セリム「白い約束」(153)


※ハガレンSS
※捏造とか色々有


約束の日


プライド「私の中に入って来るなああぁぁぁ!!」

ザアアァッ…!!


エド「これが…プライドの中身…」

プライド「マ……マ……」

エド(プライド…本当のお前は…こんなにもちっぽけで弱々しい姿だったんだな…)

プライド「ア……ウ……」


エド「…剥き出しのまま置いて行ったら風で飛ばされまうな…瓦礫もゴロゴロしてるし…」

エド「かと言って連れて行くのも危険だ…ん?」


……フワッ…パサ


エド「あれは…?」





………そして、約束の日から5年が過ぎた




ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー


旧大総統邸宅

タッタッタッタ……

セリム「あ~!お兄ちゃあ~~~~~~~ん!」

エド「どわっ!?」

どかっ…ズテン!

エド「ははは…おいセリム!客人に突撃すんなって言ってるだろー」

セリム「あ、ごめんねお兄ちゃん!」


夫人「あらエドワード君!また来てくれたのね!」

エド「あ、ご無沙汰しております」

夫人「かしこまらなくて良いのよ。セリムも喜んでるわ」

セリム「うんっ!僕嬉しいな!また遊んでくれる!?」

エド「おう勿論だ。何して遊ぶ?」

セリム「えーっとねえ、えーっとねえ」

夫人「ふふふ…」


ーーーーー

セリム「すう…すう…」

夫人「すっかり遊び疲れちゃった見たいね…じゃ、残された私達はティータイムと行きましょうか。今日美味しいお茶菓子買ってきたのよ」

エド「あ…すみません。ご馳走になります」


夫人「エドワード君にはいつもセリムの遊び相手になって貰って助かるわ」

エド「ああ、いえ、また遊びに来るって約束してましたから……」

夫人「本当にありがとうね…セリムもすっかりエドワード君に懐いて…」

エド「…」


夫人「…最初の頃はね、誰と顔を合わせても泣いてばっかりで…」

エド「…はい、覚えてます」

夫人「中々人見知りがらなくってねぇ。もうあの頃とは違うって分かってるんだけど…」

エド「…」


夫人「だから、エドワード君には感謝してもしきれないわ」

エド「いいえ、こちらも楽しんでいますので、感謝と言う程の事では…」

夫人「…何時までもこちらの話ばかりじゃ申し訳無いわね、そうだ、彼女さんが居るんでしたっけ。そっちの話も聞いてみたいわ!ふふふ…」

エド「え、えぇぇぇ!?」

セリム「んむぅ…何のお話してるの…あ、おやつ食べる!!」

夫人「はいはい、手を洗ってらっしゃいな」


ーーーーー

エド「…あ、俺、そろそろお暇させて頂きます」

セリム「えー…?もう帰っちゃうの?」

夫人「ワガママ言わないの、セリム。もうこんな時間だし、お兄さんにも用事があるのよ」

エド「また来るからなーセリム。楽しみにしとけよ。それでは、夫人……」

夫人「ええ、またね」


セリム「また来てねーー!お兄ちゃん!」

エド「またなー…」

…ギィー…ばたん



エド「……」

エド「はあ………」


繁華街の喫茶店


エド「…もう五時半じゃねえか…待ち合わせは五時っつったのあっちだろ…」

エド「……おっせえな…注文増やしたれ…すみませーん!これとこれのセットを…」

ロイ「……もしかしてそれは私が払うのかね?鋼の」

エド「…もう『鋼の』じゃねえよマスタング大佐殿」


ロイ「ふむそうだな…何時までも過去を引きずってはいけない…なあエド」

エド「気っ色悪いな!エドワードで良いよ!!!」

ロイ「くっくっく…そう言ってくれるな、私と君の仲だろう?」

エド「唯の仕事仲間だ!変な事言ってんじゃねー!大体こんなに遅れてきやがってどこで何してやがった!」

ロイ「何、少々熟したレディ達とお茶を」

エド「このナンパ野郎!」


エド「ほら今回の報告すんぞ!目的はこれだろ!」

ロイ「全くそわそわとあわただしい若者だ。忙しない男は嫌われるぞ」

エド「一言多いんだよ」

ロイ「……それでは、報告をしてもらおうか」

エド「……」

ロイ「…どうした、エドワード」


エド「……あの、さあ………もう止めにしねえ…?」

ロイ「そう言う訳にもいかん。今は大人しくとも、いつまた芽吹くとも限らないのだ」

エド(けど……)

