モバP「元、マネージャー」 (42)
アイドルマスターシンデレラガールズのSSです。
あたしが男の子だったら…ううん、でもそれじゃきっとプロデューサーに会えなかったかな?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
勤め人と学生と老人でできた雑踏、時刻は夕暮れ。
いつもよりずっと早い時間帯の退社は、臨時ミーティングという見えすいた方便が可能にしたものだ。まあ、そのお題目で呼びつけられたのは事実だし、モチベーション管理という意味では仕事の一環と言えなくもないーーもちろんそんな寂しいことを言うつもりはない。
家からも事務所からも大して遠いわけじゃないが、通常の行動範囲では来ることもない、そんな町の、安アパート。
錆び付いた集合ポストの横を通り、もうちょっとマシなところに住めるだろうにと思いながらチャイムを押して十数秒。ドアが開く気配はない。だが中に人がいるのは確かだ。何しろ俺は、彼女に呼ばれてここにきたのだから。
それに、正直予想はしていた。
何しろペナントレース終盤。
今日の勝敗如何でマジックが点るか否かの分水嶺だ。部屋の主は、ドアの外のことなど頭の片隅にもないだろう。もう長い付き合いだ、それくらいじゃ怒る気にもならない。
しかしいつまでもここで立ちん坊しているわけにもいかないので、もう一度チャイムを鳴らそうと伸ばした手を、一度きりの着信が止めた。文面はこうだ。
『あいてろら』
「…………」
まあ、意図は理解できた。
ついでにオモテのことなど頭の片隅にもないと踏んだ俺の思い過ごしも謝ろう。
しかし開けっ放しとは感心しない。未だオートロックもないアパート住まいでその不用心は流石に無防備がすぎる。きょうび一般の女の子だってそんなことしないだろうし。
ノブを引くと本当にドアが開く。ため息混じりに足を踏み入れる。と、
「あ、わ、ああああああああぁ!!!」
俺のか細い鼻息なんかかき消すような落胆の声が、間取りごと貫いてきた。笑う。思わず笑う。バレたら大変だからここで笑っていく。
咳払い一つ二つでようやく苦笑を消し、ヒールの代わりにグローブが突っ込まれた靴箱を尻目に上り込む。ほどなく再開した応援の声を辿るように薄暗い廊下を進む。
次第に強くなるジャンクフードの気配。
昼から食っていない腹に染みわたる匂い。
思わず唾を飲み込みながら本丸の戸を開ける。
「さぁーしまってこー! まだまだ7回! 勝負は最後までわからなぁぁぁい!! プロデューサーお仕事お疲れさまーっ!」
「応援のついでか」
まあまだマシか。攻撃中だったらそれすら混ぜてもらえなかったかもしれない。
「ついでなんかじゃないってー! あ、お出迎えできなかったのはゴメンね? さっきはちょーど一世一代の山、ば……」
その和室の真ん中に胡座で陣取るアイドル姫川友紀は、数分前の記憶に海よりも深い色の目をする。
「山場、だったから……」
結果は聞くまい。
その代わりに、水を差すのは承知の上だが、一言だけ小言。
「にしても、鍵の開けっ放しはやめなさい」
「えーだってみんな良い人だよ?」
「それはアパートの人の話だろうが」
もっとも、それだって簡単に信用して良いものではないとと俺は思うが、性善説がキャッツの法被着ているような人間には効果が薄い。
「いつもはちゃんと締めてるってー、プロデューサーがくるから、今日だけそうしてただけ! うん、ゴメンゴメン! それよりそれよりー」
まったく悪びれる様子もなく目はテレビに釘付けのまま、ちょいちょいと手招きしてくる。ちゃぶ台の上には汗をかいた缶ビールと茶色過多のつまみたち。そして友紀の隣にはねこっぴー柄の座布団。
お招きは嬉しいが、もうひとつ、気がかりが。
「……クーラー、点けてないのな」
戸を開けた瞬間に冷気が流れ込んでくるのを期待していたが、出迎えは外気の同等の扇風機の熱風と、友紀の応援で茹で上がった空気だった。友紀が布団がわりに使いがちなねこっぴーのぬいぐるみクッションも、うだった様に四肢を広げている。
まあ、予想はついていた。なにしろ、アパートの外までキャッツ贔屓の声援は筒抜けだったから。
しかし当の友紀は汗だくのまま、俺の落胆などどこ吹く風だ。
「だってー、その方が野球っぽいじゃん?」
「キャッツのホームはドームだから冷房完備だろ」
「そこはそれ、これはこれ! あたしはやっぱりグラウンド出身だし、それにビールは暑い方がおいしーからねっ! ほらほら座った座ったー」
やれやれと諦めて座ると同時に、シュポッ、と景気のいい音がして銀色の缶が押し付けられる。
手に取るや否や、
「イェェェイ!!」
既にあったまっているテンションに負けじと声を張る。
「ウェェェェェェェイ!!」
こぼれろといわんばかりに拳ごとビールをぶつけ合い、勢いのまま呷る。
「あっはっは! なになにウェェェェイって!!」
先に口を離していた友紀がけらけら笑いながらちゃぶ台に手を伸ばす。鳥から、ゲソから、ポテトチップスにフライドポテトに軟骨・ウインナー枝豆……みごとに女子力ゼロ野球力1000の取り合わせだ。
「ありがと……んむ、なんでもいいだろなんでも」
「い…………っよぉぉぉしナイスキャーっち!! いいよいいよー冴えてるよぉぉ?!」
礼も反論も置き去りにされた俺はつられるように画面を見る。現在7回のオモテ相手チームの攻撃はツーアウトでランナーなし、5対4とキャッツが一点差を追いかけている状態だ。まあキャッツの得点力であと3回攻撃があると考えたらそのリードはないに等しく、時折映る相手チーム監督の表情は険しいままだし、逆にキャッツの選手やスタンドの客にもまだ焦りは感じられない。
それは友紀も同じで、一球一球に一喜一憂してはいるがさほど差し迫った様子もなくビールとつまみを往復している。
「…………」
俺もビールに口をつけながら、横目で友紀を窺う。
よく動く童顔のパーツに、日焼け寸前の健康的な肌のいろ。Tシャツの上に羽織った贔屓の法被は小柄な身体の腰の辺りまであり、その下半身もホットパンツから汗ばんだ素足が無造作に飛び出して、座ったままジタバタと忙しそうにしている。
顔と格好、仕草だけ見れば声変わり前の男の子のようにも見えてしまう友紀。
しかし、声を枯らすしなやかな喉が。
アルミ缶にキスする唇のさざめきが。
法被のあわせから主張し双丘に歪められるシャツのタテ線が。
脹脛にあかく張り付く畳の跡が。
彼女の雌を、否応もなく証明する。
「いよーっし!! ナーイスピーッチ!!」
ばるんっ、と跳ねたカラダと歓声で我に返りる。染み出た唾を、ごくり、とビールで流し込む。額から流れた汗が一筋混じった。
「はいコレ! 反撃、ぜったいアツくなるからね!」
と、いきなり目の前に突き出されたのはプラスチックのバット。グリップから先端まで空洞になっており、メガホンにも鳴り物にもなる優れものだ。
「流石にコレは怒られるんじゃないか?」
尾っぽを握りながら一応たしなめると、
「大丈夫だいじょーぶ! 今日お隣さんいないみたいだからっ!」
とのこと。
ふうん、と返事しながら、それでも俺はストッパーにならねばと肝に銘じる。酔っ払った友紀に野球が合わさると歯止めが効かない。いくらご近所に善人が多いと言っても、親しき仲にも礼儀あり。最低限のマナーというものはあってしかるべきなのだ。
「あぁー!! いけいけいけ回れ回れ回れぇぇ!!」
「はいはいはいはい、いよぉぉぉしっ!! 値千金いただきましたーっ!!!」
うん、まあ、盛り上がりも大事だよね。
角部屋だし、隣は居ないって話だし、大丈夫だよね?
7回裏のチェンジで現れたチアリーディングとねこっぴーの応援に背中を押されたか、キャッツはその回であっさりと逆転し、そのまま危なげなく8回オモテの反撃も凌いだ。さらにその裏に追加点。絶好調の投打に乗せられるようにビールとつまみがすすむ。
「あー、あれ重いんだよねー」
ふと、友紀がそんなことを呟いた。
「バット?」
「んーん、ビールサーバー」
ああ、と返す。選手交代中で客席にカメラが回り、男性客が売り子からビールを渡されているところだった。いつだったか友紀の誕生日に担いでいったことを思い出す。
「タダで野球観られるからやってみたけど……」
「きつかった?」
友紀はえへへ、と笑った。
「思ったより集中できなくてさー、楽しいは楽しかったけど」
とそこで、ゲームが再開し、ひとときの平穏はたちまち霧散した。
俺も友紀の応援に追従しながら、考える。彼女が試合中にゲーム以外のことを口にするのは珍しいことだったから。
そして。
「い………………ッスピーッチナイスセーブ!! おめでとうマジック点灯今年もキャッツがナンバーワンだーっ!!!!」
「いよーっし!! はいグータッ……」
その場でスキップしていた友紀は勢いのまま、
「ばーーーーん!!!」
「おうおおおおぉおおおお?!」
拳を掲げていた俺の胸元に抱きついてきた。いくら小柄で軽いとはいえ、突撃されれば流石に慌てる。畳に片手をついて持ちこたえるが、そんな俺の努力をあざ笑うようにーーもとい、けらけら笑いながら、真っ赤な顔と汗だくの肢体を押し付けてくる。
「ほら熱い暑い」
「えへへー」
顔は近く、胸は当たり、腕を絡みつかせて、熱が一気にあがる。汗臭さも酒臭さも、自分もその一部だからか気にならない。むしろ、寝かせていた獣欲を揺さぶるスパイスでさえある。
「んー! ねーねー、」
まるでよちよち歩きの幼子のように、友紀は俺の胸元に顔を埋める。
「なんだー?」
髪を梳き、頭を撫でる。んふふー、と喉を鳴らす声。体温は人なつこい大型犬を抱きかかえている心地。
「お願い、きーてくれないかなー?」
いつになく甘えた声に下半が甘硬く屹立し始める。このまま倒れて仕舞えばそのままスタートだ。快活さの裏返しにそちらには奥手な友紀にしては、唐突といえば唐突な誘い。だが断る理由は何もない。
なんだ、と言いながら共倒れしようと決めた瞬間、まるで縄抜けの手品のようにしなやかな女体がするりと立ち上がり、俺の半ば伏しかかっていた上半身が引っ張りあげられる。
目を白黒させていたであろう俺に、友紀は曇りない満面の笑みでお願いする。
「マジック点灯記念、しよ?」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「この日のために瓶ビール買っといたんだよねー! いやーよかったー!」
友紀の声がかすかに反響する、浴室特有のクリーム色の壁。ユニットタイプではないが一人暮らしのサイズだから、俺と友紀が入るとだいぶ窮屈で、タイル部分に二人居るなら立つしかない。
互いの手には中瓶一本栓抜きひとつ。もちろんそれだけでは終わらず、水を張っていないバスタブの淵にメーカーの互い違いで10本が整列し、挙句、30本近い瓶がバスタブの底に控えている。その行き場のない茶褐色の林立を覗き込むと、船倉いっぱいに押し込められた奴隷の一団を俯瞰しているかのような錯覚にとらわれる。なお、冷えているのは手元の二本だけ、とのことだ。しなびた浴室の高温多湿の中では、その選ばれし二本は光り輝いているようにさえ感じる。
俺は友紀から短パンを借り肌着一枚になり、友紀は法被を脱いだだけの軽装で、汚れ果てる準備はとうにできていた。
ただ、ここまで一瞬の淀みもなく誘導してのける友紀の才覚には驚きだった。さすがノセ上手。
「でも、ありがとね!」
ボッ立ちの俺に続けて、
「マジック点灯でビールかけなんて気が早い! て言われるかと思ったから」
あはは、と軽い笑いが浴室に浮く。
「気が早いとは思うけど」
片手の瓶を軽く降ると、友紀も真似してゆすり出す。
「風呂場でビールかけって、よく思いついたなって。それ聞いてから居てもたってもいられなくなったってのが、正直なとこだ」
友紀の顔が、それまで以上にぱあっと明るくなる。
「えっへっへー! でしょでしょー?! このお仕事で初めてビールかけして、それはそれで楽しかったけど、んー、やっぱりアイドルとしてのファールゾーンってあるから、いっかいタブーなしボークなしでやってみたかったんだよねー!」
ああ、そういうこともあったな。確かにドレスだったりシャンパンだったり、いわゆるテレビで観るような地獄絵図には流石にさせていなかった、
「ビールかけもだけど、思えば今まで色々あったね。もしアイドルになってなかったら……プロデューサーに出会ってなかったら、したくてもできなかったこと、できるとも思えなかったこと、いっぱいいっぱいありすぎて。全部、プロデューサーのおかげで、させてもらえたんだ。それは、プロデューサーっていう最高の女房役がいてくれたから頑張れたっていうのも、もちろんあるよ」
突如の告白に戸惑う。泣上戸ではないはずの友紀だが、そのしみじみとした口調におされ、思わず居住まいを正してしまう。
「友紀……」
イメージほど低くはない友紀の背丈は、それでも、密着する距離では大人と子供くらいの差になる。そこからの上目遣いは、僅かに充血し、幽かに潤んでいた。
「だからね、だから、これからもずっと……あたしをリードしてね?」
声の震えはエコーか否か。
「……ああ、約束するよ」
と感動しているせいで俺は見過ごした。
「……と、言うわけで」
今の語りがーー選手会長のスピーチであることを。
その手の振りが残像をまとっていることを、瓶の内圧はとうの昔に危険な状態まで高まっていることを。
不穏な気配に気づくがもう遅い。なまじ下など見たからなお悪い。すでに栓抜きは仕事を終え王冠はコイントスのように回転しながら放物線を描き俺の網膜にその絵柄までもを焼き付けた。王冠の一矢目の陰から姿を表すように噴き上がるニ矢目の泡は持ち手の瓶が好き放題に振られるのに合わせて新体操のリボンよろしく波紋を渡り、その十字砲火の軌道延長線上全てに俺の体があった。最初の到達点は目に違いなかった。以上の光景は全てがスローモーで来るのがわかっているのに何もとめられないのは約束の決まった映画のようで、アヴェ・マリアなんか流しとけば十番煎じのフィルムノワールパロディくらいにはなっただろうか。
そして、地球上の物理法則にたがわず、全ての光景の後に音が聞こえた。
ーーしゅぽんっ。
「マジック点灯おっめでとぉぉぉぉキャッツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
「いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
そこから先は地獄絵図だった。
抜いた王冠はバスタブに投げるという最低限の交戦協定が敷かれ、あとは顔と言わず身体と言わず打ち込んで良いというレフェリーなしアンパイアなしの血で血を洗う総力戦となった。一本目の『とっときの冷たいヤツ』は畳の温室風呂場の温室でずっと辛抱していた身体には劇薬もしかりといった具合だったので、互いを凍えさすように友紀は下から俺は上から全部を相手に注ぎあった。下からの噴き上げは最初目にクるがすぐに股間にキンキンの発泡が染み渡って怖気を振るうほど心地よかった。つむじで逆さまにした俺の瓶は友紀の顔シャツパンツの順に滝と流れてあまりの冷たさにその場で駆け足する。そして同時に目に染みてよろけてぶつかって大爆笑する。爆笑しながら二本目を取る。たちまち立ち込める酒精の湿度におされるように開けた瓶をひとまず呷る。と、向こうも真似して口をつけ始めたスキに墓石にするように振りかける。くぐもった悲鳴をあげながらビールを離さない友紀を指までさして笑うと、お返しとばかりに飲みかけの瓶をぶん回されてスプリンクラー状に喰らう。三本目に手をつけた頃には肌着もズボンもとっくに黄ばんで重さを感じるほどに泡を吸い、許容量を超えたビールがびたびたと滴り落ち、排水溝がその残りを飲み下して行くところであった。
もったいな、と。
その様をちらと見た刹那に、ぐいと引っ張られた襟首に瓶が直入し、濁流がだぼだぼと胸板をそそり落ちた。
「て、なんでこれ冷たいんだ冷たあっ!」
「あっはははははははははは!」
雨だれと哄笑が交差する。最初の一本だけが冷たいというブラフにまんまと引っかかった。その悔しさを胸に手元の栓を抜き意趣返しにと下手人を見下し
見た。
シャツが透けて張り付き輪郭が浮くほどに濡れそぼった肢体を。
見てわかる双丘にレリーフのような襞を刻むブラジャーの意匠を。
霧散する酒気を吸い泉のように浴び艶を返す仄紅い頬を。
それが手の届く場所に突っ立っている無防備を。
ばちん、と頭のどこかで音がなった気がする。それは思考の線路のポイントが切り替わった音で、一面バラエティ色だった脳のマッピングが瞬く間にだだ黒い欲情に塗り込められていって、その色がさっき空回りした獣欲の再来だと気づいた時、
「あ、は………………ぁ?」
俺は友紀を抱きしめていた。
笑い声はやみ、絞った雑巾から落ちた汚水が床を叩くような音が、閉めきった浴室に木霊する。小さな唇に胸元を吸わせ、胸は肋で押しつぶすような塩梅で、屹立は臍の窪みと触れ合わさって、
友紀の気配も、変わる。
これまでの経験から、俺がどうしたいか、自分がどうされたいか、これからどうなるか、思考を飛ばして本能でたどり着く。
男に抱かれている『あたし』は女なのだと、思い出したのだとおもう。
顔が見えなくてもそれとわかる躊躇の空白。
読み違えていないか。独りよがりでないか。ただの欲しがりみたいじゃないか。
けれども、結局欲がその手を動かす。
静かになった女体が、羞恥に錆び付いた速度で、俺の背に手を回してくる、
瞬間、
待っていたかのようにーーいや実際それを待っていたのだがーー彼女の身体を引き剥がした。
彼女を見下ろす。
「…………え?」
何が起きたのかわからないという表情の空白、
が瞬く間に、橋の下に置き去りにされた子供のような哀の色を帯びてゆく。その目を見る、観る、みる。
その寂寥を見たかったというのは、我ながら意地が悪すぎるとは思う。
あ、あはははは、
痛々しい愛想笑いの半分が換気扇に、もう半分が排水溝に吸い込まれる。
その根性すら尽きる直前、俺は手を伸ばす。
「動くなよ」
「あ……っ」
襟首を引っ掴み、無遠慮にぐいと引っ張る。友紀は一瞬前のめりになり、しかし言いつけ通りにしようと堪える。結果、白い喉から下ーー絵に描いたような美乳と、それと、普段の友紀では見たこともない精緻な刺繍の下着が秘匿されていた。贈答用の二つ並んだ桃。
「可愛いね、それ」
友紀は真っ赤になって俯く。
「もしかして今日ーー期待してくれてた? 野球観戦じゃ終わらないって」
悩ましげに息を吐くその唇へ、瓶をあてがう。驚きは最初だけで、友紀はすぐに意図を察する。
「あぷ、ぷふ……んんっ、ほぁえ、えろ……ぅ」
飲めたのも最初だけ。
ほぼ直角に押し当てた瓶から流れ落ちる勢いはそれこそ滝の如しで、ほとんどが友紀の小さな口からこぼれ、頤を喉を鎖骨を伝い胸を汚し裸足の間を揺蕩うこととなった。そこでその瓶が尽きた。
次を手に取り栓を抜く暇つぶしに友紀の唇を食む。
「あ、んふっ、あん、むちゅっ、んっ、んっ、こくっ、んくっ、こくんっ」
身長差を利用した接吻は、口移しで餌を待つ雛鳥の様相。
これまで教えてきた通りに、舌垂らされる唾液を嚥下する友紀。ぽっかりあいた口吻に舌を差し入れると、小指ほどの舌先が応じてくる。さっき食っていた肉と油と酒気の混じった舌蕾はお世辞にも芳香とは言い難いがそれはお互い様だし、他の部位ではあり得ない柔らかさの口内の襞を啜る触感はいっそ秘境の珍味のように思えて来て存外にそそる。
手元の栓が抜けると同時に体を離す。
「あふ、ぁ」
切なげな友紀の吐息。
「動くなよ」
もう一度言いつける。
ホックをはずす。
ファスナーを半ばまで下ろす。
「あ、あ……」
太腿からホットパンツを、海老の殻の様に両手で剥く。
上と揃いのこじんまりとしたショーツが、鼠蹊部のラインに沿って股下でこんもりと露わになる。こちらも今日のために買ったのだろう。
ここで想像する。
いつものジャージというか野球少年のような格好で、自分で調べたかこっそり事務所で聞いたかして仕入れた情報を元にランジェリーショップに赴き、店員につつかれ真っ赤になりながらあれがいいかこれがいいか散々迷いながら上だけレジに持って行こうとしたら下もいかがですかと促され言われるがままにお買い上げありがとうございました、となったいつぞやの夜。家に帰って布団に蹲り派手じゃなかったかこっそりもう一度着けてみた屈辱。早ければ小学生でも済ませてる通過儀礼、二十歳で味わった気分はどうだった?
すべて当てずっぽうで上のように訊くと、ただでさえ顔を赤らめていた友紀は跡でも尾行けて来たのかという顔をして愉快になる。答えを待つまでもない。羞恥のあまり結構な力でぽかぽか殴りつけてくる20歳児をどうどうと宥め、空いている方の手を湿ったショーツに伸ばす。栞を挟んだ頁を開くように指を差し込み、酒濡れた薄い陰毛の出迎えに構わず股下まで滑らせる。
駄々っ子が一瞬でおとなしくなる。
そして小ぶりなスリットも、持ち主に似て縮こまっていた。
球(タマ)を受けるからキャッチャーミット、とは、流石に下品すぎるだろうか。形状的には棒だし。
かつてはーーかつては、この『ミット』は大層硬く、逸物どころか指一本を挿入れるのにも相当な『投球練習』というか『捕球練習』を必要とした。今では難なく根元まで飲み込めるほどに熟成したが、それでも常であれば、あれだけの出し入れにも中肉をまろび出させることもないこの入れ口は間違いなく名器と呼べるだろう。
ーーつぷゅ、
「は……ぁ、っ」
だが堅牢に見える門も、薬指の鍵で簡単に開く。
undefined
あとは五月雨式に中指、人差し指を滑り込ませれば、切れ込みを入れたようにバラ、バラと肉釜が開くので、ずぶ濡れでバクバクとヒクつく具(ナカミ)に委ねればいい。仕込みは上々、最初から遠慮なしで良さそうな塩梅だ。
「あふゃ、あ、はっ、はーっ、あ、ああっ、あ」
喘ぎを天井に吐き白い喉を晒す友紀は、余裕が無いなりにこの先を期待している。今日のために恥を忍んで買った高い下着の上下は、その値にたがわぬ効力で雄を刺激した。その配慮に頭が下がる。
「ありがとな、でも、友紀。次は俺が買ってやるから、許してな」
官能のくすぐりに耐えていた友紀は目を開ける。蛍光灯の直射が眩しい。
「つ、ぎ……ぃ、ゆるす?」
「ああ、次のだ」
ぷにん、
と、
「これはもう駄目にしちゃうから」
臍下に瓶の口をあてがう。この腹肉一枚めくったあたりが子宮の位置かなと益体も無いことを考える。
考えながら思い切り傾ける。
考えながら思い切り掻き毟る。
「あ、っ、これだめっ! あっ、くぅあ、あっ、あああぁ……!」
下腹を伝ったビールが淫毛を踏破しパンツをすり抜ける直前、掌の漏斗に引っかかって触手まがいの指先に充填され、ピンボールのように膣内へ打ち返され内壁を酒浸し泡浸しにする。その仕草が二礼ニ拍手一礼の前、手水舎で穢れを落とす時のようだと罰当たりにもほどがある連想が浮かぶ。じゃばじゃばとタイルを叩く水音に合わせて友紀は眼を白黒させ、動くなと言いつけられたはずの膝が面白いことでもあったかのようにガクガクと笑う。
「あっ、あっ、いやあっ、あぁっあかはっあっああっ」
本来であれば股下を素通りするはずのビールの滝は、俺の手と引き絞ったホットパンツの裾でじょぼぼぼぼぼぼといくらか堰き止められ、泡だった湖畔となる。せっかくの意匠のショーツは無遠慮な拳骨に引き伸ばされ、小水じみた麦酒にずぶずぶと沈み、水底の遺跡のように恨めしげな視線を天井に向けてきた。
「…………ぃ、ひぃ?!」
びくっ、と、指先が『アタリ』を引く。当然だ。適当にかき混ぜているとでも思ったたか。景気付けに抓り上げる。友紀のぎりぎりキモチイイ痛みのラインは承知済みだ。
くろりゅろつゅっ!!
「い、あぃ、らめりゃめっ、も、たてなっ、だめだめだめっ」
俺は懇願を無視する。
無視された友紀は健気に耐える。
潤滑酒を良いことに『アタリ』をこねくり回す。酒が尽きるまでにひとっ飛びさせたいから多少無理めのスピードでいつのまにか五本入れて浅瀬を擦っていた指を一本、中指だけにして、
ずちゅるぉぉ、
ずゅんっ!
「あ……………………ィきひィぁ!!!!」
絶叫が安普請を貫く。
第三関節まで思いっ切り突き刺し、つぷつぷのハラミをぶちぶちと圧壊した。
fuck you!と脳裏にグラフィティが疾る。
「ああっ、あ! いあっ! あ、あ…………ぁぁ」
が、くんと、腰から始まり背骨まで軋むような痙攣が起き、差し込んでいた指が万力でばくばくと喰い食まれた。背骨が弓形にしなり顎が跳ね上がる。
友紀はイった。雑にイかせられた。
「……よっと」
同時にビールが空になる。
イかせた形そのままに内壁をなぞりながら指を抜く。潰した果物みたいに飛沫がぴゅっと吹きだす。友紀はイッた口のまま、目からバチバチと星を散らしながらビールの沼にへなへなと尻餅をついた。ぜーぜーはーはー、びちゃびちゃどくどく、意識のない音が浴室を埋め尽くしている。
「あ、ア……、ぁ、あへぇ、い、まの、すごぉ……へ、エ…………ふー、フ…………ゥ」
喘ぎ喘ぎの言葉は呟きというかうわごとのよう。
酒の量は部屋にいた時点で普段の量を軽く超えていたし、ビールかけをはじめてからも二、三本分は飲んだだろうし、極め付けの粘膜からの摂取だ。友紀は決して弱い方ではないが、まあまあ堪えているだろう。
べつに、ここでやめる気は毛頭ないが。
「大丈夫か? はい、バンザーイ」
「ーー、へ、あ、ふぁーい」
友紀はくたびれた笑みをへらへら浮かべながら、達したばかりの重々しい動作でもろ手を挙げる。肘から手から指先から酒が滴って顔にかかるのも今更といえば今更で、それに頓着する様子は当然ない。わざと乱暴にシャツを抜き取りバスタブに捨てる。酒を吸いすぎた布地は当たり前に重く、瓶の何本かが倒れる。
「んーっ」
赤ら顔の下にぶらさがる艶々した両胸と、変色したブラジャー。乱れ自体はないその薄衣は、両手を広げて主人を守っているようにも見える。
ーーぶ、ちん、
「あ、あっ、ーーいたぁっ」
その必要もないのに引き千切る。千切るというか金具を壊して捨てるといった方が正しい。その過程で一瞬二瞬柔肉が締め付けられ、肺から溢れるというふうの喘ぎが漏れる。守るものをなくした逆サバ読みのバスト80がぶらんと垂れ下がる。甘菓子のような乳首がぷるんと揺れる。
位置的にはそのまま逸物を咥えさせてもよかったが今はいい。延髄を庇いながら女体を押し押すと、座りたての赤子のように簡単に倒れる。長い髪が濡れた床に海藻のように散らばる。そう言えばヘアピンがない。
「あ、はー、はー、はぁ、あ……んんっ」
酔夢に蕩けた目で友紀は俺を見上げる。
値踏みするように俺は友紀を見下ろす。
モデルあがりの同僚と比べれば流石に一歩譲るが、それでも友紀のスタイルは眼を見張るものがあり、狭い浴室でも横になって上半身がつっかえるということはなかった。特に脚はーー本人も自慢にしているがーーこうやって爪先を天井に向け伸ばさせれば、そのすらりとした全容がわかるというものだ。
その二本の美脚に纏わりつく邪魔者を引き剥がす。手始めに酒を吸いすぎてごわごわになったホットパンツを苦労して引っ張り上げ、太もも、膝小僧、向こう脛、アキレス腱と知恵の輪のように手順を踏んで通していき、最後に両踵を抜いて、これもバスタブに落とす。
ーーしゃり、
「あ、ら、らめ……」
友紀は朧げながら予感したのだろう。
ショーツを握った俺の手の甲に、抵抗とも呼べない弱々しさで爪が立てられる。構わず使い捨てのように布地を破り、童顔の横に投げ捨てる。短い悲鳴が上がる。友紀は少し悲しそうな顔をする。
「ん。んあぁ、ふぁあ…………っ」
そして、マングリ返しに尻をあげさせれば、さっきまで中指を立てられて悶絶していた膣口が、『本命』を待ちかねて涎を湛えているところであった。
俺もようやく服を脱ぎ捨てる。耐えかねた怒張はいつにもまして赤黒い。酒が入ると勃ちが悪くなりがちだが、今の興奮はそれを凌駕していた。顔の横に打ち捨てられた下着を見つめていた友紀も気づき、不安と期待の撹拌された惚け顔になる。幼顔に張り付くそれを見て俺は、歯を食いしばる。
思い出したことがある。
薄暗い部屋での告白。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
高校のマネージャーの時、先輩と、部室で、
友紀とこうなる前、何の弾みだったか、交際経験の話になった。
その告白は、その時はまったくの不意打ちだったように感じたが、冷静に考えれば当たり前の話だし、さらに冷静になればその瞬間も対して驚いていなかった気がする。これだけの見栄えで気が利いて明るくてしかも野球部のマネージャーなんて男所帯に入り込んでいて、そうならない方がむしろおかしい。
頭ではそう理解したし、まったく腑に落ちる話だった。だから別にその話は荒れることも当然なく、俺もいくらかの過去(しっぱいだん)を開陳して、全てが笑い話に終わった。
その別れの、友紀の表情が引っかかった以外は、何事もなく終わった。
そうケリをつけた、はずだった。
そしてその少し後ーー付き合いの深まった俺と友紀が、立場を忘れて初めて交わった時。
痛がり方がおかしいと思った。いくらご無沙汰といっても前戯は存分に施したし、濡れ方も人並み以上で、何もそこまでーーまあ体も小さいし窮屈なのかという理解と、止めないでという友紀の懇願に圧され、無理やりに腰を進め、
ぶつん、という感蝕(かんしょく)と、じわり、と刺し漏れた朱が、俺に灼き付いた。
ぜんぶうそなんだ、
つきあったことなんかない、
めんどくさいおんなっておもわれたくなくて、
でもうそつけってそのばでいわれたらすぐにばらすつもりだった、
だけどうたがわれなくて、
うそっていいだせなくなって、
だからはじめてのときにもうにげもかくれもできなくなったときに、
あやまろうとおもったんだ、
ごめんね、
破瓜の痛みに耐えながら、息も絶え絶えに、泣き笑いしながらそれでも俺に謝る友紀を組み敷いたまま、俺は身じろぎひとつできなかった。
誰も、知らなかった。
友紀は誰も知っていなくて、俺以外の誰も友紀を知ることはなかった。
身の縮むような息が漏れ出た。
安堵だった。
それは極寒で火に手をかざす遭難者の安堵に相違なかった。
喜びもあった。
だが俺はその陰に眼をやった。
物分かりのいい理解のある顔をしておきながら、いざ「あなただけですよ」と言われればあっさりと安堵するその浅はかさ、自分は誰に操を立てたわけでもないくせに「あなたがはじめてですよ」と言われて喜ぶするその強欲。どのツラ下げてホッとしているのか。独占欲も大概にしろ。そもそも商品に手を出しているのは何処のどいつだ。誰よりも人を裏切っているのはお前独りじゃないのか。
思えば、最初の嘘で俺の心には罅(ひび)が入っていたのだろう。だが虚の、空っぽのままなら、どうにか自立できる程度の罅だった。自分で自分を騙せばどうってこともない嘘だった。
そこに水(じじつ)が流し入れられた。
安堵、狂喜、
気づきもしなかった己の本性、
ーーそういった質量に耐えかね、呆気なく器は壊れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は歯を、折れそうなほど噛み締める。
獰猛な笑みに見えたのだろう。友紀は刹那怯えて見せ、
ーーずぷっ、
一息で怒張を飲み込んだ。
違う。
一息で怒張を捩じ込んだ。
「ーーっ、あ。あっ、ああっ、ああああああああァ!!!」
一瞬で、真っ赤な凶悦が童顔を塗りつぶした。浴室内が嬌声で共鳴し、止んでいた麦酒の雨がまた何滴か落ちてくる。差し込んだ先の腰が一発でぐずぐずに砕け溶けるように痙攣する。
俺も膝を笑わせながら立ち、雌尻を抱え直す。狭い風呂場で正常位で満足なグラインドなど無理な相談、横たわった丸太の片端を腰だめに持つようにして腰肉を掴み、正月の餅をつくように上から下へ腰を打ち据える。言ってしまえばガニ股の屈伸、側から見ればコントのような滑稽極まる動き。
ーーぐっぽ、ぬっぷっ、にゅじゅっ、じゅちゅっ、ぐっちゅっ、ばっちゅっ、どっちゅ、とっちゅ、
「はへっ、えへっ、んあっ、まあっ、まってぇ! えあっ、ふあっ、イクッ、イッ、んんぃっ、っ!」
角度が一定しないから撞く度に違う水音が迸る。すると友紀の喘ぎも撞く度に違うものになる。腰だけを持ち上げているから顔が遠い。ドロドロの、快楽に汚れきった顔。俺が汚して汚して汚した顔。
動きを止め、でも肉の楔を打ち込んだまま、俺は湯船の淵に腰掛ける。友紀の頭が引っ張られて濡れたタイルの上を引き回される。
つかのま、ピストンが止んで、すでにぐちゃぐちゃになった心拍を少しでも戻そうとベロまで出して息している友紀を、
「ほぇ、ほへぇ、え……んみゅ?!」
その顔を踏みつける。ごん、と後頭部がタイルを叩く。
ばくばくと膣口が蠢く。
待つ、というほどでもなかった。
「ーーあえっ、れろっ、ちゅぱっ、れりゅっ」
土踏まずを舌が這う。五指の間を舌が踊る。まるで治療のように丁寧に、食事のように熱心に、足裏という不浄を舌舐めずる。どんな表情をしているかここからは窺い知れない。足を浮かせる。舌が伸びてくる感触。
ーーばちゅんっ、
「か……ほぉ……っ」
表情(かお)は、イきながら悶えていた。
こんどは、まろび出した胸の左のほうを踏みつけたーーさっきよりも強く。形の良い脂肪が無残に潰れる。ビキニやチアリーディングのグラビアで、ファンが視線で焦げ目を作るほど熱望してやまないその目隠の奥に『土足で』上り込む。肺ごと押し潰されたような短い嗚咽。親指と人差し指の間で、立ち尽くした乳首を捻り潰す。
ぎり、ぎり……
「あッ!! アアっ!! はあっ、うあっ、アアアぁ!!」
爪の血色が変わるほど強く抓る。指と指の間で乳首が身悶えし、その下の全身がのこぎりで挽かれたように痙攣する、
その、最中、
「ううぅ、あぅ……」
今まで床を掻き毟っていた友紀の両手が、胸の上の足を掴んでいた。
さすがにやりすぎたかと足を離そうとした刹那、友紀の小さな指に、妙な力が働いていることに気づく。
「あ、は、ふー、ふぅ、はぁう、はっ、んんんっ!!」
最初、たどたどしい手つきのせいでその目的が読めなかった。
したいようにさせていてーー途中で意図がよぎって、正気を疑い、結果を見届けて、目を疑った。
寄せた両乳は変わらず足の下にあった。
それは不自然に交差していた。無理のある交差が、無理やり繋ぎ止められていた。
なぜなら、両の乳首が、親指と人差し指の間に、詰め込まれていたから。
「……は、はぁ、あはっ、ふ……やぁ……」
一仕事終えたように腕がパタリと落ちる。
その目の虹彩は暗い期待に滲んでいる。
膣口が不規則に痙攣を繰り返す。
足指の乳首は二つとも、まとめて握り潰す前にその弾力であっさり外れた。
あーあ、という顔になった友紀がもういちど手を伸ばす前に、
ーーーーぐちゆゅっ!!
「ァ………あああァ!」
外れかけていた肉棒を差し込み直す。
ただそれだけで女体が腰から爆ぜ淫水が飛沫く。
風呂の縁に腰掛けたまま少し前後するだけで面白いようにイく。
しかし狭くてろくに動けないから、こっちは大して気持ちよくなれない。
がっつりと腰を掴み道具のようにしごいて畑に種を蒔くように膣奥のオクで欲望を吐き散らかしたいのにできない。友紀のナカは酒のせいかいつもの締まりは見る影もなく、ガバガバに充血した膣口が自身の快楽だけを考えて笑うローリングストーンズの唇のように見えてくる。
理不尽な怒りを覚える。
これなら手で扱く方がマシだ。
突っ込んだままもう一本空けてから部屋でヤリ直すかと、背を後方にねじり湯船の底のまだ開けていない瓶に手を伸ばしもう空けた瓶が目に入り、
「あ…………」
その時、俺の中で何かが起こった。
思わず声が出た。
頭の中で旗が翻った気分だった。
恐る恐るその青写真に目を凝らし怖気を振るう。
自分の中にこうまで歪な行為が潜んでいたことに軽蔑が迸り、誰か汚らしい人間の思考を盗み見ているのであればと願い、そうでないことを悟る。
なぜなら、そうしたくなったから。
嫌悪を上回り、欲望が鎌首をもたげたから。
俺は瓶を手に取る。
同時に、友紀に差し込んでいた肉棒をプラグのように抜く。足元で短い呻き。つかえのとれた壺と蕾はばくばくと別の生き物のように蠢き涎を垂らして次の餌を心待つ。少しだけ覗き込む。頭を下にして十数分、友紀の顔は酒と淫らもひっくるめて血袋のような色になり、口は開きっぱなしで焦点もうつろだ。これ以上の快楽を与えたら、風船のように壊れてしまうかもしれない。
その様を妄想しながら、俺は自らの手で逸物を扱く。
友紀の愛液でデロデロに爛れ、それでも突っ込んだままでは日が暮れたって吐き出せなかった白濁がしこたま充填された竿を雑に扱う。
自分のことは自分がよくわかっているもので、たとえ無骨な男の手であろうと自慰ならばいともたやすく吐精の兆しが見えてくる。この極上の女体を足蹴にし自慰に耽る己が正気を疑いーーそれでも、一心に手を動かす。
ほどなくして、茎肉が蠢動する。
一度軽く跳ね、二度目の痙攣から吐き出される精の気配を、
見逃さず、
空の瓶に、筒口に、亀頭を押し当て、刹那ガラスの奥に粘液が迸った。
「こ、は…………ぁ」
鈴口が外れぬよう必死で抑える。
噴水のような射精が瓶底を叩き、泥のように蟠ってゆく。
その様は、女体の最奥に精を放つ断面図に違いなかった。
「……っ、は、あ、ふぁっ、は……あ、ね、ね……ぇ?」
もたらされた僅かの間隙に、喘ぎ交りの問いかけがにあがる。
友紀の目がいくらか焦点を結びはじめる。
そこに俺は、今し方精を溜めた瓶をかざした。
「これ、何だと思う?」
友紀の乱れ果てた精神の果て、僅かに残った正気が、疑問符を浮かべる。まだ飲めと、今更飲めと言うのだろうかという色。
瓶を振ってみる。
フラスコに集めた薬品の様に精がガラスの内側を舐める。
友紀は霞む目を凝らすが、その粘性で酒でないことは分かったとしても、茶褐色の瓶の内側ではそもそも正答は難しかっただろう。
だから答えを待たずに続ける。
「精液」
びくん、と、ぽっかり開いた膣口が戦慄いた。
「友紀のナカじゃいけなかったから自分で扱いて出した」
露悪的な物言い。
「友紀と一緒にイきたかったんだけどな。友紀のナカで、射精したかったけどな」
聞くに値しない難癖。
友紀はーー友紀は、その必要もないのに、すまなそうに目を伏せる。
恐ろしく自罰的なその態度に、これまで散々の理不尽を強いておきながら、怒りが湧き上がってくる。
ここまでされて何も感じないのか。まさか本当に、惚れた男には何をされても嬉しいという思考で動いているのか。
俺は決意する。
「だからさ、ナカに出すね」
友紀がその言葉の意図を汲み取る前に、瓶をもちあげ、そして、
ーーぐっぽぉっ、
「は……ぇ?」
友紀はその打ち込みを当初、一度抜かれた肉棒の再来と思ったはずだった。だが即座にその認識が誤りであることを悟った。
固い。
肉の硬さではない。人体の硬さではない。
それは、ガラスの固さだった。
ーーぐぽっ、ぐぶっ、ぐぐっ、ぐちゅっ、ぐつっ、ぐゅ、
「はほょ、おほっ、お……おぁぉっ?! ら、なに、やらっっ、や、やらぁ!!」
悲痛な叫びが耳を劈く。
俺の逸物よりはるかに細く僅かに長いビール瓶が、ずぶずぶと友紀のナカを貫いてゆく。普通なら入らないところまで届く。俺は瓶のケツを持ち、もう片方の手で女体の下腹を撫で擦る。ぽっこりと型が浮く臍の辺りが、子宮の入り口か。
そして瓶の内側を、ゆっくりと、粘液が、重力に引かれて流れてゆく。
塩色の跡を引いて進軍するそれは意志持たぬ蛞蝓のようにも悪意あるウィルスのようにも見える。
ずるりと、
白濁が瓶の肩口に至った。
「ほら、友紀、ナカに入っていってるぞ。俺のじゃないナカ出しで、イっちゃうのか?」
「あ……やら、だめっ、やら、やらぁぁぁ…………!!」
涙を流しながら友紀は止めるよう懇願する。中出しが初めてというわけでもないのにこの嫌がりようはなんだろう、と考えて、すぐにわかる。
俺以外の、という部分か。
だから、このちゃちな小芝居でこんなにも、身悶えするほど、嫌悪を浮かべているのか。その悲しさの中でさえ快楽を享受してしまうこの肉体はどこまでも浅ましく悲しく愛らしい。そう考えると、さしずめこの茶色の瓶は、かつての日焼けした野球部員のそれか。ならば風呂底に並ぶ瓶の林立を全て使えばそれはイガグリ頭どもによる輪姦合宿か。次次と突き刺してゆけばこの娘はどんな声でなくだろう。
俺はーーその嗜好にかつてないほどに興奮しながら一方で、やけに冷えてゆく己を自覚する。愛液を滴らせる女陰に無機質な瓶を突き刺す感慨は人工授精の施術のようであり、または標本の蜂に防腐剤のアンプルを注射する工程のようでもあった。うろ覚えだが、そういえば戦時中の蛮行に似たようなものがなかったか。
ーーとろぉ……っ、
とうとう、性液溜まりが、瓶の首元を通過し、トンネルに飲み込まれるようにして見えなくなる。
いよいよ所業は種付の実験的な様相を帯びる。
「あ、あ、いあーーあっ、あっ、いやぁっ、あああああっ、あ…………ぁ」
友紀の言葉が言葉にならなくなる。頬に子供のように涙の跡を残し子供のようにイヤイヤし……だんだん静かになってゆく。子宮に届くほど無遠慮に突っ込まれた瓶の注ぎ口から、冷めた精液が泥々(ドロドロ)と肉壺の底に搾り落とされるのを感じているのだろうか。それが望まぬ絶頂に波及し、痙攣を繰り返す彼女の目から光が失われてゆく。しかし瓶の空洞が理由か、膣内で抜き差しすると安物のおもちゃのように滑稽な空気音が漏れ出て、その悲壮さを台無しにする。
やがて、きゅぽん、と、瓶を抜いた。
痙攣。
押し付けられていた焼け火箸を今度は剥がされるような。
「か、は……ぁ、あ………っ」
ぶるっ、ぶる……っ、と、命を取られたような震えが脊髄から腰へ逆上がり、噴水の様に潮が噴いた。手が汚れた
瓶の中は空っぽだった。
己が逸物では決して届かぬ膣奥の最奥(おくのおく)へ、胤を置き去りにしたことの証だった。
瓶が震え出す。震えているのは俺の手だった。
やってしまった、と、そこで初めて俺は慄く。
血の通わない思いつきに取り憑かれ、血迷った行いを施したと自覚する。俺にだけ肌を許した娘の、その信頼を汚すという傲慢。
ーーーー、
ぎょっとする。友紀の声だった。なんといったのかわからない。
ーーーぉ、
恐る恐る覗き込む。
からっ、
るから、
ひゅて
で……よぉ
ひゃんと、
罵倒や失望、脅しの文句を頭の中で総ざらいする。
どれも違う。
全てを照らし合わせそのどれとも照合せず、とにかくもうシャワーですべて流してしまおうと栓を開いた思った矢先ーー
唐突に意味を成した。
ちゃんとするから
友紀の てがのびる。
いままで瓶に ふさがれていた 女陰を 押し開く。
きらいに ならないで
俺の手から瓶が滑り落ちる。
まだ水のシャワーが冷たく二人に降り注ぐ。
嗚咽と水滴の雨音が、狭い浴室の全てとなる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ぐ…………ちゅぅ!!
「あ………………ああぁう!!」
二人はろくに体も拭かないまま居間に雪崩れ込み、布団も敷かずにコトに及んだ。
寝転がり犬のように肢体を広げる女体へ獣欲が殺到する。
ぐちゃっ、ぐちょっ、ぐちゅっ、ぐちゅるっ、
「あっ、あっ、すき、しゅきだよぉ、んあっあっ!!」
瓶とは比べ物にならない太さの剛直を易々と飲み込み、泥濘のように愛液が迸る。主人の帰りを待ちわびた女給のような健気さで女肉が媚びる。実績を埋めるように体位を変え、鍛えられた柔らかい筋肉を惜しげもなく性交に使い、使われることに悦び、そうしないと死ぬかのように粘膜同士を擦り合わせる。先走りの子種汁はとめどなく宮壺へ垂れ落ち、膣液と攪拌して寧土寧土(ネトネト)したあぶくを作る。生理の管理のためピルは使っている『だろう』から大丈夫『だろう』と、当たり前のように無責任に中に出す。雄は吠える、雌は鳴く。膣口から溢れた胤が傷口の膿の様に溢れて畳を汚す。
その様を、俺は、
天井から俯瞰している。
出会い、信じ、信じられ、アイドルとして育て上げた健気でうぶな娘が、壊され、犯され、それに堕落してゆく様を、なす術なく、定点カメラのように見下ろしている。一度二度射精しただけじゃ、床に寝るただの交わりじゃ当然足りないと立ち立たせ、窓ガラスに押し付けて後ろから貫き嬌声を屋外へ放らせ、繋がったまま電車遊びのように部屋を歩かせ、不在だからと隣室側の壁に張り付けて刑罰のように口淫を命じ、玄関の土間まで球場の弁当売りの真似をして運んだ。トイレで潮小水を噴かせ、台所のつまみを口移し合い風呂場から持ってきた瓶を咥えさせ尻穴を穿って三人で犯すよう擬装し、録画しながらインタビューした。散々に打ち込まれましたね。キャッツチップスのおまけのように写真を撮った。中出し跡のアップで鑑定価格100万円でどうだ。剥き出しの下腹部にスコアボードを書いた。毎回満塁ホームランの姫川投手大炎上ゴミ試合だ。戦犯は一点ごとにマウンド上でレイプされればいい。
そのさまを
俺は血を吐きながら見下ろしている。
ちゃんとするから
きらいにならないで
あの言葉で、俺の歪みはとうとうここまできた。
その奥手さがその健気さが俺以外に向けられていたら、という恐怖。一度も恋愛したことのない女が、初めて異性を好きになるとこうまで盲信的になるのかという過程と結果と仮定。
その歯の根も合わぬ程恐ろしい妄想の後でーー実際他ならぬ俺のみが、その淫靡淫乱を過去現在未来一身に享受しているのを自覚するという、他の何にも替え難い全能感。
安全圏で味わう絶望と、それが揺籃の悪夢であると知る救済の、なんと甘美なことか。
だから最後にはこうなる。
鬼畜の所業で蹂躙される友紀を俺の良心が見下ろし、陵辱を止められない己の無力加減をさめざめと泣き、そんな獣に盲信的身を捧げる女の性を呪いーー実は『愛されているのは俺だった』と、安堵する遊戯。
安堵、と。
我ながら反吐すらでない。
しかし、止められない。
この女は俺のものだと、確かめずにはいられない。
ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっぱんっ!
「あっ、あおっ、はッ、ぉ、あんぁっ!!」
もう何度射精したかわからない雄が、部屋の中央で最後のスパートとばかりに正常位で腰を打ち据える。雌の腕と足は幹のような雄の身体に取り付き、心身を振り落とされぬよう必死で腰を迎え入れる。一度のピストンで三、四度達しているとしか思えない悦鳴はもうなんの遠慮もなく、痛々しいほどの畳の跡が全身鱗のように刻まれて、それでもなお交雑は止まることを知らない。
ここからじゃ友紀の顔は、男の頭に隠れて見えない。
じゅんぅ、じゅんっっ、ぐじゅっ、じゅるっ、っじゅぶっ、ぶじゅぴゅうっ!
「はあっあっあっいあっ、あっあっあああっ!! しゅき、らよぉ、 い、アッ!! 嗚呼アッ!!!」
俯瞰しながら血の味のする涙が出てくる。止めたいのに止められない。あの固そうなケツの振りを見ろ。あの男は誰かを犯しているとすら思っていない。ただ『穴』が提供されるから使っているだけだ。それなのになんでお前はその男に肩入れする。そんな男何の価値もない。お前が好きになる価値のあるような男じゃない。お前は不幸だ。二十歳まで恋を知らずきっと向けられてきた好意に気づきもせず、よりにもよってこんな男に出会ってしまった。
男の顔は見なくてもわかる。口が耳まで裂けた怪物そのもののツラで、馬鹿な獲物を貪って笑っている。もう間も無く発射される最後の精を、今夜のこれまでの射精と同じように、まず間違いなく股下の雌へ搾り落とせることを確信して笑っている。黙ってても唇と舌を寄せてくる女を舐めしゃぶって笑っている。
「あ、ヒッ、しゅきっ、すゅき、もっと、らしてへ、えへ、えへへっあ」
そんな雄に四肢を絡めて、悲鳴まじりの睦言を繰り返す雌のことが俺にはわからない。
言葉を借りれば、「好き」だから、か。
俺はその愛が怖い。
愛であれば何もかも肯定し呑み下し糧とするその摂理が怖い。
恐れ慄きながら、天井に縛り付けられた俺の下半は、どうしてか臍まで触れるほどそそり立っている。触れてもいないのに百枚の舌で舐めさすられるような快感の湧き上がりに耐えている。あまりの甘揺らめきに腰が浮く。どうしてこんなに気持ちいいのか。友紀が犯されているのに、友紀が犯されているから友紀が友紀が友紀が。
その時唐突に友紀の顔が見える。
愛する者にだけ向けられる顔。
この世で一人だけが見ることのできる顔。
それを言葉で表すのはむずかしい。
夢精のような、射精、
びゅっ、びゅひるるっぅ、ぴゅ、びゃう、う、う、
「ア゛っ?? ああっ!! あァあぁあああああああああ…………!!!!!」
耳許で、精も根も尽き果てたような声が搾り出される。
俺の肉棒はーー友紀の中で、微温湯のなかにするように緩い胤を射精する。
射しているのは俺で、蓋をしているのは俺だった。
この女は、今夜も、俺のものだった。
いつのまにかの口づけが離れる。
一服のような溜息が出る。
ああ、これだ。
この、征服が、何事にも、替え難い。
そしてこの、己の醜い性根が、何にもまして耐え難い。
ーーーーーーーーーーーー
あつい。
あつい。
きつい。
全身が軋んで疲れてくたびれはてているのに、頭のなかでシンバルでもなってるみたいに頭痛がガンガンして、眠いのに眠らせてくれない。
ずるいと思って寝顔を見る。いつもの顔がなんだかかなしそうで、あたしまでかなしくなって、頭を撫でる。と、お母さんにするみたいにおっぱいに顔を埋められる。
すこし、痛みが、引いた気がする。
こんなこと、この人に会うまで、考えられなかった。学生の時とか、友達たちの噂話に真っ赤になりながら混じって、でも自分には縁のない話として、一歩一線を引いていて。そんなことないままなんだろうなと思っていて、
この人に出会えた。
初めて芽生えたソレは小さな火の点みたいで、何がなんだかわからないうちにどんどん大きくなって燃え広がって、気づけば心を焼き尽くしてた。
今まで聞いてきた恋の話とは、ちょっと違う。こっそりよんだ本とも違う。でもどうでもいい。
あたしはこのひとしか知らないから、このひととの愛し合い方だけでいい。何をされてもいい。
だから、あたしは、思う。
自分を嫌いにならないで欲しい。
あたしは、あたしの好きなものを好きになって欲しいと、思う。
だから、あたしが好きな、あなた自身を、好きになってほしいと、思ったんだ。さっきとか、とっても悲しそうなかおをしていたから。
おなかがおもい。
おさけもせーしも山ほどはいってタプタプで、まともにあたまがはたらいてない。
だから、へんなことかんがえてもバチは当たらない。
ーーあーあ、
あれだけなかだしされたら、できるかな、やきゅうちーむできるくらい。できないかな。できたらいいのに。あたしはいいよ。
できちゃうように、してみようかな。
おしまいです
読んでいただいてありがとうございました
いいぞモモンガぁ!
最後のユッキ視点エモい
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません