マミ「恵方巻き…バトル?」(79)
―2月3日 マミハウス
まどか「ふう…今日も紅茶おいしかったです。」
杏子「紅茶だけじゃなくて、クッキーもおいしかったぜ。ところでこれ自作か?」
マミ「ええ。少し自信なかったんだけど、みんなの口に合ってよかったわ。」
ほむら「本当ね。今度作り方を教えてほしいわ。」
さやか「いや~、マミさんはほんとに何でもできますな~。今すぐにでもうちに来てほしいくらいだよ。」
マミ「もう!そんなに褒めてもなんも出ないわよ!全く…あ、ところでみんな…」
4人「?」
マミ「恵方巻き作ったんだけど…まだ食べられる?」
まどか「も、もちろんです!!」
さやか「おお!マミさんの手料理がいっぱい食べられるなんて、縁起がいい!勿論まだまだ行けますよ~!マミさんの料理は別腹ですから!」
杏子「全くだ!何本でも食ってやるぜ!いっぱい用意してあるんだろうな?」
マミ「そんなに食い意地張って食べるものでもないのだけれど…」
ほむら「…」
マミ「あら?暁美さんはもうおなか一杯かしら?」
ほむら「…いえ、頂くわ。」
マミ「そう、よかったわ。」
QB「ボクの分もあるのかな?あると嬉しいのだけれど。」
マミ「フフ、わかったわ。少し準備するから待っててくれる?」
皆「は~い!」
―10数分後
マミ「出来たわよ~」スタスタ
さやか「おおお!おっきい!」
まどか「ティヒヒ、おいしそうな匂いがしますね。」
ほむら「本当ね。これを手作りできるマミさんは本当にすごいと思うわ。」
杏子「ヒャッハー我慢できねえ!おいマミ!もう食ってもいいか?」
マミ「ダメです!もう…せっかく恵方巻きを作ったのよ?みんなでしきたりにのっとってやるべきだと思わない?」
杏子「めんどくせえ!アタシの腹の虫がおさまらねえんだよ!」
さやか「落ち着きなさい!別に恵方巻きが逃げるわけじゃないし…それに、恵方巻きって、幸せを運んでくるんだよ。」
杏子「へえ…その幸せっていうのは、私の腹を満たしてくるものなのか?」
ほむら「そうね…もしかしたら、その幸せなら、『道を歩いてたら偶然当たりの宝くじを引く』程度の幸せは運んでくれるんじゃないかしら?」
杏子「ほ、本当か!!」
ほむら「ええ。そのくらいの幸運なら、『意中の人を振り向かせる』くらいのことも、きっと造作もないわね。」
さやか「なん…だと…!?」
まどか「マミさん。もしかして、『みんなの無病息災』も、恵方巻きの力でかなえてくれるんでしょうか?」
マミ「ええ、きっとできると思うわ。」
まどか「そっか…よし!」
QB(どうやら水面下で、いろいろ動きがあるみたいだね…)
QB「あ、僕の恵方巻きは少し小っちゃいんだね。」
マミ「さて…みんな、自分の恵方巻きは持ったかしら?」
まどか「…」スッ
ほむら「…」スッ
さやか「…」スッ
杏子「……」スッ
マミ「も、持ったみたいね?」
マミ(な、なんで4人とも目がどことなく真剣なのかしら?)
マミ「それじゃあみんな、私が今向いてる方角、「恵方」っていうんだけど、そっちを向いてくれるかしら?」
まどか「…」クルッ ピタ
ほむら「…」クルッ ピタ
さやか「…」クルッ ピタ
杏子「……」クルッ ピタ
マミ「え、ええ、みんな規則正しくてよろしい。それじゃあそろそろ食べましょうか。あ、あと注意事項を一つ。」
4人「?」
マミ「途中で恵方以外のほうを体が向いてしまったり、しゃべるとかして口から恵方巻きを離してしまったら、恵方巻きで得られるご利益がなくなってしまうらしいから気を付けてね?」
まどか「…!」ビクン
ほむら「なっ…」
さやか「…へえ」
杏子「……そうなのか…」
場の空気が、一層重くなった。彼女たちの目はさらに真剣さをまし、その様相は、死地へ赴く中世の騎士を彷彿とさせた。
マミ「じゃ、じゃあ、みんな、用意はいい?…いくわよ?用意、スタート!」
5人は、獣となり、一斉に獲物、恵方巻きへかぶりついた。
彼女たちの口に、酢飯と具の混ざった豊満な味が広がる。
まどか(お、おいしい)
さやか(流石マミさんだね…)
ほむら(美樹さやかではないけど、これは是非一家に一人ほしいわね。)
杏子(うめえ!)
本来なら、ここで食べるのを中断してマミへの感謝と称賛を送ったりするものである。だが、そのうま味でさえ、今の彼女たちを止めることはできない。
杏子(宝くじ…億万長者!)
さやか(恭介とあんなことやこんなこと…フフフ)
ほむら(まどかまどかまどかマドカァー!)
まどか(待っててみんな!みんなの健康は、私が守って見せるから!)
そこにいたのは、いつも楽しそうに手料理を食べる4人ではない。思い思いの願いをかなえるために、恵方巻きという聖戦を戦うことを選んだ、勇猛果敢な戦士たちであった。
マミ(どうしてこんなことで必死になってるのかしら…)
QB(…ホント、訳が分からないよ)
一方QBは地面に恵方巻きを置いて食べていた。
――――
―――
食べ始めてから数十秒、当たり前だが、女子中学生の口に、恵方巻きは大きい。食い意地が張っている、もとい食べるのが早い杏子以外は、ようやく三分の一を食いきったところであった。
事態を動かしたのは、まどかの素朴な発言、もといテレパシーだった。
まどか『でもさ、この恵方巻きでかなえられる願いにも限度があると思うだけれど…』
QB『そうだね、もしこんな食べ物で願いがかなうなら、僕らの商売なんてあがったりだよ。』
この発言に、何やら面白そうなたくらみを思いついたのはほむらであった。
ほむら『そうね。マミの力が宿ってるとは言えこの恵方巻きで叶えられる願いなんて、せいぜい一つが限界じゃないかしら?』
さやか(…!)
杏子(…なんだと!?)
まどか(そんな…)
マミ『もう、暁美さんもそんな冗談は』
さやか(つまり、願いをかなえるためには…)
杏子(自分以外の人間が恵方巻きを食いきるのを)
まどか(阻止しなくちゃいけない、っていうことなのかな?)
ほむらの話を信じきった3人の目つきが変わった。互いに他の4人の気配を探り、その機会を待っていた…
さやか(私が誰よりも早く)
杏子(恵方巻きを食べ切って)
まどか(願いをかなえてみせる!)
さや・まど・杏子(そのために、皆には犠牲になってもらう!)
同じ方向を向いている彼女達の視線には、向かい合っていなくとも、確かに火花が飛んでいた。その火花が戦いの火ぶたを切るのを、今か今かと待ち構えていた。そう、それは聖戦…自分たちの願いのために、相手を倒すことも辞さない覚悟を持った聖騎士たちの戦場であった。
QB(食べ物なんだし、おいしく食べればいいのに…訳がわからないよ。)
真っ先に動いたのはさやかであった。日頃からまどかたちへのちょっかいは慣れており、襲撃のノウハウをしっかりと把握しているアドバンテージを生かした先制であった。
だが狙ったのはいつもちょっかいを出すまどかではなかった。相手に悟られないように、背中を指で押してみる。
杏子(…!!)ビクッ
突然、杏子は誰かに背中をつつかれた。感触の正体を調べようと振り返ろうとする。だが、自分の口の恵方巻きを見て、その動作を思いとどまった。顔はわずかにそれたが、まだ恵方を向き続けていた。
杏子(あ、危ねえ。今振り返ってたら、恵方巻きの幸運をみすみす逃すところだったぜ…)
振り返れないながらも、周りの気配を感じて、背中をつついた人間の正体を予想することができた。こんな芸当をするような奴はこの中でもそういるわけではない。
杏子(さやか…そうか、そっちが私の夢を奪うなら、こっちにだって考えがある。)
マミ「あなた誰なの?」
QB「確かに “この僕” は、三時間ほど前まで君のそばにいたのとは別の個体だよそちらは暁美ほむらに撃ち殺された」
まどか「わたしの願いでマミさんのそばにいた子を蘇生すれば、ほむらちゃんのこと許してあげられませんか?」
こんな感じの魔法少女全員生存ワルプルギス撃破 誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって
振り向けないなら、こっちが後ろに下がればいい。そう考えた杏子は、日頃の経験を生かした軽いステップで後ろの障害物をよけてその後ろに立った。目の前に見滝原の制服を着たさやかの背中が見えた。
さやか(しまっ…)
杏子(お返しだ!)
