「何でですか!」
机を叩き、問いただす彼に、編集長は硬い表情で言った。
「本社からの命令だ。…本当は、僕だって君の記事を載せたかったさ」
「本社って…クソっ、風都新聞の! 自分たちの街を悪く書かれたら、すぐにこうだ!」
「…」
大判の封筒を彼に突き返すと、編集長はため息をつく。
「…だが、彼らに食わせてもらってるのも事実だよ。僕らも、路頭に迷いたくは無いからね。また今度、良いのを頼むよ」
そう言うと編集長は、帰れと言わんばかりに手を振った。彼はもう一度机を掌で叩くと、足音も荒く部屋を後にした。
ぎらついた盤面に虚しく吸い込まれていく銀の玉を眺めながら、彼は茹だった頭で考えていた。
最近、この街で多発する怪奇現象。ビルが融け、鉄の塊が振り、地面に穴が開き、そして人が死ぬ。これらは、隣町の風都で数年前まで頻繁に起こっていた現象だった。そして、怪奇現象と前後してこの街に突如として広まった『母神教』なる新興宗教。
彼は、一連の出来事を風都に端を発する事件と考え、取材し、記事に纏めた。そして、馴染みの雑誌社に持ち込んだのであった。
編集長は、途中までは乗り気であった。だが、急に記事を却下した。それが、先程の出来事である。
彼は、これが編集長にとっても不本意な決断であったと確信している。何故なら編集長もまた、この街を愛していると知っているからだ。
『北風町』。風都に隣接する、人口3万人弱の町。風都が風力発電を軸とするエコの街として知られる一方で、この街の存在を知るものは少ない。表向きには、多くの産業を抱える風都のベッドタウンとして機能しているのだが、実際はそれだけでなく、街のイメージダウンに繋がるとして風都に切り捨てられたもの…例えば、産業廃棄物やゴミ処理場、更にはドヤ街や風俗店まで押し付けられているのが、この北風町であった。
それでも、彼はこの街を愛している。生まれ育った街。華やかな都会の汚点を押し付けられた、この哀れな街に、これ以上、風都の暗部を持ち込まれるのが、我慢ならなかった。
ぼうっとしていたせいで、気が付いたらハンドルを回しても何も出なくなっていた。下の玉受けは当然空。彼は舌打ちをすると、椅子から立ち上がった。
パチンコ屋を出ると、外はもう夜だった。とぼとぼ歩く彼の背中が、人気の無い通りに差し掛かった所で、不意に後ろから声がした。
「ねえねえ、お兄さん」
「あ…?」
振り返ると、如何にもヤンクめいた服装の若い男と女。男の方が、ニヤニヤしながら話しかけてくる。
「お兄さん、世の中が気に食わないって顔してるね」
「ンだと…?」
「ね、良いものあげる」
女の方が、ポケットの中から何やら四角い小箱のようなものを取り出し、彼に握らせた。
「これは…USBメモリ…?」
掌の上の、記憶媒体めいた箱には、甲殻類めいた意匠でアルファベットの『A』が書かれている。ボタンを押すと、唸るような声で『アノマロカリス』と音がした。
「これを使えば、君は人間を超えた存在になれる。それこそ…」
「…お前らか」
彼は、ぽつりと呟いた。
「え?」
「お前らが、この街をめちゃくちゃにした犯人か!!」
彼は叫ぶと、メモリを地面に叩きつけた。そして、男の胸ぐらを掴んだ。
「お前らが! この街を!」
「や、やべっ、こいつイかれてる」
「イかれてるだと? それはこっちの…」
「…仕方ない」
突然、男がニヤリと嗤った。上着の内ポケットに手を入れると、また別のメモリを取り出し、彼の目の前に掲げた。
触覚と顎を広げた、獰猛な雀蜂の頭部を象った『H』の文字。
『ホーネット』
「仕方ないから、正当防衛させてもらうね」
そう言うと男は、左手首にメモリを突き刺した。女も同じメモリを取り出し、手首に刺す。
メモリは体に吸い込まれ、二人の体は見る見る内に、蜂と人間を混ぜたような姿へと変貌していった。
「うわ、わっ…」
逃げ出す彼を、二体の蜂人間は飛んで追いかける。そう、文字通り『飛んで』だ。
忽ち彼は、路地の行き止まりに追い詰められた。
「じゃあ、死んでもらおう…」
「嫌だ、やめろ…やめろぉーっ!」
___これが彼の、ビギンズナイト。
↓1 主人公の名前
力野 徹(ちからの とおる)
「…?」
恐る恐る目を開けると、そこには徹に背を向けた、白いスーツ姿の人間が立っていた。その足元には、蜂人間たちがどちらも倒れている。
「あ、あんたは…」
「まだメモリブレイクに至っていません」
徹に背を向けたまま告げる、白スーツの人物。それはくるりと彼の方を向くと、何か二つの物体を投げて寄越した。
月明かりに照らされた顔は、意外にも若い女のそれだった。
「これは…」
「変身してください」
「はぁっ!? へ、変身って」
「ドライバーを腰に当てて」
「えっ? えっと…ドライバー…って、これか…?」
渡された片方の物体。赤と銀の機械を腰に当てると、黒いベルトが伸びて巻き付いた。
「ガイアメモリをドライバーに装填して」
「!」
渡されたもう一つの物体。今しがた見たものに比べると随分スマートな見た目をしているが、確かにそれは目の前で人間を怪物たらしめた、恐るべきメモリであった。
しかし、今は命の危機である。彼はメモリを掲げると、ボタンを押した。
↓1〜3でコンマ最大 徹が変身するメモリの名前
マリン
ファンタジー
ウォーク
『ファンタジー』
「ファンタジー…って、えっ?」
「急いだ方がよろしいかと」
女に急かされて、徹は慌ててドライバーにメモリを差し込んだ。見ると、地面に伸びていた蜂人間たちがもぞもぞと動き出している。
「メモリを右に傾けて」
言われるがまま、メモリを挿入したソケットを右に傾けた。
『ファンタジー!』
メモリの声。ドライバーの前に、万年筆と罫線を合わせたような『F』の文字が浮かび上がり…
『…うわっ、何だこれ!』
彼の姿は、お伽噺に出てくるような騎士の姿に変わっていたのであった。
「…テメェ…まさか、『仮面ライダー』だったなんて」
『仮面ライダー?』
立ち上がって毒づく蜂人間に、徹は思わず聞き返した。
仮面ライダーの噂は、彼も耳にしている。風都の危機に颯爽と現れ、人々を救うヒーロー。だが、所詮は風都限定の存在だと、全くアテにしていなかった。それが、まさか自分が…
「どうでもいい、死ねよぉ!」
『! おりゃあ!』
片方の攻撃を躱し、お返しに蹴りを叩き込む。怯んだ相手に代わって、もう片方の蜂人間が襲ってきた。
「でもあんた、成り立てじゃん。あたしたちとは年季が違うわよ!」
『ふっ、やっ…わっ!?』
棘の生えた腕が顔を掠める。
『そっ、そう言えばそうだよ! 俺、格闘技の心得とか何にもねえんだけど!?』
いつの間にか後ろに下がり、傍観を決め込んでいる白スーツの女に、徹は叫んだ。
「心配いりません」
女が、一歩前に踏み出す。
↓1
①貴方には素質があります(高適合度確定)
②こちらも用意しました(武器供与)
③僭越ながら、私も手伝います(メモリポチー)
1
「貴方には素質があります」
『素質って…っ!?』
彼女の言葉に触発されるように、徹の体が突如、光に包まれた。
光が収まった時、彼の体は、騎士の甲冑の上から更に、純白のマントを纏っていた。それだけでなく
『力が、みなぎる…それに、戦い方が分かってきた気がする…!』
「はっ、ほざくんじゃないよ!」
殴りかかる蜂人間。が
「なっ!?」
その拳を軽く受け止めると、徹は右手を差し上げ、人差し指を突き出した。その手をくるくると動かし、空中に何かを描いていく。
「何を…」
『生憎、こちとら書くのが仕事なんでね!』
宙に描かれたのは、一本の長剣。完成した瞬間、何とそれは実体化し、徹の手に収まった。
更に彼はドライバーからメモリを抜き、腰のスロットに差し込んだ。
『ファンタジー! マキシマムドライブ』
『ファンタジー・イマジナリソード!!』
「っ…ぐあああっ!!?」
白い光を纏った剣に、蜂人間が斬り倒された。
「ひっ、た、助けて…うわああああっ!!」
『逃がすか!』
更に、飛んで逃げようとする片割れも斬り捨てる。
二体の蜂人間は地面に転がると、元の人間の姿に戻った。その体から、先程刺したガイアメモリが抜け落ち…砕け散った。
今日はここまで
最後に、このスレの注意事項をば
・安価は控えめ
・戦闘は自動
・エログロあり
・オリキャスは基本出てこない
・エターナる可能性
『仮面ライダーファンタジー』
『空想』の記憶を内包するガイアメモリで、フリーライターの力野徹が変身した姿。基本形態は西洋の騎士のような姿をしているが、変身者のイメージ次第で魔術師や、はたまた魔物のような姿にもなれる。
想像し描いたものを実体化するという、極めて汎用性の高い能力を持っているが、その出力は変身者の想像力に直結しているため、想像力豊かな人間でないとメモリの力を十分に引き出せない。
『仮面ライダーファンタジー アイデアル』
ファンタジーメモリとの適合率が一定の水準を超えた時になれる姿。外見上は西洋甲冑の上から白いマントを纏った姿となる。
『空想』を超越し『理想』を実現する力を持っており、変身者の想像力と表現力の許す限りの理想を具現化できる。早い話がチート。
ただし理想とは言ってもあくまで自分で使う力のことであり、具現化したものを自分で振るわなければ意味がない。例えば、『当たると死ぬ剣』を具現化することはできるが、それを当てるのは変身者の腕前次第。また、幹部ドーパントやCJXなどのような単純に格上の相手には効果も限定的。
わくわく
「力野徹。28歳。職業はフリーター」
「フリーライターだっ!」
徹の住むぼろアパートの一室にて。ちゃぶ台の前に正座して、女はつらつらと言った。
「貴方の記事は、実際よく書けていました」
そう言うと女は、大判の封筒をちゃぶ台の上に置いた。ついさっき、編集長から突き返された、徹の書いた原稿である。
「最近、北風町で連続している怪奇現象を、風都で以前頻発していた事件と関連付け、同一のテロ集団によるものとした。そして、疑わしい組織として最近興った『母神教』を挙げた」
「…間違ってるかよ」
「大筋は間違いありません。ですが、結論が違う。背後に組織はあるかもしれませんが、これは単独犯による行為であり、使用されたのも爆弾や化学兵器などではなく」
「ガイアメモリ、か」
徹は、先程手渡された『ファンタジー』のメモリを手に取った。
女が頷く。
「貴方も目にしたでしょう。このメモリを使用した人間は、怪物へと変化する。これを『ドーパント』と呼びます」
「ドーパント…じゃあ、さっき俺がなったのも」
「本質的には同じです。ですが、ドライバーを介して使用しているため、メモリの副作用は限りなくゼロに近くなっています。実際、有害事象や凶暴性の発露も見られていない」
「副作用もあるのか…」
「ガイアメモリは、かつてとある組織が製造し、麻薬や覚醒剤のように秘密裏に売買していました。その組織は何年も前に壊滅し、残党も粗方殲滅されましたが、一部がこの町に流れ着いたと思われます」
「じゃあ、そいつらがメモリをばらまいて」
「そうなります」
「大変だ!」
徹は勢い込むと、愛用のノートパソコンを立ち上げた。
「今すぐ記事にしないと…町の人達に、本当のことを知らせないと」
「それは認めません」
女が、パソコンを無理やり閉じた。
「ガイアメモリの存在は、一般人には秘匿されています。…そもそも、貴方の書いた記事を却下するよう、圧力を掛けたのは私達です」
「何だと!?」
徹は立ち上がり、女の纏う白スーツの胸ぐらを掴んだ。
「何でそんなことを…」
「だから、ガイアメモリの存在は秘密事項だからです。何より」
女は、感情の籠もらない目で、じっと徹を見た。目だけではない。声も、口調も、あらゆる行いにおいて、女からは感情らしきものが感じられなかった。
「知らせてどうなりますか。無力な一般人に知らせた所で、いたずらに混乱を招くだけです」
「それでも、人には真実を知る権利が」
「___戯言を」
「!?」
突然、女がぞっとするほど冷たい声で言った。竦み上がる徹。しかし、次に口を開くときには、もう元の平坦な口調に戻っていた。
「貴方の書いた記事は、筋は良いですがあくまで結果論です。根本にあるのは、風都への怨恨、嫉妬、被害者意識に他ならない。現にこの街はガイアメモリに汚染されています。それは、ガイアメモリの誘惑に負けた人間が数多くいるということ。貴方の憎む風都と、何ら変わりは無い」
「…」
「貴方に限った話ではありませんが…人は見たいものだけを信じ、見たくないものに目を瞑る。自分にとって都合のいいことだけを真実と嘯き、人々に流布して省みない。ジャーナリストを名乗る人種は、すべからくそういうものと認識しています」
「ふ、ふざけやがって…」
「現に」
女は徹の手を軽く払いのけると、ちゃぶ台の上のメモリを取り上げた。
『ファンタジー』
「このメモリと貴方との適合率は、低く見積もって91%前後。真実真実と五月蝿い貴方を選んだのは『空想』『妄想』のメモリです」
「…っ」
思わず、徹は拳を振り上げた。…が、歯ぎしりしながらそれを下ろした。代わりに、唸るように問うた。
「…お前は…お前は、何者なんだよ…さっきから、何でもかんでも知ってる風に…」
↓1〜3でコンマ最大 女の名前と外見的特徴
イズミ
黒髪ロングに喪服のようなドレスといった黒ずくめ
巨乳
一ノ瀬 神楽(いちのせ かぐら)
黒髪ロングポニテ 黄金眼 メガネ
ボンキュッボン 黒ワイシャツに白衣
(白スーツは固定です)
安価下
くそぉ!安価下
>>22再投稿
イズミ
黒髪ロングで切れ長の美人系の顔立ち
スーツの上からでもわかる巨乳
革手袋を着用している。
(あと一つ待ちます)
(私服あたりに採用するかもしれない)
リンカ
白スーツに金のネクタイ
スレンダーな体型
パッと見は男性にも見える中性的な麗人
「私? …ああ」
女は、今更思い出したように頷いた。その場で立ち上がり、恭しく頭を下げる。
タイトな白スーツに金色のネクタイを締め、黒い髪を撫で付けたその姿は、整った顔をしているものの、ぱっと見ただけでは男か女か分からない中性的なものであった。辛うじて、声で女と分かる。
頭を上げると、彼女は自己紹介した。
「申し遅れました。私、財団Xから参りました。リンカと申します」
ひとまずここまで
「…」
朝起きてからというもの、アルバイトの間も食事の時も、ずっとリンカの言葉を頭の中で繰り返していた。
曰く、財団Xなる組織はガイアメモリの開発に関わったらしい。しかし、今の事態は彼らにとって不本意なもので、どうにかして解決したい。ところが、彼らがガイアメモリと関わっていると知られてはならない。そこで、代理人として徹に白羽の矢が立った。この北風町を愛し、街の平和を乱す輩に誰よりも怒りを燃やす者として。
「ンなこと言われてもなぁ…」
ぼやきながら過ごしていると、もう日が暮れてしまった。大役を任された所で、腹は減るし光熱費はかさむ。昨日のゴタゴタで、冷蔵庫の中身を補充するのを忘れてしまった。今夜は外食しよう…
『ばそ風北』と書かれた暖簾をくぐると、湯気の向こうから馴染みの店主が挨拶してきた。
「やあ、徹ちゃん。久し振りだね」
「ああ。…いつもの」
「あいよ」
席に座って、カウンター越しに厨房を伺うと、店主が蕎麦を茹でるのが見える。風都は大きななるとの載ったラーメンが有名だが、北風町は蕎麦が有名だ。細く漉いた白ネギと、おろし生姜が決まりのトッピングで、ピリッとした刺激に根強いファンが多い。徹の大好物でもある。
出来上がるのを待っていると、隣に一人の男が座ってきた。
「…蕎麦大盛り、全部載せ」
「あいよ」
随分な大盤振る舞いだ。横目でちらりと覗くと、汚れた作業着を着た、建設現場の作業員風の男であった。
力仕事だから、腹も減るのだろう。そう思って自分の分を待っていると、何やらカタカタと音が聞こえてきた。カウンターが小さく揺れているのが、徹にも伝わってくる。
見ると、例の作業員が、指先でコツコツとカウンターを叩いていた。
「…兄さん、嫌なことでもあったかい」
「…」
男は応えない。代わりに、カウンターを叩くのが指から拳に変わった。他の客や店主までもが、何事かと心配そうに視線を向ける。
やがて、男が立ち上がった。
「…遅えんだよ!」
「悪いねあんちゃん、もう少し待ってて」
「俺はァ…」
店主の言葉を遮り、男は唸ると
「…腹がァ! 減ってんだァ!!」
作業着のポケットから、悪魔の小匣を取り出した。
『アペタイト』
「!?」
驚いたのは徹である。昨日の今日で、いきなりガイアメモリに遭遇するとは。見慣れぬ機械にきょとんとする他の者たちを差し置いて、彼は立ち上がり、男の腕を掴んだ。
「やめろ、そいつを捨てろ!」
「食わせろォォォ…!!」
男は徹の腕を振り払うと、大きく口を開け、メモリの端子を舌に刺した。
「ウオォォぉぉ……」
忽ち男は、巨大な口に手足の生えたような怪物へと変化した。
「きゃああっ!!?」
「ば、化物だあっ!」
客たちは一斉に店の外へと飛び出し、店主もカウンターの裏側に引っ込んだ。
「と、徹ちゃん!」
カウンターから少しだけ顔を出して、店主が呼びかける。
「あんたも逃げないと」
「うがっ、はぐっ、んぐっ」
怪物は、客が逃げた後の席を回っては、放置された食べ残しを貪っている。
徹は、店主に言った。
「おっちゃん、そこに隠れてな」
「な、何を…」
徹は、鞄からドライバーとメモリを取り出した。
「…おい、化物!」
「…?」
振り返る、アペタイトのドーパント。どこにあるのか分からない目で徹の姿を認めると、吠えた。
「おまァえェ! お前から喰ってやるゥ!」
「やれるもんなら…」
ドライバーを装着する。
「…やってみな!」
『ファンタジー』
「変身!」
『ファンタジー!』
「!? お前ェ…仮面ライダー…!」
『呼びたいように呼べよ。俺は…』
宙に長剣を描き、掴む。
『お前を、倒すだけだ! たあっ!』
「ぐっ…」
唇を斬りつけられて、アペタイトドーパントは店の外へと飛び出した。
「邪ァ魔ァ! あぁぁっ!」
『何っ!?』
猛スピードで伸びてきた舌に、剣を絡め取られた。ドーパントは剣を引き寄せると、そのまま飲み込んでしまった。
『意地汚えな、おい!』
今度は槍を描き、構える。しかし、突き出した瞬間にこれも食べられてしまった。
「全部、全部喰っちまうぞォ!」
『キリが無い…だったら』
マントを翻すと、彼の姿は西洋の騎士から、フード付きのローブに身を包んだ、魔術師めいた姿へと変化した。
「姿を変えた所で、何もかも喰っちまえば良いんだよォ!」
『へえ…じゃあ、こいつも喰ってみるか?』
そう言うとファンタジーは、右手を頭上に掲げた。その手の先に、火が灯った。火は見る見る内に大きくなり、バスケットボール程の大きさになった。
『喰らえ、ファイアーボールだ!』
「喰うぞ、喰う…うぐぅゥっ!?」
火の玉を呑み込んだドーパントは、口を押さえて苦しげに呻き出した。その体が、じわじわと炎に包まれていく。
『おかわり自由! どんどん喰え!』
更に、次々と火の玉を投げ込むファンタジー。ドーパントの体は、燃え盛る炎に包まれた。
ファンタジーは、メモリをスロットに差し込んだ。
『ファンタジー! マキシマムドライブ』
『ファンタジー・ミスティークエンド!!』
ドーパントの周りを、4つの魔法陣が囲む。次の瞬間、それぞれの魔法陣から、炎、氷塊、雷、そして岩石が飛び出して、ドーパントを襲った。
「ぐわあぁぁっ!!?」
四大元素による一斉攻撃に、遂にドーパントが倒れた。その姿が元の人間に戻り…口から吐き出したメモリが、ばらばらに砕けた。
『これでよし…と?』
変身を解除しようとして、気付く。
「そ、そこを動くな!」
いつの間にか、彼の周りは数台のパトカーと警官たちによって包囲されていた。
「北風署・超常犯罪捜査課、臨時課長の植木だ! おとなしく投降しなさい、さもなくば…」
『…』
ファンタジーは何も言わず、両手を上に挙げた。そして
「そ、そうだ! そのままじっと」
つま先で、地面に円を描いた。
次の瞬間、彼の体は地面に吸い込まれるように消えていった。
…
「はぁ…」
溜め息を吐きながら、家のドアを開ける。
結局あの騒ぎで、晩飯を食べ損ねた。おまけにドーパントとの戦いで余計に体力を消耗してしまった。このままでは、腹が減って死にそうだ…
「ただいま…」
玄関を開けると、芳しい匂いが漂ってくる。ああ、空腹のあまり食べ物の幻覚まで出てきた。匂いだけでなく、ちゃぶ台の上にはご飯や味噌汁、更には唐揚げや海老フライの幻覚まで見える。ついでにエプロンを着た女の幻覚も…
「おかえりなさい」
「…っっっ!!??」
いや、幻覚じゃない。ちゃぶ台の上には確かに料理が並んでいるし、匂いも本物だ。そして、向こう側に座っているのは
「リンカ!? 昨日、帰ったんじゃ」
「荷物を取りに帰っていました。具体的には、ここで生活するための物資を」
白スーツの上からエプロンを着て、きちんと正座するリンカ。
「ここでって…う、嘘だろ? 何でお前がここに住む必要があるんだよ!?」
「貴方を全面的に支援すると申し上げた通りです。貴方の場合、金銭の供与だと、賭博や無駄な外食に消費されることは調査の結果分かっています。従って、現物給付の形で支援することにいたしました」
「げ、現物給付って、でも」
「ご心配なく」
相変わらず感情の無い声で、リンカは言った。
「貴方の生活の邪魔はいたしません。その上で貴方がドーパントとの戦いに専念できるよう、最大限のサポートをさせていただきます。…早速、夕食にしたいのですが、よろしいでしょうか」
「…」
反論しようとした瞬間、徹の腹が派手に鳴った。彼は黙って、ちゃぶ台の前に腰を下ろし、両掌を合わせた。
「…いただきます」
「はい、召し上がれ」
抑揚のない返事を聞き流すと、彼は熱々のご飯を口に入れたのであった。
『Kの覚醒/遅れてきたヒーロー』完
今夜はここまで
乙
『アペタイトドーパント』
『食欲』の記憶を内包するメモリで変身するドーパント。巨大な口に直接手足が生えているという、何とも頭の悪い外見をしている。巨大な口からは長い舌を伸ばし、何でも絡め取って食べてしまう。無機物でもお構いなしだが、炎や電気などは流石にダメージを受ける。
このメモリは一度使用すると、適合率や変身時いかんに関わらず、常に強い食欲に襲われるようになるという、たちの悪い代物。メモリの色は赤。大きく開けた唇と垂れた涎で『A』と書かれている。
薄暗い聖堂に、黄色いスーツを着た女が跪いている。彼女が向いている聖堂の上の方には、分厚い虹色のヴェールがかかっていて、その向こう側は窺い知れない。
「申し上げます。わたくしたちの育てたドーパントが、何者かに倒されました」
淡々と、女は続ける。
「その前にも、わたくしの配下の売人が2人、倒されています。街では、『仮面ライダー』が現れたとの噂も流れています」
”仮面ライダー…”
ヴェールの向こうから、エコーのかかったような女の声が聞こえてきた。
「はい。最近ようやく結成された、北風署の超常犯罪捜査課も、その存在の確保に乗り出しているようです」
”…”
ヴェールごしに聞こえてくる溜め息に、女は深々と頭を下げた。
「申し訳ありません、『お母様』」
”…気に病むことはありません”
「お母様…」
”あなたの子は母の子。子を守るのは、母の使命です。母が不甲斐ないばかりに、不要な心配をかけましたね”
「そんなこと」
”ですが、もう心配はいりませんよ。___ミヅキ”
「はぁ〜い」
気の抜けた返事と共に、ヴェールの向こうから一人の少女が姿を現した。白いロリータめいた服を着て、脱色したぼさぼさの髪をザンバラに伸ばしている。スーツの女が、密かに眉をひそめた。
”お話は先程の通りです。母の子たちを害するものを見つけ出し、懲らしめておしまいなさい”
「殺すの?」
”なりませんよ。仮面ライダーとて、母の子の一人…”
「お母様! なりません!」
”落ち着きなさい、愛しい娘。…捕らえて、母の前にお連れしなさい。母の愛を以て、生まれ変わらせて差し上げましょう”
「…うぅん」
カーテンの隙間から差し込む光に目を覚ますと、徹はベッドの上で伸びをした。
「…っ、あぁ…」
「おはようございます」
「うわぁっ!?」
ベッドの脇で直立不動のリンカが、徹に挨拶をした。
寝床は気にしなくて良いと言われたので、昨夜は彼女より先に寝た。起きたときにはこの有様なので、彼女がどこで寝ていたのか、徹には知りようがない。
「朝食の準備ができています」
「あ、ああ、どうも…」
目を擦りながら、徹はベッドから降りた。
「起きたは良いけど、今日はバイトも無いしな…」
「知っています」
コーヒーを啜りながらぼやく徹に、リンカはすげなく言う。
「ですから、調査には良い機会かと」
「だよなぁ…」
そもそも、週に3日はフリーにしてあるのは、本業の取材のためだ。今後はこの取材が、ガイアメモリ犯罪の調査に置き換わるということになるのだろう。
「そうは言っても、何から調べるかなぁ」
↓1 どうする?
①没にされた記事を読み返してみよう
②母神教について調べてみよう
③超常犯罪捜査課って何だ?
3で
2
考えて、ふと昨日の警察官の言葉を思い出した。
「そう言えば昨日、警察が『超常犯罪捜査課』って言ってたな…あれは、何だったんだろう?」
「文字通り、超常現象を用いた犯罪に対処する部門、まあ、実質ガイアメモリ犯罪に対処するための警察の組織です」
「はあ? ガイアメモリの存在は秘密じゃないのかよ」
「一般人には、です。警察組織の一部にはガイアメモリの存在も認識されています」
「何じゃそりゃ…あ、でも、知ってるからって対処できるのかよ?」
この間の蜂人間や、大口の怪物を思い出す。あの腰の引けた警官に、あいつらと戦う力があるとは思えない。
「捜査の助けにはなるでしょう。ただ、最盛期と比べてガイアメモリ犯罪は大幅に減っていますので、その規模もかなり縮小されました。風都に設置されていた捜査本部も規模を縮小し、課長は現在育休中とのことです」
「いくきゅう…」
「以前は、その課長が仮面ライダーに変身し、ドーパントと戦っていました。ただし、その事実は他の警官には知らされていなかったようです」
「…」
徹は考えた。恐らく、超常犯罪捜査課なる組織は、戦力にはならないだろう。だが、調査力に関してはアテにしても良いかも知れない。この間の蜂人間がメモリをばら撒いているとしたら、その手の密売人が他にもいてもおかしくない。そいつらが徒党を組んでいるとしたら、徹一人(とリンカ)だけでは手が足りない。
徹は立ち上がった。
「取り敢えず…警察、行ってみるか」
応接間に入ってくるなり、その警察官は露骨に嫌そうな顔をした。
「あんた、どこの記者よ」
「フリーの記者をしています」
「はっ、フリーねえ…」
どかっとソファに腰を下ろすと、彼は投げつけるように名刺を渡した。名刺には、『北風署 超常犯罪捜査課 警部 植木忍助』と書かれている。徹も名刺を渡したが、ちらりと一瞥しただけでポケットに突っ込まれてしまった。
「で、あんたは?」
当然のように徹の隣に座るリンカに、植木は怪訝な目を向けた。
「フリーの記者Bです。お気になさらず」
「はぁ……で? 何が聞きたいの」
「ここ最近、北風町で連続している怪奇現象について、こちらで対応しているとお聞きしまして」
「対応なんて、そんな立派なもんじゃないよ」
植木は溜め息を吐いた。
「今抱えてるビル崩壊事件だって、手がかりの一つも掴めやしない。目撃者は『怪物がいた』って言うけど…」
「ほう、怪物が」
「…いや、おれも信じてなかったけどね。もう噂にもなっちゃってるし、この際だから言っちゃうけど…見たんだよ」
「見た?」
「怪物だよ。でっかい口のお化けが、通りで暴れてたんだ。おまけに、別の化物がやって来て、そいつをやっつけちまった」
「…」
徹は口を閉じた。後から来た方とは、もちろん徹の変身した仮面ライダーのことである。
「後から来た方には逃げられちまったが、口の方は捕まえた。だが、気を失ったきり全然目を覚まさない。証言も得られそうにない」
「ビル崩壊事件については、何か分かったことは?」
「あんたねえ、話聞いてた? 無いんだよ何も!」
植木はいらいらと机を叩いた。
「現場には化物がいました、だから何だよ! どっから来て、何がしたいのか、どうやってやっつけるのか…全然分からない! 署長からは、何遊んでんだって睨まれる始末だ」
「ですが、同様の事件は風都でも起きていたのでしょう? 風都署ではどうしていたんです?」
「風都とウチじゃ、上からの扱いが違うんだよ…」
悲しげに、彼は首を振った。
「知ってるか? 向こうの課長は、サッチョウから来たエリートだぜ? そのくらい上の気合入ってんだよ。それが、現場がお隣に来た途端だんまりだ。人は寄越さねえ、予算は渋る…」
「…」
嘆く植木に、徹は同情的な気持ちになった。何とか力になれないかと思った。
故に、彼は口を開いた。
「…私に、協力させてもらえませんか」
「はあ? フリーの記者に、何ができるってんだよ」
「私は…」
↓1
①超常現象についての情報を持っています
②仮面ライダーの知り合いです
③仮面ライダーです
2
「私は…」
仮面ライダーだ、そう言おうとして、思いとどまる。まだだ。そこまで打ち明けるのは早すぎる。
「…昨日、警部が遭遇した怪人の片方…平たく言えば、仮面ライダーの知り合いです」
「はあぁ!?」
いよいよ植木の目つきが怪しくなった。徹は会話を打ち切られないよう、続けて言った。
「彼は用心深い性格で、私にも多くを語りませんが…それでも、この街を愛する存在であることに変わりありません。何より、昨日警部を驚かせてしまったことを、ひどく気にしていました」
「ちょっ、ちょっと待てよ!」
植木が止めに入る。
「そんな、あの、魔術師ヤロウと知り合いだなんて、そんな話信じられるわけないだろ!」
「そう思われるのも無理はありません。ですので、彼から伝え聞いた情報を…」
彼は慎重に、言葉を選びながら言った。
「吹流2丁目の路地で、二人の怪人と戦ったそうです。そこで怪人…ホーネットドーパントを倒し、メモリを破壊したと」
「!!」
植木の顔色が変わった。彼は数分の間、黙って徹を見ていたが、やがて震える声で言った。
「……ご、極秘情報だ。そいつらは」
「メモリの密売人、でしょう?」
「なんてこった…!」
植木は頭を抱え、天を仰いだ。
「ガイアメモリ、ドーパント…それだけじゃない、密売人の存在まで…もう、あんたに隠してもしょうがない」
彼は、視線を徹に戻した。その顔が、興奮気味に紅潮していた。
「…そうだ。二人はまだ警察病院に入院しているが、奴らから数本のメモリを回収した。だが、その扱い方が分からないんだ。解析しようにも、我々の知る科学からは外れているし、分解の仕方も分からない…」
「協力しましょう」
徹は、力強く言った。
「仮面ライダーは、強いですが孤独です。何より、ガイアメモリを街にばら撒く黒幕の存在がまだ見えていない。あなた方は、まだドーパントへの対処法を持っていませんが、優秀な刑事さんによる綿密な捜査が可能です。双方が協力し合えば、もう怖いものはない」
「し、しかし」
「私は、この街を愛しています。…警部もでしょう? ガイアメモリ犯罪の捜査が遅々として進まないことに、誰より不安と苛立ちを感じておられる」
「!」
「風都の陰で忘れられた、この北風町を愛する者同士…手を取り合う時です」
徹は、笑顔で頷いた。
「流石、ファンタジーメモリに選ばれただけのことはあります」
無感情でも分かるくらいに嫌味っぽく、リンカが言った。
「うるせえ。だが、得られたものはあっただろ」
「そうですね。ドーパントとの戦闘を引き受け、メモリブレイク後の犯罪者を引き渡すことを条件に、捜査情報の提供、資料の貸出を受けられるようになりました。何より」
「ああ」
テーブルの上に並べられた、3本のガイアメモリ。警察が密売人から押収した、売り物のメモリである。
ここは、北風署に近い喫茶店。寂れた店の、更に人気の少ない隅の席に、二人は陣取っていた。
「『アノマロカリス』『コックローチ』…これらは、需要が高かったためどの工場でも製造されていました。が」
3本目の、焦茶色のメモリ。跳躍するネコ科の肉食獣の姿は、アルファベットの『S』に見えなくもない。
「『サーバルキャット』のメモリは、そう出回っていないはずです。製造した工場も、限られているでしょう」
「製造元を叩けるわけだな」
徹は、メモリを封筒に入れて鞄に仕舞った。
「よし、このメモリはさっさと警察に返そう。こっちの手にある時に盗まれでもしたら、折角繋いだコネが台無しだ」
北風町の、とあるオフィスの男子トイレにて。小便器で用を足していたある会社員の男は、突然首筋に何か冷たいものが触れるのを感じた。
「だっ、誰だっ」
「おじさ〜ん…」
振り返って、ぎょっとする。
そこには、白いロリータドレスに身を包んだ、一人の少女が立っていた。
「…どこから入ってきた」
慌てて一物を仕舞い、チャックを締めながら男は問うた。少女は答えずに、聞き返した。
「もう、使わないの?」
「何を…っ!」
目元に隈の浮いた陰気な顔で、ニヤニヤと嗤う少女。男は、彼女の言葉の意味を察し、思わず叫んだ。
「も…もうたくさんだ! 私は、あの会社に復讐できれば良かったのに…それが、あんな取り返しのつかないことに…」
「え〜、勿体無い」
少女はずいと身を寄せると、慣れた手付きで彼のスーツの胸元をはだけた。
露わになった左の胸板には、四角い電子回路めいた文様が、くっきりと刻まれていた。
「ほら…コネクターも泣いてるよ。メモリが欲しい、欲しいよ〜って」
「ふざけるな!」
男は、少女を突き飛ばした。___突き飛ばそうとした。
「あははっ!」
少女はその場で跳躍すると、宙返りしてトイレの天井を蹴り、男に肩車するように着地した。そのまま両脚で彼の首を締め上げると、ドレスの胸元から一本のメモリを取り出した。
「これ…返すね。二度と、ゴミ箱に捨てたりしちゃダメだよ〜」
『アースクエイク』
「や、やめろ、怪物なんて、いやだ! …やめろぉぉぉっっ!!」
家に帰ろうとした時、徹の携帯が鳴った。
「もしもし?」
”力野さん、大変だ!”
「植木警部? どうかしましたか」
”北風駅前の、ビルが…”
「!!」
最後まで聞く前に、2人は見た。遥か向こうで、一棟のビルが、煙を上げて崩れ落ちていくのを。
「すぐ行き…行くよう、仮面ライダーに伝えます!」
”ああ。我々は町民の避難を指揮する”
電話を切ると、徹はドライバーとメモリを取り出した。
「しかし、遠いぞ…」
「問題ありません。貴方が想像すれば、移動手段も思いのままです」
「あ、そう言えばそうか。___変身!」ファンタジー!
『よし、だったら…』
ファンタジーは、路上に放置されていた自転車に跨ると、人差し指でハンドルをなぞった。
自転車が光に包まれ……やがて、白と銀の大型バイクへと変貌した。
『仮面ライダーなら、やっぱりバイクが無いとな! リンカ、先に家に帰っててくれ』
「はい」
『行ってくる!』
ファンタジーはアクセルを吹かし、バイクを走らせた。
「きゃあぁぁっ!」
「た、助けてくれえっ!」
「はい車は入って来ないで! 皆さん、こちらに避難してください!」
数台のパトカーが道路を封鎖し、ビルから避難してきた人々の逃げ道を確保している。パトカーの窓から身を乗り出し、崩れ行くビルを睨んでいた植木の前を、銀色の影が駆け抜けた。
「! 来たか、仮面ライダー…!」
影は猛スピードで道路を走り、逃げる人とは反対に、ビルの中へと突っ込んでいく。
「誰か入って行くぞ!」
「止めないと」
「待て!」
車を降りようとする他の警官を制し、植木は言った。
「心配ない。彼は、味方だ」
「あああっ! ああああっ!!」
瓦礫を蹴散らしビルの中を進むと、目当てのドーパントの姿が見えた。灰色の岩石のような姿をしたそのドーパントは、何やら喚きながら壁を殴り、破壊している。
「いやだあああっ! うわあああっっ!!」
『おい、ドーパント!』
ファンタジーの声に、ドーパントの動きがぴたりと止まった。虚ろな目が、乱入者の姿を捉える。
「か、仮面ライダー…」
『ビル崩壊事件の犯人は、お前か』
「お、おお……」
何かを堪えるように、身を捩りながら、ドーパントは唸った。
「おれはぁ…妹を、過労死させた…あの会社が、憎くて……」
『…そうか。もう良いぞ』
宙に鉄のハンマーを描き、両手で掴む。
『今、楽にしてやる。はあっ!』
「おおああああっっっ!!!」
突然、ドーパントが足元を強く蹴った。次の瞬間、ビルの床が大きく揺れ始めた。しかも、ただ揺れるだけでなく、足元がどろどろに融け出したのだ。
『なっ、何だこれ…』
「ああっ! 体があああっ!!」
『!』
咄嗟に倒れた棚の上に飛び乗った。そのままハンマーを振り上げ、ドーパントに飛びかかった。
『たあっ!』
「ぐうっ…」
硬いハンマーが頭を直撃し、ドーパントはその場にうずくまった。ファンタジーはすかさずメモリをスロットに差し込むと、ハンマーを振り上げた。
『ファンタジー! マキシマムドライブ』
『ファンタジー・ブレーンクラッ…』
言いかけた彼の頭を、何かが横から打ち据えた。
『ぐわあっ!?』
ぬかるんだ足元に沈みかけて、ファンタジーは慌てて机の上に飛び乗った。
視線を移すと、ドーパントの肩の上に、何かが乗っている。
「…あははっ」
『お前は…』
それは、ウサギと人間を混ぜたような姿をした怪物、ドーパントであった。
「見つけたよ、仮面ライダー」
『お前、こいつの仲間か』
ところが、乗られているドーパントの方は、寧ろ拒むように肩を揺すっていた。
「いやだ、いやだ、いやだああっ!」
「お母様には、捕まえて連れてこいって言われたけど〜…」
ウサギのドーパントは、値踏みするようにファンタジーを見た。
「もうちょっと遊びたいって言うか〜? ここで終わらせちゃ、勿体無いっていうか〜」
『ふざけるのもいい加減に…』
ハンマーを振り上げるファンタジー。ところが、ウサギのドーパントは軽く跳躍すると、ハンマーを蹴り飛ばしてしまった。
「…ね? もうちょっと強くなって、出直しておいでよ」
相方の肩に戻ると、ウサギは嗤った。それから融けつつある地面に着地すると、大きな相方の体を軽々と担ぎ上げてしまった。
「じゃ、よろしく。バイバイ、仮面ライダーさん」
次の瞬間、ウサギは跳躍し、窓を突き破って外へと逃げてしまった。
後に残されたファンタジーは、追いかけようとして、奥から聞こえてくる悲鳴に気付いた。
結局、事件の犯人は逃してしまった。不幸中の幸いは、彼の尽力で犠牲者を増やさずに済んだこと、その御蔭で、ドーパントは逃したものの植木警部はじめ、超常犯罪捜査課のスタッフの信頼を、ある程度は得ることができたことだった。
『Eの後悔/二輪車と口車』完
今夜はここまで
「井野定、33歳。北風建設の事務員。10歳年下の妹、遊香は2年前にノース・テクニクスに就職したが、過重労働に耐えかね半年前に自殺した」
「ああ、ニュースで見たことあります。結局、会社が裁判で負けたんでしたっけ」
徹は写真を見ながら、以前取材した時のことを思い出していた。あの頃は、彼に限らず多くの記者が、問題となったノース・テクニクスや、その他の関連企業を取材していた。
「彼は多額の賠償金を得たはずだが、その金の行方は分かっていない。もしかしたら、ガイアメモリの購入資金に充てたのかも知れないな」
「妹を死に追いやった、ノース・テクニクスに復讐するために…」
植木は溜め息を吐いた。
「こいつが犯人なら、復讐はとうに済んだはずだ。ノース・テクニクスは、オフィスビルごと崩壊したし、社長はおろか平社員に至るまで、一人残らず死んだ。それなのにどうして、今更…」
徹は黙って考え込んだ。あのドーパントは、暴れながら嫌だ、嫌だと喚いていた。力を使うのは、不本意な様子であった。何より、ビル崩壊事件から同様の出来事は、今に至るまで起こっていなかった。復讐を終わらせた井野が、元の生活に戻ったのだと考えれば、まあ納得はできる。
「重要参考人であることには違いない。その、仮面ライダーから聞いた話によれば、な。今、部下を動かして確保に…」
その時、タイミング良く植木の携帯が鳴った。
「私だ。…なに、井野がいない?」
植木の顔が険しくなった。
「仕事にも来ていないのか。アパートには…」
ここで一旦耳を離し、徹に言う。
「悪い、今日のところはここまでにしてくれないか。また今度、連絡するから」
徹は頷くと、北風署を後にした。
聖堂には、獣のような喘ぎ声が木霊していた。
「はあっ、あぁっ、あんっ」
「いやだ、いやだ、ああっ!」
長椅子に仰向け転がされた男に、その上に跨って腰を振る少女。少し離れてその様子を眺めながら、黄色いスーツの女は顔をしかめた。
「どうしてその男を連れてきたの、ミヅキ」
「だって〜」
腰を振りながら、ミヅキと呼ばれた少女は答える。
「こいつ、メモリ耐性なさ過ぎなんだもん。お母様に会わせないと、ちょっと面倒くさいかな〜って」
「…それは同意するわ。でも、貴女のその行いは何?」
少女が、ニヤリと嗤う。
「久し振りの男だもん。愉しまないと。…誰かさんのおかげで、フラストレーションも溜まってることだし〜?」
「貴様…」
女は唸ると、スーツの内ポケットから黄色と黒のメモリを取り出した。
「あはっ、やる気? 良いよ〜」
少女も、ピンク色のメモリを手に取る。
”お止めなさい!”
「!」
ヴェールの向こうから響いた声に、2人は慌ててメモリを仕舞った。女はその場に跪き、少女も男の上から降りた。
”母の子がいがみ合うことは許しませんよ”
「申し訳ありません」
真っ先に謝罪する、黄色スーツの女。ヴェールの向こうで、薄い人影が小さく動いた。
”…その子は、ミヅキが?”
「そうそう。メモリを刺した瞬間に暴走しちゃうから、ほっとけないかな〜って」
”そのようですね。母の子の危機を、よくぞ救ってくれました”
「あはっ」
「か、帰してくれ…もう、嫌だ…」
呻く男の首を掴むと、少女は長椅子に座らせた。ヴェールの向こうで、人影が言う。
”愛しい子。もう、心配はありません。子の苦しみは母の苦しみ。今、楽にしてあげましょう…”
するすると、ヴェールが開く。スーツの女は目を閉じ深々と頭を下げ、少女はにかっと口角を吊り上げた。
男は、目を見開いた。
「あ、ああ…ああああっっ…!」
「『アースクエイク』のメモリで間違いないでしょう」
お茶を一口飲むと、リンカはそう断じた。
「『地震』か…だが、地面がどろどろに融けたのは? それも地震のせいか?」
「応用すれば、場所によっては可能です。特に現場付近は、地下水が流れていると聞きます」
「! 液状化現象か」
少し前に取材したことを思い出す。風都から出たゴミが、北風町付近の豊かな地下水を汚染しているという内容で記事を書いたことがある。結局これも、没にされてしまったが。
「だが…またあのウサギのドーパントが来たら、どうしよう」
どこか女性的なシルエットの、ウサギ人間。見た目に反して大柄なドーパントを軽々持ち上げる怪力で、その上高い跳躍力に強烈な蹴りを見舞ってきた。
「聞く限り、組織の幹部クラスのようですね。それはおいおい考えましょう。いざとなったら、私も足止めくらいはできます」
「大丈夫なのか…?」
「いずれにせよ」
空になった夕食の皿を重ねながら、リンカは言う。
「勝てる方から倒していくべきでしょう。特にアースクエイクドーパントは、何らかの組織と接触した可能性が高い以上、確保すれば今後の調査に役立ちます」
「そうだな」
徹は立ち上がった。今から出陣…というわけではなく、単に風呂を洗いに行くのだ。
リンカが風呂やトイレをどうしているのか、徹は全く把握していないが、取り敢えず手の届くところは綺麗にしておこうと、彼なりに気を遣っているのであった。
朝。誰もいない墓地に、一人の会社員が座り込んでいた。
「遊香…待ってろよ」
呟くと、彼はやおら墓石の下の戸を開け、中から白い骨壷を取り上げた。それを抱え、いそいそと立ち去ろうとする背中に、後ろから声がした。
「遺骨を持って、どこへ行く気ですか」
「! 誰だ」
振り返ると、そこには白いスーツに金色のネクタイをした、痩せた女が立っていた。先に声を聞いたから女と分かっていたのであって、黒い髪を撫で付けた整った顔立ちは、男にも女にも見えた。
「名もなきフリー記者Bです。…単刀直入に言います。井野定、メモリを捨てなさい」
「お前…」
男…井野は、骨壷を強く抱き女を睨んだ。
「おれが…おれが戦えば…遊香が、帰ってくる…」
「帰ってくる? 貴方が何をしようと、死んだ者は帰ってきません」
「帰ってくるんだ! 『お母様』の力で…」
井野は骨壷をそっと足元に置くと、スーツのポケットから灰色のガイアメモリを取り出した。中央には、3本の地震計めいた波形が並んで『E』の文字を描いていた。
「お願いだ…もう、帰ってくれ。おれに、この力を使わせないでくれ…!」
「お断りします」
女は、何処からともなく黒の大型拳銃を抜き、銃口を向けた。
「! このぉ…!!」
『アースクエイク』
「うおおおおっ!!!!」
足を上げ、地面を踏みならそうとする灰色のドーパント。そこへ、女が引き金を引いた。
「!?」
銃弾の代わりに太いワイヤーが発射され、ドーパントの体に刺さった。女が腕を振り上げると、その体が宙へと投げ出された。
「っ、このっ…」
引きちぎろうとワイヤーを掴む。
そこへ、銀色の影が飛来し、激しく衝突した。
「うぐあぁっ!?」
墓地の隣の空き地に落下したドーパント。少し遅れて、白と銀のバイクに跨った仮面ライダーが着地した。
『復讐は果たした。職場も失った。そんなお前が来るところは限られてる。…やっぱり、妹か』
「邪魔をっ! するなぁっ!」
地面を踏みつけようとするドーパント。ファンタジーは素早く宙に鞭を描くと、その足を絡め取った。
『地震は起こさせないぞ!』
そのまま空中へ跳ね上げると、ファンタジーは両腕を広げた。すると背中のマントが二つに分かれ、白い翼となった。
『空なら、地震は起こせないだろう。観念しろ!』
下から蹴りを連発し、地面に落とさないように攻撃を加える。
「ぐっ、うぐっ、がっ」
『このままメモリブレイクだ…』
ドライバーに手をやった次の瞬間
『…うわあっ!?』
その背中を、強烈な蹴りが直撃した。
地面に墜落するファンタジー。その胸の上に、新たな襲撃者が着地した。
『お前、あの時の』
「あははっ、来るに決まってんじゃ〜ん」
ウサギ人間はけらけら嗤うと、ぐいと相手の胸を踏みつけた。
『ぐっ…』
そこへ、アースクエイクドーパントも降りてきた。ウサギは彼を手招きすると、弾む声で言った。
「君の力で踏んづけたら、どうなっちゃうかな〜?」
「そ、そんなことをしたら死んでしまう」
「だ〜い丈夫。どうせお母様が、また産み直してくれるから…」
会話する2体のドーパント。ファンタジーはウサギの足を掴むが、びくともしない。
「ほら、やってみなって…ゔぇっ」
そこへ、小型のミサイルが飛来して、頭を直撃した。
「無駄話も大概に」
ミサイルの飛んできた方向には、銃を構えたリンカが立っていた。引き金を引くと、次々にミサイルが飛んでくる。
「…ふんっ、可愛いオモチャ!」
ウサギはジャンプすると、ミサイルを片っ端から蹴り落としていく。
何も言わず、引き金を引き続けるリンカ。その額に、薄っすらと汗が浮かんだのをファンタジーは見た。
『…! 今なら』
上から敵がいなくなったファンタジーは、立ち上がると、再び鞭を手にした。
「! させん!」
地面を蹴る、アースクエイク。ファンタジーは飛び上がって振動を回避すると、鞭を振るった。
「うわっ…」
鞭が腕に絡みつくと、ファンタジーは振り上げ、そして振り下ろした。
「わあーっ!?」
「? …ひゃっ」
巨体がぶつかりそうになって、ウサギは慌ててその体を蹴り返した。ファンタジーは構わず、ハンマー投げのように、ドーパントのくっついた鞭を振り回す。
『うおりゃっ、当たれっ! たああっ!』
「…ば〜か」
『!?』
ウサギは両手を前に突き出すと…何と、飛んできたドーパントの体をピタリと掴み取ってしまった。
そのまま、ぐいと引っ張る。
『うわっ!?』
今度はファンタジーの体が引っ張られ、宙に舞った。そこへウサギがジャンプし、強烈な飛び蹴りを見舞った。
『ぐわぁぁぁっ!!』
「ああっ!」
珍しくリンカが叫んだ。ウサギ人間はつかつかと歩み寄ると、更に飛び蹴りを浴びせんと膝を曲げた。
「これで……っ!?」
ところが、その動きは途中で止まった。と思うや、突然、胸を押さえて苦しみだした。
「ぐっ…な、にを…」
くるりと後ろを振り返る。その背中には、鋭く巨大な棘が、深々と突き刺さっていた。
ウサギの顔が、怒りに歪む。
「あんの、ウジ虫ババア……!」
痛みに耐えながら地面を蹴ると、ウサギ人間はどこかへと飛び去ってしまった。
『…はっ、今のうちに』
ファンタジーは鞭を手放すと、メモリをスロットに挿した。
『ファンタジー! マキシマムドライブ』
マントが翼となり、ファンタジーの体が宙へと舞い上がる。
『ファンタジー・エクスプロージョン!!』
そのまま空中で一回転し…地面に倒れているアースクエイクドーパントめがけて、ミサイルキックを放った。
「ぐわあぁぁぁっっ!!」
爆炎。ドーパントの体が崩れて、元の人間の姿に戻り、その左胸からメモリが吐き出され、そして砕けた。
「…」
骨壷を墓に戻すと、徹は黙って立ち上がった。後ろに控えていた植木が、静かに言う。
「井野の意識はまだ戻っていない。何故、今更妹の遺骨を持ち出そうとしたのか…そして今まで、どこに姿を隠していたのか…できるだけ早く、聞き出したいと思う」
「お願いします」
徹は頭を下げた。その耳元で、リンカは囁いた。
「あのドーパント…前に戦った時と、様子が違いました」
「ああ。前より、かなり落ち着いてる様子だった。それに、『お母様』って…」
「まあ、後のことは我々に任せてくれ。またよろしくと、仮面ライダーに伝えといてくれ」
「はい。では」
パトカーに乗り込み、去っていく植木。リンカは、ぽつりと呟いた。
「ガイアメモリには、多かれ少なかれ毒性があります。耐性が低かったり、長く使い続けていると、いずれ体調や人格に変容を来します」
「らしいな」
「…ですので、ドーパントが徒党を組むことは、実は難しいことなのです。実現しようとするなら、少なくとも統率する者は、ドライバーなどで毒性を弱める必要があります」
「じゃあ、今の組織にも、そのドライバーとやらがあるんだろ」
「…」
リンカは黙ったまま、じっと空を見つめている。その口が、小さく動いた。
「何だって?」
「…予測できない。敵の目的が、見えない。いえ、定まった目的など、最初から無いのかも」
「だったら?」
彼女の目が、徹を真っ直ぐに捉えた。
「無軌道な力は…いずれ自壊します。しかし規模が大きすぎれば、周りへの影響も大きくなる。私達としても、できるだけ早く解決したい」
「…ああ、そうだな」
徹は、ふっと笑った。
「ま、何だ。あんたに言っても説得力無いかもだけどよ」
ぽんと、リンカの肩を叩く。
「…俺に、任せろ」
「…ええ。そうですね」
リンカが、頷いた。その、石膏像のような口元に、微かに笑みが浮かんだように、徹は錯覚した。
『Eの後悔/墓場の凪』完
本編はここまで。次の進行について、一つだけ安価を
↓1〜3でコンマ最大 何から始める?
①『母神教』について調べる
②密売人狩り
③その他、要記述
1
1
おつおつ
この中だととりあえず1かな
次回、なぞのそしきに切り込む
『アースクエイクドーパント』
『地震』の記憶を内包するメモリで、会社員の井野定が変身したドーパント。ひび割れた岩石めいた灰色の巨体で、足で地面を踏みつけることで強い振動を起こす。井野はほとんど使いこなせず、偶然液状化現象を引き起こした程度であったが、応用すれば地震だけでなく、振動を纏った強力な打撃攻撃も可能。また、空中に飛ばせば触れるものが無くなるため大方完封できるが、水中に投げ込むと津波を起こすため最悪手。
メモリは灰色。地震計の波形が3つ並んで、『E』の横棒を形成している。
『Xマグナム(仮称)』
財団Xのエージェント、リンカが所持する黒い射撃武器。財団B的にはトリガーマグナムのコンパチ品。
単体でもドーパントに対抗できる強力な弾を発射できるが、リンカは一緒に所持している『ワイヤー』『ミサイル』『フラッシュ』のギジメモリを駆使してドーパントを撹乱する。
「私ども母神教は、母なる神の愛によって、この世に平和をもたらすことを目標に活動しております」
黒スーツに赤いネクタイを締めた壮年の男は、にこやかに説明した。
ここは、母神教の北風町本部。この日、徹とリンカは、入信を検討していると言ってこの場所に来たのであった。ちなみに、リンカはいつもの白スーツではなく、黒いタイトスカートにブラウスを身につけている。それでも、金のネクタイは健在であった。
「ここでは、兄弟たちが日々の行いを互いに称え合っています」
通された広間では、10人ほどの男女が円形に並んだ椅子に座って、話し合いの最中であった。
「私は今日、捨てられた犬を保護しました」
「ぼ、ぼくは倒れた自転車を立て直しました!」
「あたしは…」
目を細める徹に、相変わらず無表情のリンカ。男は誇らしげに頷いた。
「母の子として、素晴らしい行いです」
「! 長兄様、おはようございます!」
男女が一斉に立ち上がり、男に挨拶した。
「今日は、新しく母の愛に触れんとする兄弟が、こうして来てくれました」
「ようこそ、母神教へ!」
「あ、ああ、どうも…」
曖昧に会釈しながら、徹は男の方を見た。
「…えっと。静かな所で、詳しいお話を聞かせていただけないかな、と思いまして」
「ええ、もちろんです。こちらへどうぞ」
男は、笑顔で2人を先導した。
小さな応接室にて、向かい合って椅子に座ると、徹は早速質問した。
「純粋に気になっていたのですが…あなた方の信仰する『お母様』とは、一体どのような存在なのですか?」
徹はわざと、今まで男の出さなかった『お母様』という単語を用いた。
井野定やウサギ人間の言っていた存在。字面からして、この母神教と何らかの関わりはありそうだ。だが、まだそうと決まったわけではない。この組織には当然、超常犯罪捜査課の手も入っているが、今に至るまではっきりした証拠を挙げられていないのだ。
「母とは、神です」
男は一切突っ込むこと無く、当然のように答えた。
「母は全てを知り、全てを愛し、全てを護ってくださいます。世界が母の愛に包まれれば、この世から争いは消え、全てが等しく母の子として、互いに尊重しあい、愛し合う、そんな素晴らしい世界になるのです」
「はあ…」
男の勢いに圧倒されて、徹は引き気味に相槌を打った。一方のリンカは、いつもの無表情で男の顔をじっと見つめている。しかし、両手は机の下で、何やらもぞもぞと動かしていた。
「…そうだ。その、母とは…聖母マリア? それとも、摩耶夫人?」
「いいえ。母は、ただ万物の母として、この世に君臨しておられます。…お会いになりますか?」
「!? 会えるのですか」
「もちろん」
「それなら…」
会ってみたい。そう言おうとした徹の腕を、不意にリンカが掴んだ。
「いえ、結構です」
そのまま立ち上がると、足早に部屋の出口へ向かった。
「ちょっ、リンカ…」
「有意義な時間でした。ですがこれ以上は結構」
「そうですか」
男は、存外にあっさりと引き下がった。
「いつでも、またいらしてくださいね。私どもは」
「…」
ところが、リンカは部屋から出ず、代わりに内側から扉の鍵を閉めた。そして、言った。
「財団のリストと照合しました。…元ミュージアム密売人、九頭英生。ここでガイアメモリの密売に関わっていましたか」
「!?」
ぎょっとする徹。しかし、驚いたのは男も同じであった。
「なっ…何者ですか、あなたは!?」
「名もなきフリー記者Bです。そして母神教は殲滅します」
何処からともなく拳銃を抜き、男に突きつける。
「きさまぁ…そうはさせません!」
男は、黒いガイアメモリを取り出した。そう、ガイアメモリである。
『マスカレイド』
メモリを首筋に刺すと、男の顔が黒と銀の仮面に覆われた。
「! 危ないっ!」
殴りかかってきた男に体当りすると、徹はドライバーを腰に装着した。
「こいつもドーパントだったか…変身!」ファンタジー!
『取り敢えず、倒す!』
「仮面ライダー…お前が…!」
ファンタジーは剣を構えると、マスカレイドドーパントとの戦闘を開始した。
「くはっ…」
『このままメモリブレイクだ…』
「待ってください」
力尽きたマスカレイドドーパントに必殺技を放とうとしたファンタジーを、リンカが止めた。
『何だ?』
「マスカレイドメモリには自爆装置が付いています。メモリブレイクすれば、変身者まで死亡します」
『何だって!? じゃあ』
「このまま捕らえましょう」
リンカは銀色のギジメモリを取り出すと、銃に装填した。
『ワイヤー』
引き金を引くと、銃口から太いワイヤーが飛び出し、ドーパントの体をぐるぐる巻きにした。
『よし、捕まえて警察に』
「…ふっ。この私が、死を恐れるとも?」
『何っ』
「!」
『フラッシュ』
リンカが、クリアカラーのメモリを銃に装填する前に、マスカレイドドーパントの体が爆ぜた。
聖堂の床に、2人の女が倒れている。黄色スーツの女は全身痣だらけで、片腕が妙な方向に折れ曲がっている。白いロリータ衣装の少女は、背中に鋭い棘が突き刺さり、体のあちこちに刻まれた噛み跡から血が滲んでいた。
”…母は悲しいです”
「っ…申し、訳」
”もう良いです。あなたたちは、一度折檻しなければなりません”
「! …」
「許して、お母様…だって、こいつが」
”お黙りなさい!”
ヴェールが開き、人影が姿を現す。人影が手を上げると、2人の頭上にも巨大な手が出現した。
「…」
「嫌、許して、許して…」
諦めたように目を閉じる女。泣きながら懇願する少女。
人影が、手を振り下ろした。すると巨大な手が2人の上に落ち…
「ぐっ」
「いぎゃあぁああっぁぁぁっ!!!!」
2人の体を、ぐしゃぐしゃに押し潰した。
「母神教の本部に、ドーパントがいた?」
北風署にて。徹の言葉に、植木が身を乗り出した。
「はい。仮面ライダーが来てくれなければ、危ないところでした」
尤もらしく言う徹。リンカが引き継いで説明した。
「幹部がドーパントに変身しました。追い詰めましたが、自害されました」
「だが、母神教は前も捜査して、何も見つからなかったからな…」
「深入りする必要は無いと思います。ドーパントが他にもいるなら、警察の皆さんにも危険が及びますから」
「まぁ…できるだけ頑張ってみるよ。で? 君たちはこれから、どうするの」
「私たちは…」
↓1〜3でコンマ最大 これからどうする
①密売人について調べる
②ウサギのドーパントについて調べる
③ガイアメモリ製造工場について調べる
④その他、要記述
2
2
その日の夕方。2人は『ばそ風北』で蕎麦を啜っていた。
「しかし、いきなりウサギの方ですか。立ち向かう算段はおありで?」
「あんまり。だが、今の所残ってるドーパントって言ったら、あいつしかいないだろ。…」
徹は、かけ蕎麦を啜るリンカの横顔をちらりと見た。
「…何か」
「いや…あんたも、普通に飯食うんだなって」
「私”は”人間ですから」
涼しい顔で、汁を一口。
そこへ、カウンターの向こうから店主が口を挟んできた。
「にしても徹ちゃん、無事で良かったよ」
「?」
「ほら、こないだの怪物…あんた、いつの間にかいなくなっちゃうからさ」
「! あ、ああ。俺も隠れてたんだけど…ほら、おっちゃんも見てただろ。仮面ライダー」
「そうそう! いや〜危ないところだった。彼が来てくれなきゃ、もっと酷いことになってた」
会話しながら、徹はほっと胸を撫で下ろした。あの時は気にしていなかったが、今のところ自分が仮面ライダーであることは隠すことにしている。店主に知られたら、そこからまた多くの人々へ広がることは、想像に難くない。
「…で、ウサギのドーパントだけど」
レンゲでネギの切れ端を掬いながら、徹は話を元に戻した。
「母神教の一員であることは間違いないだろう。『お母様』とか言ってたし。それから、中身は女」
「本当に? メモリの力で、声や外見を女性的に見せているだけでは?」
「うっ…それを考えだしたら、もうきりがないだろ」
「そうですね、私もそう思います」
平然と言い、お茶を一口。徹は、ぽかんと彼女を見た。
「…あんた、冗談も言うんだな」
「時々は。…で、どうやって探しますか。母神教の線なら、警察も調べていると思われますが」
「そうだな。俺たちは、別の線から探すとしよう」
徹はそう言うと、ふっと遠くを見る目になった。
「変な奴かい? …そう言えば」
「心当たりが?」
北風駅前の公園にて。徹とリンカは、一人のホームレスから話を聞いていた。
「誰も信じちゃくれないんだけどね。その、ビルが崩れた日。例のビルの壁を、誰か白い服の娘が駆け上ってくのを見たんだよ」
「!」
2人は顔を見合わせた。
駅前にはまだ立入禁止のテープが張られ、パトカーや工事車両が出入りしている。そんな中で、2人は改めて聞き込みに来た。井野定が再びドーパントとして暴れだしたのは、他でもない自身の務める会社のあるビルであった。つまり、仕事中の井野に接触して、メモリを使わせた者がいた筈なのだ。そしてそれは、あの時現場に現れた、ウサギのドーパントである可能性が高いと、2人は見ていた。
「それは、具体的にはどんな人でした」
「そうだなあ…遠かったし、速くてよく見えなかったけど…」
ホームレスの男は、髭の生えた顎を撫でながら言った。
「…でも、フリフリの派手な服だったよね。だから女の子って判ったわけだし。それに、若い娘だったかな。そんな感じ」
「なるほど…ありがとうございました」
男に一万円札を握らせると、2人は公園を立ち去った。
墓地の付近でも、似たような目撃証言を得られた。興味深いのは、以前からその女の存在は噂になっていたことで、しかもその内容というのが『白いゴスロリ衣装の少女が、夜な夜な公園の身障者用トイレで売春を行っている』というものであった。
「…」
「人がいる場所なら、この手の噂は、多かれ少なかれ存在するものです」
黙り込む徹に、リンカが急にそんなことを言うので、彼は驚いたように顔を上げた。
「…何だよ、慰めてるつもりか」
「揺らぐな、と言いたいのです」
リンカは、いつも通りの無表情で言う。
「貴方はこの街を愛している。街のために戦っている。…それで良いのです」
「…」
徹は、溜め息を吐いた。
「…ああ、そうだな。悪かった」
「ふうぅ…っ、あぁっ…」
ヴェールの向こうで、一つの人影が横たわっている。その腹は大きく膨れ上がって、胸の辺りには別の人影が2つ、かじりついてもぞもぞと蠢いていた。
「あ、あっ…あああっっ!!」
悲鳴に近い叫び声と共に、人影の腰が大きく浮き上がった。それから少し遅れて、その脚の間から、更にもう一つの人影が、ずるりと転がり出てきた。
人影は床に落ちると、よろよろと立ち上がった。
「お、おお…『お母様』…」
「はぁっ…英生…」
『お母様』は、胸にくっついた人影を払いのけると、両腕を差し伸べた。
「よくぞまた、生まれてきてくれましたね…」
「貴女様が、再び産んでくださればこそ…私は、何度でも命を捧げます…」
「さあ、おいでなさい…お乳を飲みなさい…」
人影は『お母様』に縋り付くと、その胸に顔を埋め、貪るように乳を吸い始めた。
「お母様、あたしも…」
「お母様、お母様…」
除けられた2人がねだる。その声は、黄色スーツの女と、白いゴスロリの少女のそれであった。
『怪しいR/母とは神なり』完
今日はここまで
こんなドーパントとかガイアメモリどうでしょうとか、書いてくれたら採用するかもしれない
こんな感じ?
リインカーネーション(転生)ドーパント
人間一人に印をつける。ドーパント体が倒された時に印をつけた人間にメモリとメモリ使用者の意識が移動して乗っ取る
ガイアメモリ案 ファイナルメモリ
単独では使えないメモリで他のガイアメモリと合わせて使うことで性能を限界以上に引き出す力がある
限界以上の性能を引き出しているので並のガイアメモリや人間だと耐えきれずに肉体が崩壊する可能性が高い
ある日の夜。北風町運動公園の身障者用トイレと前に、徹はじっと立っていた。彼の他にも、3人の男がいて、そわそわと周囲を見回している。
そこへ、弾むような足音が聞こえてきた。
「!」
徹は足音の方へ顔を向けた。他の男たちも、期待に満ちた目を向ける。
「…あははっ」
電灯に照らされて姿を表したのは、白いロリータ服の少女。彼女はその場に集った4人の男たちをくるりと見回すと、明るい声で言った。
「じゃあ、誰から?」
「…」
顔を見合わせる男たち。徹は、一歩後ろへ下がった。
やがて、一人が手を挙げる。
「お、俺が」
「はぁ〜い」
少女はその手を取ると、スキップしながら身障者用トイレへと入っていった。数分後、シャッターの中から嬌声が漏れてきた。それを、徹は歯噛みしながら聞いていた。
夜が更けてきた頃、3人目の男がトイレから出てきた。後から出てきた少女は、徹の前に来て言った。
「お待たせ。始めよっか」
ところが、徹は動かず、少女に質問した。
「君…いつも、こんなことしてるの」
「う〜ん?」
少女が首を傾げる。徹は名刺を差し出すと、自己紹介した。
「俺、フリーライターをしてるんだ。未成年の夜遊びについて取材しててね。君、いくつ?」
「…」
少女は名刺をひったくると、見もせず放り捨てた。それから、ニヤニヤと徹を見た。
「さあね? 誕生日、忘れちゃった。早くエッチしよ」
「どうしてこんなことを。親は何してる? 学校は行かなくていいのかい?」
「うるさいな〜…」
相変わらずニヤニヤ笑いを浮かべながら、少女は徹の手を掴んで引っ張った。
「おじさんみたいな良い人気取り、もう飽きたんだよね〜。どうせ、あたしのこと助けたいとか言うんでしょ? だったら黙ってチンコ出してよ。それが一番の助けになるからさ」
「…」
徹は、遂に身障者用トイレに向かって、足を進めた。
蓋を閉じた便器に徹を座らせると、少女は彼のズボンと下着を下ろし、一物を掴んだ。
「…君、名前は?」
「ミヅキ」
短く答えてから、彼女は思い出したように言った。
「そうだ。お金は要らないから安心してね」
それから、徹のモノを口に咥えた。
「それじゃ、意味無くないかい?」
「んっ…お金には困ってないんだよね〜。ただエッチしたいだけ」
「どうして」
「ん、むっ…ねえ、フェラ中だからあんまり質問しないでくれない?」
「ごめん」
少し長い愛撫で、ようやく徹の準備が整った。少女は口を離すと、スカートに手を入れてピンク色のショーツを下ろした。そのショーツと言い、着ているゴスロリ衣装と言い、綺羅びやかではあるものの清潔感がない。フリルはところどころ脱落しているし、ボタンもいくつか欠けている。
そのまま膝の上に跨がろうとしてきたので、徹は慌てて制止した。財布からコンドームを取り出し、一物に被せる。
「付けなくていいのに」
「まあまあ」
少女は可笑しそうに喉を鳴らすと、徹の膝の上に乗った。スカートを大きくたくし上げると、上を向いた徹のモノに、自身の入り口を添わせた。
「じゃあ…挿れるね。んっ…」
腰を下ろす。小柄な体格に合わず、彼女の穴は徹をいとも容易く呑み込んだ。
彼の上で、少女ミヅキは腰を振り始めた。
「んっ、あっ、あぁっ…」
「…エッチ、好きなんだ」
「そう…っ、あたしね…異常性欲って言ってね」
激しく腰を上下させながら、ミヅキが言う。
「こうやってエッチするかオナニーしてないと、頭がおかしくなっちゃうの…あんっ…」
「それで、公園で」
「彼氏作っても、すぐ逃げられちゃうし…んっ、ここで男釣った方が、楽だし…」
「家族は何て言ってるの?」
「家族? そんなのいないよ。だいぶ前に捨てられた」
「『お母様』は?」
「お母様は、お母様だし…」
そこまで言って、突然少女の動きが止まった。ふわふわと浮いていた視線が、すっと彼の方へと向く。
「…あんた、誰」
徹は答えず、剥き出しの少女の太腿に手を置いた。そこには、黒い生体コネクターが刻まれていた。
「お洒落な刺青だね。誰に入れてもらったのかな。…九頭か」
「誰だっ!」
ミヅキは徹の上から飛び降りると、威嚇するように言った。
徹は衣服を直しながら立ち上がった。
「警察に自首しろ。今ならまだ、間に合う」
「うるさい!」
少女は喚きながら、トイレを飛び出した。次の瞬間
『フラッシュ』
「ぎゃあぁぁっ!!?」
凄まじい閃光が、公園を押し潰した。
トイレの出口には、片腕で目を覆い、もう片方の手で銃を構えたリンカが立っていた。
「こちらが外れだったので、加勢に来ました。…どうやら、当たりのようですね」
「あ゛ああっ! 目が、痛いっ…目がぁっ!」
のたうち回りながらもポケットから出したピンク色のガイアメモリを、すかさず徹がひったくった。
メモリには、2本の耳をぴんと立てたウサギの頭部が逆さまに描かれていた。
「『R』…『ラビット』のメモリですね」
ワイヤーのギジメモリを装填すると、リンカは銃口を向けた。ところが
「いや、だああっっ!!」
少女はその場で跳び上がると、リンカの銃に飛び蹴りを浴びせ、弾き飛ばしてしまった。
「ああっ!」
更に、宙に舞った銃をキャッチすると、目を閉じたまま滅茶苦茶に乱射しだした。
「危ない!」
四方八方へ飛ぶワイヤー。徹は駆け寄ると、リンカを押し倒した。そのすぐ上を、銀色のワイヤーが掠めた。
「ミヅキ…お遊びはここまでだ…!」ファンタジー!
徹は、仮面ライダーに変身した。ただし、いつもの騎士ではなく、今回は魔術師の姿だ。
「その声…まさかあんたが、仮面ライダー!?」
『黙ってて悪かったな。大人しく捕まってくれ!』
ファンタジーは宙に魔法陣を描いた。すると陣から数条の鎖が伸び、少女を襲った。
「嫌だっ!」
少女は、目を閉じているにも関わらず、正確に鎖を躱していく。
「ラビットメモリの影響で、聴覚が強化されている…」
『だったら、そんなの関係なくするだけだ!』
夥しい数の魔法陣が、少女を取り囲む。そこから一斉に、無数の鎖が飛び出した。
「あっ、あああっ…」
隙間なく飛んでくる鎖に、とうとう少女は拘束された。頭だけ残して簀巻きにされた少女に、仮面ライダーは歩み寄った。
『悪いが、警察に行ってもらうぞ…』
「…! 危ない!」
『!?』
咄嗟に飛び下がった、その足元に、数本の鋭い棘が突き刺さった。
『誰だっ!?』
「…全く、情けない」
ゆっくりと歩いてくる、新たな襲撃者。黄色と黒の縞模様を基調とする、どこか女性的なボディに、紫色の複眼。背中には虹色の翅をマントめいてなびかせ、細い腕は無数の鋭い棘に覆われている。
『ホーネット…いや、お前は…?』
「これでも、同じお母様の子ですから」
鎖巻きの少女を抱き上げると、翅を広げる。
「いなくなれば、お母様が悲しみます。では」
軽く会釈した次の瞬間、腕の棘が飛び出し、一斉に2人を襲った。
『!!』
瞬時に防壁を展開し、リンカを庇うファンタジー。その隙に、蜂女は空へ舞い上がり、明け方前の闇に姿を消してしまった。
「…クソっ、逃げられた」
変身を解除し、悪態をつく徹。リンカは起き上がると、言った。
「いえ、進捗は寧ろプラスです。新たな幹部の存在を知ることができましたし…」
ピンク色のメモリを掲げる。
『ラビット』
「…何より、ウサギ…ラビットドーパントを、無力化できました」
『怪しいR/寂しい兎』完
気が向いたらまだ続くかも知れない
『ラビットドーパント』
『兎』の記憶を内包するメモリで、少女ミヅキが変身したドーパント。白っぽい薄ピンクの体毛に覆われた体は、女性的なシルエットをしており、特に腰から脚にかけて肉付きが良い。その脚で高い跳躍から強力な蹴りを浴びせてくる他、長い耳は目が潰れていても周囲を正確に把握する程の聴力を持っている。ハイドープになるまで使い込んだミヅキは生身でも高い聴力や跳躍力を持ち、変身後はメモリの性能以上の筋力を発揮する。一方で、副作用として異常性欲になっている。そのため、夜の公園で男を誘っては、身障者用トイレで性行為に及んでいる。
『戦車』のメモリと二本挿ししても、別にベストマッチにはならない。……『龍』のメモリでも一緒だからな?
「はっ、はっ、はっ…」
夜の路地を、一人の男が走る。その後ろを、3人の若い男女が追いかけている。
「もう諦めろよ!」
「いい加減、楽になりましょ?」
「ふざけるなっ…はあっ…」
必死の逃走も虚しく、男はすぐに人気のない空き地に追いつめられた。
追手の一人が問いただす。
「てめえ、ブツを何処に隠した」
「さあね。それが分かるのは、僕だけだ」
「オレら舐めんのもいい加減にしろよ…?」ホーネット
残りの2人も、黄色いガイアメモリを取り出す。
「…」
固唾を呑む男の目の前で、3人は蜂人間へと姿を変える。
「こ、殺すなら殺せ! 僕は、死んでも言わないぞ!」
「じゃあ死ね!」
蜂人間たちが一斉に襲いかかる。彼らは棘だらけの腕で男を捕まえると、鋭い顎で肩や喉に噛み付いた。
「ぐっ、ぎっ…ぎゃああっっ!!」
空き地に、断末魔が木霊する。しかし、絶叫しながらも男は、後ろ手に何かを起動させた。
『リインカーネーション』
そして、それを密かに背中に刺し…そして、息絶えた。
「…おっ、今日は一人かい」
『ばそ風北』に入るなり、店主に声をかけられた。
「そうだけど…?」
「この前の彼女は一緒じゃないのかい? あの、宝塚みたいな」
「ん゛っ!?」
思いがけない発言に、徹は絶句した。店主はにやにやしながら言う。
「いや〜、ああいうクール系が好みだったなんてね。意外だけど、中々オツなもんじゃないか」
「いや…別に、彼女じゃないし」
カウンターの前に腰掛けながら、徹は首を振った。
「仕事仲間だよ」
「へぇ〜?」
にやにや顔のまま、徹に顔を近づける店主。徹はしっしっと手を振りながら、いつもの北風蕎麦を注文した。
蕎麦を湯がきながら、店主は思い出したように言った。
「そう言えば昨日、熊ちゃんが来たよ」
「熊ちゃんって…熊笹か? 久し振りにその名前を聞いたな」
熊笹修一郎。徹と同じフリーの記者をしていて、比較的危険な案件にも積極的に首を突っ込む、熱心な男であった。徹とは以前、同じ事件を取材したことから知り合いとなり、時々互いの仕事を手伝ったりしていた。
しかし、ここ数ヶ月はずっと音沙汰が無く、こうして蕎麦屋の店主に言われるまで、徹もその存在を忘れかけていた。
「あいつ、元気にしてたか?」
「元気は元気そうだったけど…」
葱を刻みながら、言葉を濁す。
「何かあったのか?」
「ちょっと、思い詰めてる風だったかな…徹ちゃんにも会いたがってたけど、今日は来てないって言ったら、じゃあ構わないって。かけ蕎麦だけ食べて、帰っちゃった」
「ふぅん…」
相槌を打ちながら徹は、後で電話してみようと思った。
一方その頃、リンカは風都にいた。と言うのも、財団Xの支部で調べ物をする必要があったからだ。携帯端末からアクセスできる情報には、限りがある。
調査内容は、ガイアメモリの製造ロット。ガイアメモリには多くの種類があり、それらを製造する工場も風都と中心に各地に散在している。製造数の少ないメモリは、一つの工場でしか造られていないことがあるため、回収したメモリから現在稼働している工場を割り出すことができるかも知れなかった。
「ホーネット…サーバルキャット…そして、ラビット…」
ミュージアムに投資していた財団Xは、当然全てのメモリの種類を把握している。それがどこで製造されているのかも。
絞り込みをかけて、最後に3つまで工場を絞れた。内、2つが風都。そして残りの1つが、北風町にある工場であった。
「…いや、3つとも稼働しているのかも」
リストを自分の端末にダウンロードすると、リンカは席を立った。別の席では、同じような白スーツの男が、電話で誰かと会話しているところであった。時計がどうとか言っている。それを無視すると、リンカは支社を後にした。
”おかけになった電話は、現在電源が入っていません。___”
「…」
徹は通話を切ると、溜め息を吐いた。夜のアルバイトの前後に何度も掛けてみたが、ずっとこの調子であった。思えば、彼もまた北風町で相次ぐ怪奇現象について調べたいと言っていた。何か、重大な事件に巻き込まれてなければいいが…
考えながら家路を歩いていると、突然、彼の後頭部に何かがぶつかった。
「痛っ…」
振り返ったが、誰もいない。石でも投げられたのかと目を凝らすが、通りに他に人はいないし、人の気配も無い。
気のせいだろうか。そう思い、再び歩き出した彼の肩を、何かが叩いた。
「っ、何なんだよ、もう!」
乱暴に肩を払う。と、手に何か硬いものが当たった。
「? …!」
目を凝らして、気付く。それは、緑色のガイアメモリであった。
「うわっ、ガイアメモリ!?」
反射的に弾き飛ばしてしまった。ところが、そのメモリは独りでに宙に浮かび上がると、何と一直線に、徹目掛けて飛んできた。
「うわあっ!?」
徹は、逃げるように走り出した。
メモリは、空を滑るように彼を追いかける。
「く、来るなっ、来るな…」
走りながら、周囲に人がいないことを確認すると、鞄からドライバーを取り出した。しかし変身しようとした時、向こう側から誰かが歩いてくるのに気付いた。
「! やべっ…」
咄嗟にドライバーを隠そうとする徹。しかし、相手が誰か気付いた瞬間、彼は叫んだ。
「り…リンカ!」
「おや、貴方でしたか。夕方のランニングですか」
「ちがっ、違うんだ。メモリが…」
「メモリが…!」
聞き返そうとして、リンカも徹の言わんとすることを察した。彼を道の端に押し退けると…その場で、大きくジャンプした。
着地した時、彼女の手には例の緑色のガイアメモリが握られていた。
「あ…ありがとう」
「これは…」
メモリには項垂れる人間の肩から上と、その後ろに取り憑く一つ目の幽霊が描かれている。ボタンを押すと『リインカーネーション』と声がした。
「『リインカーネーション』…!」
リンカの顔色が変わった。彼女はスーツの上着を脱ぐと、メモリを何重にも巻いて脇に抱えた。
「このメモリは既に起動しています。いいですか、絶対に端子に触れないでください」
「ふ、触れるとどうなるんだ」
「前の持ち主に、意識を乗っ取られます」
「何だって!?」
リンカは、珍しく焦ったような口調で言う。
「とにかく、家に戻りましょう。このメモリが、貴方のもとへ飛んできた理由も気になります」
薄暗い小部屋の床に、鎖で簀巻きにされた少女が転がされている。
「ね〜え〜、これ解いてよ〜」
少女の頼みを、黄色スーツの女は却下した。
「みすみすメモリを奪われるような出来損ないの生徒に、かける情けは無いわ」
「放せってんだよ!!」
少女が怒鳴った。
「助けに来たんじゃねえのかよ! メモリ取り返しに行くから、これを解けってんだよ!!」
「はっ、男と性交するか、自慰行為しか能のない癖に」
「だから何だよ。あたしはなあ、仮面ライダーとセックスしたんだぞ!?」
「だから、その仮面ライダーが誰なのかを教えなさいと言ってるの!」
女が、少女の頭を蹴った。
「知るかよ! 名乗りもしねえし、名刺も捨てたし」
「…」
女は舌打ちした。少女に背を向けると、さっさと部屋を出ていってしまった。
「おい…どこ行くんだよ…放せよ…」
ジャリジャリと鎖を鳴らしながら、少女は身悶えする。
「せめて手だけでも…メモリのせいで、マンコ弄ってないとダメなんだって、知ってんだろ! おい!」
のたうつ音が、部屋に虚しく響く。
「じゃあ、トイレ…トイレくらい良いだろ? 夕べから行ってないんだよ…お願い、行かせてよ! 漏れそうなんだよ! オシッコ! オシッコがもう、我慢できないんだって…おい! …ひっ、もう出る、あっ、トイレっ、オシッコっ、おしっ……あ、あっ…あぁぁ…」
「花のメモリが、どうしてそんなに危険なんだ?」
「花?」
ネクタイを緩めながら、リンカは首をひねった。
「だって、『リイン・カーネーション』だろ?」
「…ああ。いえ、カーネーションではなく『リ・インカーネーション』。『転生』です」
「転生…?」
「このメモリは」
丸めたスーツを慎重に広げると、中のメモリを両手で掴み、電灯の下に掲げた。
「戦闘能力を持ちません。代わりに、持ち主の記憶や意識を、メモリ内にバックアップします」
「そんなことができるのか」
目を丸くする徹。リンカは頷いた。
「このメモリは、持ち主が死亡するか、不可逆的に死に近い状態になった時に初めて起動します。持ち主の遺志に呼応して自律行動し、次の持ち主を探します」
「見つけたら、どうなる?」
「強制的に体内に挿入されると、前の持ち主の意識・記憶で次の持ち主…いえ、宿主と言ったほうが良いでしょう。宿主の脳内を上書きします」
「な、何て迷惑なメモリだ…」
リンカの手の中で、ビクビクと動くメモリ。その端子は、真っ直ぐに徹の方を向いている。
「ええ。貴方からしたら迷惑でしょうが…このメモリは、どうやら貴方が目当てのようです」
「!? そんなことされる覚えは無いぞ?」
「どうでしょうか。それを知るには、貴方が宿主になるしかないでしょう」
「じょっ、冗談じゃない!」
飛び上がる徹。すかさずリンカが、無表情に言う。
「冗談です」
「な、何だよ…」
「代わりに、こうしましょう」
リンカは徹のノートパソコンを立ち上げると、側面に指を沿わせた。そして、目当てのソケットを見つけると、リインカーネーションメモリをそこへ挿し込んだ。
「えっ、それで行けるのか?」
「ロイミュード…機械に近い存在が、ガイアメモリを使用した事象があります。折角USBメモリに準じた造形をしているのですから、活用してみるのも手でしょう」
言いながら、キーボードを何やら操作する。
と、画面に一つのウィンドウが現れた。それから遅れて、一人の人間の顔が映し出された。その顔に、徹が思わず声を上げた。
「く…熊笹!?」
”その声は…力野か!”