ロイ「さぁ、報告を」

エド「……」


さかのぼる事二ヶ月ほど前


エド『…セリム・ブラッドレイ及びブラッドレイ夫人の身辺警護?俺が?』

ロイ『ああ』

エド『急に呼び出して何かと思えば…。夫人とセリムは今は旧大総統邸に居を構えているんだろ?24時間とはいかなくとも門番に執事に特別警察に…ぞろぞろしてるだろ』

ロイ『…先日、急に夫人が身の回りの使用人を解雇させた。1人残らずだ』

エド『は?』


ロイ『更に、極端に近所付き合いを避ける様になった。買い物は身分と悟られぬ様変装をし繁華街を避け、それ以外は決して外出しないと言う徹底ぶりだそうだ』

エド『……』

ロイ『……万が一荒事に巻き込まれでもしたら…あの広い屋敷で倒れでもしたら……大変だろう?頼まれてやってくれないかね』

エド『…本当の事言えよ』


ロイ『……』

エド『遠回りに聞いてきやがって…はっきりしてくれ』

ロイ『………あくまでこれは私の予想なのだが…』

ロイ『恐らく夫人はセリム・ブラッドレイに異変を感じたのではないかと思う…例えば……プライドが再び目を覚まそうとしている…とか』

エド『……!』

ロイ『使用人を解雇させたのはその為…外出を制限しているのも、身分を隠してまで用事を済ませるのも…他人との接触を極端に減らしたのも……』


エド『…でも!あの日、確かにプライドは……』

ロイ『…ああ、君とプライドが戦ったというのは聞いている。しかし…それは完全にプライドの脅威を消し去ったという根拠になり得るのかね?』

エド『!』

ロイ『人々が安寧を勝ち取った今、少しでも脅威となるものは取り除かなければならない。それがかつて、この世界を地獄に変えようとしたホムンクルスの一味ならば、尚更だ』

エド『……』

ロイ『身辺警護は表向き。本命はセリム・ブラッドレイの監視だ』


エド『……それ、俺がする必要あるのか…?』

ロイ『勿論だとも。夫人は人を、特に軍人を近付けなくなってしまってね。私や准将、かつてのブラッドレイ大総統が側近に置いていたホークアイ中尉も例外なくだ』

エド『……俺、もう唯の人間だぞ。錬金術なんて使えない』

ロイ『君にそこまでしてもらうつもりはない。セリム・ブラッドレイが君に懐いて、完全に害が無いと判明出来るなら御の字だが』


ロイ『…君は、二人に会った事があった筈だ。もしかしたら、夫人は君を信用して中へ入れてくれるかも知れない。顔見知りだし、もう軍属ではないからな』

エド『…もし、信用されなかったら?』

ロイ『ならば君の身内に頼むまでだ。……そうだね、君の弟辺りに』

エド(……!!断らせるつもりなんか無いんじゃねえか…!くそっ!)


ロイ『どうだい?返事は決まったかい?』

エド『………特別手当、出るんだろうな』

ロイ『それは、OKということなんだね?』

エド『一般人に頼んでるんだから、奮発してもらうからな……』


ーーーーー

エド(半ば脅迫だったものの…引き受けてしまって早ふた月が経った…)

エド(それらしい素振りは一切訪れず、こちらに心を開いてくれるセリムと夫人に良心がきしきしと痛む日々が続く…)

エド「…今日、夫人がお茶菓子を買ったって言ってた」

ロイ「…ふむ、外出は三日ぶりだな。どういう銘柄だったのか分かるかね?」

エド「あれは…**通りの橋沿いのある洋菓子店の商品だった…箱に印字されてた」


ロイ「**か…今までと比べると距離が近いな…少し周囲への警戒心が解けてきたのかもしれん」

ロイ「かつて使用人だった者がその姿らしきものを目撃したそうだ」

エド「…それはどこ情報?」

ロイ「先ほどお茶してきたレディからの情報だ」

エド「けっ……」


エド「あと…今日はセリムと鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり…部屋にも入れてくれた」

ロイ「セリム・ブラッドレイの懐柔には成功したようだな」

エド「やめろよ…そう言う言い方…」

ロイ「おっとすまなかった」


エド「なあ、あれから数ヶ月経った。セリムにそれっぽい様子は一向に見られない」

ロイ「…うん?」

エド「もうさ、良いだろ?…夫人は疲れて周りとの距離を取りたかったんだ。きっとそうだ、何たって大切な旦那を亡くしたんだから」

ロイ「エドワード」

エド「人の好意につけ込んで…仲が良いフリして後ろから伺って…これ以上裏切り者みたいな真似したくねえんだよ!」

ガンッ!


ロイ「…落ち着きなさい、客が増えてきた。目立って良い話題ではない」

エド「……」

ロイ「…何か知っているのかね?」

エド「…!!」

ロイ「……」

エド「……俺は」


ーーーーー

エド『…剥き出しのまま置いて行ったら風で飛ばされまうな…瓦礫もゴロゴロしてるし…』

エド『かと言って連れて行くのも危険だ…ん?』


……フワッ…パサ


エド『あれは…?』

ーーーーー



エド「……」

ロイ「…言いたくないのなら、今はまだ構わない」


ロイ「それではそろそろ……」

エド「なあ大佐」

ロイ「…何だね」

エド「もしプライドが目覚めたら…あんたセリムをどうするつもりだ?」


ロイ「その場で殺す」

エド「……!!」

ロイ「もしくは研究機関に回すだろうな。当然の事だ」

エド「……くっ」

ロイ「…これが冷血な判断だと思うなら、君はまだ純情の持ち主だ」


ロイ「今回の報告は以上としよう」

エド「……」

ロイ「しかし随分と注文をとってくれたではないか…やれやれ」

エド「……」

ロイ「エドワード、セリム・ブラッドレイを…プライドを庇いたい気持ちは分かるが、敵か味方かも分からないのだ…同情は禁物だぞ」


店員「ありがとうございましたー」

カランカラン…

エド「……」

ガヤガヤガヤ……


店員「お客様?」

エド「!!は、はい」

店員「…誠に申し訳ないのですがこちらのお客様と相席とさせて頂いても宜しいでしょうか?」

エド「あー……じゃ、今出ます…」


カランカラン…

エド「…長居しちまったな…外がすっかり暗い」

エド「…ホテルに戻るか…ウィンリィにも電話しておかなくちゃな…」

エド「……」

エド「…はあぁ~…俺何やってるんだろ…」


ホテル内

ウィンリィ《エドー!ちょっと何ヶ月振り…?え~と三ヶ月ぶりじゃないの!!》

エド「うるせーなー電話口で大声出すなよ」

ウィンリィ《あっ…ごめんね。で、さあ旅の方はどうなの?》

エド「……まあぼちぼちだ」

エド(ウィンリィには…言えねえなあ……)


ウィンリィ《何か珍しいもの見つけたりした?新型の機械鎧とかさ!》

エド「おーそれはラッシュバレーを行ったときになんぼか見てきた」

ウィンリィ《良ーーーーーなあーーーーー!私も見てみたいーーーっ!》

エド「うっせぇー…今度さ、戻るつもりだからそん時一緒に行くか?」

ウィンリィ《えっ!良いの!?》


エド「おう。いつも電話での土産話じゃ物足りねえんじゃねえか?」

ウィンリィ《うん物足りない!!ありがとーエド!………って言いたい所だけどさ》

エド「?」

ウィンリィ《ごめんね…今繁忙期でさ…しばらく抜け出せそうにないんだ》

ウィンリィ《って可笑しいね!まだいつ帰るかも分からないのにね!へへ…》


エド「……そっか。でもよ、ホント近い内にはリゼンブールに戻るつもりだからよ」

ウィンリィ《うん…待ってるよ…その時になったら…》

エド「ん?」

ウィンリィ《ううん、こっちの話。あ、ばっちゃんが呼んでる…変わろっか?》


エド「いや、今回は良いや。よろしく伝えておいてくれよ」

ウィンリィ《了解!じゃ、そろそろ切るね。あっ!くれぐれも浮気すんなよ!!》

エド「おう」

…ガチャッ ツーツー

エド「浮気すんな、か………」


エド(こちらに帰ってることを告げずに、数ヶ月間そう日を空けずに同じ家を出入りしている…)

エド(これ、浮気だったりしてな…しかも相手はバツがあると来た…ははは…)

エド(…部屋に戻ろう。大佐が伝染ったみたいだ)

エド「早く休んでしまおう……」


ーーーーー

プライド『私の中に入って来るなああぁぁぁ!!』

エド『く…!憎悪の嵐が…!全身に襲いかかる…!』

エド『プライド…今お前をここから解き放……あ………?』

プライド『ああああぁぁぁぁ……』


エド『……あれは……大総統と…夫人?』


セリム『お母さん、お父さん!今度僕の学校で授業参観があるそうです』

大総統『ほう、もうそんな時期か』

夫人『また私が行きましょうか、あなた』

大総統『いや、毎回欠席しては悪いだろう、今回は私が行く』


セリム『本当ですか!?』

夫人『あらあら…教室中が騒然としますわよ』

大総統『はっはっは…』


エド『…プライド…お前…本当は……家族が……』

ーーーーー


チュンチュン…

エド「………」

エド「あの時のことが夢に出てくるとは…女々しいな俺も」

エド「…腹減らねえな…でも食わねえと調子悪くなるし…軽くか、軽く……」

ガチャ トゥルルルル

エド「もしもし、ルームサービス……」


ーーーーー

セリム「あーー!お兄ちゃん!」

エド「おう、また来たぞーセリムー」

セリム「わーいわーい!ねえ今日はどんなことして遊ぶ?」

エド「そうだな~~遊ぶのも良いけど、今日は勉強してみるか?」

セリム「うん!お勉強久しぶりだね」


パタパタパタ…

夫人「あらエドワード君!今日は随分と早くに来てくれたのねぇ」

エド「あっ…すみませんお忙しい時に……」

夫人「ううん、全然構わないのよ!…それであのねえ、ちょっと悪いんだけど、少しお外に行くから、セリムとお留守番を頼んで宜しいかしら?」

エド「はい、構いません。ちょうど一緒にお勉強するって決まったところだったんです」

夫人「あら!セリム良かったわねえ!お兄ちゃんは頭も良いから、沢山学ぶのよ?」


セリムの自室


エド「…よーし、よく解けたな。次はこれ行ってみるか」

セリム「うん!え~っと……」

エド「よしよし……そろそろ二時間か…少し休憩しよう」

セリム「うんっ!」


エド「ちょっと待ってな、今日買ってきたジュースでも入れてくるから、台所借りるぞー」

セリム「…ううん、いらないや…それよりもね、お兄ちゃん」

エド「どうした?」

セリム「…今お母さん、おうちに居ないんだよね?」

エド「…ああ、でもすぐ戻ってくると思うぞ」


セリム「………」

エド「セリム?どうした?」

セリム「探したいものがあるんだけど……」

エド「うん?探し物?そりゃなんだ?」

セリム「分からないんだ…それを見たの、ずっとずっと前だった気がしたから……」

エド「……」


セリム「白いんだ」

エド「…白い?」

セリム「うん…白い布の様な物で…丸くて…懐かしいんだ」

エド「おいおい…懐かしいなんてお子様の言う台詞じゃねえぞー?」

セリム「えへへ…」


エド「…それはこの家にあるのか?」

セリム「うん、きっと……」

エド「そっか……よし、勉強も区切りの良い所まで行ったことだし、今日は探検でもするか」

セリム「…うんっ!!ありがとうお兄ちゃん!」

エド「セリムんちはでっかいお屋敷だからなー、きっと大冒険になるぞ」


ーーーーー

屋敷内、空き室

エド「まずはこのクローゼットから見るか…よっと」

セリム「わあ、箱がいっぱいだぁ…」

エド「よしこの箱から攻めるか!」

セリム「うん!オ~プ~ン!」

ぱかっ…
 ごそごそ…


ーーーーー

ガチャッ…

夫人「ただいま帰ったわよ、セリム~エドワードくん」

ーーーーー

エド「お、帰ってきちゃったな…なあセリム、お母さんにも手伝ってもらうか」

セリム「…駄目…」

エド「駄目って…どうしてだ?」


セリム「前ね…お母さんにその事、言ったことがあったんだ…そしたらね…」

セリム「…凄く怖い顔したんだ…」

エド「……そうなのか」

セリム「だからね、お母さんには…秘密にしておきたいんだ」

エド「秘密、ね…んじゃ、そうするか」


エド「そうと決まったら、お母さんと一緒にティータイムと行くか」

セリム「うんっ!僕、喉カラカラだよお」

エド「さっき飲んどきゃよかったなあ…ドア閉めるぞ」

セリム「は~い」

ガチャッ…ばたん


ーーーーー

エド「それでは、今日はこれで失礼致します」

夫人「今日もありがとうね、エドワード君」

セリム「またね!お兄ちゃん!今度は今日の続きだよ!」

夫人「あらあら、セリムは勉強熱心なのね」

エド「ははは…じゃあな」


繁華街の喫茶店


エド「…今日は時間通りに来たんだな」

ロイ「相変わらず手厳しいねえ。それでは、今日の報告をよろしく頼むよ」

エド「……」


ロイ「ふむふむ…今日は鬼ごっこや隠れんぼでは無く、簡単な計算問題や文字の書き取りなどをしていたと」

エド「ああ、覚えが早くて感心する…頭のいい子だよ、やっぱり」

ロイ「その後は?」

エド「…は?」

ロイ「今この時間までずっと勉強していたとは考えられん、その後は一体何を?」


エド「……」

ロイ「……」

エド「…セリムの部屋で怪獣遊びをしていたよ」

ロイ「なるほど、その頃には夫人は帰ってきたのかね?」

エド「ああ」


ロイ「どこへ行っていたのか、分かるかね」

エド「それは分からない、けど…土産物の焼き菓子は**町の**にある……」

ロイ「ああ、そこか。今回で三度目くらいか、段々人に慣れてきたのだろうな」

エド「…だろうな」


ロイ「今日の収穫はこれで以上かね」

エド「ああ、俺このあと用事があるんだ…もう帰るぜ…」

ロイ「…今日は随分と素直に報告に応じてくれたな、エドワード」

エド「え」

ロイ「何か私に報告漏れは無いかい」


エド「………ねえよ」

ロイ「本当なんだね?」

エド「ああ……」

ロイ「そうか、しかし夫人が社交性を取り戻してくれつつあるのは喜ばしいことだ、うん」

ロイ「少々熟しておられるが、美しい方だからな。引っ込み思案なのは勿体無い」

エド「あんたって奴は…」


ロイ「それでは、私は戻るとしよう。食べ終わったら、遅くならない内に帰りなさい」

エド「あーへいへい」

店員「ありがとうございましたー」

カランカラン…

ロイ「……中尉、居るか?」

リザ「はい、ここに」


エド「腹も落ち着いたことだし、ホテルに帰って寝るか……」

エド「……」

エド(嘘吐いちまった…)


エド(正直に言ったほうが良かっただろうか…セリムと”白い物”を探していたと)

エド(しかしセリムは夫人に言うなと…秘密に…)

プップーー!!!

***「こぉら坊主!歩行者はもっと歩道に寄れ!轢いちまうだろうが!!!」

エド「あっ…すんません!」

エド「…………」


それから何日間か、遊びや勉強の傍らセリムと共に『白い物』を探す日が続く。
狙うは夫人が昼寝をしている時間、外出をしている時間…とにかく、セリムに目を向けていない時間帯だ。


セリムは、何時見つかるかわからないこのスリルを楽しんでいる様子だった。

エド「う~~んこの部屋にもそれらしいものは無いみたいだぞ…」

セリム「うん…でももう残りがママの部屋しか無いよ…」


エド「あ~もしかしたら、敢えて自分に近い所に置いてるのかもしれないな」

セリム「そっかあ。じゃあ行ってみよう」

エド「お母さんは今キッチンか、ティータイムまでには終わらせような」

セリム「分かった!!」


ガチャガチャ…

エド「…鍵かけてるな」

エド(こんな昼間っから?まるで何かを閉じ込めているみたいに)

セリム「……ここの部屋の鍵は玄関前に飾ってあるおっきい絵の裏に隠しているんだ」

エド「そうなのか?」


セリム「えっ?僕、今何か言った?お兄ちゃん……」

エド「えっ………」

セリム「……?」


エド「セリム…もうやめようか、お母さんが鍵を掛けてまで大事に仕舞っているんだからさ」

セリム「え~~~~?鍵ならすぐ取ってこれるよ!僕持ってくる!」

たたたたた……

エド「あ………」

エド(何だったんだ、今の……)


たたたたた……

セリム「持ってきたよお兄ちゃ~~ん」

エド「…」

セリム「鍵を入れて……」

……ガチャンッ

セリム「開いた開いた!早く入ろうお兄ちゃん!」

エド「あ、ああ……」


キイィ……

エド(…蜘蛛の巣が張ってる……物が辺りに散らばっている…埃も積もって…ここで寝ているとは思えねえな)

