千早「私は手料理を食べたわ!」 貴音「ほう、では私は共に一夜を過ごしました」 (75)


ここは、弱小事務所と言われていた765プロダクション

いまやアイドル事務所といえば765プロ

そこまで言われるようになった765プロですが

どうやら今日もまた騒がしいようです

千早「ふ、ふふふっ、一夜過ごして進展なし? ヘタレですね!」

貴音「くっ……一夜過ごすこともできない小心者が何を言いますか!」

千早「あ、あれは用事があっただけです!」

貴音「ほう? 用事の方が大切ですか! ならば手を引きなさい!」

そんな2人の言い争い

さすがに耐え兼ねた人がいたようです


      ダンッ!!


貴音「伊織! コーヒーがこぼれたらシミになるでしょう!」

伊織「知ったこっちゃないわ! アンタ達いい加減うっさいのよ!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1382604114


彼女は水瀬伊織

言い争っていた如月千早、四条貴音

2人と同じく765プロダクションの女の子です

伊織「朝からずーーーーーーーーっとじゃないっ!」

貴音「それがなにか?」

伊織「煩いのよ! あれしただのこれしただの、どっちが上だの下だの!」

千早「と、言っていますが?」

貴音「はて?」

伊織「きーっ! むかつく!」

伊織がどんなに怒っても

2人には聞こえないようです

しかもこういう時だけ仲が良いから

伊織の怒りも増長されるばかり

南無南無


伊織「ったく……美味しいラーメン屋を」

貴音「ふっ、いくららぁめんとて、彼女よりは格下です!」

伊織「アイデンティティ捨てちゃうの!?」

千早「くっ、なら私は歌――」

伊織「それを捨てるなんてとんでもない!」

伊織ではダメなようですね

と、見ている人なら思うでしょう

しかし、伊織には秘策があったのです

伊織「アンタ達、良い加減にしないと電話するわよ」

千早「!」

貴音「卑怯な!」

伊織「卑怯もなにもな――あっ」

千早「なんですか?」

伊織「秘胸」

千早「くっ……」


貴音「おや千早。秘胸で問題ないでしょう?」

千早「何を」

貴音「彼女はその貴女を褒めてくれているのでしょう?」

千早「そう、よね……ええ、秘胸でいいのよね!」

伊織「なにこれ」

なんでしょうか。

まぁ、伊織も解っていることですが。

別に2人は仲が悪いわけではなく

むしろ仲がいいんですよ

だからこそ喧嘩するわけで

伊織「まぁ止めたなら良いわ。次やったら電話するからそのつもりで」

貴音「仕方ありません。あと3分24秒くらいで春香がお帰りになるでしょうし」

千早「あれ……? 転倒時間を込まなくて良いんですか?」

貴音「しまった!」

千早「転倒時間込みで5分17秒! 私の勝ちです!」

伊織「なんにも勝ってないから。むしろ理性的な意味でボロ負けしてるから」

もっともです


春香「ただいまー!」

千早「くっ、予想より早い!?」

貴音「伊織、時間は!」

伊織「4分27秒」

そこでしっかり見ているのが伊織らしいですね

まぁ伊織も2人と同じような人間だったりするんだけど

春香「なんの話してるの?」

貴音「気にすることではありませんよ。お仕事は如何でしたか?」

そうですね。

バレたら色々とマズイですからね

春香「うん、大成功だよ」

伊織「あ、春香。今日の事なんだけど」

春香「うん。大丈夫だよ」

伊織「本当!? にひひっ良かった」

おやおや、

伊織はなにか企んでいたようです


千早「春香、何の話?」

春香「えへへっ、じつは伊織ちゃんの家にお呼ばれしちゃったんだ~」

千早「お呼」

貴音「ばれ?」

伊織「にひひっ」

2人が言い争っている間にも

伊織は抜け駆けしていたようですね

それにはさすがの2人もお怒りのようです

貴音「それはそれは、私達もぜひ行きたいものです」

千早「そうね……ダメかしら?」

伊織「ふ、ふふっ。残念だけど今日は春香のための準備しか――」

春香「ねぇ伊織、2人も一緒じゃダメ?」

惚れ薬の続き?


伊織「ぐっ」

春香「人は多く居た方がきっと楽しいよ?」

伊織「くっ…………ゎ、わかったわよっ!」

やよいにも弱いけど

伊織は春香にも弱いみたいです

……何も起きないといいですね

千早「ふふふふっ」

貴音「ふふっ、今宵は負けられぬ戦です」

どうやら戦争が起きるみたいです

……まぁ、そうですよね

この事務所のみんなが春香のこと好きですからね

はてさて……

水瀬邸に性夜……失礼

静夜は訪れてくれるのでしょうか?

儚い期待はしないほうが身の為ですけどね。精神的な意味で


一旦中断します

すみませんが
このSSは初の3人称なので読みづらいかもしれません。
改善するべき点がありましたら、お願いします


>>8
違いますよ


千早「愚かね。水瀬さん」

伊織「はぁ?」

千早「一流シェフに作らせた高級料理? 馬鹿にしてるの?」

伊織「な、なによ! 美味しそうに食べてたくせに!」

おやおや

春香を別室に残して喧嘩中のようです

何があったんでしょうか

貴音「水瀬伊織。お泊まり会といえば、皆で美味しく作るものでは?」

伊織「し、知らないわよ……そんなの」

貴音「私達はみな独りだった。ゆえに、知らずとも悪いことではありません」

伊織「……………」

貴音「料理は美味しかった。しかし、料理をするという楽しみはなかった」

伊織「で、本音は?」

千早「春香の手料理が良かった」

伊織「金払え!」

なんかちょっとシリアスだと思えば。

まぁ、でしょうね

この2人ですもの


伊織「ったく、アンタ達がちょっと嫌な顔で呼ぶから何かと思えば」

千早「春香にあれこれ指示されながら作りたいとは思わないのかしら」

伊織「迷惑かけんな」

貴音「つまみ食いをし、【あっまだダメだよ、めっ!】なんてされたり」

伊織「邪魔すんな」

貴音「それこそ至福。しかしまさかしぇふの料理とは」

千早「まったくもってナンセンス!」

伊織「もういいから帰れ!」

お呼ばれした身でこの言いよう

伊織が怒るのも無理はないですね

貴音「良いのですか? 伊織に追い出された。と、申しても」

伊織「呼んでないけど呼んだって建前で来たくせに!」

千早「それは違うわ!」

伊織「なっ」

千早「来てあげたのよ。呼ばれたから」

※呼んでません


伊織「アンタ達……いや、良いわ」

さすがの伊織もこれには何も言えないみたいです

投げやりですね

貴音「お解り頂けて真、嬉しい限りです」

千早「……違うわね。何を企んでいるの。水瀬さん」

おや?

千早は何かに気づいたようです

伊織「なんのことかしら」

千早「ふふっ。甘いわね……ここは貴女の領地。些細な違和感にも警戒は怠らないわ」

伊織「……絶望するとしても?」

貴音「絶……望?」

伊織「開けておいた部屋は2人分。つまり2部屋。ここまで言えば……解るでしょ?」


貴音「な、ま……まさか水瀬伊織、貴女と言う人は!」

千早「しまった……っ利用、されたッ!」

気づいてしまったらしく

2人はすごい嘆いているようです

伊織「にひひっ。千早アンタ良く解ってるじゃない」

千早「くっ……目の前にありながら手に届かないなんてッ!」

伊織「残念だったわね。アンタにはうさちゃんを貸してあげるわよ」

貴音「春香を、春香を独り占めするなんて!」

伊織「仕方ないじゃない。本当は別だったのに、アンタ達が来ちゃったんだから。ねっ?」

ちょっと可愛く言ったみたいだけど

貴音と千早を挑発してますね、コレ

千早「……………」

貴音「千早、私達は負けたのです。水瀬伊織の策の前に……敗れたのです」

戦争は終わってくれたんでしょうか

いや、終わってないでしょう

千早はしぶといですからね


ところ変わってお風呂のようです

水瀬邸のお風呂は広いですからね

ここは流石に伊織も止めることはできなかったようです

春香「な、なんでみんな私のこと見てるの?」

痴早「女の子同士よ? 隠す必要ないじゃない」

春香「いや、ジロジロ見られるのは……ちょっと」

こうなりますよね。

春香も可哀想に……と、

思う伊織もまたじぃっと見ていることを春香は知らない

貴音「春香、私が洗って差し上げますよ」

春香「ほんと!? じゃぁ、私も貴音さんを洗ってあげるよ!」

伊織「なっ! ま、待ちなさい!」

貴音「にひひっ」

伊織「ま、真似すんじゃないわよ!」

痴早「髪は譲るわ、体は任せて」

何かおかしいと思わないのだろうか?

誰か怪しんだりしないのだろうか?

……理性に勝ってる人間は当人だけ

可哀想かもしれないが、これが現実なのである


今日はここまで


春香「もう……お嫁にいけないよぉ……」


仲良きことは美しきかな

と、言いますが

はたして今の彼女たちは美しいのでしょうか

春香「あ、あの……」

伊織「なによ」

春香「いや、前は良いかなって……」

痴早「ダメよ春香。全身くまなく洗わなくちゃ」

春香「んっ、ぁっ……い、いや、それは知ってるんだけど……」

伊織「なら良いじゃない。続けるわ」

春香「やっ、ちょっ胸ばっかりっ」

痴早「あら、下の方も念入りにやってあげるから安心していいわ」

春香「安心できなっあぅっ」

貴音「2人とも」

やった。止めてくれる。

さすが最後の良心。なんて春香は思ったことでしょう

しかし、残念ですが。非常……失礼。非情なんですよね

貴音「せめてスポンジにしましょう」

春香「それもそうだけど違うよ!」


伊織「したの手入れは任せて!」

痴早「いいえ、私に任せて!」

貴音「ふふっ、この私がやりましょう」

春香「ちょっ、やめ、流石にそこはっ」

伊織「邪魔しないで!」

痴早「水瀬さんこそ邪魔よ!」

貴音「ふふっ、2人で潰し合うとは愚かな!」

春香をそっちのけで争う3人

彼女の腕やら足やらを掴んでは広げたり押さえ込んだり

もはや虐めみたい。

それのは、もう、彼女も我慢はできませんでした


春香「もういい加減にしてよ!」


伊織「あ……」

痴早「っ……」

貴音「……………」

春香「そんなに私のこと嫌い!? みんなで私のこと滅茶苦茶にして何が楽しいの!?」

千早「そんなつもりはっ」

春香「じゃあなんでこんな酷い事するの……? やだって、止めてって……言ったのに」


シャワーの流れが止まり、

広々とした浴場は静まり返り

3人の欲情もまた……静まっていきました

しかし、春香は悲しくて、泣き出してしまいました

春香「もういいよ……私帰る」

伊織「ま、待って春香!」

春香「ごめん……私、今のみんなは嫌い」


千早「き」

貴音「ら」

伊織「い?」

ですよねー

春香は3人を置いて風呂を上がると

そそくさと用意をして家を飛び出してしまいました

死の呪文に相当する言葉を言われた3人は

しばらく石化していたそうな……

中断


春香「……寒い」

ろくに髪を乾かさずに飛び出したせいで

春香は寒さに凍えていた

まだ冬の月ではないとはいえ

もうすぐ10月ですからね

かといって、もう夜

電車は途中でストップし、地元には帰れません

春香「千早ちゃんのばーか」

春香「伊織のばーか」

春香「貴音さんのばーか……」

春香「…………」

春香「……寒いなぁ」

俯く彼女に近づく影がありましたが

春香は気づいてはいないようです

「捕まえた!」

春香「きゃぁっ!?」

まさかの……襲撃でした


春香「な、何!? 誰!? 放して、止めて!」

やよい「こらーっ! 長介ーっ!」

長介「姉ちゃん、リボン姉ちゃん捕まえた! モンスタボール貸して!」

やよい「春香さんは人だから捕まえちゃダメ!」

どうやら、高槻一家の長男みたいですね

悪い人とかではなく一安心です

春香「……警察呼びそうになった」

やよい「ご、ごめんなさい」

長介「だって、姉ちゃんとかすみでガルーラの親子愛とかやってくるんだもん」

かすみ「姉妹愛だよ」

長男「どっちも一緒だろ! 2回なんてずるい! リボン姉ちゃんはリボンと頭で3つの頭。ドードーな!」

春香「せめてサザンドラにしようよ!」

長介「えっ」

春香「えっ」

長介「そんな強そうに見えない」

長介には下に見られてしまっているみたいですね


やよい「あの、春香さん何してたんですか?」

春香「お、お散歩?」

やよい「家はこっちじゃないですよね?」

春香「……ごめん、訳あり」

長介「なに? 家出? 意外に庭の倉庫とか見つからないぞ」

やよい「長介ぇ?」

長介「……冗談です、すみませんでした」

高槻一家

と、言っても子供たちだけですが、

みんなは春香を家に招いてくれました

訳を話さなくても

困っているなら助けてあげる

優しい子達ですね

将来が心配です。詐欺に引っかかりそうで


春香「くしゅっ」

やよい「お風呂化してあげたいけど、今壊れてて……」

