唯「ならば海賊らしく……ふんすっ!」 (21)

辺り一面黒に塗られた暗黒の世界。
その闇の中で時々、小さな光と大きな光がカメラのフラッシュのように瞬いている。
まるで花火のようにも思えるそれは、紛うことなき戦いの光だった。


「フフフフフ……ハハハ」


異形の機械が銃と思しき黒鉄を虚空に構える。
『ビームライフル』と名付けられたその武器が向けられた先には、妖しく両眼を輝かせ、ヒロイズムを表現するかのように纏ったマントをはためかせた、また別の異形の機械がそこにいた。

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「……は返してもらうよ!」


マントの機械が『ビームザンバー』と呼ばれる剣を抜く。


「貴様のものでは……なかろうに」


言い終えると同時に、異形の機械はライフルの引き金を引く。
放たれたビームはマントの機械に容易く命中しその装甲を穿こうとしたが、マントの機械は身じろぎ一つしていない。

「それもそうだね……ならば!」


マントの機械が宙に浮かんだデブリを蹴り出し腰部のスラスターの火を吹かした。
まるで特攻でも仕掛けんばかりの勢いだ。


「海賊らしく……いだたいていく!」


また一つ光が瞬き、そして消えた。

「またあの夢だ」


ぼそっと声を漏らしベッドから起き上がった少女、平沢唯には一つの悩みがあった。
それはここ最近ずっと同じ夢を見るということ。
夢の内容がお菓子の家だとか空を飛ぶだとかならばまだ可愛げもあるのだろうが、唯が見ていた夢は『戦争』の夢。
それも只の戦争ではない。
見慣れぬロボット達が宇宙を自由に駆け巡り火花を散らし合うという、人が聞いたら「それって何のアニメ?」と尋ねてくること間違いなしのファンタジックな夢。

「夢だけど……夢じゃないみたい」


他に形容する言葉が見つからなかったから夢という表現をとったが、唯が見ていたそれはまるで現実世界の光景のように鮮明だった。

「うーん」と唯がうなる。
その時、コンコンとドアをノックする音が唯の耳に届いた。


「はい?」

「おはよう、お姉ちゃん。起きてたの?」


そう言って、唯に程よく蒸らしたタオルと着替えを持ってきたのは平沢憂。
唯の妹。
「良く出来た子」と周りからも評判の憂は姉である唯を溺愛していることでも有名で、時々行き過ぎた世話なんじゃないかってことまでしている。

「うん、変な夢見たからかな? あんまり寝れなかったんだ。汗までかいちゃった」

「大変! お姉ちゃん、ちょっとおでこ貸してね……」


憂が唯の前髪を優しくかきあげ、額と額をこつんと重ねる。


「……ちょっと熱っぽいかな? 風邪だといけないから学校は休む?」

「このくらい大丈夫だよ。それにもう少しで学園祭だからね! ちゃんと練習しとかないと!」

意気込んでみせる唯に憂は少々の心配を覚えながらも笑顔で頷く。


「分かった、でも無理しちゃ駄目だからね? 少しでも具合悪いかなって思ったらすぐに私のとこに来てね」

「そこは保健室に行くよ憂」

「あっ……そっか」


小さく舌打ちが聞こえたような気がしたが、唯はそれを無視して着替えることにした。

宇宙を奔る一隻の海賊戦艦、『マザー・バンガード』。
それが『彼女』に与えられた名。
外観は旧時代の海賊船を思わせ、帆には旗印である『クロスボーン・バンガード』のエンブレムがビームによってあしらわれている。
そのブリッジでは一組の男女?が物憂げに宇宙を眺めていた。


「……」

「……後悔しているのか? 今や私達は立派な海賊。世間の評価は略奪・殺人も厭わない軍隊くずれの戦犯扱いだ」

「誰に認められる戦いじゃない……エリザベスもそれは分かって始めたことだろ」

最初に口を開いたのは男の方。
短くも切りそろえた前髪を無造作に垂らし、精悍な目つきを髪の間から覗かせている。
見た目の年齢はまだ若そうだが身に纏った雰囲気は歴戦の勇士そのものであった。


「違うんだ、そうじゃない」


言葉を返したのはエリザベスと呼ばれた女性。
長く伸ばした黒髪を後ろで束ね、男とは対照的に凛とした女の雰囲気を纏っていた。
歳もそう変わらず見える。


「私が不安なのは……お前のことだ。キンケドゥ」


『キンケドゥ』
そう呼ばれた男が少し驚いたように目を開き、エリザベスに視線を移す。

「この戦いを始め、みんなを巻き込んでしまったのは私だ。特にキンケドゥには……背負っても背負いきれない責任を負わせた」

「この罪はいつか必ず償わなきゃいけない、それは理解してるんだ! でも一つだけ心配なのは……その為にキンケドゥが自分で自分に無理させてないか……って」

「私は怖いんだ。キンケドゥがキンケドゥで有り続けることに」


エリザベスが目を潤ませる。
しかし決して涙は零さないようにしていた。
が、キンケドゥの答えは

「ばーか」


どんな言葉も受け入れる覚悟をしていたエリザベスはキンケドゥの一言に面食らう。


「……はっ?」

「馬鹿ってなんだ馬鹿って! わ、私がどれだけの思いで……」

「だから馬鹿と言ったんだ馬鹿」


言葉はおちゃらけているが、キンケドゥの表情は少しだけ怒りを露にしている。

「いまさらそんなことをどうこう言うほど私は人間出来ちゃいない!」

「私はお前が行くって言ったから私も来たんだ」


キンケドゥがエリザベスの肩をそっと抱き寄せる。


「私は私だ。その私が今は『キンケドゥ・ナウ』であるなら私はそれでしかいられない」

「けどな、今だけだ」

「……キンケドゥ?」

「分からなくていいさ。これは私のけじめ」


二人がそれ以上言葉を交わすことは無かった。

「……何をやってるの? あの二人」

「しーっ! 邪魔しちゃ駄目よキャサリン! 今凄くいいところなんだから!」

「わしにもあんな時代があったなぁ……ふっふっふ」



「「(聞こえてるんだけどな……)」」

艦内の自室でシャワーを浴び、「よっこいしょ」とソファーに寄りかかるキンケドゥ。
居住エリアでは常に弱重力が掛かっているため、宇宙空間であっても生活するぶんには地球にいるのとほぼ変わらない。

ミネラルウォーターを一口含み、透明なボトルの向こうを透かすように見つめる。
やや歪んで見える光景は先程のエリザベスの心情を表しているかにも思えた。


「エリザベスの奴……焦ってた」

「あんなこと言い出すのは決まって心が折れそうな時だ。昔からずーっと変わってない」

「……変わってないんだ。『エリザベス・ロナ』は」

ため息を吐き出し、キンケドゥは壁に飾っている学生時代の写真に目を向ける。
あの頃の二人の写真。
この時はエリザベスが『前』でキンケドゥが『後ろ』だった。


「……澪」


「よっ!」と跳ね上がるようにソファーから飛び降り、まるで何かを察知したかのようにキンケドゥはパイロットスーツへと着替え始める。
その数秒後、艦内には敵の接近を示すアラートが鳴り響いた。


「何か……新しい何かが私達にはきっと必要だ」

「……新しい『風』が」

ここまで。

K-ON! × クロスボーンガンダムです。

投稿ペースはまちまちになりますが宜しければ最後までお付き合いくださいませ。

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