鬼殺隊剣士「死ぬ前に行ってみるか、遊郭」 (20)
明治13年
鬼殺隊剣士→男「家族を鬼に殺されて10年。過酷な生活が祟って余命わずかと宣告された」
男「蝶屋敷の方に墓の用意をされるほど弱ってから半年も鬼殺隊を続けた俺は本当にすごいと思う」
男「しかしいよいよダメになってしまった。元々風邪っぴきのする方ではあったが、もう剣を振って数分足らずで呼吸が使えない」
男「引退だ」
男「最後の旅は、先に逝った仲間たちに楽しい土産話をできる場所がいいな」
男「うん、仲間のためなら仕方ない」
男「いざ、遊郭に」
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遊郭〈ガヤガヤ ガヤガヤ
男(なんだろう。来てみたはいいものの)
美女壱「あら~、今日もきてくれたのぉ?」ハダケー
美女弍「駄目よ、私たちはしょせん泡沫の夢。貴方と共には行けないわ」ハダケー
男(なんで美女しかいないの)
男(なんでこんなよりどりみどりなの)
男(なんで肩が露出してんの)
男(こぼれ落ちそうなたわわに釘付けだよ!)
美女参「ねぇそこのお兄さん」クイッ ハダケー
男「淫靡!」クワッ
美女参「いん……えっ?」
男「じゃなくて。寒くないのか君!」
美女参「あら、あら」クスクス
男(笑顔かわいい)
美女参「ね、お兄さんは遊郭初めてでしょ?」
男「は、え、ちか」
美女参「緊張しないで。……あら、逞しいのね」
男「あああ」
美女参「今日は私と一緒に遊びましょ♪」
男「」
男「前後不覚になって逃げ出してしまった……」
男「恐ろしい鬼からも逃げたことのない俺を退かせるとは大した人物だ」
男「きっと遊郭では美上弦の一人に数えられていたに違いない」
男「危うく貞操の危機だった」
男「……あれ? 俺捨てにきた……あれ?」
男「気を取り直して遊郭へ」
男「まあ正直さっきは様子見だった。遊郭の美女たちの一分しか見ないうちに心を決めては、間違いなく早漏と茶化される」
男「やはり泰然自若と、真剣な気持ちで、確たる意思で」
男「美しい花の中から、最高の一輪を見極める」
男「いざ、有終の美を飾らん!」
〈ザワザワ
男「ん? 何やら向こうの通りが騒がしい」
男(祭囃子。まるで別世界へと迷い込んだような空気の変質)
男(熱に浮かされた人々の騒ぎと、こぼれて溢れる光に、隣の通りへ誘蛾のごとく立ち寄ると)
男(さながら天から降ったと思うほどの美貌の遊女が)
男(しゃらん、しゃらんと浮世を震わせ、道を下っていた)
「夕霧大夫だ」
「やっぱり遊郭一だ。夕霧大夫は」
〈ドンドン パーパラー
夕霧大夫「????」
男(世界は彼女を中心に廻っているのではないかと思った)
男(悪名高き、怨敵鬼舞辻が生み落とした鬼も忘れて、この時代のこの場こそ完成された世界に感じた)
男(万人の視線を浴びて、凛々しく可愛らしく、そんな花魁に誰しも憧憬の眼を向ける)
〈オナアアアアリイイイイイ??
男(……だが)
男(その列の後ろ、闇夜に溶け込む一人の遊女)
男(つまらなそうに、退屈で仕方ないといった具合で睨めつける姿を見て)
男(かつてないほど、心の震えを覚えた)
夕霧大夫の花魁道中 列中央
遊女?(くそ! なんであたしが引き立て役を!)
遊女?(あたしの方が綺麗なんだから!)
遊女?(けど……まあ、あたしには及ばないけど夕霧。本当に瑞々しく美しい肉に育ったわね……)
遊女?(はあ……うふ。夕霧は久しぶりのご馳走。お前を楽しんだらいったん雲隠れしようかしら)
遊女?(下らない人間の相手は疲れたし、目星のつけてた子は帯に取り込み終えてしまった)
遊女?(次は鯉……紫……そうね、蕨姫がいいわ)
遊女?→堕姫(あとは地下の帯ごと隠れてしまおう)
男「ーーーー」
堕姫(あら? こいつは)
堕姫(こいつ、鬼狩りだ。周りとは違う。おそらく柱か、それに近い)
堕姫(……けど、ウフフ。お前もうすぐ死ぬわね)
堕姫(ボロボロじゃない、身体が。一瞬で殺せるわ)
堕姫(こんな場所に姿を晒して、まさか勝てると思ってるの? あたし上弦の陸よ。強い柱を六人喰った)
堕姫(勝てないのよ。わかる? ま、すぐ終わらせてあげるわ。あんたは不細工だから食べるのはお兄ちゃんね)
男「…………」
堕姫(来ないわね……ああ、そう。気にしてるのね、コイツらを)
堕姫(そうね。あんたが刀を抜いた瞬間にあたし殺すもの。周りの連中全員。夕霧だけは取り込むけど)
堕姫(いいわ、今は見逃してあげる。殺すのはいつでもできる)
堕姫(だって負けるはずないもの。あたしが)
堕姫(あたしとお兄ちゃんが)
男「やば、何今の子……! 胸が、胸がドキドキする……今なら新しい呼吸会得できるかもしれない」
男「なんであんな目つき悪いの? 何か不機嫌なことあったのって百晩中話聞いてあげたすぎる……!」
男「すみません……! どなたかあの列にいた緑色の遊女の名前ご存知の方いませんか?」
「なんだ、翠姫のことか?」
男「翠……姫……!? 翠姫翠姫翠姫、なんて可憐な名前なんだ……!」
「……おい兄ちゃん。もしかして翠姫が気になってるのか?」
男「え? そうですがもしかしてあなたもですか? 悪いけど度重なる鬼退治のお給金で、私が積める金の上限は天井知らずです大人しく身を引いた方が身のためですよ」
「鬼退治って、なんだそら。歌劇の話か? まあとにかくやめとけ。あれは別嬪だがどうしようもねえ性悪だ」
男「…………」
「まだ何人か逃げ出したって話があるだけで済んでるのは夕霧大夫がいるからだ。でも大夫は身請けしてもおかしくない頃合いだし、きっといなくなったら翠姫は禿をいじめ殺したりするんだろうな」
男「そんな……」
男「そうか……薄々分かってたけど性格悪いのか。まあ悪そうだよな。絶対わがままだろうし」
男「いや、むしろあの刺々しい見た目で性格までカワいかったら兵器だよ。性格の悪さがあってようやく人間の器に収まってられるんだよ」
男「だってホラ……」
妄想堕姫『今日は私と……遊んでくれる?』
男「死を待たずしてこの世の春だよ(錯乱)」
男「それにさ」
男「あんなに可愛いと、もはやどんなわがままでも許すと内なる己が騒いでいる……!」
男「もはや早漏の誹りもやむなし。君の心のためならば、たとえ火の中水の中、あるいは鬼の跳梁跋扈する魔城であっても飛び込む所存」
男「うおおおおおお!」
男(なぜだ……なぜなんだ!?)
堕姫「のこのこ来たわね。馬鹿なのお前は」
男(俺か? 俺を待ってたんだよなこの反応)
男(え、なんで? 接点ないのに。まさか想いが通じたのか? 確かに溢れんばかりに君のことを想っていたけどもすごくない奇跡じゃん)
堕姫「まあいいわ。隠れて動かれるのが一番目障りで嫌だし。それじゃあとっとと……」
堕姫「あら? 刀はどうしたの」
男「刀? 質に入れてきたけど」
堕姫「」
堕姫(え……意味がわからない。しち? 質よね。入れてきたってなんで?)
堕姫(じゃあこいつ何しにきたの??)
男「ふっ」ニヤ
堕姫(!? ……気味が悪い。なんなのこいつ、鬼の前で武器もないのに、どうして笑うことができるの)
堕姫(まさか鬼狩りの仲間が隠れて……いや、そんな気配はないわ)
堕姫(まさかこいつ、鬼と素手でやり合うイカれ野郎なのか?)
男「……刀は、これに変わった」ジャラ
堕姫「! そう、なるほどね。お前なかなかやるじゃない」
堕姫(質に入れたって言ったわ。つまりそのお金で何か買ったのね。私を殺すための武器を)
堕姫(分かってるじゃない。爆弾? それとも銃? 少なくとも刀じゃあたしに敵わないのに気付いたのは鋭いわ。ま、仮にどんなものでもお前はあたしに殺されるけどね)
男「これで俺の手持ちは……」ニヤ
男「五千円だ……」ジャララ
堕姫「????」
堕姫「いい加減にしろ! 馬鹿にしてるんだったら許さないわよあたし!」
男「……! そうか、すまん。いきなり金を見せびらかして靡くほど軽くはない、というわけか」
男(これほどの遊女になると大金なんて積まれて当たり前。そこから客として気に入られるには別の魅力が必要というわけか……)
男(……望むところだ!)
男「翠姫!」キリッ
堕姫「フン。あたしは堕姫。お前(鬼狩り)の最期に頭を巡る名前よ」
男(源氏名じゃなくて名前呼んでほしいとか親密度高いなオイ)
男「ならンッ……堕姫!」キリッ
堕姫「お前なんかが気安く呼ぶな!」
男「え? ええー?」
男(名前は教えてやってもいいけど、勘違いしないでよね! 呼ぶには追加料金が発生するんだからね! ぷん!)
男(ってことか? どこまで魔性なんだ)
男(……落ち着くんだ。これまで通りが通用しない敵ほど、焦らずいつも通りの自分で立ち向かう。焦りで型を崩せば、自然呼吸が乱れる)
男(即ち死)
男「俺はこういった事のいろはを知らない。この街のことも、君のことも」
堕姫「フン、よく言うわ」
堕姫(さんざん鬼を葬ってきたくせに)
男「だからこれまで通りのやり方、攻め方で君を落とす」
堕姫(落とす? なんだ……呼吸音が変わった。来る!)
男(雷の呼吸、壱ノ型!)
男「一目見たときにあなたの虜になってしまった! どうか俺に(性的に)食べられてくれないか!」
男(言った! 言ったぞ、霹靂一閃(告白までの速さ、最速の呼吸)が決まった!)
男(しかしいきなり過ぎだよな。どんな反応をしているか堕姫の顔が見れん。情けない……!)
堕姫「あんた何言ってるの?」ビキビキ
男(……ダメかあ!)
堕姫「意味わからないわ、お前は脳に蛆が湧いてるのかしら?」
堕姫「どう考えたって、食べられる(物理)のはお前の方じゃない!」
男「え、あっ、そうだよな!?」
堕姫「喜んでるの? 気持ち悪いわね。あたしを食べたかったんじゃないの? なんで食べられるあんたが喜ぶのよ」
男「いや! 全然どっちが攻めるとか拘りはない! むしろ食べ慣れてる君に任せた方が素晴らしい経験になるな!」
堕姫「」
堕姫(なに? こいつ。自分から食べられにきたっていうわけ? 頭おかしいんじゃないの)
堕姫(まさか罠? 自分の身体に毒を塗り込んで……それだとこいつが死ぬから違うわね)
堕姫(分からない……とりあえず殺しておけばいいかしら)
堕姫「……そう」
堕姫「けど残念ね。あんたは別に綺麗じゃないわ。不細工なお前を食べる(直喩)のはお兄ちゃんよ」
男「嫌だけど!?」
堕姫「はあ? 何勝手なこと言ってんの。望み通り食べてあげるんだからいいでしょ!」
男「お兄さんに(隠喩)食べられるのはダメだろ! というかお兄さんは嫌がらないのか!」
堕姫「それは……」
妓夫太郎『殺すだけじゃ取り立てきれないヤツは憎いなぁああ。腹を捌いたくらいで取り出せんのはここ何日かの飯だけだもんなあ』
妓夫太郎『全部奪って、ようやく幸福のすべてを取り立てられるんだなあ。特に鬼狩りはいい飯食ってるから喰っても喰っても足りねえなああ!!』
堕姫「むしろあんた(鬼狩り)は好物よ」
男「お義兄さんんんんんんんん!? 会ったことないけど会いたくねえ!!」
爺ちゃん弟子に恵まれなさ過ぎるだろ…
男「まてまてまて! 俺も君も急ぎすぎだ冷静になろう!」
堕姫「はああ? イライラするわね、さっきから意味わかんないのよ何しに来たのお前」
男「今日のところは君を買いに来たんだ! それだけ!」
堕姫「あんた癪に障るわね。なんであたしが、お前とそんなマネをすると思うの。だいたいっ、鬼」
堕姫(鬼狩りが……)
男『刀? 質に入れてきたけど』
堕姫(鬼狩りは特別な鋼で作った刀を持ってる。それはその武器でしか鬼狩りに鬼を殺すことができないから)
堕姫(だからこいつは今、あたしを絶対に殺せない。一方あたしはいつでも殺せる。万全を期して地下の帯も少し戻している。何より上弦のあたしが負けるはずない)
堕姫(まさかこいつ本当に戦いに来たわけじゃないの? あたしを買いにきただけ? だとしたら)
堕姫「大した馬鹿ね。脳みそが詰まってないのかしら」
男「反省してる。不得手とはいえここまで君を怒らせるなんて汗顔の至りだ」
男「さて、宿のあてがなくなったし今日のところは失礼する」
堕姫「は? ねえまさか、お前、そのまま帰れると思ってるの?」
男(……なるほど、自分ほどの美姫と話しておいてタダで帰ってしまう。そんな男なのかお前は、と聞かれているわけだ)
堕姫「見逃すわけないじゃない。(命を)置いていきなさいよ」
男(置いていけ……いくら払うのが正解なんだ?)
男(明確に値がついてないから、支払いは完全に俺の気持ち次第。つまり試されてるわけだな。俺の……)
男(愛を!)クワッ
おつ
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