男「勇者…ねぇ」 (79)


店主「お兄さん酔い過ぎじゃないか?」

男「金は払ってるぜ」

店主「そうだけど…倒れられても困るし」

男「…それはすまない……もう一杯」

店主「話聞いてた?」

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男「わかったわかった…帰るよ」

店主「気をつけろよ~、最近は魔物が多いからな」

男「街中にいるかよ」ヘラヘラ

店主「何言ってんだよ…魔王が復活して魔物が人里に入るようになったんだ、うちだって例外じゃないぜ」

男「…へぇ」

店主「ま、ここらはメタルスライム位だから危険視されてないがな」

男「ん~…忠告あんがとよ~」ヒック

カランコロンロン


店主「…あ、お代……!」


━━━

男「…魔物か~」

スライム「キィ~!」

男「あ?」キッ

スライム「ンギッ?!」

男「……なんだスライムか」

スライム「…」モニュン

男「すーぱーーーー」

スライム「?」

男「シュートッ!」スッ!

スライム「ンキィ?!」

 スライムはボールが如く蹴られ跡形もなく散った。


男「魔物の忠告は本物…てことは魔王もか」

男「……俺には関係ない、俺はしらん」

━━━
  ━━━

王「魔王が復活したのは知っているな?」

少女「はい」

王「なら話は早い、これから貴様には魔王討伐を命ずる。承諾しない場合は死刑とする」

少女「な!?」

王「文句が?」

 鋭い眼差しが少女を見下すように、死んだ虫を何も思わないで見ているような目つきで。

少女「…ッ…いえ、この身朽ち果てようとその命、果たさせていただきます」

 下唇を噛み千切るほどに噛みながら少女は膝をつき、傅いた。

王「よろしい、では大臣」


大臣「ここに」

王「うむ、娘よ、この装備をやろう…貴様じゃ一生かかっても手に入れれないような一級品ぞ」

 そう言うと大臣は台に乗っかった全てが金でできている鎧や兜、剣一式を
 少女の前に差し出した。

女「…(こんな飾の装備を渡されてもな)ありがたく」

 それから少女は装備を持ち帰り、その日はベッドでぐっすり眠った。
 まぶしい鎧はすぐに売ってお金にした。


━翌朝━━

少女「やっべ、もう昼じゃん」

 コンコン、とドアが叩かれる。

少女「家はトイレじゃないから、トイレと間違ってないならノックをやりなおしてください」

 少し間が開き再びコンコンコン、とドアがノックされ、少女はドアを開ける。

少女「今日はどのような御用で?」

 少女はドアを開け、相手を見た瞬間、自分が昨夜王に命ずられた事をおもいだした。

兵士「貴方には今日中にこの街から旅立つように、と」

少女「あー…わかりました…」


 腰には刀、服装は動きやすいジャージの短パンに長袖のジャージ。

兵士「……本当にそれで旅に?」

少女「金ならある…そしてジャージをなめるな?」

 腰の刀を見せつけ脅す。少しだけ鞘から抜いて光らせている。

少女「んじゃ…仲間は?」

兵士「わが国には有望な魔法士などがいない、とのことで…別の街で探せとのこと」

少女「はぁ?!ふざけるな!私は回復専門の見た目だけ戦士なんですよ!」

兵士「そういわれましても…」オロオロ

少女「…はぁ…マジカヨ」


少女「いいよ…もう」

兵士「隣の街までなら私もついて━━」

少女「いや、いい…君弱そうだ」

兵士「少なくとも貴方よりは」

少女「…そう、でもいい」

兵士「そ、そうですか」

少女「ま、なんとかなるっしょ、魔法も使えるし」

兵士(この人なんで勇者に選ばれたんだろ)


━━━
 ━━━
少し前、

男「ん~…さって」

男「今日も今日とて平和な日常の始まり!はりきって行こう!酒場へ!」

スライム「キッキ!」

男「またか」

キングスライム「ンッフ」ポヨヨン

男「…頭連れてきたか」

キングスライム「フフン!」

 キングスライムは雷を放った。
 キングスライムはバラバラに砕け散った。 

男「何がしたい」

スライム「キィィィイ?!」
 
 スライムはものすごい勢いで去って行った。

男「だから…何が…」


街中

男「ん~…なんでだろ」

 男が街に着くと街はすっかり焦げた人間と黒ずんだ煉瓦しかなかった。

男「……」

 辺りを観察し、男はすぐさま自分の家に戻った。

━━━

男「…これは夢、これは夢………寝る!」

 布団が温い。

男「…?!」

 男はすぐさま布団から出て部屋に飾ってある二丁の拳銃を手に取り家から脱出した。


男(俺が家から出て街に行き、帰るまで約1時間。布団があったかいはずがねぇ)

 瞬間、男は後ろに気配を感じ、振り向いた。

男「!?」

 そこには燃える我が家があった。

男「…わお」

男「なんてこった」

 ペタ、と男の足元に何かが落ちてきた。

男「…手紙?」


 ━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━
 
  親愛なる男様へ
   

  この度は手荒な真似をして申し訳ない。
  そう心から思い、お詫びの手紙を送らせていただく

  そこで、貴方の住む家が街が失われて今
  貴方は何処へ行きますか?
  行く当てがないのなら私の所へ復讐にでも
  来てくださって結構ですよ?

