サシャ「美味しいものは、分けあいましょう」(110)


・サシャ「無意味じゃありません!」の続きです

・いつもよりかなり長め


―― 消灯時間前 男子寮 エレンたちの部屋

ライナー「ただいま。……ん? お前一人か? ベルトルト」キョロキョロ

ベルトルト「おかえり、班長会議お疲れさま。――アルミンとエレンにはお願いして、少し外してもらったんだ」

ライナー「……」

ベルトルト「何の話かわかるよね、ライナー」

ライナー「……ああ、わかってるさ」

ベルトルト「サシャのこと、どうするつもりなの?」

ライナー「そうだな、ベルトルト。……お前にだけは、本当のところを話しておくか」

ベルトルト「ライナー……」





ライナー「あいつはいい嫁さんになるぞ」キリッ

ベルトルト「誰が君に惚気話しろって言ったんだよ」


ベルトルト「ちょっと待ってよ、なんでいきなりそんな話になってるのさ。なんか色々すっ飛ばしてない?」

ライナー「結婚したい」キリッ

ベルトルト「だから早いって」

ライナー「早いわけあるか。――いいか? よーく考えてみろベルトルト……この前なんかな、あの食い意地の張ったサシャが俺のために料理を振る舞ってくれたんだぞ!? 俺のためだけに!! この重大さがわかるか!?」ダンッ!!

ベルトルト「二回も言わなくていいから。あと興奮した馬じゃあるまいし足鳴らさないで」

ライナー「しかも、はじめて作った料理のはずなのにうまかった……火加減も完璧だった……」ジーン...

ベルトルト「しっかり胃袋掴まれてるね。君のほうが餌付けされちゃってるじゃないか」

ライナー「メシを食うのが好きな奴は、作るのも上手だってのは本当だったんだな……アルミンの言った通りだ……」シミジミ

ベルトルト「あーはいはい」

ライナー「聞けよ!!」


ベルトルト「……わかったよ。立ち話もなんだし、ひとまず座ろうか」

ライナー「ん? なんだ? 腰を据えてじっくり聞きたいってか?」ニヤニヤ

ベルトルト「もうそういうことでいいから取り敢えず座ってよ……なんだか長くなりそうだし」

ライナー「そうだな、サシャの魅力は一日じゃ語り尽くせないからな」

ベルトルト「はいはい。エレンとアルミンが戻ってくるから三十分で済ませてね」

ライナー「……難しいな」

ベルトルト「難しいんだ」

ライナー「……ちょっと待ってろ、紙に書き出してくるから」ガタッ

ベルトルト「いいよいいよそこまでしなくてもわかったから」グイグイ

ライナー「お前にサシャの何がわかる!!」ダンッ!!

ベルトルト「めんどくさいな君」

待ってました!


ライナー「第一な、見た目“だけは”かわいいって言う奴はまるでわかってない。――あいつは見た目“も”かわいいんだ!」

ベルトルト(うわぁ……なんか始まった……)ドンビキ

ライナー「いいか――女の体型の良し悪しはケツで決まる」キリッ

ベルトルト「見た目の話してるのに、一番最初にお尻の話題を持ってくる辺りもうズレてると思うんだけど」

ライナー「美しい尻は調和の取れた体型に通ずるからな。あいつの魅力を語るには避けては通れない要素だと思うんだがどうだろうか」

ベルトルト「どうだろうかじゃないよ。第一、サシャとは関係なくなっちゃってるし。君、本当は女の子のお尻ならなんでもいいんじゃないの?」

ライナー「そりゃ三流の発想だな」フフン

ベルトルト「三流も何も、僕はお尻フェチになった覚えはないよ」

ライナー「ケツは上半身を支える土台だから、ある程度でかくて肉つきがよくないとな。太腿も同じだ。太い方が絶対にいい。誰でもいいわけじゃないさ」

ベルトルト「……ああ、サシャも結構肉つきいいよね。太腿とか特に」

ライナー「正直一日中撫で回したい」

ベルトルト「どこを?」

ライナー「言わせるなよ恥ずかしい///」ニヤニヤ

ベルトルト「ちょっと鏡見てきたら? 面白いものが見られるよ?」


ライナー「俺にはわかる。サシャの尻は、近年稀に見るいい形をしていた……」シミジミ

ベルトルト「いつかサシャにお尻蹴られても僕は知らないからね。そもそも、サシャのお尻なんてどこで見たんだよ」

ライナー「この前の嵐の時だな」

ベルトルト「……え、ついにやっちゃったの?」スススッ

ライナー「距離を取るなよ。……手は出してないぞ。明日のメシ全部賭けてもいい」

ベルトルト「手を出さないのは当たり前だろ。万が一開拓地送りになったらどうするんだよ」

ライナー「だから俺はちゃんと我慢したぞ、偉いだろ!」ドヤァ

ベルトルト「偉いとかじゃなくて普通のことだってば。君ここに何しに来たの? 遊びに来たわけ?」

ライナー「……違います」シュン

ベルトルト「ねえライナー……君は戦士なの? 兵士なの?」

ライナー「紳士だな」キリッ

ベルトルト「こんな時までふざけないでくれる?」イラッ

ライナー「……すまん」ショボン...


ベルトルト「まあいいや……じゃあ、どうしてサシャのお尻なんか見ることになったんだよ」

ライナー「ああ。――俺が納屋に入った時に、ちょうどサシャが洗濯籠を漁っててな、こう……扉のほうに背中を向けて、ケツを突きだして屈んでいたわけだ」グイッ

ベルトルト「実演はしないでいいよ。続けて」

ライナー「どうも着替え中だったみたいでな、あいつは下着姿だった」

ベルトルト「……へえ」

ライナー「多少は拭いたんだろうが、全部は拭き取れなかったらしいな。雨と汗で濡れた下着が、肌に貼りついて……」

ベルトルト「……」

ライナー「……」

ベルトルト「……」

ライナー「…………………………終わり」プイッ

ベルトルト「ちょっと、そこまで話したんだから全部話しなよ!!」ガシッ

ライナー「話せるかもったいない! あの光景は墓まで持っていく!!」ジタバタジタバタ

ベルトルト「君にだけいい思いさせてたまるか! 少しくらい僕に分けなよ!」ユサユサユサユサ

ライナー「誰が分けるか!! おいこら放せ暑苦しい!!」ジタバタジタバタジタバタジタバタ


―― 二十分後

ベルトルト「……口が堅いね、ライナー」ゼエハア

ライナー「……そう簡単に話してたまるか」ゼエハア

ベルトルト「全く……君のせいでもう時間が残り少ないじゃないか」チラッ

ライナー「お前がサシャのケツにこだわってるからだろ?」

ベルトルト「はいはい、わかったよ。……さっきからそうやって熱く語ってるけどさ、サシャが君のことなんとも思ってなかったら普通に変態だよね」

ライナー「何を言う。男はみんな変態だ」

ベルトルト「僕は違うよ。一緒にしないで。――君、そこまであの子のこと考えてるのに何も言ってないの?」

ライナー「……言えるわけねえだろ」

ベルトルト「ちょっと、一気に深刻にならないでよ」


ライナー「俺たちは……なんとしてでも故郷に帰るんだ。色恋沙汰にかまけてる暇なんか一切ない」

ベルトルト「……正直、君は何も考えてないんだと思ってたよ」

ライナー「馬鹿言え、考えてるさ。俺はそこまで無責任じゃないぞ」

ベルトルト「ごめん、知ってるよ。……君にその気がないなら、サシャは今のうちに突き放しちゃった方が楽だと思うよ」

ライナー「……そうだな」

ベルトルト「……」

ライナー「でもほっとけないんだよなぁ……」ウーン...

ベルトルト「世話焼きもいい加減にしなよ」

ライナー「いや、実際にあいつの近くで見てないとわからないぞこれは」

ベルトルト「そりゃあ、君は最近サシャの側にいるからよくわかるだろうね」


ライナー「なら、今度の休みの日に出かけてみるか? サシャも連れて」

ベルトルト「……はい? なんでそうなるの?」

ライナー「一度あいつの行動を見ればお前も納得するんじゃないかと思ってな。だが、男二人に女一人じゃつまらんだろうし……そうだな、たまにはアニを誘って出かけてみるのはどうだ?」

ベルトルト「!? 何考えてるんだ、もし僕たちが同郷だってバレたら――」

ライナー「そんな堅苦しく考えるな。同期の仲間と少し街に出かけるだけだ、問題ないだろ?」

ベルトルト「僕たち三人が一緒に出かけるだけでも充分まずいよ。その情報は、いずれ僕たちの首を絞める」

ライナー「だからサシャがいるんだろう? 兵舎裏でコソコソ三人で密会するよりは、四人で街中に遊びに出かけるほうがよっぽど健全だと思うんだがな」

ベルトルト「……わかったよ。その代わり、今回だけだからね」

ライナー「ああ。――何かでかけるためのいい口実があればいいんだがな。さて、どうするか」


―― 同刻 女子寮 ミカサたちの部屋

ミーナ「……」カリカリカリカリ...

アニ「……」ペラッ...

ミカサ「……」ガサゴソガサゴソガサゴソガサゴソ

アニ「……ミカサ、うるさい。何してるの?」

ミカサ「出かける準備」

アニ「今から?」

ミカサ「ううん。来週」

アニ「……早すぎでしょ」

ミカサ「備えあれば憂いなし」ガサゴソガサゴソガサゴソガサゴソ


アニ「そんなに準備してるってことは、山に山菜でも採りに行くの?」

ミカサ「違う。喫茶店にお菓子を食べに行く」

アニ「……どこに行く気? その喫茶店、崖の上にでもあるの?」

ミカサ「このチラシの場所。エレンとアルミンと三人で行く」スッ

アニ「どれどれ……ふうん、“カップル限定・秋の味覚祭”ね……」ペラッ

アニ(サツマイモのムース……カボチャのタルト……アップルパイ……モンブラン……)

アニ(……ん? モンブラン?)ピクッ

アニ(……モンブランって何のお菓子だろ)

アニ「……」



アニ「……」ソワソワ


アニ「……」チラッチラッ

ミーナ「アニ、行きたいところがあるなら遠回しなアピールしないでちゃんと誘ってって前に言ったよね。横でチラシ持ったままウロウロしないで」カリカリカリカリ

アニ「……ミーナ、ミーナ。これ行こうよ」クイクイ

ミーナ「今お菓子控えてるからパス」カリカリカリカリ

アニ「……」

ミーナ「しかもそれ、カップル限定だから私と行っても意味ないよ?」

アニ「……男子と二人で行って、変な噂立てられたくないんだよ」

ミーナ「どっちみち、私その日は再試験入ってるから行けないよ」カリカリカリカリ

アニ「じゃあ仕方ないね。再試験の担当教官は誰?」スクッ

ミーナ「闇討ちはダメだよ、アニ。……それに無理に私と行かなくたって、そういうのを二つ返事で引き受けてくれそうな子が他にいるでしょ?」

アニ「……そういえば」


―― 翌日 夕方 営庭隅

サシャ「それで私に白羽の矢が立ったわけですか」

アニ「あんた好きでしょ、こういうの」ピラッ

サシャ「まあ好きですけど……これ、カップル限定なんですね」ジーッ

アニ「普段はちっとも喫茶店に寄りつこうとしない男を抱き合わせでいただこうなんてコスい商売だよね」チッ

サシャ「アニ? もしもし?」

アニ「なんでもないよ」

サシャ「それにしても、ミカサはどうする気なんですかね? これ、カップル限定なのに……四人目にアテはあるんでしょうか?」

アニ「さあね。三人で一つのカップルとでも言い出すんじゃないの?」

サシャ「サンドイッチですか……贅沢ですね」


アニ「それでどう? 行ける?」

サシャ「うーん、行きたいのはやまやまなんですけど……私、来月まで金欠なんですよね」

アニ「来月までって……買い食いでもしたの? 前借りまでして?」

サシャ「まあ、そんなところです。だから今回は遠慮しときますね」

アニ「いいよ。誘ってるのはこっちなんだから私が出すよ」

サシャ「誘う……」ピクッ

アニ「それで、相手なんだけど――」

サシャ「誘うって他の意味があるんですかね?」

アニ「突然何の話?」


サシャ「この前、えーっと……とある人に言われたんですよ。『誘ってるようにしか聞こえない』って」

アニ「どこか行くの?」

サシャ「さあ……? そういう話はしてなかったはずなんですけどね」

アニ「……まあいいや、相手の話に戻すよ」

アニ(ミーナ、あんたは何も知らないで答えたんだろうけど、素晴らしいアイディアだよ……)ニヤッ...

アニ(サシャを誘えばライナーがついてきて、ついでにベルトルトも抱き込める。……つまり、私から誰かに声をかける手間が省ける)

アニ(……私、完璧)キリッ

アニ「私はベルトルトに頼もうと思ってるんだ。だからサシャは――」

サシャ「コニーに頼みますね!」

アニ「待った」


アニ「なんでそこでコニーが出てくるの?」

サシャ「いやぁ……頼みやすいかなーって……」

アニ「他にいるでしょ他に」

サシャ「じゃあ……エレンとか?」

アニ「ミカサが黙ってないんじゃない?」

サシャ「ジャンなら!」

アニ「甘いの好きじゃなさそうだよね、あの男」

サシャ「マルコは、優しいですし」

アニ「断らないのをいいことにお願いするの?」

サシャ「ベ、ベルトルト!」

アニ「ベルトルトは私と行くんだよ。二人もいないから」

サシャ「アルミンと……」

アニ「ねえ、なんでライナーじゃないの?」

サシャ「……今、気まずくて。そういうこと頼みづらいな、って」


アニ「頼みづらいって……喧嘩でもした?」

サシャ「喧嘩ではないと思うんですが……私が怒らせたことには間違いなくて、その……」モジモジ

アニ「煮え切らないね」

サシャ「すみません、私も実はよくわかってないんです……」ショボーン...

アニ「あいつが怒ったなら、何かちゃんとした理由があるはずだよ。さっさと謝ってくれば?」

サシャ「私もそうしようかと思ったんですが、ユミルに『謝るな』って言われてるんですよ」

アニ「……変な話だね」

サシャ「ですよね」

アニ「深く考えすぎなんじゃないの? あんたと同じで結構単純だよ、あの男」

サシャ「同じですか、照れますね……///」テレテレ

アニ「褒めてないよ」


サシャ「……ええっと、座りましょっか」ペタンッ

アニ「そうだね。長くなりそうだし」ポスッ

アニ(……そういえば、ミーナ以外とこういう話、あまりしたことないかも)

アニ(しかも、恋愛の話題……もしかして、これが“恋バナ”っていうものなのかな……)ハッ

アニ(なんか、いかにも乙女っぽい……!)

アニ「……」

アニ「……」ソワソワ

サシャ「……? アニ、どうしました?」キョトン

アニ「なんでもないよ」キリッ

アニ(……あれ、恋バナって何を話せばいいんだろ)

アニ(まあいいか、いつも通りで)


サシャ「……喧嘩って慣れないですね。好きじゃないです」

アニ「前もしたことあるの?」

サシャ「いえ、それに近いことが何度かありまして……どれも、私が考えすぎて勝手に気まずくなってただけですけどね」

アニ「……まあ、喧嘩が好きな奴も珍しいよね」

サシャ「エレンとジャンはしょっちゅう喧嘩してますけどね」

アニ「あれは遠回しな愛情表現だから」

サシャ「へー……そうだったんですか……」

アニ「むしろ求愛ダンス?」

サシャ「……カップル成立ですね」

アニ「喫茶店にはジャンを連れて行けばいいんだよ、ミカサはさ」

サシャ「ああ、それだとダブルデートになりますもんね」クスクス


アニ「あんたさ、あいつの……ライナーのこと、本気で好きなの?」

サシャ「はい!」

アニ「即答だね」

サシャ「これだけは譲れませんから!」

アニ「……あのさ、好きってどんな気持ち?」

サシャ「私もちゃんとはわかってませんよ。……でも、最近一緒にいるとですね、自然とほっぺたが緩んじゃうんですよね」ニヘラ

アニ「……今も緩んでるよ」

サシャ「おっと、危ない危ない」キリッ

アニ「……」

サシャ「……」

アニ「……」

サシャ「……」ニヘラ

アニ(……見てて面白いな)ホンワカ


アニ「でもあんたたちって、まだ付き合ってないんだよね」

サシャ「……そうですね」

アニ「キスもした」

サシャ「はい」

アニ「手も繋いだ」

サシャ「はい」

アニ「でも、あんたから好きとは伝えてない」

サシャ「……はい」

アニ「なんで?」

サシャ「……恥ずかしくて」モジモジ

アニ(……変なの)


アニ「さっさと言っちゃえばすっきりするんじゃない?」

サシャ「それは、そうだと思うんですけど……すっきりしたいわけじゃないですし、一応私なりの目標もあるので」

アニ「目標?」

サシャ「……ライナーには内緒ですよ?」

アニ「言わないよ。……言う相手なんかミーナくらいしかいないしね」

サシャ「そのミーナにも内緒にできます?」

アニ「……努力するよ。それで、目標って何?」

サシャ「大したことではないんですけどね。……今の私って、結局はライナーにとって手間のかかる子どもくらいにしか思われてないんですよ」

アニ「……そんなことないと思うけど」

サシャ「いえ、自分のことですからちゃんとわかってますよ。――そんな子どもでも、隣でただニコニコ笑ってるだけならできると思うんです。それこそ今の私だって今すぐできます」


サシャ「でも、そうじゃなくて……ライナーが苦しい時に、隣に並んで、一緒に悩んでいたいんです。――できるなら、その悩みを解決してあげるのが一番なんでしょうけど」

サシャ「だから、今の私の目標は、ライナーの隣にいることじゃなくて、隣で支えることなんです。今はその目標に向かって努力中なので、言わなくてもいいんです。もうちょっと、自分に自信を持てるようになったら……私から、言うつもりです」

アニ「……あんたさ、それがきついことだってわかってる?」

サシャ「そうですね、楽じゃないってことは私にもわかります」

サシャ「でも、『楽じゃない』っていう事実は、獲物を諦める理由にはならないんですよ。それに、そういうものは手強ければ手強いほど燃えるでしょう?」クスッ

サシャ「……って、これじゃあ狩りですね。ちょっと話が逸れちゃいました」

アニ「ううん。……あんたが本気なんだってこと、私にも伝わってきたよ」

サシャ「ええ、私はいつでも本気ですよ!」グッ


アニ「……例えばの話だけどさ」

サシャ「はい?」

アニ「ライナーがあんたのこと、本気で好きだって言ったらどうする?」

サシャ「……それはないと思いますよ」

アニ「なんで?」

サシャ「さっきも言った通り、やっぱり私は子ども扱いしかされてないと思いますし……それに、ライナーは好きな人がいるって言ってましたから」

アニ「……誰のこと?」

サシャ「さあ、わかりません」

アニ「あんたじゃないの? それって」

サシャ「違うと思いますよ。その言葉、私に向かって言ったんですから。もしそれが私のことなら、そんな言い方しませんよね?」

アニ「まあ……そうかもね」

サシャ「それに、もう決めたんです。ライナーがどう思っていても、私は今の全力をぶつけようって」

アニ「……そっか」


サシャ「んー……なんか、アニに聞いてもらえてちょっとすっきりしました! ありがとうございます」

アニ「どういたしまして。――あんたさ、ライナーを支えてあげたいんだよね。自分の力で」

サシャ「はい!」

アニ「じゃあ、まずは私を倒せるようにならないとね。――だから話はこれくらいにして、そろそろやろうよ」スクッ

サシャ「そうですね、やりましょう! 今日は負けませんよ!」バッ!

