クリスマス前のららぽーとは大層な賑わいだった。
午前中から移動して、雑貨や服、靴屋なんてぶらつきながら目当てのペットショップに着いたのは昼食を食べてもいい時間になろうかという頃。

「わぁ~、人も犬も多いー。でもでも、ここ種類多いからきっとサブレが気に入る首輪が見つかるはず!!」

確かに店の中をのぞくと犬連れで来てる家族やカップル?みたいなのが沢山いるようだった。
昨日に引き続いて天気も良くて、気温は高め。屋外に併設されているドッグランのエリアには楽しそうなワンちゃんでいっぱいだ。
俺の隣の奴もお外のワンちゃんたちに負けないくらいテンション↑↑である。

「おいおい、取りあえず走っていこうとするなよ。由比ヶ浜、どうする? 首輪はゆっくり見たいだろうから先に飯にするか? それともこの時間じゃどこも込んでるだろうから先にここでゆっくり首輪選んで、時間ずらして飯食おうか?」

俺が由比ヶ浜の暴走を止めようと腕をつかむと、ビクッとしてあいつが振り向いた。うおう、びくってした時の振動がPS3のコントローラーチックでこっちもビクッとなっちまった。

「あ、えっと、うん! 私はお腹あんまり空いてないけど、ヒッキーはお腹すいた?」

「空いた……気もするかな? 来てすぐコーヒー飲んだ時にお前からクッキーもらったんで少し膨れてはいるけどな。どっちでもいいよ、先に見てまわるか?」

「そだね。じゃ、これ見終わった後でご飯にしよっか」

「ん。じゃあ、行きますかね」

「うん!」

由比ヶ浜の背中を見るとも見みずに俺はふらふらと店内を歩く。デートだよな、普通に知らない奴が見れば。昨日と今日と連続、女の子と二人きりで行動するなんてな。ボッチとしては背徳的行為だが、いち高校生としては恵まれすぎた休日だ。海老名さんも由比ヶ浜もまぁ、かわいいしなぁ。性格は……深くは考えないけど。

「ヒッキー、ヒッキーっ! これこれ、ゆきのんのティーカップの柄と同じやつ見つけた! これ凄くない!! これ凄い偶然! これにしようか?」

「まぁ、まてまて、柄なんてどこにでもあるだろ……。っと、ウェッジウッドっぽいやつなぁ。由比ヶ浜、これってたぶん一緒っぽいだけだぞ」

「ええー、でもほとんど一緒だよね……うん、値段的にもこんなもんかな? ヒッキーはどう思う?」

「いや、雪ノ下のティーカップとおそろい柄の偽者って首輪に俺がイイネ! って言える要素は何一つたりともないが……まぁ、お前が気に入ったんなら良いんじゃね?」

「あー、それってどうでも良いって意味にも聞こえる……」

「え、『にも』じゃなくて、そういう意味以外にないだろ?」

「ヒッキーの馬鹿! 今日は何のためにここに来たの!?」

「ちょっと待て待て、お前の犬の首輪を買いに来たんだよな? 俺必要なくないって、お前に伝えただろー最初に!」

「それでも付いて来たんだからきちんと考えてくれたっていいでしょ!」

「うへー、じゃダサいから却下。雪ノ下と一緒ってとこも比企谷的にマイナスだしな」

「ええー、ゆきのんと一緒ってとこが良かったのにぃ~。じゃあさ、代わりに選んでよ、ヒッキーが好きなの」

つぃっと、由比ヶ浜の肩が俺の肩に触れる。
ドキッとしたのもつかの間、シャンプーとか、コロンとか、そんな匂いでくらっとする俺。
息がかからない様に横を見ると、なんというか顔が赤い由比ヶ浜が正面を見ながら俺に肩を寄せている……みたいに見えた。これは、俺の願望か?
いや、その、期待していいのか……、いやいや、でも期待は禁物だ。精一杯の心のバリアを展開して俺は言う。

「あ、っと、おい。前見ろ前っ、俺に体当たりかましてきやがって、その近いっていうか……あの、由比ヶ浜さん……?」

「ヒッキーはさ、こんな風に、その私が引っ付くのは……嫌?」

ちょっと、ちょっと待て。
昨日から俺の周りがピンク色になってきている気がする。おかしい。
でもこれって、これってフラグ……だよな、由比ヶ浜ルート。
いやいやいやいや、ルートとかフォカヌポウwww拙者これではまるでオタクみたいwww  拙者はオタクではござらんのでwwwコポォって馬鹿か!!

「あ、あはは、嫌……だよね。ヒッキーはさ、一人でも平気な、その、凄い人だもんね……」

俺が一生懸命動揺から立ち直ろうとしている折に、由比ヶ浜からは落胆したような声色が上がる。
もう、これ以上そんな声を聞きたくなくて、俺は思ったことを何も考えずに声にした。

「い、嫌じゃない! ってか、その、好きだ! じゃなくて、ドキドキ、じゃなくてだな、その、悪い。変な意味じゃなくて、嫌じゃにゃいにょんべつ」

「え? え? ヒッキー、それってどういういぶっ!? って、ふぇ、舌噛んだぉ~、ふぇぇいたひぃぃ~」

「お、俺こそ、その噛んじまって……て、おい。ぷっ、あははははは!!」

「えええっ!? 血が出てるよー、私!? ヒッキー、ちょっと笑うとかひどくない!? え? どうなってるの!?」

涙目で上目遣いの由比ヶ浜がヘノ字眉毛で抗議を挙げている。俺がティッシュで由比ヶ浜の目元を拭いてやると(マスカラが滲むと可哀想だし)、涙目の由比ヶ浜の大きい目が更に見開かれる。

「あ、わわわ、ごめん! その、ヒッキーどうして、その、ありがとうなんだけどっ!」

「いやぁ、笑っちまって、わりぃ。その、由比ヶ浜があまりにも天然だから楽しくてな。俺もびっくりしてたのに、お前を見てホッとした」

「ええっと、そのどういう意味かな? ヒッキーも驚いてたの?」

「ああ、俺も大分にな。由比ヶ浜、俺はお前のこと嫌いじゃない。だからお前が引っ付いてきてもドキドキはすれ、嫌がることはない」

「あ、ドキドキしてくれるんだ」

「ッたりまえだ! 無防備にぴとっと付いてきやがって。緊張するは勘違いするはで大変なこと事になっちゃうだろうが!」

「勘違いって……、ヒッキー、それはどんな事?」

「分からん、というか、例えばお前が俺に好意を抱いてくれているっていう勘違いをだな……」

「勘違いじゃないよ。それは、勘違いなんかじゃない」

「由比ヶ浜……!? でも、それってどう言う……」

「それは……す、す……ああっもうっ! ヒッキーのニブチン!! また今度ね!」

「あ、おいっ、ちょっと待てって!?」

拗ねた様に笑うと俺の肩からひょいっと離れる由比ヶ浜。

「やっぱお腹空いた。ヒッキーも空いたでしょ? だからさ、ご飯先に食べようよ!」

「あ、や、それは良いが……お前さっきなんて、す……」

「あーうっさい! その話は今日はお仕舞!」

「お前……はぁ、うっし。うんじゃ、どこに食いに行くか」

「お肉にしよう、お肉」

「昼からか?」

「トンカツとか?」

「乗った!」

俺達は来た道を引き返す。自然と口元が引きつる。

「なぁ、由比ヶ浜っ、ありがとな」

「うんっ」

何に対しての御礼かは分からない。由比ヶ浜もきっと分かってない。けれど、それでいいと思った。俺の昔に傷が入った心は元には戻らないけれど、少しだけ誰かを信じても良いかもしれない、と。ちょっとだけ、勇気が戻った気がした。

「あ、おい、前を見ろ! その角を左に上がれって」

「ヒッキーいきなり言っても曲がれないよ!?」

「あー!?」

スカートを揺らしながらつんのめっている由比ヶ浜。笑いすぎて痛くなっってきたほほをさすりながら、俺は転ぶであろう由比ヶ浜へ手を差し出す準備をすることにした。

「―――あら? 偶然ね」

―――夕刻。
千葉駅で由比ヶ浜と別れた後、帰宅途中の俺は意外な奴と会った。
休日偶然に会ったことはあったけど、この二日間に会うなんてないと思っていたが……。

「ああ、そだな。で、お前は俺んちの近くの本屋で何しているんだ?」

雪ノ下雪乃が、腕を組んで俺を見つめていた。



≫52~55 支援Thx!! やっぱコメントともらえると勃起、じゃなかった奮起します! ちょっとテンポ悪いけど、厚みを持たせたいんだ!ゆるしてね!
≫56 頑張れ! アイソン彗星に願掛けしといたからなっ!

乙!
のんびり待ってる



安価は半角で>二つとレス番号な
あと書いてるならageていいんよ

>>65 こうか!? ageちゃうぜ!
>>64 あんがとね! なるべく仕上げちゃうからね。夢はまとめサイトに載ることです。


なんかヒッキーが若干綺麗になってる
海老名さん効果か?

海老名さんで綺麗になるとは不思議な話だな

海老名さんが八幡の腐ってる部分を吸い取って…

誰のルートなのか……

楽しみ

マダカナー

まだー

ここまで誰も>>55のひもうとネタにふれてくれない悲しさ

たまに読んでるくらいであまり詳しくないから反応してやれなかったぜ…

続きまだか!!!!!!

>>67、68、69 海老名マジックに今後期待しましょう。今回の更新ではさっぱり出てきませぬ。
>>70 海老名さんルートに入れるようにしておりますが、異なる場合がございます。
>>71、72、73、75 遅くてゴメソ! 今後も定期的に頑張るよ。まだかな?ともらえると出てくる妖精のように頑張りまするー。
>>74 ばっきゃろー! あんなに俺の好きな海老名さんはおっぱいデカくねーよ!! 畜生!!
>>55 ごめん、拾ったつもりがコメントして無いじゃん! 俺、あっちの海老名さんが性的には好きだよ!

では続きます。

「うちの近く……ね。まず最初に貴方が、その気持ちの悪い誤解をしないように言っておくと、私がここにいることは偶然よ。たまたま、この書店に欲しい本があっただけの話なのだから。そのついでに数点買い物もしたし。だから、重ねて言うけど貴方を待っていたなんてことは……ないわ。だって、そんなの気持ちが悪いでしょう?」

遠く、書店の灯りが雪ノ下の白い肌に色を与えている。黒い髪はステンドグラスのように照明からの光をもらって透けて、綺麗な黒色を映し出している。それは陶磁器のように白い肌に対して、最高に美しいコントラストを作り出す。
雪ノ下雪乃は基本的に美しい奴なのである、ただし声にしているセリフは酷いのだが。
って、なんでこれだけ罵られて俺はこいつを褒めなきゃいけないの? インフレなの? 美しさに上限などないの? ってか、こんな平たい胸の子のどこが良いの? 気持ち悪いとか本人を目の前にして二回も言っていいのぉぉぉ!!

「誤解する気は一切、一切ないんだけどな。ええっと、なんだろう。俺、今日の楽しかったことが一つずつ記憶から消えていく気がする?」

と、思ったことの三百分の一も言わない俺。えらい。

「なぜ楽しい思い出が消えていくのかしら……? ごめんなさい、特殊なアニメの事例は良く分からないわ。貴方の海馬に欠陥があって、とかそういった話なのかしら? なんとなく目元もくすんでいるし、体調が優れないとか……。まぁ、何にしろ貴方の記憶障害に関して話をするのだけれど……」

