霧切「苗木君、貴方には死んで欲しかった」 (32)


囮にしようとした、見捨てようとした

それなのに、苗木君は凌ぎ切り生き残った

嬉しい半面、なぜ死んでくれなかったの。と、

対立する2つの感情に苛まれながら彼の無事を確認する

「あ、霧切さん」

「……大丈夫なの?」

「うん、ちょっと危なかったけど……なんとか頑張れたよ」

彼はそう言って笑う

間違った考えを正当化している苗木君を、

今すぐ論破し、私についての考えを改めさせ、

金輪際の接触を絶ってしまいたい……

でも、やはりそうしたくない自分がいる

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1378592471


2階の隠し部屋で殴られた時も、

苗木君は私を責めることはなかった

たまたま運悪く黒幕に見つかり、殴られた。と、

彼はそう解釈した

でも、私はそうなるであろう危険性を知りながら教え、

あろうことか忠告をしなかった

いいえ、違う

周囲の警戒をしてあげなかった

なのに……彼は私を責めなかった

今回だってそう

苗木君のことを助けようとはせず、

そのまま死んでほしいとさえ願っていたというのに、

自分が信頼に値するかどうかを確かめるためにあえて何もしなかった。と、

人によっては馬鹿だと笑われるような解釈をしてまで私を疑わなかった


「あのさ、霧切さん」

立ち去ろうとした私を、苗木くんが呼び止める

「何かしら」

いや、呼ばれたことで私が立ち止まった。私の意思で

「えっと……少し話がしたいんだけど」

冷たく切り離そうか、

誘いを受けて、そこで全てをばらしてしまおうか

それとも……いっそ自分の手で殺してしまおうか

私の頭をめぐる回答はそればかりで、

無駄に過ぎた時間が回答権を奪い、彼を俯かせた

「ごめん、無理なら良いんだ」

「……良いわ。雑談じゃないのなら」

「え?」

「二度は言わないわ」

気づけば受けていた

殺すつもりでもなく、すべてをばらすつもりでもなく、

何も考えず、落ち込む彼を見て私は答えてしまった

苗木君に対して不要な思いを抱く半分の私

「……このまま苗木くんの部屋で話して平気な事かしら?」

「うん、平気……だと思う。みんなにはあまり聞かれたくないことだしね」

そう言いつつ、彼は小さく笑う


「僕はずっと考えてたんだ。僕達は学園の外を出るべきかどうかって」

「……どういうこと?」

「これはあくまでも僕の個人的な見解だから本気にしなくてもいいんだけど――」

苗木君はそう前置きをすると、私をまっすぐ見つめてきた

ベッドに座る苗木君と立ったまま見下ろす私

その私たちを包む沈黙。

彼は言いにくそうに口を開き、やがて言い放った

「この学園は『殺しあえ』というものさえなければ、監禁というよりは隔離だと思うんだ」

「……どうしてそう思うのかしら?」

「ほぼ無限に支給される食料、拘束されるわけでもなく自由な体」

確かに、監禁するなら自由なのはおかしいのかもしれないけれど、

でも、殺し合ってもらうのが目的なら食料も自由も普通だと思う

「……それで?」

「うん。加えて絶対に見せてもらえない学園の外、アルターエゴの見せてくれた仲が良い僕達の写真」

苗木君はそこまで言うと、

自分の手を握り締め、俯いた

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom