エドワード「賢者の石の手掛かりを探しに巨人の街へ行く」 (170)

エドワード「――と、大佐に反対を押し切って探索を敢行したはいいものの…」

エドワード「ここ一帯、なンっっっっっにも無えじゃねえか!!おい!」ゼエゼエ

アルフォンス「クレタ国の最南部…こんな所、クレタ国内の人でさえあまり足を踏み入れないって話だよ」

アルフォンス「それも大佐が言ってたことじゃない」

エドワード「聞いてなかった」ゼエゼエ

アルフォンス「…」

エドワード「大体、巨人なんて存在自体、いるかどうか疑わしいもんだが…」

アルフォンス「この辺りに来るのはテーブルシティ以来だね」

エドワード「…ああ。そうだな」

エドワード「……」

エドワード「もう少しで、巨人に蝕まれた『壁の牢獄街』か…」

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エドワード「つうかお前そろそろおぶれ」ゼエゼエ

アルフォンス「『我が弟を交通手段の道具として行使するのは兄としてこの上なく忍びない、断る』って言ってたの、兄さんじゃないか」

エドワード「前言撤回」

アルフォンス「駄目」

エドワード「…」

エドワード「そもそもおかしかねえか」

アルフォンス「僕の言ってることはいつも正論、兄さんが誤論」

エドワード「違う!」

エドワード「『壁の牢獄街』だ」

エドワード「いかに危険地帯といっても、ここまで情報が足りてねえのはどういうことだって話だよ」

エドワード「何でもその街は巨人を防ぐために周りをどでかい壁で囲んでいるんだと」

エドワード「ならまず前提として巨人の存在が必要になる」

エドワード「で」

エドワード「そんな目撃情報、耳にしたことあるかよアル」

アルフォンス「うーん…無いね」

エドワード「まあ、ガセであろうと思しき胡散臭え情報に縋るしかねえ俺達も俺達なんだがねえ」

エドワード「希望の種は、余さず縋り尽くす」

アルフォンス「……うん。そうだね」

エドワード「おぶって下さる?」

アルフォンス「真面目な話を挟んでも駄目なものは駄目」

エドワード「鬼!」

アルフォンス「……でも兄さん、こういうことも考えられるんじゃない?」

アルフォンス「例えばその『巨人に蝕まれた街』に近付いた者は残さず巨人に食べ尽くされ、生きて帰った人は一人としていない」

エドワード「まあガキでも辿り着く発想だが…だとしても調査に向かった人間が返ってこないっていう至極単純な形跡が発生する。誰もがその存在に気付くこともなく、まるで『人類未開の地』であるかのように、包まれた謎のベールに触れることさえできないなんてのは、有り得ねえんだよ」

アルフォンス「だとしたら…」

エドワード「ガセの確立が99パーセント強ってところか」

アルフォンス「…でも」

エドワード「ああ」

エドワード「何かしらの事情で、その『巨人』に関する情報の一切を隠蔽している人物、或いは集団…組織が存在していることになる」

エドワード「仮にそれがビンゴだとしたら、なあアル?」

エドワード「こいつは相当にきな臭え話だとは思わねえかよ」ニヤリ

アルフォンス「思う。思うッ」

アルフォンス「賢者の石に纏わる情報はいつも闇の中…」

エドワード「そういうこった」

エドワード「……問題は『巨人』なんてものがいるとするなら」

エドワード「どうやって戦うよ? 下手するとホムンクルスより手が付けられねえ可能性だってあるぞ」

エドワード「なあアル? それを今から実戦で考えてみよう…」

エドワード「ぜ!!」

――パンッ!

エドワード「エドワード・エルリック特性のハイセンスデザイン、石の槍は効くかなッ!?」

バシンッ!バチバチバチ…

巨人(15M)「オオオオオオオオオオオオ!!」ズシン!

アルフォンス「うわああああああ!本当にいたああああああ!!!?」

アルフォンス「大きいよ!大きいよ兄さん!!!」

エドワード「誰が(あのとてつもなく大きな巨人にひきかえこのちんちくりんな)ミジンコだあッ!?」

アルフォンス「曲解にも程があるよ兄さん!」

巨人(15M)「オオオオオオオオオオオオ!!」ズシン!

エドワード「喰らいやがれエドワードスピアー!!!」ビシュッ!

巨人(15M)「」グサッ

巨人(15M)「……」

巨人(15M)「ガ、ア」

アルフォンス「ほぼ無反応…」

エドワード「おいおいおいおい嘘だろっ」

巨人(15M)「ゴオオオオ」ヒュッ

アルフォンス「! 拳、来るよッ」

エドワード「そいつぁ良かった。火炎放射でも口から吐き出された日にゃたまったもんじゃねえからな!」

――パンッ

エドワード「この荒野の広さ、練成に使うものの質量は多けりゃ多いほど良い…」

エドワード「石の巨壁…」

エドワード「――だぁ!!!!」

――バシィンッッ!!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴ……!

ドゴォンッ!!!

巨人(15M)「……?」フラッ

アルフォンス「防いだ!」

エドワード「アル!」

アルフォンス「うん!」

アルフォンス「」パンッ!

アルフォンス「あの大きさの巨人を閉じ込めるには…」

アルフォンス「大きい石の檻じゃないとね!」

――バシィン!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

巨人(15M)「ガ……ア?」

ゴ…ゥン……!

アルフォンス「やった!」

エドワード「んでその檻ごと…」パンッ!

エドワード「対抗して石の巨人がぶっ潰す!!」

――バシィン!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

エドワード「…」

エドワード「神の鉄槌喰らっとけ」

――――ドォ!!!!

シュウウウウウウウウウ…

巨人(15M)「」

アルフォンス「仕留めた…みたいだね」

エドワード「でかい奴を相手にするにはでかい錬金術。疲れるな…」

アルフォンス「でもまるで鈍い。これじゃ、ただの的だよ。僕ら錬金術師が相手する分には何とかなりそうだよ」

アルフォンス「怖いけど…」ガクガクブルブル

エドワード「だがアルよ。1パーセント弱の希望ってやつが俺達に微笑んだみたいだぜ?」

アルフォンス「或いは絶望の泥沼に片脚を突っ込んでるかもしれない現状だけどね…」

シュウウウウウウウウウ…

エドワード「その泥沼の中に潜らねえと希望なんてのは掴み取れねえんもんだぜ弟よ」

シュウウウウウウウウウ…

アルフォンス「そりゃそうだけ…ど」

シュウウウウウウウウウ…

エドワード「おいどうした」

シュウウウウウウウウウ…

エドワード「ア……ル…」

シュウウウウウウウウウ…

アルフォンス「兄さん…巨人から、蒸気が」

エドワード「傷が…再生してやがる……」

巨人(15M)「グアアアアアアアアアアア!!」

エドワード「……」

アルフォンス「……」

エドワード「マジモンの不死身かよおい。本当にホムンクルス並の強敵なんじゃねえか、これ」

アルフォンス「そもそも巨人の正体は何なんだ…」

エドワード「合成獣(キメラ)と同じ原理か…」

エドワード「もしくはホムンクルスみてえに体内に賢者の石を宿した奴か…」

エドワード「肉体が再生したことから後者の可能性が濃厚だが」

エドワード「仮に前者でガチなのだとすりゃ…」

エドワード「賢者の石云々を抜きにしても」


エドワード「――この件、徹底的に調べつくす必要があるな」ギロリ


アルフォンス(ニーナの事…まだ重く引きずってるんだ)

アルフォンス(タッカーさんのような真似をする奴がこの街にいるのだとしたら…)

アルフォンス「行こう、兄さん。『壁の牢獄街』へ」

エドワード「たりめーだ!」パァン!

ウォール・シーナ ストヘス区
憲兵団施設の一室


アルミン「――エレン?」

エレン「…」

エレン「……」

エレン「……!」

ミカサ「!」

アルミン「良かった、気付いた」

ミカサ「エレン…!!」

エレン「…………ここは…」

アルミン「憲兵団支部の施設」

アルミン「今この上で、団長含む、兵団の上官達が会議を行ってるよ」

アルミン「…この先、どうなるんだろうね」

アルミン「アニが…女型の巨人だったこと。壁の中に巨人がいたこと」

アルミン「手掛かりになりそうなものは結局…何も得られなかった」

アルミン「アニは突如発生させた謎のクリスタルの中で眠ったまま目覚めそうにも無い」

アルミン「ただいたずらに人が死んで…辿り着く所はまた新しい謎なだけ」

アルミン「僕らはまだ…巨人の何も、知らないんだ」

アルミン「……」

ミカサ「アルミン」

ミカサ「あまり考え過ぎないで。私達は生き延びた。生き残った」

ミカサ「それだけでいい」

ミカサ「今は他に、何もいらない」

アルミン「…うん。そうだね」

アルミン「人類の希望であるエレン。僕の、ミカサの、大切なエレンが、今…ここにいる」

アルミン「それで、いいんだよね。今は…」

アルミン「そう。今は…凄く……疲れたんだ。身体も、頭も。起こった事に。起こり得る事に」

エレン「…………ぐ…、」ムクッ

ミカサ「! エレンっ」ガバッ

エレン「ミカサ…お前、どけ。いつもいつも、一戦の度、俺だけ暢気に寝てる場合じゃ……」

アルミン「駄目だ、エレン」

アルミン「巨人の力はそれを使役する人間を酷く疲労させる。間違いない」

アルミン「エレンの身体に何か異常をきたされでもしたら、また何か起こった時の対処手段に大きな損害だ」

アルミン「逸る気持ちは抑えて、とにかく今は身体を休めよう」

アルミン「ジャンの言葉を借りる訳じゃないけど…何も死に急ぐ必要なんてないんだ」

エレン「……、」

エレン「…くそ」スッ

ミカサ「いいから横になって」グッ

エレン「分かったから、怪力で抑え付けるな!」

アルミン「躾、だろ」

ミカサ「寝て」

エレン「ちっ…」

エレン「…アニ」

ミカサ「何?」

エレン「アニは、氷漬けの眠り姫になって…そして、どうなった?」

アルミン「地下の深い所に収容されてるよ」

アルミン「監視の下…アニは眠り続けてる。何も聴き出せやしないだろうけど」

アルミン「油断で事が起きてからじゃ遅いからね。慎重が過ぎることはないと思う」

エレン「その、手に持ってんのは?」

アルミン「ああ…これかい」スッ

アルミン「ハンジ分隊長から預かった。アニを覆う水晶体の欠片だよ」

アルミン「刃でいくら叩き付けても切り付けてもかすり傷ひとつ付かない、大した強度の布団だけれど…」

アルミン「何だろう。何かの拍子で一欠片だけね…」

アルミン「頭を捻ってみてくれって。分隊長が。こんなの、推測のしようが無いよ、本当」

アルミン「僕にはただの…少し綺麗な石ころにしか見えない」

アルミン「人類を護る壁、アニの水晶体、……硬化の証明物のひとつでしかないよ」

ミカサ「…綺麗」

アルミン「うん。そうだね」

エレン「…確かに、綺麗だな」

アルミン「」

ミカサ「」

エレン「……何だよ」

ミカサ「似合わないこと言わない」

アルミン「凶暴なエレンにもそんな感性が備わっているものなんだ。ちょっと関心」

エレン「お前らなあ…!」

エレン「…」

エレン「ただ憎しみばかり生み出すように見えて、巨人にもこんな綺麗なもんを作り出してしまえる力があんだなって。そう、思ったんだよ」

アルミン「ますます、似合わないよ」

エレン「うっせえ!」

アルミン「……はあ…」

アルミン「こんな凶暴な少年は世界のどこを探してもそうはいないだろうね。例え片腕片脚吹っ飛ばされたって、きっとエレンは吼え続けるよ。たくましい限り

さ」

エレン「今日はやけに冗談が出てくるじゃねえかアルミンよ…。よっぽど参ってんのか」

ミカサ「エレンは早く寝る」グッ

エレン「十分安静状態だろうが!痛えから押さえ付けんなっての!!ミカサ!」

アルミン「…」

アルミン「石、で思い出したけど」

エレン「何だよ」ゼイゼイ

アルミン「何かの文献を読み漁ってた時にね。面白いものを見付けたんだ」

エレン「本には興味ねえな」

アルミン「まあ聞きなって」

アルミン「――『賢者の石』って言葉を、耳にした覚えはあるかい」

エレン「ねえ」

アルミン「世界のどこかに存在する『錬金術師』が欲してやまない、幻のアイテムさ」

ミカサ「錬金術?」

アルミン「そう」

アルミン「要は科学的に物質を変化させる技術だよ」

アルミン「そして『賢者の石』とは、鉛を金に。人を不老不死に。物質を『完全なもの』に作り変えてしまう、錬金術の究極点に位置するもののことさ」

アルミン「ある意味、僕らからすれば、巨人以上に未知の存在だろうね」

アルミン「考えるんだ」

アルミン「もしも壁の外に、世界に繰り出せる、その日が来たら」

アルミン「本の中でしか知らなかった、人の空想なんかじゃない、きっと、いや紛れもなく在るであろう真実の数々をこの目で確かめるんだ、絶対に」

アルミン「巨人との戦いを生き抜いていく中での、ひとつの、やる気、生存意識を保ち続ける装置さ」

アルミン「それがあるからこそ僕は、過酷な戦いの中でかろうじて自我を持ち続けていられるんだと思う」

アルミン「知りたいこと、いっぱいあるんだ」

アルミン「壁の中で謎解きに頭を捻らせて終える一生なんてごめんだ。僕は自由なんだから」

アルミン「そうだろ?エレン」

エレン「…………ああ、その通りだ」

エレン「おいアルミン、その話、もうちょっと詳しく聞かせてくれよ」ガバッ

ミカサ「エレンは寝る」グイッ

エレン「痛っ!つうかお前もうどっか行け!お前がいると気が休まらねえ!」

ミカサ「……まさかその台詞をエレンの口から聞く日が来るとは思わなかった」

アルミン「常に事の当事者に立つエレンにね」

エレン「言いたい放題だなお前ら!!」




――バンッ!!!

ジャン「おい!お前ら!!」

ウォール・ローゼ トロスト区
街中


『――な、何なんだ奴らはァ!!!?』

『切っても切っても平然と傷を再生させやがるっ。おまけに……弱点の首筋を突いても死なねえんだ!』

『あ、あんな…俺らと変わりないサイズの化け物…ありなのかよ』

『小さい巨人?…く、くそ、矛盾してやがる……。喋るし、何なんだ…どうなってんだっ』

『構えろ!立体機動で距離を取れッ!!』


――――パリッ、パリッ


「――ふう」パリリッ

エンヴィー「どいつもこいつも。そんな皆して一斉に切り付けなくたっていいじゃん。こっちの命だって無限じゃないんだし。再生してる姿は仰るとおり化

け物じみててみっともないし」パリッ―…

エンヴィー「それにしてもさあ。聞いてたよりずっと面白い所だねえ、ここ」ニヤリ

エンヴィー「道中、本気出したグラトニーよりでっかい化け物がうようよしてたしさあ」

エンヴィー「ホムンクルスでもないのになかなか死んでくれないしさあ」

エンヴィー「やっと壁の中に辿り着いたと思ったらこの歓迎振りだもん」

エンヴィー「いつになったら『人柱』を生け捕りにできるやら」

エンヴィー「――エレン・イェーガー」

グラトニー「こいつら食べていい?食べていい?」

『こ、こっち見たぞ!構えろ!構えろ!!』ジャキッ

『弱点を突いても死なない!どうすればいいんだ!!?』

『聞いただろ今!無限じゃないって!致命傷を与え続けろ!一斉だ!!!』

ワーワー…

エンヴィー「…」

エンヴィー「ああ。皆○しだ」

グラトニー「」ニイ…

『――――報告ですッ!!』

ウォール・シーナ ストヘス区
憲兵団施設 会議室


ザワ…ザワ…

ハンジ「はは…今日は何かい。とことんついてない日みたいだ」

ナイル「女型との対戦直後だぞ…。多くの兵が慢心相違、疲労困憊だ。ストヘス区内で暴走した女型とエレン・イェーガーの影響によって負傷した憲兵も多い」

ナイル「どうするんだっ? おい、エルヴィン…」

エルヴィン「……」

エルヴィン「壁の内側に、巨人と非常に酷似する再生能力を有した人外が二体…」

エルヴィン「紛れも無くエレンの名を発し、そして今まさにここへ向かっている…」

エルヴィン「巨人との絶対的差異は弱点であるうなじを削いでも構わず再生してしまう点……、まさに不死と言ったところか」

リヴァイ「呆れたモンだな…。或いは人類滅亡の危機はすごそこに迫ってるかもしれねえ訳だ」

ナイル「リヴァイ!!」

リヴァイ「分かるだろ? おい…」

ナイル「? …! ……、」

ハンジ「冗談じゃあないかもしれないよ」

ハンジ「大嵐の後には静けさも無くまた更なる災厄が人類を陥れようとしている。それに打ち負かされるかどうかは、戦える人間の意志にかかってるよ」

ハンジ「戦い続ける限りは、まだ負けてない」

ハンジ「今回は四の五の言わずに憲兵にも協力を強いさせてもらうよ。ナイル」

ハンジ「できる限りに兵を招集しよう。崖っ淵の戦いだ」

アメストリス 中央(セントラル)
軍 中央司令部


リザ「マスタング大佐ならクレタ国南部へ向かってるところよ」

ウィンリィ「へ? クレタ? また? どうして?」

ウィンリィ「まさか…」

リザ「エルリック兄弟を

ウィンリィ「やっぱり!!! あの馬鹿、また周りに迷惑ばっか掛けて!!」

リザ「…」

リザ「でも今度は完全に大佐単独で目的地に向かうみたいよ。私も同行したかったけれど、今回に関しては完全に極秘で動きたいからって」

リザ「テーブルシティの時みたいに一緒に、とはいかないわ。エドワード君が心配かもしれないけど…暫くはセントラルで様子を見ましょう」

ウィンリィ「…大佐はどうして単独で?」

リザ「分からないの」

ウィンリィ「……」

リザ「本当よ、本当に。大佐は側近である部下相手でも、話さないこと、あるの。巻き込みたくないような案件になるとね」

ウィンリィ「それだけ、危険って事ですよね…」

リザ「……そうね」

ウィンリィ「いいんですか? 追い掛けなくて…」

リザ「ここにいることで大佐の身を護れるのであれば、追い掛ける選択は断念するべきね」

ウィンリィ「ここにいることで?」

リザ「大佐の動向を周囲に嗅ぎ付けられないように私があの手この手で情報操作してるのよ」

リザ「単独、という点で強く念を押されたということは、今回の動きが知られてはまずい事柄が少なからず存在しているということ」

リザ「なら私の仕事は決まっているわ」

ウィンリィ「…」

ウィンリィ「リザさんは凄いです」

ウィンリィ「きっと全てを口に出して命じられた訳じゃないんですよね。それでも、何をどうすべきか、最善の手段を冷静に考え出して、即時に行動に移してる」

ウィンリィ「大切な人を護るために」

ウィンリィ「私なんか、心配になっちゃうと、いても立ってもいられなくなって、声を荒げて呼び止めちゃいます」

ウィンリィ「『行かないで』…って」

ウィンリィ「でもリザさんは」

リザ「いえ…」

ウィンリィ「?」

リザ「いつでも冷静になんて、いかないわ」

リザ「平静を欠いて、ホムンクルスの一言に一時は打ちひしがれた……そんなこともあった」

リザ「それに、ウィンリィちゃんなら大丈夫」

リザ「あなたは大切な人の背中に、追い越すことも無く、見送ることも無く、その後ろにずっと着いていられる優しさがある」

リザ「私にはそう見えるけれど?」

ウィンリィ「…そうなのかな」

リザ「そうよ」

ウィンリィ「なら私は、今回もあの二人をここで待つことにします」

ウィンリィ「どうせまたズタボロになった機械鎧を修理しなきゃいけませんから。中央で帰りを待つのが、二人にとっても私にとっても、最善の選択」

リザ「ええ」

ウィンリィ「……それにしても、大佐は目的地すら言わずに行っちゃったんですか?」

リザ「確かに、クレタ南部『のどこ』へとまでは口にはしなかったけれど…」

リザ「やっぱり推測の立つ処は、あそこしか考えられないわ」

ウィンリィ「あそこ?」

リザ「…」

リザ「――『壁の牢獄街』」

ウィンリィ「壁の…牢獄街?」

リザ「クレタ最南部には、50メートルもの高さを誇る巨大な壁に囲われた地域が存在するらしいの」

リザ「その壁はとてつもなく強固で、円状に、そして幾重にもそこの人々を覆い、全く敵を寄せ付けない、まるで世界から隔絶されたような場所……と云われてる

わ」

リザ「よって壁の中は壁相応に強固な情報守秘力を備え、その中の世界を知る人は外部には存在しない可能性すらある…らしいの」

ウィンリィ「まるで…異世界ですね」

ウィンリィ「でも…『云われてる』とか『可能性がある』とか『らしい』って…、どうしてそんなに未確定な事ばかりなんですか?」

リザ「『巨人』の存在よ」

ウィンリィ「…………巨人?」

リザ「壁の牢獄街…、別称『巨人に蝕まれた街』」

リザ「その巨人なる存在が、壁に近付いた者全てを退ける役目を果たしているのかもしれないわね」

ウィンリィ「で、でも、」

リザ「ええ。『巨人をこの目で見た』なんて話は、私も聞いたことがない」

リザ「街…壁の中の世界、その周囲に在る『巨人』、全てひっくるめて、謎なのよ」

ウィンリィ「この世界に…そんな場所があっただなんて…」

リザ「それでも噂は存在している」

リザ「事実、『存在しない』という断定意見すら、存在しない」

リザ「言うならそこは、人類未開の地ね…」

ウィンリィ「そ、そんなのおかしい…」

ウィンリィ「在るかも分からない。無いかも分からない。そんなのって、おかしいですよ」

ウィンリィ「だって…行けば分かるじゃないですかっ。巨人がいたのなら死者発生の情報が、いないのなら壁自体の存在だって確認ができるはず…。壁も無かったのなら、その噂は出任せとして風化する…」

ウィンリィ「何にも分からないなんて、おかしいですよ!」

ウィンリィ「そんな危険な所にエドとアルが…大佐まで……」

ウィンリィ「…、」ソワソワ

リザ「……この事は深く話さなくてもよかったかもしれないわね」

ウィンリィ「リザさん…」

リザ「もしかするとそこはパンドラの箱なのかもしれない」

リザ「クレタは自国内の領土に関して一切口を開こうとしない」

ウィンリィ「そもそもアメストリスとクレタって、そんなに仲が良い訳じゃないですしね…。国境付近の争いも絶えないって聞きます」

リザ「それにしても…牢獄街に関しては異様な情報隠蔽よ」

リザ「上級術者である国家錬金術師…。パンドラの箱に触れるに値する人間は、そうであるべきだと思うの」

リザ「特異な能力の会得者でない者…非力な者…ましてや一般人は、絶対に近付かないほうがいい」

リザ「今回は私はあなたに付いて行けない。あなたを守れない」

リザ「分かって」

リザ「あなたも女性であるのなら、待つ強さを身に付けるべきよ」

ウィンリィ「…はい」

リザ「この世界はあまりにも謎が多すぎる…」

リザ「巨人…ね――」

リザ(大佐…)

マスタング「巨人…か――」

パカラッ、パカラッ……

クレタ国 最南部付近 荒野


――危険です!そんな訳の分からない所に…大佐一人を連れて行けません!!

――大体…この前のホムンクルス戦での大火傷で、まだろくに事務仕事もままならない程の酷い具合じゃないですかっ

――私には部下として、右腕として、あなたの補佐を勤める義務と権利があります

マスタング「…」

――必ず、帰って

――…ください

マスタング「…ふん」

マスタング「中尉め…。いつになく弱々しい顔をしたじゃないか…」

マスタング「ホムンクルスに私が死んだと告げられた時の中尉は…もっと弱った表情をしていたのだろうな…」

マスタング「あれほど強く引き止められるのはやはり嬉しいものがあるな。ドラマがある」

マスタング「…」

マスタング「連れて行けるか…何人たりとも」

マスタング「これは私一人でやるべきだ」

マスタング「全てが謎なんだ…巻き込める道理がない」

マスタング「中尉は恐らく情報隠蔽に勤しんでいるのだろう。単独行動を強調したのはミスリードだ」

マスタング「まあだが知られて困ることは事実なのだから在り難い手回しであることに違いはない」

マスタング「本命たる理由は『巨人』の存在にある…」

47の「連れて行けない」は文脈的におかしいです
「放っておけない」と考えてください

マスタング「巨人の街へ私が向かうことの何を周囲に隠す必要があるのか。中尉はそこに思考を傾けるだろう」

マスタング「キーワードは『人柱』だ」

マスタング「私、そして恐らくは鋼の…或いはエルリック兄弟二人とも」

マスタング「命を奪うチャンスはホムンクルス側にはあったのだ。私や鋼のも」

マスタング「病院で聞いたアルフォンスの話によれば、鋼のは元第五研究所で。私は女ホムンクルスとの戦闘直後の入院期間に」

マスタング「生かされているのだ。奴らに…」

マスタング「何の目的があってのことかは知らんが、ヒューズが残した軍の危険性と恐らく無関係ではあるまい」

マスタング「上層部にいるであろう軍を脅かす存在…組織などが仮にホムンクルス側と絡んでいるのであれば、『人柱』と思しき私や鋼の動向を奴らが常時把握していることは難しくない」

マスタング「それを仮定した上で、もしホムンクルス勢に私や鋼が『壁の牢獄街』に向かっていると知られれば…」

マスタング「『人柱』の匂いを嗅ぎ付けるに違いない」

マスタング「思うに、『人柱』の基準とは……」

マスタング「――『人の外に値する人間』を指しているんじゃないか?」

マスタング「となれば、その『巨人』に近しい存在が『人柱』の候補に挙がる可能性は極めて高い」

マスタング「推測を進めれば、『巨人』にも様々な種類がいるのだと思われる」

マスタング「考えても見ろ。『巨人』だぞ?そんなものが自然に発生する筈がない。ならば」

マスタング「そこには『賢者の石』が関係していると見ていいだろう」

マスタング「つまり『巨人』を何らかの手段で、妥当な点だと『賢者の石』を用いて生み出しているのではないか?」

マスタング「『巨人』という存在の中核に、『人柱』はいる。私はそう考える」

マスタング「鋼の望んだとおり、『壁の牢獄街』には『賢者の石』が関わっているのかもしれんが…」

マスタング「派手に動いてその新しい『人柱』の存在を奴らに察知させてみろ、軍の危険性はより増す展開になるに違いない」

マスタング「そうなれば行く行くは国の危機だ。最悪の展開だろう。それはまずい」

マスタング「『巨人』の存在をよりにもよって鋼のが証明してはならない」

マスタング「パンドラの箱を開ければ世に災厄をもたらす」

マスタング「鋼がそれを証明せずともいずれは明るみになることなのかもしれんがな…」

マスタング「何もそれが『今』である必要はないのだ。こちらが何か真相を解き明かしてからでなくては、これからもホムンクルス勢に対し全てが後手後手になる」

マスタング「ヒューズの轍を踏ませるわけにはいかない」

マスタング「私や鋼の動向以上に、『巨人』とやらの存在を奴らにバラしてはならん」

マスタング「『巨人』とやらが実在すれば、そのような人外、上級国家錬金術師でなくては太刀打ちできんだろう。一般の軍人は巻き込めん」

マスタング「そして実在するにしてもそれが公にならなければいいのだから、極力目立たないよう単独で動く必要もあった。尚のこと一人で行動する必要性が強まる」

マスタング「分かってくれよ中尉…」

マスタング「おまけにこの怪我だ」ズキン…

マスタング「とにもかくにも穏便に済ましたい。鋼のを消し炭にしてでも連れて帰らねば…」

マスタング「鋼が早くに探索に出なければ、或いはそれ以上に早くこの推測である結論に達していれば、こんな面倒を負わずに済んだものを…」

マスタング「ただひとつ分からない事は…」

マスタング「『巨人』に関する情報隠蔽についてだ」

マスタング「デマなのか事実なのかすらも隠蔽する」

マスタング「『巨人』の存在に対する疑念すら浮上させないためだろう」

マスタング「誰が?何のために?」

マスタング「ホムンクルス対策…?」

マスタング「クレタの人間がか?考え難い…」

マスタング「やはりこの推測の仮定で何か根本的な間違いがあるのか…?」

マスタング「…………、」

マスタング「――ッ!?」パカラッ

マスタング「向こう側に…大量の蒸気が見える」

マスタング「何だ…?」

マスタング「…」

パカラッ、パカラッ…

マスタング「…」

パカラッ、パカラッ…

マスタング「…」

パカラッ、パカラッ…

マスタング「!!?」

ヒヒーン!

パカラッ…



――シュウウウウウウウウ……

巨人(15M)「」

マスタング「…………な…」

巨人(15M)「」

マスタング「…んだ………、これ、は…」

マスタング「……巨人?」

マスタング「死体、か」

マスタング「…」

『ガ』




――――ズシンッ!!

――――パンッ!!

……シン…

ウォール・マリア シガンシナ区
壁の外側


エドワード「……ん?」

アルフォンス「どうしたの兄さん?」

エドワード「おいアル。この壁、何でできてるか分かるか?」

アルフォンス「何って…」

――――パンッ!!

……シン…

アルフォンス「…練成反応、ない」

エドワード「だろ?普通じゃねえんだよ」

エドワード「適当に入り口作って強行突破してやろうと思ったんだけどな」

アルフォンス「やったらやったで壁の内側の人達に凄く叱られそうだけど…」

エドワード「後で元に戻しゃいんだよ戻しゃあ」

エドワード「…ちっ、ちっと高えけどしゃあねえ。地面から足場を伸ばして…」

アルフォンス「あ、兄さん!」

エドワード「ん? ……あ、」

アルフォンス「向こうに開閉門があるじゃんか!そこから入ろう」

エドワード「ああ。…?」

エドワード「……何であの門、ぶっ壊れてんだ?」

エドワード「…巨人、か」

アルフォンス「でも兄さん。確かに巨人は名の通り大きかったし力もあるけど…」

アルフォンス「この壁を……壊せるほどかな?」

エドワード「…」コンコン

エドワード「確かに強固ではある」

エドワード「」パンッ――

エドワード「岩の…大砲だ!」

――――バシィ!!

アルフォンス「に、兄さん!?」

ドゴォ!!!!

エドワード「…」

……パラ、パラ…

エドワード「……見ろ、無傷じゃねえか」

アルフォンス「兄さん…またそんなことして…」

エドワード「さっきぶっ倒した巨人…。大きさにして15メートルってとこだったか?」

エドワード「どの位が平均なのか知らねえが……この壁を破壊するほどの力があるとは到底思えねえな」

エドワード「見上げてもみろ」

スッ

エドワード「この高さだ」

エドワード「仮に内部からの破壊が容易いのだとしても、これを乗り越えるのはまず無理だろ」

アルフォンス「……もっと強大な巨人が存在する。そういうことかもしれない」

ウォール・マリア シガンシナ区
開閉門前


エドワード「人為的に壁の破壊を企てた奴がいる可能性だって無視できないぜ」

アルフォンス「…何かがあったんだ」

エドワード「ああ。んでもってここは『壁の牢獄街』であると同時に『巨人に蝕まれた街』でもある」

エドワード「巨人と壁内部の人類による対立があったんだろうな」

エドワード「他国の人間は存在するかしないかも知らない。その壁で囲われた世界や巨人。…人類未開の地で」

エドワード「だが俺達は見ちまった。知っちまった。その存在を」

アルフォンス「……謎の解明は、ここからだね」

エドワード「その存在を知った者は世界から追放される」

エドワード「この世界にいたという事実すら消滅し、誰の記憶にも影響しない」

エドワード「自己の存在が世界に及ぼした足跡も、都合の良いように改変される…」

アルフォンス「まるで物語みたいだね…」

エドワード「――そうだ」

エドワード「それ位のことが起きねえ限りはあり得ねえんだよ。誰もが知らない世界がこの星に存在してるなんてな」

アルフォンス「…それじゃ、まるで」

エドワード「ああ」

エドワード「禁忌、なんだろ」

エドワード「神様に近付き過ぎた英雄が翼をもがれ地に墜とされる――」

エドワード「同じだな。俺らと」ガシャ…

アルフォンス「……兄さん。それはつまり…」

アルフォンス「この壁で囲われた世界の中には…」



アルフォンス「――――神様がいる」



アルフォンス「そう、言いたいの?」

エドワード「っつうよりは、それに近しい何かだな」

アルフォンス「…『賢者の石』?」

エドワード「どう生まれてくるかも分からない巨人」

エドワード「世界から隔絶されている謎」

エドワード「この二つは、どうにも『賢者の石』との結び付きを意識せざるを得ねえ」

アルフォンス「『賢者の石』に必要な材料は人の命……」

エドワード「きな臭いなんてもんじゃねえ…。鼻が腐って崩れ落ちそうだぜちくしょうめ」

エドワード「! 見ろアル」

アルフォンス「え? ……あ」






ウォール・マリア シガンシナ区


――ヒュウウウ…

アルフォンス「…………なんだ、これ」

アルフォンス「街が…壊滅してるじゃないか……!」

エドワード「人の気配も無いな…」

エドワード「…多分だが」カサリ…

エドワード「こうして壁内部を拝めると、街っつうよりは、国に近い規模だってのが分かる。ここはひとつの区域なんだろうな」

アルフォンス「どうして?」

エドワード「どうしてもくそも…」ヒョイ

アルフォンス「それ…」

エドワード「…地図だな。おあつらえ向きに落ちてやがった。壁内部の様相が示されてる。…見ろ」

アルフォンス「……Wall-Sina、Wall-Rose、Wall-Maria…」

エドワード「ここは一番外部の区域だ。となると…もう少し先に進めば…このトロスト区ってとこで人間に出くわせるかもしれねえな」

?「エレン・イェーガー」







エド・アル「「――――ッ!!!?」」バッ!!

?「…神の名だよ。それを知りたくてここに来たんじゃないのかい?」

エドワード「…………誰だ、てめえ」

?「君達…」


?「――『真理』を見たね?」


アルフォンス「……どうして、それを…」

?「『真理』に近しい存在でなければこの世界には入ることはできないからね」

エドワード「!」

?「『真理』と無縁の人間はこの世界から弾かれる」

エドワード「…なるほど。世界から隔絶されてるってのはそういうことか」

エドワード「って、」

エドワード「んなでたらめ誰が信じるかこのボケェ!」パンッ!!――…

――バシィ!!!!!

?「ふん…」ガリッ

アルフォンス(――自傷行為?)






ドバァ!!!!!!!!!!!!!!

「――――ア゛アアアアア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアア゛アアアアア゛ア゛ア゛!!!!!!!」


ドゴォ!!!!!…


ウォール・ローゼ トロスト区
街中


『ぐあああッ!』

『退け!退けー!!』

『ば、ばばば化け物…』


エンヴィー(正体)「ひひひひひ。ヒャハハハハハァァッ!!愚かな人間共ォ!!!」

エンヴィー(正体)「早く連れて来いよエレン・イェーガーをォ」

エンヴィー(正体)「皆死んじゃうぞおおオ??」ヒュッ!!


ドゴォ!!!
ドンッ!!!!
ゴバァ!!!…


グラトニー「食べる♪食べる♪」


ゴ  キ

  バキ    キ ・・・

メキッ   ゴキキッ


『あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああ!!!――――』

『たす、助け、


ゴ   キ    ッ   …

ワーワー… ドゴォ!――…
メキッ! ヒュン!  ズバッ!
……ワーワー…


ヒッチ「……ちょっとお」

マルロ「ヒッチ! 馬鹿お前、脚を休めてる場合か!!」ゼイゼイ

マルロ「仲間が死んでいるんだぞ!! 戦え!」

ヒッチ「そりゃあさあ、楽したさに選んだ憲兵団だっだけど…」

ヒッチ「覚悟はしてたよちょっとだけね。こういう日が来るのかもーってさ」

マルロ「ヒッチ!」

ヒッチ「でもさあー」

ヒッチ「こんな巨人でもなさそうな全く訳の分からない化け物に喰われて死ぬ。そんな未来、誰が予測できんのよ」

ヒッチ「巨人でもない相手と戦わなきゃ行けない義務、あるの? 私達にさあ」

ワーワー… ドゴォ!――…
メキッ! ヒュン!  ズバッ!
……ワーワー…


マルロ「…、」ゼイゼイ

マルロ「世界は残酷だ」

ヒッチ「は?」

マルロ「現実は常に結果を求めてくる。…こちら側の都合なんかお構いなしにだ」

ヒッチ「何? こんな時に説教?」

マルロ「結果は長く地道な継続の中で、それも稀にしか顔を出さない。だが継続はいつも現実に阻害される」

ズン…

マルロ「その阻害とは、主に自分の予想を一歩も二歩も上回る『予期せぬ事態』ってやつだ」

ズン…

マルロ「どんなに努力して強くなっても、お前みたいに常に怠けることを考えていても、」

マルロ「――死ぬ奴は死ぬし、生き延びる奴は生き延びる」

ヒッチ「……最後のだけは同意するよ」

ズン…

マルロ「だが…例えば」

マルロ「俺は憲兵団という組織を変えるため、巨人と言う存在を殲滅するため、」

マルロ「惜しみない努力を払ってきたつもりだ。…お前とは違って、だ」

ズン…

ヒッチ「はいはい…凄い凄い……」

マルロ「それでも…」

ズン…!!


エンヴィー(正体)「こんな時に雑談ン??? 余裕あるねえ…」

エンヴィー(正体)「――死ぬよオ?」ニヤリ…


マルロ「今。俺とお前は同じ境遇に立っている」

ヒッチ「…」

マルロ「現実は!世界は!常に奪おうとする!意志を!選択を!未来を!」

マルロ「命さえも!」

マルロ「ヒッチ!選べ!」

マルロ「或いはこれが…最後の選択だ」

マルロ「俺達は生き延びてきた!俺は現実を変えるために。お前は現実から逃げるように」

マルロ「結果は、出せなかった」

マルロ「憲兵団は相も変わらず腐り切ってる。今この状況下で戦う意志さえ見せない兵がどれだけいるか!」

マルロ「巨人だって…分からないことばかり、ただ奴らに弄ばれながら、人類はどれだけ食い尽くされてきたことか!この化け物にさえ、敵わない!!」

マルロ「お前にしたって、ようやく安寧の居場所である憲兵団に入団した途端、この状況だ!」

マルロ「俺達は奪われた!何もかも!!!」

マルロ「『生』という継続さえ、神は許さない!それは何故だ!」

マルロ「――戦わない人間を、見捨てたからだ…!」

マルロ「俺達には自由がある!間違いない!絶対だ!!!」

ヒッチ「…、」

マルロ「勝てなければ死ぬ、勝てば生きる、戦わなければ、勝てない!!!」

マルロ「お前の求めた『楽』という自由さえ、勝ち取ろうとしないつもりか!!」

ヒッチ「……、」

マルロ「ヒッチ!!」

ヒッチ「………、」

マルロ「戦え!!!!!!!」







エンヴィー(正体)「――――[ピーーー]」

↑あれ!?モザイク?
ピーの部分は「四ね」です。ここの仕様知らなくてすみません

なるほどどうもです…

ヒッチ「う」

ヒッチ「く、」

ヒッチ「クソがあああああああああああああああああああああ!!」

マルロ「ああああああああああああああああああああああああ!!」















――ゴオオッ!…




エルヴィン「――――心臓を捧げよ!!!!!!!!!」

『はっ!!!!!!!!!!』

――ズバァ!!

エンヴィー(正体)「ンぐァァァ!!!?」



シュルルルルルルッ…

スタッ!!

ミカサ「…、」ジャキッ

マルロ「……ミカサ・アッカーマン!?」

ヒッチ「調査…兵団……」

ミカサ「…誰?」

マルロ「憲兵団所属、マルロ・フロイデンベルクだ」

マルロ「君の話はよくアニから聞いてたよ。その風貌、斬撃、立体機動スピード。すぐに分かった」

マルロ「ありがとう、助かったよ!」

ミカサ「アニの…」

マルロ「ほらお前もだ!」

ヒッチ「……ちっ、」

ヒッチ「助かったよ。どーも」

ミカサ「どうも…」

ヒュンッ

ハンジ「アッカーマン!見事だ!」スタッ

ミケ「…」スタッ

ミカサ「…分隊長……。奴は…」



エンヴィー(正体)「畜生がァ…」パリッ…パリリッ……

エンヴィー(正体)「痛えじゃねえかよオオオオオ!!!? ア゛アアアアア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアア゛アアアアア゛ア゛ア゛!!!!!!?」



ハンジ「…分からない。私も初めて見る。ただ断言できるのは…」

ハンジ「巨人と同等か…もしくはそれ以上の、化け物だ」




エンヴィー(正体)「――――ア゛アアアアア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアア゛アアアアア゛ア゛ア゛!!!!!!!」

エンヴィー(正体)「この俺を怒らせた罪はでけェぞ女ァァァァァァ!!!」

バチバチバチッ!!!!!

ハンジ「来るぞ!」ジャキッ

ミケ「ああ」ジャキッ

獣の巨大で面妖な身体から、練成反応による光が発せられる。

それは獣の感情に呼応するかのように勢いを増し、粘性を持つ液体のごとく自在に正体を変容させる。

八の脚。長く太い尾。口内部や胴を覆い尽くす無数の人面。獣類とヒトを混ぜたような顔に宿る鋭い眼光。

しかし、生物の形態などという常識を軽々と無視し、その禍々しさは兵士達の想像を超えていく。

腕。

強大な腕が、吐瀉物のように口内から出現し、

ハンジ「何じゃあありゃァ!!?」

十分な殺意を込めて、襟巻きに祈る女兵士へ襲い掛かる。

ミカサ「……」

――作戦の本質を見失うな

――自分の欲求を満たすことの方が大事なのか?

ミカサ「」ジャキッ――

射出されたアンカーが、光る。

ザクッ!

恵まれた戦闘の才能は狙った的から外れることを許容しない。

さながら、一流の銃士。

ワイヤーを伴ったそれは、獣から繰り出されて間もない刹那に、根元へ的確に突き刺さる。

ブシュウ!

ガスを放出する立体機動装置。

経験か、才能か。

あまりにも使い手の意志と一体化されている装置は、高速でワイヤーを巻き取り、そして、

よぎる。

先に女型の巨人と対戦した、自由の翼を翻す戦闘の天才を。その小さな背中を。

違いは何か。

己との違いは何か。

身体能力か。戦闘経験か。

――迷いの、有無か。

ミカサ「――ああああああああああああああああッ!!!!」

鞘から取り出した刃を逆手に持ち替える。黒髪が螺旋状になびいた。

――――ギャウッ!!!!!



まるで、輝く駒。

ビシュビシュビュビュ!!!―――…

放たれた腕を高速で伝い、その軌跡が思い出したかのように遅れて次々と斬り刻まれていく。

ミケ「!」

ハンジ「あ、あれはリヴァイの…」

エンヴィー(正体)「ンだとっ……!?」

ボチュッ!!

エンヴィー(正体)「ぎゃアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああ!!!!!!!!」

絶叫がこだまする。

例えばゴーグルを付けた、同じくして女性の兵士がいる。

彼女の一呼吸。それだけの間。

まさしく一瞬にして黒髪の女兵士は忌まわしい姿を象った魔物に肉薄し、その両眼に躊躇いなく刃を突き込んだ。

ミカサ「…、」カチッ

両の刀身とグリップの接合を解除する。

二つの刃を目潰しに消耗する事に疑念はない。間断なく、取り戻したアンカー部を手近な建造物の上層へ伸ばし、

またワイヤーを巻き取ることで、獣より離脱。空に浮く女兵士はストックされた鞘の新しい刃をグリップに取り付け、

抜刀。

ギュオ!!!!!!!

空から地へ。凄絶な速さで降下し、またその奇跡、絶叫し後脚で立つ獣の全身を、鮮血が印していく。

ズバババババババ!!――――――…

エンヴィー(正体)「ぎゃアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああ!!!!!!!!」

――シュタッ!

ミカサ「…できた。私にも」ジャキッ

ミカサ(エレンは他の誰でもない、私こそが絶対に守り抜いてみせる)

ミカサ(あのチb…兵長にできて、私にできないなんて……)

ミカサ(誰にも頼ったりしない。私が守らなきゃいけない)

エンヴィー(正体)「…クソが。っ。おかしな武器を使いやがる……」バチチッ…バチッ




ハンジ「凄まじい戦闘センスだ…。まさかあそこまでとは、思わなかった」

ミケ「奴はアッカーマンに任せ、我らはあの真ん丸とした方を…」チラッ




グラトニー「…」

グラトニー「……エンヴィー」

グラトニー「また…死んじゃウ…………」

グラトニー「ラスト…みたイに……」

グラトニー「ナカマ…が」

グラトニー「イヤ…ダ」



エルヴィン「!」

グラトニー「」ギロリ

エルヴィン「全員!隊勢を崩せ!」

エルヴィン「一度退けッ!!!」



――――ズゴォ!!!!!

ズゴゴゴゴゴゴ……


『…何だ、あれ』

『巨人の方が少し可愛く見えるぜ…奴らは殴る喰うと行動がまだ人のそれに近い。……だがありゃ何だ』

『奴の腹部から…いくつもの牙と……』

『腹に…別空間の入り口みてえなのが…』

『奥から覗かせる眼が奇妙だ…』

『い、いや。それよりも……』

『――――奴の直線状、一帯を…飲み込みやがった!?』



グラトニー(真)「ぐるるる…」

エンヴィー(正体)「……いいぞおいグラトニー」

エンヴィー(正体)「人間風情が!人造人間(ホムンクルス)なめんじゃねエぞ!!ギャハハハハハハッハ!!!!!」



ミカサ「何…あれ」

アルミン「ミカサ!!」シュタッ

ミカサ「! アルミン…」

アルミン「ごめん遅れて…あれからエレンを説得して抑え付けておくのに苦労したんだ」

アルミン「それより、あれ…」

アルミン「人造人間(ホムンクルス)って…そう、言ったの?」

ミカサ「分かるの?」

アルミン「ホムンクルス…。さっき話した錬金術師が生み出す人造人間のことだよ」

アルミン「あくまで書物に記された内容が正しければの話だけど…」

アルミン「もうそうとしか考えられない。あれは巨人の再生能力を凌駕している…!知能だってあるし姿かたちも巨人のそれとは一線を画してる」

アルミン「実在したんだ…。錬金術は……!」

アルミン「ということは、外の世界にこことは全く異なる文明が…」

ミカサ「アルミン。今は…」

アルミン「分かってる。喜んでる場合じゃない」

アルミン「錬金術によって生み出された存在。それはこうして証明されている」

アルミン「外の世界も」

アルミン「それだけに、戦い方が、まるで分からないけれど……」

アルミン「……弱点も」





マルロ「――おい!」

アルミン「? あっちから声が…。誰?」

ミカサ「憲兵団のマルロって人。アニの知り合いみたい」

アルミン「アニの…」




マルロ「――おい聞こえてるか!? 奴に巨人のような弱点は確認されていない…、いや、無いと思っていいのかもしれん!」

マルロ「ただ巨人のようにその再生は、無限ではない! 致命傷を与え続ければ、やがて朽ちる筈だ!」




エルヴィン(…だが再生回数の上限も知れず、またあの巨体に致命傷を連続して与え続けるには些か無理がある)




ハンジ「巨人と違って、この箇所さえ狙えば、という弱点がない以上、立体機動による一撃必殺は不向きだ」

ミケ「対巨人に特化した道具だ。大砲でも何でも駆使せねば…、兵が生身で戦闘するには難しい相手だ」

ヒッチ「…あの」

ハンジ「どうした? 君は…」

ヒッチ「えっと…。ヒッチです。憲兵団所属……」

ヒッチ「案が、あるんですけど」

ハンジ「以前のトロスト区奪還作戦時、残留する巨人を掃討するのに用いた壁上固定砲を使う――と」

ヒッチ「トロスト区内に巨人が蔓延り街は壊滅的なダメージを負いました。その修復作業が、人手不足ということで駐屯兵団と憲兵団で共同し行われたのですが…」

ヒッチ「思いの外、壁内の巨人を一掃するのに効果的な手段だったということで、類似した状況に備え、以前の三倍近いそれを用意しました」

ヒッチ「立体機動による致命傷が難しい相手である以上、手近な方法ではこれしか考えられないのではないでしょうか」

ヒッチ「威力も底上げされてます。中には大型の大砲も備わっており、その爆薬もまた趣向を凝らし、直撃できれば、その巨体を焼き尽くすことも可能かと。その一撃のひとつひ

とつが、死ひとつ分に達しているのではないかと思われます」

ハンジ「…」

ハンジ「悪い手じゃないが…」

ハンジ「まずそれには壁際に奴らを追い込み、且つそこに留める必要がある」

ハンジ「超大型、鎧、女型のように知性を持った巨人に対しては、ロープ付の銛を放ちそこに固定させる必要が出てくるが…その用意もなく、これからする暇も隙もない」

ハンジ「当然知性を持たない巨人でないのだから、兵を壁上に配置し餌として機能させることも不可能」

ハンジ「巨人に砲弾を命中させるには、ある程度の条件が伴ってくる」

ハンジ「仮に固定できたとして…あの丸い奴は縛るものさえ飲み尽してしまうだろう」

ハンジ「おまけにあの八足の化け物はどうやら自在に身体を変容させることができるらしい。同様に、そいつも縛り付けたところで逃げられるのが落ちだろう」

ハンジ「両者共に、一箇所に固定させることは、事実上、不可能だ」

ヒッチ「やっぱり…駄目ですよね」

ヒュン!

アルミン「――丸い奴は、ミカサに任せましょう」シュタッ

ハンジ「アルミン! …エレンを説得できたんだね」

アルミン「今ミカサに、僕なりに考案した作戦を伝えました。……」チラッ




――――ギュオオオオオオオオオ!

ズバァッ!

グラトニー(真)「痛ァい!!?」

シュタッ!……ギュン!!

――――ズバァッ!

グラトニー(真)「うァァ!!」

ミカサ「常時高速で、立体機動で、動き回れば…」シュタッ!

ミカサ「その腹の大口に飲み込まれることもない……!」……ギュン!!

――――ズバァッ!



アルミン「幸い、丸い方は巨人と違って人間程度のサイズです。ミカサほどの兵ならば、ああして絶えず致命傷を浴びせ続けその有限であると思しき命を消費させることは不可能じゃない」

アルミン「ミカサの立体機動速度なら、腹から別空間でしょうか…引きずり込む衝撃波が当たることもない」

アルミン「立体機動力のあるこちら側からすれば、あの衝撃波もそこまで広範囲には思えません」

アルミン「周辺の兵がガス補充のサポートに徹する必要がありますが…この数なら問題ありません」

アルミン「つまり選手交代です。そうすると今度はあの八足の化け物をミカサを除く僕らが相手する必要性が出てきますが…」

ハンジ「! そうか…」

ハンジ「それこそこの数の兵だ…」

アルミン「固定する必要はありません。数にして…」




エルヴィン「一部の憲兵はミカサ・アッカーマンの援護に回ってくれ!」

エルヴィン「他の兵は総員、壁上固定砲の集中する北西部の壁際まで誘導しろ!」

エルヴィン「この人数で立体機動し、動きの鈍る程度であれば負傷させることも可能!」

エルヴィン「誘導先、多勢の立体機動で攻撃すれば、砲弾の命中確立はぐんと高まる!」

エルヴィン「全砲弾を命中させる必要はない!砲撃ひとつひとつがひとつの命を費やさせるだろう!」

エルヴィン「数の勝負だ!早急に動け!!」

エルヴィン「――――心臓を捧げよ!」

『『『『『はっ!!!』』』』』





アルミン「五百はいる。団長も僕と全く同じ結論に達している…!」

アルミン「のんびりしている暇はありません、急ぎましょう!」

ハンジ「だ、そうだよ。君たち憲兵も勿論手伝ってくれるね?」

マルロ「当然です!」

ヒッチ「……まあ」



エンヴィー(正体)「ハエみてえにびゅんびゅん集りやがって…!!」

エンヴィー(正体)「邪魔くせええええええええええええええ゛ええ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ッッ!!!!!!!!!!!!」

ウォールマリア外部 クレタ荒野


――――パキンッ!

ゴウッ!!!!


マスタング「だだっ広い荒野で、ただひたすらに敵目掛け、遠慮なく焔を飛ばしては焼き尽くす…」

マスタング「イシュヴァール戦を思い出すな……」

マスタング「ただひとつ、異なる点と言えば…」


ゴゴゴゴゴゴゴゴ…

ボシュッ!


巨人(10M)「ガアアアアアアアアアアア!!!!」


マスタング「敵が人外であること…」

マスタング「焼いても焼いても肉体が再生する不死の化け物が相手ということだ……!」


――――パキンッ!

ゴウッ!!!!


巨人(10M)「ガアアアアアアアアアアア!!!!」

マスタング「接近させないようにするだけで精一杯だな…」

マスタング「あまりやり過ぎると周囲の酸素が不足し濃度調節が難しくなる…」

マスタング「だが…これは…」

コオオオオオオオ…



エドワード「何だよこれ…」

エドワード「何なんだよこいつはァ!!!?」

アルフォンス「光の…巨人……?」


ウォール・マリア シガンシナ区


?(光)「――命は有限だ」

エドワード「…あ?」

?(光)「君達にも縁のある話だろう。何しろ賢者の石だ」

エドワード「何の話だ…!」

?(光)「知っているんじゃないのかい? 『真実』を」

アルフォンス「……賢者の石の材料は、生きた人間…」

?(光)「ところで」

?(光)「元来、君達も目の当たりにしたであろう『扉』とは、真理のためだけにあるものじゃないんだ」

?(光)「真理とは世界であり、宇宙であり、神であり、全であり、一であり、或いは…自身そのものを示す」

?(光)「扉は別個の世界を繋ぎ止める役割も備えているんだ」

?(光)「巨人世界は、君たち錬金術師が存在する世界とは違う」

エドワード「つまりその扉を介して俺達はここに到達したって?」

アルフォンス「僕達は紛れもなく自分達の世界にいるはずだ、扉なんか開いていない!」

?(光)「扉を開けたのはエレン・イェーガーだ」

エドワード「…は?」

アルフォンス「さっきから、そのエレンって人は…誰なの?」

?(光)「神さ」

?(光)「ただし巨人世界の神であって、君達の世界であるところの『神』とは異なっているけれどね」

?(光)「エレン・イェーガーが『概念』として認識している壁の内側の世界が扉を介し、この錬金術世界に迷い込んでしまった」

?(光)「驚きだよ。自身のみならず、この規模まるごと扉の向こうにすっ飛ばしちゃうんだから」

?(光)「よって『真理』を知る者、近しい者でない限りは、この世界を認識できない。一般の者にはここもただの荒野さ」

?(光)「少々の存在エネルギーの漏れはあるようだけどね」

エドワード「…分からねえ。お前の言ってることが、何も分からねえ」

?(光)「目的を教えるつもりは毛頭ないけれど…、君達を誘導するには餌となる情報が必要だ。話を戻そう」

?(光)「君達もよく知る賢者の石は、それを生み出すために人の命を必要とする」

?(光)「錬金術の究極点…物質を完璧な存在に作りかえるものとして知られてきた。術師では到底捻り出すことのできないエネルギーがそうさせる」

?(光)「人の命で作られている以上、それは等価交換における『対価』としても大きい。君達の身体を取り戻すことも可能だろう。……それを求めてはいないようだけど」

アルフォンス「僕達は『真実の奥の更なる真実』を探して旅をしてる。賢者の石に秘められた謎は、代償が人の命という事実に留まらないと判断したからだ」

?(光)「賢明だね」

?(光)「さて。そんな賢者の石だけれど…」

?(光)「例えば君達も手を焼いているホムンクルスらの頭にしてもそうだけど」

エドワード「!」

?(光)「使い道が様々なのさ。それを用いて大いなる野望を果たすこと主可能だろう」

アルフォンス「大いなる…野望…」

?(光)「まあこれは君達に今必要な情報ではない。肝心なのは…」

?(光)「大いなるものを欲すれば、対価もそれ相応なものになるよね? 僕が言いたいのはそういうことさ」

?(光)「だがそれには『生命の有限性』が邪魔になる」

?(光)「――それを解決してくれるのが、エレン・イェーガーの力だ」

?(光)「それと幾ばくかの条件…」

エドワード「…? …、……。…………」

エドワード「…」

エドワード「教えろ」

エドワード「てめえは…何者だ?」

?(光)「――巨人の能力、真理、二つを手にしたものだ」

アルフォンス「真理を……手に入れた…………?」

エドワード「んな馬鹿な!」

?(光)「もういいだろう。君達の相手はここまでだ」

エドワード「まだ終わりじゃねえぞ!」パァン――!…

?(光)「ここで暫く眠ると良い」

エドワード「ふざk

エドワード「」

アルフォンス「兄s

アルフォンス「」








エドワード「」
アルフォンス「」


?(光)「また会おう」

ウォール・ローゼ トロスト区
街中 北西部


――ズゴォ!!!!

ジャン「――しっかし…ジリ貧だなおい!」

ジャン「ただの誘導で、何人が死んだ!?」

エンヴィー(正体)「――――ア゛アアアアア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアア゛アアアアア゛ア゛ア゛!!!!!!!」ズシンズシンズシン!!…

アルミン「でも…ここまで辿り着いた」

ハンジ「…見えてきた! 壁上を見るんだ!」

ハンジ「先行させた兵達だ! 強化した固定砲の準備はもう終わっている頃だろう…」




エルヴィン「…」

エルヴィン「……総員! 砲撃班の援護のために攻撃を




エンヴィー(正体)「」ニィ…


――――バシィ!!!


エルヴィン「!? …!」

アルミン「あれ? ……消えた!?」


ヒュッ!…

ズバァ!!!


『ぐああああ!!』

『!? お前…味方を何故!!」


――――バシィ!!

『ぐああああ!!』


エンヴィー(兵)「なあるほどねえ…。この装置はこうやって使うのかな?」ヒュッ!…

ハンジ「…! しまった、人に化けることも可能だったのか!?」

アルミン(まずい…! この人数が裏目に出た…!)

アルミン(大量の兵に紛れて変身を繰り返し次々に…!)

ズバァ!!!

『ぐああああ!!』

アルミン(このままじゃ…下手をすると同士討ちが起きてしまう!)

太陽も勝負運もなんも 完全にこっち向いていないが
やるしかないんだ 言い聞かせるようにそうつぶやいた

――ヒュンッ

ザクッ!!

エンヴィー(兵)「あああ゛ッ!?」


サシャ「――姿は変えられても、匂いはそのままのようですね」ジャキッ


エンヴィー(兵)「……ちィ、気配だの匂いだの…」

エンヴィー「人間の癖に珍妙な特技を持った奴がわんさかいるな世の中にはァ!!」バシイ!

エンヴィー「だったらテメーからぶっ潰して


ズバッ!


エンヴィー「…………か、っ…」

コニー「この人数相手に隙を見せやがったな、人造人間(ホムンクルス)…!」

サシャ「退きますよコニー!」ヒュン!



エルヴィン「――――砲撃開始!!!」



ド   ン   ッ   !
  ド   ン   ッ   !!

    ――――ド   ン   ッ   ! ! ! !



ズゴォ!!!!

エルヴィン「――奴に再生と変身の隙を与えるな! 第二班、砲撃準備!!」


エンヴィー「の、野郎共、が……」バチバチバチィ……!!

エンヴィー「なめんじゃねえぞ人g


エルヴィン「――撃てェ!」


ド   ン   ッ   !
  ド   ン   ッ   !!

    ――――ド   ン   ッ   ! ! ! !



ズゴォ!!!!


エンヴィー「く、は…………」


バチバチバチィ……!!


ジャン(あんなになっても、やっぱ再生しやがんのか…!)ゾクッ

アルミン(黒焦げの骨と、残った少しばかりの焼け爛れた肉から…)

アルミン(弱点もない。やはり、巨人の再生能力を超えている……!)



ド   ン   ッ   !
  ド   ン   ッ   !!

    ――――ド   ン   ッ   ! ! ! !



ズゴォ!!!!


エンヴィー「――――ア゛アアアアア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアア゛アアアアア゛ア゛ア゛!!!!!!!」


ド   ン   ッ   !
  ド   ン   ッ   !!

    ――――ド   ン   ッ   ! ! ! !



ズゴォ!!!!


エンヴィー「――――ア゛アアアアア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアア゛アアアアア゛ア゛ア゛!!!!!!!」

エンヴィー「」

エンヴィー「く」バチッ

エンヴィー「ぬ、あ…」バチバチバチィ……!!


エルヴィン「――――――撃てぇ!!!!!」

ド   ン   ッ   !
  ド   ン   ッ   !!

    ――――ド   ン   ッ   ! ! ! !



ズゴォ!!!!


ド   ン   ッ   !
  ド   ン   ッ   !!

    ――――ド   ン   ッ   ! ! ! !



ズゴォ!!!!


ド   ン   ッ   !
  ド   ン   ッ   !!

    ――――ド   ン   ッ   ! ! ! !



ズゴォ!!!!


ド   ン   ッ   !
  ド   ン   ッ   !!

    ――――ド   ン   ッ   ! ! ! !



ズゴォ!!!!


ド   ン   ッ   !
  ド   ン   ッ   !!

    ――――ド   ン   ッ   ! ! ! !



ズゴォ!!!!


ド   ン   ッ   !
  ド   ン   ッ   !!

    ――――ド   ン   ッ   ! ! ! !



ズゴォ!!!!

ド   ン   ッ   !
  ド   ン   ッ   !!

    ――――ド   ン   ッ   ! ! ! !



ズゴォ!!!!



シュウウウウウウウ…




ミケ「…」

アルミン(肉体を再生させるためのタイムラグが上手く砲撃の隙になって、連弾の全撃が命中! これなら…)

ジャン「よし! 仕留めt










エンヴィー(正体)「――――ア゛アアアアア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアア゛アアアアア゛ア゛ア゛!!!!!!!」ドオオオオオオ!!


ハンジ「!」

コニー「ジャン危ねえ!!」



ミカサ「」ヒュンッッッ


――ビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュ!!…

ズバァ!!!!


エンヴィー(正体)「アアア゛ア゛ア゛ッ!!!?……あ、が…」フラッ


ミカサ「間に合った…」シュタッ!


エルヴィン「――――総員、人造人間(ホムンクルス)に斬りかかれ!!!」

『『『『『――――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!』』』』』




――ズババババババッバババババッバババババババッババババババ!!!!!!……




エンヴィー(…)

エンヴィー(……残り17)

エンヴィー(16…)

エンヴィー(15)

エンヴィー(ああ…畜生このゴミクズが)

エンヴィー(人間の…分際で……)

エンヴィー(このまま闘ってりゃ…死ぬな)

エンヴィー(賢者の石が保たねえわ)

エンヴィー(11……)

エンヴィー(10…)

エンヴィー(……、)

エンヴィー(…)

エンヴィー(ちっ)

エンヴィー(仕方ないねえ)

エンヴィー(今は尻尾巻いて、逃げてやるよ)

エンヴィー(グラトニーの奴、上手く逃げれてりゃいいが)

エンヴィー(お父様に叱られたくないしねえ)

エンヴィー(あばようクソ共)

――――バシィ!!!


ハンジ「ぐ!?」

コニー「こっの野郎…この期に及んで次は何に化けやがる……」

コニー「…………あれ」

ミカサ「…落ち着いて」

ミカサ「奴は逃げた」

ミカサ「ひとまず、私達の勝ち」

コニー「……お」

コニー「おお」



『『『『『おおおおおおおおおお!』』』』』



アルミン(勝ちはした…)

アルミン(でも…)



エルヴィン(奴らは一体…何の目的でエレンを狙いにここまでやってきたのか)

エルヴィン(壁の外の者が……エレンを)

エルヴィン(エレンにはそこまでの価値が…?)

ヒュン!

ミケ「エルヴィン」シュタッ

ミケ「……どう見る?」

エルヴィン「エレンはどうやら人気者らしい」

エルヴィン「それ位しか分からないだろう…」

ミケ「…兵を大幅に消耗した」

エルヴィン「ああ」

エルヴィン「今ここにいる数百の兵は、私が持つ権威の限りを尽くし、エレンを守るために闘ってもらえる数少ない大切な兵達だ」

エルヴィン「早急に各配置へ戻し、休息を取ってもらおう」

エルヴィン「事はこれで終わりじゃない。その筈だ」



一部・完

遅筆ですまん
以降はなるべく5~10レス毎にまとめて投稿する
大分書き込んでなかったせいでSSまとめ速報にも完結扱いにされたけど終わるまで続けます

神に近付き過ぎた為に翼を失った英雄が二人がいる。

人としての尊厳を保ちつつも、どこか自身をその存在から遠ざけて考えていた。

――――普通の人間になりたい。


一人は親愛なる母を失い、そして彼女を取り戻すために罪を犯した。

咎人の証を目に見える形として、少年はその鋼を背負い続ける。

鋼の義手と義足に、並外れた錬金術の力。

人は彼を鋼の錬金術師と呼んだ。

贖罪ではなく。ただ取り戻すために、彼は旅を続ける。


一人は同じくして親愛なる母を失うが、しかしそれによってもたらされた感情は憎悪のみであった。

憎悪は自傷することでその形を具象化し、皮肉にも母を奪った人外の姿へと変貌する。

その姿は15mもの高さを誇り、咆哮とともに復讐の一撃を繰り出す。

人は彼を英雄視し、人類の希望と謳う。その一方で化け物とも呼んだ。

謎ばかりが蔓延る世界で、ただ憎しみの赴くがままに、そして自由を求めて、彼は巨人を狩り続ける。


二人の違いは何か。

大切な人を失った英雄二人。向かう先はどこにあるのか。

世界を受け止めることで精一杯だった。

命は尊く、重く、そして余りにも儚く、脆い。

それを知るには十分過ぎる現実を二人は目の当たりにしてきた。

二つの世界は重なり、やがて全ての命がざわめき出しては、

――哭いた。


鋼の錬金術師 ~巨人と壁の牢獄街~

二部


その日、人類は思い出した。

ヤツらに支配されていた恐怖を。

鳥籠の中に囚われていた屈辱を。


ある日、人類は思い直した。

壁に阻まれた本当の自由の価値を。

壁の外にあるまだ見ぬ世界を。


対巨人の装置を携えた兵達はその世界の一部と敵対した。

名を人造人間(ホムンクルス)。

書物に記された妄言とも伝説ともつかない『錬金術』というものの存在を、身を以て知ることになる。

その余りにも未知である存在が剥いた牙は、存外にも多くの死傷者を出すことはなかった。

巨人という強大な敵と戦い続けた人類は、現実の理不尽さと己の無力さに打ちひしがれながらも、強くなっていた。

極限の中で常に選択を強いられた彼らは、強くなっていた。

だが彼らはまだ知らない。

世界を余りにも知らない。

襲い来る究極の選択は、それでもやはり、世界という現実(リアル)側の提示であり、

彼らは自己の意志を持たない。

自ら世界の在り様を望むための選択を知らなかった。

自由の翼を背負う者達を除いて。

だがしかし、壁の外は、その翼すらも否定する。

まるでそれを証明するように、鋼を背負った少年が、壁の中へと脚を踏み入れる。

世界はこうして交わった。

よく悪い夢を見る。

そしてその殆どは忘却の海深くに沈んでしまい、目覚めた時には虚無と頭を襲う激痛だけが残る。

無意識に、涙を流していたこともあった。

――エレン?

――どうして、泣いてるの?

知るか、こっちが聞きてえよ。

・・・・・・。

失われた記憶。

痛みだけを伴う夢。

意味の分からない涙。

巨人の力。

そしてそのために失った大切な仲間達。

自分を何故こうも保っていられるのかが不思議でならない。

そもそも現状、既に正気でないのかもしれない。

復讐に飢え渇き、自由を求めた。

今の自分には、それしかない。

自分が自分でいられる証。

この世界に生まれた。その事実が、自由を求め、

そして無残にも世界は自己を陥れ、復讐の芽が生えた。

調査兵団という新しい居場所。その証、自由の翼。

それを否定する輩が現れようものなら、この俺がぶっ飛ばしてやる。

親友が欲してやまない、純粋なる世界を、本当の世界を、自由を求めた。

今日もこのよく分からない世界と付き合っていかなけりゃならない。

力ならある。

ただその力は、世界を揺るがしてしまうもののようだ。

矛盾。

どうしていいか分からず世界にいつも流されるがまま。

その反面で自由を欲し続け、しかし、

その度に迫られた選択を現実は否定し、その結果残っているものは…

エレン「………………何なんだ?」

リヴァイ「…」

リヴァイ「あ?」


ウォール・シーナ エルミハ区
とある一室


リヴァイ「おいエレンよ…お前は悪夢にうなされることが多いと風のうわさで耳にした覚えがあるが……」

リヴァイ「せめて人を巻き込むような真似はよせ。悪夢が移るからな」

エレン「あ…はい……」

エレン「すみません…」

リヴァイ「誰も謝れとは言ってねえよ」

エレン「すみません…」

リヴァイ「まだ寝ぼけてんのかエレンお前…。人の話を」

エレン「いえっ、そうではなく…」

エレン「皆が俺のために戦ってくれてたってのに…その間も付きっ切りで護衛してもらって」

リヴァイ「余計な手間を省くためだ」

リヴァイ「そしてお前はあまり自分を特別視しないほうがいい」

エレン「…は?」

リヴァイ「お前が人類にとっての希望であり…特別なことは否定のしようもねえが」

リヴァイ「手前のポジションに拘り過ぎると自分を潰しかねないからな」

リヴァイ「ますます使い物にならなくなる事態はよしてくれよ」

エレン「は、はい」

リヴァイ「……どの道俺はこの様だ。まともに戦えやしねえよ」

エレン「足の怪我…」

リヴァイ「まあそれでも…例えば暴走したお前を跡形もなく切り刻むくらいの余裕はあるだろうがな…」

エレン「はは…」

エレン「兵長は…世界に否定された時、どうしますか」

リヴァイ「……寝言がまだ続くようだな」

エレン「いえ。冴えてます」

リヴァイ「…」

エレン「近頃思うんですよ。巨人に母親を喰われ、信じた仲間が…よりにもよって仲間だったアニに…殺されて、」

エレン「トロスト区奪還から対女型戦中まではもう…無我夢中で……」

エレン「考えてもみれば、性格も相まって、あんまり自分に深く入り込むことってないんで……でも、」

エレン「こうも寝てばかりの日が続くと…時折、我に返るんですよ」

エレン「俺、何やってんだって」

エレン「あんなに憎んだ巨人になって…そんな化け物の俺と人類が協力して…」

エレン「冷静に考えてみれば、おかしなことだらけで」

エレン「狂ってんですよ。……全てが」

リヴァイ「――狂ったこの世で狂うなら気は確かだ」

エレン「……え?」

リヴァイ「エレンよ…前にも言ったが」

リヴァイ「お前は間違ってない」

リヴァイ「先の言葉はどこぞの屁理屈野郎が書いた本に載ってる一文ならしいが…俺にも共感できるところがある」

リヴァイ「今や空から巨人が雨のように降ってこようが巨人が口から炎を吐き出そうが何が起ころうが大した驚きはない。それは」

リヴァイ「これまでの突飛な出来事に順応した以上に…世の中のクソっぷりを改めて認識させられたからだ」

リヴァイ「お前に至ってはお前そのものがとち狂った存在に成り果ててるようだが…アニ・レオンハートの事も鑑みるに」

リヴァイ「どうやら巨人という存在と人間の距離感は俺達が思うほど遠いものではないのかもしれん」

リヴァイ「そうなるともはや何が『普通』なのか…んな事を考えてる暇があったら羊の数でも数えてる方がよっぽど有意義だってのを俺は言いてえ訳だがエレン…」

リヴァイ「ここでひとつ考え直してもみりゃ…」

リヴァイ「何が狂ってて、何が正常だ?」

エレン「…」

リヴァイ「要するにだ…」

リヴァイ「否定された気になっちまうのは、手前が勝手に定義した『普通』っつう常識から自身を除外して、自滅している…」

リヴァイ「それが今のお前だ」

リヴァイ「確かにだ…近頃の出来事は俺のクソみてえな人生の中でも群を抜いてクソと言わざるを得ねえほどのモンだったが……」

リヴァイ「つまりお前よりは幾ばくか生きてるこの俺も驚かされる事はあったが…」

リヴァイ「それが本当は真実で、俺達は壁の中でドブの匂いを堪能しながらその異常性に気付かなかった訳だ」

リヴァイ「嘘の中で生きてきたが…、真実ってヤツが、自分にとって最高にクソな形で現れやがる」

リヴァイ「生きてりゃその繰り返しだ。狂わない方がおかしい」

リヴァイ「俺の部下も大勢死んじまったが…奴らは最後の最後まで戦い抜いた。そりゃ生き抜いたってことだ」

リヴァイ「クソみてえに必死にだ」

リヴァイ「意味が分かるか?」

リヴァイ「俺の言いたいことが分かるかエレンよ」

エレン「……はい」

エレン「自分で決め付けた『普通』という狭い世界の中で、自分を否定しながらビクビクしていたり、冷静に悟った気になるよりは、」

エレン「何が正常で何が異常かも分からないこの狂った世界で、必死に生きる事への意志に従うべきであると…」

リヴァイ「…まあ、そんなところだ」

リヴァイ「いかエレン。この世で最もクソな輩ってのは…」

リヴァイ「自分を諦めた人間。悟った人間だ」

リヴァイ「悟るってことは、諦めるってことだ」

リヴァイ「悩むってことは、戦うってことだ」

リヴァイ「戦い続けてる限りは、ジジイババアになろうが成長の可能性が消えねえが…」

リヴァイ「悟った気になったら、人ってのはその時点でいっとうクソな存在に成り代わる。後は死を待つだけのゴミでしかねえ」

エレン「はは…」

リヴァイ「いつまでもうじうじしてんなエレンよ…。お前の布団ごと腐っちまうだろうからな」

リヴァイ「戦いの中で平静を保つ事の重要性は語るべくもねえが……」

リヴァイ「こういう話に関しちゃ別だ。冷静になったら負けな事もある」

リヴァイ「結果は誰にも分からん。真実…世界も同様にしてな」

リヴァイ「人ごときが世界を知った気になるなっつう話だ。何せそりゃ『不可能』に相違ねえんだ」

リヴァイ「現にこの短期間でどれだけ現実のクソっぷりを堪能した事か…」

エレン(兵長…今日は……『クソ』の使いどころが多いですね…)

リヴァイ「どれだけ最悪の事態を想定していても…現実はそれを平気で飛び越えてきやがる」

リヴァイ「俺は今…翼の生えた空飛ぶ巨人の登場を心待ちにしてるが……」

リヴァイ「恐らくはそれを上回る何かがいつかに出てくるだろうな」

リヴァイ「精精楽しみにしておく」

エレン「……そうですね」

リヴァイ「エレン。気分はどうだ」

エレン「いい具合です」

リヴァイ「…ならいい」

――――ドクン、


エレン「――がっ!?…、」

リヴァイ「?」

エレン「あ…………っぐ…」

リヴァイ「おい…お前……」

――――ドクン、ドクン、

エレン「うお、あ、が……」

リヴァイ「……チッ」

リヴァイ「言ってる傍から何だ今度は…」

リヴァイ「暴走か?」

――――ドクン、ドクン、ドクン、

エレン「い、し…」

リヴァイ「あ?」

エレン「石、が…………」

リヴァイ「!…」

リヴァイ「お前…懐に何仕舞ってやがる」

リヴァイ「悪いが服を破くぞ」

バリッ

コオオオオオオ…

リヴァイ「!」

リヴァイ「石が…光って……」

リヴァイ「体と同化してやがる…」

リヴァイ「アニ・レオンハートの水晶体の破片か…!」

エレン「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

リヴァイ(ほぼ体と同化してるが…石を砕くか? どうせ身体を負傷させてもこいつは再生する)

リヴァイ(……今までにない事態だ。再生しない可能性もある。面倒なことに石は腹部から心臓に向かって結晶体を広げてやがる)

リヴァイ(器用に息の根を止めず石とそこから広がる結晶部分だけを削ぎ落とす自信はねえ)

エレン「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

リヴァイ(今ここで巨人化されたらこの建物は崩壊し俺と言えば当然ぶっ潰れるだろう。鳥の餌にもなりやしねえ)

リヴァイ(…一度退くか)

リヴァイ「おいエレン! 巨人になるのは構わんが…」

リヴァイ「本当に翼を生やし空を飛ぶような真似はしてくれるなよ…弱点が削げねえからな」ダッ!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

エレン「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」




――――ドバァ!!!!!!

マスタング「――鋼の!」

エドワード「!」


ウォールローゼ クロルバ区 空き家

アルフォンス「良かった、目覚めて…」

エドワード「…俺は、どの位寝てた?」

アルフォンス「僕が大佐に起こされて、またそこから丸一日」

エドワード「……つうと、少なくとも丸一日以上は寝てたわけだ…」

エドワード「つうか、何で大佐がここにいんだよ!」

マスタング「君達の後を追ってきた」

マスタング「…案の定、言う事を無視するだろうと思ったからな」

マスタング「だが思った以上に早くに中央を発ち、負い付くまでに相当苦労をさせられた」

アルフォンス「軍服、煤だらけ…」

アルフォンス「苦戦したんですね、あれに」

マスタング「何しろ相性が悪いのでね。炎で『焼き切る』というのは爆発を上手く凝縮しなければできんのだ」

マスタング「……君達が葬ったのであろう巨人に残された形跡。そのヒントが無ければ、私も危うかったな」

エドワード「弱点か。ありゃ、偶然の発見だったんだ」

エドワード「あそこをついたら蒸発し始めて、肉体が徐々に霧散していったんだが…」

アルフォンス「その跡がまだ見られる状態だったってことは、僕達とそう間は無かったんですね」

エドワード「もうちょっと遅くに来てりゃ弱点に繋がるヒントも見つからず御陀仏、といけたものを…。残念だ」

マスタング「どの口が言う…。私が二人をあの場から馬で遠距離移動させてなければ、また別の巨人に眠っているところを喰われていたかもしれんぞ」

エドワード「ちっ。どーも」

アルフォンス「兄さん…」

マスタング「……しかし実在したのだな。巨人とやらは」

アルフォンス「――ありえないなんてことはありえない」

マスタング「いつかにホムンクルスと交えた時の言葉か。覚えているよ」

マスタング「そして今もこの身で強く実感しているところだ」

マスタング「鋼の。あれは何なんだ」

エドワード「……俺達も来たばかりだからな。詳しいことは分からない」

エドワード「あんなもんがどうやって生み出されてるのか…」

エドワード「!」

マスタング「……何だ」

エドワード「そういや大佐…真理を見ている筈もないのに」

エドワード「どうしてこの世界を認識できてんだ?」

アルフォンス「…それに近しい存在、ってことなんだろうね。多分」

マスタング「私が何故この世界を認識しているかなどこの際どうでもいい」

マスタング「戻るぞ」

アルフォンス「……中央へ、ですか」

エドワード「ここは…俺とアルがさっきいた所よりもっと壁内部なんだろ?」

エドワード「ここまで運んでおいて、今更何言ってんだよ…」

マスタング「壁外側から巨人が多数接近してくる足音がしたのでな」

マスタング「君が目覚めるか、或いは君を見捨てるか。それが許されていたなら巨人を突破できただろうが」

マスタング「生憎そんな選択を取れるほど私も人を捨ててはいない」

マスタング「大変だったんだぞ。一頭の馬で三人を運ぶのは」

マスタング「アルフォンスだけでも起きてくれた事が幸いした。その鎧の中に私が入り、そして君を担いで乗馬というわけだ」

マスタング「この重量では馬も終始苦悶の表情を浮かべていたとも。ここから脱するなら、他の馬を探すか、もう二頭を見つけてくるかせねばな」

エドワード「…なら今俺たちがいるのはトロスト区って所か」

マスタング「いや。そちらは大砲の砲撃音などどうにも騒がしかったものでね。今いるのはクロルバ区という西部側の区域だな」

アルフォンス「徹底的に戦闘、接触を避けて辿り着いたのがここだよ」

マスタング「…移動中、不可解な話をアルフォンスから聞かされたよ」

マスタング「――『光る巨人』を見たそうだな」

エドワード「…ああ。こうもファンタジーなことが立て続けだとそう不可解なことでもねえけどな」

エドワード「肝心なのはあいつの発言だ」

アルフォンス「巨人の力、真理、その二つを手にした…」

エドワード「おまけに俺達をも利用した何かを企んでやがる」

エドワード「誘導のため、ご丁寧に情報って餌をわざわざ与えてな」

マスタング「……ならばそれに乗ることも無かろう。尚更戻るべきだ」

エドワード「お断りだ!」

マスタング「…何故だ?」

エドワード「見ちまったからだよ……」

エドワード「巨人っつう、如何にも人を実験動物か何かに使って生み出されてそうな奇怪な存在をな」

マスタング「……タッカー氏の件がまだ頭に焼き付いて離れない、か」

アルフォンス「…」

マスタング「だが人間を材料に錬金術によって生み出された存在、ということを確定させる情報も無い。そうだという保証も無い」

エドワード「そりゃそうだけど!」

マスタング「命がいくつあっても足りんぞ鋼の」

マスタング「救世主にでもなったつもりか? 君が忘れられない過去を背負っていることは分かる。だが」

マスタング「それを理由に、同じ事を繰り返すまいと、世界を巡るか? 一人で?」

マスタング「愚の骨頂だ。……わきまえろ」

エドワード「…、」

エドワード「…………」

エドワード「俺とアルは、真実の奥の更なる真実を求めて旅をしてる」

エドワード「救世主を気取るつもりなんて、さらさら無いさ」

エドワード「俺もアルも、どんなに錬金術の腕や知識だのを磨いたところで、誰かを救うなんて、」

エドワード「…」

エドワード「そんなおこがましい事はもう、」

エドワード「……もう、考えてやしないさ。いい加減な」

アルフォンス「兄さん…」

エドワード「けど、その旅の中で、」

エドワード「せめて俺達が通る道中に、まだ何に堕ちてもいない存在が、覚えのある悲劇と酷似したものに襲われそうになってて、」

エドワード「そういう奴に関わる分には、それは救済じゃなくて、」

エドワード「…守る」

エドワード「そうだ、守ること。それは、許されていいんじゃねえか? …人として」

マスタング「…」

エドワード「それにこれは、いい好機なんだよやっぱり」

エドワード「こんな素晴らしくファンタジーなイカれた世界で、賢者の石が全くの無関係とは到底思えねえ」

マスタング「……他国のことだ」

エドワード「違う。他国どころじゃねえんだよ」

エドワード「――ここは異世界なんだよ」

エドワード「一般の人にはクレタ国の荒野でしかない場所だ」

エドワード「存在エネルギーってのが影響して、ここの存在が世界中でほのめかされようが、」

エドワード「やっぱここは真理を知るか、それに近しい人間しか感覚できねえ世界で、どうしようもなく異世界だ」

マスタング「尚のこと関わる必要性が無いな」

エドワード「ああそうかもしれねえな」

エドワード「けど可能性ならある。俺とアルが元の身体に、誰の命の犠牲も無く取り戻せる手段が見つかる可能性があるんだ」

エドワード「いつもの通り、暴れてやるさ。何しろ俺は各地で騒動を起こすことで有名な、」

エドワード「鋼の錬金術師、エドワード・エルリックなんだからな」

マスタング「…」

アルフォンス「大佐…」

マスタング「私は道中考え事をしていた」

エドワード「?」

マスタング「数いる巨人の中に、おそらくは賢者の石を用いて巨人を生み出す『人柱』とやらがいると、そう読んだ」

マスタング「巨人の存在が明るみになれば『人柱』に繋がり、どう利用するか…それこそ知らないが、ホムンクルスの手に『人柱』を渡してしまえば、より国の危険性を高めると推測した」

エドワード「奴らの情報網に『壁の牢獄街』に関することが引っかかってねえって思ってるのかよ」

エドワード「パンドラの箱はもう開いちまったんだ。後戻りはできない」

マスタング「願望でも構わん。ホムンクルスと巨人を結び付けたくはなかった。現状結び付いてるとは限らない以上な」

マスタング「やはり大人しく引き下がるべきだった。だが思う以上に君達の意志が固いことと…」

マスタング「アルフォンスの言う『エレン・イェーガー』とやらと、光の巨人が接触していること。何より後者の要素は見過ごすに値しない情報だ」

アルフォンス「じゃあ…、一緒に壁内部のまた奥にある謎へ、付き合ってくれるんですね!」

マスタング「ああ」

マスタング「中尉を連れてこないでやはり正解だったよ。もっとも、この世界を感覚できないのだろうが…」

エドワード「……後者の要素の、何を見てる?」

マスタング「鋼の」

マスタング「君はこう言ったな。こうもファンタジーなことが立て続けだとそう不可解なことでもないと」

マスタング「私は違う」

マスタング「嘘のような突飛な真実一つ一つの中で、記憶に馴染んだ既知の要素がたった一つ、紛れ込んでいる…。それに着目しているのだ」

エドワード「まわりくどいんだよ、何だってんだ」

マスタング「光の巨人。その正体に、覚えがあるかもしれん」

エド・アル「!?」

~数年前~

アメストリス東部 イシュヴァール


マスタング「…この殲滅戦、あとどれだけ続く」

ヒューズ「……さあな…」

ヒューズ「…」

ヒューズ「前にも言ったお前さんの『目』だが…」

ヒューズ「また刻々と酷くなってきてるな」

マスタング「……奪った命の数が違うよ」

マスタング「残酷なまでに私の錬金術は…戦場において有効が過ぎると言わざるを得ないよ、ヒューズ」

ヒューズ「『焔』…か」

マスタング「焼死する人間の有様は酷いものさ。銃殺される者と違い、死に間際の嘆きが耳に障って仕方がない」

ヒューズ「断末魔ってやつか。かもなあ」

ヒューズ「人は焼死の際、完全に死亡する前に余りの壮絶な苦痛に気を失うと聞く。息をしようにも肺に入ってくるのは煙に灼熱の炎。気管だの肺細胞だのがイカれて…」

マスタング「…、」

ヒューズ「と…、すまねえ」

ヒューズ「長く戦場に晒されていると、面白い話のネタも頭の中で枯葉みてえになっちまって、つまんねえ実用的な知識、現状に対する悲観、明日への不安だの、そんなもんばっかが口を付いて出てくる」

ヒューズ「戦場には一人くらい、軍医の他にも兵を精神的な面でケアを施す道化(クラウン)なんかがいてもいいと思うんだがどうだよ、ロイ」

マスタング「…ふん。そうだな」

マスタング「数少ない女性兵は戦場においてずばり『花』に相違ない」

ヒューズ「?」

マスタング「例えば彼女らを全員ミニスカで統一する政策でも推し進めたほうがよっぽど、兵の精神衛生上において良好な影響を及ぼすとは思わんかね」

ヒューズ「…」

ヒューズ「っはは、妙案だな」

ヒューズ「戦場には道化にミニスカ兵。こいつぁ愉快だ。ああこりゃあいい。ははは!」

ヒューズ「ま、何だ」

ヒューズ「お前さんは数多く敵を討ち、この戦場じゃあまさしく英雄みてえなもんだがな…」

マスタング「……英雄、か」

マスタング「この私がね…」

ヒューズ「そう呼ばれるに値する所以はそれだけじゃねえと俺は思う」

ヒューズ「敵を多くぶっ倒す以上にお前は、仲間を多く救ってる」

マスタング「…」

ヒューズ「そりゃ強いものにしかできねえことだ。優しい奴にしか成し得ないことだ」

ヒューズ「ロイ。お前の眼は、現状に対する悲観や明日への不安を見るためのものじゃないらしい」

ヒューズ「常に未来を見据え、それを掴み取るために、お前の眼はある」

ヒューズ「お前さんの『在り方』、戦い様、そして未来。これは強く、強く繋がってる」

ヒューズ「今の俺達は半ば理由も、自己に対する決意も曖昧なままに、ただ生き延びるべく、泣き叫び逃げ惑う敵を片っ端から薙ぎ倒して言ってるけどな」

ヒューズ「この正しいか正しくないかすら分からねえ現状も、ちゃんと明日に繋がってる」

マスタング「…」

ヒューズ「戦い続けてる限り、ちゃんとお前の望む未来は着々と近付いてきているよ」

ヒューズ「だから潰されてんじゃねえぞ、ロイ」

ヒューズ「そんな何かを諦めたような目をすんな。受け入れて、乗り越えろ」

ヒューズ「俺達人間は毎日を『生きてる』訳じゃねえ。『生き延びてる』んだよ」

ヒューズ「それを真に理解したとき、今この瞬間にも己を襲う理不尽だの何だのに、しっかり向き合うことができる」

ヒューズ「折れそうになったのならちったあ弱音でも吐け」

ヒューズ「お前さんは一人じゃない」

マスタング「…………ああ」

マスタング「ありがとう」

マスタング「少し楽になったよヒューズ」

ヒューズ「…ならいい」

ヒューズ「そういやあ」

マスタング「何だ?」

ヒューズ「英雄と言えば、だよ」

ヒューズ「――『光』の錬金術師、ライト・アルペンハイム」

ヒューズ「奴もなかなかのやり手のようでな。その実力に紅蓮の錬金術師も舌を巻いてたらしいぜ」

マスタング「二つ名が『光』の国家錬金術師か…。覚えがあるな」

ヒューズ「『紅蓮』のキンブリーや『焔』のお前さんと似たようなもんで、両手に錬成陣を有してる。そいつの場合は手の甲か」

ヒューズ「その手…正しくは錬成陣、か。そこにありとあらゆる光源から発せられた光が触れれば錬成の条件は完成。その光情報を電力エネルギーに変換し、それを以て敵を攻撃する…が主なスタイルか」

マスタング「まるで未来の発電機だな」

ヒューズ「ただし真っ暗闇じゃ無能だ。雨の日のお前さんみたいだな。この辺もロイと被ってる」

マスタング「余計なお世話だ!」

ヒューズ「しかもこれだけじゃねえんだよ似通ってるのはよ」

ヒューズ「何より注目すべきはその人格だ」

マスタング「…どんなものなんだそいつの人格とやらは」

ヒューズ「だ・か・ら、そこん所もお前さんそっくりって訳だ」

ヒューズ「戦場の主役に相応な実力を持ち、そしてそれに比例するように優しく、ただし甘くはない」

ヒューズ「そいつもお前のように未来志向な考え方をしてる。具体的な企みは知らんが…現状の軍の方針に不満があるってのは有名な話だな」

ヒューズ「ブラッドレイ大総統を、その椅子から引き摺り下ろしたがってるかもしれねえな。

マスタング「変革者…」

ヒューズ「正義感も強いと聞く。恐ろしいまでにだ。それだけに、敵の掃討より、仲間の守備・援護に回ることも少なくねえんだとか」

ヒューズ「その人間味を捨て切れないところは、ややお前さんよりも強い傾向にあるかもな」

ヒューズ「イシュヴァールの民にその雷を浴びせる時の目はそりゃ酷いもんらしい。まるで飼い猫でもなぶり殺しにするかのような、ただただ、悲しい目」

マスタング「…そいつはお目に掛かりたいな。今そのライトとやらはどこの地帯を担当してる?」

ヒューズ「アルペンハイム中佐、な。階級はお前よか上」

マスタング「何と」

マスタング「……尚更、挨拶がしたいね」

マスタング「同志であり…そう、ライバル。そんなポジションを担う存在が、このロイ・マスタングの人生というストーリーにそろそろ誰か現れていい頃合いだと思っていたんだ」

ヒューズ「へっ、馬鹿馬鹿しい…」

ヒューズ「彼は人望に厚い側面からは考えられないほどのシャイ…コミュニケーションに不得手な人柄と聞く」

ヒューズ「会っても会話が成り立たねえと思うぜ」

マスタング「なめるな。私は会って一、二分で女性の警戒心を解き更にはその心を我が物とする術を身に付けた飛びぬけた一流の紳士だぞ?」

ヒューズ「同姓に通じるかどうかは別だろうがな…」

マスタング「通じるとも」

ヒューズ「ふうん…」

ヒューズ「ま、お前さんを信用してくれる存在は一人でも多いほうが良い、か」

マスタング「?」

ヒューズ「俺も知り合いって訳じゃねえ。紹介はできねえが…」

ヒューズ「オレンジの眼・長髪が特徴的な、肌の白い細身の男ならしい」

ヒューズ「まあ広い戦場だが国家錬金術師はそうわんさかいる訳じゃない。そんでもってこういう状況下において主力っつう存在は分散させて然るべきモンだ」

ヒューズ「会える可能性は低いだろうが、せめてこの殲滅戦が終われば、挨拶のひとつ位はいいかもな」

マスタング「ああ。小さな楽しみがひとつ増えた」

マスタング「そういったものはひとつでも多い方が良い。思う以上に、生の執着というものは脆いからな」

マスタング「世界に楽の事は欠かせんよ。そうだろヒューズ?」

ヒューズ「ああ。俺にもとびっきりのお楽しみが、幸せが待ってる」カサリ

マスタング「あの手紙か…。何かの拍子に無くすなよ」

ヒューズ「はは、無くすかよ。馬鹿」

数日後


「――ロイ・マスタング!」

マスタング「…ん?」

――――ズガァ!!……ッン…………!

バチッ、バチチッ……


『く、は、』ドサリ


「…あ、危なかった……。背後、狙われてたよ」タタタッ

マスタング「…、」

マスタング「や。助かったよ。……ありが」

マスタング「!」

マスタング(今の雷の錬成。オレンジの髪と眼、細身、白い肌…)

マスタング「あ、貴方はもしや、ライト・アルペンハイム中佐…」

マスタング「光の錬金術師!」

ライト「? そ、そんなに驚かれたのは…初めて、だなあ。はは」

ライト「君こそ『焔』の錬金術師じゃないか。戦場で会えるとは、やあ、光栄だよ」

マスタング(確かに口調が覚束ないな。対人に不得手とは聞く通りらしい)

ライト「?」

マスタング(…目……)

マスタング(人という生き物はある程度生きると『目』ひとつに物言わぬ全てがそこに宿される)

マスタング(この目は…なるほど。ヒューズめ…)

マスタング「こちらこそ、光栄だ。私はご存知の通り『焔』の錬金術師…」

『あそこだ、撃てェ!」

――――パキンッ!

ジジッ…

ゴウッ!!!!!!!!

『がああああああああああああ!!!』

マスタング「ロイ・マスタング。地位は少佐だ」

ライト「噂に違わぬ見事な錬金術だ…」

ライト「以後、よろしく。共に最後まで生き延びよう」

マスタング「ああ。御武運を」

数時間後


ライト「ロイ・マスタング!」タタタッ

マスタング「アルペンハイム中佐! …ご無事で」

ライト「今日も何とか生き残れたよ…たはは」

マスタング「私の事はロイで」

ライト「じゃあ、ロイはライト…じゃあ、立場上、あれか。うん。周囲に中佐がいなきゃ中佐って気軽に呼んでよ」

マスタング(……思っていたより気さくに話しかけてくるが…)

ライト「僕、気になってたんだよ。君の、その目」

マスタング「!」

ライト「いやあ。似た者っていうのは、やあ、探せばいるもんなんだねえ、はは」

ライト「少し嬉しくなっちゃって。思わず話しかけちゃったよ」

ライト「……迷惑、だったかな」

マスタング「い、いえ! そんな事は」

――――ま、お前さんを信用してくれる存在は一人でも多いほうが良い、か

マスタング「…」

マスタング「少し、話しましょう」

マスタング「気が塞いでいては、戦の空気に心が参ってしまいます」

ライト「同感」





ライト「――肩、凝るでしょう」

マスタング「…は?」

ライト「丁寧な口調はいいって。うん。はは、そのさ、そういうの、慣れてないんだ、僕もさ」

ライト「まさか中佐の地位にまで辿り着くだなんて、思いもしなかったからね…」

ライト「それにあの時、戦場の君はそんな肩の凝る話し方じゃなかったよ。咄嗟のことだった」

ライト「あれが、君の素だ」

ライト「殆どの上官を良く思っていないんだよね、きっと。自分の進路を妨げる壁くらいに思ってる」

ライト「何せ君は未来の成り上がった自己のイメージさえ既に確立している。現状の上官なんて、役立たずの給料泥棒ほどにしか見ていない」

マスタング「……!」

マスタング「大した洞察力をお持ちで」

マスタング「…いや、持っている」

ライト「同類だからね」ニコリ

マスタング「……」

マスタング「上昇志向を持ちながら、現状の地位を予想だにしていなかった、と?」

ライト「うん」

ライト「中佐だとか、大佐だとか、そういうの、あんまりイメージしてなくって」

ライト「――最上の椅子に座った時のことしか考えてなかったからね」

ライト「過程なんて、考えてもいないよ」

マスタング「…」

マスタング「この短いやり取りの間にこれだけ驚かされるような人物と出くわすのは久しい」

ライト「君を驚かせる人物って? …興味あるな」

マスタング「うむ…」

マスタング「……そうだな…」

マスタング「彼は…そう、錬金術において私の師である存在だった」

ライト「というと『焔』の…」

マスタング「」コクリ

マスタング「今となってはこの戦場に身を置いているリザ・ホークアイ少尉、その父親だ…」

ライト「彼女の…」

ライト「鷹の目のような精度を誇ると噂の、腕利きの女兵かい」

マスタング「……彼女にはあのような『眼』は相応しくない…」

ライト「…」

ライト「確かに酷いものだったよ…」

ライト「まるで機械みたいな凍てついた眼差しだった」

マスタング「そうならざるを得ないさ。この戦場では…」

マスタング「君は…。いや、」

マスタング「中佐。あなたの眼にはこの地獄に轟く嘆きに晒されて尚、光り輝くものを宿している…」

マスタング「そして私もそう在りたいと、いや、そう在り続けるという覚悟、信念を持っているという自負がある」

マスタング「どちらが先に高みに上り詰めるか…」

ライト「…」

ライト「」ニコリ

ライト「勝負だね」

マスタング「必ずや生き残ろう」

ライト「何を犠牲にしても」

マスタング「……等価交換、か」

ライト「得よう。未来を」

ライト「己の全てを賭して」

~イシュヴァール殲滅線 終戦時~



ヒョオオオオオオ…


ライト「…」

ライト「何だ、これは」


ヒョオオオオオオ…


ライト「何なんだ、この惨状は」


ヒョオオオオオオ…


ライト「ここまでする必要があったのか!!?」

ライト「罪もない人々を…ここまで……」

ライト「女子供すら……何の躊躇もなく…」


ヒョオオオオオオ…


ライト「今更何を…」

ライト「軍人である、この僕が……」

ライト「…間違っている」


ヒョオオオオオオ…


ライト「間違っている」

ライト「間違っている…!」

ライト「間違っている!!!!!!!!!」

ライト「この国のやり方は、間違っているッ!!!」


ヒョオオオオオオ…


ライト「アメストリス…」

ライト「…………」

ライト「キング・ブラッドレイ……!!」


ヒョオオオオオオ…


ライト「…やはり理不尽を壊すには」

ライト「それを上回る理不尽が支配しなければ、どうしようもない」

ライト「変えてやる…!」

ライト「この国を」

ライト「世界を…!」



ヒョオオオオオオ……

現在


マスタング「彼と言葉を交わしたのはただその一度きりだが…」

マスタング「あの眼に私は、同一的な強い何かを感じてならなかった」

マスタング「もしかするとあの国に対する不満が、良からぬ方向へ向いているのかもしれない」

エドワード「光の錬金術師か…。そういやそんな二つ名をどこかで耳にしたような」

アルフォンス「もうその時以降は一度も?」

マスタング「ああ」

エドワード「……確かに光エネルギーを上手く使えば催眠作用をも生み出す何かが錬成できっかもしれねえな。理論構築はさっぱりだが…」

エドワード「特異な錬金術なだけに、これはビンゴかもしんねえぞおい…」

アルフォンス「鎧でしかない僕ですら眠らせることができるだなんて…。こんなの、どう太刀打ちすればいいのか…」

エドワード「確かに…」

エドワード「幾らなんでもアルに催眠が通用するなんてのは…」

エドワード「よほど高度なエネルギーでも有していない限りは…」

エドワード「高度な…」

アルフォンス「エネルギー…!」

マスタング「…………賢者の石、か」

エドワード「…おいおいクソ大佐さんよ」

エドワード「どうやらそのキラキラした眼とやらには最悪な未来が宿ったいたらしいぜ」

エドワード「――とんでもねえ結末しか、見えてこねえぞ」

マスタング「…過程の域を出ない所だが……」

マスタング「止めるぞ」

マスタング「この世界には嫌な雰囲気が漂っていてどうにも吸う空気がまずくなる。どの道、扉の向こう側とやらに付き返さねばならない時が来るだろう」

エドワード「どうする?」

マスタング「トロスト区だ」

マスタング「何やら大事が起きているような物々しい騒音を撒き散らしていたからな」

マスタング「中心部に殴りこみに行くぞ」

エドワード「…ちっ」

エドワード「アル。お前は大佐に着け」

エドワード「俺は別行動といくわ」

アルフォンス「えっ? ど、どうして?」

エドワード「大佐は巨人と相性が悪い。俺やお前みてえな、錬成陣無しでも錬成できるオールマイティでパーフェクトなスペシャル錬金術師がこの能無しに着いていってやる必要がある」

マスタング「何ならもう一度昏睡状態に陥らせて巨人の群に放ってやってもいいぞ鋼の」

アルフォンス「でも兄さんが一人になる必要なんて!」

エドワード「俺は俺でやることがある。お前は大佐を援護してやれ」

アルフォンス「でも…!」

マスタング「……」

マスタング「そこまで拘るか。賢者の石に」

エドワード「いざとなった時、私情を挟まれちゃたまったもんじゃねえからな。別行動、早いモン勝ち」

エドワード「文句ねえだろ?」

マスタング「…良かろう」

マスタング「どちらにせよ、君と行動を共にするのはあまり好ましくない選択だ」

エドワード「こっちの台詞だボケェ!!」

アルフォンス「まあまあ…」

(推定844年)


ウォールマリア・シガンシナ区


――ポトッ


グリシャ「?」

グリシャ「…」

グリシャ「何だ?」

グリシャ「何か、落ちてこなかったか」


――ドクンッ


グリシャ「!?」


――『石』と『賢者』は、互いに惹かれ合う

――ドクンッ


グリシャ「…、」

グリシャ「……何か、聞こえる」

グリシャ「どこだ?」


――ドクンッ


グリシャ「声…?」

グリシャ「鼓動……」


――ドクンッ

――ドクンッ

――ドクンッ


グリシャ「! 近い…」


――ドクンッ

ブラッドレイ「…君かね。我々ホムンクルスの邪魔立てをするという錬金術師は」

ライト「…」

ライト「まさか…」

ライト「わざわざそちらから出向いてくれるとは思わなかったよ…」

ライト「……キング・ブラッドレイ…」


ウォール・ローゼ 南西部


――風の音が空気を軋ませる。

橙色の髪と瞳の青年、細く鋭い殺意を眼帯に潜めた一国の長。

そこには空気が悲鳴を上げるほどの強い念が渦巻いていた。

爪で金属を引っ掻くような鋭利な殺意が一帯で暴走している。

互いの眼は常人のそれとは一線を画している。

もはや獣を凌駕し、それはまるで、

鬼。

邪。

或いは、

ライト「――悪魔、かな」

ブラッドレイ「…何のことかね?」

ライト「あんたのことだよ」

ブラッドレイ「言うようになったじゃないか。光の錬金術師」

ブラッドレイ「…『光』の二つ名には些か相応しくない眼に変わってしまったな」

ライト「とうに捨てたよ。『光』なんてものは」

ブラッドレイ「国家資格さえ捨て、どこを彷徨い果てているかと思えば、よもや……」

ブラッドレイ「我々の行く手を遮る最大の黒き大樹へと成長しているとは、分からんな。人間というものは」

ライト「御託はもういい」

爪が剥がれ、血が飛び散る。そんな気配が空間を支配したその一瞬。

軋む殺意を破壊し、空気を裂いて、錬成された稲妻は龍へと変貌し、その老年へと襲い掛かった。

鳴る。





――――ガァァァァァァァァァッッッッッッッ……ンッ…!!!!!

ブラッドレイ「ほほ」

笑い声。

否、嗤い声。

眼帯は既に地に放られていた。

『眼』を開放した老年は稲妻の早ささえ回避し、

人間の限界を幾重にも超越した速さで橙の瞳を惑わせ、

到底、誰の目に見える筈もない疾さで抜かれたその愛刀二つでしなやかに、

突く。

――スッ

ズザッ!

ブラッドレイ「…む」

刀は空を泳いだ。

風がかき乱され、音が止まった。

老年の足の爪先は地に食い込んでいる。

最強の『眼』が無色透明の海中を探泳し、

――捉える。

ブラッドレイ「見えないとでも思っているのかね?」

ヒュッ!!!!

まさに、神速と神速の戦い。

またも刀は空を突き、

ブラッドレイ「」ギロリ

最強の『眼』がかろうじて追い付いた数十メートル先に、

余裕の表情で構える橙の青年がいた。

スタッ…!

ブラッドレイ「むう」

ブラッドレイ「……やりおる」

ライト「老いたね。直に眠るんだろうけど」

ライト「僕はそれを今に望みたい」

ブラッドレイ「ふむ。やってみたまえ、小童よ…」

ブラッドレイ「『わざわざそちらから出向いてくれるとは思わなかった』…とはよく言ったものだ」

老年はその二人の距離を全く感じさせない速度で接近し、

斬撃の嵐を呼び起こす。

――――ゴオオオオオオオオオオオオ!!!!

フッ…

ライト「遅いよ。全然、遅い」トッ…

まるで止まっていた時間が動き出したかのように、緩慢な着地音を立て、またも橙の青年は殺戮機械と一定の距離を保つ形で構えている。

青年の腕は組まれていた。

笑みさえ浮かべて、剣の達人を見据えている。

ライト「最強の眼…。その名が泣くよ」

ブラッドレイ「…」

ブラッドレイ「確かに」

ブラッドレイ「その速さの正体が掴めん」

ブラッドレイ「まさに光か。攻撃が当たらぬ。ほほ」

ライト「…」

ブラッドレイ「…」

ブラッドレイ「おびき寄せていたのであろう? 我々ホムンクルスを、引いてはこの私を誘導するために」

ライト「力を手に入れたからね。あなたを倒すには充分に達したと判断した」

ブラッドレイ「ではこれ以上の、何を望む?」

ライト「足りないんだよ」

ライト「力も、支配も」

――――ガァァァァァァァァァッッッッッッッ……ンッ…!!!!!

雷鳴が緊張の糸を消し飛ばす。

二人の姿は消えていた。

地が震え。荒野は音を立てて恐怖する。

地の砂利が弾け、その痕跡が両者の交わりを示し、そしてそれは一帯の彼方此方でほぼ同時に発せられる。

切り結ぶ音は無い。

雷(いかずち)と刀は決して交えない。

その必殺は一撃でも、どちらか一方を捉えれば、勝敗は決する。

達人と達人の戦いは、ごく僅かな均衡の狂いが生まれたときには既に終わっているもの。

それを感じさせるには充分な、人の域を越えた戦いが繰り広げられる。

――――ゴオオオオオオオオオオオ!!!!!

――――ヒュッ!…

――――ガァァァァァァァァァッッッッッッッ……ンッ…!!!!!

時が経つに連れ、地はその荒れ様をより一層増していき、

先に匙を投げたのはまさしく、両者の戦場(フィールド)に他ならないその地であった。

大きな地割れが起きる。

ドゴォ!!!!!!!!

パリッ…パリリッ

電気の弾ける音がその戦場を包んでいる。

二人は肩でほんの少し息をしながら、再び一定の距離感で立っていた。

静かな殺意をたたえながら、隙を窺っている二人の化け物。

一瞬を探しているのか、一瞬を作り出すためか、

ふと、青年の口が開いた。

ライト「真相を全て知った時は、そりゃあ愕然としたさ。ホムンクルス」

ライト「国そのものが腐っていたと知った日にはね。普通は絶望するだろう」

ブラッドレイ「……世界を変革する気かね」

ライト「ホムンクルスに任せておけばアメストリスは滅ぶ。到底、美しくないやり方だ」

ブラッドレイ「『紅蓮』のようなことを言う…」

ブラッドレイ「…神を拝みたくはないのかね?」

ライト「そんなものに興味はないし、それに僕はそんなもの、」

ライト「『向こう側』でとうに拝見させてもらっているよ。…実にくだらないものだった」

ブラッドレイ「…」

ブラッドレイ「!」

ブラッドレイ「……貴様…まさか、」

ライト「…」

ブラッドレイ「ふむ…。人間にしてこの奇怪なまでの強さは一体何なのか不思議でならなかったが…」

ブラッドレイ「お父様の存在さえ危ぶまれる、今この瞬間我々にとって貴様は、最大の大敵となったぞ。小僧…」

ライト「計画は着々と進んでいる」

ライト「ここにはエドワード・エルリック。アルフォンス・エルリック。ロイ・マスタング」

ライト「エレン・イェーガー。壁の牢獄街。……そしてこの僕がいる」

ライト「エレンが扉を開いたその瞬間から、このクレタ荒野には既に大きな陣が完成している」

ライト「仕掛けも発動してくれたようだ」

ライト「…時は近い」

ライト「君達の出る幕は無いんだよ、ホムンクルス!」

ブラッドレイ「ここで貴様を葬れば全て片が付く。……違うかね?」

ライト「鈍足の爺が今更何を…」

ブラッドレイ「――突く!」ジャキン!!

疾さが大気を斬り刻む。

もはや二人の戦いは「戦闘」でなく「現象」と呼ぶ他ない。

映写機によって映し出されたようにその光景はフラッシュし、そのたび地獄に轟くような雷鳴が遅れて空間を支配し、

地が揺れ、削れ、割れ、

空気には幾度となく穴が開き、風は逃げ惑い、

悪魔の殺意を宿した眼光が尾を引いて、蝋燭から煙るように辺りへ漂う。

二人は地も風も屈服させながら、必殺の間合いを時と時の連なりの中で探し続ける。

ブラッドレイ「はあ!!」

刀身が煌いた。

ヒュッ…

やはり、当たらない。

どうしようもなく命中しない。

当たる筈もない。

相手は光も同然だ。

光の速度をもし体現しているのだとしたら、それこそ

その速さを超えるものはこの世に存在しない。

最凶の老年は理をかなぐり捨て、殺意の赴くままに刀を振るい続け、

やがて、

しかし、

当たらない



――――かに、思えた。

ッ…










スパッ!

ブラッドレイ「!」







































ライト「――――油断したね? ホムンクルス」ニヤア…

――肉を切らせて骨を絶つ。

戦術としては余りにも基礎だが、しかし、

世の理とはあらゆるものがその『基』に回帰し、

この達人二人の殺し合いもまた例外ではなく、



橙の青年の頬に走った傷、僅かに舞った三滴の血、

それを目視した殺戮マシーンのほんの僅かな、一瞬の、

油断。



ライト「くたばれホムンクルス…」

ライト「――キング・ブラッドレエエエエエイィッ!!!!」



これまでにないエネルギーの集合、

地から魔でも召喚されるかというような振動、

時さえその畏怖に戦慄し、

巨大で強大な雷が老年の頭上目掛け降り、そして、










鳴った。


――――ガァァァァァァァァァッッッッッッッ……ンッ…!!!!!

ズゴゴゴゴゴゴ…

ライト「…」









「――アンタさぁ、鈍足の爺って、そう言ったよなア?」









ライト「!」

エンヴィー「そりゃそうだよ。だって俺、所詮速さじゃラースには及ばねえもん」パリッ…

ライト「……ブラッドレイじゃ、ない…!」


















――――本物の殺意が、時さえ見逃すような疾さで顕われた。


ザクッ!!!…

血。

血。

血。

――血。


荒れ果てた地に鮮血が零れ落ちる。

一滴。

二滴。

三滴。




ブラッドレイ「……今から死ぬ。そう悟った時の痛みはどうかね?」

ブラッドレイ「ライト・アルペンハイム」

ライト「、は……ッ。ぐ、う」

橙の青年の腹部から、刀身が突き出ていた。

エンヴィー「いやあ、悪いね」

エンヴィー「肉を切らせて骨を絶つ。うん、良い言葉だ」

エンヴィー「油断を誘ったり、確実に相手を仕留めたり、多少の犠牲の上に成り立たせる戦法を例えた東の方のことわざだったっけか」

エンヴィー「これが決まると最ッ高に気持ち良いんだわ」

エンヴィー「まあ…ラースはともかく、賢者の石さえあれば、肉なんて幾ら切られてもへっちゃらなんだけどね。ホムンクルスはさ」

エンヴィー「俺とグラトニーがここの奴らと闘り合ったの、多分アンタならどういう方法かで知ってたと思ったんだよねえ」

エンヴィー「だからすごすごお家に帰ったと思われた。それが功を奏したよ」

エンヴィー「俺がグラトニーの賢者の石を使って復活。奴はお父様が作り直すことになったが…」

エンヴィー「ま。結果として、厄介な光の錬金術師を仕留められたんだから、よしとしよう」

ライト「…、」ゼイゼイ

エンヴィー「……」

エンヴィー「でさあ」

エンヴィー「何か無いわけ? 死んじゃうよ?」

ライト「…、」ゼイゼイ

エンヴィー「…ちぇ、つまんねえの」

エンヴィー「もういいよラース。やっちまえよ」

ブラッドレイ「言われずとも」

ブラッドレイ「……さらばだ」

ブラッドレイ「光の錬金術師よ…」

ライト「く」





エンヴィー「……………………」

エンヴィー「あ?」

エンヴィー「お前今、もしかして…」

エンヴィー「笑ったのか?」

ブラッドレイ「…」

ブラッドレイ「!」


ライト「ふ」

ライト「ふふふふ、く」

ライト「はは」

ライト「」









ライト「――――アハァッはははははははあはっははははははっはははははははは!!!!!!!!!!!!」

ライト「あははははははははははははははははははは!!!!!!!!!」


エンヴィー「ちっ。死ぬ寸前に狂いだしやがった」

エンヴィー「…おいラース。とどめは…」

エンヴィー「……」

エンヴィー「ラース?」

ブラッドレイ「こやつ…」

ブラッドレイ「――魂を、どこに置いてきた?」





ライト「はははははははっはははははははははははははははっははははははっははははははァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」

ライト「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ



――空が、闇に満ちた。

ウォール・ローゼ 南部



ドドドドドドドドドドドドド…


エルヴィン「目標、エレンはトロスト区に向かっている!」

エルヴィン「急げ!! 巨人化し暴走したエレンを鎮めよ!」

エルヴィン「弱点部からエレンを救出する形が最も望ましい! くれぐれも人類の希望であるエレンの命を奪うような真似はしてくれるな!!!」





アルミン「…どうしよう」

ミカサ「アルミン?」

アルミン「兵団総出で追い掛け始めて、もう大分経ってる。馬じゃ巨人化したエレンを追い掛けるのには無理がある…」

アルミン「最悪の場合トロスト区は、……皮肉にも、奪還の重要な一手を担ったエレン自身の手で、全壊させてしまう!」

アルミン「ずっと付いていたリヴァイ兵長が頼りだけど…。女型戦で負傷中じゃあ、それも信じ切れない」

アルミン「聞くところによるとエレンはアニみたいな水晶化を全身に施して暴走したって…」

アルミン「それってもしかしなくても、うっかり石をエレンに任せた、僕の責任だ……」

ミカサ「アルミン」

アルミン「くそ、くそ、どうして…肝心な時にいつも僕は…!」

ミカサ「アルミン!」

アルミン「くそ、くそ、くそ……」ブツブツ

ミカサ「……アルミン…」

ジャン「無理もねえぜミカサ、暫く放っておいてやれ」

ジャン「今のアルミンには誰の声も届きやしねえよ。或いはこの惨事の発端だ、重圧に押し潰されんのも止む無しってやつだ」

ミカサ「でも…」

ジャン「にしても…いつもながらって話だが、訳が分からねえよ」

ジャン「アニの水晶体の欠片とエレンが融合して暴走……の可能性、だなんてよ」

アルミン「僕らは」

ジャン「!」

アルミン「僕らは…巨人の何も、分かっちゃいないんだ。忘れる暇もなく、常に痛感させられる」

アルミン「現実が僕らの思考を超越して、襲い掛かってくるんだ」

アルミン「太刀打ちできやしないよ…」

ジャン「…」

ハンジ「言っても無駄かもしれないけど、あまり気にしないでよ」

ジャン「! 分隊長…」

ハンジ「大元を辿れば、石をアルミンに任せた私の責任でもある」

ハンジ「…いや、私の責任だ」

アルミン「分隊長…」

ハンジ「あとでみっちり絞られるだろうね。リヴァイに」

ハンジ「もしかすると命だって危ういかもしれない。今回ばっかりは、覚悟しないとねえ。…くう~、嫌になるね」

ハンジ「人類最強のお仕置きってそりゃもう、とびっきりキッツいんだからさあ」

ミカサ「分隊長…こんな時でも、楽観的ですね」

ハンジ「…」

ハンジ「楽観してなきゃ、やってられないよ」

ハンジ「むしろその方が良いんだ。私がリヴァイに仕置きで命を取られる方が」

ハンジ「……生きてろよ、リヴァイ…」

ハンジ「お前はエレンの監視役…、いや、護衛で……」

ハンジ「疑いようもなく、人類最強だ…」

ハンジ「エレンを上手く止めてくれよ…!」

ウォール・ローゼ トロスト区


一体と二人は対峙していた。

一人は鋼の鎧の姿。だがしかし、ある筈のない恐怖という「表情」を感じさせる不穏な空気を醸し、じっと「それ」を見上げていた。

一人は練成陣の記された発火布を手に、臨戦態勢に入っている。眼はどこまでも鋭く真っ直ぐに、物怖じしない毅然とした風だ。

そして。

エレン(巨人)「…」

エレン(巨人)「ゴ」

マスタング「!」

アルフォンス「う…」ビクッ

エレン(巨人)「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」ビリビリビリ!!…

猛り、雄叫び、啼いている。

あまりにも禍々しい怨念と、美しい結晶の、相反するふたつを身に纏い、

やがて殺気は、その矛先を立ち塞がる青年と鎧に向けた。

エレン(巨人)「ぐるるる…」

アルフォンス「大佐、まずいよこれ、流石に敵う気がしないよ、逃げるしか…!」

マスタング「もう、遅いさ。私にも分かる。これまで見た巨人とこいつはまるで違う。正真正銘、本物の化け物だ」

マスタング「まず逃げられないだろう。背を向けた瞬間に踏み潰されるのが落ちだろう」

アルフォンス「そんな…」

マスタング「覚悟を決めろアルフォンス、闘うしかなかろう」ジリ…

マスタング「流石の私も「これ」の相手を一人で担う自信は、ない」

アルフォンス「うう…」

アルフォンス「く、くそ…」――パンッ!

エレン(巨人)「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」ビリビリビリ!!…

マスタング「行くぞ!」パキンッ―ー!

――――ドオッ!!!!!!!!

鎧が錬成した岩の壁で作った細い道を、凄絶な焔が通り、その圧縮された強力な焔は怒り狂う巨人へと向かい、

そして













バシュッッッッ!!!…


アルフォンス「!!」

マスタング「私の焔が届く目前でかき消された!? …いや、」


ヒュルルルルルルルル!!…

シュタッ!


幾多の戦を潜り抜けてきた猛者の眼は、邪悪さえ感じる。

その覇気からは考え付かないほど、背丈は小さく、

しかし彼が背負う自由の翼は、誰よりも相応しく見えた。

一人の兵士が、そこに現れた。


リヴァイ「…」

アルフォンス「だ、誰…?」

マスタング(……私が全力で出した焔だぞ)

マスタング(あの刃で、かき消したのか…!?)

マスタング「…、」

リヴァイ「……テメエは何だ?」

マスタング「貴様は何者だ?」

ウォール・ローゼ 南部


エドワード「…」

エドワード「やべえ」

エドワード「急に空が暗くなったもんだから、馬が暴れ出して逃げちまった…」

エドワード「くそ…。ここ、どこだよ……」

エドワード「空き家にあったありあわせの材料で照明を錬成したから歩けなくはねえが…」

エドワード「トロスト区ってのはどこに…」

ドドドドドドドドドドド…

エドワード「……ん?」

エドワード「馬の駆ける音…。それも相当の数だ」

エドワード「おーい!」

ドドドドドドドドドドド…

エドワード「おーい!!」

ドドドドドドドドドドド…

エドワード「おーい!!!」

ドドドドドドドドドドド…

エドワード「おーい…」

ドドドドドドドドドドド…

エドワード「……」

エドワード「」イラッ

エドワード「ちったあ相手に…――」パンッ!

エドワード「――しやがれえええええええええッ!!!」




ドバァ!!!!!!

ヒヒーン!

コニー「んなああああああああああああああ!!?」パカラッ!

サシャ「巨人ですか!?」

ハンジ「いや…これは……」

ミカサ「像…」

アルミン「え?」

ミカサ「岩の、像」



――ドオオオオオオオオオオオオオオオ……




エドワード「……やっと止まってくれた」

エルヴィン「…」

エルヴィン「君は?」

エドワード「鋼の錬金術師、エドワード・エルリックだ」

アルミン「!」

エドワード「あんたがこの群の頭?」

エルヴィン「…………いかにも」

エルヴィン「調査兵団団長、エルヴィン・スミスだ」

エルヴィン「これは、君が?」

エドワード「言っても信じねえだろうが、錬金術だ」

エルヴィン「錬金術…?」

アルミン「団長!」

エルヴィン「アルミンか」

アルミン「彼は…、彼はっ」

ミカサ(……アルミン…)

ミカサ(さっきまで押し潰されそうだったのに、今はどことなく嬉しそう)

アルミン「壁の外の人間である可能性が極めて高いです!」

エルヴィン「……」

エルヴィン「話を聞こう」

エルヴィン「総員馬から降りろ、一時休息を取る」

ミカサ「! し、しかしそれは…」

エルヴィン「ほんの僅かの間だ。何より…」

エルヴィン「リヴァイを信じよう。大丈夫だ、エレンをきっと救ってくれるだろう」

ミカサ「……、」

エドワード「何? あんたら今急いでるの?」

ミカサ(この人。どこか…エレンに似ているような)

ジャン「声、ハンジ分隊長にそっくりだな」

ハンジ「え? そう?」

コニー「え? このでけえ岩の像、一瞬で作っちまったのかっ? どんな魔法使ったんだ!!?」

サシャ「凄いです! 世の中には、壁の外には凄い人がいたんですね!」


ザワザワ…

『レンキンジュツシ…?』

『こ、これを作ったのか?』

『あのチビがか?』


エドワード「誰がメガハイパードチビだゴラァ!!!!!!」

アルミン(あ。ここ、地雷なんだ)

アルミン(何かこういう短気ですぐ大声出す所、エレンにそっくり…)

ライナー「……錬金術師、だと?」

ベルトルト「やっと喋れたねライナー」

ザワザワ…



エルヴィン「…………話を、進めよう」

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