画面の中の男は、安堵したように口元を緩ませた。
”そうか、見つけてくれたか…”
「待て、熊笹。このメモリにお前がいるってことは、お前は…」
画面の中で、熊笹が頷いた。
”ああ。ここで僕と君が話してるということは、僕はもう死んだんだろう。一か八かでメモリを使ってみたが…”
「どうして! 何をやらかしたんだよ!」
画面に詰め寄る徹。リンカは何も言わず、静かに部屋の隅に引っ込んだ。
”順を追って話そう。僕は、この街で相次いでいる怪奇現象について調べていた___”
彼は、ドーパントなる怪人の存在、ガイアメモリと呼ばれる記憶媒体、それを扱う密売人について知り、遂にはガイアメモリを造る工場の位置を突き止めた。工場に忍び込み、証拠のメモリも入手した。しかし、それを密売人たちに見つかってしまい、追われる身となった。彼は逃亡を続けながら、メモリをケースに詰め、工場の位置を記した紙と一緒にある場所に隠した。その後、追いつめられた彼は、一緒に持ち出したリインカーネーションのメモリを使用し、直後に彼らに殺害された___
「熊笹、あんた…」
”今はまだ知られていないが、いずれ僕が、ガイアメモリとしてまだ生きていることがバレるかも知れない。そうなったら、メモリを持っている君に危害が及ぶだろう。…このメモリは、すぐに破壊してくれ”
「だが、そんなことをしたら」
”良いんだ”
熊笹は、微笑んだ。
”どうせ僕は、あの夜死んだんだ。これは僕からの、最期のメッセージだ”
それから彼は、盗んだメモリの隠し場所を口頭で説明した。それを徹が紙に記録したのを確かめると、言った。
”さあ、メモリを破壊してくれ。手遅れになる前に。そして…どうか、奴らを追い詰めてくれ。君まで危険に晒すのは忍びないが…”
「…安心してくれ、熊笹」
徹は立ち上がると、ドライバーとメモリを掲げた。
”! それは…”
「お前の遺志は、俺が継ぐ。俺が戦って、お前を手にかけた奴らを徹底的にぶっ潰してやる! だって…」ファンタジー!
『…俺は、仮面ライダーだ』
”! そうか…君が、仮面ライダー…”
『ああ。だから、安心して任せてくれ』ファンタジー! マキシマムドライブ
『…ファンタジー・イマジナリソード』
白い光を放つ剣が、パソコンごとメモリを両断する。画面の中で、熊笹は目を閉じ…消えた。
変身を解除すると、徹は切り裂かれたメモリの前にしゃがみ込んだ。
「熊笹…」
祈るように閉じた目の端を、涙が伝った。リンカはじっと黙ったまま、その隣に膝を突いた。
『Fを探せ/画面越しの朋友』完
今日はここまで
『リインカーネーションドーパント』
『転生』の記憶を内包するメモリを使用した、フリーライターの熊笹修一郎その人。ドーパントに分類してはいるものの、ドーパント体は存在せず、戦闘能力も皆無。
このガイアメモリは一度コネクターに挿入すると、使用者が死亡するか、それに近い状態になるまで排出されない。死亡するまでの使用者の記憶や意識をメモリ内に複製し、死後体内から排出されると、次の使用者を探して自分で飛び回る。次の使用者は、前の使用者がそうと決めておくか、漠然と『会いたい』と思った相手が選ばれる。次の使用者の体内に強制的に挿入されると、相手の脳内を前の使用者の情報で上書きし、文字通り『転生』させる。一連の工程は不可逆で、一度上書きされた相手の人格は消滅し、以後は前の使用者として生きていくことになる。また、転生先が死亡するとまたメモリが排出され、次の転生先を探して飛び回る。メモリブレイクされるまでは、理論上は永遠にこの工程が繰り返されることになる。
熊笹は密売人から逃げる途中、盗んだ中にあったこのメモリの字面だけを見て、自分の死後も役立つと信じて使用した。
メモリの色は緑。項垂れる人間の肩から上と、その肩をあすなろ抱きするように両腕を回す、一つ目の幽霊が描かれている。人間の頭部と肩の線、或いは幽霊の頭部と両腕が『R』の字になっている。
>>75をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました。
それから>>82に補足
メモリの色はピンク。両耳をぴんと立てた兎の頭部が逆さまに描かれている。言うまでもなく、耳と頭部で『R』の字を形成している。また、ミヅキはメモリにラメやスパンコールを大量にくっつけてデコレーションしている。
おつー
ガイアメモリ:ワイルド
「野生」「自然」の記憶を内包するメモリ
しかし、このメモリには隠された力がある
すなわち「ワイルドカード」に由来する「切り札」である
おつおつ なんか案だしたいけどカッコいいのが思いつかないの悔しい
アイドルメモリ
スポットライトを浴びる横置きされたマイクで描かれた宝石で出来ているかのようなメモリ。
人間を虜にする能力を持ったドーパントにする。副作用で美形になるが、承認欲求に歯止めが利かなくなる。
セイバーメモリ
『剣』の記憶のメモリで、細長い曲刀(シャムシール的な)がSの字を描いている。次世代型メモリ
古今東西、実在するものも、架空の(例えばアーサー王のエクスカリバーや、ジェダイのライトセーバーなど)ものの記憶も有する
単独でドライバーを介して用いれば、剣の力を備えた仮面ライダーになるかもしれないが、
その記憶はファンタジーにとって剣のイメージを補強し、具体化や発展にも繋がるだろう。
メタくいうと、基本のファンタジー騎士形態を強化する中間フォーム用。ウィザードフレイムドラゴンあたりの枠
ガイアメモリ一覧見たら結構あって面白い
シネマメモリ
『映画』の記憶を内包したメモリ。
映画のフィルムが『C』を描いたような印が描かれている。
自身の定めた空間を『スタジオ』と定義し、自身の思うがままに操ることができるメモリ。このメモリの影響下においては物理法則すら無視する。
しかし、適合率が高い人物や『スタジオ』の外に出てしまった物には干渉できない。
周囲に人がいないことを確認すると、徹はそっと自販機の取り出し口に手を差し入れた。
「!」
内側に、何かがテープで貼り付けられている。剥がして手に取ると、それは小さな鍵であった。
熊笹からガイアメモリ製造工場について聞いた翌日、2人は彼の遺した言葉に従って、証拠品のメモリを回収に向かっていた。メモリの入ったケースと鍵は別々に隠されていて、たった今鍵を回収したところであった。
「北風町公民館裏の自販機…2台ある内、風都くんが描かれている方。これで鍵は手に入れた」
「ケースの方は…」
「産業廃棄物処理施設、そこに放置された、廃トラック…!」
鍵を上着の内ポケットに入れると、徹は早足に歩き出した。
風都との境界線とは逆方向に進んだ、山の中腹。そこには広い産業廃棄物の廃棄場があり、風都のみならず他の工業地域から大量のゴミが持ち込まれていた。『産廃反対』の看板が立ち並ぶ中、錆びついて打ち捨てられた軽トラックを発見した。鍵もかかっていないドアを開け、シートを引き剥がすと、空になったエンジンルームに、銀色のアタッシュケースがあるのを見つけた。
「これか…!」
取り上げ、車の外へ出す。B5サイズほどの小さなケースで、持ち上げると手にずっしりと来た。
「ここで開けましょう」
「ああ」
鍵を挿し込み、蓋を開ける。
中には、5本のガイアメモリと、1枚の紙切れが入っていた。徹は紙切れを、リンカはメモリを、それぞれ調べる。
「博物交易、第九貨物集積場の四番倉庫…の、地下…?」
「『サーバルキャット』『トライセラトップス』『オパビニア』『スリープ』…これは?」
リンカが取り上げたのは、メモリというよりは回路に端子が直接くっついた、部品のようなものであった。
「何だそりゃ?」
「メモリのプロトタイプのようです。ですが、何の…?」
回路上のスペースには、無数の節に分かれ、短い脚が何本も生えた節足動物のようなものが描かれている。どうやら、アルファベットの『I』と読ませるようだ。ボタンを押すと、従来のメモリ同様に声がした。
『アイソポッド』
「…『アイソポッド』?」
どんな意味なのか分からず、きょとんとリンカの方を見た。そして、ぎょっとした。
「馬鹿な…そんなことは、あり得ない…」
リンカは虚ろな顔で、早口に「嘘だ」「まさか」などと呟いていた。
「…り、リンカ?」
「まさか…リストに無い…このメモリは、完全に…」
それから、はっと徹の方を見る。
「…行きましょう」
「行くって、どこに」
「紙に書かれていた場所、ガイアメモリ製造工場。急ぎましょう、今すぐに!」
「ま、待てよ! 流石に体勢を整えてからでも」
「事情が変わりました。事態は、一刻の猶予も無い…!」
見たことのない彼女の剣幕に、徹は思わず頷いた。
「わ…分かった」
徹が門の前にバイクを停めると、リンカはタンデムシートから飛び降りた。ヘルメットを外しながら、警備員の元へ駆け寄る。
「おい、待て!」
徹の制止を聞かず、リンカは警備員に詰め寄った。
「財団Xです。ここを通しなさい」
「財団…何だって? 許可証かアポはあるの?」
「ここがミュージアム傘下の施設であったことは分かっています。責任者を呼びなさい!」
「ちょっ、ちょっと待ってくれよ…」
警備員は困惑しながらも守衛所に引っ込むと、どこかへ電話を掛けた。
数分後、門が静かに開いた。
「あ、開いた…」
「行きましょう」
広い敷地を走りながら、徹は質問した。
「さっきの会話…『ミュージアム』って、何だよ?」
「数年前まで風都でガイアメモリを開発・製造していた組織です。今は壊滅し、幹部は全員死亡しています」
「それが、何でここで」
「それが知りたいのです」
足を止めず、リンカは言う。
「既に消滅したはずの組織に設備が、何故未だに稼働しているのか…生き残った下部構成員が、個人的な資金稼ぎに細々と動かしているだけかと思っていましたが…」
目の前に、『4』と書かれた建物が現れた。
「第四倉庫…!」
2人は、開け放たれた倉庫の中へ飛び込んだ。
広い倉庫の割に、置かれている荷物は少ない。地下へ向かう階段が無いか探していると、不意に後ろから声がした。
「やあ、お探しものかね」
「!」
振り返ると、作業着姿の男が一人、立っていた。
「この集積場の責任者の、真堂だ。君たちが慌ててこの倉庫に走って行ったと聞いたものだから、追いかけてきたよ」
「工場の作業員風情が、随分と出世したものですね」
リンカが、冷たい声で言い放った。それは、出会って間もない頃に、徹が一度だけ耳にした声色であった。
真堂は、平然と頷いた。
「ああ。こう見えても、一生懸命働いてきたものでね。上司がいなくなって、一時期は路頭に迷いかけていたが、今では新しい上司のもと、充実した日々を送っているよ」
「上司…母神教、『お母様』ですか」
「ほう、財団はそこまで把握しているか」
「真堂!」
徹が声を張り上げた。
「熊笹を殺したのは、お前だな!?」
「熊笹? ……ああ!」
真堂は突然、声を上げて笑いだした。
「ああ、なるほど! あの小魚に、仲間がいたか。…君、悪いことは言わないから、その女から離れたまえよ。雑魚記者の分際で財団Xに関わるんじゃない」
「貴様…」
ドライバーを手に取ろうとした徹を、リンカが止めた。
「少し待ってください」
「でも」
「どのみち、すぐに使うことになります。…真堂。熊笹修一郎の遺したメモリを拝見しました。その上で、お訊きします。どうやって、造った? ……『新種の』メモリを!」
すると、真堂の顔が、待ってましたと言わんばかりに明るくなった。胸を叩き、誇らしげに言う。
「やはり、そこにあったか! …如何にも。ある時期から長い間凍結されてきた、新種メモリの開発を、我々は成し遂げた! 君たちが見たのはプロトタイプだが…」
作業着のポケットから、赤茶色のガイアメモリを取り出し、掲げる。
「!!」
『アイソポッド』
「…今では、こうして完成にこぎつけた。折角だから、ここでお披露目といこうか。もっとも、それは目撃者潰しでもあるがね!!」
メモリを後頚部に刺すと、彼の体は硬い殻に覆われた、ダンゴムシめいた姿へと変貌した。
「もう、使うからな! …変身!」ファンタジー!
徹はドライバーを装着し、仮面ライダーに変身した。
「おっと、雑魚記者の正体は、仮面ライダーだったか。折角だ、一石二鳥といこうじゃないか」
ドーパントが細く節くれだった手を叩くと、何処からともなく大勢の若者や男たちが現れた。
「さあ、『お母様』の愛を、彼らに知らしめてあげなさい」
「はい!」ホーネット
ホーネット マスカレイド マスカレイド ホーネット マスカレイド マスカレイド ホーネット…
たちまち倉庫の中は、大量のドーパントに埋め尽くされた。
「人命は考慮しなくても構いません」ミサイル
黒い銃を抜き、オリーブドラブのギジメモリを装填する。
「…殲滅します」
『ファンタジー…ミスティークエンド!!』
「ぐわあぁぁっ!!」
魔法陣から放たれた炎や氷が、ドーパントの群れを襲うと、マスカレイドドーパントは爆散し、ホーネットドーパントは人間に戻った。
『これで…手下は片付けたぞ…!』
息も絶え絶えに、ファンタジーがアイソポッドドーパントに詰め寄る。ドーパントは牙の生えた円形の口を蠢かせながら、キシキシと嗤った。
「だが君、満身創痍じゃないか」
『っ…』
魔術師の姿をとったファンタジーだが、その衣服はあちこち破れて、下の装甲まで傷が入っていた。そしてその足元には、銃を握ったままのリンカが倒れていた。忍び寄ったマスカレイドドーパントに、後ろから殴られたのだ。
ファンタジーは騎士の姿に戻ると、剣を握った。
『だが…あと一人だ!』
斬りかかるファンタジー。ところが
『なっ…!?』
ドーパントの硬い外殻に、剣が弾かれてしまった。防御が薄そうな部分を狙って突きを繰り出すと、何と剣が折れてしまった。
「はっはっはっは…効かん!」
『ぐあっ!?』
細く硬い腕が、彼を殴り飛ばした。壁に打ち付けられながら、彼は宙にハンマーを描いた。
『これなら、どうだっ!』
マントを広げ、滑空しながらハンマーを振り下ろす。しかし、これも通じない。
「言っておくがね」
再度、振り下ろそうとしたハンマーを片手で止めると、アイソポッドドーパントは言った。
「私はまだ、実力の半分も出していないよ!」
『あ゛っ、がっ…』
ファンタジーの腹部に、拳が突き刺さる。彼はその場に崩れ落ちると…変身が解け、徹の姿に戻った。
「では、さらばだ。あの世で小魚同士、仲良く恨み給え。我々、捕食者を…!」
鋭い棘の生えた脚を上げ、徹を踏み殺さんとした、その時
「!?」
彼を、銃弾が襲った。硬い殻に弾かれてもなお、銃撃は止まらない。
「…真堂」
「往生際が悪いね」
ドーパントの目の前には、よろよろと立ち上がり、震える両手で銃を構えるリンカがいた。
「心配するな。君もすぐに、同じところへ送ってやろう。…それとも、あの世で彼を迎える、天使にでもなりたいのかね?」
「…」
リンカは、黙って銃を下ろした。
「そうだ。人生、諦めが肝心だ…」
ところが…リンカは、今度は片手を目の前に掲げた。
その手には……
「何っ!?」
「ミュージアムの残党如きに、財団が敗れるのは道理に合いません。私たちも把握していない力を使われることも。何より」
倒れ伏して動かない、徹に目を遣る。
「……今、ここで仮面ライダー…いえ、力野徹を失うのは…『私が』嫌だ…!!」
リンカの剣幕に、たじろぐドーパント。
いつの間にか彼女の腰には、無骨な金属のベルトが巻かれていた。そしてその手に握られていたのは、彼女のトレードマークであるネクタイと同じ、黄金色のガイアメモリであった。
↓1〜3でコンマ最大 リンカの所持するガイアメモリ(今までに出た案でも可)
トゥルーメモリ
『真実』の記憶を内包したメモリ
チャンピオン
「王者」の記憶を持つメモリ
ヴァンパイアメモリ
『吸血鬼』の記憶を内蔵したメモリ
『トゥルース』
「なっ、何故君がゴールドメモリを」
「スポンサー特権…と、言いたいところですが。これはただの拾い物です。まあ、それも運命」
「リンカ…?」
徹が、彼女を見上げて呟く。リンカはドーパントを睨んだまま、応える。
「黙っていて申し訳ありませんでした。ですが、もう隠しません。……これが、私の『真実』」
黄金に輝く筐体に、天秤を象った『T』の文字。リンカがそっと手を離すと、『真実』のメモリは吸い込まれるように、彼女の腰のベルトに嵌った。
『トゥルース』
メモリがベルトの中へと吸い込まれ、彼女の体は金と宝石に彩られた、エジプト女神めいた姿へと変化した。金の冠には白い羽が差し込まれ、背中には七色の翼が生えている。エジプト十字を象った杖を振り上げると、彼女は言った。
「私は、裁きません。ただ真実を見定め、偽りを暴くのみ」
杖を敵に向け、宣告する。
「…そして、殲滅する。偽りの力を。…それに縋った、悪しき者を!」
「世迷い言を…っ!?」
襲いかかろうとしたアイソポッドドーパントの体が、突然固まった。
「ガイアメモリ…地球の記憶…それ自体は真実です。しかし、人間のものではない。それは偽り」
「ぐっ…うぐぅっ…」
もがき苦しむドーパント。リンカ…トゥルースドーパントは、杖を振りかざした。その先端に、無数の金色の光弾が顕現する。
「終わりです」
光弾が、一斉にドーパントを襲った。
「あ゛あああっっ!!!?」
目も眩む爆炎の中で、アイソポッドドーパントがもがく。もがきながら、叫んだ。
「お、おのれ…おのれ、おのれ、おのれぇぇぇえぇぇええっっ!!」
突然、その体がどくんと脈打った。硬質な殻が何倍にも膨れ上がり、遂には人間離れした巨大なダンゴムシめいた怪物へと成り果てた。
「…」
トゥルースドーパントは、更に光弾を撃ち込もうとした。しかし、そこで足元に横たわる徹に気付いた。
「っ…リンカ…」
彼は、震える手でドライバーを握り締め、必死に起き上がろうとしていた。
「…」
彼女は、杖を下ろした。そうして、代わりに徹の体を抱き上げると、七色の翼を広げた。
輝く体が、宙へと舞い上がる。そのまま彼女は、倉庫の屋根を突き破り、怪物のもとから飛び去ってしまった。
『Fを探せ/捕食者の牙』完
多分今日はここまで
『アイソポッドドーパント』
『ダイオウグソクムシ』の記憶を内包するメモリで、ガイアメモリ工場長の真堂が変身したドーパント。全身が硬い殻に覆われ、殆どの物理攻撃が通用しない。防御面だけでなく、棘の生えた四肢による攻撃も強力。また、メモリの力を最大限解放することで、巨大な怪物態『ジャイアント・アイソポッド』へと変化する。モデルとなったダイオウグソクムシ同様、エネルギー効率が異常に高く、ドーパント態でいる間は年単位で食事を摂らなくても生きていける。過剰適合者なら、生身でも飲まず食わずで生きていけるかもしれない。
ミュージアム壊滅後に新造された、完全に新種のガイアメモリ。戦闘能力以上にこのメモリは、製造した組織が地球の記憶、すなわち『地球の本棚』へアクセスする権限を持っていることを示す、極めて重大な証拠となっている。
メモリの色は赤茶。いくつもの節に脚と触覚が生えた、等脚類(ワラジムシの仲間)めいた意匠で『I』と書かれている。
おつ
>>109は面白い設定のガイアメモリだ
『クエスト』
「探索」の記憶を持つガイアメモリ
相手の弱点の追及のほか、幻惑攻撃などを無効化する
主人公がファンタジーならクエストも必要かなーって
「…うっ、うぅ…」
痛みに目を覚ますと、真っ白な天井が目に入った。その視界に、すぐにリンカの顔が割り込んできた。
「気が付きましたか」
「リンカ…?」
どうにか体を起こすと、そこは病院の個室であった。ベッドの横には、リンカだけでなく植木警部の姿もあった。
「ここは…」
「警察病院だ」
植木は、硬い顔で答えた。それから、徹が何か言う前に、彼に詰め寄った。
「何故隠していた。本当は…君が、仮面ライダーだったということを」
「えっ」
徹は思わず、リンカの方を見た。彼女は、気まずそうに言った。
「…貴方ほど、上手に偽れませんでした」
「…」
徹は溜め息を吐いた。思えば、あの時彼女が使ったのは『真実』のメモリだ。元々嘘を吐けない性質なのかも知れない。
「…怒らないでくださいね。あの時はまだ、あなた方を信用しきれていませんでした」
「警察をか」
「はい。…と言うより、警察が仮面ライダーをどう見ているのかが分からなかった。警部も、初めて仮面ライダーを見た時は、ドーパントに準じた対応をなさったでしょう?」
「それは…」
「敵か味方か分からない。その上で人間離れした力を持つ存在が、身近にうろうろしていては、お互いに落ち着かない。そう考えて、仮面ライダーという存在に対する信用が得られるまでは、正体を伏せさせていただこうと考えました」
「…そうか」
植木は疲れたように首を振った。
「言いたいことは大体分かったよ。どっちにしても、もう過ぎた話だ。君を…仮面ライダーを疑うことはしない。ここだけの話、課ではガイアメモリだけじゃなく、仮面ライダーの動向も探ってたんだ。何処の誰なのか、目的は何なのか…」
「やっぱり」
「だが…何度も言うが、もう過ぎた話だ。これからは、純粋な味方として頼りにさせてもらうよ」
植木は笑顔で徹の肩を叩いた。それから立ち上がった。
「じゃあ、今日は戻るとしよう。大まかな話はこの人から聞いた。…ゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます」
立ち去ろうとして、思い出したように鞄の中から、一枚の封筒を出した。
「そうだ、頼りっぱなしじゃ何だ。前に君から聞いていた人物について、調べておいたから目を通してくれ。じゃあ」
病室を出る植木に、徹は黙って頭を下げた。
「兎ノ原美月…風都出身で、生きていれば現在17歳。5歳の頃に両親が離婚し、母子家庭に育つが、7歳の頃に母親の恋人と同居するようになって以後、2人から虐待を受けるようになった。特に母親の恋人からは性的な虐待を受けていたらしい。児童相談所と警察の働きによって保護され、孤児院で暮らすようになるが、14歳の頃に孤児院から失踪。現在は行方不明」
調査書には、孤児院時代の彼女の写真が同封されていた。ぼろぼろの人形を握りしめてぎこちない笑みを浮かべる、隈の浮いたその顔は、確かに公園で彼を誘った少女のそれであった。
「親に愛されなかった少女にとって、母神教、『お母様』は、文字通り母親みたいな存在なんだろうか…」
「…」
ぼやく徹を、リンカはじっと見つめている。その口が、小さく動いた。
「…だとしても母神教は、野放しにできません」
「そう、そうだよ。さっきから気になってたんだ」
徹は身を乗り出した。
「あのダンゴムシ怪人が、何でそんなに重要なんだ? 新種のメモリがあると、何が大変なんだ」
「それを説明するには、ガイアメモリの仕組みについて話す必要があります」
「どうせ入院してて退屈なんだ。じっくり聞かせてくれよ」
「分かりました」
リンカは頷いた。
「…まず、ガイアメモリの仕組みについて。ガイアメモリはその名の通り、ガイア…すなわち地球の保持する情報を記録したメモリスティックです」
「うん」
「記録するからには、基になる情報が必要になります。この地球に存在する、あらゆる事象…生物や物体、果ては概念に至るまで、全ての知識を収めた空間が存在します。これを、『地球の本棚』と呼びます。地球の本棚で採取した情報を記憶媒体に書き込むことで、ガイアメモリが造られるのです」
「うん…うん?」
「ミュージアムがガイアメモリの製造を始めたのは、この地球の本棚にアクセスする権限を得たからです。正確には、ミュージアムを運営する家族の一人が、ある事件をきっかけにこの本棚に入り、地球の持つ記憶を本として閲覧する能力を得た」
「うん…?」
話があちこちへ飛び始めて、徹はだんだん訳が分からなくなってきた。
「しかし、この人物…少年Rとしましょう。少年Rは、ある私立探偵によって拉致、と言うより保護されました。以降、彼はその私立探偵と共にミュージアムと敵対。ミュージアムは、ガイアメモリ開発の手段を失うことになりました」
「えっと…それで、新種メモリが造れなくなった、と?」
「はい。結局、少年Rは自身の手でミュージアムを壊滅させました。正確には、私立探偵と共に、ですが…まあ、それは良いでしょう。ミュージアムも、一時期は新たに地球の本棚にアクセスできる人間を創り出したようですが、それもすぐに死亡しました。つまり、現在に至るまで、地球の本棚にアクセスし、新しいガイアメモリを開発しようとする人間は存在しないのです」
「いや…その少年Rとやらが、また戻ってきたんじゃないか」
「あり得ません」
リンカは、きっぱりと否定した。
「どうして」
「少年R…彼は他でもない。風都の仮面ライダー、その人ですから」
その頃、別の病室で同じく目を覚ました者がいた。
「くっ…うっ」
苦しげに呻きながら起き上がった、一人の少女。やつれた顔で周囲を見回すと、いらいらと首を振った。
「チクショウ…あの、仮面ライダー…!」
悪態をつきながらベッドを降りようとして、床に崩れ落ちた。どうにか立ち上がろうと差し上げた手を、別の手が掴んだ。
「先生…!」
「ようやく目が覚めたのね、エミ」
柔らかな声で言う人物。それは、黄色いスーツを着て眼鏡を掛けた、中年の女であった。
少女の顔が、歓喜と怯えの混じった、複雑な表情に染まる。女は穏やかな笑みを浮かべたまま、少女を助け起こした。
「ずっと待ってたわ。あなたや、カケルが起きるのを」
「先生…ごめんなさい」
「良いの。人生には、失敗も必要よ。…何故なら」
女は、スーツの懐から、一本のガイアメモリを取り出した。
「!」
「失敗を乗り越えて、人は成長するものだから」
少女の手に、毒々しいオレンジ色のメモリを握らせる。メモリには、攻撃的な形状をした蟻が、細長い脚と触覚を伸ばして『F』の字を形作っていた。
「さあ…成長してみせて。期待しているわ」
「はい…先生」
少女はゆっくりと頷くと…手首のコネクターに、メモリを突き立てた。
『ファイアーアント』
”火事です 火事です 病棟2階、特別処置室で火事です”
「!?」
突然鳴り響いた非常ベルに、徹は思わずベッドから飛び降りた。そして、腹を押さえた。
「ぐぅっ…」
「じっとしてて。今、確認してきます」
リンカは、病室の外へ飛び出した。
数分後、戻ってきた彼女は、徹の肩を抱いて立たせながら、言った。
「ドーパントの襲撃のようです。逃げましょう」
「何だと…」
彼は、懐からドライバーを出そうとして…今着ている病衣に、それが無いことに気付いた。
「ドライバーはここです」
「サンキュ…っとぉ!?」
取り出してみせたドライバーを、リンカは素気なく引っ込めた。
「今の貴方は万全ではない。まずは自身の安全が第一です」
「だが、俺が戦わないと…!」
その時、廊下で爆音が響いた。
「仮面ライダーはどこだぁーっ!!」
「!」
徹はリンカを振り払うと、声のする方へ走り出した。
そこでは、毒々しい橙色をした、蟻のような怪人が、逃げ惑う病棟のスタッフに火の玉を吐きかけているところであった。
「動くな!」
駆けつけた警官隊が、陣形を組んで銃を構える。
「邪魔だあっ!」
「わあっ!?」
しかし、燃え盛る火の玉に、警官たちは呆気なく引き下がった。
代わりに、徹が前に進み出た。
「おい、ドーパント!」
「! お前は…」
蟻人間が、徹の存在に気付いた。その反応に、彼は首を傾げた。
「ん? お前、どこかで会ったか?」
「とぼけるな…」
ドーパントの体が解けていく。中から現れたのは、あの日路地で彼にメモリを売りつけようとした、二人組の密売人の、女の方であった。彼女も徹と同じ警察病院の病衣を来て、手にはオレンジ色のメモリを握っている。
「お前、まだ懲りてなかったのか」
「うるさい! 先生に、任されたの…だから、やり遂げないと!」
『ファイアーアント』
「まずは…仮面ライダー、お前を殺す!」
「徹!」
そこへ、リンカが走ってきた。彼女は、頼りなく立ち尽くす徹と、蟻のドーパントを順に見て、諦めたように言った。
「…仕方ありません。この程度の敵なら、今の貴方でも倒せるでしょう」
「ああ、任せとけ。それと…」
投げ渡されたドライバーとメモリを受け取ると、徹は照れくさそうに言った。
「…初めて、俺のこと名前で呼んだな。リンカ」
「!」
彼女の頬が、微かに朱く染まるのを、彼は見ないフリをした。
「…変身」ファンタジー!
「仮面…ライダぁーっ!!」
飛んでくる火の玉を躱すと、ファンタジーは手に剣を出現させた。攻撃の隙間を縫って接近し、斬りつける。
『せいっ!』
「ふんっ!」
剣と腕がぶつかり合う。数合打ち合うと、遂にファンタジーの斬撃が敵の肩を直撃した。
「くぅっ…!」
痛みに苦しみながらも、両腕で剣を捕らえると、至近距離で火の玉を吐き出した。
『おっと!』
咄嗟に剣を手放し、跳び下がる。
「炎? 『アント』のメモリに、そのような能力は」
『さっきファイアーアントって言ってたぞ?』
ファンタジーの言葉に、リンカが目を見開く。
「『ファイアーアント』…ヒアリ!? これも新種のメモリですか」
『関係ないさ。炎には…』
マントを翻し、魔術師の姿に変化する。
『…水だ! 喰らえ!』
両手を突き出すと、魔法陣から激しい水流が噴き出し、ドーパントを襲った。
「ぎゃあぁぁぁっ!」
煙を上げ、のたうち回るドーパント。
『トドメだ……うぐっ!?』
ドライバーからメモリを抜こうとして、突然ファンタジーが腹を押さえて呻き出した。前の戦闘の傷が、また痛みだしたのだ。
「やはりまだ早かったですか…!」ミサイル
リンカは銃を抜くと、ミサイルのギジメモリを装填し引き金を引いた。
何発ものミサイルが直撃し、体勢を立て直そうとしたドーパントが再び倒れる。
リンカはギジメモリを抜くと、ファンタジーに向かって銃を投げ渡した。
「これを使って!」
『おっと…分かった!』
黒い銃のスロットに、ファンタジーメモリを装填し、銃身を変形させる。
『ファンタジー! マキシマムドライブ』
『ファンタジー・ウィザードバレット!!』
引き金を引くと、銃口の先に巨大な水の球体が現れた。球体は見る見る内に膨れ上がり…爆ぜて、無数の水の弾丸となってドーパントを襲った。
「あっ、あ゛あっ、い゛やああっっ!!!」
水に包まれたドーパントの体が、ぼろぼろと崩れ落ち、中から少女の体が出てくる。床に倒れ伏した彼女の手首から、オレンジのガイアメモリが抜け落ち、そして砕け散るのを見届けると…ファンタジーは、その場に崩れ落ちた。
駆け寄ってくるリンカ。更にその向こうから、数人のスタッフが話しているのが聞こえる。
「大変です、患者の数が合いません」
「特室の火川くんは?」
「それが、避難させようとした時にはもう…」
それを聞きながら、ファンタジー…徹は意識を失った。
『Tにご用心/失敗は成功のもと』完
今度こそ今日はここまで
おっつおっつ
そういえば息抜き・ギャグ回は予定あるんだろうか
あるならそんな感じの(親子丼ドーパント的なの)も投げるんだけど
『ファイアーアントドーパント』
『ヒアリ』の記憶を内包するガイアメモリで、元密売人のエミが変身したドーパント。オレンジと黒の、禍々しい蟻のような姿を持つ。背中には大きな棘が生え、鋭い顎からは火を吐くことができる。また、相手に噛みついて、生身の人間なら即死するほどの強力な麻痺毒を流し込むこともできる。
メモリの色は毒々しいオレンジで、長い触覚と脚を伸ばした攻撃的な外見の蟻が『F』の字を形作っている。アイソポッドメモリと同様、ミュージアム壊滅後に造られた新種のメモリ。
(寿司食いながら、そう言えばギャグ回挟まないとなって考えてました)
(寿司食いながら、もうドーパントまで考えちゃいました)
(相手の視覚と嗅覚と、そして味覚を完膚なきまでに潰す、恐るべきドーパントを考えちゃいました)
ツーンとなりそうなドーパントだ
プレシオサウルスドーパント
プレシオサウルスのメモリで変身する怪人
怪人だが変身した際は巨大な首長竜になる、陸上でも戦闘が出来るが、真価を発揮するのは海中である
Wだからやっぱり恐竜系のメモリを出してみた
アーチャーメモリ
『射手』の記憶を内包したメモリ。
弦を引きしぼる弓矢がAを象っている。
アーチャードーパントは左手が弓のように変形し、右手で弦を引きしぼる事でエネルギーを収束・発射する事が可能。
連射力・威力共に申し分ないが、命中率は本人の実力に依存する為、使い手が問われるメモリである。
コントラクトメモリ
『契約』の記憶を内包したメモリ。鎖と左中央の南京錠がCを象っている。最初にボタンを押して契約内容を読み取らせて設定し、対象に手渡すだけで対象が契約者となる。自分自身に契約を課すことも可。
コネクタに接続せずとも契約を守り通すことで所持者に加護が付与され、肉体的にも精神的にも契約遂行を手伝う。
コントラクトドーパントは契約を守り続けた通常態と、契約違反して強制変身した暴走態がある。共通して鎖を全身に纏っており、違いは胸部中央部の大きな南京錠が閉じているのが通常態、開いているのが暴走態である。
当然暴走態の方がメモリからの毒素が濃く、鎖を身体から引き抜いて鞭にする等、手段を選ばす契約遂行しようとする。
契約達成するとメモリ排出と同時に、報酬として対象から毒素を取り除いて肉体強化を授ける珍しく親切なメモリ。
ただし改造されたコントラクトメモリは対象者から毒素と同時に記憶と意識も奪う。奪われた記憶と意識と無防備な肉体はどこへ回収されるかは・・・
従順なしもべを無差別に即座に用意できる点から、量産化に成功すればマスカレイドよりも便利かもしれない。
弱点は契約内容を遂行しようとして肉体が保つかどうか。或いはメモリの位置である南京錠を攻撃すれば簡単にメモリブレイクできる。ただし南京錠は堅く、威力が不十分であれば開いて暴走態になってしまう。
ついでに南京錠や契約や鎖故に、
『キーメモリやタブーメモリ(で強制通常化・暴走化)』
『ヒートメモリ(で鎖溶けて契約遂行阻害)』
等にも影響されやすい
「…」
ベッドに仰向けになったまま、徹はじっと天井を見つめていた。横では、リンカがペティナイフでりんごの皮を剥いている。
「…なあ、リンカ」
「じっとしていてください」
起き上がろうとする彼の鼻先に、ペティナイフを突きつける。徹は慌てて、ベッドに背中を押し付けた。
「心配なのは分かるけど…俺、もう大丈夫だから」
「前もそう言っていたような気がします」
素気なく言うと、彼女はりんごを一切れ、ナイフに刺して彼の口元に差し出した。
「う…」
徹は黙って、突き出されたりんごを齧った。咀嚼しながら、ずっと気になっていたことを口に出した。
「…あんた、ドーパントだったんだな」
「…」
リンカは、ナイフを引っ込めて彼を見た。そして、頷いた。
「…ええ」
「『拾い物』って言ってたな。それは…この街で拾ったのか? それとも風都で?」
「ミュージアムが壊滅した直後…」
彼女は、齧りかけのりんごを口に入れた。数度咀嚼し、ごくりと飲み込む。
「…事後処理のために、私は風都を訪れました。前任者が独断で余計なことをした、その尻拭いも兼ねて。その際に、旧園咲邸…ミュージアム幹部の自宅で、数本のガイアメモリを回収しました。これは、その内の一本です」
彼女の手に握られた、金色のガイアメモリ。天秤を象った『T』の文字からは、今まで見てきたメモリとは比べ物にならないほどの、強い力を感じる。
「どうやら、このメモリは私によく適合しているようでした。そこで、一緒に回収したドライバーと共に譲っていただきました。…まあ、実際に使うのは初めてでしたが。せいぜいお守り程度の認識でしたので」
「そうだったのか。……済まなかった」
「何が」
「俺が弱かったせいで、あんたまで戦わせてしまった。ドーパントになってまで…」
「今更です。これまでも私は、Xマグナムで戦闘に参加していました」
「だが、それとは訳が違う。だって」
「ガイアメモリの副作用を気にしているのなら、それは不要です。旧式のガイアドライバーとは言え、きちんと機能しているので、メモリの毒性はほぼ完全に除去されています」
そこまで言って、彼女はりんごをもう一切れ、切り取って徹に突き出した。
「…済まないと思うのなら、きちんと体を回復させることです。次、貴方があのような危機に陥れば、私は一切の躊躇なくメモリを使用します」
聖堂に設けられたベッドの上で、火川カケルは目を覚ました。
「っ…こ、ここは…」
「おはよう、カケル」
「! 先生っ!」
黄色スーツの女に声をかけられて、彼は慌てて起き上がった。聖堂を見回して、尋ねる。
「先生、ここは…?」
「ここは、母神教の本部。『お母様』のお膝元よ」
「お母様の…」
きょとんとするカケル。確かに、先生の言葉に『お母様』という単語は幾度となく聞いた。しかし、彼にとって尊敬すべき相手は目の前の女であって、それより上の存在をはっきりと意識したことは無かった。
そんな彼に、ヴェールの向こうの存在が口を開いた。
”火川カケル。…愛しい、母の子”
「!」
女が、その場に跪く。カケルは戸惑いながらもベッドを降りると、女に倣った。
”よくぞ、ここまで帰ってきてくれましたね。母は、嬉しいです”
「ど、どうも…」
”…あなたは、仮面ライダーとの戦いを生き延び、再び目を覚ましました”
「! …はい」
少年は頷く。同時に、このヴェールの向こうの存在が言わんとすることを察した。
「ぼくは、メモリを渡そうとした相手が変身するところを見ました」
「それは、どんな人だった?」
すかさず、女が質問する。少年は「名前までは分かりませんが」と断った上で、目の前で仮面ライダーとなった男の特徴を、できる限り詳しく説明した。また、彼に変身用のドライバーとメモリを与えた女についても話した。
一通り聞き終えると、『お母様』は満足げに言った。
”ええ。英生の言葉とも一致します。どうやら、間違いないようですね”
「よくやったわ、カケル」
女は誇らしげに、彼の肩を叩いた。
「あなたは、私の自慢の生徒よ」
「あ…ありがとうございます!」
「あなたになら…」
女は、懐からオレンジ色のガイアメモリを抜き出した。
「!」
「…私の、手伝いを任せられるわ」
「…は、はい」
カケルは、震える手でメモリを受け取った。
夜の通りを、病院から出たリンカは一人で歩いていた。ファイアーアントドーパントの襲撃で一部損害を受けたものの、病院機能にはさほど影響が無かったとのことで、徹は引き続き警察病院に入院している。しかし、懸念事項は残っていた。メモリブレイク後、昏睡状態だった元密売人が、いかにして新たなガイアメモリを手にしたのか。加えて、ファイアーアントメモリもまた、リンカの持つ財団Xのリストに無い、新種のガイアメモリであった。
リンカは既に、財団に追加支援を要請している。敵がガイアメモリを開発する手段を持っていること、仮面ライダーにさらなる力が必要であることを、強く伝えてある。
「今は、待つのみ…」
呟きながら…リンカは、おもむろに鞄に手を入れ、Xマグナムを名付けた銃を抜いた。そしてそれを頭上に向けると、躊躇なく引き金を引いた。
「!」
銃声。それからやや遅れて、彼女の目の前に、一体の怪人が降りてきた。
それは、ミヅキを追い詰めた時に現れた、蜂女であった。
「よく、私の尾行が分かったわね」
「いやしくも蜂に扮するのなら、羽音の周波数くらい勉強してください」
「この私に『勉強しろ』と? なかなか面白いことを言う」
リンカは何も言わず、銃を向けた。
「目的は何ですか。私達が奪取したラビットメモリですか」
「ラビットメモリ? …ああ、そう言えばそんなのもあったわね。今の今まで、すっかり忘れていたわ」
「どういうことですか。貴女は、兎ノ原美月の仲間ではないのですか」
「知らないわよ、あんな出来の悪い生徒」
蜂女は、吐き捨てるように言った。
「とっくにその辺に捨てたわ。必要な情報も手に入れたもの。…そう」
鋭い顎を、カチリと鳴らす。
「私の、優秀な生徒のおかげでね」
「生徒…『先生』…!!」
何かを察し、走り出そうとしたリンカの前に、蜂女は立ち塞がった。
「もう気付いたの。あなたが、私の生徒だったら良かったのに」
「そこを通しなさい。さもなくば」
「真堂から、仮面ライダーよりあなたの方が危険であることは聞いてるわ。せいぜい、私の足止めに付き合って頂戴」
「お断りします」フラッシュ
「っ!?」
リンカの銃から、凄まじい閃光が迸った。複眼に強い光を食らった蜂女は、思わず仰け反った。
「お、おのれっ」
首を振り、どうにか視力を取り戻す頃には、既にリンカの姿は無かった。
「はあっ…くそっ」
病棟の廊下を進みながら、徹は悪態をついた。
リンカが帰った直後、またしてもドーパントが病院を襲撃した。今度は検査室を占拠し、仮面ライダーを連れてこいと宣っているのだという。
この連日の襲撃は何だ。遂に、敵が超常犯罪捜査課を潰しに来たのか。それとも、仮面ライダーたる徹がこの病院に入院していることが、敵にバレたのか…?