  私も折り入って話したいことがあります。
  場所はわかりますよね?男さん(笑)

         貴方の知らないあなたを知る魔王より
 ━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━

男「うざ」


男「うっぜキモイなにこれうわぁ……」

男「…まぁ、この恩は返さないとね…俺の秘蔵の美酒&フィギュアを燃やした野郎を殴りに」

男「場所か……魔王城(?)か」

 ━━━
  ━━━
少女「んじゃね」

兵士「あ、そうそう、今朝入ったばかりのニュースなんですが」

少女「ん?」

兵士「この西の国の東側にある街が一夜にして全焼したらしいので、気を付けて」

少女「あ、はい…では」スタスタ

兵士「……これでいいんですかね」


今日は終り。

ちんこ

乙期待支援

これは期待するしかない
少女がいい 好き

様子見


男「とは言っても何の装備もないぞ、この飾りに使っていた銃だけ」

男「…頼りたくねぇが商人の所いくしかないのか」

男「金足りるかな…」
 
 手に持った銃を眺めながら燃え尽きた後の街を歩いていく。



 国を出た少女はしばらく歩いて何もない草原を強い日の光を浴びながら歩いていた。
 
少女「にしても、半ば追い出される形で街…と言うか国を出てきたんだけど」

少女「これからどうしようかな~」

 両手を上げ、大きく息を吸い深呼吸。
 勢いよく両手を振り下ろし、深く吸った息を吐きだし、
 そして一気に草原を駆け抜ける。

少女「スピードアーム・エンチェント!」

 体に淡い青のオーラが纏うと同時に少女は勢いよく走り抜けていく。
 スライムが目の前に現れた、が、少女の勢いにやられ粉砕した。
 少女のレベルが1上がった。


 草原を走り駆けていく少女は一つの街を見つけて街の中に入って行った。

 少女「ふう…久々に走った」
 
 額に光る汗を袖で拭い、手を団扇の様に振り少しでも風を浴びよとする。
 風は微々たるものだが少女は笑顔で街中を歩いている。
 すると一人の女性が少女を見て「おや」とわざとらしく、少女にわかるように大きな声で
 反応した。
 少女は当然その声に反応し、仰いでいた手を止め女性の方へと目線を移した。

?「君、この街の娘じゃないね」

少女「え、えぇ…隣の国から来たものです…が」

?「なるほど…そうかそうか」

少女「?」


?「一つ忠告だ」

 女性は右の人差し指を立て、座っている椅子から落ちない程度に身を乗り出す。

?「この街には悪い大人がいっぱいだ…気を付けないよ」

 ニコ、と笑みを浮かべ椅子から立ち上がり少女の前に立つ。

?「てことで私がこの街を案内してあげよう…お嬢ちゃんかわいいからね」

少女「ど、どうも…(なんか勝手に決められちゃったよ)」


少女「あ、あの…お姉さんの名前は…?」

?「ん?あぁ…ごめんごめん」
 
 女性は一瞬頭の上に(?)でも浮かんだ表情を見せた後で自分が名乗っていないことに気づき
 笑いながら謝り名乗った。

商人「私は商人さ!ここらでは少しばかり名が通ってるんだよ、よろしくね少女ちゃん」

少女「はい…よろしく」

商人「さ、いつまでもここで立っているのは通行の邪魔だしつまらないから行こうか」

 女性は少女の肩をつかみ愉快に鼻歌を歌いながら途中、お勧めの店の紹介などをしてくれた。
 少女はすこしづつ打ち解けていき自分から質問するようになった。
 そんなこんなで一日があっという間に過ぎ、今日はは女性の家に泊まらせてもらった。

 
 …ガ……ンナ…テ……

少女「…ん……」

 ふと少女が目を覚ますと、リビングから商人の声が聞こえてきた。
 その声は少し恐怖が混ざっていて、自分にも何かが伝わってくる声。
 少女は本能的にその言葉を聞き続けてはいけないと思い、再び眠りについた。

