■前回まで
前スレ:ルルーシュ「デートか……」/ユフィ「デートです!」 - SSまとめ速報
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01 ルルーシュ「お前のせいなんだろうッ!」C.C.「私のせいですぅ!」
02 C.C.「ボク、チーズクンダヨ!」ルルーシュ「えっ?」
03 シャルル「いーむゎあぁ……」神官「えっ?」
04 スザク「死なせてよ!」ルルーシュ「えっ?」
05 ルルーシュ「デートか……」/ユフィ「デートです!」
全速力で!
.
■日曜日 朝 イケブクロ ─────
ルル「もう肌寒いな……冬物のコートも、ついでに見ておくかな」テクテク
カレン(ルルーシュからの、デートのお誘い……)テクテク
(まあ、どういうつもりなのかは大体わかってるけどね……)
(暖かい陽気の中、しかし、ぴゅうと吹く風の冷たさが肌にしみいるような……)
(そんな、晴れ渡った日曜の朝……)
(わたしは、ルルーシュと並んでイケブクロの街を歩いていた)
.
(あの、カワグチ湖での一件で、わたしはルルーシュに対し、かすかな不信感を抱いていた)
(彼は、本当は信用できない人間ではないのか……今はわたしたちが必要だから、)
(利用しているだけで、もっと都合のいい"道具"が現れたら平気で切り捨てる気じゃないか?)
(あの時の返事は、そのくらい冷たいものだった……)
(唐突のデートのお誘いは、たぶんそのことだろう)
(彼が今日、それをどう切り出してくるのかが楽しみだ)
(ヘタに懐柔する気なら、殴り倒してやるつもりだ)
.
カレン(この紅月カレンをなめたら、痛い目に逢うんだからね……)テクテク
「……ルルーシュ、買い物っていってたけど、なんか目的の物でもあるの……?」
ルル「先日、ナナリーが誕生日を迎えたんだが、」テクテク
「忙しくてプレゼントを渡せなかったんだ……それで、遅くなったが」
カレン「ナナリーって、誰?」
ルル「ああ……まだ会ったことがなかったか?」
「俺の妹だ、今アッシュフォードの中等部に通っている」
.
カレン「へえー……中学生の妹がいたんだ?」
「誕生日プレゼントとか、仲好さそうだね」
ルル「そうだな、仲がいい……というか、」
「……大切な妹なんだ」
(ルルーシュは、ちょっとそこで言いよどんだ)
(横目でちらりと彼を見る……その眼は、ちょっと遠いとこを見てるような風だった)
(「大切な」という言葉に、わたしは妙に真剣な響きを感じた)
.
カレン「……いいね、そういうの」
ルル「何がだ?」
カレン「大事にしてる兄弟がいる、っていうこと」
「わたしも、お兄ちゃんがいたけど……死んじゃったからね」
ルル「そうか……」
カレン「……何をプレゼントするのか、決めてるの?」
.
ルル「いや、まだ決めてないんだ」
「ナナリーは何をあげても喜んでくれるんだが、それだけに毎年悩むんだ」
カレン「……なんでもいいよ、が一番難しいってやつね」
ルル「まさにそれさ」ニコッ
(ルルーシュの笑顔……ごく普通の、屈託のない笑顔)
(なんだ、できるんじゃん、こういう顔も……)
(いっつも、真っ黒なタマゴみたいな仮面を被ってるし、ごくまれに仮面を脱いでも、)
(中から出てくるのは真面目くさった顔ばかりだから、笑い方を忘れてんのかと思った)
.
カレン「……わたしが選んであげよっか?」
ルル「えっ?」
カレン「それで誘ったんじゃないの?」
ルル「うん……まあ、そうだな、そのつもりだったんだが……」
カレン「何よ、煮え切らないわね」
ルル「君は、ナナリーの好みを知らないだろう?」
「それで選んでも、ナナリーが喜ぶかどうか……」
.
カレン「でもさ、男兄弟が選ぶものって、大体センスないんじゃない?」
「わたしのお兄ちゃんも、プレゼントに釣竿とかくれたんだけどさ、」
「確かにすごく嬉しかったけど、ちょっとね……」
ルル「俺は、そこまで無頓着じゃないぞ?」
「ナナリーの好みは完璧に把握している、ナナリーが最近ハマっているグッズや、」
「注目している歌手、番組、それに気になっている洋服のブランドや……」
カレン「…………」
「それちょっと、きもい気がする」
ルル「なんだと!?」
.
カレン「そこまで妹のことに詳しいのって、なんか、ねえ……?」
ルル「なんだ、言ってみろ」
カレン「シスコン、っていうの?」
「妹以外の女は相手できない、みたいな……」
ルル「…………シスコンで結構、」
「俺は、ナナリーが本当に大切な存在だから、そこまで考えてるんだ」
カレン「まあ、その気持ちまでは否定しないけどねえ?」
.
ルル「…………念のため言っておくが、」ピタッ
カレン「何よ?」
ルル「騎士団の誰にも喋るなよ、ナナリーのことは?」
カレン「どうして?」
ルル「どうして、って……」
「言ってほしくないからだ」
.
カレン「……どうしよっかな?」
ルル「カレン!」
カレン「まあ、今日はプライベートなおつきあいだしね、」
「誰かれかまわず言わないわよ、あなたの個人的な事情までは」
ルル「……そうか」
カレン「多分ね」ニヤリ
ルル「…………」ムスッ
.
■同時刻 ゲットー内居住地域 ─────
スザク「……このあたりは、以前よりはだいぶマシになったんだ」
「前は、ガレキの合間に、みながめいめいに建てた小屋でこの広場が埋まってたんだ」
ユフィ「……」
スザク「整地してね、下水路や雨水を溜めてろ過する仕組みも作った」
「やっと人が暮らせる環境になったんだ……」
ユフィ「そうなんですか……」
.
(オレは、「ゲットーを見学したい」というユフィを連れて、周辺を散策していた)
(とはいえ、あまり危険なところは連れて行けない……)
(基本的には、人の比較的多い、治安もさほど悪くない地域を選んだ)
(ユフィも、彼女が着てきた服装そのままだとゲットーでは目立つので、)
(オレのグレーのコートを上に羽織ってもらった)
ユフィ「でも、皆さん活気がないですね……」
スザク「しようがないよ、多くの人が、毎日の食べ物にも困ってるんだ」
ユフィ「えっ!?」
.
スザク「何しろゲットーは、働く場所がないからね」
「僕みたいにガレキの撤去に従事するか、租界に仕事を求めるか、それとも……」
ユフィ「……それとも?」
スザク「反政府組織に手を貸すか、女性ならあるいは、身体を売って……」
ユフィ「!!」ビク
スザク「……とても文化的とは言い難いね、この環境は」
.
(オレは思わず、苦笑いを浮かべる)
(ブリタニアが攻めてくるまでは、もっとまともな、明るい街だった……そう言いたくもなるが、)
(ユフィには直接関係しないことなので言葉を飲み込んだ)
(彼女は、この環境のことを全く知らなかったらしく、心底驚いているようだ)
ユフィ「……でも、総督府から皆さんに、配給が届けられているはずでは……?」
スザク「うん……本当ならね」
ユフィ「??」
.
スザク「証拠はないけど、途中で誰かが物資を横流ししてるらしい」
ユフィ「ええっ!?」
スザク「発展途上国ではよくある話さ……」
「外部からの救援物資が、途中で煙のように消え、受け取る人たちの手には」
「箱しか届かない、とかね」
ユフィ「でも、ここはそういった国々よりは……」
スザク「変わったのさ……少なくとも、このゲットーは発展途上国に変わった」
ユフィ「…………」
.
