カレン「朝起きるとランサーとギルガメッシュが家出してました」(237)

教会

カレン「……」トコトコ

カレン「ランサー?花壇の手入れは終わりましたか?」

しーん……

カレン「英雄王?聖堂の拭き掃除は終わったのですか?」

しーん……

カレン「全く……仕事をサボってどこへ……。これはおしおきですね、ふふ」

カレン「おや?これは……メモ……?」

ランサー・ギル『マスターにはもうついていけません。探さないでください』

カレン「……」

カレン「ふっ……。ついに逃げ出したか、駄犬ども」

カレン「探すのはいつでもいいでしょう」

カレン「さてと、朝の手入れが終わっていないならしておかないと……」

カレン「えーと……」トコトコ

カレン「ホースは……」キョロキョロ

カレン「あれ……ここではなかったですか……?」

カレン「ない……」

カレン「こっちでしょうか……」トコトコ

カレン「……ない」

カレン「ランサーが位置を変えたのですね。本当にいらないことばかりをするのですから」

カレン「花壇の手入れはなしでいいです。それよりも拭き掃除をしなければ」

カレン「雑巾は……」キョロキョロ

カレン「……」

カレン「ふっ。あの二人、私に場所を変えたことを告げないで出て行って……困らせる作戦ですね……」

カレン「いいでしょう。受けて立ちます」

カレン「……えーと……」キョロキョロ

カレン「はぁ……はぁ……」

カレン「雑巾……やっと見つかった……」

カレン「早く掃除を終えないと……」

カレン「……」トコトコ

カレン「……」ゴシゴシ

カレン「ふぅ……疲れた」

カレン「こんなことを私にさせるとは、もはやおしおきでは済まされません」

カレン「命に関わることも辞さないです」

カレン「ふふふ……どんな辱めをしてあげましょうか……」

カレン「ふふふふふ……」

しーん……

カレン「……」

カレン「休憩を終えましょう」

カレン「いけませんね。独り言が多くなっている。少し共同生活に染まりすぎましたか」

カレン「よいしょ……よいしょ……」ゴシゴシ

カレン「はぁ……はぁ……」

ギィィィ

カレン「……遅いですね、ラン―――」

桜「おはようございます」

凛「カレン、定時連絡にきたわよ」

カレン「ああ、そういえば今日でしたね」

凛「なにやってるの?」

カレン「見ての通り、掃除です」

桜「珍しいですね。いつもならランサーさんがしていることなのに」

カレン「こちらにも事情がありますので」

凛「ふーん。一人でここを掃除するの?大変じゃない?」

カレン「そう思うのでしたら、はい」

桜「え?」

カレン「定時連絡の前に掃除を手伝ってください」

凛「……なんでよ」

カレン「か弱い乙女にここの掃除は大変な重労働でして。優しい先輩に頼るのも致し方ないかと」

凛「ま、いいけど」

桜「じゃあ、パパッと終わらせましょう」

凛「そうね。カレンには借りもあるし」

カレン「感謝します」

桜「雑巾は?」

カレン「向こうに」

凛「どれどれ……?」

桜「……あの、カレンさん」

カレン「なんでしょう?」

桜「これ、本当に雑巾ですか?」

カレン「え?」

凛「雑巾というより布巾って感じね。これ、埃よけとかじゃないわよね?」

カレン「……それで構いません」

桜「カレンさんがそういうなら……」

数十分後

桜「こんなものですね」

凛「はー、疲れた」

カレン「ありがとうございます」

凛「あんたは何もしなかったわね」

カレン「私のような運動音痴が一緒だと却って能率が低下すると思いましたので」

凛「……」

桜「まあまあ、姉さん」

凛「ふん」

カレン「では、定時連絡を聞きましょうか」

凛「えっと―――」

凛「―――以上よ」

カレン「はい。特に異常も変異もないと。わかりました」

凛「……で、ランサーと金ピカはどうしたの?」

カレン「……」

桜「買い物にしては朝も早いですし、散歩ですか?」

カレン「少し暇を与えただけです」

凛「へえ、珍しいわね。あんたがあの二人を気遣うなんて」

カレン「労働に対する対価ですよ」

桜「じゃあ、遊びに出かけてるんですか?」

カレン「そうだと思います」

凛「ふーん」

カレン「なにか?」

凛「別に。それじゃあ、帰るわ」

カレン「はい。ごきげんよう」

桜「失礼します」

カレン「……」

カレン「まったく……危うく恥をかくところでした」ブツブツ

カレン「これはもう辱めを与えるどころか、苦痛を味わってもらわないと」

カレン「ふふふ……罰の内容を今から考えるだけで体が歓喜に震えますね」

カレン「ふふふふ……」

しーん……

カレン「……」

カレン「……」トコトコ

カレン(二人はどこへ……)

カレン(まぁ、探さなくとも犬の帰巣本能は並外れて優秀ですから)

カレン(夕暮れには尾を振って門を開けることでしょう)

カレン「……」

カレン「読書でもしていましょうか」トコトコ

夕方

カレン「……おや。もうこんな時間ですか」

カレン「……」

カレン「まだ、帰って来ませんか」

カレン「……このメモ。冗談ではない、ということですね」

カレン「ストライキもここまでされると困りものです」

カレン「業務に遅延が出て、何もできなくなってしまう」

カレン「……」

カレン「……明日の朝、探しに行きましょうか」

カレン「まぁ、この聖骸布があれば逃げられはしないのですがね」

カレン「ふふふふ……」

カレン「……寝ましょう」

翌朝

カレン「……」トコトコ

カレン「ランサー?ギルガメッシュ?」

カレン「……帰ってないのですかー?」

しーん……

カレン「仕方ありませんね」

カレン「彼らの行動範囲なんてたかがしれていますし、まあ、正午には捉えられるでしょう」

カレン「そして、電気椅子の刑に処す」

カレン「ふふ……きゃんきゃんと無様に泣き叫ぶ様が見えますね」

カレン「……」

カレン「行き先に選択肢は殆どありませんからね」

カレン「まずは本命から……」

カレン「……」トコトコ

衛宮邸

士郎「ランサーとギルガメッシュ?」

カレン「はい」

士郎「いや、見てないな」

カレン「本当ですか?」

士郎「ああ」

カレン「嘘ではないですね?」

士郎「なんでさ?」

カレン「いえ」

士郎「いなくなったのか?」

カレン「少し暇を与えたら調子にのってしまったようで」

士郎「そうか……。探すの手伝おうか?」

カレン「是非。無価値な戦力でも、今は得がたいものですから」

カレン「では、私は居間で吉報を待つとしましょう」トコトコ

士郎「あれ……もしかして、俺だけで探すのか?」

居間

セイバー「おや、カレンではありませんか」

カレン「どうも。騎士王、ごきげんうるわしゅう」

セイバー「今日はどういった用件で?」

カレン「衛宮士郎の顔の広さを頼りにしようと思いまして」

セイバー「それはいい考えだ。シロウの見聞はここ冬木市だけに限れば、かなりの規模です」

カレン「はい。探し物なら彼だろうと思いまして」

セイバー「うむ。貴女はよくわかっている」

カレン「いえいえ」

セイバー「シロウならすぐに見つけてくれることでしょう」

カレン「そう信じています」

カレン(ふふふ……衛宮士郎ならば数刻もせずに目撃情報程度は掴んでくれるでしょう)

カレン(果報は寝て待てとはよくいったものです)

セイバー「お飲み物でも如何ですか?」

カレン「お願いします」

正午

カレン(まだですか……)イライラ

セイバー「……」

カレン(ニート王も先ほどから瞑想し続けているし……)

カレン「ふぅ……」

凛「あら、カレンじゃない」

カレン「どうも」

凛「なに?なんかトラブル?」

カレン「いえ。ただ、衛宮士郎に依頼をしただけです」

凛「捜索願でも出したの?」

カレン「……そんなところですね」

凛「ふーん……」

カレン「なんでしょうか?」

凛「別に」

カレン「ふん……」



士郎「ランサー、やっぱりここか」

ランサー「ん?なんだ、小僧か」

ギル「こんにちは、お兄さん」

士郎「お前ら、カレンが探してたぞ?」

ランサー「そらそうだな。大事な働きアリが二匹も巣から出て行ったからな」

士郎「……なんかあったのか?」

ランサー「話すまでもないことだ。気にすんな」

ギル「はい。でも、マスターには僕たちのこと喋らないでくださいね」

士郎「そういうわけにもいかない。俺はカレンにお前たちを探してほしいって頼まれたからな」

ランサー「……そうか。なら、俺たちは全力で逃げるだけだな」

ギル「ですね。もうここには来る事はないでしょう」

ランサー「いい場所だったんだがなぁ」

士郎「おい……」

ランサー「俺たちはあいつに愛想を尽かしたんだよ。それだけだ」

士郎「何があったんだよ。それを聞かないと俺だって妥協ができない」

ランサー「はぁ……」

ギル「うちのマスターは僕らを働かせすぎたんですよ」

士郎「え?」

ランサー「そりゃあよ、言われたことはやるぜ?マスターはカレンで、サーヴァントは俺たちだからな」

ギル「はい」

士郎「ならいいじゃないか」

ギル「駄目ですよ。うちのマスターは本当に僕たちを奴隷として扱ってます」

士郎「……」

ランサー「俺だって一端の戦士だ。主に仕えてこそだとは思う。―――だが、それは戦いの中だけだ」

士郎「お前……」

ランサー「花を育てるためにわざわざ現界してるわけじゃねえんだ」

士郎「それはそうだろうけど……」

ランサー「ま、そんな小さな不満が爆発した結果が現在の状況だ。気が済むまでストライキさせてもらうわ」

ギル「では、また」

衛宮邸

カレン「……」イライラ

凛「ふふ」

カレン「なんですか?」

凛「随分と気が立っているようね?」

カレン「気のせいでしょう」

凛「そう?」

カレン「はい」

凛「どうして二人がいなくなったの?」

カレン「……わかりません」

凛「……まぁ、どうでもいいか。どうせカレンが悪いのでしょうし」

カレン「……」

カレン(何故、私がこのような辛酸を舐めなければいけないのですか……)

カレン(絶対に許しません……ランサー……ギルガメッシュ……)

凛(めんどくさいやつ……)

士郎「ただいまー」

カレン「……っ!!」

凛「おかえ―――」

カレン「遅いですね。どこでマーキングに励んでいたのですか、駄犬」

士郎「な、なんだよ……」

カレン「それで、二人の行方は?」

士郎「あー……」

カレン「……」

士郎「悪い。分からなかった」

カレン「……そうですか」

士郎「カレン?」

カレン「どうやら時間の無駄だったようですね。それでは」

士郎「あ、おい」

セイバー「カレン。待ってください」

カレン「なんですか?」

セイバー「シロウは貴女の望みを聞いた。それに対する礼はないのですか?」

カレン「ああ。うっかりしていました」

セイバー「……」

カレン「衛宮士郎?」

士郎「な、なんだ?」

カレン「お礼は、この穢れた体で……」

士郎「や、やめろ!!」

凛「なにしてんのよ!!!」

カレン「残念ながら、こうするほかにお礼ができないので」

凛「ありがとうでいいでしょ!!」

カレン「言葉でのお礼に価値などありません」

セイバー「……」

カレン「さ、ベッドに」

士郎「こ、こら!!」

凛「やめて!!」

カレン「なんですか。現金のほうがいいのですか?」

凛「そういう問題じゃないわよ!!」

士郎「そ、そうだぞ。カレンだって女の子なんだから。そういうことは軽々しくいうもんじゃない」

カレン「貴方だけです。そうして私を処女のように扱ってくれるのは」

士郎「な……」

カレン「では、私がリードします。貴方はただ淫らに乱れる私を眺めていればいい」

士郎「おい!!」

カレン「行きましょう。ここでもいいですけど」

凛「あんたねえ!!!」

セイバー「カレン、冗談もそれぐらいにしてください」

カレン「冗談ではありませんが」

セイバー「二人の従者が逃げ出したのも納得です」

カレン「どういう意味ですか……?」

セイバー「どうやら貴女には相手に誠意をみせることができないようですね」

カレン「……」

士郎「お、おい、セイバー」

セイバー「シロウにもそういう態度ならば、近しい存在に対してはもっとぞんざいに扱っていたのでは?」

カレン「そんなことはありません」

士郎「カレン……」

カレン「これでも私なりに彼らの意思を尊重していました」

凛「どんな風に?」

カレン「私の要求にさえ答えれば、あとは自由にしててもいいと」

士郎「……」

セイバー「それはつまり……」

凛「自由はないってことね?」

カレン「自由はありますよ。なにをいっているのですか?」

セイバー「では、訊ねます。貴女はどのような要求を?」

カレン「大したことではありません。聖堂の清掃は勿論、部屋の掃除、買い物、料理、風呂の準備、マッサージ、資金援助……」

士郎「……」

凛「よく殺されなかったわね」

カレン「普通でしょう。彼らはサーヴァントなのですから」

セイバー「まるで奴隷ですね。貴女はサーヴァントという存在をなんだと思っているのですか?」

カレン「従者。それ以上でも以下でもありません」

凛「……」

士郎「カレン……」

セイバー「シロウ。提案があります」

士郎「な、なんだ?」

セイバー「カレンをしばらく、ここに泊まらせてみましょう」

士郎「はぁ?!」

凛「ちょっとセイバー!?正気!?」

セイバー「カレンに他のサーヴァントがどのような扱いを受けているか、知ってもらうためです」

カレン「それには及びません。私は仮にもこの街の管理を任されている身ですから。どのような境遇にあるかぐらい熟知しています」

セイバー「では、私はどのような境遇にあるか言えますか?」

カレン「衛宮士郎に寄生するサーヴァント。主に食費の増加に貢献している」

セイバー「貴様……斬る……」

カレン「あら?違いましたか?」

セイバー「違います!!」

カレン「衛宮士郎?」

士郎「……」プイッ

カレン「あらら」

凛(ま、ノーコメントよね)

セイバー「私はこの屋敷の警護を任されています。シロウはそのお礼に私に美味しい料理を振舞ってくれているだけです」

カレン「ほう……そうなのですか?」

士郎「……」プイッ

セイバー「そうですねよ、シロウ?」

士郎「……うん……そうだよ」

セイバー「ほら、みなさい」ムフー

カレン「屋敷の警護といっても、ここには侵入者用の結界がありますし、そういう輩が来た場合は音がなるのでしょう?」

凛「まぁ、そうね」

カレン「セイバーが警護するまでもなく、家主は自力で応戦したり逃げ出せたりできる気もしますが?」

セイバー「何をいいますか。応戦するのは私の務めです」

カレン「まぁ、それはいいでしょう。では、結界が反応しない場合はどうするのですか?」

セイバー「え?」

カレン「例えば……アサシンやキャスターなら結界をすり抜けてしまうでしょう」

凛「そうね」

士郎「たしかに」

カレン「その場合、貴女はいち早く主の危険を察知し、護衛できるのですか?」

セイバー「それは……」

凛「アサシンはまあ、誰にも察知できないし……」

カレン「凛の報告によれば、一度キャスターの侵入を許し、一般人である藤村大河を人質に取られたとか」

セイバー「あれは事情があったのです!!」

カレン「自宅警備員が自宅を守れない以上、ただ寄生していると表現するのが一番近いような気もしますが?」

セイバー「ぐっ……!!!」

カレン「ふふ……どうなのですか?」

凛(セイバー、がんばれ)

セイバー「しろぉ……」ウルウル

士郎「セイバーは十分やってくれてるから」ナデナデ

凛「はぁ……」

カレン「……ですが、確かに衛宮士郎とセイバーの関係は私たちと真逆ですね」

凛「でしょうね。士郎は徹底的にセイバーになにもさせないから」

カレン「それはそれで問題があるように思えますね」

凛「そうよね」

士郎「なんだよ、遠坂まで」

凛「自慢するわけじゃないけど、私とアーチャーの関係が一番バランスがとれていると思うわ」

カレン「ほぅ」

凛「持ちつ持たれつが一番いいのよ」

カレン「確かアーチャーは家事をしているとか」

凛「ええ。勿論、強制じゃないわ。全部、あいつの好意だから」

カレン「それで凛はアーチャーに対してなにかお礼をしているのですか?」

凛「え……えーと……」

カレン「……」

凛「ありがとうぐらいは言ってるわよ」

カレン「殆ど衛宮邸に入り浸り、屋敷の清掃はアーチャー任せのようですね?」

凛「うぐ……」

士郎「そうなのか?」

凛「違うわよ!!!アイツが勝手に―――」

カレン「そう。勝手にしているだけ」

凛「……」

カレン「彼は皮肉屋ではありますが、優しい一面もある。そこに付け込んでいいように使っているのでしょう?」

凛「ち、ちがうわよ!!だ、だいたい、最近はアイツだって屋敷にいないときのほうが多いし!!」

カレン「可愛そうなアーチャー……きっと、嫌気が差したのでしょうね」

凛「……」

カレン「凛も私と同じですね。サーヴァントに見限られた者同士、これからも仲良くしましょう」

凛「やめて!!一緒にしないで!!!」

カレン「ふふふふ……」

凛「そうなのかなぁ……」ブツブツ

セイバー「わたしでは警護ができない……」ブツブツ

カレン「あー、楽しい」

士郎「カレン、あんまり苛めるな。鬱憤を晴らすなら外に行って晴らして来い」

カレン「そうですね」

士郎「あと、ランサーとギルガメッシュのことだけど」

カレン「なんでしょうか?」

士郎「当分戻らないかもな」

カレン「……会ったのですか?」

士郎「……言えるのはここまでだ」

カレン「そうですか……」

士郎「カレン、俺みたいに甘やかすのはどうかと思うけど、遠坂みたいに厳しくしすぎるのも駄目だと思う」

セイバー「シロウ!!どういうことですかぁ!!」

凛「厳しくしてないわよ!放任主義なだけよ!!」

カレン「そうですね……。一考する価値はあるかもしれません」

カレン「衛宮士郎?」

士郎「なんだ?」

カレン「ここには桜とライダーも住んでいるのですよね?」

士郎「桜は通いだけどな」

カレン「……先ほどの話ですが」

士郎「え?」

カレン「しばらく、ここで貴方たちがどうサーヴァントと接しているのか見させてもらいます」

士郎「それって……」

カレン「ここに住みます」

凛「だめよ!!!」

カレン「それは家主である衛宮士郎が決めることでしょう?」

凛「そ、それは……」

セイバー「どうしますか?」

士郎「俺は構わない。カレンがそういうなら」

カレン「ふふ……どうも。その甘さには反吐がでそうですが、ここは素直に感謝をします」

凛「全然、素直じゃないけど……」

士郎「じゃあ、歓迎するよ、カレン」

カレン「不束ですがよろしくお願いします」

士郎「じゃあ、部屋を決めないとな」

カレン「貴方の寝室で構いません」

士郎「なんでさ?!」

カレン「夜這いするのに別室からだと移動が面倒なので」

士郎「おい!!」

凛「……セイバー?いいの?」

セイバー「はい。彼女の見解を変えるには他のサーヴァントがどうしているか知ってもらうのがいいでしょう」

凛「士郎が寝取られても?」

セイバー「それはありえません」

凛「どうして?」

セイバー「私と桜、あと凛がそれを許すはずがないからです」

凛「あら、よくわかってるじゃない。安心したわ」

夜 リビング

カレン「―――というわけで、短い間ですがよろしくおねがいします」

桜「はぁ……」

ライダー「サーヴァントとの関係を見つめ直すため、と考えていいわけですね?」

カレン「はい」

ライダー「わかりました」

桜「先輩がいいというなら」

士郎「悪いな。勝手に決めて」

桜「いえ」

セイバー「……シロウ、夕食が冷めては味が落ちてしまう。食べましょう」

士郎「ああ、そうだな」

ライダー「ふむ……」

カレン「いただきます」

凛「……いただいます」

桜(まあ、先輩を狙ってというわけじゃないなら……)

セイバー「シロウ」

士郎「はい。しょうゆ」

セイバー「ありがとうございます」

カレン「あの」

士郎「なんだ?カレンもしょうゆか?」

カレン「いえ。からしを」

士郎「からし……ああ、そっか。ちょっと待ってろ」

カレン「申し訳ありません」

凛「そんなことしたら料理の味が―――」

カレン「……」

凛「あ、ごめん」

カレン「いえ。―――それにしても、セイバー?」

セイバー「なんでしょうか?」

カレン「どうして衛宮士郎は貴女がしょうゆを求めていることを察したのですか?名前を呼んだだけなのに」

セイバー「シロウとは多くを語らずとも理解し合える仲ですので」

カレン「それは繋がっているからですか?」

セイバー「そうではありません。長く傍らにいれば互いの視線や仕草で何を求めているか分かるものです」

カレン「ほう……」

セイバー「貴女もそれぐらいはわかるのではないのですか?」

カレン「……」


ランサー『カレン、とってくれ』

カレン『主語が抜けています』

ランサー『ホースだよ!!今から水をやりに行くんだから、察せよ!!』

カレン『言ってみただけです』

ランサー『もういい!!』


カレン「まあ、なんとなくは。応じたことなどありませんが」

セイバー「それを怠ると信頼関係は結べませんよ?」

カレン「そうですか。参考にさせていただきます」

セイバー「ええ」

桜「おいしー♪」

ライダー「桜、いいのですか?」

桜「え?」

ライダー「ほら、おやつにケーキを……」

桜「あ……」

ライダー「おかわりしてはおよそ100カロリーオーバーになりますよ?」

桜「うぅ……でもぉ……」

カレン「ライダー?」

ライダー「はい」

カレン「マスターのカロリーまで計算しているのですか?」

ライダー「ええ。桜のブレーキになるように」

カレン「まあ、新手の羞恥プレイですか」

ライダー「違います。桜はカロリーを気にしていますからね。こうして指摘してあげているのです」

カレン「そこまでする必要があるのですか?自己責任では?」

ライダー「桜の望むことですから。私はそれに応じてあげるだけです」

カレン「どうして……」

ライダー「桜は日頃から私に気を回してくれていますから」

桜「そ、そんなこと……」

ライダー「朝、いつも私の体調を訊いてくるのはどういうことなのですか?」

桜「そ、それは……えっと……」

カレン「なるほど。気にされているから、気にしてあげると」

ライダー「ええ」

カレン「……」


ギル『マスター、肩がこってますね』モミモミ

カレン『はい。誰かさんの所為で』

ギル『そういえばランサーさんがもう少し朝はゆっくりさせてくれっていってましたよ?僕ももう少し寝ていたんですけど……』

カレン『寝屋を提供しているだけありがたいと思ってください。次は腰を揉んでもらえますか?』

ギル『はいはい……』


カレン「……そういうことですか」

凛「うん……やっぱり、士郎の料理は悪くないわね」

士郎「それはどうも」

カレン「凛?」

凛「なぁに?」

カレン「貴女もアーチャーに対しては何か施しを?」

凛「いきなり何よ」

カレン「いえ、昼間の話を聞く限りでは特になにもしていないようなので」

凛「私だって―――」

ピンポーン

士郎「だれだろう……」

セイバー「私が出ます」

士郎「ありがとう」

セイバー「いえ」トコトコ

カレン「……」

カレン(セイバーも何もしないわけじゃないのですね)

セイバー「リン、アーチャーです」

凛「へ?」

アーチャー「失礼する」

士郎「何しに来たんだよ?」

アーチャー「そう警戒するな。我が主に用があるだけだ」

凛「どうかしたの?」

アーチャー「君の部屋の蛍光灯が切れていたのを思い出してね。ストックがどこにあるか聞きに来た」

凛「電話してくれればよかったのに」

アーチャー「君のことだ。買い置きがないこともある。ない場合はこのままデパートまで買いにいく」

凛「どうせ出ることになるだろうからって出てきたわけ?」

アーチャー「その通りだ。で、買い置きは?」

凛「えっと……二階の押入れになかった?」

アーチャー「なかったな」

凛「じゃあ、ないわ。買っておいて」

アーチャー「そんなことだろうと思ったよ……」

カレン「……」

アーチャー「ん?なにかな?」

カレン「いえ、アーチャーはどうしてそんなに献身的なのかと思いまして」

アーチャー「献身ではない。彼女のずぼらさが我慢できないだけだ」

カレン「シーツの乱れが気になるということですが?」

アーチャー「そこまで神経質ではないがね。サーヴァントである以上、マスターの身の回りが気になるだけだよ」

カレン「それはどうして?」

アーチャー「なんらかの健康被害で床に伏せてもらってはこちらが困るからな」

凛「なによ!まるで私が何もできない女みたいじゃない!!」

アーチャー「私が家にいる限りはなにもしないじゃないか」

凛「それは……だって……」

カレン「アーチャーはそんな凛を咎めながらも、世話を焼くのですね」

アーチャー「体が勝手に動くだけだ。魂にまで染み付いたお節介は中々解消されなくてね」

士郎「……」

カレン「なるほど……」

凛「言うじゃないの……」

カレン「では、アーチャーの働きに凛は褒美を与えていますか?」

アーチャー「いや、見返りなど求めていない」

カレン「では……」

アーチャー「凛の場合、確かな信頼を私に注いでいるからな」

凛「な……!?」

桜「へえ」

セイバー「意外ですね。リンはいつも文句しか口にしないのに」

アーチャー「気難しいマスターなのでね。でも、言葉の裏には私に背中を預けてもいいという本心が見え隠れしている」

凛「なに恥ずかしいこといってんのよぉ!!!」

アーチャー「本当のことだろ?」

凛「ばーか!!ばーか!!そんなわけないでしょ!!!発した言葉が全てなんだからね!!」

アーチャー「はいはい」

カレン「……」

カレン(確かな信頼……)

凛「はやく蛍光灯でもなんでも買いに行きなさいよ!!」

アーチャー「分かっている。―――食事時に失礼したな」

セイバー「いえ」

ライダー「お気をつけて」

アーチャー「ありがとう」

カレン「……」


カレン『ランサー、この花瓶は?』

ランサー『ああ、カレンにぴったりな色だろ?花と一緒に部屋に飾ってくれよ』

カレン『どうして?』

ランサー『なんだかんだで世話になってるからな』

カレン『ふーん。気持ち悪いですね』

ランサー『なんだとぉ!?』


カレン(凛のように器用に言葉の裏側を伝えることは私はできていない)

カレン(難しいですね……)

