こんばんは。
このスレはタイトル通りストパンこと「ストライクウィッチーズ」の二次創作SSスレです。
基本は土方×もっさん。
しかし安価でほかのウィッチ達との絡みも入れていきます。
土方についての公式設定はほとんどないのでこのスレでの土方はほとんどオリキャラです。
それを許容できる方のみご覧ください。
まさかの2スレ目突入に欠いてる本人が驚いてますw
それでは、このスレもよろしくお願いしますね。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1347892033
2スレおめでとう!
1乙!
早くもっさんを!あらん限りのもっさんを!
前スレへのリンク貼るべきだと思うの
貼っとく
前スレ
【ストパン】土方圭助の憂鬱【土方×もっさん】
tkこれはエロ有りなの?
無しでお願いします
>>8 えー
えー(´・ω・`)
こんばんはー。
今週分の投下に参りました。
皆様乙ありがとうございます。
>>7
スマヌ……スマヌ……私にはエロをかけるほどの技量はござらぬ……
それは506の基地で過ごす2日目の朝。
「おはよう、ロザリー」
「…………あ、美緒……おはよう」
廊下ですれ違ったグリュンネ少佐は、何故か疲れたような表情で坂本少佐の挨拶に答える声にも生気がない。
「何かあったのか?」
「うーん…………まぁ、色々とね」
そう言ってグリュンネ少佐は微笑んで見せるものの、疲労の色は隠しようがない。
まぁ、確かにここもいろいろと個性的な方ばかりだし、そんな方々をまとめるグリュンネ少佐にもいろいろと気を使うこともおありなのだろうか。
そんなとりとめのない考えは、不意に聞こえてきたけたたましい声により中断される。
振り返った先には黒田中尉の姿があった。
「隊長!ここにいらしたんですか!今日の夜のことで、先方から使者の方が…………ってあれ?坂本さんに圭助様。おはようございます!」
「黒田か。なんだかロザリーは朝から体調が悪いらしいが……」
「え?…………あー、それは、その」
黒田中尉には何か思い当るところがあったらしく、苦笑を浮かべる。
そんな黒田中尉に窘めるような視線を送るとグリュンネ少佐は取り繕ったような笑顔を向けてきた。
「ごめんなさいね。ちょっと急用が入っちゃったみたい。これで失礼するわ」
「あ、ああ…………」
「それじゃ」
戸惑う我々をその場に残し、グリュンネ少佐は早足で歩み去って行かれた。
「あ、そ、それじゃあ私も朝ごはんに」
「まぁ待て黒田。そう急ぐこともなかろう」
「うひぇっ!」
いち早く不穏な空気を察し、忍び足で去っていこうとする黒田中尉を坂本少佐は首に腕をまわして捕まえる。
「…………話がある」
「ワ、ワタシハナニモシリマセンヨ?」
「まぁそう言うな。士官食堂で好きなものをおごってやるぞ」
「うぅっ…………おごってやるってもともとタダじゃないですか」
「何か言ったか?」
「い、いえ何でもありません!」
「よし、それでは士官食堂に向かうぞ。土方もついて来い」
「は」
なぜか妙に嬉しそうな少佐の後について、我々は歩き出した。
「…………で、だ」
食事がひと段落すると坂本少佐は黒田中佐に正対する。
「先ほどのロザリーの様子、貴様には何か心当たりがあるようだったが」
「その…………」
一瞬言い淀むものの、少佐の真剣な様子にただの好奇心や野次馬根性ではないと察したのだろう。
ポツリポツリと言葉を選びながら話し出した内容は、以下のようなものであった。
「私たちノーブルウィッチーズは、隊員の全員がどこかの国の貴族の位をもっています。そうなると、必然的に…………望まぬ人付き合い、というのもこなさねばならないわけで」
そこまで言ったところで、坂本少尉がもうわかった、とばかりに続きを話し出す。
「……社交界、というやつか…………いろいろ面倒なのだろうな」
「ええ。グリュンネ隊長も、設立したばかりとはいえウィッチの集まる戦闘航空団の隊長ですからね。いろんなところからパーティだの舞踏会だの……そんな誘いが引きも切らなくて」
パーティに舞踏会か。
何とも我々には無縁すぎる単語に、改めてこの戦闘航空団の立場の難しさを思い知らされる。
ヴィスコンティ大尉の嘆きももっともなことと思えてきた。
「も、もちろん基本的にはそう言うのはお断りするか、代理で私たち下っ端が出たりしてるんですけど…………」
黒田家の本家跡取りたる自分を何のためらいもなく下っ端と言ってのける中尉に、妙な可笑しさを感じる。
「…………どうしましたか?圭助様」
「い、いえなんでも」
思わず吹き出しそうになり、黒田中尉に怪訝な視線を向けられてしまった。
表情を改めると、中尉に話の続きを促す。
「それでも、やっぱり何件かは隊長自身が出ないといけないのがあって…………」
「それが今日、という訳か」
「はい。ここら辺の最有力なお家らしいです。一回私も出席させていただきましたけど、もうなんだかお話の中みたいで、居心地が悪いなんてもんじゃなかったですよー」
「はは、貴様も貴族の端くれだろうに」
「こちとら泣く子も黙る貧乏分家の出身ですよ。社交界なんてお話の中でしか知らないとこに引っ張り出されたって…………ほとんど動物園のサルになった気分でしたよ。まぁ、ご飯は美味しかったですけど……」
「黒田」
「…………あ、ご、ごめんなさい!」
口の端からこぼれた涎を慌てて拭って中尉は話を続ける。
「それで、もう一つ。……隊長ってあの通りお綺麗な方でしょう?ああいう場所に出ると男の人が群がってくるわけですよ。こう、ぶわーって」
そう言って中尉は手を大きく広げる。
貴族の名だたる御曹司たちもこの方にかかれば砂糖にたかるアリと同じか。
何とも変わった方である。
「あんまりそっけなくもできないし、でもあんまり愛想よくすると勘違いされるし、引きつったような笑顔で応対する隊長をよく見てました」
なるほど。
確かにグリュンネ隊長ほどの方がパーティの場にいれば男どもは放っておくまい。
「…………」
「しょ、少佐?」
不意に横を見ると、少佐が不機嫌そうにこちらを睨んできている。
…………いかんいかん。
私は頭を振って埒もない想像を頭から追い出した。
「せめて、男の人同伴で行けたらそういう苦労もなくなるんでしょうけど、さすがにこの基地の隊員の方では先方が…………」
「まぁそうだろうな。先方が納得するほどの家の出身で、しかもこんな面倒事を引き受けてくれそうなお人よしか…………」
「はい。さすがにそんな都合のいい方なんてそうそういる訳…………」
そんな会話をしていた黒田中尉の視線が、なぜか私の方を向いて固定される。
中尉の表情が真剣なものから笑顔へと変わっていく。
幸か不幸か、それが意味することを理解できぬほど私は鈍感にできていなかった。
「い、いたーーーーーーーー!」
黒田中佐のうれしそうな歓声を聞きつつ、私は頭を抱えたくなる衝動を必死にこらえていた。
「と、いう訳でお願いしますね圭助様」
これ以上ないほどの笑顔で黒田中尉が言う。
「い、いやさすがに……私ごときでは」
「大丈夫ですよ!私みたいななんちゃって貴族でも普通に受け入れてもらえたんですから、正真正銘の名家出身の圭助様なら……ね、そう思いませんか坂本さん!」
「え?あ、あ、そうだな…………そう言うこともあるようなないような……気もするようなしないような…………」
「…………?もう、どっちなんですか坂本さん!はっきりしてください」
坂本少佐らしからぬ煮え切らない物言いに、黒田中尉が怒ったような口調になる。
「い、いや……さ、さすがにロザリーも、昨日会ったばかりの土方と一緒にそんな大事なパーティに出るというのは、抵抗があるかもしれないだろうし、何より土方をそんな風にその、アクセサリーのような扱いをするのは私としても納得しかねるというか何というか…………」
「あら、私がどうかしたの?」
「いや、だからロザリーと土方が今日のパーティに…………ってうわっ!」
不意に出現したグリュンネ少佐の姿に、少佐が驚いたように飛び退く。
「なんだか私の名前が聞こえたようだけど」
「あ、グリュンネ隊長いいところに!実は…………」
「あ、ちょっと待て黒田」
坂本少佐の制止も届かず、黒田中尉はグリュンネ少佐に事のあらましを話し出す。
「…………なるほど。土方くんと私が、ね」
「はいっ!いい考えだと思いませんか?」
「い、いやしかしだな、わ、私も土方も506にとっては部外者のようなものであって、先方が招いたのはロザリー一人である訳で、そんな簡単に…………」
「うん。まぁそうなんだけど……確かに男性同伴というのは悪い手段ではないわね……」
「でも……だな、先方にも都合とか体面とかそう言うものもあるだろうし、いきなリ男同伴で、などというのは失礼に当たりはすまいか」
「そうね…………」
少佐の言葉に、グリュンネ少佐はしばらく悩むように宙を見つめていたが、不意に手を一つ打つと、なぜか悪戯っぽい笑みで私と少佐を見つめてきた。
「じゃ、こうしましょう。美緒、貴女も土方くんと一緒に出席して」
「「…………へ?」」
私と坂本少佐の声が、綺麗に重なる。
数瞬の沈黙ののち、
「「えええええええーーーーーーー!!」」
驚きの叫びが朝まだ早い基地内にこだましたのであった。
短くて済みませぬ……
今日はここまでです。
506らしい話、というのを考えたらこういう話になりましたw
なかなか本編に戻れないなぁ…………
それでは。
また来週。
おっつー
乙!
実に自然な流れだなw
乙乙
来週が楽しみだー
こんな平和でいいのかねww
と思いつつ、これはこれで面白いので続き期待
続きはよ
はよ
乙!
エロは… ナシですか…
文章力あるからいけそうなのに…
>>25
sageなさい
俺達が読みたいSSじゃなくて>>1さんが書きたいSS書くのが普通だろうがww
セルフage
楽しみとか言われると嬉しい反面緊張しちゃうじゃないですかやだー。
何とか頑張って書いてます。
グリュンネ少佐が最初想定していたキャラからどんどん離れてきている今日この頃。
いったいどうなりたいんだ少佐は。
次話は土曜日に。
それではー。
こんばんは。
台風が近づいてるみたいで雨がひどいことになってます。
本日分の投下を開始します。
「……な、なんだか落ち着かんな」
「何言ってるの。堂々としてなさい美緒」
ここは北部ガリアの、とある貴族の館。
テーブルの上に乗り切れないほどに並べられた世界各国の料理、色とりどりの衣装に身を包んだ貴族の子女たち。
ここ一帯の最有力者、と言った黒田中尉の言葉は誇張ではなかったようで、506の基地が無機質な箱庭に見えるほどのきらびやかな世界がそこにはあった。
そして私の目の前には二人の女性がいる。
一人は第506戦闘航空団の名誉隊長、ロザリー・ド・エムリコート・ド・グリュンネ少佐。
ガリアの方らしい見事な金髪と透き通るような白い肌に、白のドレスがよく似合っている。
「ね、土方くんも綺麗だと思うでしょ?」
「う…………み、見るな土方!」
そう言いながら私の視線を避けるようにグリュンネ少佐の陰に隠れようとしておられるのは、坂本美緒少佐。
いつもと違い、その黒髪を頭の後ろでまとめており、その髪の色に合わせたかのような黒色のドレスをまとった姿はこれもまた言葉にできぬほどである。
始めてこの姿の少佐を見たときは、思わず数瞬呼吸を忘れたほどであった。
事実、周りの男たちの視線はグリュンネ少佐と同じくらい坂本少佐に向いており、それ自体は誇らしい事ではあるものの、少々複雑な気分である。
「は。よ、よくお似合いかと」
思わず言葉がどもる。
少佐の姿を正面から見られない自分が何とも情けない。
「土方くんもよく似合ってるわよ。さすがは名家の出身、と言ったところかしら?」
「…………恐縮です」
グリュンネ少佐に言われ、自分の格好を省みる。
洋装はどうも慣れないが、こういう場である以上仕方あるまい。
「ほら、美緒も。土方くんにお褒めの言葉でもかけてあげなさい」
「だ、だから押すなというに…………」
うろたえている坂本少佐を、グリュンネ少佐は強引に私の前へと引き立てる。
落ち着かなげに視線をさまよわせているその姿は、いつもの自信に満ちた少佐の姿からは想像もできないものであり、思わず「可愛い」などと場違いな感想を抱いてしまいそうになった。
数度深呼吸をして暴れまわる心を何とか落ち着かせ、少佐の姿を正面から見る。
扶桑の女性らしい見事な黒髪に、これもまた黒一色のドレスがミステリアスさを引き立たせていた。
「坂本さん、よくお似合いですよ。とてもお綺麗です」
しかし、私の言葉を聞いた少佐はいっそう顔を赤くして後ろを向いてしまわれた。
「ばっ、馬鹿者!き…………貴様はいつも女にそう言うことばかり言っておるのだろう!」
「あら、そんなことないわよ。それとも土方くんのいうことが信用できない?」
「……そう言う聞き方は卑怯だぞロザリー」
「ふふ、それでも『信用できない』とは言わないのね。妬けちゃうわ」
グリュンネ少佐はそう言って笑うと、坂本少佐の手を取る。
「ほら、機嫌直して。ちょっとからかいすぎたのは謝るけど、貴女が綺麗なのは本当よ。もっと自信を持ちなさいな」
「うぅ…………」
まだそわそわしてはいるものの、覚悟を決めたのか坂本少佐はやっと会場内へと視線を向ける。先ほどよりは緊張も和らいでいるようだ。
「しかし何というか、こんな戦時下に暢気なものだな」
「…………美緒。気持ちはわかるけど今夜はそう言うのは言いっこなし」
「分かっている。分かっているが……」
そう言いながらも少佐の表情は曇りがちだ。
確かにあちらこちらで物資が欠乏している戦時下においてこういった催しを開くことには私も思うところがないではない。
しかし同時に、こういった催しもまた必要なものであることも理解している。
暗くなりかけた雰囲気を払うように、グリュンネ少佐が小さく手を一つ打った。
「まぁ、貴女はそんな難しい事を気にしないで楽しみなさいな。…………それじゃ、ちょっと土方くんを借りるわよ」
「あ…………そ、そう……だな」
「そんな寂しそうな顔しないの。すぐ返してあげるから」
「べ、別にそんな顔など…………」
そう言う坂本少佐の表情はやはり寂しげで、思わず駆けよりそうになるのを、グリュンネ少佐にひきとめられる。
「こーら。土方くんは今は私のパートナーなの。ほかの女の人を見ちゃだめ」
「は、も、申し訳ありません」
「もう、正直なんだから。なんだか私が悪者みたいじゃない」
そう言ってグリュンネ少佐は私の頭を軽く小突く。
「それじゃ、行くわよ」
「は」
グリュンネ少佐が差し出した腕に、軽く腕をからめる。
考えてみれば女性とこういう場に出るというのも久しく無かったことで、今更のように緊張が腹の底からせりあがってきた。
「今頃緊張してきた?」
「は。恥ずかしながら」
「私もよ。男の人とこういう場に来るって初めてだし」
「そうなのですか?」
グリュンネ少佐の意外な言葉に驚く。
少佐ほどの方ならばこういう場は慣れたものだと思っていたのだが。
そんな私の反応に、少佐は少し不満そうに頬を膨らませる。
「あら、そんなに節操のない女に見えた?」
「そ、そうではないのですが…………」
「ふふ、ガリアの女はね、軽いように見えるけど、生涯の恋は一つだけ。一度思ったら一途なのよ」
そうなのだろうか。
私の知っているガリア人女性というとペリーヌさんしか思い浮かばない。
思わずペリーヌさんの顔を思い浮かべていると、不意に脇腹をつねられた。
「いたっ」
「貴方の今日のパートナーは私だって言ったでしょ?ほかの女の子のこと思い出すの禁止」
「……は」
…………なぜ分かったのか、などと無粋なことは思うまい。
「これはこれは、世に名高きグリュンネ少佐とお近づきになれるとは光栄です……お隣の方は、扶桑の?」
「ええ。私のような田舎者でも、素敵な男性に引き立てて頂ければ少しはましになるかと思いまして」
「ご謙遜も度が過ぎますぞ。この会場の中で、少佐ほど気品にあふれた方はおりません」
「まぁ、お世辞がお上手ですこと。先ほどあちらのご婦人にも同じことを仰っておられませんでした?」
目の前ではグリュンネ少佐が群がる男性たちを如才なくかわしている。
黒田中尉が言ったことは誇張ではなかった証に、グリュンネ少佐の周囲に入れからり立ち代わり色々な男性がやって来ては話していた。
中には私に対して穏やかならざる視線を向けてくる方もいる。
「それでは、連れを待たせておりますのでこれにて」
「あ、少佐殿、よければ私と…………」
「失礼いたします」
まだ何か言いたそうな男を笑顔で遮ると、少佐は私のほうに歩いて来た。
「…………よろしいのですか?」
「いいのよ。呼ばれた分の義理は果たしたから。それに、貴方を美緒に返してあげないといけないし」
そう言って少佐は壁際に目を向ける。
そこには、手持ち無沙汰な様子の坂本少佐がちらちらとこちらに視線を送ってきていた。
腕を組み、落ち着かなさ気に足を小刻みに踏み鳴らしているその様子に、周囲の男たちも近寄ろうとする気配すら見せず、広い会場の中でそこだけ妙な真空地帯を作り出している。
「……ね」
「……………お心づかい感謝します」
「ふふ……ま、でも、私にも少しぐらい役得がないとね」
「しょ、少佐?」
そう言いながらグリュンネ少佐は私の手を取った。
それが合図になったかのように、会場の一角に陣取っていたオーケストラが緩やかな曲を奏で始め、会場に散らばっていた男女たちがめいめいに相手を見つけては中央のスペースに集ってくる。
「どう?ここまで我慢した私へのご褒美に、一曲お願いできる?」
そう言いながら片目をつぶって私の手を引っぱっていく。
一瞬、坂本少佐の事が頭をよぎるが、今日のパートナーはグリュンネ少佐であることを思い出す。
ここでこの誘いを断るというのも無粋な話だ。
私は少佐の手を取ると、恭しく一礼した。
「それでは、不調法者ではありますがお相手を務めさせていただきます」
「ふふ。よろしくね、土方くん」
緩やかな3拍子。
その曲をバックにホールの中央で私の手を取り踊る少佐の姿は、お世辞抜きに美しいものであった。
周りの男たちから感嘆と嫉妬の混じった視線が降り注ぐ。
「さすが上手ね。これまで何人の女の子とこうして踊ってきたのかしら?」
「……少佐こそ、さすがにお上手ですね」
「ま、貴族の嗜みってやつよ」
不当な評価はあえて聞かなかったことにする。
不意に、少佐は私の方へ体をもたれさせるように預けてきた。
突然の急接近に、覚えず心臓が大きく一つ拍を撃つ。
「…………こ、こういうことは……その」
「あら、私じゃ役者不足?」
「そうではなく……」
「ほらまたよそ見しようとする……ダメよ。この曲が終わるまでは土方くんは私のパートナーなの」
「は、はっ」
思わず坂本少佐の方に視線を向けそうになったところを強引に引き戻される。
そんな私の様子に、さすがにグリュンネ少佐も苦笑を浮かべていた。
「私が目の前にいるのに、心は上の空?…………なんだか自信なくすなぁ」
「い、いえ!そんなことは……少佐は十分に魅力的であられます」
「ありがと。でもその前に『坂本さんの次に』って付くんでしょ?」
「…………」
「ふふ、嘘がつけないその性格、私は好きだけど…………ちょっと残酷ね」
「は?」
少佐の最後の方の言葉は、急に音量を増した音楽にかき消されて私の耳には届かなかった。
曲はさらに激しさを増し、フィナーレの近さを感じさせるものとなっている。
「もうすぐ終わりね」
「は。そのようで」
「ちょっと寂しいな…………」
そう言って私から視線をそらす少佐の横顔は、今まで楽しそうに私をからかっていた方とは同一人物とはとても思えないほどに儚げで、目を離すとそのままどこかに消えていきそうであった。
そしてやがて、幾許かの余韻を残して曲は終了する。
「…………」
「……少佐?」
曲が終わっても俯いたまま私の腕を離そうとしない少佐に、さすがに心配になって声をかける。
私が声をかけると、少佐は伏せていた視線を上げ、取り繕うように笑顔を向けてきた
「あ、ごめんね。私らしくもなく感傷的になってたみたい」
「お気分がすぐれないようでしたら……別室へお連れしますが」
「それは…………誘ってるの?」
「い、いえ、そのようなっ!」
「ふふ、冗談よ……そろそろ貴方のお姫様がお怒りみたいだし、優しい騎士さんを返してあげないとね」
そう言って少佐は私を強引に振り向かせる。
振り向いた先で、先ほどと同じ体勢でこちらを伺っている少佐の視線とぶつかった。
ポン、と背中を押される。
「ほら、何してるの。お姫様のもとに駆けつけるのは騎士さんの務めよ」
「…………本日はありがとうございました」
「何言ってるの。お礼を言うのは私の方よ」
そんなグリュンネ少佐の声を背中に聞きつつ、私は坂本少佐のもとにはせ参じるべく歩調を速めた。
以上です。
グリュンネ少佐もキャラが分からんので勝手にキャラ付してしまいましたw
本当はもっと天然お嬢様キャラにするつもりだったんですが……なんか妙なことにw
それでは。
また来週。
坂本さんが可愛すぎて死んだ
乙。
ちなみにこの時、坂本少佐は眼帯をしているのだろうか?
雰囲気からするとしていない感じではあるが……
乙。
あーさかもっさん…可愛いお
乙ー
眼帯はしてない方向でお願いします
セルフage
>>42
あまり考えてなかったけどしてない方がいいのでしてない方向でw
こんばんはー。
今週も投下しに来ました。
よろしくおねがいしますね。
(sakamoto's side)
「ふぅ…………」
目の前の光景を眺めながら、本日何度目かわからないため息をつく。
ロザリーに半ば無理やり連れて来られた貴族の館は、目にするもの、耳にすることすべてが私にとっては別世界のことのようであった。
世の中が大変な時によくもまぁ、と思わなくもないが、所詮外野に過ぎぬ私がいろいろ口をはさむことではないだろう。
…………それよりも、だ。
「土方め」
思わずつぶやく。
そう。
土方だ。
――――坂本さん、お似合いですよ、とてもお綺麗です。
奴から私の姿をそんな風に褒められたときは、正直顔から火が出るかと思ったほどである。
そう言う奴の姿は黒のタキシード。
憎たらしいほどに似合っていた。
ロザリーと並んで談笑している姿は、それこそそのまま一幅の絵画のモチーフになりそうなほどに似合っていた。
そんな私の気持ちは、ロザリーにはバレバレだったのだろうか。
「そんな寂しそうな顔しないの。すぐ返してあげるから」
ロザリーが笑いながらかけてきた言葉がよみがえる。
そ、そんな表情をした覚えはないのだが…………
第一踊りの作法すら知らぬ私をこんなところに連れてきてどうしようというのだ!
そんな私の声なき声は、この場のきらびやかな雰囲気では異質なものだったのだろう。
先ほどから私を避けるように足早に通り過ぎていく人々の姿ばかりが目に入る。
そしてロザリーが土方を伴って人々の談笑の輪の中に消えていってより数刻。
私は壁の花ならぬ壁の石像と化していた。
特に知り合いもおらず、また自分から積極的に知り合いを作ろうという気も(少なくともこの場では)起きない。
結局私にできるのは目の前にある各国の料理を次々と平らげることのみであった。
目の前では、土方に声をかけようとタイミングをうかがっているらしい娘たちが何人も目に入る。
まぁ…………別に何とも思わないが。
大体土方も無防備すぎる。
ああいう格好をすれば…………その、それなりに見られる外見になるというのを自覚して……っ!
あ、あの娘っ!
土方に声をかけようとしているではないか!
土方も笑顔で答えている場合ではなかろうに!
めし。
…………いかんいかん。
思わず力が入ってフォークをへし曲げてしまった。
周りにいた娘たちや一部の男たちが怯えたような声を発して私から視線をそらすのがわかる。
……だからこういう場は苦手なのだ。
土方の方に視線を向けると、先ほどの済まなそうに頭を下げている。
その土方の態度に、却って娘の方が恐縮したような表情で、土方から離れていった。
思わず全身から力が抜けていくのがわかる。
…………ま、まぁ、扶桑皇国軍人たるもの女などに現を抜かしていては本分を果たせぬからな。
あのように男に近づいて、重大な軍機を聞き出そうとするような諜報員の類かも知れないし、まぁ土方はよくやったと…………って言ったそばから別の娘が声をかけているではないか!
ぬぅ……今度は妙に積極的だな…………って!
な、何をしとるか!
あのように腕をからめて…………何を考えているのだ!
……結局。
その後も土方に声をかける娘は引きも切らず、私はそのたびに心を乱されることになるのだった。
(hijikata's side)
グリュンネ少佐に背中を押され、私は坂本少佐のもとにはせ参じるべく人の波に逆らうように壁際に向かっていた。
私の姿を認めた坂本少佐は一瞬嬉しそうな表情になるものの、数瞬後には不機嫌そうにあらぬ方を向いてしまわれる。
……これは、何とも。
少佐にご機嫌を直していただくのは相当に難しそうである。
「坂本さん」
「……」
案の定、私が声をかけても少佐はそっぽを向いたまま返事を返そうともしない。
「あの、その、申し訳ございません……」
「…………」
それでも少佐はこちらを向いてくださらない。
しかし、少しは気になるのか、視線だけをこちらに向けようとしては戻すということを繰り返している。
…………このまま睨み合っても埒があくまい。
そう思った私は乱れた心のまま自分でも信じられない行動をとってしまった。
ぐい。
「あ、ちょ、ちょっとまて……」
少佐の手を強引につかみ、強引に壁から引き離す。
後ろで坂本少佐が何か言うのが聞こえるが、かまわず手をつかんだまま歩き出した。
参加者たちはダンスのために部屋の中央に集まりつつあり、ちょうど人の流れとは反対に歩くことになる。
もう自分でもどこに向かっているのかわからなかったが、それでも坂本少佐の手は離すまいと、ただそれだけを気にかけて歩いた。
やがて広いバルコニーに出たところで、私は足を止めた。
「こ、この馬鹿者!」
「…………申し訳ありません」
やっと一息ついたらしい少佐が私にかけてきたのは非難の声であった。
無理もない。
私自身何故このような行動をとったのか自分でも不明瞭なのだから。
しかし何故か、私は自分の行動を後悔する気持ちだけは全く浮かんでこなかった。
「な、何を考えておるのだ貴様は!」
「申し訳ございません」
「謝罪の言葉はいい!……この、馬鹿者が」
「は」
「…………と思ったが」
不意に少佐の表情が緩む。
その横顔はあまりにも綺麗で、思わず息をのんだ私は数瞬の間呼吸を忘れて見入ってしまった。
「あの場の雰囲気にいたたまれなくなっていたのも確かでな。やり方に問題はあったが連れ出してくれて……その、感謝している」
「は」
そう言うと少佐はバルコニーの端まで歩いていく。
後ろについてそばまで行くと、青白い月明りに照らされたガリアの広大な大地が眼下に広がっているのが目に入った。
「いい風だな」
「は」
「…………さっきから貴様はそればかりだな。こんなところに連れ出しておいて」
「も、申し訳ありません」
私の慌てようがおかしかったのか、少佐は少し笑う。
バルコニーの手すりに体を預け、吹く風に身を任せるその姿は背景も相まって、一幅の宗教画のように神々しかった。
「正直言うとな」
「は」
「……貴様があの場から連れ出してくれたことには…………その、少し感謝しているのだ」
そう言う少佐はこちらに視線を向けてはくださらないが、おそらく私と同じように朱に染まっていることだろう。
「どうもこの場の空気にはなじめそうにない。折角連れてきてくれた貴様やロザリーには悪いがな」
「いえ、こちらこそ少佐の意思を無視してこのようなところにお連れしたことには申し訳なく思っております。ですが」
「ですが…………何だ?」
そう問いかけてくる少佐の表情は周りが暗い事もあってよく分からない。
この非日常的な空間にあてられたのだろうか。
次の瞬間、私は普段ならば決して口にしないであろうことを口走っていた。
「私は嬉しいです。……坂本さんと来ることができて」
「…………っ!」
私の言葉に、坂本さんがあらぬ方に視線を向けるのがわかる。
私自身も言ってしまった後に自分の発言に自分で驚いていた。
坂本さんの方に視線を向けることができない。
「…………」
「…………」
お互いに沈黙する。
すぐ近くのホールで演奏されているオーケストラの演奏が、はるか遠くでなっているように聞こえた。
「土方…………」
坂本少佐が私の方へと振り返る。
その表情は何かを期待しているかのように、上気しているように見えた。
私以外の何者かの意思に突き動かされるように、私は坂本さんの方へと手を伸ばす。
ウゥーーーーーッ!
その瞬間であった。
夜の静寂を切り裂くようにサイレンの音が響き渡る。
少佐の表情が一瞬で引き締まるのが分かった。
「ネウロイか!」
「美緒!土方くん!」
坂本少佐のつぶやきが合図となったかのようにホールの方からグリュンネ少佐がかけてくる。
「ネウロイだな?」
「ええ。ヴィスコンティ大尉たちがいるから大丈夫だとは思うけど、土方くん、申し訳ないけどすぐに車を出して!」
「は」
少佐に言われるまでもなく、私は駆け出していた。
ということで今回はここまで。
うーむ……自分でも迷走しているのがわかるww
何とか立て直していきたいところ。
それでは。
また来週です。
そりゃ不自然だからさ
不自然でもなんでもいい
坂本さんが可愛ければそれでいい
私も同感だ。
一番はもっさんDA☆
可愛いいぃぃぃぃ!!
文を直視できない!
言う程不自然か?
おつおつ
なんか中途半端で途切れてる?
しかしもっさんはかわいいなあ
こんばんは。
ちょっと遅れて申し訳ありません。
今週分の投下に参りました。
「…………そう。よくやってくれたわ。とりあえずは警戒体制のままで。戦いの後で疲れてると思うけど、貴女とアイザックさん、黒田さんの3人で私が帰るまで哨戒だけは怠らないで」
それだけ言うとグリュンネ少佐は通信機の受話器を置く。
バックミラーで確認したその表情は相変わらず険しいものの、幾分かほっとしたような色が含まれているのは通信の内容が朗報に類するものであったということなのだろう。
「ネウロイは?」
「今回は小型のものだったらしいわ。ヴィスコンティ大尉が臨時に指揮をとって撃破してくれたようよ」
「…………そうか。まずは一安心といったところか」
「ええ。ヴィスコンティ大尉がいれば安心だわ」
そう言ってグリュンネ少佐は初めて表情を緩める。
突然の警報で少佐も緊張し通しだったのであろう。
「でも、できるだけ早く基地に戻りたいわ。土方くん、申し訳ないけどできるだけ急いでくれる?」
「は」
少佐の言葉に、私はアクセルをさらに踏み込んだ。
「よ、お帰り」
「ごめんなさいね。まさか私の不在時に来るんなんて」
「全くだ。侘びは来週の一日休暇でいいぜ」
「…………考えとくわ」
所変わって、506の司令官室にてヴィスコンティ大尉より報告を受け取ったグリュンネ少佐は大尉の言葉に笑顔で返事を返すだけの余裕を取り戻していた。
「隊長も、もっとゆっくりしてきてもよかったのに」
「そうですよ!私たち3人にどーんとおまかせください!」
「……慌てるあまり発進シークエンス失敗して涙目になってたのは誰だっけ」
「そ、それは言わないでくださいよぉ」
バーガンデール……もとい、アイザック少尉と黒田中尉もリラックスした雰囲気である。
人数は少ないが練度はかなりのものであるようだ。
ふと、黒田中尉が視線をこちらに向けてきた。
「圭助様もお疲れ様でした。…………で、どうでしたか?」
「え……と、正直私ごときが何かのお役にたてたとは思えないのですが、それでも多くのことを学ぶことが…………」
「ああ、そーゆーのじゃなくて」
「はい?」
私の怪訝そうな顔に、中尉は口の端を釣り上げてにやり、としか表現しようのない表情で笑う。
「坂本さんのパーティドレス姿はどうでしたか?」
「「…………っ!!」」
中尉の言葉に、テラスでの出来事を思い出して私と少佐の顔が赤くなる。
あの時、警報によって中断を強いられなければ私は何をしていたのだろうか。
我ながらあの時のことを思い出すと顔から火が出る思いである。
「そ、そんなことよりまだネウロイの脅威は去っていないのだぞ!」
「あ、話を逸らした」
「黒田っ!」
「ごめんなさーい!」
そう言いながら黒田中尉が私の後ろに隠れるように走り込んで来た。
…………こういう雰囲気というのはどこでも同じなのだな、と思うと何故か安心する自分がいる。
まぁそのネタに自分がなるのは遠慮したいところだが。
「とりあえず今日は遅くまでお疲れ様。あとのことは私がやっておくからみんなは休んでいいわよ」
「はーい」
「了解」
「うっし」
グリュンネ少佐の言葉に、三者三様の言葉を返して黒田中尉達が寝室へと引き上げていく。
やがて、司令室に残されたのはグリュンネ少佐と坂本少佐、そして私だけとなった。
三人だけになると、グリュンネ少佐は坂本少佐の方を振り返る。
「美緒、貴女も休んでいいわよ。疲れたでしょう?」
「…………ああ、もう二度と行かないからな」
「あら、でも土方くんはまんざらでもなかったんじゃない?」
そう言いながらグリュンネ少佐は私の方に悪戯っぽい笑みを向けてきた。
「美緒のドレス姿に見とれてたじゃない。すぐそばに私がいるのに、私の方は全然見てくれないんだもん。私だって土方くんのためにおしゃれしたのに」
「……土方?」
坂本少佐が、怒っているのか照れているのか今ひとつ不明な表情を向けてくる。
そんな表情をされると、こちらも表情の選択に困るというものだ。
「ふふ、可愛いわね」
そんな空気の中、グリュンネ少佐がつぶやく。
何ともマイペースな方である。貴族らしい大らかさ、というべきか。
「じゃ、今日はこれで解散ね。明日は多少寝坊しても許してあげるわ」
「……ふん。寝坊などするか」
「は。それではお休みなさいませ」
グリュンネ少佐の声を背に、私と少佐は司令室を後にした。
「……坂本さん」
部屋へ帰る途中の廊下で、前を歩く坂本少佐にそう声をかける。
「土方。今日はご苦労だったな」
「いえ、少佐こそ…………」
「ふ……今日ばかりは強がれそうにないな。正直二度と行きたくない」
そう苦笑しながら肩を揉みほぐしている。
「宮藤を連れてきたらどんな反応をするか見ものだったな。……ドレスの裾を踏んづけて転ぶ光景しか思い浮かばないが」
「ふふ……そうですね」
ありありとその光景が想像できて、思わず笑ってしまう。
しかし、少佐の次の言葉に私の笑顔は固まることとなった。
「まぁ…………もっとも、貴様はそれなりに上手くやっていたようだったが。貴様のもとに列をなしている娘たちの姿はなかなか見ものだったぞ」
あ、あの様子を見られていたか………
坂本少佐の表情に、背すじに冷たい汗が一つ流れ落ちるのがわかる。
「い、いえ……その、ここでは扶桑の男など珍しいのでしょう」
「ふん。だらしなく鼻の下を伸ばしおって。扶桑男児の名が泣くぞ」
「も、申し訳ございませんでした」
何故か訳もなく謝ってしまう。
顔を上げると、いつのまにか少佐が振り返ってこちらを見ていた。
しかし、その表情はいつもの少佐らしくなくどこか落ち着かなさ気で、しきりに髪をいじったり視線を中空にさまよわせたりしている。
やがて何度か躊躇ったように口を開閉したのち、意を決したように言葉を投げてきた。
「…………その、だな」
「は」
「これは特に意味があって聞くわけではないのだが、その、だな、」
「は」
「あの時、貴様に群がってきた娘の中に、だな、貴様から見て、その、いいと思えるような娘など…………いたか?」
「…………は、はい?」
あまりの意外すぎる言葉に、一瞬時間が静止したかのような錯覚を覚える。
怪訝そうなわたしの態度に、少佐は焦ったようにものすごい勢いで言葉を続ける。
「だ、だからだ!その、じょ、上官として部下の人間関係を把握しておくのも務めだということだ!どうなんだ!いずれ劣らぬ美しい娘たちだったではないか!だ、誰か一人でも、その、こ、心を動かされたりは…………」
そこまで一息で言い切ると坂本少佐は沈黙する。
というかものすごく真剣な顔で私の返事を待っていた。
正直、私の答えなど決まっているのだが、あまりに少佐の表情が真剣なのでそれに飲み込まれるように私の表情も硬くなる。
「坂本さん」
「……なんだ」
「心配して下さるのはありがたいのですが、一度会っただけの女性に心を動かされるほど節操のない男ではありません」
「…………そうか」
坂本少佐の表情が心なしかゆるんだように見えるのは私の願望が投影された故の事なのだろうか。
「は。それに」
「それに、何だ?」
再び少佐の表情が先ほどとは違った様子でやや緊張するのがわかる。
正直、この先の言葉を言うのはかなり恥ずかしいが、それでもやはり私の正直な言葉を聞いて頂きたい。
私はゆっくりと少佐の方を振り返り、口を開いた。
「あの場に坂本さんより魅力的な女性などおられませんでした」
「…………」
坂本少佐はしばらく私の言葉の意味を咀嚼するように沈黙していたが、意味を理解したのだろう、弱弱しい月明りでもその顔が紅潮していくのがわかる。
そして私の表情もそうなのだろう。
「ば、馬鹿者!貴様はそう言うことを軽々しく言うものではない!」
「いえ、軽々しく言ったつもりは」
「なお悪いわ馬鹿者が!」
そう言うと勢いよく私に背を向け、足音を高く響かせながら廊下を歩きだしたのであった。
そしてそれから、瞬く間に一週間ほどは過ぎ去り、我々が501基地に帰還する日が来た。
「じゃ、二人とも元気でね」
「うむ。こちらこそ世話になった」
「色々学ぶことができてありがたかったわ」
「こちらこそ学ばせてもらった」
グリュンネ少佐以下4名のウィッチの皆様が総出で門まで見送ってくださっている。
「ヴィスコンティ、貴様なら良いウィッチになれる。精進を怠らぬことだ」
「ああ。ありがとな」
顔合わせを兼ねて行われた模擬空戦で坂本少佐に敗れたヴィスコンティ大尉は、それから毎日のように少佐とともに戦闘訓練を繰り返し、かなりの自信をつけられたようだ。
「さよなら、土方クン。あんまり話せなかったのが残念だよ。またいつでも遊びに来てね」
「は」
「圭助様ぁ……私のこと、もう忘れないでくださいねぇ…………ぐすっ」
「わ、分かっております」
アイザックさんに関してはあまりお話をする機会に恵まれなかったのが残念ではあるが、それでも坂本少佐の存在には少なからず刺激を受けたようである。
そして黒田中尉。
基地到着の頃から我々が一番お世話になったこの方は、先ほどからずっと同じことばかりを繰り返しておられる。
しかし、その、良い意味で貴族らしからぬ物腰は、きっとこの航空団に良い風をもたらしてくれるだろう。
何故か確信をもってそう思うことができた。
「名残は尽きないけど……そろそろお別れね…………まぁ今生の別れってわけでもないし、気楽にいきましょう」
「ふふ、そうだな」
最後にグリュンネ少佐と固く握手を交わすと、坂本少佐は助手席へと乗り込んできた。
「さよなら」
「じゃーな」
「ばいばい」
「ぐすっ…………お元気で」
そんな見送りの言葉を後ろに聞きながら、私はアクセルを踏み込んだ。
以上です。
506編、これ以上続けてもグダグダになりそうだったので強引でしたが無理やり終わらせましたw
話の流れが強引に思えた方もいらっしゃることと思います。
それは完全に私の技量不足です。
それでは。
501に帰って次は5話の「私のロマーニャ」編です。
まだかな…(・ω・`)ショボーン
…土方はよくわかっている。
やはり一番はさかもっさんDA☆
なんでこの人達まだくっついてないんだろうと思ったが、そのもどかしさがたまらない
二人ともかわええのう(*´ω`*)
「妙に懐かしく感じるな」
「は」
基地の廊下を歩きながら坂本少佐の言葉にうなずく。
501の基地に帰還したその日の夜。
ほんの2週間ほど留守にしただけなのだが妙に懐かしい感覚がする。
「何も今日無理矢理に見回りをせんでもよかったのだがな。まぁこっちに帰ってきた儀式みたいなものだ」
そう言って少佐は笑う。
その気持ちはわかる。
この基地で暮らした期間というのもそれほど長くはないはずなのだが、それでもここに来ると「帰ってきた」という感覚にさせられた。
「さて、今日は疲れてもおるだろうし早めに切り上げるぞ。明日は鍛錬だ。つきあえ」
「は」
「うむ」
帰って早々鍛錬とは。
相変わらず熱心な方である。
機嫌がよさそうに歩調を速めた少佐の後に従って廊下を歩く。
夜は、まだまだ長そうだ。
というわけで久しぶりの501日常安価です。
対象になるのははミーナさんじゅうきゅうさい、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、エイラさん、サーニャちゃん、ペリーヌさん、リーネちゃん、芳佳、もっさん、ハインリーケ姫の12名。
安価ゾーンはここから10レス下の>>87まで。
最もたくさん名前の登場した方が安価ということにします。
同一IDによる複数投票は1票とみなし、同票が複数あった場合は最初にその数に達した方を安価達成とします。
>>87までいかなくても明日の夕方ごろに締め切ります。
それでは。
今週末はとりあえずこの安価番外編でお茶を濁させてくださいw
本編はちゃんと進めますので。
もっさん
そりゃハインリーケ様でんがな
リーネ
姫様
ハルトマン
芳佳
シャーリーさん
僕はリネットビショップちゃん!
エイラ
えーりか
姫。
見事にばらけましたがハインリーケ姫ですね。
了解です。
では今週末に。
同数の場合は先に貯まった方、でしたな
リーネ派としては残念っ!
まだかなまだかな
…待ち遠しいとはこのことだな…
遅れてすみませぬ。
こんな時間になりましたが投下させていただきますねー。
では姫様番外編、スタートです。
「……ん?」
前方に黒い人影を見かけた坂本少佐が立ち止まる。
向こうもこちらに気付いたようで、声をかけてきた。
「そこにおるのは……坂本圭助かや?」
「ウィトゲンシュタイン少佐」
暗闇の中から月明りの元へと歩み出てきたのは、ウィトゲンシュタイン少佐であった。
…………人の名前を勝手にくっつけて妙な略し方をせんでいただきたい。
少佐は私と坂本少佐の姿を認めると、途端に口元に笑いをひらめかせる。
「ふむ……セダンから帰ってきたと思ったらその日にもう逢引かや?しばらく見ぬうちにずいぶん仲良くなったようじゃの」
「な…………ばっ馬鹿者!これは見回りというかその……とにかく貴様が想像しているようなものではない!」
「全く……妾があれだけアピールしても何の反応もしなかったというのに…………」
「しょ、少佐……ですからそういうことは…………」
そう言いながらウィトゲンシュタイン少佐が私の傍へと歩み寄って来る。
「良いではないか。同じ基地に住む者同士、仲良くするのは悪い事ではあるまい」
「…………前から思っていたが貴様は少し節度というものをわきまえたほうが良くはないか」
「節度……?別に圭助は貴様の恋人というわけではあるまいに」
ウィトゲンシュタイン少佐の言葉に、坂本少佐が覿面に顔を赤くするのがわかる。
「こ…………な、何ということを言うのだ貴様!私と土方が、その、こ、こい…………」
うろたえる坂本少佐を見てウィトゲンシュタイン少佐はさらに笑みを深くする。
「と、ところで少佐はなぜこのような時間に?」
このままウィトゲンシュタイン少佐に話をつづけさせれば空気がさらに悪くなりそうである。
私は何とか話題の方向転換を図るべく無理矢理に口をはさむことに成功した。
ウィトゲンシュタイン少佐が私の方を振り返る。
「ん?ああ、妾はオラーシャの娘と夜間哨戒から帰ってきたところよ。ネウロイは我らが天にあるも、なべてこの世は事もなし、じゃ」
オラーシャの娘とはリトヴャク中尉の事であろう。
「ならばこんなところで油を売っとらんでさっさと帰って寝たらどうだ」
「まぁそう邪険にせずともよかろう。折角圭助とも会えたのだしな」
そう言いながら少佐は私の腕をつかんでくる。
上目づかいでこちらの顔を覗き込んでくるその姿には、抗いがたいものがあった。
「ああ、そういえばロザリーより連絡があったぞ……圭助、黒田と何やら因縁があったようではないか」
「は、まぁそれは…………」
「扶桑の娘がいるとは言ったが、まさかそのような因縁もちとは思わなんだわ。よくよくウィッチどもと妙な因縁を作る奴よの貴様も」
少佐の言葉に私が返答に困っていると、少佐は強引に私の腕を引き寄せる。
「ああ、少し圭助を借りるぞ」
「あ、おい、なにを…………」
「なーに、すぐ返す。ほんの30分ほどじゃ」
そのままウィトゲンシュタイン少佐はあっけにとられる坂本少佐を置いて、私を引っ張って行った。
そしてそのまま引っ張られるように歩くこと数分。
中庭にある小さなあずま屋へとたどり着いたところで、少佐はやっと解放して下さった。
「あ、あの少佐……」
「ふむ、良い月じゃの」
そう言いながら少佐は空で青白い光を放つ月を見上げる。
確かに本日の月はほぼ満月に近く非常に美しかった。
そしてその月明りの元微笑を浮かべつつこちらを見つめる少佐の姿もまた美しいものであり、私は思わず目をそらす。
「……どうした圭助?妾に見とれておったか?」
「…………」
はいともいいえとも答えづらく、沈黙した私に少佐は気分を害した様子もなくこちらに視線を送ってきている。
そんな沈黙が続いたのは数秒のことであっただろう。
再び少佐が口を開く。
「……のう、圭助よ」
しかし、少佐の声は今までのからかう様な口調とは一転して、こちらに有無を言わせない迫力を含んだものであった。
思わずその空気に圧倒されるように、開きかけた口を閉じる。
「貴様の目から見て、我らが506はどうであった?……妾に遠慮はいらん。思ったままを述べよ」
「少佐…………」
気が付くと少佐は私の目の前数センチのところに立っており、その薄碧色の瞳で私の目をまっすぐに覗き込んできていた。
少し手を動かせば、その体に触れられそうな位置に立つ少佐の姿に思わず心臓の鼓動が早まる。
しかし、少佐のまとう雰囲気はそう言った甘ったるい雰囲気とは対極に位置していた。
…………これはいい加減な答えは許されない。
そう思い直した私は、少し頭の中で考えをまとめると言葉を選ぶようにして答えた。
「正直申しまして、危ういな、と」
「…………続けよ」
私の言葉に少佐は一瞬眉を逆立てるものの、すぐに平静な表情に戻る。
「は。もちろん506設立の経緯については聞き及んでおりますが、あまりに色々なものに縛られ過ぎている。私の出席したパーティなどもその一例でしょう。もちろんそう言うものがまったくの無駄だというつもりはありませんが、それでも結局グリュンネ少佐がパーティの出席中にネウロイが来襲し、ヴィスコンティ大尉が臨時で指揮を執ることになりました」
「ふむ。それは聞いている」
「そのヴィスコンティ大尉も言っておられました。故郷のロマーニャが侵略されているのに自由に動けないこの身が恨めしい、と」
「ふむ…………あのヴィスコンティがのう……貴様、相変わらず女の扱いには手馴れておるの」
再び妙な方向に脱線し始めたのを察し、私はひとつ咳払いをすると話を続ける。
「もちろんグリュンネ少佐やヴィスコンティ大尉が悪いわけではない。いえ、誰が悪いというわけでもない。あの貴族の方々だってネウロイの標的になれば明日をも知れぬ身です。ウィッチの方々とつながりを持ちたいというのは自然な感情でしょう」
「…………」
沈黙する少佐。
私は言葉を続けた。
「だからこそ、ウィッチの方々は彼らを安心させるだけの実績を持たねばならない。しかし設立間もない506にはそれがない。少々不安に思われているところもあるのでしょう」
「…………む」
「正直、それは時間が解決してくれるとしか私には申し上げようがありません。当たり障りのない言葉で申し訳ありませんが」
私の言葉を少佐は真剣に聞いていたが、やがておかしそうに小さく笑いを漏らした。
「くく、正直に言うてくれたものよ」
「も、申し訳ありません……」
「なに、言ってくれてよかった。…………それで坂本よ、何か補足することはあるか?」
その言葉に、物陰から呆れたような表情で坂本少佐が登場する。
「気づいていたか」
「当たり前じゃ。あんなに気配をまき散らしおって」
「…………ふん。いきなり人の従兵を連れ去っておいてずいぶんな言い種だな」
「貴様がいれば圭助は遠慮していただろう」
そう言いながらウィトゲンシュタイン少佐は私に視線を向けてくる。
確かに少佐といた時にあの質問を投げられていたら、私は少佐に遠慮して口を閉ざしていただろう。
「それで、問題点は見つかったか?」
「まぁな。分かってはいたことであったが……な」
さすがにその言葉を発した時のウィトゲンシュタイン少佐の表情は硬い。
「まぁしかし圭助の率直な意見を聞けて良かった。我々とて統合戦闘航空団の一角じゃ。いつまでも無様をさらすわけにはいかぬでな」
「それはよかった」
「まぁ、それはそれとして…………」
そう言うとウィトゲンシュタイン少佐は再び雰囲気を変え、からかう様な笑みを浮かべて私の腕を取った。
「圭助よ、どうじゃこのまま私の部屋に来ぬか」
横から再び坂本少佐が割り込んでくる。
「……ばっ、な、何をいきなり言い出すか!」
「妾は本気じゃが」
「なお悪いわ!」
「ふふ、まぁ今宵はそう言う雰囲気でもないか」
坂本少佐の剣幕に、ウィトゲンシュタイン少佐は微笑を浮かべつつ私から離れた。
「じゃがの圭助」
「…………は」
「いつでも部屋に来てくれてよいからな」
「もういいから部屋に帰れ!」
「分かった分かった。ではの」
そう言いながらウィトゲンシュタイン少佐は現れた時と同じように廊下の暗闇へと消えていった。
そして再び、私と坂本少佐だけが残される。
ウィトゲンシュタイン少佐の姿が完全に見えなくなったところで、坂本少佐は大きく息をついた。
「…………全く」
「あの、坂本さん……」
「行くぞ土方」
「さかも」
「いいから見回りをつづけるぞ」
そう言いながら有無を言わせず先に立って歩いていく少佐に、私は黙って従うしかできなかった。
ということでここまで。
ちょっと姫様の性格が変わっちゃいましたかねw
でも、原作設定としてはこっちに近いと思います。
それでは。
こんどこそ5話の続きを進めたいと思います。
乙!
素直に文章上手いなーと思った
坂本さんの可愛さに気を取られてたけど、これ時間をかけて本気で書いたら、そうとう上手い文章を書けるんじゃないだろうか
あぁ…土方よ…一番ふつくしいのは
坂本だということに気付け!
とっくに気づいてるがねww
昔はこういうポジションってのは女の立ち位置と決まっていたものだが、今のはみんな男主人公になっちまってる
私は、ただXX様のおそばにお仕えしていればそれで十分幸せですのよ、ってな具合にな
それを男に置き換えたわけだが、最初のウチはそれなりにナヨナヨした男にも新鮮みがあって面白かったものだが
今じゃそればっかだもの
いい加減飽きるわ
で、この作品もそうなのだが、始めてしまったものは仕方がないもの、最後までしっかり初心を貫いて書き上げて
欲しいものだわ
セルフage
皆さん色々感想を言っていただいて励みになります。
ありがとうございます。
>>106
最近の流行ですね。
「わがまま女王様気質の女の子とそれに振り回されるヘタレ男」という構図。
ハルヒからでしょうかね。
土方はそういうテンプレっぽい主人公とは一線を画したいと思っていたのでお言葉ありがたいです。
上手く描けているかはわかりませんが。
坂本さんは別にわがまま女王様気質じゃないし、土方君もナヨナヨはしてないと思うの
ヘタレというか、恐れ多くて手が出せない、というイメージ
飽きるってんなら勝手に飽きてろよw
少なくともそれを書き込む必要はどこにもないわ
何様のつもりだよ気持ちわりぃな。飽きるとかいうんなら黙ってスレ閉じてろよ。>>1さん続き期待してます
うむ、気付いていたな、すまん。
飽きるとか…そんなら帰ってくださいね☆ニパー
でも私も坂本さんが最終的に恋人になることを望む
まぁ、それまでの流れもいっぱいあって楽しいからいいけどね!
そうカリカリすんな
まったりしようぜ!
俺は恋人になるまでの過程が好きだぜ
恋愛経験皆無の女上官と、尊敬するあまりに手を握ることすら不遜と思ってそうな男部下が、お互い手を出せずに悶々としてるのが良いんじゃないか
見ててもどかしくなるような関係が大好きです
おおう!
<<112 いいこと言うね!
こんばんは。
今週も投下しにやってまいりました。
楽しみにしてると言ってくださった方、ありがとうございます。
それでは。
今回から原作第5話「私のロマーニャ」に突入です。
「あれ?」
いつものように厨房で夕食の支度をしていた宮藤さんが頓狂な声を上げる。
「どうしました?」
「お米が……なくなっちゃったみたいです」
そう言いながら宮藤さんは手に持った袋の口を開けて見せて下さった。
……確かにその中には一粒の米も見当たらない。
「扶桑料理が評判いいからって作りすぎちゃいましたか……」
「うぅ……ごめんなさい」
申し訳なさそうに肩を落とす宮藤さん。
ここ欧州では米はそれほどメジャーな食材ではなくそれほど備蓄もなかったところに、厨房に主に立つのが宮藤さんと私と、ともに扶桑の人間であったことが災いしたようだ。
我ながらなんとも迂闊であった。
ちょうどそこを通りかかった坂本少佐に、宮藤さんは縋りつくように声をかける。
「坂本さーん!お米なくなっちゃったみたいですー!」
「何?…………ああ、そうか貴様も土方も扶桑料理が得意だったな」
一瞬驚いたような顔をした坂本少佐だが、すぐに我々と同じ結論に達したようだ。
「うむ……しかし確かに…………全員が一度に揃うなどとは想定していなかったしな」
「なるほど」
坂本少佐の言葉にうなずく。
確かに世界中に散らばっていた501のウィッチ達があの時アドリア海で一挙に全員集合するなどだれも考えないであろう。
色々な意味で規格外な方たちが集まっていると改めて実感させられる。
「どうしましょう?」
「ちょうどいいわ。ほかに色々揃えたい物もあるし、一度街に買い出しに行ってもらいましょう」
宮藤さんの言葉に横から顔を出したのはヴィルケ中佐が答える。
「ということで、臨時の補給を実施します」
翌日の朝、ブリーフィングルームでヴィルケ中佐が説明をしている。
「大型トラックを運転できるシャーリーさん、それと、ローマに土地勘のあるルッキーニ少尉の二人にこの任務はお願いします」
「「了解!!」」
「よっしゃ!久しぶりの運転だ!」
「やたーーー!ローマ!ローマ!」
ヴィルケ中佐の言葉に二人が抱き合って喜ぶ。
いつネウロイの襲撃があるかわからない状況の中、簡単に基地を離れることもできないウィッチの方々にとってこういう任務は数少ない息抜きの機会となるのだろう。
ルッキーニ少尉などは飛び跳ねて喜んでいる。
「ほかに、宮藤さんとリーネさんも同行します」
しかし、指名されたビショップ軍曹の反応は意外なものであった。
「あの…………やっぱり私は待機で」
「えー!どうしたのリーネちゃん」
おずおずと申し出たビショップ曹長に宮藤さんが意外そうな顔で答える。
確かこの任務が決まった当初は顔を輝かせていたはずだが…………
宮藤さんもどこかがっかりしたような表情になっている。
「そう……でもさすがに3人じゃ大変でしょうし…………」
「じゃさ」
「うわっ!」
ヴィルケ中佐が考え込む。
…………と、不意に横合いから首根っこをつかまれた。
「土方の兄さん連れてっていいかな。やっぱり男手はあったほうがいいしさ」
私の首に手をまわしつつヴィルケ中佐にそう具申しているのはシャーリーさんだった。
「けーすけ兄ちゃん!一緒に買い物行こうよ」
ルッキーニ少尉も甘えるように私のシャツの裾をつかんでくる。
考え込んでいたヴィルケ中佐がこちらに視線を向けてきた。
「ふむ……そうね。じゃ土方兵曹。貴方もシャーリーさんたちに同行してちょうだい」
「は」
ヴィルケ中佐の言葉に敬礼を返す。
こういう場面でしかお役に立てないのであればむしろ望むところだ。
「よろしくな、兄さん」
「やたー!兄ちゃんと買い物―!」
「私も嬉しいですよ」
シャーリーさん、ルッキーニ少尉、宮藤さんの3名もそれぞれの表現で喜んでくださっている。
「それじゃ、何かあったらシャーリーさんの指示に従ってね」
「は」
「それじゃ、何か欲しいものがある人は言ってください」
「欲しいものか…………」
ヴィルケ中佐の言葉に最初に反応したのは意外なことに坂本少佐であった。
坂本少佐の欲しいものか…………プレゼントすれば喜んでいただけるであろうか。
……いかんいかん。
これは任務であった。
「新しい訓練器具とか……」
しかし続いて出てきたのは何とも坂本少佐らしいお言葉であった。
苦笑気味にミーナ中佐がツッコミを入れる。
「あのねぇ……そう言うのじゃなくてみんなの休養に必要なものを言ってちょうだい」
そんなヴィルケ中佐の声にビショップ曹長がおずおずと手を上げる。
「あ、あの……私、紅茶が欲しいです」
ブリタニアの方らしい意見に、初めてヴィルケ中佐の表情が綻ぶ。
「そうね。ティータイムは必要だわ。じゃ、私はラジオをお願いしようかしら」
「カールスラント製の立派な通信機があるじゃないか」
「そう言うのじゃなくて、この部屋に置いてみんなで音楽やニュースを聞くためのラジオよ」
相変わらずの坂本少佐にヴィルケ中佐が呆れたように返す。
「なるほどな。そう言うことなら賛成だ。頼んだぞ、土方」
「は」
そう言いながらメモを取る。
紅茶に……ラジオか。
これはウィッチの方々全員に御用聞きをして回る必要がありそうだな。
そう思って振り向いた時であった。
「圭助よ、ちょっと借りるぞ」
「あ、少佐…………」
横合いから伸びてきた手が私の手からメモ帳を奪い取った。
振り向いた先ではウィトゲンシュタイン少佐がメモ帳に何やら熱心に書きつけている。
そのリストが2ページ、3ページと増えて行って5ページを超えようとしたところでさすがに止めに入った。
「しょ、少佐……少々多すぎるのでは」
「まぁ待て。まだあと30品ほど…………代金なら心配するな。十分に持っておる」
「はいはい。ちょっと自重してね少佐」
「あ、こら!何をするかミーナ!」
「もう……服だの化粧品だのこんなに…………確かに息抜きになるものをとは言ったけど個人的な買い物を頼み過ぎよ」
少佐の手からメモ帳を取り上げたヴィルケ中佐は、少佐の書きつけたリストを見てため息をつきながら破り捨てる。
しばらく恨めしそうにヴィルケ中佐を睨みつけていた少佐であるが、大きく息をつくと私に向き直った。
「ふぅ…………まぁよい。圭助よ」
「は」
「貴様のセンスに任せる。妾に似合いそうなものを何か買って来い」
「え……」
今度はあまりのおおざっぱすぎる注文に私が呆れる番であった。
「貴様が妾に贈りたいと思うものを買ってきたらよいのじゃ」
「い、いえ、しかし……」
「楽しみにしておるからの」
そう一言言い残すと少佐は、呆然とする私を残してブリーフィングルームより出て行かれた。
「ふむ…………」
不意にかけられた声。それはこれ以上なく聞き覚えのある声で――――
「さ、ささささ坂本さんっ?」
「どうした土方?」
急にどもった私に坂本さんは不思議そうな表情になる。
先ほどのウィトゲンシュタイン少佐とのやり取りも特に何とも思われてはいないのだろうか。
ほっとする半面、少し寂しいなどと思ってしまうのは……
私は頭を振って埒もない考えを頭から追い出した。
「あ、坂本さんも何か欲しいものがあれば……」
「そうだな…………訓練に役立ちそうな、と言いたいところだが先ほどミーナに釘を刺されてしまったしな」
苦笑しつつ考え込む少佐。
少佐は中々自分が楽しむものという考えに至らないのだろう。
……まぁ、その気持ちは少しわかる気がする。
「……やはり急には思いつかんな」
「そうですか」
「それより貴様はどうなのだ。貴様もこの基地の一員なのだから好きなものを買ってよいのだぞ」
「はぁ…………」
急に話を振られ、私は考え込む。
確かに急に言われても思いつかない。
強いて言えば少佐に何か…………しかし少佐はどのようなものを好まれるのであろうか……
「……そこまで考え込まなくてもよかろうに」
目を上げると少佐が呆れたような表情を向けてきた。
どうやら自分が思っているより深刻な顔で考え込んでしまったようだ。
「はは、好いた女子に物を送るでもあるまいに」
「あ、いえ、そ、そうですね…………」
少佐の言葉に、先ほどからの心中を言い当てられたようで思わずどもる。
「まぁよい。さっきも言ったが私は特にいる物はない。気にせずに楽しんでくるといい」
「は」
そう言い残すと少佐は部屋を出て行かれたのだった。
一通り聞き終えた私は、先ほどまでペリーヌさんと話しておられた宮藤さんに声をかけた。
「宮藤さん……御用聞きは終わりましたか?」
「あ、はい。あとはハルトマンさんだけですね」
「そのハルトマン中尉はどちらに?」
「ハルトマン……また寝ているな!」
その私の問いかけに答えたのはバルクホルン大尉であった。
……そう言えば先ほどから姿が見えなかったが…………まぁ何ともあの方らしいと言える。
「…………土方、宮藤。すまんが奴を叩き起こすのでついてきてくれ」
「「は、はいっ!」」
バルクホルン大尉が怒りの表情でブリーフィングルームを出ていく。
私と宮藤さんは一瞬顔を見合わせると、すぐさま慌てて大尉の後を追いかけていった。
「おいハルトマン!いつまで寝ている気だ!さっさと起きんか馬鹿者!」
「ん~~あと90分…………」
「何をたわけたことを言っている!何度も言うが貴様には軍人としての自覚が足りない!兵は神速を貴ぶという言葉を知らんのか!」
「しらないよぉ……だからあと120分……」
ハルトマン中尉のお部屋の中ではもはや恒例となった二人のやり取りが行われている。
ちょんちょん。
入り口からお二人の様子を呆然とみているだけだった私の背中が何者かによってつつかれる。
「……はい?」
「ちょっと」
「何で…………うわっ!」
返事をする間もなく、後ろから首根っこが強い力で引っ張られた。
「枕だ!」
「え、エイラさん…………?」
振り返った先に見えたのは至近距離にあるエイラさんの顔。
鼻と鼻がくっつきそうなその至近距離からかけられた唐突な言葉に、私は意味が分からず沈黙する。
そんな私の態度に苛立ったような口調でエイラさんは話を続けた。
「だーかーらー!枕だって枕!買ってくるの!」
「は、はいっ!」
彼女の剣幕にやや腰が引けつつもポケットからメモを取り出す。
「色は黒で……赤のワンポイントがあるといいな。素材はベルベットで、無かったら手触りのいいやつな。中綿は水鳥の羽で、ダウンかスモールフェザー……」
「す、少しお待ちを」
次々に繰り出される注文を何とか書き留めていく。
「じゃ、頼んだ。サーニャにあげるプレゼントなんだからな。ちゃんと選ぶんだぞ」
「は」
「もしいい加減なもの選んできたらスオムス原産のものすっごく臭い魚の缶詰をお前の部屋に投げ込むからな」
「は、はっ!」
「よろしく」
最後にエイラさんは念を押すように再び顔を近づけてくると、手を振りながら去って行かれた。
そんなエイラさんの背中に声をかける。
「あ、あの!」
「…………何だよ」
「エイラさんご自身は何かいらないのですか?」
「私…………?」
「は」
私の言葉に意外そうな表情になるエイラさん。
少し考えるように視線を宙にさ迷わせるが、返ってきた答えはにべもないものであった。
「いらない。そんなことより枕、絶対忘れんなよ!」
「承知いたしました」
そして今度こそ本当に去って行かれる。
「…………圭助さん?」
「あ、よ、芳佳」
ふいにかけられた声に振り返ると、宮藤さんが不思議そうな表情をして立っておられた。
「エイラさん、何か欲しいものあったんですか?」
「はい。何でもリトヴャク中尉へのプレゼントだとか」
「サーニャちゃんに…………エイラさんらしいなぁ」
そう言って宮藤さんは笑う。
「そう言えばハルトマン中尉はどうでした?」
「あ、はい。ハルトマンさんは『おかし~~』とか言ってたんですけど、バルクホルンさんが『貴様に必要なのは目覚し時計だ』って」
「はは、それは…………」
あまりにお二人らしいやり取りに宮藤さんと顔を見合わせて苦笑する。
「結局目覚まし時計と……お菓子、ですかね?」
「…………そうなるでしょうね」
宮藤さんの問いかけに肩を竦めつつ答える。
なんだかんだ言ってバルクホルン大尉はハルトマン中尉に甘いのだ。
「これで全員分でしょうか?」
「あ、はい。そうですね」
「では、出発しましょうか」
私のその言葉が合図になったかのように玄関口からシャーリーさんとルッキーニ少尉の声が聞こえてくる。
「おーい!宮藤に土方の兄さん!こっちは準備できたぜ」
「早く行こうよー!」
私と宮藤さんはその言葉にはじかれるように、玄関口へと駆けだしていった。
ところが、である。
「あれ?リーネちゃん」
玄関口に止まっているトラックの側には、意外な人物が立っていた。
先ほど居残りを自ら申し出たはずのビショップ曹長である。
「あ、あの、芳佳ちゃん…………」
「どしたのリーネちゃん?何か注文し忘れでもあった?」
「そ、そうじゃないんだけど……」
そう言いながらビショップ曹長はしきりに何かを言い出そうとしては口を噤んでいる。
「リーネちゃん?本当に何かあったの?」
「え、えっと…………その」
「おーい!なにやってんだ宮藤?早く出発しようぜ」
「よしかー!兄ちゃーん!はーやーくー!!」
トラックに乗っているシャーリーさんとルッキーニ少尉が焦れたように声をかけてきた。
「あ、はーい!…………ごめんねリーネちゃん。私行くね。圭助さんも行きましょ」
「あ…………」
そう言い残し宮藤さんがトラックの方へと走って行かれる。
後に残されたのはビショップ曹長と私の二人。
「あ、あの……ビショップ曹長…………」
「ご、ごめんなさい!」
声をかけようとした私を避けるように、ビショップ曹長は基地の方へと駆けて行かれてしまった。
…………私だけでなく男性全般が苦手な曹長の事、こういう反応も致し方ないと頭では分かっていても些か傷つく。
「おーい!!兄さーーーん!」
再びシャーリーさんが声をかけてくる。
これは……これ以上悩んでいてもシャーリーさんの機嫌を損ねるだけだろう。
そう思い直した私は宮藤さんに続くようにトラックへ向かって駆け出した。
「芳佳ちゃん…………無事に帰って来てね……」
そんなビショップ曹長のつぶやきに気付かないままで。
以上で本日の投下を終わります。
やっぱり原作あると進みが違うわw
まぁ506編も書いてて楽しかったですがw
それでは。
また来週。
土曜日だから更新は無いだろうなーと思いつつリロードしてたら来てた!
