妹「ハロウィーンは西洋のお盆なんだよ」(58)


男「そうなのか」

妹「そっ。秋の収穫祭でもあって、また悪霊退散の儀式でもあるんだって」

男「忙しいな」

妹「でも、私はやっぱりお菓子がメインかなー?」

男「生憎だが、一人暮らしのフリーターにそんな余裕はない」

妹「ちぇ」



男「なあ」

妹「ん」

男「おかえり」

妹「はいさ、ただいま!」


男「本当に……妹なのか?」

妹「おう! 本当の妹だーよ」


妹「……2年前に車に轢かれて死んだ、おにいの妹だよ」


男「……」

妹「……」

男「……」ウルウルウル

妹「ふふーん」

男「~~っ」ギュー

妹「おーしおしおし、わしゃわしゃわしゃわしゃ」クシャクシャ

男「動物じゃないやい……」ギュー


男「改めまして」

男「おはようございます」
妹「明けましておめでとうございます」

男「……」

妹「まちごうた」

男「まあ入れよ」バタム

妹「ん。おー、狭い部屋」

男「借家ですから」

妹「そうだねえ」

男「朝ご飯食べるか? ブランチの時間になったけど」

妹「カレー食う」

男「ありませぬ」


妹「お昼カレー食い行こう。カレー」

男「幽霊って物食べれんの」

妹「食えると思えば食う。食えないと思えば食わない」

男「すげーな」

妹「クアラルンプール」

男「……」

妹「なんか上手いこと思い付きそうで思い付かなかった」

男「お前変わんねーな」

妹「へっへ。永遠の16歳だぜ」

男「ピチピチ」

妹「ピチピチ」


カランコロン

妹「私チーズ大盛りな、チーズ大盛り」

男「チーズだけ食ってろ」

店員「いらっしゃいませー、お一人様でよろしいでしょうか?」

男「……? あの」

妹「見られると思えば見える。見られないと思えば見えない。そういうものだよ」

男「……1人です。テーブル席空いてますか?」

店員「はい、こちらへどうぞ! ……」

…………


店員「お待たせ致しました、チーズカレー大盛りとポークカレー大辛でございます」コトリ

店員「ご注文以上でお揃いでしょうか?」(良く食べるなあ)