アニ「全力で来な。――これからは、更にしごいてあげるから」スッ

サシャ「えっ」


―― 夜 食堂

ミーナ「わっ!? サシャ、机に突っ伏してどうしたの?」

コニー「こいつ、アニにコテンパンにやられたんだってさー」モグモグ

サシャ「ううっ、体中が痛いです……」モグモグ

コニー「それでも食ってるんだからおめでたい奴だよなー」

ミーナ「サシャ、私のパンあげようか? 大丈夫?」オロオロ

サシャ「いえ、ミーナの分がなくなっちゃうのでいいです……」



ライナー「……」ソワソワ チラッチラッ

アニ「なんで遠くからチラチラ見てるの?」

ライナー「うおっ!? ……なんだ、アニか」

アニ「なんだとは失礼だね。――これから時間ある?」ヒソヒソ

ライナー「……急ぎか?」

アニ「今回はそこまででもないよ。食べ終わった後でいいから、ちょっと裏まで来てくれる?」


―― 夕食後 兵舎裏

アニ「……というわけなんだけど」

ライナー「……」ジーッ...

アニ「何? 言いたいことがあるならちゃんと言えば?」イラッ

ライナー「お前もこういうのに興味があったんだなぁ……」シミジミ

アニ「蹴るよ」シュッシュッ

ライナー「素振りするなよ。……わかった。ベルトルトも誘っておく」

アニ「助かるよ。じゃあ、昼過ぎに待ち合わせでいいよね」

ライナー「ああ。それでいい」

アニ(いつも通りに見えるけど……)ジーッ

アニ「あんたさ、サシャと喧嘩でもしたの?」

ライナー「? いや、してないが」

アニ「でもあんたのこと気にしてたよ、あの子」

ライナー「……少し、きついことは言ったかもな」ポリポリ

アニ(……なんだ、全然怒ってないね。やっぱりサシャの考え過ぎか)


ライナー「なあアニ。……お前は、俺のことを責めないのか?」

アニ「何? 攻めて欲しいの?」シュッシュッ

ライナー「……蹴られたいんじゃなくてだな」

アニ「サシャとのこと? ……必要な時に決断できるなら、私は文句言わないよ。あんたの好きにすればいいんじゃない?」

ライナー「……」

アニ「今、こうなってるのもあんたの判断でしょ。私は口出ししないよ。――その代わり、あんたも私の判断に口出ししない。それでいいでしょ」

ライナー「……ああ」

アニ「そもそも、あんたがいつどこで誰と乳繰りあっていようが私はどうでもいいよ」

ライナー「ちっ!? 乳繰りあうって、お前な……っ!」

アニ「じゃあね、話は終わり」スタスタ...


―― 消灯時間前 女子寮 ユミルたちの部屋

クリスタ「へえ、みんなでお菓子食べに行くんだぁ……!」キラキラキラキラ

サシャ「はい! クリスタはどうです? 興味ありますか?」ペラッ

クリスタ「どれどれ……?」ジーッ...

サシャ「……」

クリスタ「……」ダラーッ...

サシャ「!? クリスタクリスタ、涎垂れてますよ涎!!」

クリスタ「はっ! ……ご、ごめん」フキフキ

サシャ「そんなに食べたいなら、何かお土産買ってきしょうか?」

クリスタ「本当!?」パァッ!!

サシャ「はい。高いのでなければなんとかなると思います」

ユミル「……なあサシャ。お前来月まで金欠じゃなかったっけ」

サシャ「うっ……それはそうなんですけど、小銭くらいならちょこっとありますし」


ユミル「そんでもって、そういう生菓子の類はとんでもなく高いぞ」

サシャ「ううっ……」ズーン...

クリスタ「なら私が払う!」ハイッ!

ユミル「クリスタちゃんはお金の管理がだらしないこと、ユミルお姉ちゃんは知ってるんですよ。お財布の中身見てみなさいな。お菓子買えるほど残ってませんから」

クリスタ「そっ、そんなことないよ! ちゃんとあるもん!」ガサゴソガサゴソ

ユミル「まあ先が見えてるクリスタの財布の中身は置いといて。……サシャ、この金でさつまいもスティック買ってきてくれ。三人分」スッ

サシャ「さつまいもすてぃっく……? そんなのがあるんですか?」キョトン

ユミル「ああ。そこの喫茶店で比較的安価で変える揚げ菓子だよ。砂糖がかかっててうまいんだ。それで私とお前とクリスタの分、三人分買ってこい。釣りは駄賃でくれてやるが、帰り道で私らの分つまみ食いするんじゃないぞ」

サシャ「おつかいですね! わかりました、行ってきます!」バッ!!

ユミル「敬礼しなくていいぞ」

クリスタ「やったぁ! ユミル、愛してるー!!」ダキッ

ユミル「はっはっは。よーし結婚するかクリスタ」ナデナデ



                                  \コンコンッ/


クリスタ「あれ? こんな時間にお客さん?」

サシャ「きっとアニじゃないですかね? ――どうぞ、入ってきていいですよー!」

アニ「……こんばんは。入るよ」ガチャッ バタンッ

クリスタ「いらっしゃいアニ! もしかしてダブルデートの打ち合わせ? 打ち合わせ?」ソワソワソワソワ

アニ「そんなところ。――約束取り付けてきたよ。さっき決めた時間でいいってさ」

サシャ「わかりました。楽しみですね!」

ユミル「なあ。この企画ってカップル限定なんだよな? アニのお相手は?」

アニ「ベルトルト」

ユミル「……ほう。ベルトルさんとねえ」ニヤニヤ

アニ「? 何かおかしい?」

ユミル「いいや。……なあアニ、当日は出かける前に私の部屋に来な。とびっきりかわいくしてやるよ。ベルトルさんが舞い上がるくらいにな」

アニ「……フリルはやめてよね」スススッ

ユミル「しねえよ。まあ私に任せとけ」


―― デート当日 昼 女子寮 ユミルたちの部屋

ユミル「どうだこの髪型、ゆるふわガールでモッテモテだぞ!」エッヘン

アニ「……センス」

ユミル「って雑誌に書いてたんだから仕方ないだろ」ペラペラ

アニ「頭の中までふわふわしそうだね、この髪型」モフモフ

ユミル「でも、あまりボリュームつけると重たい印象になるんだよなー。難しい」ウーン...

アニ「……なんか、落ち着かない」

ユミル「いっつもカッチリした髪型と服装してるもんな。こういうのは慣れてないか」

アニ「……ところでサシャは? 見当たらないけど」キョロキョロ

ユミル「あっちはクリスタに任せてる。――さて、服はこれな」


アニ「カーディガン……? パーカーじゃないの?」

ユミル「ベルトルさんはカーディガン好きだからな。ペアルックだ。嫌なら着なくてもいいぞ」

アニ「……いいよ、着る」

ユミル「ほいほい。それじゃあどうぞ。二人きりになったらちゃんと言ってやれよ、お揃いだってな」

アニ「ところで、なんでユミルがベルトルトの趣味を把握してるの?」

ユミル「……秘密」

アニ「秘密って何」

ユミル「強いて言うなら……勝負相手の嗜好は把握しとくもんだろ」

アニ「勝負相手?」

ユミル「うるさいうるさい、この話はおしまいだ! ――ほーらかわい子ちゃん、いいからベルトルさん落としてこい!」バシッ!

アニ「……だから、センス」


―― 昼 街中

ベルトルト「ねえライナー、この待ち合わせに何の意味があるの? 兵舎から直接一緒に来た方がよかったんじゃない?」

ライナー「わかってないな、ベルトルト。……こうしたほうが雰囲気出るだろ?」フフン

ベルトルト「二人が来る前にそのにやけきった顔なんとかしておいてね」

ライナー「任せとけ。――おっ、二人が来たな」

ベルトルト「……下心との戦いのはじまりだね」ボソッ

ライナー「……今日も勝つ」キリッ

ベルトルト「はいはい」



サシャ「すみません、お待たせしましたー!」タタタッ

アニ「早いね、あんたたち」スタスタ...