そしてすかさずボケ殺し&追加の皮肉よる串刺し! 雪ノ下はいつでもどこでも容赦がない。自分の正義に反する奴には特に容赦がないな、上条さんかお前は。

「いや、記憶障害なんてないんだけど俺は……なんだよ、何の話をするって?」

「でも、貴方はどうせ忘れているのよね……?」

「ちっとも話が見えないんだが、何の話してるんだ?」

なんだか、雪ノ下にしたら歯切れの悪い会話にも思えるやり取りの後、あいつが少しだけ表情を苦しそうに歪めた。

「期待せずに聞くけど、覚えている? 文化祭のスローガン決めの時、貴方の歪んで捻くれた行為で私は随分不快な思いをして、どうしようもない愚者であることも予想済みだったにも拘らず―――とても笑わせてもらった事があったのだけど」

「んな……、あぁ、あれか。お前が会議の最中に顔隠したときな。やっぱりあれ笑ってたんだなぁ」

「覚えていたのね。そうよ、あの席にいながらこみ上げて来る笑いたい気持ちに困ったのだから。……貴方って空気を読んでるくせに壊して。人の気持ちが分かっているくせに壊して。本当に自分というものを変えれないのね。もう少し世の中に遠慮すれば生きやすいでしょうに。大事なことだから二回言うわね、世界不適合者」

「あ、あのな、二回目が酷くなってるぞ。なんなんだよ、その漢字で書くと何となく格好良いボッチは。今日のお前、なんかいつもより4割り増しで言い回し方が面倒だし、絡みすぎだぞ。なんなの? たまには俺のこと褒めれないのかよ、お前。理由もなく俺いつもマイナス査定なんだけど……」

「それについては、辛いわね。だって、私が貴方のことを罵ることはあっても、褒めることなんて一度もなかったじゃない」

「ないな。もう、それは天地開闢以来、一度たりとも」

「褒めるべき点がないこともだけど、そもそも貴方は別に私に褒められたって何も感じないでしょう? 褒めることがもし仮にあったとしても……無駄なことをする意味はないわ」

「そりゃそうかもしれないが、少なくとも今よりはましな気分になるんじゃないの?」

「それは嬉しいという事?」

「……嬉しい、か。普通はそうなんだろうけど、お前に褒められると裏読んじゃうからなぁ。いや、優しく微笑んでくれる方が良いのかも知れん、5kmくらい先から」

「何かしらね、この会話の先にある徒労感は……、ひょっとしてその目って見すぎると肩が重くなるとか?」

「あんだけ俺に暴言吐き出しといて、肩コリくらい自分のせいにしろよ!! どうやると何でも俺が悪くなるわけ?」

クスッ、と。
雪ノ下の性格に大分慣れてきた俺でもやっと分かる位に口元を楽しそうに綻ばせた。
はぁ、ここまでやっと暖気完了ってのかよ。どれだけの犠牲の上に成り立ってる笑顔だって話だよ。

「はぁ、その説明も必要なのかしら」

「もういい、疲れてきた。お前も俺なんかと長話はしないだろ。んじゃまた明日な。おつかれさん」

どっと疲れが出てきた。由比ヶ浜との買い物も無事に終わったし、飯食って風呂に入ろう。んで、本読んで、早目に布団に入ってゆっくりと眠るんだ。今日、ここで雪ノ下という女の子に出会ったことは忘れよう。ホットミルクでも飲んで忘れよう……。

「ちょ……――――」

視線はもう帰る方向に向いていたのが幸いしたのか。俺は雪ノ下が俺を呼び止めているみたいな声を聞いた気がした。

「ん、な」

「ちょっと、待って」

間違いではなかった。もう一度彼女に視線を向ければ、少し気難しそうな表情をしながら俺の足元あたりを睨んでいる。

「なんだよ、どうしたんだ?」

すぐに視線を上げて俺の顔を見る、雪ノ下。怖い、という感じはなくて迷っている感触がする。自分の中で何かを考えているような、そんな感じ。

「今日は由比ヶ浜さんとデー……、買い物だったのかしら」

今頃聞く内容か、とも思った。おそらくは今日のことを由比ヶ浜から聞いていて、この時間にここで俺と出会ったら、普通はそう思うだろう。まぁ、その通りだしな。

「ああ、そうだ。ららぽーとで犬の首輪探しだよ。なんでも『ゆきのん』ってやつのティーカップと同じ柄の首輪が良かったらしい」

「……そう。由比ヶ浜さんらしいわね、理解はできないけれど。で、首輪は見つかったのかしら?」

「ああ、可愛い赤色のリボンで、黄色いペンダントチックな住所入れが付いたやつにな。三時間だぞ、三時間。こんどはお前が付き合えよな。俺は次は嫌だ」

「楽しかったのかしらね……」

「ああ? いや、知らねぇけど、楽しそうにはしてたみたいだったな。お前と来たらもっと喜ぶんじゃね」

「さぁ、どうかしら。と言うよりも、私が聞きたかったのは貴方が楽しかったか、ということなのだけど」

「俺が楽しかったかって? 疲れた、って感じだな」

「それだけでは無いのでしょうけど、素直に答えるような人間でもないでしょうしね、貴方は」

「はぁ、なんで全てにおいて俺はお前から攻められ続けなきゃならないんだよ。由比ヶ浜と買い物に言ったらだめだったのかぁ?」

「誰もそんなことっ、い、言っていないでしょう!」

「お、おう、そこまでは言ってないけど」

また怒られた俺なのだった。でもそんなに怒ることないしっ、ゆきのんのバカっ! と心だけでで思ってみる。口に出すと俺もあいつも爆発が起こるので。

「てか、寒くないか。お前も帰る途中だったんだろ? 帰ろうぜ、俺腹減ってきちゃったし。怒られ過ぎて」

「怒ってはいないでしょう? そう受け止めるのは貴方にやましい所があるせいよ」

「いいや、完全に俺に恨みを持っていたね。お前の目が俺に敵意を―――」

いつもどおりの冗談、なのか本気か分からないが、俺と雪ノ下のいつも通りのやり取りの最中。

「私は貴方のことが嫌いではないわ」

「―――向けて、ほんっと、お前さ、由比ヶ浜みたいに俺にもときどきくらい優しくしろよ……って。雪ノ下さん、今なんていった」

「嫌いではない、と言ったのよ。当たり前でしょう、嫌いであればこんな所で会っても、目線を合わすはおろか、口も利かないでしょう? 当然の前提条件に過ぎない。あ、誤解の無いようにして欲しいのだけれど、当然、その、好きと言っているわけではなくて、嫌いではない、そうつまり0以上であると言っているに過ぎないのよ。誤解の無いようにもう一回言っておくと―――」