━━━━ 
  ━━━

男「はぁ…はぁ…」

 息を上げ、夜の街中を魔物と追いかけっこしている。
 
男「なんだよ一体…俺が何をしたってのさ」

男「スライムならまだしもなんでドラゴンの子供とゴーレムいるの?!こんなおもちゃ銃で勝てるか!」

 そう言って銃を思い切り投げつける。投げられた銃は壁に当たり「カンッ」と音を上げる。

男「しまっ!」

 声のボリュームを殺していた男もここで自分がやったことに気付いた。
 今の音に気付いた魔物は音のした方向、男の方へとゆっくりと歩み寄る。

男「ひえ~~」


子ドラゴン「……ニンゲン…クウ……グォォオオオオ!!!」

 壁一枚挟んでドラゴンが耳を割るような轟音を上げる。

男「っ!!…こうなったら…やりたくないけど」

 男は左手をパーに、右手をグーにして、左手のひらと右の親指と人差し指を
 くっつけるようにして構える。

男「魔力を集中…集中……エロいことは考えるな、命の危機だ…」

男「…我が左手は鞘、我が右手は剣………!」カッ


翌朝

少女「おはよう…ございます」
 
 目をこすりながらエプロン姿の商人に挨拶を述べ椅子に腰をゆっくりと落とす。

商人「おはよう…まってね今ごはんできるから」

少女「なんか…お世話になって申し訳ありません」

商人「いいよ~そんなのわ、こちとら好きでやってるんだ」

少女「…ありがとうございます」

商人「それでいいそれでいい、子供は素直に大人に甘えな」

 両手に皿を持ち、笑いながら少女の前に右手に持った皿を差し出す

商人「朝から重いかな?」

 苦笑いを浮かべ「いつも私はこうでね」と言って自分も席に着き「いただきます」と手を合わせて
 ペペロンチーノを食べ始めた。

商人「このベーコンはリンゴの木で燻製されててね、朝の重たい体を少しはさっぱりさせてくれるさ」

少女「いただきます……」

 フォークを手に取りパスタを巻き、口へと運ぶ。

少女「…おいし」

 目を見開き二口、三口とどんどん食べ続け、完食。

少女「ごちそうさまでした…!」

 まだ名残惜しそうに皿を眺めながら少女はお皿を手に取りシンクに片づけた。

商人「おそまつさまです」


商人「…さて、今日はどうする?」

少女「え、お仕事は?」

商人「私は基本自由営業、金には困ってないし、商売は週に一回やるかやらないかさ」

 少しむかつくドヤ顔を見せつけながら自慢げに話す。
 簡潔に言えば暇人なので少女を連れまわして遊びたい、との事だ。
 「まったく自由にもほどがある」、と少女は思いはしたが口には出さなかった。

商人「…それに、今はそんな気分じゃなくてね」

 少し肩をおろし、作り笑いを見せ少女と自分の皿を洗っている。


コンコンコンコン

商人「ん?…まだ営業時間じゃないんだけどな」

少女「?」

 少女は商人の言葉に疑問を感じていた。

商人「あぁ、私は自営業なのはもうわかったと思うけど。ここは我が家兼店なんだ」

 少女は辺りを見回したが商品らしきものは何一つ無い。

商人「ここは裏口、店としてはね」

 少女が口に出さなくても商人はわかったかのように答える。

少女(商売には結構大事なスキルなのかな…私もやりたい)


商人「はいはいはい…なんですか~」

「おれだ」

 ドア越しの声は少し若い男性の声。

商人「……!」

 その声を聴いた瞬間、ドアノブに手をかけようとしていた商人の手が、動きがすべて止まった。

「頼みがある…開けてくれ」

商人「今日は店は開けない!……帰ってくれ」

 怯えた顔で男を一生懸命帰そうとする。

「…頼む、お前だけなんだ」

商人「うるさい!…帰れ…私はもうお前の願いはきかない!……そうきめたんだ」

 先程までドアノブをつかもうとしていた手は強く握られていた。


 ドアの先の男と商人はだまったまま

商人「……何の用だ」

「聞いてくれるのか」

商人「あぁ…だが聞くだけだ」

「……昔の剣を…剣だけでいい、俺に預けてくれ」

商人「預けるってのはな、必ず返しに来ることを前提に言うんだ……守れないのに言わないでくれ」

 商人の目から涙が一滴、零れ落ち、床に後を残す。


少女「……(蚊帳の外って…この事か)」


商人「……なぁ…剣を持ってどこにいくんだ?」

「お前も知ってるだろ」

商人「……またいくのか」

「…あぁ」

商人「…みんな死んだんだぞ…今回は前より強いかもしれない」

「あぁ」

商人「それでもか…?」

「決めたことは決めた…揺るがない」

商人「…わかった……なら言うよ」

「?」

少女(言う?何を?……まさか……告白?!)


少女(おっと…これは私が見届け。いや、聞き届けてあげなくては)

 少女は耳を文字通り、商人の方へ傾けた。

商人「剣……売っちゃいました!」

男「はぁ?!」

 男はドアを無断であけ、部屋に入ってきた。
 商人は驚き一歩後ずさりした。

男「おま……はぁ?!」

商人「スイマセンスイマセン!大天使の加護が付いた剣なんて…そうないし…高く売れるって知って」

男「そうもないじゃなくて世界に一本だよ!」

商人「ご~め~ん~~~」

 へらへら笑いながら謝る演技を必死でしようとしてる。

少女(………何の話…告白は?)

男「……ん?」

少女「あ…」

 少女と男の、目が合った。

商人「目と目が逢う~そんなs」

男「…」
  
 男に睨まれ商人は硬直した。


男「……どうするの?魔王倒せないよ?」

少女「…え」

男「ん?」

少女「あ、いえ……なんでも」

商人「……そうだ勇者!」

少女「はい」

男「…え?」

少女「え?」

男「……あ、…いや……え?」


商人「あ、ごめんね、前・勇者!」

男「『前』?!」

商人「そう、この少女ちゃんこそ現・勇者なのです」

男「…は?」

少女「は…はい?」

━━━ 
  ━━━

商人は言った「この男は前の魔王を倒した勇者だと」
商人は言った「この少女は今回魔王を倒すように命を受けた勇者だと」
そして二人が今、出会った…と。

男「…説明しろ。なぜその少女が今ここに居るのかを」

少女「ゴメンナサイ」

 少女は小さく謝った。

商人「あ、あれは二日目の夜、緊急の手紙をもらった」

男「誰から」

商人「そ、それは私の商売にかかわることなんで…言えませんが」

男「で?」

商人「そ、その人からの連絡には西の国から勇者が生まれた…と」

男「…うまれた?」

 男は少女を横目で見た。


少女「…う、生まれた…と言うか……生まれさせられた…といいますか…私は民間人ですし」

男「…つまり王が『お前が魔王倒せ~』とか言って勝手に国から追い出される形でここに来たと」

商人「YES…で、その情報を知っていた私が、この子の保護をですね」

男「なぜ?」

商人「……わかるでしょ、この子を見て」

男「……」

少女「?」

 少女は二人に挟まれるような形で見られ、頬を少し赤らめる。

商人「魔力は弱いわ筋力は無い、何も考えていなさそうな普通の、年相応の子です」

商人「こんな子を、仲間も連れずに一人で魔王の下になんか行かせた時には」

 下を向き拳を握りしめる。

男「…賢者…戦士…みたいに…か?」

商人「っ!」

少女「……」


男「まぁ確かに、こんな餓鬼じゃ魔王の側近にすら勝てるか…だが」

少女「?!」

商人「?」

男「今回の魔王はたぶん、俺一人でも倒せる程度の奴だ」

商人「なぜそんなことを」

男「今の所、世界に起きている魔王の被害は直接的で間接的なものだ」

商人「…どういう?」

少女「?」

男「今は魔物が街に入り人を襲う。それはたぶん魔王が復活したとわかり調子に乗った魔物が
襲ってきているだけ。だが前回の、俺たちが倒した魔王の時は木は枯れ、水は枯渇寸前まで干からびた。」

商人「…難民続出の貧民時代」

男「それも全て魔王の魔力があふれて俺達人間界まで漏れ出たため…だが今回は木も水もなんら変わらん」

商人「たしかに…」

男「そんなこんなで…」

商人「……まさか」


男「少女ちゃん…だったかな?」

少女「は、はい」

 体を少女に向け、目線を合わせ話しかける。

男「これから俺とこいつ(商人)で魔王の所に行くが…くるか?」

商人「ちょーーーー!」

 両手を大きく広げ、大きな声を上げ、男と少女の間に割って入る。

商人「なんで私まで!?」

男「剣…持ってきたら俺一人で行くけど?」

商人「そんな…」

男「自分の悪行を恨むんだな」ハハ

 まったく笑ってない笑顔で商人の頭をポンポン、と叩いて、椅子から立ち上がり
 少女の前に立つ。

少女「……?」
 
 小首を傾げて男を見上げる。

男「……(かわいい)」

商人「…ロリコン」

男「ッ!…魔拳…!」

 拳を握ると同時に男の右腕全体を、強い光が覆う。

商人「ひえぇ!」

 光は商人を包み、しばらく商人は気絶したままだった。
 少女は商人を先程まで自分が寝ていたベッドまで運び、寝かせつけた。


少女「……」

男「死んでないぞ?」

少女「死んでたら大問題ですよ?」

男「そうだけど…加減はわかる男だ」

少女「気絶してるのに加減も何もないですよ」

男「…おっしゃる通りで……」

━━
 ━━

少女「お、男さん…」

男「ん?」

少女「その…魔王の話…」

男「あぁ…聞きたい?」

少女「いえ…そうではなく、一緒に行くと…」

男「あぁ…くるかい?」

少女「…いえ、私はこれでも学校では魔法だけは得意でした!…ですから」

男「…俺は止めないよ」

少女「はい…誘っていただきありがとうございました」ペコッ

男「仲間を集めるなら隣町のギルドに行くと良い、俺の名前出せば大体は聞き届けてくれるさ」

少女「はい」

男「じゃあ行きな、コイツがおきたら嫌でも一緒に行かせられるぞ」


少女「嫌だなんてそんな…!」

男「まぁまぁ、ほら、この銃やるよ」

少女「え、でも…」

男「俺は銃は苦手なの、旅の武運を祈るよ」

少女「…商人さんにごめんなさいと…お伝えください」

男「ん、わかったよ」

少女「…ありがとうございました!」

 少女は頭を下げ、笑顔で家を飛び出していった。片手に男の銃を持って。

男「…外で持ちながら走ったらまずいだろ」


男「…で、いつまで寝てる?」

商人「あと4分…」

男「そこは5分でいいだろ」

━━
 ━━

少女「はぁっはぁっはぁっはぁ!」
 
 街中を常人には不可能なスピードで駆け抜ける。
 街行く人々は少女が横を通ったことも分からず、ただ強風に襲われるだけ。
 
少女「ギルド…ギルド…!」

少女「!…あった」ザッ

 立ち止まると同時に、視線が少女に集まる。
 周りからは突然そこに現れた不思議な少女として認知され、ギルドに入ろうとしている
 甲冑姿の男性はただただ少女を見つめていた。嘗め回すような視線に少女は不快感は覚えなかった。

男性「…魔法使いか……残念だが我がギルドは派遣と力仕事の依頼専門で魔法士は受容性がないんだ」

 魔法を使ったことでギルドに入隊したいと思われてしまった。

少女「いえ…そうではなく」

男性「ん?あぁ、依頼かな?」

少女「いえ…どちらかと言えば派遣をしていただきたく」


男性「あぁ、その話なら中に入ってギルド長と話してくれるかな」

少女「は、はい」

━━━
 ━━━

少女「…ど、どうも」

ギル「どうも…ギルド長です…ギルさんって呼んでくれていいよ」

少女「は、はぁ…」

ギル「さて……派遣と言うのはどのような?」

少女「そ、その…ですね━━━━」


ギル「…君が勇者…ね」

 ギルド長は少女の言葉を半分信じて、半分ほど疑っている。
 態度は後者の方が色濃く出ていて、両手を顔の前で組み、顔を半分ほど隠している。
 そして目は少女の顔をずっと見てそらさない。
 少女はその眼光にも負けず見つめ返す。

ギル「………」

少女「………」

ギル「君何歳?」

少女「11です」

ギル「(11……まぁいい)…親は?」

少女「西の国の故郷に」

ギル「……ふむ」

 再び沈黙が起きる。
 二人の目はあったまま。


ギル「…俺…23」

少女「はい……え?あ、…はい」

ギル「……彼女募集中」

少女「へ?!」

 甲高い声が部屋の中を一瞬埋め尽くす。

ギル「……俺が仲間に━━」

 「バンッ」と勢いよく木製のドアが開けられ、木刀がギルド長の脳天を叩き付ける。

ギル「ゴハッ!」

 ばた、と机に上半身が倒れこんでくる。

少女「へ…えぇ?!」

 動けず、何が起こったかもわからずただ見ていた少女。
 ギルド長は3人のギルドメンバーと思われる男性たちに引きずられていった。


少女「………えぇ」

 その姿をただ見ていただけの少女に、ギルド長の頭に木刀を投げつけた女性がこちらをずっと見ていることに
 やっと気が付き、視線を移した。

騎士「やぁ、私は騎士、ロリコンギルド長を倒すために生まれてきた者だ」

 さわやかな笑顔に金色の背中の真ん中あたりまである髪が風にあおられ、きらきら光る錯覚を覚える。
 騎士は髪の毛を抑えながら少女に笑顔で「こわかったかだろ」と言いながら木刀を床に刺した。

少女「い、いえ!」

 「木刀をすんなり床に刺せるあなたが怖い!この床大理石だよ?!」と言う少女の心中はわかる筈もなく
 騎士は先程までギルド長が座っていた席に腰を下ろす。

少女「…あの私」

騎士「話は全部聞いている、と言うか聞いてた」

なかなか面白いスレをみつけた


騎士「君の場合派遣ではなく、冒険の共、仲間を探してるといったところだろう」

少女「は、はい」

騎士「残念だがこのギルドにはそのような腕利きはいなくてね」

少女「そ、そうですか…」

 うつむく少女に騎士は「だが宛はある」と言ってにっこり笑って見せた。
 その笑顔に少女は安堵し肩を下した。
 それと同時に懐にしまっていた男からもらった銃が「コト」と音を立て机の上に零れ落ちる。

少女「あ…」

騎士「……これは」

少女「これ…ですか?」

 銃を見て少し驚いた顔を見せた騎士はあわてて部屋を出て行った。


少女「私なんか置いてけぼりくらってばかりな気が…いや、気のせいじゃないか」

少女「にしても…男さんの銃をみただけであんな慌てて…そういえばギルド長さんだか誰だかに見せれば
いいよ、て言ってた気が」

 独り言を唱えていたらギルド長を担いできた騎士がギルド長の頬に往復ビンタを食らわせる。
 途中から起きて「痛い痛い」と悲痛な声を上げていたギルド長はしばらく殴られていた。
 
 声に気付いた騎士は漸く手を止め少女が持つ銃を指さし「これ!これみなさい!」と
 ギルド長の顔を無理やり曲げ、視線を銃へと移らせた。
 銃を見た途端ギルド長の顔は少し引き締まった(とは言っても殴られて晴れてるのが目立ち、引き締まったのは周りの空気だ)。

ギル「…これをどこで?」

 少女の目を見て真剣な眼差しで問う。

少女「男さんにもらいました」

 その問いに素直に、簡潔に返答する。


騎士「…これってあの人のだよね」

ギル「あぁ…間違いない」

 視線を合わせ二人でうなずき、騎士は部屋の外へ行きドアを閉めた。
 部屋には二人だけとなった。

ギル「……」

少女「……あ、あの」

 少女が沈黙に耐えられず声を上げた瞬間━━

ギル「け」
 
 ギルが言葉を発そうとした瞬間━━

『乾坤使用とかふざけたこと言ったら次は本物を飛ばす』

 ━━ドアの向こうからすべてを打ち消すドスの聞いた声で騎士が口撃を飛ばしてくる。

ギル「……こほん」

 わざとらしく拳を口元に持ってきて咳払いをした後、「派遣の話聞きうけた」
 そういってギルド長は一枚の紙を少女に手渡し、「ここへ行ってその銃を見せればいい」
 と付け加えて部屋を出て行った。
 少女はそのあとを付いて行き、騎士とギルド長に見送られ紙に書かれた住所へと歩き出す。


少女「何々…中央国……え」

 紙に書かれた住所を見て少女は歩いていた足を止めた。

少女「…ち、中央国…王都……国城…だと?!」

 その紙に書かれていた住所は国の、全部の国の頂点に立つ国の王が住まう城の住所。

少女「…えぇ」

少女「まじですか……私ジャージ姿だよ?」

 
少女「そんな恰好で城どころか、王都にすらいけないよ…ね」

少女「て、言うかここ西の国と中央の国の間の国だよ?また隣の町まで一人旅?」

少女「ふざけるなよ…仲間探しに一人旅って……そりゃないよ」

 そんなことを言っていると少女はふと気づいた。

少女「…もう一人で旅した方がいいんじゃないかな…」

 少女は空を見上げ不敵な笑みを浮かべ、街の出入り口向けて歩き出した。



━━
 ━━

 少女が出て行って少し。

男「…ふむ」

 男は商人の店で買い物をしていた。
 と、言うか剣を売ったお詫びに無料で買い物をさせろと脅した。
 商人は泣きながらそれを承諾した。

男「…これもいいな」

商人「そ、それは…この店で一番高い銃剣…!」

 商品を選ぶ男の姿をオロオロと、怖い物でも見るような目で
 じっと見ている。

男「…この店で一番…ねぇ」

商人「な、なんだその笑顔は……」

男「…なぁ、切れ味がいい剣…刀ないか?」

商人「刀…?」

男「そうそう」

商人「でも君は銃剣と盾で戦うスタイルの…」

男「昔はな…いいじゃん、新スタイル」

商人「…刀ならその裏の方に」



男「…お、これなんかいいんじゃ」

商人「それ?…それこないだよくわかんないおじいさんがここで売ってくれって置いてった」

男「…へぇ…この葉の輝き…刃紋…そこらの安物じゃないぞこれ…」

商人「そ、そうなの?…でもそれ鞘もないし…」

男「……これと、この刀くれ」

商人「二本?」

男「おう」

商人「あいよ…って、金払わないのに…」

男「いや、半額にしてくれるだけでいいよ」

商人「よし、合計1,2000¥です」

男「…ボッタだ!」


商人「刀は高いんだよ~」

男「うわぁ…ドヤ顔とかうぜぇ」

商人「どやぁ」キリッ

男「…斬るぞ」

 刀を商人の首筋ギリギリで止める。

商人「じ、冗談…だよ……ね?」

男「…さぁ」

商人「…1、0000¥」

男「…はい」

商人「まいど!」


男「…で?お前はどうする」

商人「いってやりたいけど…私もまだ生きていたいし」

男「そっか…」

商人「それに、みんなの帰る場所は残しておきたい」

 レジから離れ、自宅へつながるドアに手をかけて
 横顔だけをみせて笑顔で「だから…またね」と言って家に入って行った。

男「……あぁ」

男「…だからせめて鞘をおまけしてくれ」

商人『5000¥になります!』

男「っ!」

 その日店内からは女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえたとか無いとか。


 少女は草原に再び来ていた。

少女「…暑いな」

 今少女の目には水色が広がっていた。

少女「君たちもそう思わない?」

スライムA「ウキィ!」

スライムB「スキィ!」

スライムV「ムキィ!」

スライムD「WRYY!」

少女「……はぁ」

 今少女はスライムに囲まれていた。


少女「えっとなんだっけ」

スライム勢「フィィィィイイ!」

少女「天から落ちるは…えっと、怒りの鉄槌!……だったか?」

 頭をかきむしりながら必死に呪文を思い出そうとする。

少女「まぁいいや」

 そして唱えるため息を思い切り吸い込む。

少女「はぁー━━」

『天から落とされるは鬼の怒り!全てを無に返し、焼き払え!魔導『雷』の書第2節』

少女「そ、その声は…」

 若干声のトーンを落とし、声の下方向にを見るとそこには
 この暑さにもかかわらず、マントを着込みフードを深くかぶりこちらに手を差し伸べて
 ゆっくり歩いてくる人影。

少女「なんであんたがここに!」

「あら、そんなこと言ってていいのですか?防御魔法でも使わなきゃあなたも死にますよ」

少女「私が防御魔法苦手なの知ってるくせに!」


『全てを薙ぎ払え、雷神砲!』

 マントの人の手から一瞬光が発せられると同時に少女の周りのスライムは一掃された。

少女「……あんたねぇ!」

「あら、生きてましたか」

少女「『烈風』エンチェント、スピード!」

 少女が魔法名を唱えるとマントの人のマントが切り裂かれる

「へ?」

少女「…久しぶりねいじめっ子」

マリ「だ、だれがいじめっ子ですか!私にはちゃんとマリって名前が!」

少女「あ~そうかいそうかい、で、なんでこんなところにいるの?」


マリ「何でもいいでしょ!」

少女「…あ~なんでこんなところに銀髪ロリツインテールがいるんだろー迷子かなー」

 すべてを棒読みでわざとらしく挑発する少女の言葉にマリは見事に反応した。

マリ「だれがロリだ!これでも15だ!!」

少女「私より小さいくせして」

マリ「上等だ…その喧嘩かった」

少女「喧嘩?私はただ本当のことを言っただけだよ?」

マリ「て、てめぇ!」

少女「……はぁ、で?本当なんでここに居るの?マリちゃん」


マリ「……アンタが魔王倒しに一人で国で立って聞いたから…心配で」

 両手をお胸の前でくみ、指や体をクネクネとしながらうつむき返答、
 そして最後には幼女に、しかもかわいい子にやられてはイチコロされてしまう
 幼女の必殺『上目使い』で少女は完全に堕ちた。

少女「あんたいいこだよぉ!」

 語尾の発音が少しおかしくなったが、そんなことは気にせず
 マリに駆け寄り抱きしめた。

少女「一生面倒見るよ!私!」

マリ「私の方が年上なのだが?」

少女「そんなのどうでもいい!もうこの際性別もどうでもいいよ!」

マリ「それはよくないよ?!」

 ビクッと体を震わせながらも少女の問題発言に突っ込まずにはいられなかった。
 そしてその震えは身の危険を感じさせるものに変化していった。

今日は終わります

まだか



男「寒い」

午後8時位。男は国を離れ、見渡す限り草原、山、木、そして無数の小さな星の光がながめられる
湖の浜辺にテントを張り、焚火をともしその焚火に手をかざして一人つぶやいていた。

男「男一人でキャンプみたいなことして…寂しいな」

男「……いや、男一人とペット一匹でも悲しいな」

キツネ「我はペットではないぞ?」

月光と星の光に照らされて白く儚く光り輝く銀色の毛色をしたキツネが男の横で
男を見上げて口を動かさずしゃべりかけてくる。(正確には直接頭の中に声が聞こえてくる)

男「…せめて女の姿になれよ」

キツネ「あれ魔力の消費が激しくてな…我もあの姿で入れるのは二日が精一杯じゃ」

男「二日もあれば今この瞬間だけでもなれるだろ」

キツネ「面倒じゃ、察しろ」

男「こいつ……」


━━━

商人『あ、男』

男『ん?やっぱ一緒に行く?』

商人『いや、これ、連れてってよ、たぶん役に立つ』

幼女『……主よ、こやつは?』

商人『この人は私の……元友達』

男『まて、そこは元「仲間」だろ?!友達はまだ継続していいよな!』

商人『…これから私は稼ぎ時だから、この人にしばらく付いて行ってくれるかな?』

男『おぉう…無視か』

幼女『……ふん…たしかに、こやつはなかなか』

商人『よかったね、気に入ってもらえたみたいだ』

男『まず説明を求める』

商人『じゃ、お願いね……傷一つつけてみな、お前の命はないぞ』

━━━


男(的なことで無理やり押し付けられたから連れてきてるけど…完全に俺のこと格下と見てやがる)

男「……おい幼女」

ジャキッ、と一瞬にしてキツネのしっぽが大鎌に変わり
男の首裏のうなじぎりぎりで寸止めされる。

キツネ「……」

男「…魚食う?」

キツネ「いただこう」

何もなかったかのように尻尾は元踊りになり、起き上りすたすたと
焚火で某に刺され焼かれる魚にかぶりつく。


少女「マリちゃん」

わマリ「何よ」

少女「私思うんだ、魔法の詠唱ってめんどう」

マリ「ならしなければいいじゃない」

少女「確かにしなくても魔法は発動する。でもね魔法の洗練度、つまり威力や継続時間が落ちるのよ」

マリ「でも詠唱は無詠唱の倍の魔力を使うじゃない、そんなの非効率よ。それなら数撃った方がまだいいわ」

少女「そうだけど、どうせなら一度で済ませたいじゃない、量より速さよ」

マリ「速さより量よ」

少女「……まぁ、詠唱なしの魔法練習すればすべて済む話よね」

マリ「それよりさ」

少女「ん?」

マリ「あんまり抱きつかないでよ」

少女「だってかわ……コホン、だって空飛んでるから落ちたら危ないじゃない」

マリ「アンタ自分で飛びなさいよ」

 少女とマリは今、海を越えるため空を飛んでいた。


翌日━━

男は湖ではなく、海の前に立っていた。

男「…青いな」

キツネ「そりゃあ、海じゃしの」

男「…前までこんな海なかったのに」

キツネ「それはそうと、ここはどう渡るのだ?」

男「泳ぐ?」

キツネ「馬鹿申せ、泳ぐにしても途中で力尽きるわ」

男「なら飛ぶ?」

キツネ「論外、キツネが飛べるか」

男「……船?」

キツネ「辺りにそれらしきものはないがの」

男「…別の道行くか」

キツネ「その意見には賛成じゃ」

一人と一匹は海沿いの道を歩きながら、海じゃない道を探して歩き始めた


 ━━森・入口

男「ここからならいけるんじゃないか」

キツネ「山か…いいじゃろう」

男が親指でクイッ、と指した先は木が生い茂る森。そしてその奥には山が見える。
キツネは森ではなく、その先の山を見て行ったのだ。
が、男は「いや」と言ってもう一度、詳しく言い直した。

男「山まではいかない、この森の先にあるんだよ」

キツネ「何がじゃ?」

男「エルフの里」

キツネ「エルフ…とは、あの耳の長い種族か?」

男「そうだ、そこに知り合いがいてな、たぶん何か知ってるはずだ」

キツネ「知ってる…とは?」

男「まぁ、色々な」

キツネ「…そうか」

歯切れ悪そうに返事をして、何も言わずに森の中へと入って行った。
男はそのあとをゆっくり追いかけるように歩く。
キツネの歩幅は狭いので男は特に焦ることもなく姿を見逃さないように下を向いていると
木の枝に頭をぶつけ横転した。


 ━━森・入口

男「ここからならいけるんじゃないか」

キツネ「山か…いいじゃろう」

男が親指でクイッ、と指した先は木が生い茂る森。そしてその奥には山が見える。
キツネは森ではなく、その先の山を見て行ったのだ。
が、男は「いや」と言ってもう一度、詳しく言い直した。

男「山まではいかない、この森の先にあるんだよ」

キツネ「何がじゃ?」

男「エルフの里」

キツネ「エルフ…とは、あの耳の長い種族か?」

男「そうだ、そこに知り合いがいてな、たぶん何か知ってるはずだ」

キツネ「知ってる…とは?」

男「まぁ、色々な」

キツネ「…そうか」

歯切れ悪そうに返事をして、何も言わずに森の中へと入って行った。
男はそのあとをゆっくり追いかけるように歩く。
キツネの歩幅は狭いので男は特に焦ることもなく姿を見逃さないように下を向いていると
木の枝に頭をぶつけ横転した。


尻餅をつき、しばらく(と言っても物の2.3秒)の間にキツネの姿は消えていた。

男「…見失った」

男がキョロキョロと周りを見ていると、「ガサガサ」と上の方から音がすると同時に
数枚の葉っぱが落ちてきた。

男「ん?」

反射で上を向くと、そこには白髪が目立つポニーテールの弓を背中に抱えながら
木から木へ飛び移る一人の少女の姿があった。


男「……人狼…?!」

━━━

少女「そろそろ…かな」

空をすべるように飛んでいる少女達の前に陸が見えてきた。

マリ「みたいね」

ゆっくりと高度を下げ、着陸の準備をしだす。


そこに突如、突風が吹く。

少女「な…?!」

体制を崩し、バランスを保とうと魔法を操る意識が疎かになる。

マリ「馬鹿!こんなところで集中乱すんじゃ!」

時すでに遅し、少女の身体は一気に海面向け急降下しだす。

マリ「っ!」

向きを変え、少女めがけ加速の魔法を自身にかけ、少女に減速と上昇魔法を同時に掛ける。
少女の身体は急激な減速に━━減速と上昇が同時に行われたことで、徐々に落ちていくのではなく、その場で静止
したのと同等の効果が得られてしまった━━地面に叩き付けられるのと同等の負担がかかってしまい、意識が
朦朧としだす。

少女「あ……アァ……」

視界が歪みだす。


マリ「おぉおおお!!」

右手を少女に向け差し出し、左手で右の腕を支え魔法を発動させる。

マリ(時間よ…暫しの間我の支配下となれ!)

マリが唱えた魔法は時間を数秒止める能力。
時間が止まっている間、自分以外の生物、風、すべてが動かない。
何もかもが働かない時空間。ので、重力も関係ない。
マリは空中を歩き、少女の所へ行き、抱える。
それと同時に時間が再び動き出す。
その間僅か4秒。

マリ「よ、予想以上に…スタミナと集中力いるわね…」

肩で息をしながらも意識が途切れかけている少女に回復の魔法を掛ける。
が、そんなことをしたら余計にスタミナがなくなり自分が危うくなることを考えてはいなかった。


空中を降下し続ける二人。
マリは回復魔法を使った瞬間意識を失った。
それとほぼ同時に少女の意識がはっきりと戻り、状況を呑み込めていなかった。
起きた(?)ら女の子が自分に抱きついて寝ている(ように見えるが意識を失っている)のだ。
が、そんなことはきにせず少女は浮遊魔法を無詠唱で発動させた。
自分の身ともう一人の少女の身を一つの個体と認識して無駄なスタミナの消費を減らす為。
それを一瞬にして無意識に発動させた。

少女「た、たすかった…ね」

下を見ると先程はまだ小さな木などだったが、今は後2メートル程の距離に迫っていた。

少女「……ん?」

自分に抱きついているマリを見てようやく、彼女が気を失っていると認識した。


少女「……人間の三大欲求、食欲、性欲。……そして睡眠欲」

マリの額に手を当てて唱えだす。

少女「暫しの間…眠れ」

フワッ、とマリの髪の毛が風に煽られた様になびくと同時に硬直して、少女の胴に張り付いていた
腕が、スッ、と離れ、ブラン、とだらしなく垂れる。
少女は自分より年上だが、自分より体の小さいマリの身体を軽々と持ち上げ、おんぶの格好で
ゆっくりと着地する。

━━


今日は終り

乙乙

なんかおもしろい

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