霧切「苗木君、貴方には死んで欲しかった」 (32)


囮にしようとした、見捨てようとした

それなのに、苗木君は凌ぎ切り生き残った

嬉しい半面、なぜ死んでくれなかったの。と、

対立する2つの感情に苛まれながら彼の無事を確認する

「あ、霧切さん」

「……大丈夫なの?」

「うん、ちょっと危なかったけど……なんとか頑張れたよ」

彼はそう言って笑う

間違った考えを正当化している苗木君を、

今すぐ論破し、私についての考えを改めさせ、

金輪際の接触を絶ってしまいたい……

でも、やはりそうしたくない自分がいる

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2階の隠し部屋で殴られた時も、

苗木君は私を責めることはなかった

たまたま運悪く黒幕に見つかり、殴られた。と、

彼はそう解釈した

でも、私はそうなるであろう危険性を知りながら教え、

あろうことか忠告をしなかった

いいえ、違う

周囲の警戒をしてあげなかった

なのに……彼は私を責めなかった

今回だってそう

苗木君のことを助けようとはせず、

そのまま死んでほしいとさえ願っていたというのに、

自分が信頼に値するかどうかを確かめるためにあえて何もしなかった。と、

人によっては馬鹿だと笑われるような解釈をしてまで私を疑わなかった


「あのさ、霧切さん」

立ち去ろうとした私を、苗木くんが呼び止める

「何かしら」

いや、呼ばれたことで私が立ち止まった。私の意思で

「えっと……少し話がしたいんだけど」

冷たく切り離そうか、

誘いを受けて、そこで全てをばらしてしまおうか

それとも……いっそ自分の手で殺してしまおうか

私の頭をめぐる回答はそればかりで、

無駄に過ぎた時間が回答権を奪い、彼を俯かせた

「ごめん、無理なら良いんだ」

「……良いわ。雑談じゃないのなら」

「え?」

「二度は言わないわ」

気づけば受けていた

殺すつもりでもなく、すべてをばらすつもりでもなく、

何も考えず、落ち込む彼を見て私は答えてしまった

苗木君に対して不要な思いを抱く半分の私

「……このまま苗木くんの部屋で話して平気な事かしら?」

「うん、平気……だと思う。みんなにはあまり聞かれたくないことだしね」

そう言いつつ、彼は小さく笑う


「僕はずっと考えてたんだ。僕達は学園の外を出るべきかどうかって」

「……どういうこと?」

「これはあくまでも僕の個人的な見解だから本気にしなくてもいいんだけど――」

苗木君はそう前置きをすると、私をまっすぐ見つめてきた

ベッドに座る苗木君と立ったまま見下ろす私

その私たちを包む沈黙。

彼は言いにくそうに口を開き、やがて言い放った

「この学園は『殺しあえ』というものさえなければ、監禁というよりは隔離だと思うんだ」

「……どうしてそう思うのかしら?」

「ほぼ無限に支給される食料、拘束されるわけでもなく自由な体」

確かに、監禁するなら自由なのはおかしいのかもしれないけれど、

でも、殺し合ってもらうのが目的なら食料も自由も普通だと思う

「……それで?」

「うん。加えて絶対に見せてもらえない学園の外、アルターエゴの見せてくれた仲が良い僕達の写真」

苗木君はそこまで言うと、

自分の手を握り締め、俯いた


言いたくないのか、言えないのか

「早くしなさい」

辛そうな彼を前にして私は回答を催促し、

頷く彼に心を痛める愚かしい自分にため息をついた

それも、苗木君は自分に対してだと感じたのか、首を横に振った

「本当は僕らは知り合いで、何らかの衝撃的な出来事によって全てを失い、記憶も失った」

続けようとした彼の唇は震え、瞳は私を捉えて放さない

「そして何らかの理由によってこの学園に隔離された……崩壊、または汚染された世界から守るために」

「……ありえない。とは言えないけれど途方もない話ね」

もしもそれが真実なら、殺し合わせる理由がわからない

その矛盾を頭に響かせ、彼の言葉を否定する

「でも、ならなぜ殺しあわせる必要があるのかしら? 守るためならそんなことは普通しないわ」

「そこで16人目の高校生だよ」

「16人目……」

「そう、霧切さんの見つけた名前。戦刃むくろ。彼女が16人目なんだ」

穴はあるけれど、確かな理由に基づいた苗木君の考え

その最後の言葉を、彼は言った

「16人目の彼女によって守るという目的がこんな監禁された殺し合いゲームにされてしまったんだ」

「………………」

否定するための言葉を探す。

認めたくない現実から逃れるための一手を探す

「苗木君――……」


「……最悪ね」

鍵を返され、久しぶりに入った自分の部屋

真っ先にベッドへと倒れこみ、漏らす言葉

結果から言えば、私は彼の考えを否定できなかった

否定のための情報不足

もっとも、彼が前置きしたように、

個人的な見解でしかないのだから本気にしなければいい

「でも、考えられないことじゃない」

元々戦刃むくろが黒幕ではと考えていた私は、

聞かされたせいでそうではないかと思ってしまう

否定しないと、否定できないと……それを認めたら、出る理由がなくなる

出れば絶望しかない世界なら、出ずにいるべき

そう考える私の脳裏に浮かぶのは、その全てに対して答えを得るための手段

「……苗木君を殺して外に出れば良い」

思わず口から飛び出した言葉を掴もうと腕が伸び、

空を切るその手は震えていた

苗木が物凄いゲスかと思ったら違ったでござる

いいと思います

変態じゃない霧切さん


「なにを恐れているのよ……」

止まらない震えが共振のように恐怖や不安を増幅させていく

「なら、苗木君と一緒にいることを肯定するの?」

いいえ、それは嫌よ

ええ、そうした方が良いわ

対立する心の言葉がぶつかり合う

「……………」

ゆっくりと手袋を外していくと、

焼け爛れた手が視界を埋め尽くす

医者を抜いて誰にも見せたことのない過去の傷

信じたことで裏切られ、焼かれた両手

それが心の半分が苗木君を拒絶する理由

死んで欲しいと願う理由、殺したいと思う理由

「……だって、仕方ないでしょう?」

自分の心に言い聞かせるように呟く

「許してしまいそうなんだもの……彼なら全てを委ねるほどに信じても良いって……」

怖い。裏切られるのが

人並みにあるといった感情。それが私を苦しめる

嬉しいことや楽しいことがあれば笑う、悲しいことがあれば泣き、苛立てば怒る

「……こんな記憶、忘れていれば良かったのに」

それがなければここで彼と過ごすことに拒否反応を示すこともなく、

この両手が痛むことなんてなかったのに

「……悪いわね、苗木君」

押さえつけた半心を閉じ込め、震えを止める

「私は貴方を殺すわ」


殺すのはそう難しいことじゃない。

そして、それがバレないようにするのも難しくない

たいていの推理は私と苗木君によって行われ、

それは学級裁判でも同じ……いえ、むしろ

学級裁判における要は苗木君の推理

それは表向きで、私自身で推理をし、彼の推理の手助けをしなければ

学級裁判は最初の時点で終わる可能性さえあったのだけど……ともかく。

裁判の要である苗木君の死、私がクロになることによる推理の手助けの中止

そうなれば、ミスリードの推理を披露することで、

間違いなく勝ち残ることができる

「……言動には気をつけて、基本無口で居るべきかもしれない」

セレスティア……本名安広多恵子の計画はほとんど完璧だった

しかしながら、苗木君の前で「達」のたった一言を漏らしたがために論破されてしまった

「……苗木君の代わりになるほど人間がいない以上、無用な心配かもしれないけれど」

目を閉じ、殺害の計画を練っていく

確実に殺し、確実にバレない計画を――……


一旦中断します

セリフ前に名前なくても判るようにかけてる……かな?