ところで土方君が乙女に見えてきたんですが
乙
乙!
セルフage
乙乙
もどかしいなこの人達
今日は来てないか…
1です。
すみませぬ……ちょっと本日は忙しくて最後の見直しができておりませぬ。
明日の夕方頃には何とか投下いたしますので今しばらくお待ちくださいませ。
楽しみにしています!!
こんばんはー。
遅くなりまして申し訳ございません。
ただいまより投下開始しますー。
「~~♪~~♪」
そんな鼻歌を歌うシャーリーさんの運転する大型トラックは北部ロマーニャののどかな風景の中をローマに向けて南下していた。
全ての道はローマに通ず、との言葉を残したロマーニャ人だけあって石畳で舗装された道路は、今の我々が通っても何の不便もない。
「しかし、ずいぶん荷物が多いですね」
助手席から、運転をしているシャーリーさんに話しかける。
この任務のためにミーナさんが引っ張り出してきたのはかなりの大型トラックで、予想される補給の規模を考えても大きすぎると思っていたが、何やら大型の荷物を積み込んでおり、空きスペースはそれほど大きくなかった。
宮藤さんとルッキーニ少尉のお二人は荷台のその空いたスペースに座っておられる。
最初は私が荷台に乗ろうかと申し出たのだが、トラックの荷台に乗るという経験が珍しかったのか、宮藤さんたちにここに押し込まれてしまった。
「ああ、私とルッキーニ、宮藤のストライカーを積んでるからな」
「え…………そうなんですか?」
何でもない事のように言うシャーリーさんの言葉に驚く。
ネウロイの襲撃が予想されるという情報でも入ったのだろうか。
そんな私の表情に気付いたのか、シャーリーさんは苦笑しながら手を振る。
「あ、いやいや。もしもの時のための保険だって坂本少佐がね。私だってこんな息抜き……じゃなかった任務の最中にまでネウロイの事なんぞ考えたくもないけどさ、扶桑の言葉でなんていうんだっけ……?その、そなえ…………」
「備えあれば憂いなし、ですか」
「そうそう。まぁ今のところネウロイの出現は北部ロマーニャにとどまってるし、こんな遠く離れたローマまでくりゃしないと思うけどね」
「は」
そう答えながら私は一抹の不安を拭い去れずにいた。
こういう風に「まさかそんなことはないだろう」とか言っていると「そんなこと」が起こるという…………
「どうしたんだい、兄さん?」
「い、いえ、何でも……しかし、のどかな風景ですね」
あまり要らぬことを言って余計な心労の種を増やすこともなかろう。
そう思った私は話題を転換するべく窓の外に目をやった。
車は大きな湖のそばを過ぎ、花が咲き乱れる田舎の一本道を走っている。
「ああ、そうだな。ロマーニャってもっと不毛の大地が続くのかと思ってたけど、そうでもないみたいだ」
「…………ルッキーニ少尉が聞いてなくてよかったですね」
「だな」
そんな冗談に顔を見合わせて笑う。
坂本少佐と話しているときとはまた違った気安さがこの方にはある。
ルッキーニ少尉と一緒になって悪ふざけばかりしているように見えるが、その実501のウィッチ、ひいては私のような一兵卒の事のことまでよく考えて下さっている事を私は知っている。
だからこそバルクホルン大尉も口では悪しざまに言いつつもその実力は認めているのだろう。
そんなことを考えるともなしに考えていると、突然雰囲気をがらりと変えたシャーリーさんのつぶやきが聞こえてきた。
「…………前方視界よし。対向車なし」
「シャ、シャーリーさん?」
「あ、兄さん。ちょっとここからはおしゃべりは封印な。口を閉じてないと舌噛むぞ」
「な、なにを…………」
不吉なものを感じた私は恐る恐る声をかけてみるが、返ってきたのは胡散臭い笑顔と言葉であった。
「いくぞっ!」
「うひゃあっ!」
そんな掛け声とともに一気に踏み込まれたアクセル。
思わず間抜けな声と共に後ろの背もたれに体が押し付けられた。
「ぐ…………」
(え?え?きゃああああああああーーー!)
(きゃはははははーーーーー!)
荷台の方から宮藤さんのものと思わしき悲鳴とルッキーニ少尉のものと思われる歓声が聞こえてくる。
(な、何?何が起こったの?)
(あははははっ!たーのしーーーー!)
そうこうしているうちに道はいつの間にか山道に差し掛かり、山肌を申し訳程度に削って造られた細い道が見えてきた。
しかしシャーリーさんはスピードを落とすことなくそのまま突っ込んでいく。
い、いくらなんでもこの道をこのスピードでは…………
隣に座るシャーリーさんに抗議の声を上げようとするものの、ひっきりなしに揺れ動く車内で自分の位置を確保するのに精いっぱいでとてもそんな余裕はありそうにない。
やがて車は急カーブに差し掛かった。
下すら見えないほどの千尋の谷が目の前に迫ってくる。
(お、落ちる――――!)
(きゃはははははは!)
後ろから聞こえてくる宮藤さんの声が一層大きくなる。
ルッキーニ少尉はこんな時でもどこか楽しそうだった。
ある意味大物なのかもしれないが、私はそこまで落ち着いていることができそうにない。
運転席のシャーリーさんはと言えば完全に目が据わっており、私の声など耳にも入っていない様子である。
やがてカーブは刻一刻と迫ってくるが、シャーリーさんはブレーキを踏む気配も、ハンドルを切る気配もない。
落ちる――――
思わず目をつぶった瞬間であった。
「いっけーーーー!」
シャーリーさんのそんな気合いとともに体が重力から解き放たれる感覚。
まさか…………
考える間もなく訪れる衝撃。
思わず背中からずり落ちてしまいそうになり慌てて立て直す。
「…………決まった」
ハンドルを握りながらやり遂げた表情のシャーリーさん。
その表情を見た時私は今日初めて、ビショップ曹長が今回の任務を辞退した本当の理由を理解したのだった。
「どうだい兄さん、スリルあっただろ?」
「…………スリル以前に生きた心地がしませんでした」
「あははっ、そりゃ悪かったね」
「うう、きぼぢわるい…………」
やがてローマ市内に到着するとさすがにシャーリーさんもスピードを控えて走っている。
休憩時に荷台から少しはましな助手席に移ってきた宮藤さんは私の隣でぐったりと涙目になっていた。
その隣には久しぶりの故郷にはしゃいだ表情のルッキーニ少尉がいる。
「ほらほら芳佳芳佳!ローマだよ!!」
「……え?」
「なっつかしいなー!」
「うわー!すごーーい!」
のろのろと体を起こした宮藤さんはそれでも、初めて見るローマの街の光景が珍しいのか徐々に気力を取り戻しつつあるようだ。
あちらこちらに見える珍しい古代の建物に興味をひかれたようで、いろいろ指差しては少尉に尋ねている。
「あれは?」
「古代の闘技場だよ」
「ふーん…………じゃあ、あれは?」
「昔の公会堂」
それは宮藤さんにとって聞きなれない言葉であったようで、宮藤さんは首をかしげる。
「こうかいどう……ってなに?」
「えっと…………なんだっけ兄ちゃん」
「え?わ、私ですか?」
ルッキーニ少尉がいきなり私に振ってくる。
…………いきなりの無茶ぶりはやめていただきたい。
「あ、その、学校とか、裁判とか、商取引とかとにかくなんにでも使われた公共の広場みたいなところだったらしいです。ローマ帝国建国の祖であるユリア・カエサルが建てたものだとか」
「へー。あ、カエサルって人は学校の授業で聞いたことがあります」
「そうそう。すごい人だったんだよー!」
「……よく知らないくせに偉そうにすんなよルッキーニ」
シャーリーさんが笑いながら突っ込む。
「じゃあ、あれは?」
「あれはね、聖天使城(カステル・サンタンジェロ)って言うんだよ」
「え、お城なの?」
「えーと…………どうだったかな、兄ちゃん」
……だから一々私に振ってこられても。
私とて学校で学んだ程度の知識しかないというのに。
「聖天使城はローマ帝国皇帝のハドリアヌスが建てたもので、当時は霊廟、つまり自分の墓として建てたみたいです」
「えー!あんなにおっきなのがお墓なんだ!」
ルッキーニ少尉までが驚いておられるのはどうなんだろうか。
「しかし、その作りが堅固であったので軍事施設として使われるようになり、この聖天使城という名前もその頃に付けられたそうです」
「お墓をお城にしちゃうなんて…………なんだか不思議ですね」
「ここは『トスカ』ってオペラの舞台としても有名だよな、兄さん」
そう言って話を続けてこられたのは意外なことにシャーリーさんであった。
確かに「トスカ」のクライマックスで恋人を失い絶望したヒロイン・トスカが身を投げるのが、ここ聖天使城であったはずだ。
「あ、トスカは知ってるよ!『歌に生き恋に生き』とか学校で習ったもん」
「ああいうドロドロした恋愛もの好きだよなロマーニャ人って」
シャーリーさんの軽口を聞きながら、私は意外な表情を抑えきれなかった。
あのシャーリーさんの口からオペラなどという言葉が出て来るとは。
そんな内心が表情に出てしまったのか、私の方を振り返ったシャーリーさんに睨まれた。
「…………何だよ。私がそう言うこと知ってちゃおかしいか?」
「い、いえ、そういう訳では……」
「ふふん。女はいつでも男の知らない一面を持ってるもんさ」
自慢げな表情をするシャーリーさん。
「でも、圭助さんていろんなこと御存じなんですね!すごいです」
「あ、いえ…………」
「だよねー!ローマに住んでた私でも知らなかったのに」
宮藤さんとルッキーニ少尉から過剰なお褒めの言葉をいただき、いささか気恥しい。
そんな私をシャーリーさんがにやにやしながら眺めているのに気付き、私は慌てて咳払いを一つすると表情を引き締めた。
そんな会話をしているうちに、車は一つの雑貨店の前で止まった。
「…………ここでいいのか?」
「うん。ここ大抵のものそろってるんだ」
さすがはルッキーニ少尉である。
少尉の後について、私たちも雑貨店の扉をくぐった。
「うわ~~すご~い!」
店内を見た宮藤さんが歓声を上げる。
確かにそれほど広くない店内にもかかわらず食品から衣類・更に簡単な電気機器まであらゆるものがそろっていた。
ルッキーニ少尉の言葉もあながち誇張ではないということか。
「それじゃ、手分けして探すとするか」
「は」
「りょうかーい」
「はいっ」
シャーリーさんの号令一下、我々はそれぞれ店内へと散って行ったのだった。
「ふむ……やはり米はあまりありませんか」
「申し訳ございません……」
目の前では店員の女性が申し訳なさそうに頭を下げている。
確かに欧州では米はそれほどメジャーな食材ではないし、野菜の一種という認識だから大量に購入するものなどそれこそ任務で来ている扶桑軍人ぐらいしかいないのだそうだ。
これはルッキーニ少尉にほかの店を見繕っていただく必要があるかもしれない。
「分かりました……この店にあるだけの米を頂きたい」
「は、はいっ」
私の言葉に、女性は頭を下げて奥へと入っていく。
店内を見回すとシャーリーさんたちもめいめいに店内を見回っているのが目に入った。
衣料品のコーナーでは宮藤さんがピンク色の服をもって眺めている。
そんな宮藤さんにシャーリーさんが声をかけた。
「似合うじゃないか。それ買うのか?」
「あ、いえ…………これはバルクホルンさんに頼まれて」
「「ええっ」」
思わずシャーリーさんと重なるように小さく叫んでしまった。
「あ、あいつがこの服を…………?も、もうだめ……あはっ、あはははははっ!」
あの服を着た大尉の姿を想像でもしたのか、こらえきれないように笑い出すシャーリーさん。
真面目一筋のように見える大尉であるが、このようなものを好まれる一面もあるのだろうか。
「ち、違いますよ!これは妹のクリスさんへのプレゼントです」
「あはははは……い、息が…………できな…………あははははははは!」
…………なるほど。
そう言うことであったか。
しかしシャーリーさんには宮藤さんの声は届いていないようで、時折息をつまらせつつ笑い転げている。
「もう……圭助さんもダメですよ。そんなに驚いたら失礼です」
私の声が聞こえてきたのだろう。
宮藤さんが非難がましい視線を向けて来た。
「す、すいません」
「よろしい…………なんて、ふふ」
すぐに表情を改めて笑顔になる宮藤さん。
「それじゃ、私はもう少し選んでますね」
「は」
宮藤さんと別れ、再び店内に目をやる。
すると、退屈そうな表情で窓際の椅子に腰かけて窓の外を眺めているルッキーニ少尉の姿があった。
「少尉」
「あ、けーすけ兄ちゃん」
「買い物は終わったのですか?」
「うん。私とハルトマンのお菓子。いっぱい買ったから後で兄ちゃんにも分けてあげるね」
そう言って笑う少尉。
その手には先ほどシャーリーさんから預けられたバッグが握られている。
「兄ちゃんは?」
「私は食料品を…………」
そこまで言って気が付いた。
ここでルッキーニ少尉に米が買えるお店を聞いておかねば。
そう思って口を開いた時だった。
「……!兄ちゃん外見て外!!」
「え?」
ふいに少尉が真剣な表情で窓ガラスに顔をくっつけた。
その少尉の視線の先には―――
「あれは…………」
黒服を着た二人の男が一人の少女を車に押し込もうとしている場面であった。
ここまで白昼堂々とは…………
思わず外に飛び出しそうになるが、少尉の行動はさらに迅速であった。
「兄ちゃん!これお願い!」
どさり。
不意に両手にかかる重み。
よく見れば先ほどまで少尉が抱えておられたバッグが私の両腕の上に乗っていた。
思わずたたらを踏むものの、何とか持ちこたえる。
目を上げた先ではすでに店を飛び出した少尉が二人組の男に向けて駆け出しているところであった。
(…………あの方はっ!)
考えている時間はなかった。
ルッキーニ少尉がウィッチであるとはいえストライカーを穿いていなければただの13歳の少女でしかないのだ。
シャーリーさんに報告する、そんなわずかな時間すら私には惜しく、バッグをしっかりと肩にかけなおすと私はルッキーニ少尉の後を追って店を飛び出していた。
ということで以上です。
ここまで書いてまだアイキャッチにすら到達していないという……
あ、冬コミ受かりました。
夏に出した海上自衛隊本の続き書きます。
おつー
乙!
乙 & おめでとうございます。
おつ
冬コミ行けない…(´・ω・`)
セルフage
冬コミまで2か月を切ったのに本が半分もできてないというね……
一年前からこのスレを読み続けた結果wwwwwwww
お蔭で海上の一般曹試験受かりました
まだか… うむ…
こんにちは。
昨日はちょっと風邪気味だったので一日寝ておりました。
今から投下します。
>>155
おめでとうございます!
しかしこのスレは関係ないようなww
純粋に貴方の努力の結果ですってばww
「スーパールッキーニキィィィック!!」
「ごぼっ!」
「もいっこ」
「がはっ!」
慌ててルッキーニ少尉の後を追いかけた私であったが、どうやら心配は杞憂に終わったようだ。
不意打ちとなる飛び蹴りで二人の男は完全に道路に伸びている。
……しかし、先ほどは考える間もなく飛び出してきてしまったが、冷静に考えてみると事情も考慮せずに路上でいきなり男に飛び蹴りを食らわせてしまったのは不味かったのではなかろうか。
まぁあの場面を見れば10人中8,9人は少女の方に味方するだろうが。
少尉の蹴りを食らって伸びている男を観察する。
徐々に意識を取り戻しつつあるようで指が小刻みに動いている。
…………何らかの応急措置を施した方がいいだろうか。
「あ、あ、あああああ、えっと……」
「ほら!行こ!…………けーすけ兄ちゃんも、そんな奴らに構ってないで逃げるよ」
そう言いながらルッキーニ少尉は少女の手をひいて走り出そうとしている。
店の方に目をやると、シャーリーさんと宮藤さんはこちらの騒ぎに気付いていない様子で商品を選んでいる。
目を転じると、少女の手をつかんだルッキーニ少尉が「早く早く」とばかりにこちらに手招きをしていた。
(すいません、シャーリーさん)
考えている時間はなかった。
シャーリーさんはあれで緊急時には確かな判断のできるお方だ。
それよりもルッキーニ少尉たちをこのまま二人にしないことの方が重要だろう。
それに、ルッキーニ少尉が連れているあの少女…………どこかでその顔を見たことがあるような気がするのも気がかりである。
心の中でシャーリーさんと、伸びている男たちに謝ると、私はルッキーニ少尉たちの方へと駆けだした。
「はぁ……はぁ…………」
「はぁ…………」
ルッキーニ少尉についてローマの街を走り回ること数十分。
さすがにこの街で生まれ育っただけあり、少尉は小さな裏道まで知り抜いていた。
たどり着いたのはどこかの公園。
人通りも少なく、生け垣が迷路のように張り巡らされていて遠くからでは我々の姿は確認できないだろう。
その小さな噴水の近くで、少尉と少女は座り込んで荒い息をついていた。
「あ、ありがとうございます…………」
「いやいや、いいってことよ」
「あの、貴女は……」
「私はフランチェスカ・ルッキーニ!通りすがりの正義の味方っ!」
そう言いながら少尉は立ち上がって胸を張ってみせる。
さすがにここで自分の身分を軽々に明かしてしまうほど軽率な方ではなかったようだ。
「そ、そうですか……そちらの方も、ありがとうございます」
「は」
少女がこちらに向き直り、丁寧にお辞儀をしてくる。
その物腰は王侯貴族もかくやというほど優雅なもので、この少女がただの一市民でないことをうかがわせた。
あとあと問題にならねばよいが……
そうなったら私が軍人生命に代えても少尉をお庇いせねばなるまい。
そんな私の葛藤をよそに、少女が無邪気に尋ねてくる。
「あの、貴方のお名前は?見たところ東洋の方のようですが」
「…………」
さて、困った。
ロマーニャ生まれのルッキーニ少尉ならともかく、扶桑人の私はここでは目立ちすぎる。
観光だとごまかそうにも、扶桑人の男とロマーニャ人の少女の組み合わせはあからさまに不自然すぎた。
いっそ本当のことを言って口止めするか。
そう思って口を開きかけた私を遮ったのはルッキーニ少尉であった。
「けーすけはね、私の執事なんだよ」
「執事、ですか」
「うん。子供のころからずっとお世話してくれてる執事。今日は近くの店でお買い物だったの」
そう言いながら少尉は私に向けて片目をつぶってみせる。
…………お嬢様と執事か。
多少不自然なところはあるかもしれないが、観光客というよりは説得力があるだろう。
私は掌を胸に当てると少女に向かって一礼する。
「失礼いたしました。私は土方圭助。見ての通りの扶桑人でございます。扶桑では小さいながらも貴族を名乗らせていただいており、そのご縁でフランチェスカお嬢様には御幼少のみぎりよりお仕えさせていただいております」
「ふ、フラン…………っ」
我ながらここまですらすらと口からでまかせが出てくることにやや驚く。
私がファーストネームを呼んだことが恥ずかしかったのか、隣で少尉が珍しく慌てたように顔を赤くしている。
「う、うん!そうだよ!けーすけは私の執事なんだからね!フランチェスカって呼ぶのも仕方ないよね!!」
「…………ど、どうしたのですか?」
「その……お嬢様はなれない冒険に少々興奮なされていらっしゃるようで」
「そ、そうですか」
そう答えるものの、やはり不信感はぬぐいがたいようだ。
「失礼ですがお名前は?」
ここは会話の流れを変えるべきであろう。
そう思った私が口をはさむ。
「あ、私はマリアです。よろしくお願いしますね」
そう言って微笑む少女の笑顔は、またしても私の記憶巣を刺激してやまない。
確かにどこかで見た記憶が……確か新聞か何かで…………
「ど、どうされました?」
思わず少女の顔を凝視しすぎてしまった。
マリアという少女がやや照れたように俯く。
そんな表情の変化を、少尉が見逃すはずはなかった。
「もう!けーすけはすぐそうやって女の人にちょっかい出すんだからっ!」
「…………申し訳ありません」
どうも不当な評価がなされた気がするが、ここで二人の話が食い違ってはマリアさんの不審をあおるだけであろう。
私は黙って頭を下げた。
そんな私に満足そうな視線を送ると、少尉はマリアさんの方へと向き直った。
「ところで、あいつら何?」
「あ、その、えっと…………」
この言葉に、マリアさんは意外なほどに動揺を見せた。
額に一筋の汗が流れ、視線もあらぬ方をさまよっている。
マリアさんの方もどうやら何やら事情がありそうだ。
先ほどの私の心配が当たっていなければいいのだが…………
「あ、わかった!あいつらマフィアだ!そうでしょ?」
「え、えっと……そ、そのようなものです…………」
マフィアて。
思わずツッコミそうになるのをこらえる。
マリアさんの歯切れの悪い返事も聞くに、やはり彼女の方も我々に何か隠しておられるようだ。
ここで私が妙なツッコミを入れてはさらに話がややこしくなるだけであろう。
そんなマリアさんの様子には気づかず、少尉は得心が行ったとばかりに大きく頷いてつづけた。
「やっぱり!裏通りは危ないから気を付けないとだめだよ」
「は、はい…………ありがとうございます」
「…………ふふ」
「うふふ」
初対面のルッキーニ少尉の気さくさに、つられるようにマリアさんも笑い出す。
こういう能力というのは天性のものなのだろう。
半ばあきれつつ、半ば感心しつつお二人を見ていた。
「それで、マリアは何してたの?買い物なら付き合うけど?」
「……い、いえ、買い物などではなく、その、散歩というか…………」
「散歩?」
不思議そうなルッキーニ少尉。
「はい。私、ほとんど家から出たことがなくて……ローマの事よく知らないんです」
「ふーん」
「生まれた街なのに、おかしいですよね」
「…………」
そう言って儚げに笑うマリアさん。
そんなマリアさんをしばらく見つめていたルッキーニ少尉であったが、やおら彼女の手をつかむと立ち上がった。
「行こう!このルッキーニ様にお任せあれ!」
「え?え?」
「けーすけにい……じゃなかったけーすけ、これ持って」
「へ?あ、は、はい」
そう言いながら少尉が投げてよこしたバッグを受け取る。
「じゃあ行くよ。けーすけもマリアも遅れないでね」
「あ、あの」
そう言い終わるが早いか、私が声をかける暇もなく弾丸のような勢いで走り出すルッキーニ少尉。
どうやらこのままマリアさんにローマを案内するつもりらしい。
私としては放置する形になってしまったシャーリーさんと宮藤さんが心配ではあるのだが、かといってこのままルッキーニ少尉を放っておいたら何をするかわからないというのも事実だ。
…………どうするか。
「けーすけー!マリア!早くしないとおいていくよ!」
「……ど、どうしますか?」
「仕方ありませんね。失礼します」
「え?あ、あの、はい…………」
悩んでいる時間はなかった。
私は大きく息をつくとマリアさんの手を取り、ルッキーニ少尉の後について駆け出した。
(Miyafuji's Side)
「おっかしいなー。車にもいない」
「さっきはお店の椅子に座ってましたよね」」
店で買い物すること数十分。
ルッキーニちゃんと圭助さんが突如姿を消したことに気付いたのはその後であった。
「うーん。土方の兄さんもいないみたいだし、こりゃ示し合わせて駆け落ち…………」
「やめてください!」
冗談でもそう言う心臓に悪い事は言ってほしくない。
そんな私の過剰反応が面白かったのか、シャーリーさんは非常事態だというのにどこかにやにやした笑みを崩そうとしない。
「まぁそれは冗談としても、土方の兄さんがついてるなら心配はないと思うけどね」
「そ、それはそうですけど…………」
圭助さんが私の知らないところでルッキーニちゃんと二人きりという状況はなかなかに私にとって心たのしい想像ではなかった。
ルッキーニちゃんも圭助さんの事を「にーちゃん」と慕っているようだったし。
「ただ、ルッキーニに渡したバッグに残りのお金が全部入ってたんだよな。備品の類は買えたけど食料は全く買ってないし」
「ええーーーっ!」
そんな私の驚きの声にこたえるように、店内から女性が出てきた。
「あの、先ほどの男性の方は…………」
「男性?……ああ、土方の兄さんか。彼がどうしたって?」
「はい。先ほどコメを買いたいとご依頼を受けましたのでご用意したのですが……」
そう言って女性が指し示す先にはうずたかく積まれた穀物袋の山が。
それを見てシャーリーさんがため息をつく。
「なるほどね。ちょっと用事があって兄さんはここにいないんだ。お金も兄さんが持ってるからそれまで待っててくれるかい?」
「あ、いえ、それは」
「私はこういう者だ。踏み倒したりしないから安心してくれ」
そう言いながらシャーリーさんはIDカードを見せる。
軍の名前を知って安心したような表情になる店員の女性。
しかし彼女の後ろには穀物袋の山が。
その山を見てシャーリーさんは大きくため息をついてこっちに向き直った。
「まぁとりあえず…………これを積み込まんとな」
「そ、そうですね」
「全く兄さんも……スペイン広場でジェラートおごらせてやるから覚悟してろよ」
「ふふ、そうですね」
シャーリーさんの言葉に返事をすると、私は手近な穀物袋を持ち上げた。
「ふえっくしょい!」
「どうしたのけーすけ、風邪?」
「い、いえそういう訳ではないのですが…………」
いきなり背中に走った寒気。
扶桑ならば「誰かが噂してるんじゃないか」などと言われるところだ。
「ま、いいや。…………ついたよー。ここが闘技場」
一つの大きな円形の建物の前で少尉は立ち止まる。
石造りの巨大な闘技場は数千年の時を経た今でも当時の様子を残していた。
「広いでしょー!」
「うわぁ…………」
自慢げなルッキーニ少尉に、感動で言葉も出ない様子のマリアさん。
私もこの闘技場は初めて見たが、その巨大さに圧倒される思いである。
「私、ローマに住んでるのに全然知らなかったです」
そう言うマリアさんの横顔は、今まで何度も見せてきた寂しげなもので、なぜか私はその横顔から目を離すことができないでいた。
「…………?どうしましたか土方さん?」
「い、いえ。何でもありません」
慌ててマリアさんから視線をそらす。
「どったの二人とも?」
「「い、いえっ!なんでも」」
思わずマリアさんとハモってしまった。
そんな私たちの様子に少尉はやや不審そうだったものの、すぐに表情を改めるとマリアの手を取った。
「それじゃあ次いくよー。ローマには素敵な場所がいっぱいだから、のんびりしてる時間なんてないんだから」
そう言って駆け出す少尉の表情は、この上なく輝いて見えた。
…………と言うことでここまで。
11月になって急に寒くなったので皆さんも風邪等には気を付けてくださいね。
それでは。
今週は久しぶりに安価やろうかな。
乙です
乙!文を読むだけで脳内に音声が!
なんて文章力!
次、楽しみにしています。
乙!
またフラグ建てやがって...
乙!
ルッキーニちゃんまで土方の毒牙に掛かってしまったか
それにしてもスペイン広場でジェラートってのは昔から有名なのか?
時代的にローマの休日はまだだと思うが…
ま、些細なネタだからどうでもいいと思うけどw
オマージュじゃね
ガンスリネタもあったし
坂本さん泣いちゃうぞ
半泣きの坂本さんとか見てみたいけど
セルフage
>>171
スペイン広場とジェラート、という組み合わせが有名になったのは間違いなくローマの休日からだそうです。
まぁそれまででもスペイン広場は観光地として有名だったしジェラートもイタリアのお菓子としては有名だったんでその二つが出てきたということにしといてくださいw
ひた。ひた。ひた。
人気のない廊下に坂本少佐と私、二人分の足音が響く。
「……今宵は満月か」
「は。見事な月です」
廊下の窓から見上げる空には、見事なまでの満月が青々とした光を地上に投げかけていた。
「風流というのかな、こういうのも……似合わぬことこの上ないが」
そう言って少佐は笑う。
しかし、あの山中での庵での生活を思い起こすに、坂本少佐には案外そう言う生活も似合っているのではないかと思える。
「……何か言いたそうだな」
「い、いえ、そのような」
不意に沈黙した私の態度が気になったのか、やや不機嫌そうに尋ねてくる。
私の返答に、少佐は納得できない様子であったが再び視線を空へと戻す。
「こうしてみると平和な空なのだがな」
「は」
確かにこうして見上げる空は、今が戦時中であることを忘れさせるほどに静かであった。
「いつのことになるかわからんが、この空を本当に平和な空にしたいものだ」
少佐のつぶやきに、私も頷く。
その日が来たとき、私と少佐の関係はどうなっているのだろうか……
「…………ん?どうした土方」
「す、すいません」
思わず少佐の横顔に見入ってしまっていたらしい。
怪訝そうな少佐から思わず目をそらす。
「まぁいい。では行くぞ」
「は」
そう言って歩き出す少佐の後に私も従って歩き出した。
というわけで日常安価です。
対象になるのははミーナさんじゅうきゅうさい、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、エイラさん、サーニャちゃん、ペリーヌさん、リーネちゃん、芳佳、もっさん、ハインリーケ姫の12名。
安価ゾーンはここから10レス下の>>185まで。
最もたくさん名前の登場した方が安価ということにします。
同一IDによる複数投票は1票とみなし、同票が複数あった場合は最初にその数に達した方を安価達成とします。
>>185までいかなくても明日の夕方ごろに締め切ります。
それでは。
今週末はとりあえずこの安価番外編でお茶を濁させてくださいw
本編はちゃんと進めますので。
お姉ちゃんで
もっさん!
敢えてリーネ
よし、ならばリーネちゃん倍プッシュだ……!
シャーリーさん
シャーリーさん
僕はリネット・ビショップちゃん!
リーネちゃんさん
リーネちゃんで決まりかな?
ぼくはミーナさんじゅうきゅうさい
たまにはエイラも
乗り遅れた…(´・ω・`)
リーネちゃんか
もっさんとの絡みが少ないからか、想像しづらいな
ミーナさんもみたいな
土方にドキッとするミーナさんも
リーネちゃんとはまた難しいところを……
私の中でリーネちゃんはなぜか腹黒キャラになっているんですよねw
最初に頭の中で出来上がった話でリーネちゃんがヤンデレ化したので慌てて軌道修正中w
頑張ります。
そのまま突っ走っちゃってもええんやで?
リーネちゃんは腹黒イメージが強すぎる...
実際はちょっと弱気で家事とか得意で恋愛事大好きな可憐で可愛い純情乙女なんだよ!多分!
すいません。1です。
ちょっと今日と明日忙しくなりそうなのでリーネちゃんSSは明日夜かことによると月曜になるかもしれません。
申し訳ありません。
了解しました
無理はしないで下さいね つ旦
>>192
ありがとうございます
申し訳ありません。
昨日も結局忙しくてリーネちゃんSS完成させられませんでした。
今日中には必ず……
のんびり待ってる
ここは>>1が好きなようにSSを書くところなんだから、いつまで、って縛りをつける必要は無いさ
忙しいのは仕事か?頑張れよ
楽しみに待ってます。
一週間の癒しの時ですね、これ見るのは。
そろそろ寝るかな(´-ω-`)
皆様、長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
1です。
やっと完成しました。
絡ませづらさが半端でなかったですこの二人w
原作でもほとんどペリーヌさんや芳佳との絡みで出てくることが多かったですからね。
まぁ、それでは行きます。
「ん?あれは?」
前方の廊下に人影を確認し、坂本少佐が立ち止まった。
「…………あ」
私の姿を確認した人影が小さく声をあげて怯えたように立ち止まる。
その反応だけで私にはその人影の正体が分かった。
隣の坂本少佐も同じであったようで、小さくため息をつき、私にはここで待機しているように視線で命じると、人影―ビショップ曹長―の方へと歩みを進める。
「リーネ、どうしたこんな時間に?」
「あ、え、えっと、その、サーニャちゃんと夜間哨戒を…………」
「ふむ。ミーナもいろいろな組み合わせを試しているのだな」
確かにリトヴャク中尉とビショップ曹長という組み合わせは珍しいかも知れない。
坂本少佐の言葉に答えながらも、ビショップ曹長の視線は落ち着かなげにこちらに送られてきている。
曹長の性格は分かったつもりではいるが、こうあからさまに避けられるというのも傷つくものである。
……もちろんそんなことを表情に出しはしないが。
「しかしリーネ、いい加減土方にくらいは慣れたらどうだ。もう付き合いも長いのだろうに」
「す、すいません…………」
少佐の言葉に、ビショップ曹長はそう言って申し訳なさそうな視線を向けてくる。
実際曹長自身は何も悪くないのだから、そんな視線を向けられるとこちらも妙な罪悪感を抱かされてしまう。
そんな我々を交互に見ていた少佐であったが、やがて何かを思いついたように手を一つ打った。
「よし。貴様ら明日の朝、そろってハンガーまで来い」
「「え」」
私とビショップ曹長の声がハモる。
我々の戸惑いなど気づかぬ体で、少佐は言葉を続ける。
「このまま、というのもよくなかろう。共に汗を流し、同じ釜の飯を食う。そうすれば多少の緊張など消えてしまうものだ」
「しょ、少佐…………」
得意げに話す少佐に何と言葉をかけていいか一瞬ためらう。
少佐の考えにケチをつけるようで心苦しいが、それはあまりに粗雑な話ではないだろうか。
第一、これでは曹長の意思というものが…………
「わ、分かりました」
「え?」
しかし曹長の反応は私の予想を裏切るものであった。
怯えたような表情は変わらないものの、その背後に確かなる決意をこめて、頷いている。
思わず私の方が間抜けな声を上げてしまったが、曹長はそんな私に何とか笑顔を向けて来た。
「わ、私も……その、土方さんとはお話ししたいと思ってましたから…………よ、よろしくお願いしますね」
「は…………」
当の曹長御自身からそこまで言われてしまっては私に断る法はない。
かくして、幾許かの不安をはらみつつも私と曹長の早朝合同訓練は開始された。
「よ、よろしくお願いします」
「は」
「うむ。二人とも時間通りだな。感心だ」
早朝とはいえ、太陽の差し込んでこないハンガーの中はまだ暗く、肌寒さすら感じるほどである。
そんな中、少佐はいつもの通り我々より優に数十分は前から来ていたのであろう、すでにひと運動を済ませたようで額に汗を光らせていた。
「それではまずは軽くランニングだ。特にリーネ、着任早々の頃のような体たらくは許さんぞ」
「は、はい!」
坂本少佐の言葉に、曹長は表情を引き締めて少佐の後に従って走り出す。
アンナ教官のもとに訓練に出された時のことを思い出しておられるのだろうか。
私もお二人の後に従って、ハンガーを出発した。
「はぁ……はぁ…………」
「ふぅ…………ふぅ…………」
「どうした!リーネだけでなく貴様もなまったか土方?」
基地の側に、海に突き出た崖のようになったところがあり、海から昇る朝日が良く見えるそこは少佐お気に入りののランニングコースとなっている。
少佐は先ほどから我々の数十メートル前を走っていらっしゃるが、息一つ乱れておらずこちらを振り返って声をかける余裕すら見せていた。
少佐の声にこたえるように、私と曹長もスピードを上げる。
「……」
「……あの」
「は、はいっ!な、何でしょうか?」
しばらく走ったころであろうか。
延々と続く沈黙に耐えられなくなった私が声をかけると、曹長は案の定驚いたように私から後ずさる。
……別にこの反応は予期していたので寂しかったりはしなかった。
しかし、今日の鍛錬の目的を思い出したのか遠ざかる足を止めて私に何とか向き直ろうとしてくださっている。
「…………」
「……ひ、土方さん?」
しまった。
とりあえず勢いで話しかけたものの話題を考えていなかった。
「えっと、あの、その、いわゆる、その」
「…………ぷっ」
そんな私の慌てぶりがおかしかったのか、曹長が今日初めて私に自然な笑顔を向けて下さる。
「もしかして、土方さんも緊張してらっしゃるんですか?」
「…………正直なところ」
情けないことこの上ないが、ここで無駄に見栄を張っても仕方あるまい。
私は正直に認めて頭を下げる。
「ふふ、そうなんですか」
心なしか嬉しそうな表情の曹長に、私もいくらか緊張が和らぐ。
曹長がすまなそうな表情で話を続けた。
「その…………ご、ごめんなさい。これでも土方さんにはかなり慣れてきたと思うんですけど……」
「いえ、話しかけるだけで逃げられてたころを思えば」
「そのことは思い出させないでください……」
少し怒ったように頬を膨らませて睨んでくる曹長。
そんな曹長の姿は私にとって新鮮であった。
「それに…………」
そこまで言って曹長は小さく微笑む。
「芳佳ちゃんがあそこまで懐いてる人が、悪い人なわけないですから」
「……恐縮です」
宮藤さんとビショップ曹長。
お二人の信頼感というのは正直傍で見ていて羨ましくなるほどである。
不意に、曹長が真剣な表情で黙り込む。
しばらく躊躇うかのような沈黙が流れた後、走るペースをやや落として曹長は口を開いた。
「あの、芳佳ちゃんとは……」
「…………曹長?」
「あれ……」
再び話し始めた曹長が不意に足を止め、視線を道脇まで迫っている森の方へと向ける。
思わず曹長の視線を目で追った私は、その視線の先にあるものに気付いた。
守の入口にある木の枝の上に小さな影が見える。
「あれは……小猫でしょうか?」
「……ええ。降りられなくなっているのかな?」
曹長のおっしゃる通り、子猫は高い枝の上で心細げに鳴き声を上げるもののそこから動く様子はない。
「……な、何とかしてあげないと」
確かに子猫の体力ではいずれ自らを支えきれずに転落することになるだろう。
曹長の表情が不安そうに歪む。
しかし…………
「……届きませんね」
そう。
木は高さが2メートルほどあり、しかも登ろうにも取っ掛かりとなる枝や瘤もない状況である。
「曹長……」
「…………」
私が何とか登って降ろしてきましょうか。
取っ掛かりがなく難しくはあるが、何とかならなくはない…………気がする。
そう申し出ようとした私の言葉はしかし、続く曹長の言葉によって遮られた。
「あの、土方さん」
「は」
「え、えっと…………お願いがあるんです」
そう前置きすると、曹長はややためらいながらも話を続けた。
「あ、あの……絶対に上向かないでください…………ね」
「は、はっ」
「上から」聞こえてくる曹長の言葉に声だけで返事をする。
頭の横に密着する柔らかい感触のことは考えないように。
今、私はビショップ曹長を肩車していた。
ビショップ曹長がこのようなことを申し出てくるというのは正直想像を超えていた。
男とは一対一で話すことすらいまだにできないほどの曹長が、ずいぶんと勇気を振り絞られたのであろう。
ならば私は、そのお願いに全力を持って応えるのみである。
「ん…………も、もうちょっと左に」
「はい」
「……きゃっ!…………あの、もう少ししっかり足を支えていただけると」
「す、すいません」
肩の上で曹長がごそごそと動く度に、頭に密着した曹長の太腿の感触が否が応にも私の神経を乱す。
…………いかん。
このような不埒な想像をしてしまうこと自体、曹長に対して失礼にあたるというのに。
私は頭の中で素数を数えつつ、早くこの時間が終わることを全力で祈り続けていた。
「あと…………ちょっと……よしっ」
曹長の声に喜色が加わる。
厳命されているので上を向くことはできないが、どうやら目的を達したようだ。
しかし、一旦落ち着いた曹長の様子が数瞬後、再び慌ただしさを増す。
「ちょ、ちょっと…………そ、そんなとこ入っちゃ……きゃっ!」
今までとは比べ物にならないほどに私の肩の上で暴れだす曹長。
「そ、曹長、その、少し…………」
「す、すいません……ちょっと猫ちゃんが…………こ、こら、おとなしく……きゃあっ!」
その叫び声とともに、私の肩の上から曹長の体重が不意に消失する。
そしてその数瞬後、後頭部にやってきたのは衝撃であった。
…………
……
ん?
私は…………
徐々に意識が覚醒していく。
曹長と鍛錬をしている途中で、木の上から降りられなくなった子猫を助けて……確か…………
目をうっすらと開けようとするものの、顔全体が何か柔らかいものに塞がれた様になっており息苦しいことこの上ない。
「む、むぐっ」
声を出そうとするものの、くぐもった声になってしまう。
「ひ、土方さん?すいませんすぐどきます!」
頭上から聞こえてくる曹長の声とともに、急に視界が開けた。
「う…………」
「だ、大丈夫ですか?」
「は。何ともありません」
心配そうにのぞきこんでくる曹長を安心させるように答える。
実際のところ、先ほどの謎の息苦しさを覗けばどこかを怪我をした様子もない。
どうやら曹長を肩車したまま転んでしまったようだ。
我ながら情けない話である。
「それより曹長にお怪我は……」
「わ、私は大丈夫です…………す、すいません。猫ちゃんが大人しくしてくれなくて」
そう仰る曹長の側で、先ほどの子猫が退屈そうに伸びをした。
「無事だったようですね」
「はい。土方さんのおかげですよ」
そう言って笑顔を見せる曹長。
先ほどまでの固さは薄れ、普通に私と話して下さっているのが何とも嬉しい。
しかし、そんなのんびりした時間は長くは続かなかった。
「…………土方。リーネ」
ふいにかけられた声に振り返る。
そこには坂本少佐が怒りを全身にたたえて立っていた。
「どういうことか、説明してくれるのだろうは土方?」
「ど、どういうこと…………とは……」
そこまで言って、やっと私にも周りの状況が認識できて来た。
地面にあおむけに倒れ込んだ私の腰の部分に、のしかかるように曹長が跨っている。
曹長も今の我々の状況に気付いたのか悲鳴を上げて飛び退った。
…………確かにこれでは誤解を受けるのも致し方あるまい。
「確かに私は仲良くなれ、とは言った。しかしこういう不埒な振る舞いに及べとは一言も言っていないぞ」
「さ、坂本さん、これは、その」
「えっと、その、ね、猫がいて、それで、私たちじゃ届かなくて、その、だから」
「…………喜べ土方。久々に本気で鍛錬の相手をしてやろう。遠慮はいらんぞ」
坂本少佐はそう言いながら、腰に差していた竹刀を正眼に構える。
…………どうやら、今日の鍛錬は長くなりそうであった。
乙!
というところでリーネちゃんSSでした。
なかなか難しいですねこの二人の絡みはw
実は、最初の構想では肩車をリーネちゃんが嫌がったため、四つん這いになった土方の背中を踏み台代わりに猫を助ける話でした。
その過程で土方の頭を踏んづけた瞬間リーネに電流走る……
腹黒モード全開で土方の背中をぐりぐり踏みつけまくって最後に
「ふふ、土方さんまた走りましょうね」
って土方に笑顔を向けるシーンで終わる話だったのですが、さすがにリーネちゃんのイメージを壊し過ぎるのでこんな形に落ち着きましたw
次は「私のロマーニャ」の続きです。
申し訳ありませんが、冬コミ準備のため12月末まで2週間に1話更新のぺースにさせていただくことをお詫び申し上げます。
ということで次の投下は12月7日ぐらいになると思います。
すいません。
頑張ってください!
面白かったです!
乙
いつもにましてキャラが魅力的だった!
面白かったです
坂本さんが相手の場合、土方君はナチュラルに四つん這いになるイメージが...
もっさん自分も不埒になればいいんじゃないかな!?
えっちなのはいけないと思います!
ありふれたラッキースケベなんダナ
きてた!乙です
>>214
まあ土方ですし・・・
セルフage
旅行先の富山より書き込み。
次回は12月7日と言いましたが11月30日ぐらいに何とかなると思います。
それでは。
こんばんは。
11月30日と言いましたが結局こんな時間になりましたことをお詫びします。
それでは、只今より本編投下、開始します。
――――ヒスパニア広場(Piazza di Hispania)――――
路上にカンバスを広げ絵を描いている画家。
観光客に小銭をせびる浮浪児。
階段下のワゴンで営業しているジェラートの屋台。
ヒスパニア広場は多くの人であふれかえっていた。
「ここはね、ヒスパニア広場っていうんだよ」
「あ、ここは知ってます。近くにヒスパニア大使館があるからそう言う名前になったんですよね」
「え、えっと…………そうだっけけーすけ?」
「は。そのように聞き及んでおります」
困ったような表情を向けてくる少尉に、私はうなずいて見せる。
……しかし、このマリアという少女、考えれば考えるほど妙なところが多い。
ローマの人間なら日常的に目にしているであろうコロッセオに感動したかと思えば、むしろマイナーな知識に属するであろうヒスパニア広場の名前の由来については知っていたり。
「……あ!あそこにジェラートの屋台があるよ!」
「じぇ、じぇらーと、ですか?…………こ、こんな風に売っている物なんですね」
「…………え?ジェラートって屋台で食べるものじゃないの?」
「……えっと、あ、そ、そうでしたね!」
そしてロマーニャでは一般的なお菓子であるはずのジェラートの食べ方を知らない。
それほどまでに箱入りで育てられた、と考えれば頷けなくもないが……
「ほらっ!けーすけもっ!」
「…………あ、は、はいっ」
「一緒にジェラート食べよー」
考え込んでしまった私に対し、少尉が焦れたように手を伸ばしてくる。
その手を取ると、少尉は私とマリアさんを屋台まで連れて行って下さった。
「うわぁ……色んな種類があるんですね」
「うん!このお店のジェラートはすっごくおいしいよ」
「へぇ…………」
マリアさんは物珍しそうに屋台の色とりどりの氷菓に見入っている。
「好きなの頼んでいいからねっ」
「…………は、はい」
ルッキーニ少尉の言葉に、マリアさんは真剣な表情で選び始める。
そんなマリアさんを横目に、私はある懸念を問いただすべくルッキーニ少尉をマリアさんから見えない場所へと引っ張って行った。
「あの…………ところで」
「どったのけーすけ?」
「…………まさかとは思いますが、シャーリーさんから預かったお金を使うつもりではないでしょうね」
私の問いかけに対する少尉の表情は、残念なことに私の心配が的中していたことを示すものであった。
「……ダメ?」
可愛らしく首をかしげて見せるルッキーニ少尉。
そんな少尉の態度に、私はため息をつくしかできなかった。
それは完全に公金横領だ、と諭す代わりに私は懐より札入れを取り出すと、そのまま少尉に渡す。
「はぁ……仕方ありません。これをお使いください」
「え?で、でも…………これ、けーすけの……それに、こんなに…………」
「いいんですよ。どうせ使うあてのないものですし。少尉のためでしたらこの程度」
「う…………ずるいよ。そう言うこと言うの」
何故か少尉が少し恥ずかしそうに頬を染める。
実際、基地の中にいれば衣食住すべてが保証される生活の中で、使う宛のない金が貯まりすぎて些か持て余していたのも事実であった。
しかし少尉の方もさすがに気が咎めるのか、手元の札入れと私の顔を交互に見比べている。
そんな膠着状態を破ったのは、マリアさんの声であった。
「あの、ルッキーニさーん!」
「…………ほら、呼んでますよ、フランチェスカお嬢様」
「うじゅー……」
少尉の肩をポン、と押す。
少尉はそれでもしばらく迷っていたが、やがて大きく頷くと、私に笑顔を向けてきた。
「じゃ、じゃあ遠慮なく使わせてもらうね!」
「ご自由に」
そう言って少尉はマリアさんのもとに駆けていくと、二人であれこれと悩みながらジェラートを選んでいる。
そんなお二人の姿は、勢い私に埒もない連想を抱かせた。
…………もしも。
ルッキーニ少尉に魔力などなく、普通の少女として生きていたならば。
あのように友人たちと買い食いなどを楽しむ生活を送っていたのだろうか。
そう考えると、改めてあのような少女たちに戦いを強いる自分たち男の立場に忸怩たる思いが湧きあがってくる。
「…………はい、どうぞ」
「あ、ありがとう姉ちゃんたち!」
聞こえてきた聞きなれぬ声に思考を中断してお二人の方に視線を向けると、マリアさんは周りにいた浮浪児たちにジェラートを分け与えている。
…………まずい。
世間知らずなお嬢様にありがちな施し型の善意だ。
その気持ち自体は尊いものだとは思うが、しかし、こういう思いつきの善意は下手をすると……
「お?なになに?……なーなー姉ちゃん俺も俺も!」
「あのお姉ちゃんがジェラート食べさせてくれるんだって!」
「ほんとかよー!よっし、みんな呼んで来ようぜ!」
案の定、その光景を見つけた周囲の浮浪児たちがお二人を中心に集まり始めている。
さすがにこの事態は予想外だったのか、マリアさんも戸惑った表情になっていた。
「お嬢様、こちらに!」
「え?ひ、土方…………さん?」
「にひひっ!マリア、いっくよー!」
浮浪児の群れをかき分け、マリアさんの手を取って強引に連れだす。
少尉はと言えば、マリアさんの行為にこの結末は予想していたようで、マリアさんのもう片方の手をつかみつつ、いち早く私の開いた通路から輪の外へと駆けだしていた。
「…………ふぅ……ふぅ……」
「にゃははー!ちょっと面白かったねー♪」
「お嬢様、少し御戯れが過ぎます」
広場から数キロ離れた路地裏。
ルッキーニ少尉に導かれるように網の目のような路地を抜けててたどり着いたそこで、我々はやっとひと息着くことができた。
「あの、ル……」
「マリア」
ルッキーニ少尉におそるおそるといった態で声をかけたマリアさんであったが、その言葉は少尉の厳然たる口調に跳ね返された。
「…………ダメだよ。ああいうことしちゃ」
「で、でもあの子たちが私たちのジェラートをすごく欲しそうに見てて、それで」
「うん。その気持ちはわかるよ。マリアが純粋にあの子たちが可哀想って思ってああしたのは。でもね…………」
そこでいったん言葉を切り、少尉は私たちから視線をそらす。
まるで我々にその言葉を発する時の表情を見られるのを恐れるかのように。
「…………覚えておいてね。中途半端な善意は、かえって相手を傷つけることもあるんだよ」
その少尉の言葉はマリアさんには重く響いたようだ。
言葉もなく絶句する彼女。
空気が重くなりかけるが、その雰囲気をいともたやすく壊すのもまた、ルッキーニ少尉であった。
少尉はその次の瞬間、まるで何事もなかったかのような笑顔で振り返るとマリアの手を取った。
「それじゃ、ローマ一日観光の続き、行ってみよー!けーすけもちゃんとついてくるんだよ!」
「え?え?ちょ…………る、ルッキーニさ……わわっ!」
「…………はいはい、仰せのままにお嬢様」
そのまま彼女の手を取り再び駆けだす少尉。
私は苦笑を浮かべると、少尉の後について走り出したのだった。
(Yoshika's Side)
「いませんねぇ…………」
シャーリーさんの運転するトラックでローマ市内を走り回ること小一時間。
ルッキーニちゃんと圭助さんの姿は見えない。
もしかして、何か事故にでも巻き込まれていたりしないだろうか。
心の中に微かな不安が芽生える。
「うーん…………こりゃ警察にでも……おっ!」
「み、見つかりましたか?」
「あそこのカフェのケーキ、すっごく美味そう!」
「…………」
シャーリーさんの言葉に、全身の力が抜けそうになる。
……でも、まぁ、しかし。
確かにシャーリーさんの指差すカフェのケーキは美味しそうだった。
「…………宮藤」
「…………シャーリーさん」
どちらからともなく顔を見合わせるシャーリーさんと私。
「…………ルッキーニ達もしばらく見つかりそうもないし、まぁ、ちょっと休憩にするか」
「…………はいっ」
シャーリーさんの提案に私は、真剣な表情でうなずいたのだった。
これは決してサボりなんかじゃない。
ルッキーニちゃんと二人で姿を消したりする圭助さんが悪いんだ。
…………圭助さんの、バカ。
そう小さくつぶやいた私を、シャーリーさんがにやにやとした表情で眺めていたのに、私は気づかなかった。
(Hijikata's Side)
それから私と少尉とマリアさんの3人でローマ市内の色々な観光地を回る羽目になった。
私としては店に残してきたシャーリーさんや宮藤さんの事が気になるのだが、心から楽しそうにルッキーニ少尉と観光を楽しんでいるマリアさんの姿に、どうしてもその一言が言い出せないでいた。
それに、正直に告白すると、私自身もこの二人の少女との観光を少し楽しんでいたところがあった事を認めねばならないであろう。
―――「真実の口(Bocca della Verita)」――――
「これは『真実の口』って言って、嘘つきが手を入れると噛み千切られるんだよ~~」
「そ、そんな……は、早く他に行きましょうルッキーニさん!」
「だいじょーぶだいじょーぶ!迷信だってそんなの…………」
そう言いながら少尉は口の中に手を入れる。
「あれ?…………んしょ、あ、あれ……ぬ、抜けない」
「しょ、少尉!」
「ルッキーニさん!」
「…………うわっ大変!手が!手が!!」
「る、ルッキーニさん!」
そう言いながら口から引っこ抜かれた少尉の手は手首から先がなかった。
最初は本気で焦った私であったが、さすがにここまでやられるとさすがにいつもの悪ふざけだと気付く。
しかしマリアさんは本当に手が噛み千切られたと信じているようで、その表情は蒼白になっていた。
「……お嬢様、さすがに悪ふざけが過ぎますぞ」
「あれ?気づいちゃった?…………ごっめーん」
私の言葉に、流石にばつの悪そうな表情で舌を出す少尉。
観念したように袖口から手を出してみせる。
「もう!本当に心配したんですから…………ルッキーニさんなんて知りません!!」
「だからごめんって」
流石にマリアさんもからかわれたと気付いたようで、怒ったような表情になるマリアさんと必死に謝るルッキーニ少尉。
そんな姿に、私も思わず笑みがこぼれるのを抑えきれなかった。
―――「トレビの泉(Fontana di Trevi)」――――
「この泉に、こうやってコインを投入れると……」
そう言いながら少尉は、泉に背中を向けて後ろ向きにコインを投入れる。
「またローマに来られるんだって」
「そ、そうなんですか」
そう言って得意そうな顔をする少尉。
…………ローマに住んでいるはずのマリアさんに、「またローマに来られる」も糸瓜もあるまい、などとツッコむのは野暮というものだろう。
しかしマリアさんは存外真剣な表情で手に持ったコインを眺めている。
やがて大きく頷くと、マリアさんは大きく振りかぶって―――
「……マリア!」
「危ない!」
私とルッキーニさんが警告の言葉を発するのはほぼ同時であった。
あまりに大きなモーションでコインを投げたがために、バランスを崩して池に転落しそうになるマリアさん。
それを支えようとしたルッキーニさんもまた、つられるように泉に向かって落ちている。
それを見た瞬間、私の体は自分でも驚くくらい素早く動いていた。
倒れ行くお二人のに向かって手を伸ばす。
間一髪、泉に落ちる前に腕をつかむことができたのは僥倖であった。
「けーすけ?」
「ひ、土方…………さん?」
「お二人とも失礼します!」
そのままお二人が泉に落ちる前に後ろへ向かって放り投げるように引っ張る。
何とか泉に落ちることは阻止できたものの、勢いをつけすぎた私の体までは止まることは出来なかった。
そして、大きな水しぶきが上がる。
「…………けーすけ、その」
「あ、あの……ご、ごめんなさい」
「いえ、お気になさらず。それよりどこか怪我等はされなかったでしょうか?」
「うん。けーすけのおかげだよ」
「私もです…………その、あ、ありがとうございます」
びしょ濡れになった私に、お二人が心配そうに声をかけてくるが、私は気にしないようにと笑顔を向ける。
私としてはお二人が無事であっただけで御の字である。
どうせこの陽気だ。
歩いているうちに服も乾くだろう。
「うーん…………」
「…………」
「……そうだ!」
そんな私をじっと見つめるお二人。
流石に少々照れ臭く、思わず目をそらした私に、少尉はよいことを思いついたとばかりに手をポン、と打つ。
マリアさんと何事か確認するかのように顔を見合わせて頷くと、私の方に向き直った。
「けーすけ、ちょっとついてきて」
「い、いえしかし、私たちはそろそろシャーリーさんたちと合流…………」
「い・い・か・ら!ちゃんとついてくるんだよ」
「……は」
よく分からない少尉の迫力に押されるように、私は少尉に手をひかれるままに歩き出した。
「じゃーん!ここです!」
少尉に手をひかれるままに歩くこと数分。
私はとある大きな男物の衣料品店の前に来ていた。
「せっかくだから私とマリアでけーすけの服を見立ててあげるよ」
「あ、あの私たちのせいでこんなことになっちゃったので…………せめてもの償いをさせてください」
「い、いえ、わた」
「遠慮しなくっていいから!けーすけっていつも地味な軍服じゃん。たまには他の服着たとこも見てみたいよ」
反論しようとする私の声は少尉の声にかき消され、かくして私はお二人につれられるままにブティックのドアをくぐることになったのであった。
「うーん……どれがいいと思う?」
「土方さん、背も高くて体つきもがっしりしてらっしゃいますから、こういう堅苦しいフォーマルなものよりも……」
「えー?でもこういうのも似合いそうな気がしない?」
「…………そ、それは、そうですけど」
「だよねー!この際だからいろいろ試してみようよ!」
先ほどから当事者である私をそっちのけにしてお二人による品評会が開催されている。
私の前には、お二人によってえらばれた服が小さな山を作っており、時とともにその山は高さを増していっていた。
「あ、あの……」
「もうちょっと待っててね!あと2~3着選んだらとりあえず試着してみようか」
「す、すいません…………あの、あとちょっとですから」
その言葉に、私は浮かしかけた腰を再び椅子へと落ちつける。
…………しかしその日、私は一つの教訓を得ることになった。
――――女性の買い物の「あとちょっと・もうちょっと」は信用してはいけない。
…………と言うことで今日はここまで。
先だっても申しあげました通り冬コミ準備のため更新速度が落ちますことをお詫び申し上げます。
次は15日ごろには必ず。
筆が進んだ場合はその前の週の週末に来るかもですが。
それでは。
乙!
土方君イケメンすなぁ
乙ー
楽しみにしてる
乙!
やっと追いついたぜ!
面白いなこれ。
乙!
土方…いい思いしやがって!!くーーーっ!
セルフage
皆様、レスありがとうございます。
再びセルフage
すいません。やはり投下は来週になりそうです。
出来れば週末前に何とかしたいですが。
おk楽しみにしている
おkおk
楽しみにしてる
こんにちは。
何とか完成しました。
投下しますね。
「けーすけ!すごく似合ってるよ」
「はい!すごくお似合いですよ」
優に小一時間は悩んだ末にお二人が選んだのは無難なジャケットにネクタイというカジュアルな服。
お二人は褒めて下さったものの、着慣れない服装であるには変わりなく、どうも街行く人々の視線が私に集まっているようで居心地が悪い。
「…………そう?」
そのことを告げても、少尉はわれ関せずとばかりに私とマリアさんの前を歩いている。
「きっとけーすけがすごくかっこいいからつい見ちゃうんだよ」
そう言って悪戯っぽく笑うと、少尉は振り返って私とマリアさんの手を取った。
「それじゃ、最後に私のとっておきの場所に案内するね!」
「…………はい!」
「……は」
少尉の笑顔に、つられるように私とマリアさんも笑顔になる。
こういった天真爛漫なところは少尉の得がたい魅力であろう。
私はマリアさんと顔を見合わせて笑顔を交わすと、少尉に引っ張られるようにして再び走り出した。
そして少尉に導かれるようにして最後にたどり着いたのは、バチカン市国内のサン・ピエトロ大聖堂であった。
「どうマリア?ここから見る景色が、一番私は好きなんだ」
「…………美しい」
マリアさんが感極まったかのように呟く。
少尉が得意そうに胸を張るだけはあるといえるだろう。
確かにこの場所からはローマの街が眼下に一望でき、その眺めは言葉を失わせるに十分であった。
「…………家に帰らないで、ずっとこの場所に居たいです」
何気なく呟いたマリアさんの一言に、出会ってから感じ続けていた違和感が再び鎌首をもたげる。
この方の仰った「家」という言葉は、何かもっと大きな意味を含んでいるように私には思われた。
「じゃあ、ずっといればいいじゃん」
「……ふふ、そうですね」
ルッキーニ少佐の無邪気な言葉に微笑むマリアさんの表情はどこか寂しげで。
「この街を、ローマを守ることが、私にできるでしょうか…………」
続けてポツリとつぶやいたマリアさんの一言。
その言葉に、私の記憶巣はさらに強く刺激された。
ローマを、守る…………
ただの一少女がつぶやくにはあまりに重い言葉である。
(まさか…………)
数分間の記憶の検索の後、私は一つの名前にたどり着いた。
それは俄かには信じがたい名前ではあるものの、改めて今までのマリアさんの言動や振る舞いを思い出してみると、私の推測を否定するどころか補強するものばかりであることに気付く。
(信じがたいが……おそらくは…………)
「あれ?けーすけ、マリアの事じっと見つめちゃってどったの?」
「あ、い、いえっ、何でも」
私の思考を中断したのは少尉のお言葉であった。
ついつい思考に没入するあまり失礼なほどに視線を向けすぎてしまったようだ。
……まぁ、私の推測が真実である保証もないし、仮に真実であっても本人は絶対に名乗らぬであろうから私がとやかく言うことでもないだろう。
しかし、続いての少尉のお言葉は私の予想の斜め上を行くものであった。
「…………さては惚れたな?」
「……え、ええええっ?」
目を上げると、にやにやと笑う少尉と戸惑ったようなマリアさんの姿が飛びこんでくる。
思わぬ方向に話が飛躍し、思わず声が一オクターブほど高くなった。
「あ、い、いえ、そ、そのようなことは…………」
「いっけないんだー。坂本少佐が聞いたら怒るよー」
「で、ですからそういうことでは」
「ふふ、分かってる分かってるって。坂本少佐には言わないでおいてあげるから。そのかわりこの後ピザおごってね」
「いえ、その」
坂本少佐という名前に覚えず顔が赤くなる。
そんな私の態度に、少尉にマリアさんまでもがおかしそうに笑っていた。
ひとしきり笑った後、少尉はマリアさんに切り出した。
「……ね、本当はもう一つ、見せたい景色があるんだけど」
「それはぜひ見てみたいです!」
ここからの眺めに匹敵する景色か。
それは私も見てみたいものだ。
マリアさんも同じ気持ちのようだったが、そんなマリアさんの答えに少尉の方はやや困ったような表情になる。
「あ、でも今はちょっと…………」
「………そうですか?では、またの機会に」
「うんっ!」
マリアさんの言葉に、少尉がそう答えた時であった。
ウウウウウウーーーーーーーッ!!
晴れた空を劈くように、サイレンの音が響き渡った。
(Yosika's Side)
「うっそだろ!奴らローマにまで南下してきてるのかよ!」
不意に響き渡ったネウロイ警報に、今までおいしそうにケーキをほおばっていたシャーリーさんの表情が引き締まる。
ここローマはロマーニャの中でも南の方に位置する。
ここまでネウロイが南下しているとなると…………私たちの基地も安心してはいられないのかもしれない。
「まさかの時のために持ってきたユニットが役に立つとはな……宮藤、乗れ!」
「はいっ!」
シャーリーさんの言葉に我に返った私は、あわてて動き出したトラックに飛び乗る。
「ルッキーニ……こんな時にあいつは何をやってんだ全く」
「…………」
シャーリーさんが苛立ったようにハンドルを叩く。
こんな風に苛立っているシャーリーさんを見るのは初めてかも知れない。
そんな風に考えていると、急にシャーリーさんがこちらを振り向いた。
「宮藤!地図だ!」
「え、え?ち、地図ですか?」
「ああ。ユニットを発進させるにはある程度開けた場所が必要だ。こんな街中で発進させたら周りの建物に被害が出ちまう。発進できそうな広場を探してくれ」
「は、はい!」
シャーリーさんの言葉に、私はダッシュボードより地図を取り出して眺め始める。
今いるところがここで…………こっちに向かってるから……
数分間地図と格闘した後、私は一つの広場に赤鉛筆で丸を付けた。
「シャーリーさん、ここです!」
「サン・ピエトロ広場か…………よし!……しっかりつかまってろよ!」
「は、はい……きゃっ!」
私がその言葉に反応するのも待たず、シャーリーさんが大きくアクセルを踏み込んだ。
(Hijikata's Side)
「……早く逃げないと!」
ネウロイ警報を聞いたマリアさんはそう言って少尉の手を引こうとする。
しかし、少尉はその手を柔らかく振り払うと、マリアさんに笑顔を向けた。
「マリアは逃げて。私は…………行かないと」
「え?行く?」
驚いたような表情になるマリアさんに、少尉は自分の帽子を握らせる。
それは先ほど私とともに洋服店に行ったときに買ったものであった。
「これ持ってて」
「あ、あの、ルッキーニさん、貴女は……」
「ルッキーニちゃーーーーん!圭助さーーーん!」
その時であった。
マリアさんの言葉を遮るように、下の広場の方から声が聞こえてくる。
下を見ると、宮藤さんが見覚えのある大型トラックの窓から手を振っているのが見えた。
「芳佳!ナイスタイミング!」
弾けるような笑顔でそう言うと少尉は柵を乗り越え、寺院の丸屋根の上に立つ。
「る、ルッキーニさん、危ないですよ!」
焦るマリアさんに、少尉は笑顔を向ける。
それは今までの無邪気な笑顔ではなく、祖国を守る覚悟を負った一人の戦士の笑み。
「私…………行かないと。……ウィッチだから!」
「ウィッ……チ…………?」
俄かに明かされた真実に驚いた様子のマリアさん。
そんなマリアさんから、少尉は私へと視線を移した。
「じゃ、けーすけ兄ちゃん、マリアを安全なところに連れてってあげてね」
「は。少尉殿」
私は少尉の言葉に敬礼を返す。
そんな私に向けて小さく頷いて見せた後、再びマリアさんに向けて小さく手を振った少尉は、勢いよく屋根を滑り降りていく。
…………相変わらず桁外れの身体能力である。
「私、ウィッチだから!ロマーニャを守らないと!」
「…………っ!」
下から聞こえてきた少尉の言葉に、はっとした様子のマリアさん。
その様子は、先ほどの私の推測は確信に変わっていた。
(やはり、この方は…………)
私はマリアさんの前に跪くと頭を垂れる。
「ここは危のうございます。どうか安全な場所にご避難を。不肖私、土方がご案内申し上げます」
「…………土方、さん」
私の態度の急変に、マリアさんも何か気づくところがあったのだろう。
マリアさんの纏う雰囲気ががらりと変わるのが分かった。
私は視線を上げぬままに言葉を続ける。
「初めて御意を得ます。ロマーニャ公国第一公女、マリア・ピア・ディ・ロマーニャ殿下。私は扶桑海軍横須賀鎮守府所属、土方圭助兵曹であります」
「……いつから気づいておられたのです?」
「確信が持てたのはつい先ほど。しかし今までの殿下の言動に、いくつか違和感を覚えていたのも事実です」
「そうですか…………」
そこで言葉を切ると、今までとは違った凛とした口調でマリア……殿下は言った。
「では土方兵曹。ロマーニャ第一公女として命じます」
「は」
「貴方が先ほど言った、私の身分を忘れなさい。ここにいるのは貴方とルッキーニさんに助けていただいた、マリアという人間です」
「…………へ?」
時が止まった、というのはあのようなことを言うのだろう。
あまりに予想を裏切る殿下の言葉に、私は思わず間抜けな声を上げる。
「聞こえませんでしたか?私の身分を忘れなさい、と言ったのです。これ以上は繰り返しません」
「……は、ははっ」
どうにかそう答える。
その返事を待っていたかのように、私の目の前に小さな白い手が差し出された。
「……これは?」
「ではお立ち下さいな。それに、あなた方も私に嘘をついていたのでしょう?」
「…………は。申し訳ありません」
その言葉に非難するような調子は含まれていなかったが、それでも背中に一筋の冷や汗が伝うのは仕方のないところであろう。
マリアさんは言葉を続ける。
「その、ルッキーニさんの本当の身分を教えて頂けません?」
「ロマーニャ公国第4航空団第10航空群第90飛行隊所属……そして今は第501戦闘航空団に出向しておられるフランチェスカ・ルッキーニ少尉です」
「501……あのストライクウィッチーズの一員だというのですか?」
「はい」
マリアさんの声に微かな驚きが混じる。
どうやら、ここロマーニャにもストライクウィッチーズの名は広まっているようだ。
「そうですか……フランチェスカ・ルッキーニ少尉…………」
確かめるようにつぶやきつつ、マリアさんは視線を空へと移す。
視線の先では、ストライカーユニットを穿いたルッキーニ少尉が宮藤さんやシャーリーさんと合流してネウロイへと向かっていくのが見えた。
しかし、まさか本当にストライカーユニットが役に立つ事態になるとは。
「…………土方さん」
「は」
そのまま視線をそらすことなく、マリアさんは私に声をかける。
そして彼女の口から紡がれたのは、ある意味私の想像通りの言葉であったた。
「ここでルッキーニさんのこと見ててもいいですか?」
「…………殿下のお心のままに」
「『殿下』は無しですよ。さっき言ったじゃないですか」
「……これは失礼を」
そこまで言うと、私とマリアさんはどちらからともなく顔を見合わせて笑ったのだった。
…………というところで投下終了です。
中々話が進まなくて申し訳ないです。
次あたりで「私のロマーニャ」は終わらせたいのですが。
次に控えるのがエイラーニャ回の「空より高く」なので無駄に気合が入りそうな悪寒w
それでは。
次でお会いしましょう。
乙乙!
エイラーニャ回で土方が何をするのかすごく気になる
乙
相変わらず面白い
乙!!
次も楽しみにしてます!
エイラーニャ回は楽しみですね。
土方がどうなるか…
前スレのいちゃいち分多めのところのログ読んでてふともうすぐクリスマスだということを思い出して鬱になった
(´;ω;`)
セルフage
>>253
クリスマスは中止になったので大丈夫です
もうすぐ冬コミですねー。
今回も本出しますよ。
3日目ヒ-32a「海の漢」
前回と同じ海自本です。
お暇な方はどうぞ。
冬コミ行けない俺涙目
すいません。
本当は年内にもう一話あげるつもりでしたが冬コミ準備と冬コミが忙しくて微妙な感じです。
最後まで努力は続けるつもりですのでどうかご容赦を……
そっち優先してくれ、コミケは期限があるんだから
あとコミケ後で疲れてるときに無理に書こうとしなくてもいいからな?
こっちは暇なときにでもゆっくり書いてくれや
と思ったが書き込むのがちょっと遅かったな
あけましておめでとうございます
何とヌクモリティあふれるレス……ありがとうございます
冬コミも無事終わったのでまた頑張って続き書いていきますね
あけおめ、冬コミお疲れさん
今年も無事に終えてよかったよ
あけましておめでとう。
今年もこのスレにお世話になります。
こんにちは。
コミケも終わり何とか書き終えることができましたので投下します。
コミケに来て下さった方、ありがとうございました。
「…………すごい。あれが伝説の魔女達」
殿下は上空で繰り広げられるネウロイとの空中戦にそんな感嘆の言葉を投げる。
眼前では宮藤さん、シャーリーさんと共にネウロイ相手に優勢に戦いを進めるルッキーニ少尉の姿があった。
しばらく感嘆して眺めていた殿下であったが、やがて視線はそのままに、ポツリポツリと話し始める。
「土方さん」
「は」
「今までの私は、不自由な身分を嘆くばかりでした。ロマーニャ第一公女なんて見栄えのよいお人形みたいなもの……こうしてローマ市内を散歩することすら供の者なしにはできない。こんなことでロマーニャの民を守ることができるのか、いつも自問してきたと言っていいでしょう」
「…………」
堰を切ったように始まる殿下の独白に、私は返事を返さない。
それは私に話しかけるというよりむしろ、眼下に広がるローマに住む市民、ひいてはロマーニャ全土の民に向けられたものであったように思えたから。
「でも、ルッキーニさんの姿を見て、そうして実際に民たちの生活に触れて気づかされた気分です。今までの私は『何もできない』のではなく『何もしようとしなかった』んだって」
「…………」
いつのまにか殿下の視線は私の方に向けられていた。
その姿は、506基地で見かけたヴィスコンティ大尉のお姿と重なる。
どちらも自分の手で祖国を守れないことへの悔しさを吐露しておられた。
「出来るとか出来ないじゃない、するかしないか。ルッキーニさんは何の迷いもなく言い切りました。『行かなきゃ』って」
「殿下……」
「だったら私も考える前に行動してみようと思うんです。私にしかできないことを。……『ノーブレス・オブリージュ』って陳腐な言葉ですけど、やっとその言葉の意味が実感できた気がします」
再び殿下は視線を上空に転じる。
戦いは終盤を迎えており、ルッキーニ少尉のバリアをまとった体当たりによりまさにネウロイのコアが破壊されようとするところであった。
「私、ルッキーニさんと土方さんにお会いできてよかったです」
「は」
そう言ってこちらに笑顔を向けてくるマリア様。
その時であった。
「マーリアーーーーー!」
ネウロイを撃破したルッキーニ少尉がそう言いながら一直線にこちらに飛んでくる。
「ルッキーニさん、すごかったです」
「ありがと。…………それとマリア。今から見せてあげるね」
「…………え?え?な、何を?」
戸惑うマリアさんを横抱きにすると、少尉は一路空へと駆け上がっていった。
…………なるほど。
少尉のおっしゃっていた「見せたいもの」とはこれのことか。
坂本少佐に抱えられて「空を飛んだ」時のことがよみがえる。
もうひと月も前のことであるが、今でもあの時の光景は脳裏に焼き付いている。
願わくばこの体験が、殿下の心に何らかの印象を残すことを願わずにはいられなかった。
「よ、土方の兄さん」
「圭助さん」
「宮藤さんにシャーリーさん…………その」
ふいにかけられた声に振り向くと、宮藤さんとシャーリーさんがストライカーユニットでホバリングしつつ私の側に来ていた。
買い出しの途中で持ち場を放棄してはさすがのお二人も怒っておられるだろう。
謝罪の言葉を発するため口を開きかけるが、その言葉はシャーリーさんの言葉によって遮られた。
「いいよ…………まぁ兄さんが訳もなく任務放棄するような人じゃないってのは分かってる。それよりあの女の子は何者だい?」
「そうです!それに、ルッキーニちゃんと今まで何やってたんですか!」
宮藤さんの言葉にシャーリーさんがにやにやとした笑みに変わる。
「お、それは私も興味あるな」
「あ、いえ、それは…………」
まさか本当のことを正直にいう訳にもいかず、それからしばらく、私はお二人の質問を必死でかわし続けるはめになったのだった。
「…………一人で帰れる?」
「はい。今日はとても素晴らしい一日でした」
夕方。
予定していた買い物も終わり、殿下とルッキーニさんが別れの挨拶をしていた。
「土方さんも、ありがとうございます」
「は」
そう言って殿下が頭を下げる。
公女殿下ともあろう方に頭を下げられるというのは何とも面はゆいものだが、ここで表情に出しては宮藤さんたちに要らぬ疑念を抱かせることになる。
結局宮藤さんとシャーリーさんのお二人には殿下のご身分は隠してほぼありのままを話すこととなってしまった。
「…………そりゃまた大した大冒険だったな」
「なんだか映画みたいですね」
私の話に、お二人はそう言ったのみで特にそれ以上の追及はしてこなかった。
…………もしかしたらシャーリーさんあたりは何かに気付いておられたかもしれないが。
「私は、私のなすべきことに気付きましたから」
「…………そっか。頑張ってね。マリア」
「はいっ!」
少尉には殿下のお言葉の意味はおそらく分からなかったであろう。
でも何か憑き物が落ちたようなその表情に何かを感じ取ったのか、少尉は詳しく聞くことなく笑顔で頷いたのであった。
「ばいばーい!マリア!まったねー!」
トラックの荷台から、遠ざかっていく殿下に手を振る少尉。
殿下の姿が見えなくなるまで手を振り続けると、少尉は急に私に向き直り、私の財布を差し出してきた。
「あ、そう言えば兄ちゃんのお金、返すね」
「…………これはどうも」
「ごめんね。結構使っちゃった。いつか返すよ」
「いえ、お構いなく」
「うー…………それじゃ私の気がすまないよ」
どうせ使う宛もなかった金である。
私の返答に少尉はやや不満そうに眉をひそめるが、やがてどこか悪戯っぽい笑みを浮かべると、
「じゃあさ、兄ちゃん」
「は」
その笑顔のまま急に私の方に顔を近づけてくる。
不意に視界に現れた少尉の顔に思わず心臓が大きく跳ねた。
「これから……一生かけて返していくってのはどう?」
「…………え?それはどういう」
「しらなーい。自分で考えなさいっ。…………今日は疲れちゃった。もう寝るから着いたら起こしてね」
そう答えると少尉はそのまま荷台の縁に凭れて眠り込んでしまい、あとは私がいかに声をかけようと起きることはなかった。
「シャーリーさんたち、お疲れ様でした。まさかネウロイと戦うことになるとは思わなかったけど…………どうやら問題なかったようね」
「まぁ私たちにかかれば楽勝だよ。な、ルッキーニ!」
「うん!」
基地のブリーフィングルームにて。
ヴィルケ中佐よりねぎらいの言葉を受けるシャーリーさんたちを横目に、私はエイラさんに頼まれた枕を渡す。
「エイラさん、どうぞ」
「言ったものはあったか?」
エイラさんに枕を渡す。
ネウロイを倒してから夕方まで時間があったため、隊員の皆様から頼まれた買い物も済ませることができたのは僥倖であった。
「それと、これは私からエイラさんに」
「…………へ?」
私のさしだすもう一つの包みに、エイラさんが怪訝そうな視線を向けてくる。
「リトヴャク中尉とお揃いにしておきました」
「…………ああ」
続く私の言葉に、しばらく無言で包みを見つめていたエイラさんがやっと理解したように小さく声を上げる。
「べ、別に私の分はいいって言っただろ?」
「でも、ついででしたので…………」
「エイラ、ダメだよ。せっかく土方さんが買ってきてくれたものに文句つけるなんて」
「う…………」
リトヴャク中尉に窘められ、言葉に詰まるエイラさん。
何だか母親に叱られるやんちゃな娘といった風である。
「……何がおかしい」
「あ、いえ、その、別に」
どうやら表情に出てしまっていたらしい。
エイラさんに睨まれてしまった。
「……でも、ま、その、礼は言っとく。…………ありがと」
「いえ、どういたしまして」
私から視線をそらしてそう言ってくるエイラさんの頬は赤く染まっていた。
「――――さて、本日初の公務の場である園遊会にお出ましになったロマーニャ公国第一公女、マリア殿下からお言葉です」
ブリーフィングルームの中央に置かれたラジオがノイズ交じりにアナウンサーの言葉を伝えている。
電波状況は問題なさそうだ。
アナウンサーの声も鮮明に聞こえてくる。
「昨日、ローマはネウロイの襲撃を受けました。しかし、そのネウロイは小さなウィッチの活躍によって撃退されたのです。その時私は、彼女からとても大切なことを教わりました。この世界を守るためには、一人一人ができることをすべきだと。私も、私にできることでこのロマーニャを守っていこうと思います。ネウロイを撃退して下さった501戦闘航空団だけでなく、現在このロマーニャを守るために全力を尽くして下さっている504,506の戦闘航空団、多くのウィッチの皆様方に、心からお礼を申し上げます」
ラジオから聞こえてくる公女殿下の声は凛として落ち着いているが、それでもその声にはローマで出会った「マリアさん」の面影を感じることができた。
「驚いたな」
私の隣でそのように声を上げたのは私と共にラジオを聞いていらっしゃったウィトゲンシュタイン少佐。
「まさか公女殿下が我ら506の名を出して下さるとは」
「そ、そうですね」
――――だったら私も考える前に行動してみようと思うんです。私にしかできないことを。
そうおっしゃった公女殿下の口調と表情が脳裏によみがえる。
…………これがその答えという訳か。
思わず口元が綻んでしまう。
「…………まぁよい。これで506への評価も少しは変わるであろう。公女殿下は中々にできたお方のようだな」
「は。それは保証いたします」
「ん?貴様がそのように人に肩入れするなど珍しいの」
返答する声に必要以上に力がこもってしまったようだ。
少佐が不審そうな目を向けてくる。
しかし、それも数瞬のうちに消え、少佐はにやりとした笑みを浮かべると私に近づいてこられる。
「それはそれとして…………妾の頼んだもの、買ってきたかや?」
「…………は」
「妾に似合いそうなものを主が選べ」という随分な無茶ぶりだ。忘れるはずもない。
「うむ。では早速よこすがよい」
「は」
そう言って包みを渡す。
正直気に入っていただけるかは神のみぞ知るというところだが。
「これは…………帽子か?」
「はい。少佐のお綺麗な髪に似合うかと思いまして」
私が選んだのは白い毛皮のついた円筒形の帽子であった。
「…………お綺麗な髪、か。貴様も言うようになったの。506に派遣したのは間違いではなかったか」
「きょ、恐縮です」
「そう畏まるな。貴様からの贈り物を妾が気に入らぬわけがなかろう…………似合うかや?」
早速帽子を頭に載せ、感想を聞いてくる。
少佐の銀髪と白の帽子は見事にとけあっており、私も一瞬見とれてしまうほどであった。
「その態度が何よりの返事じゃ。ありがたく受け取っておくぞ」
「は」
少佐はそうおっしゃると、満足そうに去って行かれたのであった。
「……ルッキーニから聞いた。ずいぶんな冒険をしてきたようだな」
坂本少佐が苦笑交じりに声をかけてこられる。
振り返った視線の先では、ルッキーニ少尉が自分の冒険譚を2割増しほどの脚色を加えて皆に話していた。
少尉の話の中では少女を守るために私と少尉がマフィアと銃撃戦を繰り広げたことになっている。
少尉らしいその様子に、私の方もつられるように苦笑する。
しかし、話がネウロイのことに及ぶと少佐は不意に表情を引き締めた。
「しかし、ローマにまでネウロイが南下してきているというのは見逃せんな。この基地の防御も強化しておくべきであろう。土方、疲れておるところを済まんがこの後付き合ってもらうぞ」
「は」
「しかし、今の公女殿下のお言葉には感服した。あのような形で感謝の言葉を述べられては我々も発奮せざるを得んな。公女殿下はお若い方と聞くがなかなかの方のようだ」
ウィトゲンシュタイン少佐と同じお褒めの言葉に、再び綻びそうになる口元を引き締めると、私は本日最後の、そして最大のミッションを果たすべく坂本少佐に相対した。
「あの…………坂本さん」
「どうした?」
「その、お、お気に召しますかわかりませんが…………これを」
そう言いつつ懐から一つの包みを差し出す。
坂本少佐に贈るものである。
十分に選んだつもりではあったが、いざ気に入ってもらえるかどうかというと自分自身のセンスにいまいち信を置けぬところがあった。
「なに…………?」
不意を突かれた様に沈黙する少佐であったが、私の差し出すものと表情に気付くと、怒ったような笑ったような中途半端な表情になって視線を逸らす。
「ま、全く貴様は…………何もいらんといったのに……妙に律儀な奴だ…………まぁその、一応礼は言っておこう」
「その…………お気に召していただければ光栄です」
「う、うむ」
そう答えると少佐は受け取るのももどかしく包みを破り捨てる。
「これは…………髪飾りか?」
「は。その、ほ、本当は……簪などがあればよかったのですが、ロマーニャではそれもままならず……しかし、黒髪には似合うと店員も言っておりましたし…………」
「そ、そうか……うむ。その、こ、こういうものは持っていなかったしな…………感謝する」
そんな少佐の言葉に、私も顔を赤くして沈黙するしかなかった。
(Minna's Side)
「…………何やってんのかしらあの二人」
まるで子供のように顔を赤らめている二人を見て思わずため息をつく。
隣でシャーリーさんがわれ関せずとばかりに笑っていた。
「いいじゃん。見てて面白いし。もう少し見守っていきたいぜ」
「はぁ。美緒と土方くんの事だし、何もないようなら要らない口出しをする気もないのだけど…………」
「なるようになるさ。な、宮藤」
そう言ってシャーリーさんは傍らの宮藤さんへと視線を転じる。
「ぐぬぬ」
宮藤さんは宮藤さんで意味不明の唸り声をあげながら土方くんと美緒の方を見つめていた。
シャーリーさんは相変わらずにやにやとそんな宮藤さんに生暖かい視線を送っている。
そんな二人の様子に私は、もう一度ため息をついたのだった。
その時、私の思考を中断させるかのように、ラジオからノイズ交じりの声が再び聞こえてくる。
「最後に、私の大事な友人である第501戦闘航空団のフランチェスカ・ルッキーニ少尉と、土方圭助兵曹に個人的な感謝の言葉を述べさせていただきます。本当にありがとうございました」
「「えええええええーーーーーーーっ!!」
シャーリーさんと宮藤さんの驚きの声が、ブリーフィングルームに響き渡った。
「ひ、土方…………なぜ公女殿下が貴様の名を?」
「あ、いえ、それはその」
視線を転じた先では美緒が怒ったような戸惑ったような表情で土方くんに詰め寄っている。
――――また、騒がしくなりそうね。
心の中でそう思いながら、私は本日何度目かになるため息をついたのだった。
……と、言うことで新年最初の投下、終了です。
前話からかなりお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
これで「私のロマーニャ」は終了。
次はエイラーニャ回の「空より高く」です。
無駄に気合が入りそうな予感ですが、笑ってお付き合いくだされば幸いです。
それでは。
乙
一国のお姫様に名前呼ばれるってすごいことだよね実際wwww
おつ!
をーーーー!2828とまんねー!!
乙!
乙
にやにやにや
セルフage
にやにやして下さって何よりですw
「補給も無事済んだし、また貴様の飯が食えるな」
「は。恐縮です」
夜の廊下を坂本少佐と二人で歩く。
もう何度目になるかわからないこの見回りであるが、いまだに些か緊張してしまうのは仕方のない事か。
「しばらく扶桑にも帰っていないが、懐かしくなったりはしないか?」
「いえ。軍人である以上慣れました」
特にウィッチの従兵などやっていると命令一本で地球の反対側まで異動、などということが珍しくもない。
一々感傷に浸っていた時期もあったが、次第に慣れてくるというものだ。
それに…………
――――世界中どこであろうと、坂本さんの傍が私の帰る場所と心得ております。
「…………ん?ど、どうした土方」
「い、いえ、何でもございません」
今私は何を口走ろうとしたのか。
思わず少佐の視線から目をそらす。
少佐の頬も心なしか赤いように見える。
「……」
「……」
なんとなく話の接ぎ穂を失い、お互いに口を閉ざしたまま歩く。
そんな我々を、
月だけが照らしていた。
というわけで第5話完結で一区切りつけるために日常安価です。
対象になるのははミーナさんじゅうきゅうさい、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、エイラさん、サーニャちゃん、ペリーヌさん、リーネちゃん、芳佳、もっさん、ハインリーケ姫の12名。
安価ゾーンはここから10レス下の>>291まで。
最もたくさん名前の登場した方が安価ということにします。
同一IDによる複数投票は1票とみなし、同票が複数あった場合は最初にその数に達した方を安価達成とします。
>>291までいかなくても明日の夕方ごろに締め切ります。
それでは。
もっさん!
シャーリーさん
シャーリー
さーにゃん
よしか!
シャーリさん
ハルトマン
サーニャ
芳佳ちゃんに一票
芳佳ー!
シャーリー
シャーリー3票、芳佳3票ですがシャーリーさんの方が早かったのでシャーリーさんですね。
……っていうかシャーリーさん3回目じゃねーかw
それで、この連休中に書き上げるつもりだったのですが、親戚の不幸事が急に持ち上がりましてこの3連休が完全に潰れそうです。
申し訳ありませんがシャーリーさんSSは少しお待ちください。
シャーリーさんは同一のがあるから芳佳じゃないか
本当だ
やったー!
しかしどんだけ安価で選ばれようとシャーリーさんだけはフラグ立ちそうにないな
逆に程よい距離感のある友人としてならシャーリーさんのポジションは最高
あ、本当だ。
同一IDですね。
ということで芳佳ですね。
何気に芳佳は初めてなので頑張ります。
>>293に書いた理由でちょっと遅くなると思いますが、ご容赦ください。
やったー!
ついに芳佳だー!
芳佳!芳佳!
>>293
なんというか、大変だな
気の利いた一言でもかけようと思ったが、思いつかなかった、すまない
すいません。1です。
やっといろいろなことが落ち着きましたので執筆再開します。
何とか2~3日のうちには安価分だけでもあげたいと思います。
間が空いてしまい申し訳ありませぬ。
皆様お気遣いありがとうございます。
こんばんは。
長らくお待たせして申し訳ありません。
安価の芳佳SSです。
「今日はここまでにするか。ではな」
「は」
坂本少佐と別れ、自分の部屋へと歩みを進める。
さすがに今日はいろいろなことがありすぎて些か疲れた。
明日からの業務に支障が出ないように早く帰って休むべきだろう。
そう思って自分の部屋に続く廊下を曲がった時であった。
(…………ん?)
私の部屋の前にたたずむ小さな人影が目に入る。
その人影は私の部屋の前で行ったり来たりを繰り返しては、時折ドアに近づいては再び離れ、といった奇行を繰り返していた。
不審者か、と一瞬緊張するものの、そのあまりに無防備な挙動にその可能性を一瞬で否定する。
警戒はしつつもゆっくりと近づいていくうちに、暗闇に慣れた両目がその人影の輪郭をはっきり浮かび上がらせていった。
それは私にとって見覚えのある人影で…………
「宮藤さん?」
「うひゃああっ!……け、圭助さん」
私の目の前で驚いたようにへたり込む姿は、間違いなく宮藤芳佳軍曹の姿であった。
「あ、あの……」
「私に何か御用ですか?」
「え、えっと…………はい」
宮藤さんは手をバタバタさせつつも少しづつ落ち着きを取り戻してきたようで、私の言葉に頷く。
こんな時間にわざわざ訪ねてくるというのはよほど重大な要件なのであろうか。
……その相手が私というのが今一つ解せないが。
ならばこんなところにいつまでもへたり込ませておくことはないだろう。
私は宮藤さんに手を差し出しつつ、声をかけた。
「それでは食堂にでも」
「あ…………そ、そうです、ね……」
さすがにこんな時間にウィッチの方を私の部屋に入れるのは問題があるだろう。
そう思っての提案だったのだが、なぜか宮藤さんは落胆したように目を伏せた。
気まずい沈黙が流れる。
その空気を何とか打ち破るべく再び口を開こうとしたところで宮藤さんが急に立ち上がった。
「あ、あのっ!」
「はいっ!?」
そのまま妙に真剣な表情で鼻がくっつきそうなほどに顔を近づけて来る。
思わず直立不動で宮藤さんの次の言葉を待ち構える。
宮藤さんは一瞬ためらうものの、何かを決意したように口を引き結ぶと言葉を発した。
「そ、その、け、圭助さんのお部屋では…………だ、ダメでしょう、かっ!」
「え…………」
言い切った宮藤さんはそれから一言も発せず、目を固く瞑って身をすくませている。
…………どうも私の返事を待っているようだ。
その叱られる直前の子供のような態度に、訳もなく罪悪感が湧きあがってくる。
たっぷり1分ほどの沈黙の後、私は返事をする。
「…………分かりました。しかし、ドアは開け放させていただきます」
「あ、は、はいっ!」
私の言葉に、宮藤さんの表情が一瞬にして笑顔に変わる。
…………しかし、私の部屋などにここまでこだわる理由は何だろうか。
周りに女性しかいない環境で、単に男の部屋というのが珍しいのかもしれないが。
「へぇ……さすが軍人さんですね。すごく整頓されてます」
「恐縮です。殺風景な部屋で申し訳ありませんが」
日中はほとんど坂本少佐について回っているおかげで、この部屋にはほとんど寝に帰っているだけである。
宮藤さんの年頃の女性の興味を引きそうなものなど皆無であろう。
それでも感心したようにあたりを見回す宮藤さんに些か恥ずかしい気持ちになってくる。
不意に宮藤さんが尋ねてきた。
「そ、その…………坂本さんはここに来たこと……あるんでしょうか」
「は。何度か」
「そ、そうですか……」
私の言葉に宮藤さんが何故か再び表情を曇らせる。
その表情に、思わず自分でもよく分からない弁解をしてしまった。
「あ、で、でも…………一回だけですし!み、宮藤さんは二人目ですよ!!」
「え?あ、そ、そうなんですか?」
その言葉に心持ち宮藤さんの表情が和らぐ。
妙に居心地の悪い沈黙が数十秒流れる。
…………と、とりあえずこのまま二人で立ちっぱなしというのも間抜けな話だ。
宮藤さんに椅子を勧めると、私も宮藤さんと相対するように座った。
「それで、ご用件というのは…………」
「は、はい、えっと、その、え……?」
私の言葉に、驚いたような表情になる宮藤さん。
…………私に御用があったのではないのか。
そんな私の怪訝そうな表情に気付いたのか、宮藤さんが慌てたように懐から一枚の手紙を取り出してくる。
「あ、その、えっと、ふ、扶桑から、手紙が来たんです」
「手紙、ですか」
「はい。お母さんとおばあちゃんと……みっちゃんから」
「あぁ」
不意に出てきた懐かしい名前に、私も思わず顔を緩める。
山川美千子さん。
宮藤さんのご学友で、妙なご縁で買い物をすることになったのを思い出す。
「そうですか。…………それで?」
「え、あっと、その……うぅ」
咲を促す私の言葉に、なぜか宮藤さんは困ったように沈黙する。
私はとりあえず場を持たせるために当たり障りのない質問をしてみることにした。
「あ、その、えっと……お手紙にはなんと?」
「あ…………え、えっと……師範学校に行って頑張ってるって」
しかしその私の質問に、宮藤さんは予想以上に食いついてきた。
再び顔を輝かせると話し始める。
「そうですか……山川さんならいい先生になられるでしょうね」
「はいっ!」
自分のことのように嬉しそうに話す宮藤さん。
距離こそ離れてしまったが、このお二人は今でもよい友人なのだろう。
「それと、圭助さんの事も」
「わ、私の事ですか?」
予想外の言葉に驚く。
山川さんが私の事を…………?
「はい。土方さんはお元気でいるか、とかお手紙を出したいけど迷惑にならないか、とか…………」
「そ、そうですか」
「はい……どうしてなんでしょう?その、失礼な言い方になりますけど、そんなに仲がいいみたいには見えなかったのに…………」
首を傾げる宮藤さん。
……そう言えば私が買い出しに行った時に山川さんに会ったことは言っていなかった。
ならば宮藤さんが不思議に思うのも無理はない。
「圭助さん、分かります?」
「い、いえ…………」
別に隠すようなことでもないはずだが、本当に分からない、と疑問の目を向けてくる宮藤さんにうっかり本当のことを言い損ねてしまう。
「ですよねぇ…………まぁいいや。それで…………みっちゃんからのお手紙、ご迷惑とかじゃないです……よね?」
「は。それはもちろん」
宮藤さんの言葉にうなずく。
「あ、それと…………」
その話が呼び水になったかのように宮藤さんは色々なことを話しだす。
家族の事、山川さんの事、学校でのこと。
私も、久しぶりに聞く扶桑の話題につい時間を忘れて聞き入ってしまった。
気が付くと、部屋の時計は12時を回っており、宮藤さんも心なしかうつらうつらとしている。
「……宮藤さん?」
「あ、す、すいません!」
私が声をかけると弾かれた様に背筋を伸ばすが、またしばらくするとゆっくりと船を漕ぎ始める。
これはそろそろお休みになったほうが良かろう。
「宮藤さん、そろそろ時間も遅いですし…………」
「……え?あ、こ、こんな時間…………すいません!長居しちゃって」
「いえ、私もお話しできて楽しかったですし」
「そ、それはよかったで…………きゃっ」
そう言いながら立ち上がろうとする宮藤さんであったが、その足取りは常にふらついていて危なっかしいことこの上ない。
「とりあえずお部屋までお送りしますね」
「…………え!い、いいですよ!そんな」
慌てたように手を振る宮藤さんだが、この状態の宮藤さんを一人で帰らせる方が私の精神衛生上よくない。
そのことを告げると宮藤さんは真っ赤になって黙ってしまわれた。
「その……それじゃお願い、します」
「は」
そう返事を返すと私は宮藤さんの前にしゃがみこみ背中を向けた。
「あ、あの」
「この状態の宮藤さんを帰せないと言いましたよね」
正直私もかなり恥ずかしいのだが、ここで宮藤さんを一人で帰らせたらどんな事態が出来するかわからない。
「う…………」
宮藤さんはかなりためらっていたようだが、さすがに襲い来る眠気には勝てなかったのであろう。おずおずと頷くと私の背中に体を預けてくる。
背中に感じる柔らかい感触を頭から追い出しつつ、私は暗い廊下へと一歩を踏み出した。
「真っ暗ですね…………」
「はい」
いつもなら月明りが窓から差し込み、明るい廊下も今日は闇が覆い尽くしていた。
ところどころにともされた電球の明かりだけを頼りに、一歩一歩歩みを進める。
「ふふ」
「どうされました?」
「こんな風におっきな背中におんぶされてると、お父さんを思い出します」
「…………宮藤博士ですか」
「はいっ。小さいころの記憶しかないんですけど、でも私をおんぶしてるお父さんの背中のあったかさだけは覚えてるんですよ」
背中に目を持たない私には、宮藤さんの表情は分からない。
宮藤さんが小さなころにお亡くなりになったという宮藤一郎博士。
その名前には、私は一つの複雑な感情を抱かざるを得ない。
私より前に坂本少佐と出会い、私の知らぬ坂本少佐を知っている宮藤博士に、私は時折嫉妬にも似た感情を覚える。
埒のない事だとは分かっているのだが、だからと言って…………
「…………圭助さん?」
「あ、す、すいません」
不意に黙り込んだ私に、宮藤さんが怪訝そうに声をかけてくる。
「宮藤博士を思い出していただけるとは、光栄の至りです……博士の事を思い出したくなったら言ってくださいね。背中ぐらいならいつでもお貸しします」
「もう…………変なこと言わないでください」
冗談めかした私の言葉に、宮藤さんが私の頭を軽く小突く。
そんな宮藤さんに笑顔を返し、窓越しに見上げた空は、相変わらず泣き出しそうに黒く曇っていた。
ということで何とか書き終えました。
いかがだったでしょうか。
さて、次はついに折り返しの6話。
エイラーニャ回の「空より高く」です。
それでは。
乙~
おんぶされていてドアの枠に頭をぶつける事態にはならなかったかww
乙
前から思ってたけど芳佳の「圭助さん」呼びがツボすぎる
大和撫子って感じがしてたまらんわ
乙
芳佳は順調に惚れていってますなあ
報われないことが確定している未来なだけに哀れな・・・(w
折り返し地点ですと?何をおっしゃいますやら
ヴェネチア開放後もオリジナルで続けるんですよね?
劇場版(ニッコリ)
乙
久しぶりにみっちゃんの名前が
えっなにこの流れ怖い
オリジナルですかー。とりあえず2を最後まで書いてから考えますねー。
劇場版…………そういうのもあるのか!
でも静夏ちゃんと土方さんは気が合いそうですね。
まだかなまだかな
すみませぬ。
6話は結構戦闘メインなので土方を絡ませづらい事に見直して気づきましたw
それでも明日には何とか。
お待たせして申し訳ありませぬ。
お待ちしておりまする
こんばんは。
長く間が空いてしまい申し訳ありませんでした。
第6話の導入を投下します。
「……どうぞ」
「ありがとうございます」
目の前で微笑んでいるリトヴャク中尉に一礼し、彼女が淹れて下さった紅茶に口をつける。
先日の補給によって紅茶が手に入ったことで、501の食卓も彩りを増してきていた。
午後のティータイムに一番熱心なのはやはりビショップ曹長であるが、意外なことにこのリトヴャク中尉も紅茶好きなようで、ティータイムに彼女が紅茶を淹れる姿を何度も見かけている。
……その姿をハラハラしながら眺めているエイラさんの姿もまた定番であったのだが。
リトヴャク中尉が淹れられる紅茶は、いわゆるオラーシャ式というもので、砂糖を入れるのではなく苺やマーマレードのジャムを小鉢に用意し、それを舐めながら飲むというものだ。
広い食堂には現在、私とリトヴャク中尉の姿しかない。
ネウロイ出現の報によりその他のウィッチの方は迎撃に出かけておられ、基地で指揮を執る必要のあるヴィルケ中佐と夜間哨戒に出る必要のあるリトヴャク中尉のみが基地で待機することとなり、さしあたってすることのないリトヴャク中尉に誘われる形でティータイムのご相伴にあずかることができたというわけだ。
再び沈黙が降りる。
ビショップ曹長ほどではないものの、リトヴャク中尉もやや人と接するところが苦手なところがあるようで、このように私と普通に会話ができるようになったのはつい最近の事であった。
とりあえず当たり障りのない話題を振ってみる。
「……今回のネウロイは小型のもののようですね。エイラさんが活躍されそうな相手ですが」
リトヴャク中尉と仲の良いエイラさんは「未来予知」が使えるそうで、ネウロイの軌道を予測して行う「見越し射撃」の正確さは501随一だという話だ。
だから、大型のネウロイ相手より小型で数の多い、射撃の正確さが問われるような相手の方が相性がいいのだとご本人がおっしゃっていた。
エイラさんの話に、中尉はわずかに顔をほころばせる。
「そうですね…………エイラ、いつも『私は実戦でシールドを使ったことがないんだ』って自慢してましたから」
「…………そうですか」
シールドを使わずに戦うこと。
それは戦場で鎧を着ずに戦うようなものであろうか。
確かにそれは彼女の優秀な回避能力と未来予知の正確さの賜物であり驚嘆に値するものなのだろうが、昨年のガリア戦線の後「もはやまともなシールドすら張れない」と自嘲的な表情で話しておられた坂本少佐の姿を思い浮かべると複雑な気分になる。
「でも、ちょっと不安でもあります」
「……不安、ですか」
やや表情を曇らせたリトヴャク中尉が話を続ける。
「はい。いつか、エイラでもシールドを使わなくちゃいけないような相手に遭遇した時、うまく使えるのか、って」
「なるほど…………」
中尉の話にうなずく。
確かに自分の長所というのは諸刃の剣だ。
それがあればどんな時も大丈夫、という安心は過信に陥りやすい。
「ネウロイはどんどん強くなってきている。エイラはいつも『サーニャは私が守る』って言ってくれてるんです。それはすごく嬉しいんですけど、私だってエイラを守りたい。そう思ってるのに…………」
「リトヴャク中尉……」
そう言いながら中尉は窓から空を見上げる。
その向こうにいるエイラさんに語りかけるように。
「エイラ、大丈夫かな…………」
そう呟く中尉に駆ける言葉を、私は持っていなかった。
「そ、そういえば」
湿っぽくなりかけた雰囲気を中和するように、中尉が話題を変える。
「土方さん、エイラの事名前で呼んだりして……仲直りしたみたいですね。よかったです」
「え…………」
思わぬ方向からの言葉に、一瞬言葉に詰まってしまった。
しかしそんな私の表情には気づかなかったようで、リトヴャク中尉は話を続ける。
「なんだかエイラ、土方さんにだけ当たりがきついから何でだろうって…………芳佳ちゃんにも一時期おんなじ感じだったしし、扶桑の人が苦手なのかな?」
確かにブリタニアにいたころのエイラさんは宮藤さんにも一方的に突っかかっていくようなところがあった。
まぁ、そんなことを一切気にしない様子の宮藤さんに空回りさせられていたのは御愛嬌と言えるが。
「でも、坂本少佐のいうことは素直に聞くし…………なんでなんでしょう……?」
本当に分からない、という表情で中尉が首をかしげつつ私に視線を向けてくる。
その素直な視線を受け止めかねて、思わず視線をそらしてしまう。
…………中尉以外の人間には原因は分かりすぎるほどに分かっているはずだ。
原因はこのリトヴャク中尉なのだと。
「…………ん?ど、どうしましたか?」
「あ、いえ、なんでも」
思わず中尉の顔を正面からまじまじと見てしまい、顔を赤くした中尉が照れたように視線をそらす。
そのままお互い言葉を発するタイミングを失ったまま、妙な雰囲気の沈黙が流れた。
「あ、あの、よかったらその、わ、私の事も…………」
ジリリリリン!
「きゃっ」
「ぬお」
中尉がおずおずと話し始めるのを待ち構えていたかのように食堂の通信機が鳴り、思わず二人で小さく叫び声をあげてしまう。
やや手間取りながら、私は受話器を耳に当てた。
「ひ、土方です」
「ミーナです。サーニャさんはいる?」
「は」
私は一つ頷くと、中尉に受話器を渡す。
「はい、変わりました。…………はい。……え?何か…………はい。分かりました。では1時間後に」
受話器を置いた中尉はどこか不思議そうな表情で振り返る。
私が内容を聞いてよいものか一瞬迷ったものの、中尉の方から話を切り出して下さった。
「あの、なんだか今日の夜間哨戒はいいって…………その代わり、緊急のブリーフィングをするから2時間後にブリーフィングルームに集まるように、と」
「なるほど」
緊急のブリーフィングか。
…………ということは今日のネウロイにかかわることであろうか。
そこまで考えて、坂本少佐に何かあったのではという、一番考えたくない連想に行きついてしまう。
思わず表情を硬くした私に、中尉が安心させるように言葉をかけてくる。
「あ、誰かが怪我をしたとかそう言うことではないみたいです、ただちょっと厄介な問題が浮上したと」
「そうですか」
……まぁ、坂本少佐に何かあったらヴィルケ中佐があそこまで落ち着いている訳もないか。
しかし、厄介な問題とは何であろうか……
気になりはするが、それよりもまず坂本少佐の無事を確認せねば私が安心できない。
私は中尉の方に向き直ると敬礼する。
「それでは、私は坂本さんをお迎えに行ってきます」
「はい。お疲れ様です」
手を振る中尉に見送られ、私は食堂を後にした。
「おかえりなさいませ」
「土方か」
ハンガーで出迎えた少佐の姿にとりあえずは安心するものの、その表情には疲労の色が濃い。
その表情に、理由を尋ねたい欲求に駆られるが、さすがにでしゃばりすぎであろうと思い直して口を噤んだ。
「ミーナから聞いているかもしれんが、2時間後に緊急のブリーフィングだ」
「は」
そこまで言って少佐は少し考え込むように中空を睨む。
「…………土方、貴様これから時間はあるか?」
「は」
「ならば1時間後に私の部屋に来い」
「…………」
「どうした?」
「い、いえっ!了解いたしました」
何気なくはさまれた「私の部屋」という言葉に思わず数秒間固まってしまった。
怪訝そうな少佐の表情に、慌てて敬礼を返す。
「…………何かあったか?」
「な、何でもありません」
「そ、そうか…………まぁいい。場所は分かるな?」
「は」
「ならばよい。遅れるなよ」
「はい」
この基地に来てよりウィッチの皆様の宿舎には何度も足を運ぶ羽目になっており、皆様の部屋の場所はあらかた把握していた。
やや後ろめたさを隠した私の返事を確認すると、少佐は私に背を向けて司令官室の方へと去って行かれた。
その後姿を見送る私の表情は、期待と疑問の入り混じった不思議な表情をしていたことだろう。
「……圭助さん?」
「うおわっ!」
「きゃっ!」
だから、不意に横合いから宮藤さんが声をかけてきたときもとっさに反応できず妙な叫び声をあげてしまったのも無理からぬことであると思いたい。
宮藤さんは私のあげた叫び声に驚いたような表情を向けてくる。
「す、すいません。驚かせちゃったみたいで」
「い、いえ、こちらこそ…………考え事をしておりまして」
「いえいえ、急に声をかけちゃったのは私ですし」
どちらからともなくぺこぺこと頭を下げ合うこと十回ほど。
宮藤さんの反応からして、先ほどの坂本少佐との会話は聞かれていないようだ。
別に聞かれて困るような話をしていただけではないが、どうも気恥ずかしい。
「そ、それで……どのような御用でしょうか?」
「え?あ、そ、それはその、えっと」
急にわたわたと慌て始めた宮藤さん。
…………何かまずい事を聞いてしまったのだろうか。
「宮藤さん…………?」
「わ、私は、帰ってきたら、その、圭助さんの姿が見えたから、その、えっと、」
「は、はぁ…………」
いまいち要領を得ない宮藤さんの言葉に、思わず視線を上げる。
…………とそこに二人の少女の姿が飛び込んできた。
「あ、土方さんと芳佳ちゃん」
「げ」
リトヴャク中尉とエイラさんであった。
先日の買い出しで買った枕を抱いている。気に入っていただけたようで良かった。
ニコニコと微笑んでいるリトヴャク中尉に、不機嫌そうにこちらに視線を合わせようとしないエイラさん。
その表情は対照的である。
「あ、サーニャちゃんにエイラさん。お疲れ様です」
しかしそんな微妙な空気も何するものぞ、とばかりにお二人に声をかける宮藤さん。
その時、ちょうど二人の間をリトヴャク中尉のストライカーユニットとフリーガーハマーを載せた発進装置が静かな駆動音をさせながら横切って行った。
「ふぇ~~」
リトヴャク中尉の華奢な印象とはおよそ対極に位置するその武骨なフォルムに、宮藤さんが感嘆したような視線を向けている。
「サーニャちゃん、こんなおっきなのいつも持ってて大変だね」
宮藤さんの言葉に、リトヴャク中尉は首を振る。
「ううん。慣れてるから」
「サーニャは一人で夜間哨戒することが多いからな。いざとなればこのフリーガーハマーで一人でだって戦えるんだ」
「すごいね~~」
「へへん」
素直に感心する宮藤さんの言葉に、何故かエイラさんが胸を張っていた。
そんなエイラさんに苦笑を送るリトヴャク中尉。
「でも、一人よりは二人の方が寂しくないよね」
「うん!」
宮藤さんの言葉に中尉は満面の笑みで答える。
その表情は中尉がまだ14歳の少女であることを再確認させる年相応のものであった。
「そう言えば、ウィトゲンシュタイン少佐とはよく組んで出られるのですか?」
「あ、はい少佐にはいつもお世話になってます」
私の問いかけに、リトヴャク中尉が頷く。
二人の時、どんな会話をしているのだろうかと少し気になりはしたが、どうもこの二人が親しげに会話している光景というのがうまく想像できない。
しかし少佐の名前が出た途端に顔色を変えて抗議の声を上げた方がいた。
エイラさんである。
「そうだ!」
「え、エイラさん?」
エイラさんが突然あげた大声に宮藤さんが驚く。
「あのタカビー女が来てから、私がサーニャと組む回数が減っちゃったんだ!」
「もうエイラ、そんな風に言っちゃだめだよ」
「だってサーニャぁ…………」
「少佐だって同じ仲間なんだから。ね」
「う…………」
リトヴャク中尉に窘められ、エイラさんが不満そうに眼をそらす。
いつかも思ったが、リトヴャク中尉はエイラさんの母親のように見えることがある。
「そ、そう言えばサーニャ…………これ」
話の趨勢が自分に不利だと悟ったのであろう、強引に話題を切り替えるべくエイラさんが手に持った小枝をリトヴャク中尉に差し出した。
細い針のような葉が枝から伸びているその植物は、確か…………
「あ、それ……」
「針葉樹…………イトスギですか?」
「うん」
私の言葉に、エイラさんが頷く。
「わぁ……ありがとう」
リトヴャク中尉はその枝を見ると、懐かしそうに眼を細めた。
「ただの葉っぱじゃないんですか?」
「ちーがーう!圭助の話聞いてなかったのか?これはイトスギ。オラーシャとかスオムスでよく見かける針葉樹の一つさ」
「はい。私の昔住んでた家のすぐそばにも、イトスギの林があったんですよ」
そう言っていとおしげに枝を眺める中尉の横顔はそれでもどこか寂しそうだ。
「飛んで行った先で見つけて、サーニャに絶対プレゼントしたくて大事に持ってきたんだ」
「エイラ…………本当にありがとう」
リトヴャク中尉の感謝の言葉に、エイラさんは決まり悪そうに眼をそらす。
「そ、そんなに感謝されることじゃないって……欲しいならいくらでも取って来てやるから」
「うん。嬉しいよエイラ」
「え、えへへ」
「良かったねサーニャちゃん」
「うん」
そんな風に笑顔で会話する少女たちの姿は私には訳もなくまぶしく見えた。
「あ、そう言えば土方さん」
「何でしょうか?」
不意にリトヴャク中尉が私に話しかけてくる。
「え、えっと、その、さっき途中までで言えなかったんですけど……その、よかったら私のことも…………」
「貴方たち、まだこんなところにいたの?」
中尉の言葉を遮るように声が聞こえる。
それはヴィルケ中佐のものであった。
「こんなとこで油売ってないで部屋に帰って休みなさい。2時間後にはブリーフィングよ」
「はーい」
「返事は伸ばさない!」
ヴィルケ中尉の言葉に、ウィッチの皆様が三々五々散っていく。
リトヴャク中尉もこちらを何度も振り返りつつ去って行かれる。
結局、中尉がこの時何を言おうとしたのかを私が知るのは、もっと後のことになるのであった。
……というところで今日はここまで。
いや、戦闘メインの回なので絡ませづらい絡ませづらいw
結果的にこういう感じになりましたがいかがだったでしょうか。
ちなみに私はサーニャちゃんが一番好きです(迫真)
(お、Jか?)
次回も楽しみにしておりまする
私としてはマルセイユ回が非常に楽しみでありますれば
鈍感オトコのハーレム物語は飽きた。
もう少しひねってくれると楽しいけどな。
無い物ねだりか。
そんなに言うなら自分で書いてみればいいのに
敏感オトコのハーレム物語とやらを
無い物ねだりかな
おつおつ
>>335
好みじゃないssに当たってしまった時はそっとブラウザバックするといいよ
ここは>>1が好きな話を好きなように書くところだしね
わざわざ無い物をねだっても誰の得にもならないんじゃないかな、多分
乙
いやぁ、エイラが可愛い。
まぁ、不動のナンバー1は坂本さんだけど。
>>334
な阪関無
皆様おはようございます。
それでは、投下を始めたいと思います。
「…………」
やや緊張しながら、私は少佐の部屋の前に立っていた。
この基地に来てから、少佐の部屋に入るのはこれが初めてである。
一度大きく頭を振って緊張を追い払い、軽くノックをした。
「誰だ?」
「土方です」
「ああ、鍵はあいている。勝手に入るがいい」
「は」
返答を確認して少佐の部屋に入る。
「……失礼します」
「うむ」
「は……」
部屋に入って、他の部屋とのあまりの雰囲気の違いに驚かされた。
西洋風の石造りの床の上に畳が敷かれており、奥の壁を床の間に見立てているのだろう、「不屈不撓」と書いた掛軸がかかっている。
失礼とは思いつつも、私は思わずまじまじと部屋の中を見回してしまった。
そんな私の態度に、少佐は満足そうにうなずく。
「ははは、さすがに驚いたか」
「は」
「畳に布団という扶桑のスタイルの方が落ち着くのでな。ミーナに無理を言って改装してもらった。もちろん私の私費で、だが」
そうおっしゃる坂本さんは畳の上に胡坐をかいて座っておられる。
そんな姿を見ると、数か月前の扶桑の山中での生活が思い出された。
「良かったら貴様の部屋も改装してやるぞ」
「い、いえ…………」
「はっはっ。まぁそれは冗談としても扶桑の気分を味わいたくなったらいつでも来るがいい。不味い茶ぐらいは出すぞ」
「…………」
そう言って笑う少佐であるが、さすがに坂本少佐のお部屋に気軽にお邪魔するというわけにもいくまい。
躊躇っていると少佐は表情を改める。
「……っと、すまん。こんな話をするために呼んだのではないのだった。まぁ座れ」
少佐はそう言って私に座布団を進める。
「は。では失礼して」
私が座るのを待っていたかのように少佐が話を始めた。
「さて、まずこの写真を見ろ」
そう言いながら少佐は書類袋より何枚かの写真を取り出す。
「これは先ほどロマーニャ空軍から提供された写真だ」
「ロマーニャ空軍が?」
思わず聞き返してしまう。
通常兵器しか持たぬロマーニャ空軍がネウロイに近づいて写真を撮るとはずいぶん思い切ったものだ。
私の表情から疑問に気付いたのか、少佐が補足説明をしてくる。
「我々の攻撃の後、ロマーニャ海軍と空軍が合同で攻撃を仕掛けたようだ」
「通常兵器でですか?」
「まぁ、彼らも実績が欲しいのだろうさ。巡洋艦ザラとポーラ、2隻の航行不能で済んだのが奇跡のようなものだ」
皮肉っぽく肩をすくめて見せる少佐。
「しかし、そのおかげでこの写真を手に入れられたのだ。今は彼らの頑張りに感謝せねばな。…………それはともかく、これを見ろ」
「これが、ネウロイですか……ノイズがひどいですね」
「ああ。何とか全体像を収めようとしたらこうなったそうだ」
その写真には空を貫いてそびえたつ棒状のものが写っている。
その頂点部分はノイズに紛れて判然としない。
確か事前の情報では小型のものであったという話であり、坂本さんたちが交戦したのもそう言うタイプのものであったという話だが…………
「小型のネウロイ達はすべて子機だったようだ。それらを操る本体のようなものがこれだ」
「なるほど…………」
「厄介なことにこいつのコアは頂点部分にある。高さは推測で約30,000m。これは私が直接この目で確認した」
「な…………」
少佐の言葉に思わず絶句する。
30,000mと言えば完全に成層圏だ。
ストライカーユニットの限界高度はせいぜい10,000m。
今の人類には完全に未知の領域だ。
「あの、一応お聞きしますがジェットストライカーは…………」
「使えると思うか?」
「…………」
まぁそうだろう。
バルクホルン大尉ほどの方ですら魔力切れを起こす代物だ。
使ってしまえば何が起こるかわからない。
沈黙してしまった私に、少佐が言葉を続ける。
「まぁ、ジェットストライカーは使えんが似たようなものを使う」
「……似たようなもの?」
「うむ。これだ」
そう言って少佐は図面筒より一枚の図面を取り出す。
「これは……ロケット…………ブースター、ですか?」
「ああ」
少佐は頷き、聞きなれない言葉に不得要領顔の私に説明を続ける。
「簡単に言えばストライカーユニットの推進力にブーストをかけるものだ。限界高度を超えた上昇が可能になる。ジェットストライカーほどではないが魔力をバカ食いするという欠点があり中々制式化されないでいたのだがな」
「それがあれば高度30,000も可能になると?」
「いや」
私の質問に、少佐は首を振って答えた。
「さすがにいきなり限界高度を3倍に延ばすほどの効果はない。せいぜい12,000~13,000といったところだ。だが……」
そこまで聞いたところで、私にも少佐のお考えが理解できた。
「多段ロケット方式でアタッカーを超高高度に送り込もうと?」
「さすが土方だな。察しが早くて助かる」
私の回答に、少佐は笑顔を返してくる。
しかし、私としては褒められたところでうれしくはない。
「しかし、30,000mの超高高度です。おそらく人類にとっては未知の領域ですよ、どんな状態かもわからないのに…………」
「重々わかっている。だが…………我々はウィッチだ。ウィッチに不可能はない!」
私の顔を正面より見据え、そうはっきりと言い切る坂本少佐。
これだ。
子の方こそ、私がお仕えするべき坂本美緒少佐なのだ。
「そう言うことであれば我々も全力でサポートさせていただきます」
「うむ」
私の言葉に、少佐が満足そうにうなずいた。
……というところで、私は部屋に入った時から気になっていたひとつの問題を片づけることにした。
「……ところで」
「何だ?」
「この紙屑の山は何ですか?」
「こ、これはだな…………」
ついに聞いてしまった。
それは、部屋の隅に鎮座している紙屑の山。
私の言葉に、少佐は視線をそらして黙り込む。
「その、だな」
「は」
「ブリーフィングのために資料を作ろうと思ったのだが」
そこまで聞いて、少佐の態度の訳も、紙屑の正体もわかった。
「…………なるほど。わかりました」
「う、うむ」
……こう言っては失礼だが、少佐はこういう細かい作業には向いていらっしゃらない。
だからこそ、こういう時こそ私を頼っていただきたいものだ。
ブリーフィングまであと1時間ほど。
集中すれば終わらぬ作業量ではない。
「では、さっそく作業にかからせていただきます」
「すまんな」
「いえ、こういう時に使っていただいてこその従兵ですから」
「…………むぅ」
…………?
何故だろうか。
私の返答に、少佐がやや不満そうな表情を浮かべたような気がしたのだが……
まぁいい。
私は雑念を振り払うべく大きく頭を振ると、目の前の資料に視線を向けた。
「…………」
「…………」
お互いに無言で作業を続けること数十分。
私は妙に落ち着かない感覚に襲われていた。
作業に集中せねば、と何度も気合を入れなおすものの、少佐の部屋という状況がいけないのだろうか。
思わず数十秒ごとに少佐の方に視線をやってしまう。
そんな時に限って少佐と目が合ってしまい、あわてて目をそらしたり、といったことが何度も繰り返された。
「ひ、土方」
「は、はっ」
先に沈黙に耐えられなくなったのは少佐であった。
「その、茶でも飲むか?」
「お、お構いなく」
「そうか」
答える私の声も少々上ずっている。
私の返答など聞いていないかのように少佐が奥へと消えていった。
「ふぅ…………」
少佐の姿が完全に奥の部屋に消えたことを確認して私は小さくため息をつく。
…………正直なところ、少佐が席を立ってくださって安心した面もあった。
あのまま沈黙の時間を過ごしていたら、私の胃がどうにかなってしまいそうである。
ほどなくして、少佐が奥の部屋から再び出て来た。
「……す、すまんな。この部屋に人が来ることなどめったにないものだから碌なな茶菓子もなかった」
「い、いえ」
「人が来ることなどめったにない」という言葉に私の鼓動が大きく跳ねる。
私は動揺を悟られぬように全精神を動員しつつ振り返った。
その為、やや周りへの注意がおろそかになったことは否めないであろう。
「……っ!」
「しょ、少佐!?」
思いのほか近くに来ていた少佐の顔と正面から見つめ合う形となった私の動きが固まる。
お互いに制止したまま、数秒の時間が過ぎた。
「すっ、すまんっ!」
私の主観では数時間にも思われたその時間を終わらせたのはやはり少佐であった。
慌てて離れようとする少佐。
しかし、少佐らしくもなく、手に盆を持ったままの不安定な体勢であることを忘れておられたようだ。
「きゃ」
「少佐っ」
飛び退ろうとした少佐の体が大きく傾く。
頭で考えるより先に私は動いていた。
とりあえず盆と茶はほっておいて、片手で少佐の手をつかみつつ、もう片方の手は倒れ込もうとする少佐の背中に回す。
「…………あ」
「…………う」
お互いに一言ずつ発したきり、再び沈黙の時間が流れる。
少佐の瞳の中に移る私の表情もまた、凍りついたように固まっていた。
少佐も私も、この状況に思考が追い付いておらず、どう行動してよいかわからないままに時だけが過ぎていく。
がたんっ。
そんな沈黙の時間を破ったのはドアの方から聞こえてきた小さな物音であった。
その音が合図になったかのように少佐と私はお互いに飛び退る。
恐る恐る振り向いた戸口に立っていたのは――――
えー、突然ですがここで安価です。
土方ともっさんの決定的瞬間(誤解)に登場するは誰がいいか迷いましたので、実験的に安価で決めてもらおうかとw
ここは完全にオリジナルな場面ですので本編には全く影響ありません。気楽にお選び下さい。
対象になるのははミーナさんじゅうきゅうさい、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、エイラさん、サーニャちゃん、ペリーヌさん、リーネちゃん、芳佳、もっさん、ハインリーケ姫の12名。
日常安価と同じ安価ゾーン方式。
安価ゾーンは切りよく>>360まで。
最もたくさん名前の登場した方が安価ということにします。
同一IDによる複数投票は1票とみなし、同票が複数あった場合は最初にその数に達した方を安価達成とします。
>>360までいかなくても明日の夕方ごろに締め切ります。
それでは。
乙!
いちばん面白そうなエーリカで
乙ー
バルクホルン大尉で
芳佳
そりゃ怒りに震えるペリーヌ・クロステルマンでしょうw
「少佐、な、何をなさって……」とかさw
シャーリーさん!
シャーリー
シャーリー
シャーリーに一票
シャーリーさーん
シャーリーさん
シャーリーさん
くそっ出遅れたか
まあいまさらミーナといったところで焼け石に水だったけど
みんなどんだけシャーリー好きなんだよwwwwww
私はサーニャに入れよう。理由?私もサーニャが一番好きだから(大真面目)
私は坂本一番でシャーリーも好きだが…
バルクってのはなかなかの見物になると思わないか?
そう、バルクにいれよう!
圧倒的シャーリー…………っ
ということで数えるまでもなくシャーリーさんに決定ですね。
ほんとにみんなシャーリーさん好きだなw
今週末の日曜日ぐらいまでには続きを上げたいと思いますのでお待ちください。
こんばんは。
予告通り、続きを投下しに参りました。
よろしくお願いしますね。
やや癖っ毛の赤髪。
女性にしては背の高い部類に入るであろうその体型。
間違いようもない。
シャーロット・E・イェーガー大尉の姿がそこにあった。
室内の様子にやや面食らったような表情で固まっていた大尉であったが、
ぱたん。
その表情を崩すことなく、小さな音を立ててドアを閉め、その向こうへと消えていく。
「ルッキーーーーーーィニィィィィ!!」
一瞬遅れて廊下の方から聞こえてきたそんな叫び声が、私を我に返らせる。
坂本少佐の方を振り返ると、少佐も私の同じ思いだったのだろう、小さく頷くのが見えた。
少佐に私もうなずき返すと、シャーリーさんの後を追うべく部屋を飛び出した。
廊下に出てみると、廊下の角を曲がるシャーリーさんの姿が見える。
もはや彼我の差は絶望的であるが、あきらめたらそこで終わりだ。
私は彼女の背中めがけてスピードを上げた。
そして先ほどシャーリーさんが曲がった廊下の角を曲がっ――――
ぽよん。
――――た先に不意に訪れたのは予想外の衝撃。
しばらく何が起こったのかわからぬままに立ち止まる。
「……おいおい。こういう強引なのも嫌いじゃないが、坂本少佐とあんなことになった後でちっとばかり節操なさすぎじゃないかい?兄さんよ」
頭上から降ってくる声は、まぎれもなくシャーリーさんの声である。
確か私は、遥か前方を走るシャーリーさんを追いかけていたはずだが…………
というか、今私の頭を包む、この妙にやわらかい感触は何であろうか。
「おーい。どうした兄さん?」
再び「頭上から」聞こえてくるシャーリーさんの声。
しかもその声の発生源はかなり近い。
これは……
「す、すいません!」
慌てて後方へ飛び退く。
急にクリアになった視界には、予想通りこちらを向いてニヤニヤ笑いを浮かべるシャーリーさんの姿が。
「―――土方!」
その時、後ろの方から聞こえてくる声。
まごう事なき坂本少佐の声であった。
「しょう…………むぐっ」
その声に答えるべく後ろを向いた私の口が、急に後ろから伸びてきた手にふさがれる。
「ちょっと兄さんには静かにしててもらうぜ」
そう言いながら私を抱きかかえるようにして廊下の奥へと引っ張って行くシャーリーさん。
本気で抵抗すればその戒めをほどくこともできたであろうが、シャーリーさんに怪我などさせては大事だと一瞬ためらったその隙を突かれ、私は彼女のなすがままに引っ張られるしかできなかった。
やがてシャーリーさんは私を引きずったままある一つのドアへと入っていく。
かちゃり。
部屋の中に入り、私を抱えたまま器用に後ろ手でカギをかけると、やっとのことでシャーリーさんは私を開放して下さった。
「…………ふぅ」
「すまん。ちょっと手荒な真似しちまって」
そう言って謝ってくるシャーリーさん。
……それはいいのだが、ここはどこであろうか。
あたりを見回す私の目に真っ先に飛び込んできたのは部屋の中央にある作業台と、その上に置かれたエンジン。
その周りにはスパナだのレンチだのといった工具が散乱しており、あたかもストライカーユニットの整備場であるかのような様相を呈していた。
他にも、車輪のホイールや用途不明の機械など、なかなかお目にかかれないものに思わず物珍しげに室内を見まわしてしまう。
「あ、あんまり見るなよな。これでも少しは恥ずかしいんだ」
シャーリーさんが声をかけてきた。
その顔は珍しく、照れたようにやや赤く染まっている。
「…………ということは」
「ああ。私とルッキーニの部屋さ」
そう言いながらシャーリーさんは顎先で部屋の片隅を示した。
そこにはベッドが壁に立てかけてあり、そのそばにドラム缶だの古い机だのといったガラクタが雑多に積み上げられている一角が存在している。
しかし、その中から外に向かって伸びている褐色の二本の棒状の物が私の目を引いた。
よく見るとせわしなくごそごそと動くそれは、私にある方の姿を連想させる。
「もしかして…………」
「ああ、あれがルッキーニの『巣』だよ。せっかくベッドがあるのに、全然使いやしねぇであんなガラクタの中でいつも寝てんだよ」
そう言われて改めてみてみると、確かに棒のように見えたのは間違いなくルッキーニ少尉の二本の足であった。
「はぁ……」
「まぁあたしも機械いじりしながら寝落ちすることもあるし、人の事は言えないんだけどな。ははっ」
そう言いながら笑うシャーリーさん。
「そ、そういえばシャーリーさん、あの、先ほどのは、その」
「あーあー分かってるよ」
「え?」
ふいに我に返り、先ほどの光景について弁解を始める私の声を遮り、シャーリーさんは意外なほど落ち着いた声で続けた。
「兄さんがあの坂本さんに不埒を働くような奴じゃないのは分かってるよ。ついでにそんな度胸もな」
「…………信用して下さってありがとうございます、とお答えするべきなのでしょうか」
「どうぞご自由に」
「……そうですか」
誤解されていないのは喜ぶべきなのだろうが、今一つ釈然としないのはなぜだろうか。
そんな私の態度に、シャーリーさんはおかしそうに笑う。
「くっくっ。まーまーそんな顔すんなって。さっきの事は忘れてやるからさ」
「…………本当ですか?」
「信用ないんだな、私って」
大げさに肩をすくめて見せるシャーリーさんにどの口が言うか、とツッコみたくなるが堪える。
実際シャーリーさんはああ見えていろいろなことを考えていらっしゃる方だ。
無節操に言いふらしたりはしないだろう。
「そのかわり、私のお願いを一つ聞いてもらうぜ」
そう言って私に笑顔を向けてくる。
…………やはりそう来たか。
だからこそ坂本少佐を振り切るように部屋へ連れ込んだりしたのだろう。
私は大きくため息をつくと、先を促すように視線を向ける。
「いや、そんなに大したことじゃないよ」
「…………今現在、世界で一番信用できない言葉を聞いた気分ですよ」
「言うようになったねぇ兄さんも」
おかげさまで、と皮肉っぽく返しそうになって慌てて口を噤んだ。
どうもシャーリーさんと話していると、つい言葉に遠慮がなくなってしまう私がいる。
さすがに5つも階級が上の方にとる態度ではない。
小さく咳払いをして表情を引き締めると、改めてシャーリーさんに視線を向ける。
しかし、私の目に映った彼女はなぜか不快そうに眉をひそめた。
「…………む」
「……シャーリーさん?」
「うん。やっぱりこれだな」
何事か一人で納得しているシャーリーさんに私の疑問はさらに大きくなる。
やがて私の方を見ると、シャーリーさんはびしっ、とばかりに指を突き付けてきた。
「兄さん、これから私と話すときは敬語禁止な」
「…………へ?」
その口から出た、あまりに予想外な言葉に思わず聞き返してしまう。
そんな私の戸惑いには気づかぬ風でシャーリーさんは続けた。
「ずっと思ってたんだよ、兄さんの敬語。だいたい兄さんの方が男で年上なんだしさ」
「い、いえ、でも…………」
軍には階級というものがあり、それを無視した馴れ合いは……
しかし、私のいうことなど分かっている、とばかりにシャーリーさんは首を振る。
「私らが兄さんより階級上なのはウィッチだから。…………もちろん自分たちの実績を卑下するわけじゃないけど、もともと軍人じゃない私は階級とかよく分かんないし、私だってミーナや坂本少佐には普通にため口で話してるだろ?兄さんもそろそろ普通に話してくれてもいいと思うんだ」
そう言えば山川さんやハルトマン中尉もそんなことを言っておられた。
む…………
黙り込んだ私に対し、シャーリーさんは小さく笑うと言葉を続ける。
「相変わらず真面目だねぇ。でもまぁそう言うところが兄さんのいいところだってわかってもいるからさ、無理に改めろとは言わないよ」
「は、はい」
「でも、そう言う喋り方にどこか壁を感じて寂しく思ってる奴もいるってことは知っといてくれ。私みたいにな」
さすがに少し恥ずかしそうに頬を赤らめながらシャーリーさんは言う。
「だからさ、こうやって二人で話してる時ぐらい敬語外してくれてもいいんじゃないか。…………あ、それからシャーリー『さん』も禁止な」
「…………は、はぁ」
どうも扶桑海軍の「扶桑軍人はジェントルマンたれ」という教育方針がしみ込んでいるのか、女性にそう言った気易い喋り方をすることにためらいを覚えてしまう。
しかし、確かに自分でもこの融通の利きにくい性格は直さなくてはと思っていたことも事実だ。
その為の練習台にシャーリーさんがなってくれるというのなら、乗ってみるのもいいのかもしれない。
「わ、わかりま…………分かった。何とか努力してみる。しゃ、シャーリー」
「…………っ!」
しかし、その一言を発するだけでかなり精神的に疲労した気分だ。
見ると、シャーリーさんも恥ずかしそうに視線をそらしている。
「あ、あはは…………自分で言っといてなんだが、結構改めて呼ばれると恥ずかしいもんだな」
「…………私もです」
その時であった。
(―――方!土方!)
ドア越しに廊下の方でかすかに聞こえてくる声。
坂本少佐の声であった。
慌てたように顔を見合わせるシャーリーさんと私。
「…………っと、私の部屋から出てくるところを見られたらさらにやばいか」
「……そ、そうですね」
「さっきの事については気にすんな。言いふらしたりはしないから」
「ありがとうございます」
そう答えて部屋を退出しようとしたところ、背中にシャーリーさんから声がかけられた。
「あ、兄さん、その」
「ああ。そういえば…………またな、シャーリー」
「…………」
振り返った私の不意打ち気味の言葉に、びっくりしたように表情を固まらせているシャーリーさんの表情を見て、私はやっと一矢報いた気分になることができたのだった。
以上です。
シャーリーさんって確かに土方と絡ませやすいですね。
次はまた本編に戻って6話の続きです。
それでは。
イケメンですな土方
シャーリーが素敵すぎて困る。
1さん上手すぎですよ!
シャーリーかわいいなあ
芳佳もシャーリーもいいなー(チラッ
最近シャーリがどんどん可愛く思えてきた
こんばんは。
こんな時間になってしまいましたが投下開始します。
「……これが、およそ毎時10㎞という低速でローマに方面に移動している」
ブリーフィングルーム、壇上に立つ坂本少佐がウィッチの皆様方に今回の作戦について説明している。
予想外の事態にてだいぶ時間を浪費したものの、何とか突貫作業にて資料を仕上げることができた。
「厄介なのは、このネウロイのコアの位置だ」
そう言って、少佐は手に持った竹尺でそのコアの位置を指し示す。
「天辺だと?…………高度30,000mのか?」
「ああ」
驚きの声を上げたのはバルクホルン大尉であった。
少佐はその声に小さく頷くと、言葉を続ける。
「私がこの目で確認した。間違いなくこいつのコアはここにある」
「し、しかし、私たちのストライカーユニットの限界高度はせいぜい10,000……」
「うむ。だから作戦にはこいつを使う」
ペリーヌさんの言葉に少佐は頷きを返し、私へと視線を向ける。
その視線を合図に合図に、私は映写機のボタンを押した。
スライドが切り替わり、ロケットブースターの図面を映し出す。
「ロケットブースターといって、分かりやすく言えばストライカーの性能に下駄を穿かせる外付けユニットだ。あのジェットストライカーほどではないが魔力消費は半端ない。できるならこんなぶっつけ本番みたいな使い方はしたくなかったのだがな……」
「う…………あれか」
ジェットストライカーという言葉に、バルクホルン大尉が顔をしかめる。
大尉にとってもあの事件はあまり思い出したくもないものであるのだろう
「それを使えば、コアのある高さまで飛べるんですか?」
「いや、そんな簡単な話ではないはずだ」
「ええ。魔力消費が半端ないって美緒も言ってたでしょ?このまま30,000mまで上がって行ったりしたら、着いた瞬間に何もできずに燃料切れよ」
やや皮肉っぽく肩をすくめたのはヴィルケ中佐であった。
「…………と、言うことはやることは決まっておるの」
「ああ」
ウィトゲンシュタイン少佐とバルクホルン大尉は、坂本少佐の立てた作戦内容におおよそ見当がついたようだ。
「私たちみんなで誰かを途中まで運べばいい」
「…………そういうことだ」
「ふふん」
しかし、それを言葉にしたのはシャーリーさんであった。
台詞を取られてやや不満そうなバルクホルン大尉に、シャーリーさんが勝ち誇ったような笑みを向ける。
「しかし、30,000m上空ってことは空気もないよな」
「えー!空気ないの?」
「じゃあ喋っても聞こえないね」
「えー!聞こえないの?」
「貴様等少し静かにしろ」
シャーリーさん、ルッキーニ少尉、ハルトマン中尉の座っている一角で始まるコントのようなやり取りにバルクホルン大尉が叱責の声を飛ばす。
「まぁ30,000mなどという超高高度は我々人類にとっても未知の領域じゃからの。正直何が起こっても不思議ではないというのが正直なところじゃ。そこのちっこいのの驚きも無理はない」
「ああ。しかし我々はウィッチだ。ウィッチに不可能はない」
ウィトゲンシュタイン少佐の言葉に対する、坂本少佐のその返事が合図になったかのようにブリーフィングルーム内に明りが灯る。
「あのー、質問」
「何だ?」
手を挙げたのはエイラさんであった。
「それで、アタッカーは誰になるんだ?少佐の話し方じゃ、もう決めてるみたいな感じだったけど」
「うむ。今回の作戦、その要となるアタッカーは――――」
「リトヴャク中尉、ですか」
時間は少しさかのぼる。
少佐のお部屋で今回のブリーフィングの資料作りに勤しむ傍ら、ふと今回の作戦の要であるアタッカーについて尋ねてみた私の疑問に対する、少佐のお返事がそれであった。
私があまり驚かなかったことに、少佐は少し不満そうな表情になる。
「あまり驚いていないな」
「いえ…………今回の作戦の性格を考えればおのずから二人に絞られると思ってはおりましたので……二人のうち予想してない方であったという驚きはありますが」
「なるほどな」
私の言葉に、今度は嬉しそうに相好を崩す。
そしてどこかからかう様な笑みを浮かべると、言葉をつづけた。
「ふむ、ならば土方参謀殿。アタッカー候補を二人と答えた貴殿の存念をお伺いするとしようか」
「…………やめてください」
「いいではないか。ただ黙って作業をするというのもつまらん」
最近の少佐はこういった悪ふざけめいた発言をすることが多くなった気がする。
シャーリーさんあたりの悪影響を受けているのでなければいいのだが。
私は気づかれぬように小さく一つため息をつくと口を開いた。
「今回の作戦の舞台となるのは30,000mという人類にとって未知の領域と言っていい超高高度です。ならば高火力で一気に片を付けてしまうというのがセオリーから見て妥当。それほどの瞬間火力を叩きだせるのはこの501では二人。フリーガーハマーを持つリトヴャク中尉と対戦車ライフルによる狙撃に長けたビショップ曹長しかおりません」
「まぁそうだな。そして参謀殿はリーネの方が適任とお考えか」
…………。
「参謀殿」はやめていただきたいものだ。
訳もなく全身を掻き毟りたくなる。
まぁ、言ったところで止めては下さらぬであろうが。
「は。ロケットブースターを使う上に零下70度という過酷な状況での生命維持、さらに攻撃までこなさねばならない今作戦のアタッカーはこの上シールドにまで魔力を回すことは不可能でしょう。ならばその戦場においてアタッカーを守る盾役が必要になる」
「そうだな。そして現在、シールドを張ることにかけては世界でもトップレベルといえる宮藤が我が隊には居る。だからその宮藤と同室で仲の良いリーネの方が適任だと、そう考えたのか」
「はい」
私の回答に少佐は満足そうにうなずいた。
「ふふ、見事な回答だ。私の従兵なんぞやめて参謀学校にでも入ってみるか」
「いえ、私のいるべき場所はここ意外にないと心得ておりますので」
「…………そ、そうか」
私の言葉に、少佐は顔を赤らめて視線をそらす。
言った私の方も多分に恥ずかしいが。
照れをごまかすように咳払いを一つすると、少佐は私に向き直った。
「正直なところそこまでは私も考えた。しかし今回はあえてサーニャに任せたいと思う」
「なぜ、とお聞きしても?」
「まぁそんなに深い考えがあっての事ではないのだがな。強いて言うならば遠くからの一点集中射撃に適しているリーネの対戦車ライフルより、広く空間を制圧できるサーニャのフリーガーハマーの方が今回の作戦には向いている気がする。言い方は悪いが『数撃ちゃ当たる』方式で行った方が成功率は高い」
確かに少佐のおっしゃることももっともだ。
「それにな、サーニャはナイトウィッチということでなかなか作戦のメインとして働くことが少ない。もしこの作戦を成功に導くことができれば彼女にとって大きな自信ともなるだろう」
「なるほど」
少佐のお言葉にうなずく。
「ならば盾役はエイラさんに?」
「それが問題なのだ」
しかし話が盾役の事に及ぶと、少佐は苦い顔を浮かべた。
「確かにサーニャの盾役、エイラはやりたがるだろうし何より他の奴にはさせたがらないだろう。だが……」
「…………ああ、そういえば」
ここに至り、私も少佐の言いたいことを理解する。
エイラさんは「実戦でシールドを使ったことがない」のが自慢の方だ。
それはそれで驚嘆に値することだとは思うが、言い方を変えればシールドの扱いに慣れていらっしゃらないと取ることもできる。
高度30,000mの極限状態でリトヴャク中尉と自分をネウロイの攻撃から庇い続けるシールドを張ることが、果たしてエイラさんにできるか。
――――いつか、エイラでもシールドを使わなくちゃいけないような相手に遭遇した時、うまく使えるのかって
先日食堂でリトヴャク中尉がおっしゃっていた言葉がよみがえる。
こんなに早く中尉の心配が現実となって現れるとは思わなかったが。
「今この501で一番強力なシールドを張れ、その扱いに慣れているのは宮藤だ。宮藤ならサーニャとも仲がいいし、純粋に作戦上の要求を考えるならば宮藤を選ぶべきなのだろうが…………」
そう言って少佐は額に手を当て、考え込む。
「坂本さん…………」
そんな少佐に私はかける言葉が見つからず、沈黙することしかできなかった。
「サーニャ、貴様にお願いしたい」
「えっ!?」
少佐の言葉に、ブリーフィングルーム内のピアノの前にエイラさんと並んで座っていたリトヴャク中尉が驚いたような声を上げる。
…………そう言えばこのピアノ、いつの間に運び込まれたのであろうか。
ローマに買い出しに行ったときにエイラさんがピアノが欲しいと仰っていたが、まさか……
……っと。
今はそんなことは関係なかったな。
とりとめのない方向に脱線していきそうになる思考を元に戻す。
「この作戦には、貴様のフリーガーハマーによる攻撃力が不可欠だ」
「はい」
「…………は、はいはいはいっ!」
リトヴャク中尉が頷くのを確認したエイラさんが勢いよく挙手をする。
「だったら私も行く!」
「そうか。…………時にエイラ、貴様はシールドを張ったことがあるか?」
「ふふん。自慢じゃないが私は実戦でシールドを張ったことなんて一度もないね」
エイラさんの言葉に、坂本少佐はしばらく考え込むように俯いていたが、すぐに顔を上げるときっぱりと告げた。
「そうか。じゃあ無理だ」
「うん。ムリダナ…………ってえええっ?」
エイラさんが抗議の声を上げるが、ヴィルケ中佐によって遮られる。
「そうね。今回の作戦はただでさえ魔力消費の激しいロケットブースターを使う上に、極限環境での生命維持や攻撃にも魔力を使う必要がある。必然的にネウロイの攻撃から身を守るシールドを張っている余裕はないわ」
「だからアタッカーとは別に、アタッカーの盾となり、守る者が必要になってくる」
「べ、別に私はシールドを張れないわけじゃ…………」
「だが実戦で使ったことはないのだろう?」
「そうだけど……」
「なら、無理だな」
「う…………」
そっけない(敢えてそうしたのだろう)坂本少佐の言葉に、エイラさんが沈黙する。
少佐はそのまま宮藤さんの方を振り返ると口を開いた。
「宮藤、貴様がやれ」
「ええっ!」
指名を受けた宮藤さんは驚いたように声を上げる。
「最も強力なシールドを張れる貴様なら適任だろう」
「は、はい…………」
予想通り、エイラさんはその少佐の言葉を聞くや否や宮藤さんの側に近寄り、噛みつきそうな勢いで威嚇の声を上げた。
「ぐぬぬぬ」
「ひっ!」
宮藤さんが怯えたような声を上げる。
「は、はわわわわわ…………」
「こら。宮藤に噛みついても決定は変わらんぞ」
「だ、だって」
「だっても糸瓜もない。これは命令だ。では解散!作戦開始日時はおって指示する。それまでは通常業務についていてくれ」
少佐の言葉に、ウィッチの皆様は三々五々ブリーフィングルームを出ていく。
しかしエイラさんは宮藤さんの顔を睨みつけたまま動こうとしない。
「え、エイラさん?」
「宮藤…………絶対私の方がサーニャを守れるんだからな!」
リトヴャク中尉がエイラさんの後姿に気遣わしげな視線を送っていたが、エイラさんはそんな彼女の視線に気づくことなく、足音荒く出て行ってしまった。
そんなエイラさんをリトヴャク中尉はややためらいつつも追いかけて部屋を出ていく。
「ふぅ…………び、びっくりしたぁ」
「芳佳ちゃん、大丈夫?」
「う、うん。ありがとうリーネちゃん」
二人が部屋を出ていくのと同時に、緊張の糸が切れたかのように宮藤さんがへたり込む。
心配そうなビショップ曹長とともに、私も近くへと駆け寄って行った。
しかし宮藤さんはへたり込みながらもその顔にはどこか釈然としない表情を浮かべている。
「うーん……でも、確かにどうして私だったのかな」
「それは…………先ほど少佐がおっしゃったように」
「はい、それは分かるんですけど……やっぱり盾役はエイラさんがやったほうがうまくいくと思うんです。圭助さんもそう思いません?」
「それは…………」
宮藤さんのいうことは分かる。
しかし、坂本さんもおそらく悩んだ末の決断だったのであろう。
それを知っている私としては、安易に宮藤さんの言葉に頷くことも躊躇われた。
「大丈夫です。坂本さんには何か考えがあるようですから、芳佳は気にせず出撃命令に備えて休んでおいてください」
そう言いながら宮藤さんの頭にポン、と手を置いてゆっくりと撫でる。
「あ…………は、はい」
頬を赤く染めて俯く宮藤さん。
彼女の言葉を肯定も否定もできないというジレンマをごまかすための苦し紛れの行為だっただけに罪悪感が湧きあがってくる。
「そ、それでは…………私は仕事が残っておりますので」
「はい。ありがとうございました」
そう言いながら笑顔でブリーフィングルームを出ていく宮藤さんに、私は複雑な心境で手を振り返した。
…………というところで今日はここまで。
この話を書くに当たって第6話をもはや10回以上見直してますw
サーニャの入浴シーンを見るためじゃないよ!本当だよ!
乙!
あれは…いいものだ…
冗談にマジレスされて赤面する坂本さん
凄くいいと思います
wktkが止まらない
今週も良かった
乙です
乙乙
入浴シーンは天使が舞い降りたかと思った
サーニャは絵になるよね
セルフage
皆様レスありがとうございます。
やっぱりサーニャは天使ですね。
乙
ホントにこのスレは面白い。
こんにちは。
皆様、毎回レスありがとうございます。
今回はちょっとネタに詰まったので気分転換のため日常安価に逃げたいと思いますw
6話って戦闘メインだから土方絡ませづらいんですよね。
続き期待されていた方、申し訳ありません。
ブリーフィングのあった寄る。夜の廊下を坂本少佐と二人で歩く。
「しかし、ネウロイ達もご苦労なことだな。まるで我々の対処能力を試すように次から次へと新しい姿でやってくる」
「そうですね」
いささかうんざりしたような坂本少佐の言葉にうなずく。
確かに我々は「ネウロイとは何か」という根本的な情報すら与えられずに戦っている。
そして、ネウロイが現れてから人間同士の戦争というものがほぼ姿を消したのだから皮肉ともいえた。
坂本少佐に目をやると、少佐も同じようなことを考えているのだろう、顎に手をやって考え込む姿が目に入る。
「…………少佐」
「あ、いや、すまん。ちょっと考え事ををしていた」
私の声色があまりに心配そうだったのだろう。
ごまかすように笑顔を向けてくる少佐の表情はそれでもやや硬かった。
「……我々軍人が考えることではないな。柄にもなく哲学者を気取ってみたところで碌なことにはならん」
「……は」
どうにも返答のしようがなく、ただ一言だけ答えると私は再び廊下の暗がりに目を戻した。
ちょっとネタに詰まったので気分転換がてら日常安価ですw
対象になるのははミーナさんじゅうきゅうさい、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、エイラさん、サーニャちゃん、ペリーヌさん、リーネちゃん、芳佳、もっさん、ハインリーケ姫の12名。
安価ゾーンは>>410まで。
最もたくさん名前の登場した方が安価ということにします。
同一IDによる複数投票は1票とみなし、同票が複数あった場合は最初にその数に達した方を安価達成とします。
>>410までいかなくても明日の夕方ごろに締め切ります。
それでは。
シャーリーさん
もっさん
サーニャさん
シャーリー
シャーリーさん
もっさん
シャーリーさん
シャーリーさん!
シャーリー
シャーリー
圧倒的じゃないか!
またっすかwww
まだ半分くらい会って無い人居るのに……。
ちょwwwシャーリーさん圧倒的過ぎるww
これは次回の安価からしばらくシャーリーさん外すことも考慮せんといかんかもわからんね。
ということで水曜日ごろまでにはシャーリーさんSS書きますね。
出遅れたか
しかしシャーリーの人気凄いな
たまには他のキャラでもいいんじゃないかな…?(小声)
あくまでもっさんのスレなんだから、もっさんと繋がりの深いペリーヌやミーナにもっと出番を
ぐだぐだと同じ話を繰り返すだけなんだからいいんじゃない?
それと、安価取るんだから要望が偏るのもあり得る話だと思うが、その責任を安価に押しつけるのはどうかと思う。
自分で順番決めておけばいいわけで(読者には内緒にしておけばいいだけのこと)、それを手抜きしただけじゃないのさ?
人のせいにするなよな。
偏るのがいやなら安価なんかやめちまえ。
んな極端に熱くならんでも……
本筋と違うところで安価出してくれるのは読んでる俺らへのサービスだろ
それを責任押し付けだとか、突っかかるところじゃないじゃん
こんにちは。
シャーリーさん外すはちょっと軽率な発言でしたね。
お詫びします。
お詫びついでに、シャーリーさんストーリーの完成にもう少しかかりそうです。
こちらも申し訳ありません。今週末には必ずあげますので。
それでは。報告まで。
こんにちは。
何とかシャーリーさんストーリー完成しましたので投下します。
それでは。
「……へっくし!」
思わず出たくしゃみに体を縮こまらせた。
まだ太陽も顔をのぞかせてすらいない早朝、私は基地の正門前で細かく足踏みをしながら人を待っている。
身を切るような空気はとても寒く、普段着で来てしまったことを後悔し始めていたころに「待ち人」は現れた。
「よ。…………待たせたか?」
そう言いながら片手を上げるのはシャーロット・E・イェーガー大尉。
さて、なぜこんな時間に私がシャーリーさんと待ち合わせをしているのか。
それは昨日の夜にさかのぼる。
「よう、兄さん。また見回りかい?」
「は」
坂本少佐と別れて部屋に帰る途中、後ろからかけられた声に振り返ってみれば、そこにはシャーリーさんの姿があった。
「マメだねぇ兄さんも。坂本少佐も少しは応えてやりゃいいのにさ」
「いえ、私はそのような下心は…………」
「おいおい。下心なんてない奴の方がおかしいんだぜ。兄さんも少しは素直になれよな」
分かっている、とばかりに肩をすくめてオーバーアクション気味に首を振ってみせるシャーリーさん。
相変わらずこういう仕草が憎らしいほどに似合っている。
「ふむ…………」
と思ったら次の瞬間には私の顔を正面から見詰めながら考え込むように顎に手を当てていた。
「シャーリーさん?」
「全く……シャーリー『さん』は禁止って言っただろ?あと敬語も」
シャーリーさんが不満そうに言葉を続ける。
…………そう言われても今までの習慣がそう一朝一夕に改まるものではない。
そんな風に考える私には構わず、シャーリーさんは難しい顔で考え込んでいる。
「あのさ兄さん、明日の朝は暇か?」
「…………は?」
唐突な質問に心構えができていなかった私は失礼な返事をしてしまったことにも気づかないでいた。
「その、だからさ…………明日の朝、ちょっと私に付き合ってくれないかな?」
「何を企んでいらっしゃるのですか?」
「い、いや、別に何も……っていうかまだ何も言ってないのにそんな風に疑うって失礼じゃないか?」
珍しく拗ねたように頬を膨らませるシャーリーさん。
しかし、彼女の普段の行いからすれば、やや警戒してしまうのは致し方のない事であろう。
「特に何も考えてないさ。ただ、ちょっと兄さんと二人で出かけたいなって思っただけ」
「シャーリーさん…………」
「……どう、かな?兄さんはいつも忙しそうだし、ちょっとした気分転換も兼ねて、さ」
シャーリーさんには珍しく、どこかこちらの反応を伺うように下から見上げるような視線。
覚えず心臓が大きく跳ねた。
ごまかすように、大きく咳払いをすると私は口を開いた。
「しかし、ヴィルケ中佐の許可もなしでは…………」
「ミーナが許可出してくれるわけないだろ。『兄さんと二人で出かけさせてくれ』なんて言ったら軍法会議ものだよ」
軍法会議はいささか大げさとしても、確かにヴィルケ中佐が許可を出してくれる見込みはゼロに近い。
と、いうことはシャーリーさんはこう仰りたいようだ。
こっそり二人で出かけよう、と。
「せっかくのお誘いですが…………」
「そうか……」
私の言葉に、シャーリーさん寂しそうに俯く。
坂本少佐の従兵という立場もあり、行動には人一倍気をつけねばならない立場である。
「あーショックだなー。兄さんなら承知してくれると思ったのになー」
「申し訳ありません」
「ショックのあまり先日目撃したことをルッキーニや宮藤に喋っちゃいそうだなー」
「な…………っ!」
シャーリーさんの言葉に思わず言葉を失う。
「でもしょうがないなー。兄さんがダメって言うならなー。傷心の私は部屋に帰ってルッキーニにでも愚痴を聞いてもらうしかないなー」
そう言いながらちらちらと視線をこちらに向けてくる。
そして数分の後。
結局私は、シャーリーさんに無条件降伏を余儀なくされたのであった。
再び時は早朝へと戻る。
「済まないな…………って兄さんのその格好寒くないのか?」
「いえ……くしゅん」
「あー…………まぁ、寒くないわけないよな……ちょっと待ってな」
私のそばまで歩いてきたシャーリーさんが心配そうに声をかけて下さる。
「ほい」
返事の代わりに再び出たくしゃみに事情を察したのであろう、シャーリーさんは背負っていたバッグから上着を取り出すと私に投げてよこす。
「あ、あの……」
「そんな格好じゃこっちまで寒くなっちまうよ。一応予備持ってきといてよかったぜ。あたしのだから少し小さいかも知れないけど、我慢してくれよな」
そう言うシャーリーさんも、いつもの軍服の上にフライトジャケットを羽織っている。
しばらく躊躇うものの、寒さには抗えず、渡されたジャケットを羽織った。
「ふふ、なかなか似合うじゃないか兄さん。…………それと、これも」
笑顔でそう言いながら再びシャーリーさんは何かを投げてよこす。
手の中に納まったそれは銀色に光るスキットルであった。
キャッチした瞬間に思わず声を上げてしまうほど、それは熱を放っている。
「……熱っ!」
「映画みたいにホットウィスキーと行きたかったけど、飲酒運転はさすがにやばいからな。熱々のコーヒーだぜ」
「え、えっと……」
少々躊躇いつつシャーリーさんに顔を向ける。
シャーリーさんが自分用に用意してきたであろうものを私が先に飲んでしまっていいのだろうか。
しかし彼女の返答は明快であった。
「気にすんなって。それより兄さんがずっと寒そうにしてるほうが気になるよ」
「…………ありがとうございます」
そこまでおっしゃるのであれば、折角の好意を無碍にするのも失礼であろう。
私は意を決してスキットルの蓋を開け一口飲む。
火傷しそうな熱を持った液体が喉から胃へと流れ込んでいくのが、冷え切った体には心地よかった。
「ふぅ……温まりました。ありがとうございます」
「もうよかったのか?」
「はい」
元通り蓋を閉めると、シャーリーさんに投げ返す。
シャーリーさんはそれを受け取ると、同じように口をつけた。
その行為の意味することに数瞬遅れて気づいた私は思わず驚いた表情でシャーリーさんを見つめてしまう。
「…………っ!!」
「くーっ!全身にしみわたるねぇ……ってどうした兄さん。そんなに驚いた顔で」
「あ、いえ、その」
私の態度に怪訝そうな表情を向けてくるシャーリーさん。
気づいているのか、いないのか。
その表情では判断が付きかね、思わず誤魔化すようにシャーリーさんから顔をそらす。
「…………?」
「そ、それより今日はいかなる御予定で?」
「あ、ああ、そうだな……じゃ、着いてきてくれ」
強引に話題の転換を図った私の態度にやや戸惑ったような表情を見せるが、シャーリーさんは私を先導するように格納庫へと歩き出した。
「じゃーん!これだぜ」
「これは…………オートバイですか」
格納庫の中に鎮座していたのは、魔力で作動するエンジンを積んだ二輪車、オートバイであった。
確かリベリオンにおられたころのシャーリーさんはオートバイでの速度世界記録を出されたこともあるとか……
「ああ。私が一から組み上げた、私専用のカスタム機さ」
自慢げに車体を撫でるシャーリーさん。
その車体の横にはもう一つ、人ひとりが乗れるようにサイドカーがついていた。
「どうだ?兄さんと一緒に乗るために昨日から徹夜で取り付けたんだぜ?」
「そ、それは……どうも」
そんな言葉しか出てこない。
相変わらず自分の趣味の事となると驚くほどの集中力を発揮される方だ。
「まぁ、こんなとこで眺めてても意味ないか。それじゃ、乗った乗った」
そう言うとシャーリーさんは私にヘルメットとゴーグルを投げてよこす。
「どうだ?お揃いだぞ」
そう言うシャーリーさんの手にも、私の手にあるのと同じようなヘルメットとゴーグルがあった。
「私のバイクの横に乗るのはルッキーニに続いて二人目だぜ」
「ありがとうございます」
「だから、敬語禁止って言ってるだろ。さっきからずっと敬語じゃないか」
不満そうなシャーリーさんに慌てて言い直す。
「あ、ああ」
「よしっ…………じゃあ出発するぜ」
そう言ったシャーリーさんの表情に、私はあるデジャブを感じ取っていた。
それは先日、ルッキーニ少尉や宮藤さんとローマに買い物に行った時の記憶。
(…………前方視界よし。対向車なし)
(シャ、シャーリーさん?)
(あ、兄さん。ちょっとここからはおしゃべりは封印な。口を閉じてないと舌噛むぞ)
(な、なにを…………)
車の助手席に座って死を覚悟したのは、おそらくあれが初めてであろう。
思わず乗り込もうとした足が止まる。
「どしたんだい兄さん?乗らないと出発できないぜ」
「あ、いえ、その」
私の態度に、不思議そうなシャーリーさんであったが、程なくして私の躊躇いの原因に気付いたのであろう、苦笑しつつ手を振ってみせる。
「あー、今日は大丈夫。ちゃんと安全運転で行くから」
「……本当でしょうね?」
「本当本当。だからそんな目を向けてくんなって…………ちょっとゾクゾクしてきたじゃんか」
そう言って冗談っぽく笑う。
いまいち信用の置けぬ口ぶりであったが、自分の手で一から組み上げたオートバイをお釈迦にするような真似はシャーリーさんもするまい、と思い直す。
私がサイドカーに収まったのを見届けると、シャーリーさんも隣のオートバイに跨った。
「じゃ、出発!」
シャーリーさんの言葉とともに、エンジンが朝の空気を切り裂いて響き渡る。
「three……two……one……GO!」
そんな掛け声を残し、私とシャーリーさんを乗せたオートバイは動き出した。
景色が超高速で後ろへと流れていく。
安全運転で行く、というシャーリーさんん言葉に嘘はなかったようで、かなり速いスピードながら崖から崖ヘダイブといった無茶な運転はしていない。
普段私が運転する軍用車とはまた違った視点からの景色に、私の心は新鮮な感動を覚えていた。
ふと、隣のシャーリーさんの横顔に目をやる。
ゴーグルに隠されてはっきりは見えないものの、その口元は笑みを形作っている。
半ば脅されるように付き合わされたツーリングであったが、シャーリーさんのその表情を見ると悪くないかな、とも思えてくる。
やがてほどなくして、海に向かって突き出た崖でシャーリーさんはバイクを止めた。
「とうちゃーく!どうやら間に合ったみたいだな」
「間に合った…………?」
「まぁ見てなって」
シャーリーさんに促されるように崖の突端に立ち、海へと視線を向ける。
遮るものとてない景色の中目を凝らすと、水平線がわずかな円を描きながら空と海とを区切っているのが見えた。
そう思ったのも一瞬のこと。
その境目の黒が少し薄くなったかと思うと、徐々に黒から濃紺、そして蒼へと色を変えていく。
やがてはっきりと朝日が水平線から顔を出すと、水平線から我々の方に一条の光がまっすぐ向かって来るのが見えるようで、思わず目を細めた。
「…………」
「どうだ?すごいだろう?」
後ろから聞こえてくるシャーリーさんの声すら耳に入ってこない。
それほど私は目の前の光景に圧倒されていた。
あたりはすでに薄紫に染まり、水平線から半分ほど姿を現した太陽が辺りを包み込むような光を放っていた。
「バイクで走ってて偶然見かけてな。私も初めて見た時は兄さんと同じように声すら出せなかったさ」
「ああ……」
坂本少佐に抱えられて空から見た景色、そしてあの山中の庵で新年を迎えた時に見た初日の出。
あの景色にも勝るとも劣らぬ景色が目の前にあった。
「…………うりゃ」
どすっ。
そんな声とともに脇腹に鈍い痛みが走る。
振り返った先にはシャーリーさんがにやにや笑いを浮かべながら立っていた。
「坂本少佐のこと考えてただろ」
「なっ…………」
「……くく、図星だったかい?」
そう言っておかしそうにシャーリーさんが笑う。
カマかけに引っかかったのだと気付いたのはそれから数瞬の後であった。
「……やれやれ。兄さんも鈍い人ってわけじゃないだろうに…………女と二人でいるときは相手のことだけ考えろよ。他の女の事なんぞ考えるのも無粋ってもんだぜ」
「は、はい」
506に派遣された時、グリュンネ少佐にも同じことを言われた記憶がある。
憮然とした表情になる私を、シャーリーさんは可笑しそうに見やっているが、やおら背嚢より大きなバスケットを取り出した。
「まぁいいや。見るもん見たし、朝飯にしよーぜ」
得意げに開いたバスケットには、サンドウィッチがこれでもかとばかりに詰め込まれていた。
「シャーリーさ……シャーリーが作ったのか?」
シャーリーさんと言いかけたところで彼女に睨まれ、あわてて言い直す。
……どうもこそばゆいが、シャーリーさんが望むのであればできるだけの努力はしよう。
「ああ。宮藤や兄さんほどじゃないけど、こういう簡単なものなら得意だぜ」
「…………それはたのしみだなー」
「何でそんなに棒読みなんだよ……いいから食ってみろ」
こちらに半眼を向けつつ、一つをつかんで乱暴に差し出してきた。
それを受け取り、ゆっくりと咀嚼する私の口元を、シャーリーさんは存外真面目な表情で見つめている。
「美味い」
「…………そ、そうだろ?だから言ったじゃん。こういうのは得意だって」
答える言葉が若干どもっていたのが気になりはするが、確かにシャーリーさん作のサンドウィッチは美味であった。
「ほら、たくさんあるからどんどん食ってくれよ」
「ありがとう」
それからしばらくの間、私はシャーリーさんと共に、完全に上った朝日を浴びながらかなり早い朝食をとっていた。
「ごほっごほっ!」
「ほらほら、何やってんだよ兄さん」
そんな言葉とともに、再びスキットルが差し出される。
一瞬ためらうものの、そんなことを言ってられない状況に、飲み口に口をつけて一気に呷った。
全身に焼けるようなコーヒーの熱が染み渡っていく。
「…………ふぅ」
人心地ついたところで、シャーリーさんにスキットルを返す。
「全く…………たくさんあるって言ってるだろ?」
そう言いながらシャーリーさんは何のためらいもなくそのまま一口飲んだ。
思わず驚きの声をあげそうになってすんでのところで堪える。
…………何というか、妙なところで無防備な方だ。
まぁ、わざとやっているという可能性も否定できないのがシャーリーさんという方なのだが。
「今日はありがとうな。付き合ってくれて」
「いや、私も楽しめたし、こちらこそお礼を言いたいぐらいだ」
「そっか…………」
私の言葉に、そう言ってシャーリーさんは照れたように頭をかく。
その時であった。
「ほう…………ずいぶん楽しそうだな、土方」
「あらあら、私も年なのかしらね。二人にこんな時間の外出許可を出した記憶がないんだけど…………」
ふいに背後から聞こえてきた声に、私とシャーリーさんの表情が固まる。
「どれ、私もご相伴にあずかるとしようか」
「そうね。シャーリーさんの料理ってなんだか新鮮だし」
「あ、あの…………」
そんなことを言いながら私たちの視界に入ってきたのは予想通り、というか。
坂本美緒少佐と、ヴィルケ中佐であった。
その顔は笑顔であるものの、目が笑っていない。
隣にいるシャーリーさんに視線を送ると、彼女もまたこちらに視線を送ってきていた。
どちらからともなく、小さく頷く。
「「ごめんなさいっ!!」」
我々にできるのは、土下座せんばかりの勢いで頭を下げることだけだった。
「…………またか。今度はいったい何をやらかしたのだ土方」
翌日。
罰としてハンガー掃除をやっている私に、バルクホルン大尉が声をかけてきた。
しかし、私と共に掃除をするシャーリーさんの姿を認めると、バルクホルン大尉は眉を顰める。
「また貴様かリベリアン……土方を貴様の悪ふざけに付き合わせるのは自重しろ」
「へいへい」
「だからそう言う不真面目な態度を改めろと何度も…………」
たちまちに言い合いが始まる。
もはや501の風物詩ともいえるお二人の言い合いを見るともなしに見ていると、不意に横合いから声をかけられた。
「…………圭助さん」
「あ、宮藤……さん?」
振り返った先にいたのは宮藤さんであったが、その雰囲気はいつもの彼女のものではなかった。
半眼でこちらを睨むような表情で、宮藤さんは口を開く。
「シャーリーさんと二人で出かけてたって、本当ですか?」
「…………え、えっと」
「本当なんですか?」
「は、はい!」
あまりの迫力に思わず直立不動で答える。
「ふーん…………そうなんですか」
「み、宮藤さん……」
「ふーん…………」
…………結局、宮藤さんがまともに話してくれるようになるために数時間の間謝り続ける羽目になったのであった。
以上です。
シャーリーさんと土方の絡ませやすさは異常ですね。
それでは。
また来週。
乙!
おつ
1の書くシャーリーさん好きだ
おつー
乙! 見ていてニヤニヤしてしまった!
1さんのシャーリーさんの絡ませは最高ですね!
セルフage
毎回レスありがとうございますね。
週末には本編の続きをお届けできると思います。
そんな前のレスに突っかかるな
あと、誰かを蔑んで>>1を褒めるのは迷惑だからやめろ
1です。
すいません。週末までに完成すると思いましたがしませんでした。
続きはもう少しお待ちください。
2~3日でお届けできると思います。
お待ちしておりまする
いつまでも待ってる
こんばんは。
遅くなってしまい申し訳ありませんが、続きを投下します。
「少佐、本日の…………」
「今日の訓練は、特別メニューになる」
「特別、ですか」
次の日の朝。
いつものごとく訓練予定の命令を受領するためにウィッチの隊舎の出口で坂本少佐を待ち受けていた私に開口一番かけられた言葉ははそれであった。
とっさに浮かんだ私の疑問の表情に答えるように、少佐は言葉を続ける。
「ああ。エイラの奴がな。昨日のことでいろいろ思うところがあったようだ。ははっ、奴が特別訓練を申し出てくるなど、雪でも降るかと思ったぞ」
昨日の事、とは聞くまでもあるまい。
来たる作戦においてリトヴャク中尉の盾役を外されたのがそれだけショックであったということであろう。
「しかも、そのパートナーに選んだ相手というのがな…………くく、まぁ百聞は一見にしかずだ。ついて来い」
どこか楽しそうに私に先立って歩く少佐の後についてたどり着いたのは、基地近くのいつも訓練に使われている空域。
「……どうだ?」
どうやら、坂本少佐以外のウィッチの方々も全員集合しているようだ。
少佐の言葉に答えたのはヴィルケ中佐であった。
「ああ、美緒に土方くん。今から始まるところよ」
そう言ってヴィルケ中佐に促されるように見上げた空には、ビショップ曹長とペリーヌさん、そしてエイラさんの3名のウイッチの方々がホバリングしつつ浮かんでおられる。
「これは、確かに…………」
思わずつぶやく。
確かにあまり見ない組み合わせである。
ビショップ曹長はいつもの対戦車ライフルを構えているが、いつもと異なるのはその銃口の向けられた先。
彼女の銃口は寸分の狂いもなくペリーヌさんとその前に浮かぶエイラさんに向けられていた。
「あ、あの~~本当にいいんですか?」
「…………構いませんわ。おやりになってください」
「さ、私をサーニャさんだと思って守ってくださいまし」
「え~~?お前がサーニャぁ~~?」
上空のウィッチの方々の会話が、近くの通信機から聞こえてくる。
とりあえず傍らのヴィルケ中佐に疑問をぶつけてみた。
「…………これは?」
「昨日、エイラさんがペリーヌさんに相談したみたい。シールドの特訓をしてくれって」
「はぁ…………」
そらまたどうして。
思わずそんな言葉が口から出そうになって慌てて咳払いで誤魔化す。
失礼ながら、なぜここでペリーヌさんなのであろうか。
シールドの扱いならば宮藤さんこそがふさわしいのでは…………
「まぁ、あ奴にもプライドがあるのじゃろうの。自分の役目を奪っていった相手に頭を下げるのは癪だというな」
「んで、宮藤とペリーヌっていつもケンカしてんじゃん。だから『敵の敵は味方』ってことでペリーヌに頼んだらしいぜ」
「ああ…………」
私の表情から疑問を読み取ってくださったのか、続くウィトゲンシュタイン少佐とシャーリーさんが補足してくださる。
何ともエイラさんらしい、と言えばいいのだろうか。
ふと、リトヴャク中尉の方に視線を向けると、彼女は私の視線にも気づいた様子を見せず心配そうにずっと上空に視線を送っていた。
無理もない。一歩間違えればエイラさんが対戦車ライフルの直撃を受けることになるのだ。
「あの、本当に、本当にいいんですかぁ~~?」
「もう!真面目におやりなさい!」
「は、はいっ!」
「全く、何やってんだか…………」
訓練の内容に比して著しく緊張感を欠く上空の会話に、ヴィルケ中佐は困ったように肩をすくめる。
しかし、一歩間違えば怪我人どころか死人が出かねないこんな訓練をよく中佐が許可したものだ。
「あ、あの…………大丈夫なんでしょうか」
「まぁ、あの二人なら大丈夫でしょ」
答える中佐の声色も飄々としている。
「……始まるようだな」
坂本少佐の声に、私は再び空を見上げる。
どぉん!
鈍い音とともにビショップ曹長が対戦車ライフルを発射した。
「ほいっと」
エイラさんの気の抜ける呟きとともにエイラさんは何でもない事のように至近距離から放たれたライフルの弾を「回避する」
「ひぃっ!」
まさかエイラさんが避けると思っていなかったためシールドを張るのが一瞬遅れたペリーヌさんのまさに鼻先で弾丸が止まった。
腰を抜かさんばかりに驚いているのが遠目にもわかる。
一瞬の自失から我に返ったペリーヌさんがエイラさんに食って掛かった。
「何で避けるんですの!?避けたら訓練になりませんでしょう?」
「悪い悪い…………でも、おまえじゃ本気になれなくてさ」
「だ・れ・の!ために私が体を張っていると思ってまして!?」
「そりゃ分ってるけどさぁ」
「ぐぬぬ…………リーネさん!いいからジャンジャンお撃ちなさい!」
「で、でも……」
「いいから!」
「は、はい!」
ペリーヌさんの剣幕に驚いたビショップ曹長がライフルを連射するが、エイラさんはそれをことごとく避けていく。
当然避けた球はすべてペリーヌさんに向かうことになる訳で。
「よっ。ほいっ。とりゃ」
「え、エイラさんっ!貴女真面目にやる気がありますの?」
「そう怒るなよツンツン眼鏡」
「これが怒らずにいられますかっ!」
「わっははははは!何やってんだよペリーヌ」
通信機から漏れ聞こえてくる、当人たちにとっては真剣なのだろうが傍から見ればコントにしか見えないこのやり取りに、シャーリーさんなどは遠慮なく爆笑している。
「しかし、あれだけ至近距離から放たれた対戦車ライフルの弾を、視線も向けずに回避するとはのう。あ奴の大言壮語も全くの根拠なしというわけでもないようじゃの」
「そうだねぇ……私だってあんなこと出来ないよ」
「まぁ、しかし…………その才能が仇となるとはな」
ウィトゲンシュタイン少佐、ハルトマン中尉、バルクホルン大尉のカールスラント組は感心しているというか呆れている体である。
「エ、エイラさん!何度言ったらわかるんですの!」
「ご、ごめんなさ~~い!
かくしてエイラさんのシールド訓練はペリーヌさんとビショップ曹長の叫び声をバックに、何の成果も挙げることなく終了したのだった。
その夜。
いつものように少佐と夜の見回りをしていると、不意に少佐が話し出す。
「貴様はどう思う。昼間のこと」
唐突な問いかけであったが、さすがにその表情からその意味することは分かる。
エイラさんの「特別訓練」のことを仰っているのだろう。
「その、エイラさんもエイラさんなりに頑張ってはいらっしゃるようですが……」
「…………存外はっきり言うようになったな、貴様も」
「も、申し訳ございません」
エイラさんの事をバカにしたように聞こえてしまったであろうか。
慌てる私に少佐は、柔らかい笑みを返してくる。
「何、怒っているわけではない。昼間の訓練がうまくいかなかったのは確かなのだからな」
「い、いえ、しかしそれは…………」
「いいから続きを聞け。私が思うに、エイラはいわゆる天才だ。普通の人間が何年もかかって習得するようなことを数週間で極めてしまうような」
「は」
少佐の言葉にうなずく。
確かにエイラさんは何を命じられても飄々とした態度で果たしてしまいそうだ。
「だがそれゆえに、私の様な凡人とは違い、自らの才能だけではどうにもならない壁というものを、おそらく奴はほとんど経験せずに来たんじゃないだろうか」
そう言って冗談めかして少佐は笑う。
それは自嘲の笑みではなく、自分が今まで重ねてきた努力の成果を信じているが故の余裕の笑み。
「そんな壁にぶち当たった時、奴がどういう反応をしてくれるか、楽しみでもあり、怖くもある。下手をすれば一人の才能豊かなウィッチの将来を潰してしまうだけの結果に終わるかもしれない」
「坂本さん…………」
少佐はなおも続ける。
「だが、ここでエイラが一皮むけてくれれば、この経験は奴にとってかけがえのない宝となるだろう。そしてエイラならば自力でこの壁を乗り越えてくれると信じている」
「は。私もそう思います」
「ははっ、土方参謀殿に同意していただけるとは光栄の至りだな」
「さ、参謀殿はやめてください……」
憮然とする私を見て、少佐は再びおかしそうに笑う。
「まぁとにかく、作戦の開始まではまだ余裕がある。幸いと言っては何だがあのサイズであるため侵攻速度は毎時10㎞とかなり遅い。こちらもそれなりの準備を整えられるという訳だ」
「そうですね」
そんなことを話しているうちに、我々はウィッチの方々の居住区の入口に着いた。
「ではな。明日から貴様に働いてもらうことも多くなるだろう。今日はゆっくり休め」
「…………は」
多少の名残惜しさを心に押し込んで、少佐のねぎらいの言葉に頭を下げると、私は部屋に戻るべく踵を返した。
すいません。
今回は短めですがここまでです。
次回はなるべく来週中にはあげたいと思います。
それでは。
乙です
乙ー
乙
エイラが可愛い
乙
こんにちは。
遅くなりましたが何とか週末のうちに上げることができました。
よろしくお願いします
それは、坂本少佐と別れてしばらく歩いた時のこと。
部屋に帰るためブリーフィングルームのそばを通りがかった私の耳に聞こえてきたのはかすかなピアノの旋律。
(これは…………)
オラーシャの作曲家の曲だったと思うが……
しかし、その音色はどこか悲しげな色をはらんでおり、私は思わずひきつけられるようにしてブリーフィングルームへと足を踏み入れた。
「♪~~~♪~~」
入り口を入ると、今まで微かであった音色がはっきりと耳に届いてくる。
そこには、月明りに照らされながら一人でピアノを弾いている、リトヴャク中尉の姿があった。
高い天窓から入り込んでくる月光が彼女の銀髪に当たって反射し、ここが軍施設であることを忘れさせるほどに幻想的なな光景を作り出している。
一言でも声を発したら、そのまま中尉が月の光に解けて消えてしまいそうな、そんな非現実的な思いに駆られた私は入り口を入った姿勢のまま一歩たりとも動くことができず、ただリトヴャク中尉の後姿に視線を送り続けていた。
やがて、わずかの余韻を残して曲が終わる。
ぱち……ぱち…………
その拍手は思わず出たものであったが、その音が合図になったかのように部屋に満ちていた幻想的な空気は霧散し、中尉が驚いたように振り返った。
「……っ!ひ、土方さん…………ですか?」
「申し訳ありません。盗み聞きするつもりはなかったのですが」
「あ、いえ、べつに……」
とりあえず驚かせたことを詫びる。
中尉の方も少しは落ち着きを取り戻したようであった。
「お上手ですね。さすがです」
「そんな……」
私の言葉に、照れたように小さく微笑む中尉。
ブリタニアにいた頃、ヴィルケ中佐の歌う「リリー・マルレーン」に合わせて伴奏をしておられた中尉の姿は今でも私の脳裏に焼き付いている。
買い出しの時、エイラさんがあれほどまでにピアノを欲しがったのも頷けるというものだ。
「このように時々、練習をしておられたのですか?」
「は、はい。エイラが喜んでくれるので…………」
しかし、そう答える中尉の表情は何故か、どこか寂しげである。
その雰囲気に私もそれ以上言葉を続けることが躊躇われ、つい黙り込んでしまった。
気まずい沈黙があたりを支配する。
この雰囲気の中で言葉を発するには私自身少なからぬ勇気を動員する必要があった。
「そ、そういえば……先ほどの曲、確かオラーシャの…………」
「あ、分かるんですか?」
雰囲気を変えるため苦し紛れに発した私の言葉に、中尉はしかし、嬉しそうな表情で意外なほどの食いつきを見せる。
「はい。オラーシャの生んだ偉大な作曲家、ペトルーシュカ・チャイコフスキーの『悲愴』です」
「ああ…………」
道理でどこかで聞いた記憶があったわけだ。
子供のころ、上流階級の子弟の嗜みとばかりに一通りの楽器の扱い方を叩き込まれたことが思わぬ形で生きた格好だ。
もっとも、私自身は音楽の稽古よりも外で戦争ごっこをする方が性に合っている不出来な生徒であったわけだが。
ポロリと漏らした私のそんな思い出話を、中尉はおかしそうに聞いている。
「それじゃ、土方さんもピアノを?」
「…………弾ける、などと言っては中尉に申し訳ない程度の腕前ではありますが」
「ふふ、それでも嬉しいですよ。こういう音楽の話ってなかなかできなかったから。エイラなんか、私のピアノを聞いてるとすぐ寝ちゃうんですよ」
「エイラさんらしいですね」
「でしょう?」
それでもエイラさんのことを話す中尉はどこか誇らしげだ。
しかしそれも一瞬の事、再び中尉の表情は憂いに沈む。
その態度から、エイラさんとの間に何かあったのだとは推測できるものの、私などが立ち入ってよい話なのだろうか。
思わず素晴らしい演奏を聴くことができたことを僥倖と考え、余計なことは聞かずに早々と退散すべきかも知れない。
そう思って口を開きかけた時であった。
「あの」
「土方さん」
私の言葉を遮るように中尉がまっすぐこちらに視線を向けてくる。
そしておもむろに口を開いた。
「私と、一緒に弾いてくれませんか?」
「え?」
全く予想だにしていなかった中尉の言葉に、思わず間抜けな返答をしてしまう。
「連弾ってやってみたかったんです。…………どうですか?」
「ど、どうですかと仰られましても……」
下から覗き込むように上目づかいで聞いてくる中尉に、思わず目をそらす。
「そ、その……私の腕前など、中尉と比べるのも失礼なほどですし、その、ですから」
「…………だめ、ですか」
そうおっしゃる中尉の表情は意外と本気で落胆しているようにも見えた。
訳もなく罪悪感がせりあがってくる。
「い、いえ、だめというわけでは……」
「そうですか、よかったです」
一転して笑顔になる中尉。
そして中尉はピアノの前の椅子に座ったまま数センチほど左にずれると、何かを期待するような目で私を見上げてくる。
「……………」
無言で笑顔を向けてくる中尉のプレッシャーに、私の抵抗の意思は数秒ともたなかった。
一応「失礼します」と断って中尉の隣のスペースに腰かける。
椅子の上のスペースは狭く、必然的に中尉と密着するような格好になってしまうが、中尉は特に気にした様子もなかった。
「あの、本当に私の技量は」
「そんなの、私だって同じようなものですよ。私が土方さんと一緒に弾きたいって思ったんですから」
「はぁ」
そんな会話をしながら、中尉は譜面台に一つの楽譜を広げた。
「この曲は…………?」
私の質問に、中尉は悪戯っぽく片目をつぶってみせる。
「…………秘密、です。そんなに有名な人の曲じゃないから、知らないと思いますけど」
言われて楽譜に目を通してみるが、作曲者のところはなぜか空欄であった。
「それじゃ、準備……できましたか?」
「は、はい」
準備ができたのか、中尉が私の方へと振り返って聞いてくる。
わざわざ帰ろうとした私をひきとめてまで明らかに技量に劣る私と一緒に弾きたいと申し出て下さったこと。
おそらく、中尉のこの行為には何か意味があるのだろう。
ならば私は、私にできる全力でそれにお応えするまでである。
私が頷くと、中尉は正面に向き直り、小さく息を吸って目を閉じた。
それだけで、部屋の中の空気が変わったように感じられる。
そのまま、中尉の指の動きに合わせるように、私もまた鍵盤へと指を落とした。
~~~♪~~♪~~~
流れるような静かなメロディ。
それはこの静かな夜の空気に溶け込むように空間に漂っている。
「…………」
リトヴャク中尉の指は鍵盤の上を踊るように滑り、気を抜くと見とれてしまいそうになるほどに幻想的な空気を作り出していた。
そんな中尉の技量に合わせるべく私も全身の神経を集中させて弾いていく。
そんな風にしてしばらく演奏を続けていると、明らかにピアノの音とは異なる声が、私の耳朶を叩いた。
「…………ちゃったんです」
ともすればピアノの音にかき消されそうになるほどの微かな声であったが、その声は明らかに隣に座る中尉の方から聞こえてきていた。
「中尉?」
「エイラと、喧嘩しちゃったんです」
今度ははっきりと聞こえる。
…………と同時に、隣から聞こえてきていたピアノの音が不意にやんだ。
思わず中尉の方に視線をやると、中尉はうなだれるように肩を落とし、演奏する手は止まっている。
視線を私に向けることなく、中尉は続けた。
「今日、部屋にエイラが帰ってきたとき、何だか落ち込んでるみたいだったので……」
「…………」
昼間の訓練がうまくいかなかったことに起因しているのだろう。
確かに、訓練場から去るエイラさんは飄々としたいつもの彼女とは似ても似つかぬほどに落ちこんでいた。
「だから、元気になってもらおうと思って……いつかシールド張れるといいね、って言ったんですけど……そしたらエイラ、『出来ないことをいくら頑張っても仕方ないだろ』って」
「なるほど……」
「そんな風にあきらめちゃうってエイラらしくないって思ったらすごく悲しくなってきて……それでそのままケンカして部屋を出てきちゃったんです」
坂本少佐が仰っていたことが図らずも現実になった感じだろうか。
天才タイプのエイラさんは挫折というものに慣れていない。
その時にどう努力するかということもわからないのだろう。
「…………初めて自分の才能が及ばない相手に出会って、不安なはずのエイラにあんなこと言っちゃうなんて」
「中尉……」
そう言って俯く中尉の表情は見えない。
「あの、中尉……」
何とか絞り出すように声をかけた私の言葉を遮り、中尉は明らかに無理をしているような笑みを向けてくる。
「すいません土方さん、こんなこと聞かされても困るだけですよね」
「いえ、話していただけて嬉しいです」
私の言葉に、中尉は少し驚いたような表情になる。
しかし、それは私の偽らざる本心であった。
このような個人的なことを私に話していただけたことは、私が中尉よりそう言うことを話すに値する人間だと認められたと自惚れても許していただけるだろう。
私の言葉などがどれほど中尉に届くかはわからないが、今の状態の中尉を一人残して立ち去ることだけはしてはいけないと強く思った。
私はゆっくりと口を開いた。
「中尉、私は坂本少佐の従兵について数年になります」
「はい…………?」
唐突に自分の経歴を話し始めた私に、怪訝な表情になる中尉であるが、それでも話を遮ったりせず聞いてくださっている。
「少佐の従兵として仕事をしていく中で、たびたび私が感じるのは、ウィッチの皆さんのように少佐のお役に立てない無力感です。私が男である以上、少佐とともに戦うということはできない…………そのことに対し忸怩たる思いになったことは一度や二度ではありません」
「土方、さん」
中尉の表情がだんだんと真剣なものになってくる。
「しかし、だからと言って私は少佐の従兵をやめようとは欠片も思いません。自惚れと思われようと、少佐の従兵は私にしか勤まらないと思っていますから」
我ながら恥ずかしい事を言っている自覚はある。
頬が熱を持ってくるのを自覚しつつ、私は言葉を続けた。
「エイラさんも同じだと思います…………などと言うと『お前と一緒にすんな』って怒られそうですけど……エイラさんも、中尉を守るのは自分しかない、そう思っておられるのは間違いないと思います。だからこそ、中尉の盾役を外されたことがショックで、それを取り返そうとしてもうまくいかなくて…………そんな言葉が出てしまったんだと思います」
「…………はい」
中尉は小さく頷く。
「だから、今は中尉の方がエイラさんの力になってあげる番です。先日仰いましたよね。『私だってエイラを守ってあげたいって思ってるのに』と。その気持ちを忘れないでいれば、お二人はきっとうまくい行くと思います」
「…………そう、ですよね。今は私がエイラの事、守ってあげないと」
「その意気です。私だって常に少佐の事をお守りしたいと思ってますから。…………口に出したりしたら自惚れるなって怒られると思いますけど」
「ふふ、意外と喜んでくれるかもしれませんよ、少佐は」
「ははっ、そうだといいですね」
最後には私の言葉に冗談まで返していただけるようになった。
私の言葉で、少しなりとも中尉の心を晴らすことができたとしたら、私のつたない演奏も少しは役に立てたと思ってよいのだろうか。
「ありがとうございます。土方さん。だいぶ気持ちが落ち着きました」
「それはよかったです。そう言っていただけると、私も恥ずかしさをこらえて話した甲斐があったというものです」
「ふふ……でも、本当にうれしいです。全然関係ないのに私たちの喧嘩にまで心配して頂けて」
「違いますよ、中尉」
「え?」
戸惑ったような表情になる中尉。
しかしこのような勘違いは正しておかねば。
「関係なくなどありません。中尉も、エイラさんも…………私にとっては大切なお方ですから」
「……っ!そ、その……あ、ありが、とう、ご、ございます…………」
中尉が頬を真っ赤に染めて俯く。
……少し気障すぎたであろうか。
しかし、関係ない、などと言う仰りようはいくら中尉でも見過ごすことは出来なかった。
中尉は相変わらず俯いたままである。
その姿勢のまま、中尉が再び話し出した。
「え、えっと…………」
「中尉……?」
「その、よかったらその、私の事は、ちゅ、中尉とかじゃなくて……」
「エイラチョップ!」
「ぐおっ」
中尉の言葉に耳を傾けたところで、突如後頭部に衝撃が走る。
思わず無様に床に転げてしまった。
頭をさすりつつ目を上げると、そこにはエイラさんが中尉を背中に庇うようにしてこちらに威嚇するような表情を向けている。
「サーニャに謝ろうと思って探しに来てみれば……油断も隙もない奴だなお前!」
「え、エイラ……」
「何サーニャといい雰囲気になってんだこのエロス!」
「エ、エロス…………」
「し、失礼だよエイラ」
そんな風に呼ばれたのは初めてかも知れない。
驚きのあまり固まる私に代わって中尉が窘めて下さるものの、エイラさんの怒りは収まりそうにない。
「行くぞ、サーニャ」
「え、エイラ、その」
「あ、明日もその、は、早起きしてシールドの訓練しないといけないからな」
「エイラ…………」
「だから部屋に帰って早く寝るぞ……サーニャ!」
「…………う、うん!」
そう言うとエイラさんは中尉の手を取って部屋から出て行く。
最初は驚いていた中尉であったが、エイラさんの言葉の意味が分かったのであろう、笑顔を浮かべてエイラさんの言葉に頷いた。
「あ、あの……」
「中尉、おやすみなさい」
「圭助は黙ってろ」
エイラさんに引っ張られるようにして部屋を出ていく中尉にそう言葉をかけるが、返ってきたのはエイラさんのお叱りの言葉であった。
「そ、その、おやすみなさい土方さん」
「サーニャも一々こんな奴に挨拶なんてしなくていいって!」
「エイラ、そんなこと言っちゃだめだよ」
騒がしく喋りながらお二人の声が遠ざかっていく。
それを床に寝転がりながら聞いている私の目に、天窓を通して見える月は、とても美しく映った。
こんばんは。
この話自体は劇エヴァQでシンジ君とカヲル君が連弾しているのを見て思いつきましたw
また土方さんの謎能力発動ですw
そしてサーニャんの話になるとなぜここまで話が長くなるのか。
それでは。
また来週お会いしましょう。
乙です
乙
エイラ想いで、圭助には素直なサーニャ可愛い。
嫉妬するエイラも可愛い。実際のサーニャと圭助の遣り取りを見たら暴発しそう
あと土方爆発しろ
前に女性といるとき他の女のこと考えるの禁止だって怒られたのをもう忘れたか
ほんとに一瞬たりとも坂本のことを考えてない時がないなこの男は
セルフage
こんばんは。
毎回レスありがとうございます。
どうもサーニャん回は力入れて書きすぎてしまいますねw
乙
エイラーニャ素敵です。
次も頑張ってください。
すいません。
長らく放置してしまいました。
明日の夕方頃には何とか続きを上げられると思います。
それでは。
待ってる
期待待機
こんにちは。
昨日の予告通り、続きを投下しに参りました。
短いですが投下します。
「ん……」
湯につかりながら大きく伸びをする。
リトヴャク中尉とお話をしていたら、なんとなく目がさえてしまい、こうして深夜の月の光を浴びながらドラム缶風呂に体を沈めている。
坂本少佐のご尽力により、ウィッチの方々のために大きな露天の風呂が基地内に設置されたのはつい最近のこと。
少佐などは、ウィッチの方々が利用していない時間に、我々男性隊員も利用できるようにすることを提案して下さったのだが、
「風呂場でウィッチと男性隊員が鉢合わせたりしたらどうするのよ。特に…………」
そう言いながら何故か私に鋭い視線を向けてきたヴィルケ中佐の一言により却下され、現在においても男性隊員の風呂はドラム缶風呂である。
私自身も、正直ウィッチの方々と同じ風呂を使うのは気が引けていたので別に不満などあろうはずもなかったが。
中天に上る月を見ながら、私は先ほどのリトヴャク中尉の表情を思い出していた。
物静かなリトヴャク中尉があれほどまでにエイラさんの事を考えておられたとは。
喧嘩をした、とは言うがそれほどまでに相手のことを考えていればこそ、エイラさんのネガティブな言動が許せなかったのだろう。
お二人の友情に、羨ましさにも近い感情を抱く。
(…………すけーーーー!)
そんなことを考えるともなしに考えている私の耳に、ふいに一つの声が聞こえてきた。
「けーすけーーーーー!」
背後から聞こえていたその声は、急にそのボリュームを増したかと思うと、不意に上空へとその音源を移動させた。
あまりの事にあっけにとられる私が固まっている間に、その声はだんだん上空より大きくなり、
ざっぱーん!!
そんな音とともに私の入っていた風呂の隣のドラム缶に盛大な水柱が立ち上がる。
その頃になってやっと事態を把握した私は、その声の主に恐る恐る話しかけた。
「あ、あの…………ハルトマン中尉、ですよね」
「あいてて……正解っ」
そんな風に笑いながらドラム缶より頭を出したのは、まぎれもなくエーリカ・ハルトマン中尉であった。
慌てて中尉から視線を外し、後ろを向く。
「ちゅ、中尉!な、何を…………」
「あ、大丈夫大丈夫。水着着てるからさ」
「いえ、そう言う問題では」
「どうせけーすけも私のひんそーな体なんか見ても面白くないでしょ。こっち向いてちゃんとお話ししようよ」
「できません」
そう言われてはいそうですかと振り向くことができるほど私は図々しくできていない。
「もう……けーすけは真面目だなぁ」
「貴女が自由すぎるんです」
ウィッチの方々専用の風呂があるというのにわざわざこっちの方に入ってくるなど、相変わらず何を考えているかわからない方である。
自由さではおそらくシャーリーさんやエイラさんも一歩を譲るであろう。
「…………別にいつもこういうことやってるわけじゃないよ。けーすけがお風呂に向かうの見たからさ。追いかけて来たってわけ」
「そんな理由で入ってこないでください」
「それよりさ、聞いちゃったよさっきのサーニャんとの会話」
「え」
中尉のお言葉に思わず中尉の方を振り向いてしまいそうになり慌てて再び中尉に背を向ける。
…………まさか、あの会話を聞かれていたとは。
「『その気持ちを忘れないでいれば、お二人はきっとうまくいくと思います』だっけ?かっこいいなー」
「…………」
改めて第三者の口から聞かされると何とも恥ずかしいセリフである。
思わず頭を抱えて湯の中に潜りたくなった。
しかしハルトマン中尉は容赦なく次の一撃を繰り出して来る。
「しかもその後のセリフがすごいよ。『中尉も、エイラさんも、私にとっては大切な方ですから』って…………これ完全に口説いてるよね」
「そ、その、その辺で…………」
「いやー、聞いてた私の方が恥ずかしくなってきちゃったよ…………でも」
そこで言葉を切った中尉の雰囲気ががらりと変わったのが背中越しにでもわかる。
「私もサーニャんの事は気になってたから……けーすけに先越されちゃったけど、ま、結果オーライだよね」
「いえ……私は何もしておりません。リトヴャク中尉とエイラさんの絆は私如きが何か言ったぐらいでどうにかなるようなものではないかと」
「あーはいはい。そう言うの聞き飽きたから」
そんな会話をするうち、いつの間にか私は振り返ってハルトマン中尉の方に向き直っていたが、中尉は気にした様子もない。
「う……なんかこっち温い…………そっち入れて、けーすけ」
「ちょ、ちょっと中尉、何を……」
「はふー、温かいな」
それどころか中尉はそう言いながら隣のドラム缶から出ると、私の入っているドラム缶に入って来た。
満足そうに眼を閉じる中尉。
水着を着てるとはいえここまで至近距離に密着されてはさすがに虚心ではいられない。
慌てて出ようとする私の腕を、中尉がつかむ。
「何で出てくのさ。一緒に入ろうよ」
「……本気で言ってますか?」
「冗談だと思う?」
「…………できれば冗談であってほしいと思ってますが」
「ひどいなー。いくら私がぺったんこだからってそこまで嫌がらなくても」
「いえ、そう言うことではなく」
「いいじゃん。坂本少佐には黙っとくからさ」
「そ、そこでなぜ少佐のお名前が…………」
「……ん?何が?」
そう言いながらにやにやと笑みを浮かべる中尉。
私はため息を一つつくと再びドラム缶の中へ座り込む。
「そうそう。人間素直が一番だよ」
「諦めただけです」
「諦めも肝心だよ」
「…………大変ためになるお言葉、ありがとうございます」
私の精いっぱいの皮肉も、中尉には針の穴ほどの感銘も与えららなかったようだ。
何事もなかったように中尉は話題を変える。
「ふー。でもやっぱり狭いね。けーすけもあっちの広い方に入りに来ればいいのに。多分誰も文句言わないよけーすけなら」
「いえ、さすがにウィッチの方々と同じ浴場を使うのは……」
「今使ってんじゃん」
「…………」
それはあんたが入ってきたからだろ、とはさすがに言えずふてくされたように黙り込む私を中尉はおかしそうに見つめていた。
「やっぱりこういうとこだとけーすけもそう言う表情するんだね」
「あ、それはその」
「いや、怒ってんじゃない。むしろ嬉しいよ。けーすけっていつもしかめっ面してるイメージあるからさ。そう言う表情見れただけでここに来たかいがあったな」
「はぁ……」
自分が面白味のない人間だというのは自覚している。
しかし、坂本さんをはじめとする501の方々と接するうちに多少なりとも私にも変化が訪れているということか。
そう言えば似たようなことをシャーリーさんにも言われたな、と思い出す。
「まーそういう訳だから。私は今のけーすけの方が好きだな」
「そ、それはどうも…………」
「なんだよーせっかく好きって言ったのにもう少し喜んだら?」
「は、はい」
不満そうな表情の中尉であるが、私としては何とも反応の返しようがない。
「ま、いいや。私はそろそろ上がるね」
「は」
そう言って中尉はドラム缶から出る。
…………結局最後まで振り回されっぱなしであった。
相変わらず自由な方である。
数歩歩いたところで中尉が振り返った。
「あ、そうそう、けーすけ」
「は。何でしょうか」
「これからは私の事もエーリカって呼ぶこと。いいね」
「あ、いえ、その」
「シャーリーやエイラは名前で呼んでるじゃん。私だけ中尉とかずるいよ」
「は、はい」
「それじゃ、呼んでみて」
「そ、その……エーリカ…………さん」
私の返事に、中尉はやや不満そうに眉根を寄せる。
「さん、もいらないよ。けーすけの方が年上なんだし」
「それは…………お断りいたします」
扶桑の習慣というのだろうか。
家族でもない女性のファーストネームを呼び捨てることに心理的な抵抗を覚えるのは。
私の表情に、今度はエーリカさんの方があきらめたようにため息をつく。
「ま、いいや。これはこれで一歩前進だしね。じゃ、けーすけと話せて楽しかったよ」
「は」
その言葉とともに、エーリカさんは夜の闇の中へと姿を消した。
というところで以上です。
本編に全然関わらない話というかハルトマンさんしか出てませんねww
すいません。
次回はやっと話を勧められると思います。
それでは。
おつおつ
面白味のないと自覚している主人公の面白いSS。
…………!?
乙!
エーリカマジ天使!
セルフage
皆様読んで下さってありがとうございます。
大変申し訳ないのですが、今週末は仕様のため続きを上げられません。
来週またお会いしましょう。
おおう
残念だがしょうがない
おk
楽しみに待ってる
こんばんは。
お待たせして申し訳ありませんでした。
続きを投下します。
多くの人間の思いと願いをはらんだまま時間だけが過ぎ、そしてある日の夕方。
いつものように夕食の支度に向かう私を、坂本少佐が呼び止めた。
「土方」
「は」
「つい先ほどロマーニャ空軍から連絡があった。件のネウロイがアドリア海を横断し、明後日にもロマーニャに上陸する見通しとのことだ」
少佐の言葉に、思わず緊張が走る。
「と、いうことは……」
「うむ。ロマーニャの国民に被害を出さぬためにも、作戦の決行は明日となる。念のためロマーニャ政府には連絡し、沿岸の住民を避難させてもらった」
「そうですか…………」
相変わらず仕事の早い方だ。
本来ならこういうことは自分の仕事なのだが、と少し悔しいような気持ちにもなる。
しかしその一瞬後に脳裏に浮かんだのは、あの時より必死にシールドの練習をしているエイラさんの姿であった。
長年の感覚というものは容易には抜けないものらしく、その成果ははかばかしくないと聞いている。
エイラさんのその天才のゆえに、自らの限界をこんな形で突きつけられるというのも皮肉な話だ。
「エイラの事が心配か?」
「…………は」
「ふふ、そうか。奴らも果報者だな。ここまで心配してもらえるとは」
……私の表情はどうやら口ほどに物を言っていたらしい。
図星をつかれ一瞬焦るものの、何とか動揺を表に出さないように返答することに成功した。
「…………フォーメーションの変更はしない。エイラの努力は認めるが万が一にも失敗できない作戦だ」
そうおっしゃる坂本少佐の表情はやや苦々しい。
坂本少佐もエイラさんのがんばりを認めたいところなのだろう。
「明日の朝、ブリーフィングを行う」
そう短く言い残すと、少佐は私に背を向けて去って行かれる。
…………このまま坂本さんを行かせていいのか。
そう思うより早く、口からは言葉が出ていた。
「あ、あの!」
「ん?どうした?」
不思議そうな表情で振り返る少佐。
「…………さ、差し出がましいとは存じますが、坂本さんのお悩みの一端なりともこの土方、共に背負わせていただければ幸いです」
「……そうか」
緊張のあまり必要以上にもったいぶった物言いになってしまったが、私の言いたいことは伝わったであろう。
そう答える少佐の表情は見えない。
しかし少なくとも私の言葉に不快を感じた様子はなかった。
「貴様の気持ち、ありがたく受け取っておくぞ」
「は」
そう最後に言い残すと、少佐はそのまま私を振り返ることなく去って行かれた。
(Sakamoto's Side)
(~~~~っ)
土方に背を向けて歩きながら、私は頬が赤くなってくるのを抑えられないでいた。
(いきなり何を言い出すかと思えば…………)
いかにも土方らしいやたらもってまわった大仰な言い回しではあったが、それでもその表情は真剣そのものであった。
そこには何の打算も衒いもなく、ただ一途に私の心配をするその表情。
その言葉に、私は先ほどまで感じていた憂鬱さがかなり軽減されているのに気付いた。
立場上仕方ないとはいえ、エイラにフォーメーションの変更はない事を伝えるのは些か以上に気が重かったのも事実だ。
「共に背負わせていただければ幸いです」
(あの男は…………あのようなセリフを堂々と……)
先ほどの土方の言葉が脳内で何度もリフレインしている。
その声を脳内で再生するごとに、私の頬は熱さを増し、心臓の鼓動は早まって来た。
このような状態で明日、土方の顔をまともに見られる自信がない。
そんな状態で歩いていた私は、私に近寄るひとつの気配を見逃してしまった。
「どうしたんですか坂本さん?」
「ぬおっ!」
「さ、坂本さん?」
不意に後ろからかけられた声に、思わず不意を突かれたように妙な叫び声をあげてしまう。
普段ならこんなことはないのだが、どうやら先ほどの土方との会話による動揺が尾を引いているようだ。
不意に私のあげた声に、驚いたように固まっている宮藤の姿が目に入る。
「す、すまん。少し考え事をしていてな」
「そうですか。いきなり大声を上げるからびっくりしちゃいましたよー」
そうやってのほほんと笑う宮藤は私の謝罪を、少なくとも疑ってはいないようだ。
心を落ち着かせるためにわざとらしく咳払いを一つすると、私は宮藤に問いかけた。
「それで宮藤、何の用だ?」
「あ、それなんですけど…………圭助さん、ご存じありませんか?」
「ひ、土方か?」
「…………どうしたんですか坂本さん?」
宮藤の口から出た土方の言葉に再び先ほどの動揺がよみがえってくる。
そんな私に宮藤は不思議そうにしながらも私の返答を待っていた。
「い、いや……何でもない。そ、それより土方だったな。先ほどまで話をしていたが、おそらく今は厨房ではないか?」
「あ、そうですね……もうすぐ夕ご飯だし。じゃ、ちょうどよかったかな」
「どうした?」
「いえ、こっちだとお米が手に入りにくいっておばあちゃんに手紙を送ったら、扶桑からわざわざ送ってくれたんですよ。だからどうしようか圭助さんに相談しようと」
「なるほどな」
「はい。ありがとうございます!それじゃ、厨房の方に行ってきますね。圭助さん、喜んでくれるといいなぁ……」
そう言って如何にも待ちきれないというように厨房の方へと駆けていく宮藤。
その後姿を見ている私の心の中のどこかが、ちくりと痛んだ。
「…………素振りでもするか」
誰に言うでもなくそう呟くと、私は自室に向けて歩き出した。
「では、本日の作戦を説明する」
翌日、ブリーフィングルームに集まったウィッチの方々の前にて坂本少佐が説明を始める。
「まず、我々を5人からなる第1打ち上げ班、4人の第2打ち上げ班、そして2人の攻撃班に分ける。第1打ち上げ班が通常動力にて高度10,000mまで第2班以降の者を運ぶ。そのために、技術部に突貫で仕上げさせたものがこれだ」
少佐の合図に従って私がスライドのボタンを押す。
画面には鉄の棒を円錐形に組み合わせ、頂上を切り取ったような形の器具が映し出された。
「この下の横棒の部分に2班の者が立ち、そして頂上部分に攻撃班の二人が乗ることになる。第1班の任務はこの器具自体をそのまま10,000mまで打ち上げることだ」
「なるほど。考えたものだな」
バルクホルン大尉が感心したように頷く。
「高度10,000に達した時点で第1打ち上げ班は離脱。第2班は速やかにロケットブースターに点火し、攻撃班を高度20,000まで打ち上げる。最後の攻撃班はそこからさらにロケットブースターに点火。ネウロイのコアのある高度33,333mまで上昇。弾道飛行へと移り、ネウロイへと近づき攻撃をする」
少佐の説明はよどみなく続く。
「高度30,000mか……気温マイナス70度、空気もなく、魔法がなければ一瞬で死に至る…………生きて帰れる保証はない」
「だからこそ、先だってのブリーフィングでも言ったが攻撃班の一人にはシールドによる防御に専念してもらう」
バルクホルン大尉の言葉に、少佐が答える。
その言葉に、エイラさんが少し反応したのが見えた。
「で、肝心の配置はどうなのさ」
「うむ」
ハルトマン中尉の言葉に、少佐が重々しく頷く。
「まず第1打ち上げ班だが、ミーナ、私、バルクホルン、ハルトマン、シャーリーの5名だ」
「そして、第2打ち上げ班。リーネ、ルッキーニ、ペリーヌ、そして…………」
少佐がそこまで言ったところでブリーフィングルーム内の空気がにわかに緊張を帯びたものになった。
「エイラ。そして攻撃班に宮藤とサーニャ。以上だ」
決定事項のみを淡々と述べる少佐。
リトヴャク中尉がエイラさんに心配そうな視線を送る。
しかしエイラさんはそんな視線を浴びても(少なくとも表面上は、だが)特に動じた様子もなく、いつもの飄々とした様子で宮藤さんに声をかけた。
「ま、任務じゃ仕方ないよな。宮藤、ちゃんとサーニャを守るんだぞ」
「は、はい、その、でも…………」
「何だよ……文句でもあるのか?」
「そうじゃないですけど……」
「じゃ、私は部屋に帰って準備してるからな」
何か言いたげに口ごもる宮藤さんに背を向けて、エイラさんはブリーフィングルームを出て行った。
「それで、妾はどうすればよいのじゃ?」
ブリーフィングルーム内の重くなりかけた空気の中、真っ先に口を開いたのはウィトゲンシュタイン少佐であった。
「ウィトゲンシュタイン少佐は地上待機だ」
「余所者には任せられんと?」
「…………そうは言っておらん。司令であるミーナまでもが出撃するのだ。地上で何か変事があった時のために戦力を残しておくだけだ」
坂本少佐の言葉に、ウィトゲンシュタイン少佐は肩を竦めて答える。
「ふむ……まぁしかし、妥当な判断じゃろうな」
「そ、そうか…………」
ウィトゲンシュタイン少佐の性格からもう少しごねるかと思っていたようで、坂本少佐が拍子抜けしたような表情になる。
しかし、続けてウィトゲンシュタイン少佐が口にした言葉に部屋内の空気が一変した。
「…………分かった。では妾はこの地上で圭助と二人っきりで待っておるぞ」
「……んなっ!」
「え…………」
そう言って私の方へと歩いてくるウィトゲンシュタイン少佐に、思わず後ろへと後ずさる。
そんなウィトゲンシュタイン少佐の行動に驚いたような声をあげたのは坂本少佐と宮藤さんであった。
「ちょ、ちょっと待て!き、貴様何を」
「何をも糸瓜もなかろう。実際この司令部で地上に残るのは妾と圭助だけであろ?ならばそこで妾たちが何をしようと勝手ではないか」
「そ、そんなのダメです!」
「に、任務中に何をする気だ貴様ら!」
「何をって……そんなことを妾に言わせる気かや?無粋にもほどがあるぞ」
「ちょ、少佐……やめてk」
ぱさっ。
私のそばまでやってくるとウィトゲンシュタイン少佐は私に抱き着いてきた。
「ふふ、圭助よ、最近妾に構ってくれなんだからの。埋め合わせはたっぷりとしてもらうぞ」
「い、いや、少佐、今はそんなことをしている時では…………」
「分かっておる分かっておる。二人っきりになってからじゃな」
「いえ、そう言う意味ではなく」
抱きついてくるウィトゲンシュタイン少佐の力は意外と強く、私の方も少佐に怪我でもさせてはという心配から自由に動けないでいる。
恐る恐る坂本少佐の方に視線を向けると、坂本少佐と宮藤さんの表情がさらに険しさを増していくのが見えた。
「おお!四角関係か?モテモテだな兄さん」
そして無邪気にはやし立てるのはいつもの通りシャーリーさんであった。
…………笑ってるなら助けてほしいのですが。
「もう……何やってるの貴方たちは」
そしてこの状況に、ヴィルケ中佐はお決まりのようにため息をついたのであった。
というところで今回の投下は終了です。
次回はもっと早く投下したいと思います。
それでは。
乙!
乙ー
地上で何をする気なんだ(棒)
セルフage
縺九o縺?>...縺九o縺?>...
職業安定所。
職員「坂本さん、坂本美緒さん」
美緒「はい」
職員「えー、以前の勤め先を辞められたのはいつですか?」
美緒「1年前です」
職員「辞められた理由は?」
美緒「軍隊でしたが、戦争が終わって、戦闘がなくなって……それで閑職に回されて、やりがいがなくなって辞めました」
職員「それから仕事探しは?」
美緒「恩給をもらってましたので……」
職員「されてないんですね」
美緒「ええ。ですが、それが今月で切れるので」
職員「何か特技はお持ちですか?」
美緒「いえ、特には……体力ならありますが」
職員「わかりました、では適職を調べてみます」
美緒「なんだこれは!! 工事とか、工場とか、そんなのばかりじゃないか!」
職員「でも、それしかないんですよ。事務職はまず無理です」
美緒「なんとかするのが、そっちの仕事だろう!」
職員「贅沢を言っていては就職はできませんよ。あなたは佐官だったそうですね。何人もの部下があなたの命令で動いてたでしょうけど、もうそれは忘れなさい」
美緒「ぐぬぬ……」
帰り道。
美緒「(くそっ……あいつ(土方)は、軍を辞めてすぐ就職が決まったのに……あげく、『お前はもう上官じゃない、言うこと聞く必要はない。それより早く飯作れ』だ。惨め過ぎる……)」
こんばんは。
時間がアレですが今から投下しますねー。
あのブリーフィングより数十分が過ぎ、501基地のハンガーは、作戦を前にした喧騒に包まれていた。
「うぅ~あっちゅい~~」
「我慢しろルッキーニ。成層圏はすごく寒いんだからな……ほい、この耳当ても」
「うじゅ~」
コートやマフラーでだるまのように着ぶくれしたルッキーニ少尉が情けない声を上げるのをシャーリーさんが笑って見ている。
地中海に面したロマーニャは湿度が低いせいか冬でもそれほど寒くならないと聞く。
このような厚着をしたのはおそらく初めてであろう。
「皆さんにジンジャーティーを淹れました。温まりますよ」
ビショップ曹長がそう言って笑顔でティーカップにお茶を注いでいる。
確かにジンジャーは温まるが、かなり癖の強い味であったはずだが…………
「どれどれ…………うぐっ」
「ま~ず~い~~」
「い、いや、こ、これはこれで中々……うぷっ」
「うふふ~~おかわりっ」
一口飲んだバルクホルン大尉とエーリカさんが顔をしかめている。
他のウィッチの方々も同じような渋面を作る中で、何故かヴィルケ中佐の味覚には合ったようで、どこか上気したような表情でおかわりを頼んでいる。
「まぁ、薬だと思えば……土方、貴様も飲んでみろ」
「え…………」
「どうした。確かに貴様が出撃するわけではないが、まぁこういうのは縁起物だ」
「そ、そう言うことではなく……」
坂本少佐はそう言いながら自分の飲んでいたカップを差し出して来る。
い、いや、さすがにそれは……
躊躇う私に少佐はなおもカップを押し付けてきた。
…………この方は分かってやっているのだろうか。
分かっていない可能性の方が高いが。
救いを求めるように逸らした視線の先には、ビショップ曹長がいた。
「どうしたんですか土方さん?美味しくないかもしれませんけど、坂本少佐もああいってますし、折角だから召し上がってみてください」
そう言うビショップ曹長は笑顔であった。
これ以上ないくらいの完璧な笑顔であった。
…………しかし、その笑顔から私が感じたのは、何故か背中に氷の柱を突っ込まれたかのような妙な緊張感であった。
ビショップ曹長から伝わってくる謎の緊張感に耐えかねるように、再び少佐へと視線を戻す。
「ほら、リーネもこう言っているではないか」
「う…………」
再び少佐が鼻先にカップを突き付けてくる。
少佐の方もあまり気にしておられないようであるし、ここは頂いておくのが…………
そんな風に考え始めた時であった。
ぱしゃっ
「あちちちっ!」
そんな水音と共に頭上から熱湯がかけられ、私は思わず声を上げてしまった。
たちまちあたりに漂うジンジャーの癖の強い匂い。
「あ、そ、そのっ、ご、ごめんなさい圭助さん」
後ろから聞こえてきた声に振り向くと、宮藤さんがぺこぺこと頭を下げているのが見えた。
私の頭の上に逆さまに載っているカップから推測するに、どうやら宮藤さんがカップを持ったまま転んでしまい、私の上にジンジャーティがぶちまけられたようだ。
こちらが恐縮するほどの勢いで謝る宮藤さんに、私は笑顔を向ける。
「あ、気にしないで下さい」
「す、すいませんっ!すぐに拭きますね」
「いえ、自分でできますので」
「だめです!私に拭かせてください!」
私の言葉を強い語調で遮ると宮藤さんはポケットから取り出したハンカチをもって私の頭に手を伸ばしてくる。
その勢いに気圧されるように、私は宮藤さんが拭きやすいようにと膝をついた。
宮藤さんの手が私の頭の上を撫でるように滑る。
些かこの光景は恥ずかしいが、これで宮藤さんの気が済むというなら耐えるしかあるまい。
「本当にごめんなさい。あの、制服、あとで洗濯しておきます…………」
「と、とんでもございません!、男の洗濯物などをウィッチの方々にさせる訳には……」
「いえ、それじゃ私の気がすまないんです!ぜひ私にやらせてください!」
「え、えっと、その」
気が付くとハンガー内の喧騒は止み、全てのウィッチの方々がこちらを注目しているのが見える。
特にとある2名の方は目をキラキラさせているのが遠くからでもわかるほどであった。
「す、すいません!お気持ちだけ受け取っておきますね」
「あ!け、圭助さん!」
「部屋で着替えてきます!」
「圭助さん…………もう」
さすがにこの場の空気に耐えられなくなった私は、宮藤さんを振り切るようにしてハンガーを出た。
そしてそれよりさらに数十分後、作戦開始時刻はやってきた。
事前の打ち合わせ通り円錐形の発射台を5人の方が支え、発射台の下部に4人の第2打ち上げ班、そして頂上に宮藤さんとリトヴャク中尉が乗る。
「10,9,8,7…………」
司令室にいるウィトゲンシュタイン少佐のカウントダウンに従って第1打ち上げ班がストライカーユニットを起動させる。
あの時ブリーフィングルームから出ていったエイラさんは結局、作戦開始直前になるまで姿を見せなかった。
彼女なりに一応の折り合いはつけたのであろう。攻撃班のお二人を見るその視線に迷いはない……ようには見える。
「6,5,4,3,2,1……発射!」
続くウィトゲンシュタイン少佐の号令を合図に、第1打ち上げ班の方々が発射台と共に徐々に上昇を始める。
(少佐……御武運を)
今回少佐は実際に戦うわけではないのだが、それでも出撃するたびに私は少佐が無事に帰って来てくださることを願わずにはいられない。
空を見上げながらそんなことを考えていると、横合いから声がかけられた。
「さて、圭助、我々は我々でできることをしようかの」
「しょ、少佐…………」
そう言いながらこちらに近づいてくる少佐に、先ほどのブリーフィングの時の言動がよみがえって来て思わず後ずさる。
まさか本気で言った訳ではないだろうが、ウィトゲンシュタイン少佐と二人きりという状況には変わりない。
「……ふふ、そう怯えるでない。心配せずとも空き巣のような真似はせん。坂本に悪いでな」
「は、はぁ…………」
「ちとブリーフィングルームまでついてきてもらうぞ」
そう言って歩き出す少佐。
少佐が何を言っているのかわからないが、とりあえず妙なことをするつもりではなさそうだ。
結局私は少佐についてブリーフィングルームに向かうこととした。
人のいない部屋というのは妙に物寂しい印象を受けるものである。
特にそれがこのブルーフィングルームのようにだだっ広い部屋であればなおさらである。
明かりをつけようとすると、暗闇の中から聞こえてきた少佐の声がそれを制した。
「あ、明りはつけんでよい。こっちにこい」
「は、はい…………」
暗闇の中目を凝らすと、ウィトゲンシュタイン少佐が部屋の中央に向かって歩いていく背中がぼんやりと見えた。
その足取りに全く迷いがないあたりさすがはナイトウィッチである。
私はその背中を目印に手探りをしながら少佐の後についていくと、やがて少佐は部屋の中央、映写機のあるあたりで立ち止まっていた。
「さてと…………このあたりでよいかの。圭助、ここに座れ」
「は……はっ」
何をするつもりかは今ひとつわからなかったが、とりあえず少佐の言われるまま、近くの椅子に座る。
「うむ。それでは動くなよ、圭助」
「ちょ………しょ、少佐?」
次の瞬間、少佐は私の膝の上に横向きに座ってきた。
いきなりの行動に思わず立ち上がりそうになるが、さすがに少佐を床に落とすわけにもいかず寸前で思いとどまる。
「ええい動くないというに。安定せんではないか。ほれ、妾が倒れんように支えるのじゃぞ」
「しょ、少佐、これは」
「いいからお主は妾が倒れんよう上半身を支えるのだ。ほら、こうやって肩と腰に手を回して…………そうじゃ」
密着してくる少佐から漂う甘い香りに、こちらの心拍数が一気に跳ね上がった。
「あの、少佐?」
「…………」
しかし少佐は私の問いかけには答えず、目を閉じて何事か集中し始める。
少佐の端正な顔が目の前数センチにある状況のなかで、私もどうしてよいか分からぬまま時間だけが過ぎた。
おそらく時間にすれば1分もたっていなかったであろうが、私には数時間にも感じられたその時間の後、少佐の側頭部に白色に輝くアンテナのようなものが出現する。
そういえば、リトヴャク中尉の頭にも似たようなものが出現したところを見たことがあった。
そのアンテナが白く光ると、前方の壁にうっすらと像が浮かび始める。
「これは…………」
「ふふ、見ていればわかる」
やがてその像がはっきりと映像を結び始める。
「宮藤さん?」
「ふむ、成功のようじゃな」
それは宮藤さんの顔であった。
それはスライドにしてはあまりに鮮明であり、風にあおられた様にせわしなく動く彼女の前髪がこれが静止画像でないことを物語っている。
「まさか…………」
驚く私の表情に、少佐は得意そうに笑顔を向ける。
「ふふ、そうじゃ。これはあのオラーシャ娘が見ている画像よ。作戦が終わるまで暇になるというのもつまらんのでな。攻撃班のオラーシャ娘から送ってもらっておるのじゃ」
「そんなことが……」
「試してみたのは今日が最初じゃ。まぁ上手くいけば儲けもの程度の気持ちではあったがな」
「驚きました」
「もちろん数分のラグは生じるし、とても高度30,000までは持たんであろうが」
まさか言葉だけでなく映像まで送れるとは。ウィッチの方々の能力とは本当に底が知れない。
驚いているうちに、視線が下へとシフトする。
どうやら第一打ち上げ班が離脱したところのようで、第二打ち上げ班の方々の姿と、その後ろで坂本少佐たち5人のウイッチがこちらを見上げているのが見えた。
「どうやら順調のようじゃの」
「は」
再び視線は宮藤さんの顔を正面からとらえる。
驚きもひと段落したところで、私は湧き上がってくる疑問を少佐にぶつけずにはいられなかった。
「その、少佐」
「何じゃ」
「こういうことなら、なにも私の膝に乗る必要はないのでは」
普通に少佐が椅子に座ったほうが明らかに安定すると思うのだが。
私の言葉に対し、少佐は――――
「ふふ…………妾とて少しは役得が欲しいのでな」
そう、笑みを浮かべながら答えたのであった。
以上で本日の投下終わりです。
姫様の謎能力については完全オリジナル設定です。
この話は打ち上げシーン以後が本番だと思ってますので土方たちにもこの場面を見せてあげたいと言う苦肉の策ですw
ご都合主義と思われる方もいるかもしれませんがご容赦ください。
それでは。また来週に。
乙です
乙
便利な能力だ
セルフage
皆様、レスありがとうございます。
おつおつ
羨ましい…
こんばんはー。
今日も投下しに参りましたですよー。
それでは。
(Sanya'sSide)
風が私の髪を乱す。
現在高度18,000m。
人類にとっては完全に未知の領域にいま、私はいる。
目を正面に向けると、芳佳ちゃんの顔が。
私を見て微笑んでくれるその笑顔に、私は何度救われただろう。
でも、と私の中の何かが呟く。
こういう時に、本当に私の側に居てほしいのは…………
その思いは、声になることなく憎らしいほどに晴れ渡った空へと溶けていく。
(Hijikata's Side)
「そろそろ高度20,000じゃの」
「は」
少佐の言葉が聞こえたわけではないだろうが、目の前では、ペリーヌさんたち第2打ち上げ班の方々が今まさに離脱していく映像が映っていた。
徐々に遠ざかっていく4人のウィッチの方々。
エイラさんの姿も当然のことながら、その中にはあった。
画面のノイズがひどく、その表情はよく分からないが、どんな表情なのかはある程度予想がつく。
「圭助よ」
「は」
「ハルトマンから聞いたぞ。あのオラーシャ娘たちの事、随分気にかけておったようではないか」
「そ、それは…………」
少佐のからかう様な言葉に口ごもる。
正直こちらが一方的に心配していたようなもので、相手にしてみれば要らぬおせっかいであったかも知れないのだが。
それでも、リトヴャク中尉やエイラさんが沈んでいるのを放置しておくことは出来なかった。
そんな内心を少佐は正確に読み取ったのであろう。私の心配を笑い飛ばすように小さく笑い声をあげる。
「そんなに気にすることでもあるまいよ。あ奴らとて心配されて嫌な気分になるはずもない」
「は、はぁ」
「まぁ、それはそれで要らぬ問題を巻き起こすこともあるのじゃがの」
「え…………?」
「何、独り言じゃ。忘れてよいぞ」
少佐が何を仰りたかったのか今ひとつわからなかったが、少佐の表情がそれ以上の問いかけを拒絶していた。
「それより圭助」
「は」
「見てみよ。少々愉快なことになっておるようじゃ」
少佐に促され、再び正面を向いた私は、そこに展開されていた意外な光景に驚かされることになるのであった。
(Eila's Side)
「時間ですわ!」
第2打ち上げ班である私は、ツンツン眼鏡の合図によって発射台から手を離して離脱した。
それとともに遠ざかっていく、サーニャの横顔。
その視線が、わずかに動いて私の方を向く。
サーニャはいつだって、私のことを一番に気をかけてくれた。
そんなサーニャを私はいつでも守りたいと思ってきたのに…………
そこまで考えた瞬間、私の中で何かがはじけた。
「いやだーーー!」
私のあげた大声に、周りのウィッチ達が何事かと振り返る。
しかし私にはもう、サーニャの姿以外目に入っていなかった。
「私が……私がサーニャを守るんだ!」
そう叫ぶとブースターへの魔力供給を増加させ、私は宮藤とサーニャに向けてどんどんと上昇していく。
作戦とか命令とか、私にはもうどうでもよかった。
サーニャを守るという役目を、自分以外の誰かに任せることが、たまらなく悔しかった。
「何してるのエイラっ!」
突然の行動に驚いたようにサーニャが叫ぶ。
そんなサーニャに届けとばかりに、私も大声を張り上げた。
「サーニャ言ってたじゃないか!諦めるから駄目だって!」
「……!」
サーニャの表情が驚いたようなものになる。
「私は諦めたくない!サーニャは!私が!守るんだーーーー!」
それは、ここ数日ずっとサーニャに言いたかったこと。
サーニャを守るためだったら、私は何だってしてやる。
「くっ…………」
魔力を急激に吸い取られる感覚に顔をしかめる。
ここまで来るためのロケットブースターに多量の魔力を消費していた私の上昇速度は、サーニャ達に追いつくには全く不足であった。
再び遠ざかるサーニャの顔。
無駄なあがきと思いつつ、はるか上空のサーニャに向けて私は必死で手を伸ばす。
その時、奇跡は起こった。
私の手を掴む一本の手。
目を上げると、そこにいたのは――――
「み、宮藤?」
先ほどまでサーニャとともにはるか上空を上昇していた宮藤が、なぜか私のすぐそばで私の腕をつかんでいる。
宮藤はそのまま私の背後に回り込むと、私の背中を押すようにしてブースターを一気に加速させた。
私の耳元に顔を寄せると、宮藤は囁く。
「エイラさん……やっぱりサーニャちゃんの側にはエイラさんがいるべきです…………行きましょう!」
そのまま宮藤は私の背中を押してぐんぐんと高度を上げる。
一旦遠ざかって行ったサーニャの姿が再び大きくなってくるのがわかる。
やがてサーニャと同じ高度まで到着すると、私は先ほどの宮藤のように、サーニャの背中へと手を回して抱きしめた。
「エイラ……」
「サーニャ、やっぱりこの役目は宮藤だろうと誰だろうと譲れない。サーニャは私が守りたいんだ」
「エイラ…………うん、ありがと」
最初は驚いていたサーニャだったが、私の言葉に笑顔を浮かべる。
「無茶よ!魔法力が持つわけないでしょう!帰れなくなりますわよ」
下の方からツンツン眼鏡の声が聞こえてくる。
しかし、その言葉に返事したのはサーニャであった。
「私が…………エイラを連れて帰ります」
「サーニャ?」
いつものサーニャらしくないはっきりとした物言いに驚く私に、サーニャは笑顔を向けると言った。
「エイラ……一緒に行こう。あの空の向こうへ」
「…………ああ!」
私も全力で頷く。
「もう……無茶苦茶ですわ」
「いっけ―!エイラ!」
「ああ。行ってくる」
ツンツン眼鏡はどこか呆れたように、ルッキーニは楽しそうに、声をかけてくる。
そんな二人に、私は静かに声をかけた。
「いってらっしゃい、エイラさん、サーニャちゃん」
そしてすぐ足元では宮藤がやはり笑顔を向けながら少しずつ高度を下げていくのが見える。
宮藤に向けて、私は勇気を振り絞って口を開いた。
「そ、その、宮藤…………」
「え?」
「あ、ありがとう……な」
「え……は、はいっ!」
さすがに少し照れくさく、宮藤から目をそらしながらの言葉になったが、宮藤は一瞬驚いたような表情になった後、先ほど以上の笑顔をこちらに向けてきた。
(Hijikata's Side)
「ふはははっ!ははははっ!さすがは501よの。妾を退屈させてくれぬわ」
「しょ、少佐……あまり動かないでください…………」
私の膝の上に座ったままウィトゲンシュタイン少佐が笑い声をあげる。
目の前の壁に映る映像はもはやノイズだらけになっており、少佐は画像がぶれるのもお構いなしに腹を抱えて笑い転げている。
おかげで、少佐を床に落とさぬようにさらにしっかりと抱きかかえねばならないほどであった。
「ああ……すまんすまん。しかし、圭助も見たであろう?」
「は」
確かに、先ほど見せられた映像には驚かされた。
第2打ち上げ班であるエイラさんたちが離脱したと思ったら急にエイラさんが何かを叫び、リトヴャク中尉に向けて急上昇。そしてそれに呼応するように宮藤さんがエイラさんを引き上げて、結局エイラさんとリトヴャク中尉がそのまま上昇していくところで映像は途切れた。
いつも飄々としているように見えるエイラさんに、ここまでの行動力があったとは…………
「でも、大丈夫なんでしょうか。第2打ち上げ班として魔力を使い切ってしまった上、リトヴャク中尉を守るためにさらにシールドを張らねばならないエイラさんに、あのまま地上に帰るだけに魔力が残っているのか……」
私の不安を、少佐は笑い飛ばすように答える。
「そんなことを心配しておったのか?」
「は、はい」
「神は我らが頭上にあり、じゃ。ここまでやった奴らが作戦を失敗するわけがなかろう。そう言うものよ」
「はぁ…………」
あまりに自信満々に言い切る少佐の勢いに押されるように私も頷く。
…………しかしそれから数時間後、少佐の「予言」は現実となるのであった。
「おかえり!サーニャちゃん」
「全く……宮藤から事の顛末を聞いた時は胆が冷えたぞ。まぁ、結果オーライといったところか」
「エイラ、かっこよかったよ!」
見事にネウロイを撃破し、帰還したエイラさんとリトヴャク中尉に、他のウィッチの方々から様々な表現ながらねぎらいの言葉がかけられる。
そんな雰囲気もひと段落したころ、不意にリトヴャク中尉が私の方へと近づいて来た。
「あ、あの…………」
「リトヴャク中尉、お見事でございました」
「あ、ありがとうございます」
私の言葉に嬉しそうに微笑む中尉であるが、それから何故か私の方に意味ありげな視線を向けて来るだけで立ち去ろうとしない。
「あ、あの、その、土方さん…………」
「は、はい」
「え、えっとですね、その、土方さんにその、お願いがあって」
「お願い、ですか」
いつものリトヴャク中尉らしからぬ態度にやや戸惑いながらも答える。
もちろんウィッチの方々の要望は、私にできることならかなえたいところではあるが……
「は、はい……その、私の事、いつも『リトヴャク中尉』って呼んでますよね」
「は。それはもちろん」
「そ、その、私の事はエイラみたいに、その、『サーニャ』って、呼んでもらいたいかなって」
「え?」
その「お願い」の予想外な内容に、思わず失礼な返事をしてしまう。
その態度を拒絶ととったのか、中尉の声がさらに小さくなっていく。
「え、えっと、エイラとか、ハルトマンさんとか、みんな名前で呼んでもらってるのに、わ、私は違うから…………」
言いながら赤くなって下を向いてしまう中尉。
何だか最近このパターンが多くなってきている気がする。
まぁ、今更遠慮することでもないだろう。
「…………わかりました」
私の言葉に中尉はぱっと笑顔になった。
「これからもよろしくお願いしますね。サーニャ…………さん」
「は、はいっ!」
「この程度でよろしければいつでも」
「あ、それからもう一つ…………その、土方さんにお礼を、その、言いたくて」
お礼?
私がサーニャさんに礼を言われるようなことを何かしたであろうか。
怪訝そうな表情になる私に、中尉は言葉を続ける。
「あの、一緒にピアノを弾いてくださった時です。あの時、エイラと喧嘩しちゃって落ち込んでた私に元気を下さいました」
「そのことですか……いえ、私はただ下手なピアノを披露しただけです。お二人が仲直りできたのはお二人のがんばりによるもので、私は何も……」
「そんなことないです!」
リトヴャク中尉らしからぬ鋭い語気に驚く。
「あの時土方さんが言ってくれた言葉、私とても嬉しかったんです」
「え…………」
まずい。
あの時私はかなり恥ずかしい事を言ってしまった気がする。
「あの時、私の事を大切な人って言ってくださったから……」
「「「「えええええええーっ!」」」」
不意に横合いから割り込んできた声に、私もサーニャさんも驚いて振り返る。
「ちょ、ちょっとどういうことですか圭助さん!」
「ひっ、土方貴様……どういうことか説明してもらおうか」
「サーニャああああああ!すぐにその男から離れろ!」
そんな風に言いながら駆け寄ってくる方々と、その後ろで笑いながら眺めている方々。
…………501は、今日も平和であった。
……というところでやっと第6話終了です。
やっぱりサーニャちゃんの回は気合が入ってしまいますね。
次は第2期一番の問題回w「モゾモゾするの」……の前に少しオリジナル展開を挟もうかと、
それではまた来週。
乙
土方爆発しろ
乙!
土方爆ぜろ
乙
これはお説教コースですわ
ちょっと待て
次回はまさか土方のズボンに……
ともかく乙
>>540
あのさぁ……
○ちゃん回がワリとマジで楽しみ
セルフage
>>540
そんな誰得展開にはしませんのでご安心をw
俺らは得しなくとも、坂本はじめウィッチの雌どもは得するのでは?(ゲスい顔)
俺は得する
こんにちは。
時間が中途半端ですが投下します。
こんこん。
音が響かぬように細心の注意を払いつつ、隊長室と書かれた木のドアをノックをする。
やや沈黙があり、中から聞こえたのは落ち着いた声。
「……誰?」
「土方です」
「…………開いてるわ。入って」
返事までにやや間があったのはさすがにちょっと警戒されたのか。
当然のことだとは思うが。
部屋に入ると、正面の執務机に座った、この部屋の主であるヴィルケ中佐の姿が目に入ってくる。
いつもと違い、眼鏡をかけているのが妙に新鮮に映る。
中佐はそんな眼鏡越しにやや咎めるような視線を送ってきた。
「土方兵曹。こんな時間に何かしら」
壁に駆けられた時計に目をやると、10と11の間にある短針が見える。
「…………申し訳ありません」
「ま、いいけどね。ちょうど一息入れようと思っていたところだし」
私の謝罪に、中佐は眼鏡を外して手で肩のところを揉みほぐすと、再び顔をこちらに向けてきた。
「それで、用は?」
「は。坂本少佐が、これを中佐に、と」
そう言いながら私は、懐の鞄から書類の束を取り出す。
その書類を一瞥した中佐が大きくため息をついた。
「先日の戦闘の報告書ね。…………待ちかねたわよ。司令部の方から催促の電話がひっきりなしだったんだから」
「申し訳ありません」
「土方くんは悪くないわ。悪いのは報告書なんかにここまで時間をかける美緒よ……ほんとにこういう書類仕事はいい加減なんだから美緒は」
「は、はぁ」
「トゥルーデなんか、こちらが聞く前に出来上がってることだってあるのに…………嫌味を言われるのは結局私だってわかってるのかしら」
そう愚痴をこぼす中佐の姿もまた普段の中佐の姿からは想像もできないものであった。
…………今日は中佐の意外な姿をよく見る日だ。
「まぁ、こんな時間まで頑張った美緒に免じて許してあげるわ。土方くんもありがと。よく持ってきてくれたわね」
そういって中佐はやっと、私に笑顔を向けて下さった。
続けて中佐が尋ねてくる。
「それで、当の美緒は?」
「え、あ、その…………」
口ごもる私の態度に、中佐は事情を察して下さったのであろう、苦笑を浮かべつつ肩をすくめる。
「ま、ここまで頑張ったんだから今頃は疲れ果てて夢の中よね」
「は」
事実、目の下に色濃く隈を作りながらこの報告書を私に託した少佐は「これから8時間、私の部屋の半径1メートル以内に近づいたものは七代先まで呪いが降りかかるであろう」と物騒な一言を残して部屋に閉じこもってしまわれた。
「ふふ、美緒らしいわね。まぁ明日は非番にしといてあげるって伝えておいて。ついでにネウロイも非番であることを祈っておくことね」
「は。それでは私はこれで」
「まぁお待ちなさいな」
部屋から出て行こうとした私を、中佐が引き止める。
「一息入れようと思ってた、って言ったじゃない。ちょっとお茶に付き合ってくれるぐらいの時間はあるんでしょ?」
そう言う中佐の表情は笑顔であったが、何故かその笑顔には断りがたい迫力のようなものが備わっており、私は黙って首を縦に振るしかなかった。
「ふぅ……落ち着くわね」
「は。お疲れ様でございます」
「まぁね。隊長なんてなるもんじゃないって本当にしみじみ思うわよ」
正面に座った中佐が紅茶を一口飲み、そう呟く。
こんな時間まで書類仕事とは、隊長というのはかなりの激務であるというのは本当なのだろう。
「土方くんもどうぞ。私が淹れたものだから味は保証しないけど」
「いえ…………頂きます」
そう断って私も紅茶を一口飲む。
少しの苦味が、ぼんやりしていた頭を目覚めさせていくのが分かる。
どちらからも口を開くことない無言の時間がしばらく流れた後、やおら中佐が口を開いた。
「あ、土方くんに一度聞きたかったんだけど」
「は」
「誰が本命なの?」
「ぶっ……!なっ、ごほっ、な、何を…………ごほごほっ」
思わず口に含んだ紅茶を吹き出しそうになり、むせる私を中佐はおかしそうに見つめている。
「ふふ、そこまで驚くことないじゃない」
中佐はそうおっしゃるが、シャーリーさんやルッキーニ少尉ならいざ知らず、ヴィルケ中佐からそのような質問をされて動揺するなという方が無理な話だ。
「貴方は美緒一筋だと思ってたけど、あの506のお姫様にも随分気に入られてるみたいだし、宮藤さんやシャーリーさんに…………最近はフラウやサーニャさんとも仲良くしてるみたいだし」
「いや、そ、それは…………」
「あんまり目移りしちゃだめよ。もうちょっと美緒の事、しっかり捕まえておいてあげないと」
「ですから私は、そのような……」
「いつか後悔することになるかもしれないわ」
そう言った中佐はそれまで浮かべていたからかう様な笑みを消す。
中佐の雰囲気の突然の変化に、私もさすがに戸惑わずにはいられなかった。
「中佐…………?」
「こういう仕事をしてるとね、一時の別れのつもりが永遠の別れになるってのはよくあることなの」
中佐は席を立つと、窓際へと歩み寄る。
「そうなってから後悔しても遅いのよ。今の関係がずっと続くなんて保障、どこにもないんだから」
窓から月を見上げる中佐の姿はどこか儚げで、私は何と言葉を返してよいか分からず沈黙を返す。
中佐も過去に、そのような別れを経験したことがあるのだろうか。
ブリタニアにいた時に、サーニャさんの伴奏で中佐が歌ってくださった「リリー・マルレーン」。
戦場に行ってしまった恋人に向けて、「あの街灯の下でまた会おう」と呼びかける男の姿を、憂いを含んだ美声で歌い上げた時のあの時の中佐の姿が、今の中佐の横顔に重なる。
「特にあなたのお相手はあの美緒なんだから。こっちがハラハラしてるのを分かってるくせに無茶するわ、簡単に自分の命を粗末にするわ…………」
「…………」
「こんな言い方は土方くんに怒られるかもしれないけど、時々美緒は『死に場所を求めてる』んじゃないかって不安に思うことがあるのよ」
「……いえ」
中佐の言葉は私が少なからず感じていることを見事に言い当てており、私としては言葉もなく沈黙するしかなかった。
烈風丸などと言う禁じ手に近いものを作り出してまで戦場にこだわり続ける少佐の姿に、危うさを感じていなかったと言えば嘘になる。
人一倍旺盛な正義感、それと裏腹に衰えていく魔力。
その相反するジレンマの末にたどり着いたのが烈風丸だとしたら、中佐の懸念もあながち杞憂と笑い飛ばすことは出来ない。
「だからね、土方くんには美緒をこちら側につなぎ留めておいてほしいの。多分それができるのは土方くんだけだから」
「…………」
こちらに向ける中佐の表情は真剣そのもので、これが軽々に返事のできる話でないことを感じさせる。
私如きにあまりに過分な評価だとは思うが、それでも坂本少佐のために何かができるのであれば私としては躊躇う理由などありはしない。
「この土方圭助、微力を尽くさせていただきます」
「そう……いい返事ね。頼んだわよ」
「は」
そう言うと中佐は、再び視線を窓の外へと向ける。
「自分一人でかっこつけて死なれたって、残された方は何も嬉しくない。どんなに無様でも生き残ってくれた方が何倍も嬉し……かった…………のに」
そう呟く中佐の表情は分からない。
しかし、かすかに震える語尾から、どんな表情をしておられるかは容易に想像がついた。
「中佐」
「…………ごめんね。なんだか思い出したくないことまで思い出しちゃったみたい」
そう言って中佐は私に微笑を向けるが、その笑顔は無理矢理作ったかのように儚げなものであった。
その表情を見た瞬間、私の意思と無関係に、私の口が言葉を紡ぐ。
「私ごときの言葉ではいかにも不足でございましょうが…………お約束いたします。いかなる事があろうと、中佐を二度と悲しませることはいたしません」
私の言葉を聞いた中佐は数秒間、あっけにとられたように沈黙していたが、やがて耐え切れないというように噴出した。
「な、何それ…………あはははははっ!そ、そんな真面目な顔して……あはははっ!」
「ちゅ、中佐……」
さすがに予想外な反応に、私自身なんと反応を返してよいか分からないでいると、中佐は言葉を続けてきた。
「ごめんなさい笑ったりして……でも、今の言葉、ちょっとうれしかったわ。それに土方くんが隊員のみんなに好かれてる理由がわかった気がする」
「はぁ……」
「ま、でも今みたいな言葉はこれからは美緒だけに言うようにした方がいいわよ」
そう言って中佐は再び私の正面へと戻ってきた。
「あ、気づいたらこんな時間ね」
中佐の言葉に、先ほどの時計へと目をやると時計の針は既に日付が変わってしまったことを示している。
さすがにこんな時間までここにいることになるとは予想していなかった。
いくら何でもお暇すべきであろう。
「も、申し訳ありません」
恐縮する私に、中佐は笑顔を向けて下さる。
「いえ、なかなか楽しいお茶会だったわ。美緒によろしくね」
「は」
「…………ああ、そうだ」
部屋を出て行こうとした私を中佐が再び引き止める。
「私の事はミーナでいいわ。他の子たちもファーストネームで呼んでるんでしょ?」
「…………は。それではお休みなさいませ。ミーナ中佐」
「はい。おやすみなさい。圭助くん」
そう答えると、私は今度こそ本当に隊長室より退出したのであった。
翌日。
「おはようございます。ミーナ中佐」
「おはよう。圭助くん」
廊下ですれ違ったミーナ中佐とあいさつを交わす。
……どうもこの呼称になれるのにはしばらく時間がかかりそうだ。
そんな我々に横合いから声がかけられる。
「よ。兄さん。相変わらず早いな。ミーナも」
「あ、シャーリーさんもおはようございます」
「シャーリーさん、その格好は何?また勝手にストライカーを改造したりしてないでしょうね」
「あ、あはは…………そ、そんなことしないってもちろん」
そう言って頭を掻くシャーリーさんは相変わらずの胸を大きくはだけた作業服姿である。
最初のうちは見るたびに戸惑っていたが、そう言う態度をとればとるほどシャーリーさんはそう言う格好でうろつきまわるようになることを学んでからは極力スルーするようにしている。
「じゃーな。私は今から風呂入ってくる。兄さんも一緒にどうだい?」
「え、遠慮しておきます」
「こらっ。そう言うことは冗談でも言わないの。圭助くんも一々反応しない」
「は。申し訳ございません」
「へいへい……そんじゃ私は一人寂しくお風呂に行ってきますかね」
ミーナ中佐の言葉をシャーリーさんはいつものようにかわすと、浴場に向けて歩き出した。
「…………ん?」
背後に遠ざかっていくシャーリーさんの足音が2,3歩歩いた所で途切れる。
「なんだかさっき、違和感のある言葉を聞いたような…………」
そう言いながらシャーリーさんは顎に手を当てて何事か考え込んでいた。
その姿に言いようのない悪い予感を感じた私は、シャーリーさんの気づかれぬようにそっと歩調を速める。
その瞬間であった。
「あーーーーー!『圭助くん』!」
その叫び声を聞いた瞬間、私はシャーリーさんから出来るだけ離れるべく走り出していた。
しかし。
がしっ。
「兄さん、どこへ行く気だい?」
「あ、いえ、その」
「速さで私に勝てるとでも?」
数歩と走らぬうちにシャーリーさんにつかまってしまう。
「兄さん、今から暇かい?暇だよな?ちょっと私の部屋で朝飯でも一緒にどうだい?」
「その、私は…………」
「はい決まりー!そんじゃ行くぜ」
そう言うとシャーリーさんは、私を小脇に抱えたまま廊下を歩きだしたのであった。
というところで今日はここまで。
今までほとんど絡みのなかったミーナさんじゅうきゅうさいとの絡みですw
私としてはミーナさんは書類仕事の時眼鏡をかけているといいと思うよ!
では。
また来週です。
眼鏡ミーナさんか…
ありだな
乙です
土方は身を弁えてるからどうしても女子側からのアプローチになるんだよなくそうらやましいっ
まじで19歳とは思えない貫禄
これまじで詐称してるでsh
乙
シャーリーさん万能
おつおつ
呪いかけるもっさん可愛い
そして1の書くシャーリーが好きすぎてやばい
セルフage
皆様、毎回レスありがとうございます。
午前6時。
目覚ましも用いることなくこの時間に目覚めるのは、長年の軍隊生活の賜物と言えるかもしれない。
窓に歩み寄ると、カーテンを開く。
いつもなら朝の日差しが差し込んでくるはずであったが、本日はどうやら朝から雨模様のようで、鉛色に低く垂れこんだ空から降り注ぐ雨がずべての物の輪郭をぼやけさせている。
これでは朝の鍛錬は中止か。
多少の雨ならば坂本少佐の事、そのまま鍛錬を強行するかもしれないが、雨はどうやらかなり強いようだ。
ややがっかりした気分で首を振ると、私は朝食の準備に取り掛かるべく部屋を出て行った。
ちょっと気分転換がてらに久しぶりの日常安価です。
対象になるのははミーナさんじゅうきゅうさい、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、エイラさん、サーニャちゃん、ペリーヌさん、リーネちゃん、芳佳、もっさん、ハインリーケ姫の12名。
安価ゾーンは>>572まで。
最もたくさん名前の登場した方が安価ということにします。
同一IDによる複数投票は1票とみなし、同票が複数あった場合は最初にその数に達した方を安価達成とします。
>>572までいかなくても本日中には締切ります。
それでは。
ハルトマン
姫様
ハインリーケ姫
もっさんで
もっさん
姫様
エーリカ
姫
姫様
坂本少佐
姫様5票、もっさん3票、エーリカ2票で姫様ですね。
了解しましたー。水曜日ぐらいには何とか。
親衛隊多すぎィ!
音沙汰無しは珍しいな
書けなかったとしても報告欲しいかも
申し訳ありませんまだ書けてないです。
日曜中には何とか……
(明確なものではないものの)予告されてた日を数日過ぎても無反応だと
何かあったんじゃないかと思っちゃうよね
書けてないだけで安心した
こんばんは。
ま、まだ日曜でいいですよね(震え声)
投下しますー。
「圭助よ、今良いか」
「……は」
部屋を出たところで、突然ウィトゲンシュタイン少佐に声をかけられる。
いつもの少佐ならば私の都合などお構いなしにスキンシップを取ってくるはずであり、私に都合を尋ねてくるなど初めてのことであった。
そんな普段と違う少佐の態度に、やや警戒するような私の返事に少佐は小さく笑う。
「そう怯えるでない。別に取って食おうというわけではないのだからな……いや、それもありか」
「……やめてください」
そう言う少佐の姿はいつもの少佐のように見える。
しかし、それでも先ほどから付きまとう違和感は消えそうにない。
「圭助、朝食後、妾の部屋に来い」
「は」
「…………ほう?」
即答した私に、少佐はやや驚いたような表情を浮かべる。
「もう少し動揺するかと思ったがの。女に部屋に誘われるのは慣れておるのかや?」
「違います…………」
不本意な言われようにやや本気で反論する。
ここロマーニャの基地に来て以来、同じ基地内に住んでいるという気安さからか、ウィッチの皆様方に急な用事で部屋に呼び出される事が増えていた、というだけの話だ。
エーリカさんに「けーすけ部屋片づけてー」と呼ばれるのはもはや何度になるであろうか。
「はは、あ奴らしいと言えばそうじゃの」
私の返事を聞いた少佐はそう言って小さく笑う。
こっちにとっては笑い事ではないのだが。
片づけのたびにエーリカさんが脱ぎ散らかしたズボンやら下着やらを拾い集める私の気持ちにもなってほしい。
「まぁ、そう言うことであれば話は早い。待っておるからの」
「は」
私は去りゆく少佐の背中に一礼する。
この時はまだ、私はこの訪問がいかなる意味を持つのかなど考えもしていなかった。
こんこん。
少佐の部屋のドアをノックする。
「土方です」
「うむ。入れ」
少佐の返事を確認した後にドアを開く。
これがエーリカさんなどだと着替え中でも構わず「いいよー」などと言ってくるから油断ができないのだが。
少佐の部屋に入るのは初めてであるが、もともと501の隊員でない少佐には使っていない客室があてがわれており、他の方々の部屋と比べれば幾分手狭な印象を受ける。
しかしそれでも質素な印象を受けないのは少佐の選ぶ調度品のセンスの良さによるものだろうか。
「うむ。待ちかねたぞ」
「は。お待たせして申し訳…………」
私の謝罪の言葉は、しかし最後まで言い終わらないうちに中断を余儀なくされる。
声もなく佇む私を、少佐は愉快そうに笑って眺めていた。
「どうした圭助よ」
「あ、いえ、その」
少佐の格好はいつもの軍服ではなく、大礼装と呼ばれる服装であった。
「そ、その格好は……?」
「どうだ?似合うか?」
そう言って微笑んでくる少佐。
似合うかと聞かれればお似合いです、と答えるしかない。
扶桑風に言えば「銀鼠」というのだろうか。やや銀色に光る灰色の軍服に飾りボタン、肩口から胸元にかけてたらされた飾緒。
腰からは精緻な飾りの施された細身の剣を吊るしておられる。
少佐の持つ貴族らしい凛とした雰囲気に、機能美を極限まで追求したようなカールスラントの礼装はこれ以上ないほどに溶け合っていた。
「は。お似合いであられます」
「そうか。ならばわざわざこんな格好をした甲斐があったというものじゃ」
「その、それで御用というのは……」
気を取り直して尋ねてみる。
まさかこの礼装を私に見せるためでもないだろう。
「まぁそう急くでない。茶の準備もしてある」
しかし、私の気持ちをはぐらかすように、少佐はテーブルの上に乗ったティーセットを指さしてみせる。
「…………は」
「よし」
少しの躊躇いの後に私が頷くと、少佐は嬉しそうに微笑んで自ら茶を淹れて下さった。
紅茶を一口含む。
「…………うまい」
思わず口から出る一言。
紅茶などには門外漢な自分ではあるが、それでもこの紅茶に込められた少佐の技術力の高さは分かる。
私の言葉に、少佐も嬉しそうに微笑んだ。
「そうか。ブリタニア人という奴は料理に関しては話にもならぬがこの紅茶という習慣を生んだことについては素直に賞賛してやらねばの」
「……ビショップ曹長には言わないでくださいね」
「分かっておる」
少佐としばしそんな会話を楽しむ。
やがて会話もひと段落したところで、少佐が不意に雰囲気を改めて私に向き直る。
「さて、圭助。こんなに急に妾がそなたを部屋に呼んだのは他でもない」
「は」
「実はな」
そこでいったん言葉を切った少佐が続いて話した内容は衝撃的なものであった。
「昨日、ロザリーから連絡があった。501での滞在時期がもうすぐ終わる、出立の準備をしておけと」
「な…………」
そう言ったきり絶句する私。
考えてみれば、確かに少佐は506より期限付きで出向している身であり、期限が終われば506に帰らねばならないのは明白なこと。
来るべき時が来ただけだというのに、少佐の言葉に私は少なからず動揺していた。
「そ、そうですか……」
「ふふ、その表情だけで部屋に招いた意味のあったというものよ」
動揺を隠しきれない私にそう言って嬉しそうに微笑む少佐。
「まいよい。今日貴様をここに呼んだのは、出立前に一つの心残りを解消しておかねばと思ったのだ」
「心残り…………ですか」
「うむ」
少佐はそう答えると今まで座っていた椅子から立ち上がり、私の側へと歩み寄ってくる。
「少佐?」
そして少佐はそのまま私の前に跪くと頭を垂れた。
「我、ウィトゲンシュタイン伯爵家当主・ハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタインは扶桑国土方伯爵家当主・土方圭助殿の妻となり、我が全てを捧げ、その傍に仕えんことを望む」
そう言いながら私を見上げてくる眼光は真剣そのもので、いつもの私をからかう様な雰囲気は欠片も見えない。
…………少佐の心残りとはこれか。
家同士で勝手に決められた婚約者だ。「私は知らぬ」と知らぬふりを決め込むこともできたのに。
これが少佐なりのけじめのつけ方なのだろう。
ならば、私の方も真剣に答えねば失礼に当たる。
居住まいを正し、少佐へと相対する。
「しょう…………ハインリーケ殿。貴殿のお気持ち、この土方ありがたく思います……私ごとき者に過分なるお言葉、いかなる感謝の言葉をもってしてもつくせません」
「……」
私の言葉に少佐は応えなかった。
しかし、私は言わねばならない。
この先の言葉を。
「しかし、私にはすでに生涯をかけてお仕えすると決めた方がおります。その方の背中は遥か遠く、今の私ではその影すら踏むこと叶いませんが、いつかその方とともに歩んでいけたら、と、そう思っております。ゆえに」
「もうよい」
私の言葉は少佐の言葉によって遮られた。
しかし、ここで言葉を止めることは結局失礼にあたる。たとえ少佐のご意志に反することになろうと。
そう考えた私は強引に言葉を続けた。
「申し訳ありませんが…………その申し出、お断りさせていただきます」
「そうか」
そう答えた少佐は俯いたままである。
しばらくの沈黙の後、少佐は一言だけ言葉を紡いだ。
「出ていけ」
それは私にだけ聞こえるほどの小さな声であった。
「…………は」
私は一礼を返し、静かに少佐の部屋より退出する。
がしゃーん!!
数歩歩いたところで、少佐の部屋から何かが砕けるような音が響く。
脳裏に浮かんだのはほんの数分前、白磁のティーカップで私と共に紅茶を飲んでおられた少佐の姿。
しかし私にはその音に振り返る資格などあろうはずがなかった。
ただ、破片などで少佐が怪我をされぬよう。それだけを祈るのでせいいっぱいであった。
「よう、兄さん」
「…………シャーリー」
数歩歩いたところで声をかけられる。
私の返事にシャーリーさんは一瞬驚いたような表情になるものの、すぐに真剣な表情になる。
「ひどい顔してるぜ兄さん」
「……そうか」
「あー…………これは……まぁ、仕方ねーか。ほれ」
私の生返事にシャーリーさんは困ったように頭を掻くが、意を決したように頷くと私に向かって何かを投げてよこしてきた。
「これは……」
半球状の、ゴーグルがついたそれには見覚えがあった。
先日、シャーリーさんに朝日を見に連れ出された時にも同じものを見たことがある。
それがなんであるか認識し、同時にシャーリーさんの意図を察した瞬間、何故か不意におかしさが湧いてきた。
私は微笑を浮かべつつシャーリーさんに言葉を投げる。
「また私にハンガー掃除をしろと?」
「女を一人振ってきたんだ。それくらいの罰は受けるんだな」
「…………違いない」
肩を竦めつつ応じる。
どうして先ほどの事を知っているのか、などと聞くことすら野暮に思えた。
「兄さん、少しはましな顔になったな」
「そいつはどうも」
そう言いながら私はヘルメットをかぶり、シャーリーさんに続いて隊舎の外へと出る。
雨は、いつの間にか上がっていた。
というところで以上です。
姫様のこの話はいつか書かなくてはと思っていましたが、安価でちょうど姫様が選ばれたので書かせていただきました。
なかなか上手く書けませんね。
それではまた来週です。
P.S夏コミは落ちました。
でも新刊は作るつもりですので他のところで委託していただくつもりです。
乙。姫さま可愛いよ姫さま
ちゃんと二人きりの時はフランクになってる土方さんに萌える
乙です
これは仕方ない……スレタイ的に
乙です
ちょっと姫様抱きしめてくる
やはり逆だったか
女に口火を切らせてから男が断る、というのは扶桑男子の風上にもおけぬな
女々しい
ま、この作品は性別を逆にすれば問題はない
土方を女にして、他のウィッチを男だと考えれば全て丸く収まるww
楽しみにしてるので頑張って
そんなこと言われても、何も言われてないのに自分から「あなたとはお付き合いできません」なんて上官に向かって言えるわけないし
明らかに好意を向けられていたとしても、それを言ったら思い上がりもいいところだろ
しかし土方が坂本への想いを、直接的でないにしてもここまでハッキリと意思表示したのは初めてでは?
やはし根がイケメンだと違うな
すいません。
今週末は忙しくなりそうなので更新は月曜かもしかしたら来週まで延びるかもしれません。
もっさん
こんばんは。
長らくお待たせしてすいません。
今から投下させていただきます。
それから数日はあっという間に過ぎ、ウィトゲンシュタイン少佐が506へと帰還する日がやってきた。
「世話になったの」
「お疲れ様でした。506でのご活躍をお祈りしています」
ミーナ中佐とそんな会話をしている少佐を遠くから眺める。
「あれ」以来、少佐はそれまでのような過剰なスキンシップを取ることもなくなっていった。
やがて、ミーナ中佐との挨拶も終了した少佐がこちらに歩いて来る。
「圭助、世話になったの」
「いえ…………」
「世話になった」という言葉にどうしてもいろいろな裏を想像してしまい、何と返してよいか分からず沈黙する。
そんな私の態度に少佐はおかしそうに笑った。
「そう怯えるでない。あそこまではっきりと言い切られたのでは妾の完敗じゃ。もう貴様を悩ますような真似はせん」
耳元で私にだけ聞こえるように囁いてくる少佐。
しかし、すぐに表情をまじめなものに改める。
「妾にあそこまで言ったのじゃ。他の女などにふらついたりしたら許さぬぞ」
「は」
その言葉にだけは間髪入れずに返事をする。
「ではの。坂本と仲良くせいよ」
再び私に向かってそう言い、手を差し出してくる。
私がその手を握り返すと、最後に坂本少佐に意味ありげな視線を向け、少佐は他のウィッチの方々に挨拶をするために去って行かれた。
「圭助様~~お久しぶりです」
不意に後ろからかけられた聞き覚えのある声に振り返ると、基地の入口に止められたジープの運転席より黒田那佳中尉が笑顔でこちらに手を振っていた。
どうやら少佐を迎えに来たようだ。
「中尉、お久しぶりです」
「はい。圭助様もお変わりないようで、安心しましたよ」
「は、はぁ…………」
相変わらず私の事を圭助様と呼ぶ中尉。
しかし、ここは506の基地ではない。
現に、シャーリーさんやルッキーニ少尉などは遠目からでもこちらに耳をそばだてているのが分かった。
私は中尉のもとに駆けよると小声でささやきかける。
「あの、中尉、その呼び方は……」
「そうですか?私としてはこの呼び方の方が慣れてて呼びやすいんですけど…………」
分かってないのかわざとなのか、首を傾げる中尉に私は心の中でため息をついた。
「あ、そういえば……ニュース見ましたよ。先日のネウロイ襲来では501がまた大活躍だったみたいですね。高度30,000mのネウロイを撃墜、ってガリアでも話題になってます」
「そうですか……」
新聞やラジオではどんな記事になったのか知らないが、あの戦果の陰にはエイラさんとサーニャさんの人知れない努力があったことを私は知っている。
お二人のそんな努力が報われたようで、何とも感慨深い。
「圭助様、嬉しそうですね」
「あ、いえ、そういう訳では……いや、その、嬉しくないわけではないのですが…………」
どうやら自分で思っていた以上に緩んだ表情をしていたらしい。
慌てて表情を引き締める。
「じ、自分のことでなくても501の皆様が褒められるというのは嬉しいものです」
「ふふ、そうですよね。圭助様お優しいから」
「……」
適当に口にしただけの言葉にそんなに感心したような返事をされるとこちらとしても困る。
次に発するべき言葉を探しあぐねる私に、声をかけてくる方がいた。
「黒田。そろそろ行くぞ」
「あ、はいっ。…………それじゃ圭助様、また」
「は」
ウィトゲンシュタイン少佐の言葉に、私と黒田中尉は手分けして少佐の荷物をジープに積み込み始めた。
大きな荷物はすでに別便で送ってあるが、それでも少佐の荷物はこれが一人の方の荷物か、と思えるほどの量がある。
やがてすべての荷物を積み終わると、少佐はジープの助手席へと収まり、最後の別れの挨拶をしてくださった。
「ふむ。なかなか楽しく過ごさせてもらったぞ。礼を言う」
「いえ、こちらこそ色々学ばせてもらったわ。あなた方の活躍を祈っているわね」
「ああ。達者で暮らせよ。ウィトゲンシュタインに黒田。それにほかの506の面々にもよろしくな」
「はい。またセダンにも遊びに来てくださいね。特に圭助様ならいつでも歓迎ですからっ」
黒田中尉の言葉に、見送りのために私の背後に集まっていたウィッチの方々から小さくざわめきが漏れる。
…………天然なのか計算ずくなのか、相変わらずわかりにくい方である。
少佐は私の困惑したような表情を見ておかしそうに笑うと、隣の黒田中尉へと合図を送った。
「……黒田」
「はい」
少佐の合図に頷いた中尉はジープを発進させる。
少しずつ遠ざかっていくジープの後姿を、私は何とも言えない複雑な気持で眺めていた。
…………というところで終わっていればよかったのだが、運命の女神はどうやら悪戯好きなようだった。
「ところで圭助様」
「ねーねーけーすけさま」
別れの余韻に浸る暇も有らばこそ、背後から二つの声がかけられる。
振り返ると、シャーリーさんとルッキーニ少尉を筆頭に、ウィッチの方々の視線が私に注がれていた。
こういうことに興味のなさそうなバルクホルン大尉やペリーヌさんまでちらちらとこちらに視線を送ってきている。
その圧力に、思わず坂本少佐の方へと救いを求めるような視線を送るが、露骨に視線をそらされた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいかな兄さん、いや圭助様」
「大丈夫大丈夫。そんなに時間はとらせないから。…………兄ちゃんの態度によるけど」
シャーリーさんとルッキーニ少尉のお二人に挟まれ、連行される。
何だか最近こういう場面に出会うことが多くなっているような気がするのだが。
…………結局、私はそれから小一時間の間ウィッチの皆様総出の質問責めにあうことになるのだった。
「ミーナ、入るぞ」
「どうぞ」
ウィトゲンシュタイン少佐が去られてから数日後。
朝食後のミーティングにて、ミーナ中佐に呼ばれた私と坂本少佐は隊長室にいた。
「で、私と土方に用とは何だ」
少佐だけならともかく、少佐に声をかけた時に中佐はわざわざ「あ、圭助くんも一緒にね」と申し添えていた。
「実はね、扶桑海軍のお偉いさんから私に直々にお話が合ったのよ。美緒、貴女を一度扶桑に帰らせてほしいって」
「何だと?」
中佐の言葉に、少佐は表情を険しくする。
私も少なからず驚いていた。
出現頻度は減ったとはいえ、まだネウロイの活動は活発なのだ。
そんな時に501の戦闘隊長である坂本少佐を本国に呼び戻すなど正気の沙汰とは思われない。
そんな我々の内心を感じ取ったように、ミーナ中佐も難しい顔で小さくため息をつく。
「もちろん私も反対したわよ。でもね、これは扶桑海軍軍令部からの正式な命令なの。戦闘航空団の一隊長ごときが覆せるようなものじゃないわ」
「どんな理由でだ?」
「ガリアに続いてロマーニャでも多大なる戦果を挙げた英雄に勲章を贈りたい、だそうよ」
「アホか」
一言で切って捨てる少佐。
まぁ私も同じ立場に立たされればそんな気分にもなるだろう。
「気持ちはわかるけどもう少し言葉を選びなさいな」
「それ以外に言いようがなかろう。馬鹿馬鹿しい。勲章などを何十個もらうより一体のネウロイを撃破したほうがどれほど役に立つか」
「まぁ、美緒ならそう言うと思ったわ」
ミーナ中佐はため息をつくと私へと視線を転じる。
「で、圭助くんを呼んだのはこの扶桑行きの間、美緒をお願いって頼むためなの」
「ちょ、ちょっと待て私は……」
「行かない、っていう選択肢はなし。さっきも言ったけど扶桑海軍軍令部からの正式な命令なの。それで扶桑に行ったら授賞式だの式典だのに延々つき合わされるのよ。それで爆発しないでいられる自信、ある?」
「う…………」
中佐の言葉に少佐は言葉に詰まったような表情で沈黙する。
なるほど。
私は少佐が爆発しないための安全弁という訳か。
「まぁ、それだけでもないんだけど」
「…………どういうことだ?」
私に変わって坂本少佐が尋ねる。
「圭助くんの妹さん、いるじゃない?」
「歳江の事ですか?」
「ええ。彼女、無事にウィッチ養成校を卒業したみたいでね。圭助くんが扶桑に帰るかも、って話をしたらぜひ会いたいって要請があったわ」
「はぁ…………」
感興の薄い返事になってしまったが、確かに歳江に久しぶりに会えるのならば会っておきたい。
「土方妹か。奴とも長いことあっていないな」
私も、もう妹とは何年も会っていない。
私が坂本少佐の従兵となるために軍を志願した時、泣きながら私に手を振っていた姿が印象に残っている程度である。
「そう言うことなら仕方ないか。土方家の兄妹再会の手伝いができると思えば腹も立たん」
「い、いえ私は…………」
「いいじゃないか。私も久々に成長した土方妹に会ってみたい」
「じゃ、美緒、いいわね」
「仕方あるまい。せいぜい客寄せのピエロを演じてきてやるさ」
そう皮肉っぽく坂本少佐が頷き、ここに私と少佐の扶桑行が決定したのであった。
……というところでここまでです。
すいません短くて。
ということで折り返し記念で少しオリジナルな話を挟んでみようかと。
今まで謎に包まれていた土方妹の正体が明らかに!
…………まぁそんな大したもんじゃありませんがw
それでは。
また来週。
乙
乙ー
久々の2人きりかとおもいきや妹とな
乙乙
これで例の回飛ばしても違和感なくなったね(笑顔)
なるほど、嫁入り前にちゃんと家族に挨拶しておく必要はあるな
納得
家族に挨拶か…
なるほど…
すいません。
ちょっと今日中にあげるのは無理そうです。
明日かその次あたりに。
出来るだけ頑張りますのでご容赦のほどを。
服脱いで待ってる
せっかくの婚前旅行編なんだから納得の行くまで時間かけて書くのはむしろ当然
期待して舞ってます!
待ってる
こんばんは。
今から投下します。
今回からトリップつけることにしました。
理由は特にない(キリッ
「それじゃ、気を付けてね」
「ああ」
ミーナ中佐と坂本少佐が挨拶を交わしている。
私の目の前の桟橋にはこちらに来た時と同じ二式大艇がその巨体を横付けしていた。
私と坂本少佐はこの二式大艇でこれからしばらく扶桑へと一時帰国することになる。
「…………」
「宮藤さん……?」
ふと背後から私に向けられる視線に気づいて振り返ると、宮藤さんの物言いたげな視線とぶつかった。
「どうされましたか?」
「あ、あの…………」
そう言ったまま宮藤さんは硬直したように沈黙する。
先を促してよいのか戸惑っていると、横合いから脳天気な声がかけられた。
「よ、兄さん。兄さんがしばらくいなくなると寂しくなるな」
「は。私もです」
「…………ははっ、兄さんも言うようになったねぇ。ロマーニャの空気に染まってきたか?」
シャーリーさんはそう言って笑う。
「宮藤もそう思うだろ?」
「…………う、うぇっ?」
急に話を振られた宮藤さんが手をバタバタさせて慌てだした。
「兄さんとしばらく会えないのはちょっとと寂しくないか?」
「わ、私は別に……あ、いえっ、寂しくないとかそう言うのじゃなくて、その、できれば私も一緒に、とかちょっと思わなくも…………」
そんな宮藤さんの態度に、シャーリーさんは彼女の髪の毛をわしわしと撫でる。
「はははっ!宮藤は可愛いなぁ。兄さんもそう思うだろ?」
「あ、え、その…………」
何とも答えづらい質問に思わず言葉に詰まる。
「お二人とも困っていらっしゃるじゃないですか。困らせてはダメですわよ」
「げ…………」
そんな空気を払拭して下さったのは横から話に入ってきたペリーヌさんであった。
ペリーヌさんの姿に、シャーリーさんがやばい、という表情をして離れていく。
その後姿を小さくため息をついて見送ると、ペリーヌさんはこちらに向き直った。
「圭助さん、坂本少佐をよろしくお願いしますわね」
「は」
「…………正直、私もこの命令にはいろいろ思うところもなくはないのですが」
そう言ってペリーヌさんは何かを我慢するような表情で黙り込む。
軍人として、他国である扶桑を批判するようなことは言いづらいのだろう。
「出来るなら私がついていきたいところですが…………でも、貴方がついているなら安心できます」
「恐縮です」
「宮藤さんも、折角の出立の日にそんな顔をするものではありませんわ」
「は、はい……すいませんでした圭助さん」
ペリーヌさんの言葉に、宮藤さんはぎこちなくだが笑顔を浮かべて下さった。
「いえ。こちらこそ。宮藤さん、私不在の間、色々とご負担が増えると思いますが…………」
「そ、そんな!リーネちゃんたちもいるし、私頑張りますから!圭助さんは心置きなく扶桑で頑張ってくださいっ」
そう言って握り拳を作って見せる宮藤さん。
その姿が妙に可愛らしく、思わず彼女の頭に手を置いてわしわしと撫でてしまう。
「わ、わっ!もう……圭助さんまで子ども扱いしないでくださいよ!」
「すいません」
頬を膨らませて抗議してくる宮藤さん。
どうやら少しは気分が落ち着いたようだ。
時計を見ると、そろそろ出発の準備を始めた方がいい時間になっている。
「それでは、そろそろ時間ですのでこのへんで…………」
「あ、はいっ!圭助さん、行ってらっしゃいませ」
「お元気で」
「は。ありがとうございます」
お二人に敬礼を返し、その場を離れようとした私にペリーヌさんが近づいて来た。
どうしたのか、と聞こうとする私の耳元に近づいて来たペリーヌさんは私にだけ聞こえるように囁く。
「今すぐでなくても構いませんが、宮藤さんのお気持ちにも、ちゃんと向き合って下さいましね」
「…………」
「それでは。お元気で」
そう言うとペリーヌさんは呆然とする私を残し私たちから離れていった。
「圭助さん?ペリーヌさんは何を?」
「あ、その、な、何でもないです!」
そう聞いてくる宮藤さんの顔を正面から見ることができず、私は誤魔化すように目をそらす。
そんな私を、宮藤さんは不思議そうに見つめ続けるのだった。
「宮藤とずいぶん話が弾んでいたようだが」
二式大艇の座席。
私の正面に座った少佐がそう言ってからかうような視線を向けてくる。
「い、いえ、別に」
「こっちに来る時には奴の行動力に驚かされたな。もしかしたらまたストライカーユニットで追いかけてくるかもしれんぞ」
「まさか…………」
そう答えたものの、宮藤さんならやりかねないと思えてしまう。
「それじゃ、出発しますぜ」
私たちの会話に割り込むように操縦席からそう声をかけてきたのは、こちらに来るときにもお世話になった橋爪大尉であった。
「ああ。橋爪、よろしく頼むぞ」
「へい」
橋爪大尉の返事から数分後、二式大艇は海面をすべるように滑走し始めた。
やがてふわりとした浮遊感の後、ゆっくりと離水する。
眼下では501のウィッチの方々がめいめいこちらに手を振ってくださっているのが見えた。
彼女たちの姿が視界から消えたところで、私は大きく息をつく。
そんな私の態度を正面に座る坂本少佐が目ざとく見つけ、小さく笑い声を立てる。
「どうした、もう疲れたか?」
「いえ、そういう訳では…………」
「まぁ、これから一週間、この狭い空間で四六時中私と顔をつきあわせて過ごさねばならんと思えばため息の一つも付きたくなって当然か」
「い、いえそんなことはございません!むしろいつまでも見ていたいくらいで…………」
そこまで言ったところで自分がとんでもないことを言ったことに気づき顔が赤くなる。
「あ、いえ、いまのはその、べ、別にっ!」
慌てて弁解するが、言われた少佐の方もこれ以上ないほどに顔を赤くしているのが見えた。
「ば、馬鹿者!いっ、いきなり何を言い出すか貴様!」
「も、申し訳ございません!」
「ま…………全く……ろ、ロマーニャの軽薄な空気に中てられおって……」
そう言うと、少佐は私から視線をそらして窓の外に目をやる。
その横顔は、まだ赤かった。
やがて太陽は地平線へと没し、夜がやってくる。
煌々と照らす月明りのもと、私の耳に聞こえてくるのはエンジン音のみ。
私の正面で少佐は窓の外に視線を向けたまま黙りこくっていた。
「静かだな」
やがて、少佐がぽつりと漏らした呟き。
返事をしたものか迷う私に、少佐は続いて言葉を発する。
「思えば、ロマーニャに行ってからこんな風に静かに月を眺めたことなどなかったかもしれぬな」
「はい」
確かに、ロマーニャに着いてからいろいろなことがありすぎた感はある。
「扶桑の山奥で貴様と共に過ごした日々が妙に懐かしく思えてくるな」
そう言う少佐の頬は赤い。
月の光は人を狂わせるという。
そんな月の光が、少佐に普段なら言わせないような台詞を言わせたのであろうか。
「はい。私もそのことを思い出しておりました」
「そうか…………退役したら、ああいうところで晴耕雨読の生活を送るのも悪くないかも知れぬな」
そう言うと、少佐は視線を私に向けて来た。
「……お似合いかもしれません」
「そう思うか?」
「は。少なくともあの時の少佐はあの生活を楽しんでおいでのようでした。私も楽しかったですし」
ウィッチとしての魔力がなくなった後、軍に残ったところで今回の様にせいぜい見栄えのいい客寄せピエロとして使われるだけであろう。
少佐がそんな生活に耐えられるとも思えないし、ならばむしろ軍と完全に縁を切ったほうが少佐にとってはよいことかもしれない。
しかし、私の言葉に対する少佐の反応は、私の予想を上回っていた。
「そうか……貴様もそう思ってくれるか!」
「は…………?」
私に抱きつかんばかりに満面の笑みで近づいてくる。
少佐のテンションの急変に私は戸惑った返事をすることしかできなかった。
「いや、私などはどうとでもなるが、貴様も出身はお坊ちゃんだからな…………ああいう生活を再び始めるのは抵抗があるのではないかと思っていた心配していたが、杞憂だったようだ」
「あ、あの…………しょ、少佐?」
「どうした、土方。まさか先ほどの舌の根も乾かぬうちに嫌になったというのではあるまいな」
「そ、そうではないのですが……その」
そう言って顔を赤くして沈黙する私。
数秒の空白の後、少佐は自分の言ったことの意味を今さらながらに理解したようで、いきなり慌てだす。
「あ、いや、その、だな……先ほどの言葉はその、と、特に意味があってのことでは…………いや、そうじゃなくてだな」
「…………」
「だ、だからそこで黙り込むんじゃない貴様!…………も、もういい!私は寝る!貴様もさっさと寝ておけよ」
そう言って少佐は私に背を向けて寝台代わりの椅子の上に横になった。
そんな少佐の姿を見続けることがなぜか躊躇われた私は、窓から外へと視線を移す。
相変わらずのロマーニャの月は、これまたいつもと変わらず輝いていた。
……と言うことでここまでです。
ロマーニャを離れて一日もたっていないのにこれかw
オリジナルなのでかなり試行錯誤しながらやっております。
夏コミ、サークルは落ちたのですが友人のところで委託してもらえることになりましたので新刊作ってます。
そのため更新が遅くなるかもしれませんがその都度ご連絡は致しますのでご容赦のほどを。
それでは。
また一週間後ぐらいに。
乙ー
乙乙
これはもうアレだ、アレ
婚約だ
乙
もっさんがとうとう本音の一端を漏らしたな。
その調子で爆発しろ
セルフage
梅雨が明けましたね。
夏コミまであと1か月の時点で本が2割もできていないというこの状況
何とかせねば。
報告乙ー
報告乙ー
すいません。
ちょっとネタに詰まってます。
次話はもう少しお待ちください。
了解です
こんばんはー。
お待たせして申し訳ありません。
何とか書きあがりましたので投下します。
「お二人さん、もうすぐ東京に到着しますぜ」
操縦席から聞こえる橋爪大尉の声に、機内の空気がほっとしたものに変わる。
坂本少佐も表情には出さないが嬉しそうなのは変わらない。
肩の凝りをほぐすように腕を大きく回している少佐が、口を開いた。
「やっと到着か……まぁ私にとっては着いてからの方が大変なのだろうが」
「は」
「まぁ、今からあれこれ悩んでも仕方あるまい」
そう言うと少佐は話題を変える。
「……貴様はご実家の方に顔を出さんでよいのか?」
「は。そちらの事もありますが、私は少佐のお側に居ることの方が……」
「い、いや、そう言ってくれるのはありがたいのだがな」
少佐の表情は心なしか赤い。
そんな少佐の態度にこちらまで恥ずかしくなる。
我ながら少々口が滑ったという気がしなくもないが今更訂正するのも妙な話であったためあえて黙ったまま少佐の次の言葉を待った。
「ミーナはああ言ったが、貴様も久しぶりの扶桑なのだ。少しぐらい羽を伸ばしても誰も文句は言うまい」
「し、しかし」
「勘違いするな。貴様を頼りにしていないわけではない。しかし、そう気負いすぎるなと言っているのだ」
「…………は」
確かにミーナ中佐に「美緒をよろしく頼むわね」と言われて少々肩に力が入りすぎた面もあるかもしれない。
考え込んでしまった私を見た少佐は、再び話題を変える。
「そう言えば妹が迎えに来ているといったな」
「は。不要と言ったのですが、歳江がぜひ出迎えたいと」
「はは。いい妹さんではないか」
「そうですね」
私が軍に入って以来会っていないが、それでも記憶の中の歳江は私の事を一途に慕ってくれる善き妹であった。
「しかし、ウィッチ養成校を出たということは階級的には私より上でありますし、今までのように接することは出来ないでしょう」
少し寂しい気はするが、さすがに公の場で階級を無視した言動は問題だろう。
「そうかな…………黒田の例もあるし、貴様次第という気もするが」
少佐が悪戯っぽく笑いながら言う。
確かに、黒田中尉は結局私の事を圭助様と呼ぶのを最後まで改めて下さらなかった。
「着陸態勢に入ります。座席についてシートベルトを締めて下さい」
不意に操縦席から聞こえてきた声に、私と少佐は話を中断して着席する。
窓から外を見ると、見覚えのある扶桑の風景が眼下に飛び込んできた。
扶桑を離れていたのは数か月の事なのだがそれでも数年ぶりのように感じてしまうのは私が根っからの扶桑人である証拠なのだろう。
こうして、私と少佐の扶桑滞在は始まったのであった
「お兄様、お待ちしておりましたわ」
横須賀にある海軍基地に到着した私を出迎えてくれたのはそんな聞き覚えのある声であった。
振り返ると、歳江がこちらに向かって一礼しているのが見える。
数年前から成長しているものの、その面影は昔のままであり、思わず緩みそうになる表情を引き締める。
「とし…………土方軍曹殿、出迎えありがとうございます」
私の呼びかけに、歳江は悲しそうに顔を顰める。
「お兄様……なぜそのような呼び方を?昔の様に『歳江』と呼んで下さいませ」
そう言いながら私に向けられる歳江の視線は恨めしそうな色がこもっており、その迫力に思わず後ずさりそうになった。
そんな私を、少佐は笑ってみていたが不意に口を挟む。
「はっはっはっ。土方、貴様の負けだな。大体貴様は501のウィッチ達もほとんど名前で呼んでいるではないか」
「は、はぁ…………」
「……そうなんですか?お兄様っ」
歳江の表情がさらに険しさを増す。
しばらくの沈黙ののち、私は一つ大きくため息をついた。
どうやら我が妹はウィッチ養成所で随分たくましく成長したようだ。
「…………分かったよ。済まなかった歳江」
「はい!お兄様、長い旅路をお疲れ様でございました」
私が口調を改めると、歳江はそれこそ花が咲いたように表情をほころばせた。
歳江は坂本少佐に向き直ると、丁寧に頭を下げる。
「坂本少佐も、お疲れ様でございます」
「久しぶりだな土方妹。済まぬな。相変わらずの堅物で」
「いえ。相変わらずのお兄様で少し安心しました」
「しょ、少佐…………歳江も」
そう言って笑いあう少佐と歳江。
どうも私は最初から孤立無援だったようだ。
「それでは司令官室にご案内しますね!…………よい……しょっ」
歳江はそう言うと私と少佐の荷物を持ち上げようとした。
しかし、さすがに華奢な歳江に二人分の荷物は文字通り荷が重いらしく、顔を赤くして力を込めているが持ち上げられないでいる。
「土方」
「は」
少佐の目配せを受けた私は頷きを返すと、歳江のもとに歩み寄った。
「歳江、無理しなくていいよ」
「え?あ、でも、その」
「一応階級で言えば私が最下位者ですから。『軍曹殿』に荷物持ちなどさせられません」
「も、もうお兄様…………」
必要以上に丁寧な敬礼をしながらの私の言葉に、歳江は少し怒ったような表情を見せるものの、すぐに私に荷物を預けた。
しばらく歩くと、ほどなくして「司令官室」とプレートのついた部屋にたどり着く。
「中で司令がお待ちです」
「うむ。では土方兄妹よ、厄介な上官はしばらく姿を消すので久しぶりに旧交を温めておくといい。どうせ着任したばかりですぐにすることもあるまい。何なら私の方から人事部には伝えておくのでそのまま二人でご実家に向かってもよいぞ」
「いえ、お待ちします」
間髪を入れぬ私の返事に、少佐は呆れたような表情になった。
「…………ふぅ。真面目なのはいいがあまりに過ぎると頭に下品な言葉がつくぞ」
「申し訳ありません」
「だからそう言うところが…………まぁいい。ならば好きにしろ」
「は」
少佐はそう言って司令官室へと姿を消した。
その後姿がドアの向こうに消えるのを待って、私は歳江に声をかける。
「じゃあ歳江、我々は宿舎の方へ…………」
「あ、そのことなのですが」
「何か?」
「この滞在中は土方の実家の方に坂本少佐とともに宿泊してよい、と司令より許可を頂いております」
「何?」
歳江の言葉に、思わず素で聞き返してしまった。
私の視線を受けた歳江の方が驚いたような表情になっている。
「な、何かおかしかったでしょうか?」
「あ、いや、そういう訳ではないのだが…………」
確かに、何か月も滞在するわけでもないのだから無味乾燥な宿舎よりも実家で過ごす方がよかろう、と気を回して下さった結果であるのは知っている。
私もその方が幾分気が楽であるのは確かだ。
しかし問題はもう一つの要素である訳で…………
「さ、坂本少佐も共に、ということだが」
「はい。母様が一度坂本少佐にお礼を申し上げたい、と言いまして」
「……なるほど」
「…………お兄様?」
思わず黙り込んだ私に、歳江が心配そうに声をかけてくる。
ここまで話が進んでいるなら今更反対しても妙にこじれるだけであろう。
世話になっている上司を家に招き、家族が礼を述べるだけだ。
いちいち気に病む方がどうかしている。
そう思い直すと、私は歳江に微笑みかけた。
「いや、何でもない。では少佐を待つとしようか」
「あ、であれば談話室の方へご案内しますわ。こんな廊下で立っているよりはいいでしょう」
「いや、少佐に待つと申し上げた以上私はここにいる」
「そうですか…………」
私の言葉に、歩き出そうとしていた歳江も再び私の隣へと戻ってくる。
しばらくはお互いの近況などを報告し合っていたが、やがて歳江は躊躇ったかのように数秒沈黙すると私に尋ねてきた。
「あの、私の勘違いであったら大変申し訳ないのですが…………」
「どうした?」
「その、お兄様は、坂本少佐の事を……」
「私がどうかしたか?」
「ひゅい!?」
後ろからふいにかけられた声に歳江が奇妙な声をあげて文字通り飛び上がる。
そんな歳江に、少佐が怪訝そうな表情を向けるが、顔を赤くして固まっている歳江に苦笑すると、私に向き直った。
「…………土方、何があった」
「い、いえ……わたしにもとんと…………歳江?」
「あ、その、な、何でもありません!」
私も同じく首をかしげる。
少佐と私、二人の視線を受けた歳江が慌てたように首を振る。
「と、ところで挨拶は終わったのですか?」
「あ……ああ、滞りなく終わったぞ。しかし…………その、よいのか?」
「何がですか?」
「いや、だから私が、その、土方の家に……」
「はい。母がぜひ一度少佐に直接お会いしてお礼を申し上げたいと申しますので」
「う、うむ」
「少佐の扶桑滞在が快適なものとなるよう、土方家の名誉にかけておもてなしいたしますわ」
そう言って歳江は少佐に笑顔を向ける。
その笑顔に少佐は毒気を抜かれたように素直にうなずいた。
「では、参りましょう。表に車を待たせてありますので」
そう言うと歳江は私たちを先導するように歩き出す。
少佐と私はしばらく顔を見合わせていたが、どちらからともなく苦笑をかわしあうと歳江の後を追って歩き出した。
以上で投下終わります。
お待たせして申し訳ありませんでした。
夏コミ終わるまではこんな感じのペースになると思いますのでご容赦ください。
それでは。
乙です
乙です。
おつ
横須賀を東京とは言わないと思うな
とりわけ海軍軍人ならば
乙乙
乙
いい妹さんじゃないか土方めw
土方母再登場か
いいキャラだったから楽しみ
こんばんは。
夏コミの本がやっと出来上がってきましたが、まだ終わってません。
続きはもうしばらくお待ちくださいませ。
了解
こんばんは。
>>644
そうですね。これはちょっと迂闊でした。
ご指摘ありがとうございます。
すいません。
ちょっと再びネタに詰まってます。
もう少しお待ちください
了解です
こんにちは。
遅くなって申し訳ありません。
今から投下しますね。
私たち3人を乗せた車は、戦時の色濃い横須賀の街を走り抜けると一路帝都へ向けて走っている。
「お兄様と再会できるこの日を、私は一日千秋の思いで待っておりました」
「そうか……私も歳江と再会できて嬉しいよ」
「はい」
私の言葉に、歳江がぱっと笑顔になった。
「ずっと歳江には、恨まれているのではないかと思っていた」
「…………それはもう、お恨みいたしましたとも」
そう言うと、歳江は表情を少し怒ったように顰め、その迫力に思わず私はのけぞる。
「私の言葉などお聞きにならずに『歳江はいい子だから大丈夫だな?』の一言で置いて行かれたのですから」
「う…………すまなかった」
当時のことを思い出し、さすがに申し訳ない気持ちになる。
「坂本少佐もそう思いませんか?」
「…………」
「少佐?」
隣に座る坂本少佐の方に振り向いた歳江が、先ほどより返事のない少佐に怪訝そうに重ねて問いかけた。
二度目の呼びかけに、少佐はやっとにづいたように顔を上げる。
しかしその顔は傍目にもはっきり分かるほどに強張っていた。
「…………え?あ。ああ、すまん何の話だったかな」
「少佐、お気分でもお悪いのですか?」
明らかに普通の状態ではない少佐の様子に、私も不安になってくる。
「い、いや、なんでもない。は、ははっ」
そう言って笑おうとする少佐であったが、その笑い声はいつもの快活な笑い声とは似ても似つかぬほどか細く、無理をして笑っているのが明白であった。
「その、体調がお悪いようでしたら、医者に寄るように言いますが」
「ありがとう。だが大丈夫だ」
歳江も心配そうに声をかけるが、少佐はそれにも弱弱しく笑って答えるのみであった。
私と歳江は顔を見合わせると、さらに詳しく尋ねるべく口を開こうとしたところで、運転手の声が割り込む。
「皆様方、そろそろお屋敷に到着でございます。ご準備のほどを」
「うっ…………」
運転手の言葉に、坂本少佐はあからさまに動揺したような表情を見せて文字通り飛び上がった。
その態度は、私にある推論を抱かせるに十分であった。
「あの、少佐、もしかして緊張されて…………」
私の言葉に対する少佐の反応は、私の予想を超えて強烈であった。
私の言葉を遮るように、さながら機関銃のようにまくしたてる。
「しっ、仕方なかろう!こちとら九州の片田舎の生まれで礼儀作法などとは無縁の生き方をしてきたのだぞ!セダンの時と言い、どうしてこう私に似合わないことばかりさせるのだ貴様は!私に恨みでもあるのか!」
「いえ、私はそのようなつもりは……」
「それに、これではまるで…………」
怒涛のような勢いで喋りだしたと思ったら今度は小さな声で何事かを呟き始めた。
「まるで……何でございましょうか?」
「なっ!な、何でもない!貴様は黙っておれ!」
私の問いかけに少佐ははっと気づいたように沈黙し、そこからは私が何を問いかけようと返事をしてくださらなかった。
「到着いたしました」
運転席から運転手が声をかけてくる。
いつの間にか私たちの目の前に、見慣れた土方家の門が聳え立っていた。
「どうぞ」
「…………ふん」
緊張のためか動きがぎこちない少佐が降りやすいように手を差し伸べる。
そんな私の手を少佐は驚いたように数秒間見つめていたが、やがて怒ったような表情で私の手をやや乱暴にではあるが取って下さった。
少佐が少し落ち着かれたのを確認すると私は振り返り、何年振りかに見る我が家を眺める。
訪れるものを威圧するように立つ背の高い門。
子供の頃は何も考えずに出入りしていたが、こうして数年見ないでいると我が家であるというのに妙な居心地の悪さを感じた。
確かに少佐が緊張するのもわかる。
「お兄様、ではまいりましょう」
「ああ」
先導する歳江の後について門を潜ると、懐かしい風景が私を迎えてくれた。
「…………」
「どうです?久しぶりの家は」
「ああ」
歳江の言葉にそう答えると、私はゆっくりと周囲を見渡す。
相変わらずの居心地の悪さは変わらないものの、確かに自分が過ごしていた頃のまま変わらないでいる実家の姿に少し心が和らいだ。
「おかえりなさいませ圭助様。お待ちしておりました」
私の背後からふいに声が掛けられた。
振り向くと、メイドの装いをした黒髪の少女が、こちらに向けて頭を下げている。
「奥様がお待ちでございます。お荷物をどうぞ」
「ああ。ありが…………っ!」
礼を言いかけたところで、頭を上げた少女の顔が私の視界に入る。
その顔を見た瞬間、私は思わず絶句した。
「どうした土方」
「どうされましたお兄様?」
突然固まった私を少佐と歳江が不思議そうに見つめてくる。
「い、いえ何でもございません」
慌ててそう返すと、メイドの後に従って歩き出した。
少佐と歳江も、やや怪訝そうな顔をしながらも同じように歩き出す。
(お久しぶりです、圭助さん)
しばらく歩いたところで、メイドの少女が私だけに聞こえる声で話しかけてきた。
その言葉に、私は先ほどの驚きが真実であったことを知る。
(こ、こんなところでどうされたのですか……山川さん)
(もう…………美千子って呼んで下さいって言ったじゃないですか)
そう言ってふくれっ面をしてみせるのは、間違いなく宮藤さんのご学友である山川美千子さんであった。
(…………美千子さん。どうされたのですか?)
(「さん」もいりませんって言ったじゃないですか…………まぁいいです)
山川さんはそう言うと、なぜ彼女がここにいるかを語ってくださった。
(大したことじゃないですよ。師範学校の学費を稼ぐためです)
(しかし、よりにもよってこんな……)
(お爺ちゃんにはできるだけ負担をかけたくないんです。ここなら学校にも近いし、住み込みで働かせてくださるし、色々都合が良くて)
(そうですか…………)
そう返したものの、先ほどからにこにこと笑顔を崩さない山川さんの態度にどこか釈然としない思いも残る。
(あの、ここが私の実家だと分かって…………)
「着きました。さぁ、歳江様も坂本様もどうぞ」
私の問いかけへの返事の代わりに、歳江は私の後ろを歩いていた歳江と坂本少佐に声をかける。
気づくと、いつの間にか私は屋敷の前までたどり着いていた。
「う、うむ」
再び緊張がぶり返してきたのか、再び坂本少佐の表情が強張る。
そんな少佐の姿を見るたびに、自分まで妙な緊張を覚えてしまっていた。
目の前で、ゆっくりと屋敷のドアが開いていく。
「お帰りなさい圭助さん。坂本少佐も、遠いところをご苦労様でございました」
「母上。ただいま帰りました」
玄関ホールに凛とした女性の声が響く。
我々の視線の先で優雅に頭を下げるのは私の母であり、現在土方伯爵家の当主である土方雪絵、その人であった。
こちらも挨拶を返す。
「こ、こちらこそっ、こ、この度はお、お招きありがたき幸せに存じ上げ奉り候」
対する少佐の方はあからさまに緊張に身を固くして、珍妙な挨拶の言葉を返している。
そんな少佐を見て母は静かに微笑むと、私の後ろに立つ山川さんに向けて語りかけた。
「ふふ…………山川さん、坂本少佐をお部屋にお連れして頂戴」
「はい。では、こちらへ」
「う、うむ……」
山川さんは一礼すると、坂本少佐を連れて客室の方へと消えていった。
それを確認すると、母は私の方に向き直る。
「お疲れ様でした圭助さん。久しぶりの実家、どうか存分に羽を伸ばして下さい」
「はい。ありがとうございます」
「お兄様のお部屋はちゃんとお掃除してありますわ。私にご案内させて下さいませ」
そう言うと歳江は私の手を取り引っ張るようにして私の部屋の方へと私を導いていった。
こんこん。
久しぶりの自室でくつろいでいると、急にドアがノックされる。
「どうぞ」
「失礼します」
そう言いながら入ってきたのは、先ほどと同じくメイド服を着た山川さんであった。
「山川さん」
「美千子、です。圭助様」
私の言葉を遮るように言う山川さんの言葉は少し怒っているようにも見える。
「み、美千子さん…………」
「本当はさん、も取ってほしいんですけど……」
そう言いながらも山川さんは表情を少し和らげる。
「ここでの滞在中は私が圭助様と坂本少佐のお世話をするよう奥様より言いつかっております。どうぞ何なりとお申し付けくださいませ」
「え、そ、そうですか……」
山川さんの言葉に、はっきりしない返事を返す。
そう言われても、宮藤さんのご学友を使用人のごとく扱うのは些か所でなく気が引けるというものだ。
こんこん。
彼女の背後のドアが再びノックされる。
「どうぞ」
「お兄様、何か不自由はございませんか?――――あ」
そう言いながら入ってきた歳江は、山川さんの姿を見て一瞬驚いたように固まる。
「えっと…………山川さん、でしたっけ?」
「はい。先日よりこちらで住み込みで働かせていただいております」
「お兄様、この方とはお知り合いだったのですか?」
「ああ」
歳江の問いかけに、私は山川さんが宮藤さんのご学友であることを簡単に説明する。
「なるほど……宮藤軍曹の…………」
501の活躍はここ扶桑でも何度か報じられているらしく、歳江も宮藤さんのことは名前くらいは知っているようだ。
「はい。圭助さんにはいろいろとお世話になったので…………こういった形でご恩返しができるのは嬉しいです」
「そうですか…………」
そう答える歳江はしかし、どこか不満そうな雰囲気を漂わせている。
「あ、でもお兄様のお世話は私がしますので、山川さんは坂本少佐のお世話をお願いしますね」
「…………いえ、圭助様のお世話も奥様に言いつかっておりまして。歳江様はウィッチとしていろいろお忙しいでしょうし、家での面倒事は私にお任せになってください」
「いえ、そんな……妹として兄にお仕えするのは当然のことですわ。そんな面倒事などと…………」
「でも、私はお仕事として、ちゃんとお給金をもらってのことなんですから……それをご家族の方にお任せなどしては…………」
「山川さんのそのお考えはご立派だと思いますが、お兄様のお世話以外にも、山川さんがお力を発揮できるお仕事はあると思いますわ」
…………なぜだろうか。
二人とも笑顔で会話をしているにもかかわらず二人から感じたのは、とてつもないプレッシャーであった。
口を挟めないような雰囲気を纏ったまま、二人の会話が続く。
こんこん。
そんな空気を一変させてくださったのは、三度聞こえてきたノックの音であった。
「あ、あのだな……土方、いるか?」
ドアの外から聞こえてくる坂本少佐の声が合図になったかのように、歳江と山川さんが今まで纏っていた剣呑な空気は霧散していった。
「ど、どうぞ」
「うむ…………ん?先ほどのメイドと歳江ではないか」
「あ……」
「少佐…………」
先客がいるとは思っていらっしゃらなかったようで、歳江と山川さんの姿を見て腰驚いたような表情になる少佐。
少佐の言葉に、二人とも我に返ったように気まずそうに頬を染める。
そんな二人の様子に、坂本少佐もどこか怪訝そうに眉を顰めるものの、それ以上は追及してこなかった。
「そ、それで坂本さん、いかなるご用事で?」
「うむ……どうもこういう屋敷は慣れなくて…………何となく一人でいると落ちつかなくてな」
私はここが実家という感覚があるが、坂本少佐にとっては全く未知の空間であろう。
確かにそのような気分になるのもわかる。
「…………では、皆さんでお茶会にでもしましょう」
そんな気まずい雰囲気を吹き払うように、そう言いだしたのは歳江であった。
「茶会、だと?」
「はい。お兄様たちのロマーニャでのご活躍もお聞きしたいですし、山川さん、悪いですけど一緒に準備して頂けますか?」
「…………え?あ、は、はいっ!」
「それでは、お二人はこの部屋でお待ちくださいね」
「こ、ここでやるのか?」
私の驚きの言葉にも、歳江は満面の笑みで返事をしてくる。
「はいっ」
その笑みに、私は何も言えずに沈黙するしかなかった。
「…………その、良かったのか?」
歳江が山川さんを連れて出て行った後、坂本少佐が私に尋ねてくる。
「久しぶりの再会ですし、私も歳江と話すのは楽しいですから」
「そうか…………相変わらず仲がいいな貴様らは」
「兄妹ですから」
「はは、そうか」
私の言葉に、少佐の表情にも笑みが浮かぶ。
それは、私のよく知るいつもの少佐の表情に、少しだけ近づいていた。
と言う所でここまでです。
久しぶりのオリジナルストーリーやったらここまで苦しむとは思わなかったw
久々のみっちゃん登場です。
来週は夏コミのため更新は微妙な感じです。申し訳ありません。
サークルスペースは落ちましたが友人のところに委託させてもらいます。
二日目Q-27b「永字八法」さんです。
よろしければどうぞー。
自衛隊本の3冊目出します。
乙です
みっさん出たあああああああ
相変わらず黒いなこの子は………
乙ー
予想外のみっちゃん
セルフage
こんばんはー。
いきなり地震速報が来てびっくりした(小並感)
夏コミの準備がやっぱり忙しくて更新は来週になりそうです。
すいません。
把握
了解
「まったく……軍令部のお偉方は前線の兵士を何だと思っているのだ!」
廊下を歩きながら憤懣やるかたないといった表情で坂本少佐が私に話しかける。
先ほどミーナ中佐より聞かされた軍令部からの急な帰還命令。
確かにこの大変な時期に軍の都合で任地を離れさせられるとなれば不満の一つも言いたくなるというものだろう。
しばらくそんな表情のまま歩いていた少佐であったが、ふと表情を改めるとゆっくりと辺りの景色を見回して言った。
「しかし…………そうなるとしばらくこの基地ともお別れだな」
「は」
506に短期間出向していたことはあるものの、今回の扶桑行きはそれどころではない期間になるだろう。
「今夜の見回りは少し長めに行うか」
「は」
少佐の言葉に、私も短い返事とともに頷いた。
コミケ終了しました。暑かった!
本編を書く気力がわくまで更新なしというのも申し訳ないので安価SSを挟みます。
土方邸を舞台にすると安価相手が3人になってしまうので出発前の一コマ、という感じで。
対象になるのははミーナさんじゅうきゅうさい、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、エイラさん、サーニャちゃん、ペリーヌさん、リーネちゃん、芳佳、もっさんの11名。
安価ゾーンは>>681まで。
最もたくさん名前の登場した方が安価ということにします。
同一IDによる複数投票は1票とみなし、同票が複数あった場合は最初にその数に達した方を安価達成とします。
>>681までいかなくても本日中には締切ります。
それでは。
シャーリー
ルッキーニ
もっさん
サーニャ
バルクホルン大尉
シャーリー
シャーリー
もっさん
サーニャ
シャーリー
うーんこのおっぱい星人ども
>>682ちょっと待て
シャーリーさんのおっぱいは確かに魅力的だが、おっぱいだけがシャーリーさんの魅力だというのは浅はかだぞ
もっさん
こんばんは。
何とかシャーリーさんSS書きあがりました。
お待たせして申し訳ありませんでした。
投下していきますね。
「よお、兄さんと坂本少佐じゃねぇか」
そう言って声をかけてきたのはシャーリーさんであった。
その格好はいつも通り、胸の前を大きく開けた作業服姿である。
少佐がため息をつく。
「…………シャーリー、貴様また」
「まぁまぁ。非番の時に何しようが自由だろ」
「またミーナに小言を言われるぞ」
「見つからないようにするから大丈夫だって」
そう言って気にしていないように笑う。
「そういや、扶桑に出発するの明日だっけか」
「ああ。留守を頼むぞ。ミーナを支えてやってくれ」
「任しとけって」
少佐の言葉にそう答えると、シャーリーさんは私に向き直った。
「兄さんともしばらくお別れか……少し寂しくなるな。ここも」
「恐縮です」
「あ、そうだ。これから二人でオートバイでツーリングにでも…………」
「だめだ!」
シャーリーさんの言葉を少佐が大声を上げて遮る。
その声の大きさに、シャーリーさんと私、そして何より声を発した坂本少佐自身が驚いたように固まっているのが分かった。
疎化しそれも一瞬の事、すぐにシャーリーさんはからかうような笑みを口元に浮かべる。
「そうかそうかー。少佐は兄さんを片時も手元から離したくないかー」
「なっ……そうではない馬鹿者!貴様の規則違反に土方を巻き込むなと言っているのだ!」
「まぁ…………それもそうか……じゃあさ」
そう言ってシャーリーさんは私の頭を小脇に抱え込むように肩に腕を回してくる。
シャーリーさんは特に私に対しこういう過剰なスキンシップを取ってくることがあるのが困り者だ。
「兄さんと少しお別れの挨拶をするくらいは許してくれるだろ」
「なっ……」
「なーに、部屋に連れ込んだりしないよ。食堂で飯でも食いながら少しお話をするだけだって……それでもだめか?」
「ぐっ…………」
先ほどからかわれたせいもあるのか、それ以上反論せず黙り込む少佐。
………当事者である私の意思を無視して話が進んでいるような気がするが、この際それは考えないことにしよう。
不意にシャーリーさんが表情を改める。
からかうような笑みを消し、真面目に、どこか懇願するような表情のまま、シャーリーさんは言葉を続けた。
「…………頼むよ」
「む」
その表情に、少佐も幾許かは心を動かされたようだ。
少し悩むように沈黙するが、すぐに小さくため息をついてシャーリーさんに視線を向ける。
「勝手にしろ」
「え?いいの?」
「…………まぁな」
「よーし!ってことで兄さん、食堂へ行くぞ」
そう言うとシャーリーさんは私の首根っこをつかむと廊下を走りだしたのであった。
「よーし兄さん、今日は私が作ってやるからな」
私を食堂の椅子に座らせると、シャーリーさんはそう言いながら厨房へと消えていく。
「こう見えてもサンドとか手間のかかんないものは得意なんだよ…………って知ってるか兄さんは」
「あ、はぁ……」
厨房から聞こえてくるシャーリーさんの声に、戸惑いながらも返事をする。
確かに海岸の日の出を見に連れ出された時に御馳走して下さったサンドは美味であった。
「じゃあ、楽しみにしてろよ。私の手料理を食えるなんてそうそうない幸運なんだからな」
「あ、ありがとうございます」
私はと言えば、ここに来るまでの状況のめまぐるしすぎる変化にやっと頭が追い付いてきたところであった。
やがてほどなくして、厨房からシャーリーさんの鼻歌が聞こえてくる。
「いや、急に兄さんが扶桑に帰るなんて聞いちまってなぁ。いじる…………っと、絡む相手がいなくなるのはやっぱりちょっと寂しいもんだぜ」
「今何を言いかけたんですか?」
「何でも。っていうか兄さん、二人の時はため口って言っただろ」
「…………す、すまない」
そんな会話を交わしながらも、私はシャーリーさんの先ほどからの態度に微妙な違和感を感じずにはいられなかった。
「あの、シャーリーさん…………」
「よっ…………とできたぜ兄さん」
尋ねようとした私の言葉を遮るように、シャーリーさんが厨房から出てきたため、私はその先を続けることができなかった。
「ほれ。ありあわせで作ったからバリエーションはないが味は保証するぜ」
そう言ってシャーリーさんが机の上に置いたのはパンの間にベーコンとレタス、トマトが挟まったリベリオンでは一般的なBLTサンドと呼ばれるものであった。
その大雑把な見た目に反してかなりの美味であることを私は知っている。
夕食を食べて間もないというのに、その匂いに釣られるように私の腹が小さく鳴った。
その音を耳ざとく聞きつけたシャーリーさんがにやりとした笑みを浮かべる。
「はは、待ちきれなかったみたいだな兄さん」
「あ、いえ、今のは、その」
「いいっていいって。そこまで心待ちにしてくれるんなら作ったほうも嬉しいってもんさ。さあ遠慮なくどうぞ」
「は、はい」
シャーリーさんの勧めに応じて皿の上に詰まれたサンドを一口ほおばる。
相変わらず非常に美味なサンドである。
思わず感嘆の言葉が漏れる。
「……美味しい」
「そうか。そりゃよかった。たくさんあるからどんどんやってくれ」
シャーリーさんの言葉に目を上げると、何故かにこにことこっちを見つめるシャーリーさんと目が合う。
「あの」
「ん?どした?」
「見られてると落ち着かんのだが」
「そうか?それはすまねぇな」
そう口では言うものの、シャーリーさんは私から視線をそらす様子はない。
「…………」
「…………ん?」
お互い正面から見つめ合ったまま数秒間が過ぎ、根負けした私が再びサンドに取り掛かる。
じー。
相変わらず私にそそがれる視線。
にこにこ。
落ち着かなさを感じて再び顔を上げるとシャーリーさんの笑顔。
物言いたげな視線を向けても、シャーリーさんは気づいていないのか気づいていないふりをしているのかその笑顔を崩そうとしない。
「あ、あの、シャーリー…………?」
「どうしたんだい兄さん?」
そう言いながら相変わらず微笑み続ける。
何か彼女を怒らせるようなことをしたのか、そう思わないこともなかったが目の前のシャーリーさんの笑顔は怒りを押し隠した笑顔というのともまた違う。
強いて言うなら、私の顔を見ているのが嬉しくて仕方ないとでもいうような…………いやいや、さすがにそれは……
それに、今日のシャーリーさんはどこかおかしい。
確かに色々とフリーダムな方ではあるが、今日のように妙なテンションで人の言い分も聞かずに自分の意思をごり押す方ではないはずだ。
だから、少し躊躇いを覚えたが、思い切って正面から聞いて見ることとした。
「あの、シャーリー?」
「どうしたんだい兄さん?おかわりなら……」
「今日はどうしたんだ?らしくないぞ」
「…………へ?」
私の言葉に、始めてシャーリーさんの表情が変わる。
虚を突かれたように数秒間沈黙した後、俯いて肩を震わせ始めた。
「……くっ、くくくくっ」
「シャ、シャーリー?」
「あははははっ!そーかそーか!私としたことがねぇ」
突然の態度の豹変に慌てたように声をかけるとシャーリーさんは今度は堰を切ったように笑い出す。
しばらく笑い続けるとシャーリーさんは満足したように笑いを収めた。
「いや、すまなかったね兄さん」
「いえ、別に…………」
そう答えたものの、内心では先ほどからのシャーリーさんの態度についての疑問が渦巻いている。
そんな気持ちが表情に出ていたのであろうか、シャーリーさんが笑いながら話して下さった。
「兄さんは別に悪くないさ。普段通りの私のまま送り出そうと思ってたんだけどなぁ……そうかぁ。兄さんに気付かれるほどだったかぁ。じゃあ、少佐も…………」
シャーリーさんは何事かを小さくつぶやいていたが、やおら私に向き直る。
「まぁ、よーするにだ。兄さんとしばらくお別れって聞いて、私、シャーロット・E・イェーガー大尉は自分でも驚くくらいに動揺しちまってたわけだ」
そう言うとさすがに恥ずかしかったのかシャーリーさんは私から目をそらした。
「はぁ、こりゃ、宮藤をからかってる場合じゃねぇな」
「あの」
「あ、安心しな。出発前のごたごたしてる時に余計な心配ごとを増やすことはしねーよ」
もうすでに心配事が増えている気がするのだが。
そんな微妙な表情をした私にシャーリーさんは笑いかけてくる。
「だから兄さんは今までどおりにしてくれりゃいいんだって。この気持がどんなものか私自身にもわかんねーんだから。ここで兄さんまで態度変えられたらどうしていいかわかんねーよ」
そう言うシャーリーさんは、落ち着かなげに視線をさまよわせ、その頬もどこか赤く染まっている。
そんなシャーリーさんにどんな言葉をかけていいか分からず、沈黙する私。
食堂の中に微妙な沈黙が降りる。
そんな沈黙を破ったのは、またしてもこの方であった。
「誰?こんな時間に何してるの?」
入口の方から聞こえてきた声に、シャーリーさんはむしろ救われたような笑みを浮かべて立ち上がる。
「いや、すまねぇな。兄さんとしばらくお別れだってんで別れの挨拶をな」
「もう、またシャーリーさんなの?そんなのは明日にしなさい。圭助くんも流されるだけじゃだめよ」
そう言ってあきれたような表情を向けてくるのは我らが501戦闘航空団司令、ミーナ中佐であった。
「そ、そうだな…………も、もう今日は遅いし部屋に帰るか!このサンドは持ってってくれていいよ。道中の弁当にでもしてくれ」
「は、はい」
そう言うとシャーリーさんはミーナ中佐が止める間も有らばこそ、食堂を出て行ってしまった。
そんなシャーリーさんに、さすがのミーナ中佐も戸惑ったような表情をこちらに向けてくる。
「ど、どうしたの?彼女」
「さ、さぁ」
「そう…………」
まさか本当のことを言う訳にもいかず、私の返答も勢いを失ったものになる。
そんな私の態度に、ミーナ中佐は何かを考えるようにしばらく沈黙した後、徐に切り出した。
「まぁいいわ圭助くん。あの…………これから時間ある?よかったら司令室でお茶でも……」
「…………ブルータスお前もか」
思わず口をついて出る言葉。
どうやら今日、私が部屋に帰れるのはずいぶん先のことになりそうだ。
ということで以上です。
今まで男友達みたいに接してきた女の子が急に相手の事を男って意識する瞬間って萌えますね。
では。本編続きはまた来週。
乙です
乙!
シャーリーかわいい
乙土方もげろ
すいません。
明日には続きを上げられると思いますのでもう少しお待ちください。
把握
調べたら土方=ベクター(声優が)
誰か「な~んちゃって」からのベクターのデンプレを土方風にしてくれ
待ってる
こんばんは。
こんな時間になってしまいましたが投下します。
短いですが。
朝五時五十分。
私はいつもの習慣通り目を覚ます。
起き上がった後周りの光景を見て、ここがロマーニャの基地ではなく扶桑の私の家であることを確認、思わず苦笑した。
体に染みついた習慣と言うのはそう簡単に抜けてくれないようだ。
軽く頭を振ってわずかに残った眠気を追い払うと、大きく伸びをする。
窓からカーテン越しに入ってくる光はまだ弱弱しいが、どうやら今日も好天に恵まれそうだ。
本日の坂本少佐の予定は……などと考え始めた私の耳に、かすかなノックの音が響く。
「どうぞ」
「旦那様、失礼します」
そう言いながら入ってきたのは昨日と同じメイド服を着た山川さん。
師範学校で学ぶ傍ら私の家の使用人として働いているらしい。
「あの、山川さん」
「も、申し訳ございません!」
声をかけた途端山川さんがまさに土下座せんばかりの勢いで頭を下げる。
その態度の急変にやや戸惑いながら私は言葉を続けた。
「や、山川さん?」
「私ったら……知らないうちに旦那様のご機嫌を損ねてしまったようです…………申し訳ございまさん!」
「い、いえ別にそのようなことは」
「だ、だって…………『山川さん』なんてそんな他人行儀な呼び方で……私、知らないうちに旦那様を怒らせてしまったに違いありません」
そう言いながらなおも頭を下げ続ける山川さん。
「す、すいません美千子さん」
「『さん』だなんて…………使用人である私にそのような……まだお怒りは解けていないんですね」
「分かったよ美千子!分かったから!」
「ありがとうございます旦那様」
私の言葉を聞いた途端急に笑顔になる山川さん。
「それで旦那様、お目覚めはいかがですか?」
「旦那様」と言う呼び方にも一言言いたいところではあったが、これ以上話をややこしくしないためにあえてそこはスルーすることとした。
「ああ、大丈夫だ」
「そうですか。それではお着替えをここに置いておきますね。何か御用がありましたらお呼びください」
そう言い残すと山川さんは完璧な一礼を残して部屋を出て行った。
彼女の姿が視界から消えるのを確認して、私は小さく息をつく。
どうもこういう風に「当主様」扱いをされることには慣れない。
私自身従兵と言う仕事を長く続けてきたせいもあるのだろう。
いずれこの立場にも慣れねばならない時が来るのだろうが、今は坂本少佐の従兵と言う仕事を全力で果たすだけだ。
私は静かに立ち上がると、着替えを済ませて部屋から出た。
「おはようございます」
「おお、土方か。どうやらお互い長年の習慣は抜けないようだな」
「は」
廊下で坂本少佐と出会う。
どうやら少佐も同じように目が覚めてしまったようだ。
思わずどちらからともなく苦笑をかわしあう。
「どうだ、早起きついでに久しぶりに手合わせでもするか」
「は。お供いたします」
「うむ。こういう時だからこそ鍛錬を怠ってはならん」
「はい」
その言葉に私は頷き、少佐の後について庭へと出て行った。
「はっ!」
「せぃっ!」
朝の清澄な空気を切り裂く気合いの声とともに、木刀が撃ちあわされる音が武道場に響く。
こうやって坂本少佐と手合わせをするのも何度目になるであろうか。
いまだ少佐の域にはたどり着けそうにないものの、背中はおぼろげながらにでも見えてきていると自負してもよいだろう。
「ふふ、貴様もだいぶやるようになったではないか」
「…………光栄、です」
「我が海軍にも私とここまで打ちあえる人間は稀だぞ。私もうかうかしてはいられないようだな」
鍔迫り合いをしながらそう言う少佐はしかし、どこか嬉しそうに口元をほころばせている。
「だが……私にも上官としてのプライドがあるので…………な!」
その言葉とともに、少佐は距離を取ると、今までとは比較にならない速度の打ちおろしが来た。
しかし――――
「……ぐっ」
かん、と木刀同士が撃ち合わさる音。
受け止めた私の腕にしびれにも似た感覚が走る。
「…………ほう」
少佐の一撃をやや不恰好ながらも完全に受け止めきった私に、少佐が感心したように笑みを浮かべた。
しばらくそのままの体勢が続くが、やがて少佐がふっと力を抜く。
やがてお互いに離れた後一礼し、本日の鍛錬は終了した。
「驚いたな。まさか最後の一撃を止められるとは。かなり本気で撃ちこんだつもりであったのだが」
「…………坂本さんには何度も稽古をつけていただいていますから」
「そうか……まぁなんにせよ良くやった、と褒めてやるべきなのだろうな」
そう言うと少佐はやや乱暴に私の頭を撫でてくる。
「しょ、少佐?」
「いいではないか。褒美だ褒美」
戸惑う私に構わず、少佐は笑みを浮かべたまま私の頭を撫で続ける。
私はそのなれない感覚に戸惑いながらも、ひたすらされるがままになるしかなかった。
「こほん」
不意に聞こえてきた咳払いに、私と少佐はそろって振り返る。
「……何だ。土方妹ではないか。貴様も目が覚めてしまった口か?」
「…………はい」
歳江は短く答えるものの、その表情はどこか硬さが見える。
やはりなれない客を迎えるということで緊張しているのだろうか。
「少佐、お兄様、お疲れ様でございます」
しかし次の瞬間にはその硬さは姿を消し、いつもの柔和な笑みで私たち二人に手拭いを差し出してきた。
「おお、これは済まぬな」
「ありがとう」
それぞれ礼を言って受け取る。
「あ、それと坂本少佐、、汗をかかれたようでしたらお風呂の用意ができております」
「何?本当か?」
「風呂」と言う言葉に少佐は一瞬笑顔を見せるものの、すぐに困ったように表情を改める。
「し、しかしさすがに朝っぱらからそのような図々しい…………」
「お気になさらず。少佐は大事なお客様ですので」
「そ、そうか?」
そう言いながら少佐は私にそわそわと視線を向けてくる。
少佐の風呂好きは航空団の基地にわざわざ扶桑式の広い大浴場を私費で備えさせた一件からも明白であった。
その様子に私は内心で苦笑しつつ言葉を返す。
「どうぞ。私は部屋に帰っております」
「し、しかし土方、貴様も汗を…………」
「いえ、私は少佐の後で結構です」
「う、うむ……な、ならば頼もうか」
「はい…………どうぞこちらです」
いまだ釈然としない様子の少佐であるが、私が促すように頷くのを見るとさすがにこれ以上断るのは却って失礼だと考えたのか、小さく礼を言って歳江の案内について風呂場へと向かっていった。
「……お兄様」
部屋に帰り着替えを済ませた私がくつろいでいると、ノックと共に外から声がかけられた。
「どうした?」
「少佐がお風呂より上がられました。お兄様も朝食前に汗を流されては?」
そんなことをわざわざ伝えに来てくれたのか。
何とも我が妹ながら律儀なことだ。
「そうか。ではお言葉に甘えるとしようか」
「はい」
そう言って部屋を出る私。
歳江が後からついてくる。
「…………」
「…………」
風呂場に向かって歩く。
その後ろを歳江は3歩ほど遅れてついてくる。
「…………」
「…………」
風呂場の前に到着。
足を止めた私の傍らで、歳江も同じように足を止める。
「…………」
「…………」
そのまま、何とも言えない沈黙が数秒間続いた。
「歳江」
「はい」
「私は風呂に入りたいのだが」
「はい」
「ここは私の家だ」
「もちろんです。いずれはお兄様が当主の座につかれる土方家の屋敷でございます」
何を自明のことを、と言わんばかりの歳江の返答。
私は内心で頭を抱えながら言葉を続けた。
「で、あれば私は風呂の場所も十分知っている」
「そうですわね。子供の頃は毎日のように一緒に入ったのを覚えております」
「ああ。だからだな、歳江の案内は特にいらないんだが」
「あ、いえ、これはお兄様をご案内しようというのではなく」
そう言うと歳江はにっこりと笑顔を浮かべたまま、次の言葉を発した。
「妹の務めとして、お兄様のお背中でもお流ししようかと」
「…………何?」
そう返事をした時の私は、どんな表情をしていただろうか。
「子供の頃は毎日のように一緒に入っていたではありませんか」
「……もうお互い19歳と15歳なのだが」
「年齢など問題ではありません」
「…………大問題だろう」
……結局。
なおも強硬に言い張る歳江を説得するのに私はさらに数十分を要したのであった。
と言う所で今日はここまで。
何だこのToLoveる(驚愕)
まぁたまにはこういう話も、と言うことで。
それではまた来週に。
乙です
乙です
相変わらずの鈍感さんですなぁ
みっちゃんさん怖いです
セルフage
こんばんは。
続きは水曜日くらいには何とか。
すいません。
名前入れ忘れましたが1です。
了解
すいません遅れました。
こんな時間ですが投下しますー。
「失礼しました」
そう言いながら横須賀鎮守府の司令長官室より出てくる坂本少佐。
本日、坂本少佐は鎮守府の司令長官より直々にこれからの日程について説明を受けていた。
「少佐」
「…………土方か。客寄せパンダも楽ではないな。早くもロマーニャに帰りたくなったよ」
そう言って疲れたように笑う少佐の表情から、中でどのような話がなされたのかは想像がつく。
しかし、軍令部の思惑がどうであろうと、私は私にできることを精一杯果たすだけだ。
そう決意を新たにする私に、少佐が意外な言葉を続ける。
「……ああ、司令長官閣下が貴様にも話があるとのことだ」
「わ、私にですか?」
思わず聞き直す。
横須賀鎮守府の司令長官閣下が私ごとき一兵曹と一対一で面会するなど異例もいいところである。
「ああ。私も驚いたが、長官閣下は『大切な話』と言う以外に何も仰って下さらなかった」
「そうですか…………」
「もしかしたら貴様にも何らかの栄誉が与えられるのかもしれぬな」
「は、はぁ……」
栄誉、か……
それはそれで名誉なことではあるが、扶桑海軍のために何か功績を立てたわけでもない私にそのような話が持ち上がるとは考えにくい。
今一つ要領を得ない表情の私に、少佐は不満そうに眉を顰める。
「あのな、貴様はもっと貴様自身を評価すべきだ」
「評価…………ですか?」
「うむ。度の過ぎた謙遜は度の過ぎた自信と同じく見てて気分の良いものではない。貴様が501戦闘航空団に、ひいては…………こ、この私自身にとっても……だな、その、ど、どれほどの支えとなっているか…………」
そう言う少佐もさすがに恥ずかしいのか、頬を赤く染めて私から視線をそらしている。
そんな少佐の態度に、私まで恥ずかしくなってきた。
どちらからも声を発しづらい沈黙が数十秒流れた後、少佐が話題をそらすように声を上げる。
「ま、まぁとにかく、長官閣下が中でお待ちだ。話をしてくるといい」
「は」
…………確かに、これ以上長官閣下をお待たせしては失礼であろう。
「とりあえず今日は何もないようなので私は先に貴様の家に戻っているぞ」
「は。それでは」
少佐の後姿を見送ると、私は司令長官室のドアの前に立った。
重々しい木のドアは、その前に立つものに訳もなく威圧感を与える。
思わず流れ出る汗をぬぐうと、私は小さくドアをノックした。
「はい」
「土方圭助兵曹であります。司令長官閣下のお呼びにより参上いたしました」
「入りたまえ」
儀礼的なやり取りの後、扉を開く。
生まれて初めて見る司令長官室の内装は思ったよりも質素であった。
正面に大きな机があり、そこに座ってこちらに笑顔を向けているのが現横須賀鎮守府司令長官の塚原二四三大将である。
「よく来てくれた。急に呼び立てすまなかったな」
「いえ」
「まぁ立ち話も何だ。座りたまえ」
「は」
言われたとおりに来客用のソファーに座ると、従兵らしき若い女性の下士官が私の前にコーヒーを運んできた。
彼女が退出するのを待って、閣下は私の正面に座るとおもむろに口を開いた。
「坂本少佐の従兵としてよくやってくれているようだな。私のところにもいろいろ噂は届いている」
「恐縮です」
その「噂」の大半は私の、と言うより少佐の物であろうが、ここで妙に謙遜するのも話の腰を折るようで躊躇われたため黙って頷いておく。
長官閣下はしばらく躊躇うように沈黙した後、表情を引き締めて言葉を続けた。
「…………さて、それで本日君を呼んだ用件だが」
「は」
数秒の沈黙ののち、閣下の口より発せられた言葉は私にとっても思いもよらぬものであった。
「君には、近々軍曹へと昇進してもらう」
「…………え?」
閣下の言葉の意味が分からず、ここが司令長官室であることも忘れ、思わずそんな返事を返す。
昇進自体は名誉なことであるが、兵曹から軍曹への昇進など、わざわざ司令長官閣下が直々に伝えるようなことではない。
それこそ一片の辞令をもって済むことである。
現に、501の宮藤軍曹だって――――
「…………っ!」
そこまで考えて私は閣下の言いたいことを理解した。
瞬時に表情が強張るのを自覚する。
ここが司令長官室でなければ、相手が横須賀鎮守府司令長官でなければ襟首の一つも掴んでいたかもしれない。
感情を鎮めるために数回大きく呼吸を繰り返すと、閣下向けて言葉を発した。
「……少佐の従兵を辞せ、と?」
「察しが早くて助かる。ウィッチに関わる男性隊員の『人事上の配慮』は知っているだろう?」
「はい」
人事上の配慮。
それは本来男の世界であった軍隊にウィッチが配属されるようになってより生まれた、一つの人事的配慮。
――――「ウィッチと共に働く男性隊員は、ウィッチの階級に追いつくか超えてはならない」
それは過去において階級を盾にウィッチに不埒を働く男性隊員が続出したことへの配慮であった。
そして今、ウィッチのいる戦闘航空団で働く私に対し、ウィッチである宮藤軍曹と同じ階級への昇進を持ちかけられるということは、遠回しに501にはこれ以上私を置いておけない、と言ったも同様だ。
急な話に混乱する脳内をどうにか鎮め、私は何とか口を開く。
「理由を伺っても?」
「うむ…………」
長官閣下はひとしきり瞑想するように目を閉じると、静かに話し出した。
「どうもこういう地位にいるとな、策士顔で下らぬことをごそごそ進言してくるものも多くてな」
「は、はぁ」
「つまり、坂本の存在は我が扶桑海軍にとってあまりに大きくなり過ぎているのではないか、と」
そこまで聞いて、私は長官の言いたいことがおぼろげながらに分かってきた。
…………何とも醜い話しだが。
「…………男の嫉妬、と言うわけですか」
「まぁ、言ってしまえばそうだな」
確かに今現在、扶桑国内での坂本少佐の人気はかなりのものだ。
だからこそ今回の急な帰国が計画されたのだろう。
勢い軍内部における少佐の存在感も大きなものとなってきており、それを面白く思わない人間と言うのは確かに存在するだろう。
閣下はいったん言葉を切り、言いづらそうに視線をこちらに向ける。
しばらくの沈黙ののち、長官閣下は言葉を続けた。
「そして、その嫉妬の矛先の一部は君にも向けられている」
「私…………ですか?」
言っては何だが私ごとき一兵曹に嫉妬されるような要素などないと思うのだが。
しかし、そんな私の疑問も、閣下の次の一言で吹き飛ぶことになった。
「貴様と坂本が…………男女の関係にあるのではないか、と言う者が」
「ふ…………ふざけないでください!」
思わず閣下の言葉を遮るように大声を上げる。
「落ち着け。無論そんな噂を信じるものなど少数だ」
「…………は。申し訳ございません」
そんな私の無礼をとがめるでもなく、長官閣下は私の怒気が収まるのを待ってくださっていた。
だんだん頭が冷えてきた私も、閣下に対する先ほどの無礼を詫びる。
私が落ち着いたのを見計らったように、閣下はさらに言葉を続けた。
「だがな、このような嫉妬と言うのはいつの世も消えることがない。今はまだそれほど大きくなってはいないが……この上坂本がロマーニャで功績を立てればさらに膨らむことは予想できる」
「は……」
長官のお言葉に頷く。
確かにそれは事実かも知れない。
「だから、君が坂本から離れることは、君にとっても坂本にとっても良い事なのではないか?」
「…………」
「今回の下らぬ噂も、坂本のいるところいつも影のごとく付き従う君の姿があればこそだ」
「……そ、れは」
「彼女はおそらくこの戦いを最後にウィッチを引退することになるだろう。だが、だからと言って扶桑海軍における彼女の存在が軽くなることはない。むしろ後進ウィッチの指導者として、その存在はさらに重きを増すことになる。そんな坂本を、いつまでも下らぬ嫉妬にさらすわけにはいかぬ」
閣下の言葉に私は言葉を返さない。
そんな私に構わず、閣下は言葉を続けた。
「君の辛さは十分にわかる。だが……坂本のためには、これが最善なのだ」
「そ、それは……」
「分かってくれ、とは言わん。納得できないのも承知だ。私を憎んでくれていい。そして…………これが埋め合わせになるとは到底思わんが、新たな配属先に関しては君の要望を最大限尊重することを約束しよう」
しかし、閣下のその言葉は私に何の慰めももたらさなかった。
閣下はさらに言葉を続ける。
「…………心の準備が必要だろう。この扶桑滞在の間は今まで通り坂本の従兵を務めてもらう」
「はい…………」
機械的にそう答える自分の声が、まるで他人の声のように聞こえた。
それからどうやって司令長官室を辞し、私の家に帰ってきたのかは覚えていない。
心配そうに声をかけてくる歳江や母、山川さんにどんな返事をしたのかも。
とにかくただ、私は一人になりたかった。
自室に入ってベッドに横になると、いやでも長官閣下の言葉が蘇ってくる。
(坂本のためには、これが最善なのだ)
本当に私の存在は坂本少佐を下らぬ噂の標的にする要因になってしまっているのか。
ならば、私はどうすれば――――
そんなことを考えつつ、私はいつしか眠りに落ちていっていた。
と言ったところで今回はここまで。
ちょっと今までのほのぼの路線から外れてみました。
まぁ大したことないですが。
それでは、また。
乙です
乙
あちゃあー こればっかりは仕方がないわな
(話題は少しそれるけど)最近の名探偵コナンの高木と佐藤を見て覚えたのと同じ違和感だわ
警察とか郡みたいな国家レベルの組織の中で、親しい男女が仕事上のペアを組み続けているのは不自然だもんな
将来を考えると、普通に考えたらどちらかが軍人を辞めないといけないまである
さて、坂本がどう動くか気になるところ
セルフage
9月になって涼しくなってきましたね。
皆様もお元気で。
……ってageれてないやん!
失礼しました
把握
忙しいのでしょうか・・・?
できれば、はやく上げてほしいところなんですが忙しかったりネタが浮かばなかったらしょうがないですよね・・・。
できれば早くお願いしますorz
申し訳ありません!
なかなかうまくまとまらずいつの間にか時間が過ぎてしまいました。
なんとかこの連休中にあげます。
了解
了解です
こんにちは。
大変遅れて申し訳ありませんでした。
何とか続きが出来上がりましたので投下します。
それと一つお詫びと訂正を。
今まで土方家のお屋敷のイメージを明治時代の擬洋風建築の屋敷みたいな描写をしてきましたが、純和風の屋敷の方がそれっぽいかも、と思って脳内のイメージを修正しました。
と言うことで、今後の土方家の屋敷内の描写は今までとちょっと矛盾するような描写があると思いますが、新しい方が正しいです。
まぁそんなに多くないですけどね。
それでは。
(……さま!)
ん……
(……にいさま!)
この……声は…………?
「お兄様!」
今度ははっきりとそう呼びかける声が聞こえる。
それとともに、泥のようなはっきりしない意識が徐々にはっきりしていった。
ここは……私の部屋…………だろうか?
「う…………」
「良かった……お兄様、その、お加減はいかがです?」
「あ、ああ……って…………うぉっ!」
まだ少しぼんやりする意識の中目を開くと、数センチの距離から私の顔を覗き込んできている心配そうな表情が視界いっぱいに飛び込んでくる。
思わず小さく叫び声を上げた。
「お兄様……やはり体調が…………」
そう言いながら私の布団の側に座り、心配そうな視線を向けて来ているのは歳江であった。
どうやら私の側にずっとついてくれていたらしい。
「あ、ああ、だ、大丈夫だ…………」
「む…………何で離れようとするんですか」
後ずさる様に歳江から距離を取る私の行動に、歳江は不満そうに頬を膨らませる。
私はごまかすようにあたりを見回した。
いつの間にか窓の外は完全に夜になっており、障子を通して差し込む月光が室内に鮮やかな陰影を描いている。
「……今何時だ?」
「え?あ、ああ……21時を少し回ったくらいでしょうか…………」
そうか…………帰って来てから8時間近く眠っていたということになるか。
軽く頭を振って眠気の残滓を追い払おうとするが、頭の芯に重い鉛のようなものが残るのが分かった。
そんな私を、歳江は心配そうに見つめてくる。
「あの、お兄様、鎮守府でいったい何が…………」
「……」
歳江の言葉に、長官閣下の言葉を思い出して顔が強張る。
急に黙り込んだ私に、歳江は何かを感じ取ったようでそれ以上何も聞いてこなかった。
私はそんな歳江の頭をなでると何とか笑みを浮かべる。
「……済まないな。ずっとついていてくれたみたいだし、ありがとう歳江」
「いえ、お兄様のためであればこの程度のこと…………」
「…………そうか」
歳江はしばらく気持ちよさそうに私に撫でられるままになっていたが、やがて私に視線をまっすぐに向けてくる。
「お兄様、歳江は…………いつでもお兄様のお役に立ちたいと願っております。お兄様さえ良ければ、何があったかお伺いしてよろしいでしょうか?」
「……いや、済まないがそれは出来ない」
「…………そう、ですか」
歳江の言葉は私にとってありがたかったが、ここで歳江に頼ってしまうことは私にはできなかった。
これから軍でウィッチとしての将来が待っている歳江に話せる内容ではない。
私の返事に、歳江は少し寂しそうに眼を伏せた。
そんな歳江の姿に心が痛むものの、何とか表情を取り繕って笑顔を浮かべる。
「歳江がいてくれて助かったよ。ありがとう」
「いえ……では、お兄様。私はこれで…………」
「ああ。済まなかったな。ありがとう」
歳江が部屋から出て行ったのを確認すると、私はふらつく体に何とか気合を入れて立ち上がる。
……さて、とりあえずどうするか。
私は起き上がると鏡の前まで歩いていく。
鏡の中には、何ともひどい顔をした私がいた。
(これでは歳江に心配されるのも道理だな)
苦笑を浮かべようとするものの、表情筋が笑い方を忘れてしまったように引きつった笑顔になってしまう。
…………取り繕ったつもりだったか、おそらく歳江には不自然な笑みに見えていたことだろう。
妹に気を遣わせてしまうとは我ながら何とも情けない話だ。
とにかくこのまま朝を迎えては坂本さんにまで余計な心配をかけてしまうことになりかねない。
気分転換に外の空気でも吸ってくるか。
考えてみれば、扶桑に帰って来てより緊張の連続で一人で散歩などしたことがなかったような気がする。
そう考えた私は他の者を起こさぬように慎重に廊下へと出て行った。
「……あっ」
しかし、私の気遣いは無駄に終わった。
部屋を出たところで聞こえてきた小さな声とともに、廊下にたたずんでいたひとつの影がこちらにかけてくるのが見える。
私より幾分低いその影は、山川さんであった。
「圭助様、あの、もう起きて大丈夫なのですか?」
そう言って心配そうな表情を向けてくる山川さんの顔にも疲労の色が濃い。
まさかとは思うが、私が起きる間で部屋の外で待っていてくださったのであろうか。
そう思った私は思わず口に出して聞いてしまっていた。
「まさか……私が帰って来てから今まで…………」
「はい。使用人である私が歳江様の様に軽々に圭助様のお部屋に入るのもためらわれましたので、失礼かとは思いましたが外で…………」
「歳江はなんと?」
「歳江様は一緒に部屋に入るようおっしゃって下さいましたが、私の主は圭助様です。圭助様の許可がない以上そう言うことは出来ませんとお断りしました」
何でもない事のように言い切る山川さん。
ご自分の勉強もあるだろうに、私などのためにそこまでしていただかなくとも…………
私の表情から、私の内心を読み取ったのであろう、山川さんは微笑んで続ける。
「大丈夫です。私が勝手にやったことですから…………それに、私意外と丈夫なんですよ。なんてったって農家の娘ですからね」
そう言って握り拳を作って見せる山川さんに、私は何も言い返せなかった。
ただ私にできるのは感謝の言葉をかけることだけだ。
「ありがとうございました山川さん」
「もう…………美千子って呼んでくださいって言ったじゃないですか」
そう言って膨れて見せる山川さん。
そんな彼女の態度に、先ほどから抱え込んでいた憂鬱さが少し晴れたような気がした。
「あの……それで圭助様」
再び口を開いたのは山川さんであった。
「はい」
「お部屋を出てこられたということは、何か御用でしょうか?でしたら私にお申し付けいただければ……」
この期に及んでもこの方は自分のことより私の事を優先しようとするのか。
使用人の鑑ともいうべきその精神に関心はするが、今は彼女自身の健康の方が大事であろう。
「いえ、ちょっと外の空気に当たりに行くだけですので」
「そうですか…………」
そう答える彼女の様子は少し寂しそうだ。
やがて山川さんは少し躊躇った後おずおずと切り出してきた。
「あの……それでは、私もお供を…………」
「いえ、それには及びません」
山川さんの申し出をはっきりと断る。
ただでさえ彼女には無理をさせてしまったのだ。
これ以上私につきあわせては申し訳ない。
しかし、山川さんの態度は私の予想を超えて強硬であった。
「いえ!だめです!そんな状態の圭助様を外にお一人で行かせるなど……何かがあったら私が奥様に申し訳が立ちません!」
「い、いえ、ちょっと散歩に出るだけですから…………」
「散歩も四歩も関係ありません!とにかく!私がお供させていただきますからね!」
「は、はい…………」
かくしてよく分からない山川さんの迫力に押されるように、私は山川さんを伴って出かけることになった。
「…………」
「…………」
じめっとした夏の夜に、虫の声。
その他に私の耳に聞こえてくるのは私と山川さん、二人分の足音のみであった。
半ば無理やり私の散歩についてきたような山川さんであったが、それ以来一言も発せず黙って私の後ろをついてきている。
そんな沈黙の時がしばらく続いた後、先に沈黙に耐えられずに言葉を発したのは私の方であった。
「あの、やまか……み、美千子」
「はい」
「山川さん」と言いかけた私に悲しそうな瞳を向ける山川さんに、慌てて呼称を訂正する。
話の切り出しからいきなり躓いてしまいそのまま接ぎ穂を失って沈黙する私。
そんな私に、山川さんが話しかけてきた。
「あの、圭助様」
「はい」
私の返事の後、山川さんは躊躇うようにしばらく沈黙する。
やがて何か心を決めたように顔を上げて言葉を続けた。
「その…………主に大変不躾な質問をしてしまうことになるのですが」
「はい」
そう前置きするということは、やはり鎮守府で何があったのか聞かれるのであろう。
そんな風に考えていた私は山川さんの次の言葉に言葉を失うことになった。
「もしかして…………鎮守府で坂本少佐の従兵を辞めるように命令されたのではないですか?」
「なっ!」
思わず驚愕に目を見開いて私は山川さんを見つめる。
私のその態度がすなわちこれ以上ない肯定の証であった。
山川さんは自分の予想が当たっていたことにむしろ憂鬱そうな表情を深くする。
「……そうですか」
「な、なぜ…………」
絞り出すようにそう言うのが限界であった。
そんな私に、山川さんは一瞬表情を辛そうにゆがめるものの、再び顔を上げて話しだす。
「圭助様のご様子がお変わりになられたのは鎮守府よりお帰りになられてから。鎮守府で何かがあったのは確実です。そしてこの短時間で圭助様をそこまで落ち込ませてしまうような内容となるとやはり坂本少佐がらみに限られるでしょう。そこまで考えれば推測はそれほど難しくありません」
「な、なるほど…………」
滔々と述べられる山川さんの言葉に、私は黙ってうなずくことしかできない。
宮藤さんの家に謎の手紙が届いたときのことを思い出す。
こうまでぴたりと言い当てられるとは……この方の洞察力はかなりのものだと言わざるを得ない。
そんな私の驚きには構わず、山川さんは言葉を続けた。
「あの…………圭助様……」
「は、はい」
そういう山川さんの表情は、真剣さに満ち溢れていた。
思わず気圧されるように返事をする。
山川さんは再び沈黙するが、すぐに顔を上げた。
「こんなことを申し上げるのは使用人の分を過ぎていることですし、何より圭助様のお気持ちに反する事とは思っております……でも」
そこで言葉を切る。
再び話し出した山川さんの言葉はとめどなかった。
「もう…………潮時なのではありませんか?圭助様には土方家当主としての役目が待っています。旦那様が亡くなられ、奥様が一人で土方家を支えている状況、圭助様にとっても不本意なのではありませんか?歳江様がウィッチとしてご活躍なさればそれで軍人として国家に奉公することは出来ます。そして、何より…………」
「圭助様がこれ以上お悩みになるのを見ていられません!坂本少佐へのお気持ちは分かりますが、私だって……圭助様…………いえ、圭助さんの事、ずっと……っ!」
そこまで言ったところで山川さんは自分の言葉に驚いたような表情になる。
「み、美千子…………」
「も、申し訳ありません圭助様!」
同じように驚いている私の表情を認めると、山川さんは私を避けるように踵を返し、止める間もなく私の前から走り去っていった。
以上です。
なんか深刻っぽい話になってますが気にしないで下さいw
それでは。
出来れば一週間の投稿ペースは守っていきたいと思います。
乙です
乙
美千子はかわええのぉ
セルフage
すいません。いきなりペース守れませんで。
出来るだけ急ぎます。
待ってる
了解
歳江も美千子もええ子すぎワロタ
土方がここからどう決断を下すか楽しみ
こんにちは。
遅れて申し訳ありませんが今から続き上げます。
「う……」
小さく呻いて目を開ける。
翌日の目覚めは、お世辞にも快適とは言い難いものであった。
昨日鎮守府に行ってから色々なことが起こりすぎ、いささか頭の処理が追いついていない気分である。
――――私だって……圭助様…………いえ、圭助さんの事、ずっと……っ!
一日の終わりに山川さんが発した言葉が蘇ってくる。
さすがにあそこまで言われれば鈍い私でも山川さんがあの後何を言おうとしたかぐらいは分かる。
ぼんやりした頭であたりを見回し、いつもなら私を起こしに来るはずの山川さんの姿がない事に気づく。
さすがにあんなことがあった後では顔を合わせづらいのだろう。
もっとも、これからの生活では嫌でも顔を合わせてしまうことになる訳で、そうなった時――――
「圭助様、お目覚めになられましたか。おはようございます」
「ふぁっ!?」
不意に聞こえてきた思わぬ声に珍妙な叫び声をあげてしまう。
振り返ると、そこには入口の襖をあけてこちらに向けて頭を下げる山川さんの姿があった。
「や、山川さん?」
「おはようございます圭助様」
驚きのあまり慌ててまともに話すこともできない私には構わず、山川さんはまるで昨日のことなどなかったかのように接してくる。
そんな山川さんを見ていると、昨日のことは夢か何かであったような気がしてくる。
しかし、それが夢などではなかったことは、続く山川さんの言葉によってはっきりした。
「圭助様。あの……昨日は誠に申し訳ありませんでした」
「は?」
「使用人としての分を弁えぬ発言、圭助様におかれましてはさぞご不快であったことでしょう。圭助様のお気が済むまで、いかなる罰でもお受けする所存でございます」
そう言って手をついて頭を下げる山川さん。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
私は慌てて制止する。
確かに私が抱え込んでいたものを言い当てられた驚きはあったが、それで怒るような性格のものでもない。
「あ、いえ、それは……」
「…………どうか昨日のことは、一夜の夢とお忘れになっていただければ幸いです」
慌てる私に対してそう言う彼女の態度は落ち着いている。
そんな彼女を見ているうちに私もまた落ち着くことができた。
私は彼女に正対すると、ゆっくりと口を開く。
「…………忘れませんよ」
「え……?」
私の言葉に、山川さんが驚いたように顔を上げた。
「分を弁えないなど……むしろ誰にも言えないでいた悩みを吐き出させて下さり、少し気持ちが楽になりました。感謝したいくらいですよ」
「…………」
「ですから、その感謝の気持ちまで忘れてしまいたくはないんです。昨日はありがとうございました。山川さん」
そう言って山川さんに頭を下げる。
これが今の私の偽らざる気持ちである。
そんな私の返事に、山川さんはしばらく呆然としたような表情のまま固まっていたものの、急に顔を赤くしてうつむいてしまわれた。
「…………は、はい」
「さて、では朝食に向かいましょう。着替えるので少しはずして頂けますか?」
「あ、え、えっと……は、はい!」
そう言うと山川さんは慌てたように部屋から出て行った。
…………まぁ、なんにせよこれ以上山川さんとぎくしゃくした雰囲気にはなりたくない。
結果オーライと言うべきだろうか。
私は安堵のため息を一つつくと、着替えのために布団から抜け出した。
「おはようございます」
「ああ土方か…………おはよう」
朝食の場で、坂本少佐とあいさつを交わす。
着席するなり、少佐は心配そうな表情で私に尋ねてきた。
「……貴様、昨日は何かあったのか?」
「い、いえ…………」
「歳江に聞いたのだが、鎮守府から帰るなり服も着替えずに部屋にこもってしまったそうではないか」
「その……ロマーニャからの長距離移動で少々疲れてしまったようです」
「そうか…………?」
少佐はそう答えたものの、私の言葉を半分も信じていない様子なのがはっきりと分かる。
しかしだからと言って正直に話してしまっては少佐にもいらぬ心労をかけてしまう。
それに何より、事情を知った時の少佐の反応を見るのが怖かった。
少佐はどうするだろうか。
激怒して鎮守府に抗議に行くだろうか。
それとも「仕方ない」とあっさり受け入れてしまうだろうか。
特に後者であった場合、私は果たして平常でいられるだろうか。
そんな思いが頭の中で渦を巻いたように堂々巡りをしている。
「…………!」
「……かた!」
「は、はっ!?」
「土方!さっきからどうした?」
「も、申し訳ありません」
思考の迷路から抜け出すと、少佐が怒ったような心配そうな表情でこちらを見ている。
どうやら少佐の呼びかけにも気づかないほどに自分の考えに没入していたようだ。
私のこの様子に少佐はさらに疑念を深くしたようで、訝しむような視線を私に送ってくる。
「貴様、今日は本格的におかしいぞ…………昨日、鎮守府で何かあったのか?」
「い、いえ、申し訳ありません。いまだ疲れが……」
「…………昨日は何も問題なかったではないか。一日遅れで疲れがやってきたとでもいうのか?」
「そ、それは…………」
沈黙する私に、少佐は何事か考え込むように顎に指を当てた。
「貴様も長官閣下に呼ばれていたな。…………ふむ。考えてみれば妙な話だ。貴様への伝達事項を私を通さずに長官閣下が本人に直接対面して伝えるなど…………私に聞かれたくない内容だったということ……か?」
最後の問いかけの部分で私に視線を向けてくる少佐の語調は、私に言い訳や韜晦を許さない苛烈さを含んでいた。
「…………!」
「……かた!」
「は、はっ!?」
「土方!さっきからどうした?」
「も、申し訳ありません」
思考の迷路から抜け出すと、少佐が怒ったような心配そうな表情でこちらを見ている。
どうやら少佐の呼びかけにも気づかないほどに自分の考えに没入していたようだ。
私のこの様子に少佐はさらに疑念を深くしたようで、訝しむような視線を私に送ってくる。
「貴様、今日は本格的におかしいぞ…………昨日、鎮守府で何かあったのか?」
「い、いえ、申し訳ありません。いまだ疲れが……」
「…………昨日は何も問題なかったではないか。一日遅れで疲れがやってきたとでもいうのか?」
「そ、それは…………」
沈黙する私に、少佐は何事か考え込むように顎に指を当てた。
「貴様も長官閣下に呼ばれていたな。…………ふむ。考えてみれば妙な話だ。貴様への伝達事項を私を通さずに長官閣下が本人に直接対面して伝えるなど…………私に聞かれたくない内容だったということ……か?」
最後の問いかけの部分で私に視線を向けてくる少佐の語調は、私に言い訳や韜晦を許さない苛烈さを含んでいた。
「…………」
「…………はぁ。全くその頑固さ。従兵は上官に似るとでもいうのか」
黙ったままの私に、少佐は小さくため息をつく。
「……まぁ長官閣下から聞かされたということは間違いなく軍関係のことだろう。どうせ私に軍関係のことでいらぬ心労をかけたくないいなどと言う下らぬ気遣いなのだろうが……土方」
「は、はっ!」
そこまで言った後、少佐はしばらく沈黙し、何故か急に私から視線をそらした。
「あー…………私は貴様と……その、まぁそれなりに長い時間を共に過ごし、お互いそれなりに信頼できる関係を築けていると自負している」
「は」
そう言う少佐の顔は紅く染まっており、視線もせわしなく動いている。
「だからな、その、だな。正面切ってこういうことを言うの些か恥ずかしいのだがな…………私は、き、貴様を……そ、それなりに信頼に足る者だと考えている。少なくとも……その、余人をもって代え難い存在だと認識するほどにはな」
「は。光栄であります」
「なればこそ、私は貴様が何事か悩んでいるときには何か役に立ちたいと思うのだ」
坂本少佐の口から紡がれたのは、語調は違うが昨日山川さんと歳江が言ったことと全く同じであった。
これほどまでに多くの方より大事にされているという事実に、不覚にも涙が出そうになる。
「ありがとうございます」
「私の事は気にするな。どうせ今回、扶桑に戻った事情が事情だ。厄介ごとの一つや二つ、今更増えたところで気にもならん」
「坂本さん……」
「ま、まぁつまり何を言いたいかと言うとだな…………貴様も少しはこの私を信頼してくれ、と言うことだ」
そう言って少佐は私の目をまっすぐに見つめてくる。
こうなっては私から話を聞き出すまで解放してはくださらぬであろう。
なにより、ここまで言われてしまっては隠し事をし続けるなど失礼にもほどがあるというものだ。
私は覚悟を決め、昨日鎮守府の司令官室で聞かされた話を少佐の前で繰り返した。
「以上が私が司令長官閣下よりお聞きした話の全てです」
「…………なるほど」
私の話を聞いた少佐はそう言ったきり黙りこんでいる。
……やはり、お話しすべきではなかったか。
私がそう後悔しかけた時であった。
がたっ
「……行くぞ」
「ど、どちらへ?」
急に立ち上がった少佐に、私は慌てて問いかける。
その言葉に答えて振り返った少佐の表情を見た瞬間私は言葉を失った。
その表情に浮かぶのは怒り。
「知れたことだ!鎮守府に行ってあの馬鹿者の目を覚まさせてくる!!」
「少佐!!」
こうなってしまったか…………
正直、少佐がこのような反応を示して下さったことを喜ぶ気持ちもあるのだが、さすがにこの状態の少佐を鎮守府に行かせるわけにはいかない。
私は少佐の前に立ちふさがる。
「貴様!なぜ止める!!ずっと私と共にいると言ったあの言葉は嘘か!!」
「嘘などではございません!」
もはや私も少佐も何を言っているか自分でもわからなかった。
少佐に抱きつくようにして少佐を抑え込む。
もはや失礼だとか女性の体にむやみに触れるのは、などと言っていられる状況ではなかった。
しかしそれでも少佐の力は強く、力を抜いた一瞬の隙をついて私は振り解かれそうになる。
「何事ですかこれは!!」
その時であった。
その場にいた者すべての肺腑を刺し貫くような鋭い声が、私と少佐の動きを止める。
「坂本少佐に……圭助さん?これはどういうことですか?」
振り返った視線の先には、静かな表情の中にも抗いがたい威圧感をまとった土方伯爵家現当主にして我が母、土方雪絵の姿があった。
と言う所で以上です。
10月になりました。
冬コミまであと3か月。
そろそろ本作らんと…………
乙です
乙です
もっさんはお義母さまにどうするのか
3期とOVA発表キター
海江田:いいスレだ。是非とも我が国家と同盟を結ばなければ。
乙。
アレ、旧海軍って閣下付けしたっけ?
基地と戦隊が司令で、艦隊と鎮守府が司令長官ってわかりにくいなあ。
ヒャフー3期キター
こんばんは。
>>767
>>770
マジすか!
映画がそれっぽい終わりしてたから絶対3期あると思ってたけど結構待たされましたね。
でもよかったです。
>>769
すいません。
そのあたりの呼称は結構いい加減かも知れません。
では、こんな時間ですが投下を開始します。
朝の食堂に、母の鋭い声が続いて響く。
「朝っぱらから騒々しいと思ったら……坂本少佐?確かに我々は貴方を客としてお迎えすると申し上げましたが、好き勝手に振る舞うことを許可した覚えはないのですが」
「…………申し訳ない」
一喝されて頭が冷えたのであろう少佐が素直に頭を下げた。
そして母は、続いて私の方に向き直る。
「そして圭助さん……とりあえず少佐から離れなさい」
「え…………も、申し訳ありません!」
そう言われて私は少佐を抱きすくめるような体勢のままであったことを思い出し、慌てて離れる。
「い、いや……私こそ我を忘れてしまい済まなかった」
少佐の方も、気まずそうに私から視線をそらしている。
そんな私たちに母の容赦ない追撃が浴びせられた。
「圭助さん、そして坂本少佐」
「はい」
「…………事情を説明していただきます。これはお願いではありません。現在この屋敷の主である私からの命令です」
「は」
厳しい表情を崩さぬ母の言葉に気圧されたように私と少佐は頷く。
その返事を聞き届けた母は、その表情を崩さぬまま視線をもう一つの方入口の方へと向けた。
「……そして、そこで立ち聞きしている者、出てきなさい!」
「は、はい!!」
そう言いながら扉の影が出てきたのは……
「……歳江か」
気まずそうな表情の歳江であった。
それに気づいた母は大きくため息をつく。
「全く……私は貴方に立ち聞きの仕方を教えたつもりはありませんが」
「も、申し訳ありません…………お兄様の事が心配で……」
「その気持ちは尊いですが……だからと言ってこのような行為が許されるわけがないでしょう」
「は、はい…………」
そう言いながらうなだれる歳江の姿に、さすがに割って入ろうとする私を視線で押しとどめると、母は続けて歳江に言葉をかけた。
「まぁ良いでしょう。聞いていたなら知っていると思いますが、これから圭助さんたちにお話を伺います。ですのであなたは今から3人分のお茶とお菓子を用意しなさい」
「え…………そ、それは……?」
母の含みのある言葉に歳江は勢いごんで尋ねる。
そんな歳江から視線をそらすと母は平静を崩さず言葉だけを返した。
「…………何かご不満でも?」
「い、いえ……とんでもありません!」
それだけ言い残すと歳江は素早く部屋を出ていく。
出ていく前に一瞬だけ見えたその表情はどこか嬉しそうであった。
それからきっかり10分後。
食堂には私、坂本少佐、そしてそれと正対するように母の姿があった。
母の背後には何故かわざわざメイド服を着た歳江が立っている。
人数分のお茶と茶菓子をテーブルに置いた後も歳江は退出する気配を見せなかったが、母も特に咎める様子を見せなかったのでつまりはそう言うことなのだろう。
母はそのお茶を一杯口に含んだのち私たちに鋭い視線を向けてゆっくりと口を開いた。
「さて……それでは坂本少佐。朝も早くから他人の家でかような狼藉を働いた訳を説明していただけるのでしょうね?」
「…………は」
少佐はそう答えると、私に視線を向けてくる。
事ここに至った以上秘密にしておくことを母が許してくれるとは思わない。
私はゆっくりと頷きを返す。
それを確認したのち、少佐は今朝のことを話し始めた。
「……なるほど。事情は理解しました」
「申し訳ありません。つい頭に血が上ってしまい、とんだ粗相を…………」
「いえ、私はむしろ嬉しいのです」
私たちの話を一通り聞いた母はしかし、頭を下げる坂本少佐に対し笑みすら浮かべて返事をする。
「嬉しい、ですか…………?」
「扶桑海軍にその人ありと言われる坂本少佐が圭助さんの事をそこまで大切な存在と思っていただいていることが分かりましたので」
「「う……」」
母の言葉に、少佐と私、二人とも顔を赤くする。
特に少佐は先ほどの自分の言動を思い出したのか、顔を真っ赤にしてぶつぶつと呟き始めた。
「た、大切な……と言うか、その、そこまで考えている訳では……あ、いや、御子息は従兵としても非常に有能な男であり、私も幾度となく助けられているわけで、その点においては大切であると言えなくもないのですが…………」
「ふふ、見込まれてますわね」
「きょ、恐縮です」
微笑ましそうな視線を向けられた私はそう答えるしかできない。
歳江から私に棘を含んだ視線が向けられているのに気付き、慌てて居住まいを正す。
母は表情を改めて言った。
「そう言う事情であれば土方家として海軍の方に申し入れをすることも吝かではありません…………が」
そう言って母は私たちに向ける視線を再び鋭いものに改める。
「圭助さんはせっかくの昇進をフイにすることになるのですよ。そのことは分かっていますね」
「あ…………」
母の指摘に、坂本さんは今気づいたとばかりの表情になる。
そして私に向けて、恐る恐ると言った感じの視線を向けてきた。
「その、ひ、土方…………私は、その」
しかし私は少佐の言葉を遮るように断言する。
「構いません」
「土方…………」
私の意思など問われるまでもなかった。
坂本少佐と離れるぐらいならば昇進など何度だって蹴飛ばしてやる。
そう言い切った私に、少佐は再び顔を赤くした。
「き、貴様はまたそう言うことを平気で…………」
「いつまでもお側に、と言う私の言葉を嘘にはしたくないですから」
「う、うむ」
そう言う少佐の表情はまだ赤い。
私の顔も傍から見れば負けないほどに赤くなっているとは思う。
そんな私たちをほほえましそうに見ていた母であったが、しばらくして言葉を続けた。
「そしてもう一つ…………こちらの方がより大きな問題なのですが、身内ある我々が単独で抗議しては気に入らない人事に横槍を入れているようにしか見えません」
「そうですね……」
母の言に歳江が頷く。
確かに母のいうことは尤もである。
それは例の司令長官閣下のいう「下らぬ噂」を補強してしまうような行為だ。
「どこか無関係……とは言わないまでも別の…………できれば爵位持ちの家から最初に話をしてもらうのが理想なのですが」
そう言って母は浮かぬ顔で顎に手を当てて考え込む。
女が当主をしているということでただでさえ土方家への風当たりは強い。
母もそのことで何度も不愉快な思いをしていることだろう。
そんな時に、このような話を持ち込んだりすれば格好の攻撃材料をこちらから提供するようなものだ。
何より、そんな虫のいい頼みを聞いてくれるような都合のいい家などあるはずもない。
そんな時、歳江がおずおずと言った感じで発言した。
「あの…………501の隊長さんにご協力を仰ぐというのは?」
「ミーナか?…………いや、まだ内示もなされていない帝国海軍内の人事を外部に漏らすなど問題どころでは済まん。そもそもこの話、司令長官閣下自らが、しかもこんなに早めに土方に言ってくださったこと自体が異例なことなのだからな。今から考えれば閣下なりのご厚意だったのかもしれん」
「そ、そうですか……」
そう言って歳江が黙り込んだ後はだれも言葉を発することなく、室内に重い沈黙が降りた。
こんこん。
「あの、奥様、圭助様…………」
不意に外から響いてくるノックの音とともに、山川さんの声が聞こえてくる。
「圭助様にお客様が」
……私に客?
その言葉に私は眉を顰める。
「今少し大事な話なので…………」
「いえ、お通ししてください」
「母上?」
「これ以上話してもいい案も浮かびそうにありません。少し気分転換をしたらいかがですか?」
母の言葉に、坂本少佐もからかうような表情になって続ける。
「……ふふ、そうだな。毎日同じ顔とばかり向かい合っていてもつまらぬだろう」
「あ、いえ、そのようなことは」
少佐の言葉に慌てる私。
そんな私を見て小さく笑い声をあげる母と歳江。
数分前まで部屋を覆っていた重い空気は完全に吹き払われていた。
「…………そ、それでお客様とは?」
「はい、それが……」
そして山川さんが告げた名前は意外なものであった。
「黒田那佳さんと仰る方で…………」
「……黒田?黒田公爵家の?」
その名前に私より早く反応したのは母であった。
「はい。そのようです」
「圭助さん、黒田家の方と何か関わりが?」
「あ、それは…………」
母の問いかけに、私は黒田家現当主である黒田那佳中尉が506戦闘航空団でウィッチをしておられること、私と坂本さんが数週間そちらで過ごした際にお世話になったことなどを伝えた。
話をするにつれて歳江と、そして山川さんの表情まで険しくなっていたのは気づかないふりをする。
「……なるほど」
母はそれだけ呟くと何か考えながら立ち上がり、私を振り返った。
「圭助さん、くれぐれも粗相のないように丁重におもてなしするのですよ」
「…………そ、それはもちろん」
「ならば結構です。私は少しやることができたので部屋に帰らせていただきます。応接は圭助さん一人でお願いします」
それだけ言うと母はそのまま自分の部屋に引っこんでしまわれた。
お客様を迎えるのに最善を尽くすのは当然であるのにそれをわざわざ強調するように言い置いたこと、そして坂本少佐とも面識があるはずなのになぜか私一人で応対するように言ったこと。
母の謎の言葉に、後に残された私と坂本少佐は戸惑ったような表情を交わすことしかできなかった。
「と、とりあえずここで固まっていても埒が空くまい。私は部屋に戻っている」
「…………は」
そう言って少佐は部屋を出て行く。
私はそれを見送った後、山川さんに10分後に応接間へのご案内を頼むと私は部屋へと急いだ。
いくら何でも部屋着のまま会うわけにもいくまい。
そして、応接間でお待ちすること数分間。
「圭助様、黒田様をお連れしました」
「あ、こんにちはー。お久しぶりです圭助様」
ほどなくして山川さんの案内で入ってきたのは、まぎれもなくセダンの基地でお会いした黒田那佳中尉であった。
以上です。
何か予想以上に風呂敷を広げてしまいたたむのに四苦八苦してます。
やっぱり思いつきで妙な設定付け加えるべきじゃないですねw
それでは。
また来週。
乙
救世主キタ
乙です
3期というかTV新シリーズという形らしい
OVAは501かも
乙ー
お母さま抜け目ない
これはまた波乱が広がりそうなwww
乙乙
次回期待しています。
乙
セルフage
艦これ始めました。
あれはアカン……魔性のゲームや…………自由時間がどんどん消えていく……
あっ、ふーん……(察し)
最初はみんなそうだよ
でも途中から進まなくなって作業ゲー感が……;
..........(沈黙)
把握
こんばんは。
任務のために重巡作ろうと思ったら2隻連続でぜかましちゃんが出来上がってファッてなりました。
こんな時間ですが投下を始めますね。
「いやぁ、本当にお久しぶりですね圭助様」
「はい。黒田中尉もお変わりありませんようで」
「いやだなー。ここは鎮守府でも基地でもないんですから、どうぞ『那佳ちゃん』って呼んで下さいよ」
そう言って笑う黒田中尉。
そんな黒田中尉の姿に、お茶を出しに来た山川さんが私を見る表情が険しくなる。
思わず冷や汗が背中を伝った。
「と、ところで中尉はどうして扶桑に?」
山川さんの視線を避けるように話題を転換する。
「あ、私もお二人と同じですよ。何だかえらい勲章だか何だかを頂けるみたいです」
「それはおめでとうございます」
私の賛辞に、中尉ははにかんだように笑う。
「あははー。私にしてみれば私なんか表彰してどうするんだーって感じですよ。坂本少佐ぐらいの戦果を挙げてるならともかく、506でも一番の新顔なのに」
そう言って無邪気に笑う中尉は確かにセダンでお見かけした中尉の姿そのままであった。
そこで中尉は唐突に話題を変えてくる。
「あ、そんなことより…………あのラジオ放送は驚きましたよ」
「ああ、あれですか…………」
「ロマーニャの公女殿下から直々にお名前を呼ばれたんですからね……ヴィスコンティ大尉があれほど慌てた姿をはじめてみました」
そう言いながら、中尉はそのラジオ放送を聞いた時の506の皆様の様子を話して下った。
506にいたのは1か月ほど前の事だが、それでも黒田中尉の口から506の皆様方の様子を聞くと妙に懐かしいような気分になる。
「それで、圭助様の方はどうです?坂本少佐とは少しは進展しました?」
「え…………え、ええと、そ、そうですね……」
唐突に黒田中尉の口から出た坂本少佐のお名前。
中尉にしてみれば少しからかうだけのつもりであったのだろう。
しかし、私の不自然すぎる返答に注意の表情が怪訝そうに顰められる。
「あれ…………何かあったんですか?圭助様」
そう聞いてくる中尉の表情は存外に真剣である。
い、いえ別に……とこういう場合に最も効果のない返答をしようとするが、ふいに脳裏に浮かんだ先ほどの母の言葉に思いとどまった。
――――できれば爵位持ちの家から最初に話をしてもらうのが理想なのですが
「…………」
考えてみれば黒田中尉は黒田公爵家当主なのである。
母が言った条件にまさに注文したようにぴたりとあてはまるのは確かだ。
ここに至り、あの時の母の不可解な態度もすべてが納得いった。
しかし…………こんな私的な問題に黒田中尉を巻き込んでしまってよいものだろうか。
何より軍内部での黒田中尉の立場を悪くしてしまうかもしれない。
私が坂本少佐のお側にいたいと言うのはあくまで私の願い。
その為に無関係な黒田中尉を巻き込めるか。
しかし、お願いする相手として黒田中尉以上の方はいないであろうこともまた確かである。
どう返答してよいか分からないままに沈黙する私。
「え、えっと……圭助……………さま?」
不意に黙り込んだ私に、中佐が何か地雷を踏んでしまったかと不安そうな表情で私の顔を覗き込んでくる。
会話の途中でこんな深刻な顔をして黙り込んでしまえば不安にもなるだろう。
「あ、いえ、その…………」
「何かあったんですね」
そう聞いてくる中尉の表情は真剣で、野次馬根性や好奇心で聞いてきているのではないのは分かる。
だからこそ、安易に助けを求めることは出来ない。
「あの……私で圭助様のお役に立てるなら、なんでも仰って下さいね。望んでなったわけじゃないとは言え、私も黒田家の当主です。これでもそれなりにできることはあると思うんですよ」
「……ありがとうございます」
「いえいえーそんな。私の方がいろいろお世話になっちゃってますし。少しでもご恩返しができれば嬉しいです」
そう言って笑顔を向けてくる中尉。
しかしその中尉の態度に、かえってこのような方を面倒事に巻き込むわけにはいかないという思いを強くする。
「お気持ち、有難く頂いておきます」
「…………そうですかー」
私の返答に、黒田中尉は一瞬寂しそうな表情を浮かべるが、すぐに再び笑顔に切り替わる。
「でも、私の助けがいるならいつでも言ってくださいねー」
「はい」
そこでその話は終わり、それからはお互いの近況報告や欧州の状況など、取り留めもない話が続く。
そんな話がしばらく続いたところで、中尉が不意に立ち上がった。
「あ、そろそろお暇しないと…………」
「そうですか」
「そうだ……今度は黒田のおうちの方にも遊びに来てくださいねっ」
そう言ってまるで女学校の学友でも誘うかのような気安さで中尉は私に微笑みかけてくる。
…………何とも中尉らしい態度というか何というか。
そんな中尉に、私はあいまいな苦笑を返すことしかできなかった。
中尉を玄関までお見送りすべく、部屋から出たところで思ってもみなかった制止の声がかけられる。
「圭助さん」
「……母上?」
いつの間にか服装を改めてドアの前に立っていた母が黒田中尉に向けて深々と一礼した。
「黒田那佳中尉でいらっしゃいますね。私、土方家現当主で土方圭助の母、土方雪絵でございます」
「こ、これはっ、ど、どうもごていにぇいにっ!く、黒田那佳でごじゃいましゅっ!」
その改まった様子に、中尉が慌てて思い切り噛みながら返事をしている。
「せっかくご訪問頂きましたのに、何のお構いもできませんで、誠に申し訳ございませんでした」
「い、いえっ、そんなっ!圭助様とお話しできましたしっ!私は別に…………」
「お詫びと言ってはなんですが、玄関まで私がお送りさせていただきます……圭助さんもそれで宜しいですね?」
「は、はい」
そう言いながら母が私に向けてくる視線は鋭く、私はただ黙って頷くことしかできなかった。
「え?そ、その、えっと…………圭助様?」
「では、黒田中尉、こちらへ」
「あ、はい」
中尉も何事が起こったか戸惑っている様子であったが、戸惑っているところを母に促されて素直についていく。
「…………何なんだ」
去っていく二人の背中をぼんやりと見つめつつ、思わず漏らした呟き。
そのつぶやきは誰の耳にも入ることなく、空しく消えていった。
(Kunika's Side)
「黒田中尉、本日は来てくださって、誠にありがとうございます」
「そ、そんな……私こそ何のアポもなしに来ちゃってすいませんでした」
前を歩く圭助様のお母様……雪絵様と言葉を交わす。
ご主人が亡くなってよりずっと、女当主として土方家を切り盛りしてきたというだけあって、私みたいななんちゃって当主にはない威厳のようなものが備わっているのが分かった。
正直、こうやって話しているだけでも訳もなく緊張してしまう。
そんな私の態度に、雪絵様は柔らかく微笑んだ。
「そんなに緊張なさらなくても……爵位で言えば私より貴女の方が上なんですから」
「あ、ははは……」
そんなことを言われたところで私には苦笑いを返すしかできない。
雪絵様は再び私に背中を向けると歩き出し、そのまま誰に言うでもないという風で話し出した。
「そういえば…………歳のせいか、どうも最近独り言を言う癖がついてしまいましてね。ご不快かもしれませんが年寄りの繰り言と思って聞き流して下さいませ」
「え?あ、あ……はい」
いくら私でも、ここまではっきりと前置きをされればこれから何か重要なことを言い出すであろうことはわかる。
私は表情を改め、お母様の次の言葉を待った。
「ふぇー……そんなことが」
思わずつぶやく。
雪絵様が「独り言」として様が話して下さったのは私にとって初耳で、驚くような内容であった。
……なるほど、圭助様のご様子がおかしかったのはそういう訳だったのか。
圭助様の事だから、私的な事情に私を巻き込むことを遠慮して何も言わなかったのだろう。
その一瞬あとに湧き上がってきたのは圭助様に突きつけられた事実、そして私につまらない遠慮をした圭助様、両方に対するちょっとした怒りであった。
私は思わず声を上げる。
「そんな…………ひどすぎますよ!誰がどう見たって坂本少佐のお側には圭助様が一番なのに!」
「…………」
激昂する私を、雪絵様はただ静かに見つめている。
その表情は私に何かを期待しているようであり、私は冷静さを取り戻すことができた。
「あの……何か私にできることはありますか?」
私のその言葉に、雪絵様は待っていましたとばかりに微笑んだのだった。
「…………これから私がお願い申し上げることは、あくまで私の私的なお願い。決して圭助さんには言わぬようにお願いします」
そう言って雪絵様は振り向き、深々と頭を下げられた。
……そうか。
おそらくこの方は、軍内部でこのことが問題になった時は自分ですべて責任をかぶるつもりなのだろう。
だからこそ圭助様のいる前では何も言わなかった。
…………色んな意味で、この方にはかなわないような気がする。
だからこそ、私は圭助様達のためにできることがあるなら出来るだけのことはしたいと思う。
「……はい」
私の返事に雪絵様は小さく笑顔を向けると、「お願い」の内容を話しはじめた。
そして、それから十分後。
「それでは、色々ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ何もできませんで」
土方家の門の前で、私は雪絵様のお見送りを受けていた。
あの後、雪絵様が私にした「お願い」。
それは雪絵様の話を聞いた時からある程度予想のつくものであったため、私は二つ返事で引き受けた。
私はふと思いついて、門を出たところで雪絵様の方を振り返る。
「あ、そういえば……何だか私、506のみんなと久しぶりにお話ししたくなっちゃいました」
「…………そうですか」
急に話題を変えた私に雪絵様は怪訝な表情をするものの、先を促すように視線をこちらに向けてきた。
「だから、鎮守府に帰ったらセダンと通信してみようかなーっておもうんです」
そこまで言ったところで、雪絵様は私の言いたいことを察して下さったのだろう。
どこか人の悪い笑みを浮かべると私に言葉を返してきた。
「そうですか……お話が弾むとよいですね」
「はいっ!でも…………私って昔っからうっかりさんだから、その中で言っちゃいけないことまで喋っちゃうかもしれません」
「それはそれは、お気をつけて下さいね」
「はい。ひじ……雪絵様も、501の方々と一度お話ししてみるといいかも知れませんよ」
私の言葉に、雪絵様は考え込むように顎に手を当てる。
「ふむ…………そうですわね。息子がお世話になっているのに何のご挨拶もしないというのも失礼ですし」
「501の方々もいい方たちばかりですから……きっと圭助様のお母様とだったらいろんな話ができると思いますよ」
「…………そうですわね」
そう言って笑顔を浮かべる雪絵様。
「では黒田中尉……ありがとうございました」
「いえいえー。圭助様達のお役に立てるなら喜んでー、ですよ」
「ふふ、それは頼もしいですわね」
そう言って再び頭を下げる雪絵様を背に、私は車に乗り込む。
ほどなくして軽快な音を立てて車が走り出すと、私はリアウィンドウ越しに雪絵様の姿が見えなくなるまで振り返って手を振り続けた。
「さって……ちょっと忙しくなるかな。まぁ目的があるってのはいい事よね」
土方家が見えなくなったところで前を向いて誰にともなくそう呟く。
…………あの二人を離れ離れになんて、絶対させない。
決意も新たに、窓の外へと視線を移す。
夕闇に沈む帝都は、そんな私の心など知らぬかのように、いつも通りの姿であった。
と言う所でここまでです。
冬コミまであと1か月強ですね。
本は全くできてません(キリッ
当落決まってから本気出す。
と言うことでさらに更新速度が落ちるかもしれません。
申し訳ありません。
乙です
那佳ちゃんイケメンすぎる。乙
乙ー
那佳ちゃんかっこいい
乙ですー
那佳ちゃんを那珂ちゃんに空目。仕方ないね
次回に期待 anyway乙
セルフage
一晩見なかったら突然1600番台まで下がっててファッてなったので那珂ちゃんのファンやめます
>>806
おかげで私まで空目してしまいました
訴訟
那佳ちゃんのファンになります
「……そうですか。ありがとうございました。……ええ、いえ、こちらこそ…………それでは」
そう言うと、第501戦闘航空団隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐は通話機を置く。
眼鏡を外して小さく息をつくと、只今の通信で伝えられた内容を再び思い返した。
電話の相手は土方雪絵、と名乗った。
坂本美緒の従兵を務める土方圭助の母だそうだ。
彼女の話は、息子が世話になっている部隊の隊長への挨拶と近況報告の後、告げられた内容はミーナを驚かせるに足るものであった。
―――これは容易ならざることになったわね。
おそらく501の隊員たちに告げたらさらに大きな騒ぎになるだろう。
しかし、このタイミングでそのことをこちらに知らせてきたこと。
そこに意味をくみ取れぬほど彼女は愚昧ではなかった。
「土方……雪絵さん…………と言ったかしら」
あの土方兵曹の母親だというが、なかなかどうしてしたたかな人物のようだ。
他人の思惑に載せられているようで少し癪な気もするが、このまま何もしなければあの土方圭助と言う好青年はおそらくこちらに戻ってくることはあるまい。
それは、些か以上に501のウィッチ達の士気を削ぐことになりかねない。
何より戦闘隊長である坂本美緒。
少し目を離しているうちにどこか手の届かないところまで吶喊してしまいそうな彼女をつなぎ止めていたのは、間違いなく彼の存在あってこそだ。
それを分かっているのかいないのか、つまらない嫉妬心から二人を引き離そうとする扶桑海軍の「一部の人間」に怒りを覚える。
―――全く……美緒に何かあったらそれこそ自分達も無事では済まないって分からないのかしら。
「……っと、いけないいけない」
ミーナは頭を小さく降って取り留めもなくなりそうな連想を断ち切る。
今は生産性のない愚痴を呟くべき時ではなく、行動すべき時だ。
「えー!兄ちゃん帰ってこないの?そんなのやだー!」
「そ、そんな……」
「…………なかなか面白い事してくれるじゃねーか扶桑の海軍さんよ」
ブリーフィングルームにて、ミーナより説明を一通り聞いた隊員たちの反応はおおむね彼女の予想通りであった。
「……で、ミーナはどうするつもり?このままけーすけが坂本少佐と引き離されるのを黙って見てるわけじゃないよね」
「ええ」
こんな時にもいつもと変わらず飄々とした(それでも少し言葉に険があるのは彼女なりに怒っているのだろうか)態度でハルトマンがミーナに尋ねる。
ミーナはその言葉にうなずくと、ゆっくりと口を開いた。
「もちろん、圭助くんには何としてもこっちに帰って来てもわうわ。…………それで」
隊員一同の顔を眺めまわすとミーナは言葉を続けた。
「誰か、扶桑に飛んでくれる人はいない?」
その言葉を待っていたとばかりに全員が手を上げる。
そんな隊員の様子に、ミーナは苦笑した。
それもまた、彼女の予想通りであったから。
「じゃ、貴女にお願いするわ」
そう言いながらミーナが視線を向けたのは―――
…………と言う所で安価です。
対象になるのははミーナさんじゅうきゅうさい、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、エイラさん、サーニャちゃん、ペリーヌさん、リーネちゃん、芳佳の10名。
この中から一人選んでいただきカオスになった扶桑にさらに油を注いでもらいますw
安価ゾーンは>>820まで。
最もたくさん名前の登場した方が安価ということにします。
同一IDによる複数投票は1票とみなし、同票が複数あった場合は最初にその数に達した方を安価達成とします。
それでは、よろしくお願いします。
ハルトマンさんで
サーニャ
シャーリー
ペリーヌ!
っていうか、ミーナさんが「貴方にお願いするわ」とか言ってるのに、選択肢にミーナさんが入ってるのはどういうことなんでしょうww
扶桑に油を注ぐ……?それならルッキーニちゃん!
ペリーヌ
ハルトマン
シャーリー!カルチャーショック大きそうだww
ここは貴族だしペリーヌ様で
ペリーヌさんで
エイラで。
ペーリーヌ4、シャーリー2、ハルトマン2、ルッキーニ1 サーニャ1ですね。
と言うことでペリーヌさんに決定です。
頑張って書きますね
>>814
そこはちょっと不自然な感じになりますがミーナさんを外すわけにもいかなかったのでそのままにしましたw
こんばんは。
お待たせしてしまい申し訳ありません。
続きを上げますね。
「……私ですか」
ミーナの視線を受けるペリーヌ・クロステルマン中尉の表情はあまり驚いた様子ではなかった。
むしろ自分に指名がなされることを半ば予期していたように思える。
「ええ。こういった交渉ごとに一番向いているのはやはり同じ貴族出身の貴女だと思うの。クロステルマン家の名前も有利に働くんじゃないかしら」
「…………まぁ、確かにそうですわね。私とてクロステルマン家当主として社交界を渡り歩いてきたことに対し多少の自負は持っております」
「お願いできる?」
「坂本少佐のお役に立てるのであれば喜んで」
そう言ってペリーヌ大尉は優雅に一礼する。
「お前さん的には兄さんはいなくなってくれた方がいいじゃないのかい」
そう言ってからかうような笑顔を見せたのはシャーロット・E・イェーガー大尉。
ペリーヌはそんな彼女に鋭い一瞥をくれて言い放つ。
「心外ですわ。圭助さんがこの501にとってかけがえのない人物であることぐらい理解しております。…………シャーロット・イェーガー大尉、貴女にとってもそうなのではなくて?」
「…………む」
ペリーヌの言葉に、シャーリーは虚を突かれたような表情になる。
「ま、まぁそりゃ……兄さんと話すのは楽しいしな。このままお別れってのはいくら何でも寂しすぎるってもんだ」
そう答えるシャーリーの言葉は普段より少し早口気味であるように、ペリーヌには感じられた。
ペリーヌがそのことについてさらに問いかけようとするのを、別方向からのミーナの声が遮る。
「はいはいそこまで。圭助くんとこのままお別れになってもいいなんて思ってる子はここにはいないわよ。…………じゃ、ペリーヌさん、お願いするわね」
「はい。分かりました。私でどこまでできるか分かりませんが、微力を尽くします」
そう答えるとペリーヌは出立の準備をするために自分の部屋へと帰って行った。
「…………あ、あの」
ペリーヌが退出したブリーフィングルーム。
一番最初におずおずと声を上げたのは、宮藤芳佳軍曹であった。
「なにかしら、宮藤さん」
「あ、あの、その、わ、私も、…………」
そう言いかける芳佳をミーナは微笑ましそうに見やる。
「宮藤さん、その気持ちは尊いと思うけど実際問題、美緒とペリーヌさんに加えて貴女までここを離れたら501は戦力として機能しなくなるわ」
「そ、それは分かってるんですけど……で、でも、私も圭助さんのために…………」
「しっかりなさい!」
「ひぇっ!」
横から急に割り込んできた鋭い声に、芳佳は驚いたような声を上げた。
振り返るとそこには部屋を出て行ったはずのペリーヌが再び立っている。
「ペリーヌさん?」
「貴女のような素人が行って何の役に立つと思います?おとなしくここで朗報を待っていなさい」
「そ、そこまで言わなくても…………」
少し非難するような芳佳の視線に、ペリーヌはどこかバツが悪そうに視線をそらすと続けた。
「…………別にそれが悪いとは言っておりませんわ。むしろそれは得難い資質だとすら思いますが、今回のような任務には向いていない。それだけのことです」
「ペリーヌ、さん……」
「私とて……と言うよりミーナ中佐が先ほど仰いましたがここにいる誰もが圭助さんとこのままお別れになることなど望んでいない。それはお判りでしょう?」
「は、はい…………」
「ならば少しは私を信用しなさいな。必ずや坂本少佐と圭助さんを連れて戻ってまいりますから」
その声は決して大きくはなかったが、芳佳の耳にはどんな励ましの言葉よりも染み入ってくるように聞こえた。
「…………はい。圭助さんと坂本さんの事、お願いしますね。ペリーヌさん」
「ふふ、上出来ですわ豆狸」
最後にそんな憎まれ口をたたくと、ペリーヌは今度こそ本当に部屋を出て行った。
(Hijikata's Side)
あれから――正確には司令長官室で長官閣下のお話を受けてより――1週間が過ぎたが、事態は大きな進展を見せていなかった。
その1週間の間、少佐はそれまでのことなど気にしていないかのように実に驚くほど精力的に各地での講演や式典などをこなしていく。
「私は政治だのなんだの考えるのが苦手なのでな。そう言うことは分かっている人間を信頼してすべて任せることにした」
私の言外の疑問に対する、それが少佐の返答である。
「分かっている人間」と言うのはおそらく母の事であろう。
正直、私自身母の当主としての力量のほどが分からないのでそこまで無条件に信頼されても、と思わなくもないが私自身も政争だの駆け引きだのと言ったことについては門外漢である。
ならばここは素直に母に任せておくべきなのだろうか。
また、少佐の随行員として一緒にいる機会が増えた事により、私と少佐に向けられる視線についても少しづつ分かってきた。
さすがに少佐に対しあからさまに偏見の目を向ける者は少ないものの、その反動か私に向けられる視線には少なからず刺々しいものが混ざっているのが分かる。
「腹に据えかねるようであれば遠慮なく私に言え。貴様は完全にとばっちりを受けた被害者なのだからな」
少佐がそう気遣いの言葉をかけて下さるのが逆に申し訳ない気分になってくる。
私自身や土方家が何といわれようと気にするつもりはないが、少佐への悪意に関しては私も看過できるか自信がない。
「そういえば黒田の奴もいろいろと動いてくれているようだな」
「…………え?」
続いて少佐の口から発せられた言葉は意外なものであった。
そんな私の反応に、今度は少佐の方が怪訝そうに眉を顰める?」
「何?貴様知らんのか?…………私はてっきり貴様の差し金かと」
「い、いえ……私は」
「ふむ…………ならば母上か?」
「あ……」
そう言われて私もその可能性に思い当たる。
と言うよりそれ以外に考えようがない。
どうやら母は私が思っている以上にしたたかな人間のようだ。
少佐も同じ考えであったようで、思わず顔を見合わせて苦笑する。
これで何かが変わるかどうかは定かでないが、わずかながらでも希望の灯が見えてきたことは素直に喜ぶべきであろう。
「少佐、圭助さん」
そんな私たちに、ふいに声がかけられる。
その声は私たちにとっては聞きなれたものであったものの、今ここで、となると意外な声になる。
少佐もかなり驚いて声の主であるペリーヌ・クロステルマン中尉に声をかける。
「ぺ、ペリーヌ」
「はい。少佐。貴女のペリーヌですわ」
そう言ってペリーヌさんは我々優雅に一礼して見せた。
「どうしたのだ。……まさかロマーニャで何か変事でも起こったのか?」
「いえ、少佐が心配されているようなことはありません」
私と少佐の脳裏にまず浮かんだ不吉な連想はひとまずペリーヌさん自身の言葉により否定された。
ならばなぜここに。
そんな疑問を私と少佐の表情から読み取ったのであろう、ペリーヌさんは言葉を続けた。
「…………まぁ、変事と言えば変事なのですが」
そう言いながら私と少佐にペリーヌさんはなぜか半眼を向けてくる。
戸惑ったように顔を見合わせる私と少佐の姿に、中尉は小さくため息をついた。
「圭助さんのお母上より501の司令部に一本の通信が入りましたの……それでお分かりになりますかしら」
「…………なるほど」
その言葉ですべてが理解できた気分だ。
どうやら母は、私が思っている以上に精力的に動いてくださっているようである。
黒田中尉だけではなかったようだ。
「と、言うことはペリーヌ…………」
「ええ。お会いしてまいりました。扶桑海軍の首脳の方々に」
「お会いしてまいりましたって……」
思わず少佐と顔を見合わせ、呆れたように呟く。
親戚のおじさんでもあるまいに、そうそう会いたいからと言って会える相手では…………
「こういう時に使わずして何の家名ですか」
私の疑問に先回りしたように答えるペリーヌさんの表情は、お世辞にも無邪気とは言い難いものであった。
(Yokosuka Commander's office)
「黒田家に、クロステルマン家、か…………」
司令官室の机に座り、横須賀鎮守府司令長官の塚原二四三中将はそう呟いた。
彼の脳裏には先ほど尋ねてきた珍客の姿が浮かんでいる。
第504戦闘航空団所属の黒田那佳中尉。
そして501戦闘航空団所属・ペリーヌ・クロステルマン中尉。
二人とも突然やって来ては他愛もない世間話をしただけであったが、それでもいうべきことはきっちり言い残していった。
「けいす……土方兵曹と少佐ってすごく気が合ってると思うんですよ。扶桑海軍中を探してもあのお二人ほどのコンビはいないんじゃないでしょうか?」
「私は坂本少佐を心よりご尊敬申し上げておりますわ。…………そう言えば、少佐の従兵の土方兵曹、あの方は本当に少佐に信頼されているようで……正直妬けてしまいます」
そんな風にわざとらしく言い残した彼女たちの意図は明白すぎるほどであった。
(まったく……人事の秘密も何もあったものではないな)
情報の出所については正直考える必要もないほどであった。
しかしそのことで兵曹を責める気にも、またなれない。
それは何より彼自身がこの人事に内心反対だったからである。
(今のままでうまくいってるものをわざわざ改める必要もなかろうに…………)
彼が土方兵曹に慣例を破ってまで海軍内部の事情を明かしたのは、そのことで何らかの変化が起こることを期待してのことであったが、返ってきたリターンは彼の予想を超えて大きかった。
土方家自身から何らかのリアクションが返ってくるものと考えていたが、まさかその前に2つもの貴族家を動かしてくるとは……。
どうやらこの土方と言う青年、その好青年然とした外見とは裏腹になかなかしたたかな人間のようだ。
……それは結果からすれば完全に中将の誤解であったのだが、この状況をすべてあの土方圭助と言う青年が作り出したと考えていた。
「司令長官閣下」
ノックの音に、彼は思考を中断する。
「はい」
「…………長官閣下にお会いしたいという方が」
またか。
外から聞こえてくる声に中将は小さくため息をつく。
何とも千客万来なことだ。
今度こそ土方家当主ご自身のお出ましであろうか。
「……誰だ?」
「は。506戦闘航空団のハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン少佐と」
「…………へ?」
しかし次の瞬間耳に入ってきたのは、予想だにしない名前であった。
思わず小さな叫び声が口から洩れる。
(506のあの姫が…………?)
確か坂本少佐と兵曹は506にしばらく滞在していたことがあったと聞くが…………
まさかとは思うがあの二人のためにわざわざ地球を半周してやってきたのだろうか。
クロステルマン中尉もそう言えばそうであったが、実際に所属している501の隊員ならともかく、1か月ほど滞在しただけの506の隊員がそこまでする義理もないと思うが…………
しかし、さらに中将を驚かせる報告は、その数秒後に訪れるのである。
「ちょ、長官閣下!大変です!」
「…………今度はなんだ」
短時間の間に立て続けに驚くべき報告を受け、驚くことには十分に耐性ができていたはずであった。
だからこそ、中将は慌てているらしい外の声にゆったりと落ち着いた声を返す。
「ちょ、長官に面会の申し込みで……」
「今度は誰だ。ロマーニャ公でもやってきたか」
些か捨て鉢気味に返したその言葉が、事実の一端をとらえていたことに、中将は気づいていなかった。
「い、いえ、ロマーニャ公ではなく…………」
「当たり前だ」
「そ、その…………ロマーニャ公国第二公女、マリア殿下と……」
聞こえてきた名前に、中将はいらだたしげに机をたたく。
「……あいにく私はそう言う冗談を許容できる余裕がないのだ今は」
「い、いえ…………冗談ではなく」
「もうよい」
その声を遮るように聞こえてきたのは、女性でありながら凛と澄んだ声。
……なるほど。
「プリンツェシン」の二つ名は伊達ではないということか。
中将は思わず目を上げる。
その視線に映るのは、戸口に立つ銀髪長身の美しいウィッチの姿。
しかし、その後ろから影のように現れた女性の姿を認めた時、中将は立っていることができず椅子へと倒れ込むように座り込んだ。
「何のアポもなしに突然訪問した御無礼をまず謝罪申し上げますわ。申し訳ございません」
そう言って頭を下げる少女の面影に、中将は見覚えがあった。
新聞に載っていた写真。
そこに写っていた「公女殿下」の面影と、目の前の少女の面影は完全に一致する。
どうやら、先ほどの部下の申告は冗談でも間違いでもなかったようだ。
「こ、こちらこそ…………」
答える自分の声が上ずっているのが自分でもわかる。
(何者なのだ……土方圭助)
公女殿下にひきつった笑みで応対しながら、中将は土方に対する誤解をさらに深めるのであった。
と言う所でここまでです。
オリジナル展開は難しいですね。
オリジナルSS書いてる方の苦労がしのばれます。
それはそれとして。
冬コミ受かりました!
3日目 西れー15b です。
内容はいつもの自衛隊本。
よろしければ見に来てくださいね。
では、また来週。
乙です
乙乙
うわぁ凄い事になってきたw
これは貴族繋がりというより501メンバーの国籍繋がりか?
やめて!もう長官のライフは0よ!
隱、隗」www
乙です
コネってすごいね!
乙ー
そりゃビビるわwwww
今日が楽しみだwww
こんばんは。
遅れて申し訳ありませんが今から続きを投下させていただきます。
よろしくお願いします。
それは、唐突にやってきた。
世の中には自分の予想のつかないことなどいくらでもある。
そんなことは十分に分かっていたはずだった。
神ならぬこの身、自分の予想しうる事態などたかが知れており、起こり得る事象のすべてを見通すことができると考えるなど僭越も甚だしい。
そんなことは考えるまでもなく当然だ、そう思っていた。
しかし。
ある日家に帰った時、私はこの言葉の意味を実感として味わうこととなった。
「あ、圭助様、お帰りなさいませ」
「邪魔しておるぞ圭助よ」
「あ、あの…………お久しぶりです土方さん」
黒田公爵家当主にして、セダンに駐屯する第506戦闘航空団に所属するウィッチでもある黒田那佳中尉。
同じく506の戦闘隊長を務め、カールスラントではそれなりに知られた家の当主であるハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン少佐。
そして現ロマーニャ公のご息女にして第二公女であらせられるマリア・ピア・ディ・ロマーニャ公女殿下。
我が家の玄関先でこの3人に出迎えられた時には、私はしばらく呼吸を忘れて固まることしかできなかった。
最初の出会いの衝撃から私と坂本少佐が立ち直るまで少なからぬ時間を必要とした。
そんな私を、黒田中尉とウィトゲンシュタイン少佐はどこか面白そうに、マリア殿下は本当に済まなそうに見ている。
何とか精神の平衡を取り戻した私に、最初に声をかけて下さったのはマリア殿下であった。
「あ、あの…………突然押しかけてしまい、本当に申し訳ありません」
「い、いえ……そのようなことは……」
「その…………ルッキーニちゃんにお願いされたので……」
続くマリア殿下のお言葉に、やっとこの状況にある程度の合点がいく。
しかし、501の一隊員に過ぎないルッキーニ少尉が、面識があるとはいえマリア殿下においそれとお願いなどできるものだろうか。
そんな疑問は、続くマリア殿下の言葉によって解消された。
「あれから……あの時ローマでお二人にお会いしてから…………思い切ってお父様たちに事の次第を打ち明けてみたのです。私にとって初めてのお友達、ルッキーニ少尉の事、それにその優しい『執事さん』のことも」
「なるほど」
今となっては何とも気恥ずかしい話だ。
思わず苦笑する。
「最初は二人ともすごく怒りました。でも、私がルッキーニちゃんの事、大事なお友達だって思っていると何度も説得して、ついに公務に支障のない範囲にすること、必ず護衛の者を同行させることを条件にルッキーニちゃんに会うことを許してくれたんです」
それ以来、マリア殿下は暇を見つけてはルッキーニ少尉とローマ市内を散策していたとのことである。
どうやらマリア殿下も、見た目の印象とは違って随分アクティブな方のようだ。
それとも、ルッキーニ少尉との出会いがいい方向に作用したのか。
続いてウィトゲンシュタイン少佐の方に視線を向ける。
視線が合うと、少佐はいつものような不敵と言ってよい笑みを向けてきた。
「ふふ、驚いておるようじゃの。まぁ妾もマリア殿下までおるとは予想外じゃったが…………まぁ貴様の事だ、またどこかで誑し込んだのだろうと納得しておくことにした」
「納得されるのも複雑な気分ですが、来てくださったことには感謝いたします」
「…………全く、呆れましたわ。無鉄砲にもほどがあるのではございませんこと?」
そう、横から口を挟んだのはペリーヌさんであった。
ペリーヌさんの姿を認たウィトゲンシュタイン少佐はやや驚いたような表情になるものの、すぐに再び不敵な笑みを取り戻す。
「誰かと思えばクロステルマンの小娘ではないか。よもや貴様まで圭助にたぶらかされようとは」
「わ、私は坂本少佐のために来たのです!」
「坂本のため、と言うならむしろこのまま圭助が坂本のもとを去ったほうが都合が良いのではないか?」
「…………本気で仰ってますの?」
「まさか」
501にいたころからどうもこの二人が会話をするとこういう皮肉の応酬になり、傍で聞いてる方が精神をすり減らしたものだ。
ウィトゲンシュタイン少佐が501にいたころのことを少し思い出し、何とも言えない懐かしい気分になる。
おそらくウィトゲンシュタイン少佐の方には黒田中尉より連絡がいったのであろう。
自国の人事上の秘密を他国の士官に漏らすとは…………些か呆れ気味の視線を中尉に向けるが、その視線をどう勘違いしたのか、中尉はしてやったとばかりの笑顔を私に向けてきた。
「圭助様どうですか?私、お役に立ったでしょ?」
そんな自慢げな中尉の言葉に、私は曖昧な笑みを返すことしかできなかった。
「…………圭助さん。説明してくださいますね?」
しかし、不意に聞こえてきた声が、やや弛緩しかけた空気を再び引き締める。
振り返った先には母が立っていたが、そこに浮かぶ表情は普段の母らしからぬ何とも奇妙なものであった。
強いて言うなら当惑、であろうか。
…………さすがに土方家当主としての経験を積んだ母でも立て続けにこのような貴人が家を訪ねてくるなどと言う事態には対処しかねるのであろう。
後ろでは、歳江と山川さんが私の方に睨むような視線を送ってくるのが見える。
「……分かりました。とりあえず応接間へ移動しましょう」
私の言葉に、玄関前に集っていた一同が一斉に動き出す。
……さて、どうやって説明した物か。
私は新たな難問の出現に内心で頭を抱えることになったのであった。
「…………事情は分かりました」
それから小一時間語。
私は応接間に集った一堂に向けて何とか説明を終える。
母がその一言を発するまでに少なからぬ空白が存在したというのは、それだけ私の話が母にとっては驚きであったのだろう。
無理もない。
私とてこんな話を他人がするのを聞いたらとんだ妄想だと鼻で笑うだろう。
「かなり驚くべき話ですが、皆さんのお話に矛盾もありませんし、事実なのでしょう」
そこで言葉を切ると、母は黒田中尉達3名の方へと向きなおし、深々と頭を下げた。
「このたびは圭助さんのためにわざわざお骨折りいただき、感謝の言葉もございません」
「なに、妾たちが勝手にやったことです。御母堂は気にされずともよろしい」
母にそう言葉をかけるとウィトゲンシュタイン少佐は私に視線を向けてくる。
「さて圭助よ、後は貴様次第じゃ…………とはいっても、その顔ではすでに心は決まっているようじゃの」
ウィトゲンシュタイン少佐に対し、私は小さく頷きを返す。
正直、坂本少佐のためには私が少佐のお側に居ないほうが良いのかもしれない。
そんな迷いがなかったと言えば嘘だ。
しかし、それでもなお、私は坂本少佐のおそばを離れたくはないと、今は強く思う。
私は坂本少佐へと視線を移す。
「少佐」
「う、うむ」
そう答える少佐もやや緊張気味である。
「この数週間、少佐と共に過ごして分かりました。周りに何といわれようと、少佐の御為にならぬとしても……私は少佐のお側に居たいのだ、と」
「…………うむ。そうか」
少佐の表情は先ほどまでとは打って変わってどこか穏やかである。
「ありがとう……と言うべきなのだろうな。私も、貴様と……」
「あ、あの…………圭助様にお客様が」
少佐の言葉を遮るように、、横合いから声がかけられる。
振り返った視線の先には、山川さんとその後ろに立つ一人の女性士官の姿が。
…………確か、鎮守府の長官室で見たことがあるような気がする。
長官閣下の秘書官であろうか。
「土方圭助兵曹ですね」
「は」
女性の問いかけに答える。
それを確認した女性は、懐から命令書を取り出すと機械的に読み上げた。
「土方圭助兵曹、明朝1000に鎮守府司令長官室に出頭せよ」
「…………は」
数秒の沈黙ののち、敬礼と共に女性士官に答える。
どうやら来るべき時が来たようだ。
坂本少佐にちらりと視線を送ると、少佐も同じ結論に至ったのであろう、やや硬い表情を浮かべているのが分かる。
「では、これで」
「は。お疲れ様でございました」
そんな言葉と共に女性士官を見送った後、私は大きく息をつく。
「ふむ。どうやら舞台は整ったようじゃの」
「は」
ウィトゲンシュタイン少佐の言葉に頷く。
明日ですべてが決まる。
「私たちも同行いたしましょうか?」
「いえ、お気持ちはありがたいのですが…………」
今まで黙っておられたマリア殿下のお申し出に、私はやんわりと首を振る。
少佐とともに居たいと言うのはいわば私の我儘だ。
その我儘を貫こうというのに人の助けなど借りられるわけがない。
最後に私は、母へと視線を向けた。
「圭助さん。貴方の思うとおりになさい。土方家の事や私のことなど、考える必要はありません」
「…………ありがとうございます」
母に礼を言って顔を上げる。
私に、もう迷いはなかった。
と言う所でここまでです。
冬コミ用の本も並行して書いてるのでどうしても更新が遅れがちになり申し訳ありません。
それでは。
また来週に。
乙
乙です
乙乙
乙! さてさて、土方はどうなることやら……
青い月明りが、縁側の障子を通して部屋に差し込んでいる。
部屋で布団に入ってよりもはや数時間。
私は一睡もできないままでいた。
明日は横須賀鎮守府の司令長官室へ出頭せねばならない。
そのことが私の神経を異様なまでに高ぶらせていた。
マリア殿下、ウィトゲンシュタイン少佐、黒田中尉にペリーヌさん。
皆様それぞれ動機は様々なれど、私と坂本少佐のために労を取っていただいている。
彼女たちは口を揃えて私は少佐の元から離れるべきでない、と言った。
少しの迷いもないその言葉に、私自身の方が驚いたほどだ。
振り返って私自身はどうであろうか。
悲劇の主人公を気取り、現実から目をそらしていた。
ここ数週間の自分の言動を省みるに恥じ入るばかりだ。
(だからこそ、明日は…………)
私が一人で長官閣下に会い、私の存念をお話しせねばならない。
そう考えるとますます目がさえてくるのを感じる。
私はゆっくりと布団の上に体を起こした。
――――少し、頭を冷やしてくるか。
幸い今日は良い月だ。
柄にもなく風流人を気取ってみるのもいいかもしれない。
そう思い直すと、私は夜着の上に半纏を羽織り、部屋を出て行った。
…………と言う所で安価特別編です。
対象になるのは現在扶桑の土方家にいるもっさん、歳江、みっちゃん、マリア殿下、ハインリーケ姫様、黒田那佳中尉、ペリーヌさん、土方母の8人。
ちょっと対象がいつもと違いますのでご注意を。
安価ゾーンは>>870まで。
最もたくさん名前の登場した方が安価ということにします。
同一IDによる複数投票は1票とみなし、同票が複数あった場合は最初にその数に達した方を安価達成とします。
それでは、よろしくお願いします。
もっさん!
じゃあ歳江!
みっちゃん
みっちゃんで
姫様!
もっさんしかあるまい
もっさんで
姫様!
姫様で!異文化交流!
こんばんは。
安価ありがとうございます。
安価締切についてですが、もし>>871(870としていましたが私が割り込んだので一つ伸ばします)行かなければ本日23:59:59で締め切ります。
0時越えるとID変わってしまい同じ人が2票入れてもわからなくなるので。
それでは。
もっさんやな
もっさん、姫、同標…?いや、もっさんの方が早いからもっさん?
ここはいっそのこと2共……!
もっさんと姫様が同票ですがもっさんが先なのでもっさんですね。
落ち着くべきところに落ち着いた感じですがw
頑張って書きますね。
土方とは
大事にならなければいいのだか……このメンツじゃ無理か…
まだですか?
忙しいのですかね…
待ってます
きっと君は来ない~( ´ ; ω ; ` )
すいません!
年末で仕事が忙しかったのと冬コミ本にかかりっきりになってました……って言い訳ですね。
この週末で必ず続きを上げます。
了解
了解
関係ないけどこないだ知り合った人が坂本圭介さんで思わずニヤッとしてしまった
了解です
「了解!」
こんにちはー。
続き投下しますね。
お待たせして申し訳ありませんでした。
青く光る月光の下を歩く。
木や草、地面に敷き詰められた玉砂利などがすべて蒼白く発光しており、このままどこか異世界にでも迷い込んでしまいそうな気分である。
季節は5月。
もはや桜は完全に散り終え、常緑樹が織りなす緑色が目に飛び込んでくる季節。
そんな扶桑らしい色彩鮮やかな景色も、今は黒と蒼白色の2色に塗り分けられている。
その時であった。
ざっ。
耳が痛くなるような沈黙を破るように、小さな足音らしきものが聞こえてきたのは。
先ほどまでの幻想的な雰囲気は霧散して行く中、私はゆっくりと注意深く音の聞こえた方へと視線を向ける。
月明りがちょうど逆光になって顔は見えないが、人影のようなものがかすかに見えた。
思わず腰のあたりを無意味にまさぐってしまう。
…………拳銃を置いてきたのは、当然のこととはいえ些か不用心であったか。
「……何者だ」
可能な限り抑えた私の誰何の声に答えたのはしかし、私にとって誰よりもなじみのある声であった。
「ひ、土方か?」
「…………坂本さん?」
人影が驚いたように月明りの下へと走り出てくる。
その姿は間違いようもなく、坂本少佐その人であった。
「すまぬな。あまりに良い月であったので深夜の散歩でも、と思って部屋を抜け出したはいいが…………その」
そこまで言って少佐は決まり悪そうに沈黙する。
その態度と表情が、今の少佐の置かれた状況を雄弁に物語っていた。
私は表情を崩さぬようにして少佐に話しかける。
「坂本さんはここに滞在なさって日も浅いのですから迷われるのも仕方ありません」
「……改めてそう言われると些か気恥ずかしいな。…………まぁ、貴様に会えてよかった」
そう言って少佐は安心したように微笑んだ。
この幻想的な月夜が私の口を軽くした訳でもあるまいが、次に私の口から出てきたのは普段の私なら決して言わないであろうことであった。
「実は、私も子供の頃迷ったことがございまして」
「…………そうなのか?」
少佐は少し興味をひかれたような表情を向けてくる。
「ええ。ちょうど夜中に手洗いに立った時、ちょうど今日のような幻想的な月夜で…………誘われるようにふらふらと庭に出てしまった結果」
「はは、それは家族も心配なされたであろう」
「は。ちょうど折あしく歳江が私の部屋にやってきたところ私がいないことが発見されて使用人総出で探し回ったそうです。発見された後、父より特大の拳骨を食らいました」
「…………はは、それは災難だったな」
……あの時は見つかった後の方が大変だった。
お兄様がいなくなっちゃう、と泣きじゃくる歳江をなだめるのに苦労したものだ。
思わず遠くを見つめてしまい、少佐に不審な視線を向けられてしまった。
「どうした?」
「い、いえ、何でもございません」
慌てて誤魔化すように首を振る。
少佐はそんな私を不思議そうに見ていたが、やがて周りの風景へと視線を移した。
「しかし、この庭は見事だな。こういう光景を見せられると、貴様が我々とは違う世界の住人なのだと実感させられる」
「そんなことは…………!」
「まぁ聞け」
私の反論を手で制し、少佐はさらに続ける。
「貴様からあの話を聞かされたときに、私の心に浮かんだのは怒りであった」
確かに私の話を聞いた時の少佐の怒りようはすさまじかった。
なればこそ母に窘められることになったわけだが。
「だがな、それと同時にわずかながら一つの思いも浮かんできたのだ。奇しくも長官閣下と逆のな」
「……と、申されますと?」
少佐は少し考えをまとめるように沈黙したのち、話し出した。
「長官閣下は貴様の存在が私の海軍での将来の邪魔となりうる、と仰った。だが、私は海軍内で栄達を望もうとは思わん。ウィッチを引退したら退役しようとすら思っているほどだ」
あの山中での生活の際も、少佐はそのようなことを言っておられたのを思い出す。
「海軍に残るとしても、長官だの司令だのと言う立場が私にふさわしいとは思えん。…………だが、貴様は違う」
そう言うと、少佐は私の顔を正面から見つめてきた。
「貴様には土方伯爵家次期当主としての立場もある。それは私の抱えるものなどよりもはるかに大きなもののはずだ」
「それは……」
「そして、今の貴様の立場は……私の従兵と言う立場は、そう言う貴様の将来にとってなんら寄与していない……はっきり言えば無駄だ」
「少佐!」
少佐の言葉を遮るように声を上げる。
しかし少佐は私の言葉など耳に入らなかったかのごとく続ける。
「だから私は思ったのだ。長官閣下のお言葉とは逆に、私の存在こそが貴様の将来の邪魔をしているのではないか、共に居ることで不利益を被るのはむしろ貴様ではないか、とな」
「そんなことはございません!」
「…………うむ。その言葉、嬉しく思う」
少佐は私の言葉に小さく微笑む。
「だがな、決めるのは貴様だ土方。…………いや、土方伯爵家当主候補、土方圭助殿、後悔のないような決断をなされよ。私はどのような結果でも貴殿の判断を尊重すると約束する」
そう言って少佐は私に向けて敬礼をした。
月明りに照らされた少佐のお姿は、一幅の絵画のような神聖性を帯びて見える。
その瞬間、私の心は決まった。
いや、それ以前から決まっていたのだ。
その決心が私の意思として定まった、と言うべきか。
「ありがとうございます。少佐」
「なに、礼を言われるような筋合いの話でもない。それにペリーヌも言っていたが、宮藤たちの落ち込む顔は見たくないしな」
そう言って少佐は小さく笑う。
……やはり私の主はこの方しかおられない。
「それでも私の意思を再確認させていただいたことには感謝申し上げます。誰に何を言われようと、やはり私の主は少佐しかいないと」
「…………う、うむ」
そう答える少佐の顔も心なしか赤い。
私の顔も間違いなくそうなっているだろう。
何とも言えない気まずい数十秒間が流れた後、急に少佐が表情を引き締めた。
そして、私の背後の茂みに向けて声を上げる。
「……そこに隠れている馬鹿者ども、さっさと出て来い」
その言葉に反応するように、私の背後の草むらががさごそと音を立てる。
「…………今の今まで気づかんとは、少し鈍りすぎではないか坂本よ」
「え、えへへ~」
「しょ、少佐……これはウィトゲンシュタイン少佐が強引に!」
「……クロステルマン中尉もかなり積極的であったと認識しておりますが」
「も、申し訳ございません旦那様」
そう言いながら出てきたのはウィトゲンシュタイン少佐、黒田中尉、ペリーヌさん、歳江、山川さんの5名。
私は思わず心の中で天を仰ぐ。
…………何とも恥ずかしい場面を目撃されたものだ。
と言うか今まで気づかなかったのは私も同じである。
悩みがあったとはいえ、我ながら情けない話だ。
緩みかけた雰囲気を引き締めるようにウィトゲンシュタイン少佐が小さく咳払いをする。
「まぁ、盗み聞きと言う手段は褒められたものではなかったがの、折角じゃからこの雰囲気に便乗させてもらうとするか……圭助よ、それでいいのだ。我等の事はひとまず置いておけ。貴様がどうしたいのか、それのみを考えて行動しろ」
「少佐……」
「そうですよー。圭助様はどうしてもいろいろ考えすぎちゃうところがあると思います。そんなこと考えずに、俺はこうしたいんだーって何も考えずに行動したほうが案外いい結果が出ることもあると思いますよ」
黒田中尉もそう言って微笑む。
見れば、程度の差こそあれ周りの皆様は私に好意的な表情を向けて下さっている。
「……ありがとうございます」
そう。
もう私は迷わない。
私の決意を祝福するように、月は変わらず、天上にあった。
と言う所でここまでです。
いい加減この扶桑編を早く終わらせたいw
>>880
マジすか。
「坂本」も「圭介」も日本人としてはそんなに珍しい名前ではないから不思議ではないですが……
それでもちょっとびっくりしますよねw
それではまた来週。
乙です
乙
乙でした。
乙
乙!
乙ー
もっさんの敬語だ
乙乙
色々と女性を誑かしている(?)土方だけど
やっぱり最後にはもっさんと結ばれちゃうよね
やはりオリジナルほど面白く、また考え出すのが難しいものは無いでしょうな…
ともかく乙
すいません。
この3連休中に投下する予定でしたがもう少しお待ちください。
多分1~2日のうちに投下できると思います。
了解
Roger that!待ってます
こんばんは。
今日から冬コミのため東京に来てます。
3日目西や―15b「海の漢」です。よかったら来てみてください。
では、続きを。
遅くなってしまい申し訳ありませぬ。
横須賀鎮守府、司令長官室前。
約束の時間のきっちり10分前にたどり着いた私は相当に硬い表情をしていたのだろう。
「…………」
「おいおい、入る前からそんなに緊張してどうする。最前線で人を2,3人殺してきた直後のような顔だぞ」
「……」
「…………すまん。ちと笑えなかったな」
冗談に紛らわそうとした少佐であったが、私の表情に気付くと決まり悪そうに謝ってきた。
ちなみに、他の方々は土方家で待機していただいている。
これ以上皆様の世話になる訳にはいかぬし、何より当事者たる自分が何もしないでは皆様に顔向けできない。
そんな表情を察したのか、少佐がいつもの豪快な笑顔を浮かべつつ背中を叩いてきた。
「昨日も言ったが、私たちに迷惑がかかる、などと余計なことを考えるな。私は…………その、これからも貴様がいてくれた方が……まぁ、助かるというか、なんというか、その……」
最後の方は顔を赤くしながらの可聴域すれすれの言葉であったが、その言葉は何より私の心に響いた。
大きく息を吸い、ドアへと手を伸ばす。
こんこん。
「土方圭助兵曹、お呼びに応じ参上いたしました」
「入れ」
私のノックの音に、少し遅れて室内から返答があった。
部屋に入る前に、ふと傍らの少佐を振り返る。
「……行ってこい」
「は」
少佐の言葉に短く返事を返すと、私は長官室へと入室した。
「……土方兵曹」
「は」
部屋に入ってきた私を見た長官閣下の表情が一瞬驚いたように変わるが、すぐにいつもの実直な表情に戻る。
その表情のまま、長官閣下は全てを事務的に済ましてしまおうとでもいうように机から一枚の紙を取り上げると、視線をその紙へとおとした。
「ひじ……」
「閣下」
失礼を承知で口を開きかけた閣下の言葉を遮る。
辞令の内容を読ませてしまうわけにはいかない。
長官閣下の目を見据えつつ、私は言葉を発した。
「少し、私のお話を聞いて頂くわけにはいかないでしょうか」
「……できん」
予想通り、閣下から帰ってきたのはにべもない返答であった。
それでも、ここであきらめるわけにはいかない。
私はさらに言葉を続けた。
「お時間はとらせません。私は」
「黙りたまえ。土方兵曹」
しかしその言葉も、長官閣下の発する言葉に弾かれる。
しばしの沈黙ののち、先に口を開いたのは閣下であった。
「…………君が今回の人事に不満を持っているのは分かる。だが軍の人事と言うものはそのような一個人の感情で左右されてはならないものだ」
「ですが!私は」
「ここにも多数の来客があったよ。中には驚くほどに身分の高い方もおられ、皆が口をそろえて貴様を坂本の元から離すのはよくないと言っていた。…………正直、君の交友関係の広さには驚かされた。だが、誰に何を言われようとこれは決定したことだ。……前にも言ったが配属先については君の希望を最大限配慮しよう。これが最大限の譲歩だ」
「で、あれば!」
「引き続き坂本のもとに、と言うのは聞けない。宮藤軍曹と階級が並んでしまう以上君を501付きにはしておけない」
長官閣下の言葉に私は唇をかんだ。
わざと私と視線を合わせようとしない閣下の態度から、長官閣下もこの人事には反対なのだろうと推測がつく。
だからと言って状況が好転するわけではないのだが。
私の沈黙を肯定ととったのか、長官閣下は再び紙片を取り上げえて口を開きかける。
その姿に、私の中で何かの鍵が外れる感覚があった。
「ふっ…………ざけるなっ!!」
唐突に私のあげた大声に、長官閣下の表情が驚きに染まる。
しかし私の行動はもはや自分でも抑えきれなくなっていた。
その勢いのまま私は、衝動に身を任せるように閣下の襟首をつかみあげる。
「尊敬する上官の下でずっと働きたいって言うのがそんなに悪い事なのか?」
「う……ぐっ…………」
「あんたらは知ってるのか?衰え続ける魔力と、自分の正義感の間で苦悩する少佐の姿を!!烈風丸なんて言う、反則技みたいな刀に頼ってまで戦場に居続けようとする少佐の苦悩を!」
長官閣下が苦しそうな声を上げる。
しかし、もはや胸の奥からあふれてくるような言葉の奔流はとどめようがなかった。
「あんたらは知ってんのか?いつも快活に笑い、隊員たちの事をだれよりも気にかけ、戦いになれば誰よりも勇敢に先陣を切る少佐、その少佐が日々どんな思いで危険な訓練をしているのか!」
「何が少佐の武勲は巨大すぎる、だ!なにが人事上の慣行だ!安全な司令部にいて人の足引っ張るしか能のない奴らに、少佐のことをとやかく言う資格なんてないんだよ!」
「…………もういい。あんたらが少佐をそう言う目でしか見られないならこんな軍、やめ―――」
「そこまでだ!!」
不意に後ろからかけられた声に、私ははっと我に返る。
振り返った先には坂本少佐の姿があった。
少し冷静になった頭で、自分のしでかしたことの重大さを理解するのにそれほど時間はかからなかった。
「も、申し訳ございません!」
慌てて長官をソファに寝かせ、まだ咳込んでいる長官の背中をさする。
「ドアの外まで聞こえていたぞ。じきに憲兵が来るだろう。とりあえず貴様はそれまで頭を冷やしていろ」
「…………は」
少佐の言葉に短く返事をすると、私は部屋の隅へと移動する。
私に背を向け、少佐は長官閣下に向けて頭を下げた。
「……閣下。申し訳ございません。我が従兵のしでかしたこと、幾重にもお詫び申し上げます」
「ああ」
ようやく一息ついた長官閣下がそう短く返事をする。
その表情は分からないが、激怒しているという様子でもない。
「誠に申し訳ございません。いかなる処分もお受けいたす所存でございます」
続けての私の謝罪の言葉に、長官閣下は黙ってうなずいた。
その時、ドアを小さくノックする音が聞こえる。
長官閣下は私たちを目で制すると、ノックに答えるように声を上げた。
「何だ」
「憲兵隊の者です。先ほどこの部屋からただならぬ怒声が聞こえたとの報告がございまして」
「…………そうか?ちと話に熱が入ってしまって年甲斐もなく大声を上げてしまった。すまなんだな」
「は?い、いえ……そうではなく…………」
「ただの話し合いだ。貴官らが気にすることではない。帰りたまえ」
「は、はぁ…………それでは、失礼いたします」
扉の向こうの人間は、釈然としない様子ながら去っていく足音が聞こえる。
その音が聞こえなくなるのを待ちかねたように、坂本少佐が長官閣下に声をかけた。
「長官閣下!どういうことです!」
「まぁ待ちたまえ」
坂本少佐の勢いを手で制すると、長官閣下は私に向き直った。
「土方兵曹。それほどまでに坂本のもとにいることが大事なのだな」
「…………は」
その視線を受け止め返すようにして、しっかりと頷く。
自分のしでかしたことに対していかなる弁解も、謝罪もしない。
そんなものは後からいくらでもできる。
ただいまは、自分の思いを正面から閣下に伝えること。それしかできない。
搦め手だの策略だのと言った迂路は、どうも自分の性には合いそうになかった。
…………その結果がこれ、ではあるが。
自分の短慮に嫌気がさす。
長官閣下はしばらく何事か考えておられたが再び私に正対し、告げた。
「ならば土方兵曹。貴官への罰を告げる」
「は」
理由はどうあれ、横須賀鎮守府の長官室で横須賀鎮守府長官閣下の襟首をつかみあげるという行為がどれほどのものか理解できないわけもない。
いかなる処分でも甘んじて受けるだけだ。
「先だって告げた、軍曹への昇進の沙汰を撤回するものとする」
「…………」
長官閣下が続いて告げた言葉。
その言葉の意味を理解するのに数十秒の時を必要とした。
やがてその言葉が持つ意味を理解した時、私は表情が緩まないように必死で表情筋を制御しつつ、長官閣下に敬礼する。
「は。了解いたしました」
「では、帰りたまえ」
「は。誠に申し訳ございませんでした」
必要以上に完璧な一礼を残し、少佐の後に続き長官室を出た。
「……土方」
数歩歩いて廊下を曲がったところで立ち止まった少佐が正面を向いたまま私に話しかけてくる。
「こういう時、どういう態度を取ればいいのだろうな」
少佐のその声には少しながらも喜色が感じられた。
「分かりません。自分の馬鹿な行為で昇進がフイになったのですから悲しむべきところなのでしょうが」
「はは、そうだな……この馬鹿者が、と鉄拳制裁の一つも見舞うべきところだろう」
「…………どうぞ、御存分に」
「はは、言うじゃないか」
そう言って少佐は私に向き直る。
「だが、まぁ、これからもよろしく、でよいのかな」
「…………は」
そう言葉を交わすと、私たちはどちらからともなく差し出された手を握り合った。
以上です。
かなり力技で終わらせましたw
これ以上だらだら続けるのも何だと思ったので。
早く本編に帰りたいw
それでは、年内は多分最後の投下となると思います。
皆様、良いお年を。
乙
土方くん優しい長官で良かったね
乙乙
こら、土方!
銃殺されてもおかしくなかったぞ!
乙ー
胸ぐら掴んだときはどうなるかと思ったらそう来たか
乙です
ようやく本線へ……長かった
???「まだかzoy?」
土方はあくまでも真面目な軍人の立場で軍人らしからぬウィッチに仕えているというのが魅力だと思うんだけどな
暴力沙汰起こしちゃったらウィッチと同じになっちまう
でもまあだからこそ怒ったおかげで上官が折れたとも言えるが…
皆様、明けましておめでとうございます。
今週末のうちに続きを上げるつもりでしたが少しお待ちください。
2~3日のうちにはあげますので。
それでは、今年もよろしくお願いいたします。
>>921
その点は私の能力不足です。
何とか穏便に決着させようと思ったのですが上手く話を収められずあのような力技に走ってしまいました。
違和感を感じた方もおられると思いますが申し訳ありません。
把握
そもそも長官室に一兵曹が呼ばれるわけも無し。軍とはある一面ではお役所だしさ。
で、当時の兵は遠くからでも佐官の姿を見かけたら直立不動で敬礼がデフォで、欠礼の報酬は鉄拳制裁だったし。
だから、武人たる土方としては、仮にこういう事をしたら自ら腹を切るという方向に考えが及ぶだろうし、坂本少佐はそれを危惧して土方の行動を注視するだろう。
ま、ストパン自体、軍隊をベースにしてるが軍隊の厳しさ(陰険さと言っても良い)を無視した仲良し物語になってるんで仕方のないところだけどね。
はははは、舞いながら待ってるさ
>>922 あの~……続きは……?(震え声)
すいません!
もう少しお待ちください!
>>924
まぁその辺はフィクションですよね。
少尉のルッキーニが中佐のミーナに普通にタメ口きいてる世界ですからw
階級が上の人殴っても特にお叱り受けたりしないしなw
了解
こんばんは。
遅くなって申し訳ありません。
今から投下させていただきます。
―――私は…………何ということを……
前を歩く少佐の後姿を見つめつつ私は後悔の気持ちでいっぱいであった。
とりあえず少佐の従兵を辞めずに済んだことへの喜びがひと段落すると、自分がしでかしてしまったことの重大さが改めて思い起こされてくる。
兵曹にすぎない自分が長官室で鎮守府長官閣下の襟首をつかみあげたのだ。
普通ならその場で免職を言い渡されても文句は言えない。
「……い!」
…………いや、私自身が罰を受けるならばまだよい。
しかし、私の不始末は勢い私の上司である坂本少佐の評価をも貶めてしまうことになる。
そんなことになってしまったら、私は何度腹を切って詫びたとて足りない。
「…………かた!」
頭に血が上ったとはいえ、私は何という事をしてしまったのであろうか。
今更ながらに私の思慮のなさに嫌悪感しか湧いてこない。
「聞いているのか馬鹿者!」
考えに沈む私の肩が不意につかまれる。
驚いて顔を上げた私の視界に怒った表情の坂本少佐の姿が入ってき
「も、申し訳ございません!」
「全く…………先ほどから何度も呼んでいるのに」
「…………」
沈黙してしまった私に、少佐は大きくため息をついてみせる。
「どうせ今更ながらに自分のしでかしたことの重大さにへこんでいるのだろう?」
「…………は」
「たわけ」
私の返答に対する少佐の返事はしかし、簡潔にしてにべもなかった。
「今更そのようなことを気にしてどうする。長官閣下のご好意を無にするつもりか?それに、言うまでもないが貴様ごときが責任などと考えるな。それは私と長官閣下、二人の人間の名誉に泥を塗る行為だと思え」
「は」
少佐の言葉に頷く。
その言葉に、私を苛んでいた罪悪感もいくらか薄らいでいくのを感じる。
「それに、だな…………」
そこで言葉を切ると、坂本少佐は少し恥ずかしそうに私から視線を逸らした。
「そ、その……わ、私も少し…………嬉しかったし、な」
「少佐…………」
「す、少しだけだ!勘違いするな馬鹿者が!」
そう言って前を向いて歩き出そうとする少佐。
「……ん?」
しかし、数歩歩いたところで少佐が不意に立ち止まる。
少佐の視線の先には、直立不動で敬礼したまま緊張したした面持ちで少佐に視線を送る一人の少女の姿があった。
……どうやらこの廊下で少佐を待っていたようだ。
少女はやや上ずった声で、少佐に話しかける。
「あ、あの…………」
「ん?貴様は……おお、服部か!」
「は、はい!覚えていて頂いて光栄です坂本教官!!」
頬を上気させながら少佐に話しかける少女の襟には、軍曹の階級章が光る。
この年でこの階級にあるという事は、この子もおそらくは…………
「どうやら無事にウィッチ養成課程を卒業できたようだな」
「はい!教官のおかげです!!」
「ははは、私は何もしていないぞ。すべて貴様の頑張りだ。よくやったな服部」
続く少佐と少女の会話により、私の推測は当たっていたことが証明された。
少佐の事を「教官」と呼んでいることからして、少佐が兵学校の教官をされていた頃の生徒であろうか。
そんな私の疑問に気づいた少佐が私に向き直り、少女を紹介して下さった。
「……おお、済まなかったな土方。彼女は服部静夏。私が兵学校に勤めていた時の生徒だ」
「土方圭助兵曹であります。少佐の従兵を務めさせていただいております」
「ああ……貴方が」
しかし、私の挨拶に対して服部軍曹が私に向けてきた視線はどこか余所余所しい、冷たいものであった。
「…………お噂は歳江より伺っております」
視線も合わせず、答えも最小限の物しか返さない。
軍曹とは完全に初対面で、好かれる要素も嫌われる要素もないように思えるのだが…………
唐突に訪れた沈黙を埋めるように、私は何とか言葉を紡ぎだした。
「そ、その……とし……土方軍曹殿とは同級ですか」
「ええ」
しかし帰ってきた答えはまたしても事務的なものであった。
「……服部?」
「どうしましたか教官?」
「い、いや……何でもないのだが」
少佐の呼びかけに対してはこれ以上ないほどの愛想のよさで答える服部軍曹。
坂本少佐もその温度差にやや戸惑っている様子である。
「それでは、坂本教官」
「あ…………ああ。達者でな、服部」
「はい!坂本少佐も欧州でのさらなるご活躍をお祈りしております!」
そう言って私に一瞥すらくれることなく、服部軍曹は去って行かれた。
その後姿に視線を送りながら、少佐も怪訝な表情を浮かべている。
「……服部とは初対面と言っていたな」
「は。歳江と同級とのことなので、噂程度は聞いていたかもしれませんが」
「ふむ…………しかし、訳もなくあのような態度をとるような奴ではないのだがな」
結局、この時の服部軍曹の謎の態度の理由が分かるにはまだ少しの時間を必要としたのである。
「お帰りなさいませ、旦那様」
山川さんの声に迎えられ、私は屋敷へと帰りついた。
私と坂本少佐の表情から、上手くいったことを察したのであろう、迎えて下さる方々の表情も明るい。
そんな皆様方に、私は鎮守府での顛末を手短に報告する。
「皆様、ご心配をおかけしましたが、何とかこのまま坂本少佐の従兵でいることができるようになりました。皆様のお骨折りには、何とお礼を申し上げてよいか……」
「ふぇー。まさか圭助様がそんなことをなさるなんて…………」
さすがの黒田中尉も些か呆れたような表情を浮かべていた。
「あ、あの…………お兄様大丈夫、なんでしょうか……何か懲罰とか…………」
「なに、相手がその気なら憲兵を追い返したりはするまい。しかし、なかなか思い切ったことをしたものよな……まぁ、妾は嫌いではないぞ、そう言うのは」
不安そうな歳江の言葉を、ウィトゲンシュタイン少佐が笑い飛ばす。
……少佐に新たなからかいのネタを与えてしまったようなのが気がかりではある。
「……圭助さん」
奥の部屋よりやってきた母が私に言葉をかける。
私の気持ちはどうあれ、私の行動は土方家と母の名に泥を塗ったことは間違いない。
私は母の前まで歩くと、深々と頭を下げた。
「……申し訳ありませんでした。理由はどうあれ土方家の名に傷をつけたことは事実です。いかなる処分であろうと受け入れる所存でございます」
そのまま、沈黙の数秒間が流れる。
やがて母の落ち着いた声が、沈黙を終わらせた。
「圭助さん、私は朝に申しあげました。私や土方家のことなど気にするな、と。…………それが全てです」
それだけ言うと母は再び私室へと引き上げていく。
そんな母の後姿に、私はもう一度深く頭を下げた。
その夜のこと。
昨日とは違った意味で眠れなかった私は再び自室を抜け出し、昨日坂本少佐と出会った庭へとやって来ていた。
……何の期待もしていなかった、と言えば嘘になる。
だから、庭にたたずむ人影を見かけた時は大きく心臓が跳ねた。
しかし、私の足音に気付き月光の下振り返った人影は、私の予想とは異なっていた。
「……あら」
「ペリーヌさんですか?」
私の姿を認めて少し驚いたような表情を浮かべているのは、まぎれもなくペリーヌ・クロステルマン中尉であった。
「こんな時間にどうされました?」
「そのお言葉、そっくりそのままお返しますわ」
私の疑問に、中尉は少し微笑みを浮かべながら答える。
その後、ふいに視線を中空に輝く月へと移して思い出すように話し出した。
「そう言えば、圭助さんとはこんな風にお話ししたことがございましたわね」
「…………そうでしたね」
「ふふ」
そう言って中尉は再び私に視線を向けてくる。
あれは501が歳結成された日の夜のこと。
少佐のお言葉を誤解した中尉によって、私は一度生死の境をさまよったことがある。
中尉もあの時のことを思い出したのか、きまり悪げに視線を外した。
「あ、あの時はその……申し訳ございませんでしたわね」
「い、いえ…………」
「今思い出しても顔から火が出る思いですわ……圭助さんがそのような方でないことは分かっておりましたのに」
そう言った後、中尉は少し表情を引き締める。
何度か逡巡するように視線をさまよわせた後、中尉は徐に切り出した。
「圭助さん……あの時お聞きしたこと…………今ならはっきりと答えが出ているのではありませんこと?」
「ペリーヌさん……」
それは私にとって半ば予期し、半ば予想外な質問であった。
あの時、中尉は私にこう尋ねられた。
―――貴方は坂本少佐の事、どうお思っていらっしゃいますの?
それに対し私は、お答えいたしかねます、と曖昧な言葉で逃げた。
少佐への気持ちが私自身不分明であったというのもあるが、答えてしまったら少佐と今までの関係を続けられないのではないという恐れもあった。
その時は中尉もそのあたりを察して下さったのか、それ以上の追及はせずに済ませて下さったのだが…………
ペリーヌさんは続ける。
「もちろん上官と従兵と言う立場でははっきりと言えないこともあるのは分かっております。ですが、そう言う曖昧な状態のままでよいわけではないこともご承知ください」
「は」
「…………そう怖いお顔をするものではないですわ。別に圭助さんを責めているわけではないのですから」
そう言ってペリーヌさんは微笑む。
……どうもよほどせっぱつまった表情をしていたようだ。
「結論をせかすつもりはありません。ただ、辛い気持ちをしている方がいるのも分かってあげてください…………ですわよね、そこの方」
「…………ひっ!」
不意に聞こえてきたその声は私の背後の茂みの中からであった。
振り返った私の視線には、泣きそうな表情で茂みの暗がりから出てくる山川さんの姿が映る。
「み、美千子?」
「あ、あの……申し訳ありません…………その」
「ずっとそこで聞いておられましたわね」
「え、えっと…………」
そう言って俯いてしまう。
山川さんの存在に気付いたうえで、中尉はあの話をしたのか。
縮こまる山川さんに、ペリーヌさんはしばらく視線を送っていたが、やがていきなり踵を返す。
「……では、私はこれで失礼いたしますわ」
そう言うと中尉は暗がりの中へ消えていこうとされる。
「あ、あの…………」
「こういったことに白黒はっきりつけるのは殿方のお役目ですわよ、圭助さん」
背後からかけた私の声に振り返りもせず、そう言い残すと中尉は闇の中へと去って行かれた。
「…………」
「…………」
残された私と山川さんの間で沈黙が降りる。
何とか声をかけようと口を開きかけた私の方に顔を向けると、山川さんは意外に落ち着いた声で告げた。
「あの、旦那さ…………圭助さん」
「はい」
「少し…………お話があります。お時間宜しいですか?」
そう告げる山川さんは私の目をまっすぐに見つめている。
鎮守府であの衝撃的な話を聞かされた日の夜。
まさにこの庭先で山川さんは私に言った。
私が一人で悩む姿を見ていられないと。
そのまま彼女は走り去ってしまったため話は中断してしまったが、あの時より彼女からこういう話があるのは予期していた。
だから、私は山川さんに向き直ると、小さく頷く。
「はい」
虫の声が、少し小さくなったような気がした。
……と言う所でここまでです。
皆様、明けましておめでとうございます、
このSSも始まってから2年以上が過ぎました。
まさかこんなに長く続けることができるとは。
これも、レスを下さる皆様のおかげと日々感謝しております。
それでは続きはまた来週に。
乙です
茂みの中がいい隠れ場所になってる(ーー;)
乙
もう2年以上もこのスレに張り付いているのか・・・
乙ー
そんなに長く見てたのか
????「大佐! 顔出してみな!一発で、眉間を打ち抜いてやる…」
すいません。
続きはもう少しお待ちください。
何………だと…………( ゚д゚)
把握
了解です。
こんにちはー。
お待たせして申し訳ありません。
続きです。
1スレ消費するのに1年以上かかるようなスレですが、気長にお付き合いいただければと思います。
虫の声だけが響く、月夜の庭。
こちらに背を向けた山川さんはその月光の中に2、3歩踏み出すと、私の方を振り返り、言った。
「……月が綺麗ですね」
「…………っ!」
思わず動揺する。
数十年前の、とある文豪がその言葉に込めた「もう一つの意味」を彼女は承知しているのだろうか。
…………いや、おそらくしているだろう。
私の動揺をどこかおかしそうに見ているその表情を見れば推測はつく。
その表情のまま、ふと私から視線をそらすように後ろを向くと、そのまま彼女は続けた。
「圭助さん……以前は助けて下さり、ありがとうございました」
「いえ、私はたいしたことは…………」
以前、とは山川さんと二人で買い物に出かけた時のことだろう。
正直、あの程度のことで何度も礼を言われるのは妙に居心地が悪いのだが……
そんな私の内心を知ってのことか、山川さんが小さく笑い声をあげる。
「ふふ…………あの時、本当に嬉しかったんですから。何度お礼を言っても足りません」
「……ま、まぁ、お助けできてよかったです」
「あの時から……私は、その…………圭助さんの事を……」
そこで再び訪れる沈黙。
そして再び山川さんの声が流れてきた。
「圭助さん……私は、貴方の事を…………お慕いしております」
いつの間にか彼女は私の方をじっと見つめていた。
それは、山川さんがずっと心に秘めてきた気持ちであろう。
山川さんは続ける。
「本当は言わないつもりでした。圭助さんのお気持ちが、どこにあるのか十分すぎるほどに分かっていますから。でも」
そこでいったん言葉を切る。
「圭助さんの昇進の話が出て、もしかしたら坂本少佐と離れることになるかも、って言われた時、私の心にまず浮かんだのは驚きと…………正直に申し上げますと少しの希望でした」
あの話を聞かされた日の夜、私に「無理をしないで下さい」と訴えていた山川さんの姿が蘇る。
「このまま圭助さんが坂本少佐と離れることになれば……圭助さんは私私の方を向いてくださるんじゃないか……そんな風に考えてしまう自分が嫌で、でもその気持ちをどうしても捨てられなくて……っ!」
そんな山川さんの必死の訴えに、虫の声はいつの間にか聞こえなくなっている。
「だから、ここですっきりしたいと思います。圭助さん……私の気持ちは先ほど申し上げた通りです。圭助さんのお気持ちをお聞かせください」
十秒程の沈黙ののち、私はゆっくりと口を開く。
「美千子のお気持ち、誠に嬉しく思います…………」
「はい」
私のその言葉に、山川さんは唇をかみ下を向く。
あるいはこの時点で私がこれから言う言葉も予想がついたのかもしれない。
「しかし、私には生涯をかけてお仕えすると決めた方がおります。今はあの方の背中をはるかに望むだけですが、いつかあの方の隣に立つことができれば、と願ってやまない方がおります」
敢えて固有名詞を言わず、私は言葉を続ける。
「ですから……美千子のお気持ちにはお答えできません」
謝罪の言葉は口にしない。
私の言葉に、何かをこらえるように体を震わせる山川さん。
しかし次の瞬間、彼女は顔を上げ、ほとんど叫ぶような調子で私に訴える。
「分かってます……だから、私は二番目でも…………いや、何番目だっていい!圭助さんのお気が向いた時に気まぐれに愛して下さるだけの都合のいい女だって……」
「美千子!!」
山川さんの言葉を遮る。
さすがにそんな言葉は看過できない。
「そのように自分を貶めるようなことを仰ってはいけません。美千子は非常に魅力的な女性です。きっと、私などよりも貴女を大事にしてくださる方が」
「そう言う事……言わないでください…………」
そう言って彼女は再び顔を伏せる。
その態度に、私は自分の失言に気付いた。
慌てて謝る。
「……すいません」
「…………はぁ。あの時はすごくかっこよかったのに」
謝罪の言葉は口にしない、などと格好をつけた数瞬後にこの体たらくである。
呆れたようにため息をつく山川さん。
私としては縮こまるしかない。
「でも、ありがとうございました。私の中で区切りをつけるにはもう少しかかりそうですけど、少し気分が楽になりました」
「は」
「先ほどの圭助さんのお言葉じゃないですけど、私もいい人を探すことにします」
そう言って小さく微笑んだ。
…………こういう時、やはり根本のところで男は女にはかなわないな、と思わされる。
「じゃ、失礼しますね。こんなところを他の方々に見られたらそれこそ大事ですから」
「はい。お休みなさいませ」
「お休みなさいませ」
そう言って小さく頭を下げると、山川さんは屋敷の方へと歩み去って行った。
あとに残された私は小さく息をつき、空を見上げる。
ウィトゲンシュタイン少佐の時もそうだったが、こういうのは何とも精神衛生上よくないこと甚だしい。
もっとも、当の女性からすれば振る立場のお前がぬけぬけと言うな、という気持ちであろうが。
「……この色男が」
背後から聞こえてきた声に振り返ると、ウィトゲンシュタイン少佐が立っておられた。
「聞いておられたのですか」
「勝手に聞こえて来ただけじゃ」
「……そうですか」
少佐は私のそばまで歩いてきた。
「まぁあの娘が貴様に懸想しておったのはすぐに分かったからの。別に意外でも何でもありゃせん」
「……そうですか」
「くく、そう警戒せずともよい。誰かに言いふらすような真似はせぬ」
私の表情が必要以上に固かったのだろう。
少佐はそう言って笑う。
「ま、妾も貴様に振られた者の一人じゃからな」
「…………」
何とも返答に困って沈黙する私を、少佐は面白そうに見る。
「そう考え込むな…………と貴様に言っても無駄かもしれんが、少なくとも妾はあの時貴様に求婚したことを後悔してはおらん。月並みな話だが時間が解決してくれるものじゃ」
「ありがとうございます」
「全く……自分を振った男を励ますことになるとはな」
「も、申し」
「謝るなと言うに」
少佐が私の頭を軽く小突く。
「ま、貴様はその程度でちょうど良いのやもしれぬな。気が済むまで落ち込んでおれ」
その言葉を残し、少佐は再び庭の方へと消えて行かれた。
私の身に何が起ころうと、それでも変わらず翌日の朝は来る。
「……えっと、あの」
「…………旦那様?どうされましたか?」
いつも通りに私の部屋に着替えを届けに来た山川さん。
何と声をかけていいか戸惑う私に、山川さんは笑顔で話しかけてくる。
まるで昨日のことなど何もなかったかのように。
……女性とはかくも逞しいものなのか。
もしかしたら内心では整理しきれないものがあるのかもしれないが、少なくともそれを表に出さないだけの自制心に、私は驚くと同時に若干の恐怖を覚えた。
「旦那様」
「は、はいっ!」
思わず声が上ずる。
「あの…………坂本少佐が朝食後に話があると」
「え……あ、そ、そうですか。ありがとうございます」
「はい……では失礼します」
私の慌てぶりにも何の反応も示さず、山川さんは部屋を出て行った。
「……失礼します」
「ああ、土方か。急にすまんな」
「いえ。それでどの様な…………」
朝食後の緑茶を飲む坂本少佐に尋ねる。
「軍令部から通達があった。そろそろ欧州の情勢もきな臭くなってきているようだ」
「……そ、それでは」
「うむ。おそらく数日のうちに辞令が出るだろう」
「それで……その」
一瞬言い淀んだ私の真意を察して下さったのか、少佐はいつも通りの豪快な笑い声をあげる。
「はっはっ。心配するな。ちゃんと貴様も連れて行ってやる。ここの美味い扶桑料理を味わえるのもあと一週間と言ったところか。それだけが残念と言えば残念だが」
「は」
その言葉に、私は表情が緩まないようにするのが精いっぱいであった。
少佐は続ける。
「それでだな、その前に行っておきたいところ……いや、会っておきたい方がいるのだ」
「会っておきたい方……ですか」
「うむ」
そう言って少佐は表情を引き締める。
「私の剣の師匠とも言ってよい方だ。北郷章香少佐の噂は聞いたことがあろう」
「ええ、少しは」
「扶桑事変」当時のウィッチであり、その能力は「軍神」と称されるほどであったとか。
その剣の腕は講道館免許皆伝を受けるほどであるとのことだ。
「私がウィッチを志すにあたって最もお世話になった方だ。今は一線を退いておられるが、剣の腕前は私などと比べるのも失礼なほどだ」
少佐がそこまでおっしゃる北郷少佐の剣の腕前とは……
少し興味が湧いてくる。
「そ、それでだな…………その、き、貴様も共に……」
「よろしいのですか?」
「き、貴様は私の従兵なのだ。どこに行くにも同行するべきであろう」
顔を少し赤くしながら少佐はそう言ってくださる。
ならば私に断る選択肢など存在しない。
「は。お供させていただきます」
しっかりと頷きながら私は応えたのであった。
と言う所でここまでです。
最後に北郷少佐出しましたが実は「零」読んでません。
申し訳ありません。
この2スレ目もそろそろ終わりですね。
何とも感慨深いです。
それでは。
乙です
乙乙
あと2回くらいは扶桑編かな?
もう時間的に2期原作10話ぐらいまで進んでいるのでは?
乙
いつも楽しみにしてます
待ちぼうけ~待ちぼうけ~♪ (´-`)
すいません。
仕事の方が忙しくなってきてました。
申し訳ありませんがもう少しお待ちください。
>>965
そこはあれですよ。ご都合主義的にロマーニャに帰るまで向こうの時間は停止してる感じで(笑)
把握
マイペースでも続いていれば嬉しいですよ~
そらミーナさんは土方が帰ってくるタイミングで199になるようキルカウント調整中ですよ
>>968 地球上でウラシマ効果……地球ェ……
……そして時は動き出す(ry
こんばんは。
お待たせして申し訳ありません。
やっと続きができましたので投下します。
横須賀鎮守府から北郷中佐のおられる舞鶴鎮守府まで、汽車で丸1日かかる行程である。
汽車のボックス席に向かい合って座る坂本少佐は、何か物思いにふけるように窓の外に目をやっている。
そんな少佐の思考を邪魔せぬよう、私も同じように窓の外に目をやってぼんやりと考えた。
北郷章香中佐。
講導館剣道の免許皆伝の腕を持ちながら、非常に頭脳明晰な方で空戦の戦術を多く編み出しておられ、「軍神」として今なお多くのウィッチに慕われているという。
坂本少佐たちも参加した「扶桑海事変」と呼ばれる超大型ネウロイとの戦いにより大怪我を負い、それからは一線を退いて舞鶴の「北郷部隊」の隊長をしているという話だが……
「土方」
「はっ」
不意に少佐から声を掛けられる。
何故か少佐は小さく微笑んでいた。
「貴様には多くの美点があるが、中でも沈黙すべき時に沈黙していられるというのは最大の美点だな」
「…………はぁ」
「そう硬くなるな。褒めているのだ」
そう言って少佐は軽く笑う。
そんな私の返事に構わず、少佐は話を続ける。
「今から会いに行く北郷中佐……先生は私にとっていくら感謝してもしきれぬ恩人なのだ。私が今、ウィッチを続けていられるのは、正直先生のおかげと言ってよい。いや、今の私があるのは、と言って良いかも知れない」
そこで少佐は私の方を向き、右目の眼帯を少しずらしてみせた。
「私のこの『魔眼』については知っているだろう?」
「は。ネウロイに『コア』が存在するのを最初に突き止めたのが少佐であると伺っております」
はるか遠くのものを見通せる超視力。
そしてネウロイの「コア」を見ることのできる透視力。
少佐による「コア」の発見により人間は初めて、大型のネウロイを撃退する手段を持ちえたと言われる。
先日エイラさんとサーニャさんにより撃退された、柱状のネウロイのコアの場所を発見したのは坂本少佐の魔眼であったのを思い出す。
私の返答に、少佐は照れたように顔を赤らめつつ頷いた。
「…………うむ。まぁ間違っていない」
「は」
「だが、先生の下で剣を学んでいた当時、私はまだ12歳。この魔眼の能力を完全には制御しきれないでいた」
少佐の従兵を務めて長いが、少佐が自分の過去のことを話して下さるのは珍しい。
12歳と言えば小学校を卒業したばかりの年齢だ。
その年齢では無理もないだろう。
少佐は話を続ける。
「そのことで当時の私は……何事にも自信が持てないでいた。せっかく先生が何度も、ウィッチとしての訓練を受けることを勧めて下さっていたのに、私はいつも曖昧に返事を濁していた。自分の眼すら制御できない自分がウィッチとしてやっていけるとは到底思えなかったからな」
「…………」
今の、自信にあふれた少佐の姿からは想像もできない。
私の驚いたような表情に、少佐は苦笑を返す。
「貴様は正直だな。……まぁいい。そんな風に思い悩んではぐずぐずとしていた私に、先生は言葉をかけて下さった。今でも一語一句間違えずに思い出せる」
そこで言葉を切り、少佐は視線を窓の外に向ける。
小さく息を吸って、まるで芝居の台詞でも語るように、少佐は語り出した。
「……『君の目は、きっと舞鶴(ここ)にいる誰よりも多くの存在を守れる。私はそう信じているんだ。……ほら、空はこんなに広いんだ。君が飛ぶ場所なんていくらでもあるさ』」
そう言って少佐は、昔を懐かしむように目を閉じる。
「その言葉と、その後に起こったちょっとした事件。それが私にウィッチの道に進むことを決心させてくれたのだ」
「……なるほど」
私は頷く。
今の少佐を形作っている強さ、そして何より「空を飛ぶこと」への強い執着。
その原点を垣間見た思いだ。
少佐は少し照れたように頬を掻く。
「……どうも柄にもなく熱が入ってしまったな。上司の昔語りなんぞ進んで聞きたいもんでもなかろう。すまんな」
そして少佐は、私の視線を避けるように再び窓の外へと視線を戻し、汽車が舞鶴に着くまで一言も発することはなかった。
それから数時間の後。
「こちらでお待ちください」
案内の女性兵士に連れられ、私は舞鶴鎮守府の談話室にやって来ていた。
現在、少佐は舞鶴鎮守府司令長官閣下の下へ挨拶に行っている。
談話室にはほかにも談笑する数人の兵士たちの姿があったが、私の方には一瞬視線をやっただけですぐに再び談笑へと戻る。
その空気に何とも言えない居心地の悪さを感じつつ、私は部屋の隅の椅子へと腰を下ろした。
敵地の真ん中で置き去りにされたような時間が十数分ほど(私には数時間にも感じられたが)過ぎたころ、入口の方から何者かが入ってくる気配と共に今まで談笑していた兵士たちが弾かれたように立ち上がる。
「き、北郷中佐殿!」
その言葉に、私も立ち上がって敬礼を送る。
振り向いた先には、車椅子に座った一人の女性士官の姿があった。
…………この方が北郷中佐か。
「軍神」と称されるほどの方にしては、この方の軍歴には今一つはっきりしないところが多い。
それは、中佐の最大の武勲と言われる扶桑海事変においても同様である。
あの事変において中佐がいかなる役割を果たし、どうしてこれほどの大怪我を負ったのか。
何故か、それが公的にに語られることはほとんどないと言ってよい。
事変をモチーフとした件の映画でも北郷中佐の出番はほとんどなかった。
そのことで、軍内部では眉唾物の噂なども飛び交っているが、実際に扶桑海事変に参戦された少佐はそのすべてに対し沈黙を貫いておられる。
ならば、少佐が進んで語られないものをこちらから無理に聞き出す趣味はない。
「…………ん?」
敬礼を返した中佐は、部屋の中を一通り見まわして見慣れぬ顔である私に気付いたのであろう、そのまま私の方に近づいて来た。
そのまま私に声をかける。
「君は……見ない顔だな。所属は?」
「横須賀鎮守府所属、土方圭助兵曹であります。現在坂本美緒少佐の従兵を務めさせていただいております」
「ああ!君が坂本の……」
私の自己紹介に、中佐は得心がいったというように手を打つ。
「坂本はもう着いているのか……?って君がここにいるんだから当たり前だな」
「はい。現在は司令長官閣下の下にご挨拶に伺っております」
「なるほどな。そうか…………ふむ、君があの……」
「中佐?」
私の名前を以前からご存じであったかのような言葉に、怪訝そうな表情になった私に気付いたのであろう。
北郷中佐は小さく笑うと言葉を続けた。
「いやなに、坂本が時折送ってくる手紙に、君のことが必ず書いてあってな。だから君のことも名前だけは知っていたんだ」
「はぁ」
「坂本が君のことを随分褒めていたぞ。かなり見込まれているようだな」
「…………きょ、恐縮です」
「ふむ……」
突然少佐からの褒め言葉を知らされ、妙な居心地の悪さを感じる私を、中佐は値踏みでもするかのようにじっくりと眺める。
「……中佐?」
「ああ、すまない。ずいぶん坂本には鍛えられているようだな」
そう言って中佐は剣を握って振る仕草をしてみせる。
「……は。まだまだその影すら踏めぬ身でありますが」
「謙遜はいいよ。手紙にそのこともあった。いつか君に追い越される日が来るだろう、その日が来るのが楽しみでもあり、少し寂しくもある、とね。私もこんな格好でなければ一度手合わせしてみたいものだ」
そう言って中佐は小さく笑う。
知らないところで少佐にそのように言われていたのか。
…………何とも微妙な気分だ。
「先生!」
ふいに背後からかけられた声に振り返る。
そこには坂本少佐がこちらに向けて駆け出さんばかりの勢いでやって来ていた。
坂本少佐の姿を認めた北郷中佐も笑顔になる。
「ああ、坂本……っと、今は少佐殿か。久しぶりだな」
「はい!先生もお元気そうで」
「まあ……何とかね。君の従兵君との話もなかなか楽しませてもらった」
「従兵…………ああ、土方か」
その言葉に、少佐は初めて私の存在に気付いたようで、慌てたように私に視線を向ける。
「…………居たのか貴様」
「は」
「はは、今まで忘れていたとはひどい上官もいたものだな」
「先生!」
中佐のからかうような言葉に、坂本少佐は拗ねたような表情になる。
…………こんな表情の少佐は初めて見た。
それほど北郷中佐に対し心を許している……と言うか甘えているという事なのだろう。
坂本少佐にとって、北郷中佐の存在がいかに大きなものか、それだけで理解できた気分だ。
「それじゃ、再会の感激も一区切りついたところで私の部屋に行こうか。土方君、君も来るだろう?」
「……よろしいのですか?」
「構わん。貴様にも先生のことを紹介しておきたかったといっただろう」
「は」
そう言うと坂本少佐は中佐の車いすを押し、部屋を出て行く。
私はそんなお二人から少し遅れて、談話室を後にした。
と言う所でここまでです。
北郷中佐の事を調べるためにアマゾンでストライクウィッチーズ零を買いました。
醇子ちゃんかわええ。
そして俺将、北郷少佐ではなく北郷中佐であったことに気付く痛恨のミス。
訂正してお詫びいたします。
まさかの3スレ目が見えてきましたね。
次話がこのスレでの最終話になるかと思います。
もしくはもうこのスレはここで埋めて次話は3スレ目で書いた方がいいんでしょうか。
まぁどちらにせよ来週あたりにまたお会いしましょう。
それでは。
乙です
乙
>>982 さっさと貼るのが得策かと
次スレを貼り損ねた例があるそうです
乙ー
どっちでもいいと思うけど、次スレは早めに立てたほうがいいと思う
SS速報復活やったー!!!
次スレも期待してます
お久しぶりです皆様。
3スレ目建てました。
こちらであと一話投下しようかとも思いましたが予想外に長くなったのでおさまらない可能性が出てきたため思い切って新スレに移動しました。
【ストパン】土方圭助の憂鬱 その3【土方×もっさん】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1393858031/)
それでは、よろしくです。
こちらは中途半端に残ったので安価でも取りますか。
もっさん一行がロマーニャに帰り「ミーナさん、尻圧でネウロイを倒す」の回開始前に安価ストーリー入れますw
安価ゾーンは>>1000まで。
ルールは今までと同じです。
対象はミーナさんじゅうきゅうさい、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、エイラさん、サーニャちゃん、ペリーヌさん、リーネちゃん、芳佳、もっさんの11名。
それでは。
新スレ乙です
サーニャ
もっさん
もっさん
もっさん
ハルトマン
バルクホルン
サーニャ
サーニャ
サーニャ
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません