真「ボクと律子とプロデューサー」 (33)

TV『空振り三振でスリーアウト。ピンチを乗り切ったマウンドの三浦、ガッツポーズです』

真「よっし! さすが三浦、安定感が違うね」

律子「ただいまー」

律子「あら、真だけ?」

真「おかえり。小鳥さんも社長もどっか出かけたよ」

律子「分かったわ、留守番ありがと」

律子「それにしても……野球? あんたも好きねぇ」

真「選手が分かるようになってきたからね。律子は野球嫌い?」

律子「嫌いって訳じゃないけど。何時間もよく同じようなもの見れるなーとは思う」

真「あー。律子っぽいね」

律子「何よそれ」

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律子「っていうか、あんた、その席……」

真「へへっ」

真「ここに座ればプロデューサーと同じ景色が見えるのかなーと思ってさ」

律子「……少し、身長が足りないんじゃない?」

真「ひっどいなぁ。この一年で春香より高くなったのに」

真「……でも、やっぱり足りないよね。プロデューサー背が高かったし」

律子「そう? 貴音と同じぐらいじゃなかった?」

真「えー、何言ってるのさ。絶対貴音より高かった」

律子「うーん……まぁ真が言うならきっとそうなんでしょうね。ベッタリだったし」

真「そうだよ。ボクはずっとプロデューサーを見てたんだから」

律子「開き直ったわね」

真「うん。もう隠す必要もないからね」

真「プロデューサー、この椅子に座って何を考えてたのかな?」

律子「スケジュール管理、レッスン内容、ライバルの動向。考えることはいくらでもあるわよ」

真「さすが秋月プロデューサー。敏腕だね」

律子「茶化さないの」

真「いつも、朝はここで何かやってたよね。スケジュール組んでくれてたんだ」

律子「そうね……それも全員分。あれ結構大変なのよ」

真「でも最近、みんな自分でできるようになってきたもんね」

律子「おかげで私も楽になったわ」

真「少し寂しいんでしょ」

律子「うるさい」

真「一人でいると思うんだけどさ。事務所って結構広いよね」

律子「そう感じたなら、あなたが成長したってことよ。きっと」

律子「走り回ってる間はね、狭く感じるの」

律子「ふと立ち止まって、周りを見渡せるようになると広く感じるの」

律子「私もプロデューサーになった時に思ったわ」

真「……アイドルの中では上から三番目だからね。あの頃は周りに気を配る余裕も無かったし」

律子「そうね。あずささんも貴音も積極的に声を出す方じゃないから、真がみんなを引っ張ってくれるのは本当に助かるわ」

真「律子の世話焼きがうつったのかも」

律子「私はアンタの真似をしてたつもりなんだけどね」

真「えっ、うそ?」

律子「ホントよ。雪歩と二人でいる時の真をね」

真「……雪歩、今日はグラビアだっけ?」

律子「ええ。あの頃はあの子が一人でグラビアに行くなんて考えられなかったわ」

真「変わるもんだね」

律子「ホントね」

律子「そっか、真ももう18歳なのよね……あんた、進路とかちゃんと考えてる?」

真「あーあー聞こえなーい聞こえなーい」

律子「大事な話よ、真」

真「あーあーあー」

律子「アイドル以外の選択肢だってあるんだから、慎重に考えないと……」

真「あーあーあーあー」

律子「まーこーとー」

真「ご、ごめん律子。ちゃんと考える、考えるから今は真面目な話はやめようよ」

真「野球! 野球やってるから、ね!?」

律子「まったくもう……大事な時期よ、親御さんともちゃんと話し合って」

TV『ああっと石川手が出ました、空振り三振です』

真「あっ見てなった!」

律子「……はぁ」

律子「あんた、そんなに野球好きだったっけ?」

真「去年、暇だったときによくプロデューサーと見てたんだ」

律子「ああ、なるほど」

律子「……真、お茶飲む?」

真「淹れてくれるなら」

律子「分かったわ。少し待ってて」

TV(三浦、ランナーを出しましたがしっかり後続を抑えました)

P(よっしゃあっ! やっぱ三浦だよ、安定感が違う)

真(……プロデューサーって本当に横浜が好きなんですね)

P(ああ。真はスポーツ観戦好きだったな、どっか贔屓の球団はあるのか?)

真(いえ。見るのは好きですけど、これが好き! っていうのはないですね)

P(なるほどなー。どっかのファンになると勝敗が気になって仕方がないからな)

P(勝ち負けじゃなくて野球自体を楽しむ、それがいいと思うぞ)

真(確かに横浜が負けた次の日、プロデューサー少しムスッとしてますよね)

P(……ごめん)

P(……)

真(どうしたんですか?)

P(ああいや、真ならスポーツニュースとかいけるかなぁと思って)

真(あっ、それいいですね! よーし、仕事をバンバンとれるように頑張らなきゃ)

P(その意気だ。あ、でも今はいいぞ。さっきまでレッスンだったんだから大人しく座っとけ)

真(はーい)

P(素直でよろしい)

真(ボク、球場に行ったことないんですよ)

P(そりゃもったいないな。いい席で見ると本当に楽しいぞー)

P(周りも野球ファンだから、たまに知らないおじさんと喋りこんでしまったりな)

真(じゃあプロデューサー、今度一緒に行きましょう!)

真(東京ドームか横浜ならそんなに遠くないですし、日帰りで行けますよ!)

P(……そうだな。よし、今度暇を見つけて一緒に行くか!)

真(はいっ!)

真「……」

律子「……こと、真」

真「あっ、ごめん、何?」

律子「お茶。飲むんでしょ?」

真「うん。ありがと」

律子「プロデューサーのこと考えてたんでしょ」

真「バレた?」

律子「ええ。あんたがボーっとしてるときって大体そうだし」

真「……」

律子「お茶菓子は?」

真「食べる」

真「最近、なかなかみんなで集まれないね」

律子「皆、人気が出て来たもの」

真「ボクは暇だけどね」

律子「愚痴ってる暇があったらレッスンしなさい」

真「ボクも男の人からの人気が欲しいなぁ。女性ファンしかいないってことは、どんなに上手くいっても春香たちの半分しかファンがいないってことだし」

律子「そんな簡単な話でもないでしょ」

律子「それに、お前は可愛いアイドルとして通用するってプロデューサー言ってたじゃない」

真「……でも、実際は通用しなかった。律子がプロデューサーになって、カッコいい系で売り出してから仕事増えた訳だし」

律子「いい人がいいプロデューサーになれる訳じゃない。優しいだけじゃダメだって、あの人に教えてもらったのよ」

真「鬼軍曹の誕生秘話だね」

律子「誰が軍曹か」

真「鬼は否定しないの?」

律子「厳しくやってる自覚はあるつもりよ」

真「竜宮小町に選ばれなくてよかったよ」

律子「真は候補にも入ってなかったけどね」

真「ひどいなぁ」

律子「ダンスを売りにするユニットじゃないもの」

律子「っていうかねぇ。真、アンタ去年何してたか覚えてる?」

真「毎日レッスンでくたくただったよ」

律子「そう、そこなのよ。去年はレッスンばっかりでオーディションにも消極的だった。これで売れる訳ないのよねぇ」

真「プロデューサーのスケジュール管理がへたっぴだったってこと?」

律子「不器用な人だったし、100パーセント無いとは言えないけど。流石に無いでしょ」

真「じゃあどういうことさ?」

律子「最初っから次にバトン繋ぐ気だったんでしょうね。基礎が無い状態で仕事が増えたってすぐにボロが出るだろうし」

真「………………………………?」

律子「プロデューサーは畑を耕して種を撒いて水やって帰っちゃったのよ。で、いま私が収穫してる」

真「え……っと」

律子「あの人は楽天の野村監督。私は星野監督」

真「ああ、なるほどなー。律子、美味しいとこどりしてたんだ」

律子「違うわ! っていいたいけど、あながち間違ってないのよねぇ」

律子「いま私のプロデュースが成功してるのも、あの人が種を撒いてくれからだと思うと複雑な気持ち」

律子「何をやってもプロデューサーのおかげのような気がして、何か腹立つ」

真「律子も悩んでるんだね」

律子「そりゃ悩むわよ悩みまくりよ。モチベーション落ちっぱなしのアイドルにどうやってやる気を出させるか、とかね」

真「やる気が無い訳じゃないよ?」

律子「誰もあんたのことだなんて言ってないわよ」

真「でもボクのことでしょ?」

律子「そうよ。他の子に影響出したくないからユニット組ませる訳にもいかないし、素質は他に負けてないのにランク差は開いていっちゃうし」

律子「かといってレッスンをサボったりする訳じゃないから怒るに怒れないし」

律子「全く、トップアイドルを取るって意気込んでた頃の真はどこにいったのよ」

真「プロデューサーに連れて行かれちゃったのかも」

律子「本当にそうだから困ったわね。あれからずっと心ここにあらずって感じだし」

真「ねぇ律子」

律子「何よ?」

真「ボク、ずっと考えてたんだ」

真「プロデューサーがいなくなってから、なんか集中できないんだ。いつもボーっとしちゃってさ」

真「迷惑かけてるのもわかってる。でも、どうしてもダメみたい」

真「いつまでもこのままでいるわけにはいかないし」

真「アイドル、辞めようと思うんだ」

律子「……そう。真が自分で考えて決めたなら、私は何も言わないわ」

真「へへっ。律子ならそういうだろうなーって思ってたよ」

律子「でもあんた、進路は考えてるの?」

真「うえ。またその話?なんとかなるよ」

律子「ならないわよ。高校卒業なんてあっと言う間よ。大学、就職、色々道はあるわ」

真「ボクの学力で今から進学なんて出来ると思う?」

律子「こういう言い方は嫌いなんだけど、奇跡が起きればね」

真「思ってないんだね」

律子「プロデューサーである以上、学力も把握してるわ」

律子「……最近仕事が増えてきて、裏方の手が足りないのよ」

律子「なんなら、社長に話しておいてもいいわよ?」

真「……ありがと」

真「でも、リタイアしたのがいつまでも事務所にいたって、みんな気を遣うだけでしょ」

律子「……そっか。寂しくなるわね」

真「みんな忙しくて、事務所で会うのなんてボクと小鳥さんぐらいだもんね」

真「もしかしたら、ボクが辞めてもみんな気づかないかも」

律子「いくらなんでもそれはないわよ。もし辞めるなら、送別会もやらなきゃいけないし」

真「えー、いいよ。スケジュール合わせるのも大変でしょ」

律子「それを何とかするのもプロデューサーの仕事よ」

律子「……ま、あの子たちが素直に辞めさせてくれるとも思えないけど」

真「……っていうか、やっぱり手が足りてないんだね」

真「最近は社長も時々現場に行ってるみたいだし」

律子「社長は楽しんでやってるみたいだけどね」

律子「それでもやっぱり、全然足りないわ。プロデューサーをもう一人雇おうって話もあるけど……」

真「今更、っていう感じがするよね」

真「ボク達にとってプロデューサーはプロデューサーだけだよ」

律子「私は?」

真「軍曹」

律子「はい、お茶菓子没収ー」

真「あ、ごめん! ごめんってば! 秋月プロデューサー!」

律子「で、辞めた後、卒業した後はどうするつもりなの?」

真「……笑わない?」

律子「笑わないわよ」

真「ボクより強い奴に会いに行く」

律子「」

真「なんか言ってよ」

律子「」

真「律子ってば」

律子「」

真「笑わなかったけどさ。笑わなかったけどさ」

律子「言葉を失うってこういうことを言うのね」

真「笑ってくれた方が楽だったよ」

律子「……で、プロデューサーがどこにいるか分かってるの?」

真「」

律子「なんか言いなさいよ」

真「」

律子「真ってば」

真「心臓を握りつぶされたかと思った」

律子「オーバーね」

真「なんで分かったの?」

律子「女の勘」

真「ウソでしょ?」

律子「ホントよ」

真「……ウソだぁ」

律子「アンタならいつか言い出すんじゃないかってずっと思ってたわ」

律子「プロデューサー大好きで、行動力溢れるアンタならね」

真「うへぇ。ずっと悩んでたのにお見通しだったんだ」

真「恥ずかしいなぁ、もう」

律子「もしかしたら、って程度でだけどね」

律子「正直、当たってるとは思ってなかったわよ」

真「……分かったよ、じゃあちゃんと決意表明します」

真「ボクはプロデューサーが大好きでもう一度会いたいので探しに行きますー」

律子「顔真っ赤」

真「うるさい」

律子「やーいまっかっかー。ほっぺたむにむにー」

真「うるひゃーい!」

真「ちょっと痛かった」

律子「ごめんごめん」

真「ふてくされるぞー」

律子「お茶菓子あげる」

真「おいひい」モグモグ

律子「で、どうやって探すの?」

真「カメラを持って、自転車で日本を一周するんだ。いーっぱい綺麗な景色を取って、プロデューサーに見せてあげたいな」

律子「……盛大な目標ね」

真「今までアイドルしてたから少しはお金もあるしね」

真「日記も書いてれば、もしかしたら本になって出版されちゃうかも」

真「タイトルはー……元アイドル・菊地真の自転車日本一周写真日記!」

律子「そのまんま過ぎ。ボツ」

真「えー。じゃあ律子だったらどんなタイトルにするの?」

律子「…………か」

真「か?」

律子「風になったアイドル」

真「……へへへ」

律子「何よ」

真「えへへ」

律子「えへへ」

真律「「えへへへへへ」」






律子「あふぅ……って、美希じゃないんだから」

律子「何もこんな朝早くに出発しなくてもいいのに」

真「あれ、律子」

律子「おはよ、真。かっこいい自転車ね」

真「うん、ありがと。それより、何でこんなところにいるの?」

律子「あんたのお父さんに今日出発って聞いたの」

律子「きっと、ここの前を通っていくと思ってね」

真「……うん。出発前に765プロを一目見ておきたくてさ。みんなに力を貰おうと思って」

律子「それならやっぱりみんな呼べばよかったかしら」

真「ううん、いいよ。ボク、律子と二人で喋るの好きだったよ」

律子「私も楽しかったわ」

真「……照れるね」

律子「……照れるわね」

律子「気を付けてね、真。毎日とは言わないけど、たまには連絡よこしなさいよ」

真「うん。律子も仕事頑張ってね」

律子「ええ、軌道に乗ってるんだからバシバシいかないとね」

律子「……プロデューサー、絶対見つけてきなさいよ」

真「うん。絶対に」

律子「……」

真「……じゃあ、行くね」

律子「ええ。また会いましょう、プロデューサーも一緒に」

真「うん、期待してて待ってて」

真「それじゃあ、ばいばい律子」

律子「行ってらっしゃい、真」

律子「……」

律子「行っちゃった」

律子「目にゴミ、入ったかな」ゴシゴシ

律子「もしもし真? 久しぶり」

律子「相変わらず元気そうね。何より何より」

律子「こっちは変わりないわ……いや、忙しくなったわね」

律子「うふふ。あ、そういえば読んだわよ、菊地真の自転車日本一周日記」

律子「本当に出版するとは思ってなかったけど」

律子「ええ、みんな会いたがってるわよ、遊びに来なさい。二人でね」

律子「それにしても最後のページ、よく写ってるわね。幸せそう」

律子「そう、そこ。えっと、なんてタイトルのページだったかしら……」

律子「『再会!』」

おしまい


愛しさと切なさとまことかわいいだったぜ。再開できてほんとよかった

切なくていい話だった

乙乙


しんみりながらもハッピーエンドってのは最高だな


めちゃくちゃよかった!!

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