ベルトルト「今日は髪下ろしてきたんだね。アニ」

アニ「ユミルに無理矢理やられたんだよ。落ち着かないんだけどね」

ベルトルト「……いつもと雰囲気が違っていいと思うけどな」

アニ「そう?」

ベルトルト「うん。驚いたよ、髪型で結構雰囲気変わるんだね」

ベルトルト(いつもきっちりした格好ばっかり見てるからかな、ふわふわしててかわいい……)ドキドキ

アニ「……あんまり見ないでよ」プイッ

ベルトルト「あ……ごめん」シュン

ベルトルト(見過ぎだったかな……気をつけないと、ライナーの二の舞だ)

アニ(さてと、あっちはどうなったかな)チラッ


サシャ「……どうも」ペコッ

ライナー「……ああ」

サシャ(……何も言ってくれませんね)

ライナー(今日はパーカーか……うん、似合ってるな)

サシャ(そりゃあ、毎回毎回褒めてくれなんて言えませんけど、でも一言くらい言ってくれたっていいのに……いいとか悪いとか、それだけで充分なのに……)

ライナー(やはりサシャは何を着てもいいな。……今日はスカートだから、転ばないように見張らないと)

サシャ(最初のころは、スカート一つでもちょっとした会話になったのに、今日は何もないなんて……)





サシャ(……さみしいです)

ライナー(……かわいいな)


アニ・ベルトルト「……」

アニ・ベルトルト(あそこだけ暗い……)

アニ(なんでサシャが元気ないのに、ライナーは嬉しそうなの?)

ベルトルト(なんかあの二人、思いっきりすれ違いが起きてる気がする……)

アニ(あ……そういえば、ライナーが怒ってるのはサシャの勘違いだって伝えておくの忘れてた)

ベルトルト(サシャがぎこちないせいで、ライナーも少し緊張してるのかもしれない……やりにくいな)

アニ(今日はずっとこんな感じなのかな、この二人)

ベルトルト(こんな調子で、最後まで保つかなぁ……)



ライナー「さて、全員集まったことだし……そろそろ行くか?」ガシッ

サシャ「はーい」ギュッ



アニ「待った」

ベルトルト「止まって二人とも」


サシャ「どうしました? 何か忘れ物でもしました?」キョトン

アニ「……あのさ、なんで手繋いでるの?」

ライナー「なんでって……はぐれたらどうする」

ベルトルト「そんな子どもじゃあるまいし!」

アニ「……サシャ、あんた気まずいんじゃなかったの?」ヒソヒソ

サシャ「はぁ、そう言いましたけど……?」キョトン

アニ「手を繋ぐのは気まずくないの? むしろなんで繋げるの?」

サシャ「だってはぐれちゃいますし」

アニ(……気まずいってどういう意味だったっけ)

ライナー「せっかく四人で歩いてるんだしな。今回、サシャはアニに任せるか」

アニ「わかったよ。仕方ないね」

ライナー「ああ、よろしく頼む」


―― 街中 移動中

ベルトルト「君ねぇ……そうやって甘やかすのはやめなよ」

ライナー「いや、甘やかしてるわけじゃないんだがな。まあ見てろ」

ベルトルト「見てろって……何を?」

ライナー「アニとサシャだ。……ほら、始まったぞ」

ベルトルト(アニがチラシの地図確認してる…………んん?)





アニ(えーっと、そこの薬屋がこの位置だから……)ジーッ

サシャ(……なんかあっちの角からいい匂いがしますねー)クンクン


ベルトルト「……ねえ、アニとサシャが逆方向に歩き始めたんだけど。僕たちどっちについていけばいいの?」

ライナー「アニがサシャを回収した後だな。……おっと、アニが気づいたみたいだぞ」





アニ「あんたどこ行く気?」

サシャ「へ? いや、あっちのほうからいい匂いがですね」

アニ「……こっち」ガシッ

サシャ「あぁっ、パァンのいい匂いがぁ……」ズルズル...





ベルトルト(アニがサシャのフード掴んで引っ張ってる……)

ベルトルト「……これ毎回?」

ライナー「手を繋ぎたくなる理由わかるだろ?」

ベルトルト「……うん、よくわかったよ」


―― 喫茶店


       \イラッシャイマセー/          \ヨンメイサマハイリマース/


サシャ(お菓子お菓子お菓子お菓子お菓子お菓子お菓子お菓子お菓子お菓子)ギラギラギラギラ

アニ(モンブランモンブランモンブランモンブランモンブランモンブラン)ソワソワソワソワ

ライナー「少しは落ち着け、二人とも」

ベルトルト「へえ……お茶の種類だけでも色々あるんだね」ペラッ

ライナー「喫茶店だしな。その辺の定食屋よりは充実してるもんなんだろ」ペラッ

サシャ「二人とも、どうしてメニュー見てるんです?」

ベルトルト「? だって、何頼むか決めないと」

アニ「もう四人分頼んでおいたよ。一番安いお茶と限定のお菓子」

ライナー「……進行早いな」

サシャ「どうせ全種類食べるんですから、誰が何頼もうが同じですよ」


―― 数分後


       \オマタセシマシター/          \ソレデハゴユックリー/


ベルトルト「えーっと、これは……誰がどのお菓子なの?」

サシャ「私がサツマイモのムース、アニがアップルパイ、ベルトルトがカボチャのタルトで、ライナーがモンブランですね」

アニ「そう。なら私とライナーのは交換だね」スッ

ライナー「は? お前、さっきどれでもいいって」

アニ「つべこべ言わずに皿出しなよ……!」ギロッ...

ライナー「そう睨むなよ、交換くらいしてやるから」スッ

アニ「どうも」

アニ(おお……これがモンブラン……)キラキラキラキラ

ライナー(……アニのあんな顔は珍しいな)

ベルトルト(目に焼き付けておこう……)チラッチラッ

サシャ「じゃあいただきまーす! じっくり味わって食べましょうね!」プスッ


ベルトルト(ライナーはいつもサシャとこんな小洒落たもの食べてるのか……)ウロウロ

ライナー(これはどう食べればいいんだ? 手掴みなら一口でいけそうだが……)ウロウロ

アニ(これ……フォーク、どこに入れたらいいんだろ)ウロウロ

サシャ「……? みなさんフォークが彷徨ってますよ。食べないんですか?」モグモグ

アニ「……サシャ、先にどうぞ」スッ

サシャ「えっ、いいんですか? それじゃお先にいただきまーす!」プスッ

ライナー(……まあ、適当でいいか)サクッ

ベルトルト(どっちみち作法なんて知らないしね)サクッ

サシャ「おいしいですねぇ、このモンブランってお菓子。――はいどうぞ、アニに返しますね」スッ

アニ「……どうも」サクッ


アニ(このクリーム、栗の味がする……)モグモグ

ベルトルト(あ、あんまり甘くないや。これなら食べられそう)モグモグ

ライナー(……フォークで切るとちっさいな)チマッ

サシャ「……」ジーッ...

ライナー「……サシャ、手が止まってるぞ」





サシャ「……もしかして、三人の出身って同じだったりします?」





ライナー「」ピクッ

ベルトルト「」ピタッ

アニ「……なんで?」


サシャ「いや、大した事じゃないんですけど……お菓子の切り分け方が一緒だなーって」

ライナー「……」チラッ

ベルトルト「……」チラッ

アニ「……」チラッ



ライナー・ベルトルト・アニ(本当だ……!)ガーン...



サシャ「あと、フォークの持ち方も私とちょっと違いますよね? 人差し指の曲がり方とか。小指もちょこっと浮いてますし」

ライナー(おいおい、どこ見てるんだサシャの奴……)ゾクッ

ベルトルト(サシャ……恐ろしい子……!)ダラダラダラダラ


アニ「……最近知ったんだけどね、私の実家と割と近いところに住んでたんだよ。この二人」

サシャ「へー、そうなんですか?」

ベルトルト「そ、そうらしいね」ギクシャク

ライナー「ああ、最近知ったんだけどな、そうらしいぞ、うん」ギクシャク

アニ「それにしてもあんた、よく気づいたね。驚いたよ」

サシャ「狩りの基本は観察ですからね! これくらいはお手の物ですよ! ……ところでアニ、手元見せてもらっていいですか?」

アニ「いいけど……何するの?」

サシャ「同じ持ち方してみようと思いまして。んーっと、ここがこうで……」ジーッ...

ライナー「持ち方で味は変わらんぞ?」

サシャ「そんなことありませんよー。料理っていうのは切り分け方一つで食感がガラリと変わるんですから、持ち方は重要ですよ。おいしい体験はみんなで分けあうべきです!」


サシャ「よしっ、できた! アニ、どうですか? これで合ってます?」ジャーン!!

アニ「……うん、合ってるよ」

サシャ「やったぁ! これで四人ともお揃いですよ、お揃い!」エヘヘ



ライナー・ベルトルト・アニ「……」キュンッ...



アニ(ちょっと、何この子……やってることはあざといのにかわいい……)ドキドキ

ライナー「……わかるかベルトルト。これ、わざとやってるんじゃないんだぞ? 正真正銘天然物だ」ヒソヒソ

ベルトルト「破壊力がすごいね……不覚にもときめいちゃったよ」ドキドキ

ライナー「もう一回言ってみろ」ガタッ

ベルトルト「冗談だってば」

サシャ「ちょっとライナー、食事中に立たないでくださいよ。座ってください」ムー...