ライダー「ご馳走様でした。では、自室にもどります」

桜「私も」

凛「そうね。戻るか」

士郎「よし。じゃ、洗いものでも―――」

カレン「私がします」

士郎「え?」

カレン「冬の洗い物は辛いでしょう?」

士郎「だけど……」

カレン「しばらくは思ったことを実行してみることにします」

士郎「え?」

カレン「どうやらサーヴァントとの関係を保つためにはそうするしかないようですね」

士郎「カレン……」

カレン「少しばかり吐き気がするほど気に食わないですが、そうしてみます」

士郎「む、無理すんなよ?」

カレン「はい」

カレン「……」ザブザブ

士郎「カレン、手伝おうか?」

カレン「結構です」

士郎「でも……」

カレン「なんですか?」

士郎「いや……カレンがそうしていると……ドキドキするっていうか……」

カレン「は?」

士郎「なんだろな……その……新鮮で……」

カレン「……」

士郎「カレンって意外と主婦とか似合うんじゃ―――」

カレン「てい」ピトッ

士郎「つめたっ!?濡れた手で顔にふれんな!!」

カレン「いえ、なにを寝ぼけたことをいっているのかなと。目は覚めましたか?」

士郎「なんだよ……」

セイバー「……」

寝室

カレン「よっと……疲れましたね……」

カレン(なんとなくサーヴァントがマスターに求めるものというのが見えてきましたね)

カレン(ギルガメッシュは別にして、ランサーにおいては恐らく……)

カレン(私に褒められたいのでしょう)

カレン(犬だから仕方ないですが……)

カレン「……」

カレン(もし……ランサーやギルガメッシュが私の体のことを思って……今まで……)

カレン「ふっ……」

カレン「それはないですね」

カレン(あの二人が私のことを気遣っているなど想像するだけで薄ら寒い)

カレン「……寝ましょう」

カレン「今日は……いっぱい歩いて……つかれました……し……」

カレン「……」

カレン「あ、そういえば。衛宮士郎にまだお礼をしていませんでしたね」

士郎の部屋

カレン「……」トコトコ

カレン「……」ソーッ

士郎「ん?」

カレン「お邪魔します」

士郎「な!?」

カレン「……どうも」

士郎「どうしたんだ?!」

カレン「静かに。他の人に迷惑ですから」

士郎「で、なんだよ?」

カレン「お礼をしようと思いまして」

士郎「お礼?」

カレン「ここに住まわせてもらうけですから。お礼を……」ススッ

士郎「え……?」

カレン「さ、できるだけ乱暴に抱いてください……」

士郎「お、おい……」

カレン「ふふ……短小でも早漏でも……私は生暖かく見守りますよ?」

士郎「いや……」

カレン「衛宮士郎……」

士郎「な、なんでさ……」

カレン「私にできる唯一の礼ですから……」ギュゥ

士郎「……カレン?」

カレン「どうしました?」

士郎「あの……そういうこと、ランサーとかにもしてるのか?」

カレン「いいえ。ランサーは私の体など眼中にないというか、気持ち悪いと一蹴しましたから」

士郎「それ……カレンは怒ったのか?」

カレン「いえ。当然の意見です。殿方からみれば私の肉体は汚れている。綺麗な場所などないほどに」

士郎「……」

カレン「でも……貴方は平等に……私を受け止めてくれる。だから……」

士郎「カレン……」

カレン「脱ぎましょうか」

士郎「駄目だ」

カレン「え……」

士郎「そんなことするな」

カレン「しかし……」

士郎「カレンは俺にお礼がしたいだけなんだろ?」

カレン「ええ」

士郎「なら、言葉だけでいい」

カレン「私の気が済みません」

士郎「駄目だ」

カレン「やはり私の体は醜いと?」

士郎「カレン、ランサーが気持ち悪いっていったのは体のことじゃない」

カレン「……?」

士郎「きっと、そうして自分を卑下しているところを言ったんじゃないか?」

カレン「事実を述べているだけなのですが」

士郎「今度、ランサーに聞いてみたらいい」

カレン「……そうですか」

カレン(自分を貶める私に腹をたてるような人物とは思えませんが……)

カレン「どうやら嫌われたようですね。部屋に戻ります」

士郎「えっと……」

カレン「はい?」

士郎「寝るだけなら……一緒に寝ないか?」

カレン「まぁ……」

士郎「……」

カレン「では……」ゴソゴソ

士郎「お、おやすみ」

カレン「はい」

士郎「……」

カレン「ふふ……」

カレン(これで朝を迎えれば、心地の良い乙女たちの絶叫が聞けますね……ふふ……)

翌朝 リビング

セイバー「シロウ?」

凛「朝までカレンと何してたわけ?」

士郎「だから……一緒に寝てただけで……」

桜「カレンさんから誘ってきたんですよね?」

士郎「それは……」

カレン「衛宮士郎から誘われました」

ライダー「ほう……」

士郎「カレン!!」

カレン「神のご加護を」

凛「覚悟は……いいわね?」

セイバー「残念です」

桜「……」

士郎「いやぁぁぁぁぁ!!!!」

カレン「今日もいい朝ですね……」

カレン「買い物ですか?」

セイバー「はい。ご一緒にどうですか?」

カレン「構いませんが」

セイバー「じゃあ、行きましょう」

カレン「はい」

カレン(そういえば……)


カレン『ランサー、ギルガメッシュ。買い物に行って来てください』

ランサー『はいよ』

ギル『わかりました』

カレン『随分と聞き分けがいいのですね』

ランサー『ま、あんたの話を聞いちまうとな』


カレン(あれ以来、買い物には自ら行ってくれていた……もしかして……)

セイバー「カレン?どうかしましたか?」

カレン「あ、すいません。行きましょう」

商店街

カレン「……」トコトコ

セイバー「あとは……」

バゼット「カレン」

カレン「バゼット……?」

セイバー「お久しぶりです」

バゼット「ランサーは?」

カレン「今はいません。見たらわかるでしょうに」

バゼット「……」

カレン「なにか?」

バゼット「一緒にきてほしい」

カレン「え?」

セイバー「あの、どちらへ?」

バゼット「セイバーも来たければどうぞ」

セイバー「……?」

バゼット「ランサー」

ランサー「よう。もどった―――かぁ!?」

カレン「あら。逃げ出したかと思えば、新しい飼い主に拾ってもらったのですか?」

ランサー「バゼット!!なんでつれてくんだよ!!」

セイバー「ここは?」

バゼット「私の隠れ家です」

カレン「……ふん。やはりそういうことですか」

ランサー「あ?」

カレン「私よりもバゼットのほうがいい。ということですね?」

ランサー「そりゃそうだ」

カレン「……」ムッ

バゼット「ランサー……」

カレン「では、バゼットにお世話になればいいではありませんか」

ランサー「そのつもりだ。だれがてめーのところに戻るかよ」

カレン「……っ」

セイバー「随分な言い草ですね、ランサー?」

ランサー「あたりまえだ」

バゼット「……」

カレン「セイバー、帰りましょう」

セイバー「え?」

カレン「ここにいても時間の無駄です」

セイバー「わかりました」

バゼット「カレン」

カレン「その駄犬をよろしくお願いしますよ」

ランサー「ふん」

カレン「ふん……」

バゼット「ランサー、いいのですか?」

ランサー「良いも悪いも、バゼットは嬉しくないのか?」

バゼット「でも……彼女はまだマスター権を手放そうとはしていませんし」

ランサー「……」

セイバー「よかったのですか?」

カレン「ええ」

セイバー「……」

カレン「元々、私のサーヴァントではありませんでしたし」

セイバー「しかし」

カレン「もういいです。あのような恩知らずは」

セイバー「意地を張ってもいいことはありません」

カレン「意地?はっ、なんで意地を張る必要があるのですか?」

セイバー「カレン……」

カレン「去るものは追いません」

セイバー「貴女がそういうなら、もう言いませんが」

カレン「……」

カレン(やはりただ嫌気が差しただけのようですね)

カレン(もしかしてただ私の気持ちを試そうとしているだけなのかもしれないと考えもしましたが、大きく的を外しました)

カレン(全てを許します。ランサーもギルガメッシュも私には不要のですね)

衛宮邸

士郎「え?教会に戻るのか?」

カレン「はい」

凛「随分と呆気ないわね。もういいの?」

カレン「私にサーヴァントはいません。最初に戻っただけのことです」

セイバー「……」

凛「まあ、自分できめたことだってんなら止めるようがないけど」

カレン「お世話になりました」

士郎「カレン」

カレン「はい?」

士郎「まだいつでも来てくれ」

カレン「はい」

セイバー「……」

カレン「さようなら」

教会

カレン「……」

カレン「さてと……」

カレン「花壇の水やりを……」

カレン「ホース……」トコトコ

カレン「よいしょ……よいしょ……」ズルズル

カレン「ふぅ……」

カレン「……」

カレン(一人ですると大変ですね……)

カレン(でも……これくらいは……)

カレン「このあとは掃除もしないと」

カレン「……」

カレン「労働力がほしい……」



カレン「はぁ……はぁ……」ゴシゴシ

カレン「はぁ……」

カレン「つか……れた……」

カレン「ふー……」

カレン「……」

カレン「これからこれを一人でこなさなければいけないのですね……」

カレン「ふふ……」

カレン「衛宮士郎に……頼めば……」

カレン「……」

カレン「そうしましょう」

カレン「彼がここまで通ってくれるとは思えませんが、ダメ元で……」

カレン「よし」

カレン「―――もしもし?」

セイバー『はい、衛宮です』

カレン「あの……」

セイバー『カレンですか?』

カレン「衛宮士郎に代わって下さい」

セイバー『わかりました』

カレン「……」

士郎『もしもし?』

カレン「あの―――」

士郎『どうした?』


ランサー『みろよ、カレン。俺にかかれば、こんなにピカピカになるんだぜ?!』

ギル『僕のほうがピカピカですよ。ほらほら』


カレン「―――なんでもありません。おやすみなさい」

士郎『あ、ああ……おやすみ』

カレン「……」

カレン「どうして……私は……」

カレン「……どうにも自分が愚かに思えてしかたりませんね」

カレン(咄嗟に彼らの居場所を守ろうとしてしまった……)

カレン(帰ってくることのない彼らの……)

カレン「全く……どうかしてますね」

カレン「はぁ……」

カレン(静寂の聖堂……)


ランサー『てめえ!!今、ずるしただろ!!』

カレン『言いがかりですね。証拠はあるのですか?』

ギル『まけおしみですねー』

カレン『負け犬』

ランサー『てめえら……!!!』


カレン(賑やかな日もありましたね……)

自室

カレン「……」


ギル『マスター、体調が優れないんですか?』

カレン『少し熱が出ただけです』

ギル『はい。高級栄養ドリンクです。飲んでみてください』

カレン『どうも』

ランサー『おいカレン。おかゆ、出来たぞ』

カレン『まあ。犬のくせにそんな高等なことが?』

ランサー『水多めにするだけだろうが!!』

ギル『その加減ができたことにびっくりしてるんですよ』

ランサー『それぐらいサルにもできるだろ!!なめんじゃねえ!!』

カレン『ふふ……』


カレン(そういえばあのときもお礼はしませんでしたね)

カレン(あのときはサーヴァントが尽くしてくれるのが当然だと思っていたから……)

カレン「……」

カレン「手のひらから零れ落ちていく幸福はあまりにも小さく、儚い」

カレン「そもそも私に幸せなどないのですが」

カレン「この所詮は自由な従者」

カレン「私のことなど気にもしていなかったのでしょう」

カレン「ネコのように宿主を自由に変えるだけ」

カレン「―――明日もありますし、もう寝ましょうか」

カレン「この静けさも実に新鮮ですね」

カレン「……」

カレン「あら……」

カレン「私としたことが……酷い失態を……」

カレン「ほんの少しだけ寂しいと思うとは……」

カレン「集団生活に慣れてしまったということですか」

カレン「早く元の自分に戻らないと」

カレン「もどらないと……」

翌朝

カレン「バケツに水を……」ヨロヨロ

―――ガッ

カレン「あ―――」

バシャァ

カレン「……」

カレン「雑巾で拭かないと……」

カレン「……」ゴシゴシ

カレン「はぁ……」ゴシゴシ

カレン「んく……!!」ギュゥゥ

カレン「はぁ……はぁ……」

カレン「……」

カレン「そういえば買い物にもいかなければなりませんね」

カレン「疲れますね……ほんとに……」

新都

カレン「ふぅ……」

カレン「少し買いすぎましたか……」


ランサー『俺が持ってやるよ』

ギル『じゃあ、僕も』

カレン『どうも。楽になりました』

ランサー『いや、一個ぐらいもてよ?!』


カレン「ふぅ……ふぅ……」ヨロヨロ

カレン「これくら、い……」フラフラ

カレン「ぁ―――」ボトボトボト

カレン「……」

カレン「疲れた……」ペタンッ

カレン「もう拾う気力も……ないですね……ふふ……」

カレン「買い物もままならないとは……ふふふ……」

カレン「……」

アーチャー「どうぞ」

カレン「え……?」

アーチャー「落としたぞ?」

カレン「どうも……」

アーチャー「どうかしたのか?」

カレン「なんでもありません」

アーチャー「一人分にしてはかなり買い込んでいるな」

カレン「ええ。最近、情緒不安定でして」

アーチャー「それは怖いな」

カレン「それで何か?」

アーチャー「用はない、見かねただけだ」

カレン「そうですか」

アーチャー「―――それではな」

カレン「はい。またどうぞ」

カレン「んっ……」ヨロヨロ

カレン「くっ……ふぅ……」フラフラ

カレン「はぁ……はぁ……」

カレン「ぁ……ぅ……」ヨロヨロ

カレン「あ……」フラッ

カレン「あぁ……」ボトボトボト

カレン「……」

カレン「拾わないと……」

カレン「……」

カレン「いや……いい」

カレン「どうせ食べきれる量ではないですし……」

カレン「はぁ……」

カレン「疲れた……本当に……疲れました……」

カレン「ランサー……ギルガメッシュ……疲れました……」

カレン「はやく……帰ってきて……」

教会 聖堂

カレン「……」

カレン「つか……れ……た……」

カレン「ふふ……ふ……ふふふ……」

カレン「寝ましょう……ここで……」

カレン「部屋に戻るだけの元気もないですし……」

カレン「……」

カレン「すぅ……すぅ……」

ギィィィ

ランサー「……」

ギル「寝てますね」

ランサー「ちっ……アーチャーの野郎、余計なこと言いやがって……」

アーチャー『―――新都で弱ったカレンを見かけたぞ?傍にいてやらなくて大丈夫か?』

ギル「流石にマスターがくたばったら大変ですしね」

ランサー「こんなとこで寝やがって……また熱がでるぞ……ばかやろう」

自室

カレン「ん……?」

カレン「あら……ここは……?」

カレン「私は……確か……」

カレン「……?」キョロキョロ

カレン「ん?このお鍋は……?」パカッ

カレン「おかゆ……?」

カレン「律儀にカセットコンロの上において……」

カレン「温めろということですか?」

カレン「でも、まだ熱々ですね」

カレン「……」

カレン「……」ヨロヨロ

カレン「まだ……近くにいる……」

カレン「言わないと……言うべきことを……」フラフラ

ランサー「お前はどうするんだ?」

ギル「そうですね。とりあえず、適当にぶらぶらします」

ランサー「金のあるやつはいいねえ」

ギル「ま、それほどでも」

ランサー「俺はバゼットのとこで世話になるか」

ギル「マスターのことはもういいですか?」

ランサー「偶に様子ぐらいは見に来るけどな」

ギル「そうですね。いきなり屍になっていたら困りますけど」

ランサー「あいつなら恨んだ相手のところでこれみよがしに苦しんで死にそうだな」

ギル「あはは。確かに」

カレン「では、その相手は……貴方でいいですね、ランサー?」

ランサー「カレン―――!?」

ギル「マスター……」

カレン「……」

ランサー「なんだよ?」

カレン「……ずっと考えていました」

ランサー「あ?」

カレン「貴方たちにどうやって地獄を見せようか」

ギル「ひぃ……」

ランサー「おまえ……」

カレン「ふふ……覚悟してください……」

ギル「ランサーさんが家出しようなんていうから……」

ランサー「ば、ばかいえ……お前だって賛成しただろうが……!!!」

ギル「元はランサーさんが……!!」

ランサー「いやいや!!同罪だろ!!!」

カレン「ふふふ……そうやってくるくると犬のように回りなさい。私を貶めた時点で運命は決まっています」

ギル「ひぃぃ……」

ランサー「だ、だいたい……お前が悪いんだからな!!なんでもかんでも押し付けやがって」

カレン「……」

ランサー「しかも感謝もなければ、労いもない。俺たちは召使じゃねえぞ!!」

カレン「……言いたいことはそれだけですか?」

ランサー「おぉ……」

ギル「もうにげよ……」コソコソ

ランサー「まてよ!!」

ギル「はなしてください!!まだ死にたくないです!!!」

カレン「ふふふ……すごく考えました。どうしたら、貴方たちが苦しむかを……」

ランサー「やべえ……目がマジだ……」

ギル「誰かに似てますよね」

カレン「……」

ランサー「うっ……」

ギル「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!!」

カレン「……」ウルウル

ランサー「……え?」

カレン「お、かえり……なさい……」ポロポロ

ギル「な、泣いた……?」

カレン「わ、たし……あなたたちが……いないと……」ポロポロ

ランサー「……」

ギル「……」

カレン「なにも……できなくて……さびしくて……」ポロポロ

カレン「もどってきてください……おねがいします……」ポロポロ

ランサー「はっ。びびって損したぜ。嘘泣きじゃねーかよ。ふざけんな」

ギル「よかった、その程度で……」

カレン「うぅ……ぐすっ……」ポロポロ

ランサー「あっはっは!もういいって」

ギル「すごい演技力ですね」

カレン「えぐ……ぐす……うぅ……」ポロポロ

ランサー「はいはい。もう飽きたから」

カレン「おね……がい……帰ってきて……ぐすっ……ぉえ……」ポロポロ

ギル「あの……これって本気で泣いてるんですか?」

ランサー「な、なわけねーだろ」

カレン「ひとり、だと……おかい……も、の……もできない……んです……」ポロポロ

ランサー「おい。いい加減にしろよ」

ギル「……」

カレン「うぅ……おぇ……わたし……だけじゃ……おそうじも、できな、くて……」ポロポロ

ランサー「カ、カレン……おい……」

カレン「ぐすっ……おねがい……します……これから……おて、つだいも……します……からぁ……」ポロポロ

ギル「えーと……あの、これってやっぱり本当に……」

ランサー「マジかよ……。俺は騙されねえぞ……」

カレン「ぐす……もう、ひとりはいやです……」

ギル「……」

ランサー「……」

カレン「かえって、きて……おねがい、です……おねがい、します……ぐすっ……」

ランサー「ど、どうする?」オロオロ

ギル「えっと……謝ったほうが……いいのでは?」オロオロ

カレン「うぅ……ぐすっ……ぅ……」

ランサー「わかった!!わかった!!もどる……もどってやるよ!!」

ギル「僕も!!」

カレン「……ほんとぉ……ですか……?」

ランサー「悪かった。まさか、お前がたった二日三日でそこまで追い込まれるとは思わなかったぜ」

ギル「はい。すごい予想外でした」

カレン「ぐすっ……ずずっ……」

ランサー「ほら、鼻水と涙でひどいぞ。これで顔拭け」

カレン「すいません……」ゴシゴシ

ギル「あはは……」

カレン「……もう、どこにもいきませんか?」

ランサー「ああ、いかねえよ。お前に泣きつかれたらな」

ギル「出来る限りサポートさせていただきます」

カレン「よかった……」

ランサー「ったく……卑怯だな。女の涙はよ……」

カレン「……はい。どうもありがとうございます」

ランサー「おう」

カレン「……さてと」

ギル「なんですか、その機械?」

カレン「これですか?」ニコッ

ランサー「……おい……おまえ……」

カレン「―――再生」カチッ

『……もう、どこにもいきませんか?』

『ああ、いかねえよ。お前に泣きつかれたらな』

『出来る限りサポートさせていただきます』

カレン「……」カチッ

ランサー「……」

ギル「……」

カレン「音声を頂きました。これであなた方は完璧な契約を結んだことになります」

ランサー「……信じた俺がバカだった……」

カレン「ふふ……では私の手足となり、死ぬまで働きなさい」

ランサー「ぐ……」

ギル「はぁ……やられた……」

ランサー「こういう奴だって分かってたのに……分かってたのに……!!」

ギル「でも……こっちも写真は頂きました」

カレン「?!」

ギル「マスターの泣き顔なんて貴重な瞬間ですからね。やはりコレクションとして揃えておきたいと思いまして」

ランサー「やるじゃねえか!!いつのまに撮ったんだよ!!」

ギル「ふふ、まぁこそっと」

カレン「そのカメラ渡しなさい」

ギル「やですねー。これは切り札としてとっておきます」

カレン「わたしなさ―――」ガッ

ランサー「あぶねえ」パシッ

カレン「あ、ありがとうございます……」

ランサー「どんくせえな。……やっぱり俺がいないとだめか?」

カレン「う、自惚れないように」

ランサー「はいはい」

カレン「それと……フィッシュ」シュルルル

ギル「ぎゃぁ!!!」

カレン「カメラは没収します」

ギル「あぁー!!そんなぁ!!!」

カレン「む……これ……どうやって消去するのですか……?」

ランサー「お……?」

ギル「最新機種ですからね……ふふふ」

カレン「は、はやく教えなさい」

ギル「えー?」

カレン「おしえて……おねがい……!」

ギル「どうしますー?」ニヤニヤ

ランサー「へへ……」ニヤニヤ

カレン「もう……意地悪しないでください……!」

ランサー「かせよ」

カレン「え……」

ランサー「……ほい」ピッ

ギル「わー!!」

カレン「消えたのですか……?」

ランサー「全消去しといた」

カレン「……」

ランサー「女の弱みなんざ、俺はいらねえからな」

ギル「折角のジョーカーが……」

ランサー「まぁまぁ」

カレン「ランサー……その……」

ランサー「貸し一つな」ナデナデ

カレン「むぅ……しりませんっ」プイッ

ランサー「へへ……」

ギル「ま、いっか。マスターの泣き顔が瞼の裏にでも焼付けておきますよ」

カレン「……そ、それよりも、まだ掃除が終わっていません。はやくしてください」

ランサー「おう」

ギル「わかりました」

カレン「……まったく」

カレン「……でも……よかった……」

カレン「貴重な労働力ですからね……ふふふ……」

カレン(まぁ……これから少しぐらいは彼らの意見も取入れてもいいでしょうけど……)


ギル「でも、もったいなかったですねー。マスターの泣き顔」

ランサー「……」

ギル「あれ、色んな人にみせたかったなぁ。お兄さんとかに」

ランサー「おい。新しいフォルダってやつ選択してみろ」

ギル「え……もしかして……」

ランサー「あんな面白写真消すわけねーだろ」

ギル「……ほんとだ、ある!!」

ランサー「カレンの弱点だ。丁寧に扱えよ」

数日後 商店街

ランサー「おい、ひとつぐらい持てよ」

カレン「……わかりました」

ランサー「素直だな」

カレン「ふん……気まぐれです」

ランサー「へへ……」

カレン「その含みのある笑いはやめてください」

士郎「あ、カレンとランサーじゃないか」

ランサー「よっ」

士郎「なんだ仲直りしたのか」

ランサー「残念そうだな」

士郎「そんなんじゃない」

カレン「ふふ、いつでも愛でてあげますよ?」

士郎「カレン……あの……さ。あの泣き顔写真……本物なのか?」

カレン・ランサー「「え?」」

カレン「な、なんの話ですか……?」アセアセ

士郎「いや、慎二がさ昨日ネットで面白い画像を見つけたっていって、プリントアウトしてくれたやつがあるんだ」

ランサー「……」

カレン「見せてください」

士郎「これなんだけど……」ペラッ

カレン「!?」

ランサー「な、なんで……!?」

士郎「ネット上で出回ってるって。しかも結構なファンもついてるみたいで」

カレン「な、なな……」フラッ

ランサー「……あいつか……」

士郎「やっぱり、これはカレンなのか」

カレン「……ランサー?」

ランサー「……な、なんだ……?」

カレン「消したといいましたよね……?」

ランサー「あ、あの―――」

士郎「でも、泣いてるカレンも可愛いな」

カレン「……っ!?」

士郎「どうした?」

カレン「―――ランサー!!!」

ランサー「おう!!」

カレン「帰ります」

ランサー「わかった。じゃあな」

士郎「あ、ああ」

カレン「分かっていますね?」

ランサー「な、なにが……?」

カレン「貴方の運命です」

ランサー「やめろよ……そんな言い方……まるで俺が死ぬみたいじゃねえか」

カレン「そうです」

ランサー「え……」

カレン「殺してあげます……ふふふふ……あの英雄王と一緒に……」

教会

ギル「むぐぅー!!!」

ランサー「悪かった!!!まさかこいつがネットでばら撒くなんて考えもしなかったんだ!!俺はただ鑑賞用としてだなぁ!!」

カレン「……」

ギル「マスターの可愛さを世界の人たちに知ってもらいたかったんです!!」

カレン「……」ギュゥゥゥ

ギル「いだだだだ!!!聖骸布がぁ……しめつけ……!!」

ランサー「カレン!!これは本当に反省してる!!ゆるしてくれぇ!!!」

カレン「……」ギュゥゥゥ

ランサー「ごほぉ……!?」

カレン「まさか私が辱めにあうとは予想外でした。やりますね、二人とも」

カレン「しかも……衛宮士郎にまで恥部を……これはもう……死ぬことでしか……償えませんよ?」

ランサー「ご……ぁ……やめ……」メリメリ

ギル「あぁぁ……ぁ……ぃ……ぁ……」メリメリ

―――ボキィ!!

数週間後 教会 カレンの部屋

士郎「ああ、ここにもあるな」カチカチ

カレン「はぁ……ネットで流れた画像を全消去なんて無理なんでしょうか……」

士郎「地道にやろう。なんとかなるって」

カレン「ほんとうですか?」

士郎「ああ。―――でも、本当に可愛いな、カレンの泣き顔。何度見ても飽きない」

カレン「も、もう……そんな戯言はいいですから、作業を続けてください。何のためにPCを購入したと思っているんですか」

士郎「だからやってるじゃないか」カチカチ

カレン「ほ、ほら、その掲示板にも」

士郎「はいはい」

カレン「はぁ……」

士郎「あらかた消し終わるまでは通ってやるから」

カレン「約束……ですからね?」

士郎「ところで、ランサーとギルガメッシュはどうしたんだ?」

カレン「ああ。あの二人なら―――」

ランサー「くそ……傷もいえてねえのに……花壇の手入れさせるか、ふつー」

ギル「しかたないですね……こればっかりは……」

カレン「サボってないですか?」

ランサー「みりゃあわかるだろ……」

ギル「腰がいたい……」

カレン「写真の件は一生許しません。貴方がは絶対服従ですから。いいですね?」

ランサー「とんでもねー貸しをつくったな……お前」

ギル「だって……」

カレン「ふん……」

士郎「カレン、休憩にしよう」

カレン「ええ。今行きます。―――逃げたら、地獄の果てまで追いかけますからね?」

ランサー「お、おう……」

ギル「もう逃げませんよ……」

カレン「それならいいんです。では、しっかり働いてくださいね、私の奴隷(サーヴァント)よ」

ランサー・ギル「「ご主人様(マスター)の御意思のままに働きまーす」」
                                              おしまい。

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