ダイハツ タント
妹「もう少しだったのにね」
兄「あぁ、でも仕方ないよ」
妹「帰って残念でしたパーティーしてあげるね」
兄「なんだそりゃ……」
妹「えへへ、はやく着替えてきて。待ってるから」
兄「おぅ」
妹「ケーキ屋さんに寄って行かなくちゃ……」
兄「さて、忘れ物はないな」
男「おい」
兄「あぁお疲れ。今日は残念だったなぁ」
男「お疲れじゃねーよ。何最後打たれてるんだよ」
兄「え?」
男「え?じゃねーよ。ピッチャーなら最後まできっちり仕事しろっての」
男2「そーだそーだ」
兄「でも……いや、悪かった。俺のせいだ」
男「わかってんじゃん」
兄「……」
男「そもそもお前がエースってのがおかしいんだよ」
男2「そーだそーだ」
兄「……」
男「今日は大事な公式戦だったんだぜ?あと一回勝ってたら決勝だったのに」
男2「そーだそーだ」
男3「そーだそーだ」
兄「なんか増えてる!?」
男「お前に文句いいたい奴がこんだけいるってこった」
妹「お兄ちゃん遅いなー……」
兄「悪かった。どうすればいい?」
男「みんなの前で土下座しろ。打たれてごめんなさいって」
兄「ちょ」
男2「嫌なら責任取って野球部やめろ」
男3「そーだそーだ」
男4「そーだそーだ」
男5「そーだそーだ」
兄「くっ……」
兄「……わかった。辞める」
男「よし、これで俺がエースだな」
兄「……」
男2「何だよその目は」
兄「何でもないよ」
男3「俺たちが打てなかったから勝てなかったとでもいいたそうだな」
兄「そんな事言ってないだろ」
男4「気に入らねーな」グイ
兄「待てって」
男5「俺は8番バッターだから打てなくても仕方ねぇだろっ」ドカッ
兄「いって……」
男「おいおい、顔はまずいって……」
兄「お待たせ」
妹「もー!遅いよー」
兄「はは、悪かったなぁ」
妹「ケーキ屋さん閉まっちゃうから急ごう?」
兄「あぁ」
妹「あれ?なんかほっぺた赤い……それになんか腫れてない?」
兄「そんなことないよ……」
妹「そうかなぁ、目もなんか赤いよ」
兄「何でもない……何でもないよ」
チュンチュン
妹「お兄ちゃん、起きて」
兄「うーん……何でもない……何でもないよ……むにゃ」
妹「もう、寝ぼけてないで起きてっ!」
兄「ん……なんだ朝かぁ」
妹「朝かぁじゃないよ。早く起きないと遅刻しちゃうよ」
兄「いいよ別に……お休み」
妹「もう高校生なんだからしっかりしてよー!」ユサユサ
兄「寝かせてくれ……夢見が悪かったんだ……ぐぅ」
妹「もー……起こすのに20分もかかった」
兄「ふわぁあああ……」
妹「昔はもっとしっかりしてたのに」
兄「そうか?」
妹「野球やめてから何かだらけちゃったね」
兄「何年前の話だよ」
妹「朝も早起きだったし」
兄「あん時は朝練とかあったからな」
兄「ごちそうさん」
妹「はい、お粗末さま」
兄「さーて学校行くか……」
妹「高校、楽しい?」
兄「ん、別に……普通だよ。なんで?」
妹「特に理由はないけど……」
兄「変な奴だな」
妹「高校入ったらまた野球やるのかなぁって思ってたんだけど」
兄「そんな気ないよ」
妹「どうして?」
兄「どうしてって……理由は別に」
妹「あんなに夢中になってやってたのに」
兄「あはは、飽きたんだよもう」
妹「一年生の時からエースだったのにもったいないなぁ」
兄「よく覚えてるな、そんな事」
妹「運動神経はいいんだから、何か違うスポーツとかはどう?」
兄「例えば?」
妹「サッカーとか今人気だよ」
兄「90分間も走り続けるなんてちょっと無理」
妹「ずーっと走ってる訳ないでしょ、もう」
兄「ま、そのうち何か考えるよ」
妹「今日はまっすぐ帰ってくる?」
兄「多分な」
妹「ゲームセンターとかで無駄遣いしたらダメだからね」
兄「はいはい……」
~高校・放課後~
兄「あーあ、何か毎日退屈だなぁ……」
兄「授業聞いて、昼休みに飯食って、授業聞いて、帰るだけだからなぁ」
兄「高校つっても大して中学と変わんないな……ふぁあああ」
兄友「おーい」
兄「お、何してんの」
兄友「部活見学に行こうと思ってさ」
兄「ふーん、頑張れ」
兄友「つれないぜ、メーン」
兄「気持ち悪い話し方すんな」
兄友「これがデフォルトだから仕方ないんだぜ」
兄「はぁ……うっとおしいな」
兄友「中学からの付き合いの友人にたいしてひどいじゃないか」
兄「だっけ」
兄「ちなみにどこの部活見に行くんだよ」
兄友「吹奏楽部か美術部に」
兄「ちょ、お前中学ん時は空手部だったじゃないか」
兄友「もー汗臭いのは嫌なんだよ。可愛い女の子がいそうな部活に入りたいんだっ」キリッ
兄「動機が不純すぎる」
兄友「正直といって欲しいんだぜ」
兄友「お前は?高校では部活やんないの?」
兄「あぁ、俺は……」
バッチコーイ バッチコーイ
兄友「やっぱり野球部か?うちの学校結構強いらしいな」
兄「……俺は入らないよ。野球は止めたんだ」
兄友「ふーん、その割には未練がましそうな視線で野球部を見てるような」
兄「見てねーよ!あっち行け」
兄友「言われなくても行くさー。可愛い女子部員が俺を呼んでいるっ」タタタッ
兄「ちゃんと下調べしてから行けよー」
兄「部活かぁ……」
兄「……」
兄「何か……始めてみたいけど」
兄「いざ何かって考えると、別になぁ……」
兄「ま、当分は帰宅部でいいか。帰ろ……」
兄「……鞄忘れてるわ」
兄「ちっ……ほんとに最近、我ながらだらけてるな」
~校舎・廊下~
女「うんしょ……うんしょ……」
兄「……」
女「よいしょ…っと。うぅ、重いよぅ」
兄「ねぇ、ちょっと」
女「え?きゃーっ!」
ドンガラガッシャン
兄「あちゃー……」
女「あちゃーじゃないっ!」
兄「うわっ」
女「もー!壊れたらどうするのよっ」
兄「え、何俺のせいなの?」
女「あんたが急に声かけるからでしょっ」
女「もういいからあっち行って」
兄「すごいな、何が入ってるんだこの段ボール」
女「しっしっ触んな」
兄「ひでぇな。手伝ってやろうと思ったのに……」
女「え……そうなの?」
兄「明らかに大変そうだし。同じ学年だよな」
女「あ……あんたも一年生なんだ」
兄「うん」
女「ふふーん、どうしようかな」
兄「何で上から目線なの……」
女「じゃ、仕方ないから手伝ってもらうとしますか」
兄「なんか手伝いたくなくなってきたわ」
女「三階までお願いね、はいこれ」
兄「うぉお、重たいっ」ズシン
女「落とさないでよー!落としたら叩くからねっ」
兄「窓から投げ捨ててやりたいがそれもままならない重さ」
女「うーん快適快適」スタスタ
兄「何が入ってんだよ、これ」
女「あはは、着いたら見せてあげる」
~校舎・階段~
兄「うぉおおっ……負荷がものすげぇ」ズシン
女「頑張れー」スタスタ
兄「なぁ、ひとつ持ってくれない?」
女「男が途中で弱音はかなーい」
兄「ちっ……わかったよ」
女「うんうん、でもさすが男の子だね。すごい力」
兄「昔部活で鍛えてたからな」
女「なに部?」
兄「野球」
女「ふーん、そうなんだ。中学どこ?」
兄「えーと……」
女「あ、あそこ野球強かったよねー」
兄「まぁまぁじゃないか?」
女「なんか、おととしまでは強かったみたいだけど」
兄「ベスト4まで行ったからな……はぁはぁ」
女「なんかエースの子がやめてから弱くなったって聞いたよ」
兄「あ、そうなんだ……」
女「何でやめちゃったの?その人」
兄「なんか家庭の事情らしい」
女「ふーん……あ、着いたよー」
兄「う、腕がパンパンだぁ……」ヨロロ
兄「んじゃ、もう降ろしていい?」
女「まだここ廊下じゃん」
兄「えぇー……」
女「あそこの視聴覚室までお願い」
兄「くそっ、一番はじっこじゃないか」ヨロロ
女「部活で鍛えてたんでしょ、頑張れっ」
兄「くぅううっ!オラに力を分けてくれっ!」ヨロロ
女「なついね、それ」
兄「ていうか二人で持てばいいのに……」ブツブツ
~学校・視聴覚室~
兄「ひぃい……」ヨロロ
女「とうちゃーくっ」
兄「つ、疲れたぁっ!」ドス
女「あはは、ありがとうね」
兄「はぁはぁ……ひどい目にあった」
女「そんな事言わないで、ほらお茶あげるから」
兄「お、サンキュー」ゴクゴク
女「飲みかけだけどいいよね」
兄「う、うん……お前がいいならいいけど」
女「な、何照れてるの……」
兄「照れてねーよ」
兄「で、この中身はなんなんだ?」
女「え、えーと……あはは」
兄「こら、ごまかす気かよ」
女「そーいう訳じゃないんだけど」
兄「重さにプラスしてやけにかさばるし、迷惑な荷物だったなぁ」
女「うーん……えっとね」
兄「死体とか入ってるんじゃないだろうな」
女「な訳ないっ!」
兄「一番大きい可能性が消えてしまったじゃないか」
兄「もうまだるっこしいから開けるぞ」ゴソゴソ
女「ま、待ってー」
兄「待たん……ん?」ゴソゴソ
女「な、何よ」
兄「これは……太鼓だな」
女「ドラムッ!」
兄「ドラム……するとここは」
女「ここはね、軽音楽部の部室なの」
兄「へぇー……」
女「セッティングするからどいて」
兄「お、おぅ」
女「よいしょっと……えへへ」ガタガタ
兄「これ、お前の?」
女「そうだよ、家から持ってきたの」
兄「ふーん」
女「ねぇ、スネア取って」
兄「スネア?」
女「……」
兄「なんでそんな『そんな事も知らないの?』みたいな目で見られなくちゃいけないんだ」
女「スネアってのはこれ、この小さいの」ポンポン
兄「はじめからそう言えよな」
女「♪完成っ」
兄「やんややんや」
女「へへ……私のタマちゃん素敵っ」
兄「ドラムに名前つけてるのか」
女「TAMAのドラムだからタマちゃん」
兄「ひねりがないなぁ」
女「うるさいっ」バシッ
兄「いってー!棒でたたくなよ」
女「スティックって呼びなさいよ」
兄「棒(スティック)じゃん」
女「あーもう……A型?」
兄「違います」
兄「この学校に軽音部なんてあったのか」
女「正確には部活じゃないんだけどね。卒業で部員がたくさんやめちゃったみたいだから」
兄「ふーん……今何人くらいいるの?」
女「私含めて二人」
兄「少なっ!バンドできないじゃん」
女「こ、これから集めればいいのっ!」
兄「厳しそうだなぁ……」
女「実際厳しいけどね……最低三人集まらないと同好会にもなれないから」
兄「現状だと楽器持ち込んで騒ぐ迷惑な学生だよな」
女「……」グッ
兄「悪かったからそのスティックをしまってくれ」
女「ふん……」
部長「ごきげんよう」ガララ
女「あ、来たー」
部長「ふふ、女さんはいつも元気ですね」
女「ねーねー、ドラム持って来たよっ」
部長「まぁ……素敵」
女「これでようやくちゃんとした練習ができるねっ」
部長「えぇ、えぇ……うぅっ、ここまで長かったです……」
兄「まさかもう一人も女性だとは……」
部長「あら、こちらの方は……」
女「ドラム運ぶの手伝ってくれたの」
部長「まぁ、それはありがとうございます」ペコリ
兄「いえ、通りすがったものですから」
女「何よ、私に対する話し方と違うじゃん」
兄「先輩なんだから当然だろ……ていうか何でお前はタメ口きいてるんだ」
女「私と部長は小学校から一緒だったし」
兄「ふぅん」
女「ねーねー部長、入部希望者きた?」
部長「ごめんなさい、今日も来なかったです……」
兄「入部ってか、まだ部活じゃないんだろ」
女「……」キッ
部長「うぅ……やっぱり、軽音部なんて必要とされてないんでしょうか」
兄「あ……いや」
部長「運動部のように大会で活躍するわけでもなく……文化部のようにコンクールに応募するでもなく……」
兄「うわ、めっちゃ落ち込んでる……」
女「ぶ、部長、しっかりー!」
兄「ま、まぁあれですよ」
部長「あれって何ですかっ……うっうっうっ」
兄「け、軽音部って文化祭とか新入生歓迎会で活躍できるでしょ?」
部長「……うぅ、はい……」
兄「確かに運動部や他の文化部みたいなことはできないかもしれないけど」
女「なにーっ!」
兄「最後まで聞けって!……学生のイベントに花を添えられる、素敵な部活だと思いますよ」
部長「ま、まぁ……」
女「……ふーん、いいこというじゃん」
部長「そんなこと言われたのは初めてです……私嬉しいですっ」
兄「な、なんとかごまかせたか……?」
部長「……ところで兄君は、何か楽器を?」
兄「いや、俺は……」
女「出来なそうな顔だよね、あっはっは」
兄「」カチン
部長「もうっ……ごめんなさい、兄君」
兄「いやまぁいいですけどね……実際フォークギターくらいしかひけないですし」
女「」ピク
部長「」ピク
兄「ん?」
部長「……フォークというと、どれくらいやってたんでしょう」
女「答えな」
兄「な、なんか怖い」
女「はよ」ピシッ
兄「えーとまぁ友達の家にあったアコースティックギターで長渕とかゆずとか山崎まさよしやら……」
女「長渕……ゆず……」ヒソヒソ
部長「となると、ギターの基本はマスターしているようですね……」ヒソヒソ
兄「何をヒソヒソ話してるんですか?」
女「ねぇねぇ、ちょっとひいてみてよ」
部長「ちょうどここにもアコースティックギターがあります」
兄「げほげほ……埃っぽいなぁ」
部長「去年いた先輩が置いていってくれたものなんです……誰も触ってなくて、ごめんなさい」
兄「へー、タカミネかぁ。結構いいやつじゃないですか」
女「詳しい……」ヒソヒソ
部長「まだです……まだわかりません」ヒソヒソ
兄「あー、チューニングが狂ってるな……直すか」♪ジャラララン
女「機械に頼らずチューニングが出来る」ヒソヒソ
部長「ふむ……これは」ヒソヒソ
兄「おしっ、これでいいな」♪ジャンジャラララン
女「……」ジーッ
部長「……」ジーッ
兄「そ、そんなに見つめられるとやりにくいんだけど」
女「あ、あははごめんねー」
部長「私たちはカボチャだと思って気楽にひいてみて下さい」
兄「あはは、よく言いますよね……じゃあ長渕の『夏祭り』を」♪ポロロンポロン
部長「ぱちぱちぱち」
女「……」
兄「……じゃ、いきまーす……」♪ポロリロポロリロポロリロ
部長「……っ!……じ、上手ですっ……」ヒソヒソ
女「ス、スリーフィンガー……すごい上手っ」ヒソヒソ
兄「♪~」♪ポロリロポロリロポロリロポロリロ←すごく速いのでなかなか難しい
部長「……決まりですね」ヒソヒソ
女「決まりだね」ヒソヒソ
兄「♪夏もそろそぉ~ろ終わりねとぉおおおおお」♪ポロリロポロリロ
部長「うぐっ……ジャイアンですっ……」
女「う、歌は全然ダメだね……」
兄「♪綺麗だよぉおお綺麗だよぉおおお綺~麗だよぉおおおっ!」♪ポロリロポロリロ
女「うるさーいっ!」
兄「ぐわっ」
兄「人がせっかく気持ちよく歌ってるのに何をする」
女「ご、ごめん。つい……」
兄「まぁ、この程度しかひけないんですよ」ガタ
部長「いえ、とってもお上手で驚きました」
兄「またまたご冗談を」
女「あ、あんたどっかで習ったりしたの?」
兄「な訳ねーよ。俺の友達のほうがよっぽど上手いぞ」
部長「そうなんですか」
兄「そいつはロックは死んだとか言ってギターやめちゃったけど」
兄友「うーん……意外と園芸部も穴場かも知れん。要チェックや」メモメモ
兄「あ、それじゃあ行きます」
女「え?」
部長「何故ですか?」
兄「いや、何故って……練習の邪魔になるでしょ」
女「二人だと大した練習出来ないから平気」
部長「ですです」
兄「いや、でもなぁ」
女「……」ギラギラ
部長「……」ギラギラ
兄「補食される寸前みたいな雰囲気があるんだよ」
部長「気のせいですよ」
兄「悪いけど帰りますっ!またっ」タタタ
女「あっ!待てーっ!」
部長「逃がさないでっ!」
女「了解っ」シュッ
兄「アッー!投げられたロープ捕まった」
女「フッフフ」
部長「まだお名前、ちゃんと伺ってなかったです」
兄「だ、だから兄……」
部長「この紙に書いてもらえませんか?私最近耳が遠くて」
兄「は、はいぃ……」カキカキ
さよならピアノソナタみたいな展開なら読む。
ここから病弱な転校生がやってくるなら読む。
~自宅~
兄「……という訳で軽音楽部に入部することになった」
妹「お、お兄ちゃん不良になっちゃうの?」
兄「いつの時代に生きてるんだお前は」
妹「バンドってヘビメタ運動会とかのことだよね」
兄「なんかすごく間違ってるなぁ」
妹「うぅ……お兄ちゃんがあんな風になったら嫌だよぅ」
兄「あんなんなったら部活どころか退学になるわ」
>>79
こない
兄「多分、雰囲気からしてもっとピースフルな感じだと思うんだけどな」
妹「悪魔がきたりてヘビメタるとか」
兄「だからなんでさっきからイロモノ系なんだよ」
妹「違うの?」
兄「ミスチルとかスピッツだってバンドだろ。どちらかというとああいう風になるんじゃないか」
妹「ふぅん……パートはギターなの?」
兄「うん」
妹「そっかぁ、目立つポジションだね」
兄「まぁ人前で演奏する機会があるかどうかも怪しいけど……」
妹「文化祭とかで演奏するんじゃないの?」
兄「どうだろうな」
妹「もしそうなら、見に行きたいな」
兄「うわ、それすっごく恥ずかしいな」
妹「野球の試合も見に行ってたし、同じだよ」
兄「多分全然違うと思う」
妹「ふふ、楽しみだなぁ」
兄「だから、どうなるかわかんないってば」
兄「とにもかくにも、問題がひとつあってだ」
妹「なぁにー?」
兄「俺のパートはギターなんだけど」
妹「うんうん」
兄「俺、ギター持ってない」
妹「ズコー」
兄「どうしようかと思ってさ」
妹「け、結構致命的な問題だよね」
妹「部活なんだから、部費でなんとかならないの?」
兄「いや、部活以前にようやく同好会レベルになったところだし」
妹「うぅーん……」
兄「仮に部費があっても、野球のグローブも部費でなんか買わないだろ。それと同じだ」
妹「エレキギターって3000円くらい?」
兄「ピンキリだけど、3000円のは無いんじゃないかな……」
妹「お母さんに聞いてみた?」
兄「一応聞いてはみたんだけど……」
妹「ダメだったの?」
兄「『ハッ』って鼻で笑われて終わった」
妹「うわぁ……」
兄「来週学校始まるまでになんとかしたいけど、無理そうなんだよなぁ」
妹「……分かった。私が買ってあげる」
兄「え」
兄「買ってあげるってお前」
妹「えへへ、私結構貯金あるんだよ?」
兄「マジで……いやそれはしかし、兄として」
妹「ちゃんと来年のお年玉で返してもらうから」
兄「……」
妹「ね、そうしようよ」
兄「いいの?」
妹「うん……何かお兄ちゃん、楽しそうだし」
兄「そ、そうかな?」
妹「うん、昨日までのお兄ちゃんとちょっと違う」
兄「自分じゃわかんないけど」
妹「楽しみだなぁ、お兄ちゃんがギターひくの」
兄「あ、あはは……」
妹「明日一緒に買いに行こうね」
兄「出来た妹がいて幸せだ」
妹「も、もう……大げさだよ」
~翌日・楽器店~
兄「うぅーむ。楽器屋ってのは独特の雰囲気があるな」
妹「な、なんか男のひとなのに長髪の人がいる……」
兄「俺ももっと髪伸ばしたほうがギタリストっぽくなるかな?」
妹「お兄ちゃんは今くらいが一番いいよ。あんな髪にしたら変だよ」
兄「何事も形から入る主義なんだ。あんな長髪でも参考にして……」
長髪男「……」ギロ
妹「こ、声が大きいよっ」
兄「すまんすまん」
兄「種類が沢山あって迷うなぁ」キョロキョロ
妹「わー……これすごく綺麗だね」
兄「ALFEEの高見沢モデルか、こんなん持ってったら確実に皆ひくだろうな」
妹「そうかなぁ、私はいいと思うけど」
兄「もっと普通のがいい」
妹「あ、これもかわいいよー!象みたい」
兄「そりゃゾーサンってギターだな」
妹「これにしない?」
兄「それはお手軽にどこでもひけるってコンセプトのギターだからなぁ……ちょっと違うな」
妹「私も欲しくなって来ちゃった」
兄「……」
妹「決めた?」
兄「うーん、やっぱりギブソンのレスポールはカッコいい」
妹「えぇー……真っ暗で地味だよ」
兄「シンプルな中にも高貴さがあるだろ、よく見てみろ」
妹「私はさっきの象さんのギターがいいな」
兄「でもなぁ、さすがに値段がはんぱねぇ」
妹「こ、これはさすがに買ってあげられないかも……」
兄「スタンダードは若干安いけど……それでも俺のお年玉数年分だな」
妹「ギターって高いんだね」
兄「もうちょい庶民的なコーナーに行こうか」
兄「フェンダーのストラトでもいいけど」
妹「これもよく見るギターだね」
兄「ジミヘンとかクラプトンとかジェフベックが使ってた奴だな」
妹「そ、それはよく知らないけど」
兄「フェンダーならテレキャスでもいいけど……なんか布袋のイメージが強いな」
妹「駄目なの?」
兄「駄目じゃないけど、別にファンじゃないし」
妹「もう一時間も悩んでるよ」
兄「高い買い物だからなぁ、なかなか決められない」
兄「うーんうーんうーん……ん?」
妹「どうしたの?」
兄「これは……エピフォンか」
妹「さっきのぎぶそんってギターと見た目は同じだね」
兄「あぁ、子会社みたいなもんかな」
妹「ふーん」
兄「……これにしようかな。値段も手頃だし、見た目もかっこいい」
妹「何か黒くて地味だよ」
兄「さっきからそればっかりだな……女にはこの良さはわからん」
妹「ねーねー、こっちの象さんのギターにしない?」
兄「やだ」
妹「つまんないの」
兄「よし、これにするっ!エピフォンレスポール」
~その日の夜~
兄「やっぱ新品の輝きは素晴らしい」♪チャララララン
兄「フフフ、鏡の前でポーズを決めてみたり」
兄「こうかな?こうかな?」スッススッ
兄「こうしたほうがカッコいい……ロックスターっぽいな」
兄「くぅうっ夜だからアンプ(ギターのおまけについてきた)に繋いで音を出せないのが残念だっ」♪チャララララチャララララ
兄「何かこうアコースティックギターとは違うな、エレキギターというものは。気分が高まるぜっ」ススッススッ
妹「お兄ちゃん、お風呂……」ガチャ
兄「あ……」
妹「ぷぷぷっ」
妹「あーはっはっは……何してるのぉっ……」バンバン
兄「床を叩いて笑い転げるなんて失礼だぞ」
妹「ぷくくっ……でもっ……でもぉっ」
兄「俺の黒歴史確定」
妹「はひーはひー……」ヒクヒク
兄「ひきつけをおこすほど笑われるとは」
妹「ご、ごめんね……ブプッ」
兄「我慢は体によくないぞ」
妹「そ、そうだね、あーはっはっははは……」バンバン
兄「まさかお前の笑いだけで1レス消費するなんて」
妹「あー面白かった……汗かいちゃった」ズズ
兄「鼻出てるぞ鼻」
妹「ごめん」チーン
兄「ほれゴミ箱」
妹「ありがと」
兄「恥ずかしいところを見られちゃったなぁ」
妹「昔と変わってないよね」
兄「何が?」
妹「野球部の時も、背番号もらった時にずっと鏡の前で」
兄「そ、そんなことしてたっけ」
妹「してたよー」
兄「そういや微かに覚えがあるけど……」
妹「じゃあ、ギターの練習頑張ってね」
兄「おうとも」
妹「あれ、なんか透明なシールが貼ってない?」
兄「あぁ、ケータイの画面と同じでさ、ここには最初保護シールが貼ってあるんだ」
妹「ふぅーん」ウズウズ
兄「なんか剥がすタイミングが難しいよな」
妹「う、うん」ウズウズ
兄「剥がしたいけど剥がしたくないって言うか、剥がすのがもったいない気がして」
妹「……」ウズウズウズウズ
兄「何をウズウズしてるんだ?」
妹「お兄ちゃん、ごめんっ」
兄「え?」
妹「えーーーーいっ!」ビリビリビリビリッ
兄「アッー!アッー!アッー!」
~翌朝~
妹「さてと、お兄ちゃん起こさなきゃ」
妹「どーせまた起こすのに何十分もかかるんだから……」
妹「お兄ちゃん、朝だよー」ガチャ
兄「ん……なんだもう朝か」
妹「お、起きてる」
兄「まぁね」♪シャンシャン
妹「まさか……」
兄「なんだか面白くて寝ないで練習してた」
妹「や、やっぱり」
兄「ふぁあああ……そろそろ寝ようかな」
妹「駄目だよー!学校ー!」
兄「えー……」
妹「もう、駄目だよ~!夜はちゃんと寝ないと」
兄「すまん。何かうまく引けないと悔しくてさ」
妹「それでできるまで練習してたの?」
兄「おかげで指が痛いよ」
妹「お兄ちゃんって凝り性だよね」
兄「一回ハマるととことんなんだ」
妹「将来は廃人か大物かどっちかだよね」
兄「はは、できれば後者でありたいなぁ」
妹「もう夜通しの練習は禁止ね。身体壊しちゃうから」
兄「以後気を付けまーす」
~学校・放課後~
兄「うーん、よく寝た……」
兄友「お前1日寝てたなぁ」
兄「ちょっと夜更かししてさ」
兄友「ネトゲでもハマったのか?」
兄「違うよ……これを見てくれ」ズイ
兄友「なんだよ、ギター?何でこんなもん持ってきてんだ」
兄「実は……」
兄「……と言うわけで」
兄友「俺が茶道部でちゃぶ台をひっくり返してるときにそんなドラマがあったなんて」
兄「そっちは一体何があったんだよ……」
兄友「ふーん、まぁ夢中になれることが見つかった訳か」
兄「ギターは真剣にやるとなかなか奥が深い」
兄友「うちで遊んでた事が役にたってよかったなぁ」
兄「うん……」
兄友「でも程々にな。先生も呆れてたぞ」
兄「あはは……妹にも言われたよ」
兄「まぁ、何かわからない事があったら聞くよ。お前詳しいし」
兄友「おー」
兄「ていうかお前茶道部って」
兄友「ドゥフフ、可愛い女の子と合法的にお茶を飲めるんだぜ」
兄「な、なるほどな」
兄友「それに男子は極端に少ないからな」
兄「つまり?」
茶道部女子「兄友くーん、部活いこー!」
兄友「……と言うことになるわけだ。それじゃ」シュタッ
兄「あいつはあいつで充実してるなぁ」
~視聴覚室(部室)~
兄「ちわーす」ガララ
部長「こ、こんにちわっ!」
兄「あれ、部長さんだけですか」
部長「……はい、そうなんです」
兄「はやく練習したいのになぁ」ウズウズ
部長「……」
兄「どうしました?」
部長「いえ、その……ごめんなさい」
兄「ん?」
部長「今日、兄君が本当に来てくれるか不安だったんです」
兄「え?」
兄「ど、どうしてですか?」
部長「その……入部のさせかたがやや強引だったものですから」
兄「自覚はあったんですね」
部長「なのに、兄君はこうして来てくれました」
兄「はは、ギターも買ったし後戻りはできないです」
部長「まぁ……」
兄「部長さんはベースですよね」
部長「は、はい……あまり指先が器用では無いもので」
兄「どういう理由ですか……」
女「やっほー」ガララ
兄「遅いぞ」
女「何よ、張り切ってるなぁ」
部長「ふふ、これでようやくちゃんとした練習が出来ますね」
女「ドラム、ベース、ギター……うんっ!最低限は揃ったっ」
兄「歌はどうするんだ」
女「あんた以外で」
部長「兄君以外でお願いします」
兄「な、なんでだよ……」
部長「と、とりあえずアンサンブルを固めてから考えましょう」
兄「はぁ……」
部長「……」ボンボン ボボン
女「……」トトッ タッタッ
兄「……」ジャーン……ジャッジャッ
部長「準備はいいですか?」
兄「はい」
女「いつでもいけるよー」
部長「ふふ、ドキドキしますね」
兄「何だろうこの緊張は」
女「だね」
部長「女さん、カウントお願いします」ボボン
兄「こっちはいつでもいいぞー」
女「よーしっ……いくよーっ!」グッ
部長「……」
兄「……」
女「……」
部長「……」
兄「……」
女「あ、あのさ……ひとつ疑問なんだけど」
兄「なんだよもー」
部長「何でしょう?」
女「私がカウントしたとするじゃん」
兄「ドラムの役割だろ」
女「そのあと……何の曲をやるの?」
部長「あ……そ、そう言えば決めてなかったです」
兄「ズコー」
兄「結構致命的なミスだったな……」
部長「い、今から何の曲をやるか決めましょう」
女「私は何でもいいけど……知らないのは叩けないよ」
兄「普段何聴いてるんだ?」
女「レッチリとか」
兄「それはちょっとギター練習しないと厳しいな……仮に譜面渡されてもすぐには」
部長「キングクリムゾンなんかはどうでしょう?」
兄「そんなの卒業までにひけるようになるかわかりません」
女「あんたは何がいいの?」
兄「すぐひけるのは長渕だな」
女「フォークじゃん……」
部長「こ、困りました」
部長「とりあえず小休止です」
女「はーい」
兄「まだ何にもしてないけど」
部長「バンドは協調性が大事ですよ」
女「そうだそうだー」
部長「とりあえず楽器を置いて、皆で何の曲を演奏するか決めましょう」
兄「そうですね」
女「あんたは何が演りたいの?フォーク以外で」
兄「別にフォークが大好きって訳じゃないぞ。それでギターの弾きかた覚えただけで」
部長「くすくす、私はフォークでもいいですけど」
女「私はもっとがーっと叩きたいなぁ」
兄「スリップノットとか似合いそうだな」
女「」イラッ
兄「ごめん」
部長「うーん……洋楽でも邦楽でもいいですけど、はじめはスタンダードなものにしませんか?」
女「はーい」
兄「意義なし」
部長「というわけでこの二曲です」パサッ
兄「お、譜面があるんですね」
女「CDもいっぱい置いてあるんだよ」
部長「ひとつはエディ・コクランの『カモン・エブリバディ』で」
兄「渋いですね」
部長「もうひとつはジュディマリで『小さな頃から』にしましょう」
兄「うわ……懐かしい」
部長「ふふ、女さんがいっつもカラオケで歌うから好きになってしまいました」
兄「似合わねぇぞ」
女「うっさいばかー」
部長「これを明日まで皆で練習してきましょう」
~深夜~
兄「……」♪ジャーンジャンジャカジャン
兄「うん、こんなもんかな?」
兄「スタンダードなロックンロールは覚えやすくて助かるなぁ」
兄「しかし、こっちの……」
兄「ジュディマリって意外と面倒くさいな……」
兄「難しいわけじゃないんだが、妙にひきにくいフレーズだな」
兄「やべぇ、もう夜中の一時か……」
兄「くそっTAKUYAめ、ややこしいフレーズ作りやがって」♪ジャーンシャラララ
兄「今夜も徹夜だな」
チュンチュンチュン
兄「……」♪シャラララ……
兄「よし、完璧だ」
兄「これで今日の練習は色々と捗るな、うん」
妹「捗るっていいたいだけでしょ」
兄「うぉっいつの間に」
妹「ヘッドホンしてると耳悪くしちゃうよ……ほら」スポ
兄「そうか、もう朝だったのか」
妹「まったくもう……」
妹「徹夜は駄目だって言ったのに」
兄「昨日学校で寝すぎたせいか、寝られなかったんだ」
妹「学校の勉強についていけなくなっちゃうじゃない」
兄「それは心配ない」
妹「ほんとに?」
兄「あぁ、もとからついていけてないからな」キリッ
妹「な、なんて理由なの……」
兄「ちょっと今ハマってるけど、直にうまくコントロールできるようにするから」
妹「はいはい、頑張ってね」
~放課後・部室~
♪ジャーン……ジャッ!
兄「おぉ……」
女「すごーいっ」
部長「初めて合わせたのに、ぴったりでしたっ」
兄「これは癖になりますね」
女「もう一回やろうよっ」
部長「ふふ、そうですね……でも兄君」
兄「何でしょう」
部長「歌は無しでお願いします」
女「次うたいだしたらシンバル投げるからね」
兄「そ、そんなにひどい!?」
女「かなり」
部長「……じゃあ、次の曲にいきましょう」
女「おっけー」
兄「はーい」
部長「せっかくだから女さん、歌ってみませんか?」
女「えぇーっ!」
兄「ドラム叩きながら歌えるのか?」
部長「上手なんですよ?歌いながら叩くの」
女「えへへ……なんか恥ずかしいな」
兄「無理なら俺が歌ってやるからな」
女「そっちのが無理だからいい」
兄「なんと」
部長「ま、まぁその辺の問題はのちのち話し合いましょう」
兄「じゃあ、カウントよろしく」
女「この曲はギターから始まるんでしょ」
兄「あ、そうだな……」
部長「好きなタイミングで始めて下さい」
兄「わかりました」♪ジャッ
女「……ん、んー……こほん」
兄「……」♪ジャーンジャララジャラ……
女「……♪小さな頃から~……」
兄「(うぉ、歌上手い……!)」
女「……♪乾~いた風に~行き詰まっても~」ツツタンツツタン
兄「(歌いながらなのにリズムキープも抜群だなぁ)」
女「♪こ~わく~はないわ~」ツツタンツツタン
兄「(こうしてじっくり見てみると……可愛いな、こいつ)」
女「♪ひーとーりじゃない~」
兄「(性格はちょっときついけど……)」
兄「(あ、パンツ見えた)」
♪ジャーンジャラララッ……
兄「……」
女「……ふぅ」
部長「ふふ、お疲れさま」
女「へへー、緊張しちゃった……」
兄「お前……歌うまいなぁ」
女「そ、そう?」
兄「うん、びっくりした」
部長「すごく上手ですよね」
女「な、何よもう二人して……」
兄「ドラムよりボーカルのほうがいいんじゃないか?」
部長「私も本当はそう思います」
女「む、無理だよ……一番前で真っ正面に立つなんて」
兄「でもなぁ」
女「大体、私がボーカルやったら、ドラムは誰が叩くの」
兄「叩きながら歌うとか」
部長「それだと今と変わらない気がします」
兄「あ、そうか」
女「あんたあったま悪いわね……」
兄「」カチン
部長「ま、まぁまぁ二人とも……少し休憩しませんか」
兄「そうします」
女「喉かわいたー」
兄「じゃ、また明日」
部長「気をつけて帰ってください」
女「またね」
兄「じゃ」ガララ
兄「うーん……疲れた」
兄「でも、心地いい疲れだなぁ」
兄「こーいう感覚、忘れかけてたな」
兄「もしかして、世間でいうリア充の仲間入りなのかも知れないな」
兄「……」
兄「あれ、財布が無い……」
兄「部室に忘れたのかなぁ……戻るか」
女「はぁっ……はぁっ……」
兄「あれ、あいつ……何ランニングしてんだ」
女「はぁっ……あっ!いたー!」
兄「陸上部も掛け持ちしてるのか?」
女「このバカッ!そんなわけないでしょっ」
兄「ひぃ」
女「こ、これあんたの財布でしょ」
兄「あ……」
女「部室にあったの。無いと困ると思って」
兄「そ、それで走って探してまわってたの?」
女「悪い?」
兄「いや……キャラ的に無いなと思って」
女「」キッ
兄「じょ、冗談だよ」
女「全く、子供じゃないんだから気をつけなさいよね」
兄「あぁ、ありがとう……」
女「あーもう疲れたっ」
兄「お前ってもしかして、結構いいやつ?」
女「……今までなんだと思ってたの?」
兄「や、今までもいいこだなぁと思ってたけど」
女「わざとらしい」
兄「そんな事ないって」
女「ふん……帰る。じゃあね」
兄「バス?」
女「そうだよ」
兄「バス停まで一緒に帰らないか?」
女「……」
兄「財布も戻ってきたし、お礼に飲み物でもごちそうする」
女「……二本ね」
兄「え?」
女「二本買って。今飲むのと、家に帰ってから飲むぶん」
兄「な、なんてやつだ」
女「ふひひ、それくらいいいでしょ?」
兄「まぁいいけど」
女「それじゃ、いこっ」
兄「日が長くなってきたなぁ」
女「もう……年寄りくさいなぁ」
兄「これから暑くなるんだろうな」
女「あそこの部室、エアコン無いからきっと夏は最悪だね」
兄「夏は活動休止か。TUBEの逆だな」
女「なわけないでしょっ!」
兄「ま、ギターならまだましだよな」
女「ドラムの私が一番カロリー消費するね、きっと」
兄「まぁ、エアコンなくても運動部よりはいいか」
女「だね」
イッチニー イッチニー
兄「まだやってんのか、野球部は」
女「うちはスポーツに力入れてるしね」
兄「なんかこっちに来たぞ」
女「校外ジョギングだよ、きっと」
兄「あぁ……なるほど」
兄「……」
女「私たち邪魔かも」
兄「うん、少し端に寄るか」
イッチニー イッチニー
女「頑張るね」
兄「うん……」
男「あれ……お前」
兄「え……?」
男「そっか、お前もここの高校来たんだっけ」
女「誰?」
兄「……久しぶり」
男「だなぁ、お前が野球部やめてから接点なかったし」
女「……」
兄「行かなくていいのかジョギング」
男「別に……今走ってんのは一年だけだからな。それより」
兄「なんだよ」
男「可愛いじゃん。彼女?」
女「……」
兄「違うけど」
男「ふーん、紹介してよ」
女「……何よ、こいつ」
兄「この子は部活の仲間だよ……紹介終わりな」
男「ん?お前なんかやってんの今」
兄「あぁ」
男「グラウンドで見たことないけどなぁ。バスケ部か何かか?」
女「私たちは軽音楽部だよ、文句ある?」
兄「そそ、正確には同好会だけど」
男「……軽音……ププッ」
女「何がおかしいのっ」
男「ふーん、お前が軽音楽部ねぇ」
兄「なんか変か」
男「野球やりたいなら監督に口聞いといてやるぜ。元ベスト4のエースだし、歓迎されるよ」
女「……!?」
男「へへ、前はさぁ、ボコって無理やりやめさせて悪かったよ」
女「……っ!」
兄「……いいよもう、その話は」
男「ちっとは悪かったと思ってるんだ。そこはわかってくれよな」
兄「ちょっとは、ね……」
男「じゃあな……気が向いたら連絡しろよ」タッタッタ
女「……」
兄「……」
女「……」
兄「バス停着いたな。じゃ」
女「待ちなさいよ」
兄「えぇー……」
女「何でそんないやそうな顔するのよっ」
兄「だって、さっきのこと聞かれそうで」
女「当たり前じゃんっ!何よあれ」
兄「昔の知り合いなんだ。嫌な思いさせたら悪かった」
女「あんただったんだ、例の」
兄「まぁそうだけど」
女「本当に叩かれてやめたの?」
兄「うん……まぁ」
女「嘘。それだけじゃないでしょ」
兄「何で」
女「それくらいわかるよ。短い付き合いだけど」
兄「俺さぁ、あんまり闘争心ってのが無いみたいで」
女「……よく、わかんない」
兄「野球は好きだけど、何ていうか勝ち負けはそんなに気にならないんだよ」
女「……」
兄「遊びの延長みたいなもんでさ、負けてもわりかしすっきりしてるし、次勝てればいいやって」
女「それは、あんたらしくていいけど……」
兄「でも周りは必ずしもそうじゃないだろ?勝ちたくて必死な奴もいるし」
女「……そうだね」
兄「そういう奴らからしたらムカついてたんじゃないかなぁ」
女「それで殴られたの?」
兄「まぁ、大体そういう風に解釈してるけど」
女「でも、一生懸命やったんでしょ?それで負けたなら」
兄「あー……一番大事なところで打たれたしなぁ。それも大きいかと」
女「知ってるよ、私見てたもん」
兄「あ、そうなの?」
女「味方が一点も取ってくれなかった試合でしょ」
兄「そっちのピッチャーの出来が良くてさ」
女「はぁ……あんたってどうしようもないバカでお人好しだね」
兄「そこまで言うか」
女「確かに、闘いは向いてないかも」
兄「楽しいほうを優先しちゃうからな。敬遠のサインも無視したり」
女「それは怒られてもしかたなさそうだけど」
兄「あ、バス来たな」
女「……ねぇ、軽音学部…やめないよね」
兄「当たり前だろ、すでにお年玉を担保に高い投資してるからな」
女「そっか……じゃ、ケータイ出して」
兄「え?」
女「アドレス交換しておいたほうが何かと便利でしょ?」
兄「う、うん」ピピ
女「へへ……おっけー。何かあったら連絡するねっ!」
兄「……いたずらメールとかハァハァ電話とかするなよな」
女「するかぁっ!」
ぺ
い
~初夏・部室~
兄「♪こなぁあああああゆきぃぃいいいっ!」
女「ストップストップ!」
部長「うぅ……」
兄「なんだよ、いい感じだったのにっ」
女「あんたは歌うなっつってるでしょっ!」
兄「人権の侵害だ」
部長「ちょっと小休止しましょう……暑いですし」パタパタ
女「だね」
兄「うわ、ギターが汗まみれだ」
部長「だいぶレパートリーが増えてきましたね」
兄「20曲くらいはありますかね」
部長「そうですね……ボーカルまで入れられるのはかなり限られますけど」
女「歌えるのは4~5曲くらいかな……あー暑い」パタパタ
兄「せめて扇風機でもあればいいんだけど」
部長「窓も開けられないですしね……」
兄「こないだもうるさいって怒られたしなぁ」
女「あーもぅ裸になりたーい」
兄「俺は一向に構わん」キリッ
女「す、すけべっ」
部長「くすくす」
部長「それじゃ、練習を再開しましょう」
兄「はーい」
女「うー、暑い暑い……」
部長「ふふ、ドラムの負担が少ない曲にしましょうか」♪ボンボボ
女「さんせーい」♪トトッ
兄「となると何でしょう」
部長「レッドホットチリペッパーズで『アンダー・ザ・ブリッジ』にします」
兄「了解です」
女「それなら私歌える」
妹「こんにちわー」ガララ
兄「おや」
兄「ど、どうしたんだ」
妹「中等部から遊びにきちゃった」
女「だ、誰?」
兄「えーっと、妹だけど」
妹「いつもお兄ちゃんがお世話になってます」ペコリ
女「ど、どうも」ペコリ
妹「迷惑かけていないか心配で、様子を見に来ちゃいました」
部長「まぁまぁ……できた妹さんですね」
女「こいつとはえらい違いね」
兄「うるせ」
妹「見学しても大丈夫ですか……?」
部長「もちろん、大歓迎ですっ」
妹「ここが軽音部(同好会)かぁ」キョロキョロ
兄「それなりにものは揃ってるだろ。アンプにスピーカー、マイクなんか結構いいやつらしい」
部長「機材オタクの先輩がいて譲ってくれたんです」
妹「すごーい、何かテレビに出てくるスタジオみたい」
兄「まぁそこまでは大げさだけど……」
妹「でもあっついね……」パタパタ
兄「これで空調完備なら最高なんだけどな」
女「ねぇねぇ、早くやろうよ」♪トトッ
部長「そうですね……ボーカルお願いします」♪ボボ
兄「わかりました」
女「あんたじゃないってば」
兄「ちっ……好きな曲なのに」
部長「ま、また今度お願いします……」
兄「じゃあお客さんもいるし、始めましょう」
妹「ぱちぱちぱちぱち」
部長「うっ……」カチン
女「ひっ……」コチン
兄「なんであからさまに緊張してるんですか?」
部長「そう言えば私たち……」
女「誰かの前で演奏したこと、ない……」
兄「あ、そうなんだ……」
妹「?」
部長「い、妹さんに演奏が終わるまで少し出てて貰っていいでしょうか」ヒソヒソ
女「終わったら入ってもらうことにして」ヒソヒソ
兄「ちょ、ビビりすぎですって」
兄「俺たち、秋の文化祭で演奏がとりあえずの目標でしょ」
部長「はい……」
兄「文化祭なんて何百人の前で演奏するじゃないですか」
部長「はぅう……」フラフラ
兄「少し慣れないとだめですよ」
女「あ、あんたは平気なの?」
兄「俺かぁ……俺は割と野球の試合とかで人前で何かするの馴れてるし」
部長「ず、ずるいです」
兄「客と言っても1人だし、俺の妹だし、気楽にやろう」
女「くー……緊張するよぉ」♪トトッ
女「じゃ、じゃあ行くよっ……」
兄「いち、に、さん……」♪ジャン ジャンジャララ
妹「わぁ……」
部長「(しばらくベースはないから助かります……)」
兄「……」チラ
女「う……♪sometime Ifeel like~……」
妹「わ……すっごく上手っ」
女「♪dont have a partner~……」
兄「いい感じだなぁ」
妹「♪」
女「♪under the bridge downtown I gave my life away~……」
♪ジャーン ジャッ……
兄「ふぅ」
妹「すごーい!すごいよっ!」パチパチパチ
部長「あは、あはあはははは……」
女「ひひはははは……」
妹「な、何で壊れかかってるんですかっ」
部長「す、すごく緊張しました……」
兄「あはは……」
妹「私感動しました。歌もベースもドラムもすっごく上手で」
女「そ、そう……えへへ」
部長「うふふ、嬉しい……」
兄「さりげなく俺が入ってなくないか?」
妹「お兄ちゃんはイントロで少しモタついてたよね」
兄「なんで俺にだけ厳しいんだよっ」
妹「……でも格好よかったよ」
兄「最初から素直にそう言え」
妹「お兄ちゃんの真剣な顔、久しぶりに見たかも」
兄「そんなとこだけガン見するなよ」
妹「また聞きに来てもいい?」
兄「あぁ、良かったら友達たくさん連れてきてもいいぞ」
部長「……っ!」
女「……っ!」
妹「ほんとに?やったぁ」
兄「いや、お前を楽しませるためじゃなく……」
部長「……」カチン
女「……」コチン
兄「こいつらのアガリ症を克服すべく協力して欲しい」
妹「なるほどね」
ごめんなさい火急の用事で出掛けます
再開は遅くなるので落としてもらって良いですもともと乗っ取り?だし
キラ☆キラのような青春ロックンロールSSを書いてみたかった
~翌日・部室~
部長「しかし、昨日は楽しかったですね」
女「うん、人にみてもらうのって楽しい」
兄「たった1人だけだけどな」
部長「数は問題じゃないんですっ!」
兄「まぁそうですけどね」
女「えへへ、また見に来てくれたらいいなぁ」
部長「そうですね、漫然と練習するより張り合いが出ます」
女「今度はもっとたくさんでも平気っ」
部長「ですねっ!どんとこいです」
兄「あぁ、それなら良かった」
女「何が?」
妹「こんにちわー」がララ
部長「あ、今日も来てくれたんですね」
妹の友達たくさん「「こんにちわー!」」ドヤドヤ
部長&女「!?」
兄「入って入って、少し狭いけど」
部長「…こ、これは」カチン
女「な、なんなのぉっ」コチン
妹「お兄ちゃんが沢山友達つれてこいって」
兄「いやー、やっぱり人前で演奏できてナンボかと思いまして」
部長「そ、そそそそうですねっ……」カチン
女「や、やる気にになななってたから燃えるなぁっ!」コチン
兄「カミカミだけど大丈夫か」
デュフ男「グプwwリアルけいおんwwデュフwwカポォww」
兄「お、お前どっかでみたことあるなぁ」
デュフ男「初対面デスwwwクポポポww」
妹「……なんか、話に食い付いてきちゃって……」ヒソヒソ
兄「すげーバンドとか興味なさそうだけどな……」ヒソヒソ
兄「じゃあ演ろうか」♪ジャーン
部長「何を演りますか?」カチンコチン
女「か、簡単なのにしようよ」カチンコチン
兄「むう、10人足らずでこの緊張っぷり」
部長「じゃ、じゃあジミヘンドリックスで『ファイア』を…ボーカルは私がとります」カチン
女「了解……」コチン
兄「まぁ、無難かな」
妹たち「」パチパチパチパチパチパチ
部長「」ヒクッ
兄「カウントお願い」
♪ジャーン……タタッ
部長「お、お粗末さまでした……」
妹「部長さんかっこいいー!」パチパチパチパチパチパチ
\カッコイイー/\キャーブチョウサーン/
兄「好評ですね。やっぱり意外と部長は激しい曲のボーカルが似合いますよね」
部長「そ、そうですかね」テレテレ
デュフ男「ギャップ萌えwwwwwでもジミヘンて誰デス」パチパチパチ
兄「なんでこんなん連れてきた」
妹友「濡れる」ムラムラ
兄「こんなんもいるし」
部長「じゃ、じゃあですね…次は『スタンド・バイ・ミー』ジョン・レノンverを」
兄「了解」
女「じゃあ私が歌うね」
妹たち「」パチパチパチパチパチパチ
デュフ男「意義アリwwww」
兄「なんと」
デュフ男「知らない曲を演奏されても困るデスwwデュフw」
女「『スタンドバイミー』くらい知ってるだろー」
デュフ男「興味ないデスwww」
兄「じゃあ何をやればいいんだ?」
ごめんなさいいよいよ出掛ける
,,..-‐''´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`゙''ー-、
/ ヽ、 \
/ / , , 、 ー-、、 ヽ、 \ ヽ
_,イ// / / \ \ \ 、 ヽ i |
〈ー┴-、__i_i____i ヽ,.イ\ l l |
ヽ  ̄ ̄´i | ヽ ヽ ! ヽ
ヽ ノll| ノll| | | i i i
ヽ |ll| |l| .!.l! .i | | |
`iェ、_ ̄` ̄ 」|l. | | | |
/||ハTヾヤ''ー=l!7:::ヾ\!=彳T´| | | | |
i ∥rl,ゞ''亠―-、.ゞ::ノ_゙゙ | || l | | | |
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|i i ヽ
| サ ン ビ カ = ノ ー ト ン ||. | 、 ヽ
f´`ヾ| | ! ,.⊥ ヽ |
,.ヘ ` 、 ウ ィ ル ス ハ ン タ ー (シングル) !'',.テ⌒iヽ !
>、 \_」i |Z-、 ,イ゙i | |
{ ヽ. ゙、'´ ハンター協会の女医さん .∥ ,ィ'´`Y゙|,!
ヽ ゙ゝ_) 本人は「続きはよ」と困惑中 ..ヽ=彡´ ,ィ'゙ |
(`ー、_) (´_,.∠'´゙) |
`ー-'´ `ー(!〈 ̄´'''´ノ´
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