(……せっかくのデート(?)だというのに、全く弾まない話ばかりになってしまった)
(ユフィは、ゲットーの様子が予想以上に悪いものだったことに気を落としているようだ)
(なにか、明るくなれる共通の話題でも……)
スザク「……そういえば」
ユフィ「はい?」
スザク「ゲットーとは関係がないんだけど……」
「ユフィってひょっとして、ルルーシュのことを知ってる?」
.
ユフィ「えっ!?知っている、というよりも、ルルーシュは兄弟でしたが……」
「スザクがなぜ、ルルーシュを?」
スザク「彼が日本にいたとき、僕の家で世話になってたからね」
「彼とはよく遊んだよ」
ユフィ「そうだったんですか!?枢木家にいたんですか!」
「あの、ルルーシュは、死んだと聞いているのですが……?」
スザク「……僕も、あの戦争で彼とは離れ離れになってしまったんだ」
「その後はどうなったのか……」
ユフィ「そうですか……」
.
(……彼がゼロになってしまった以上、先の戦争で死んだことにしないと)
(余計にまずいんだけど……おかしいな、共通の話題を出せば、もうちょっと)
(楽しく会話ができると思ったのに……)
ユフィ「……スザク、ここが上から見渡せる場所、どこかにありますか?」
スザク「上から?」
ユフィ「はい、景色が一望できるような……」
.
スザク「そうだなあ……」
「じゃあ、あそこがいいかな……」
ユフィ「あそこ?」
スザク「元都庁だったビルだよ、あそこなら文句なしに全景が見えるはずだ、」
「でも、登るのがけっこう大変だけど……」
ユフィ「大丈夫です、がんばって登ります!」
「スザク、そこに連れていってください!」パアッ!!
スザク「かしこまりました」ニコッ
.
■イケブクロ アーケード街 ─────
(彼の妹、ナナリーの誕生日プレゼントは、きれいなフリルのついた可愛らしいブラウスと、)
(ふわりと広がる真っ白なロングスカートに決まった)
(選んでいる間中、ルルーシュは『これはナナリーには早い』『ナナリーの好みじゃない』)
(などと延々と注文をつけ続けた……なら、ナナリーをここに連れてきなさいっていうのよ!)
.
ルル「それは難しい」
カレン「なんでよ!?」
ルル「車椅子なんだ」
カレン「……そっか…………わかった、じゃあ次いくわよ、これなんかは?」
ルル「ふうむ、赤の色彩が強いな……ナナリーには……」
カレン(……むっきー!)
.
(……ということを、あちこちの店を回りながら延々と2時間近くも続けてようやっと決まった)
(まあ、選んでみれば確かに、彼の妹くらいの子が好みそうな服ではあるんだけど……)
カレン「……突撃作戦の方が、はるかに楽だったわ……」ハァハァ
ルル「そうか?」
「意外と早く決まったので、カレンに頼んで良かったと思っているんだが」
カレン「いつもはどのくらい時間かけてるのよ?」
ルル「半日近いかな」
カレン(どんだけシスコンなのよ……)ハァ…
.
(……時間は、もうお昼どきになっていた)
(道に並ぶあちこちのお店からは、いい匂いが漂っている)
ルル「長い間、つき合わせて悪かったな」
「お礼にごちそうしよう、この先に、いいレストランがあるんだ」
カレン「いいわね、遠慮なくごちそうになるわよ♪」
(公園を抜けた先にあるというそのお店に、わたしたちは向かった)
(心地よい日差しは小春日和の様相で、わたしたち以外にも家族連れやカップルが)
(公園でくつろいでいた……と、そこへ……)
.
チンピラA「おらっ、誰にことわって店を開いてんだあ?」ボカ
チンピラB「イレヴンがこんなとこにいていいのかよぉ?ああ?」ドカ
チンピラC「オレらから金をとろうってのかよぉ?ぁああ?」ガス
露天商「すっ、すいません!!ひっ、ひいっ!」
(……嫌なものが視界に入ってきた)
(ホットドッグの屋台を開いているおじさんを、チンピラの集団がいじめていた)
(周囲にいる人々が見て見ぬふりをしている中、地面に転がったおじさんは身体を丸め、)
(ただなすがままにされていた……)
.
カレン(何よ、あれ……!)
(なんで誰も助けないの!?通報くらいしてないの?)
ルル「……」
(何も悪いことをしていないだろうに、土まみれになりながらひたすら謝り続けるおじさん……)
(その姿にわたしは、我慢できない感情が湧きあがってくるのを感じた)
カレン(……許せないわ……!)
(こいつら程度なら、わたしでも)ダッ…
.
(ポーチに手を入れながら駆け出そうとしたわたしの腕を、いきなりルルーシュが掴んだ)
ルル「……何を考えてる?」ボソボソ
「ここでハンドガンを出す気か、お前は?」
カレン「違うわよ!ナイフを出そうと……」ボソボソ
ルル「同じだ、目立つことをするな」
カレン「ねえ、助けようよ!」
「ひどいじゃない、あんなの……」
.
ルル「あの露天商も、覚悟があってここで商売してるはずだ」
「イレヴンが租界で商売をするっていうのは、そういうことだ」
カレン「だからって……!」
チンピラA「おう、こら!何をイチャイチゃしてんだあ?」オウオウ
チンピラB「見せつけてくれんじゃん、ああ?」オウオウ
カレン「!!」
.
(わたしたちが話していたのを聞いたのか、チンピラたちはこちらに歩いてきた……)
(吐く息が酒臭い……真っ昼間から飲んでるような連中だ、ほんっとに最低!)
(唇を尖らせながら前に出ようとしたわたしの肩を、ルルーシュはつかんで後ろに引いた)
(彼がわたしの前に立つ……)
ルル「王道の展開にしてくれたな……」ハァ
チンピラC「ぁあ?」
ルル「いや、独り言だ……悪かった、」
「俺たちのことは気にせず、その露天商を存分にいじめてくれ」
.
チンピラA「なんだぁ、その態度は、ぁああ!?」
ルル「気に障ったかな?まぁ、この眩しい日差しを浴びてると、」
「日陰者の君らがイレヴンをいじめたくなる気持ちもよくわかるよ」
チンピラB「ヴァあああああん!?」
ルル「ところで、この陽気だ……そろそろ冷えたビールが恋しくならないか?」
「泡を吹いて倒れるほど酒を飲むといい……」キュィィィン!!
「そう思うだろう、な?」
チンピラたち「!……」
.
(ルルーシュの言葉に、チンピラたちは動きが止まった)
(どうしたのか、と思っていたら、)
チンピラA「……おう、酒飲みにいこうぜ、酒!」
チンピラB「キリッと冷えたビールを浴びるほど飲みたい気分だぜえ!」
チンピラC「くぅー、喉がやけつきそうだわ……早いとこ行こうぜ!」
(彼らは、口々に叫びながら公園の外へと走り出した……)
(その豹変ぶりに、わたしは目をぱちくりと瞬いた)
.
カレン「……なに、今の?」キョトン
ルル「ビールが飲みたくなったんだろ?」ニヤッ
カレン「確かにそうだけどさ……」
「あっ、おじさん!大丈夫ですか?」
(わたしは、屋台の傍らでうずくまっているおじさんに駆け寄る)
(手を貸し助け起こそうとすると、おじさんはわたしの目の前で手を振った)
露天商「あっ、大丈夫です、大丈夫です!」ブンブン
.
カレン「ほんとに大丈夫ですか?ケガはないですか?」
露天商「問題ありません……」ググッ…
「……申し訳ありませんでした、何かお求めですか!?」ニコ…
「ホットドッグ、できたてがよろしければ3分だけお待ちいただければ……」
カレン「いや、それどころじゃ……」
露天商「冷たいものがよろしければ、飲み物もございますよ!」
ルル「アイスティーを二つ、もらおうか……」カツカツ
カレン「!?」
露天商「ありがとうございます!」ニコーッ
.
■ゲットー内 元都庁ビル ─────
ユフィ「……うわあ……すごい……!」
スザク「気を付けて、ユフィ……足元がもろいよ」
(オレ達は、時間をかけて都庁を登った)
(日本侵攻時、ミサイル攻撃を受けた都庁には、その壁面に巨大な穴が開いている)
(そこから覗いた風景……オレ達の眼前には、壮大なパノラマが展開していた)
(眼下には、租界周辺ゲットーの、静寂に包まれた灰色の世界が広がる……)
(その向こうには、階層状に構築された租界の領域が、日の光を浴び賑やかそうに輝いていた)
(この中を歩いていると気づきにくいが、こうして一望するとその格差は歴然としている)
.
ユフィ「…………租界は、眩しいですね」
スザク「うん……とてもきれいだ」
ユフィ「あれが政庁ですね」
(ユフィが指を指す先には、遠景からでもその存在がわかる政庁がそびえていた)
(日本……エリア11を統括する、巨大な中枢だ……全ての権力はあそこに吸い上げられる)
(まるで、それがオーラとなり、神々しい輝きを放っているように感じられる)
.
ユフィ「スザク、あの……わたし、あそこに住んでるじゃないですか?」
スザク「うん?」
ユフィ「……あんなに大きな建物でしたっけ……?」
(オレは、ユフィの無邪気な疑問に、思わず笑い声をあげてしまった)
スザク「住んでると気づかないことって、あるよね」
「僕も、ゲットーがこんなに広大なところだとは思わなかった」
ユフィ「ですね……」
スザク「本当に……100年では済まない気がする、この復興には……」
ユフィ「……」
(ルルーシュの"仕事"を手伝えば、あるいは復興はもっと早くできるのかもしれない)
(現在の、エリア11の統治システムが腐っているのはオレもわかっている)
(弱者にはりつく蛭のような連中が、ゲットーの人々から活気を奪い、時にはこともなげに)
(生命をも奪う、しかも、それを取り締まる連中も奴らとグルなんだ……)
(全く救いのない社会、それが現在のゲットーだ)
(だけど、彼がやっていることは独善だ……自分で正義を決め、それを世間に押しつけている)
(今はそれが受けているからいいが、いずれはその"正義"が暴走する予感がする)
(その危うさに、彼は気づいているのだろうか……)
.
ユフィ「……いっしょにがんばらないといけませんね」
スザク「えっ?」
ユフィ「復興ですよ」
「スザク、あなたはこの街を、また元の姿に戻すのでしょう?」
スザク「え、ええ……?」
ユフィ「わたくしも、副総督としてできる限りのことをします」
「だから、いっしょにがんばりましょう……!」
.
(ユフィは、オレの手を握ってにこりと微笑んだ)
(柔らかな、温かい手のひらに包まれたオレは、至福を感じながらも)
(彼女のまっすぐな気持ちに改めて驚く)
スザク「……あの、100年くらいかかりますよ?」
ユフィ「ええ、何年かかっても……」
「あっ、でも……わたくしがおばあちゃんになる前には、何とかしたいですね」ニコッ
(そう言って微笑むユフィ……)
(彼女なら、おばあちゃんになってもかわいらしい感じなんだろうな、とふと思った)
(オレも、彼女の手を握り返し、微笑む)
.
ユフィ「スザク……わたし、夢があるんです」
スザク「夢?」
ユフィ「ええ……まだ、とても実現できそうにはないんですが、」
「でもいつかはきっと、実現したい夢があるんです」
スザク「どんな夢だい?」
.
(オレがそう尋ねると、ユフィは目の前に広がる租界とゲットーの風景を眺めながら、)
(ゆっくりと答える)
ユフィ「わたし……この世界を、争いのない世界にしたいんです」
スザク「……それはすごいな……」
ユフィ「あら、もしかして冗談だと思ってますか?」
スザク「冗談だとは思ってないよ、」
「ただ、ものすごい目標だなあって思っただけだ」
.
ユフィ「……実現できないと思ってますか?」
スザク「すごく大変だなあって思う、」
「だって、今の争いごとだらけの世の中じゃ、想像もつかないよ……」
ユフィ「わたしも、いきなりは無理だと思います、だから、ブリタニアから変えたいんです」
「特にここ、エリア11……日本から……」
スザク「ここから?」
ユフィ「はい、今は租界とゲットーという風に分断された社会ですが、」
「いずれはその垣根を取り去ってしまいたいんです」
スザク「へえ……」
.
(ユフィは、目の前に広がるトウキョウの世界にそっと腕を伸ばし、ゆっくりと広げる……)
(まるで、固く閉ざされた世界を優しく押し広げるようなそのしぐさ……)
(オレは一瞬、彼女に、女神のような神々しさを感じた)
ユフィ「……すてきだと思いませんか、スザク?」
「ブリタニア人であることも日本人であることも関係ない……」
「その人がそこにいることが、大切なんだという社会……」
スザク「……」
.
ユフィ「もし、ここをそういう社会に変えることができて……」
「それが、誰から見ても素晴らしい社会だということになれば……スザク、」
スザク「うん?」
ユフィ「世界は、きっと変わります……」
「そう思いませんか?」
(オレを振り向き、にっこりと微笑むユフィ……)
(確かに、そうかもしれない……君なら……)
.
スザク「……"なんと美しき世界"か」
ユフィ「??」
スザク「昔から、いろんな人が歌ってきた世界さ……皆が平等に、幸せに暮らせる世界……」
「しかし、憧れで終わっていた……でも、君ならできるかもしれない」
ユフィ「あら、わたしだけにさせる気ですか?」
スザク「えっ?」
ユフィ「スザクにも手伝ってもらわないと……」
「わたし一人じゃ、おばあちゃんになってもできませんよ?」
.
(ユフィはそう言うと、いま自分が言ったことがおかしく感じたらしく、くすくすと笑った)
(そのかわいらしいしぐさを見た瞬間、檻の中で初めて彼女に出会った時の感情が)
(リフレインしてくるのを感じた)
(そして、ホテルジャック事件での、彼女が人質だと知った時の感情……)
(夜の闇の中、彼女をランスロットの掌で受け止めた瞬間に生まれた感情……)
スザク(そうか……そうだったんだ、なんてことだ……!)
(オレは、彼女を守りたかったんだ……)
(出会った最初の時から、ずっと……そして、これからも……!)
ユフィ「……スザク?どうしました?」
.
(呆然としているオレに、ユフィは不思議そうに尋ねる)
(オレは、今までずっと頭の中にかかっていたもやが取り払われたような感覚を覚えていた)
スザク「ユフィ……約束する、僕もいっしょに手伝うよ」
「僕たちで、この世界を変えよう……!」
(ユフィの目をしっかりと見つめながら、オレは言葉を返す)
(自分でも驚くほど、力強い言葉が口から飛び出した……)
(……ユフィはその言葉を聞くと、優しく微笑む)
(誰もいない旧都庁の、吹き抜けになったフロアでオレたちは、)
(自分たちが変えた世界の姿を夢に描きながら、いつまでも話し続けた……)
.
■イケブクロ 公園内 ─────
(公園の噴水のふちに、わたしたちは並んで腰掛けていた)
(先ほどの露天商のおじさんは別の場所に移動していて、)
(周囲はまた元どおりの、休日の和やかな賑やかさを取り戻している)
カレン「…………」ジュルジュルジュルジュル…
ルル「……何か、言いたそうだな?」
.
(わたしは黙ったまま、すでにからっぽになってるカップのストローを思いきり吸った)
(わざと下品に振る舞うわたしには目もくれず、ルルーシュは目の前の家族連れの光景を)
(ぼんやりと見つめながらそう聞いた)
ルル「目立つことをするなと言っただろう?」
「俺たちは、そういう人間なんだぞ……」
カレン「…………」ヂュゥゥゥ…ポン!
「それで自分を納得させられるなら、騎士団をやってないわよ」
ルル「……」ジロ
.
ルル「目立つことをするなと言っただろう?」
「俺たちは、決して目立ってはいけない人間なんだぞ……」
カレン「…………」ヂュゥゥゥ…ポン!
「それで自分を納得させられるなら、騎士団をやってないわよ」
ルル「……」ジロ
カレン「わかってるわ……」
「ほんとは、ルルーシュの言ってることが正しいってのは……」
「でも、いま目の前で困ってる人を助けたいって思うのは、ふつうのことでしょ?」
ルル「連中が、酒を飲みたくなったから良かったものの……」
「本当なら今頃、俺たちどうなっていたかわからんぞ」
.
カレン「大丈夫よ、ハンドガンあったし」
ルル「本当に持ってきてたのか!?」
カレン「わたしの判断に任せる、って言ったでしょ?」
ルル「…………言ったが、そういう用途」
カレン「はいルルーシュの負け」フン
ルル「…………」ムスッ
.
(言い返せないとすぐ黙りこむルルーシュの姿がちょっと滑稽に映り、わたしはほくそ笑んだ)
(……彼が、いつ言いだすのか待っていたんだけど、タイミングは今しかないかな……?)
カレン「……あのさ、いっこ、聞きたかったことがあるのよ」
「ずっと考えてたんだけど……」
ルル「なんだ?」
カレン「あの時、ルルーシュって"作戦"のことしか言わなかったよね」
ルル「あの時?いつの話だ?」
カレン「カワグチ湖のホテルでの、救出作戦をたててる時……」
ルル「……ああ、あの時か」
.
カレン「わたし、あれ……けっこう本気で聞いたんだけど?」ジロッ
「作戦のためなら……」
ルル「……見殺しにするのか、か」
カレン「そう」
ルル「その答えが、知りたいんだな?」
カレン「うん」
ルル「…………フゥ……」
(ルルーシュは、軽いため息をついて視線を落とした)
(手に持ったカップの中の氷を、からからと転がしながら何かを考えている)
.
ルル「……見殺しにしない、と答えるのが、あるべき指導者の姿かもしれないが、」
「俺はまだ、そんな嘘はつけない……自信のないことを断言する気はない」
カレン「……」
ルル「だが、あの時、シャーリー達を助けるためにどうすればいいのか、俺は真剣に考えた」
「そして、計画を実行に移し、結果が出せた……俺は、それが全てだと思っている」
「……いつだって、結果こそが全てだ、それでいいんじゃないのか?」
カレン「……じゃあ、ルルーシュの求めてる、最終的な結果って何よ?」
ルル「最終的な?」
.
カレン「ずっとずっと先の……人生の目的、みたいな?」
「それが一番大事だ、ってことでしょ?」
ルル「!!」ピク
「…………それは、誰にも話したことがないんだが」ジロ
(突然、仏頂面でわたしを見返すルルーシュ……)
(……ひょっとしてわたし、意図せず、核心を突いちゃった!?)
.
カレン「じゃあ、わたしがそれを聞かせてもらう第1号ってことね?」
ルル「誰も言うとは言ってないだろ」
カレン「それ言わないと、答えたことにならないでしょ?」
「求めてる結果次第じゃ、そこに至る途中でわたしたちを……」
ルル「……面倒だな……」ハァ…
カレン「今の、ちょっとカチンときたけど聞き流してあげるわ」
「さあ、話して?」チョイチョイ
.
(愉快そうなわたしを、黙りこくったまましばらくジロ見していたルルーシュ……)
(だけど、彼はおもむろに口を開いた)
ルル「…………サンクチュアリだ」ボソッ
カレン「え?サンク……なに?」
ルル「サンクチュアリ、聖域だ」
「……ナナリーが安心して暮らせる、誰にも危害が及ぼせない世界……」
カレン「え?それって……今がそうじゃないの?」
「だって、アッシュフォードに通ってる貴族の……」
.
ルル「俺たちの姓はランペルージだ」
「どうしてアッシュフォード家の世話になっているのか、不思議に思わないのか?」
カレン「……あれ?」キョトン
「どうして?」
ルル「簡単な話さ、偽りの立場だからだよ」
「俺もナナリーも、戦災孤児みたいなものだ」
カレン「戦災孤児……!?」
.
ルル「カレンもうすうす気づいてるだろうが、俺は元々は皇族の系列の人間だった」
「俺が殺したクロヴィスは、異母兄弟にあたる」
カレン「……」
ルル「皇族と言えば聞こえはよいが、皇帝以外の人間はすべて世界を支配するための」
「道具に過ぎない……皇帝の都合で、立場はころころと変わる」
「母親を失った俺とナナリーは、後ろ盾も同時に失い宮廷を追い出された」
「そして7年前のブリタニアによる日本侵攻で、俺たちは完全に全てを失った……」
「それを匿ってくれたのが、アッシュフォード家なのさ」
.
カレン「……だから、ランペルージ……違うんだ……」
ルル「そう、今の場所は、他人に与えられた場所なんだ」
「アッシュフォード家の気が変われば……変わらなくとも、その力が失われれば、」
「俺たちはまた路頭に迷う」
カレン「そう……」
ルル「そんなあやふやな世界を変えてしまいたい……それが俺の原動力だ」
「そのためには、まずはここ、エリア11から変えよう……そう思ってる」
.
カレン「どういう風に?」
ルル「まずは、エリア11の独立だ……」
「ブリタニアの意向に左右されない、強い独立国にすること」
「そうすれば、皇帝の思惑に翻弄されなくなる……それが、手始めだ」
カレン「……」
ルル「そのような独立国家を集め、協議により物事を決める体制を整える」
「軍事は集権化し、有事は常に1国対世界という構図になるようにする」
「そしてゆくゆくは、最終的には…………」
(そこまで言ったルルーシュは、言葉を切った)
(なんだか、随分と複雑な表情をしてる……迷ってるというか、恥ずかしがってるというか……)
.
カレン「……何よ?最終的には?」
ルル「……争いのない世界にしたい」
(……あっははははははははは!)
(と、普段なら笑い出してしまいそうな言葉を、まさかルルーシュが言うなんて……!)
(冗談で言ったのではないことは、彼がそう言ったきり目を合わせようとしないのでわかった)
(他の誰でもない、常に有言実行、行動で結果を出してきた彼だからこそ……)
(……こいつ、本気でそんなことを考えているんだ!)
.
ルル「……言ったぞ、これで満足か?」
カレン「…………」ジー
(わたしは、少しうつむき加減の彼の顔を、下から覗きこむ)
カレン「……ルルーシュ?」
ルル「なんだ?」
カレン「少なくとも、ここが"日本"に戻るまでは、わたしたちは見捨てないってことよね?」
ルル「…………ああ、見捨てないさ」
.
カレン「断言したわね?……それが聞きたかったのよ」ニコッ
ルル「……そうか、それは良かったな」フン
(わたしは、微笑みながらルルーシュの表情を観察する)
(なるほどね……だいぶわかってきた、"お澄まし顔"は照れ隠しってことだわ)
(ルルーシュは、わたしの視線を避けるように、そっぽを向く)
(と、突然……)
.
ルル「……ん?旧都庁に警察が?」
カレン「えっ、どこ?どこに?」
(ルルーシュが指差した先には、ゲットーにある旧都庁の崩壊したビルがあった)
(その、大きな穴のあいた部分に、警察の小型VTOL機が浮いているのに気付いた)
カレン「警察が、あんなところに何の用だろ?」
ルル「……」
.
■ゲットー内 元都庁ビル ─────
スザク「えっ、なぜ警察がここに!?」
ユフィ「あら、わたしたちのことがバレたのかしら?」
(オレ達が驚いている間もなく、警察の小型VTOL機は旧都庁の側面の穴から入ってきて)
(室内に停止した……中から、1名の警官が降りてくる)
警官「ユーフェミア様、一体なぜこんなところに!」
「総督も相当にご立腹ですよ!」
ユフィ「なぜ、ここにいることがわかったのです?」
.
(不思議そうに聞いてくるユフィに、警官は機体の側面についている大型モニタを見せた)
(モニタがオンになると、そこにはコーネリア総督が映っていた)
(いま、実際には執務室にいるのだろう……ギルフォードとダールトンの姿も見える)
コーネリア『ユフィ……だいぶ探したぞ?』
『ゲットーの見学をしたいと言って、皆を困らせたようだな?』
ユフィ「どうしてわたくしたちの居場所が……?」
コーネリア『上空をパトロールしていた機体から連絡があった、』
『旧都庁の穴のところに、お前らしき人物がいるとな』
ユフィ「あら……けっこうわかっちゃうものですね……」
.
(ユフィは、オレの方を向きながらそう言って舌を出した)
(この状況で笑ってもいいものかわからないオレは、とりあえず苦笑いをしておいた)
ユフィ「お姉様、まだゲットーの視察は終わっていないのです、」
「夕方には政庁に……」
コーネリア『ユフィ!わかってるのか、お前は副総督なんだぞ?』
『勝手にゲットーをうろついていい立場じゃないんだ!』
ユフィ「勝手に、ではありません」
「ちゃんとゲットーに行くことを皆に伝えました」
.
コーネリア『そういうことではない!』
『スケジュールにないことを勝手にしてはならないと言ってるんだ!』
ユフィ「だいぶ前から申し上げているのに、スケジュールに入れてくれませんでした!」
コーネリア『それはだなぁ……』
『エリア11の副総督に相応しい内容か否か、という基準が……』
ユフィ「ゲットーを視察することは、副総督に相応しくないということですか?」
コーネリア『それを決める権限はお前にはない!』
『私と、政庁のマネージメント担当がすることだ!』
.
ユフィ「もう結構です!」
「わたくしは、枢木スザクに案内を続けていただきます!」
「さ、スザク、ゲットーの案内を……」
コーネリア『ユフィ!いい加減にしろッ!』
『第一、そいつはイレヴンで、クロヴィスを殺した……』
ユフィ「殺害幇助の容疑は晴れました!」
「だから、指名手配の写真を撤去したのでしょう?」
コーネリア『それは……カワグチ湖の件での借りを返しただけだ……!』
ユフィ「借りを返すために、犯罪者の指名手配を取り消すのですか!」
「総督は公正であるべきではないのですか!」
.
コーネリア『……ユフィ、私を困らせるな……!』
『お前も、友達が欲しいのはわかる、しかし、そいつはただのイレヴンだ……』
『枢木スザクは、もはや名誉ブリタニア人ですらないのだ』
『ブリタニアの皇女であるお前とは、身分が絶望的に違う……』
『ユフィには相応しくない人間なんだ……』
ユフィ「…………お姉様、ひどすぎます……」
コーネリア『……ひどいことを言っているのは自覚している』
『だが、私はお前のことを思って……』
.
ユフィ「いえ、わたくしではなく、スザクに対してひどすぎると申し上げたのです」
コーネリア『!?』
ユフィ「スザクは……私のおもちゃではありません」
「ひとりの日本人であり、立派な考えをお持ちの方です」
「冤罪を科せられ、処刑されかけたことに対しても、」
「この方は恨み言一つ言われません!」
「恨んでしかるべきであるわたくしにも……そして、お姉様に対しても!」
.
コーネリア『……ユフィ?』
ユフィ「お姉様、ゲットーの実情はご存じですか?」
「ブリタニアは、彼らに対し食料や生活必需品を施していたはずですよね?」
「でも、全く届いていません!みなさん、赤貧にあえいでいます!」
「それらを横流しし、不当な利益を上げている組織があります!」
コーネリア『……』
ユフィ「お姉様……コーネリア総督、なぜこれを放置されるのですか?」
「総督はおっしゃいました、エリア11を"掃除"されると……」
「きれいにするとおっしゃいましたよね……?」
「でも、ゲットーの様子は一向に変わりません!なぜですか!?」
コーネリア『…………』
.
ユフィ「問題の本質は、反政府組織にはありません!」
「今の、エリア11の体制と、統治の……」
コーネリア『……黙れえッ!ユーフェミアッッ!』
ユフィ「!!」ビクッ!!
スザク「!!!」
.
(……気づけば、コーネリア総督の顔は、剥き出しの怒りで歪んでいた)
(それを見たユフィは、今にも震えだしそうなほどに怯えている様子だ……)
(総督は、静かな……しかし有無を言わさぬ、聞く者を圧倒する声で告げる)
コーネリア『……今すぐ戻ってくるんだ、ユーフェミア』
『お前には、副総督として他にやるべき仕事がある』
ユフィ「……わ、わたしは……」ブルブル…
コーネリア『私に怒鳴らせるな……いいな?』
.
(総督の怒声に圧倒されたのだろうか……俯きながら、ユフィはそう呟いたきり黙った……)
(……オレは、ユフィの立場がこれ以上悪くなるのは避けるべきだ、と思った)
スザク「……申し訳ありませんでした、総督」
コーネリア『うん……?』
ユフィ「スザク……!?」
スザク「僕が悪かったんだ、ユフィ……」
「総督のおっしゃる通り、君の立場を真剣に考えるべきだった……」
ユフィ「……!!!」
.
スザク「総督……僕が、ゲットーの案内を軽々しく買って出たことが過ちでした」
「迂闊なことを……どうかお許しください……」
(オレはその場で両ひざをつき、映像内の総督に対し謝罪の敬礼をとった)
(この場は、オレが責任を取ることで丸く収めればいい……)
コーネリア『……うむ、枢木スザク、その謝罪、受け取ろう……』
ユフィ「…………スザクっ!!」ブン!!
.
(突然、ぱあん!……と、オレの頬が鳴った)
(何が起きたかわからず、一瞬ぽかんとしたオレの目に、総督の前に立ちはだかり、
(真正面からオレを見下ろしながら睨みつけているユフィの姿が映った)
ユフィ「……自分が悪くないことをわざと悪く言うのは、」
「問題からただ逃げているだけです……」ジワ…
スザク「!!」
ユフィ「世の中を変えると約束したでしょう?」
「ならば……わたくしと一緒に戦いなさい、枢木スザク……!」ポロ…!!
.
■イケブクロ 並木道 ─────
(わたしたちは、先ほどまでいた公園を後にしていた)
(ルルーシュは並木道を歩きながら、どこかに連絡をしている)
ルル「……ああそうだ、旧都庁ビル周辺で動ける部隊はあるか?」テクテク
「いや、偵察でいい、何があるのかを確認しておいてくれ」
カレン「ルルーシュ、どうしたの?」テクテク
.
ルル「旧都庁ビルは廃墟だ、そこにいるのは浮浪者か野良猫くらいのものだ」
カレン「うん」
ルル「にも関わらず、警察が単機で旧都庁の崩落部分に入っていった」
「何かを探している、もしくは見つけたか、そのどちらかだ」
「そして、警察がそういう動きをしていることは俺たちに知らされていない」
「つまり公にできないんだ」
「ではそこに何があるのか、あるいは何者がいるのか?」
「反政府組織か?あんな大きな的当てになる場所に好き好んで潜伏する奴はいない」
「それに今さら廃墟を占拠・破壊したところで何の政治的デモンストレーションにもならん」
「第一それなら、警察はもっと応援を呼んでいるはずだ」
.
カレン「……」
ルル「何よりも重要なのは、反政府組織の何らかの行動なら俺の耳に入るはずだ」
「少なくとも、ここトウキョウでの動きは逐一入ってくる」
「カレン、以上で想定できる状況は?」
カレン「えっと……えー……」
ルル「なぜかはわからんが、あそこには政庁にとって重要なものが存在する可能性がある」
「それが何なのかは、一応確認しておく必要があるだろう」
カレン「……うん、そうね……」コクコク
.
ルル「後は、部下の報告次第だ」
「……さあ、腹も減ったし、目的の店で昼食をとるとしよう」
カレン「そうね!食べるわよ!」コクコク
ルル「……」クスッ
.
■ゲットー内 元都庁ビル ─────
コーネリア『ユフィ……お前……?』
ユフィ「……」ポロポロ…
(旧都庁廃墟の、ほこりが積もる乾いた室内に、ユフィの平手打ちの音が反響した)
(オレは呆然としながら、涙をこぼすユフィの顔を見つめていた)
ユフィ「……そんな気遣い、わたくしは求めておりません」
「立ちなさい、枢木スザク」
.
(ユフィはそう告げると、少しの間まぶたを固く閉じた……思い悩む風だった)
(しかし、決したように目を開くと、背後の総督にキッと向き直した)
ユフィ「総督……いえ、お姉様、」
「わたくしも、わたくしなりに世の中を良くしたいと考えております」
「そのために、まだ色々と学ばなければならないことがあるのです」
「それと、わたくしの専任騎士の件、お返事は当分お待ちください」
コーネリア「……!?」
ユフィ「決意もあって、この度、彼にお願いをしたのです」
「けっして遊びではないこと、どうかご理解ください……」
コーネリア「ユ、ユフィ……?」
.
ユフィ「……夕刻には戻ります、スザクがおりますので、ご心配なく……」
「スザク、先を急ぎましょう」テクテク
スザク「ユフィ……ユーフェミア様……!」
(オレは、先へ歩いていくユフィの後を追いかけようと足を踏み出したが、)
(しかし背後のことが気になり、ちらりと振り返る)
(自分がどうすればいいか分からず、おろおろしている警官……)
(そして総督は……先ほどまでの憤怒はかき消え、むしろ呆然とした様相でいた)
(オレは、小さく会釈をすると、急ぎユフィの後を追った……)
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
ギルフォード「姫様……」
ダールトン「……」
(……ユフィは、私を残して、枢木スザクと共に去ってしまった)
(映像をカットし、私は執務室の総督の席に深々と沈み込む)
.
コーネリア「……ははは……見たか、貴様ら?」
「あれはやはり私の妹だな!……枢木スザクを面罵し、しかも平手打ちだぞ?」
「あれほど激しい気性を内に秘めていたとはな……!」
「あのユフィがなぁ……驚きだ……!」
(私は、必死になって笑う努力をしていた)
(肩を震わせ、さも愉快そうに、楽しそうに声を上げて……)
コーネリア「……ギルフォード、私は、エリア11をまともに統治できていないらしい」
「ははっ……どうしたものだろうな?」
ギルフォード「姫様……!決してそのようなことは……!」
.
コーネリア「ここを、ユフィが安心して統治できる場所にしようと思っていたのだが……」
「当のユフィにああいうことを言われてはな……」
「困ったものだ……一体、私はどうすればいいんだ?」
ダールトン「姫様ッ!」
コーネリア「……」
ダールトン「間違っておりません、決して!」
「ユーフェミア様のおっしゃったことは、また別の問題でございます!」
ギルフォード「私も同感です!」
「政庁内で、別のタスクフォースを設けて……」
.
コーネリア「…………よい……」
(私は手を挙げ、2名の忠実なる騎士の言葉を遮った)
(笑うのにも疲れた……私は、席を立つ)
コーネリア「……少々、身体を休めたい」
「ユフィの監視は続けろ、戻ったら知らせてくれ」
ギルフォード「イエス……」
ダールトン「……ユアハイネス」
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
ルル「……そうか…………」
(目的のイタリアンレストランに到着してしばらくの後、ルルーシュは、騎士団からの連絡を)
(受けたけど、そのまましばらく考え込んでしまった)
(一体誰がいたのか、どうして考えこんでるのか……)
ルル「……わかった、ご苦労、監視は続けてくれ」…ピッ
カレン「どうだった?」
.
ルル「うむ……戦争は回避することにした」
カレン「へ?」
ルル「いたのは、ユーフェミアと枢木スザクだ」
カレン「ええっ?副総督が、枢木と……?」
ルル「いま彼女を拉致すれば、騎士団とコーネリアとの全面対決は避けられなくなる」
「それはまだ時期尚早だからな……監視だけさせることにした」
カレン「枢木って……どうしてユーフェミアといっしょに……?」
ルル「それはわからん、奴が軍にいた時に何らかの関係があったらしい」
「ただ、奴は今やただのイレヴンだ、関係は断たれたと思っていたんだがな……」
.
カレン「……」
ルル「それよりも、二人がなぜあんなところにいたか、だな」
「両者ともに、おおよそ用のない場所のはずなんだが……」
カレン(……あー……まさか、ねえ……)
(あそこ、見晴がいい場所だと思うけど……)
(そういう関係でもなければ……でも、まさかだよねえ……)
ルル「……なんだ?」ジー
カレン「ルルーシュには、わかんないかもなあって思ったの」
ルル「……??」
.
(……と、その時、私の背後から何者かが呼びかける声がした)
(聞き覚えのあるような……)
??「……おやおや、これは妙なところで出会うな?」
ルル「ん?……なっ、C.C.ッ!?」
カレン「えっ、C.C.!?」
(振り向くと、そこにはC.C.が……というか、驚愕のゴスロリ姿のC.C.がいた!)
(お出かけにしてもそんなの着る!?一体どういう趣味なの、こいつ!?)
.
C.C.「普段はそんなそぶりもないお前たちが、こんなところで逢引きとは……」
「なかなかやるじゃないか、うん?」ニヤリ
カレン「逢引きっ!?なによ、そのいかがわしそうな言い方!?」
ルル「お前、どうしてここに……いや、どういうつもりでここに!」
C.C.「今日は何曜日だと思っている、天下御免の日曜日だぞ?」
「私が街を出歩いていて偶然お前たちに出会っても、不思議ではなかろう?」ニヤニヤ
.
カレン「…………ひょっとして、今日の事をこの人に言った?」ジロッ
ルル「……言った…………」ヒクッ
「だっ、だが俺は、この場所までは喋ってないぞ!?」
カレン(それ以前に、逢うこと自体言わないでしょ、ふつうは……)チッ
C.C.「ここは以前、お前に教えてもらった店だ」
「もう少し行く店のバリエーションを増やすんだな、坊や?」ニヤ
ルル「……出るか、カレン?」
カレン「いいわよ、今から他の店を探すのもめんどいし……それに今日は、」
「デ・エ・ト・じゃ・な・い・し・ね?」ニコニコ
ルル「……」
.
C.C.「そうか、なら私がお邪魔してもかまわないようだな」
「はーどっこいしょ」ギシッ
カレン「えっ、ほんとに座っちゃうの?」
C.C.「そこの店員、」パチン
「この店で一番高いピッツァーを持ってきてくれ、Lサイズだ」
ルル「なにを注文までしてるんだお前は!?」
C.C.「勘定はこの男が持つ」ビシッ
カレン「えっ?やっぱそういう関係なの!?」
ルル「どういう関係だ!?」
.
C.C.「先ほどから、道を歩いていただけで何人かの男にナンパされてなぁ……」ハァ
ルル「誰もそんなの聞いてないぞ!!」
C.C.「私ほどの美貌だと、ただ歩くだけで人を魅了してしまう」
「困ったものだ……」ニヤニヤ
カレン「いや、その目立つ服装のせいだと思うわ、絶対に!」
C.C.「この服は、」ビシッ
「ルルーシュが買い与えてくれたものだぞ」
カレン「なんですって!?あんたの趣味なの、これ?」
ルル「えっ?そ、そうだったか!?」
.
C.C.「こうして、いつか私は"お前色"に染め上げられてしまうのだろうな……」
「ルルーシュ、私はもう、お前なしでは生きていけないようだ……」フゥ…
カレン「お邪魔?ねえひょっとしてわたし、お邪魔かしら?」
「どうなの?ねえ?」グイッ
ルル「や、やめ……胸倉を掴まないでくれ……!」ゲホゲホ
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
(オレとユフィは、旧都庁ビルを出て、ゲットーの街路を並んで歩いていた)
(先ほどの一件から、二人ともほとんど言葉を交わしていなかった)
(オレは、あの場でユフィが言った言葉が気にかかっていた)
(決意もあって、オレに……というのは、どういう意味なのだろうか)
(総督はその言葉に、相当驚いていたようだった……)
.
ユフィ「……スザク?」テクテク
スザク「うん?」テクテク
ユフィ「ほっぺた、大丈夫ですか?」
スザク「へ?ああ、大丈夫だよ、もう痛くない」
ユフィ「……ごめんなさい、スザクを傷つけるようなことをして……」
スザク「僕は全く平気だけど?」
「むしろ僕のほうこそ、ユフィを困らせてしまったみたいで……」
ユフィ「……」
.
スザク「……あの、ユフィ?」
ユフィ「はい?」
スザク「僕は、ほんとに平気だから……」
「ユフィとの約束も、必ず守るよ」
ユフィ「……ありがとう……」
(ユフィはそう言って、少し寂しげに微笑んだ)
(きっと、コーネリア総督のことが気にかかっているんだ……)
.
スザク「……ユフィ?」
「ゲットーの視察の続きは、また今度にしないか?」
ユフィ「えっ?」
スザク「そんなにあわてなくても、ゲットーは逃げてかないよ?」
「今日見たことを、じっくり考えてみて、また来ればいいんじゃないかな?」
ユフィ「……」
スザク「僕はいつでも時間があるから、いつ連絡をくれてもいいよ」
「君が見たいところを、いくらでも案内する……」
ユフィ「スザク……」
(ユフィは、その白いしなやかな手を伸ばし、オレの手をそっと握った)
(これで2回目だったかな、彼女に手をとってもらったのは……)
(何度目であろうと、幸福を感じられる瞬間だ)
.
ユフィ「あの……」
スザク「??」
(ユフィは、何かを言いかけたものの、そのまま俯いてしまった)
(いま、何を言おうとしたんだろうか?)
(……と疑問に思った瞬間、彼女は顔を上げた)
ユフィ「……また、案内してくれますね?」
スザク「もちろんだよ!」
ユフィ「ふふっ……よろしくお願いします!」ニコッ
「今日は、早めに切り上げましょうか」
.
スザク「だね……」
「ユフィ、そういえばおなかすいてない?」
ユフィ「えっ?あら……そういえば?」
「わたしたち、お昼食べてなかったですね?」キョトン
スザク「僕も今気づいた……」クスッ
「何か食べようか?ゲットーにも、おいしいものがあるんだよ」
ユフィ「そうなんですか?興味があります!」
「スザク、案内をお願いしますね?」ニコニコ
スザク「ご期待に、全力でお応えします!」ニコッ
.
■アッシュフォード学園大学 研究棟 ─────
ロイド「……システムオールグリーン!」
「ふうう、やっと直ったぁ~……」ヘタヘタ
セシル「さすがに今回は、大変でしたね……」
(カワグチ湖のホテルジャック事件で、ランスロットが受けたダメージは相当のものだった)
(何しろ、砲撃を真正面から受け、建物に突入し中を破壊しながら移動、背中から壁を抜き、)
(最後は30m近い高さから落下したのだ)
(スザク救出後に返還された機体は、分解寸前の状態だった……)
(量産型なら、間違いなく廃棄処分にされている)
.
ロイド「コーネリア殿下も、すごい剣幕で怒ってたしなぁ……イレヴンに助けられた、って」
「なにも僕らを追い出さなくてもねぇ~……」ハァ…
セシル「学園の研究棟が借りられなかったら、路頭に迷うところでしたね」
「でも、それでも彼が生き残ってたおかげじゃないですか」
ロイド「うん?」
セシル「フロートシステムの開発、殿下から正式にゴーサインが出たでしょう?」
「短時間でもナイトメアが飛ぶことができれば、状況はかなり変わった、って」
.
ロイド「まあねぇ……でも、そっちはキミに任せるよ」
「セシルくんならすぐ作っちゃうでしょ、そのくらい?」
セシル「あら、ロイドさんはこれから何を?」
ロイド「シュナイゼルちゃんが、"空飛ぶ計算機"が欲しいんだって~」ニマー
「ついでに、実験中の加粒子砲を装備した機体を、いっこ作ろうかなぁ、って~」
セシル「えっ?」
.
■租界 カレンのアパート 夕食時 ─────
カレン母「……カレン、おかわりいる?」
カレン「……」モッシャモッシャ
カレン母「おでん、欲しかったらまだあるからね?」
カレン「…………」モッシャモッシャ
(……今日は、ルルーシュのことを色々と知ることができた)
(前から思ってた疑問にも答えが得られたし、あいつとC.C.の関係もちょっとわかった)
.
(いちばん意外だったのは、兄弟なんていそうにないあいつに妹がいて、)
(しかもとても大事にしてるらしい、ってことかな……)
(ちょっとキモいくらいのシスコンだったけど、生い立ちを考えれば無理もない)
カレン(……二人きりの家族、か……)モッシャモッシャ
(うちも、そうなんだよね……)
カレン母「……」モグモグ
(……シュタットフェルト家を出てから、母親が少しずつ変わってきた気がする)
(以前の、鼻につくほどの卑屈さが徐々に消え、表情も柔らかくなってきた)
(やはり……しがみついていたんだ、あの生活に)
.
カレン(……最初から、無理しなければよかったのに……)
(わたしたちは所詮日本人、イレヴンなんだ……貴族には、どうあがいたってなれない)
(身の丈にあった生活が一番よ……)モッシャモッシャ
「……たまご」
カレン母「はいはい!」カチャカチャ
カレン(……いや、身の丈でもないよね、この生活も)
(ほんとなら、わたしたちは今でもゲットーで暮らしてるはずなんだ)
.
(ルルーシュの知人が経営しているという貿易商が仲介となり、そこに雇われているという)
(形で、わたしは母の分も含めて租界での特別居住許可を得られた)
(わたし以外にも数人の幹部は、租界に住まいを得ている)
(扇さんはすでに当局に目を付けられているため、租界には入ることができない)
(しかし、騎士団のメンバーも増え、扇さんの身の回りの世話は問題なくなった)
カレン(けど、どういう知り合いなんだろ、貿易商って……)
(わたし、名義貸しで実際にはぜんぜん仕事してないんだけど、)
(それでもいいのかしら……)モッシャモッシャ
.
■夜中 クラブハウス ルルーシュ自室 ─────
(……途中からC.C.が乱入をしてひっかき回してくれたものの、)
(とりあえずカレンとのデート(?)は、つつがなく終了した)
(彼女が選んでくれたナナリーへのプレゼントは、後日ここに届けられる)
(今日一日、俺と話したことで、彼女の中でのわだかまりはそれなりに解消されたように)
(感じられた……俺もまた、彼女の人柄を垣間見ることができ、得るところがあった)
(まあ、作戦は成功した、と言っていいだろう……)
.
ルル(……今度から、対人関係で何か問題があれば、買い物に誘えばいいな)
(さて、もうひとつの問題だ……)ピッピッピ
(俺はおもむろにケータイを取り出し、電話を掛ける)
(この時間なら、まだ奴は起きているはずだ……)
??『もしもし?』
ルル「スザク、起きてたか……いま大丈夫か?」
スザク『ああ、いいよ……どうしたんだ?』
.
ルル「人から聞いたんだが、」
「お前、今日ユーフェミアと会ってたって?」
スザク『えっ!?どうしてそれを?』
ルル「俺を誰だと思ってるんだ?」
「ゲットーのことで俺の耳に入らないことはないぞ?」
スザク『ああ、そうか……』
ルル「しかし、まさかお前がユーフェミアに逢いにいったわけじゃないよな?」
.
スザク『そんなことできるわけないじゃないか』
『彼女から連絡があったのさ……驚いたよ、非通知でかかってきたんだ』
『オレの番号を、どうやって調べたんだろう?』
ルル「その気になれば、総督府なら簡単に調べられるさ」
「貸与先はお前の名前で登録しているんだしな」
(ふむ……俺が立てた貿易商は、隠れ蓑としてうまく機能しているようだ)
(貿易商の登記上の取締役は偽装で、実態もペーパーカンパニー同然だ)
(その貿易商からの貸与という形で、奴が持っているケータイを登録してあるのだが、)
(ユフィがそれに連絡をしてきたということは、貿易商の存在自体は怪しまれて)
(いないということだろう……)
(イレヴンであるスザクがケータイを持っていることも、脱法的だが認められたということだ)
.
スザク『ケータイ、君に返した方がいいか?』
ルル「いや、そのまま持っていてくれ」
「俺が連絡したい時に困る」
スザク『わかった』
ルル「スザク、お前、どこでユーフェミアと知り合ったんだ?」
スザク『オレが、処刑前に独房へ入れられている時だ』
ルル「独房で?」
スザク『彼女は、オレの様子を見に来た』
『口にこそ出さなかったけど、たぶん彼女は、オレが無実だと思ってた』
『それを、オレに何とか伝えたかったみたいだ』
.
ルル「なるほど……」
スザク『彼女は、オレが枢木家の人間だということも知ってた』
『ルルーシュと知り合いだったと言ったら、ずいぶん驚いていたよ』
ルル「スザク……いま、俺が生きている事を、ユーフェミアに話したか?」
(スザクとユフィが会っている、と聞いて真っ先に思い浮かんだのが、この懸念だ)
(話すはずがないと思っていても、言質が欲しかった)
(もし万が一、俺が今も生きていることを知られたら……それどころか、他の誰でもない、)
(もしそれがシャルルにも知られることになったら……!)
.
スザク『……言おうかと思った』
ルル「!!」
スザク『あの戦争で君と生き別れになった、と言ったら、彼女は悲しそうだったから……』
『君が生きてると知れば、きっと喜ぶだろうと思った』
ルル「……言わなかったんだな」
スザク『言えるわけがないだろう?』
『ゼロが実は君であり、クロヴィス殿下を殺し、今は反政府組織とつながりがある、』
『なんて言えると思うか!?』
ルル「……」
.
スザク『どうして……君は、クロヴィス殿下を殺してしまったんだ?』
『殺さずとも済む方法はあっただろう?』
ルル「……もう済んだことだ」
スザク『済んだこと!?ユフィにとっては、いまだ現実なんだぞ!?』
『逆の立場になってみろ、もしナナリーが殺され、犯人が『もう済んだことだ』と』
『言えば、君はその通りだと納得するのか!?』
ルル「……」
.
スザク『……どんな理由だろうと、人を殺して得られる正義は本当の正義じゃないと思う』
『それは、独善だよ……!』
ルル「もう、その話はよそう……」
「それについては、俺とお前は平行線を描くことしかできない」
スザク「……」
(俺たちは、少しの間黙りこんだ……)
(二人の間にある絶望的に深い谷を飛び越えようと、幾度となく努力してみたが、)
(正義や倫理、そしてその方法論について、俺たちはどうしても意見が一致しない)
(スザクが俺の"仕事"を手伝わない理由もそこにある……)
.
スザク『……ユフィと話して思ったんだけどさ、』
ルル「なんだ?」
スザク『彼女、ここを……エリア11を変えてしまいたいらしい』
『国籍に関係なく、皆が平等に住める国に……』
ルル「……ははッ!それはすごいな!」
「ユーフェミアらしい思い付きだ!」
スザク『本気だよ……オレも、それを手伝おうと思ってる』
ルル「なに?」
スザク『君のやり方じゃ、犠牲になる人々がたくさん出るだけだ』
『彼女なら、制度そのものを変えることができる……!』
.
ルル「スザク!?何を言っているんだ?」
「ユーフェミアにそんな権限はないだろう?」
スザク『コーネリア総督は、ここに長居をする気はないらしい』
『いずれ、ユフィに席を譲る……国内の反乱分子を鎮圧したら、ね』
『そうなれば、ユフィがここを統治する』
ルル「……!」
スザク『わかるよな、オレの言っている意味が?』
『ルルーシュ……黒の騎士団を、解散する気はないか?』
ルル「そんなこと、できるわけがないだろうッ!」
「騎士団は、俺が俺であるための組織だ!」
「スザク、お前、まさか俺がゼロであることをバラす気じゃないだろうな!?」
.
スザク『……今は、言う気はない』
『だから、君がゼロであることが誰にも知られていない間に……』
ルル「スザクッ!」
(……そんなこと、できるはずがないんだ!)
(ユフィの夢物語を真に受けるな!)
(下からの利権が上へと吸い上げられ、多層に積み重なってできている今の体制は、)
(なるべくして成ったものだ……たとえトップがユフィに変わったとて、一朝一夕で)
(簡単に変えられるものではない!それを変えようとすれば……)
スザク『……ルルーシュ、彼女は本気だし、僕はそれを助ける気だ』
『できれば、君にも協力をしてほしい』
スザク『それに……このままずっと、ナナリーにも黙っている気なのか?』
『君がゼロだということを……?』
ルル「!!…………」
(ナナリーには秘密にしていることを、まだスザクには話していない……)
(ハッタリをかけてきた……脅しだ、これは!)
(スザク…………貴様……ッ!)
ルル「……即答は、無理だ」
スザク『わかってるさ、考えておいてくれ』
『君も協力するとなったら、実現が一気に近くなるだろう』
.
ルル「お前、どうしてそこまで……」
スザク『……これまでオレは、生きていてもしようがないと考えていたんだ』
『それくらい、重い罪を背負っていた……』
『でも、独房で彼女に出会って……彼女に全てを捧げたい、と思った』
ルル「!!」
「お前……ユフィを……?」
スザク『恋とかじゃないと思う、もっとこう……純粋な気持ちだ』
『彼女は、本当に心が美しいんだ……』
(……ああ、それがユフィの魅力だ、わかっている)
(心がまっすぐで、美しくて……その本質は、残酷なまでに理想主義なんだ)
(周囲の者はその理想に巻き込まれ、気が付けば、骨まで砕かれてしまうだろう)
(そうならないのはひとえに、彼女が現在、権力を持っていないが故だ)
.
ルル「……わかっている、元いとこだからな」
「さっきの話……少し考えさせてもらう」
スザク『あせらないよ』
『ユフィが総督になるまでは、まだ時間がある』
ルル「そうだな……」
「夜分済まなかった、そろそろ失礼する」
スザク『そうだね』
『おやすみ、ルルーシュ……』ピッ
.
(……俺は、通話が切れたケータイを握りしめる手が、微かに震えていることに気付いた)
(小さく舌打ちをし、ケータイをベッドに放り投げる)
(まさかスザクが、俺を脅迫するとは……完全に想定外の事態だ)
(ユフィが奴に与えた影響がこれほど大きいものだとは思ってもみなかった)
(それに、ユフィは一体、どういう形で"理想"とやらを実現する気なのか……)
.
(俺は、まるで小さな箱の中に閉じ込められているような感覚を覚えた)
(巨大な万力に挟まれ、抵抗する術もなく、じわりじわりと押し潰されていくような……)
(己の骨が、1本、また1本と折れてゆく音を聞かされるような絶望感……!)
ルル(早々に対策を打たねばならん……)
(このままでは……俺は、俺たちは───!)
────── 続く
くぅ疲ッ!
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