おつ
自分はわかる

おつおつ
大丈夫、わかるぞ


もっとも安全かつ容易に殺せるのは毒殺

飲み物に仕込んだりするよりは、

時間発生型の毒物か、

時間経過により死に至る毒物かを彼の部屋に仕込むのが確実のはず。

または、薬品がある部屋で誰かと争った末に即効性の毒薬をぶちまけて死亡

という手もある

「……ただ、苗木君が狙われるというシチュエーションがやや難しい」

彼は誰からも嫌われていない……

「……私を除いて残った生存者の中で苗木君を嫌っている人は居ない」

でもだからと言って殺されないとは限らない

その理由は彼が学級裁判の要という重要な役割を担っていることにある

救われたい人間が学級裁判を生き残るには彼を殺す必要があるから

「そうしなければ、クロは確実に負け――っ!?」

「そぉだねぇ……でもさぁ!」

不意に私を影が覆った


グサッと腕に痛みが走った

「あな……た……」

「普通ならあんたみたいな女なんて狙わないんだけどさ!」

抜かれた血まみれの鋏が視界に映り、

それは再び体の中へとねじ込まれていく

「っ……ぁ……」

部屋に来た時点でくまなく調べるべきだった

苗木君のことで頭をいっぱいにして……馬鹿な私

「白夜様のためにッ死ね! あんたがいたらクロがばれるッ! だから……死ね!」

振りかぶったもう一本の鋏が私に狙いを定めて降りてくる

ベッドに横たわる私に逃げる術はない

逃げる……理由もない

このまま死んでも苗木君から逃げることはできる

そうわかっていたからこそ、私は小さく笑った

「!?」

「……早く殺して」

「はぁ!?」

「必要、なんでしょ……私にも死が必要だから」

早く殺してと願う。

でも、どうして、なんで、こうも私は上手くいかないんだろう

インターホンが鳴り、

「霧切さん、このあと探索に行こうと思うんだけど――」

入った声は嫌いな苗木君のものだった


「ッ、苗木!?」

「え? 腐川さん?」

彼女の声が扉の外へと届き、そして扉が開く

彼の超高校級の幸運の効果か、

彼が開けたのかは解らないけれど、

扉が開き、殺されそうな私と殺そうとする彼女を見られたという事実は変わらない

「な、何してるんだ!」

彼が叫び、

部屋にいたほかの人たちまで駆けつけてきてしまった

「腐川、何をしている」

「ぁ、ぇ、こ、これは、えっと……」

「何をしていると聞いている。さっさと答えろ!」

「ひっ……っ!」

十神君の声ですっかり萎縮した彼女は、みんなの間を抜けて逃げていく

「ふ、腐川っち!」

「あ、こらっ!」

みんなが追っていく中で、彼だけは残っていた

「……苗木、君」

「霧切さん、動いちゃダメだ!」


「怪我を見せて!」

「苗木く――!」

彼は躊躇なく服を捲り、

刺された腹部を露出させた

「良かった……傷はそこまで深くないね」

「は、早く放して」

パシッと彼の手を弾き、

服を元に戻してようやく、苗木君は自分のしたことに気がついたらしい

「ご、ごめん……心配だったんだ」

「だからって……っ」

「き、霧切さん、動いちゃダメだよ! 深くないって言っても刺されたんだから」

「っ……情けないわ」

横になり、独り呟く

殺そうと思った人に心配され、服を捲られ、

一人前に恥じらいを感じて、平然と会話をしている私が……情けない

殺すなんて決意は、風前の灯よりも簡単に消えてしまうようなものだった


殺されることが嬉しく思えてしまっていた

苗木君から逃げられると。

苗木君を殺さずに自分の苦しみを無くせると……喜んだ

「……苗木君」

「水でも持って――」

「違うわ、話を聞きなさい」

「う、うん」

戸惑う彼を見つめ、私は飲み込もうとした言葉を紡いでいく

今、私は動けない

つまり、逃げられない

私から離れていくだろう彼を止めることはできない

「私はね、貴方が生きていたことを素直に喜べなかった」

「……え?」

「苗木君、貴方には死んで欲しかったのよ。私は」


「隠し部屋のことだって囮に使っただけ」

「……………」

「ちょっと前のだってそう。私は試したんじゃなく見捨てただけ」

「……………」

苗木君は黙って話を聞いてくれる

聞き終え、彼は私を罵倒してくれるのかしら

それとも、殺してくれるのかしら

「今も……貴方を殺す計画を立てていたせいで油断した」

「……嘘だ」

「いいえ、嘘じゃないわ。あの時だってあなたの心配なんて――」

「それは違うよ、霧切さん。霧切さんが僕を心配してくれた時の言葉は感情を感じられた」

苗木君は容赦なく私の手を握る

そんな温かさなんて問題ないほどに熱くなったことのある手なのに、

私は耐えられないほどのモノに感じ、引こうとして、引き戻されてしまった

「霧切さんはいつも気遣ってくれた、助けてくれた……だから、嘘だ」

「っ……」

まっすぐ見つめてくる彼の瞳から逃れられず、

感情をむき出しにして紅潮していく表情を隠せず、

わずかにずれた手袋が抜け、

私の負った過去の傷ですら……彼の前に露見してしまった


「霧切さん、これ……」

「触らないで」

自由になった手をかばい、腹部の傷がわずかに痛む

それに顔を歪ませながらも、

私の瞳は苗木君に捉えられたままだった

「……貴方を信じるのが怖かったのよ」

「そのやけどと関係があるの?」

「……裏切られたのよ。信じたモノに。そのせいで私の両手は醜いものになった」

なぜか話してしまう。

止めることできずに、両手のやけどを彼に晒す

「……醜くなんかないよ」

「え?」

「……全然醜くない。霧切さんの過去を教えてくれる綺麗な手だよ」

「綺麗なんて……」

彼は冗談でそういうことを言える人じゃない

それを知っているせいで、言葉が詰まってしまった


「努力している手だって爛れたり、汚れたり傷ついたりしてるよね」

彼はゆっくりと手を伸ばす

恐れていた接触は、容易く受け入れられてしまった

優しい温かさが私の手を包む

「でも、汚いなんて思わない、醜いなんて思わない。それと一緒だよ」

「っ……ずるいわ、苗木君」

「そ、そうかな……僕は思ったことを言っているだけ――って霧切さん!?」

隠していた感情があふれていく。

一粒二粒……それは粒から流れへと変わっていく

「馬鹿、みたいじゃない……」

勝手に悩んで、苦しんで、

挙句に死んで欲しいと願い、見殺しにしようとし、

最終的には殺そうとまでして……

「……霧切さん、その、僕はこういう時どうしたら良いか解らないから、間違ってたら怒ってくれて良いから」

苗木君はそう言い、手ではなく私の体を包んだ


「………………」

嫌なわけがなかった

嬉しくてたまらなかった

今だけは、感情を隠したくないと思った

嘘をつきたくないと思った

「霧切さん――っ」

「……ごめんなさい」

目と目が合う

ほとんど密着しているような顔と顔が向き合う

「騙してごめんなさい、殺そうとしてごめんなさい……」

「ううん、良いよ。僕は生きてる、そして霧切さんはちゃんと後悔して反省して、謝ってくれた」

いつぶりかの涙は止まらない

それでも私は彼に対し笑みを見せる

「あり……がとう……」

「う、ううん……こちらこそ、なんていうか……ありがとう」

彼は少し恥ずかしそうに言い、続けた

「笑っている方が……霧切さんは良いね」

その言葉が嬉しくて、私の感情は一気に昂り、視線を逸らさざるを得なかった


抱き合ったままの私達を見られる前に、と、私達は離れた

少し名残惜しかったのは心の中に秘めた秘密

けれど、それもいつかは告げてしまうのかもしれない

「……腐川さん、どうなったんだろう」

「……あっちは十神君たちが何とかしてくれるでしょう」

「怒ってないの? 刺されたのに」

彼の不思議そうな問に、

私は思わず笑ってしまった

「な、なんで笑うの!?」

「ふふっ……ごめんなさい」

だって、そのおかげで私は苗木君との距離を縮められた

怒る理由なんてない。そしてなにより……

「……苗木君」

「なに?」

「私のこと、支えてくれないかしら」

そう言いつつ体を預けると、

「え、う――うわっとと……急に来られると困るよ」

少しよろめいて踏ん張ってくれた

体を支える。心を支える。

含めた意味に彼は気づいてくれるかしら

「ごめんなさい……それでどうかしら」

「うん、支えるよ。僕でよければ……霧切さんの全部を」

即答だった

「ぁ――……」

そのせいで言葉を失った私はきっと――さっきよりもずっと明るく笑っているのかもしれない


これで終わりです

霧切さんと苗木くんのちょっと幸せな話が書きたかったんだ

短く終わらせないと変になりそうなんだ……物足りなかったらごめん



あと、腐川さんに関しては悪利用で申し訳ない

>>26
乙!
欲を言えばもうちょっと書いてほしい

え?腐川はいつもの事だし…もう少しイチャイチャして欲しいですねー


あっさりしててよかった
乙!

いいふいんきだった

みじけえな
でも面白かった乙

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