それは懐かしい声だった。少なくとも今の俺にとっては随分と久しぶりに聞く声で、あと数年は聞くはずのない声だった。
「久しぶりね、岡部遼太郎、いえ、オカリンおじさんと呼んだほうがいいかな。」
彼女がいるということは、ダイバージェンスが僅かにズレた、あるいは、俺はたどり着いたはずの運命石の扉から外れてしまったのかもしれない。
いずれにしろ、彼女がいるということは、この世界線の先にタイムマシンが開発される未来がある。
それだけは確実だった。
「久しぶり、といってもお前はこの時代の俺にはお前はあったことがないはずだがな。バイト戦士。」
「うーん、そうだね。何か勘違いしているみたいだから一応訂正しておく。確かに、私は未来から来た阿万音鈴羽よ
だけど、私はタイムマシンに乗ってここまで来たわけじゃないよ。この世界線で、タイムマシンは作られないの。」
鈴羽は俺の表情を見て考えていることを察したのか、俺の懸念を否定してのけた。さすがは、ダルの娘というべきか。
洞察力と言うか、瞬時に物事を予測、判断するという能力は間違いなく父親譲りのものだろう。
「ならどうやってお前はここまで来たんだ。タイムマシンがないなら、タイムリープ装置かdメールがなければ過去には干渉できないはずだ。」
いや、と俺は少し目を閉じて髪の毛を搔きむしると鈴羽の目をまっすぐと捉えた。
「時間に干渉できる装置があったとしても、人体をゼリーマンにせずに過去に送るにはタイムマシンの存在失くしてはあり得ない。」
一体どうやったんだ?言外にそう投げかけながら、俺は鈴羽の言葉を待った。
「まぁまぁ、そんな顔しないでよ。私としても今ここにいるのは不本意、というか全くの偶然、想定外もいいところなんだよ。」
「想定外?」
「うん。私は確かに未来から来たよ。それだけは間違いない。ただ、私はタイムマシンを使用して、いや、タイムマシンが
存在していないにも関らず過去へと来てしまった。まるで、オカリンおじさん、貴方が1年前に世界から突然に消えてしまったように。」
その言葉に俺はこの耳を疑った。世界線が移動されれば現在は再構成され、その未来は破棄、なかったことになるはずなのだ。
だから鈴羽の言っていることは、いや鈴羽がそれをいうことは決定的におかしいのだ。
「どうして、どうしてお前がそのことを知っている..?世界線を移動すれば強力なリーディングシュタイナーを持っている人間、
つまりは俺以外の人間の記憶は消えるはずだ。まして、お前は未来の人間だ。俺が出会ってきたそれぞれの鈴羽がそうだったように、
お前が覚えているはずはないんだ。」
「まさかってやつなんだろうね。私には様々な世界線の私のタイムトラベルの全ての記憶を持っている。
橋田鈴として、記憶を失い任務を失敗し、最後には自殺した記憶も。あの夜、父とは会えずに1975年に飛び立った先の記憶も、
牧瀬紅莉栖が死んだ過去を変えるために、第三次世界大戦が起きた未来からやってきて、シュタインズ・ゲート世界線を
目指した記憶も。私はすべて覚えている。端的に言えば、今の私にはリーディングシュタイナーと酷似した能力があるんだよ。」
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「なんだと。」
まるで荒唐無稽、一体なぜ今まで起こりえなかったことが起きたのか、目の前にいる人物は本当にあの鈴羽なんだろうか。
様々な憶測が驚愕とともに脳裏を巡り、気づけば急激に渇きを感じた喉が震えてかすれたままに言葉を発していた。」
「お前は本当に鈴羽で間違いないのか?」
電柱に背をかけた鈴羽は腕を組んで、空の向こう側を覗き込むように遠い目をして、それから静かにため息をついた。
「なんでなんだろうね。私は確かにいろんな記憶を持っていて、だけど、私の自我人格というのはシュタインズ・ゲート世界線の私っていう自覚がある。