「なげーよ。二回も言わなくても分かるから。珍しいと思っただけだ、そんな事をいちいち言うお前じゃないだろうに。いや、嫌いじゃないってことをお前に言ってもらえて悪い気はしないんだが、ちょっと怖いくらいだな」

「怖いことなんて無いでしょう。べつに0かそれより少し上の……好意? いえ、なんて言ったら良いのかしらね、その、知り合い、いえ、意識……」

「何でもいいよ。分かったから、まぁ珍しいこともあるもんだと思っただけだ。ほら話はまた部室でやろうぜ。寒いし、どうせ俺とじゃ喫茶店て感じでもないんだろ。帰ろうぜ、暗くなってきてるし」

雪ノ下にあった時点で大分薄暗かったから、暗くなってきていると言うより、暗すぎて照明の色が目立ってきたと言う感じであった。お互いに風邪を引きそうな勢いだ。こんな事なら書店に入って話せば良かったか。
もっとも、場所変えてまで続く話をするとは思えなかったし、珍しいこともあるもんだ。

「……そうね。それじゃ、比企谷君、さようなら。で、最後にこれだけは渡しておくわね」

「あ、何だよこれ。小町にでも渡せってこと?」

「いいえ、貴方によ。借りは返す主義なの。悩んだのだけど、私の一方的な自己満足なのだから、気にはしないことね。何なら捨ててもいいけれど、私は―――あの場で救われた気がしたのよ。あの、文化祭の打ち合わせの中での貴方を見てね」

一方的にまくし立てる雪ノ下。
なにがなにやらだったが、何かを俺にくれるらしいということはすぐに分かった。けれど、それがびっくり過ぎてまた混乱。こいつも変な感じになっているし。

「落ち着いてくれ」

「落ち着いているわよ、私は。で、それを使うのも使わないのも貴方の自由で――」

もう話してもしょうがない。俺への物と言ってるからには俺が開けて構わないのだろう。小洒落たブルーの包装紙をテープに沿って開けると。

「お、おお! ちょっと、これ良いのか? てか、何の借りなんだよ、これって。もう貰ったんだから返さないぞっ!」

「だから別に無理しなくてもいいのだけれど、例えば妹さんへ渡してもいいのだし―――、ええ、使ったら良いじゃない」

「う、ああ、ありがとうなんだが、これって何の、何で?」

「言っているでしょう。自己満足よ。少なくともあの文化祭の打ち合わせの中で久しぶりに笑ったわ。本当に、笑った。貴方の言葉や態度で私は……どうかしらね。救われた気がしたのよ。だから、対価を払っておくわ」

「いいのか……? これって結構高いもんじゃ」

「その書店においてある範囲のものでしょ? もう売り切れているみたいだけど、探しても無いと思うけど、そんなものよ」

「……分かった、その、ありがとな。でも、雪ノ下からなにかを貰うなんて考えたことも無かったけどな……なんか、その、ありがとう」

「……ふふ、貴方にそう何回もお礼言わせるなんてこっちも考えていなかったわ。受け取ってくれて――――――ありがとう」

「う……ん。っと、あれだな、そのしかし、お前本当に偶然、ここに……?」

「変な勘ぐりは止めることね。勝手に思う分には攻める気は無いけれど、私が違うと言えばそうなのよ。偶然なのだからしょうがないわ。それはいずれ渡そうとずっと持っていたものだし」

俺の手にある包みには、オーストリッチ柄のブックカバーが握られていた。

「貴方、本は読むみたいだから使う機会もあるでしょ?」

「あのな、そのよく考えると読んでたなぁ、ってレベルじゃないでしょ! 毎日、俺が本読んでいるところ見てるでしょうが」

「そうだったかしら? まぁ、貴方へはこれっぽっちの興味も持てないから、本人がそう言うのならそうなのでしょう? 私の感が冴えてたのね、きっと」

「……こんな高そうなもん、予想で贈れるかって言うんだよ……」

「……では、さようなら。また、明日学校で」

雪ノ下はようやく終わった会話に清々するようにため息を肩で一つ付くと、くるりと足を家路へと向けた。

「あ、おいっ。送っていくか……一応、その、女の子だし」

「しっかり女の子よ。でも、いいわ。今だけの優しさなんかに興味ないもの」

「今だけって、そりゃどう言う……」

「言葉の通りよ。誰に対してもかけられる優しさなんて興味が持てない、要らないもの」

「俺は誰にでもは優しくはないし、今のだって最低限の良識で言っているんだけどな」

「じゃあ、尚更に要らないわね。貴方が心から優しくなれる時が来るのなら、その時は喜んで送られてあげるわよ」

「んなもん来るわけねーだろ。恋人にでもならない限り」

鼻で笑ったその声に。

「ふん、そうね。その通りだと思うわ」

あいつが何故か楽しそうに答える。

「じゃあ、今度こそ―――さようなら」

顔も見ずに街灯の灯りが届かない闇にすぐに消える雪ノ下。
なんだろう、いつもどおりじゃない感じが……不快ではなったが。
なんとなく、くすぐったい様なモヤモヤした様な。
手のひらで握っていた皮製のブックカバーだけが、ほんのりと暖かかった。

ほいっと、ゆきのん編①おーわりっと。
8巻読んだらゆきのんのキャラがぶれるぶれる。参りました。本物は破壊力が大きいですね。
さてさて、年内に終わるように頑張りますので、付き合ってくれてる人ありがとです。またー。

この調子で一生続けてくれ
次もまってまーす

楽しませてもらってるよ!


読んでて楽しいわ

―――週明けの奉仕部にて。

「違うんだぞー、えーとな、たぶん違う。由比ヶ浜、お前は勘違いしている」

「この男と同じ意見であると言うのが気に入らないけれど、違うのよ。由比ヶ浜さん、貴方絶対に誤解しているでしょう?」

「嘘だ……。ゆきのんとヒッキーがペアルックならぬ、ペアブックカバーするなんて……。こここここれはぁぁぁ、つ、付き合ってるぅぅぅ!? これはもう付き合っているようぅ~あうあうあー」

頭を抱えて教室をクルクルクルルン、と楽しそうに―――、ではなくこちらをチラリチラリと見ながら何故か泣きそうな由比ヶ浜。
あれか、俺だけがブックカバー貰ったからか? でも、こいつ本読まないし。貰ったって使い道ないだろって思うんだが。

「由比ヶ浜さん、座って。先ずは椅子に座りましょう? 貴方とは以前一緒にケーキバイキングとやらに行ったでしょう? 覚えている? あの日、貴方が私の見舞いに来た週末の……ちょっと、由比ヶ浜さん!? 貴方にあの時ケーキをご馳走した代わりの……」

「き、きぇぇぇぇ!!! ゆき、ゆき、ゆきのん!! 言い訳は、言い訳は聞きたくないよっ! 私には、あ、エプロン貰ったっけ? ありがとう」

「は、ちょっと、ええ? ま、まぁ、そうよ、分かっているのかどうか分からないけど、違うのよ」

「でも、何で今頃になってヒッキーにお礼したの? ゆきのんだったらスッパリと、その時に何かしそうだけど……」

「そ、それは……ね、この男に礼を言う価値があるのかどうかをずっと見極めようとしていたのだけれどなかなか決心、ではなく、その、踏ん切りが付かなかった……それだけよ。でも、結局買ってしまったのだし持っていても使い道がないから昨日彼に渡したのよ。本当にそれだけのこと……」

初めは何だかめずらしく噛み噛みだった雪ノ下が、俯きながら由比ヶ浜に説明していた。あれだな、あいつも不器用って言うか。なにも自分とおそろいのブックカバーじゃなくても良いだろうに。
俺はというと正直このアイテムを持ってくるべきかどうか悩んだのだが、結局持ってきてしまっている。何故ならあいつがくれたものだし面白そうだったから。というのが理由みたいなもんだ。使わないのも悪いし。

「ねぇ、ゆきのん。私も本読むようにするからあのブックカバーを売ってるお店教えてくれないかなぁ~」

「ええ!? 貴方が本を読むなんて……、あ、でもそれってA3版の絵が付いている本よね?」

「えー? そんなに大きい小説ってあるんだっけ?」

「いえ、小説はないけれど。絵が多い絵本と言ったらそれくらいの大きさになるのではなかったかしら。由比ヶ浜さん、文字ばっかりでは眠くなるのでしょう?」

「う、うん。流石に文字ばっかりじゃね……。え、ちょとまって。ゆきのん、それって私、なんだか絵本しか読めないみたいなんだけど……」

「ええ、ああ、そうね」

「え? 私、漢字とか全然読めるけど……」

「え?? ええ、まぁ、そうね。ここに居るのだから当然なのでしょうけど……」

あれだなー。雪ノ下の突っ込みも受け取り側がゆるかったらすり抜けて行くのなぁ。いいなぁ、なんだか長閑な風景を見ている気がする。
窓を閉め切った陽の当たっている窓際は……最高ぁ……Zzzzz。

俺と姫菜氏と楽しい週末を過ごそう!
なんて、どこぞの○ロゲーのボーナストラック的なイベントが今週も回ってきた。
今日は日曜日、天気は雨。

「寒いねぇ、八幡。ふわわわわ~っととと、はぁ。寒いんだけど、眠くもあって、あそうそう、昨日は何時に寝た?」

「昨日って言うか今日の1時くらい。お前……姫菜さんとLINE終わったのって、たしか12時回ったくらいだったよな? その後は歯磨いて、服にアイロンかけて、直ぐに寝たしな」

「おお、今さりげなくキラッと光る『自分、家事……出来る男ですよ』ポイントを見逃す私じゃないぜ~。八幡ってさ、料理とか出来る方なの?」

「アピールしているわけじゃないけどな。料理は基本的なものなら大体は。今じゃ妹の方が遥かに腕がいいんだけど。昔……っても妹が小学校卒業する、中学までは夕飯作ってたりしてたんだ。味噌汁やら、煮魚やら、ハンバーグやらオーソドックスなやつ位はな。だから、まぁ普通には出来ると思う」

「うおおおお! 来たコレ!! はちまーん、今度家に行ってもいい!? 結婚してもいい!?」

「ひ、ひでぇ! それ女子のコメントじゃないぞ! こうもっと、お淑やかにしなさいというか、がっつきを抑えなさいというか、あれだねもう」

「ナニナニナニ~」

傘は……今は一つ。

「おーおぃぃぃ。引っ付きすぎ、引っ付きすぎだって、痛いよ。お前さんのアバラが俺のアバラと擦れて痛いの」

グイグイとくる海老名さん。これも先週どおりだったが……、何故だろうか。あんまり恥ずかしくないというか、嫌な気持ち? その、モヤモヤした不安定な気持ちは先週に比べて小さいというか、麻痺してきたというか。

「なにぃ!! 八幡、まさか結衣ともこんなことしてるんじゃ!? 確かにあの子はいい形……ならぬE形!! おまえ~、あれと比べてアバラが擦れるとか言ってるんじゃないのか――!!」

「ち、ちょっとマテェ! いつ俺が由比ヶ浜と腕を組んだというのだ! 確かに、奴は柔らかそうだが……胸なんて脂肪だぜ?」

「あ、私はちなみにCはあるからね。それでも、貧乳道を語るのならば死して屍拾うメガネ無しってね……わぁってんだろうなー!!」

「あ、Cってジャストサイズっすよねー! 自分は巨でも貧でもない、美、そう美乳派なんすよー。手のひらサイズが一番美しいー。ってか、もうそれ以外はだめだー」

「うんうん、八幡、大好き!」

「おうわ、ちょっと。当たってる、ああ、ええ、まじで当たってるって!」

「むふふふー! ナニナニナニが当たってるって~」

「ぐわわ、コレは夢なの? やばい、ねぇ、なんてエ○ゲー!? おお、材木座~コレは買いだぞ~」

「帰っておいで、八幡~、帰っておいで~」

「はっ!? 俺は……一体!?」

と、アホをやりつつ俺たちが来たのはやっぱり図書館近くのデパチカ。
冬の日で雨ってのはもう、ね。足が、靴が濡れるだけで痺れてくるのよ、先っぽが。デパートの入り口について傘を仕舞う袋を取りつつ、到着したことにほっとする俺達。
そもそも、そんな思いするなら図書館で過ごせば良いじゃないと言われるかもだが、向こうはお喋りするには静か過ぎるのだった。でも、デパートを歩いて回るほど二人とも欲しいものはなし。
というわけで、ドリンクバーと軽食で今日はゆっくりしようとサイゼリアまでやってきた俺と海老名さんであった。

「八幡って結構食べるんだね」

「それを言うなら海老名さんもね」

「海老名さん……だと?」

「……姫菜って、食べてる姿―――ウサギみたいで可愛いね。キスしたいくらいだよ」

「えっへへ~、照れるな。えっと、八幡の食べてる姿って、あーごめん。自分の食べ物で精一杯で見てなかったよ。えーと、なんていうか、か、カピバラ的な?」

「疑問系で、しかも適当にひどい所に持っていこうとするなよ。っと、それよりも何飲む? 俺はコーヒー注いで来るけど、ついでに持ってこようか?」

サイゼリアはただいま午後の14時半過ぎ。
取り合えず込む時間帯をはずして遅めに着たけど、雨の日でもあってか待ちになった。さっきお互いにランチセット(二人ともライスは大盛り)を食べ終わり、食後のドリンクと相成ったところである。

「うーむ。ではHi-Cオレンジで」

「おっけー」

今やっと客足が減ろうかというところ。皆デパートに買い物に来てるんだろうけど、俺達みたいにゆっくり駄弁ろうって人たちもそれなりの数で居るようだった。とくに喫煙席の込み方が目立ってる感じがするなぁ、体に悪いのに。

「あ、ありがとう。あ、氷も入れてくれなかったんだね。何も言ってなかったけど、その、ありがとう」

「いや、少し寒そうだったからさ。お茶は嫌いなのか?」

「うーん、もちろん暖かいのを飲むのも嫌いじゃないけど、トイレが近くなるかもしれないしさ。なんか、恥ずかしいじゃない?」

「いや、まて。それを言ったらもうは意味ねーよ」

「あはははー」

楽しそうに笑う海老名さん。その向かいに居る俺はというと、やっぱり楽しかった。不思議とも思うし、でも海老名さんならいいやと、そんな気持ちになる。女の子と女の子しているわけでもないし、細かなネタにも気が付くし、その話していても筆談していても、明るい気持ちになれて楽しかった。
一通りおしゃべりして、飲み物を継ぎ足して。俺たちは一時間近くそうしていたが、不意に海老名さんの携帯がなった。

「あ、お母さん……? うん、うん、準備終わってる。うん、……うん。それは未だだけど、あ、自分でするから、うん、……う、……うん、分かった。うん、あんまり遅くはならないから……。……ごめん、親から」

申し訳なさそうにする海老名さん。携帯は切れているようだった。

「あ、いや別にいいって」

「うん……、そういえば。なんでって……聞いたよね?」

「えっと、何に付いてだっけ?」

「私が比企谷君に恋人役をお願いした理由」

「お。あ。ああ、そういえば聞いた、聞いた。けどあの時は――」

「話すよ、話す。だから聞いてね―――」

海老名さんの姿勢が延びた用に見えた。珍しく口を横一文字に引く険しい表情の彼女。そうして―――彼女の願い、悩みが語られた。

>>88,89,90 応援サンクス! 引き続き1は皆さんの感想を貪欲にお待ちしています。それでわっ!

乙ー

き、きぇぇぇぇ!!!


ここで切るとか…
ドSなんですかねえ

今年はもうないのかなー?

今年て……誰か上げないと落ちるぞ

ここって落ちるんだっけ?
続きはよ

遅い

一番したまでいったら落ちる
てか滅多におちねーよ

>>103
>>105
ローカルルール読め
スレ番700以降が過去ログ送り対象

スレ増えてきてからは割と長くもってるけどな

なんか上がっとるな
幼女のいたずらか

海老名姫菜、17才。
千葉市立総武高等学校に通う比企谷八幡の同級生で、かつクラスメイトであり、現在をだけを切り取れば恋人である。
ガールフレンド、というのは女友達でありキスはしないというのが俺の持論。友達であって彼女ではないのだ。海老名さん? キスはしてないね。うん、それがなにか?

姫菜―――。
彼女の前に居る今の俺は、彼氏で恋人。もちろん、今だけだけどなぁ。

「私の家ね、来年引っ越すんだ。お父さんの仕事の都合なんだけど、あ。違うからね。栄転では在るらしいの。静岡にね、部長さんとして5,6年くらい」

少し早口で、それでも落ち着いた声音で彼女は話す。

「私ね、一人っ子なんだよね。お母さんはお父さんに付いて静岡に行くんだけど。私は……どうしよっかと悩んじゃってさ」

当然だと思う。高校二年まで作り上げてきた人脈を最後の一年で総換えするなんて、普通だったら選ばない。結局人間は孤独では居られても、孤独だと思われるのは好まない生き物なのだから。

「優美子に結衣。葉山君に戸部君、大和君、大岡君。最近じゃ川崎さんとも話すかな。その他数名のクラス外の友人、知り合い、そして―――君、比企谷八幡」

悲しそうに笑って、眩しそうに目を閉じて。
俺の名前を、呼んだ。

「家族と離れることも検討したんだよ。こう見えて友情には厚い女なのでして」

フフン、と胸をそらせて海老名さんは一瞬目を細めて笑ったが、直ぐにため息をついた。

「でも、駄目だった。あ、両親が反対したとかじゃなくて、そんなんじゃなくて……結局私の考えなんだけど、……駄目だったんだ。両親と離れてまで、あの人たちは寂しがるんだと思うんだけど、その二人を寂しがらせてまで守る生活が私にはあるのかなって、そう思えちゃうんだ」

「そりゃ友達と別れるってのは誰だってつらいし、嫌なことじゃないのか? 三浦やら由比ヶ浜と離ればなれってのはあれだろうし、そういう関係を守りたいと思うことはおかしなことか?」

と、ボッチの癖に俺は言う。語尾には声にはしないけど全て『ただし、ボッチは除く』ってつけてるけどな。
そんな俺の言葉を判っていましたとばかりに頭を横に振って、海老名さんは深く息を吸った。

「いずれは別れるもの、友達はね。それでも、私を今まで育ててくれた両親と天秤にかけても選ぶべきものなのかな?」

「いや、そりゃ親には感謝しても感謝しきれないけど……それでも、海老名さんの親御さんだって海老名さんが好きなようにして欲しいって気持ちもあるんじゃないのか?」

「あるよ。二人とも言ってくれたの。アパート借りて良いのよ、仕送りするから、今の高校通って友達と卒業したいでしょう、今友達と別れるのは寂しいもんねって……」

「だったら甘えたって―――」

「二人とも言ってくれたの、寂しそうに笑いながら。とても、優しそうに笑いながら……言って、くれたんだ」

俺の声を遮った彼女の声が震えて、直ぐにおれは彼女の手元から顔を見た。

「泣かないから。こんなの意味はない。泣かないから、優しくしないでね。今優しくされたら鼻水でそう」

「あ、ハンカチ良かったら―――」

「だめだがらっ!! 今はそっと窓の外みててッ!」

こういう時、沢山の人はいるものの、みんな周りに興味を示さないままで一緒に居れるファミリーレストランは助かる。彼女から少し視線を外せば誰かが何かしているし、耳を少し澄ませば、誰かが何かを喋ってる。
BGMだって悪くない。今だって、今年の有線大賞候補のあの大人数グループの最新曲がかかっているし、彼女が泣いていること意外はまったく持って、問題はないのだから。

どれくらい時間はたっただろう。なんとなく時計を見るしぐさはタブーに思えて今はとっくになくなったコーヒーカップを持ち上げては口に運び、飲む振りをする。人間観察だっていつでもできるものではない。俺が今気になっている対象は一人なのだが、それがこっちを見るなといわれたら、もうすることはなかった。

「はぁ~あっと。んんん、ごめんね~比企谷君、もうこっち見ていいよ」

「もう、いいのか?」

「うん。もういいよ、ごめん」

振り向いた先の海老名さんは少し照れくさそうに顔を赤らめて俯き気味だった。
俺はというと、随分待たされた気もするけど、次に何を言っていいか分からないでいた。空気を読める自信はあるけれど、本当に渦中に入ると意外と何もできないのがボッチなのである。悲しいけれど。

「きちんと話そっかな。ね、比企谷君には知る権利がさ、あると思うから」

「知る……権利?」

「君は私の彼氏なんでしょう? 彼氏をやってくれてるんでしょう……? だからっ、知る権利がある。私は君に聞いて欲しい」

「分かった。聞かせてくれよ」

すぅっと、話すための準備か海老名さんが姿勢を整える。

「私はね、両親が好き。そして、友達も好き。今の学校も好きだし、皆と離れたくもないし、親とも離れたくない。でも……、だから、苦しい。決めきれないの。悔しいけど、決めきれない。だから、もう一つ、この釣り合いの取れた天秤に重りを置けないか探したの。それが、君」

「……彼氏が居ればそんな気持ちになるのかを、試したって言うのか? 俺を彼氏に見立てて天秤が傾くかどうか、試したってことか」

「そう。両親とだっていつか離れて暮らすかもしれない、私だって結婚するくらいの未来は想像できるもの。だったら、好きな人がいればこんなに苦しい思いもしなくて済むかもしれない。両親と離れることへの理由として自分自身が納得できるかもしれないって、そう思ったんだ」

「それで彼氏彼女ごっこ、か。なんか申し訳ないな、俺なんかで。むしろ転校したくなったんじゃないか? 俺なんかじゃなくて戸部で試してやればいいものを」

「戸部君じゃ無理だよ。私の言っている意味、きっと彼は理解できないと思うから。理解するような努力はしてくれるんだろうけど……。なんかさ、がんばって付き合ってもらう事ほど申し訳ないものはないじゃない? きっと直ぐに終わっちゃうと思うし」

「それに関して言えることは俺は持ち合わせてはないかな。なにせ俺にいたってはこの彼氏彼女ごっこが女の子とこんな風に接した初めての経験なんだし」

海老名さんがにっこりと微笑み返す。

「八幡の処女頂き!」

「あほだ、本物だ! おまわりさーん、ココでーす」

どっちからとも無く笑い出した。
周りの客の声もあって別に目立っては居ないけれど、もう一度俺たちは目を見合わせてやっぱり笑った。

「はぁ~、笑った笑った」

「ったく、泣いたかと思えばこれかよ。まぁ、いいんだけど別に。で、結局転校するの、しないのどっちに決めたの?」

「もう少しして決める。一応引っ越す準備だけはしてるけど、親も待ってくれてるんだ。だから、来週決める。君との約束も来週だったでしょ?」

「ん? まぁそうだったけど、俺が決め手になるわけ?」

「んーん! まぁ、このシミュレーションが生きてくるでしょう。だって私今のところお試し彼氏しか居ないわけだし……。今後の学園生活に期待できるかどうかって所でしょう? 悩んじゃうっしょ?」

「俺はなんとも言えないけれど、こういうのは自分でしか決めれないから。それがどんな理由であってもいいと思うんだよな。別に何を理由にしたって、それを責めれる奴はいないと思う。親のことが好きでも、友達選んだっていいと思うよ。別に捨てるわけじゃないしさ、選ばなかった方を。今は友達って考え方は在るんじゃないか?」

「恋人でも?」

「そうじゃないの? いや、俺は彼女が今しか居ないからないけどな」

「にっひひ。今は居るんじゃないのー。えっと、そのさ、八幡がさ、もし私と同じ立場で……私が彼女だったらさ……」

「残るよ。俺だったら、姫菜を選ぶに決まってる」

と、いいつつ。もちろんオチも言っとく、フェアじゃないからな。

「と、今週いっぱいは回答するであろう」

はっとする海老名さん。OH、地雷だったらしい。

「八幡にはかなーり、がっかりだぜー。聞いても居ない落ちを言うなんて落語家として、いや語り手として失格だよ。次回巻からは私が主役な。俺の青春ラブコメは♂♀が間違っているって流れヨロ。もう八×葉だから。ガチで行くからな。舌入れろよ!」

「どんだけ怒りながら自分の欲望ねじ込んでんだよっ! ってか、気持ち悪い以外のなんでもないよ、間違ってるし、路線最悪だよ! ある意味三角関係のどろどろのほうがまだ許せそうだよ」

「なにー! 三角関係だと!? 結衣に雪ノ下さんに私で、あれ? 三人だからガチ百合じゃねーか! 八幡のバカッ! 私に死ねって言ってるの!?」

「なんでそこで男である俺を抜いたんだよ!!」

「あはぁ、抜くとか。まじで引くし」

「引くのは俺だよっ!!」

「ちょっと、腰を引くのは俺だよとか……葉山受けかっ!?」

「いいから、帰ってきて! いや、もう帰って、巣に帰っていって!!」

「八幡、好き」

「うわわー! 俺も悪い気がしないのがもうアウトな気がする!!!」

「八幡のぉおおことこんにゃにも愛してぇぇぇぇ゛いぃるのぉおおに~」

「なぜぇぇ!? 何故にみさくらぁぁぁ???」

「ええ~、彼女の前で薄い本の話とか、引くわぁ、まじで八幡の彼女で耐えれるのは私ぐらいじゃないかな?」

「遠まわしにデレとか、高度すぎだろ!!」

と、楽しい時間?
いや、厳しい時間は過ぎていく。

「来週、答えを出すよ」

「うん、それはいいけれど。俺の所為にするなよ」

「うーん、どうかな。比企谷君のおかげでいろいろな可能性が見えてきたし」

「それでも、決めるのは自分だろ。海老名さんが自分で選んで、自分で後悔するのが正しいんだよ」

「後悔する前提ですか」

「何を選んでも後悔はするさ。たぶん。でも、やり直しなんてないし、しょうがないだよね」

「私以外に言っている気がしなくでもないけど。うん、よく考える。来週まで宜しくッ」

「うぃ」

そうか、転校か。そうか、もしかすると転校なんだな。

「どしたの? 八幡、なんか飲む?」

「うん? うん、いや、注ぎに行こうか」

海老名さんが決めることだけど。願わくば、もしこの関係が終わっても。

「MAXコーヒーがあればなぁ」

「あはは、そこまで対応する店は無いだろうけど、私も今度飲んでみよっかな」

「うんまいぜ、転校する気がなくなるくらいにな」

「……八幡はさ、私が転校しないほうが、良い?」

「転校して欲しいなんて思うくらいなら、この話は初めから断ってる」

「そか。うん、そだね」

友達になれたらって言うのは……難しいのか。雪ノ下で軽くブレイクハートしている俺は、そんなしょぼいことも言い出せずに。

「MAXコーヒー、砂糖とシロップの配合で作り出してみせるッ」 
「わぉ、錬金~」

どうでも良い馬鹿な事しか声に出せずにいた。

>>97~104 お・ま・た! ってそこまで待ってねーですよ、という声も聞こえなくも無いが更新は続ける、君たちが泣いて謝るまでだっ! 読みたく無くったって俺は一人続けるぞぉぉぉ!
今年中に終わるんすかね。

>>105、106 情報助かります。のんびりいくかぁ。
>>107 ッ幼女参上!!


クリスマスイブで自然と涙がこぼれていますよ

乙面白かった


これから毎日更新すれば終わります(ゲス顔)

まだなの?

保守

保守

保守

保守

保守

保守

ほしゅ

保守

おいはよ

保守

保守

保守

sageだと保守の意味ねーだろ
いちいちあげられてもウザいが

保守

保守

もういいよ

せやね

まだやで

おまいら保守しすぎやろ…………年明けて5ヶ月経ってるし…………海老名SS、こっちにゃ少ないけどpixivには増えたぞ。
アホの松田シリーズとか

オリキャラものに興味なし
リアクションもないのによくダラダラ続けられるなぁと思うが

よりによって松田とか

保守

投げ出すくらいなら立てるな

保守

欲しい

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年11月12日 (火) 11:03:44   ID: ko_sMlvG

完結してなくてフィルタ外すと続きがあるお

2 :  SS好きの774さん   2013年11月12日 (火) 19:10:39   ID: w0I32vJt

みれますた。ありがとうございます

3 :  SS好きの774さん   2014年07月04日 (金) 14:18:24   ID: gWPHLd5n

フィルタってどうやって
はずすんですか?

4 :  SS好きの774さん   2014年07月09日 (水) 09:04:28   ID: KDll3r61

俺も聞きたい!誰か教えて!

5 :  SS好きの774さん   2014年10月19日 (日) 19:18:44   ID: BsLWkmp9

フィルタの外し方は俺もわからんがこのssの題名で検索すれば続きあるよん。

6 :  SS好きの774さん   2014年10月26日 (日) 04:26:21   ID: Tq6_i1Fa

フィルタはssの最後にある広告の下にあるよ。『無効化 : 有効』って感じに。
あとはしたい方をクリックすればいい。

7 :  SS好きの774さん   2014年10月26日 (日) 04:27:59   ID: Tq6_i1Fa

ごめん、追記。
よく見たら一番上にもあると思う。
そっちも同じ感じ。

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