ライナー「……すまん」スワリナオシ


サシャ「……ところでみなさん、食べ比べとかしないんですか? 私はもうアニからモンブランもらいましたけど」

アニ「そうだね、ライナーとベルトルトからそれぞれもらわないと」

ベルトルト「えっ? 僕、もうフォークつけちゃったけど……」アセアセ

アニ「いいよ。気にしないから少しくれる?」

ベルトルト「……はい、どうぞ」スッ

アニ「ありがと」サクッ

ベルトルト(これって、間接キスのうちに入るのかな……? アニは気にしてないみたいだけど……)ドキドキ

アニ(……あんまり甘くないな、このタルト)モグモグ

サシャ「ベルトルト、ベルトルト! 私も一口ほしいです!」ハイッ

ベルトルト「ああ……うん、もう好きなだけ食べていいよ」

サシャ「いえいえ、一口でいいですよー」モグモグ

すみません 長いのでちょっと休憩します
九時前には再開しますので少しお待ちください


アニ「……さて」チラッ

ライナー「わかってるよ。俺のもやる」スッ

アニ「物わかりがよくていいね。ありがと」サクッ

アニ(……パイ生地サクサクしてる。おいしい)サクサク

サシャ「私も! 私もそっちのアップルパイ一口ください!」ハイッ

ライナー「わかったわかった。……ほら、やるよ」ヒョイ

サシャ「ありがとうございまーす!」アーン パクッ



ベルトルト「」

アニ「」


ベルトルト「……二人とも、何してるの?」

アニ「今の……何?」

サシャ「? 何って……ライナーから一口分けてもらったんですけど……?」

アニ「……そうじゃなくてさ、今のって」

サシャ「?」キョトン

アニ「……いいや、なんでもない」

ライナー「なんだ? ベルトルトも一口ほしいのか?」

ベルトルト「え、いや、僕は……」

ライナー「ほらよ」スッ

ベルトルト(……だよね、普通皿ごと渡すよね)

ベルトルト「……」チラッ

サシャ「アップルパイもおいしいですねえ……」ホンワカ

ベルトルト(……うん、さっきの「あーん」は見間違いだな。そういうことにしておこう)モグモグ


―― 食後

サシャ「ごちそうさまでした! ――ああ、おいしかったです……!」ホクホク

ライナー「会計はまとめて払っておく。お前たち、外に出てていいぞ」

アニ「私はミーナにお土産買っていくから、ライナーについていくよ。二人は外で待ってて」

サシャ「あっ! 私もさつまいもスティック頼まれてたんでした」ゴソゴソ

アニ「あんた金欠だって言ってなかったっけ?」

サシャ「はい。ですから、ユミルにお金持たせられました。おつりはお駄賃だそうですよ!」エッヘン

ベルトルト(……完全に子どものおつかいだなぁ)

サシャ「あとですね、帰りにつまみ食いするなって釘刺されました。なんででしょうかね?」

ライナー(……ユミルは正しい)

アニ「それもまとめて買っておくよ。――じゃあ、ベルトルトとサシャは後でね」


―― 商品棚前

アニ「……」ジーッ...

アニ(さつまいもスティックね……サシャが言ってたのはこれか)

アニ(あ、試食がある)ヒョイッ

アニ「……」サクサクサクサク

アニ「……」ホンワカ

ライナー「買ってやろうか? それ」

アニ「……いいよ、別に」

ライナー「ミーナへの土産で財布の中身スッカラカンだろ? ……なあに、金はあとでベルトルトからふんだくるから気にするな」

アニ「ベルトルトに悪いよ」

ライナー「じゃあ、ベルトルトに礼言っとけ」

アニ「……まあ、お礼は言っとく」


ライナー「会計も終わったし、そろそろ行くか。あいつらを待たせたら悪い」スタスタ...

アニ「……ねえ。あんたが今後どう行動するかは置いといて、聞いておきたいことがあるんだけど」

ライナー「なんだ?」

アニ「サシャのこと好き?」

ライナー「……いや、好きじゃないな」

アニ「……そう」





ライナー「大好きだ」キリッ

アニ「そういう引っかけとかいらないから」イラッ


―― 同刻 喫茶店の外

サシャ「……」ボーッ...

ベルトルト「……」ソワソワ

ベルトルト(よく考えたら、サシャとはあまり話したことないんだよな……)チラッ

ベルトルト「……かわいいね、その髪飾り」

サシャ「え? あっ、ありがとうございます……///」カァッ...

ベルトルト(……あれ? 何この反応)

ベルトルト「あのさ、ライナーは褒めてくれないの? かわいいとか君に言ったりしないわけ?」

サシャ「……そういえば、言われたことないですね」

ベルトルト「その髪飾りも安いものじゃないよね? なのに何も言ってくれないの?」

サシャ「ああ、これはライナーからもらったものなので……特別褒めたりはしてくれませんよ?」

ベルトルト「そう……そうなんだ」


サシャ「あの……ベルトルトはライナーと同郷なんですよね? ライナーの好きなものってなんですか?」

ベルトルト「……本人に聞きなよ、そういうことは」

サシャ「それはそうなんですけど……“ベルトルトから見たライナー”が何が好きなのかを聞きたくて。こういう機会がないと聞けませんし」

ベルトルト「……ライナーはお尻が好きだよ」

サシャ「はいっ!? おしり!?」サッ

ベルトルト「今押さえても意味ないと思うけど」

サシャ「そ、そうですね……///」

ベルトルト(……まあ、これくらいは話してもいいよね)

サシャ「ライナーのお尻かじったら肉汁出ませんかね?」キリッ

ベルトルト「……噴き出すのは血だと思うよ」

サシャ「ああ、血抜きしてない肉はおいしくないですよね……仕方がありません、諦めましょう」

ベルトルト(血が出なかったら本気で噛むつもりだったのかな……それとも、これってサシャなりの冗談なのかな)

ベルトルト(うーん、どうしよう。……この子の考えが全く読めない)


サシャ「あ、見てくださいよベルトルト。トンボですよトンボ」ユビサシ

ベルトルト「本当だ。仲いいんだね」

サシャ「そういえば、あれって実は交尾してるんじゃないらしいですよ」

ベルトルト「……はい?」

サシャ「昔お父さんに聞いたんですけどね、交尾する時は違った体位だそうですよ。私は見たことないんですけど」

ベルトルト「たいっ!? ……ちょっとサシャ、サシャ。待って。いきなり何の話?」

サシャ「ああ、ベルトルトはこういう話苦手でした? ……すみません、普段あまり話さないので、どこまで話していいかわからなくて」

ベルトルト「そうじゃなくてさ……そういう話、できるの?」

サシャ「虫の話ですか? できますよ!」

ベルトルト「そっちじゃなくて、その……夜の立体機動の話とか」モニョモニョ

サシャ「? 今、立体機動の話してませんでしたけど……?」キョトン


ベルトルト「……えーっとね、取り敢えず立体機動の話はなし。その上で聞いてほしいんだけど」

サシャ「はぁ」

ベルトルト「あの……そういう話は、大きな声で話さないほうがいいんじゃないかな」

サシャ「そういう話?」

ベルトルト「……こ、交尾とか」ボソッ

ベルトルト(ううっ……なんでこんな街中で下ネタ話さないといけないんだよ……///)カァッ...

サシャ「……そうなんですか?」

ベルトルト「そうなんだよ。……そうなんだよ!!」

サシャ「でも私、狩人出身ですからね。獲物がそういう行為してる最中に遭遇したことなんか何度もありますし、そんな珍しいことでもないような気もするんですが」

ベルトルト「山の中と街の中を一緒にしないでよ……」


ベルトルト「……あのさ、人間同士でもそういうことするよね」

サシャ「そりゃあ……必要に迫られればするんじゃないですか? まあ、私には縁のない話だと思いますが」

ベルトルト「……縁のない話」

サシャ「まだ私お子様ですし。そういうのはまだ早いですよ」

ベルトルト「……でも、君は女の子だよ?」

サシャ「はあ、女ですけど……それが何か?」キョトン

ベルトルト「……」

サシャ「ああ、そういえば……この前ライナーにも言われましたね。お前は女なんだぞーって。これってどういう意味なんですかね?」ウーン...

ベルトルト「……」

サシャ「もしもし? ベルトルト、聞いてます?」


ベルトルト(……ユミルの推測は間違ってたんだ)

ベルトルト(サシャは、知識はそれなりにあるけど……自分のこと、そういう対象だって思ってないんだ)

ベルトルト(しかも馬鹿で抜けてて、少し世間からズレてるから、話が直球じゃないと通じない)

ベルトルト(みんな、ズッコンバッコンとか夜の立体機動とか、遠回しに話すんだもんな……サシャがわからないわけだよ)

ベルトルト(ライナーもライナーだ……やることやる前に、言うことちゃんと言わないから、こういうことになってるんじゃないか)イライラ

サシャ「ベルトルト、どうかしました?」ユサユサ

ベルトルト「……ううん、なんでもないよ」

ベルトルト(まあ、僕が教えてあげる義理はないよね)

ベルトルト(それにしても……最初からズレすぎだよ、君たちどっちも)


サシャ(ベルトルトもアニも、優しいですね。私の話を真剣に聞いてくれて、ちゃんと考えて、自分なりに答えようとしてくれて……)

サシャ(ライナーがいなかったら、きっと接点すらなかったでしょうね。こうやって、ゆっくり話すこともなかったはずです)

サシャ(……ライナーとも、普通に話したいな)

サシャ(……本当は、それだけで充分なのに)

サシャ(……好きなだけじゃ、だめなんですかね)

サシャ(この前、何をしてあげればよかったんでしょう……言ってくれないと、わかんないですよ……)ポロッ

ベルトルト「!? さ、サシャ? どうしたの? なんで泣いてるの?」オロオロ

サシャ「え? ……あっ、これはその、な、なんでもないですっ、大丈夫ですから……っ」ゴシゴシ

ベルトルト「そんなこと言われても――」オロオロ

ベルトルト(こんなところ、ライナーに見られでもしたら何を言われるか……)





ライナー「……おい」

ベルトルト「」ビクッ


ライナー「お前……何泣かせてるんだ?」ギロッ

ベルトルト「いっ……いやいやいやいや! 僕じゃないよ! 僕のせいじゃないから!」ブンブンブンブン

ライナー「話は後で聞く。――こっちこい、サシャ。ほら」

サシャ「……」プイッ

ライナー「サシャ?」

サシャ「……ベルトルトのほうが優しいです」ギュッ

ライナー「は?」

ベルトルト「サシャ? なんで僕の腰にしがみついてるの?」

サシャ「だってベルトルトはよくわからないことで怒ったりしませんもん! ベルトルトのほうがいいです!」ギュウッ

ライナー「……へえ」

ベルトルト「……」ダラダラダラダラ


ライナー「……そこをどけ、ベルトルト」

ベルトルト「言われなくてもそうしたいよ!」

サシャ「ベルトルト、動いちゃダメですよ」ガルルルルル...

ベルトルト「君がしがみついてるから動けないんじゃないか! もう、放してよ!」ジタバタジタバタ

ベルトルト(ライナーは話を聞いてくれそうにないし、サシャは全然放してくれないし……もう頼れるのは……!)

ベルトルト「アニ、助けてくれ!」

アニ「終わったら呼んでー」サクサクサクサク

ベルトルト「アニイイイイイイイイイ!!」

アニ「うるさいな。ミーナのお土産台無しにしたら全員畳むからね。後は勝手にやりなよ」ギロッ

ライナー「ああ、こっちのことは気にするな。お前はそいつ食ったままでいいぞ」

サシャ「……」ムーッ...

ベルトルト(ううっ、ずるいよアニ、自分は知らないフリなんて……)


アニ(……こういうの、なんて言うんだっけ)

アニ(ええっと……「前門の虎、後門の狼」だったかな。帰ったらアルミンにでも聞こう)

アニ(……前門のライナーと、後門のサシャか)

アニ「……」

ベルトルト(あっ、アニが何か手信号で喋ってる……!)





アニ『前門のピュアゴリラまでは思いついたんだけどサシャは何にしたらいいと思う? 芋は生き物じゃないよね?』クルクルッ パッパッ





ベルトルト「どうでもいいよ!!」

サシャ「どうでもよくなんかないですよ!」

ライナー「そうだぞベルトルト、当事者なんだからお前も真剣に考えろ!」

ベルトルト「」ブチッ


ベルトルト「……サシャ、放してくれ」

サシャ「でも……」ギュッ

ベルトルト「僕にしがみついてても、ライナーと仲直りはできないよ? ずっとこのままでいいの?」

サシャ「……それは嫌です」

ベルトルト「じゃあ、放してくれるかな」

サシャ「……」

ベルトルト「大丈夫だよ。ライナーは話せばわかってくれる人だってことは、君もよく知ってるでしょ?」

サシャ「はい、知ってます……すみませんでした、ベルトルト。わがまま言って」パッ

ベルトルト「うん、放してくれてありがとう。それに、わかってくれて嬉しいよ」


アニ「……終わった?」サクサクサクサク

ライナー「いや、まだだが……ベルトルトと先に帰ってていいぞ、アニ」

アニ「そうするよ。早く帰らないとお菓子傷むし。ユミルたちのお土産も私が持ってくから、あんたたちはゆっくり来なよ」

ベルトルト「待って。――帰る前にちょっといいかな、ライナー」

ライナー「なんだ?」

ベルトルト「……君ね、やることやる前にちゃんと言うこと言いなよ」ヒソヒソ

ライナー「そのことはもう話しただろ。――俺は、言うつもりはないんだ」ヒソヒソ

ベルトルト「そうじゃなくてさ……それ以前に言うこと、もっといろいろあるでしょ」

ライナー「それ以前……?」

ベルトルト「僕にだってできるよそれくらい。エレンやコニーでも普通にやってることだろうね」

ライナー「……?」

ベルトルト「僕が教えてあげるのはここまで。後は自分で考えなよ。――じゃあ、また後でね」


―― 街中

アニ「お疲れ、ベルトルト」スタスタ...

ベルトルト「……本当に疲れたよ。サシャったら、何の前触れもなしにいきなり泣くからびっくりした」テクテク...

アニ「サシャは本能で生きてるからね。……見てるだけなら結構面白いよね、あの子」

ベルトルト「……うん、そうだね」

アニ「あんたがライナーに説教してるところ、はじめて見たよ」

ベルトルト「……あれ、説教って言うかなぁ」

アニ「そう見えたけどね。……もう少し色々言ってもいいんじゃないの? そっちのほうは私は好きだけど」

ベルトルト「え? す、好きってどういう……?」ドキッ

アニ「何も言わないで黙ってるよりは、はっきり言ってるほうが見ててすっきりするからね」

ベルトルト「……ああ、そういう話か」

アニ「?」


ベルトルト「……ねえ、アニはどう思う? ライナーとサシャのこと」

アニ「どうでもいい」サクッ

ベルトルト「どうでもいいって……」

アニ「この訓練生活は、私たちが卒業後に憲兵団に入るまでの単なる過程でしょ」サクサク

アニ「その過程がどうであれ、最終的に決断できるなら、私は文句言わないよ」サクサクサクサク

ベルトルト「……アニ、僕は真面目な話してるんだけど」

アニ「……あ、や、ごめん……これおいしくて……///」カァッ...

ベルトルト「さつまいもスティック?」

アニ「……食べる?」スッ

ベルトルト「じゃあ一本だけもらおうかな」スッ

アニ「……」サクサクサクサク

ベルトルト「……おいしいね、これ」サクサクサクサク

アニ「でしょ?」サクサクサクサク


アニ(二人きりか……ユミルが言ってたのって、このタイミングでいいのかな)

アニ「あ、あのさ。……ベルトルト」

ベルトルト「何?」サクサク

アニ「今日の服さ、あんたとお揃いなんだけど……気づいてた?」

ベルトルト「え? ……あっ、本当だ」

ベルトルト(そういえば、いつものパーカーじゃない……髪ばっかり見てて気づかなかった……)ジッ...

アニ「……あんまりじろじろ見られると、恥ずかしいんだけど」プイッ

ベルトルト「あっ……ごめん、そうだよね」プイッ

ベルトルト(狙って選んできた……わけじゃないよね。アニはパーカー好きだし。ということは……)

ベルトルト「ミーナにでも勧められた? その服」

アニ「違うよ。ユミルの提案」

ベルトルト(……やっぱりね)

アニ「……だけど、着ようって決めたのは私」


ベルトルト「……え?」

アニ「さっきのサシャと同じだよ。……ベルトルトがどういう気持ちなのか、知ってみたかったんだ」

ベルトルト「僕の気持ち……?」

アニ「最近……じゃないね。訓練所に入ってからさ、一緒にいる機会少なくなっちゃったから。あんたが何を考えてるのか、知りたくなったんだ。……服一つで、そんな変わるわけないけど」

ベルトルト「……」

アニ「きついことだと思うけど……知ろうとする努力は、やめちゃいけないと思うからさ」

ベルトルト「……矛盾してるよ、さっき言ってることと。どうでもいいのに知らなきゃいけないって、おかしいよ」

アニ「……そうかな、よくわからない」

ベルトルト「……君も、兵士になりたいの?」

アニ「まさか。そんなわけないよ」

ベルトルト「……どういう気分だった? その服着てみて」

アニ「意外とあったかいね、これ。……悪くない気分だよ」

ベルトルト「……そっか」


―― 同刻 街中

ライナー「……」スタスタ...

サシャ「……」テクテク...

サシャ(気まずい……)

ライナー「……何回目だっけか、こういうの」

サシャ「……もう、数えてないです」

ライナー「数えてないほど回数重ねてるってのも、すごい話だよな」

サシャ「エレンとジャンみたいですね」

ライナー「……なんでそこであの二人が出てくる?」

サシャ「アニと話してたんですよ。あの二人の喧嘩って、もう求愛ダンスみたいなものだって」

ライナー「確かにな。……あいつらもよく飽きないよな」

サシャ「ふふっ、ですね」


サシャ(あれ? ……なんか、いつも通りに話せてますね)

サシャ(ライナーもいつも通りですし、これでいいんでしょうか……?)

サシャ(――ってそんなわけないですよ!!)

ライナー「そういやさっき、喫茶店の前でエレンとジャンが――」

サシャ「あの、この前のことなんですけどっ!」

ライナー「」ピタッ

サシャ「私、どうすればよかったのか教えてくれませんか?」

ライナー「……あれは、もういいぞ」

サシャ「でも……」

ライナー「あのな。俺がこの前やったことは、その辺りのガキに立体機動装置渡して、巨人倒してこいって言ったようなもんだ。そんなに気に病まなくていい」

サシャ「……私、やっぱりまだ子どもだったんですね」

ライナー「いいや、ガキは俺だった。……すまん」


サシャ「謝らなくていいですよ。私も……すみませんでした。子どもでも、できることはちゃんとするべきでしたよね」

ライナー「できること?」

サシャ「わからないことは、ちゃんと聞きます。この前約束したばかりなのに、忘れちゃってました」

サシャ「教えてくれるって言ってましたもんね。……もう忘れません」

ライナー「……あのな、先に言っておくが、そんなに面白いことでもないぞ?」

サシャ「……こんなこと言ったら、ずるいかもしれませんけど」

サシャ「ライナーに教えてもらえるんだから、どんなことだって……きっと楽しいですよ」ニコッ

ライナー「……これだもんなぁ」

サシャ「?」キョトン

ライナー「わかった。じっくり教えてやる。だからもうちょっと色々覚えような。お前は」ポンポン

サシャ「じゃあ手始めにズッコンバッコンの意味から」

ライナー「でかい声で話すんじゃない! ……あと、それはまだ早い」


サシャ「あの……よかったら、手を繋いでもらっていいですか? 訓練所の前まででいいですから」

ライナー「おう、いいぞ」スッ

サシャ「じゃあ、失礼しますね」ギュッ

ライナー(やることやる前に、言うことを言え、か……)

ライナー(しかもエレンやコニー、ベルトルトも言えること……)ウーン...

ライナー(……ダメだ、わからん)

ライナー(ベルトルトは何を言いたかったんだ? 今のサシャに何を言ってやればいいんだ?)チラッ

サシャ「……えへへ」ニヘラー

ライナー(……うん、かわいいな。やはりサシャは笑った顔が一番だ)ポンポン

サシャ「どうかしました? もしかして、髪に何かついてます?」ワシャワシャ

ライナー「いいや、何もついてないぞ」


―― 夕方 食堂

ベルトルト(うわぁ、混んでるな……ライナーは見当たらないし、どこに座ろうか)キョロキョロ

ジャン「おーいベルトルト! こっち来いよ!」

ベルトルト「あ、ジャン……隣いいの?」

ジャン「おう、座れ座れ。――それにしても災難だったなベルトルト。夫婦喧嘩に巻き込まれたんだって?」

ベルトルト「うん。勘弁してほしいよね」

マルコ「……」ジーッ...

ベルトルト「……? 何? マルコ。僕の顔に何かついてる?」

マルコ「いや、最近はベルトルト、僕たちのテーブルによく来るからさ。一緒に話せて嬉しいなって思ってね」

ベルトルト「……そんなに来てたかな、僕」

コニー「隅で一人で食ってるよりいいだろ? ――そうだベルトルト、今度俺に座学教えてくれよ! ジャンの奴、教え方は上手いんだけど口が悪くてさー。マルコに毎回頼むのも悪いしよ」

ジャン「なんだとコラ」ガタッ

コニー「本当のことだろ! なあいいだろベルトルト、暇な時でいいからさー」

ベルトルト「……うん。今度ね、コニー」


―― 夕食後 女子寮 ミカサたちの部屋

ミーナ「うう、今日も疲れたぁ……」グッタリ

アニ「お疲れさま。……はい、これ」

ミーナ「……? これなぁに?」キョトン

アニ「お土産。傷むから早く食べて」

ミーナ「えーっ!? いいの? よくサシャに取られなかったね?」

アニ「あの子に目をつけられる前にさっさと帰ってきたからね。それに、サシャは他人への贈り物に手を出すほど馬鹿じゃないよ」

ミーナ「そっかぁ……へえ……」ジーッ...

アニ「……お菓子控えてたんだよね。やっぱりいらないかな」

ミーナ「ううん、そんなことない! すっごい嬉しい……! ――ありがとうアニ、だいすきーっ!」ギューッ!!

アニ「……暑苦しいよミーナ、離れて」


ミーナ「ふふっ、ごめんね? ……食べる前にお茶入れよっか。それで、二人で半分こしよ?」

アニ「私は食べてきたからいいよ。ミーナが一人で食べて」

ミーナ「だーめっ! おいしいものは誰かと分け合わないとね!」

アニ「……その言葉、サシャも言ってたよ」

ミーナ「あはは、サシャに食を語らせたら訓練兵団一……いや、壁内一かもね?」

アニ「そうかもね」クスッ

ミーナ「それで? 今日はみんなで何を分けあってきたの? お茶飲みながらでいいから、アニの話が聞きたいな」



アニ「うん。……あの子には、いいもの分けてもらったよ」





.




           ※     ※     ※     



ミーナ「おいしいねー、このお菓子! お茶にもよく合うし」

アニ「うん、おいしい」

ミーナ「来年も同じ企画やるかな? モンブランっていうの、私も食べてみたいな」

アニ「店の状況によるでしょ、そんなの」

ミーナ「そっかぁ……あっ! そうだ、来年は一緒に行こうよ!」

アニ「……え?」


ミーナ「二人とも彼氏作って、お休み取って、あそこのお店に行くの! 決まりね!」

アニ「……」

ミーナ「でも、来年の今ごろって私たち何やってるのかなぁ……お休み取れるかなぁ……」

アニ「……さあね、知らないよ」

ミーナ「アニはもちろん憲兵団に行くんだよね? 私はどうしようかなぁ……調査兵団はちょっと怖いし、やっぱり駐屯兵団かな」

アニ「……そう」

ミーナ「でも、壁の外の世界を見てみたいって気持ちもあるんだよね。エレンやアルミンが話してるのたまに聞くけど、楽しそうでさ。ウミっていう湖とか、この目で見てみたいし」

アニ「……行かないほうがいいよ。壁外なんか」

ミーナ「そう? ……でも私、アニの故郷に行ってみたいな」

アニ「……私の故郷?」


ミーナ「うん。私、トロスト区から一歩も出たことないからさ。アニがどういうところで育ってきたのか知りたいかも」

アニ「……」

ミーナ「それでね、アニのお母さんとお父さんに挨拶して、『ウチの子を頼みます!』みたいなやりとりしちゃったりね? ……ってこれ、結婚前に挨拶行く恋人みたいだね。あはは」

アニ「……」

ミーナ「私、卒業してもお休み作って会いに行くからね? それで、二人でお菓子食べようね。……あ、サシャも憲兵団に行くのかな? そしたら三人で集まろうよ! きっと楽しいよ?」

アニ「……無理だよ、そんなの」

ミーナ「アニが無理でも私が行くよ! どうせ大した仕事もらえないだろうしね。きっと私、アニに比べたら暇だもの」

アニ「……嫌だってば」

ミーナ「もう、素直じゃな……えっ、アニ? 泣いてるの? どうしたの? もしかして私、変なこと言った?」

アニ「違うよ、埃が目に入っただけだから。……なんでもないよ」







おわり

終わりです。読んでくださった方ありがとうございました
というわけでベルアニでした。ベルユミ期待していた方がいたら本当にすみません……ベルアニ少なかったので書いてみたかったんです

そんでもって今回のオマケは幼なじみ三人組+ジャンです。読みたい方だけどうぞー


―― 喫茶店前

ミカサ「――いいえ違います、三人じゃありません。これは……一つのサンドイッチです!」ムギューッ

アルミン「あの、ミカサ……一応僕も男の子だから、こういうのは恥ずかしいんだけど……///」カァッ...

エレン「ミカサ、食いたいのはわかるけど無理があるってこれ……」

ミカサ「見てわからないんですか? 私たちは三人で一つなんです! もう一生離れません!」

エレン「離れねえと訓練できないなー」

アルミン「僕も、本を読む時は一人で読みたいなぁ」

ミカサ「えっ、四人目……? しかも女の子じゃないと認めない……? そんな、待ってください! 私たちの間に他の誰かが入り込む余地はありません! 見てくださいほら!!」グイグイグイグイ

アルミン「いたたたたたたたた痛い痛い痛いよミカサ痛いってばぁっ!!」メキメキメキメキ

エレン「あだだだだだだだだミカサお前ちょっと待てって力の加減考えろ!!」メリメリメリメリ


―― 数分後 少し離れた路地

ミカサ「……」ムスッ

エレン「あー……首痛ぇ」サスサス

ミカサ「……あの店員は、いじわる」プクーッ...

エレン「お前が無茶なわがまま言うからだろ?」

ミカサ「……この世界は、残酷だ」ムー...

エレン「いつまでもしょぼくれてんなよ。――ほら、これでも食って元気出せ」スッ

ミカサ「……これは何?」ジーッ...

エレン「さつまいもスティックだってよ。うまいぞ」サクサク

ミカサ「……おいしい」サクサク

アルミン「ねえ、僕は外で待ってるからさ。二人で食べてきなよ」

ミカサ「だめ。おいしいものは三人で食べたい」

エレン「……だってよ」

アルミン「うーん……そう言われてもなぁ……」


ミカサ「……作戦を考えた」スクッ

アルミン「嫌な予感がするけど一応聞こうか。何?」

ミカサ「三人がダメなら、エレンとアルミンが一つになればいい。これで男女二人になれる」

アルミン「じゃあ、僕たち肩車でもすればいいのかな」

ミカサ「そんなことをしたらすぐバレる。これから私が教えるから、その通りに動いてほしい」

エレン「アルミン、マトモに聞かなくていいぞ」

アルミン「まあ、聞くだけは聞こうよ。……それで? 僕たちは何をすればいいの?」

ミカサ「まずエレンがアルミンをおんぶする。するとエレンは両腕を使えなくなるから、アルミンがエレンの腕の代わりをする」

アルミン「……終わり?」

ミカサ「終わり」

アルミン「……それ、すぐバレると思うよ」

ミカサ「……」ジトッ...

アルミン「そんな目で見られても……」


ミカサ「わかった。この方法は諦めよう」

アルミン「ああ、よかった――」ホッ

ミカサ「あの店員を説得してきたほうが早い」ジャキンッ!!

アルミン「よくなかった!!」

ミカサ「私の特技は……肉を削ぐこと……」スッ

アルミン「さつまいもスティックじゃ人の肉は削げないよ!? ――エレン、ミカサを止めてよ!」グイグイグイグイ

エレン「……なあ、三人なんだから問題なんだよな? じゃあ、四人目を連れてくりゃいいんじゃねえの?」

アルミン「それはそうだけど……これから兵舎に戻って探すんじゃ、夕食の時間に間に合わないよ? しかも女の子じゃないとダメだって言ってたし……」

ミカサ「仕方がない。こうなったらエレンを女の子にしよう」ガシッ

エレン「は? いや俺が女になったところで何も解決しない――ってやめろ! シャツ引っ張るなよ!!」ジタバタジタバタ

アルミン「ミカサやめてあげてよ! ね? ね?」オロオロ





ジャン「……何してんだお前ら。こんなところで」


ジャン「休みの日も三人揃ってお出かけか? 仲のいいこったな」ケッ

エレン「……」

アルミン「……」

ミカサ「……」

ジャン「な、なんだよ。そんな目ぇ丸くして驚かなくたっていいだろ?」

エレン「……ジャン。何か言い残しておきたいことはあるか?」

アルミン「辞世の句を詠むなら僕が書き留めておくよ?」

ジャン「……? おい、何の話だ?」


エレン「短い人生だったなぁ……かわいそうに……」

アルミン「そうだ、君の実家はトロスト区だったよね? 最後にご両親に挨拶しておく? それくらいの時間は――」

ジャン「なんだよ、揃いも揃って気持ち悪い笑い方しやがって……あれ? そういやミカサは?」キョロキョロ

ミカサ「――ジャン。とても、いいところにきた」ガシッ

ジャン「え? え?? ミカサお前、いつの間に後ろに回り込んで――」

ミカサ「大丈夫。恐れることはない……」





ミカサ「――私があなたを、素敵な女の子にしてあげる」ニッコリ

ジャン「」


ミカサ「あなたが女の子になれば、私はお菓子を食べられる。――違わない?」

ジャン「いや……違わない? って聞かれても」

ミカサ「よーうこーそしーんせかいーへー♪」ズルズル...

ジャン「待った待った待った待った! ――女装するなら俺じゃなくてアルミンのほうが体格的にいいだろ!? ちゃんと見てみろよ!」

ミカサ「……ふむ。一理ある」ピタッ

アルミン「ええええええええええちょっと!?」

ミカサ「ジャン。エレンとアルミンの隣に並んでほしい」

ジャン「ああ、任せとけ!」ダッ

ミカサ「うーん……」ジーッ...

アルミン「ね、ねえミカサ、最初に言った通りに、ジャンを女の子にしとこうよ、ねっ?」オロオロ


ミカサ「……さて、行こうアルミン」ガシッ

アルミン「!? なんで僕なのさミカサ!?」

ミカサ「バランスの問題。三人の中では一番アルミンが女の子らしい。ので、仕方がない」ズルズル...

アルミン「いっ……嫌だああああああああっ!! エレン助けて! エレーン!!」ズルズル...





ジャン「……止めなくていいのか?」

エレン「じゃあお前が女装してこいよ、ジャン」

ジャン「……やっぱいいや」


―― 三十分後

       \ヨンメイサマハイリマース/          \ソレデハゴユックリー/

アルミン「ひ、ひどいよぉっ、ミカサぁ……っ!」グスグス

エレン「ミカサお前……ふりっふりのスカートって……鬼畜すぎるだろ……」

ジャン「その頭のでっけえリボン重くないのか? アルミン」

アルミン「重いに決まってるじゃないかぁっ!!」ギロッ!!

ジャン「わ、悪い……」ビクッ

ミカサ「でも、アルミンは着替え中ずっと抵抗しなかった」

アルミン「必死に抵抗したよ! でもミカサが強すぎたの!!」グスグス

ミカサ「……ごめんなさい」シュン

アルミン「今回だけだからね、もう……」パクッ

アルミン「……あ、これおいしい」ホンワカ

ミカサ「でしょう? ――エレンは? どう? おいしい? おいしい?」クイクイクイクイ

エレン「俺はともかくお前はどうなんだよ。食べたかったんだろ?」

ミカサ「うん、とてもおいしい」ホンワカ


ジャン(はぁ……便宜上とはいえ、俺とアルミンがカップルになるのかよ……)

ジャン(正直、複雑だが……ミカサが嬉しそうだからいいか)チラッ

ミカサ「……♪」モグモグ

ジャン(かわいいな、ミカサの奴……こんなに喜ぶミカサが見られただけで、充分役得だよな)

ジャン(……目に焼き付けておこう)

ミカサ「……」ジーッ

ジャン「あ、悪い。見てたわけじゃ――」

ミカサ「……」チラッチラッ

ジャン「? ミカサ、どうした?」

ミカサ「あの……そっちも、食べてみたい」

ジャン「!? 俺の食いさしだけどいいのか?」

ミカサ「はしたないのは自覚している。でも……」ショボーン...

ジャン「いやいやいやいや、全ッ然はしたなくねえって! すっ、好きなだけ食えよほら!!」ブンブンブンブン

ミカサ「なら、私のもあげる。もらってばかりだと不公平」スッ

ジャン「ふぁっ!?」ビクゥッ!!


ジャン「あ、あああ、あああああああ……?」プルプルプルプル...

ジャン(み、ミカサの……ミカサと、ミカサと間接キス……!?)プルプルプルプル...

アルミン「ジャン大丈夫? 顔真っ赤だよ? 茹で上がってるよ?」ユサユサ

エレン「おいミカサ、ジャンにちゃんとお礼言えよ。ここまで付き合ってもらってんだから」

ミカサ「うん、わかってる」

アルミン「!? ミカサちょっと待って!! 今のジャンにそんなことしたら――」



ミカサ「ジャン、今日はありがとう。あなたのおかげ。……嬉しかった」ニコッ


ジャン「……」

ジャン「」ボンッ!! バターン!!

アルミン「ジャンが爆発した!?」ガタッ

エレン「おいどうしたぁ!? ジャーン!! ジャーン!! しっかりしろー!!」ユサユサユサユサ



ミカサ「……うん、やっぱりみんなで食べるとおいしい」モグモグ





おわり


というわけでジャンが食べさせあいっこした話でした
本編+オマケかなり推敲しましたけど、今回長いのでどこかしら矛盾があるかもしれないです

次こそはライナーがサシャにかわいいって言ってくれる   はず
次回はみんなで芋を食う話なので、また遅れる&長いかもしれません


あと現実じゃまだ秋になったばかりですけど、もう少ししたら季節を冬に動かす予定なので、何か見たい秋のイベントやネタなどありましたら教えていただけると助かります
収穫祭のような祭ネタは考えてるのでそれ以外で 書けなかったらすみません


山岳訓練は秋(原作11巻)冬(原作10巻)の両方やりたいと思う反面、シリーズが延びるのでどうしようかと考え中

乙!!
自分はこのシリーズ終わって欲しくないと思ってるくらいなので、伸びるのは一向に構わん!!

いいねえ(・∀・)

乙でした!最後のアニとミーナのやり取りが切ない……

平和な104期生をもっと見ていたいので、秋冬両方のエピソード是非書いてほしいです

乙!一策目から読んでます
アニとミーナ切なくていいね

やっとリアルタイムに遭遇した。
ずっと追っかけるぐらいこのシリーズ好きです

紅葉とか見に皆で出掛けれたらいいですね

乙!ベルアニ好きだからほっこりした。

ジャンが少し報われてよかったじゃん

毎回すげー好き!いつもありがとう!
話が伸びるのは正直大歓迎!

乙ありがとうございます、嬉しいです!
>>102さんの紅葉狩りが上手く盛り込めそうなので、次回の話に組み込みたいと思います。ネタ提供ありがとうございました、助かります!
それと、読みたいと言ってくださる方がいるので山岳訓練も秋冬両方やっちゃおうと思います

というわけで次回芋の話+紅葉狩り、次々回山岳訓練、その次でお祭り(幼児化ネタ)の話をしてから冬に入る予定です というわけでまた来週!



サシャが可愛くて素敵です。今回のおまけも含めてほんわかしていていいです。


秋ネタなら、収穫祭、体育祭、読書、ワインの樽だし、オクトーバフェスとかじゃないですか?
サシャならきっと食欲の秋になると思います。

待ってました♪やっぱりライベルアニのあの設定は生きてるんですね…。

乙!このシリーズ大好きです
次も楽しみにしています

ライナーがデレている…


いいぞもっとやれ

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