高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「雪の降らないカフェで」 (31)

――おしゃれなカフェ――

高森藍子「またくもりかぁ……」

北条加蓮「天気予報?」

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レンアイカフェテラスシリーズ第104話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「クリスマスのお散歩を」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で はちかいめ」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「新年の後のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「手を握りながらのカフェで」

藍子「あ、加蓮ちゃん。おかえりなさい」

加蓮「ただいま、藍子。ごめんねー? 1人にしちゃってて。ふふ。寂しかったー?」

藍子「大丈夫ですよ~」

加蓮「そっか。残念」

藍子「店員さんからお話は聞けましたか?」

加蓮「それがさぁ……」

藍子「それが――」

加蓮「黙って睨まれ続けた」

藍子「……黙ったまま、にらまれ?」

加蓮「なんか黙ったまま私を睨みつけてくんの。私、何かしたかなぁ」

藍子「う~ん……?」

加蓮「今日はまだ藍子にイタズラしてないし。意地悪なことも言ってないし。泣かせてもないし、あとは――」

藍子「加蓮ちゃん。私に何をしようと思ってここに誘ったんですか」

加蓮「え? イタズラと意地悪」

藍子「もう1回同じことを言ってほしかった訳ではありません! しないでくださいよ~」

藍子「店員さんは、加蓮ちゃんに何も言わなかったんですか?」

加蓮「ん。いいとも駄目とも言わないまま、じーっと私の方を睨み続けてた」

藍子「そうですか……」ズズ

藍子「機嫌が悪かったのかな……? ココアは、いつも通りにおいしいのに」

加蓮「そこはプロ精神なのかも? それか、実は店長さんが入れてくれたってパターン」

藍子「ううん。この味は、店員さんの味ですっ」

加蓮「分かるの?」

藍子「はい。あんまり自信まんまんには言えませんけれど……私だって、ずっとここに通っているんですから」

藍子「あっ。きっと、加蓮ちゃんが淹れてくれたコーヒーの味と、モバP(以下「P」)さんの淹れてくれたコーヒーの味も、判別できると思いますよ」

加蓮「言ったね? 今度事務所で仕掛けてやるっ」

藍子「お待ちしてますね?」

加蓮「ずず……。んー……。確かに店員さんの味な気はする……?」

藍子「でしょっ?」

加蓮「店長さんの味を知ってるって訳じゃないんだけどね」

藍子「ですねっ。口ではうまく説明できませんけれど、加蓮ちゃんにも分かってもらえてよかったっ」

加蓮「まー私も常連ですし? ……その割に店員さんから嫌われてるっぽいけど」ズズ

藍子「そんなことはないと思いますよ。店員さん、きっと加蓮ちゃんのことが大好きで――」

加蓮「ん……。うん。そういうのはなんとなく分かってる」

藍子「……そうでしたか。ふふ♪」

加蓮「なんで藍子が嬉しそうにするんだか?」

藍子「加蓮ちゃん。分かっていて聞いていますよね」

加蓮「どーだろうね」ズズ

加蓮「聞き方が悪かったのかな。私は普通に聞いてみただけだと思ってるけど……」

藍子「ひょっとしたら、加蓮ちゃんの聞き方が悪かったのではなくて、どうしても聞いてほしくないことだったのかも?」

加蓮「そう? ストーブ入り暖炉の隣に置いてる雪だるまクッションの出所を聞いただけだよ?」

藍子「加蓮ちゃん、ここに来た時からちらちら見ていましたもんね」

加蓮「見てないー」

藍子「見てたっ」

加蓮「そんな少女趣味の加蓮ちゃんなんてこの世界にはいません」

藍子「この世界にはいなくても、このカフェにはいますっ」

加蓮「いやどういうことよ……。じゃあここはどこなの?」

