高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「昼下がりのカフェで」 (28)

――おしゃれなカフェ――


<からんころん


高森藍子「うぅ~、寒いっ……! あっ、店員さん。こんにちは♪ 今日も、お邪魔しますね」

藍子「え~っと、加蓮ちゃんは……いたいたっ」


北条加蓮「! …………、」チョイチョイ


藍子「ふふ。暖炉ストーブの前で、手招きしてる。今行きますね~」

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レンアイカフェテラスシリーズ第146話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「変わらないカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「お届けするカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんが忙しい日の、いつもではないカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「あしあとを追いかけたカフェで」

藍子「あったかい……♪」

加蓮「暖炉ストーブの前を占拠しちゃうなんて。外、そんなに寒かった?」

藍子「はい……。いつものコートと、カイロもばっちり用意して。それでも、ものすごく寒かったです」

加蓮「うわぁ」

藍子「外にいる時、カイロから手を離せなかったから……ずっとコートのポケットに手を入れたまま歩いちゃいました。はしたない子だって思われちゃったかも……?」

加蓮「藍子のことを知ってる人にも見られてたかもね」

藍子「ずっとぶるぶる震えてて、体をぎゅっとしながら歩いて。こんな歩き方、撮影の時にやったらすぐにNGにされちゃいます」

加蓮「……、」

藍子「?」

加蓮「ううん。……うぷぷぷっ」

藍子「わっ。笑わなくてもいいじゃないですか」

加蓮「いや……だって、うくくっ……。なんか想像してみるとちょっと面白くて……っ」

加蓮「あとは口から、なんでこんなに寒いの……冬なんて嫌い……なんて呟きが出てたら完璧だねっ」

藍子「そこまでは言っていませんけれど、いったい、なにが完璧なんですか?」

加蓮「藍子ちゃんらしくない藍子ちゃん選手権みたいなの?」

加蓮「SNSとかで誰かやったりしないかなー。藍子ちゃんのやらない歩き方をやってみた的な……極寒の冬に半袖で全力疾走! とか。そこまで行くと狙いすぎ?」

藍子「…………、」

加蓮「え、微妙な嫌そうな顔。……まさかしたことあるの?」

藍子「私じゃないです、私じゃありませんよ? ただ――その……」

加蓮「あぁ、うん……」

藍子「あはは……。あの……とても寒い日に茜ちゃんが言い出して、さらにはパッショングループのみなさんがノリノリで……」

加蓮「うん…………」

藍子「さすがの未央ちゃんも、それはちょっと、って顔になってしまって……。凛ちゃんがやってきた時に、すごい勢いで飛びついていたんですよ。それから、ニュージェネレーションのステージが、ってお話で……」

藍子「あれってひょっとしたら、茜ちゃんに巻き込まれちゃわないようにした、未央ちゃんなりの作戦だったのかな?」

加蓮「で、凛が超真面目な顔で話に乗っかってきて、未央があたふたしてましたと」

藍子「……あれっ? 加蓮ちゃん、あの時いましたっけ」

加蓮「いないいない。そんな話が出てたら、私だって藍子の手を引っ張ってさっさと逃げるわよ」

藍子「くすっ。それって、助けてくれるってこと?」

加蓮「…………」

藍子「あっ。目を逸らしましたね♪」

加蓮「……冷静に考えると、事務所のアイドル仲間からなんで藍子を助けて逃げないといけないんだろ」

藍子「……さあ?」

加蓮「これが他の学校のクラスとかなら、人間関係のドロドロとしたー、とか、修羅場とか。あるかもしれないけどさ」

藍子「私たちの事務所のみなさんは、いつも仲が良いですよね」

加蓮「ね」

藍子「うんっ」

加蓮「ふぅ。あったかー……。藍子、もうそろそろ身体も温まったでしょ。少しそっちに寄れー」

藍子「は~い。……加蓮ちゃん、ストーブの熱が移っていてすごく暖かいっ。触ってなくても、近づくだけで熱が感じられます」

加蓮「そう?」

藍子「……もしかして、ずっと待たせちゃいましたか?」

加蓮「そうでもないよ、せいぜい1時間くらい」

加蓮「店員さんとお喋りして、のんびりカフェの中を見渡して……。あぁ、それとモバP(以下「P」)さんにメッセ送ったっけ。ホントは電話で話したいことだったけど一応カフェだし。外は――」

藍子「……それはちょっと」

加蓮「ね……。そこそこ退屈はしてなかったから気にしないでね」

藍子「加蓮ちゃんっ」

加蓮「んー?」

藍子「退屈しなかったのはよかったですけれど……1時間待つことって、普通、けっこう長いことだと思いますよ?」

加蓮「…………それ、藍子が言う?」

藍子「ごめんなさいっ。でも、ちょっと嬉しいんです。昔の加蓮ちゃんなら、絶対そんなこと言わなかったのに……って」

加蓮「それ、私に言う??」

藍子「言ってもいいって思っているから、言っちゃうんです」

加蓮「ふぅん……」

藍子「えへっ」

加蓮「なるほど。つまり藍子ちゃんは、あれだけ聞いてもまだ加蓮ちゃんの暗黒昔話を聞きたいと」

藍子「違います……」

加蓮「…………、」

藍子「……今度は何ですか?」

加蓮「……暗黒昔話っていうフレーズが暗黒昔話の一部になった気分」

藍子「???」

加蓮「ネーミングセンスないなぁって思っただけー。でも、そっか。言われてみれば……。1時間待たせられたら普通、怒っていいところだよね」

藍子「私も、もしかしたら加蓮ちゃん、怒ってるかな……って、ちょっとだけ思って。でも暖炉ストーブの前のくつろぎスペースでのんびりしている姿を見て、すぐに怒っていないって分かりました。加蓮ちゃん、やわらかい笑顔だったからっ」

加蓮「そんな顔してた?」

藍子「はい♪ こう……~~~♪ って顔っ」

加蓮「…………」

藍子「あっ。写真には撮っていないので、安心してくださいね。……えへっ」

加蓮「……、」

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「いや……。……体温が伝わる距離でいきなりそんな笑われたらびっくりするって」

藍子「……? いま、なにか」

加蓮「なんでもないでーす。……っていうかさ、藍子」

藍子「はい」

加蓮「え、アンタ病院にでも行ってきたの? この臭い……」

藍子「……やっぱり、分かっちゃいますね」

加蓮「嫌になるほど嗅がされた臭いだからね。……って、ヤバい言い方しちゃった。ちょっと今のナシでっ」

藍子「無しですねっ。本当はもっと早くに終わって、家で着替えたり、シャワーを浴びてから行こうかなって考えていたんですけれど、思ったより時間がかかってしまって……嫌な臭いですよね。ごめんなさい」

加蓮「いいっていいって。そんなに気になるってほどじゃないし、そのうちカフェの匂いで掻き消されるでしょ。ただ私がちょっと過敏に考えすぎちゃっただけ」

藍子「そっか……」

加蓮「風邪でも引いたの? ってそんなワケないか。元気そうに見えるし予防接種とか?」

藍子「え?」

加蓮「……うん?」

藍子「あれっ……。あ、あれ?」

加蓮「……えーっと。私、藍子と違って相手のことがなんでも分かる妖怪じゃないから。そんな分かって当たり前みたいな顔をされても」

藍子「そ、そうですよね。って、妖怪!?」

加蓮「やたらと私の思ってることや考えてることをズバズバ当てて、遠慮なく入りこんできて。それってもう妖怪の一種じゃない?」

藍子「もうちょっと別の言い方をしてくださいっ。それに――」

加蓮「それに」

藍子「……加蓮ちゃんのことを知ったり分かったりするの、すごく楽しいのに。そんな言い方をされると、なんだかさみしいです」

加蓮「…………」

藍子「……あっ。いえ、なんでもありません。あの~……」

加蓮「……おりゃ」ペシ

藍子「きゃ」

加蓮「あのね。ド至近距離でさっきから不意打ちばっかり……あのね……」

藍子「……?」

加蓮「あー、もー。いいから、もうっ」

藍子「はあ」

加蓮「病院なんて何の用で行ったの?」

藍子「今日は、診断や、予防接種ではなくて。看護師さんとお話に行ったんです。加蓮ちゃんがお世話になっていた――」

藍子「そして、私が招待状を贈った方と」

加蓮「……あぁ、そういうことなんだ。打ち合わせ?」

藍子「はい。と言っても、打ち合わせって言うほどでは。やりたいことを伝えたら、大丈夫だよって言ってもらえたのと、あとはお互いに準備することを決めたくらいかな……」

藍子「そうそうっ。あのお2人に、教えておくかどうかを決めました。半分くらい、サプライズにしたいって言っていたので、そうすることにしましたっ」

加蓮「立派な打ち合わせじゃん。Pさんもいたの?」

藍子「ううん、私1人」

加蓮「そっか」

藍子「いちおう、アイドルのお仕事って形にはなりましたけれど、いつもの撮影やLIVEとはちょっと違う扱いみたい?」

藍子「その辺りは難しくて、よくわからないんですけれど……Pさんは、私のやりたいようにやっていいよ、って♪」

藍子「今日はPさん、年末ということもあって忙しそうなので、私1人でお話に行っちゃいました」

加蓮「いつかPさんと一緒に打ち合わせや営業に行って、どうせ自分は色々薄いだけの板なんです……とか言ってた頃が懐かしいね」

藍子「うぐっ」

加蓮「お。暗黒昔話化しちゃった感じ?」

藍子「暗黒かは分かりませんけれど……私にとっては、苦い思い出です」

加蓮「あははっ」

藍子「でも、加蓮ちゃんに言われてみると……私、アイドルの打ち合わせも1人でできたのかな」

加蓮「できたできた。Pさんに堂々と報告しときなよ。喜んでくれるよ」

藍子「うんっ。アイドル高森藍子、またちょっとだけ成長しましたっ」

加蓮「ぱちぱちぱちー」

加蓮「あー、でもPさん逆に落ち込むかなぁ。藍子はもう自分がいなくてもいいんだなっ……とか言っちゃって」

藍子「そ、そんな。私はまだまだPさんがいないと何もできませんっ」

加蓮「ふふっ。相変わらずなんだから」

藍子「だから、これからも私のことをプロデュース――」

加蓮「はいストップ」

加蓮「それは本人に言ってあげなさい。私に言ってどーすんの」

藍子「あっ……。そうですよね。なんだかまるで、Pさんがここにいるみたいに思えちゃって……ついっ」

加蓮「このカフェに? 残念。Pさんだってここには入れてあげないっ」

藍子「え~?」

加蓮「なんとなくね。私だって……藍子には話せるけどPさんには話しづらいことって、まだまだいっぱいあるし」

藍子「……ふふ。もしかしたら、私もかもしれません」

加蓮「藍子が?」

藍子「私にだって、秘密の1つや2つくらい、あるんですから」

加蓮「甘い甘い。女の子なら100個くらいは持ってないと」

藍子「それだけあったら、探すのが大変になっちゃう。……あれっ。このお話って、昔にもしたような?」

加蓮「したっけ? じゃあ結局、藍子には秘密が合わないってことだね」

藍子「楽しいことや嬉しいことがあったら、つい喋っちゃうから……。でも、加蓮ちゃんの話してほしくないことは、誰にも言っていませんよ」

加蓮「ホントー?」

藍子「ほんとうにっ」

加蓮「へぇ……?」

藍子「ほ、本当ですもん」

加蓮「なんて。それは見れば分かるー」

藍子「ほっ」

加蓮「秘密の話……。……ねぇ、藍子」ガシ

藍子「はい――え、あ、あの、加蓮ちゃん? どうして急に、そんなに恐い顔に……きゃっ」

加蓮「アンタ、打ち合わせで看護師に会ったって言ったよね? それで、思ったより長くなったって言ったわよね……?」

藍子「は、はい。ちょうどその頃は、まだ日が陰っていなくて……少しだけぽかぽかしていたから、病院の中庭で。ベンチにゆっくり座って、お話したんです」

藍子「打ち合わせっていうより、なんだか普通のお喋りみたいに♪ それで、話し合うことや決めることが固まってからは、看護師さんが加蓮ちゃんのことを聞いてきっ――」

加蓮「ほお」

藍子「あ」

加蓮「……」

藍子「で、でも、ほら、秘密のことっ、喋ってません。喋ってませんから! ただ最近の加蓮ちゃんのことすごく気にされてたから少し教えてあげただけっ。本当です! かた、肩っ、痛いです!」

加蓮「…………で、向こうからは何か聞いた?」

藍子「へ?」

加蓮「何か、私のこと、聞いた?」

藍子「え、え~っと……えっと、ね……?」

加蓮「何を聞いたの。ねぇ。今度は病院の個室送りにされたいの?」

藍子「ひいいっ……! 違います違いますっ、えっと、あの、その、あっ、そうそうっ、看護師さんから加蓮ちゃんへ言伝!」

加蓮「……言伝?」パッ

藍子「ぜ~っ、ぜ~っ……。こわかったぁ……!」


□ ■ □ ■ □


藍子「えっと、あのお2人――今回ご招待する、入院している子たちには、半分サプライズにするって言いましたよね」

加蓮「うん」

藍子「半分っていうのは……。教えてあげるのは、クリスマスの日にご招待するってことなんです」

加蓮「うん? ……イベントがあるよってだけ教えてあげるような感じ?」

藍子「はい。もう教えてあげているみたいで、そーちゃんも、もう1人の子――しろちゃんも、おおよろこびだったみたいです♪」

加蓮「ふふっ、そっか……。2人とも、楽しみにしてくれてるんだろうな」

藍子「加蓮ちゃん……」

加蓮「……っと。あー、えっと。ね? そういえば藍子、そーちゃんには名前覚えてもらった?」

藍子「う゛。そういえば、それを聞くのを忘れてた……! でも私だってっ、あれからいっぱい頑張ったんです。きっと覚えてもらえているハズです……!」

加蓮「まだ覚えられてなかったら教えてあげようね。一歩ずつ頑張ってるアイドルだよって」

藍子「その言葉、そーちゃんにもかけてあげてください」

藍子「それで、もう半分のサプライズの部分は、どんなことが起きるのかってところなんです」

藍子「そんなにびっくりしたり、ものすごく感動したり……ってほど、大きな計画ではないんですけれど――」

藍子「わくわくしてもらった方がいいかな、って♪ 看護師さんも、そう計らってくれているみたい」

加蓮「あの人、隠し事とかはホント得意だからなー。私もほとんど見破れたことないし……」

藍子「加蓮ちゃんでも?」

加蓮「隠してることすらね。何か隠してるって分かったところで、どう問い詰めてもすぐはぐらかされるし」

加蓮「しかもさ。そういう態度を取られるのがムカついたとか、なんか負けたくないとか思っちゃって、どうにかして暴こうとするんだけど……ホント、勝てたことがなくて」

加蓮「それをあの人、けらけら笑うんだよ。ひどくない? ちっちゃい子供を苛め倒してさー」

藍子「……ふふ♪」

加蓮「む」

藍子「それってきっと、加蓮ちゃんが一生懸命になって隠しごとを暴こうとしているのが、嬉しかったんだと思いますよ」

加蓮「はぁ??」

藍子「だって看護師さん、加蓮ちゃんのことを……その、ちょっと難しい子だって、言ってたから」

藍子「でもそういう時の加蓮ちゃんは、他の子たちと同じで、すごく一生懸命で。ちょっぴりむきになったり、悔しそうにしていたり……」

藍子「そういうのを見るのが、嬉しかったんじゃないでしょうか」

加蓮「……そういうものなのかな」

藍子「うん、きっと」

加蓮「ったく」

藍子「さあ。加蓮ちゃんの言う、……あんこく昔話? は、そっと心にしまっちゃいましょう」

加蓮「また暗黒の蓋を開けようとしてたねー」

藍子「そうですよ~。もう昔話をしないって何度も言ってるのは、加蓮ちゃんなのに」

加蓮「あと、そのネーミングセンスは無いって決まったでしょうが」

藍子「そうでした」

加蓮「ちょっとしたサプライズを、藍子と看護師さんが用意するって話だよね」

藍子「はい。その方が、わくわくしてくれるからって♪」

藍子「そして……加蓮ちゃんにも、今回はわくわくしてもらいますっ」

加蓮「私?」

藍子「看護師さんからの言伝です。――おほんっ」

藍子「今回は、加蓮ちゃんも招待状を受け取った側でしょ? 加蓮ちゃんも、あの2人と同じ、楽しむ側でいいのよ」

藍子「だから藍――わた……、……ううん」

藍子「すみません、やり直しますね。おほんっ!」

藍子「だから、藍子ちゃんに当日の内容を聞かないように。わくわくしながら待ってあげてね」

藍子「……だそうですっ」

加蓮「そっか。私も、招待状を受け取った側――」

藍子「うんっ」

加蓮「待って。それ言ったら看護師さんもじゃないの? 看護師さんだけ藍子と打ち合わせして、私には内緒ってどういうことよっ」

藍子「…………、」

加蓮「え、何? 私なんかおかしいこと言った?」

藍子「ううん。すごい、ピッタリだなって……。看護師さん、加蓮ちゃんならきっとそう言うだろうって、予想されていましたよ」

加蓮「ぐんぬぬぬ……! やっぱ強いなぁ……」

藍子「看護師さん、にやって笑っていました♪ そうそう。今の答えですけれど……私は看護師ですから、だそうです」

加蓮「ぐんぬうぅ……!!」

藍子「ま、まあまあ。ほら、加蓮ちゃんも楽しみに待てると思えば」

加蓮「私はプレゼントを靴下に入れる側のアイドルなのっ。プレゼントを受け取る側じゃないんだってば……!」

藍子「加蓮ちゃん、サンタクロースがやりたいの?」

加蓮「今のは物の例えっ」

藍子「衣装なら、事務所に行けばあると思いますけれど――」

加蓮「話を聞け!」

藍子「きゃっ」

藍子「ほら、加蓮ちゃん。ステージの上ではいつも、加蓮ちゃんが贈る側じゃないですか。こういう時くらいは、私から贈らせてください」

加蓮「そう言われたらさー……」

藍子「それに……看護師さんが昔、加蓮ちゃんにクリスマスプレゼントを用意してあげられなかったことを、気にされていたみたいですよ」

加蓮「え? ……一応、プレゼントなら貰ってたよ」

藍子「ううん。看護師さん、気にされてました。だから私が、代わりに贈ってあげて――って」

加蓮「……ったく。私も私だけど、あの人も気を遣いすぎだって」

藍子「加蓮ちゃん」

加蓮「……。……ん」

藍子「うんっ」

加蓮「言伝は、それで全部?」

藍子「はい。これで全部ですね。……あっ、あと1つだけありました♪」

加蓮「むっ」

藍子「おほんっ。――あんまり藍子ちゃんを困らせないようにね……って」

加蓮「無理だって伝えておいて」

藍子「はい、伝えておきま……って、無理ってどういうことですか~っ」

加蓮「え? 無理だから無理なんだけど」

藍子「加蓮ちゃん、無理とかできないって言葉が大っ嫌いなくせに、こういう時だけ!」

加蓮「そう言われるとなんか……」

藍子「ねっ?」

加蓮「……」ジー

藍子「……♪」

加蓮「……、」ペシ

藍子「きゃ」

加蓮「無理か無理じゃないかじゃなくて、ヤダ。よし、これならムカつかない」

藍子「なんでですか、もう~」

加蓮「今回のクリスマスのことは私に話さないようにって言うなら、話題を変えよっか。うっかり藍子ちゃんが喋っちゃったらいけないし?」

藍子「そんなこと、しませんよ。話したら駄目なことは、話しませんからっ。加蓮ちゃんのことだって、クリスマスのことだって!」

加蓮「そう言われると、どんな手を使ってでも吐か――喋らせようって気持ちになっちゃうなー?」

藍子「ど、どんな手を使ってでも……?」

加蓮「…………、」

藍子「……?」

加蓮「……え、なに。そういうことされたいの……?」

藍子「えっ。加蓮ちゃんが何を想像しているのか分かりませんけど、されたい訳ないですっ」

加蓮「あ、そう……。そうだよね、あはは……」

藍子「……?」

加蓮「なんでもないの……。忘れて……」

……。

…………。

加蓮「すっかり喋りこんじゃって、なんにも注文してなかったね」

藍子「そうですね。それに、気がついたらもう夜に……」

加蓮「と言ってもまだ5時なんだけど、外だけ見てると……もう真夜中って気分」

藍子「加蓮ちゃん。それは、ちょっぴり大げさですよ」

加蓮「やっぱり?」

藍子「ふふ。でも、真夜中のカフェ……。なんだかロマンティックです」

加蓮「こういうカフェって夜には閉まっちゃうし、真夜中にはいられないし。ありえないからこそのロマンだよね」

加蓮「って、だから注文しない?」

藍子「あっ、そうでした。晩ご飯、ここで食べちゃいますか?」

加蓮「私はいいよー。特に約束もないし」

藍子「私も。それなら……すみませ~んっ」

加蓮「食べるならいつもの席に移動しようよ。そっちの方が落ち着けるし」

藍子「そうしましょうか。……店員さんっ。荷物、持ってくれるんですか? ありがとうございます♪」

……。

…………。

「「ごちそうさまでした。」」

加蓮「……で、すぐさまショートケーキを食べ始めるよくばりな藍子ちゃんでしたと」

藍子「はい、加蓮ちゃん。あ~んっ」

加蓮「えー」

藍子「ちょっぴり早いですけれど、クリスマスのおすそ分けです。本番は……当日をお楽しみにっ」

加蓮「しょうがないなー。あむっ……」

藍子「看護師さんに、美味しいケーキ屋さんのことも教えてもらったんです。ほら、ここと、ここと――」

加蓮「うわ、ここって最近できたばっかりのところじゃん。なにげに抑えるとこ抑えてるなー」

藍子「加蓮ちゃんを見ていると、自分も流行の勉強くらいしなきゃ! って思うそうですよ。加蓮ちゃんが、いい影響を与えているみたいですねっ」

加蓮「そうかなー」

藍子「その後で、ケーキのお話で盛り上がって……。今日はここに来て、ケーキを絶対食べるって決めていたんです」

藍子「~~~♪」

加蓮「ホント、美味しそうに食べるなぁ……。ふふっ。……ね、藍子。どうする? もし今日帰って、藍子のお母さんがケーキを買って帰ってきてたら」

藍子「さすがに、もう食べられないかも……。加蓮ちゃんの好きな味があったら、分けてあげますね」

加蓮「ありがとー。って、今日私って藍子の家に泊まりに行くの?」

藍子「ふぇ?」

加蓮「えー……」

藍子「~~~♪」

加蓮「……藍子、もうひとくちだけいい?」

藍子「はい、どうぞっ」

加蓮「あむっ。……うん、おいし」

藍子「~~~♪」

藍子「ごちそうさまでした!」

加蓮「ケーキを食べたいって気持ち、満足できた?」

藍子「はいっ。今日はこれで、大満足です♪」

加蓮「そっか……」

藍子「ご飯も食べ終わって、外、さすがに真っ暗ですね。加蓮ちゃんが真夜中だって言った気持ちも分かるかも……」

加蓮「ロマンがあったりする?」

藍子「見慣れた光景ですから。……でも、ちょっぴりだけ?」

加蓮「藍子らしいね。私は……ふふ。まだ、寂しいって気持ちが生まれちゃうかも。それも、ちょっぴりだけだけどさっ」

藍子「加蓮ちゃんらしいですね」

加蓮「まあね」

藍子「また暖炉ストーブの前に行きますか? くっついて温まったら、寂しさもなくなっちゃうかも……」

加蓮「そこまでではないでーす」

藍子「そっか」

加蓮「残念?」

藍子「?」

加蓮「ふふっ。それは残念だね」

加蓮「…………」

藍子「…………♪」

加蓮「……雪は……降ってないみたい」

藍子「……あんまり見続けていたら、寂しいって気持ちが大きくなっちゃいますよ……?」

加蓮「いいの。そういうのに浸りたい時だし……。ねぇ、藍子」

藍子「うん……」

加蓮「藍子の優しさが今、あの子達に向いてることがさ……。すごく嬉しいの。そーちゃんもしろちゃんも、もっと笑顔になればいいなって思う子達だから」

加蓮「昔の私と重ね合わせて、ってだけじゃなくて。……ふふっ。可愛いファン達だし?」

藍子「……うんっ」

加蓮「でも……ね。ほんのちょっぴり、ズルいなって思うんだ。小さい頃の私にも、藍子みたいな人がいれば……って」

藍子「…………っ」

加蓮「私達、もっと小さい頃に会いたかったね――なんてことは、もう言わないよ。そうやって、今の私を否定して縋りたいなんて……」

加蓮「成長できた今なら、それが叶わない願いで……叶っちゃダメな願いがあるってことも、ちゃんと分かるの」

加蓮「だから……その分、あの子達に幸せを贈ってあげて」

加蓮「幸せも、笑顔も、いっぱい積み重ねてあげてね。私は、それで十分だから……」

藍子「…………」

加蓮「……あははっ。重い話でごめん。でも今くらいじゃないと言えないって思って」

加蓮「こういうのって、重荷を背負わせるみたいになっちゃうから、あんまり言いたくないんだけど」

藍子「ううん。加蓮ちゃんの世界に歩いていったのは、私ですから。重たい荷物を一緒に背負うことだって、覚悟していますよ……」

加蓮「……そっか」

藍子「それにっ」

加蓮「?」

藍子「加蓮ちゃん、もう忘れちゃったの? 私が招待状を贈った相手。加蓮ちゃんにも、ですよっ」

加蓮「……あ」

藍子「加蓮ちゃんにも、何度だって笑ってほしいから。過去のことを無くすのではなくて……今の上に、いっぱい積み重ねていくために」

加蓮「うん……。そうだったね」

藍子「加蓮ちゃんが優しいのは知ってますけれど、自分のことを、よそに置いちゃわないでください」

加蓮「分かってる。ちゃんと分かってるよ……。うんっ。分かってる!」

加蓮「じゃあ私も。クリスマスの日を、めいっぱい楽しみに待ってるからっ」

藍子「はい♪ ちいさくても、幸せと笑顔を1つずつ、積み重ねていきましょうね」

加蓮「楽しみにしてるよー?」

藍子「……なんだか、じわじわとプレッシャーが……。そ、そういうのは、積み重ねなくていいと思いますよ?」

加蓮「あはははっ」


【おしまい】※次話は12月25日(金)に投下予定です。

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