男「はい、どうも」

店員「ごゆっくりどうぞ」ササッ


妹「よっしゃ食うぞー!」ジャキーン

男「くーぞー」カチャ

妹「テンション低いぞおにい! カレーだぞ!」

男「俺独りで騒いでたら変人だろうが」

妹「大声出し放題!いえーす!」

男「早く食えや!」


男「ごちそうさま」

妹「むう」

男「ごちそうさま」

妹「おかわり」

男「ご・ち・そ・う・さ・ま!」

妹「おーかーわーりー!!」バタバタ


「ママーなんであの人ひとりでしゃべってるのー」
「見ちゃいけません」


男「……」

妹「うぷぷ」ニヤニヤ

男「夕飯抜き」

妹「やぁん! それは勘弁!」


<アリガトウゴザイマス マタオコシクダサイマセー

カランコロン

男「お前人から見えてないっていうのは本当なのか?」

妹「うーん、多分。私が今ここにいるって事を知っている人には見えるんじゃないかな」

男「お前の食ってたカレーはどう見えてたんですかねぇ……」

妹「おにいが2つ食ってるようにしか見えたと思うよ」

男「俺1人前しか食ってないぞ」

妹「見られると思えば見える。見られないと思えば見えない。そんなもんよー!」ケラケラ

男「幽霊も面白そうだな」


男「これからどうすっか」

妹「バイトは休みなの?」

男「おうよ。お前はいつまでこっちに居るんだ?」

妹「今日だけだよーん。特売品でーす」

男「特売品の割にはさっきから高く付いてるんだよなぁオイ」

妹「ケチらないケチらない!」


男「公園行くべ」

妹「はいな」


妹「ひっさびさだねぇこの公園」

妹「超常現象使って遊んできていいー?」

男「こええよ。却下」

……。


ギーコギーコ

妹「幽霊にもなってブランコかぁ……」ギーコギーコ

男「そう言うな」

妹「秋にもなると少し肌寒いね……」

男「分かるのか」

妹「分からん」

男「分かろうと思えば分かるんじゃねぇか?」

妹「……ちょっと。寒くなってきたじゃん」


妹「やめてよねー、私死んだままの格好なんだから。やだやだ寒い寒い」

男「っ……」

妹「なーにしんみりしてんのさあ」

男「いーや。なんか自販機であったかいもん買おうぜ」

妹「私ファックスコーヒー!」

男「甘いだろアレ……ってか、お前も来いよ」

妹「えー、なんでー。私お金ないよー」

男「良いから来いよ……オラ」グイッ

妹「ひゃあ……!?」キュッ


男「ほーれほれほれ、よちよちよち」ブーラブーラ

妹「あー、子供扱いすんなー!」ブーラブーラ

男「どこ行くか分からない子はおてて繋いじゃいましょうねー、っと」

妹「だーかーら、子供扱い……」


妹「……もー」ギュウ

男「……」

妹「どこへも行かない。行かないから、おにい」ピト

男「……」

妹「今日は」


男「……ったく。じゃあこの手は要らないか」パッ

妹「や」キュ

男「こらこら」ペイッ

妹「やなの!///」ギュウ

男「……ジュース買えないんですが」

妹「ぎゅーっ」

男「お前生きてた時、そんなに懐いてたっけ……?」

妹「ぎゅーっ!!」


妹「もう。せっかくおかん達の実家じゃなくておにいの所来たのに」

男「そういや、なんでこっち来たんだよ?」

妹「私の野望を果たすためよん!」


男「野望……? 嫌な予感しかしない」

妹「ふっふっふ、その全貌を目の当たりにすれば、おにいもびっくら仰天玉手箱よ!」

男「あー知らん。知らんからな。言わなくて良いぞー」

妹「いーもん。行動で示すもん。身体で払うもん」

男「その貧相な身体より現金よこせや」

妹「あー! おにいが酷い! デリカシーの欠片も無い!」

男「無いのはお前の胸と俺の所持金だ!」

妹「うがーっ!!」


ガコン

男「ほれ、ファックスコーヒー」

妹「サーンクス、ホワッチ! ……缶熱いぞこれ!」

男「ざまあ」

妹「えい」ピトッ

男「アッチャア!?」

妹「おにいが北斗神拳始めた」

男「あーたたたたたたたたた」シュッシュッシュッシュッ

妹「あはは、声に手が追いついてないよー」クピクピ


男「陽が落ちてきた」

妹「さみーです。私大変」

男「さみーな。俺も大変だわ」

妹「ん」ピョイッ

男「ん」ギュッ


妹「……いいの? 知らない人から見たら、変な所に手を伸ばしてるパントマイマーにしか見えないよー」

男「今更。今はそういう気分なんですー」ガバッ

妹「あ、ゃ……///」ギュウ

妹「い、いつになく大胆だなぁ。今度は一人で二人羽織になっちゃうよ……///」

男「良いんだよ……寒いからな。周りの目なんか、見られないと思えば見えないんだ」テクテク

妹「……///」テクテク


妹「……ね、おにい」テクテク

男「はいおにい。何ですかい」テクテク

妹「おにいは……彼女とか、いる、の?」テクテク



男「……」

男「わたくし、いらっしゃりませんことよ」テクテク

妹「ふざけないでよー……」

男「いないよーだ。ヨーダヨーダ」

妹『フォースと共にあらんことを(だみ声)』

男「くっ、ははっ、全然似てねえ!」

妹「ふふ、ばーか!」

男「ふふ」添いっ
妹「へへ」添いっ


男「クリスマスほどじゃないけど……」

妹「街中盛り上がってますなー。おにいのステッキも盛り上がってるかな?」

男「いきなり下ネタかよ。発情期か?」

妹「ちょっとは動揺してよ! 甲斐がないじゃんよー!」

妹「そんな事より、周りからおにいが変な目で見られてるのが気になるんだけど……」

男「知るかい知るかーい。世間様がなんぼのもんじゃい」

男「1日ポッキリの特売品の事で俺の脳みそが大セールなんじゃい!」

妹「お安くしときまっせニイチャン」クイックイッ

男「ビッチの助平が」

妹「酷いなぁ、水戸黄門とかに一話だけ出てきそうじゃん……」


男「夕飯買って帰るべー」

妹「お仕置きだべー」

男「意味分からん」

妹「素に戻らないでくれますー?」フミッ

男「アウチ。お仕置きで思い出したけど、ハロウィンだしお菓子買ってく?」

妹「なんでお仕置きでイタズラ思い出したの? きゃっ、おにいったらいやらしい……///」

男「お菓子無しな」

妹「一生のお願いですから! 勘弁してください!」

男「死んでるじゃねえか!」

妹「そうだった!」


…………。

男「ただいまー」ドッチャリ

妹「おかえんなさーい」スタッ

男「お前も袋持てよー」

妹「やだよ、重いもん」

男「お前は軽いよな」ヒョイ

妹「ひゃーん♪」ジタバタ

男「という訳で、片付けよろしくー」

妹「おにいはそんなんだからモテないんだ」

男「暴力賛成!」ゴン

妹「こやつ、霊体を殴るか! おのれ!」ガサゴソ


男「野菜切ってー茹でてーその前に湯を沸かしてー」トントントン

男「お菓子開けてーグレープ味好きだからキープしてー」ガサガサガサ

男「湯が湧いたら根野菜ぶち込んでーその間に風呂洗ってー」ゴシゴシゴシ

男「♪テーテーテ テテッテテッテ テッテテ。テテテ テテッテテッテテー」

男「別に節約料理でもないんだよなー、と」

妹「いきなり!肛門伝説。」

男「その思い付きのギャグを何故今言ったのか200字でまとめろ」ギリギリギリ

妹「いたたいたたいたた!」


妹「おおお、おにいの手料理……!」

男「ホカホカご飯に温野菜サラダ、ダシ焼き卵、惣菜の串カツでござーいー」

男「大したもんじゃないね、ホント。うん」

妹「知るか。早く貪ろうぞ」

男「女らしさどこ行った」

妹「メシの前にはどっか行った」

男「せっかく奮発したんだし、食い終わったらお菓子食おうぜ」

妹「あいさー! いただきます!」

…………。


妹「渡さん! このテュッパテャップスは渡さんぞぉおお」ガサガサ

男「ボタボタ焼を死守ううう」ガサゴソ

妹「ポテーチ! ポテーチ!」バリィ

男「この豚野郎ヘルシーな芋けんぴを忘れてやがったなあああ」ザザァ

妹「しもたぁ、半分よこせぇえ!」

男「あいさぁ、半分こぉぉお」ガシッ

妹「半分こぉぉお」ガシッ


…………。

男「……誰だこのボッキーってのとクリ皮剥いちゃいましたっての買ってきた奴!?」

妹「お前だ!」

男「俺か!」モグモグ

妹「迷い無く食うな!」


男「食った食った」ハァハァ

妹「まんぞく」ゲフ

男「なぁ、これ正しいハロウィーンか……?」

妹「さぁ……」


…………。

男「ほれ、お茶」コト

妹「あんがと」

男「……」ゴク

妹「……」コクコク

男「ぷはぁ」

妹「うみゃあ」


男「なあ、妹」

妹「どしたの、改まっちゃって」

男「切ない、な」

妹「おにいのエッチ……///」

…………。

妹「いたーい……霊体苛めるなんてひどーい……」

男「真面目に話聞けやオラ」

男「お前、いつまで居れるんだ……? もう、夜遅いから送ってくけどよ……」

妹「だめだよ、送るなんてしたら、おにいも帰れなくなっちゃうよ……」
妹「今日は、居れるから……日付が変わるまで……」

男「日付、0時か……」

妹「そうだよ……それを過ぎたら、私はカボチャの馬車で帰らなくちゃ……」

男「なんか話ごっちゃになってないか……」

妹「ナスの牛よりは乗り心地いいよ……」


男「そうか……どれくらい掛かるんだ……?」

妹「すぐに帰れるから、気にしないで……」

男「じゃあ余裕持って、11時半にはウチ出ような……」

妹「あの、おにい……」

男「ああそうだ、まだ時間あるし、ファッションセンターやまむらでお前の新しい服買おう?」
男「2年間も同じ服着てたんじゃ嫌だもんな、あそこならまだ開いてるから、早く行こ……」

ギュウ。

男「妹……」

妹「もう、いいの。おにい……」ギュウ


妹「私は……死んだの」

妹「死んだんだから……私の事は、いいから」

男「お前、あのさ、その……」


妹「私ねっ、おにいが心配で、辛い思いしてないかって、それだけが心配でっ」

妹「時々、実家の仏壇とかお墓に来てくれるたび、おにいは近況報告してくれて……」


妹「――おにいは、夢、諦めてて」

男「……聞こえて、たのか? 恥ずかしくて、情けなくて、声になんか、出してなかったのに」

妹「聞こえてたよ、おにいの念が……辛そうな、悲しそうな……」

妹「大学やめてフリーターになったって事も、会う前から知ってた……」

男「妹……」


妹「おにいは、理系の大学、行きたくなかったんだよね……」

妹「私が生きている頃に、よく話してくれた自作のおとぎ話をいっぱい書いて……作家さんになりたいって」

妹「私の決め付けられたイメージを壊してくれたおにいのお話、私大好きだった……」

妹「つまようじたちが助け合って、家庭と家計に悩む奥さんを助けるお話」
妹「空気の波として飛んでいったありがとうの声が意思を持って、色んな声に歪まされながらも自分の身体を届けるお話」
妹「お正月の初夢の中で、なすびを持った鷹を追い掛けた人が富士の樹海から出られなくなっちゃったお話」

妹「全部……覚えてる。覚えてるよ、私……!」

男「……妹、俺はもう……働かなくちゃ。そんな青臭い話で、心を動かされる時代でも、世代でもないんだ……」

妹「でも、私が死んじゃってから、おにいはお話を書き掛けて筆を止める事が多くなっちゃった!」

男「見てたのか……」

妹「だからっ、ずっと、私がおにいの心に傷を残したまま、進路に悩むおにいの助けになれないままで、悔しくて……!」グズグズ


男「違う……分かったんだ、お前を亡くして……」

男「命ってものがなんなのか、生き物ってものがなんなのか」

男「それが、なんとなく分かって、自分が今まで書いてきた生き物の生き方が、一番大事なものが、紛い物のように思えてきて……」

男「だから、筆を折ってよかったんだ……俺の一番近しい存在のお前が、お前の生き様が、俺に大事なもんを教えてくれた……」

男「お前がいなければ、俺は、間違えた道を行くばかりだった……仮に成功したって、いつか必ず後悔していた……」

男「だから、これで良かったんだよ……」

妹「でも、おにいは、迷ってた……割り切れなかったんだよね」

妹「自分の興味のない、自分の大事な、命と生き物って価値観から遠い世界の勉強をする事……」

妹「でもおにいちゃん、大学をやめた事もずっと後悔してた……」

妹「時間も自由になったのに、生きるために専門学校行くって言って、その学費の為にずっとバイトして……筆を見ては辛そうな顔をして」


妹「親にも友達にも合わせる顔がないって……ずっとひとりで、時々お墓の前で、泣いてて……」

男「だって、大学途中で中退しておきながら、変更した進路にも打ち込めないまま、情け、なくて」

妹「そんな事ない。絶対そんな事ない。関係ない。私もお父さんもお母さんも、きっとその友達も、おにいの進路なんかで好き嫌いしない」

妹「おにいはまだ歩みを止めてない……私とは違って、まだまだ自分で歩けるんだ」

妹「だめだよ……困った時、迷った時、辛い時は、誰かを頼らなくちゃ」

妹「迷わない、後悔しない、失敗しない、迷惑をかけない、そう決まりきった道なんて無いんだから……」


男「俺は……俺の夢を、応援してくれてたお前を、失望させてしまったと、ずっと……」

妹「んーん」フルフル

男「それだけの為に……わざわざ……俺の為に……?」


男「この、ハロウィンに……?」


妹「……うん、そうだよ。おにいに言いたかった事、やっと言えた」

妹「そーだよ。もー、日本の霊なのにハロウィーンに帰省するのはなかなか手続き大変だったんだからー」

男「う、うっ……ひ、うぐっ……!」

妹「おーおーおー、泣け泣け泣けー……」ポンポン


……。
…………。
………………。

妹「よしよし……」

男「ありがとうな……妹……」

妹「死んでも、大事な家族ですから!」ビシィ


妹「ね、おにい。今はまだ、頭の中ぐちゃぐちゃだと思う……」

妹「でも、明日からは、私が居なくてもきっと、また上手くやってけるからさー」

男「……」コク

妹「まあとりあえず、お風呂沸かしてくるねー。ウチのお風呂と仕組み一緒だよね、多分、えーと……」

男「ありがとう……」


妹「おっしゃ、沸いたぞー」

男「ん、センキュ」

妹「えっへへ! 復活したかな?」ギュ

男「……こいつめ」グシグシ

妹「涙カピカピだよ、早くさっぱりしておいでー?」

男「何から何まですまんなー」ガチャ

妹「お互い様よーん」

…バタム。

妹「……」

妹「はあぁ、よかったぁ!」

妹「おにい、今でも本当にお話書いてないのかな、どれどれ」ガサゴソガサゴソ



妹「……おやぁ?」ニタァ


男「……」ヌギヌギ

男(良い、妹を持ったな……)グシッ

男「早く入って、さっぱりして、日付が変わるまで、出来るだけのお礼をしよう……」ガララ



男「……なんか湯気ヤバくねーか?」

…………。

妹「ふむふむ」ニヤニヤ

妹「ほうほう」ニヤニヤ

妹「これはこれは」ニヤニヤ


<アチャ アチャ ホゥアッチャアアアアアア!?


妹「あー、やっぱ沸かしすぎたかー……」


男「……」ホカホカ

妹「めんごめんご」

男「右足めっちゃヒリヒリするんですが、遺言はそれで良いんでしょうかね」

妹「もう死んでるから怖いものないもーん」

男「どーれ俺が追い焚きしてやるからお前も風呂入ってこいよ」グイグイ

妹「ふにゃーっ! ごーめんなさーいっ!」ズルズル

男「ほれお前も風呂入ってこい、水で薄めてあるから。出たらゆっくり話をしよう」

妹「いいの?」

男「そのつもりで栓抜かなかったんだよ」

妹「んじゃ、ひさしぶりにお湯を貰いますかねー!」テトテト


妹「……」ホカホカ

男「おー。シャツぶかぶか」

妹「恥ずかしいでーす! てか、下、スースーする……」

男「女物のパジャマなんて持ってるわけないしなぁ。だから買いに行こうって行ったのに」

妹「ハメられた……」

男「なんか人聞きの悪い……別に俺が襲うわけも無いし良いだろー?」

妹「むっ」


男「ほら……あと、1時間だからさ。だから、その、昔みたいに、ゆっくりと、さ……?」

妹「……」

男「妹……?」

妹「はっきり言ってよ、おにい」

妹「一応私だって、こんな格好、誰にも見せた事ないんだから、さ……」

妹(お願い……私でも、おにいでも、あと1時間だけ、もう少し勇気をください……)



男「ギリギリまで一緒に居よう、妹。今だけは俺のそばに居てくれ……」

妹「う、うんっ」


妹「電気、消すよ……」パチリ

男「おー」

妹「一緒に、布団、入ろう……」モゾ

男「甘えんぼさんめ」モゾ

妹(……やっぱり、普通の意味、なのかな)

妹(だめだ、早くしないと、時間がない……)






妹(ごめんね、おにい……最後だから、またワガママ言わせて……)モゾモゾ


男「妹、俺の為に来てくれてありがと、な……妹?」

妹「ぅ……」ギュウ

妹(う、う……おにいとシャツ、一枚しかないよう。恥ずかしくて声、出ない……)ギュウギュウ

男「ど、どうした急に抱き付いて……? やっぱり甘えたかったのか?」


妹「ごめんね、不器用、で……///」ボソッ

男「っ?」


妹「……。~~っ!///」サワッ


男「……!」ゾクン


妹「も、も、いっかい……///」サワサワ

男「……っ!」ゾワワ

男「ちょ、ちょ、ちょ、っと!?」ムク…


妹「ワザと……だよ」サワワッ…

男「は、っ……!?」ゾクゾク

妹「ワザと、だから……ワザと……///」サワサワ

男「妹っ、お、ま……ぁ」ムクムク


闇の中、狭い布団の温もりの中で、彼女の白い指が翻る。

胸に抱き付いた女の温もりと、布越しの微かな刺激が、否応なく俺を反応させた。


男「ま、いも、うと……!」

妹「……おにい、まだ童貞だよね?」

男「!? な、なんで、今」

妹「机とタンスのなかに、ピンク色のプニプニした穴が入ってたよ……あれ、絶対エッチなやつだよね?」

男「お、まっ、お前っ……そう、です……」

妹「あんなの使うのなんて、可哀想だから……」サワワッ

男「っお……!」ゾクン…

妹「ね? 良いよね……?」


男「だって、時間が……っ」

男「時、間……?」



妹「最後、だから……」サワッ

妹「私、こうやって、そういう事、一度も出来ないで、死んじゃったから……」サスサス…







妹「おにいちゃん……私を、愛してください……」ギュウウ



男「……!!」キュッ


抱きしめ返した妹の身体が、柔らかく俺の腕に合わせて収まる感触に、俺の中で求める気持ちがはじけてしまった。

物事の立ち入り禁止を定めていた黄色と黒のロープが、ぶちんと切れてしまったような。

腕の中、湿った髪から立ち上る香りは、既に女のそれであった。


男「いも、うと……」ギュウ

妹「あ、おにい……///」サスサス

男「は、ぁ……手が……」ゾワゾワ…

妹「私のも、触って……時間が……ない、から……///」グイッ

男「っ……、やわ、らけ……ちっちゃいのに……」フニフニ


妹「今日、んっ……楽しかったよ……」サワワ…

妹「その時、一緒に歩いてた時から、こう……ぅっふ……なりたく、て……」クニ…クニ…

妹「はぁ……ふぅ……やぁ、あ……優しく、さわさわしないでぇ……!」キュッ…

男「お前のっ……はっ、手も、優し……っく、すぎて……」プニ…ツンツン…


男「時間、が……ないな……っ」ガバッ

妹「や、ぁあ、くぅ、ん、お股、濡れちゃって……!」モゾモゾ


男「ぬるぬる……する……大丈夫、なのか……」ニュル…ニュル…

妹「あ、あああ、ぁう……痺れ、くふっ、もっと、ぎゅうってしてえ……!」ギュウッ

男「あ、ぁあ、だめだこれ、夢中になるっ……あぁ、妹……!」クニ、ピチャピチャ…

妹「おにい、っ、待っ、て……時間っ、時間がっ……!」

妹「大丈夫だからっ……そのまま、その、あたっ……っく、てる……/// おちん、ちん……入れてぇ……!」

妹「せつない、よぉぉ……欲しくてっ、あぅ……ね、ねぇ……っく、ひっう、ひぃ、ふたりで、イタズラ、しちゃおうよぅ……!」スリスリスリ…


男「い、妹……っふ、気持ちいっ、今っ、入れ……っぞ!」スルリ

妹「早、く……うずいてるぅ……おにいっ、の、おちんちん、はぁ……くふっ、欲しいよぉ……欲しいよぉ……!」スッ



男「っくふ……!?」ピチャ

妹「は、ああぁ……!」ビリッ…

男「は、うあ、あぁぁあ……!」ツニュニュ…!

妹「っあ!? か、はっ、ああ、ぁあ……!」ミチッ!ミチッ!


男「……っ」ギュッ
妹「っ、うんっ」キュウウ

ギュウウ!


「「あぁ、ぅああああ……!!」」ビリビリビリ…ッ!




…………。

……………………。

………………………………。













妹「これで、もう……思い残す事は――――――」







男「……」

男「……」

男「っ!」ガバッ!

そこには、11月1日。いつもと変わらない朝があった。


布団はまだ、温かいような気もする。甘く切ない残り香も、微かにする。


男「……やっば、バイト遅れるっ!」バサッ

俺には確信があった。
来年も、再来年も、その先も、生きているうちに妹に合う事はないだろう。
彼女はきっと、もうどこにも居ない。

男「行ってきますっ!」バンッ!


男「おはようございます、今日も一日よろしくお願いしますっ!」ザッ

なるほど。彼女の言った通りだった。

男「いらっしゃいませこんにちはー! ご注文お決まりでしたらお伺い致します!」ペコリ

見られると思えば見える。
見られないと思えば見られない。

男「はいっ、お疲れ様ですっ! お先に失礼します!」

ふと想えばそばにいる気がする。けど、心のどこかでもう会えないと分かっているから、もう二度と見えない。

男「やっべー……今日の夕飯考えてなかった……」

それは、仏壇の前に座ろうがお墓の掃除をしてようが同じである。


男「ただいまー」ガチャ

バタム

男「とりあえず冷蔵庫、っと……!?」

――――――――――――
 【Happy Halloween!】
ありがとう。本当は昨日の
うちに言いたかったけど、
本当にギリギリだったから
こうして書き置きを残しま
す。
昨日は、本当に楽しかった。
大好きだよ、おにい。
パンプキンサラダ、早めに
食べちゃってね。
さよなら。

妹より。
――――――――――――


ラップの上に貼られていたのは、そんなメモ書きだった。


おまけ。



男「……」

チーン……

遺影「」

男(……ひさしぶり。元気か?)

男(あれから、ストーリーを書くのまた始めたんだぜ)

男(小説じゃなくて、ショートショート。かなり気軽に書けるものなんだが……)

男(とにかく、趣味として今も続けてる。心配すんな、また化けて出て来られても困るからな)

男(ハロウィンに、お前と一日だけ過ごしたあの時間も、そのSSってのに書き起こしてみたんだよ)

男(思えば、最初から不思議な事ばかりだったからな……。あの時の事は、今も半分夢かと思ってるけどよ)

男(まあ、じゃあな……)フフッ


笑みと鼻息に合わせて、蝋燭の火がそっと揺れた。

終わり。
もしもしなので、どなた様か完結スレに貼ってもらえると有り難い。

>>55-57
確認した、thx
仰る通り即興だと整合性取るのでいろいろ手いっぱいだった、許して

今度書くときは書き溜めしよう

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