どちらかというと、忘れていた記憶を突然になにもかも思い出した。逆になんで今の今まであの辛く苦しい記憶を忘れていたのか。そう思うほどにね。」
それを聞いて俺はフェイリスの、いや、瑠未穂との一件を思い出していた。
「確かに、世界線が移る前に記憶していた、心の根源に位置しているような、捨てがたい、絶対になくしたくない何かに
触れることで、突発的に以前の世界線の記憶を思い出すということはある。だけど、それは俺のリーディングシュタイナーとは
似ているようで別物だ。俺は世界線が変わった後に再構成されるはずの記憶が欠落する。たぶん、お前にはそれが起きないんだろう?」
「どうなんだろうね。思い出したとはいっても、私は実際に世界線が移動するのを体験したわけじゃないから、
これがオカリンおじさんと同様のものかはまだ分からないんだ。」
「なるほど、つまりはお前がそれをはっきりさせるためには世界線を移動するほかに方法はないということか。」
「そうだね、でも確かめる方法はないよ、だって、オカリンおじさんはタイムマシンに関わることをするつもりはないんでしょ?」
鈴羽は諦めたような調子でそういった。
「ああ。だが鈴羽、タイムマシンがなければお前は未来に変えることはできない。そうだな?」
鈴羽は言葉に詰まって、何かを口ごもった。
「やっぱりわかっちゃうよね。私がそうして欲しくてオカリンおじさんに声をかけたって。」
俺はうなずいて、無論だなと言った。
「本当は迷ったんだ、今の幸せそうなおじさん達にタイムマシンを作ってほしいと頼むことはおじさんが苦労して導き出したシュタインズ・ゲートの選択を台無しにしてしまう可能性があるからさ。私だって、もうあんな未来はごめんだから。」
あの時、俺がDメールを取り消さなかった世界線の、父に会うこともできずに旅立っていった鈴羽が、別れを口にしたときの何かに期待するような、
それでいて確かに、何かを諦めてしまっている、それとまったく同じ達観した表情を俺はまた目にしている。
今思えば、あれは必要なことだったが、あのとき彼女の想いを踏みにじった後悔は今もなお2年という歳月が流れたにもかかわらず、ありありと思い出せた。
「勘違いするなよ、ラボメンナンバー008阿万音鈴羽。俺はタイムマシンを作ることをしないとは言ったかもしれないが、お前を助けないと言った覚えはない。いついかなる時も、この鳳凰院凶真はラボメンの仲間であるお前を見捨てたりはしない。だから、もったいぶるな、正直に起こったことを話せ。お前はまだ隠し事をしているんだろう?」
俺は随分と久しぶりにその名を口にし、ニヤリとサディスティックな笑みをこの頬に浮かべた。
今日はここまでにします。モチベーション不足になるとエタると思うので、もしよかったら何でもいいのでレスをください
お前を見ているぞ
楽しみにしてるぞ
もし可能なら比屋定真帆とかシュタゲ0組も出して欲しいぞ(難しいなら無理で構わないぞ)
鈴羽はため息をついて電柱から背を離し、俺のほうへ向き直った。
「分かった。ここで話すと父さんや母さんと出くわす可能性があるから別の場所で話そう。ついてきて。」
俺がうなずくと鈴羽は背を向けて歩き出した。
俺は鈴羽の後ろをついていき、しばらく歩いたところで声をかけた。
「なぁ、向かってる場所ってもしかして」
「そうよ、今私はラジ館の屋上に向かっている。」
「わざわざラジ館に向かう理由でもあるのか?」
「うん。でも、こればかりは見てもらったほうが早いと思う」
そういうと鈴羽は再び俺の前を歩き始めた。
ラジ館に到着し、そのまま俺たちは屋上へ向かうために階段を登った。
そして、屋上の扉のドアノブに鈴羽は手をかけると、こちらに顔を向けた。
「オカリンおじさん。」
「なんだ。バイト戦士よ。」
今はバイトはしてないけどね、鈴羽はあきれ混じりにそう言った。
「先に言っておくけど、さっきも言った通り私はタイムマシンに乗って過去にたどり着いたわけじゃない。
私は原因不明の何らかの現象によって突発的にこの時間へと迷い込んでしまった。」
「それは聞いたが、なぜ今それを言う。」
「オカリンおじさんにとってはあまり見たくないものが屋上にあるからだよ。」
「なるほど、そういうことか。」
鈴羽は頷くと、ドアノブをひねり扉を開いた。
そのまま屋上を少し歩くと、急に目の前に衛星のような何かが現れた。
俺はそれを知っている。
「あんまり驚かないんだね。」
鈴羽は意外そうに言った。
「驚いてはいるが、ラジ関に向かっていることが分かった時、うすうすそんな気はしていたんだ。どの世界線でもライムマシンはラジ館に止められていたからな。」
言い終えると、はぁ、と。俺は深くため息を吐いた
「まさか、またタイムマシンを見ることになるなんてな。で、鈴羽。お前がこれに乗ってきたわけではないことは分かったが、
そうなるとお前はいったいどうやってこれを見つけたんだ?」
鈴羽とイチャコラ期待
期待
「見つけたっていうか、既にここにあったって言ったらいいのかな。私が過去に飛ばされたとき、たどり着いた場所はこのラジ館の屋上。」
「バイト戦士が飛ばされたのと同じ場所にタイムマシンがあったというわけか。それではまるでお前がタイムマシンに乗ってきたようではないか。」
「確かにそうだね。オカリンおじさんも経験したように、タイムマシンを使うとき、人体には大きなGがかかるんだ。人体への負荷を限りなく抑えた状態でもこれをなくすことはできなかった。つまり、生身でタイムマシンを使わずに過去に戻ることはできない。おじさんはそう言いたいんだよね?」
俺はそれに頷いて鈴羽に同意を示した。
「SERNの研究では人体を過去に送ろうとしたとき、人体はゼリー状の緑色の物体、ゼリーマンになってしまった。だから、バイト戦士がゼリーマンになっていない以上、タイムマシンに乗ってこなかったということはあり得ない。」
「それでも私はタイムマシンには乗っていない。」
「ああ、にもかかわらずお前はここに存在してしまっている。まるで、アトラクタフィールドの収束だな。」
俺は、どれだけ手を尽くしても、必ずまゆりが死んでしまうα世界線のことを思い浮かべながらそう言った。
「アトラクタフィールドの収束...?」
鈴羽は神妙な面持ちで小さくそうつぶやいた。口元に手を当てて少し考えこむようなしぐさをしている。
「俺の記憶が確かなら、どの世界線でもタイムマシンに乗って過去へとやってくるのは必ずバイト戦士だった。
お前も、他の世界線の記憶があるなら、それについても心当たりがあるんじゃないのか?」
「そう、だね。たしかに、タイムマシンが橋田至の、父さんの手によって完成した場合、私は必ずそれに乗って過去へと飛ぶことになる。
私と、それともう一人を連れて飛ぶこともあったけど、基本的にはそれに乗ってくるのは私なんだ。」
「たしかSERNはタイムマシンの開発には成功していたんだよな?それにアメリカやロシアも。」
「うん、そうだよ。それがどうかしたの?」
鈴羽は頷くと、理由を尋ねた。
「タイムマシン開発に成功した国家や組織がこの時代、つまり2010年に干渉してこなかったのは、大分岐が起きた年に干渉することで
世界線が変動し、タイムマシンが作られなくなることを恐れた、この認識であっているか?」
「大体あっているけど、少し違う。少なくともSERNにとってはそう。だけど、アメリカやロシアはDメールに関係なくタイムマシンを作ることが出来る。、中鉢論文やAMADEUSから牧瀬紅莉栖のタイムマシン理論を手にすることが直接的な原因だからね。ゆえに、本来なら彼らが2010年に干渉しない理由はないの。」
「本来なら?」
「2010年を制するということはタイムマシン開発を制するということと同じだからね。だけど奴らはそうしない。」
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