春香「ううん、いいよ。ホットミルクを飲ませてくれるだけで十ぶくしゅっ」

長介「うわっきたねっ」

かすみ「春香お姉ちゃん大丈夫ですか?」

春香「うーっちょっとダメかも」

風邪をひいてしまったかもしれません

全部あの3人の責任ですね

やよい「今日はお姉ちゃん別の部屋でねるから、静かにね?」

かすみ「はーい」

長介「はーい」

お姉ちゃんの言うことはちゃんと聞くようです


中断

はるかわいい


ごめんミス

誤字脱字がちょっと……


×>やよい「お風呂化してあげたいけど、今壊れてて……」

○>やよい「お風呂貸してあげたいけど、今壊れてて……」


やよい「春香さん、ごめんなさい。布団に予備はなくて」

春香「う、ううん……私こそ、迷惑かけてごめん」

やよい「寒いですか?」

春香「ちょ、ちょっとね……」

春香は震える体のせいで否定できないことを悟り

薄く笑った

やよい「春香さん、苦しかったら言って下さいね?」

春香「え?」

やよいは貧乏なお家柄

温かい布団なんて沢山あるわけなく

それは弟たちに貸してしまっています

ならどうするか。

ぎゅっとするしかないのです


春香「だ、ダメだよやよい。やよいまで風邪引いちゃうよ」

やよい「えへへっ、私は強いから大丈夫ですっ」

春香「でも……」

やよい「それに」

春香「?」

やよい「春香さんのお役に立ちたいんです」

その言葉とともにやよいの力が強くなる

絶対に放さない。離れない

その意思を表すように

春香「……ありがと」

その優しさを無下にはできません

もし風邪を移したら看病してあげるから

なんて心に響かせながら

春香はゆっくりと、目を瞑った


その結果

春香「けほっげほっ……う゛ぅ……」

やよい「春香さん、お粥食べられますか?」

春香「ごめ゛ん」

やよい「い、いえ……」

やよいの手料理が朝から食べられるのは羨ましいですが

高熱と激しい咳は勘弁して頂きたいものですね

全責任は欲に目が眩んだあの3人ですが、

逃げ出したところをやよいに拾われたのは幸運でしたね

同プロダクションの萩原雪歩や、我那覇響に見つかったりしたら

もう、目も当てられないことになっていたことでしょう

やよい「今日は私お仕事なんです……誰か呼びますね」

春香「そ、ぞんなっ、私、家に帰るよ」

やよい「めっ! 無理しちゃダメです。良いですね?」

春香「ううっげほっ、けほっけほ……はぃ」

お姉さんなやよいには、彼女も弱いみたいです


美希「春香、ミキに任せるの!」

春香「……………」

あ、死んだかもしれない

と、春香が思った瞬間だった

美希「顔を顰められても困るの……」

春香「けほっ……か、帰った方が良いんじゃない?」

美希「厄介払いしようったってそうはいかないから」

やよいから預かったのだろう

高槻家の鍵が美希の手のひらの上で輝いた

春香「そ、そんなつもりはないんだけど」

美希「あらかじめ言っておくけど、ここには誰も来ないから。今日は一日中春香は私のペットなの」

春香「本人目の前にしてペットとか、なしだと思う……」

美希「もちろん冗談なの。ちゃんと看病するから安心してね?」

もちろん、

安心できるわけありません


美希「ねぇー春香~」

春香「あんまり喋らせないでよ……」

美希「だって、ミキ知らないもん! お粥のつくり方!」

春香「うぇっ……頭に響いた」

美希「ご、ごめん!」

春香は地獄にいます

高槻家ではなく、地獄にいます

春香「もーいいよ……自分でやる……浩三くんのミルクも、や、らなきゃ……」

美希「む、無理しちゃダメなの……春香は今」

春香「そう、思うなら……邪魔、しないで……」

美希ではできない

でも、春香ならできる

けれど、今の春香では……できない

春香「げほっ、けほっ……やば……何がなんだかわからないや……」

春香の目に見えるのは混沌とした歪曲の世界だった


やよいもやよいで

なぜ美希に頼んでしまったのか――は言うまでもなく

本来は同プロダクション所属竜宮小町のプロデューサー

秋月律子に依頼したが、仕事のせいで断られてしまったのだ

貴音や伊織、千早は春香自身が拒絶してしまったわけで。

残った暇な子が美希だけだったのである

春香「……頭痛い、吐き気する……なにこれ、異世界?」

横になっているだけでもつらい症状

動けば余計辛くなるのは当然ですよね

美希「無茶しないで欲しいの……お願い、春香」

春香「でも、自信満々に言っちゃったんでしょ?」

美希「それは……」

春香「浩三くんたちのことも全部任せてなんてげほっ……言うから……」

だから、春香が頑張るしかなく

結果的に、美希は迷惑をかけているだけだ


そんな絶望的状況で高槻家のドアが叩かれた

『ごめんくださーい。私、萩原雪歩といいます』

美希「げっ」

春香「雪歩?」

もちろんやよいが呼んだわけではない

『ここに春香ちゃんがいるはずなんです。開けてくださいませんかー?』

美希「入れたら春香が……じゃなくてミキ死ぬの」

春香「いや、そんなことないと思うよ……開けてあげて」

美希「で、でもっ」

春香「お願い、私……本当に死ぬかもしれないから。いや、冗談じゃなくて」

美希「し、死なばもろともなの!」

せめて春香を抱いて死にたかった

と、回想流れる立ち尽くす美希の横を通り

解き放たれた、いや、招かれた招かれざる客は

リビングへと足を踏み入れた


雪歩「ほら、やっぱり」

春香「雪歩?」

雪歩「ダメだよ? 私から隠れるなんて不可能なんだから」

春香「ごめん、誰?」

雪歩「私だよ。雪歩。それより……春香ちゃんいつもより匂いが濃いよ?」

春香「げほっ……あはっ、はは。風邪ひいちゃって」

雪歩「そっか……それでやよいちゃんが看病して、だからやよいちゃんから春香ちゃんの匂いが」

春香「うん、まぁ……いっか」

春香、ここに諦める

もはやツッコミしている余裕はない。と

ツッコミしていたら確実に過労死する。と

美希を見向きもせずに素通りした時点で

アウトオブ眼中、雪歩には自分しか見えていないのだと

春香は気づいていたが


雪歩「けど、そうかなぁって思ってたから色々買ってきたよ」

春香「雪――」

雪歩「寝てて良いよ、春香ちゃん。辛いでしょ?」

春香「雪歩……」

ちょっとアレな雪歩でも

春香の非常事態とあっては暴走しな……いや、しているが

襲ったりするつもりはないようだ

春香「ごめん、お願い」

雪歩「美希ちゃん、手伝ってくれる?」

美希「殺される、殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される……」

雪歩「 み き ち ゃ ん 」

美希「ひっ!?」

雪歩「 て つ だ っ て ? 」

美希「イ、イエスマム!」


春香が救済されている頃。

元凶の3人はようやく動き始めた

千早「……い、生きて、るの?」

伊織「いいえ……死んだわ。私達の……生きる意味が」

かなり大げさである

いや、当人らからしたらかなり重要なことなのだろうけど。

貴音「いえ……生きる意味はあります」

千早「何言ってるの……?」

伊織「私達は春香を傷つけた! 嫌いだと言われた!」

貴音「はい……心に染みていますよ」

伊織「なら、なんで生きる意味があるのよ! 春香を傷つけた罪を背負って生きろって言うの!?」

貴音「罪は背負うものではありません! 償うものです!」

千早「っ」

伊織「…………そんなこと」

貴音「行くのです……春香に嫌われるとしても、嫌われた罪。その償いに」

最もなことを言っているようですが

本人も立派な加害者です


伊織「仕方ないわね……行くわよ」

千早「どこにいるのか解るの?」

貴音「……探すしかありません」

伊織「停戦協定よ、いいわね?」

貴音「問題ありません」

千早「問題ないわ、春香に許されないままじゃ、死んでも死にきれないものね」

最初からそのくらい理性的だったら。

と、思う伊織であった

しかし、犯した罪は変わらない

だからこそ償う

伊織、千早、貴音は

765プロのみんなに電話をかけ

そして……見つけたのだった

希望ではなく、絶望を


中断


なんかシリアスに片足突っ込んでますが

シリアスに見せかけたシリアルなので

春香が死ぬとかそんなことはありません


伊織「春香が風邪を引いた!?」

千早「ええ……律子が教えてくれたわ」

貴音「今はどこに? ご自宅ですか? 事務所ですか?」

千早「高槻さんの家らしいわ……看病できる人を探していたらしいの。それでみんなに……」

この3人は元々馬鹿ではない

変態ではあるが馬鹿ではない

だから、その事だけで気づき傷ついた心がさらに痛むのだろう

ぎゅっと胸元を押さえ込んでいた

伊織「そう……みんなにね」

貴音「…………………」

伊織「貴音」

貴音「私達は春香の体を弄び、代価として今までの信頼、好意、全てを犠牲にしました」

千早「……まったく、誰が愚かなんだか」

貴音「ええ、あまりにも愚かでした……ですが、行かぬ道理などない。いえ。行かねばならぬのです」


伊織「くっちゃべってないでさっさと行くわよ」

千早「水瀬さん、あの使いの人は?」

伊織「要らないわ」

伊織はそういうだけで

さっさと正面の門へと向かう

千早「…………………」

貴音「伊織は己の足で向かうつもりなのです。春香に関わるからこそ、楽はすべきではない」

千早「そうね……私たちも行きましょう。四条さん」

貴音「ええ」

大切な親友を失った悲劇の歌姫

そう言われれば同情を禁じえないが

欲に負けて襲ったというなんとも最低な真実が眠っていたりする

掘り起こされたりしたら見事なスキャンダルである


3人が徒歩で近づく中、

そんなこと露も知らない春香は

雪歩の手伝いを借りながら食事をしていた

雪歩「ふーっふーっ……このくらいでいいかな? はい、あーんして?」

春香「あ、あーん……んっ」

雪歩「どう?」

春香「うん、美味しいよ。ありがと」

美希「ミキもあーんしてあげたいの……」

雪歩「美希ちゃんは春香ちゃん傷つけるからダメ」

美希「ならせめて縄くらい解いてよ! もう頬にご飯粒あっても舐めないから!」

それは縛られても仕方がない

とはいえ、春香は別にそこまで気にしてはいないようだが

春香「あは、あはは……っ、けほっげほっ……」

雪歩「春香ちゃん、大丈夫?」

春香「うん、朝よりはちょっとね」

雪歩「ご飯食べたらゆっくり寝ようね? その間にお薬買ってくるから」

春香「ごめんね、迷惑かけて」

雪歩「ううん、良いよ。それより、早く食べちゃおっか」


雪歩「春香ちゃん、横になっててね」

春香「うん……」

雪歩「美希ちゃん、一緒に――」

『美希、今すぐここを開けなさい』

『水瀬さん、そんな言い方はダメよ』

『ふむ、どうやら美希だけではありませんね。ほかにもいるようです』

そんな声が玄関から入り込んでくる

言うまでもなく元凶の3人だ

雪歩「……春香ちゃんを、こんな風にした人達。だね?」

美希「……ゆ、きほ?」

雪歩「春香ちゃんを、春香ちゃんを……」

春香「雪歩」

風邪と高熱それによって掠れた声

けれど、それは消え入りそうなものとは思えないほど強い力を持っていた

雪歩「春香ちゃん……」

春香「……3人と話したい」


貴音「………………」

千早「………………」

伊織「………………」

雪歩「3人が――っ」

美希「雪歩」

雪歩「でも」

美希「雪歩、今は春香が話す時間なの」

雪歩「……………」

今回が初めて

美希が役にたった瞬間である

以降、役に立つとは限らないが


春香「ごめんね、本当は起きて話したいんだけど……喋るだけでも辛いんだ」

伊織「春香……っ、その……ぇっと……」


春香「ごめんね」


千早「!」

貴音「!」

伊織「っ……」

謝られてしまった

謝るべきなのに、3人は謝られてしまった

そのことが3人の思考を止めてしまう

春香「私、色々と考えたけど。解らなかった」

千早「なにを?」

春香「3人に嫌われちゃった理由だよ」

伊織「わ、私達は……」

春香「だからさ。教えてくれないかなっ? 仲良く、したいから……」


春香の申し訳なさそうな笑顔

でもこれは春香も悪いんじゃないかなーと

思う美希である

千早「春香、違うの! 私達は」

春香「違う?」

貴音「ええ、私達は春香を嫌いなのではなく、お慕えしているのです」

雪歩「あっ」

美希「み、ミキたちもなの!」

春香「お慕え……?」

伊織「……別の言い方するなら、す、好きってことよ」

もちろんそれは

春香が思う友達としてのものではなく、

伊織「恋愛対象なのよ、アンタは」

春香「えっ?」

貴音「私達……みなの、ですよ」

春香のみ知らない衝撃的な事実だった


千早「優しいし」

美希「お菓子美味しいし」

雪歩「可愛いいし」

貴音「時に脆く」

伊織「でも、強く」

美希「明るいし」

雪歩「元気だし」

千早「元気をくれる」

春香「ふぇ、えっ、えぇっ!? っぁいたぁ~っ」

声を上げるから頭を痛める

まぁ声を出すなとは言えないだろうけど

伊織「そんなアンタに惹かれたのよ。みんな」

春香「そ、そんな……私なんかよりもっと」

貴音「ご謙遜を、貴女は素晴らしき女性ですよ」


伊織「悪かったわ」

美希「で、デコちゃんが頭を下げた……? な、何をしたの?」

千早「お風呂で春香を襲った」

雪歩「ッ!」

美希「本当なの? 本当なら、ミキも――」

貴音「事実です。春香の体を弄びました」

美希「……ミキも、許せないの!」

ドンッと、貴音の背中が床に打ち付けられ

僅かな振動がみんなを大きく揺らした

貴音「貴女の裁きも甘んじて受けましょう」

美希「なら、気が済むまで――」


春香「止めて!」


美希「……………」

貴音「……………」

春香「良いよ、別に怒ってるわけじゃないから……ただ、嫌わてるのかなって怖かっただけだから」


千早「……ごめんなさい」

春香「いいよ……嫌いじゃ、ないんでしょ?」

貴音「もちろんです」

春香「なら、私は昨日のこと気にしないよ。むしろ、嫌いなんて言ってごめん」

貴音「それこそ不要……あれは私達の罪。私達が償うべきもの」

伊織「……春香。アンタのお願い」

春香「え?」

伊織「アンタのお願い、なんだって叶えてあげるから!」

伊織は俯いていた顔を上げ

春香を照れの隠せていない表情でじっと見つめた

伊織「……その」

春香「じゃぁ、今度はみんなでお泊りしていい?」

美希「春香、死にたいの?」

春香「あははっ……ちゃんと答えなきゃ、ダメだと思うから」


雪歩「え?」

春香「……私、正直考えたことはないんだ。そんなこと」

でも。と

春香は困った笑みを浮かべた

春香「私ね、みんなのこと好きだよ。友達として、仲間として」

千早「けど、それは私達とは違うわ」

春香「うん。でも、好きだから……知っちゃった以上。考えなきゃいけないの」

春香の決意

それはみんなの好意にしっかりと答えること

けれど、そんなことは簡単にはできない

知らなければ良かったと思うかもしれない

でも、現実で知ってしまったら後戻りはできないから――


― ― ― ― ― ― ― ― ―

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― ―


P「小鳥さん、さっきからブツブツと妄想たれ流れてますよ?」

小鳥「あははっ……ごめんなさい」

……で、鈍感で朴念仁で唐変木な春香ちゃんには

私の妄想の中みたいに

みんなから単刀直入に好きって言われなくちゃダメ

じゃなきゃどうせ友達としてとか思っちゃうし。

小鳥「……プロデューサーさん。明日ってたしか何人かオフでしたよね?」

P「そうですけど?」

小鳥「にひっ」

P「何悪い顔してるんですか……」


それは好都合

小鳥「私ちょっと買い物行ってきます」

P「え?」

小鳥「そろそろお茶請けもなくなっちゃうんです」

P「なら俺が行ってきますよ。仕事終わってますしね」

小鳥「じゃぁお饅頭お願いします。雪歩ちゃんのお茶には和菓子が一番ですから」

お饅頭なら仕込みやすい

もちろん春香ちゃんには

その中に惚れ薬が有り

あくまで現実ではないって思ってもらわなくちゃいけないから

ばらさないといけないわね


小鳥「……あくまで本物ではなく偽物」

そう思うだけで十分夢だって思えるはず

みんなは惚れ薬の作用で眠っちゃうだろうから

夢で片付くはず

春香ちゃん自身も

惚れ薬のせいだからって思ってなかったことにする

経験しつつ、やり直しのできる告白

しかも、運がよければそのまま……うふふっ

そうならなくても春香ちゃんの好きな子がわかるはず

小鳥「明日が楽しみですね、プロデューサーさん」

P「俺は明日は家でゆっくりしますよ。久しぶりのオフですから」

小鳥「そうですか……残念」

明日は千早ちゃん、雪歩ちゃん、やよいちゃんに伊織ちゃんが……うふふっ

楽しみだわ


これは春香の悲劇、前日のことである……


続きではないが始まりではある
……ごめん、ただ予定が狂っただけです


この書き方はちょっと慣れなかったので打ち切りという名の完結です

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