STEINS;GATE 起点消失のエンドライン (12)

それは懐かしい声だった。少なくとも今の俺にとっては随分と久しぶりに聞く声で、あと数年は聞くはずのない声だった。

「久しぶりね、岡部遼太郎、いえ、オカリンおじさんと呼んだほうがいいかな。」

彼女がいるということは、ダイバージェンスが僅かにズレた、あるいは、俺はたどり着いたはずの運命石の扉から外れてしまったのかもしれない。
いずれにしろ、彼女がいるということは、この世界線の先にタイムマシンが開発される未来がある。
それだけは確実だった。

「久しぶり、といってもお前はこの時代の俺にはお前はあったことがないはずだがな。バイト戦士。」

「うーん、そうだね。何か勘違いしているみたいだから一応訂正しておく。確かに、私は未来から来た阿万音鈴羽よ
だけど、私はタイムマシンに乗ってここまで来たわけじゃないよ。この世界線で、タイムマシンは作られないの。」

鈴羽は俺の表情を見て考えていることを察したのか、俺の懸念を否定してのけた。さすがは、ダルの娘というべきか。
洞察力と言うか、瞬時に物事を予測、判断するという能力は間違いなく父親譲りのものだろう。

「ならどうやってお前はここまで来たんだ。タイムマシンがないなら、タイムリープ装置かdメールがなければ過去には干渉できないはずだ。」

いや、と俺は少し目を閉じて髪の毛を搔きむしると鈴羽の目をまっすぐと捉えた。

「時間に干渉できる装置があったとしても、人体をゼリーマンにせずに過去に送るにはタイムマシンの存在失くしてはあり得ない。」

一体どうやったんだ?言外にそう投げかけながら、俺は鈴羽の言葉を待った。

「まぁまぁ、そんな顔しないでよ。私としても今ここにいるのは不本意、というか全くの偶然、想定外もいいところなんだよ。」

「想定外?」

「うん。私は確かに未来から来たよ。それだけは間違いない。ただ、私はタイムマシンを使用して、いや、タイムマシンが
存在していないにも関らず過去へと来てしまった。まるで、オカリンおじさん、貴方が1年前に世界から突然に消えてしまったように。」

その言葉に俺はこの耳を疑った。世界線が移動されれば現在は再構成され、その未来は破棄、なかったことになるはずなのだ。
だから鈴羽の言っていることは、いや鈴羽がそれをいうことは決定的におかしいのだ。

「どうして、どうしてお前がそのことを知っている..?世界線を移動すれば強力なリーディングシュタイナーを持っている人間、
つまりは俺以外の人間の記憶は消えるはずだ。まして、お前は未来の人間だ。俺が出会ってきたそれぞれの鈴羽がそうだったように、
お前が覚えているはずはないんだ。」

「まさかってやつなんだろうね。私には様々な世界線の私のタイムトラベルの全ての記憶を持っている。
橋田鈴として、記憶を失い任務を失敗し、最後には自殺した記憶も。あの夜、父とは会えずに1975年に飛び立った先の記憶も、
牧瀬紅莉栖が死んだ過去を変えるために、第三次世界大戦が起きた未来からやってきて、シュタインズ・ゲート世界線を
目指した記憶も。私はすべて覚えている。端的に言えば、今の私にはリーディングシュタイナーと酷似した能力があるんだよ。」



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「なんだと。」

まるで荒唐無稽、一体なぜ今まで起こりえなかったことが起きたのか、目の前にいる人物は本当にあの鈴羽なんだろうか。
様々な憶測が驚愕とともに脳裏を巡り、気づけば急激に渇きを感じた喉が震えてかすれたままに言葉を発していた。」

「お前は本当に鈴羽で間違いないのか?」

電柱に背をかけた鈴羽は腕を組んで、空の向こう側を覗き込むように遠い目をして、それから静かにため息をついた。

「なんでなんだろうね。私は確かにいろんな記憶を持っていて、だけど、私の自我人格というのはシュタインズ・ゲート世界線の私っていう自覚がある。
どちらかというと、忘れていた記憶を突然になにもかも思い出した。逆になんで今の今まであの辛く苦しい記憶を忘れていたのか。そう思うほどにね。」

それを聞いて俺はフェイリスの、いや、瑠未穂との一件を思い出していた。

「確かに、世界線が移る前に記憶していた、心の根源に位置しているような、捨てがたい、絶対になくしたくない何かに
触れることで、突発的に以前の世界線の記憶を思い出すということはある。だけど、それは俺のリーディングシュタイナーとは
似ているようで別物だ。俺は世界線が変わった後に再構成されるはずの記憶が欠落する。たぶん、お前にはそれが起きないんだろう?」

「どうなんだろうね。思い出したとはいっても、私は実際に世界線が移動するのを体験したわけじゃないから、
これがオカリンおじさんと同様のものかはまだ分からないんだ。」

「なるほど、つまりはお前がそれをはっきりさせるためには世界線を移動するほかに方法はないということか。」



「そうだね、でも確かめる方法はないよ、だって、オカリンおじさんはタイムマシンに関わることをするつもりはないんでしょ?」

鈴羽は諦めたような調子でそういった。

「ああ。だが鈴羽、タイムマシンがなければお前は未来に変えることはできない。そうだな?」

鈴羽は言葉に詰まって、何かを口ごもった。

「やっぱりわかっちゃうよね。私がそうして欲しくてオカリンおじさんに声をかけたって。」

俺はうなずいて、無論だなと言った。

「本当は迷ったんだ、今の幸せそうなおじさん達にタイムマシンを作ってほしいと頼むことはおじさんが苦労して導き出したシュタインズ・ゲートの選択を台無しにしてしまう可能性があるからさ。私だって、もうあんな未来はごめんだから。」

あの時、俺がDメールを取り消さなかった世界線の、父に会うこともできずに旅立っていった鈴羽が、別れを口にしたときの何かに期待するような、
それでいて確かに、何かを諦めてしまっている、それとまったく同じ達観した表情を俺はまた目にしている。
今思えば、あれは必要なことだったが、あのとき彼女の想いを踏みにじった後悔は今もなお2年という歳月が流れたにもかかわらず、ありありと思い出せた。

「勘違いするなよ、ラボメンナンバー008阿万音鈴羽。俺はタイムマシンを作ることをしないとは言ったかもしれないが、お前を助けないと言った覚えはない。いついかなる時も、この鳳凰院凶真はラボメンの仲間であるお前を見捨てたりはしない。だから、もったいぶるな、正直に起こったことを話せ。お前はまだ隠し事をしているんだろう?」

俺は随分と久しぶりにその名を口にし、ニヤリとサディスティックな笑みをこの頬に浮かべた。

今日はここまでにします。モチベーション不足になるとエタると思うので、もしよかったら何でもいいのでレスをください

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