エド(…今は部屋を使っていなくて、鍵だけ掛けて居たのか…セリムに黙ってまで)

セリム「クローゼット開けたよ~お兄ちゃん早く早くっ」

エド「おう」


ーーーーー

夫人「お湯が湧きそうね…そろそろ二人を呼びましょう」

夫人「お勉強の邪魔しちゃ悪いわね…直接セリムの部屋に行った方が早いわ」

ーーーーー

セリム「この箱にも無い…次はこの箱…!」

エド「………」


ーーーーー

こんこん

夫人「セリム、エドワード君、随分熱心だけどそろそろお茶にしましょう」

しーん…

夫人「セリム?開けるわよ?……居ない…中庭かしら?」

ーーーーー

セリム「お兄ちゃん…」

エド「ん?どうした?この箱にも無かったぞ」

セリム「僕、不安なんだ」

エド「…不安って何がだ?」


ーーーーー

夫人「セリムー?ここなの?…中庭にも居ない……」

夫人「二人して私をからかっているのかしら?ふふふ…」

夫人「まさか……」

ーーーーー

セリム「僕、お兄ちゃんに会ったの、最近だったよね?」

エド「……」


セリム「僕がお兄ちゃんにお勉強教わったの、ついこの間だったよね?」

エド「……」

セリム「思い出しそうなんだ…何か思い出しそうなんだ…」

エド「何かって…?」

セリム「分からない…けど懐かしいんだ……」


ーーーーー

夫人「セリム?この部屋なの?」

夫人「居ない……」

夫人「……セリム!!!」

ーーーーー

がたん

セリム「あれ?こんな所に隠し扉があるよ?お兄ちゃん」

エド「…本当だ…」


がちゃ…

エド「…中に入ってるのはこの箱だけだな」

セリム「もしかしたらこれかもしれない……!早く開けようお兄ちゃん!」

エド「…しかし頑丈にくるんでるな……」

ごそ、ごそ、ごそ………ぱかっ


セリム「!!!!!これだよ、白くて丸いのはこれだお兄ちゃん!!!」

エド「……これは…あの時の…」

ーーーーー

エド『…剥き出しのまま置いて行ったら風で飛ばされまうな…瓦礫もゴロゴロしてるし…』

エド『かと言って連れて行くのも危険だ…ん?』


……フワッ…パサ


エド『あれは帽子…?見覚えがある、たしか…』





  《美しくないですね》


エド『あいつの…キンブリーの帽子……そんな馬鹿な…あいつはプライドの中で消滅した筈だ』

エド『……』

エド『…あいつは変人だった、変わり者だった…これだって奴の気紛れに違いない』

ぽすっ

プライド『ア…ウ…』

エド『少しの間、こいつを守ってあげてくれ…後で迎えに行くからな』


ーーーーー

エド(あの時からずっととっておいてくれていたのか…)

セリム「これだ!これだよお兄ちゃん!わあ嬉しいなあ!ありがとう!」

エド(た…だが、何故こんな鍵まで掛けて隠す必要なんてあったんだ?)


エド「…何故…なあセリム、お前これを覚えてるのか?」

セリム「……ずっと…探しテタ……」

エド「セリム…?」

ばたん!!

夫人「駄目っっ!!!!!!!」


エド「!?ふ、夫人!?」

夫人「セリムにそれを渡してはいけない!!!!!」

エド「……!?」

セリム「……」

夫人「セリム…まだ〝貴方"の意識があるなら、それを今すぐ…」

うぞ……うぞ……


夫人「あああ!!!セリム!!帽子を放して!!!放しなさい!!!」

うぞ…うぞ…

エド「セリムの影が……蠢いてる…いや、セリムじゃない」

セリム「……」

エド「プライド……お前なのか」

夫人「……ああああぁぁぁぁ……」


エド「夫人……これをずっと隠していたのですか…」

夫人「何度…今まで何度あの帽子を捨ててきても…必ず私の元に戻ってきた…」

夫人「あの影が…手放すのを拒んでいるせいで…まるで”置いていかないで”って言ってるように…」


エド「使用人を解雇し、人を遠ざけ、自らも社会と隔絶してまで…」

夫人「一度でもあの帽子を捨てに行く様子を見られてしまったら!!噂になったら…!!…セリムが……!殺されると思ったから…………!!」

夫人「私さえ黙っていればセリムは……!」

プライド「……あ…マ………マ…」

うぞうぞ……うぞうぞ……


夫人「セリム…!」

エド「元に…セリムに戻す方法は…?」

夫人「あ、あの子から帽子を引き剥がして!は、早く…!!」

エド「…セリム、それを放せ、こちらに渡すんだ」

プライド「……」

うぞ…うぞ……

エド(影の動きは鈍い…まだこちらの言う事を聞いてくれるかもしれない)


エド「さあ、セリム、いい子だ……」

うぞ…ぞるぞるっ

エド「!…ぐわっ!!」

夫人「セリムッ!!」

エド(影が差し出した腕を攻撃した…威嚇と…敵と判断されたのか…!?夫人が危ない…!)


エド「夫人!!今すぐこの部屋から……!」

パンッ!

パンパンッ!!

……どさっ


エド「………え………?」

夫人「セ、セリムッ!!?セリム!!!!!」

ぴくぴくっ ぴくぴくっ

セリム「……ウ…」


エド(今…何が…一体何が…目の前で起こったんだ?)

エド(窓から…外から銃声が…三つ聞こえて……セリムが倒れて…)

エド「あ…………」


夫人「セリム!目を覚まして!!お願い!!セリム!!」

セリム「……」

夫人「いやあああああぁぁぁぁぁ!!!セリムーーーッ!!!!」

エド「あ……ああ………」


ガチャンッ!…ドカッドカッドカッ……

ロイ「確保しろ」

部下「ハッ」

エド「…えっ……!?」

ロイ「エドワード、下がっていたまえ」


夫人「あ…貴方達は……!!んむ!!?」

部下「あ!こらっ………暴れるな!」

夫人「んん!!!……」

部下「…ダメです、舌を噛んで自害した模様です」

エド「………!!!!」


ロイ「…一応救急車を手配しろ、それよりもプライドの遺体を回収しておくぞ」

部下「はい。大佐、プライドが所持していた帽子はどうしましょう」

ロイ「それも重要参考品だ。持っていく」

エド「……」


リザ「大佐、戻って参りました」

ロイ「ご苦労だった。きちんと三発とも命中している」

エド「……」

リザ「エドワード君……」

ロイ「……」


エド「いつから見ていたんだ……」

リザ「……」

ロイ「…ホークアイ中尉は君がセリム・ブラッドレイと勉強会を始めたと言った次の日からだ」

ロイ「私と他の部下は君がブラッドレイ邸に接近した時からだ」

エド「……俺がする必要があるんじゃなかったのか…」

ロイ「だが、今の君には錬金術は使えない。こんな事までして貰うつもりは無いと言っていたはずだ」


エド「そうか…あんたは最初から俺のことなんて信用していなかったんだな」

リザ「……エドワード君、それは違…」

エド「最初っから……!!セリムのこと殺すつもりだったんだな!!!」

ロイ「…先に事実とは異なる報告をしていたのは君だ。それに君に何かあったら遅い…だが」

ロイ「予想していたとは言え、プライドが目覚めていたとは知らなかった…これは本当だ」

エド「ふざけたこと抜かしてんじゃねえよ…!」

リザ「エドワード君!!!」

ガンッ


エド「……!!」

リザ「……うぅっ…」

ロイ「中尉!!何故私を庇った!?」

リザ「エドワード君…撃ったのはこの人じゃない。私よ……気が済むまで殴りなさい…」

エド「……」


リザ「どんな理由であれ、私は今人を撃ち殺したわ。抵抗の出来ない小さな子供を」

リザ「今後本当にこの国の驚異になりうるのか…それすら分からない無垢な子供を」

リザ「…その子は貴方ととても仲が良かった…怒って当然よね」

リザ「さあエドワード君、私を…殴りつけなさい」

エド「………」

ロイ「…立て、エドワード」


ロイ「公務執行妨害及び傷害罪だ、拘束する」

エド「………」

ロイ「…付いてこい」

エド「………」

リザ「………」

……ばたん ガチャン……






ーーーーー

夫人『セリムに家庭教師を?そんなに成績が下がったの?』

大総統『いいやセリムは成績優秀だ、家庭教師と言っても教えるのは学業だけじゃないし、遊び相手にもなろう』

夫人『まあそうですの……いつ頃お見えするかしら』

大総統『実はもう既に呼んでおる。おーい』

キンブリー『失礼致します、ブラッドレイ夫人。私、セリム坊ちゃんの家庭教師に携わります、ゾルフ・J・キンブリーと申します』


夫人『まあまあまあ、どうもこれからお世話になりますキンブリーさん』

大総統『早速だが、こいつをセリムに紹介してくる』

夫人『分かりましたわ、後でお茶を持ってこさせます』

大総統『助かるよ』

ばたん


キンブリー『……』

大総統『……』

キンブリー『家庭教師って』

大総統『文句を言うな。貴様が我が家に出入り出来る唯一の方法なのだ』


こんこん

大総統『入るぞ、セリム』

セリム『はいっ!』

キンブリー『……』

がちゃ、ばたん

プライド『…来ましたねキンブリー』

キンブリー『炭鉱以来ですね、プライド』


大総統『それでは私はもう出よう』

プライド『分かりました。何かあれば呼びます』

がちゃ、ばたん

キンブリー『私に家庭教師を頼むとは酔狂ですね』

プライド『君には働いて貰わなければなりませんからね。目の届くところに置いて然るべきです』

キンブリー『そうやって一貫して道具扱いする所、嫌いではありませんよ』


キンブリー『して』

プライド『?』

キンブリー『私は貴方と何をすればよろしいのでしょうか…一応勉強しているというポーズでも取っておかないと夫人に怪しまれますでしょう』

プライド『……錬金術』

キンブリー『錬金術?私のですか?』


プライド『今私の目の前にいるのは君でしょう』

キンブリー『……私の錬金術は場所を選びますよ。この部屋を爆破しても宜しいので?完全に趣味が入ってますから威力の調整は出来ますが』

プライド『…出所する時に』

キンブリー『はい』

プライド『…一人の刑務官の腕にダミーのおもちゃを錬成したと聞きました』


キンブリー『……ああ、しましたね』

プライド『爆破以外も出来るんじゃないですか』

キンブリー『錬金術で何かを錬成するのは基礎中の基礎ですから』

プライド『私にも見せて下さい』


キンブリー『……』

プライド『何です、その顔は……』

キンブリー『いえ…今貴方の顔が一瞬子供らしい表情をしたので……』

プライド『喧嘩を売ってます?』

キンブリー『いいえこれっぽっちも』

プライド『……』


コンコンコン

夫人『セリム、入るわよー…あらまあ部屋中ひよこの人形まみれじゃないの』

セリム『あ、お母さん!この先生、凄いんです!錬金術も使えるんですよ!』

夫人『じゃあ、このひよこ達は全部先生が作ってくださったの?素晴らしいわねえ』

キンブリー『いいえ、まだまだ未熟でお恥ずかしい限りです』

セリム『先生!もっと作って下さい!!』

キンブリー『お安い御用ですよ』


プライド『…なかなか上手いんですね』

キンブリー『基礎中の基礎ですので』

プライド『しかし、何故ひよこなんです?君らしくないと言うか…』

キンブリー『そうですね…幼い頃に亡くした母との思い出でしょうか…』

プライド『……』


キンブリー『冗談です。大体のびっくり箱型おもちゃに入っているのでそれを参考に』

プライド『…私を騙すとは上等です。影で絞め殺してあげましょうか』

キンブリー『おお恐ろしい。やはり母と言うワードには弱いんですね』

プライド『……』

キンブリー『次は何を作りましょうか』


ユニコーン

ペガサス

エンジェル


プライド『えっと次は、この文献に書いていたシンの……』

キンブリー『意外ですね』

プライド『?』


キンブリー『貴方がこう言った…絵本に出てきそうなファンタジックな生き物には興味があろうとは』

プライド『……母が…あの人が昔から、読み聞かせてくれたから…一度立体型で見てみたいなと』

キンブリー『それは素晴らしい。愛されているのですね』

プライド『……』


プライド『帽子……』

キンブリー『はい?』

プライド『君が被っていた…その帽子です』

キンブリー『ああこれですか。これがどうしたのでしょう』


プライド『貸しなさい』

キンブリー『こんなものでよろしければ、どうぞ』

プライド『……ぶかぶかですね』

キンブリー『年齢は貴方の方が上でも、体は私の方が大きいですからね。無理もありませんよ』


キンブリー『気に入りましたか?』

プライド『別に普通です』

キンブリー『それは残念です。もし宜しければ差し上げようかと思っていましたが』

プライド『え?』

キンブリー『どうです?』


プライド『……どうしてもと言うなら』

キンブリー『そうですか』

プライド『でも…』

キンブリー『?』

プライド『……いえ。しっかり聞きました。約束ですからね』

キンブリー『ええ覚えていましょう』


キンブリー『さて時間です。二時間の契約でしたのでそろそろ失礼致します』

プライド『待ちなさい。私も二人の元へ行きます。扉を開けなさい』

キンブリー『かしこまりました』

ガチャ…ばたん



エド『……』

キンブリー『……』


キンブリー『先程から、ずっと見ていましたねエドワード・エルリック』

エド『…意識があるのか』

キンブリー『そちらの方こそ、ここはプライドの深層心理の中です。激しい憎悪の嵐を切り抜けた、本当の底にある、プライドのたった一つの楽園の中です。よくここまで辿り着けましたね』

エド『そんな所にどうしてあんたが?』


キンブリー『簡単です。私は死んでプライドに取り込まれました』 

エド『……』

キンブリー『驚かないのですね』

エド『あんたは早死するタイプだと思ってた』

キンブリー『奇遇ですね私もです』


キンブリー『しかしいざ取り込まれてみると、私には中々居心地の良い場所だったため…こうして自我を保っていられる訳ですよ。ずっとプライドの思い出劇場を見てきましたが…ありがたいことに私とのことも思い出の一部として受け入れてくれてましたね』

エド『…でも』

キンブリー『ええ、貴方がここに居ると言うことは、もうすぐここも消滅してしまうことでしょう』

エド『あんたとこうして喋ってられるのも、これが最期ってことか』

キンブリー『切ないですね』

エド『冗談抜かせ』


エド『プライドと仲が良かったんだな、意外にも』

キンブリー『そう見えますか、実際は子供らしい様子を見せたのは、あれで最後ですよ』

エド『それでも、プライドは楽しそうだったぞ』

エド『あいつを…プライドを子供扱い出来る奴なんて、限られてるだろ』

キンブリー『……』


キンブリー『私にはそう言った暖かい感情は欠落しています』

エド『…?』

キンブリー『だからこそ、掌に錬成陣を彫ることに躊躇しなかったのかもしれません』

キンブリー『これを見た人は、皆私から離れていきましたから』

エド『……』


キンブリー『エドワード・エルリック、一つ頼まれてくれませんか』

エド『……何だよ』

キンブリー『これを、プライドに渡して下さい。プレゼントする約束をしていました』

エド『さっきの帽子か』

キンブリー『ええ』


キンブリー『取り込むのをもう少し待っていてくれたら、きちんと渡せましたのに、せっかちな人です』

エド『……』

エド『…渡せたらな。だって、今のあんた存在していないんだから』

キンブリー『ええ…さてタイムリミットのようですよ』

エド『…おう』






エド「……う…背中いてえ…ここは…」

エド「ああ…軍の拘留所…ホークアイ中尉殴っちまったからな……」

エド「取調室に入るのも久しぶりだったな…」

エド「………」

チュンチュン…チュンチュン…

エド(雀が鳴いてる…そうか……もう夜が明けたのか…)

エド「……」

ロイ「起きたかね、エドワード」

エド「…よう」


ロイ「さっさと顔を洗いなさい。釈放だ」

エド「え……」

ロイ「身元引き受け人が外でお待ちだぞ」




ウィンリィ「エドッ!!!」

エド「ウィンリィ…」

ウィンリィ「この…バカッ!!皆に迷惑掛けて!!!ていうか、こっちに戻って来てたんなら連絡の一つのよこしなさいって言ってるのに!!」

バコーン!!

エド「いってえええ!!!」


ウィンリィ「今朝早くから電話あったから何かと思ったら…あんた喧嘩売られてついつい相手ノしたんだって!?」

エド「え」

ウィンリィ「あんたねーー錬金術が使えないからってあんたの腕っ節の強さは変わんないでしょーが!加減の一つも出来ないの!?全くもーーー!!」

エド「わ、悪い…」

ウィンリィ「私に謝ってもしょうがないでしょーー!」

ロイ「ははは、そんなカッカしなさんな。幸い示談で済んだんだ、それより迎えに来てくれて助かったよ」


ウィンリィ「もう、ほーんとご迷惑おかけしました!そうだ、被害者の方は…?」

ロイ「あちらも余り大事にしたくなかったようで、個人情報は内密とのことだよ」

ウィンリィ「あら、よかったのかしら…」

ロイ「ああ、事件は一件落着だ」


ウィンリィ「ありがとうございます……そうだ、ホークアイさんは居ますか?」

ロイ「…ああ」

ウィンリィ「ちょっとお会いしたいんですが、よろしいでしょうか?」

ロイ「…中の休憩室に居る筈だ、どうぞごゆっくり」

ウィンリィ「あ、いえ、すぐ戻りますんでー」

タタタタ……


エド「……」

ロイ「……彼女には秘密にしていたんだな」

エド「言えるはず無いだろ」

ロイ「そうだな……」


ロイ「あの後すぐにプライドの遺体を解剖したのだが」

エド「……!」

ロイ「肉体自体は、普通の子供の体だった」

エド「……そうか」

ロイ「コアと疑っていた額の出来物も、若干の生活反応を見せたが、プライドのそれとはまだ判断出来ない。結果待ちの状態だ」


ロイ「そして覚醒を引き起こしたと思しき、あの帽子だが」

エド「……」

ロイ「製造、販売元を確認した結果、キンブリーの私物だったと断定された」

エド「…そっか」


ロイ「君の言っていた通り、プライドとキンブリーが接触したという証言は、当時使用人だった者からも確認できた」

エド「……」

ロイ「…さっきから不気味なほど落ち着いているな」

エド「…怒ったところで、もう…どうにもならねえよ」

ロイ「…ああ、そうだな……」


たったったった…

ウィンリィ「エドーおまたせー!んじゃ、家帰ろっか!!」

エド「おう早かったな」

ロイ「また来てくれたまえ。可愛らしいお嬢さんならば何時でも大歓迎だよ」

エド「おい!!」

ウィンリィ「あはは!ま~たお上手なんだから~~!それじゃ、お世話になりました~!」


ウィンリィ「帰りにばっちゃんからお土産買ってこいって頼まれてんだ、買い物付き合ってね」

エド「おう」

ウィンリィ「あ、あと今日はあんたが帰ってきたし今夜はご馳走だわね。荷物もガンガン持って貰うからね!」

エド「おう」

ウィンリィ「…?元気無いね」


エド「…そんなことねえよ」

ウィンリィ「うっそー!そんなに暗い顔しちゃってさ!わかり易いのよ!……まだ相手の事、気になる?すっきりしない?」

エド「…」

ウィンリィ「本来なら、身内の私も一緒に謝るべきだったかな?でもロイさんももう解決だって言ってたし…」

エド「だ、からもう良いって」


ウィンリィ「……んふ」

エド「何だよ、ニヤニヤしてさ」

ウィンリィ「沈んでるあんたに、元気が出てくる事言ってあげる。ホントは帰ってから言うつもりだったんだけど…」

エド「は…?」

ウィンリィ「実はね私…妊娠してるの」


ウィンリィ「ほら、三ヶ月前、二日くらいだったけど一度帰って来たじゃない?お腹の中も、もうすぐ三ヶ月だって!」

ウィンリィ「ね?ね?元気出た?出たでしょ?あんたもうすぐお父さんになるのよ!!私はお母さん!!」

ウィンリィ「……エド?」

ウィンリィ「泣いてるの………?」


エド「……」

ウィンリィ「え、やだどうしたの?…赤ちゃん嫌だった?」

エド「…違う、違うんだ」

ウィンリィ「……はっは~~ん、嬉し泣きってやつね?全くだらしないんだから~」


ぎゅっ

ウィンリィ「…!エド、ここ公道……」

エド「……」

ウィンリィ「…しょうが無いわね。落ち着くまでこうしてて良いわよ…」

エド「…ああ…」






何人もの人間が通り過ぎていく中で、俺の嗚咽はすぐにかき消されていった。




おわり

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年11月13日 (水) 15:58:06   ID: QLHv3A-w

どうしてもエドと大佐の会話の時たて読みで「エロエロエロ」って読んでしまうwwww

2 :  SS好きの774さん   2015年10月10日 (土) 03:28:49   ID: 6H72M88y

なんと切ないssであろうか。
アームストロング少佐も裸で泣いていらっしゃるのでは。

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom