響「寂しくなんかない」 (15)
「おはよー、ピヨ子…」
「あら、響ちゃん、おはよ…う?」
「どうかしたのか?」
「…響ちゃん、目が真っ赤じゃない」
「え?そ、そうか?」
「何かあったの?」
「な、何でも無いよ!それよりも、今日のスケジュールは?!」
「え?ええ…9時半から、ラジオの収録。その後、13時から今度の新曲シングルのジャケット撮影。18時か20時まで次のライブのレッスン…」
「…全部、自分一人なんだね」
「え?ええ。今日は響ちゃんだけね」
「そう…」
「…響ちゃん?」
「…な、何でも無いよ!じゃあ、行ってくるね!」
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「はぁ…また、1人なんだ…」
自分、我那覇響。
765プロって事務所でアイドルをやってるんだ!
最近、皆人気も凄いんだ。
でも…ちょっと、忙しすぎるかな。
プロデューサーに聞いたら、もう少しすれば落ち着くから、って言ってたけれど…
「…うん!自分一人でも大丈夫!なんたって自分は…」
完璧だから。
…完璧って、何なんだろうね。
「…ラジオの収録か」
うちの事務所は、プロデューサーと、律子と、ピヨ子がスタッフとしているだけで、だから全員の現場に絶対人が居る訳じゃない。
勿論、プロデューサーも律子も、あちこちの現場を回ってくれているけど…
「我那覇さん、お疲れ様でした。今日も完璧ですね!」
「ありがとうございました!」
「そうそう、君の所のプロデューサーさんにはもう伝えてあるんだけど、この番組、来季でリニューアルなんだけど、続けてメインパーソナリティやって貰うからね」
「本当ですか?!」
「うん、正式な事はまた、追ってあると思うけど」
やった…!このラジオ、いろんな俳優さんや歌手の人とも共演できて、すっごい楽しかったんだ!
「まあ、我那覇さん、上も期待してるみたいだから、頑張ってくださいね」
「はい!」
ラジオ局を後にして、今度は新曲のスチール撮影。
秋らしい、ちょっと落ち着いた雰囲気の曲だから、衣装もそれに合わせてシックな感じだね。
「ん?どうしたの響ちゃん、ちょっと表情暗いよ」
「あ、ご、ごめんなさい」
「ん~良いよ?そうそう、その顔、その顔!」
(…来ないなぁ)
スタジオの出入り口に目を向けても、プロデューサーも律子も来る気配はない。
(…やっぱり、1人か…)
皆、自分の事をきっと、元気で、明るくて、そんな感じの印象なのかな?
でも、ホントは…
スチール撮影も終わって、次のライブのレッスン場に向かう。
いつも通いなれた、ダンススタジオだ。
「あら?今日は響ちゃんだけなの?」
「はい、他の皆は予定が…」
「ふぅん…皆、個人個人のダンスは良いんだけど、全員合わせをしてないからなぁ。どこかでプロデューサー君に予定入れて貰わなきゃ」
そういえば、昔は皆でここに来てたのに、いつのまにか2、3人ずつしか来なくなって、今日はこうして1人だけ。
全員で踊ったのは、冬ライブ以来かな…
「じゃあ、響ちゃん、今日はキラメキラリを行こうか」
「はいっ」
「はい、お疲れ様響ちゃん」
「ありがとうございました」
「流石は響ちゃんねぇ、ダンス自体は全く問題無さそう」
「ダンス自体は?」
「…表情、暗いわよ。何かあったの?」
「え?」
壁の鏡を見ると、確かに…
「そんな顔じゃ、ライブに出れないわよ、ま、何か思いつめてるなら、吐き出しちゃうのも手だと思うわ、それじゃ、お疲れさま」
ダンスレッスンの先生の言葉が、妙に引っかかる。
自分、別に思いつめてることなんて、無いのに…
でも…何でだろう、なんでこんな顔を自分はしてるんだろう。
分かんない…
「…帰ろう」
「…自分は」
弱音なんか、吐かない。
そう決めたんだ…
自分の家のマンションの扉を開くと、玄関ではハム蔵達が待ってた。
「ただいま」
「ヂュヂュイッ」
「はいはい、晩御飯でしょ、分かったから」
ハム蔵達のご飯を用意してから、今度は自分の晩御飯。
今日はソーミンチャンプルーとお味噌汁。
…アンマーから、教えてもらったんだ。
家のご飯の味を思い出せるのは、嬉しいのと寂しいのと半分くらい。
「…」
テレビをつけると、丁度あずさささんと貴音が一緒にやってるバラエティ『あず散歩』がやってた。
「…え?!沖縄に行くのか?!…ってあずささん、流石だね、北海道に行っちゃってるよ」
沖縄か…
「…あんまー…にぃに…」
伏せてある写真立て。
思わず手が出そうになるのを、堪えた。
「…寂しくなんか」
…寂しいよ。
皆と一緒に仕事できる時は勿論すごく楽しい。
ハム蔵達も居て、家も賑やかだし…
でも…
今は、みんな忙しすぎて…
「…」
あれ?インターホンがなってる?
「?」
こんな時間に…誰だろう…
「…誰…?」
『響ー!俺だ、居ないのか?』
プロデューサー?
「な…どうしたの?」
「いや、な。近くに寄ったから」
「…嘘だ」
プロデューサーの今日の仕事の予定は、自分の家の近くなんかに来る訳が無い筈だった。
「…どうした、の?」
「どうしたもこうしたもあるか。小鳥さんから、響の様子が変だって」
「え?」
「…泣いてた、って」
「じ、自分泣いてなんかない!」
「…嘘はいけないな、響」
プロデューサーの声に、何だか無性に腹が立った。
何でだろう…違う、そうじゃない。
「嘘なんてついてない!」
「いいや、嘘だな」
「嘘じゃないもん!」
「響」
「じぶっ、嘘なんか…嘘…」
「…俺じゃ、力不足か?」
「え?」
「俺じゃ、響の力になれないか…?」
「プロデューサー…」
「…もっと甘えて欲しいんだ」
「…」
プロデューサーの優しげな声が、懐かしく感じた。
「…」
「なあ、響…」
「…うっ…うわぁぁぁぁぁぁん!」
思わず、プロデューサーに抱きついた。
温かい、ごつごつした感触。
「寂しかった…いっつも皆で話したり励ましながら仕事をしてたのに、今はみんなバラバラで…!」
「…ごめんな。俺が気付いてやれなかったばかりに…ごめんな」
「そうだよ!」
「…うん」
「…プロデューサーとも話せないし!」
「…うん」
「…っていうか…だから…その…」
勢いで言ってしまって、気づいた。
これじゃまるで…
「べ、別にその…自分…プロデューサーのこと…」
「俺は、響の事が好きだよ」
「へ?」
「…俺は、響の事が大好きだ」
「…え?!」
ど、どういう事…って、そういう事…?!
「ど、どうしたんだ」
「…プロデューサー、その…好きって、その…自分の事、が?」
「あたりまえだ!」
「じ、自分、こんなんだぞ?」
「何がだ!背が小っちゃいのにおっぱい大きくて、強がりの癖に寂しがり屋で、料理も編み物も上手で、歌もダンスも演技も上手くて!そんな響が俺は大好きなんだよ!」
「~?!」
「お前の事を、支えてやりたい、力になってやりたい…でも、響が悲しんだり寂しがっている、そんなときに俺は何もしてやれなかった…そんな自分に腹が立つ!」
「プロデューサー…」
「だから、その…えーと…」
何で、こうして最後の最後で…
「…ここは、きっちりと決めて欲しいよね」
「…何て言ったらいいんだか…その」
「自分、その…」
「…俺は、言ったぞ」
「…その…じぶ…私…プロデューサーの事…」
「…」
「う…うがーっ!?恥ずかしいよぉぉぉぉっ!」
「な、何でだよ!俺は言ったじゃん!」
「ううう…!」
「…なあ、響、お前の気持ち、聞きたいな」
ここまで追い詰めておいて…!
意地悪なプロデューサーだ!
「…うう…プロデューサー……かなさんどー」
言った?!言っちゃったぞ自分?!
「かなさんどー…愛してま」
「駄目!ここで言わないで!」
「何でだよ!」
「恥ずかしいじゃん!」
「俺の方がよっぽど恥ずかしい!」
「それは、その、プロデューサーが悪いじゃん!」
「何だと!この!」
「ぎゃーっ!今胸触ったな!この変態!」
「おー変態だぞ!何なら撫でたる揉んだるぐりぐりしたる」
「いやぁっ!調子に乗るなーっ!」
「いでででで」
もう…ホントこのプロデューサー…
でも、嫌いじゃない…っていうかその…好き、なんだ。
「…まあ、響…その、なんだ…俺も、響のこと、かなさんどー」
「……うん…!」
そう、自分は、一人ぼっちじゃない。
プロデューサーや、皆が居るんだ…
…うん、自分、まだまだ行けるぞ!
「プロデューサー!」
「ん?」
「自分、もっともっと頑張るから…ずっと、見ててね」
「…ああ、見てるよ、お前の、一番近くでな」
「…ふふふっ…なんたって自分、完璧だからな!」
終
はいさい、お粗末さまでした。
ちょっとフライングだけど、響、お誕生日おめでとう!
ちなみに響のおっぱいは、「ある」派です。
寂しがりやなひびきんもいいよね!
乙乙
響、かなさんどー。
乙ピヨ!
おつー
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