律子「ええ、『三浦あずさのあず酒場放浪記』っていう深夜放送の冠番組です」
P「へぇ、すごいじゃないか。あずささんもすっかり酒好きキャラが定着したなぁ」
律子「好きなものがお仕事に結びつくっていうのはありがたいことなんですけど、ひとつ問題がありまして……」
P「問題?」」
あずさ「実はわたし、お酒を飲むときはあまり食べないんです」
P「あぁ、女性にはそういう人も多いですよね」
律子「でも今度の番組はいろいろなお酒を飲んでそれに合うおつまみをチョイスして紹介してほしいって局側から言われてるんです」
P「あずささんはふだん酒のアテを必要としていないからどんな酒にどんな料理が合うのかイマイチよくわからないってことか」
あずさ「毎週、おしんこと枝豆ばかり紹介するわけにはいかないし困ってしまって……」
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律子「プロデューサーはお酒けっこう飲まれますよね? あず酒場の収録開始までにあずささんにいろいろ教えてもらえないかと思って」
P「そういうことか。うーん……じゃああずささん、今日これからうちに来ますか?」
あずさ「あら~、これはもしかして運命的なプロポーズなのかしら~?」
律子「はぁ? どうしてそんなことになるんですかセクハラプロデューサー! いきなりアイドルを自宅に連れ込もうとするなんて何考えてるんです!?」
P「ただ話を聞くだけじゃなかなか理解できないだろうし実際にいろいろ飲んで食べてみるのが一番だろ。とはいえ、店で飲むとどうしても酒の種類や料理に偏りが出るからな」
律子「そうだとしてもアイドルを男の人の部屋に一人で行かせられません!」
P「じゃあ律子も来るか?」
律子「行きます!!」
あずさ「あらいいですね~。とっても楽しそう!」
P「オッケー。俺は先に帰って準備してるから後で来てくれ! じゃあお先!」バタン!
律子「勢いで言っちゃったけど、なんだかとんでもないことになっちゃったかも……」
【P宅】
ピンポーン
P「よう、いらっしゃい」ガチャ
律子「お、おじゃまします……! なんだか緊張しますね……」
あずさ「うふふ、おじゃましま~す♪ ここがプロデューサーさんのハウスなの……ね?」
律子「こ、これは……」
P「どうした? 遠慮なくあがってくれ」
律子「……あの、私たちはプロデューサーのご自宅に招かれたのでは?」
P「そうだが?」
律子「部屋の中がどう見てもガチめのカウンターバーなんですが??」
P「バーというか、まぁ、コンセプトはアイリッシュパブだな」
あずさ「すごい……生活感がかけらもないわ~」
P「どうせあまり家にいる時間もないからいっそ趣味に全振りしようと思いまして」
律子「この部屋でどうやって寝てるんですか?」
P「そこのソファにごろ寝」
律子「背中バッキバキになりそうですね……」
あずさ「すごい量の酒瓶が並んでますけど、これ全部で何種類くらいあるんでしょうか?」
P「いまはちょっと減ったから、250本前後だと思いますよ」
律子「に、にひゃくごじゅう……」クラクラ
P「というわけで大抵の酒は出せるぞ! オリジナルカクテルからインドウイスキーまでなんでもござれだ!」
あずさ「うふふ、楽しい夜になりそうね~♪」
P「じゃあまずは軽く食前酒から行きましょうか」スッ
あずさ「あら、シャンパンですか?」
P「ええ、『ピンクレディー』っていう洋なしのスパークリングワインです。甘くておいしいですよ」
P「律子はこれな。トニックウォーターにカットライムを入れただけだけど、ちょいとビターですっきりしててうまいぞ。ミントを入れてもいいけどどうする?」
律子「せっかくなのでこのままいただきます。……すごいですねプロデューサー、こんなのサッと作れちゃうんですね」
P「学生時代にバーでバイトをしてたからな。とりあえず召し上がれ」
律子・あずさ「いただきま~す」
あずさ「う~ん、ほんのり甘くてとってもおいしいわ~! 口のなかで洋なしの香りが開くのが素敵ね~」ゴクゴク
律子「んっ、ライムの苦味がジュースと違って、なんかいいですねこういうの!」
P「喜んでもらえたようでよかった。じゃあおつまみも出していきましょうか」
律子「いろいろと準備してもらっちゃったみたいですみません。今度ちゃんとお礼しますので」
P「こんなの趣味の延長みたいなもんだし気にしなくていいよ。肩の力を抜いて楽しんでくれ」ニコッ
律子「いえ、仕事の借りはちゃんと返さないとよくないと思いますので」キリッ
P「真面目か」
あずさ「プロデューサーさん、お料理もできるんですか?」
P「いえ、恥ずかしながら実はほとんどできなくて……なのでおつまみの方は少しだけ助っ人の力を借りていきます」
律子「助っ人?」
P「ということで春香! 一番槍はお前に任せた!」
春香「は~い! 天海春香、僭越ながらトップバッターを飾らせていただきますよ!」
律あず「」
律子「は、春香!? あんたこんなところで何してるの?」
P「落ち着け律子。微動だにしていないあずささんを見習え」
あずさ「」ニコニコ
律子「これは驚きすぎて魂がどっかに迷子になってるんですよ!」
春香「わたし今日はオフだったんですけどプロデューサーさんにお願いされちゃって。なんかおもしろそうなことをやるって言うんで飛び入り参加です!」
律子「あのねぇ、年頃の女の子が男の部屋にそんなホイホイついてくようじゃダメよ」
春香「律子さんがそれ言っちゃうんですかぁ?」のヮの
律子「クッ! この状況になってる時点で何も言い返せない!」
あずさ「ま、まぁまぁ律子さん。それで春香ちゃんが何か作ってくれるのかしら?」
春香「任せてください! こう見えてやるときはやりますから!」
春香「いろいろ考えたんですけど、飲み始めだし軽くてサッとつまめるものがいいですよね。ということでこちらです!」スッ
あずさ「あら、オシャレね~」
春香「えへへ。ママレードとクリームチーズを混ぜてプレーンラスクに塗ってみました」
P「春香にはカナッペとかピンチョスみたいなイメージで頼んだんですが最高の仕事をしてくれたと思います。どうぞ食べてみてください」
律子「うん、おいしい! ママレードとチーズって合うのね」サクサク
あずさ「甘くて濃厚なのに、お酒が口の中をスッキリさせてくれるからいくらでも食べられちゃうわ~」サクサクサクサク
P「スパークリングワインにはチーズやトマトみたいな素材に旨味のあるものが合いますね。ナッツとかもありです」
春香「今回はラスクに塗るのでクリームチーズにしましたけど、カマンベールチーズにママレードをちょっぴり乗っけたりしてもおいしいですよ!」
P「それは簡単でいいな、今度やってみるよ。ありがとうな春香」ナデナデ
春香「えへへ、今度はプロデューサーさんのためのおつまみも考えてきますね!」
律子「その甘ったるいやり取り見てるだけでもうお腹いっぱいなんですけどー」
P「よし、じゃあ次に行きましょうか」
あずさ「あら、春香ちゃんは?」
P「控え室に戻しました。縁があればまた会うこともあるでしょう」
律子「控え室ってなんなんですかいったい……」
あずさ「あと何人のアイドルが控えているのかしら」
P「さぁ次のドリンクはこれだ!」スッ
あずさ「ビールですね~♪ でもふだん飲んでるものよりもちょっと色が濃いような……?」
P「これはヤッホーブルーイングの『よなよなエール』というビールです。爽やかな苦味の中に柑橘系のアロマを感じられると思いますよ」
P「律子には辛口のジンジャーエールをレモンジュースで割った、なんちゃってモスコミュールだ」
律子・あずさ「いただきま~す」
あずさ「う~ん! 華やかな苦味のなかにグレープフルーツのような香りが抜けてきて、とってもおいしいわ~!」グビグビ
律子「へぇ、生姜が結構効いてますね。ピリッと辛くてちょっとクセになりそうな味わいです」
P「さぁそして次なるおつまみは、伊織に教えてもらったドイツ直輸入の食材店で買ったこちら!」ドン!
律子「すごい、おっきなソーセージ……なんですかプロデューサーその目は」
P「なんでもない、この職業に煩悩は敵だからな。心を無にしてこいつを焼いていくぞ」
律子「今回はプロデューサーが調理するんですね」
P「シンプルにただ焼くだけだからなー」ジュー
あずさ「なんだかカレーのような香りがするわね~」クンクン
P「おっ、鋭いですねあずささん。これはカリーブルストというカレー粉風味のドイツソーセージです。はい、ケチャップをかけてどうぞ」スッ
あずさ「ん~! とってもジューシーでおいしい!ビールの苦味とピッタリね~!」ムシャムシャゴクゴク
律子「もっとケチャップ味一色になっちゃうのかと思いましたが、意外とカレーの香りとマッチしますね。おいしい!」
P「うまいだろカリーブルスト。ビールは基本なんにでも合うけどある程度脂があって味が濃いものとの相性が特に良いからこれなんかは本当にピッタリだと思う」
律子「ところでちょっと気になったんですが伊織にお店を教えてもらったっていうのは……」
P「あぁ、こないだ家で飲みながら伊織とLINEしてるときに教えてもらってな。伊織の家でも仕入れに使ってるところだからかなり物は良いみたいだぞ。でもその割には安いから助かってるよ」
律子(水瀬家御用達が安いわけないわ……間違いなく忖度されてるわね……)
P「その辺であまり売ってないものがほしくなったときは伊織に聞くと安くていい店を教えてくれるからありがたいよ」
あずさ「伊織ちゃんとLINEしたりするんですね~」ゴクゴク
P「あいつは基本毎晩LINEしてきますよ。たいていどっちかが寝落ちするまでだらだら続けてますね――っと言ってるそばから伊織からLINEだ」
律子「もう尽くし尽くされの夫婦じゃないですかそれ」
あずさ「伊織ちゃんがいまのこの状況を見たらどんな表情するのか見てみたいわ~」ニコニコ
P「ここらでちょっと雰囲気を変えて日本酒いきましょうか。『美寿々』という長野県のお酒の特別純米です」スッ
あずさ「フルーティーないい香りですね」
P「このお酒は俺のイチオシなんでぜひ味わってみてください。律子は――」
律子「私はまださっきのが残ってるんで大丈夫です。料理だけつまませてもらいますよ」
P「おっとそうか、なくなったら遠慮なく声かけてくれよ」
あずさ「ねぇプロデューサーさんも一緒に飲みませんか?」
P「俺は今日はホスト役に徹するつもりだったんですが……じゃあ一杯だけ」
あずさ「うふふ、やった~! はいお注ぎしますね」
P「ありがとうございます。じゃあ乾杯っ」チンッ
あずさ「かんぱ~い」チンッ
P「あぁ~、やっぱうまいな~! キリッとスッキリほんのり甘く、うまい要素が揃いすぎなんだよコレ!」
あずさ「本当においしいですね~。うふふ、なんだか嬉しくて飲みすぎちゃいそう♪」
律子「私もいますからね? いきなり二人だけの世界に突入しないでくださいね?」
P「さてさて、この日本酒に合わせるおつまみを担当してくれるのはこちらのアイドルだ!」
響「はいさーい! みんな楽しんでるー?」
律子「なんだろう、二人目にしてもう驚かなくなってきている自分が怖いわ」
あずさ「響ちゃん、はいさ~い♪」
P「響が出てきたところで沖縄料理を期待したかもしれませんがそんなつまらないプロデュースはしません! 響にはあえて全国的にどこのご家庭でも食べているであろうアレを作ってもらいます」
響「プロデューサーは自分の作るアレが大好きだからなー」
律子「え、そんなに頻繁にプロデューサーにその何かを食べさせてるの?」
響「週イチで作りに来てるぞ?」
あずさ「あらあら、まるで通い妻みたいね~?」ゴクゴク
律子「なんと言いますか、過去に戻って最初この部屋に入るときにもしかしたら初めて異性を部屋に入れてくれたのかもと思って緊張してた自分を殴りたいですね」
P「じゃあ響、いつもどおり頼んだぞ」
響「任せてよ! 完璧にやってみせるさー!」
律子「響は何を作ってくれるんですか?」
P「まだ秘密。たぶんちょっと時間かかるからつなぎでピザでも取ろうか」
あずさ「じゃあイベリコ豚とイタリアントマトのプレミアムミックスピザを――」
響「そんなにかかんないから! それにピザなんか食べたらもうお腹いっぱいで自分の料理食べられないだろ!」
P「冗談だよ、早くしてくれ」
響「まったくもう。おとなしく待っててよね!」
律子「そういえばこの間、テレビで宅配ピザランキングとかやってましたね」
P「あのマルゲリータが酷評されるやつな。見てて泣けてきたわ」
P「ちなみにマルゲリータはピザだがマルガリータはテキーラベースのカクテルだから言い間違いには気をつけような」
響「できたぞー。あったかいうちにどうぞ!」ドン
律子「これは……」
あずさ「卵焼き……?」
P「だし巻き卵だ。まぁまずは食べてみてくれ」
律子「いただきまーす……うわおいしっ! なにこれふわっふわ!」
あずさ「おだしがジュワっと効いていてとってもおいしいわ~!」
響「へへーん、たいしたもんでしょ?」
P「響のだし巻き卵はかつおだしを取るところから始まりますからね。しかも焼く前に卵を濾すからキメが細かくなってふわふわになるんですよ」
響「沖縄料理はかつおだしをよく使うからなー。だしの取り方はけっこうこだわってるんだ」
あずさ「本当においしいわ~。それにこのあつあつのだし巻き卵とつめた~いお酒のコンビネーションでお腹のなかが幸せよ~♪」グビグビ
P「お腹のなかが幸せってフレーズ……事後っぽいよな」
響「意味がわからないけどなんかいかがわしいオーラを感じるからプロデューサーの分は没収するぞ」
P「やめてくれ! 仕事に追われる毎日でこのだし巻き卵だけが生きがいなんだ!」
響「そ、そこまで言われたらしょうがないなぁ、許してあげるよ」エヘヘ
P(ちょろかわいい)
律子(悔しいけどちょろかわいいわね)
あずさ「うふふ~、さぁエンジンかかってきたわよ~」
P「響も控え室に戻ったのでどんどん行こう。次は麦焼酎をロックでどうぞ。『中々』というお酒です」
律子「けっこう飲んでるように見えるんですけど、あずささん大丈夫ですか?」
あずさ「まだまだ平気ですよ~。ゆっくり飲んでますし」
P「お冷も置いておきますから飲んでくださいね。お酒一杯につき同量のお水を飲むようにすると悪酔いしにくいと言われています」
あずさ「ありがとうございます。心配してくれるんですね~、うふふ♪」
律子「あずささん、頬がゆるみきってますよー」
P「律子には青梅をリンゴ酢で漬けた自家製梅ジュースを水割りで。飲みやすいしうまいぞ」
律子「ありがとうございます。本当になんでも出てきますねこのお店、じゃなかったこの家」
P「まぁこの梅ジュースは雪歩が作って持ってきてくれたんだけどな」
律子「アイドルに貢がせまくってますねヒモプロデューサー」
P「実家の庭に梅の木があるらしくて毎年いっぱい梅の実が取れるんだってさ。来年は一緒に梅酒を仕込もうかなんて話もしてていまから楽しみだよ」
あずさ「雪歩ちゃんも控え室にいるんですか?」
P「雪歩は今日はラジオの収録があったので呼んでませんね。今度は誘いますよ」
P「料理もいきましょうか。実はもう盛り付けまでして冷蔵庫にしまってあるので出すだけなんですけどね」コトッ
あずさ「これは、お肉ですか?」
P「馬刺しです。これが赤身でこっちがロース、奥のがヒレですね」
律子「うわぁおいしそう。これもわざわざ買ってきてくれたんですか?」
P「いや、実はちょっと前に真の実家から送られてきたんだ。いただきものですまん」
律子「真のご両親からですか。なにかあったんですか?」
P「ほら、5月頃にあずささんと真と美希でブライダル雑誌の撮影しただろ?」
律子「あぁ、あの大騒動になった……」
あずさ「うふふ、あれは楽しかったですね~」
P「実はあれ、真はタキシードを着るの最初けっこう嫌がってたんだよ。女の子らしくないってな。だからあの仕事を受けてくれたらかわいい服を買ってやるって約束してたんだが」
あずさ「ぜんぜん知らなかったわ、そんなことがあったんですね」
P「ただ最近みんな忙しくてなかなか時間が取れなくてさ、この間ようやくスケジュールが空いたから真と買い物に行って、帰りに家まで送ったら親御さんがいたからご挨拶をしたんだ」
律子「一緒に買物に行って帰りに家まで送って親に挨拶って普通にデートじゃないですか」
あずさ「デートというかもう結納する勢いね~」グビグビ
P「で、そのときに『かわいい娘さんに男役をやらせてしまって申し訳ありません。次はかならず俺がウエディングドレスを着させてやります』って言ったらなんかやたら喜ばれてな」
律子「えっ本気で結納だったって話ですか?」
あずさ「プロデューサーさーん、飲みきっちゃったのでこれもう一杯くださーい」
P「あっはい注ぎますね。結納なわけないだろ茶化すなよ。ただそれ以来、ちょくちょく真の家から色々といただくんだよ……お返しもけっこう大変なんだけどな」
律子「プロデューサー、外堀を埋められてることに早く気づいた方がいいですよ」
あずさ「プロデューサーさん、今度わたしの両親にも会ってもらえますか? 馬肉でも熊肉でもいくらでも食べさせてあげますよ」
P「すまん話が長くなっちゃったな。馬刺しは定番のたまり醤油とおろしニンニクで召し上がれ」
律子「では赤身から……うん、味が濃くておいしい! お肉の味ってこんなに濃くなるんですねプロデューサー!」
あずさ「ヒレがやわらか~い♪ 馬肉の独特の風味が麦焼酎の香りに乗ってふわっと抜けていくのがたまらないわね~」ムグムグ
P「肉の刺身は麦焼酎や米焼酎で鼻に抜ける風味を楽しむのもいいし、赤ワインなんかも口のなかで旨味が広がる感じがしてオススメですよ」
あずさ「いま飲んでるのは麦焼酎でしたよね? 米焼酎っていうのはまた味が違うんですか?」
P「せっかくだし飲み比べてみますか? たしかこの辺に……っと、あった。これは『よろしく千萬あるべし』という米焼酎で、『八海山』という日本酒の酒蔵が作っているやつです」
律子「日本酒を作ってるところが焼酎も作ってるってことですか?」
P「そうそう。日本酒も米焼酎も原料は一緒だからな。そういうことをしている酒蔵さんもあるよ」
P「こいつはソーダ割りにしてもなかなかおもしろいんですが、今日は飲み比べなのでさっきと同じロックでお出ししますね」
あずさ「これ、すごく日本酒の味と香りに近いですね~」
P「そうなんですよ、おいしいでしょう? でも日本酒よりアルコール度数が高いですから一気に飲んじゃわないように注意してくださいね」
律子「焼酎のアルコール度数ってどれぐらいなんですか?」
P「焼酎はだいたい25%だな。日本酒とかワインが14%前後、ビールで5%前後が一般的だ」
あずさ「ほんのり甘くてこれも旨味の強い馬刺しによく合いますね~」クピクピ
律子「あずささんがおいしそうに飲むから、なんだかちょっとお酒に興味がわいてきました」
P「律子も飲める年齢になったら一緒に飲もうな」
律子「ええ、楽しみにしてますよ。約束ですからね?」
P「さてさて、そろそろコレが恋しくなってくる頃じゃないでしょうか。ということでレモンサワーです。氷の代わりに凍らせたカットレモンをドカドカ入れて作ります」
あずさ「あっ、こういうのお店で見たことあります」
P「氷と違って飲んでいる途中で薄まらないから最後までおいしく飲めますよ。はいどうぞ」スッ
P「律子にも同じくレモンをドカドカ入れたグラスに炭酸水を注いでガムシロを少しだけ入れて……っと。はいどうぞ」
律子「ありがとうございます。すごい、爽やかな香りと鮮やかな黄色」
あずさ「いつも飲んでるレモンサワーよりも5倍くらいレモンの香りがしますね~。酸っぱくておいしいです」ゴクゴク
P「これは家でもレモンを切って凍らせておくだけでかんたんにできるのでおすすめです。レモンは防カビ剤不使用のものを選んでくださいね」
律子「いいですね。これは私もマネさせてもらいます」
P「こないだ亜美真美が遊びに来たときにコーラにこのカットレモンを浮かべて出してやったら喫茶店みたいだってすごく喜んでたよ」
律子「そうかー双子も攻略済みですかー」
P「それではこのガツンと響くレモンサワーに負けないおつまみを作ってくれるアイドルをご紹介しましょう」
やよい「うっうー! 高槻やよいのお料理さしすせそ出張編ですよー!」
律子「そうですよね、そうきますよね。もう料理のできるアイドルはみんな控えてると思って覚悟キメといた方がいいですよね」
あずさ「やよいちゃん、はいさ~い♪」
やよい「わっ、あずささんなんだかいつもより色っぽくて大人の女性って感じですねー! 羨ましいですー!」
P「これがアルコールの力だ。やよいも10年後には負けないくらい色っぽくなれるさ」
やよい「えへへー! プロデューサーの期待にそえるようにがんばりますー!」
P(かわいいなぁコイツ)
律子(天使だなぁ)
あずさ(レモンサワーおいしいわ~)ゴクゴク
P「さて、料理番組を担当するほどの腕を持つやよいに本日作ってもらったのはこちらです」ドンッ
律子「これは、ボウルいっぱいの――」
あずさ「――ポテトサラダ、ですねぇ」
P「こいつは! 見た目こそ普通のポテサラですが!! 酒飲みのための!!! パーフェクトポテサラなんですよ!!!!」
やよい「じゃあ取り分けますねー。お口にあうかわかりませんが召し上がってみてください!」
律子「どれどれ~、あっおいしい! なんかどっしり濃厚でお芋がしっかりしてるわね」
あずさ「おいしいわね~。味付けが濃いめでプロデューサーさんがお酒のためのって言った意味がよくわかるわ~」ゴクゴク
やよい「マヨネーズを使いすぎると重たくなるので、ちょっと減らして、代わりにすし酢でコクを出しました! べ、べつにプロデューサーがマヨネーズ苦手だからってわけじゃないですよ?」
律子(ちょっとツンデレっぽくなってるのは伊織の影響かしら?)
P「細かいところにまで気を利かせてくれて、やよいはいい子だなぁ!」ナデナデ
やよい「えへへー! それに粉チーズとマスタードをちょい足ししてちょっぴり大人な味にしてますよー」
あずさ「ちょっとだけスパイシーな香りがするのはマスタードだったのね~。プロデューサーさん、レモンサワーのおかわりいただけますか?」
P「レモンサワーもいいんですが、せっかくなのでこっちにシフトしてみませんか?」ドンッ
あずさ「あら、またビールですか? 今度はずいぶんと黒いのね~」
P「いえ、これは『黒ホッピー』です。焼酎で割るビールテイスト飲料なんですが、ビールよりも若干スッキリしていてこの濃厚ポテサラと相性バツグンなんですよ」
律子「昔ながらの居酒屋の赤ちょうちんに書いてるホッピーってこれのことなんですね」
やよい「うちのお父さんもよくこれ飲んでますよー! ビールより安いって言ってました!」
あずさ「そうなのね、初めて見たわ~。飲んでみたいで~す♪」
P「ホッピーの基本は『3冷』です。グラスと焼酎とホッピーの3つをよく冷やしておくことが重要なポイントだから覚えておいてくださいね。はいどうぞ」スッ
あずさ「う~ん! 黒ビールみたいな苦味なのに後味がスッキリしているから無限にポテトサラダが食べられちゃうわ~!」ゴクムシャ
律子「わざわざ『黒ホッピー』なんて呼ぶってことはほかの色もあるんですか?」
P「ほかには『白ホッピー』と『赤ホッピー』があって、白は関東だとその辺のスーパーでも売ってたりするけど、赤はかなり希少だな。俺は居酒屋に入って赤ホッピーがあったら迷わずそれを頼む」
あずさ「やっぱり全部味が違うんですか?」ゴクゴク
P「白は黒と比べて苦味が少なくてプレーンな味わいです。赤は白よりもさらに淡麗でほのかに甘みがあると俺は感じますね」
やよい「プロデューサーはお酒博士みたいですねー、かっこいいですー!」
P「余ったポテトサラダはやよいがタッパーでお持ち帰りしました。というわけで次にいきましょうか」スッ
あずさ「あら赤ワイン! わたし大好きなんですよ~!」
P「今日はイタリアワインで『ネロ・ダーヴォラ』という品種のものをご用意しました。アタックが軽めでほどよいタンニンが楽しめますよ」
あずさ「おいしいわ~♪ これなら2本でも3本でも飲めちゃいそう~」ガブガブ
律子「もしかして2杯3杯って意味じゃなくてボトルの本数で言ってます?」
P「律子には長野県のワインメーカーが作っているぶどうジュースな」コトッ
律子「おぉー、色も味もすっごい濃くておいしいですね!」
P「濃縮還元じゃなくてストレート果汁のやつだから甘さが上品だよな」
あずさ「プロデューサーさ~ん、おかわりくださ~い♪」
律子「早っ!!」
P「はーい。でもあんまりペース上げちゃダメですよあずささん」
律子「この人アイドルに甘すぎるんだよなぁ」
P「ところで、このお酒に合う料理を手配していたんですがまだ連絡がありませんのでちょっと電話してきます」
律子「手配って……ウー○ーイーツとかですか?」
P「いや、料理好きの友達に頼んだんだけど時間がかかるから後で届けるって言われてて――」
ピンポーン
P「おっ、ちょうど来たかな! ちょっと行ってくる!」バタン
あずさ「プロデューサーさんの口からお友達の話なんて初めて聞きましたね~」グビグビ
律子「まぁ友達ぐらいいてもおかしくはないんでしょうけど、いきなり料理を頼むってどういう関係なんでしょうね」
?「時間が――だった――が――ねえかも――――は染みてる――温めて――――」
P「鍋に――――強火で――って――いいのか?」
?「バカか――れじゃ――――あぁもう――オレが――ってくよ」
律子「……ん? なんか揉めてるっぽいですね」
あずさ「そうですね~。あ、でも戻ってきたみたいですよ」
P「すまん、お待たせ」ガチャ
冬馬「よぉ、邪魔するぜ」
律あず「」
P「えぇー……皆さんご存知のことと思いますがジュピターの鬼ヶ瀬冬馬クンです」
冬馬「天ヶ瀬冬馬だ! 本当にちょっとだけ間違えるんじゃねえ!」
律子「な、なんで961プロのアイドルがここに……」
冬馬「こいつに任せるとせっかくの料理を温め直すだけで黒こげにされそうだったから仕方なくだよ」
あずさ「プロデューサーさんのお友達って天ヶ瀬さんだったのね~」
P「一般的な家庭料理なら春香かやよいに頼んでもいいんですけど、今回みたいなちょっと凝った料理は冬馬の得意分野なんですよ」
冬馬「男の料理は趣味性が高いから必然的にみんな凝り性になるんだよな。オイ、この鍋借りるぞ」
律子「ライバルプロダクションのアイドルに鍋の位置まで知られてるようなお熱い関係だったとは知りませんでした」
P「誤解を招く言い方はやめてくれ。俺たちはプラトニックな関係だ」
冬馬「あんたもプラトニックとか言っちゃってんじゃねえよ気持ちわりぃな」
あずさ「ふふっ、本当に仲良しさんなのね~」グビグビ
P「というわけでお待たせしました。イタリア産赤ワインに合わせるのは当然イタリアン! トリッパのトマト煮込みです」
冬馬「仕上げにドライバジルを振りかけて……っと、ほらよお待ちどうさん」コトッ
律子「こ、このいかにも『手間かかってます』ってオーラ……圧倒されそうだわ」
あずさ「いい香りね~♪ ちょうど温かいものが欲しくなってきた頃合いだったのよ~」
冬馬「トリッパだけだと面白くねえから今日はセンマイも入れてみた。どっちも工場の直売で買ってきたやつだから鮮度はお墨付きだぜ」
律子「うわっとろける! あずささんこれ口のなかでとろけますよ!」
あずさ「トマトの旨味をまとったトリッパがほのかな脂も感じられてとっても赤ワインに合うわ~」グビムシャ
律子「こっちはコリコリ! あずささんコリコリして楽しいです!」
あずさ「センマイね~、トリッパとは食感が違って飽きないわ~」モグモグ
P「二人ともとても気に入ってくれたようだ。よかったな冬馬!」
冬馬「まぁ悪い気はしねぇな! 楽勝、だぜ!」
P「冬馬も帰ったので先に進みましょうか」
あずさ「天ヶ瀬さんは控え室には行かないんですか?」
P「童貞の冬馬に美少女だらけの控え室はキツイでしょうから……」
律子「男友達の唐突な童貞イジりやめてください。あとさっきのぶどうジュースもう一杯ください」
P「ぶどうジュースは次の料理に合わないからダメだ。その前に飲んだレモンソーダならいいぞ」
律子「そういえばそういう趣旨の会でしたね。じゃあそれでいいです」
P「はいよっと。さて、あずささんもここまでおかわり含めて10杯くらい飲んできてるので、そろそろ舌がアルコールに対して鈍感になってきているかと思います」
あずさ「自分ではよくわからないですけど、そういうものなんでしょうか?」
P「ですのでここでひとつガツンとくるのをご用意しました。『ボウモア』のカスクストレングスです。飲み方はストレートで、お冷を新しく用意してますんでチェイサーにしてください」
あずさ「ウイスキーですか、あんまり飲んだことがないで――ふわっ!?」
律子「ど、どうしましたあずささん?」
あずさ「す、すごい、消毒液みたいな匂いが……プロデューサーさん、これは?」
P「アイラウイスキー特有のいわゆるピート香ってやつですね。このスモーキーで薬っぽい香りがそのうちクセになりますよ」
律子「私も香りだけ……うわっこれ本当に飲めるものなんですか?!」
P「まぁ唇を湿らせる程度から始めてみてください。どうしても飲めなかったら俺が引き受けますんで」
律子「あずささん、無理はしなくていいんですよ」
あずさ「いえ、せっかくなのでちょっとチャレンジしてみたいです……!」
P「ちなみにカスクストレングスっていうのは樽出しそのままって意味で文字通り加水していません。なのでアルコール度数が56%ぐらいありますから必ず水を飲みながら飲んでくださいね」
あずさ「~~~~ッッッ!!! くっ口のなかが、カーってなります~!」
律子「あずささーーん! しっかりーーー!!」
P「さて、おつまみでも用意しましょうかね」
あずさ「プロデューサーさ~ん、ウイスキーおかわりくださ~い♪」
律子「いや適応力高すぎるでしょ」
あずさ「最初はひと口でやめようって思ってたんですけどなんだかこの刺激がやめられなくって」ゴクゴク
律子「危ないおクスリみたいになってますよあずささーん!?」
P「ウイスキーをうまいと感じるのは後天的味覚だと言われているんだ。だから飲んでいるうちに体が慣れておいしく感じてくるのが普通なんだよ」
律子「いや、それにしても成長が早すぎませんか?」
P「そうだよなさすがアイドルだよな。ほい、じゃあこれでもつまんでいったん落ち着こう」
あずさ「あらあら、ここで生牡蠣は嬉しいわね~」
P「市場で買い付けてきた岩牡蠣です。レモンを軽く絞ってどうぞ」
律子「あぁ……おいひい……牡蠣ってこの時期でも食べられるんですね」
P「岩牡蠣は9月頃までは水揚げされるからな」
あずさ「う~ん、ミルキーでおいしいわね~!」ムグムグ
P「潮風の吹く蒸留所で作られるアイラウイスキーにはほのかに潮の香りもあるから旨味が強い貝類との相性が特にいいんだ」
あずさ「つぶ貝とかサザエとかでもウイスキーと合いそうですね~」
P「おっ、わかってきましたね。訓練の成果が出てますよあずささん!」
律子「そういえばこの牡蠣にはアイドルは関わってないんですか?」
あずさ「言われてみれば、まだ誰も出てきてませんね」
P「関わってるってほどでもないけど、この牡蠣は今日の早朝に貴音と市場に行って買ってきたやつだな」
律子「へ~、ちょっと意外です。貴音ってあんまり市場とかに行きたがるようなタイプには見えないのに」
P「朝しか営業してない市場の食堂のラーメンがどうしても食べてみたいと言われてな」
律子「一瞬で納得しました」
あずさ「貴音ちゃんは本当にラーメンが好きなのね~」グビグビ
P「ええ。おかげで来週は深夜しか営業してないラーメン屋に一緒に行くことになってます。しかも結構遠いので仕事終わったらそのまま車で直行ですよ」
律子「あれ? いつの間に銀髪美女とのミッドナイトドライブデートの自慢話になっちゃったんですか?」
P「だいぶ酔いもまわってきてると思いますので小休止しましょうか」
あずさ「ええ~まだまだ大丈夫ですよ~」
律子「あずささん、言っときますけどもう顔真っ赤ですからね?」
千早「律子もだいぶ顔が赤いわよ。大丈夫?」
律子「私はお酒飲んでないから大丈夫よ……って、ち、千早!?」
あずさ「うふふ、千早ちゃんの幻覚が見えるわ~♪」
千早「幻覚じゃありませんよあずささん。プロデューサー……ちょっと飲ませすぎじゃないですか?」
P「すまんすまん、自分だとこれぐらいはなんともないからついな」
千早「まったくもう。頼まれてたアレ、できましたけど出しましょうか?」
P「ありがとう。頼むよ」
律子「正直、千早まで来てるのは完全に予想外だったのでめちゃくちゃビックリしてますよ私」
P「千早には料理スキルがないと思って除外してたんだろ? ゲロゲロキッチンの収録以降ちょっとずつ頑張ってるから実はそんなこともないんだぞ」
千早「はい、あずささん。これ飲んでください。律子も」コトッ
あずさ「あら、かわいらしいサイズのスープね~」
律子「これは千早が作ったの?」
千早「ええ、オクラとトマトのコンソメスープよ。プロデューサー以外の人に食べてもらうのは初めてだからちゃんとできているかどうか自信はないけれど……」
P「なに言ってるんだ、うまいに決まってるさ。千早が心をこめて作ってくれたんだから」
千早「あの、プロデューサーの分も用意してあるんですけど……も、もし不要であれば片づけ――」
P「おっ本当か? ありがとう、いただくよ!」ニッコリ
千早「はっ、はいっ! どうぞ召し上がれ!///」
律子「目の前の初々しく苦々しいやり取りはともかく、スープはとってもおいしいわよ」
あずさ「スープのおかげでなんだか体調が整ってきてお酒が飲みたくなってきたわ~♪」ゴクゴクゴク
P「バーのお通しでもコンソメスープはよく出たりするんだ。あったかいスープを飲みながら頼んだものを待っている時間ってのもお酒の楽しみ方の一つだと言えるだろうな」
千早「私はまだお酒を飲めませんけど、その雰囲気は想像するだけでも心地良いですね」
律子「確かに、落ち着いた大人のお酒のたしなみ方って感じでいいわね」
あずさ「わたしはいままさにとっても心地良いわよ~。早く次のお酒が飲みたいわ~!」
律子「あずささん、さっきまで結構ノックダウン直前って感じだったのにすっかり復活しましたね」
P「酒は飲み続けてると存外体を冷やすからな。こごえていた内臓が温まったことで元気になったんだろう」
千早「それじゃあ私はそろそろ控え室に戻りますけど、あまり飲みすぎないように気をつけてくださいね」
P「遅い時間にありがとうな千早、おやすみ」
あずさ「千早ちゃんおやすみなさ~い」
律子「はいおやすみー……って、えっ? 泊まり? 千早たち今日ここに泊まりですか?」
P「あずささんも奇跡の復活を遂げたし次に行こうと思う」シャカシャカシャカ
律子「プロデューサーが振ってるそれ、シェイカーってやつですよね? じゃあ次はカクテルですか」
P「そのとおり。ショートのカクテルグラスに注いでマラスキーノチェリーを添えてっと。どうぞ『キス・イン・ザ・ダーク』です」スッ
あずさ「すごい……ため息が出るほどきれいなお酒ですね。素敵です……」
律子「ふーん、ここにきてシャレオツなカクテルであずささんを落としにかかってきたってわけですか」
P「ひどい誤解だ。単に見た目がきれいで女性が好きそうな味のカクテルを選んだだけだよ」
あずさ「ん、甘くておいしいです~。これはさくらんぼのお酒なんですか?」
P「ええ。ベースはジンですけどチェリーブランデーが入っています」
律子「へぇ、さくらんぼからもお酒ができちゃうんですね」
P「極端な話、糖分があれば何からでも酒は作れるからな。はいこれは律子の分。ブルーキュラソーシロップをジュースとトニックウォーターで割ったノンアルのカクテルだ」スッ
律子「うわぁ、きれいな青……ぜんぜんノンアルコールに見えないですよこれ」
P「ノンアルカクテル用のシロップはいっぱい種類があるから見た目は普通のカクテルと遜色ないものができるんだ。ついつい買い揃えて金欠になっちゃうのが悩みのタネだけどな」
P「カクテルは何も食べずにそれだけを楽しむケースも多いんだが、せっかくだし今日はかんたんなおつまみを出そうか」スッ
律子「アーモンドですか。なんだかちょっとテカってますね」
P「アーモンドの蜂蜜漬けだ。シナモンやスターアニスなんかのスパイスと一緒に漬けてあるから香りも楽しんでみてくれ」
あずさ「あら、本当いい香り~♪」
P「甘めのカクテルにあえて甘いおつまみを合わせるとお酒の味、アルコール感と言い換えてもいいですけど、それが少しハッキリ感じられるようになると思います」
あずさ「本当ですね~。最初に飲んだときよりもお酒の苦味みたいなものを感じます」ゴクゴク
律子「私、だんだんプロデューサーが何者なのかわからなくなってきました。あなたの天職は夜の街にあるんじゃないですか?」
P「勘弁してくれよ。俺はみんなをトップアイドルにするって決めてるんだ」
あずさ「みんながトップアイドルになったら全員引き抜いて銀座に高級ガールズバーを出すのよね~?」グビグビ
P「そんな社長がショック死しそうな目論見もありません」
律子「で? この『ハニーアーモンド』にはやっぱりハニーハニーっていつもプロデューサーにベタベタとくっついてるあの子とのエピソードがあるんですよね? いちおう聞いてあげますよ」
P「おいおい、俺の用意してるもの全部にアイドルが関係していると思ったら大間違いだぞ」
律子「ここまで達成率100%の人がそんなこと言っても説得力が砂粒ほどもありません!」
あずさ「じゃあもしかしてこれはプロデューサーさんが作ったんですか?」
P「ええ。買ってきた材料をまとめて瓶にぶちこむだけですからね」
律子「本当ですか? 嘘偽りやごまかしがないって誓えます?」
P「このおつまみには誓ってアイドルとのエピソードはない。先月、音無さんと飲みに行ったお店で作り方を聞いたやつだからな」
律子「あぁ、そういうことですか……なんでしょう、このあると知ってた落とし穴に落ちたときのようなモヤモヤする感情」
あずさ「わたしも小鳥さんは絶対に最後のオチ担当だと思ってたわ~」ムシャムシャ
P「そのときの音無さんは駅のホームで噴水のように吐いてたのを俺はよく覚えてるよ。本人は覚えてなかったけどな……」
P「次はこんなんいってみましょうか。マスカットリキュールのソーダ割りです」
あずさ「おいしいわ~!」
――――
P「せっかくなのでジェームズ・ボンドの愛するウォッカマティーニもいっちゃいましょうか!」
あずさ「おいしいわ~!」
――――
P「モルトビネガーで食べる本場のフィッシュアンドチップスをご賞味あれ!」
律子「これは止まりませんねプロデューサー!」
――――
P「シロップのように甘いドイツワインはいかがですか?」
あずさ「おいしいわ~!」
――――
P「そうだ粉茶から作る緑茶ハイも飲んで欲しかったんだった」
あずさ「おいしいわ~!」
――――
P「そーれテキーラをショットで!」
あずさ「おいしいわ~!」
――――
P「そうこうしてるうちにだいぶいい時間になっちゃってますしそろそろ締めましょうか」
律子「うわっもう2時近いじゃないですか! いつの間にこんなに時間が経ってたのかしら……」
あずさ「うふふ、楽しい時間はあっという間だもの~。仕方ないですよ律子さん」フラフラ
P「お酒はさっきので終わりにして最後に軽くお茶漬けでもと思いますが食べられそうですか?」
あずさ「いいですねぇお茶漬け。いただきます~♪」
律子「私もちょっとだけなら食べられそうです」
P「じゃあ二人ともご飯は少なめにしようか。美希、お茶漬け2丁軽めでたのむ」
美希「りょうか~いなの。ミキがお米系アイドルの沽券にかけて最高のお茶漬けを作って見せるの!」
美希「アンタはいつからお米系アイドルになったのよ」
あずさ「あらあら今日の大トリは美希ちゃんなのね~♪」
美希「あれ? サプライズで出てきたつもりなのに2人ともぜんぜん驚かないね?」
律子「私たちはそんな段階はとうに踏み越えてここまできてるのよ」
美希「お待たせなのー! すっごくあっついから気をつけて食べてね☆」
あずさ「いい香りね~。焼きおにぎりのお茶漬けなんて嬉しいわ~」
律子「美希のことだからもっと破天荒なものが出てくるのも覚悟してたけれどこれはいいわね。上に乗ってるのはもしかしてお魚のそぼろ?」
美希「あはっ、そうだよ。鯛そぼろのだし茶漬けなの。さすが律子、さんはお目が高いの!」
あずさ「はぁ~、とってもおいしい~。なんだかとっても時間がゆったり流れるようになった気がするわ~」
律子「あ、それわかります。なんだか心が妙にリラックスしていると言いますか……」
P「酒を飲んだあとのお茶漬けとかラーメンって本当に麻薬かと思うくらいの幸福感が得られるよな」
美希「ミキはハニーと一緒にいるだけで幸せだからお酒も夜中の炭水化物もいらないの」
あずさ「い、いつも夜中に食べているわけじゃないのよ? 今日は特別! そう特別なのよ!!」
律子「ていうか美希、あんたいつも眠そうにしてるのにこんな時間まで起きてて平気なの?」
美希「夜ふかししちゃった分は明日事務所でお昼寝するから大丈夫なの」
律子「美希の生活リズムが破綻してるのはプロデューサーの責任なのではと感じてきました」
P「否定はできないな。反省はしたいと思っている」
P「美希も送還したし、今日はここらでお開きにしようか。タクシー呼ぶからちょっと待っててくれ」
律子「あ、私ここまで車で来てますからあずささんを送ってそのまま帰りますよ」
P「ダメだ。車は明日、俺が事務所まで持っていくから今日はタクシーで帰れ」
律子「な、なんでですか……私はお酒飲んでないんだから大丈夫ですよ」
P「律子、自分では気づいていないのかもしれないが――お前かなり酔ってるぞ」
律子「ま、まさかプロデューサー、私の飲み物にもこっそりお酒を――」
P「お前のその状態は完璧に『場酔い』だ。アルコールじゃなくて雰囲気に酔ったってやつだな。顔は真っ赤だし呂律も怪しいし何より言動がちょっとおかしい」
律子「んなっ……!」
P「酒が入ってなくても気分がふわふわしていることに変わりはないし、危なっかしいから今日は運転はやめておけ」
律子「ププププロデューサー、私の言動がおかしいっていうのはあのその」
P「あずささん、あと10分くらいでタクシーが来ま――」
あずさ「」スピースピー
P「あ、力尽きてる」
律子「そんなことよりプロデューサー! 私のおかしかった言動ってもっと具体的に教えてください! プロデューサーーーー!!!」
【2ヶ月後】
律子「あの悪夢の会からもう2ヶ月も経ったんですね」
P「悪夢とはひどい言い草だな。あずささんの番組、好調なんだろ?」
律子「えぇ、そうですね。誰かさんのおかげであずささんの食レポも大好評。視聴率もうなぎのぼりです。来月には2時間特番も予定されてますよ」
P「いいことづくめじゃないか」
律子「いまのところはまぁその通りなんですけど、ひとつ問題がありまして……」
あずさ「実はその特番で、ゲストの方にわたしがお酒を振る舞うことになったんです」
P「おっ、それは楽しそうな企画ですね」
律子「とんでもない! ゲストに誰が来るのかも好みの飲み物も当日まで秘密っていうドッキリじみたひどい企画ですよ!」
あずさ「当日いきなり知らないお酒をリクエストされたらどうしようかと不安で……」
P「そうなるともっとお酒について知ってないとマズイですね。うーん……じゃあとりあえず――」
P「今日これから、うちに来ます?」
あずさ「はいっ♪」
律子「私も行きますからね!!」
おわれ
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