両手で持っていた恵方巻きを左手一本に持ち替え、開いた右腕でさやかの脇腹にチョップを繰り出した。防御も出来ず、そのまま直撃を食らってしまった。手加減していたとはいえ、不意打ちである。少しよろめいたさやかだったが、何とか体を恵方に向け続けることには成功した。
さやか(こいつ…やったな!)
杏子の動きを後ろで見ていたさやかは、それを真似して杏子の後ろに立とうとした。だが、そこに杏子の姿は見当たらなかった。戸惑うさやかの後ろから、今度は後頭部にチョップが繰り出された。危うく恵方巻きを吐きだしそうになったが、それを何とか両手で押さえた。
さやか(くっ…私が後ろに回り込むのを察知して、さらに後ろに下がったわけね…)
杏子(いくらあんたがちょっかいの経験があったとしても、戦闘経験はこっちが上だからな。億万長者のために、悪いけど、あんたの思い通りにはさせないよ!)
追撃を食らわせようとする杏子だが、さやかが横っとびに避けたため、かわされてしまう。
さやかはそのまま進行をやめず、後ろ向きのまま早足で歩き続けた。
杏子(なるほど…壁まで行けば後ろからの反撃はないだろうって言う腹だな?だが、そう簡単にいくかな?)
瞬時にさやかのたくらみに気づいた杏子は、さやかよりも早く後ろへ下がりだした。この方向なら、おそらく後ろは和室…まだ壁まで距離がある!魔法少女時ならともかく、普通の状態でさやかにすばしっこさで負けるわけがないと自負していた。
杏子『残念だが、お前の負けだぜさやか!あんたより早く、私が壁際を取って、その恵方巻きを叩き落してやる。億万長者の夢は渡せないからな!』
杏子とさやかの距離は既になく、あと一歩杏子が踏み出せば杏子とさやかの位置関係が逆転するところまで来ていた。
さやか『そっか…億万長者ねえ…あんたらしくていいじゃん。でもね…』
さやかは、その動きの速さを、その焦りを読み切っていた。
杏子(!?)
あと一歩のところで、突然足元に大きな異物が出現した。慌てて足を引っこめようとしたが、自分が有利に立とうとしたその焦りが、自然と杏子の歩幅をいつもより大きくしていた。もう間に合わない。
杏子は足もとの異物…さやかの学生鞄につまづき、後ろから転倒した。だが、そこで諦める杏子ではない。尻もちをついても恵方巻きを落とさないよう、両手で口の恵方巻きを抑えた。これで何とかしのげる。そう思った。
だが、さやかの策、もとい悪知恵はここで終わりではなかった。周りを確認しながら、さやかは、自分の学生鞄を、壁から50cmほどの場所に設置していた。
もし普通につまづくだけなら、確かに壁とカバンの間に尻もちを付けるはずである。だが、杏子は予想以上に自分に加速を付けていた…
杏子の体は、学生鞄と壁の間を飛び越えて、力強く壁に叩きつけられた。
マミ「今日も紅茶が美味しいわ」668からの分岐改変が起きない平行世界
もし改変が起きない平行世界のマミがシャルロッテに死ななかったら OR マミ死亡後にまどかが願いでマミ、QBを蘇生
魔法少女全員生存ワルプルギス撃破 誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって
杏子「グァ!!」
人一倍丈夫な魔法少女の体である。怪我はしないまでも、流石にこれには耐えきれずうめき声を上げる杏子。その勢いで、口にくわえていた恵方巻きを落としてしまった。
杏子「ぁ…」
室内であったため、恵方巻きが食えなくなったわけじゃない。だが、これで恵方巻きのご利益は別のところへ行ってしまった…杏子の億万長者の夢は、ここで潰えたことになる…。
さやか『ごめんね杏子。でも、私にもかなえたい夢があるの…絶対に恭介を仁美の手から取り戻して見せる!』
テレパシーで謝罪を送り、恵方巻きを食べ続けながら、さやかは戦場へと戻っていった。
周り同様、ほむらは前しか見えないため、物音だけでしか判断できないが、杏子とさやかが動いたことだけは理解出来た。
ほむら(これで邪魔者は粗方消せたわね…これでゆっくり、まどかと一緒に恵方巻きを食べられるわ)
心の中でガッツポーズを決めたほむらは、まどかとの会話を楽しむために、まどかへテレパシーを送ろうとした。
ほむら『ねえまどキャウン!!』
突然感じた脇腹への優しい感触に、テレパシーらしからぬ素っ頓狂な声を上げてしまった。一瞬、さやかか杏子がこっちにちょっかいを出してきたのかと思ったほむらは、相手にテレパシーを送った。
ほむら『さやかか杏子か分からないけどやめなさい!!』
まどか『ティヒヒ!』
ほむら『え…まどか?』
予想外の相手に困惑するほむら。だが、油断した脇腹に再びまどかの右腕が迫り、添えられる。
まどか『ねえほむらちゃん…その恵方巻き、口から離してくれないかな?』
ほむら『な、何を…』
まどか『私ね、願い事を叶えてくれる「恵方巻き」って、とっても素敵だとおもうんだ。』
ほむら『ええ、そうね、素敵だと思うわ。』
まどか『でもさ、その願いをかなえた裏で、必ずかなえられない人がいるんだよね。その人は、もし恵方巻きがなかったら味あわなかったような悔しさを味わうと思うんだ。そんなの、私はおかしいと思う。そう思わない?』
ほむら『え、ええ、うん。まあ…確かに…』
まどかの言っている言葉の真意がつかめないほむらは、かなり戸惑っていた。
まどか『だからさ、私は皆の無病息災をお願いするんだ。そうすれば、だれも恵方巻きを怨まなくて済むと思うの。』
ほむら(今更だけど、恵方巻きって、誰かを恨んだり恨まれたりするような行事だったかしら?)
まどか『だからさ、もう一度お願いするね。恵方巻きを口から外して、願い事を諦めて?そうすれば悪いようにはしないから。』
ほむらの脇腹に添えられたまどかの右腕に、若干力がこもった気がした。このまどかは、もし断っても間違いなく恵方巻きを落としに来る。まどかは本気だ…でも、だからこそ、ほむらに決心させた。
ほむら『…出来ないわね。私は、私の願いを諦めるつもりはないわ。』
ほむらの願い…それは【まどかといつまでも一緒にいること】。何度もループを繰り返したほむらの、切なる願いであった。この願いを諦めることは、いままで見殺しにしてきた多くの人たちへの侮蔑となってしまう。
たとえ頼んだ相手がまどかであっても、簡単にあきらめてはならない願いなのだ。
まどか『残念だね…じゃあ、遠慮なく行くよ!』
まどかの右腕が蛇のように動きだし、脇腹をさすった。電流が走ったような感覚に、ほむらは思わず声をあげそうになった。
ほむら「ッ…!」
だが、口の恵方巻きを噛みしめることで、何とかこらえることができた。このままではまずいと判断したほむらは、右腕から距離を取ろうと前に出た。だが、まどかはそれにぴったりついてくる。そして隙を見てもう一度脇腹を右腕でさすってくる。
今度はさっきよりも長く、早かった。いっそう大きな感覚がほむらの口を襲うも、強靭な精神力で耐えることができた。
ほむら(何とか耐えたけど、このままじゃ埒が明かないわね…前がダメなら右?いえダメね。あの手なれた動き…きっとさやか仕込みね。残念だけれど、まどかの右腕を引き離せるとは思えないわ。なら…)
ほむらは左足を肩幅よりも開いた。これで、ほとんど予備動作なしで左側へ跳べる…まどかの右腕を引き離せるはず。そう確信した。
だが、その前に、まどか側が動いた。左側へ動くのを予期したまどかは、自分の体を半歩左側へ寄せた。
ほむら(…!このままじゃ、左へ飛んでも反応されてしまう!むしろ、無防備になった私に強力な一撃をくらわせる可能性だって…)
まどかのけん制に、ほむらは再び動けずにいた。だが、そういう状態が続くわけではない。そうしている間にもまどかは恵方巻きを食べているのだ。左手が自由な分まどかのほうが食べるのが早いはず。このままじゃ負ける。攻勢に出るしかなかった。
そして、ほむらが動いた。少しだけ腰をかがめるとそのまま足の勢いを使って思いっきり後ろへ下がった。脇腹を触り続けるまどかには、それを避けることは出来ない。助走なしだが渾身の当て身をまどかにぶつけた。
ほむら『ごめんなさい。怒ってくれてもいいわよ。でも』
まどか『ウェヒヒヒヒ』
まどかの体は、少しよろめいたが、倒れることなくそこに立っていた。
ほむら『渾身の当て身を当てたはずなのに!どうして』
まどか『ウェヒヒ、読みが甘いねほむらちゃん。』
そう言われて、当て身を当てた背中の違和感に気づいた。それが、恵方巻きを持ってると思っていたまどかの左腕だということを察知するのに、大して時間がかからなかった。
ほむら『そんな!あの一瞬で、ボディへのガードが間に合ったなんて』
まどか『ごめんねほむらちゃん。でも、私の勝ちだよ。』
そう言ってまどかは、密着したままの状態で自分の右腕を上へ移動させた。脇腹、腹、肋骨、そして胸。その最頂点…乳首の上に自分の手を置き、優しく、しかししっかりと揉んだ。
ほむら「ひゃあおう!」
先ほどまでとは比較にならない快感と衝撃が体に走り、口が勝手に嬌声を叫んでしまった。恵方巻きはまどかの手の中に落ち、それをほむらに手渡した。だがそれは、ほむらの願いもまた消えてしまったことと同義であった。
まどか『謝らなくていいよ…でも、これが私のやりたい事だから。…ごめんね。』
いまだ呆然としているほむらを見据えて、まどかは後ろへ下がった。
他の4人の戦いを耳で聞いていたマミは、正直呆れかえっていた。
マミ(全く…食べ物で遊ぶだなんて!そんなことの為に私はこれを作ったわけじゃないのに!)
マミは、周りが妨害工作を仕掛けている中で一人黙々と食べ続け、もう後2~3cmのところまで来ていた。
マミ(私がこれを食べきれば、こんな馬鹿騒ぎ、やめてくれるはずだわ。だから早く食べないと…)
その時、後ろで誰かが立つ気配を感じた。マミの体が硬直する。
マミ『誰かしら?誰でもいいけれど、はやくこんなことやめなさい!』
後ろに立つ人物は答えない。ただじっと、相手の出方を待っている。
マミ『私の隙を突こうというのかしら?でももう遅いわ!これで終わりよ!』
マミは後ろの相手が動くのを感じた。それに応じて体も緊張する
マミ『さあ、どっからでもかかってきなさい!』
マミは両手で恵方巻きを押し込もうと手を当てた。それでいて体も硬直させ、くすぐりでも殴打でも耐えられるような準備も整えていた。
だが相手は、そう言った場合のシュミレーションもとい場数を何度も踏んでいるさやかであった。さやかはくすぐるでもなくボディーへの攻撃をするでもなく、ただ、腰を落としてかがんだ。
より正確に言うなら、マミのひざ裏めがけて自分の膝をぶつけたのだ。俗にいう「ヒザカックン」という技である。確かに体を硬直させるのはボディーに対する耐性も上がるし、くすぐりとかの感覚にも耐えることができる。
だが、その代わり下半身への防御は必然的に弱くなってしまう。
そしてさやかはいろんな相手にこの技を繰り出しており、その技の熟練度はとても高かった。一方、魔法少女という間柄、周りの人との関係をあまり作ろうとしなかったマミにとって、この技は初めて食らう技であり、その対処法を知らなかった。
その結果、マミの姿勢は大きく崩れた。それでも転ぶまいと必死に踏ん張った。そして、足を折り曲げることで何とかこらえることに成功した。
うお、消えた。ちょっと待ってくれい
マミ『この程度…!』
だが、さやかの追撃は終わらない。こらえたことに気付いたさやかは、その勢いを乗せたまま右足で浮いていたマミの左足を払う。マミは大きくよろめいた。だが、右腕で恵方巻きをつまみ、左腕でつっかえを取ることで、そのまま倒れずに済んだ。
マミ『危なかったけど、これで終わりね!』
マミは右腕で残り少ない恵方巻きを口の中へ押し込んだ。これでこの馬鹿騒ぎもやんでくれるはず。技を仕掛けてきた相手がさやかで未だに恵方巻きを食べていることを確認したマミは、自分の勝利のドヤ顔でさやかたちを見つめた。
マミ(…ちょっと待って。なんで同じ方向を向いているはずなのに、美樹さんたちが見えるの?)
そして、マミは自分が恵方から大きく外れたところを見ていることに気付いた。先ほどの足払いの際によって、体が180度反転していたのである。
マミ『…しまった!これが狙いね!』
さやか『すいませんでした…でも、この願いだけは、どうしても譲れなかったんです。解ってくれとは言いません。だから…』
そして恵方を向きながら、さやかは最後の戦いの場所へ赴いた。
QB「ああ、おいしかった。ごちそうさま、マミ。ありがとう。」
マミ「ええ…どういたしまして」
ちなみにQBは恵方とか口から離しちゃいけないとかそういうしきたりは守ってないため、ご利益にはあずかれない。尤も、QBはそんなこと興味なさそうだが。
さやか「…」
まどか「…」
もう互いの恵方巻きは少ししか残っていない。どちらかが恵方巻きを押し込めば勝負は決しそうなほどである。だが、互いにその気はなかった。ここまで勝ち残った者への礼儀だろうか
…相手のご利益を奪う。それでのみ、この勝負が決することを、互いに悟っていた。今の立ち位置は、まどかがさやかの背中を見る形である。
さやか『ここまで来たんだ…もう、互いに言うことはないよね?』
まどか『私は、恵方巻きの願いで皆を悲しませたくないの…だからお願い。そのご利益を私に譲ってくれない?』
さやか『ごめん。まどかの気持ちもわからないわけじゃないの。でも、それでも、私にはかなえたい願いがあるの。わがままでもいい。恭介に、ちゃんと振り向いてほしいの。』
まどか『…交渉決裂だね。残念だよ。』
さやか『遠慮しなくていいよ。私も、全力で行くから!』
まどか『…ウェヒヒヒヒヒヒヒ!』
まどかが、前に出た。同時にさやかもまどかとの距離を詰めた。
どちらが勝っても恨みっこなし。問答無用の真剣勝負の最終決戦の始まりである。
距離を詰めたまどかの右腕がさやかの脇腹へ迫る。さやかもそれを察知し、右腕を少し外側に張ってそれを防ごうとする。
まどか『その防御じゃ甘いよ!』
だが、まどかの右腕はそう簡単に外せるものじゃない。進行方向に出てきたさやかの右腕を避けるようにまどかは右腕をひねった。その軌道はまさに蛇。
見事にさやかの防御をかいくぐった右腕は、さやかの脇腹を再び目指した。だが、こちらも負けてはいない。
さやか『く…まだだ!』
腰を左側へそらし、まどかの右腕が脇腹へ到達するまでの到達時間をほんの数コンマ伸ばした。そしてその勢いを利用し、今度は左へステップを踏んだ。先ほど杏子が見せた完璧にまねして見せた。
まどか『でも、その避け方は分かるよ!』
まどかはさやかの動きに合わせて後ろへ跳んだ。さやかはまどかを抜けず、両者が並びながら後ろへ跳ぶ形となった。
さやか『なら、これはどうかな!』
そういうと、さやかは一歩大幅で飛んだ。まどかの後ろに半歩だけ出る。本来はこの程度、大した差ではないのだが、さやかにとっては技をかけるに十分な距離であった。飛び出してくるまどかの左足に自分の右足をかけた。
カバンほどの不意打ちは狙えないが、自分の足の分、正確性があった。
まどか「…ッ!」
熟練の足掛けに、まどかの姿勢は大きく崩れた。この距離なら、口にくわえている恵方巻きを取ることができると考えたさやかは、右腕をまどかの口へ伸ばした。だが、そう簡単に渡してくれるほどまどかの決心も経験も甘くはなかった。
まどか『させないよ!』
まどかは、あえて自分の身を大きく崩すことで自分の体を沈め、さやかの右腕から逃げ切った。代わりに大きく背中から落ちてしまったが、右腕はしっかりと恵方巻きを掴んでいた。
まだ勝負が終わっていないことに気付いたさやかは、素直にまどかの勇敢さを称賛した。
さやか『やるねえ。ここまでできるとは思わなかった。』
まどか『ティヒヒ、何年さやかちゃんの攻撃を受けてきたと思ってるの?この程度、訳ないよ。』
さやか『そうだったね。でも…この勝負、そろそろ終わりにしよう。もう残りもない。』
まどか『うん…いくよ!』
まどかは立ち上がったかと思うと一気に距離を詰める。そのスピードはさっきとはケタはずれだ。対策をとるまでもなく、まどかの右腕がさやかの脇腹をとらえた。
まどか『ウェヒヒ…このポジション、さやかちゃんならどう避ける?どう避けても、私の勝ちだよさやかちゃん!!』
右腕がさやかの胸に迫る。さやかは動かない。そしてとうとう胸の上まで来た。
まどか『もらった!』
まどかの右腕の筋肉に力が入り、絶妙な力加減でさやかの豊満な胸を…
まどか『え…』
まどかの腕が、空を切った。
さやかの体が、視界から消えた。
まどか『どうし…!!』
さやかの体が、視界の下から出現した。あの一瞬、まどかが勝利を確信したその瞬間の油断を狙って、さやかは屈んで自分の身を下ろしたのだ。そして一気に立ち上がった体は、伸びきっていたまどかの右腕を上に弾き飛ばす。
さやかの左腕がまどかの左腕を掴む。勝利を確信したまどかなら、この一撃の後に恵方巻きを押しこむはず…予想通り、まどかの左腕は口のすぐ前、恵方巻きの前にスタンバイされていた。その左腕を下し、さやかは残った右腕でまどかの口に残った小さな恵方巻きを取った。
まどか「あっ…」
そしてさやかはまどかの残りと自分の残りを口に押し込んだ。勿論恵方は向いたままである。
ここで、この聖戦の勝敗が決した。まどかの願いがついえた瞬間と、さやかの願いが聞き届けられた瞬間であった。
さやか「ひょっひゃー!ひゃったぞ~!(よっしゃあ!勝ったぞ~)」
まどか「もう…そんなくちを頬張って喋ったら、ご利益が口から出ちゃうよ?」
さやか「ひゃひ!(なに!)」
さやか「…」モグモグ ゴックン
さやか「よっしゃああ!これで恵方巻きの願いは私のものだ~!!!やった~やった~さやさやった~!」
??「さ~やか♪」ガシッ
さやか「えっと、誰が私のことを羽交い絞めにしてるのかな?」
まどか「さやかちゃん。もう振り返ってもいいんだよ?」
さやか「あ、そうだったね!で、いったい…」
杏子「…」ニコッ
さやか「えっと…顔が笑ってるけど、目が全く笑ってないのはなんで?」
杏子「食いものを、粗末にするんじゃないぞ?」ニコニコ ギリギリ
さやか「痛い痛い!笑ってるけど強くなってるから!」
マミ「さ~て、お仕置きの時間よ?美樹さん、どうされたい?幸運にも、こちらには豊富に有り余る時間とご飯を粗末にされた恨みがいっぱいあるんだけど?さあ楽しみだなあ♪」
さやか「え、恵方巻きの願いでこれを何とかして~」
ほむら「…今思うと、バカらしくて頭が痛いわ。」 ギャアアアアア
まどか「ティヒヒ、いいんじゃない?いつも命がけなんだもん。これくらい遊んでも、神様だって願いを聞いてくれるって。」 ヤメテヘソハヨワイノ
ほむら「ねえ、まどか。私の願い、神様は聞き届けてくれるかしら?」 ヒャハハハハハ
まどか「心配しないで大丈夫だよ!だって」 モウユルシテー
まどか「笑う門には福が来るんだもん!」
終わり!
マミ「あと、鹿目さんにもあとでお説教ね!」
…終わり
日付変わる前に終わると思ったのに間に合わなかった!むぅ…
久々のSSがこんなスレですいません。皆さまの家にも、幸福が来ることを切に願っております。では
~おまけ、それぞれの恵方巻き!…上条恭介の場合
私、上条恭介は、他の中学生がねたむような彼女持ちである。彼女の名前は志筑仁美。才色兼備、品行方正、億万長者と三拍子そろったスーパーガールである。
それがどうして僕なんかを好きになったのかは定かでないが、そんなことはさておいて、僕には悩みがあった。
まあ当たり前だが、彼女が出来たのだ。好奇心というか性欲旺盛な中学生が、肉体関係を持ちたいと思うのは全くおかしいことではない、と思う。
だが、彼女の方がなかなかその気になってくれない。どうしたものか。何かきっかけがあればいいのだけれど…
そして2月3日。恵方巻きという物を知った僕に、とびっきりの名案が思い浮かんだ!
そうだ。僕のちOこを恵方巻きに見立ててればいいんだ!…今更ながら、何でこんなことを考えたんだろうか。
だが閃いてからは速かった。前日の夜に親に内緒で一合ほどご飯を炊き、竿の周りにご飯を巻く練習をした。痛かった、熱かった。少し興奮した!
そして徹夜で準備して練習して、具を盛り付けるのに日中費やした!そして彼女を家に呼んだ!
恭介「仁美さん…今日は、節分だね?」
仁美「そうですわね。家で豆まきしないと…」
恭介「それでなんだけどさ、恵方巻き、食べていかない?仁美さんの為に作ったんだけど…」
仁美「まあそれは素晴らしい。早く見せてくださる?」
恭介「はい、どうぞ。(さあ、どう出る!)」ポロン♪
仁美「わあ~おいしそう~頂きま~す!」ガリッ!
恭介「いやああああああああああ!」
それぞれの恵方巻き…大人組編
知久「はい、タツヤの分の恵方巻きだよ~切ってあるから、食べられるはずだよ?」
タツヤ「う~まうま~まうあ~」
知久「え?ママはね…仕事終わりに友達と飲んでくるから遅くなるってさ。」
―近くのバー
詢子「ったく、飲み過ぎだぞ早乙女。…全く、今度は何で別れたのよ?」
早乙女「うぅぅ…彼氏がさ~私に貢がせてばっかりでさあ、私と関係持たないからさあ~、こっちから思い切って言ってみたのよ~」
詢子「で、なんて言って口説いたんだよ。」
早乙女「『今日は節分だから、あなたの恵方巻きをください!』って!」
詢子「…んで、もらったのがその手元にある恵方巻きで、無くしたのが彼との関係、っていうわけでな。」
早乙女「うぅぅぅ…神様のバカやろ~!」
詢子「はぁ…なにやってんだか…それじゃあ、これを食ってご利益もらおうぜ?」
早乙女「いらねえよ!もう恵方巻きなんてたくさんだ!うああああああん!」
詢子「はぁ…マスターもう一杯お代り。あと水」
それぞれの恵方巻き!~中沢編
中沢「あ、恵方巻き買ってある。」
中沢「えっと…恵方は北北西だな…方位磁石で調べて、っと…」
中沢「頂きま~す」ハムッ
中沢「…」モシャモシャ
中沢「…」モシャモシャ
中沢「…」モシャモシャ
中沢「…」モシャモシャ
中沢「…ひょい、モグモグ」
中沢「よし!これで少しは上条みたいな出会いがあるといいな!」
中沢「え、ご利益があるか信じるかって?」
中沢「別に、どっちでもいいんじゃないかと…」
マミ「あなた誰なの?」
QB「確かに “この僕” は、三時間ほど前まで君のそばにいたのとは別の個体だよそちらは暁美ほむらに撃ち殺された」
黒い魔法少女。暁美ほむら。あの女だけは、絶対に許さない。
まどか「わたしの願いでマミさんのそばにいた子を蘇生すれば、ほむらちゃんのこと許してあげられませんか?」
こんな感じの魔法少女全員生存ワルプルギス撃破 誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません