安価とAIで岸辺露伴は動かない (58)

何番煎じか分かりませんが、AIを利用して安価SSをやるというスレです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1698738427

朗らかな日差しの中、会社勤めのサラリーマンや大学に通う学生も、主婦たちも昼下がりの町を和やかに歩いている。
ランチタイムによる客波も引いてきたカフェテリア『カフェ・ドゥ・マゴ』の店内、そのテラス席に一人の男が座っていた。
彼の名前は岸部露伴。若くして『ピンクダークの少年』で名声を獲得した漫画家である。そんな彼は、現在担当編集者と向かい合って座っていた。
露伴が週刊誌で連載するマンガの打ち合わせついでに昼食をとっていたのである。

「露伴先生、これ見てくださいよ!」

「何だいそれは……?下らないものじゃあないだろうな」

担当編集者である泉京香の手にはタブレットが握られており、画面には一つの絵が表示されていた。それは、とても奇妙で不気味で、不可解なイラストであった。

その絵は一体どんなイラスト?下1

無数のアルファベットが書かれた4人の男女の絵

無数のアルファベットが書かれた四人人の男女の絵であり、体の至る所にアルファベットが刻まれている。男二人、女二人が向かい合った状態で椅子に縛られており、彼らのアルファベットは血で書かれているようにも見えた。

「露伴先生にはどう見えてますか?」

「どう……だって?全身にアルファベットが書かれた四人の男女が、椅子に縛り付けられている……としか言いようがないな」

泉の問いに、露伴は奇妙な感覚を抱きながら答えた。そもそもこのイラストがどう見えるかなど、そんな事を聞いて一体どうするのか。疑問に思いながらも露伴は答える。
すると、担当編集はその答えに満足したかのように何度も頷きながら画面をスクロールして見せた。その記事のタイトルは「不可思議!見る者によって全く異なるものに見える謎のイラスト」というものだ。
ということは、泉には露伴と全く違うものが見えているのだろう。

泉にはその絵がどう見えているか?下1

儚げな雰囲気の美少女の肖像画

「これ、私には儚げな雰囲気の美少女の絵に見えてるんです」

「おいおいおいおい。何を言い出すかと思えば……君はいよいよ仕事に疲れ果てておかしくなってしまったようだな」

「でもね、露伴先生。この絵、いろんな人に聞いてみたらどう見えるか変わったんですよ!」

そう言って泉はタブレットを操作すると、ネット上でアンケートを取ったというまとめサイトを表示した。そこには様々な答えが寄せられているらしい。
曰く、天使が降臨しているように見える。曰く、無数の猫が戯れているように見える。曰く、首をつっている男性に見える。曰く、SF映画で出てくる未来のロボットに見える。
確かに、この世界にはトリックアートと言うものが存在する。それは見方によっては美女に見えたり老婆に見えたり、壺に見えたり向かい合っている男女に見えたり。
だが、この絵はトリックアートという概念を超えてしまっていて、見る人によって全く違う見え方になるのだ。

「……こいつは何処にあるんだ?」

「とある町の廃屋にいきなり現れたそうなんですよ。それはもう突然に!」

興味深いと思いながら、露伴はタブレットを泉から取り上げてその絵が何処に存在するのかをメモした。そして、そのままタブレットを操作していくと、第一発見者のインタビューが出て来る。
それによると、このイラストは取り壊される廃屋の壁に突如として現れたという。ほんの少し、短時間目を離した間にだ。まるで、初めからそこに描かれていたかのように。
その発見者がほんの少し、本の数秒目を離したすきにこのような絵を描き上げるなど、普通に考えたら無理に決まっている。

「それにその絵……消そうとしても消えないんですよ」

「消そうとしても消えない……ねぇ。それは面白そうじゃあないか」

泉の話を話半分に効きながら更にタブレットを操作していくと、更に衝撃的な事実が書かれている記事を見付けた。
どうやらその廃屋はとある事情により取り壊しがストップしてしまっているようで、取り壊しが再開される目途はまるで立っていないという。

何故取り壊しがストップしているのか?下1

廃屋の下にかなり大きめの不爆弾があることが分かり現在処理と万が一爆発したときのために住民を避難させている途中

なんでも、廃屋の下にかなり大きめの不爆弾があることが分かり、処理と万が一爆発したときのために住民を避難させているのだ。
そんな記事を読み終えた露伴は、満足気に目を細めるとタブレットをテーブルに置いた。

「不自然だな……」

「何がですか?」

「この絵のある町は他の町と比べてしまえば、何のとりえもない小さな町としか言いようがない。確かに日本で不発弾は年に何個か出るというが、ほらこれを見てみなよ」

そう言って露伴が泉に見せたのはとあるSNSのユーザー達の呟きであった。「不発弾なんて話きいてねーよ」や「いや、避難とか別に指示されてないんだが……」等というつぶやきが並んでいる。
そもそも不発弾が見つかったのならばニュースになっているはずだ。だが、その町で見つかった不発弾の情報は一切なく、重さやどのくらいの住民が避難対象となったのか等の情報すらない。
町の人口は多くはないが、たとえ小さな町で不発弾が発見されれば全国ニュースになるはずだし、そうなれば町の住民たちだって知っていることだろう。

「僕としては不発弾の有無も、取り壊しが止まっている理由もどうでもいいが、この絵自体に非常に興味がある。取り壊されてしまう前に是非とも生で見ておきたいものだ」

露伴はそう言いながら席を立つと、会計を済ませて店を出て行ってしまう。残された泉は、しばらくの間唖然として彼を見つめるのだった。
それから数時間後、露伴はその絵があるという廃奥の近くまで来ていた。その廃屋は取り壊されておらず、しっかりとした形でそこに在る。

「不発弾が見つかったという割には……随分と杜撰な管理だな。これでは誰でも簡単に入り込めるじゃないか」

露伴はそう言いながら、躊躇なく扉を開いて中に入っていく。屋内には家具などは一切置いておらず、床にはうっすらと埃が積もっていた。
しかし、埃を踏み荒らした形跡が至るところにあり、何者かがこの建物の中に足を踏み入れたことが分かる。床をよく観察してみると、ごく最近誰かが歩いたような跡があった。恐らくは例の絵を見に来た野次馬のモノだろう。

「やけに落書きが多が……例の絵は何処だ?」

露伴は慎重に足を進めながら廃屋の奥へと進んでいくが、壁には例の絵以外にも不気味な落書きがいくつも描かれていた。どれも奇妙で不可思議な絵ばかりである。

一つの部屋に入り、そこを徹底的に調べていく露伴。やがて彼はついに例の絵が描かれている部屋までやってくると、静かに扉を開けた。
その部屋の中は廊下以上に異様な雰囲気を醸し出しており、露伴は知らず息を飲む。

「これが例の絵か……随分と精巧に描かれているが、このアルファベットは血か?いや、違うようだが……これは一体なんだ」

無数のアルファベットが書かれた四人の男女の絵を近くで調べ始める露伴。その絵はどこまでも精巧に描かれており、露伴の目にはその絵が本物の人間に見えた。
全身にびっしりと文字が刻まれている彼らの顔はやはり仮面で隠されており、その面にもアルファベットが書かれている。
すると、何処からか物音が聞こえてくる。露伴はその物音の出どころを探るべく視線を部屋のあちこちに向けるが、何もいない。
恐らく別の部屋からの音だろうと判断すると、音の正体を探るべくその場を離れる。

「音はこの部屋の中から聞こえたようだが……」

しばらく音の出どころを探っていると、ようやく音の出所を見つけた露伴は扉を開けてその部屋の中へと入っていった。そして、その音はベッドの方から聞こえていたということが分かり、露伴はゆっくりとそちらへと歩み寄っていく。
そこには目隠しをした状態の男が震えているのだが、拘束されている訳ではないので、目隠しを外そうと思えば外せるはず。だが、何故か男はその状態でベッドの上らガタガタと震えていた。

「ひぃ……だ、誰なんですか一体!?誰かそこに居るんですか!?」

「落ち着け、僕は漫画家の岸部露伴だ。それよりも、君は一体何者で何故ここにいるんだ。何故目隠しをしている?」

謎の男が目隠しをしている理由は?下1

あの絵を絶対に見たくないから

「あの絵を絶対に見たくないからに決まっているでしょう!?それくらい言わなくてもわかるはずだ!」

どうやら男はあの絵を恐れているようだが、何故この男はあの絵を絶対に見たくないのに、わざわざこんなところにやってきたのだろうか。
服装は一般的な私服なので、外見からは男の職業が判然としない

「あの絵を見たくないだって?いったい何故だ。あの絵について何か知っているのか?」

「煩い!放っておいてくれ!い、いや待て……アンタまさかあの絵の実物を見てしまったなんてことはないだろうな?」

「見たが、それが一体何だって言うんだ?そこまで言われちゃあ気になってきたぞ……ヘブンズ・ドアー!」

露伴は男にヘブンズ・ドアーを使う。瞬間、男の体から力が抜けて床へと倒れ込んでしまう。露伴はそのまま本にしてみると、そこには情報が書かれていた。

どうやらこの男の名前は片岡茂、年齢は18歳であるようだ。彼がここを訪れたのはSNSで絵が話題になっていたからであり、友人たちとその絵を見に来たらしい。

(友人と見に来たか……だが、この男以外に人は居なかったぞ)

そう思いながら、露伴は男から更に情報を読み取っていく。あの絵に関する事ならば何でもいいから手に入れておきたかった。
すると、次は彼の友人に関する情報が浮かんでくる。その友人は三人いたようだが、その全員が消えてしまったのだ。

友人三人が消えてしまった理由とは?下1

絵から声が聞こえたと言いながら半狂乱で逃げて行った

「逃げたか……いや、単に逃げただけならば消えたと表現するか?それに絵から声だって?」

露伴は絵の存在に関して段々と興味を持ち始めた。言葉では言い表せないか何かがあの絵にはあるのかもしれないと、彼は無意識の内に考えていたようだ。
露伴が更に情報を読み取ろうとページをめくっていくが、次の瞬間には何処からか声が響いてきた。今この建物に居るのは露伴とこの男の二人だけ、だがこの声は男の者では無い。
ならば他に誰かが入って来たのかと思ったが、その声は到底人のモノとは思えず、地の底から響いてくるような声だ。
やがて、ミシミシと不気味な音を立てて壁や床が軋み始め、天井からはパラパラと埃が落ち始める。それはほんの小さな異常に過ぎなかったのだが、明らかにナニかが存在していることは明らかであった。

一先ず男の情報を読むのを中断した露伴は、慎重に周囲を伺いながら絵が置いてある部屋に向かおうと扉を開く。

「あぁぁぁぁぁぁぁ!?目隠しが……目隠しが外れて!?な、なんで……早く目隠しをしなければ!?」

「おい、たかが目隠しが取れたくらいで何をそこまで怯えているんだ」

ヘブンズ・ドアーで男から情報を得る際に、目隠しが邪魔になってしまったので外していたのだが、取れただけでここまで怯えるということがあるだろうか。
露伴はそう思いながらも男を見ると、彼は震える手で何とか目隠しを元通りにしようとするが、上手くいかないようである。

「だから、何故目隠しを───」

「う、うるさい!!お前も消えたくなかったら、早く目隠しをしろ!」

男は露伴に怒鳴りつけながらも、震える手で目隠しを再び付けなおそうとしていたのだが、上手くいかない。
露伴はこの男を放っておいて、先程の絵があった部屋へと戻るべきか、それとも再びヘブンズ・ドアーで男の情報を見るべきか迷っていた。
すると、先程までぶつくさと何事かを呟いていた男の声が突然止んだのだ。露伴はふと気になり振り返ると、先程までベッドの上にいたハズの男が忽然と姿を消していた。

「どう言う事だ……?この部屋から出る扉は一つしかない。それに、隠れる場所だってないハズだ」

露伴は不思議に思いながらも、周囲をくまなく探してみるが男の姿は無かった。だが、ふと天井を見てみると、そこには今まで無かったハズの落書きがあったのだ。

天井に突如現れた落書きはどんな絵か?下1

スタープラチナ

それは露伴も知っているスタープラチナの絵で間違いなかった。しかし、何故天井にスタープラチナの絵が描かれているのかは理解に苦しむところである。

「何故スタープラチナの絵が───」

天井に描かれたスタープラチナの絵を見ながら露伴は呟やくと同時に彼の足に、何かがまとわりついてくるような感覚を覚える。
足元を見てみると、無数の白い手が地面から伸びてきており、まるで地面へと引きずり込もうとしているようであった。慌てて足を引き抜こうとするが、その無数の手は露伴の足をしっかりと掴んで離さない。
どうにか振り解こうと藻搔くが、もがけばもがくほど白い手は露伴の足を掴んで離さない。

「あの男の目隠し……あの男が見ないようにしていたのは絵じゃあない!この白い手の方か!!」

そう考えた露伴は、白い手を見ないように目を綴じて視界をシャットダウンする。すると、先程まで纏わりつかれていた感覚が無くなる。どうやらあの白い手は視認している時のみ反応するらしい。
あの男が言っていた消えるとは、白い手に引きずり込まれるという事だとするならば、確かに目隠しをしなければ危険なモノだろう。

「そうか……!天井に突然現れた絵は、あれはあの男が白い手に引きずり込まれた痕跡に違いない!」

どう言う理屈で引きずり込んだものが只の落書きと化しているのかは分からないが、この廃屋にある落書きは全て引きずり込まれて行った者達の成れの果てと考えてもいいだろう。
眼を閉じていなければ白い手に引きずり込まれるが、閉じたままでは廃屋からの脱出は困難と考えていいだろう。
だが、露伴には引きずり込まれて行った者達とは決定的に違う部分が一つある。
それは───
「ヘブンズ・ドアー!!」

露伴は自分の腕にヘブンズ・ドアーの指先を触れさせる。そして、ページを捲って「廃屋の白い手を視認できない」と書き加えていく。
その作業を終えると、露伴は目を開けて周囲をぐるりと見回した。先程書き込んだ一文がある以上、露伴はあの白い手を見る事は絶対にないので、引きずり込まれる事も無いだろう。

白い手達が視認できなくなった彼は、改めて周囲を確認しながら移動を開始する。向かう先は例の絵がある部屋だ。
部屋へ向かう途中では、あの男から得た情報の通り、廃屋中の落書きから声のような物が聞こえてくる。
それは男性の声であったり、女性の声だったり様々であるが、全てに共通することは一つ、どの声にも人間らしい意志が無いという事だ。

「煩すぎる……頭が痛くなりそうだ」

露伴は頭を押えながら移動を続け、やがて絵が置いてある部屋までたどり着く。その部屋に入ると、彼はまず周囲を警戒して絵に近づく。
すると、例の絵からも声のような物が聞こえてくることに気が付いた。

例の絵はどのような声を発しているか?下1

ここから逃げろ、遠くに行くんだ と退避を促す声

『ここから逃げろ……!早くここから逃げるんだ!』

「おいおいおい。逃げろだって?僕は絵の謎を知るために此処に来てるるんだ、それを知る前にここを出ていく訳がないだろう」

露伴は声の聞こえてくる絵を観察しながら、思わず舌打ちする。折角の謎を解き明かせると思ったのに、この声が邪魔で集中できない。
しかしよく聞いてみると、その絵からは退避を促す声だけではなく、怨嗟の言葉や呪いのような言葉も聞こえてくる。「死ね」「憎い」等の声が聞こえ、露伴はうんざりしながら頭を押える。

「頭に響く声だな……しかも絵から聞こえてくるっていうのが実に不気味だ。不愉快にも程がある」

露伴はそう言いながらも、その声を無視して再び絵を見てみるが、どういう訳かその絵から赤い手が無数に出てくる。
それらはまるで意思を持っているかのように蠢き、露伴の体に絡みついて絵の方へと引き込んでいく。露伴はそれに抵抗するため、ヘブンズ・ドアーで自らに「廃屋の赤い手を視認できない」と書き加えていった。

すると、赤い手は見えなくはなったのだが、それでもまだ掴まれている感覚は消え去らない。どうやら白い手とは違って視認しているかどうかは関係がないようだ。

「どうすればいい!一体何が条件なんだ!それが分からなければ、引きずり込まれて壁の落書きにされちまう……!」

露伴は自らの死を感じ取り、背中に冷や汗を垂らす。白い手は視界をシャットダウンすれば回避できたが、赤い手は視界とは関係がないようである。
ならばと、露伴は再びヘブンズ・ドアーを発動し自らに「廃屋の絵の声は一切聞こえない」と書き込んでみる。すると、引きずり込まれるような感覚が無くなって安心する露伴。

「チッ……!こんなの一時しのぎにしかならないし、そう何度も条件を変えられたらたまったものじゃあない」

露伴は舌打ちしながらも、急いで廃屋から脱出する事にした。引きずり込まれる条件が再び変えられてしまう前に、ここから立ち去る必要があるからだ。
急いで階段を駆け下りて建物の外へと出ると、露伴は振り返ってその廃屋を見据える。結局あの絵が何だったのかを知る事は出来なかったが、面白い体験ではあった。
好奇心は猫を殺すというが、なかなかに刺激的な体験だったので露伴にとっては悪くはなかったと言えるだろう。

それから数日後、露伴は再びカフェ・ドゥ・マゴテラス席で担当編集者である泉京香と打ち合わせを行っていた。

「そう言えば露伴先生、あの話聞きました?」

「あの話?あのなぁ、いくら何でも主語がなさすぎるぜ。ちゃんと説明をしろよ、ちゃんと。それじゃあ何の話かさっぱりわからないじゃないか」

すると、泉はタブレットを露伴に見せながらとあるニュースサイトの記事を表示させた。そこには、例の絵が描かれていた廃屋が無事に解体されたという記事が書かれていた。
露伴はその記事を見て溜息を吐き出すと、テーブルに肘をついて指を組む。
壁の落書きにされた人たちはどうなったのか、そもそも何故そんな事が起こったのか。結局あの絵の謎は一切明かされないまま、絵ごと廃屋が解体されてしまったようだ。
露伴は不満げな表情を浮かべながら、コーヒーを啜るのであった。

「廃屋の絵」END

「六壁坂」「D・N・A」「ザ・ラン」のような、次のお話のサブタイトルを下1

右見峠(みぎみとうげ)

「右見峠」

とある町のとある市には、右見峠という険しい峠がある。右見峠には古くから伝説や伝承があり、過去には多くの人が登山にやって来たが、皆悲惨な目にあって山を下りてきた。
今の右見峠の麓には小さな村があり、山菜採りなどで生計を立てている人々が住んでいるが、その村人以外は滅多に右見峠を越えていかない。山を越えると村は田畑や人家が広がり賑わっているが、険しい山々で阻まれており、また観光地としても人気が低いためだ。
そんな村の神社に不思議な祠があった。いつからそこにあったのか、誰も知らない。中には石仏が安置されており、何の為に祀られているのかも分からない。

そして現在、岸辺露伴はその神社の神主から話を聞きながら、スケッチブックに祠を描いていた。

「この祠は昔からあるのですが、いつからと聞かれましても、てんで分からないのです。誰がいつの時代からあったのか、私も村人も皆目見当が付きません」

「右見峠の伝承については何か?」

「確か、右見峠のどこかに別の世界に渡ることができる道があると言われています。まぁ、そんなものあるとは思えませんがね」

そう言って神主は苦笑するが、露伴は気にせずにスケッチを進めて行く。

「他にも、巨大な蛇が棲んでいるだとか、金銀財宝が眠ってるだとか、色々と言われております。どれも迷信に過ぎないと思いますがね」

露伴がスケッチを進めて行く中、神主との話は更に続く。しかしその内容といえば、右見峠にまつわるただの噂話にすぎないものだった。
やがて露伴はスケッチを終えると、祠の中を調べた。中には石の仏像があり、特に変わったところはないように見えるが、よく見ると奇妙なものがくっついている。

その奇妙なものとは何か下1

精巧な石で出来た目

それは石で出来た目だった。それもかなり精巧な作りで、まるで本物のように光り輝いている。

「これは?」

「いや、知りませんなぁ。つい最近まではこんな物はついてなかったハズですが……」

神主も怪訝そうに石仏を見つめながら答えた。どうやら昨日見た時点ではこの石の目はついていなかったようだ。
露伴はその石の目をくまなく観察していくが、石で出来ている以外には特に変わった点は見られなかった。とりあえず露伴は神主に礼を言い、その場を後にする。そして麓の村で情報を集めたが、結局大した情報は得られなかった。
次の日から岸辺露伴による右見峠の探索が始まった。朝早くに出発するとそのまま山道へと入り、黙々と山を登り続ける。

次の日から岸辺露伴による右見峠の探索が始まった。朝早くに出発するとそのまま山道へと入り、黙々と山を登り続ける。

そして太陽が真上に昇った頃、彼は山道脇にある小さな小屋を見つけた。

「こんな所に小屋があるとはな。誰も使ってないようだが……」

そう言って小屋の周りを一巡りしてみると、扉に貼り紙がある事に気づいた。露伴がそれを読むと、そこにはこんな文章が書かれている。
《右の目を失っても左は見える》そう書かれていた。露伴はその意味不明な文章に思わず首を傾げたが、扉を開けて中に足を踏み入れた。
すると中には驚くべきものがあった。

その驚くべきものとは?下1

いや、驚くべきものと言ったら多少語弊があろう。

「野生の猿か?こんなところで何をしてるんだ」

小屋の中には一匹の猿がいのだが、人慣れしているのか、露伴が近づいても逃げようともしない。それどころか、好奇心に満ちた目で彼を見つめているように見える。
そんな猿は、石で出来た丸い玉を持っていた。それは昨日神社の祠で見かけた石の目とそっくり同じもので、その事に気づいた露伴は、思わず声を上げた。

「おい、お前それどこで手に入れた?いや、猿にそんな事を聞いても答えが返ってくるわけが無いか」

そう言って露伴は苦笑し、猿から距離を置くと再び小屋の中を見回すが、中は埃っぽくて長い間使われていない事が窺えた。露伴は猿を無視して、更に小屋の中を調べると、今度は壊れたラジオを見つけた。どうやらデジタル式のものではなくアナログのもののようだ。電源を入れてみるが何も聞こえてこないため、壊れている事は間違いないようだ。
その時、突然ラジオから妙な音が流れたかと思うと急にノイズ混じりの音声が響く。
〈俺は……の蛇〉〈右目を……者の前に……〉そしてしばらくすると声は聞こえなくなり静寂が訪れるのだった。

「今のはなんだ……?」

露伴は不思議そうにラジオを見つめるが、やはり何も聞こえない。だが確かに今ラジオから聞こえて来たのは、間違いなく人の言葉だ。
露伴はラジオを弄り回してみるが、それ以上の事は何も起こらない。もう一度あの声を聞ければと思ったのだが、そう上手くはいかなかったようだ。
一つため息を吐いてラジオを元の場所に戻すと、改めて小屋の中を調べ始めた。すると今度は部屋の隅に木で作られた箱を見つけた。かなり古びており、怪しげな札が貼られてあり、蓋も閉まっていない。
露伴はその箱を手に取って開けてみる事にした。中には手帳のような物が一冊入っているだけで他には何も入っていない。

その手帳を開き中身を読んでみると、どうやらこれはとある記者の物であり、この記者も右見峠の伝承について調べているということが分かった。
所々が擦れていて読めないが。右の眼、右の手、右の脚等々、事あるごとに右、右と繰り返されている。そして記者は奇怪な体験を何度もしたようだ。

「この手帳の持ち主は一体何を見たんだ?」

更に読み進めていくうちに、その記者は何かを見たという事が分かった。だが、その何かがいまいちわからない。まるで、その何かを記録に残してはいけないかのような書き方であった。
露伴がその手帳を見ていると、不意に背後から声をかけられた。だが、そこには猿が居るだけで他には誰もいない。
気のせいだと思い直し再び手帳に目を落して再び読み進めていくと、今度は石で出来た目の記述が目に入る。どうやらその石は突然目の前に現れたらしく、それを拾い上げたと同時に奇妙な現象が起きたようだった。

その奇妙な現象とは?下1

自身の右目と石で出来た目が入れ替わる。

なんでも自身の右目と石の目が入れ替わってしまったらしく、更には入れ替わった自身の右目はそのまま消え去ってらしい。
いったい何故右目と入れ替わったのか、その石の目は一体何なのか、そもそも右目は一体どうなったのか、全てが謎のままだ。

「その後はどうなったんだ?クソッ……肝心な部分が破れて読めないじゃないか」

露伴は手帳を一旦閉じてズボンのポケットにしまい、改めて箱の中を覗いてみると二枚の写真が入っていた。そこに映っているのは巨大な大木であり、天に向かって大きく枝を伸ばしている。
そしてもう一枚は人骨の写真なのだが、奇妙な事に右半分が石像になってしまっている。一体この写真が何を意味してるのか、そして箱に入っていた手帳の持ち主はどうなったのか、謎は深まるばかりだ。
そこでふと、露伴は猿の持っている石の目を事を思いだした。

そして猿の方に目を向けると、その猿は小屋の外へと勢いよく飛び出していった。露伴は猿を追いかけて外へ出ると、まるでついて来いと誘導するかのように山道を駆けていく。
猿は木々の間をすり抜け、坂道を駆け上がり、山の奥へと進んでいく。そしてついに目的地に辿り着いたのか、猿はそこで足を止めた。
露伴が辿りついた場所は写真に写っていた巨大な大木の麓で、よく見ると石の残骸があちらこちらに散らばっている。
そして、その石の残骸を幾つか拾い上げて観察していくと、それは石で出来た右手や右足の残骸である事がわかった。

「ここにあるのは全て右見峠の伝承にまつわるものという事か……?」

と、露伴は手帳の記述を思い返しながらそう呟く。恐らく手帳の持ち主もこの残骸を見つけ、そして右目と石の目が入れ替わったというのも、この辺りで本当に起こった事なのだろう。
と言う事は、この大木に何かがあるのかもしれない。そう思って露伴は大木の周りを調べると、そこには祠がひっそりと佇んでいた。するとその祠から何者かの気配が感じられ、露伴は思わず身構える。
そして扉がゆっくりと開かれると中から奇妙な男が現れたのである。その男は恐ろしいほどに瘦せこけた顔付きをしており、まるで死人のように白かった。

「……」

「何者だ?お前は……こんな所で一体何をしてる?」

露伴はそう質問するが、男は何も答えずにゆっくりとした足取りで近づいてくる。まるで仙人か何かを思わせるような、そんな雰囲気だ。

「汝……

奇妙な男は何と言った?下1

岸辺露伴だな?ジョセフ・ジョースターから聞いている。

「汝……岸辺露伴……だな?ジョセフ……ジョースターから……聞いている」

男はそう言って露伴に近付いて来る。どうやら彼はジョセフ・ジョースターと知り合いらしいが、露伴には彼の言う事がよく理解できなかった。
言い方は悪いかもしれないが、ジョセフ・ジョースターはは年老いてボケた老人であり、こんな奇妙な男が知り合いだという話は聞いた事がない。それにこの男は本当に彼の事を知っているのだろうか。

「信じられないな、そんな言葉は」

「さてな……信じるも、信じないも……お前次第だ」

そう言って男は更に露伴の方へと近付いていく。まるで仙人が纏うような謎めいた雰囲気を持つその男は、ますます怪しく見えてきた。
もしやこの男は何かしらのスタンド使いではないのか?そう思い身構える露伴だったが、一向に攻撃を仕掛けてくる気配がない。ただ淡々と近寄ってくるだけだ。

よく見ればその老人の右腕は石で出来ているようで、その右腕が奇妙な音をたてている。まるで歯車と歯車が噛み合って無理やり動いているかのような、そんな音だ。

「ヘブンズ・ドアー。何が目的かは知らないが、念の為に記憶を読ませて貰うぞ」

露伴はそう言うと、ヘブンズ・ドアーを発動させて老人の記憶を読んでいく。この老人の名は杉山真二と言い、百歳どころか二百歳を越える長寿であった。
只奇妙な事に、所々の記憶の閲覧ができない部分があり、まるであの記者の手帳の様に記憶に残っていてはいけないかのような感じがあった。
何故ここまで右見峠の伝承について隠す必要が有るのか。人の記憶にまで影響を与えるその伝承に、露伴は好奇心を掻き立てられる。

「何故そうまでして隠そうとする?伝承が広まるのは望ましくない理由でもあるのか」

露伴はそう言いながら更に記憶を読み取っていと、突然「───は見ている」と言う一文が浮かび上がってきた。
当然露伴が書き込んだものではなく、ヘブンズ・ドアー以外のナニかがその文字を書き込んでいるという未知の事態に、露伴は不気味さを感じていた。
すると、またもや文字が浮かび上がきた。

それは何と書かれていた?下1

石の柱の男

すると、またもや文字が浮かび上がきた。それは「石の柱の男」という文字だった。

「石の柱の男……一体何の事だ。それも右見峠の章に関係があるのか?」

露伴はそう呟きながら更に記憶を漁っていこうとしたが、やはり重要な部分の閲覧ができない。
露伴は疑問に思いながらも一旦記憶を読むのをやめと、次の瞬間には老人の姿はまるで風化するかのようにサラサラと崩れ去ってしまった。
ほんの一瞬にして灰の様になってしまい、後に残ったのは石の右手のみだ。露伴はそれに触れてみるが、ただ冷たいだけで他に何も感じられない。

「結局あの老人は何だったんだ……?分からない事ばかり増えていくな」

露伴は首を傾げながら呟いた。とにかく分かったのはこの右見峠には何かがあり、それを調べるうちにあの老人に出会ったという事だけだ。露伴は別の場所を調べようと踵を返そうとしたその時、何かが耳に届く。それは音のようでもあり言葉のようでもあるが、なんて言っているのかまでは聞き取る事ができなかった。

「音……?どこから聞こえてくるんだ」

露伴は耳を澄ましながらその音の発信源を探すが、どこに音源があるか全く見当がつかない。だがその謎の音は次第と大きくなり、やがて露伴の耳にしっかりと届くほどの大きさになった。
音というよりも声に近いそれは、どうやら右見峠のどこかから聞こえて来ているらしい。それに気づいた時、今度ははっきりと言葉が聞き取れた。

〈右の身を捧げよ〉

それは意味のわからない言葉だったが、どこか危険を孕んだ物だと露伴は本能的に感じ取った。自分の身の一部を差し出せというのだろうか、それとも別の意味が隠されているのか。
露伴は周囲を見渡して警戒しながら歩き、声の出所を探った。だが、声の主らしき人影は全く見つからない。それどころか露伴以外の人の気配が全くしないのだ。
しばらく探し続けたがやはり手がかりを見つける事はできなかったため、露伴は諦めて外に通じる道へと出る事にした。すると、辺り一面が霧に覆われており、一寸先すら見えなくなってしまっていた。

「なんて濃さだ。山の天気は変わりやすいと言うが、まさかこれほどまでとはな」

露伴はため息を吐きながゆっくりと歩き始めていくが、その間にも霧は濃くなり視界を完全に遮断していく。
それからしばらく歩き続けるが一向に霧が晴れる気配はなく、先程から同じところをグルグル回っているような気がしてならないのだ。
それでもしばらく歩いていると鳥居のような物が見えてきたので、それに近づいてみる事にする。すると、それには文字が刻まれてあった。

なんと刻まれていた?下1

波紋の民を頼れ

「波紋の民を頼れ……だと?」

露伴はその言葉の意味を考えながら鳥居を見上げると、その奥に何かが在るようなそんな気がした。だがやはり霧が濃くて奥を確認する事ができず、何も見えない状態だ。
それでも露伴は鳥居を潜り抜けて先へ進んで行くと、今度は階段が現れた。まるで山の中腹にでもありそうなその長い階段を一歩、また一歩と上って行く露伴。そしてようやく一番上まで辿り着くとそこには一人の男が手帳に何かを走り書きしている姿があった。

「ここが右見峠……のはずだが」

「おい、そこのお前」

「もっと奥に進んでみるか」

男は露伴の問いかけに反応せず、そのまま奥に進んで行ってしったので、露伴もその後を追って歩き出した。

一体この男は何者なのろうか。そんな疑問を抱きながら露伴が男の後を追っていると、また同じような階段が現れる。そして石段を上り続けていくと、突然目の前が開けて場所が変わった事に気付いた。
奥にはいくつもの石の柱が乱立しており、その中央には祭壇のような物まで設えられていた。

「ここがそうなのか?ここが右見峠の伝承の場所なのか」

「おい!さっきから一体何なんだ?一人でブツブツと。この霧で頭がイカれちまったのか」

「伝承によれば、石の柱に捧げた右の身を捧げれば願いを叶えてくれると聞いたが」

「無視……いや、そもそも僕を認識していないのか」

露伴がいくら話しかけても男は一切反応を示さず、ひたすらブツブツと独り言を呟きながら祭壇の前へと歩み寄って行く。そして懐からナイフを取り出して自分の腕を切りつけたかと思うと、その血が滴り落ちる腕の血を地面に塗り込んでいく。

すると突然半裸の男が現れて、その男の前まで歩いていった。

「汝……我に右の身を捧げよ」

「やはりか!!伝承は正しかった!神よ、私の右目を生贄に捧げます!!」

男は嬉々としてそう言うと、半裸の男は何処からともなく石の目を取り出す。すると、次の瞬間には男の右目とその石の目が入れ替わっていた。
そして石の目の持ち主は現れた時と同様に忽然と姿を消すと、右目を捧げたその男は歓喜に打ち震えながら手帳に書き込んでいく。

「凄い……!凄いぞ!右身峠に来た甲斐があった!痛くない!!私の体を蝕んでいた痛みが嘘のように消えた!」

彼は喜びを露わにしながら更に手帳に書き込んでいった。そうして暫くしてから立ち上がると、満足したようにその場から立ち去ろうと歩き出す。

露伴もその後を追うとしたが、視界がぼやけて身体が重くなっていく。
露伴は突然の事に目を疑ったが、もう既に自分の意志で体を動かせる状態ではなく、為す術もなくそのまま地面に倒れてしまった。そして徐々に意識が朦朧としてきて、露伴はそのまま目を閉じてしまったのだった。

「くそっ……一体何だったんだよ、今のは……」

露伴はまだ霞みがかったような意識の中でそんな悪態を吐くと、ゆっくりと目を開けていく。ぼやけた視界が徐々に鮮明になり、同時に意識が覚醒していくのを感じる。
そして周囲を見渡すと、自分があの小屋の中に居る事を理解する。手には記者の手帳が握られている。

「この手帳……!あの半裸の男に右目を差し出した男の手帳と同じものじゃないか!!」

露伴はそう叫ぶと、急いでその手帳を読むことにする。すると、先程は読めなかった部分が読めるようになっていた。

《肉体と精神は既に限界に達していた。徐々に進行する病気により身体は弱り、日に日に蝕まれる痛みは増していったが、それを治す方法は無いに等しかった。このまま行けばいずれは痛みによって発狂してしまうだろう。それだけは絶対に避けたいところだ》

どうやら記者の男の身体はもはや手遅れと言える状態まで進行しており、そうなる前にと『右身峠』の伝承通り、身を捧げる覚悟を決めたようだ。
神に右の体の一部を差し出す事により、願いを聞き入れてもらう事が出来る。男はその伝承通り、自らの右目を差し出す事により、体を蝕む病魔から解放されたようだ。

(あれはもしかしたら僕が見た夢なのか……いや、過去の出来事なのか?)

露伴はそんな事を考えながら、次のページを捲る。少し前に見た時と書かれている事が変わっており、隠匿されていた情報が正しい情報へと置き換わったかのような感じであった。

この手帳から読み取れる情報とを露伴はまとめ始める。
この右見峠は元々は『右身峠』であり、右の体の一部をを捧げる事により願いが叶うという伝承からそう呼ばれていたようだ。
しかし、それがいつしか右身ではなく右見へと変わってしまったらしく、それに伴いその伝承も薄れて何時しか忘れ去られていった。

「神に体を捧げて願いを叶えるなんて、僕にはそうまでして叶えたい願いは無いがな」

右身から右見へと変わった理由など、その他にも知りたい事はあったが、情報が少なすぎるのでこれ以上の事は知りようがないだろう。
露伴は苦笑いをしながら手帳を閉じると、そのまま山を下りて町へと戻っていくのだった。

「右見峠」END

AIと手書きの割合が気になる

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