まどか「忘れちゃいけない大切な人」 (28)

まどか(ワルプルギスの夜を倒したあの日から、私の心にはぽっかり穴が空いたようだった)

まどか(例えるならそれは、引き裂かれる様な痛みで、かけがえのない何かで)

まどか(私はきっと、絶対に忘れちゃいけない何かを忘れてしまった)

まどか(きっと、ずっとこのモヤモヤと付き合っていくんだ、そう考えると気が滅入る)

まどか(そう思っていたのも最初のひと月だけで、今はもう、こういう1人の夜にふと思い出すだけになった)

まどか「私は一体、何を忘れてしまったんだろう」

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杏子「お、まどか」

まどか「杏子ちゃん、おはよ」

杏子「案外久しぶりか?」

まどか「ううん、そうでもないよ、この前ゲームセンターで見たもん」

杏子「そりゃお前だけじゃねーか…久しぶり」

まどか「えへへ、うん」

杏子「最近どうよ?学校とか、家族とか」

まどか(半年経った今でも記憶に新しい、あの日は私たち見滝原の住人に消えない傷を与えた)

まどか(奇跡的に被害が少なかった私も、あの日のことを思い出すのをためらってしまう)

まどか「…大丈夫、私はね」

まどか(街は今でも復興作業に明け暮れている)

杏子「そっか」

杏子「ま、しかし案外なんとかなるもんだよな、あれだけ人が死んで、あれだけ建物がぶっ壊れても、こうして普通の街っぽく振る舞えてんだからさ」

まどか「どう、かな…振舞ってるだけに見えるけど」

杏子「それでもさ、立派なことさ」

杏子「変わらねーもんなんてないってことだな」

まどか「そうだね」

杏子「ところでよ、今日の放課後お前暇か?」

まどか「受験生にそれを聞くのもどうかと思うんだけれど、うんまぁ、暇かな」

杏子「受験勉強ってか?さやかのバカはそんなん気にしねーぞ」

杏子「まぁいいや、久々にマミの家でだべろうぜ、あいつ張り切っちゃってケーキとか作ってるぞ」

まどか「ふふ、楽しみだね」

まどか「こんにちわー」

マミ「あら、鹿目さん、いらっしゃい」

まどか「こんにちわ、マミさん」

さやか「まどか、おっそーい」

まどか「えへへ、ごめんね」

杏子「久々だなーこの4人で集まるなんてよ」

さやか「あたし達はちょくちょく集まってたけどね、あんたが捕まらないだけで」

杏子「へー、そうなんだ、マミあたしの分のケーキは?」

マミ「? あるでしょ?」

杏子「じゃなくて不参加の分」

さやか「相変わらず食い意地張ってるなー」

まどか「あはは」

杏子「いやー、いつ食ってもマミのケーキは美味いな」

さやか「うんうん、店に出しても文句なしですよ」

マミ「もう、褒めすぎよ」

まどか「今度皆で作りたいね」

杏子「おっ、いいなそれ、マミん家でさやかの材料で作ろうぜ」

さやか「あんたとまどかは?」

杏子「食う」

さやか「バカ」

杏子「うるせー」

まどか「っ…」

まどか「…?」

さやか「まどか?」

まどか「…ううん、なんでもないの」

まどか「ただ、ちょっと、何か…」

杏子「なんだよなんだよ、何か悩みでもあるのか?思春期だもんなー」

マミ「あなたもでしょ、大丈夫?鹿目さん?」

まどか「…平気です…ただ…」

まどか「妙な引っ掛かりがあるというか…何か…変な気がするんです」

さやか「引っかかり?」

まどか「…ごめん、上手くは言えないの、ただ…」

まどか「普段はあんまり感じないんだけれど、こうしてみんなで集まってる時、決まって…っ…」

まどか「…なんなんだろう、これ…」

まどか「ただいま」

知久「おかえり、まどか、お風呂湧いてるよ」

まどか「うん、ありがとう」




まどか「…」

まどか(妙な引っ掛かり、か)

まどか(皆、どう思ってるんだろう、皆は平気なのかな)

まどか(この違和感は、私だけのものなのかな)

まどか「…」

QB「やあ」

まどか「…インキュ…ベーター…」

QB「もうキュウべぇとは呼んでくれないんだね」

まどか「…そうだね、あなた達のことは、そう呼ぶことに決めたよ」

まどか「嘘の名前で呼んだって、あなた達もしっくり来ないでしょ?」

QB「まぁ、僕らは呼び方に特別こだわりを持たない、君がそう呼びたいならそう呼ぶべきだね」

まどか「…それで、お風呂に入ってる私に一体なんの用?」

QB「まあまあ、そう邪険にしないでおくれよ、僕も君に害を与えるためにここまで来たんじゃない」

QB「君が契約しないってことは、もう分かり切ってるしね」

まどか「当たり前でしょ」

QB「それだ」

まどか「…?」

QB「それなんだ、まどか」

QB「君は僕らと絶対に契約をしようとはしない、まぁ、素質があっても契約をしたがらない子は沢山いる、それはいい」

QB「けれど、君は本来、契約するべきじゃなかったかな?」

まどか「何を…!」

QB「落ち着いて欲しいな、僕らも無根拠で言っているわけじゃない、君の人間性を鑑みても、やっぱり不自然なんだよ」

QB「君は、他の誰かが傷つくのを何より嫌がるだろう?それなのに」

QB「どうして君は、あの時契約しなかったんだい?」

QB「ワルプルギスが来たあの日、どうして君は指をくわえて見ているだけだったんだい?」

まどか「…っ…!」

まどか「…そっ…れは…」

QB「君は賢明で聡明だと認識している、だから既に予想はついているだろう」

QB「その答えは、きっと君の中にある、君が、常々感じている違和感の中にね」

QB「ともすれば洗脳にも近い強制力、君という人間性を歪めてまで君を魔法少女としての道に歩ませなかった何か」

QB「それを、知りたいとは思わないかい?」

まどか「…」

QB「返事は、聞くまでもないね」

まどか「…私は、何をすればいいの?」

QB「何に対して違和感を感じるか、妙な引っ掛かりとやらがどういう状況で訪れるか僕らに報告して欲しい」

QB「それを元に、僕らは推論を立てる」

QB「観察とそれからなる予測は、僕らの得意分野だよ」

まどか「…約束して」

QB「…?」

まどか「この違和感の正体が分かったら、二度と私達に近づかないで」

まどか「誰も犠牲にしようとしないで、私たちを騙さないで」

QB「騙したつもりは無いんだけどな」

まどか「まだそういうことを言うんだね、じゃあはっきり言うよ」

まどか「私たちとあなた達の認識の齟齬を利用しないで」

QB「…分かったよ」

まどか「…」

QB「どうやら僕は、少しだけ思い違いをしていたようだ」

まどか「…?」

QB「君を取り巻く環境だけじゃない、君自身も何か不自然に、そして強かに変わっている」

QB「約束するよ、何があっても君たちの不利益になることはしない」

QB「じゃあね、まどか」

まどか「…」

まどか「…」

まどか(…まただ、一人でいるとまたこの思考に陥ってしまう)

まどか(穴がぽっかり空いたような、自分が地に足着いてないような)

まどか(見てるものが不安定に揺らいでいるような、そんな感じ)

まどか「…」ギュッ

プルルルルル

まどか「…」

まどか「…さやかちゃん」

「お?どうしたまどか?こんな時間に?」

まどか「少しだけ、話したいことがあるの」

まどか「今、時間あるかな?」

さやか「お待たせ、まどか」

まどか「うん、ごめんね、こんな夜遅くに」

さやか「どうって事ないよ、それよりどうしたの?…随分と落ち込んでるように見えるけど」

まどか「…」

まどか「あのね…」

さやか「マミさん家の時のこと?」

まどか「…うん」

さやか「…」

まどか「…」

まどか「ごめんね」

さやか「どうして謝るのさ?まどかが困ってる時は私が助けなくちゃいけないじゃんか!」

まどか「…」

まどか「どうしても…このモヤモヤが取れないの…私おかしくなっちゃったのかな…?」

まどか「…苦しくて…切なくて…辛くて…!」

まどか「…どうにかなっちゃいそうだよ…!!!」ポロポロ

さやか「…ゆっくりでいいよ、ゆっくりでさ」

さやか「なんでもいいから話してみてよ、ね?」

まどか「ワルプルギスの夜を超えたあたりから…急に感じ始めたの」

まどか「ふとした時に感じる不安感、違和感…それを、私はずっと感じてる」

まどか「…皆といる時も…ううん、皆と居る時が1番辛いの」

まどか「皆と居る時が1番、私はそれを感じてる」

さやか「…一応聞くけど…私たちが嫌ってわけじゃないんだよね?」

まどか「…そんな訳ないよ…多分、1番心地いい時だから…だと思う」

さやか「…あまりにも漠然としすぎてるね」

まどか「…」

まどか「こうしてさやかちゃんと話してる時も、引っ掛かりがあるの」

まどか「…私は、私にとって一番大切な何かを忘れてるんじゃないかって」

さやか「…」

さやか「…」

さやか(…まどかは何かを忘れてる…そう言った)

さやか(それがワルプルギスの夜を境に現れたのなら、きっとそれは魔法少女に関することのはず)

さやか(…つまり、私もきっと知っていたはず)

さやか「…私は、そんな感覚ないな」

さやか(…それは私がドライな性格だからとか、そういうんじゃなくて)

さやか「きっとその何かは、まどかを軸にした何かだと思うんだ」

まどか「…私?」

さやか「…まどかだけが感じてる、まどかの中にだけある何か」

さやか「まどかはそれに対して、私たち以上の何かを抱いてた、だから…」

まどか「…」

さやか「だから、まどかは忘れちゃいけない、そう思ってるんだよ」

まどか「…私が感じる、私の中の…」

まどか「…ダメだ」

まどか「あと少しなのに、思い出せない」

まどか(…魔法少女、命を対価にしたQBとの契約)

まどか(…魔法少女としての、運命)

まどか(…?…運命?)

まどか「…さやかちゃん、魔法少女になって、後悔はしてる?」

さやか「…?…まぁ、事の顛末を聞いちゃしてないといえば嘘になるけど」

さやか「でもまぁ、私が願ったことだしね、最悪杏子にでも倒してもらおっかな、なーんて」

まどか「…どうして知ってるの…!?」

さやか「…え?」

まどか「…どうして、魔法少女が魔女になることを、知ってるの!?」

さやか「…!」

さやか「…いや、それは…だから…」

さやか(いや、違う…!おかしい…!)

まどか「私の周りの魔法少女は誰も魔女になんかなってない…それなのに、どうしてさやかちゃんはそんなこと知ってるの?」

さやか「…そうだ、有り得ない…誰かに入れ知恵でもそれない限り…」

まどか「QBが自分の損失になるような事を喋るはずがない…だとしたら…」

さやか「でも、待ってよ…そんなの偶然知ったかもしれないじゃん!」

まどか「そんなはずないよ、だって私達は、私たち以外の魔法少女に出会ったことないじゃない!」

さやか(…っ)ズキッ

さやか(…あれ…?なんだこれ…)

さやか(…この、違和感…)

さやか「…もしかして、私たちが忘れてるのって…」

まどか「…うん、きっとそう」

まどか「杏子ちゃんも、マミさんも、二人ともQBについて知ってる」

まどか「私達全員が、何かを忘れてる、そして」

まどか「それはきっと、何か、なんかじゃなくて」

まどか(少しだけ近付いた、私たちが知るはずもない知識)

まどか(そして、QB曰く、私らしくもない行動、それらはきっと与えられたものだから)

まどか「私が忘れてるのは、何かじゃなくて、誰か、だよ…!」






まどか(…昨日、あの後考えてみた)

まどか(その誰かについて、私は何一つ思い出すことが出来ない)

まどか(けれど、その人の経験と知識は私に大きな影響を与えてる)

まどか(それこそが、その人が架空の存在ではない、何かという証明)

QB『何かわかったかな』

まどか『インキュベーター…』

まどか『…うん、ひとつ確信した』

まどか『私の中の違和感の正体、私が忘れてるのは、何かじゃなくて、誰か』

QB『なるほど、そう考えると君の行動にも些か納得が行くね』

QB『便宜上彼女と呼ぶとして、君はその彼女の影響で僕らを憎んでいたわけだ』

まどか『それは違うよ』

まどか『私は、あなた達が私たちを家畜みたいに利用していたことを知った時からあなた達が許せない』

まどか『今はただ単に、それが表に出てるだけ』

まどか『予測が得意かどうかは知らないけれど、勝手な推察で私っていう人間を決めつけないで』

QB『それは申し訳ないね』

まどか『取り敢えず、伝えたよ、これでまた1つ近づいたんじゃないかな』

QB「そうだね、ありがとう」

まどか『ところで、インキュベーター』

QB『?』

まどか『貴方は私の違和感の正体を突き止めてどうするつもりなの?』

QB『…そうだね、信じてもらえないだろうけど、僕らは突き止めたいだけなんだ』

QB『そういう不確定な要素はこれから先の僕らの活動にも影響を与えかねないしね』

まどか『まさか、とは思うけれど』

まどか『あの時した約束を忘れてるわけじゃないよね?』

まどか『当然、私が忘れてる誰かも、「私達」の中に入ってるって、分かってるよね』

QB『…』

まどか『私はもう二度とあなた達の企みなんかに私達を利用させない』

まどか『私には一つだけ、あなた達に一矢報いる手段がある』

まどか『誰が優位にたってるのか、考えてよね、私との契約をまだ諦めきれないなら』

QB『…善処するよ』

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