藍子「カフェですっ」

加蓮「……クールグループからお誘いが来るくらいに聡明な藍子ちゃんとは、どの世界に行けば会えるんだか」ズズ

藍子「あの雪だるまのクッション、かわいいですよねっ。加蓮ちゃんが気になるのも分かります」

加蓮「ちょっとだけね。使いたいっていうより置いてみたいって感じかな。部屋に飾っておくだけで、冬って感じがするじゃん」

藍子「ふんふん」

加蓮「メルヘンって雰囲気なのに、顔がきりっとしてるのも逆に可愛いし?」

藍子「あっ、それ分かります。眉のところが」

藍子「きりっ」

藍子「ってなっているのが、いいですよね」

加蓮「藍子ー」

藍子「はい?」

加蓮「今のもっかい。写真撮るから。もっかい」ガサゴソ

藍子「なんだか分かりませんけれどいやですっ」

加蓮「ちぇ」

加蓮「雪だるまクッションさ、もしどこかで売ってるなら、」

加蓮「……言っとくけど。買って自分の部屋に置こうとか、リビングに足そうとかじゃないからね?」

藍子「くすっ」

加蓮「私の家じゃなくて。事務所に置いてあげたいなって思っただけ」

加蓮「今年って全然雪が降らないじゃん。ちびっこ組は雪合戦もできないし、それでちょっと寂しそうって話もしてたし」

藍子「この前にちょっとだけ降りましたけれど、積もるにはほど遠い量でしたよね」

加蓮「それでもみんなはしゃいでたよね。やっと降ったー! って」

藍子「うんうんっ」

加蓮「次に降ったら、かまくらとか雪だるまとか作ろうねーって話してた」

藍子「さくせんかいぎ! ですよね。あの時のかけ声がなんだか印象深くて♪」

藍子「眉はにんじん、鼻はみかん。口はバナナ、でしたっけ?」

加蓮「それなら眉も果物にすればいいのにねー」

藍子「確かにっ」

加蓮「藍子も巻き込まれそうになってたよねー。結局途中から藍子を放り投げて雪だるまの話ばっかりしてたけど」」

藍子「あはは……。みんなの勢いがすごすぎて。……そういえばあの時、加蓮ちゃんっていつの間にかどこかに行っていませんでしたか?」

加蓮「え? うん。逃げたよ」

藍子「こらっ」

加蓮「だって巻き込まれるの目に見えてるし? うまいこと藍子を囮にして逃げさせてもらったよ。ありがとねー、藍子」

藍子「……みんなに、加蓮ちゃんをつかまえる追いかけっこをしようって呼びかけますよ?」

加蓮「こら、やめなさい。アンタが言うと子供じゃないのまで混じるから」

藍子「最初に加蓮ちゃんをつかまえた人には、加蓮ちゃんのひみつの写真をプレゼントっ」

加蓮「やめなさいってのっ」

藍子「それなら、加蓮ちゃんが逃げ切れたら加蓮ちゃんがプレゼントをもらうってことで、どうですか?」

加蓮「私が私の写真をもらって何の意味があるのよ……」

藍子「あっ、違います。その時は、加蓮ちゃんに何か別の物を用意しますから」

加蓮「……それは気になるけどさー。やっぱやめとく。私の体力じゃ10分も逃げられないで負けるだけだし」

藍子「追いかけっこがダメなら……。かくれんぼ?」

加蓮「それだと私が圧勝してみんなが可哀想だから駄目」

藍子「勝てる自信があるんですね」

加蓮「そりゃー、ちっこい頃から物陰を見つけては大人達の目を欺き、探させている間にこっそり入っちゃいけない部屋に入って物色して――」

藍子「そういえば……」ジトー

加蓮「あははっ。事務所にも入っちゃ駄目な部屋とかあるのかな?」

藍子「今度、Pさんに聞いてみたらどうですか?」

加蓮「私が聞いても教えてくれないかもー。藍子が代わりに聞いて――」

加蓮「あ。話急に変わるけど……店員さんが教えてくれなかったのってもしかして私が聞いたから?」

藍子「そんなことはないと思いますけれど……。教えてくれなかったのは、何か別の理由があるんですよ」

藍子「だって、加蓮ちゃんにだけ教えない理由なんてないじゃないですか」

加蓮「いーや分かんないよ? 例えば――」

加蓮「私が聞いても教えてあげない→ここで私が藍子にその話をする→"じゃあ、私が代わりに聞いてきますね"って藍子が店員さんのところに行く」

加蓮「これを狙ってるのかもしれないよ」

藍子「えっと……。ということは、店員さんは私が聞いて来るのを待っている、ってことでしょうか」

藍子「それならお待たせしてしまってはいけませんよね。加蓮ちゃん、ちょっと待っていてくださ――」

加蓮「いやいや。そこで店員さんに聞きに行ったら、待ってるのは店員さんのドヤ顔だよ」

藍子「どや顔?」

加蓮「うまくいった! しめしめっ。……って感じの」

藍子「ふふ。それは加蓮ちゃんがよくやることで、店員さんはそんな方ではないと思いますよ?」

加蓮「アンタがあの人の何を知ってるのよー」

藍子「分かりました。それなら、もう1回だけ加蓮ちゃんが聞いてみるのはどうでしょうか」

加蓮「えー。店員さんに聞かなくても、自分で探してみるよ」

藍子「探してみるんですね」

加蓮「今年ってなかなか雪が降りそうにないし、積もるのも難しい感じじゃん」

藍子「暖冬だってテレビで言っていましたから、これからも降らないのかも……。それだとちょっぴり寂しいですよね」

加蓮「そーそー。だからせめて部屋の中だけでも冬景色を1つくらい……って」

加蓮「まぁ、ただの気休めなんだけどさ。こういうのって半端に夢を持たせる方が良くないのかもしれないけど……」

加蓮「そういう考えをするのは、もうやめるって決めたし? できることならやってあげたいじゃん」

加蓮「なんてっ。そこまで重たい話じゃなくて――」

藍子「大丈夫、分かっていますよ」

加蓮「ならいーけど。はぁ。なんかすぐにそーいう話に繋げたがるの、私の悪い癖だなぁ――」

藍子「これは、加蓮ちゃんがとっても優しいってお話ですよね♪」

加蓮「いや違うけど!?」

藍子「そうでしょうか。だって加蓮ちゃん、さみしそうにしている事務所のみんなのために何かをしてあげたいって思ったんですよね」

藍子「それで、雪だるまのクッションを見つけて……。私もよく、カフェに行った時に気になるものを見つけたりしますけれど、店員さんに尋ねることはそんなにしませんよ?」

藍子「聞いてみて教えてもらえなくても、諦めないで自分で探すんですよね。それだけ、加蓮ちゃんが優しいってことです♪」

加蓮「違うってのっ。まずこういうことをいちいち説明すんなっ。店員に聞けたのは馴染みの相手からで、探したいのはどっちかっていうと負けっぱなしなのが嫌みたいな物だし! あとアンタは絶対そーいう時にはわざわざ店員か誰かに聞く!」

藍子「ふふっ。ごめんなさい。だって、加蓮ちゃんが自分で自分を優しいって認めないから……つい。加蓮ちゃんにも、知ってほしくて」

加蓮「私のことを私に知れって……」

藍子「改めて考えるとおかしいことかもしれませんね。けれど、自分のいいところを自分で見つけられない方って、けっこういますから」

藍子「私からは、加蓮ちゃんもその1人に見えます。余計なお世話かもしれませんけれど……」

加蓮「……アイドルやってる時はそうでもないんだけどね」

藍子「今は、オフの時間ですよ?」

加蓮「分かってるー。分かってないのは藍子の方ー」

藍子「う~ん?」

加蓮「藍子だって自分のこと分かってないじゃん。自分が分かってないってことを分かってないっ」

藍子「私が分かっていないということを、私が分かっていない……うぅ。なんだか混乱してしまいます」

加蓮「正直言っててもうやめようってなっちゃった」

藍子「あはは……」

加蓮「そんなに教えたくないものかなー。出所」

藍子「もしかしたら、ものすごく穴場のお店から調達した、とかかもしれません。それで教えにくかったり、教えたくなかったり……。そういう可能性も、ありますよね」

加蓮「あー……。藍子、探してみたい?」

藍子「え?」

加蓮「ううん。そういうの探して行くの、藍子って好きでしょ。行ってみたいなら協力するよ?」

藍子「う~ん……。ありがとう、加蓮ちゃん。でもいいですよ」

加蓮「そ」

藍子「店員さんが教えたくない場所だったのなら、店員さんにとってそれだけ大事ってことで……。いつもお世話になっていますもん。秘密を暴くようなことは、やめてあげましょう?」

加蓮「……秘密を暴くって言われたらすごいやりたくなるんだけど」

藍子「こらっ」

加蓮「ダメ?」

藍子「だめっ」

加蓮「はいはい。っていうか、そもそも店員さんの秘密の場所とも限らないもんね。勝手な想像だし」

藍子「そうですね。それから、もし加蓮ちゃんに手伝いをお願いすると、加蓮ちゃん、全力ではりきっちゃいそうで――」

藍子「それで大ごとになってしまうかも、って考えたんです。それなら、今だけは遠慮させてくださいっ」

加蓮「ま、確かに藍子にお願いされてたら、クッションを写真に撮ってSNSで情報集めて――ってやるつもりだったから、ひょっとしたら大ごとになってたかもね」

藍子「やっぱりっ。加蓮ちゃんのそういうところは、とっても頼りになりますけれど……。また、どうしても困った時に手伝ってくださいね」

加蓮「はいはい。どうしてもじゃなくても好きなだけ頼りなさい」

藍子「……ありがとう、加蓮お姉ちゃんっ♪」

加蓮「おらっ」ペシ

藍子「いたいっ」

加蓮「はたかれるって分かってて言ったでしょ、今のっ」

藍子「……えへ」


□ ■ □ ■ □


藍子「あのクッションって、もしかしたら店員さんの手作りってことはありませんか?」

加蓮「無いと思うよ? 最初にクッションのことを聞いたら、どっかで買ったみたいな反応だったから」

藍子「ふんふん」

加蓮「その後にどこでって聞いたら答えてくれなかった」

藍子「それから、にらまれてしまった、と」

加蓮「なんなんだろ。別にいいんだけどさ。秘密にしたいことなら秘密にしたいことで」

加蓮「むしろ、店員さんにもちゃんとそういうとこあるんだーって、びっくり……びっくりじゃないや、なんだろ」

加蓮「安心、ってほどでもないなぁ。そこまで距離近い気しないし」

加蓮「んー……。分かんない。こう、テレビで見た食べ物をお母さんと一緒に食べた的な?」

藍子「なるほど、そんな気持ちなんですね」

加蓮「これで分かるかぁ」

藍子「はい。分かっちゃいますよ~」

藍子「距離が近い人の秘密にしたいことを見つけたら、安心するんですか?」

加蓮「ん?」

藍子「ほら、店員さんとはそこまで……って言ったから。もっと距離が近い人となら、そうなのかな? って……」

加蓮「んー。んー……。たぶん?」

藍子「たぶん」

加蓮「こう……。……分かんない」

藍子「ふふ。じゃあ、あまり深く考えないようにしましょ?」

藍子「分からないことを考え込みすぎちゃったら、疲れてしまったり、悩みが大きくなってしまったり……。そう教えてくれたのは、加蓮ちゃんですっ」

加蓮「ぐぬぬ……。それはそうだけど、私はパッションアイドルにはなりたくない……! ならないって決めたの!」

藍子「どういう意味ですかっ」

加蓮「藍子がもし、私に秘密にしてることがあったら」

藍子「ふんふん」

加蓮「……あ、ダメだ。全力で暴こうって思う」

藍子「おてやわらかに、お願いしますね」

加蓮「ダメかー。藍子じゃ近すぎる。もうちょっと離れてて、だけどそれなりに近いって思える相手」

藍子「では、未央ちゃんや茜ちゃんは?」

加蓮「未央や茜かぁ。……なんか隠し事とか悩み事とかあっても共有してたり、お互い気付いたりしそうだって前に言ってなかった?」

藍子「そういえば、言ったような? そうですね。加蓮ちゃんの言う通りですよ」

藍子「だから私たちには、あまり隠しごとがないのかも――」

藍子「あっ。加蓮ちゃんのお話したことで、加蓮ちゃんがあまり教えたくないお話は、ちゃんと思い出の引き出しの中にしまってありますから♪」

加蓮「とか言って絶対べらべら喋ってるっ」

藍子「喋ってないです」

加蓮「ふーん? この前お散歩に向いてそうな歩きやすくて可愛い靴見つけたんだけど、加蓮ちゃんの秘密3つと引き換えで買ってあげる、って言われたらどうする?」

藍子「……………………い、いわないです」

加蓮「はい」

藍子「絶対言いませんもんっ」

加蓮「あははっ」

加蓮「凛と奈緒……は逆に気にならないかなぁ。私だって何も隠してない訳じゃないし。話したいなら話すでしょ」

藍子「加蓮ちゃんから、詮索したりはしないんですね」

加蓮「あの2人はね。お互い様って感じ? 隠したいって思うから隠す事なんでしょ。相手への悪意があるとかじゃなくて。それくらい、私にだって分かってるわよ」

加蓮「ただ、それがアイドルの悩みとか、ユニットで活動していく上で邪魔になることなら全力でどうにかするけど」

藍子「……ふふっ」

加蓮「例えば凛のとこのハナコが最近ご飯食べないって話とか、私が聞いてもしょうがないでしょ?」

藍子「そうでしょうか? 凛ちゃんがお話したがっているのかもしれませんよ」

加蓮「凛はそーいう子じゃないから」

藍子「なるほど~」

加蓮「あっ、でも奈緒が何か隠しててそわそわしてたら全力でいじめてやろー♪」

藍子「あはは……」

加蓮「お手柔らかに、って言わないんだ?」

藍子「ええと――」

加蓮「奈緒なら生贄にしてもいいやー、とか?」

藍子「いけにえっ? そ、そんな怖いことは思っていませんっ。だって加蓮ちゃん、止めてもやりますよね?」

加蓮「むしろ藍子をこっち側に巻き込む」

藍子「では、奈緒ちゃん側につきますね」

加蓮「そんなことしたら全力で大泣きするよ?」

藍子「泣き真似か、本当に泣いているかは、見れば分かりますよ。たぶん、私だけじゃなくて凛ちゃんや奈緒ちゃんも」

加蓮「ちぇ」

加蓮「こうして考えてみると、事務所で隠し事してる子ってあんまりいない気がするなぁ……」

藍子「なにかとみなさんお話しますもんね。ときどき、重たい悩みのお話も出たりして……」

加蓮「でも誰かが解決しちゃうんだよね」

藍子「はいっ」

加蓮「いいことなんだけどさ」

藍子「ものたりない、ですか?」

加蓮「前にも言ったと思うけど、同じアイドル仲間だし……仲間って言っても、ライバルなんだし。もっとバチバチやってていいと思うのに」

藍子「そうですね……。私も、アイドルになる前は、アイドルの世界ってそういうところなのかな? って考えが、ちょっとだけありました」

加蓮「ねー」

藍子「でも、実際にはみんな仲良しで。ときどき、喧嘩もしちゃいますけれどね」

加蓮「私と藍子みたいに?」

藍子「はいっ」

加蓮「それくらいがいいんだろうけど」

藍子「いいんだろうけれど……?」

加蓮「ドラマみたいな話もほしー」ベチョ

藍子「今度、見つけてみましょ? ひょっとしたら、あるかもしれませんよ」

加蓮「気が向いたらね……」

加蓮「隠し事――あ、そういえば」

藍子「誰か見つかったんですか?」

加蓮「うん。見つけた」ビシ

藍子「……私?」

加蓮「なんかさっき天気予報とか曇りとかがって言ってなかった? あれなんだったのかなー、って」

藍子「あぁ、そのことですね。今度のオフの日も、またくもり空みたいだなって」

加蓮「最近晴れないよね」

藍子「事務所のシーツやブランケットも、ずっと洗濯できていません。気になるなぁ……」

加蓮「いざとなったら家事に慣れてそうな人達にコツを聞いてなんとかしようよ。菜々さんとか」

藍子「そうしますね。……って、菜々さんに聞くのはちょっぴり問題があるような?」

加蓮「そう? だって絶対あの人こういうことに詳しいでしょ。藍子が頼めば手取り足取り教えてくれると思うよ?」

藍子「そうかもしれませんけどっ。家事に慣れてそうな人って大人の皆さんのことですよね? そこに菜々さんを入れちゃ駄目ですっ」

加蓮「ほら、さっきイタズラする時は藍子をこっち側に引きずり込むって言ったし」

藍子「…………」ジトー

加蓮「たはは」

藍子「天気が気になるのは、洗濯のためだけじゃないんです」

加蓮「ふーん?」

藍子「今度、ちょっと遠くにお出かけしてみたいなって思っていて」

加蓮「どこか行きたい場所でもあるの?」

藍子「ううん。特に、ここに行きたいって場所はないんですけれど……」

加蓮「ぶらり旅ってヤツ。テレビでたまにやるよねー。前にPさんがやりたいって言って見てたっけ」

藍子「Pさんが?」

加蓮「うん。あ、企画としてやりたいとかじゃなくて、Pさん自身がね?」

藍子「Pさん自身が……」

藍子「え、Pさん自身が?」

加蓮「うん。ほら、Pさんって結構いろんなとこ行くの好きだって言ってたじゃん。事務所にも、どっから持ってきたのか分かんないような物とかあるし」

加蓮「家にもそういうの置いてるんだって。見に行かせてーってたまにお願いするんだけど、ぜんぜんオッケーくれないんだよね」

藍子「……あ、あぁ。びっくりした……。そういうことですか」

加蓮「……どういうことですか?」

藍子「てっきり、Pさん自身がアイドルみたいに旅番組や企画に出るのかな、って――」

加蓮「…………どういうことですか??」

藍子「あ、あはは……。加蓮ちゃんのお話を聞いて、ちょっぴり勘違いしちゃいました。忘れてくださいっ」

加蓮「はあ。色々分かんないからいじりようもないし、いいんだけどさ……」

藍子「って、加蓮ちゃん。加蓮ちゃんはアイドルなんですから。Pさんの家にお邪魔しちゃ駄目ですよ?」

加蓮「やっぱり?」

藍子「やっぱり」

加蓮「ま、今度Pさんが何お土産に持ってきてくれるか、楽しみに待ってよっか」

藍子「はい。そうしましょうっ。また1つ、楽しみが増えましたね♪」

加蓮「ねー」

加蓮「さて。藍子、何か食べない? ちょっとお腹すいちゃった」

藍子「私も、ちょっぴり――そういえば、今って何時なんでしょう?」

加蓮「4時ー」

藍子「わ、もうっ?」

加蓮「今日はゆるふわ力が不調だね。どしたの? 何か隠し事でもある?」

藍子「ありませんしどういうことですか! だって、さっきココアを注文した時にはまだ1時で――」

加蓮「いつものパターンだと、もう7時とか8時とかになってるでしょー」

藍子「……も、もうっ。それはその……。もうっ」

加蓮「くくくっ」

藍子「久しぶりに、パフェを食べてみたいかな。加蓮ちゃんは?」

加蓮「私もそれでいいや。藍子とは違う種類のにしよ」

藍子「ひとくちだけですよ?」

加蓮「3口」

藍子「ひとくち」

加蓮「ケチー」

藍子「すみませ――」

加蓮「……ん? どうしたの? パフェの気分じゃなくなっちゃった?」

藍子「ううん……。加蓮ちゃん。試しにもう1回だけ聞いてみませんか? クッションのこと」

加蓮「んー……」

藍子「ほら、ひょっとしたら、あの後に店員さんに何かいいことがあって、今度は教えたい気持ちになっているかもしれませんよ」

加蓮「あれからまだ3時間しか経ってないのに? ……って、3時間も経ってたらあり得るかー」

藍子「ねっ? ……ほら、もしかしたら、加蓮ちゃん……気づいていないかもしれませんけれど、聞き方がよくなかったのかも……って」

加蓮「ほぉう。言ってくれるねぇ??」

藍子「ごめんなさい。でも、加蓮ちゃんの一生懸命になった時って、目が離せないほど綺麗だけれど……その分、少しだけ怖く見えちゃうこともあるから……」

加蓮「……怖い、かぁ」

藍子「違う世界の人や、加蓮ちゃんなのに違う人のように思えて」

藍子「もちろん、それでも加蓮ちゃんだってすぐに分かるから、私は平気ですよ? たぶん、事務所のみんなも、Pさんも」

加蓮「……たはは。実はさ、それファンにも似たこと言われたんだ」

藍子「ファンの方から?」

加蓮「うん。ちょっと違う話かもしれないけど、ほら、この前私ドラマに出たじゃん?」

加蓮「中盤くらいで私にスポットが当たってた回、放送した後にさ。SNSとかで言われてたの」

加蓮「すごかったけど怖かった、とか、ここヤバい、新しい魅力を見つけた、みたいな感じで」

藍子「あ~」

加蓮「そのドラマの役、ちょっと共感するとこがあって。今までより熱を入れすぎて……。で、みんなの感想を見て、Pさんと一緒に苦笑いしちゃった」

藍子「あはは……」

加蓮「でも藍子がそれ言うのはびっくりだなー。別に悪いとかじゃなくてさ。藍子がそういう風に見てくれるかー、って」

加蓮「ほら、ずっと一緒にいるとお互い相手の印象って固定されちゃうじゃん」

加蓮「なかなか新しいのを見つけれなくなったり、今まで知らなかったことを知っても前々から分かってたような感覚に陥ったり」

加蓮「そういう感覚を引き摺って、ある時小さなきっかけ……例えば自分じゃない子と遊んでる姿を見るだけで落ち込んでみたいな――」

加蓮「なんてねっ」

藍子「そうでしょうか……? 私、加蓮ちゃんと一緒にいると、いつも新しいことの発見のくりかえしですよ」

加蓮「……あれ?」

藍子「加蓮ちゃん、こんな顔もするんだ……って今まで思ったこと、たぶん100回はこえてますっ」

加蓮「あー……はは。藍子相手には不要な心配だったね」

藍子「くす♪ 加蓮ちゃん。もっと前向きに考えましょ?」

加蓮「はぁい」

藍子「さてっ。加蓮ちゃん。パフェを注文しましょうっ」

加蓮「そうだったね。今日はグイグイ来るねー」

藍子「そういう気分なんです♪ 店員さんを呼ぶので、加蓮ちゃん、クッションのことをもう1回聞いてみてください」

加蓮「……ホントにグイグイ来るねー?」

藍子「だって、加蓮ちゃんのお話を聞いていたら、私も気になっちゃって。どこにあるのかな、って」

加蓮「気にさせちゃったか」

藍子「はい。気にさせられちゃいましたっ」

加蓮「じゃあしょうがない。そんな藍子に免じて、もう1回だけ聞いてあげる」

藍子「ありがとうございます。すみませ~んっ」

加蓮「やっほー店員さん」

藍子「フルーツパフェと……。加蓮ちゃんは?」

加蓮「ミックスパフェでー。それと……店員さん。さっき聞いた雪だるまクッション、どこに売ってるのかやっぱり教えてほしいんだけど……。やっぱり、教えてくれない?」


……。

…………。


加蓮「簡単に教えてくれたんだけど」

藍子「簡単に教えてもらえましたね」

加蓮「え、なんで? さっきはなんで睨まれたの?」

藍子「さあ……。どうしてでしょうか」

加蓮「……」

藍子「……ま、まあ。教えてもらえてよかったじゃないですか。それにこのお店、事務所のけっこう近くみたいですよ」

加蓮「ねー。近くにこんな店があったなんて知らなかったな。今度行こっか」

藍子「はいっ」

加蓮「……あ、店員さん。パフェ持ってきてくれた」

藍子「ありがとうございます。わぁ、美味しそう……!」

加蓮「ありがとねー。……店員さん。さっきってさ、なんで私のこと黙って睨んでたの? ほら、最初に聞いた時」


……。

…………。


加蓮「……………………」

藍子「あ、あははは……」

加蓮「……えーとさ?」

藍子「まあまあ。怖かった、とかではなくてよかったじゃないですか」

加蓮「……普段ふざけてばかりの私がマジ顔してるのを間近で見れたのがちょっと嬉しくてずっと見てた、って……睨んでた訳でもないって。どういうこと? いやホントどういうこと???」

藍子「店員さんも、加蓮ちゃんのファンの1人ってことですっ」

加蓮「そういうことじゃないと思うんだけど。何、この気持ち……。いっそ怖かったって言われた方がよかったわよ……」

藍子「ほら、加蓮ちゃん。パフェ、ひとくち……さ、さんくちあげますから。ねっ? 機嫌をなおして~っ」

加蓮「別にキレてる訳じゃないんだけどさ……」

藍子「はい、あ~んっ♪」スッ

加蓮「……あーん」モグ

加蓮「……まぁいっか。パフェ美味しいし」

藍子「ねっ?」

加蓮「あはは……。はい、藍子。お返し」

藍子「ありがとうございますっ。あ~んっ♪」


【おしまい】

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