「はぁっ…変身」ファンタジー!
傷ついた体をおして、仮面ライダーに変身する。ドライバーを没収されなくて良かった。
『っ…ドーパントっ!』
検査室に踏み込んで、あまりの熱に彼は思わず引き下がりかけた。
『な、何だこりゃ…』
「やっと来たね、仮面ライダー!」
陽炎の向こうに、一人の少年が立っている。
『今度は、お前か』
「そう。あの時は遅れを取ったが、今度はそうは行かないよ」ファイアーアント
オレンジ色のメモリを手首に刺すと、少年はヒアリのドーパントに変身した。
『お前もヒアリか…だったら!』
ファンタジーは魔術師の姿になると、両手を掲げた。
『弱点は分かってる。喰らえ!』
魔法陣から、水流が迸ってドーパントを襲った。ところが
「…ああ。ぼくにも分かってる。だから」
彼は、身をかがめて水流を躱した。躱された水は、熱せられた壁にぶつかると、たちまち白い蒸気となった。
『! しまった』
大量の煙が部屋を埋め尽くす。視界が白に染まり、ファンタジーは身構えた。
『どこに隠れた…!!』
物音に、咄嗟に突き出した両手が、ファイアーアントの両顎を捕らえた。
「ふんっ!」
『くうぅっ…』
力任せに押してくるドーパント。いつものファンタジーなら力負けすることは無いだろうが、今の彼は万全ではなかった。
『く、あ、あっ』
仰向けに押し倒されるファンタジー。その背中を、熱せられた床が苛む。
「どうだ、仮面ライダー…!」
『くっ、ぐうっ、う…』
じりじりと、尖った顎が彼の喉元に迫る。その距離が、見る見る内に狭まり、そして…
「徹!」
部屋に飛び込んだ瞬間、絶叫が木霊した。
『ぐわああぁあぁぁっ!!』
「徹……っ!!?」
晴れていく霧の中に、彼女は見た。オレンジと黒の怪人に組み倒され、肩口に鋭い牙を突きつけられた仮面ライダー…戦友の姿を。
『トゥルース』
「っ、はあっ…やった…先生、やりました!」
動かなくなった仮面ライダーから牙を抜き、彼は歓喜に叫んだ。強力な毒を流し込んだ。仮面ライダーとは言え、当面は起き上がれないだろう。これで、お母様の…そして、先生の期待に応えることができた。
「ぼくが、ぼくが一番優しゅ」
言いかけたその口が、途中で止まった。
胸の辺りに違和感を感じ、視線を下に向ける。
「…え?」
そこには、白い羽が深々と突き刺さっていた。
彼が状況を把握するより先に、彼の体を金色の光弾が襲った。
「ぎゃああっ!?」
壁まで跳ね飛ばされるドーパント。どうにか起き上がった彼は、ようやく理解した。
仮面ライダーを庇うように立つ、エジプト女神めいた黄金の怪人を。……その、怒りに燃える瞳を。
「…た、たすけ」
ぽつりと呟く彼の目の前で、女神は七色の翼を広げた。そこから、無数の羽が矢となって飛来し、彼を次々に刺し貫いた。
「あっ、ぎゃあっ、あがっ…ぐぁ…っ」
腕がちぎれ、胸が砕け、頭が潰れても、攻撃が止むことは無かった。
___数分後。そこには、仰向けに倒れて動かない仮面ライダーと、それに物言わず縋り付く白スーツの女と、そして砕けたガイアメモリにぐちゃぐちゃの肉塊だけが残されていた。
『Tにご用心/怒れる女神』完
今日はここまで
『一角獣型ガイアメモリ メモコーン』
自律稼働するユニコーン型ガイアメモリ。『セイバー』と『クエスト』2本のガイアメモリを内蔵しており、両脚を畳み、角を後ろに倒すことでセイバーメモリが、後ろ脚を回転させることでクエストメモリが出てきて、ロストドライバーに装填・展開することができる。展開した時、メモリ本体がセイバー側だとユニコーン、クエスト側だとグリフォンの頭部に変形する(ダブルドライバーに装填したファングメモリが恐竜の頭になるみたいな)。
後述するクエストメモリの能力に加えて、メモコーン自体に解毒機能が備わっており、使用者に付いた毒を無効化することができる。
『セイバーメモリ』
『剣』の記憶を内包する、次世代型ガイアメモリ。古今東西、あらゆる刀剣に加え、架空の刀剣をも再現することができる。また、エクスカリバーや草薙剣といった剣にまつわる伝説から、このメモリは『英雄の力』としての側面を持っているため、単なる切れ味以上に『悪』に対して強い力を発揮する。
ファンタジーが騎士の姿で使用することで、鎧に青い装甲が追加され、専用剣『ジャスティセイバー』が出現する。
メモリの色は青。シャムシールめいて『S』の字に弧を描く剣が描かれている。
『クエストメモリ』
『探求』の記憶を内包する、次世代型ガイアメモリ。いかなる困難な課題に対しても、必ず解決するための道筋を示す力を持つ。これを応用することで、敵の弱点を看破したり、幻覚などの弱体化を解除することができる。また探求だけでなく、それを成し遂げる力・意志を概念として含んでいるため、使用すると防御や耐久も強化される。
ファンタジーが魔術師の姿で使用することで、ローブに赤い装飾が追加され、専用杖『クエストワンド』が出現する。
メモリの色は赤。虫眼鏡を象った『Q』の字が描かれている。
(本編前に玩具のCMでネタバレされることってあるよね)
(関係ないけどファングメモリは平成ライダーの中間強化ガジェットとして最高傑作だと思うの 設定はもちろんだけど、ギミックも格好良くておまけに一切無駄がない)
このあと最強武器が出ますっていう中間フォームの特性上、最終フォーム後は要らない子になりがちな中間フォームだけど
FJはフィリップがメインで使うっていう最大の特徴で、要らなくなりようがないのすごいよね
中間と思ったが実質最終だったタジャドルさんと並んで確固たる中間フォームだと思う
(ファングメモリの何が凄いって、ドライバーに装填した後も格好良いのが凄い)
(恐竜の胴体なんて邪魔くさい付属品になりそうなのに、バッチリ恐竜の頭部に変形して、おまけに開いた顎の間に『F』が来るとか天才か)
(ちなみに次点でNSマグフォンが好き。ガラケー状態だとマグネットスイッチ自体が邪魔くさいのが玉に瑕だけど)
次の中間フォームがラビラビタンタンに近い各形態の強化フォームだから、最終フォームは両特性をフルパワーで扱えるのが望ましいねぇ
メモリはどうなるんだろ、『ブレイバーメモリ(勇者の記憶)』とかそんなんかしら?RPGで剣も魔法も扱えるのは勇者と相場が決まってるし
あれ、これタドルレガs
警察病院、集中治療室。超常犯罪捜査課の警官たちによって、厳重に警備されたこの部屋のベッドには、仮面ライダーが横たわっていた。そう、仮面ライダーが、である。
「このまま治療するのは無理ですよ!」
途方に暮れた医師が言った。
「手術も注射もできない…脈すら取れないのに!」
「今、変身を解除するのは不可能です」
リンカはきっぱりと言った。
「現在、彼の体内ではガイアメモリの力と、ドーパントの毒素が拮抗している状態です。このまま変身を解除すれば、彼の身を守るものが無くなり、即座に死亡します」
「そう言われても…」
ベッドに横たわり、苦しげに呻く仮面ライダーに目を遣る。
「えっと…力野さん、なんですね?」
『う…そ、そうです』
小さい声で、彼は答える。
「今、ご気分はどうですか。どのくらい苦しいですか」
『何とか、先生とお話しできるくらい…っ、ごほっ』
「徹、無理をしないで」
リンカが彼の肩に手を置く。
今、仮面ライダーが重体だと知れたら、敵からチャンスとばかりに刺客が送り込まれるだろう。そうなれば、今度こそ彼の命は無い。リンカにとって、彼を守るため、己が怪物となることに抵抗は無かった。しかし、またあのような惨劇を繰り返しては、他ならぬ彼自信が悲しむに違いなかった。それが、彼女は嫌だった。
「…必ず、手はあるはず」
「とにかく、ヒアリの毒について調べないと…」
その時、どこからか微かにメロディが聞こえてきた。
「誰だ、ICUに携帯持ち込んだのは…」
「! これは」
音の発信源は、病室から持ってきた徹の鞄、その中にある彼のスマートフォンであった。
『誰からか、書いてあるか…?』
「『藤沢』と」
『! 出て、俺の耳に当ててくれ』
言う通りにすると、彼は電話の向こうの人物と会話を始めた。それは、彼が馴染みにしている、雑誌の編集長であった。
”力野くん、今大丈夫?”
『は、はい』
”? 今、具合悪いの? また今度にしようか?”
『いえ、大丈夫…ご用件は?』
”大丈夫なら良いけど…ちょっと、仕事をお願いできないかなって”
『! どんな仕事ですか』
”インタビューを頼まれたくてね。今、ちょっとした話題になってる教育評論家なんだけど…”
こんな状態で仕事を受けるなんて、正気の沙汰では無かった。しかし、内容を聞く内、彼の中にある考えが浮かんだ。
故に、彼は言った。
『分かりました…お任せください』
「徹!? 正気ですか」
『ただ…その日、私どうしても外せない用事がありまして…信頼できる同業者がいるので、その人にお願いしようと思います。…ええ、報酬もそっちに振り込んでいただく形で…』
通話を終えると、彼はリンカの方を見た。
「まさか…」
彼は、頷いた。
『ああ。…どうしても引っ掛かったんだ。俺の代わりに、受けてくれるか?』
『蜜屋 志羽子 講演会 〜令和に愛を取り戻そう』
「…」
白い立て看板を、リンカは黙って見つめていた。
教育評論家・蜜屋志羽子。東都大学教育学部卒。北欧で先進的な教育システムを学び、帰国後は日本の教育制度改革を目指すが、その中で子供に対する大人の根本的な意識の違いに気付く。それを問題視し、改めるべく教育評論家として活動を開始。テレビや各種メディアに出演・出稿している他、私塾『愛巣会』を開設し、素行に問題のある児童の更生にも力を入れている。
「…確かに、引っ掛かる」
リンカは看板から目を外すと、会場へと足を踏み入れた。
蜜屋なる女は、聞く限りでは志の高い人物に思える。だがその一方で、と言うよりも、それ故に、彼女の思想は母神教と非常に相性が良いように思えた。恐らく、徹もそれが『引っ掛かった』のだろう。
「近年、児童虐待の件数は加速度的に増加しております。これは、市民の皆さまが虐待を見逃さず、通報するシステムが整ったこともあるでしょうが、虐待そのものが増えていることも紛れもない事実であります」
壇上でスライドを示しながら、淀み無く話す中年の女。黒い髪を後ろで結い、明るい灰色のスーツを着たこの女が、蜜屋であった。
「物理的、心理的、或いは性的虐待といった、直接的に危害を加える行為は言語道断です。しかし、そうでなくとも、現代の子供たちは人生のあらゆる場面において、行き場を失くしています」
会場の後ろの方で講演を聴きながら、リンカは漠然と、蜜屋に対して既視感を覚えていた。徹の家のテレビに映っているのは何度か見かけたことがある。だがそれ以上に、つい最近、彼女と直接相対したような、そんな気がしたのだ。
「外で遊べば『うるさい』と怒鳴られ、家に帰れば親は仕事でいない。保育園はパンクし、学校では過酷ないじめに曝されます。何より、子供たちに関わる大人たち自身が、既に疲弊し限界を迎えています。これは、いかに国や行政が、子供を軽視し、子供に関わる重要な役割を蔑ろにしてきたかを如実に示しています」
スライドに、一枚の姿見が映し出される。鏡の下には一人の幼子が座っていて、鏡面にはやつれて傷ついた一人の女が映っている。
「子供は大人の鏡、社会を映し出す鏡です。大人たちは、口を開けば『最近の若者は』と言いますが、その若者を作ったのは他でもない、あなた方であることを自覚していただきたい」
それから社会の現状、対策について述べ、表題にある『愛を取り戻す』ことについて話した後、彼女は自身の取り組みについて説明を始めた。
「『愛巣会』では、児童相談所だけでなく、お子様の成長に悩む親御さんからのご依頼にもお応えして、健やかな成長をサポートさせていただいております。勉強だけでなく、レクリエーションや地域への奉仕活動を通じて、互いを尊重する心、自分で考える強い意志を育むことを目標に…」
「嘘よ!!」
突然、会場から怒声が飛んだ。
「…日々、活動を続けています」
「あんたのせいで、うちのユウダイは…」
構わず講演を続ける蜜屋に、聴衆の一人が立ち上がった。それは、地味な服を着た40から50歳くらいの女であった。
警備員が駆けつけて、喚く女を外へと引きずっていく。隣を通り過ぎた女を横目に見ながら、リンカは密かに、その顔を記憶に留めた。
控室のドアをノックすると、中から「どうぞ」と声がした。
「失礼します」
控室に入ってきたリンカの顔を見て、蜜屋は一瞬、顔を強張らせた。が、すぐに元の柔和な表情に戻ると、予め用意してあったと思しき椅子に、彼女を座らせた。
「北風新報から来ました。円城寺リンカと申します」
「教育評論家と、愛巣会の塾長をさせていただいております、蜜屋です」
急拵えの名刺を、蜜屋は丁寧に名刺入れに仕舞った。
「よろしくお願いします。では、早速ですが…」
インタビューはつつがなく進んだ。蜜屋も、脇で見ていたマネジャーと思しき男も、リンカの仕事ぶりに対して、一切違和感を感じることは無かった。
最後に、リンカは尋ねた。
「失礼ですが…先程の講演の最中、先生に対して抗議なさった方がいらっしゃいました」
「そうですね」
蜜屋は、悲しげに首を振った。
「私の考え、行動については、必ずしも賛同を得られるとは思っておりません。あの方は、始めは私を信じて、大切な我が子を愛巣会に預けてくださいました。しかし、そこでお子様が得たもの、学んだことが、ご自身の期待したものと違っていたのでしょう」
「子供に求めるものに、食い違いがあったと?」
「ええ。私は、自分で考える力を重視し、あくまで言葉による指導を…」
その時、廊下の方で誰かが騒ぐ声がした。
「…行っております。しかし、生まれ育った環境によっては…」
彼女の言葉を遮るように、控室のドアが勢いよく開いた。
「蜜屋、志羽子…!!」
「君、止めなさい!」
「落ち着いて…」
2人の警備員を押し退けて、一人の女が足音荒く部屋に入ってくる。それは、先程蜜屋に罵声を浴びせた女であった。
「…朝塚さん。お話は後で伺いますから」
「ユウダイを、返して…!」
女は、目に涙を浮かべながら言うと……
『アコナイト』
「!?」
紫色のガイアメモリを、喉に突き立てた。
「う、あああああっっっ!!」
女の体が、紫の花びらに包まれる。その隙間から、灰色の根が伸び、蜜屋を襲った。
「…」
リンカは何も言わず立ち上がると、蜜屋の体を突き飛ばした。倒れた彼女のすぐ上を、鋭く尖った根が通り過ぎる。
「大丈夫ですか」
「…」
一瞬、蜜屋と目が合った。彼女の顔に浮かんでいたのは、恐怖や困惑ではなく、苛立ちであった。
しかし、彼女はすぐに、その表情を消した。
「あ、ありがとうございます。…」
立ち上がると、紫の花の怪人…アコナイトドーパントに向けて、叫ぶ。
「…何をするのですか! このような、恐ろしいこと…」
「お前が、お前があああっ!!」
根が、再び蜜屋に向かって飛んでくる。
「危ないっ…あ゛ああっ!?」
庇おうと飛び出した警備員に、根が掠った。たちまち彼は胸を押さえて苦しむと、その場に倒れて動かなくなった。
「『アコナイト』…トリカブトですか。蜜屋さん、窓から逃げてください」
「で、ですがあなたは」
「問題ありません」
リンカは、鞄からXマグナムを抜いた。蜜屋は頷くと、窓を開けて逃げ出した。
「他の方も逃げて!」ミサイル
言いながらミサイルメモリを装填すると、ドーパント目掛けて撃ち込んだ。
「どけ、どけっ! 邪魔するなっ!」
根を振り回し、抵抗するドーパント。あくまで、狙いは蜜屋一人らしい。リンカは、ワイヤーメモリに差し替えた。
「お断りします」
銀色のワイヤーが、ドーパントの体を拘束する。
「くうぅっ…離せぇっ…」
もがくドーパント。しかし、元々膂力は強くないのか、巻き付くワイヤーをちぎることができない。
やがて、彼女は諦めたようにその場に座り込んだ。その体から花びらが抜け落ち、ガイアメモリが排出されて床に転がった。
リンカは、女の前に跪くと、言った。
「…お話を、聞かせていただけませんか」
一方その頃、警察病院では、植木警部を中心に、隊列を組んだ警官たちが拳銃を構えていた。
「それ以上近寄るな! 撃つぞ!」
「撃ってみれば良いじゃん?」
病院の廊下を堂々と闊歩する、4人の蜂人間。
「どうせ居るんだろ? 仮面ライダーが!」
「カケルはホント良いやつだったよ。一番面倒い仕事をこなしてさ」
「しかも、手柄はオレたちに譲ってくれるときた!」
「う、撃てぇーっ!」
植木の号令に、警官たちが一斉に引き金を引く。
しかし、蜂人間たちはびくともしない。
「ひ、怯むな、撃てーっ!」
「うっとおしいなあ! 全員死ね…」
蜂人間の一人が、腕を振り上げたその時
___甲高い、歌声のような嘶きが、廊下に響き渡った。
「…何? いだっ!?」
蜂人間の腕に、何かが激突した。
「何だ?」
「仮面ライダー? まさか、もう復活して」
「あ゛ああっ!?」
困惑する蜂人間の胸に、何かがぶつかった。黄色い蜂の外骨格に、抉られたような大きな傷が付いている。
「だ、誰だ…?」
「クソっ、どいつもこいつも…」
警官隊とドーパントたち、双方が混乱する中、両者の間に降り立った者がいた。
「これは…」
それは、小さな一角獣を象った、一機のロボットであった。流れるような銀色のボディに、青いたてがみを生やし、赤い尾をなびかせている。
彼は歌うような声で嘶くと、金色の鋭い角を、ドーパントに向けた。
「な、何だこいつ…」
「仮面ライダーの、味方…?」
「はっ、こんなチビが、オレたちの邪魔なんて…」
嘲る声など耳に入らぬ。細い脚で床を蹴ると、小さな一角獣は、目にも留まらぬ速さで怪人どもに襲いかかった!
『Qを掴み取れ/親と教師』
誤爆
『Qを掴み取れ/親と教師』完
今日はここまで
(ギャグ回にしようかと思ったけど、強化フォームお披露目がギャグ回は流石に無いなと思った)
乙
「わたしの息子…ユウダイは、中学校の頃からよく分からない人たちと付き合うようになって…帰りが夜遅かったり、時々怖い人から電話がかかってきて、あの子を呼ぶんです。どうにか真面目なあの子に戻って欲しいと、愛巣会に入塾させました。ですが…」
北風署の取調室にて、朝塚は言った。
「最初は良かったんですが、だんだんあの子の口数が少なくなっていって。たまに言葉を話しても、『先生が』とか『成績が』とか、そんなことばっかり言うようになったんです」
彼女は俯くと、震える声で続けた。
「心配になって調べてみたら…愛だなんて、嘘ばかり。あの中で行われてるのは、教育なんかじゃない。洗脳です」
「洗脳?」
リンカが、オウム返しに問うた。その隣で、若い刑事がメモを取っている。
「蜜屋が、自分を頂点とした社会を作っているんです! 子供たちを、自分への忠誠心でランク付けして…挙げ句の果てに、あんなものまで持たせて!」
「あんなもの…ガイアメモリですか」
朝塚は頷いた。
「これを誰かに売りつけないと、自分は命が無いと、あの子が言ったんです! あの子が苦しむくらいならと、わたしが…」
「…」
リンカと刑事は顔を見合わせた。
「…分かりました。我々も適切に対処させていただきますので、一度留置所に戻っていただけますか」
刑事は立ち上がると、朝塚の腕を取って取調室を出ていった。
『はぁっ…くぅっ…』
ベッドの上で、仮面ライダーは苦痛に耐えていた。
ファイアーアントドーパントの流し込んだ毒が、命を奪うすぐ手前まで来ているのを感じる。
お見舞いに来ていた植木は、ついさっき慌てて病室を飛び出して行った。その原因が、病院に襲撃してきたドーパントだと知った瞬間、仮面ライダーは無理やりベッドから起き上がろうとして、床に転げ落ちた。医者や看護師に助け起こされながら彼は、せめてこの中に、自分の代わりに変身して戦える者がいないか、必死に目を凝らした。
リンカの言う通り、彼はファンタジーメモリの力で辛うじて毒に対抗している。ドライバーごと他人に譲渡すれば、自分は死ぬ。しかし、このまま倒れていては、いずれはこの場にいる全員の命が危ない…
「…誰だっ!?」
突然、医師が叫んだ。彼の視線の先では、硬く閉ざされた病室のドアが、外から激しく叩かれていた。
強烈な攻撃に、遂にドアにヒビが入った。
『誰、か…』
とうとう、仮面ライダーが口を開いた。
『ドライバーを、外して…』
「駄目だ、そんなことをしたら死んでしまうんでしょう!?」
『それでも良い…っ! 誰か、代わりに、仮面ライダーに』
「だが…そうしたら、彼女は…」
医師の言葉に、彼は仮面の中で唇を噛み締めた。
ドアに入ったヒビが広がり…遂に、大きな穴が空いた。
『逃げて…逃、げ…』
「…こ、これは…?」
病室に飛び込んできたのは、銀色の小さな一角獣であった。
「えっ…ロボット…?」
『? …!』
どうにか顔を上げた仮面ライダーと、一角獣の銀の瞳がぶつかった。一角獣はその場で膝を曲げると、大きく飛び上がった。
「うわっ!?」
『…』
その脚が折り畳まれ、背中から赤いガイアメモリが姿を現す。そこには、虫眼鏡めいた意匠で『Q』の文字が記されていた。
仮面ライダーはそれをキャッチすると、ドライバーに挿し込んだ。
『クエスト』
留置所で、朝塚は座り込んでじっと黙っていた。
逮捕はされたが、警察は蜜屋のことも調べると言ってくれた。今は、待つしか無い…
「…」
「…朝塚ユウダイは、とんだ落ちこぼれだったわ」
「!?」
後ろから聞こえてきた声に、彼女ははっと振り返った。
そこには、件の蜜屋志羽子が、邪悪な笑みを浮かべて立っていた。
「蜜屋っ…ど、どうしてここに」
ここは、北風署の留置所である。鍵も見張りもある部屋に、どうやって入ってきたのだろう。
見ると、見張りの警官は、格子の前で倒れている。
「優秀な運び屋がいるのよ。…それにしてもユウダイ。おつかいもこなせないだけでなく、預けたガイアメモリを、よりによって母親に売りつけるなんて」
「お前が…お前のせいで…!」
掴みかかった朝塚を、蜜屋は軽く一蹴した。
「ああっ!?」
「子が子なら、親も親。後先考えず、目の前の課題しか考えられないのは一緒ね。…折角だから」
蜜屋は、スーツのポケットから黄色と黒の縞模様のガイアメモリを取り出した。そこには、蜂の巣めいて並んだ六角形に、一匹の女王蜂が描かれていた。
「母親失格のあなたに、最期の授業をしてあげましょう。科目は、ガイアメモリの使い方」
『クイーンビー』
結った髪を解き、後頭部にメモリを挿入する。たちまち蜜屋の姿は、女性的な体型をした蜂の怪人へと変貌した。その体には、蜂の巣めいた六角形の装甲や、琥珀色の装飾、更には虹色の翅と、随所に高貴な意匠が施されていた。
「ひっ…」
後ずさる朝塚に、歩み寄る女王蜂。彼女は何処からともなく、紫色のメモリを取り出した。
「アコナイトメモリは、有効活用すれば町一つ簡単に滅ぼせる。今回は、あなたのような落ちこぼれにも、それが可能になるものを用意したわ」
そう言うと、更にもう一本、メモリを掲げる。しかしそれはまだプロトタイプらしく、外装も何もない、基盤と端子だけの代物であった。
「嫌…来ないで…」
「さあ…せいぜい、試作品の力を見せて頂戴」
朝塚を壁に追い詰めると、クイーンビードーパントはその顎を掴んで上を向かせた。そして、露わになった生体コネクターに、2本のガイアメモリを無理やりねじ込んだ。
「いやああっっ!! …あああぁぁあぁああぁぁっ!!」
「!?」
警察署から病院に戻ろうとして、リンカは立ち止まった。背後で轟く、女の絶叫を耳にしたからだ。
すぐに引き返した彼女が目にしたのは、警察署の奥から凄まじい勢いで伸びてくる、灰色の根と紫の花びらであった。
「な、何が…ああっ!?」
猛毒の根がすぐ横を掠め、リンカはバランスを崩した。見ると、建物にいた人々が一斉に外へと逃げ出している。逃げ遅れた人は、追い詰められるか、根に刺されて倒れている。
「このままでは…」
Xマグナムを抜き、ミサイルメモリを装填する。そのまま何度も引き金を引くが、爆破された側から根が伸びて、壁や床を埋め尽くそうとしていた。
そして遂に、リンカは受付カウンターの前に追い詰められた。
「…」
銃を構え、蠢く植物を睨む。彼女の頭の中では、この場を切り抜ける方法を探しながら、一方で半ば諦めに近い感情を覚えていた。走馬灯のように浮かぶのは、俺に任せろと言ってのけた力野徹の、精一杯強がった笑顔であった。
「…?」
おかしい。根が、動かなくなった。不審に思い、周囲を再度確認するリンカ。そして、警察署の入り口に、彼女は見た。
「…まだ、間に合うか?」
汗みずくの病衣の上から、ライダースジャケットを羽織り、ゆっくりと署内に踏み入ってくる、一人の男。
そしてその横を歩く、小さな一角獣。
「!」
「! リンカ、ここにいたのか!」
彼が、徹が駆け寄ってくる。不思議なことに、彼と一角獣の歩く道からは、毒の根は恐れをなすように離れていく。
「徹…っ!」
ほとんど無意識に、彼女は彼の胸に飛び込んだ。徹は驚いたように彼女を受け止めると、ぎこちない手で彼女の背中を叩いた。
「…悪い、待たせた」
リンカの体を離し、後ろを振り向く。
彼の目線の先では、根や花びらが一ところに集まり、人の形を形成していた。
「あ…あ、あああっ…ああああっ…!」
唸りながら、それはどんどん膨れ上がっていく。
「こいつは…」
「『アコナイト』…トリカブトのドーパントです。根は猛毒です。気をつけて」
「毒、か。…丁度良い!」ファンタジー!
徹は変身すると、魔術師の姿をとった。
「ああああっ! ああああああっっ!!!」
アコナイトドーパントが、巨大な腕を振り回した。それを空中に出現させた防壁で受け止めると、ファンタジーは片手を差し上げた。
『来い、『メモコーン』!』
すると、彼の足元に控えていた一角獣が、彼の掌の上に飛び上がってきた。
彼は小さな獣の背中を上から押し、細い脚を折り畳むと、後ろの脚をくるりと回転させた。すると、ジャックナイフめいて背中から赤いガイアメモリが飛び出してきた。
「あのメモリは…」
ファンタジーメモリを抜くと、代わりに赤いメモリを装填し、展開した。一角獣の体は、銀と赤のグリフォンの頭部に変形し、ドライバーと一体化した。
『クエスト』
ファンタジーの体を、赤い閃光が包み込む。光は肩や腕、そして頭部に収束し、深紅の装飾となった。
『俺は、仮面ライダーファンタジー…ファンタジー・クエストだ!』
右手を掲げると、赤と銀の杖が出現した。それを振るうと、ドーパントの動きが止まった。
『トリカブトの毒に、治療法は無い…だが、熱と圧力をかければ毒は弱くなる!』
杖から炎が迸り、もがくドーパントを包み込んだ。その球が、見る見る内に小さく縮まっていく。
やがて炎が消えた頃、ドーパント本体を包んでいた根や花びらは、焼け焦げて炭と灰になっていた。
『トドメはこっちだ…』
メモリを抜くと、クエストメモリを引っ込め、今度は一角獣の角を回転させた。すると、今度は首から青いメモリが現れた。こちらにはシャムシールめいて『S』の字に湾曲した、、一振りの剣が描かれていた。
青いメモリを装填し、展開する。今度はユニコーンの頭部となってドライバーと合体した。
『セイバー』
ファンタジー姿が騎士に変わる。その鎧には、青い綺羅びやかな装甲が追加されていた。
杖が変形し、銀と蒼の長剣に変わる。
『仮面ライダーファンタジー・セイバー…!』
長剣の鍔を、ドライバーの前にかざす。
『セイバー! マキシマムドライブ』
『セイバー・ジャスティスラッシュ!!』
青い剣閃が、ドーパントを一刀のもとに切り裂いた。
「あ、ぁ…」
灰の中で、一人の母親が倒れた。その喉から、紫色のメモリと、壊れた基盤が吐き出された。
「あれは…?」
リンカが手を伸ばすより先に、それは紫のメモリと共に、粉々に砕け散った。
『Qを掴み取れ/小さな英雄』完
今夜はここまで
あと、これから更新頻度が落ちます
『アコナイトドーパント』
『トリカブト』の記憶を内包するガイアメモリで、主婦の朝塚が変身したドーパント。紫色の花びらと、灰色の根に覆われているが、本体は緑の細い茎のような形をしている。実際のトリカブト同様、全身が猛毒であるが、特に根に強力な毒を持っており、これで刺されたり、掠っただけでも生身の人間なら即死する。また、花びらを空中に散布して不特定多数の人間を毒殺することも可能。ただし、蜜屋への復讐だけが目的の朝塚はこの力は用いなかった。
蜜屋以外の人間をできるだけ害したくなかった朝塚であったが、他ならぬ蜜屋の手によって、このメモリと一緒に試作品のX_t___メモリをねじ込まれ、無差別に人を毒殺する凶悪な怪物へと成り果ててしまった。
メモリの色は紫。正面から見たトリカブトの花がアルファベットの『A』に見える。
ガーディアンメモリ
守護者の記憶が内包されたメモリ
その最大の特徴は使用者のなにかを護りたいという気持ちが強ければ強いほど力を発揮する
また護りたい対象が具体的であれば更に力を増し、対象は人物だけでなく物や場所にも及ぶ
「乾杯」
そう言って徹とリンカは、缶ビールを打ち合わせた。
ちゃぶ台の上には、漆塗りの豪勢な寿司桶が鎮座している。リンカが、徹の快気祝いにと出前を取ってくれたのだ。本当は、植木が彼らにご馳走すると言っていたのだが、アコナイトの件で北風署が大きな被害を受けてしまい、それどころでは無くなってしまった。
「何か、悪いな。こんな高そうな飯用意してもらって」
「植木警部から、資金は頂いてます。差額は財団の経費で落ちますので、ご心配なく」
「そ、そうか…」
平然というリンカに、少し恐縮しながらも、彼は玉子を取って醤油につけた。
彼らの足元には、銀色の小さな一角獣が座っていて、静かに眠り込んでいる。
「こいつも、何か食わないのかな」
それを眺めて、ぽつりと零す徹。
彼の名はメモコーン。リンカが財団Xに要請した、追加支援の内容がこれであった。今はペット型ロボットのように自律して動いているが、その体には2本のガイアメモリが内蔵されており、徹の変身する仮面ライダーに新たな力を授けるのだ。
「メモコーンに食事の必要はありません」
「そうは言ってもなぁ…」
玉子の端をちぎって、メモコーンの鼻先に差し出してみる。
「ほれ、食うか」
ところが、メモコーンは少し頭を上げると、ぷいと顔を逸らしてしまった。彼はそのまま立ち上がると、リンカの足元へ移動し、そこでまた眠りに戻った。
「な、なんかコイツ、リンカの方に懐いてないか…?」
「恐らく、『ユニコーン』のガイアメモリが部品に使われているのでしょう。一角獣は、処女を好むと聞きます」
「なるほど……ん?」
「私には性交渉の経験が無いので、メモコーンが」
「わ、分かった! もう良い、分かったから」
慌てて止めると、彼は寿司桶を彼女の方へ押しやった。
「ほら、あんたも食べてくれよ」
「そうですか」
リンカは頷くと、鉄火巻きを箸でつまんだ。徹もマグロを口に入れながら、漠然と何か足りないような感覚を覚えた。とは言え、それが何か大変なことになるという気はしない。彼は無視して、目の前のご馳走を堪能することにした。
一方その頃。徹の住むアパートに寿司を配達した若い板前が、空き地にミニバイクを停めて黄昏れていた。
「はぁ…来る日も来る日も、配達ばかり…」
寿司屋に弟子入りして、もう4年になるというのに、一度も包丁を握らせてもらえないのを彼は嘆いていた。大将は何を考えているのだろう。自分には、素質が無いのだろうか。そんなことを考えながら、バイクのシートでぼんやりと夜空を眺めていた。
「…」
「お〜に〜い〜さんっ」
「っ!?」
耳元で囁く声に、彼は飛び上がった。振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。何やら生臭い匂いのするジャケットを羽織った少女は、彼に悪戯っぽい笑みを向けた。
「元気無いね、どうしたの〜?」
「…どうだって良いだろ」
「当てよっか。…折角、修行して立派なお寿司屋さんになりたいのに、いつまで経っても雑用ばっかり。自分、向いてないのかなぁ〜? なんて」
「っ、お前に何がっ…!」
「コツコツ努力なんて、向いてない向いてない。君に必要なのは…」
言いながら彼女は、何処からともなく黄緑色の小さな機械を取り出し、彼に握らせた。
「…こっち。使ってごらん、君が、本当に必要なものが分かるかも」
それだけ言うと、少女はさっさとその場を立ち去ってしまった。
取り残された板前は、恐る恐るその機械を、電灯の下にかざした。そして、表面に付いたボタンを押した。
『ワサビ』
そうです。ギャグ回です。
親子丼は強かったし食べ物系は強いかも?
ソイソースメモリ持ってこないと
携帯の着信音で、徹は目を覚ました。はっと外を見ると、まだ暗い。時計は午前4時を指していた。
「な、何だこんな時間に…」
「植木警部からのようです」
枕元には、既に外出の準備を整えたリンカが立っていた。彼女が差し出したスマートフォンを受け取ると、彼は耳に当てた。
「何ですか? ドーパントですか?」
”そうだ”
「!」
冗談半分に訊いたのに、間髪入れずに肯定されて、徹は一気に頭が醒めた。
「ど、どこに」
”吹流4丁目の空き地だ。周囲に、毒ガスを撒き散らしているらしい”
「4丁目!?」
吹流4丁目と言えば、このアパートのある一帯だ。徹は通話を続けながら、カーテンから外を窺った。
「と、とにかく向かいます。警察の皆さんは、住民の避難を」
”既に向かっている。君も、気を付けて向かってくれ”
徹はアパートを出ると、ドライバーを装着してバイクに跨った。タンデムシートにリンカが座ると、メモコーンも後からついてきた。
「やっぱりこいつ、リンカがお気に入りじゃねえか…変身」ファンタジー!
『…ま、良いか。しっかり付いてこいよ!』
ファンタジーはアクセルを吹かした。鋼鉄の白馬が、明け方の住宅街に鋭く嘶いた。
走り始めると、すぐに彼は違和感に気付いた。
『何か…空気がおかしいぞ』
「…」
後ろのリンカは、黙ったまま彼の腰にしがみついている。その様子にも何か違和感を感じて、ファンタジーは心の中で首をひねった。
空き地の数十メートル手前で、警察がバリケードを張っていた。
「…あっ、お疲れ様です!」
警備に当たっていた警官が仮面ライダーに気付き、敬礼した。
『どうも…これは、一体?』
バイクを降りながら尋ねる。植木が毒ガスと言っていたように、彼もマスクを数枚重ねて着用していた。
「向こうでドーパントが暴れて、と言うか、何かを撒き散らしているようで…ジョギングしていた男性が、それを浴びてしまい」
警官の指す方を見ると、ブルーシートの上で高齢の男性が目と鼻を押さえてのたうち回っていた。むせながら、「は、鼻が…」とうめいている。
『毒か…リンカ、どう思』
振り返って、ぎょっとした。
リンカは、真っ赤に腫れた目で、助けを求めるように彼を見つめていた。しかも、大粒の涙をぽろぽろと零している。
『ど、どうしたんだ!?』
「…駄目です」
『何が』
「私は、これが非常に苦手です」
『苦手…? とにかく、そこにいてくれ』
ファンタジーはそう言付けると、バリケードを越えて空き地に入った。
『ドーパント、観念しろ!』
「…! 仮面ライダー…」
空き地の真ん中で、両腕を広げて天を仰いでいたドーパントは、ファンタジーの存在に気付くと顔をそちらに向けた。
黃緑色の、ごつごつした体をしており、頭に当たる部分からは濃い緑色の茎と葉が伸びている。モチーフは植物のようだ。モアイ像めいて横に開いた口と思しき穴からは、呼吸に合わせて白い煙が細々と立ち上っていた。
ファンタジーは剣を出現させると、両手に握ってドーパントに向けた。
『メモリを捨てて、自主しろ』
「い、嫌だ…」
ドーパントは後ずさると…いきなり、白い煙をファンタジー目掛けて噴射した。
「喰らえーっ!!」
『うわっ、何だこれ!?』
煙を顔に浴びてしまい、ファンタジーは怯んだ。更に次の瞬間
『……あ゛っ!? こ、これは…ごほっ』
突き刺すような冷たい刺激が、彼の鼻と喉を襲った。仮面の奥で涙が溢れ、視界が歪む。と同時に、彼は今まで感じてきた違和感、それも、昨夕寿司を食べていた時のものに至るまで、全ての正体を理解した。
『これっ…ワサビかっ!!?』
「寿司なんて…寿司なんてーっ!」
叫びながら、ワサビドーパントが突進してきた。彼は、ワサビの根のような指を突き出すと、ファンタジーの顔に擦りつけた。
騎士の兜に指先がすりおろされ、ファンタジーの目や鼻を襲う。
『あ゛あっ! やっ、やめろっ…お゛えっ、ごほっ』
凄まじい刺激に、ファンタジーは腕を振り回して抵抗する。ワサビドーパントとはふざけた敵だが、この刺激は純粋に恐ろしい。何しろ、目と鼻が潰される上、呼吸もままならなくなるのだ。
とうとう、ファンタジーは地面にうずくまった。
『うっ…げほっ、ごほっ…』
「や、やった…仮面ライダーを倒したぞ…」
頭上で、ワサビドーパントの声がする。
「この力があれば…おれだって…うわあっ!?」
ところが、その言葉は途中で遮られた。向こうの方から、リンカの叫ぶ声がする。
「メモコーン! 彼を助けて!!」
うずくまるファンタジーの肩を、一角獣の角が手荒く突いた。
『っ、分かってる!』
ファンタジーはそれを受け取ると、変形させ、赤いメモリをドライバーに装填した。
『クエスト』
ファンタジーが、白い法衣に赤い装飾を纏った魔術師の姿となる。彼の視界が、一気に開けた。
『はあっ…ワサビの辛さは、揮発性だ…熱すれば、飛んでいく…!』
よろよろと立ち上がると、おののくドーパントを真っ直ぐに睨んだ。
『お前が何を恨んでるのか知らないが…こんな力で人を害するのを、見逃す訳にはいかない!』
赤と銀の杖を振りかざす。
『大人しく、メモリを』
「嫌だっっ!!」
ドーパントが叫んだ、次の瞬間
『あああっ!?』
その体中から、濃い白色の煙が噴き出した。今なら分かる。それは、細かくすりおろされた、ワサビの粒子であった。
『あっこらっ! 逃げ、げえっ、え゛ほっ…』
熱で刺激を無効化しようとする間に、ドーパントの姿は白い煙の中に消えてしまった。
もう、夜も明けてきていたその頃。ワサビ怪人に苦戦する仮面ライダーの姿を、物陰で見ている者がいた。そう、あの若い板前にワサビのガイアメモリを渡した、例の少女である。彼女は目と鼻を分厚いタオルで覆っていたが、周囲の様子を正確に把握しているようであった。
「へぇ〜、小バエから奪ったメモリにしては中々やるじゃ〜ん」
少女…ミヅキの服は、血で汚れている。今まで着ていた白のロリータ衣装とは違うこの服は、メモリの密売人から奪ったものであった。
仮面ライダーに雁字搦めにされたところを、女王蜂のドーパントに救われた。しかし女王蜂は、彼女を『お母様』の下へは返さず、鎖さえ解かずに自分のところに監禁していた。そうしてミヅキの接触した仮面ライダーの変身者について聞き出そうとした。しかし、彼女は何も覚えておらず、呆れた女にそのまま放置されていた。つい先日、他から情報を手に入れた女に、思い出したように解放されたが、それまで彼女は、一度もトイレに行くことができなかった。
彼女は汚れた服を捨てると、裸で街を徘徊した。そうしてメモリの密売人を発見すると、襲撃し、服と売り物のメモリを強奪した。そうして、自身のガイアメモリを取り返すべく、行動を開始したのであった。
「…それに、あたしのメモリを奪ったやつも見つけた。もうちょ〜っと、良いところに行ってくれないかな〜…?」
呟きながら彼女は、目が塞がった状態のまま、正確にワサビドーパントを追いかけ始めた。
密売人を襲ったとき、当然彼らはホーネットメモリで応戦した。しかし、極限以上にメモリを使い込み、生身でも超人的な力を発揮するようになっているミヅキには、練度の低い雑魚ドーパントなど敵ではなかった。
『Wのから騒ぎ/意外な弱点』完
今日はここまで
乙
『北風町』
風都に隣接する、人口3万人弱の町。企業のオフィスを多く有する風都のベッドタウンとして機能している一方で、街のイメージダウンに繋がるとして、風都が条例で禁じたもの、例えば産業廃棄物の処理施設や、風俗店などが押し付けられる形でこの町に集中している。そのため、この町で生まれた人間は風都に対して良い感情を持っていないことが多い。
内陸に位置しており、海は無いものの、町の北側を占める山からは川が流れており、地下水も豊富。住宅街の建設で以前より大幅に減少したものの、今でもこの地下水を利用した、野菜や特産品の蕎麦栽培が盛ん。名物はかけ蕎麦に白髪ネギをどっさり盛って、おろし生姜を添えた北風蕎麦。住宅街の片隅にぽつりと建つ蕎麦屋『ばそ風北』は、根強いファンの多い隠れた名店。
ミュージアムは、この北風町にもガイアメモリ製造工場を建設した。ミュージアム壊滅後も工場は稼働しており、風都近辺にいた密売人の残党がこの町に集まってきている。また、何処からともなく現れた新興宗教『母神教』と結びついて、この町にガイアメモリ汚染を広げている。
___この街には、いつも冷たい風が吹く。
「…あんた、ワサビ駄目だったんだな」
「…はい」
今まで見たことのない暗い顔で、リンカは頷いた。
北風署の応接室。現場から二人を案内した坂間という刑事は、容疑者の情報を入手しにどこかへ行ってしまった。
昨日、寿司を食べながら徹が感じた違和感。それは、全ての寿司にワサビが入っていないことであった。
「私は基本的に食に関して、知識はありますが特に関心があるわけではありません。これと言って嫌悪する食材もありません。が…」
「ワサビは食えない、と」
「…はい」
俯いたまま涙ぐむリンカを、徹は慌てて慰めた。
「いや、そんな気にするなって…誰だって、好き嫌いの一つや二つあるだろ。それに、最近はワサビ嫌いな大人も多いって聞くし…」
「…徹は?」
「…俺はイケるけど」
「…」
この世の終わりのような顔で、ローテーブルの上を凝視するリンカ。徹はおろおろしながらそれを見ていた。
そこへ、坂間が戻ってきた。
「現場に残された宅配用バイクの持ち主が割れた……ん? どうしたんだ、二人共?」
「あっ、いや、気にしないで」
「そう…?」
彼は2人の向かいに腰を下ろすと、数枚の書類と写真をテーブルに広げた。
「バイクは北風町にある、『潮風寿司』という寿司屋のものだった。大将の話では、昨日の夕方に寿司の出前に行った若い板前が、まだ戻ってきてないらしい」
「…えっ?」
「その板前、どこに寿司を運んでたと思う?」
大真面目な顔で問うてくる坂間に、徹は唾を呑んだ。
「…ウチ、です」
「そう、メゾン・ド吹流202号室。つまり力野徹宅、あんたの家だ。…」
彼は、顔写真の添えられた1枚の紙を取り上げた。
「生島彰二、22歳。18歳の頃に潮風寿司の店主に弟子入りし、修行してきた。だが、4年経った今でも寿司の皿洗いと配達しか任されなかったらしい。あんた、顔見たんだろ?」
「見はしましたけど…」
顔写真と、昨夜の記憶を比較し、彼は首を横に振った。
「玄関先で、一瞬だけだったので…」
「その時はガイアメモリによる中毒症状らしきものはありませんでした。恐らく、帰宅途中に密売人と接触し、メモリを入手したものと思われます」
「どうだか…」
疑わしげにリンカを見る坂間。どうにもこの刑事、彼ら2人のフリー記者には良い感情を持っていないようだ。
「ま、大将への恨みが原因なら、近い内に寿司屋に現れるだろう。もう警備は送ってあるから、何かあったら連絡する」
そこまで言うと、彼はもう帰れと言わんばかりに部屋の出口を視線で指した。
2人は、軽く会釈して立ち上がり、警察署を後にした。リンカはもちろん、力野も気にする様子はない。得体の知れないフリー記者を好む人種なんて、地球上にいるはずがない。この程度の扱いは、彼にとって日常茶飯事であった。
「そんな、とんでもねえ」
リンカの差し出した封筒を、潮風寿司の大将は固辞した。
ワサビドーパント…恐らく生島が、ご丁寧に受け取った代金を持って逃げていたため、店に寿司代が支払われていなかったのだ。
潮風寿司。北風町にある老舗の寿司屋で、店内での食事はもちろん、出前も受け付けている。老舗ながら新しいものも積極的に取り入れるスタイルで、趣向を凝らした寿司は若者にも人気があった。
「ウチのもんが迷惑かけたってのに、金なんて貰うわけにはいかねえよ」
「いえ、そう言わず」
「災難はお互い様ですから」
二人がかりでどうにか封筒を握らせると、徹は警備に当たる警官をちらりと窺い、それから大将に尋ねた。
「あれから、店に何か連絡は」
「何もねえ」
大将は、溜め息を吐いた。
「…あンの馬鹿野郎。ここんとこ仕事に身が入ってねえと思ってたら、こんな悪いことしやがるなんて…」
「生島さんは、ここに就職して4年だそうですね」
「ああ。ショージの奴…魚触れねえからって焦ってやがったが…」
「失礼ですが、雑用ばかりだったと」
「雑にやるから雑用なんだ。掃除、皿洗い、配達…やりようで、そこから学ぶことがたーくさんあるってのに、それが奴には分かってなかった」
「なるほど…」
職人の世界には疎い徹であったが、生島の勤務態度には大将も思うところがあったようだ。
「何より…サビ抜きで握る俺を見て、鼻で笑いやがった。送り出す前に、そいつを説教したんだ。そしたら、こんなことになっちまって」
「…」
気まずそうに視線を逸らすリンカ。大将は、悲しげに顔を覆った。
「…何がいけなかったんだろうな」
「とにかく今は、彼が現れるのを待ちましょう」
徹は、励ますように言った。
数時間後、警官のトランシーバーから声がした。
「はい、こちら現場前…えっ、北風署に!?」
「何があったんですか」
徹が尋ねると、彼はパトカーに向かいながら答えた。
「例のドーパントが、北風署に現れたと」
「えっ、そっちに!?」
「とにかく、向かいましょう。力野さんも」
「はい。…」
パトカーに乗り込もうとした徹の後ろから、突然、大将が叫んだ。
「…おい、俺も行くぞ!」
「すみません、危険なので…」
「だが、奴は俺のとこのもんだ。俺が行かなくてどうする!」
「…行きましょう、大将」
徹は後部座席に座って、手招きした。そうして、リンカに向かって言った。
「リンカ、ここに残ってくれるか」
「…はい」
小さく頷くリンカ。2人の警官と、徹、そして潮風寿司の大将を乗せ、パトカーはサイレンを鳴らしながら走り出した。
徹たちが到着した頃、北風所では既に多くの職員や警官が逃げ出しているところであった。
パトカーを降りた瞬間、あのツーンと来る匂いが彼らの鼻を突き刺した。
「くっ…早速やってるな」ファンタジー!
『今度はヘマはしないぞ』クエスト!
変身し、署内に踏み入ると、白い煙の中にワサビの怪人が立ち尽くしていた。
『おい! もう逃さないぞ!』
赤と銀の杖、クエストワンドを振りかざすと、周囲の煙が一気に晴れた。
襲撃者の存在に気付き、ワサビドーパントがこちらを向いた。
「やっぱり来たか、仮面ライダー…っ!?」
「俺もいるぞ」
仮面ライダーの後ろから、ゆっくりと進み出た大将に、ドーパントが明らかに狼狽の色を見せた。しかし、すぐに持ち直すと、強がるように言った。
「はっ、わざわざ縁を切りに来たのかよ。丁度良い…」
「こンの、大馬鹿野郎が!!」
突然、大将がドーパントを一喝した。
「こんな、訳の分からねえ姿になって、人様に迷惑かけやがって……何より山葵を、人を傷つける道具にしやがった!!」
「だから何だ、あんたに言われたくはない!」
ドーパントも、負けじと声を張り上げる。
「大体何だよ、サビ抜きなんてお子様舌に媚びやがって! 他にも、訳分かんないネタなんて握ってんじゃねえか! 何がアボカドだよ、何が…」
「だからてめえは、いつまでも雑用なんだよ!!」
『ちょっ、大将』
止めようとするファンタジーを振り切って、彼はドーパントに掴みかかった。
「昔ながらの型に嵌まるだけが寿司じゃねえ! お客の好み、時代の流れは変わっていくんだ。それに応えてこそ、食べる人を喜ばせることができるんだろうが!」
細い首を掴み、激しく揺する。
「てめえはよぉ! 配達に行く時に、寿司を受け取るお客の顔を、よく見たことがあるかよ! 寿司桶の中身を覗くお客の表情に、注意を凝らしたことが、一度でもあるのかよ!? 今運んでる寿司をどんな人が食べるのか、何が好みか、山葵は大丈夫か…4年の間、てめえは一度でもそれを考えたことはあるのかよ!!」
「…っ」
「寿司が寿司屋を創るんじゃねえ、俺たち寿司屋が、寿司を握るんだ。…それを食べる人の、”美味い”って幸せを創るんだよ!!」
「…う」
大将の言葉に、ドーパントは震える声で何か呟いた。
「…どうした、何か言ってみろ」
「…うあああああっっ!!!」
突然、ドーパントが絶叫した。叫びながら、ワサビの煙を体中から噴き出した。
『大将、危ない!!』
咄嗟に防壁を展開するファンタジー。ところが、大将は動じず、唸るように言った。
「効かねえ…使い方を弁えねえ山葵なんて、これっぽっちも効くかよ…!」
『大将、もう逃げるんだ!』
ファンタジーは彼の体を掴むと、警察署の外に向けて放り投げた。杖を振ると、大量の白と赤の羽毛が噴き出して、大将の体を受け止めた。
『…もう、諦めろ』
彼は、クエストワンドをドライバーの前にかざした。
『クエスト! マキシマムドライブ』
白いマントが翻り、彼の体を包み込む。次の瞬間、ファンタジーは白と赤のグリフォンの姿となり、空中へ舞い上がった。
『クエスト・ラストアンサー!!』
白と赤の流星が、ワサビドーパントを貫く。
「ぐ、ああああっっ!!」
ワサビドーパントの体が爆ぜた。
爆炎が収まったとき、そこには一人の青年が立っていた。彼は、再び駆け寄ってくる大将を見ると、涙を流した。
「大将…おれ…」
「…もう、懲りただろ」
倒れ込む青年の体を、彼は抱きとめた。左の掌から黄緑色のガイアメモリが抜け、床に落ちて砕けた。
「罪を償って、帰ってきたら…寿司を握って、食わせてやるよ。お前に必要なものが、少しでも分かるように…」
『ひとまずこれで、一件落着…』
そこへ、一人の警官が駆け込んできた。
「大変です! 寿司屋の方で、リンカさんが…」
寿司屋のカウンターに座って、リンカは考え込んでいた。
「ワサビ…それに、先日のアコナイト」
これらのメモリは、財団のリストにもある、ミュージアムが作ったガイアメモリだ。思えば、新造メモリを使っていたのは、工場の長に、今まで意識不明だった筈の密売人と、状況が特殊な人物たちだ。まだ売買の対象にはなっていないのかも知れない。それに何より、アコナイトと一緒に挿入された謎のプロトタイプ…
「! もし、あのワサビドーパントにも同様のメモリが使われていたら」
徹が危ない。そう思い、立ち上がったその時
「はい、プレゼント〜」
「なっ……ん゛っ!?」
彼女の視界が、緑に染まった。と思う間もなく、彼女の嫌うあの感覚が、鼻を突き抜けた。
「う゛っ…あ゛っ、え゛ほっ…」
「特製のワサビパイ、良いでしょ〜」
「その声っ…うぐっ」
彼女の顔に張り付いているのは、夥しい量の練りワサビであった。どうにか拭い取ろうとする彼女の腹に、膝蹴りがめり込んだ。
「がはっ…」
倒れ込むリンカ。声の主は、彼女を一度無視して、彼女の所持する鞄を漁り始めた。
「ちょ〜っとエッチしてあげたら、馬鹿みたいに言う事聞いたね、あのワサビくん。ま、警察にあたしのメモリがあるなんて思ってないけど…」
目当てのものを見つけたらしく、笑い声が聞こえた。
「あはっ、あった!」
それから彼女はリンカの体を掴んで引き起こすと
「…ついでだし、君にはも〜っと苦しんでもらおうかな〜」
更に山盛りの練りワサビの盛られた皿を、顔に叩きつけた。
「あ゛っ、あ、がっ…」
皿を外すと、リンカの目や鼻に、執拗にワサビを塗り込む。
「あはははっ! いつも澄ました顔してるくせに、ワサビ一つでこ〜んなに可愛くなっちゃう!」
突き刺すような刺激に呼吸もできなくなり、とうとうリンカは床に崩れ落ちた。
「あはははっ、ははっ…はははははっ…」
ひとしきり笑い転げた後、ふっと彼女は笑みを消し、そして言った。
「…じゃあ、死ね」
ズボンを下ろし、取り返したメモリを太腿のコネクターに挿そうと振りかざす。と
『そこまでだ!!』
「…チッ」
そこへ飛び込んできたのは、仮面ライダー。しかも、見たことのない姿をしている。彼女は舌打ちすると、近くにあった窓を飛び蹴りでぶち破り、そのまま外へと逃げ出した。
『ああクソッ…リンカ、大丈夫か』
仮面ライダーが、倒れるリンカを抱き起こす。彼女は目を真っ赤に泣き腫らしながら、口角を吊り上げた。
そして、掠れた声で言った。
「ええ…心配、いりません」
公園の身障者用トイレに入ると、ミヅキは歓喜の声を上げた。
「やった〜、やっと取り返した…」
その手に握られているのは、ピンク色のガイアメモリ。ラメやスパンコールでデコレーションされたそれには、両耳をぴんと立てた兎の頭部が描かれている。
「これで、お母様のもとへ帰れる…」
言いながら、メモリのスイッチを押す。
『false』
「…ん?」
不審に思い、もう一度スイッチを押す。
『false』
「あ、あれ? これ、あたしのメモリだよね…?」
『false』
何度も押していると、突然、メモリから耳をつんざくモスキート音が流れ出した。
「あ゛あっ、ああああっ!?」
メモリの影響で強化された聴覚に、不快な音声が大音響で突き刺さる。耳を塞いでのたうち回るミヅキの鼻先で、落としたメモリがパンと音を立てて弾けた。中に入っていたのは、『false:偽』と書かれた紙切れ。
「う…ああああああっ!! クソクソクソクソクソぉぉっ!!」
ミヅキは叫びながら、偽メモリの残骸を両足で何度も踏みつけた。それから、やおらトイレの手すりを蹴り折ると、ズボンと下着を脱ぎ捨てて自らの股間に無理やりねじ込んだ。
「ああああっ! クソッ! あっ! ああああっ!」
女性器から血が出るのも構わず、彼女は怒りに任せて、乱暴な自慰行為を続けたのであった。
『Wのから騒ぎ/幸せを握る人』完
今日はここまで
ギャグ回って言った割にギャグが面白くないという
ジオウの映画はよ見たい
オーマフォーム見たいよおおおお
『ワサビドーパント』
『山葵』の記憶を内包するガイアメモリで、寿司職人見習いの生島彰二が変身したドーパント。緑のごつごつした体に、頭からは濃緑色の茎と葉が生えている。自身の体を微粒子化して煙のように飛ばしたり、手を相手の顔に擦り付けることでワサビ独特の『ツーン』とくる刺激を与えるという、恐ろしいドーパント。あくまでワサビの刺激に過ぎないので、まともに喰らっても毒性は無いが、気道への刺激で呼吸ができなくなり、窒息死する危険性は否定できない。
生島は比較的内気な青年であったが、内心ではワサビを食べられない客を見下したり、積極的に新しいネタを取り入れる大将に疑問を抱いていた。また、加えて大将に認めてもらえない劣等感がメモリの毒性によって増幅され、極めて攻撃的なドーパントとなってしまった。
メモリの色は黄緑。山葵の地下茎と、それをすりおろした軌跡で『W』の字が描かれている。
NOTメモリさえあれば……
方向性決めとかないとダレそうだな
↓1〜3で多い方 どっちから進める?
①ミヅキルート
②蜜屋・真堂ルート
1
不遇なミヅキちゃん用に新ガイアメモリ案
ラストメモリ
7つの大罪の一つ「色欲」の力を宿す女性専用の強力なメモリ
芳香により周囲の人間に対して劣情を抱かせて支配する能力を持つ
(男性なら使用者を抱くためなら何でもする肉人形に、女性ならお姉様と呼んで盲目的に従う妹になる)
強力なメモリではあるが毒性も強く、使用者の精神を侵食しハーレムを作る事が目的とさせてしまう
ラビットからの派生でここまで考えてたけどラビットはRでラストはLだったわ・・・
あ、1でお願いします
(心配しなくてもミヅキちゃんの強化メモリはもう考えてある)
というわけでミヅキルートですね
「マリマリ☆ちゃんねる〜!」
斜め上に持ち上げたハンディカムに向かって、ピンクのゴスロリ服を着た少女は笑顔で手を振った。
「…えー、今日は、自販機のルーレットで当たりが出るまでまし、回したいと、思いまーす」
ちらちらと辺りを窺いながら、一台の自販機のもとへ歩いて行く。
「えっと…ここなら、迷惑にならないかな…お小遣い、全部小銭に変えてきたからね。今日は絶対当てるよ…」
たどたどしい口上を取り繕うように、カメラに向かって笑顔。と、こちらに向けた小さな画面に、誰か別の人間が映り込んでいるのに気付いた。
慌てて口を閉ざす。ここは編集だ。面倒臭いけど、また撮り直さないと…
ところが、映り込んだ人物…自分とそう変わりない年頃の少女は、画面内から去ろうとしない。それどころか、衣麻理に向かってすたすたと歩いてくるではないか。
「…っ、な、何ですか」
振り返った衣麻理。彼女が抗議しようとした瞬間、そのこめかみに飛び回し蹴りが突き刺さった。
「いだいっ!?」
コンクリートの上にひっくり返る衣麻理。少女はその頭に足を乗せると、ぐりぐりと踏みつけた。
「やだっ…やめてっ…」
「服、脱いで。あたしに頂戴」
「え…?」
呆然と聞き返す彼女の顔を、少女は爪先で蹴り上げた。
「痛いっ! わかった、分かったから許してっ!」
衣麻理は起き上がると、ゴスロリ服のボタンに指をかけた。誰か通りかからないかと期待して、辺りを見回すが、人気はない。彼女自身が、そういう場所を選んだのだから。
「ブラとパンツも頂戴」
「嘘でしょ…」
ファスナーを下ろす手が止まった瞬間、向う脛を思い切り蹴られた。
「いやあっ! 許して、ごめんなさいっ…」
華やかなワンピースドレスを脱いだ彼女は、震える指で地味なブラのホックを外した。
「っ…ひぐっ…」
泣きながらショーツを下ろす。それを確認すると、何と少女まで、自分が着ているストリートめいた服を、全て脱ぎ始めた。
「ひっ…えぐっ…」
両手で胸と股間を庇う衣麻理の前で同じく裸になると、少女は恥じらう様子もなく、自分が着ていた服を蹴って渡した。
「もういらないから、あげる」
「ぐすっ…あ、ありがとう、ございます…」
地面に屈み込み、拾おうとする彼女の背中に足を載せると、少女は言った。
「ついでに、これもあげる」
何処からともなく取り出した拳銃めいた機械に、綺羅びやかなガイアメモリをセットし、丸出しの尻に押し付けた。
「あ痛゛っ!」
右の尻たぶに、黒いコネクターが刻まれる。その横にメモリを放り捨てると、少女は強奪した服を拾い、素っ裸のままでその場を去っていった。
短いけどひとまずここまで
出てくるメモリのアルファベット被りすぎ問題
『ばそ風北』の暖簾をくぐった徹は、あまりの人の多さに仰天した。
「うわっ、今日は大盛況だな…」
確かにここの蕎麦は美味いし、密かなファンの多い店ではあるのだが、あくまで隠れた名店といった立ち位置で、ここまで人が詰めかけることは今まで無かった。
よく見ると、カウンターの周りに人混みができている。皆、蕎麦と言うよりはカウンターに腰掛けて蕎麦を食する人物が目当てのようだ。
カウンターの手前で右往左往していると、奥にいる店主と目が合った。手招きされて台所の入り口に来ると、彼は開口一番「今日は、彼女と一緒じゃないのかい?」などと訊いてきた。
「別の仕事が入ってるんだ。…って言うか、彼女じゃないって」
彼女と言うのはもちろんリンカのことである。実際、彼女は今、自分がかつて関わった教育評論家の蜜屋志羽子について、独自に調べているところであった。
「そうかぁ、残念だ。折角、あの『マリマリ』ちゃんが来てるのに…」
店主は分かってるよと言わんばかりに頷くと、ふとカウンターの方に視線を向けた。
人混みの隙間から、この店に不釣り合いな青いフリフリのドレスがちらりと見えた。
「…何、タレントか何か?」
「えっ、知らないの!?」
店主が急に、素っ頓狂な声を上げるので、徹は慌てて辺りを見回した。
「今流行りの、大人気『フーチューバー』のマリマリちゃんだよ? 物書きやってるのに、徹ちゃん知らないの?」
「はあ…?」
徹は首をひねった。
フーチューバーの存在自体は知っている。某大企業が運営する動画投稿サイト『WhoTube』に動画を投稿し、広告収入を得ている人々のことだ。中には年収が数億円に上る者もいて、流石にその名前くらいは知っているが、マリマリなるフーチューバーの存在は初耳であった。
「まあ後で調べてみてよ。とにかく、そのマリマリちゃんが、今ウチに来て蕎麦の食レポをしてるんだ! これがフーチューブに投稿されたら、忙しくなるぞ…」
「おっちゃん…意外とミーハーだったんだな」
「別にそういうわけじゃないけどさ。マリマリちゃんは別格だよ。…そう、アイドルだよ!」
齢60近い筈の店主は、少年のように瞳を輝かせて言ったのであった。
「…? 何を見ているのですか」
「ああ、これ」
その日の夜。真新しいノートパソコンに向かって、じっと動画を観ている徹に、帰ってきたばかりのリンカが声をかけた。
「蕎麦屋のおっちゃんが観とけって言うもんだから」
指差す先に映っているのは、例のマリマリなる少女。
「チャンネル登録者数140万人、最新の動画の再生数は300万回超えだってさ。大したもんだ」
「…」
リンカは眉をひそめて、画面の向こうでコンビニ弁当を食べる少女を見た。やや大げさな仕草で牛丼弁当を絶賛しているのだが、彼女が着ているのはフリルたっぷりのメイド服だ。
「兎ノ原美月のような服装ですね」
「ははっ、言われてみれば。…」
ブラウザバックし、動画一覧を開く。やたら数の多いそれをスクロールしながら、彼はぽつりと言った。
「…今度、この娘に取材することになった」
「貴方が?」
「ああ。と言うのも…」
諦めて帰ろうとする徹を、店主は引き止めた。
「ちょっと待って。徹ちゃん、一度、マリマリちゃんとお話ししてくれないかな?」
「俺が? いや、俺、そのマリマリちゃんのこと、よく知らないし…」
「そう言わずに、ね。ここで会ったのも何かの縁だしさ。…実はあの娘、メディアとのコネを欲しがってるんだ。フーチューブだけだと、どうしても一部の層にしか見てもらえないからって」
「はあ…」
店主の勢いに押された徹は、店の奥でまかない蕎麦を食べながら、彼女の撮影が終わるまで待った。そうして、自分が社会的地位の低いフリーライターであることを断った上で、彼女と会話した。
マリマリこと太田衣麻理は、予想以上に彼に食いついた。
「フリーライター…って、雑誌の記事とか書いたりしてるんですか?!」
「えっと、まあ何本か」
「凄い! マリ、ネットでは最近売れてきたけど、本や雑誌にはまだ載ったことがないんです」
「そ、そうなんですか。じゃあ、これから」
載ると良いですね。そう言おうとした彼を、彼女は遮った。
「取材してくださるんですか!? 是非お願いします!」
「えっ!? えっと、それは」
身を乗り出し、両手を握ってくる衣麻理。近寄ってきたその顔が存外に美しくて、徹はどぎまぎした。
「…か、書いて、持ち込んで…載せてもらえるかは分からないですけど…」
「ありがとうございますっ! じゃあ、日程なんですけど…」
「…で、貴方は勢いに押された、と」
「…はい」
無表情に徹を見つめるリンカ。無表情だが、近頃ようやく彼女の考えていることが、何となく分かるようになってきた。
「…ごめんなさい」
「何故謝るのですか」
リンカは無感情に言いながら、彼の手からマウスを奪った。それから動画一覧を、一番下まで一気にスクロールした。
「…このマリマリなる人物、最初期の再生回数はせいぜい10数回です」
「フーチューバーって意外とシビアなんだぞ。最初は皆、そんなもんだ」
「これが一気に伸び始めたのは…」
スクロールホイールをくるくると回し、画面を上へと送っていく。どう頑張っても3桁まで届かない再生数が一気に増えたのは、驚くことにほんの先週のことであった。
「この手のショービズ、それも個人が注目を浴びるためには、既に影響力のある人物の力が必要です。しかし、彼女はそれを利用したわけではなさそうです。加えて、一度付いた視聴者は過去の動画も観ることが多いですが、注目を浴びる以前の動画の再生回数は、相変わらず二桁台」
「た、確かに。…て言うかあんた、意外と詳しいんだな」
「何より」
リンカはもう一つウィンドウを開くと、再生数の伸び始めた動画と、その一つ前の動画を再生し、横に並べた。
「…何だこりゃ、まるで別人じゃないか」
「化粧を変えたにしても、印象があまりにも違う。整形手術か、映像加工か」
「いや、CGは無いだろ。俺はこの顔、直接見たし…って」
いつの間にか動画が終わり、新しい動画へ切り替わる。そこに映っている顔は、更に印象が変わっていた。と言うより、垢抜けて、美しく見えた。何より、先ほど徹が見た顔に、より近くなっていた。
撮影を終え、店を出た衣麻理は、数人の男たちに囲まれた。興奮気味に寄ってくる彼らに笑顔で応えながら、衣麻理は通りを歩く。静かな住宅街において、彼女の格好は極めて目立つ。増えたり減ったりする野次馬を、彼女は寧ろ愉しむように歩いていた。
とは言え、時間が遅いこともあって人の群れは徐々に散っていく。それでも熱心に追ってくるのは、4人の男であった。互いに牽制し合うように、衣麻理をストーキングする男たちを、彼女はちらりと覗き見た。そして
「…んふっ」
いつの間にか彼女は、人気の無い公園の一角に来ていた。彼女はそこで立ち止まると、おもむろにフリルのたっぷり付いたスカートの中に手を入れた。その手が下へと下りると、彼女の太腿の間を薄いショーツがするすると滑っていった。
困惑少々、期待大半にそれを見つめる男たちに背を向けたまま、彼女はくるりと首だけを回して彼らを見た。
「…みんな、マリのこと、好き?」
「好きだ!」
一人が叫んだ。残りの3人も、口々に自分の思いの丈をアピールする。
それを満足気に聞くと、衣麻理は言った。
「ありがとう。…これからも、ずっとマリのこと応援してね」
ゆっくりと、片手でスカートの後ろを持ち上げる。鼻息荒くそれを見守る彼らの目に飛び込んできたのは、白い尻に刻まれた、黒い機械的な文様であった。
もう片方の手に、ダイヤモンドめいて輝く小匣を掲げる。
『アイドル』
「永遠に、死ぬまで…マリのこと、推し続けてね…!」
彼女が去った後、そこにはぼんやりと座り込んだまま動かない、屍めいた4人の男たちだけが残された。
「へえ、じゃあ最近は、風都で一人暮らしを」
「はい。ようやく売れ始めて、収入を入ってきたので、どうにか親を説得できました」
メモを取りながら、彼はノート越しにちらりと彼女の顔を覗き見た。そして、密かに胸を高鳴らせた。
先日『ばそ風北』で会ったときよりも、太田衣麻理は、明らかに綺麗になっていた。
北風新報の藤沢編集長に、彼女を取材するので記事を載せられないか尋ねたとき、彼は徹の思っていた数十倍は食いついてきた。
”マジで!? マジでフーチューバーのマリマリちゃんの独占インタビューを取り付けたの!?”
「え、ええ。成り行きでと言うか」
”それ、絶対逃さないでよ。それから、絶対に他のとこには内緒だからね。その代わり、原稿料はうんと弾むから”
受話器の向こうで、藤沢が大声で呼びかけている。
”社内の会議場押さえて! カメラマンも呼ぼう。付けれたらスナップショット集も付けたいな。それからインタビューには適当な女の子も同席させて。対面が男ばっかだと、過激なファンが凸ってくる…”
電話越しの喧騒を、徹は呆然と聞いていた。
そんな訳で、北風新報の社内にある会議室で、徹は衣麻理と向き合っていた。時折フラッシュが焚かれて、彼女の横顔や話している様子が写真に撮られる。派手な衣装は撮影の時だけのようで、今はデニムのショートパンツにカットソーと、ラフな格好をしている。
「親御さんの反応はどうでしたか。初めての一人暮らしだと、やっぱり心配されたのでは」
「そうですけど、二人共マリのこと応援してくれてますから」
「そうなんですね」
徹の相槌に、衣麻理は意味深に微笑んだ。それがまたミステリアスで美しい。
「…これからやってみたいこと、展望がありましたら、教えていただけますか」
「やってみたいことはたくさんありますけど、やっぱり…歌ってみたいかな。歌が好きなんです」
「良いですね、そうなったら本物のアイドルみたいですね」
「応援してくれる人たちのおかげで、マリはどんどん有名になって、いつかは本当のアイドルになりたいなって、そう思ってます!」
インタビューを終え、レコーダーとメモを鞄に収めると、徹は会社を出た。衣麻理の方は会社の人間が送り迎えまでしてくれるらしい。もう少し彼女と話していたかったが、後であらぬ疑いを掛けられても面倒だ。大人しく帰ることにした。
帰り道、彼は『ばそ風北』に寄った。腹が減っていたのもあるが、何より店主が彼女へのインタビューのことを知りたがっていたからだ。
「…?」
住宅街を突っ切った分かりにくいところに『ばそ風北』はある。普段は近所の住民や、常連くらいしか見かけないのだが、衣麻理が動画にしたこともあってか今日は人が多い。
ところが、店の前でたむろしている人々は、誰一人として店に入っていかない。
「あの…何かあったんですか」
少し離れてそわそわしながら突っ立っている男に、尋ねてみた。彼は苛立たしげに店を見て、言った。
「マリマリちゃんの動画見て、聖地巡礼に来たのに、この有様だよ」
「この有様って…」
店に近寄って、気付く。
「…あれ、閉まってる」
定休日は日曜日だが、今日は木曜日だ。定休日以外で店主が急に店を閉めたことは、徹の記憶では一度もなかった。
「朝からずっとこんな感じなんだよ」
「それはおかしいな…」
徹は裏に回ると、勝手口を叩いた。
「おーい、おっちゃん、いるのかー?」
呼びかけるが、反応がない。
「おーい、返事してくれないかー? おーい…」
そのすぐ向こうには、店主が座っていた。しかし彼は一切動かない。その虚ろな目は、真新しいパソコンの画面を見つめている。
そこには、華やかな衣装を着て駄菓子を食べる、太田衣麻理の映像が流れていた。
『永遠のI/インターネットのお姫様』完
今夜はここまで
>>188の後が抜けてた
リンカは、徹の顔を真っ直ぐに見た。
「この女には、何かある。そう考えるべきでしょう。私はその日、行動を共にはできませんが…くれぐれも、気を付けてください」
風都にて。とあるインターネットカフェでのイベントを終えた衣麻理は、ほくほく顔で繁華街へ出てきた。出待ちの群衆を家来のように連れて、通りを歩く。
企業とタイアップしての仕事は、これが初めてだ。イベントを訪れた誰もが、彼女の美しさに夢中だ。
___彼女の去った後のイベント会場には、スクリーンにループ再生される彼女の動画を、虚ろな目で見つめる観客やスタッフたちが残されたが、そんなことはどうでも良かった。
「…!」
衣麻理の足が、ぴたりと止まった。野次馬を押し退けて、彼女の目の前に、一人の少女が現れたのに気付いたからだ。
つい最近まで衣麻理が着ていた、ピンクのゴスロリ衣装を纏う少女を見た瞬間、衣麻理の顔から余裕と愉悦が消えた。
少女は、獣めいた笑みを浮かべながら、言った。
「…ちょ〜っと、お話ししたいな。二人っきりで」
衣麻理は、がたがたと震えながら、ゆっくりと頷いた。
「…」
徹は、じっとパソコンの画面を見ていた。映し出されているのは、もちろん太田衣麻理の動画である。何でも、ネットカフェでイベントをやることになったらしい。告知によると、今日がその日だったらしいから、今頃は全部終わって家に帰っていることだろう。
アルバイトが入っていなければ、自分も行きたかった…。そう考えて、彼は想像以上に彼女に入れ込んでいる自分に驚いた。
「徹」
「…」
「…徹。…」
「…うわっ!?」
背中に温かいものが触れて、彼は驚いて振り返った。いつの間にかリンカがいて、彼の首に両腕を回して抱きついていた。
「ど、どうした?」
痛いほどに打つ心臓を抑えながら尋ねると、彼女は無表情に、しかし明らかに沈んだ声で言った。
「不安になります」
「不安に…? あんたが?」
「貴方は、言葉が上手い。それだけでなく、言ったことを現実にする力がある」
「…」
「貴方が道を違えた時が、最も危険であると考えます」
「…気を付けるよ」
徹が言った瞬間、彼の背中からリンカの姿が消え、真実を司る金色の女神がそこに現れた。
「っ!?」
しかし、それはほんの一瞬で、またリンカの姿に戻った。
「…真実を見てください。どうか」
「…分かった」
徹は頷いた。画面に目を戻すと、今まで夢中になって観ていた動画が、急に退屈なものに思えて、彼はノートパソコンを閉じた。
「気付いたらもうこんな時間か。そろそろ寝ようかな…」
立ち上がろうとしたその時、彼の携帯電話が鳴った。
「おっと。…もしもし?」
”もしもし…力野さんですか?”
「!? 太田さん…」
徹はリンカの方をちらりと窺うと、通話をスピーカーモードにした。
「イベントは終わったんですか?」
”はい。それで、突然で申し訳ないんですけど…今から会うことって、できませんか?”
「会うって、俺とですか?」
”はい。駄目ですか?”
「ファンが黙ってないでしょう。危ないですよ」
”大丈夫です、変装して行くので…”
変装とは、まるで芸能人のようだ。考えあぐねてリンカの方を見ると、彼女は小声で言った。
「乗ってみるべきです。彼女の秘密について、知ることができるかも」
「…わ、分かりました。じゃあ場所ですけど…」
タクシーの後部座席で待っていると、太田衣麻理は早足にやって来た。いつもの派手な服装ではなく、黒のシャツにハーフパンツで、帽子を目深に被っている。
彼女は俯いたまま徹の隣に乗り込むと、低い声で「風車町の、適当なホテル」と運転手に伝えた。
驚いたのは徹である。風車町は風都に近い地区で、水商売や風俗の店が多く立ち並ぶ区域であった。当然、そこにあるホテルと言ったら、ラブホテルのことである。
「…マジで?」
彼は思わず呟いたが、衣麻理は何も言わなかった。
ホテルに着いた。部屋に入り、初めて帽子を脱いだ彼女を見て、徹は困惑した。
確かに、今まで見た通り美しい。更に磨きがかかったような気がする。しかし、それと重なるように、極めて平凡な、目を引く所のない女の顔が見えた。それでいてどちらの顔も、間違いなく太田衣麻理であると断言することができた。
衣麻理が、口を開いた。
「急に、こんな夜にお呼びしてごめんなさい。実は、お願いがあって」
「お願い?」
少し警戒しながら、問う。
「マリの、お友達がいるんです。その娘、大事なものを取られちゃったんだって。あなたに」
「俺に…?」
「さっき、その娘に会って。あなたがそれを持ってるから、返すように説得してほしい、せめてどこに隠したか聞いてほしいって頼まれたんです」
「いや、俺は何も盗んで…」
そこまで言って、彼ははっとなった。
「まさか…」
「お願いします。返してくれたら…」
言いながら衣麻理は、いきなり彼の胸にぴったりと身を寄せた。
「…何でもします」
「っ!!?」
平凡な少女の顔がかき消え、美しい女の姿だけが映る。
「な、何でも、って」
「…」
彼女は彼の体を、ベッドの上に押し倒した。倒れた彼の上に馬乗りになると、彼女は有無を言わさずシャツを脱ぎ捨てた。
「皆から『推し』てもらう度に、マリ、どんどん綺麗になっていくの…」
「す、ストップ! 俺、その大事なものが何なのか知らないし、何処にあるかも…」
ところが、衣麻理の耳には、もはや彼の言葉など入っていなかった。とうとう派手なブラジャーを外すと、美しく膨らんだ乳房を彼の目の前に突き出した。
「見て、もっと見て! 綺麗なマリを、もっと…」
うわ言のように呟きながら、彼の体をまさぐる。その指が上着の内ポケットに触れた瞬間、彼女の動きが止まった。
「! あった…」
呆然とする徹のポケットから、探り当てたそれを抜き出す。
「見つけた…ガイアメモリ…!」
「っ!」
ここに来て、徹は正気に戻った。すぐにメモリを奪い返すと、ベッドから飛び降りて彼女から距離を取った。
「やめろ、こいつはお前が触れていい代物じゃない…」
「返してよ…あの人に返さないと、マリが大変なことになるの…!」
「悪いが、これは多分、お前が探してるやつとは違うメモリだ」
「だったら…」
衣麻理は、おもむろに下の衣服まで脱ぎ始めた。露わになった下半身には、無駄な毛や肉が一切なく、美しい上半身と合わせて完璧な裸体を形作っていた。
「ああ…見てる…マリのカラダ、見られてる…『気持ちいい』…!」
言いながら、ゆっくりと後ろを向く。徹の目に、丸い尻に刻まれた、黒いコネクターが飛び込んできた。
「…力野さんも、マリを推してくれるよね…?」
その手に、宝石めいて輝くガイアメモリ。
『アイドル』
”真実を見てください。どうか”
「…これが、真実…か」
『ファンタジー』
再び徹の方を向いた衣麻理の体は、赤や青の綺羅びやかな衣装に包まれていた。しかしその頭に顔は無く、ブラックホールめいた灰色の渦が描かれているのみであった。
「! 仮面ライダーだったの。……嬉しい! 仮面ライダーが、マリを推してくれるなんて!」
太田衣麻理…アイドルドーパントが叫んだ瞬間、その顔の渦が回転し始めた。何かが吸い込まれる感触がして、ファンタジーは咄嗟に躱した。そのすぐ横の空間が、ぐにゃりと歪むのを、彼は知覚した。
ファンタジーは剣を握ると、ドーパントに斬りかかった。
『せやっ!』
「やめて…マリを、傷つけないで!」
その手にマイクスタンドめいた錫杖を出現させると、アイドルドーパントは斬撃を受け止めた。
「見て、マリを見て、綺麗なマリを…」
打ち合いながら、ドーパントはぶつぶつと呟いている。ファンタジーは、流石に気味が悪くなってきた。
『ガイアメモリに頼っても…本当に、綺麗には、なれないぞ!』
突き出す剣を、杖で弾く。
「そんなことない! こっちが…本当の、マリなの!」
杖を大きく振りかぶった隙に、腹部に拳を叩き込む。
「ぐぅっ…」
『大人しく、メモリブレイクさせろっ!』ファンタジー! マキシマムドライブ
『ファンタジー・イマジナリソード…』
輝く剣が、ドーパントに迫る。致命の一撃を前に、アイドルドーパントは…
___変身を、解除した。
『うわあっ!?』
目の前の怪人が、突然裸の美女に戻り、ファンタジーは慌てて剣を止めた。尻から吐き出されたメモリを握りしめると、衣麻理は窓を破ってホテルから逃げ出した。
ホテルの入口には、バイクに跨ったリンカが待っていた。
「逃げられた。…太田衣麻理は、ドーパントだった」
変身を解除した徹に、リンカは頷いた。
「そうだろうと思っていました。使用メモリは『アイドル』と予想しますが」
「ああ、合ってる」
リンカがタンデムシートに移動すると、代わりに徹が運転席に跨った。
「どこに逃げたと思う?」
「この時間帯に、できるだけ人が集まる場所でしょう」
バイクが走り出すと、リンカはアイドルメモリについて説明した。
「アイドルドーパントには、人間の興味や関心、或いは意欲に至るまでを全て自分に向けさせ、エネルギーとして吸収する能力があります。吸収すればするほどドーパントは力を増し、また変身前の外見的魅力も強くなります。ある意味、人間態もドーパント態の延長と言えるでしょう」
「その、興味とかを吸収された人間は…」
「変身者以外へのあらゆる興味、関心、意欲を失い、廃人のようになります」
「! まさか、蕎麦屋のおっちゃんも」
「落ち着いて。メモリブレイクすれば興味の対象が消失し、被害者は元の状態に戻ります」
「そ、そうか。だったら、早く見つけて倒さないとな!」
「ええ。…このメモリには、使用する度に自己顕示欲や承認欲求が肥大するという副作用があります。人の多い場所を目指していると予想したのは、そのためです」
「そうか…」
自分を見て、と繰り返していたドーパント。メモリの力で手に入れた美しさを、誰かに見せびらかさずにはいられない。そして、より多くの人に見られるには、もっと美しくならねばならない…。酷い悪循環だ。早く断ち切らないと。
北風駅前。遅い会社帰りのサラリーマンや、何かの待ち合わせに集まる若者たち、ウォーキング中の老夫婦など、多くの人が行き交っている。その人混みの真中に、太田衣麻理はいた。どこかで手に入れたコートを着込み、落ち着かない様子で周囲を窺っている。
「…あれ、マリマリちゃんじゃね?」
ふと、居酒屋の前で誰かを待っていた、若者の一人が気付いた。衣麻理は待ってましたとばかりに口元を歪めると、その声の主に向かってつかつかと近寄っていった。
「お兄さん、一等賞!」
「うわっ、マジだった!」
「えっ、マリマリちゃん?」
「うそ、どこどこ?」
続々と寄ってくる野次馬たち。衣麻理は若者にスマートフォンを握らせると、言った。
「カメラマン、よろしくね」
「あ…はいっ!」
フーチューブの配信をオンにして、カメラが自分を映したことを確認すると、衣麻理は大声で宣言した。
「今日は! この北風駅前で、もっとマリのことを、皆に見て…知ってもらおうと、思いまーす!!」
言い終わるや否や、彼女はコートを脱ぎ捨てた。コートの下は、全裸であった。
たちまち、歓声が上がった。
「ははははははっ…見て、マリを見て、もっと!」
青年に撮影させながら、彼女は群衆の中に突っ込んだ。
駅前はパニックになった。その場にいた者たちはもちろんのこと、その中の誰かがSNSに裸の衣麻理の写真を投稿し、それを見た人々までもが駅前に殺到したのだ。
道路はストップし、店からは客が消えた。店員も消えた。夥しい人の海に揉みくちゃにされながら、衣麻理は気持ちよさそうに歩いた。
「ああ、見てる、見て、触って…皆、マリを推して…!」
彼女が叫ぶと、近いところにいた人々が、次々にその場に崩れ落ちた。地面に倒れ、周りの人に踏みつけられても、虚ろな目は絶えず衣麻理を追っている。
そこへ、徹とリンカが到着した。彼らは駅前を埋め尽くす人混みに足を止められ、止む無くバイクを降りた。
「…そうだ、言い忘れてた」
「何でしょう」
「あいつ、友達の大事なものを俺が持ってるから返せとか言ってきたんだ。もしかしたら」
「ラビットメモリ…兎ノ原美月が、近くにいるかも、と」
「ああ。気を付けてくれ。…変身!」ファンタジー!
騎士の姿となったファンタジーは、白いマントの翼を広げ、空へ飛び上がった。
『…そこまでだ、衣麻理!』
上空から衣麻理の姿を見つけると、人を掻き分けて彼女の目の前に着地した。
「あっ、仮面ライダー! やっと来たね」アイドル
衣麻理の体が、美しい衣装と、不気味な仮面に包まれる。錫杖を振り上げると、周囲にいた人間が次々と倒れていった。
「ね、凄いでしょ。ここにいる皆が、マリのこと推してくれてるんだよ!」
『それは推してるとは言わない! お前が、ただの養分にしているだけだ!』
「えー? 推すって、そういうことでしょ?」
言いながら、杖で殴りかかってきた。ファンタジーは剣で応戦する。
『っ、力が増してる…!』
「皆に推されるほど、マリは強く、綺麗になるの!」
剣を叩き落とし、胸の辺りを強く突く。
『ぐはっ…』
一歩、引き下がるファンタジー。こうしている間にも、集まった人々は倒れ、ドーパントの養分となっていく。立っている人々はそれに違和感すら感じないようで、口々に「何やってんだ!」「マリマリちゃんに何てことを!」などと仮面ライダーにブーイングを飛ばしている。
『ああもうっ…メモコーン!』
ファンタジーは、自律稼働するガイアメモリの名を叫んだ。
ところが、今日に限ってあの小さな一角獣が、姿を見せない。
『…自分でどうにかしろってことかよ! こういう時は…』
周囲を窺い、状況を判断する。どうやら、この野次馬は全員アイドルドーパントの影響下にあるらしい。つまり、興味関心を、このドーパントに吸われているということだ。これを断ち切るには…
ファンタジーは、魔術師の姿になると、両手を掲げた。すると、頭上に眩い光の玉が現れた。
「スポットライト! 仮面ライダーも、マリを推してくれるんだね」
『それはどうかな』
光球の数がどんどん増えていく。ファンタジーが手を振ると、光の玉がぐるりとアイドルドーパントを囲い込んだ。
光が等間隔に、円形に並んだ瞬間、光の中に、彼女の姿がふっと消えた。
「…あれ?」
「おれ、何をして」
「うわ、まっぶし…」
『色んな角度から強い光を当てると、外から姿が見えなくなるんだ。運転するようになったら気を付けるんだな! そして、姿が見えなくなれば、ある程度は力を削れるみたいだ』
「くっ、こんな所…っ」
光の下から抜け出そうとするドーパント。しかし、ファンタジーが掌を突き出すと、魔法陣から鎖が伸び、彼女を拘束した。
『おっと、ステージから逃げるなよ』ファンタジー! マキシマムドライブ
ファンタジーが騎士の姿に戻り、白いマントをはためかせて空へ昇る。
『ファンタジー・エクスプロージョン!!』
「いや、嫌、いやああああっっ!!!」
光を裂いてミサイルキックが直撃し、アイドルドーパントは爆散した。
「嫌…折角、せっかく、きれいに…マリ…」
倒れ伏す衣麻理。その体からガイアメモリが排出され、クリスタルのように儚く砕け散った。
リンカの見守る向こうで、明るい光が爆ぜた。無事、ドーパントを倒したようだ。リンカの周りでも、倒れていた人々が、またゆっくりと起き上がってきていた。
「これでひとまず解決」
誰にともなく呟きながら、彼女はおもむろにXマグナムを抜いた。その足元には、ずっとメモコーンが控えていて、威嚇するように低い声を上げていた。
「…バレてた?」
「もちろん」
いつの間にか彼女の目の前には、ピンクのゴスロリ姿の少女、ミヅキが立っていた。
「あのドーパントも、私や仮面ライダーをおびき寄せるための餌ですか」
「ううん。服を貰ったお礼に、メモリをあげただけ。利用できたら良かったけど、役に立たなかったみたい」
そこまで言うと、突然、少女はその場に両手を突いて頭を下げた。
「…お願いします。あたしのメモリを返してください」
「お断りします」
すげなく言うリンカ。ミヅキは一層頭を下げると、コンクリートに額を擦り付けるようにして言った。
「あれがないと、お母様に合わせる顔が無いの…蜂女も、ダンゴムシおやじも、みんなあたしのこと仲間外れにするし」
「それは丁度良い。私たちのところへ来て、母神教について知っていることを教えていただければ、身の安全とガイアメモリ中毒の治療、並びに社会的な更生をお約束します」
「それじゃあ駄目なんだよ!!」
ミヅキはその場で跳び上がると、そのままリンカに回し蹴りを放った。それを軽く躱すと、リンカは銃口を向けた。
「ラビットメモリの副作用は知っています。限界以上に使い込んだ貴女が、どのような状態に陥っているかも予測できます。その上で、明言しましょう。メモリは現在、『貴女の手の届かない場所』にある」
「こ、の…っ!」
ミヅキは憎々しげに歯ぎしりしていたが、ふっとリンカに背を向けた。
「…良いも〜ん。自分で何とかするから」
「頑張ってくださいね」
白々しく言うリンカに唾を吐くと、ミヅキは地面を蹴って近くの信号機の上に跳び上がった。そうして屋根や電柱を伝って、夜の闇へと消えていった。
「おーい、勝ったぞー!」
そこへ、徹が駆け寄ってきた。
「お疲れさまでした。…おや、上着は?」
「ああ。衣麻理を裸のまま転がしとくのは可哀想だったから、気休めに掛けてきたんだ。ま、そんなに高いものでもないし、無くなってもそこまで惜しくないから…」
「そうでしたか」
リンカは、ミクロン単位で薄く微笑んだ。そうして、彼が今来た方をちらりと見た瞬間に、額を伝う脂汗を、密かに手の甲で拭った。
「…おっ、いらっしゃい徹ちゃん!」
「よっ、また来たよ」
「私も同伴です」
暖簾をくぐってきた2人の姿を認めると、『ばそ風北』の店主は嬉しそうに手を振った。
カウンターに並んで座ると、2人で北風蕎麦を注文した。
「何だか、夢を見てたような気がするよ」
ふと、店主がこぼした。店の中は、以前のように静かで、衣麻理が来た時のような活気は無い。
「マリマリちゃんも、チャンネルがBANされてからはすっかり動かなくなっちゃったし」
「ああ…まあ、あんなことやっちゃ、ねぇ」
全裸で駅前を歩き回る配信は、当然開始から数分で強制的にストップされた。従って、ドーパントと化した衣麻理や、それと戦う仮面ライダーの姿は映像には残っていない。既に投稿された彼女の動画は今でも見られるのだが、それも全く視聴数が増えない。あんなに注目を集めたはずのネットアイドルは、改めて見ると何処にでもいる、極めて平凡な少女であった。SNS上でも動きがないのは、彼女がメモリの離脱症状から抜けきれず、今でも入院しているからである。
「それにね、改めて見たら、そんなに美人でもなかったかなって。…リンカちゃんの方がよっぽど美人だよ。徹ちゃんにはもったいないよ、このこのっ!」
「だぁかぁらぁ! リンカは彼女じゃないっての!」
「えっ?」
「えっ」
「えっ、じゃねえよ! 何でリンカまで乗ってくるんだよ!?」
「…冗談はさておいて。彼と私は単なる仕事仲間です。訳あって協力関係にありますが、それも一時的なものです」
「えー、そうだったのか…」
きっぱりと言うリンカに、店主だけでなく、徹までどういうわけか落胆してしまった。少し沈んだ気持ちで彼女の顔をちらりと見て、気付く。
「…」
「…?」
横目に見たリンカの顔に、何故だか、後悔や罪悪感めいた色が浮かんでいるように思えた。
困惑する徹の目の前に、出来たての蕎麦が置かれた。湯気が視界を横切ると、彼女の顔はまた、いつもの無表情に戻っていたのであった。
『永遠のI/推しがわたしのエネルギー』完
今夜はここまで
『アイドルドーパント』
『偶像』の記憶を内包するガイアメモリで、無職の太田衣麻理が変身するドーパント。赤や青の華やかな衣装を纏い、顔の代わりに黒い渦の描かれた、スタイルの良い女の姿をしている。エネルギーが高まると、マイクスタンドめいた形の錫杖を出現させることもできる。顔の渦巻きから人間の興味や関心、意欲といった前向きな感情を吸い上げ、自身のエネルギーとすることができる。吸われた人間は一切のやる気を失い、廃人のようになってしまうが、感情の方向を自分に向けさせた上で吸い上げるという工程を踏むため、感情の対象、すなわちアイドルドーパントが倒されれば元通りに戻る。また、エネルギーを集めるほどに変身前の状態でも外見的な魅力が増していくという、特徴的な能力も持つ。それと比例して、自己顕示欲や承認欲求も肥大化していくという副作用がある。
売れない配信者であった太田衣麻理は、半ば事故のようにこのメモリを入手すると、まず反対する両親からエネルギーを吸い上げた。それからは、主に近付いてくるファンからエネルギーを奪って自身の糧としていた。人の多い場所を目立つ格好で歩くのは、糧にする標的を探しながら自身の自己顕示欲を満たすためであった。しかし、徹を誘惑するために裸体を見せたことで承認欲求の箍が完全に外れ、暴走。人の多い夜の駅前を、全裸で闊歩するという暴挙に至った。
メモリはダイヤモンドめいて輝くクリアカラーで、スポットライトを浴びるマイクの意匠で『I』と書かれている。クリアカラーに銀端子と、流通メモリの中では何気に高級品。ミヅキが密売人から強奪していなければ、到底衣麻理の手に届く代物ではなかっただろう。
>>94をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございます!
あ、ドーパント案は随時募集中です。ライダーの強化は大体もう決めてあるけど…
ちなみに、読みにくい名前が多いけど、今まで出てきた人物は
力野 徹(ちからの とおる)
植木 忍助(うえき にんすけ)
井野 定(いの じょう)
井野 遊香(いの ゆうか)
九頭 英生(くず えいしょう)
熊笹 修一郎(くまざさ しゅういちろう)
真堂 甲太(しんどう こうた)
火川 カケル(ひかわ かける)
朝塚 芳花(あさつか よしか)
蜜屋 志羽子(みつや しわこ)
兎ノ原 美月(とのはら みづき)
生島 彰二(いくしま しょうじ)
太田 衣麻理(おおた いまり)
という名前です
『スマイルドーパント』
「笑顔」の記憶を内包するメモリを使用。ドーパント体は全身が黄色くて細身で顔は貼り付けた様な歪な笑顔になっている。また、背中には触手がマント状に広がっている。この触手に突き刺されたものは何事にも常に笑顔を浮かべながら幸福感を感じるようになり、優しい人物になる。しかし、その優しさや笑顔は歪であり、早い話がディケイドのディエンド編で洗脳された人々を更に歪めたようになってしまう。
メモリに惹かれる人物は「無垢であり、人に笑顔になって欲しいと思う人」であり、(無垢という条件から)精々が高校生ぐらいまでの人物
使用の副作用は、人を笑顔にして挙げているということから全能感が強くなってしまい、自分が世界を救うという風に思ってしまう。
できれば女子高生がなってくれると嬉しいです
ティーチャー・ドーパント
「教師」の記憶を内包するメモリを使用。
ドーパント体は胸から上で、時計台のついた凸の字型の校舎を模した姿になる。
胸部の昇降口に小規模な教室様の異空間を作り出し、そこへ犠牲者を吸い込み、『生徒』にしてしまう。
そのなかでは教師に扮した変身者が『教育』を行う空間であり、生徒に教えたいことを教え込む(実質、洗脳する)ことができる。
また、空間内では犠牲者は『校則』に縛られる。
ただし変身者も学校の規範に従わなければならず、例えば生徒への暴力や淫行などの問題行為を行うと『学級崩壊』を起こし、異空間を保てなくなる。
なお、宇宙との関係性はない。
ニンジャメモリ(ニンジャドーパント)
その名のとおり「忍者」の記憶を有したメモリ 割りに合わない値段
割りに合わない理由はユーザーによってドーパントの強さが極端に変わるから(まともに使える人がいなかった)
下忍・中忍・上忍と別れており、一般人が使うとほぼ下忍(マスカレイドと同じ強さ)にしかならない。アスリートの様に鍛えた人でも現状中忍までしか確認できていない。
男女と強さでドーパントの姿が変わり、男性は黒装束に、女性はぴっちりとしたスーツを着た様な姿を基本としてそこから中忍・上忍にランクが上がることによって更に装備が増えていく
メモリのNの形は手裏剣がNの字を作っている
バンド・ドーパント
「楽団」の記憶を内包するメモリで変身する
ZOOメモリと同じ様に一本のメモリで複数の能力を持っている
主に使用される能力は「ボーカル」「ギター」「ドラム」「キーボード」「ベース」これらに加えて使用者によっては「サックス」や「パーカッション」も加わる
ドーパント体は顔は五線譜を模したものであり、肩からはギターのネックが突き出た感じになっている
一本で複数の能力を使える強力なメモリであるが複数の能力の行使の条件として他の人間を取り込む必要がある。取り込む人間によってドーパントは強化され、「その楽器を演奏している変身者のバンド仲間」が一番強化の度合いが強い
バンド・ドーパントの奏でる音楽には様々な効果があり癒やしの能力から破壊まで様々な能力が使えるが、演奏中は移動ができないという欠点を持つ
(クインビードーパントって小説版に既出だったのか…)
(まぁ使役してるのはビーじゃなくてホーネットだから自爆しないし、蜜屋先生の方が適合率高いから見た目がリッチってことで、なんとか)
「まず、今まで通り適当なドーパントで、仮面ライダーとあの女をおびき寄せて…」
公園の身障者用トイレにて。タイルの上に転がした男に跨って、激しく腰を振りながら、ミヅキはぶつぶつと呟いた。
「…あの女を人質にして、それから…」
組み敷かれて喘ぐだけの男の胸に、指で『作戦』を書き記す。
「…ああもうっ、駄目、ダメダメダメっ! 全っ然良い案が浮かばない!」
ミヅキは考えるのを止めると、目の前の男との性交に専念し始めた。
最後の男を見送ると、ミヅキは再びトイレの個室に向かった。今度は、単純に寝るためだ。
その背中に、誰かが声をかけた。
「おい」
「…は~い?」
一人追加。そう思い、振り返った彼女の顔が、引きつった。
そこにいたのは、薄汚い格好をして、意地の悪い笑みを浮かべた、ガタイの良い一人の男であった。
「よう、美月。こんなところにいやがったのかよ」
ミヅキは青ざめた顔で、小さく呟いた。
「…ぱ、パパ」
その肩を乱暴に掴むと、男は汚い歯を剥き出して、言った。
「ほら、帰るぞ。俺『たち』の家になぁ!」
その日、リンカは体調を崩していた。
「だ、大丈夫か…?」
そもそも、彼女にも体調という概念があることを失念していた徹は、紅い顔でいつもの金ネクタイを締める彼女に、おろおろと尋ねた。
「軽微なものです。支障ありません」
「だけど、風邪はひき始めが肝心って言うし…」
「風邪ではありません。加えて症状の経過が、行動によって左右されることはありませんので、ご心配なく」
「いや、余計に心配なんだが」
食い下がる徹をあしらうと、彼女はさっさと出かけてしまった。何でも、蜜屋志羽子について重要な手がかりを掴める寸前なのだそうだ。
バイト先から帰る途中、人気の少ない道を歩いていた徹は、何かを聴きつけて立ち止まった。
「悲鳴…?」
女の悲鳴のようなものが、彼の耳に届いた気がした。周りを見回すと、他に2人の通行人がいるが、どちらも何事もないように歩き続けている。
気のせいだろうか。早く帰ろう、リンカも心配だし…。そう思い、再び歩き出そうとしたその時
「嫌っ、助けて…っ!」
「!!」
はっと、振り返る。その瞬間、後方の曲がり角に消えていくピンク色のスカートの裾が目に入った。
徹は、迷わず駆け出した。
果たして、角を曲がった先は薄暗いビルの隙間で、更に入り込んだところには、一人の若い女と、それを壁に押さえつける一人の男がいた。
「おい、何をしてる!」
徹は駆け寄ると、男の肩を掴んで引き剥がした。
「早く、今のうちに逃げろ!」
「っ…」
女は何か言いかけたが、すぐに路地の出口へと逃げ出した。
男は、徹の腕を掴むと、舌打ちした。
「テメエ、何しやがんだよ」
「それはこっちの台詞だ。…警察を呼ぶ」
「はっ、やれるもんならやってみやがれ!」
そう言うと男は、徹を突き飛ばした。そして、汚れたジャケットのポケットに手を突っ込むと、酷薄な笑みを浮かべながらガイアメモリを取り出した。黒い筐体には、ヘドロめいた筆跡で『G』と書かれている。
『ガーベ「ゴーッド!」
メモリの声を掻き消すように、男は叫んだ。
「ゴッド! 神! 俺は神だ!」
そう言うと彼はよれたTシャツの襟を引っ張り、露わになった左胸のコネクターに、自称神のメモリを突き立てた。
「ガイアメモリ…!」
男の体が、黒いヘドロと、しわくちゃのビニールめいた膜に覆われていく。その姿は、どれだけ好意的に見ても、神のそれではなかった。
「俺様の邪魔をしたらどうなるか、教えてやるよォ!」
「やれるものなら、な! 変身!」ファンタジー!
徹は変身すると、長剣を構えた。自称神のドーパントが、驚いたように一歩退く。
「なっ…仮面ライダーだと…風都にしかいねえと思ってたのに」
『この町にだって、仮面ライダーはいるんだぞ。そして…』
切っ先を、ドーパントに向ける。
『お前みたいに町の平和を乱すやつは、俺が倒す!』
この男ブゥン!しそう
『はあぁっ!』
振り下ろした刃が、怪人の粘つく体を切り裂く。ビニールの被膜が破れ、中から汚い汁が滲み出てきた。
「ぐっ、うぅっ」
先ほどからドーパントは防戦一方だ。狭い路地でファンタジーは、長剣を突き出すように振るい、敵に傷を付けていく。
『命は取らない。だが、メモリはブレイクさせてもらうぞ!』ファンタジー! マキシマムドライブ
『ファンタジー・イマジナリソー…』
その時、彼の背後から悲鳴が聞こえてきた。
『!?』
はっと振り返ると、そこには先ほど逃げた筈の女と、それを捕まえる一人の少女が立っていた。
『ミヅキ…!?』
「変身を解除して。でないと、この女を殺す」
『何でこんなこと…こいつもお前の仲間か』
「早く!」
「放して! 放してっ…」
『…』
ファンタジーは仮面の下で歯噛みすると、ドライバーからメモリを抜いた。装甲が解けていくのを見届けると、ミヅキはヘドロのドーパントに向かって言った。
「パパも、仮面ライダーにはもう手出ししないで」
「お前、俺に口出しすんのかよ」
「パパ、だと…?」
困惑する徹。ミヅキは意外にも、あっさり女を放した。逃げていく女を見てドーパントが唸った。
「クソがっ、どいつもこいつも…!」
言いながら、いきなり徹に殴りかかってきた。
「パパっ!!」
「っ…」
身構える徹。その時、塀の上から銀色の影が飛来した。
「ぐわあぁっ!?」
それはドーパントの体に激突すると、徹の前に着地し、敵に向かって威嚇するように嘶いた。
「おお、助かったぜメモコーン…!」
再びドライバーを手に取る徹。彼と、その足元に控える小さな一角獣を交互に見ると、ドーパントは舌打ちした。
「…ケッ、もううんざりだ。美月、帰ったら覚悟しとけよ」
そう言った瞬間、彼の体が黒いタールめいた液体に覆われた。液体の中でドーパントの体はどろどろに溶け、アスファルトのひび割れに吸い込まれるように消えてしまった。
残された徹は、ミヅキの方を見た。
「…ミヅキ、あれがお前の父親なのか」
「…」
ミヅキは何も言わず、徹を睨む。その顔は、最後に見た時よりやつれているようであった。何より、頬や額に大きな痣ができている。
「あんな奴の言いなりになるような人間じゃないだろ、お前は。一体何があった?」
「…余計なお世話」
ぽつりと言うと、彼女は地面を蹴って彼の背後まで跳んだ。そのまま、何処かへと走って行ってしまった。
「本当なら、ウチの課で扱う事件じゃなかったんだがな」
溜め息を吐くと、植木は徹に調査書を差し出した。
「佐倉強也、39歳。元はホストだったとも、風俗の受付だったとも言われていてはっきりしない。分かっているのは、この男が夫と別れた直後の兎ノ原皐月と交際し、2年後にはその連れ子と共に風とで同棲していたということ。皐月と、当時7歳だった連れ子の美月に、身体的、性的な暴行を加えていたことだ」
「…」
目の細い、酷薄な顔を思い出す。路地裏で女に乱暴しようとするどころか、血縁でないとは言えそれを自分の娘に手伝わせていた。汚らしいドーパント態に相応しい、腐りきった男だと、徹は思った。
「美月が保護されると同時に、虐待に加担した皐月もろとも逮捕されたが、翌月には執行猶予付きで釈放された。以後、立件されていないだけで数件の強姦に関わったと言われている。つい最近北風町に引っ越してきたらしいが…そうか…こいつもガイアメモリを」
「こいつは、俺が絶対に倒します。そしてミヅキも、捕まえて連れて来ます」
「我々も厳戒態勢を敷こう。…ところで」
植木は徹の隣を見ると、不思議そうに尋ねた。
「あの、いつものフリー記者Bは?」
「リンカは…」
徹は言葉を濁した。
体調を崩したあの日から、明らかに彼女の病態は悪化していた。それでも外に出ようとする彼女を無理やりベッドに寝かしつけると、彼はアパートの鍵をかけてここまで来たのであった。
「はあっ、このっ、クソガキがっ…」
散らかり切ったアパートの一室にて。汚れた床にうつ伏せにミヅキを押さえつけると、佐倉は乱暴に腰を振っていた。
「テメエよぉ、あの男…お前の、知り合いかよっ…」
剥き出しの尻を叩く。打たれた痕や爪痕で、彼女の尻は血塗れだ。
「ただの知り合いっ…彼氏でもないからっ…」
「ヤッたのかよ、ええ?」
「…一回だけ」
「ゴミカスがよぉ!!」
腰を引くと、彼は娘の腹を力任せに蹴り飛ばした。うめき声を上げて転がる彼女を尻目に立ち上がると、彼は吐き捨てた。
「お前のガバマンじゃ、ヤッた気になんねえんだよ。出てくるぞ」
足音荒く部屋を後にする佐倉。
「待って、パパ、ごめんなさい、待ってっ…」
追いすがるミヅキを蹴ると、彼はアパートを出てどこかへ行ってしまった。
『招かれざるR/神のメモリ』完
今夜はここまで
間違えた
『招かれざるG/神のメモリ』
でした
エンペラーペンギン・ドーパント
『皇帝ペンギン』の記憶を宿したメモリで変身するドーパント。メモリは皇帝の名前通り、やけに高級品
ずんぐりむっくりとした巨大なペンギンの姿で頭に王冠。背中にマントを羽織った偉そうな雰囲気が特徴
見た目からは想像がつかないが、『世界一過酷な子育てをする鳥』の異名があるドーパントなので非常にタフ
また、皇帝の名前に引っ張られたのか大規模なカリスマ性。配下のちびペンギンの召喚、使役。羽を剣に見立てた剣戟等、容姿で舐めてかかると痛い目に会うだろう
メモリの形はペンギンが横にヒレを伸ばし、嘴、羽、足でEの字を形作っている
(朝塚のメモリは最初クローバーにしようとして、どうしてもシロツメクサで攻撃する方法が浮かばなくて途中でアコナイトに変えたんですけど、アペタイトでA使っちゃってたからクローバーの方が良かったなって今更思う)
『ホーネットドーパント』
『スズメバチ』の記憶を内包するガイアメモリで、北風町に跋扈するメモリ密売人が変身するドーパント。強力な顎、鋭い棘の生えた腕による攻撃だけでなく、臀部から生えた30cmほどの巨大な棘から毒を流し込むこともできる。ただし、毒が使えるのは一度の変身につき一度までで、使用した後は最低3日は変身できなくなる。この毒は一度目で死ぬことはないが、二度受けると生身の人間なら確実に死に至るという特徴がある。また、短距離ではあるが飛行能力もある。
量産型ながら戦闘力の高いドーパントで、彼らの首魁であるクイーンビードーパントはこのメモリへの適合率から優れた戦闘員を見出し、より高位の昆虫系メモリを与える指標にしている。マスカレイドやビーと違い、自爆機能は付いていない。
メモリの色は黄色。顎と触覚を広げたスズメバチの頭部を正面から見た画が『H』の字になっている。
「リンカ、おじや作ったけど食うか?」
ベッドに横たわるリンカに、徹は片手鍋とお椀を持って近寄った。
「…いただきます」
リンカはおじやをよそったお椀とスプーンを受け取ると、ちびちびと食べ始めた。
「具合はどうだ? 寝たら少しはマシになったか?」
「特に変わりありません。休んで改善するものではないので」
「おいおい…病院には行ったのかよ?」
「医療で改善するものでもありません」
「何だよ…」
だんだんと、徹は苛立ってきた。
「その言い方だと、原因が分かってるみたいだな。分かってて、何で放ったらかしてんだよ?」
「そうせざるを得ないからです。特に」
彼女は、彼の目をじっと見て、言った。
「現在、兎ノ原美月と接触している限りは」
「ミヅキが? どうして」
言いかけたその時、彼の携帯が鳴った。画面には『坂間刑事』の文字。
「…もしもし?」
”風車7丁目のドヤ街で、女の遺体が見つかった。暴行された痕があったそうだぞ”
「! 佐倉が」
”ホシのアパートを張ってはいたが、部屋を出たと思ったらいつの間にか消えてたんだと。そいつもドーパントとやらの能力なのか?”
「そうだと思います」
体をタール状に解かし、吸い込まれるように消えていったドーパント。そのまま、どこにでも現れることができるのか。それとも、何か条件があるのか…?
考え込む徹。その足元に小さな一角獣が歩み寄り、せっつくようにその角で、彼の足を突いた。
北風町、とある薄暗い路地にて。投げ捨てられたゴミや動物の糞に塗れたアスファルトの、錆びたマンホールがカタリと音を立てた。次の瞬間、蓋の隙間から黒いどろどろした液体が湧き出し、歪な人の形に固まった。
「ふぃ〜っ…」
出来たての首をこきりと鳴らすと、自称神のドーパントは、満足げに息を吐いた。久々に処女とヤれた。やはり犯すなら若い処女が良い。泣き叫ぶ顔も、穴の締まりも最高だ。この力があれば、何でも自分の思うがまま……
「…っ!?」
突然、彼の足元から炎が噴き上げた。慌てて躱し、周囲を見回す。
『…見つけたぞ、ヘドロ野郎』
「! その声は」
彼の目の前に、白と赤の魔術師が降り立った。装いは違うものの、フードの下の複眼は、先日戦った騎士の、バイザーの向こうに見えたそれと同じであった。
「どうやってここに来た…」
『お前は、体を液体に変えて移動する。だったら流れる場所を通る必要がある。加えて、その体…上水道や地下水よりは、下水道の方がお似合いだと思ったまでだ』
「ンなもん、いくらでもあるだろうがよぉ! 何でここが分かったんだ!?」
『現場と、お前の家の間。その中でも、人気の少ない場所のマンホールに絞った。足りない人手は…』
仮面ライダーは、どこからともなく竹とんぼを取り出すと、慣れた手付きで回した。冷たい風に攫われ、ふわりと宙へ舞い上がると、それは一機のドローンに変化した。
『…俺の力は、空想を現実にする。どこに現れようが、俺は必ず見つけ出す…!』
「上等だぁ!」
ドーパントは怒鳴ると、仮面ライダーに殴りかかった。
「テメエはここで、ぶっ殺す」
『それはこっちの台詞だ…!』
怒りに燃えた声で言い返すと、彼は襲いかかる敵をカウンターで殴り倒した。そして、ドライバーに装填された赤いガイアメモリを抜くと、変形させて今度は青いメモリを装填した。
『セイバー』
仮面ライダーの姿が騎士に変わる。銀の鎧の上には、蒼の勇壮な装甲が加わっており、その手には青と銀の長剣を握っていた。
銀の刃が、ヘドロの体を深々と切り裂いた。
「ぎゃあぁぁっ!!?」
それだけでなく、傷口からは灼けるように煙が立ち上る。
剣は、古来から英雄の武器として様々な伝説に登場している。その記憶を有するガイアメモリによって形作られたこの剣は、特に悪しき存在に対して強力な効果を発揮した。
「ぐっ、うぅっ…」
『やぁっ!』
切っ先が、ドーパントの体を貫いた。彼は憎々しげに唸った。
「うぅ…俺は…お、俺は、神だ…」
『女をレイプして、子供を虐げる、そんな汚い姿の神がいるものか!』
剣を引き抜き、ドライバーの前にかざす。
『トドメだ…』
「俺はぁ! 神だあぁぁぁっっ!!!」
突然、ヘドロに覆われたドーパントの体が、音を立てて沸き上がった。煮え立つタールが飛び散り、騎士の鎧に付くと、鎧が煙を上げて融け出した。
『!!』
咄嗟にマントを広げると、体を防御した。その間にメモリを入れ替え、魔術師の姿に戻る。
『いい加減に…』
防壁を展開し、更に掌を突き出す。次の瞬間、ドーパントの足元から巨大な炎の柱が噴き上がった。
「ぎゃあぁぁぁぁっっ!!」
炎に包まれ、絶叫するヘドロのドーパント。燃え盛る体が次第に蒸発していき…やがて炎が収まった頃、そこにはボロボロになった一人の男が座り込んでいた。
「くそ…おれは…おれ、は…」
『…』
無言で歩み寄る仮面ライダー。彼は、男の目の前に立つと、赤と銀の杖を振り上げた。
「俺はあぁっ! 俺はっ…」
『ガー「ゴッド! ゴッドゴッド! 神、だ…」
喚きながら、黒いメモリを掲げる。
仮面ライダーは、冷たい声で言った。
『ただの、クズ野郎だ』
そして、手にした杖を、生身の男に向かって……
「もう止めて!!」
『…』
仮面ライダーの手が止まる。
彼の目の前に、汚れたピンクのロリータ服を着た、やつれた少女が立ちはだかった。
『…何でだ。そいつは、お前のことも傷付けたのに』
「これ以上…あたしの居場所を取らないで…」
涙を浮かべながら少女が訴える。仮面ライダーは杖を下ろすと、言った。
『居場所だと? そんな所にいるんじゃない。…こっちに来るんだ』
「嫌! こんなパパだけど、お母様の邪魔をするあんたたちに比べたら、マシ」
それから彼女は、地面に座り込んでぶつぶつ呟く男を抱えると、仮面ライダーに背を向けた。
「俺は、おれは…俺は、かみ、俺は…」
「帰ろう、パパ」
汚れたアスファルトを蹴ると、塀を飛び越えて去って行った。
「…ただいま」
家に帰った徹は、室内がやけに静かなのに気付いた。
「…リンカ?」
嫌な胸騒ぎを感じ、寝室に向かう。
そこには、ベッドに横たわって動かないリンカの姿があった。
「リンカ!?」
駆け寄って抱き起こすと、彼女は苦しげなうめき声を上げた。
「おい…おい、しっかりしろ! リンカ、どうしたんだ…」
「…っ、はぁっ」
歯を食いしばり、彼の腕を振り払うリンカ。こんな状態だというのに、いつもの白スーツの、上着のボタンすら外さない。捲れたジャケットの裾から、金属のベルトが見えた。
「…えっ?」
金属ベルトだと? そんなもの、普段付けていたか?
彼女の体を無理やり仰向けにすると、彼は上着のボタンを外して前を開けた。
「!!」
露わになった彼女の腰には、彼女の所持しているガイアドライバーが巻かれていた。しかし今、そこに装填されているのは、金色のトゥルースメモリではない。
「これは…」
半挿しになったメモリを掴み、抵抗する彼女を抑えて引き抜く。
彼の手に収まったのは、ピンク色のガイアメモリ。耳をぴんと立てた、ウサギの頭部が描かれている。
「ずっと、ここに隠していたのか」
「…」
何も言わず、彼女は小さく頷いた。メモリを外しただけで、彼女の顔から苦痛の色が引いていくのが分かった。
「何だってそんな、無茶なことを」
「警察病院に刺客が来た時…貴方の身の安全と同時に、このメモリを奪取しに来る可能性について考慮しました。その上で、常に私の目が届き、かつ他者には物理的に取り出せない場所…すなわち、私の体内という結論に達しました」
「だが、そのせいでこんな」
「…このメモリは、兎ノ原美月に適合しすぎました。臓器と接触しないよう、ぎりぎりガイアドライバー内に留めていましたが…凄まじい拒絶反応と副作用で、やや人格に変調を来しかけました」
そう言えば最近、彼女から徹に触れたり、抱きついたりすることが多かったように思える。ラビットメモリを近くに置いていたために、彼女の性格に影響が出たのかも知れない。
「…とにかく、このメモリは俺が持っておくぞ」
「お断りします。これは、私が管理します」
「駄目だ! もうこれ以上、あんたが苦しい目に合うのは御免だ」
「ですが、貴方はこれを兎ノ原美月に返却する気でしょう?」
「…」
徹は、言葉に詰まった。リンカがすかさず続ける。
「佐倉強也の虐待によって、兎ノ原美月は現在のような人格になった、そういう意味では彼女も被害者でしょう。しかし、それでも敵であることには変わりありません。彼女が再びメモリを手にすれば、我々、そしてこの町にとって大きな障害となることは明らかです。極端な話をするなら」
「…分かった。もういい分かった!」
「このまま、彼女を放置すべきでしょう」
「黙れ! それ以上言うな!!」
「佐倉のもとで、衰弱死でもしてくれた方が、我々にとってはプラスです」
「…あんた…っ!」
徹は歯ぎしりしながらリンカを睨んだ。彼はリンカに背を向けると、足音荒く部屋を出て行った。
ホラーメモリ
頭を抱えのたうち回る人の姿を上から見た様子で描かれたメモリ。
相手が元々怖いと思っているものとなり、暗闇や背後にワープして襲い、その恐怖をエネルギーにする。
副作用で使用者は残忍で猟奇的になる(ホラー映画のキャラみたいになる)
夜の公園。ベンチに座り込んで、徹は溜め息を吐いた。電灯の下に、ピンク色のガイアメモリをかざす。
『ラビット』
「…どうして」
「!」
顔を上げると、彼の目の前にミヅキがいた。
「どうして、あたしはここに」
「このメモリに引き寄せられたんだろう」
ほとんど無意識に、メモリに手を伸ばすミヅキ。徹は、それをさっと引っ込めた。
「…返して」
「駄目だ」
「じゃあ、何のためにここに来たの。何であたしのメモリを持ってるの!」
「話すことなんてない! 返して!」
飛び蹴りを浴びせようと、膝を曲げるミヅキ。徹は椅子から立ち上がると
「…っ!?」
彼女の体を、きつく抱き締めた。
「放してっ…放してっ!」
「ガイアメモリは、あんたを幸せにはしてくれない! あの男もだ!」
「余計なお世話だって! あんたに何が分かるの!?」
「母神教も、あんたの居場所にはならない! お母様とやらだって、あんたを操って、戦わせるじゃないか」
「お母様は!」
彼の脇腹に膝を打ち付けながら、ミヅキが叫ぶ。
「あたしを、愛してくれる…パパだって」
「違う! そんなのは嘘だ!」
彼女を抱く腕に、力を込める。
「あんたは…生まれた時から、ずっと傷付いてきたんだ。勝手な大人たちに振り回されて、辛い思いをし過ぎたんだ。…もう、止めよう。まだ間に合う。やり直すんだ!」
「うるさい! うるさいうるさい、うるさいっ!!」
「…見つけたぞ、クソガキ」
突然、背後から怒声が飛んだ。
「…佐倉、強也」
徹はミヅキの体を離すと、佐倉とは逆の方へ、そっと押し出した。そうして、自分はその男と正面から向き合った。
「よぉ、ヒトの娘と、何盛ってやがんだよぉ!」
「一つだけ、訊きたい」
「…あん?」
徹は一瞬、ミヅキの方を見て、それから問うた。
「ミヅキの母親…兎ノ原皐月は、今どうしてる?」
「ああ? …ああ、あいつか」
彼はつまらなさそうに鼻を鳴らすと、言った。
「ムショ出てから、景気づけにヤッたら、何か死んじまった。…ひひっ、隠しといたのをメモリの力で、ドロドロに溶かして捨てたから、バレずに済んだけどな」
「! そんな」
「…そうか」
徹は、ドライバーとメモリを掲げた。その足元に、小さな一角獣が寄り添う。
「もう、何も言わなくていいぞ。…ここが、お前の終わりだ」ファンタジー!
『…ミヅキ。向こう向いて、耳を塞いでろ。何かしようなんて考えるな。こいつは…あんたの人生には、初めからいなかったんだ』セイバー!
銀と蒼の騎士は、剣を構えた。
「よく言うぜ! …娘は返してもらうぞ」
『ガ「ゴッド! ゴーッド!」
「俺は、神だからなぁ!!」
ヘドロの弾幕が、ファンタジーを襲った。それを剣で叩き落としながら、彼は敵に肉薄していく。
『やあっ!』
「ぐふっ…」
斬撃を受け止めると、ドーパントは足元にヘドロを広げた。
『!』
飛び下がるファンタジー。すかさず黒いタールの鞭が、彼を襲う。それを切り払うと、彼はマントを広げて夜空に舞い上がった。
『たあぁっ!!』
「ぐはっ…!」
重力の乗った一撃が、ドーパントの肩を切り裂いた。
「こ、の…」
傷口が融け、また塞がっていく。彼は辺りを見回すと、突然、腕を長く伸ばした。
手繰り寄せたのは、公園のゴミ箱。空き缶や、弁当の箱が捨ててある。彼はそれを持ち上げると、口を開けて中身を呑み込んだ。
「んっ、ぐっ、ぐっ…」
やがて空になったゴミ箱を投げ捨てたドーパントの体は、先程よりも少しだけ大きくなっていた。
「ひひひっ…こいつでどうだっ!」
『くっ』
重いパンチを、剣で受け止める。どうにか受け流すと、ファンタジーは剣を突き出した。切っ先が、黒い腹部を刺し貫く。だが、傷口がすぐに塞がってしまう。
『だったら…』
ファンタジーが剣を掲げる。と、その刀身が激しく燃え上がった。
『ジャスティセイバー・レーヴァテイン! はあぁっ!!』
「ぐあぁぁっ!?」
炎の剣が、ドロの体を切り裂き、更に蒸発させていく。ドーパントは更に体を強化すべく、周囲のゴミを探す。だが、見当たらない。
「…っ、そうだ」
彼は何かを思いついたように呟くと、やおら体を黒い液状に変化させた。そのまま地面を這い進むと、ファンタジーの後ろにいたミヅキの方へと近寄っていった。
「最初から、テメエを喰っちまえば良かったんだよぉ!!」
「! パパ…」
『この野郎…っ!!』
ファンタジーは猛然と駆け寄ると、人型に戻りつつあるその背中に、燃える剣を突き立てた。
「ぐうぅぅっ…ひっ…ひひっ…はははははっ…」
「…」
ドーパントの体から、タールが黒い触手めいて伸び、ミヅキの体を捕らえた。ミヅキはその場から動こうとせず、じっと自分の義理の父親を見つめていた。
『ミヅキ! ミヅキ、逃げろ! クソっ…』
体を燃やされながらも、娘を捕食しようと腕を伸ばすドーパント。ミヅキの体が、黒い液体に覆われていく…
『ミヅキ! ……手を、出せ』
「…!」
ピンクのスカートが溶け、細い腿が露わになる。……そこに刻まれた、生体コネクターが。
『ラビット』
次の瞬間、そこには、何事もなかったかのように立つミヅキと、その前で崩れ落ちる、ヘドロのドーパントがいた。
「美月…テメエ…」
『…これで、終わりだ』セイバー! マキシマムドライブ
『セイバー…ジャスティスラッシュ!!』
蒼い閃光が、ドーパントの体を両断した。
「ぎゃあぁぁぁっ…」
弱々しい断末魔。光が収まった時、そこにいたのは倒れ伏す薄汚い男と、砕け散った黒いガイアメモリ。散り際、持ち主の虚偽に抗議するように、メモリは自らの名を告げた。
『ガーベッジ』
「…ミヅキ」
変身を解除して、徹は呼びかけた。
ミヅキは動かず、倒れ伏す義理の父親を見つめていた。
「…ぐっ」
佐倉は呻き声を上げると、どうにか上半身を起こした。
「み、美月…た、たす、け」
「…」
ミヅキは黙って、彼の言葉を聞くと…
彼の胸を、蹴り上げた。
「がっ…!?」
「やめろ!!」
徹が身を乗り出すが、もう遅い。彼女の爪先は、佐倉の胸を、文字通り貫通していた。
上げた脚から、スカートの裾が滑る。露わになったコネクターに、ピンク色のメモリを突き立てた。
『ラビット』
「み、づ、き…」
「やめろ! やめろおぉぉぉっっ!!」
「…バイバイ、パパ」
兎の回し蹴りが、佐倉の頭を粉々に砕いた。飛び散る脳漿の中に立ち尽くすと、ラビットドーパント…ミヅキは、変身を解除した。
「あ…ああ…」
「…仮面ライダーさん」
彼女は呟くと…突然その場で跳躍し、徹の胸に飛び込んだ。そうして、彼の唇に、自分のそれをそっと重ねた。
「ありがと。でも、兎は寂しいと死んじゃうの。…あたしには、お母様がいないと」
「どうして…俺のところじゃ、駄目だったのか…?」
ほとんど無意識に問うた徹に、ミヅキは首を振った。
「あなたには、あの金ピカネクタイ女がいるから。…あなたのことは、好き。今まで数え切れない男とエッチしてきたけど、キスしたのはあなたが初めて」
ゆっくりと、後ずさる。その背中から、眩い白の光が溢れ出した。
「…ああ。迎えに来てくれたの、『お母様』」
”おかえりなさい、愛しい子”
「!!」
徹は目を見張った。白い光の中に、何かがいる。逆光に塗り潰された、一つの人影が。
”あなたが、再び母を求めるのを、ずっと待っていました”
「ごめんなさい、遅くなって」
”良いのですよ。…ときに”
「!」
響く声が、徹の方を指した。
”貴方が、仮面ライダーですね。…母の娘が、お世話になりました”
「お前が…お前が、ミヅキを」
”貴方も、愛しい母の子。母の愛を求めるなら…或いは”
「…あたしに逢いたくなったら、いつでも来てね」
照れくさそうに言うミヅキ。その体が、白い光に包まれ……そして、消えた。
『招かれざるG/バイバイ、パパ』完
今夜はここまで
そしてミヅキ編も一旦ここまで
『ガーベッジドーパント』
『廃棄物』の記憶を内包するガイアメモリで、強姦魔の佐倉強也が変身するドーパント。ヘドロめいた黒の体に、ビニールめいた被膜が所々を覆っている。よく見ると、ヘドロの中からは空き缶やペットボトルといったゴミが浮いたり沈んだりしている。体を構成するヘドロを飛ばしたり、伸ばしたりできる他、体を液状に変化させることも可能。ヘドロの中では異常な早さで腐敗が進むため、人体などを溶かすこともできる。ゴミや死骸を吸収することで、傷を治したりパワーアップすることも可能。こう書くと使い勝手は良さそうだが、そもそもの戦闘力がそれほど高くない上、炎には極端に弱いため、仮面ライダーやドーパント同士の戦闘には不向き。
警察から釈放された後、どこかのタイミングでこのメモリを手に入れた佐倉は、強姦の末殺害した内縁の妻である兎ノ原皐月の遺体を吸収し、証拠隠滅を図った。それ以降は、襲う女に近付いたり、犯した女の体を溶かしたりするのに能力を使っていた。また、彼はこれを神の力と信じ、ガイアウィスパーに被せるようにゴッドと叫んでいた。当然、ゴッドメモリなるものは存在しないし、したとしても幹部級のメモリになっていたであろう。
メモリの色は黒。ヘドロの飛沫めいた筆跡で『G』と書かれている。
乙、ミヅキちゃんまた出てくる?
もうちょっとしたらまた出てくる
クソガキから一転、どうなるかハラハラの面白いことになったなー、ミヅキちゃん
「…」
「…」
朝。部屋は、重苦しい空気に包まれていた。
「…やはり、メモリを返却しましたか」
「あの場は、ああするしかなかった」
「ガーベッジドーパントの戦闘力は、それほど高くありません。人一人吸収したところで、ファンタジー・セイバーの敵ではなかったでしょう」
「じゃあミヅキが死ぬのを見殺しにしろってのか!?」
リンカは、そっと目を伏せた。
「…敵であれ、命の損失を抑えたいと願う貴方の姿勢は、個人的には好ましく思います」
ぽつりと、言う。
「ですが…手段を選んでいられる状況でないことも事実です。ラビットメモリを返却して、我々が得たものは、あまりにも少ない」
「お母様とやらの声を聞いたぞ。いつでも会いに来いとも言われた」
「ラビットドーパントはともかく、首魁の戦闘力は未知数です。今飛び込むのは、あまりに危険と考えます」
「じゃあどうしろって…」
張り詰めた空気を破るように、徹の携帯電話が鳴った。画面には『植木警部』の文字。
「…もしもし、おはようございます」
”力野さん、先程警察病院から連絡があったんだが…朝塚芳花が、死亡した”
「朝塚って…アコナイトメモリを使った…!」
”集中治療室で昏睡状態だったが、とうとう回復することは無かった…。今日、改めて朝塚ユウダイを呼んで取り調べたいと思う。力野さん、リンカさんも、一緒に来てくれないか”
母親が死んだというのに、息子はぼんやりした顔で、坂間の質問に要領を得ない答えを投げ返した。
「ガイアメモリは、どこで手に入れたの」
「…塾の帰りに、拾いました」
「蜜屋の塾で、何を教わってるの」
「勉強と、奉仕の心です」
「ユウダイ君…っ!」
坂間は語気を荒げた。
「君のお母さんが、亡くなったんだぞ!? 君が持ってきた、ガイアメモリを使って…」
「母は、使い方を間違えたんだと思います。先生は、何も関係ありません」
机を叩き、いらいらと首を振る坂間。それを見ながら、徹とリンカは、静かに取調室を出た。
「…そう言えば、蜜屋について調べてたんだろ。何か分かったのか?」
廊下の自販機で缶コーヒーを買いながら、徹は尋ねた。
「そうですね。あれだけ具体的な証言が出ているにも関わらず、決定的な証拠を掴ませない、巧妙さは思い知りました」
微糖コーヒーを受け取りながら、リンカが答える。
「その、愛巣会とやらにも行ったのか」
「はい。中では、授業とレクリエーション、それから野外での奉仕活動が行われているだけでした」
「洗脳だ何だの証拠は掴めてない、か」
無糖コーヒーを啜ると、徹は溜め息を吐いた。
「何だよ、そっちも進捗ナシじゃねえか」
「進捗ならあります。…塾の敷地内で、九頭英生を見かけました」
「九頭だと!?」
徹は素っ頓狂な声を上げた。
「あいつは自爆して死んだはずだ。何かの見間違いだろ」
「側頸部の生体コネクターを確認しました。何より、教員の一人が九頭の名を呼びました」
「だが…」
「井野定を覚えていますか」
「えっ?」
急に彼女が別の男の名前を出したので、徹は虚を衝かれたようにぽかんと口を開けた。
「彼は、墓から妹の遺骨を取り出す時、『お母様の力があれば妹が帰ってくる』と言いました。死亡したはずの九頭が、まだ生きているとすれば…案外、無理な話でもないのかも知れません」
「…」
徹は黙って考え込んだ。
「…俺も、行ってみるか」
「そうしましょう。特に、九頭は貴方が仮面ライダーであることを知っています。反応を確かめるだけでも収穫はあるでしょう」
川沿いにある細長いビルが、丸ごと愛巣会の建物であった。玄関をくぐったリンカを、蜜屋志羽子はにこやかに出迎えた。
「いつもお世話になってます、リンカさん。…」
挨拶してから、その後ろにくっついて来た、見慣れない男に一瞬、眉をひそめる。
「こちらの方は…?」
「力野と申します」
徹は名刺を差し出した。
「実を言うと、円城寺に先生の取材を委託したのが私でして。本日は、一緒にお邪魔させていただきます」
「まあ、そういうことだったんですね」
蜜屋は納得したように頷くと、名刺を丁寧に仕舞った。そうして、奥を指した。
「では、参りましょうか。力野さんがご一緒ですので、また最初からのご案内になりますが、よろしいでしょうか? リンカさん」
「もちろんです」
リンカは頷いた。蜜屋の先導で、2人はビルの奥へと進んだ。
2階から、教室が始まっていた。1フロアにつき2部屋の教室があり、それぞれの部屋には大きな机と椅子が、緩やかな円形に並んでいた。椅子には10人弱の生徒が座って、黙々と勉強をしている。
「今日…と言うより、近世より日本人が固執する教育方式は、先進国では絶えて久しいものです。生徒全員が一方向を向いて座り、教師から一方的な教えを投げつけられるだけ」
「確かに、机はアメリカの学校など見る配置ですね。…クラス分けに、何か基準は?」
「まずは、目的です。学業の成績向上と、生活の改善とでは、行うべきことが違います。この階は、純粋に勉強をする生徒のためのものです」
片方の部屋に入ると、生徒たちが顔を上げて一斉に挨拶した。その中の一人を呼び寄せると、蜜屋は紹介した。
「室長の小崎君です。…こちらのお二方は、勉強するあなた方を取材しに来てくださいました」
「小崎と申します。よろしくお願いします」
中学生くらいに見えるその少年は、恭しく頭を下げた。態度だけでなく、話す内容も気味が悪いほどに模範的で、徹たちの付け入る隙を与えない。疑いの目で見れば、確かに洗脳されているのかもと思えるくらいであった。
2つ階層を上ってもそれは同じであった。様子が変わってきたのは、4階に辿り着いてからだ。
「この階からは、非行の更生のためのクラスになります」
確かに、先程までとは空気が違う。教室にいる生徒たちも、席に座らずに歩き回ったり、談笑したりしている。
「良いんですか? 勉強に励んでいるようには見えませんが」
「こうして仲間と触れ合い、絆を育むことが、彼らにとっての勉学なのですよ」
笑顔で言うと、彼女は教室に入った。
「あっ、先生! おはようございます!」
蜜屋に気付くと、生徒たちが挨拶した。
「ええ、おはよう」
挨拶を返しながら教室の奥へ進むと、片隅で座って読書する少女に声をかけた。
「速水さん、何を読んでいるの?」
「…朔田友子の、新作」
ぼそりと答えると、彼女は文庫本のブックカバーを外してみせた。
「前におすすめした作品ね。彼女の生き方には、学ぶことがたくさんあるわ。…」
教室を出ると、蜜屋は言った。
「あの娘は、少し前までパソコンばかりをして、家に引き籠もっていました。うちに入塾してからは、少しずつ段階を踏んで、今では本に興味を持ってくれるようになりました。もうすぐで、外の世界に出ていけるはずです」
今夜はここまで
全く関係ないところでゴス子とメテオがゴールインしてる……
速水ってギャレンの人やんけ!
6階に着いた時、片方の教室から一人の女が飛び出してきた。
「あっ、蜜屋先生!」
「友長先生? どうしました」
ブラウスの上からきっちりと長白衣を着込んだその女は、焦燥した顔で言った。
「園田君と渡部君が…」
「行ってみましょう」
教室に入ると、2人の少年が殴り合いの喧嘩の最中であった。周りでは、他の生徒たちが囃し立てたり、迷惑そうに眺めたりしていた。
「止めなさい、2人とも!」
蜜屋は2人の間に割って入ると、声を張り上げた。
「…喧嘩の理由は、後で聞きます。友長先生、2人を医務室にお願いできますか」
「分かりました」
2人が教室を出ていくと、蜜屋は低い声で言った。
「…このように、子供が暴力に訴えるのは、それしか対話の方法を知らないからです。彼らは、生まれた時から言語によるコミュニケーションを疎かにされ、暴力に頼った教育を受けてきた、被害者なのです」
「では、あの2人は」
「ええ。虐待を受け、児童相談所に保護された子たちです。ここにいるのは、ほとんどがそのような経歴の持ち主たちです」
「この後、どのような指導を?」
「まずは、じっくり待つことですね。お互い怒ったまま話を聞いても、前には進みませんから。…あら、もうこんな時間」
蜜屋は腕時計を見ると、申し訳無さそうに言った。
「階段を上ってばかりで、お疲れでしょう。少し休憩にいたしましょうか」
「そつが無さ過ぎる」
応接室にて。蜜屋がいなくなったことを確認すると、徹はずばり言った。
「同感です。まるで私たちの求めるものを知っていて、先回りして隠しているかのようです」
「生徒の手首にコネクターは無かったが…」
そこへ、一人の職員がお茶と菓子を持って入ってきた。
「どうぞ、粗茶ですが」
「あ、どうも……っっ!!?」
受け取っておいて、徹は絶句した。盆を運んできた職員。それは、目の前で自爆したはずのマスカレイドドーパント、九頭英生その人であった。
九頭はまるで初対面ですと言わんばかりに、2人に向かって丁寧に頭を下げた。しかしその首には、明らかにガイアメモリのコネクターが刻まれていた。
彼が去った後で、徹とリンカは顔を見合わせた。
「…何だか、馬鹿にされてる気がするな」
「同感です」
「だが…ここで打って出るのは、明らかに向こうの思う壺だろうな」
「ええ。付け入る隙があるとすれば…」
リンカは、九頭が出ていった扉を睨みながら、言った。
「朝塚芳花が、この塾の正体について知ったきっかけ…誰が彼女に、ここで行われていることを教えたのか」
「…知りたいですか?」
「!?」
振り返ると、そこには先程出てきた、友長と呼ばれた白衣の女が立っていた。
「あなたは…」
「塾の専属医…まあ、学校医の、友長真澄といいます」
不思議な女だった。美人であることに変わりはないが、視界に入る度に少女のようにも、老婆のようにも映る。白衣の上からでも分かる、大きな胸が目立った。
「…わたしは、蜜屋先生のやり方に疑問を抱いています」
「この塾に勤めておられる、あなたが?」
「ええ。…見ていただいた方が早いでしょう」
そう言うと彼女は、2人を先導してエレベーターに乗り込んだ。そこで何やら、階層のボタンを数度押すと、エレベーターが音もなく下へ向かって進み始めた。
「地下…?」
「隠された部屋です。あの2人は、医務室へ連れて行くと言われましたが、実際に向かったのはこの先です」
エレベーターのドアが開く。目の前に現れたのは、冷たい金属の扉。
友長はそっとノブに手をかけると、静かに回し、細く扉を開けた。
「どうぞ、ご覧ください」
徹は、隙間からそっと中を覗いた。
そこにいたのは、先程喧嘩していた2人の少年と、一人の男。
「あれは…」
「…蜜屋の秘書、と思われます。以前にもお会いしたことがあります」
リンカが覗いて言った。それから何か言おうとして、はっと息を呑んだ。
「あれは…ガイアメモリ!?」
「何だと?」
身を寄せ合って、2人で隙間に目を近づける。
男は、黙って突っ立っている2人の前で、紺色のガイアメモリを掲げた。目を凝らすと、そこには鉛筆や鞭を組み合わせた意匠で『T』と書かれていた。
男が、威圧的な口調で何か言う。そして、メモリが自らの名を告げた。
『ティーチャー』
『Sの秘密/愛を育む巣』完
今夜はここまで
しばらくは更に更新頻度が落ちそう
おつ
男が腹にメモリを刺すと、その体を灰色のコンクリートめいた液体が覆った。それは見る見る内に四角い構造を成し、やがて一棟の小さな校舎を形作った。時計から、不気味な鐘の音が響き……2人の少年が、消えた。
「!? おい、何をした!?」
思わず、徹はドアを開け、部屋の中に飛び込んだ。
「徹! 危ない…」
「なっ、これは…うわあぁぁっ!?」
校舎の下部、玄関と思しき扉が開き、徹の体がその中へと吸い込まれていく。リンカは咄嗟に後を追い、彼の手を掴もうとした。ところが
「…ああ、見つけてしまったのね」
「!」
振り返ると、そこいたのは蜜屋志羽子。冷たい目でリンカを睨んでいる。
校舎の中へ消えていく徹を尻目に、蜜屋は言った。
「あなたがこの塾を嗅ぎ回っていることは、最初から分かっていたわ。決定的な証拠を掴まない間は好きにさせてあげようと思ってたけど、見つけてしまったなら仕方ない」
「…」
入ってきた扉の向こうに注意を向ける。いつの間にか、友長の姿が消えている。
「偽りです。貴女は最初から私たちをここにおびき寄せた上で、秘密裏に始末するつもりだった」
「いいえ? ここが見つかるのは、本当に想定外よ。…全く。あなたが私の生徒なら、どれほど優秀な働き蜂になれたでしょうね」
「お断りします」
鞄からXマグナムを抜き、構える。が
「ふんっ」
蜜屋が、何かをリンカに向かって投げた。それは凄まじい速度で銃身を直撃し、彼女の手からはたき落としてしまった。
ブーメランめいて戻ってきた物体を掴むと、蜜屋は目の前に掲げた。
『クイーンビー』
『トゥルース』
リンカは黄金のメモリを取り出すと…手裏剣のように、蜜屋に向かって投げつけた。
「!」
蜜屋も、メモリを投げる。空中でぶつかり合った2本の小匣は、それぞれの持ち主の元へ戻ると、方やガイアドライバー、方や後頭部のコネクターに、吸い込まれるように収まった。
爆風が部屋を薙いだ。次の瞬間、そこには殺人蜂の女王と、真実の女神が、陽炎を纏って向かい合っていた。
「やはり、蜂の首魁は貴女でしたか」
「ええ。…この姿は、2度めね」
言いながら女王蜂は、虹色の翅を震わせた。すると壁に六角形の穴がいくつも開き、中からヤンクめいた服装の若者たちが一斉に飛び出してきた。
「さあ、私の優秀な生徒たち。…この邪魔者を、喰い殺しておしまい」
「はい、先生!!」ホーネット!
ホーネット
ホーネット ホーネット
ホーネットホーネットホーネット ホーネット
ホーネット ホーネットホーネット ホーネット ホーネット ホーネット
ホーネット ホーネットホーネットホーネット ホーネットホーネット ホーネット ホーネット ホーネットホーネット ホーネット
ホーネットホーネット ホーネット ホーネット
ホーネットホーネットホーネット ホーネットホーネット ホーネットホーネットホーネットホーネットホーネット
スズメバチの大群が、部屋を埋め尽くす。彼らは牙や爪、巨大な棘を剥き出し…一斉に、リンカに襲いかかった。
「ここは…?」
気が付くと、徹は学校の教室に立っていた。広い部屋に、2つだけぽつんと置かれた机と椅子には、先程の2人の少年が座って教壇を見つめている。教壇に立っているのは、ティーチャードーパントに変身したはずの、蜜屋の秘書だった。
「授業を始めます」
男が言うと、黒板にずらずらとチョークで書かれたような白い文字が流れ始めた。
「あなた方は蜜屋先生の生徒です。生徒としての役割を果たしなさい。互いに争うことは許しません」
「な、何だこれは…?」
ロボットのように抑揚のない声で、ひたすら喋り続ける男。それを黙って聞く少年たち。黒板には、文字に混じって蜜屋の顔写真やホーネットメモリの画像が流れ始めた。
「人は一人では生きていけない存在です。蜜屋先生を信じなさい。蜜屋先生に従いなさい。それが全ての始まりです」
「おい…何を言ってるんだ!」
徹は声を上げた。しかし、誰一人として反応しない。
「より多く、ガイアメモリを広げなさい。…より多く、『お母様』の賛同者を増やしなさい」
「!!」
徹は、ドライバーとメモリを取り出した。
「ここで、子供たちを洗脳しているってわけか…変身!」ファンタジー!
その時、男が初めて徹の方を見た。
「そこのあなた! 校則違反です! この神聖な教室では、何人も生徒や教師を傷付けることは許しません!」
「校則違反」「校則違反です」ホーネット
2人の少年が椅子から立ち上がり、振り返った。虚ろな目で徹を見ると、各々黄色いガイアメモリを抜き、手首に刺した。
『上等だ。こんな歪んだ教室……』
ファンタジーは剣を構えた。
『…俺が、ぶっ壊してやる!』
トゥルースドーパントが、エジプト十字の杖を振りかざすと、スズメバチたちの動きが止まった。
「なにっ…」「ぐっ」「うあぁっ…!?」
「人の身で虫などに身をやつし。ただ一人の人間に盲目的に従い。組めぬ徒党を組んで、歪みを広げる。貴方たちの在り方は……偽りです」
杖を振るうと、ドーパントたちがその場に膝を突き、崩れ落ちていく。しかしよく見ると、その程度には差があった。変身が解除される者もいれば、歩みが遅くなった程度の者もいる。
そしてその中に、明らかに影響を受けていない、2匹の蜂がいた。
「小崎君、速水さん」
「はい」「はい。先生」
女王蜂の号令で、2人は前に進むと……変身を解除し、それぞれ、別のガイアメモリを掲げた。
『バンブルビー』『ロングホーン』
小崎が左肩に、速水が右脇腹に、新たなメモリを打ち込むと、彼らの姿はそれぞれ熊蜂と、カミキリムシの怪人へと変化した。
「真実。偽り。それを決めるのは、何? ……所詮は、メモリとの適合率の問題。簡単なことだわ」
熊蜂が、太い腕で殴りかかってきた。それを杖で受け止めると、女神は片方の翼を広げ、鋭い羽をカミキリムシに向けて放った。
「っ、くっ、うっ」
外骨格で羽を弾きながら、カミキリムシも女神に肉薄し、そして鋭い牙を剥き出した。大きく開かれた顎に向けて、女神が金の光弾を放つ。
「ああっ!?」
「ぐはっ…」
突き出した杖が、熊蜂の腹を抉る。
崩れ落ちた2体を蹴り飛ばすと、女神は女王蜂を睨んだ。
「人は。……蜂でも、甲虫でもない。彼らのこの姿は、どうしようもなく偽りです」
「こ、の…っ!」
怒りに唸りながら、遂に女王蜂が翅を広げ、襲いかかってきた。
「せぇいっ!」
「ふんっ!」
剣と爪がぶつかり合う。机を切り裂き、椅子を蹴散らしながら、ファンタジーは2匹のスズメバチと戦いを繰り広げていた。その後ろでは、相変わらず蜜屋の秘書が、黒板の前で絶えず洗脳の言葉を紡いでいる。
「蜜屋先生は絶対です。蜜屋先生を信じなさい。皆さんは優秀な生徒です。必ず、先生のご期待に応えなさい。…」
「こ、の…!」
ファンタジーは手元に短剣を出現させると、男に向かって投げつけた。無論、直接刺さらないようにだ。
鋭い刃が、すぐ耳元を掠めたと言うのに、男は一切怯まない。
「蜜屋先生の教えを広めるのです! ガイアメモリと、皆さんの努力で…」
「クソっ!」
剣を片方のドーパントに突き立て、もう片方を拳で殴り倒した。
「ぐわっ!」
「倒しても倒しても…」
「くっ、そっ!」
男の声が響く教室で、2人の生徒は何度倒されても、諦めずに立ち上がってくる。その動きに、疲労が見えない。
「キリがない…」
剣を収めると、魔術師の姿になった。かざした手から炎が噴き出し、ドーパントを襲う。
「うわあぁっ!」
「お前もだっ!」
殺しは論外だが、黙らせなければ。魔法陣から緑色の霧が噴き出して、男の顔を覆った。
「蜜屋先生は…っ! げほっ、がっ…!?」
「お前たちの教えは、確かに活かされてるぞ。…この、ワサビ攻撃にな!!」
蜂たちの動きが鈍る。その隙に、メモリをスロットルに挿し込んだ。
『これで…』ファンタジー! マキシマムドライブ
『…終わりだ! ファンタジー・イマジナリソード!』
「ああああっっ!!」「ぐわああぁぁっ!」
白い閃光が、2体のドーパントを切り裂く。スズメバチのメモリが破壊され、人間に戻った生徒たちは、ふっと教室から消え去った。
『よし、後はこの教師をどうにかすれば…』
ところが、次の瞬間
「…仮面ライダー!」「見つけたぞ!」「わ、私が倒す…」「いや、俺だ!」
『何っ!?』
教室に、新たにホーネットドーパントが、大量に出現したのだ。特に、ファンタジーの近くに出現したドーパントは、翅を広げてその場に浮かび上がると、尻から突き出した巨大な針を、ファンタジーに向けた。
「この教室が、あなたの墓場です! さあ、生徒たち!」
「はい!」
男の号令で、スズメバチたちが一斉に襲いかかってきた。
鋭い棘と、七色の翅が空中でぶつかり合う。時折介入してくる、バンブルビーとロングホーンをいなしながら、トゥルースドーパントはクイーンビーと射撃戦を繰り広げる。
腕から棘を飛ばしながら、クイーンビーが叫んだ。
「あなたたち! ここで寝ているくらいなら、教室に加勢なさい!」
「! は、い…」
トゥルースドーパントによって力を抑えられていたホーネットたちが、ゆっくりと起き上がる。
「仮面ライダーを倒しなさい。…活躍した生徒には、褒美を与えるわ」
「!!」
女王蜂の言葉に、弱っていたはずの蜂たちが我先にと、ミニチュアの校舎に飛び込んでいく。
「! メモコーン、早く来て…」
「あなたの相手は、この私よ」
手首から、巨大な針を伸ばして殴りかかる。間一髪で躱すと、杖で殴り返した。打撃を肩の装甲で受けると、そこに蜂の巣めいて六角形の穴が空いた。
「…!」
咄嗟に翼を広げ、体を庇う。そこへ、白い弾丸が直撃した。
「っ、流石に手強い…」
「思ったほどでは無いのね。…さあ」
「はい」
バンブルビーとロングホーンが、背中から彼女に致命傷を与えんと、腕を振り上げた。次の瞬間
「…っ!?」「痛っ!」
歌うようないななき。銀の一角獣が何処からともなく飛び出し、2体のドーパントに体当たりを見舞った。
「! メモコーン、徹を助けて…」
ところがメモコーンは校舎に目もくれず、今度は女王蜂に突撃した。
「メモコーン! 私のことは良いから…」
「っ、うっとおしい…!」
跳び回る一角獣を捕らえると、クイーンビーは床に叩きつけて踏みつけた。そのまま、トゥルースドーパントを複眼で睨んだ。
「…キリが無いわね。どう、リンカさん? この際、あの頼りない仮面ライダーなんて捨てて、私たちの所に来ない?」
「…」
「あなたが単純な正義のために動いているわけじゃないことは、何となく察してるわ。どうせ、あの男とは一時的な協力関係…或いは、あなたが一方的に利用しているのでなくて?」
手首の針を、鼻先に向ける。
「…場合によっては、私たちの方があなたの助けになるかも」
「…魅力的な申し出ですが」
女神は、言った。
「ええ。物分りが良いのはとても」
「今は、ご自身の背後を気にするべきかと」
「!?」
咄嗟に振り返る女王蜂。
そこには、一人の少年がいた。
「お、お前が…お前が」
「…朝塚君。今更、何の用」
「お前が、母さんを!!!」
少年…朝塚ユウダイは、泣きながら一本のガイアメモリを、両手で捧げ持った。
奇妙なメモリであった。プロトタイプらしく剥き出しの基盤に端子しか付いていないのだが、基盤には白いテープが乱雑に巻かれていて、油性マジックらしき線で『X』と書かれていた。
「! どうしてそれを」
「ああああああああっっっ!!!!!」
絶叫しながら彼は、そのメモリを喉に突き立てた。そのまま、クイーンビー…蜜屋志羽子に向かって、突進した。
「落ちこぼれが…ッッッ!?」
棘を剥き出し、迎え撃とうとしたその体が、壁まで弾き飛ばされた。
ユウダイは止まらず、ティーチャードーパントの所まで走り、そのまま小さな校舎に吸い込まれていった。
『ぐっ…く、うぅっ…』
震える手で剣を握り、肩で息をするファンタジー。片手で覆った脇腹には、巨大な棘が深々と突き刺さっている。
「あと一回だ! 誰か!」
彼に棘を見舞った少年が、仲間たちに叫んだ。彼自身は針を刺した瞬間、人間に戻ってしまった。一度使うと、ドーパント態を保てなくなるのかもしれない。
スズメバチの針なのだから、効果も察するというものだ。先程からファンタジーは、全身に強い痺れを感じていた。しかし、こんなものは序の口だ。真に恐ろしいのは、2発目…一度毒を受けた体が、二度目に同じ毒を受けた時…その時は、間違いなく命は無いだろう。
「俺だ!」「私よ!」「どけっ、ここは…」
せめてもの救いは、手柄を焦るあまりホーネットたちが押し合いへし合いして、中々ファンタジーに辿り着けずにいることだ。
『はあっ…はあっ…やあっ!』
すり抜けてきた1人を切り伏せる。しかし、次は無さそうだ。彼の手から、剣が落ちた。
メモコーン…クエストのメモリがあれば、毒を解除できるかも知れない。だが…
『…ったく、肝心の時に役に立たねえ!!』
更にすり抜けてきた1人が突き出した、尻の棘を、ぎりぎりのところで掴んで止めた。そのまま床に投げつけると、とうとう彼は床に膝を突いた。せめて盾をと念じるが、具現化する力も残っていない。
『はぁっ…ここまで…なのか…っ!?』
死を覚悟した、その時
「うあああああああっっ!!!」
『!?』
突然、教室に誰かの叫び声が響き渡った。と思うや、部屋の中心に1人の少年が現れた。
『また加勢か…』
ところがその少年は、ファンタジーではなく、教壇に立つ男に向かって一直線に突っ込んでいった。
「よくも! よくも母さんを! 母さんを、返せえええぇぇぇx!!!!」
「! ガキが…!」
苛立った顔で、少年をあしらおうとする男。ところが、存外に少年の力が強い。
ここに至って、ファンタジーは少年が何者なのか気付いた。
『ユウダイ君!? どうしてここに…』
「母さんを! 良くも!」
男のスーツを掴み、殴りつけるユウダイ。
「劣等生め、ここで死ね!」
「ぐあぁっ…!」
男が手をかざすと、コンクリートめいた液体が湧き出し、ユウダイの顔を覆った。気道を塞がれてもなお彼はもがいた。だが、それも長くは続かず、ユウダイは男の足元に崩れ落ちた。
「ふん、クズめ……っ!?」
そこまで言って、突然彼の顔に狼狽が浮かんだ。
「しまっ…」
次の瞬間、教室の空気が歪んだ。
『なっ、何が』
床が揺れ、壁がひび割れ、机や椅子が溶けて無くなっていく。
やがて…満身創痍のファンタジーは、元いた地下室に、大勢のホーネットドーパント、そして動かなくなった朝塚ユウダイと共に戻ってきた。
『はあっ…も、戻ってきた…?』
「徹!」
『!』
呼びかける声に、はっと顔を上げる。そこにいたのは、女王蜂のドーパントと対峙する、黄金の女神。
彼のもとに、小さな一角獣が駆け寄ってきた。
『遅いんだよ、お前はよ…!』クエスト!
赤いメモリを装填すると、ファンタジーの姿は白いローブに赤い装飾を纏った魔術師に変わった。同時に、体を蝕む毒も消え、彼はすっくと立ち上がった。
『もう許さねえ! 母親だけじゃなく、息子まで…』クエスト! マキシマムドライブ
ファンタジーの体を、白いマントが包み込んでいく。
「…チッ」
女王蜂は舌打ちすると、翅を震わせて部屋から逃げ出した。後を追って、生徒たちも部屋を出ていく。
それらを追うことはせず、巨大なグリフォンと化した仮面ライダーは、天井を突き破って宙へ舞い上がった。
『クエスト…ラストアンサー!!』
急転直下、銀の矢が、ミニチュアの校舎を打ち砕く。
「ぐ、うっ」
ぼろぼろに崩れ落ちた校舎の中で、男が倒れる。その体から紺色のメモリが吐き出され、そして砕け散った。
「…ユウダイ君!!」
変身を解除すると、徹はユウダイの体を抱き起こした。
「…ユウダイ君…おい、しっかりしろ!」
しかし、彼は動かない。息をしていない。……心臓が、動いていない。
「そんな…」
「警察を呼びましょう」
同じく変身を解除したリンカが、冷静に言った。
「この塾はクロだと証明できました。ティーチャードーパントの変身者が逃げない内に」
「…ああ」
植木警部に連絡し、超常犯罪捜査課が到着し、捜査が始まり……その、どこかのタイミングで。
朝塚ユウダイの遺体は、まるで蜃気楼か何かのように、忽然と姿を消したのであった。
大聖堂。白いヴェールの向こうには、2つの人影が蠢いていた。
「あぁ…母さん…母さん…」
”可哀想なユウダイ…愛しい子”
祭壇に仰向けに横たわる、白い女。その上に、裸の少年が寝そべって、泣きながらその胸にしがみついている。
”もう、心配いりません。あなたは一度死んで、母の胎から生まれました。これで、身も心も、母の子…”
「母さん……『お母様』…」
”ふふふ…そうですよ、ユウダイ…さあ、生まれたてのあなたには、母のお乳が必要です…たんと召し上がれ…”
「お母、様…」
うわ言のように言いながら、彼は顔を上げ、女の胸に吸い付いた。
”んっ…ぁ…”
「…」
ヴェールの外から、それを不機嫌そうにミヅキは見つめていた。
「んっ、んっ、んくっ…お母様、もっと…」
”ええ。もっと、好きなだけ…”
「…」
悩ましげな声に浮かされるように、無意識にスカートの中に手を伸ばす。
「…っ」
苛立ち。焦燥。そして、嫉妬。凡そ不愉快極まりない感情を快感で塗り潰すように、彼女は自らの秘部を乱暴に弄ったのであった。
『Sの秘密/働き蜂の先生』完
今夜はここまで
『ティーチャードーパント』
『教師』の記憶を内包するガイアメモリで、朝塚志羽子の秘書が変身するドーパント。変身すると全身がコンクリートめいた物体に覆われ、全高2m弱の小さな校舎のような姿となる。その玄関に当たる穴から範囲内の人間を吸い込み、内部に創られた『教室』に閉じ込めることができる。そこでは変身者を『教師』、吸い込まれた人間を『生徒』として、『授業』という名の洗脳が行われる。また、教室内では変身者が予め定めておいた『校則』に縛られ、それに違反するとそこにいる全ての人間が違反者を排除しにかかる。ただし変身者も校則に縛られ、万が一変身者が違反した場合は教室が崩壊し、中にいる人間は全員元の場所に強制的に戻される。なお、上記は全てドーパント内部のことであり、ドーパント自身の肉体は文字通り校舎となるため一切の身動きがとれない。そのためティーチャードーパントが十全の力を発揮するには、外で体を護衛する者が必要。
蜜屋は自身の生徒の中から見込みのある者をこのドーパントに洗脳させ、自身の手下としていた。仲間割れを起こした手下の再洗脳を命じられた秘書であったが、生徒と一緒に力野徹まで吸収してしまう。洗脳を止めさせようと変身する彼を、校則違反として排除しようとしたのはよかったものの、途中で同じ生徒である朝塚ユウダイの妨害に遭う。彼は怒りに任せてユウダイを殺害するが、そのせいで『何人も教師と生徒を傷付けてはならない』という校則に自ら違反することとなってしまい、教室は崩壊した。
メモリの色は紺。鞭(ウィップではなくケインの方)と鉛筆を組み合わせた意匠で『T』と書かれている。
>>206をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました!
『バンブルビードーパント』
『熊蜂』の記憶を内包するガイアメモリで、愛巣会の生徒小崎善貴が変身するドーパント。ホーネットに比べてマッシブな体つきで、パワフルな肉弾戦が得意。その反面、飛行能力はほぼ無く、動きもやや鈍重。
メモリの色は焦茶。蜂の片羽を象った『B』の字が書かれている。
『ロングホーンドーパント』
『カミキリムシ』の記憶を内包するガイアメモリで、愛巣会の生徒速水かなえが変身するドーパント。硬い外殻に鋭い牙を持ち、長い触覚で相手の気配を察知することにも長けている。ミュージアム崩壊後に造られた、新造のガイアメモリ。
メモリの色は赤。長い触覚を直角に広げた、カミキリムシの頭部が『L』に見える。ちなみに、カミキリムシの中でもこのドーパントはクビアカツヤカミキリに似ている。
『クイーンビードーパント』
『女王蜂』の記憶を内包するガイアメモリで、教育評論家の蜜屋志羽子が変身するドーパント。女性的な蜂の体を素体に、虹色の翅、巨大な複眼、琥珀めいた装飾、蜂の巣を象った六角形の装甲と、随所に高貴な意匠が施されている。ホーネットドーパントと違い飛行時間に制限が無いだけでなく、一度使用すると変身を解除される毒針も、腕から無限に撃つことができる。また、肩の装甲からロケットランチャーめいて白い弾丸を放つことも可能。しかしこのメモリの真価は『虫たちの女王』であることで、このメモリ自体がビーやホーネット、バンブルビーといった蜂系のドーパントを操る能力を持っている。加えて適合率の高い蜜屋は、蜂だけでなく昆虫全般のドーパントをも操ることができる。
シルバーメモリとゴールドメモリの中間に位置する、幹部級を除けば最高級のメモリで、ミュージアム下で2本しか製造されなかった特注品。1本を禅空寺朝美が、そしてもう1本を蜜屋志羽子が所持していた。つまり、ミュージアム崩壊前から彼女はガイアメモリの使用者であった。その上で彼女は、自身の生徒に量産型のホーネットメモリを持たせることで、操作、洗脳の足がかりとしていたのだ。
メモリの色は黄色と黒の縞模様。円形のハニカムの縁に、一匹の蜂が佇む画を『Q』と読ませる。
『トゥルースドーパント』
『真実』の記憶を内包するガイアメモリで、財団Xのエージェント、円城寺リンカが変身するドーパント。白地に藍色の隈取の施された仮面に、白い羽の刺さった黄金の冠を被り、金糸で刺繍された白の長衣の上から、黄金と宝石の装飾をいくつも纏っている。その手にはエジプト十字、すなわち生命を意味するアンクを象った杖を持ち、背中からは七色の羽の生えた翼が伸びている。モチーフは、その羽が罪の重さを量る分銅となる、エジプト神話における真実の女神マァト。金色の光弾や、鋭い羽を飛ばす攻撃は、並のドーパントなら瞬殺できるほど強力。しかしこのメモリの本質はそこではなく、『真実を量る』こと。特にドーパントに対しては、適合率が低かったり、元の姿や性質からかけ離れているほどにメモリの力が強く作用し、程度によってはそれだけでメモリブレイクできることもある。
元はミュージアムにて製造されたゴールドメモリ、すなわち園咲家の人間やその関係者にのみ使用を許された、極めて強力なメモリ。ミュージアム崩壊後、旧園咲邸を家宅捜索した際にリンカが発見し、そのままガイアドライバーごと所有することになった。しかし、もしミュージアムが崩壊していなければ、このメモリを使用する人間が、いずれ園咲家に誕生する予定だったのかもしれない。
メモリの色は当然金。天秤を象った『T』の字が書かれている。
……余談だが、白の長衣はほとんどシースルーで、宝石の襟や細い前垂れ付きベルトで局部をかろうじて隠しているため、肌の露出が少ないくせにタブードーパントよりもエロいと一部ではもっぱらの評判である
ジオウを見たら思いついたので投稿
パラレルワールドメモリ
『平行世界』の記憶を有したガイアメモリ
ガイアメモリが地球の記憶を力としている特性上、『平行世界』の記憶であるこのメモリは殆ど力を持っておらず(マスカレイド以下)、そのくせ無駄にメモリのランクは高い(幹部級)という散々なものだった。そのため鑑賞用のメモリと揶揄されていた。
しかし、どこぞの『通りすがり』が『ガイアメモリを持つもの』及び『地球の本棚にアクセスできるもの』に接触したことにより、地球が『平行世界』の記憶を獲得してしまい、爆発的に力が増加してしまった。
使用したものがいない(使用したものがいない)ためその力は未知数だが、下手をしたら世界の創造ができるかも…?
カートゥーン・ドーパント
「2次元」の記憶を内包するメモリを使用し変身したドーパント
変身した者にマンガやアニメ表現の様な能力を与え、異様な程に誇張化した仮面ライダーの様な姿へと変える
具体的には身体を粘土の様に曲げて攻撃を避けたり、明らかに死ぬダメージを受けても即時復活する。所謂トゥーンだから無敵デース理論
また、他者を2次元に拐う能力を持ち、拐えば拐うほど自己の世界観はより強固なものとなり、能力も強化される
当然と言えば当然だが、使用し続けると現実と2次元の境が曖昧になり意識が2次元に取り残されたままとなってしまう
「真実」のメモリとは真実を上書きしてしまうランクをも越えた抜群の相性だが
世界観の衝突が起こりうる「空想」のメモリとの相性は、天敵中の天敵。最悪と言っても過言ではない
相性の下りは追い詰められたリンカを徹が助けるシチュが見たいなと思っていれただけなので、もし不要なら削除しておいてください
「徹」
「どうした?」
北風署から帰る道すがら、おもむろにリンカが口を開いた。
蜜屋の秘書は逮捕され、愛巣会には捜査の手が入った。地下室からは大量のガイアメモリが押収され、塾がこの町でのガイアメモリ犯罪の中心にあったことは確実になった。しかし、蜜屋と彼女の生徒の一部は、その場から失踪し、その行方は分かっていない。残った生徒は皆、ガイアメモリについては何も知らされていなかった。
「今までの…そして今回の事象から、今後のために一つの提案があります」
「おう、何だ?」
「徹。…私と、性交渉をしてください」
「…」
徹は、ぴたりと立ち止まって彼女を見た。彼女は、あくまで無表情に彼を見返した。
「…悪い、よく聞こえなかった」
「私と性交渉、セックスをしてください」
「まっ…」
さっと周囲を見回す。幸い、2人の会話を聞く者は、その場には見当たらない。
彼はリンカの手を掴むと、偶然その場にあった喫茶店に引っ張り込んだ。
「…あの、このような公共の場では、流石に」
「ここでする無いだろ!」
用意するのに時間がかかりそうなドリップコーヒーを注文し、一番奥の席に向かい合って座ると、徹は声を潜めて問うた。
「…その。一つ聞かせてくれ。それは…何でだ?」
「メモコーンの挙動が原因です」
「メモコーンの? …あ」
徹は、すぐに思い至った。リンカが説明する。
「本来、セイバーメモリにもクエストメモリにも、自律行動するライブモードの想定はされていません。2つのメモリと、前に財団が入手したユニコーンメモリを部品に作られたのが、メモコーンです」
「ふむ」
「ライブモードの有用性は、風都の仮面ライダーで実証済みです。実際、メモコーンも有事の際には戦力としても役立ちました。が…」
「ユニコーン特有の、アレだな?」
「ええ。神話において一角獣は、高い戦闘力を持ち、また毒を浄化する力もあります。ですが、それと同時に、処女に懐くという性質もあります。彼は作られた目的の通り、窮地において私たちをサポートしてくれますが……これまでの挙動を見るに、明らかに優先順位があります」
「確かに…」
アイドルドーパントと対峙した時。ティーチャードーパントに吸収された時。ピンチにも関わらずメモコーンが助けに来なかった。そんな時は、決まってリンカもピンチに陥っているときだった。
「メモコーンは、当然ガイアメモリとしてドライバーに装填されなければ、本領を発揮しません。私を優先したがために共倒れになるのは、避けなければならない。ならば、私を優先しないようにするしかありません。ですので、私の処女を、貴方に」
「わ、分かった分かった!」
徹は慌てて彼女の言葉を止めた。店員が、コーヒーを持って近付いていたからだ。
カップを置いて店員が去っていくのを確認すると、徹は長い息を吐いた。
「…言いたいことは分かった。だが…考えさせてくれ」
「なるべく短めにお願いします」
「あんた…」
徹は、苦々しく彼女を見た。
「嫌じゃないのかよ、初めての相手が俺とか……それに、そんな格好してるんだから、てっきりそういうのが嫌いなのかと思ってた」
リンカは美人だが、女性的とはとても言い難い。細身の白いパンツスーツスタイルで、黒い髪を後ろに撫で付けた姿は、寧ろ男装の麗人と言った風貌だ。
「生まれ持った肉体の形状から、女性的な部分を強調するより、男性的に振る舞ったほうが任務に有用だと判断しただけです。ですが、相手については…」
彼女はふと口を閉じると、黙って天井を向き、机を見つめ、それから指先を見て…やがて、ぽつりと言った。
「…いえ。何度思考し直しても、貴方以外に相手が浮かびませんでした」
「…そ、そうか」
そう言われると、急にドキドキしてきた。今までの人生に色恋沙汰が無かったわけでは無いのだが、このように今まで共闘してきた相手との関係性が、劇的に変わるかもしれないと言うのは、中々にスリリングな、心躍るような気分であった。改めて見ると、無表情で無愛想な彼女の顔が、急に輝いて見えた。
「もしかして、誰か操を立てる相手が?」
「えっ? いや、そんなのは」
「…兎ノ原美月、ですか」
「!? いやいやいや、そんなわけ…」
慌てて否定しようとした、その時、通りから悲鳴が聞こえてきた。
「! 落ち着いて考える暇も無いってか。要は、あんたがピンチにならなきゃ良いんだろ? 取り敢えず、そこに隠れてろ!」
ドライバーとメモリを取り出すと、徹は喫茶店を飛び出した。
「ねえ、お母様」
”どうしました、ミヅキ”
ヴェールの向こうに、ミヅキは呼びかけた。
「あたしにも、おっぱい」
”ええ、良いですよ。こちらにいらっしゃい”
「あたしだけじゃなきゃ嫌。そこのクソガキは追い出して」
ヴェールの向こうの影は、二人分。玉座に座るお母様に縋り付いて、ユウダイが乳を吸っているのだ。
”いけませんよ。この子も母の子ですから、みんな平等です”
「嫌だ!」
ミヅキは叫ぶと、あの生意気な少年を引きずり降ろさんと、ヴェールに向かって突進した。が
”ミヅキ!”
「ぎゃっ!?」
突然、巨大な拳が現れ、ミヅキの体を殴り飛ばした。
”母の子がいがみ合うことは許しません! 何度言えば分かるのですか!?”
「…お母様のバカっ!!」
ミヅキは吐き捨てると、聖堂から走り去っていった。
入れ替わるように、作業着姿の男が入ってきた。
「反抗期、ですな。子を愛すればこそ、子に苦しむこともあります」
”甲太…”
ガイアメモリ工場長、真堂甲太は、持ってきた小さなケースを恭しく差し上げた。
「…新たなお母様の愛子のために、新たな力をご用意いたしました」
”ありがとうございます。…さあ、ユウダイ”
「はい、お母様」
ヴェールを捲って、朝塚ユウダイが姿を現す。相変わらず服を着ていない彼の前で、真堂はケースを開けた。
中には、一本のガイアメモリが鎮座していた。
「食い物にされる立場から一転、捕食者にまで上り詰めた。幸運な君には、このメモリが相応しい」
メモリを手に取ると、ユウダイは目の前に掲げた。
白い筐体に、花冠めいた『C』の文字。ガイアウィスパーが、弾むように自らの名を告げた。
『クローバー』
悲鳴のもとへ駆けつけると、そこには一体の奇妙な怪人がいて、女を掴んで連れ去ろうとするところであった。
『おい、待て!』
「…うん?」
振り向いた怪人。アメリカンコミックのヒーローのようにやたらマッチョな人型をしていて、右半身が黒、左半身が緑色に塗装されている。その腰には、歪ながらファンタジーのそれに似たドライバーらしきものが装着されていた。そもそも怪人は皆奇妙と言われればそうなのだが、この怪人は今までとは何かが違った。存在自体が、違和感なのだ。言うなれば、海の底を猫が平泳ぎしているような…
「おお、『お前も』仮面ライダーか!」
『お前も? 仮面ライダーは俺1人だ!』
剣を抜き、斬りかかるファンタジー。
「いいや、俺も仮面ライダーだっ!」
拳で応戦する、自称仮面ライダー。濁った赤の複眼が点滅する。
剣がその肩口を切り裂いた時、ファンタジーは強い違和感を覚えた。
『軽すぎる…?』
確かに刃が相手を捉えたはずなのに、斬った感触がしないのだ。その割に見た目のダメージは大きく、相手の肩には深い傷痕が付いていた。
「おおう、やるな…」
傷痕が、瞬く間に塞がっていく。やはり、見た目ほどのダメージは無いようだ。
『やり辛い…』
斬り結ぶ両者。しかし、まるで暖簾を殴っているかのように、手応えがない。
とうとう業を煮やして、ファンタジーは魔術師にの姿に変わった。
『こいつはどうだっ!』
魔法陣から噴き出す炎が、仮面ライダーもどきの体を包む。
「ぎゃあぁぁぁっ!? やめろっ、やめんかっ!」
『効いてるな。このまま…』
ところがある瞬間、炎が幻のように消えてしまった。
「ふぃ〜、危ないところであった」
『こっ、この野郎…』
平然と立つドーパントに、苛立つファンタジー。両手に魔法陣を出現させると
『喰らえぇ!!』
ありったけの炎を、敵目掛けて撃ち込んだ。
ドーパントは、迫りくる炎の弾幕を目の前に___
___横を、向いた。
『!?』
ファンタジーは目を疑った。
横を向いたドーパントの体には、『厚み』が無かった。切り抜いた紙のように薄っぺらな体を自在に折り曲げて、飛んでくる炎を巧みにすり抜けていく。
『な、何かおかしいぞ…?』
ファンタジーが攻撃を止めると、ドーパントは近くにあった建物の壁に走り寄り、ぴったりと張り付いた。
次の瞬間、その体から色が消え…溶け込むかのように、壁の中へと消えてしまった。
北風町、博物交易第九貨物集積場四番倉庫。すなわち、旧ミュージアムのガイアメモリ製造工場にて。蜜屋と真堂が向かい合っていた。相変わらず平然と立つ真堂に、敵意の目を向ける蜜屋。その後ろでは、彼女の生徒たちが同様に色めき立って真堂を睨んでいた。
「…どういうことかしら」
「何がかね?」
「とぼけないで。ユウダイに、例の試作品を渡したのは、あなたでしょう」
「私が?」
真堂は、驚いた顔をした。
「流石に、君やお母様以外に大事な試作品は渡さんよ。何かの間違いじゃないのか」
「目の前で、アレを使うところを見たわ。それならあの試作品は、一体誰に渡したの」
「君でなければ、お母様以外にいないさ。…ああ、実際、進捗を訊かれた時にお渡ししたんだった」
「…」
蜜屋はしばらく、黙って真堂を睨みつけていたが、やがて溜め息を吐いた。
「…お母様、が」
「何かお考えの上でだろう。そう気を落とすな。生徒たちを匿うスペースくらいなら、用意しよう」
「ええ、感謝するわ」
生徒たちを先導し、その場を立ち去ろうとする、蜜屋。去り際、彼女は質問した。
「…例のモノ、完成はまだなの?」
「あと少しさ。お母様から、『記憶』は全て頂いた。後は出力を調整するだけだ」
「早めにお願いね」
「もちろん」
真堂は頷いた。
「や〜れやれだ…」
落書きだらけの橋の下で、男は息を吐いた。よく見ると、柱にスプレーで書かれたような落書きは、全てが助けを求めるような人間の絵であった。
「風都を逃れてこの町に来たが、ここでも仮面ライダーかぁ。ぼくの『作品』は、いつになったら完成するやら…」
「いい方法、教えてあげよっか」
「…ほ〜う?」
不意に投げかけられた声に、男は動じることなく応えた。
歩いてきたのは、白いロリータ服の少女。男は、眼鏡をくいと正した。
「仮面ライダーには、どうしようもない弱点があるの。まあ、普通のドーパントからしたら寧ろ危ない相手なんだけど…君にとっては、弱点」
「面白いことを言うねぇ。君、さてはぼくの同類だな?」
「ま、そんなとこ」
「よし、乗った!」
男は、笑顔で膝を叩いた。そうして、少女の肩に手を置くと、言った。
「じゃあ今からラーメン食いに行こう。…心配ない、ぼくが奢るからね」
『向き合うC/はりぼてのヒーロー』完
今夜はここまで
大丈夫かな…ほぼ毎日更新してたから心配だ
お盆だしなあ
「海野君、あなたが仮面ライダーに針を刺したのね」
「は、はいっ」
「よくやったわ。何でも、望むものを言いなさい」
蜜屋の言葉に、海野はためらいがちに言った。
「…この前、久し振りに会った友達に、まだ童貞なのかと笑われて…だから」
「そう、分かったわ」
蜜屋は頷くと、後ろの方にいた女子生徒に向かって言った。
「貝原さん。前に出て、服を脱ぎなさい」
「えっ…」
「敵の攻撃を前に、寝ているだけだった劣等生に存在意義を与えると言ってるの。…早く!」
「っ、は、はいっ…」
おずおずと前に出ると、貝原と呼ばれた少女は震える手でセーラー服のホックを外し始めた。
「っ…ひっ…」
スカートが滑り落ち、下着姿になる。蜜屋に睨まれると、少女は下着に指をかけた。
啜り泣きながら、裸になる貝原。蜜屋は海野に手招きすると、言った。
「さあ、貝原さんがあなたの相手になってくれるそうよ」
「い、良いんですか?」
「もちろん。あなたは優秀な生徒だもの。当然の権利よ」
「じゃあ…」
「い、いくよ…」
「待って、まだ……痛っ、あっ!」
「はっ、あ、あぁっ!」
「痛い、痛いっ! やだっ」
「はあっ、はあっ、ああっ、すごっ、あっ」
「いやっ! 許してっ、ごめんなさい、ゆるして、ごめんなさいっ」
「はっ、はっ…あっ、くるっ、あっ」
「…! やだっ! 抜いて、やめっ、お願い抜いてっ!」
「あっ…くぅっ…」
「嫌、出さないでっ、やっ…い、嫌あぁぁぁぁあぁっっ!!」
「仮面ライダーには、協力者がいるの。何とかっていう、白いスーツに金ピカネクタイの、いけ好かない女」
「ふむ」
北風町のとある飲み屋街。赤提灯の屋台に並んで腰掛けて、ミヅキと眼鏡の男は、大きななるとの載ったラーメンを啜っていた。
「実は、そいつもドーパントなんだけど〜…それも、めちゃくちゃ強いドーパントなんだけど…でも、君のガイアメモリとは相性が悪いみたいなんだよね」
握り箸でなるとを突き刺しながら説明するミヅキ。実際の所、これらの情報は全て、真堂からカラダで搾り取ったものであった。
「そいつさえ君が引き受けてくれるなら、仮面ライダーはあたしが始末したげる」
「それは魅力的な話だね。…仮面ライダーは、2人も要らないからね」
「…そうだね」
曖昧に頷くミヅキ。
ラーメンを完食すると、男は立ち上がった。
「ご馳走様。隣町だが、美味い風都ラーメンだったよ」
「どうも」
無愛想に会釈する店主。男はニッと笑った。
「…是非、ぼくの『作品』で振る舞って欲しいものだ」
「はい?」
首を傾げる店主。男は、懐からパステルカラーのガイアメモリを取り出した。
空になった屋台。叫ぶ人の顔が描かれたメニュー板を取り上げると、男とミヅキは、満足げに飲み屋街を去って行った。
「『カートゥーン』のメモリ、でしょう」
「カートゥーン」
『ばそ風北』で、蕎麦を注文した徹とリンカ。料理が届くのを待ちながら、リンカはおもむろに口を開いた。
「貴方の証言によると、そのドーパントの外見は風都の仮面ライダーに酷似しています。ですが、粗が目立つ。本物は配色が左右逆ですし、貴方の言うように筋肉質な体型ではありません」
「偽物に成りすますメモリじゃないのか」
「『ダミー』メモリは現存しています。ですが、体に厚みが無い、物理攻撃が通用しない、壁に溶け込むといった特徴はダミーにはありません。何より…」
「ほい、お蕎麦2人前」
「どうも。…カートゥーンメモリだとすれば、人を拉致しようとしていたことに説明がつきます」
「へえ? どうして」
「カートゥーンドーパントは、現実世界の他に、その名の通りアニメーションの世界を創り出すことができます。その世界の強度を保つには、アニメーション世界の住民、すなわち人間が必要です」
「なるほど、だから人を攫ってたってわけか。……にしても、ティーチャーに続いてまた異世界か」
割り箸を割りながら、溜め息を吐く。
「ガイアメモリってのは、恐ろしいな。早くこの町から、滅ぼさないと」
「…ええ、そうですね」
何故か少し躊躇って、リンカは頷いた。
明け方。まだベッドで眠っている徹を尻目に、リンカは誰かと通話していた。
「…ええ、分かっています。ですが、今はまだ能力の全容が見えない」
ちらちらと徹の方を窺いながら、努めて冷静に答える。
「財団の力で、制御できるか…或いは、コストに見合った効果を得られるか」
会話しながら、彼女は硬く目を閉じた。そのまま二言三言、話していたが、やがて目を開くと、彼女はきっぱりと言った。
「…ええ。そうなった暁には……仮面ライダーは、もはや不要です。私の手で処分します」
電話を切ると、リンカは目を閉じた。
「私、は…」
徹の横たわるベッドに腰掛け、そっと彼の肩に触れる。
「…必要なことを、成すだけ」
金色のネクタイを、緩める。上着を脱ぎ、シャツのボタンに手をかけて…
「…!」
はっと、部屋の窓に駆け寄った。
窓から見える道路に、人影が一つ。下から真っ直ぐに、リンカを見つめている。
リンカは服を直すと、Xマグナムとガイアドライバー、そしてガイアメモリを鞄に詰めて外へ飛び出した。
「やあ、聞いた通りの金ネクタイだ」
「何の用でしょう」
街灯の下で待ち受けていたのは、1人の中年男。白髪交じりの長髪に、銀縁の丸眼鏡をかけている。
男はリンカの質問に答えず、続けた。
「だが…美しい。ぼくの『作品』に添えるに相応しい…!」
『カートゥーン』
「!!」
すぐさま銃を抜き、男に向けて連射する。
爆炎の中で、男の体は緑と黒のヒーローもどきへと変化していく。それと同時に、彼の体から実在感とでも言うべきものが抜け落ちていくのに、リンカは気付いた。
「…わざわざ墓穴に飛び込んできましたか」トゥルース
「まさか。君の墓穴を掘りに来たのさ」
男が言った次の瞬間、その体がコンクリートの地面に吸い込まれるように消えた。と思いきや、今度はトゥルースドーパントの体が地面へと引きずり込まれていった。
「!?」
見ると、足元にはいつの間にか、色鮮やかな町の絵が描かれていた。
そこへ駆け寄ってくる、銀の影。
「! メモコーン、来ないで…」
アニメーションの町へと消えていく、金の女神。後を追うように、銀の一角獣がその中へ飛び込んだ。
「…リンカ?」
はっと、徹は目を覚ました。何か、嫌な予感がしたのだ。
それと同時に、彼の耳に微かな声が届いた。
「メモコーン、来ないで…」
「!!」
徹は跳ね起きると、枕元のドライバーとメモリを取り上げた。
『ファンタジー』
「変身!」
勢いよく窓を開けると、騎士の姿に変身しながら外へと飛び降りた。
「リンカ! ……っ!?」
着地して、その地面にパステルカラーの町が描かれているのに気付いた。その中には数人の人間が、助けを求めるように彷徨っている。そして、その中に
「リンカ!!」
先日対峙したドーパントと向き合う、真実の女神の姿を見つけた。
ファンタジーは助けに行こうと地面を踏みつけたが、反応がない。
「クソっ、どうすれば…」
「どうしようもない、かな〜」
「!!」
顔を上げたファンタジー。その目の前に、悠々と姿を表した、ピンクのドレスの少女。
「ミヅキ…」
「逢いに来たよ、仮面ライダーさん」
彼女は、片手でスカートの裾を小さくたくし上げた。白い太腿に、黒いコネクターが露わになる。
「一応訊くけど…あんな女は捨てて、あたしと一緒にお母様のところへ行こう?」
「断る!」
「…だよね〜」ラビット
ラメやスパンコールで彩られた、ピンクのメモリが突き刺さる。ミヅキの体が靄に包まれると、薄桃色のウサギの怪人へと姿を変えた。
その場で跳躍し、飛び蹴りを見舞うラビットドーパント。それを剣で受け止めると、ファンタジーは言った。
「悪いが、今はあんたに構ってる暇は無いんだ。リンカを、助けに行く!」
今夜はここまで
(更新が減って申し訳ない。仕事が忙しい時期なんです)
(ところで、ファンタジーの最終フォームってどんなのだと思います?)
おつおつー
うーん、ファンタジーだし神様か王様かな?
剣と魔法両対応する勇者フォームが固い?
当初の設定だと魔物フォームもなれる的なあれ書いてなかったっけ。とすれば魔王もか
ブレイブ……ジオウ……被ってるじゃないかおのれディケイド!
幻想を現実に的な意味で、造物主としてのクリエイターとか
ファンタジーで最終といえばファイナルファンタジー
「…!」
気が付くと、リンカは色鮮やかな都市の真ん中に立っていた。左右には、ピンクや緑色のビル群。目の前には、例の仮面ライダーもどき。ビルの隙間を縫うように歩くのは、虚ろな目をした人間たち。そして空には、今までいた北風町の住宅街が、薄っすらと見えた。
「この町は、偽りです」
冷静に、彼女は杖を掲げた。
「人々の魂で塗り固めた、空想の世界。偽りの産物」
「…ああ、当然さ」
カートゥーンドーパントは、当然のように言い放った。
「…何ですって?」
「だって、カートゥーンとはそういうものだろう? 作り話、空想、想像。それこそが物語。……それこそが、物語の『真実』」
「!!」
どぎつい街並みが、急に現実感を帯び始めた。
「それとも、ノンフィクション以外は認めないタチかね? そりゃあ損だ」
明らかに偽物のようだったドーパントの姿が、いつか資料で見た本物の仮面ライダーに近付いていく。周囲に、旋風が吹き始めた。
「…関係ない!」
虹色の翼を広げ、鋭い羽を飛ばす。
ところが、ドーパントが片手を上げると、羽は風に巻き込まれて明後日の方向へと飛んで行ってしまった。
「この世界では、俺が真実だぜ」
『サイクロン』『トリガー』
怪人の右半身が、黒から青色へと変わる。その手に青色の銃を握ると、高速の弾丸をトゥルースドーパントに向けて放った。
「! ああぁっ!?」
避けきれず、胸に直撃した。凄まじいダメージに、彼女は膝を突いた。
「良いねぇ、仮面ライダーはこうでなくっちゃ!」
『ヒート』『トリガー』
「ヒーローが活躍する、そのための街。それこそがぼくの目指す『作品』! そのためには、やられる怪人も必要だ…」
『トリガー! マキシマムドライブ』
「このっ…偽り、です…この、街は…」
「言いたいだけ言え。ここでは、俺が真実だ!」
銃口に、眩い炎の玉が膨れ上がっていく。そして、目の前の怪人に引導を渡すべく、引き金を引こうとした、その時
「…むっ!?」
彼の手に銀色の影が激突し、銃を弾き飛ばしてしまった。
「! メモコーン…」
「何だよ、無粋な…」
仮面ライダー目掛けて、さらなる突撃を仕掛けんとする一角獣。ところが、それにまた別の影が突っ込んできた。
「…まあ、こっちにもいるんだがね。『ファング』!」
『ファング』『ジョーカー』
仮面ライダーが、白と黒の獰猛な姿へと変わる。
怪人は、杖に縋ってどうにか立ち上がると、ふと空を見上げた。
「!」
そこには、兎のドーパントと交戦する銀色の騎士の姿があった。
怪人は叫んだ。
「メモコーン! 私は…私は、良いからあの人を」
「そうホイホイと行き来できるとでも?」
仮面ライダーは怪人の胸ぐらを掴むと、無理やり立たせた。
『アームファング』
「さあ…ぼくの作品になれ!」
「ぐっ、がぁっ…」
顎に膝蹴りを受け、仰向けに倒れるファンタジー。その上に馬乗りになると、ラビットドーパントは囁いた。
「ねぇ…一緒に来てよ。あたし、あなたのこと大好きだから」
『敵同士だったあんたから、そこまで言ってもらえて嬉しいよ。だが、これだけは譲れない…!』
相手の腕を掴んで引き倒すと、逆に馬乗りになる。
『もう、戦うのは止めるんだ、ミヅキ! このまま心と体を傷付けて、何になる』
「お母様が、あたしを愛してくれる!」
高く跳ね上げた脚が、ファンタジーの後頭部を直撃した。その体が前のめりに吹き飛ばされ、転がった。
『ぐあっ!?』
「…あなたも、愛してもらえる。一緒に」
『断る!!』
体制を立て直すと、素手で殴りかかった。
ところがその時、何かに引っ張られるように、彼の動きが止まった。
『…?』
見ると、彼の足首と腕に、緑色の蔦のようなものが絡みついている。
「!」
兎のドーパントが、はっと後ろを向いた。その視線を追って、気付いた。
『!! ゆ、ユウダイ君…?』
「…こんにちは、仮面ライダー」
新たな乱入者…それは、ティーチャードーパントに挑んで死んだはずの、朝塚ユウダイであった。
彼はラビットドーパントの方を見ると、呆れたような声で言った。
「何遊んでんの。さっさと殺して、お母様に産み直してもらえばいいのに」
「うるさい…!」
憎々しげに唸るウサギ。ユウダイは口元を歪めると…懐から、純白のガイアメモリを取り出した。
『!? な、何をする気だ!』
「同じお母様の子として、お姉ちゃんに加勢するんだ」
『クローバー』
『! やめろ! 君のお母さんは、そんなこと』
「お母さん? 僕の親は、お母様だけだ」
純白のメモリを、喉に突き立てる。
その体が、緑色の草と、白い花に覆われていく。
それと同時に、ファンタジーの体まで緑の草に包まれていった。
『っ、マズい…』
魔術師の姿になり、炎で草を焼き払う。しかし、それ以上のスピードで茎が伸び、彼の体を締め上げていく。
その光景を前に、ラビットドーパント…ミヅキは…
「…お姉ちゃんって、言うな!」
ユウダイの方へ、飛び蹴りを仕掛けた。
「…」
彼が片手を上げると、無数の草が伸び、矢の如き蹴りを柔らかく受け止めてしまった。
「お姉ちゃん、反抗期は止めにしよう?」
「クソがっ…この、雑草野郎…」
悪態を吐きながら、纏わりつく草…シロツメクサの茎と葉に噛みつき、食い千切る。
内輪揉めを始める2人を前に、ファンタジーはどうにか拘束を脱すると、足元に目をやった。
『!!』
それを見た瞬間。考えるより先に彼は、白いマントをはためかせ、パステルカラーのアニメーションの世界へと、飛び込んでいった。
「…」
金の装飾は削り落とされ、白の長衣は切り裂かれ、あちこちから青い血が流れる。白と黒の仮面ライダーは、執拗に腕の刃で怪人を斬りつける。彼の足元には、小さな一角獣が力尽きて倒れていた。
薄れゆく意識の中で、彼女はぼんやりと考えた。
(…ここで、終われば…彼を、裏切らずに済む…)
「これで、トドメだ!」
『ファング! マキシマムドライブ』
踵に、白い刃が出現する。そのまま飛び上がり、瀕死の怪人に、正義のキックを……
『……おい』
「…っ!?」
高速回転するキックは、崩れ落ちる怪人ではなく、突然立ちはだかった銀色の騎士を捉えた。
「っ、このままっ…」
『…』
鋭い刃が、騎士の鎧を砕き、剥がしていく。
___その下にある、漆黒の獣が、姿を現す。騎士でも魔術師でもない、お伽噺の……怪物。
「! な、何だ、その姿は」
「…駄目…とお、る…」
『グウゥゥ・・・』
棘と刃に覆われた、禍々しい黒のボディ。深紅の複眼の下で、乱杭歯が軋んだ。
『ア゛ア゛ァァァァアアァッッ!!!』
獣が、吠えた。彼は地面を蹴ると、凄まじい勢いで仮面ライダーに襲いかかった。
「ぐわっ!?」
鋭い爪が、仮面ライダーの体を切り裂いた。咄嗟に腕の刃で応戦するが、その刃まで切り落とされた。
「何だっ、何だこれはっ!?」
「徹…徹っ! ……メモコーン!!」
リンカの叫びに呼応するように、メモコーンが再び立ち上がった。カートゥーンドーパントを組み敷いて、一方的に蹂躙するファンタジーの元へ駆けつけると、その頭に頭突きを喰らわせた。
『グァッ! ……っ、はっ』
彼の動きが止まった。一瞬、彼は戸惑うように周囲を見回した。そして足元に寄ってきた一角獣に気づくと、すぐにそれを拾い上げた。脚を折り畳むと……
……胴体を、二つに割った。
「!」
中から現れたのは、黄色いガイアメモリ。噛み合う5本の牙が『W』の字を形作っている。
『ワイルド』
「ファンタジーの…第三の姿…!」
『超…変身!!』
ドライバーに装填し、変形させる。メモコーンの体が、咆哮する竜の頭部となってドライバーと結合する。
『ワイルド』
『おお…うおおおぉぉぉぉ!!!』
黒い体に、黄色のたてがみが生える。全身に青と赤のラインが走り、流麗な装甲を形成していく。
ファンタジーが、言った。
『お前の身勝手な夢…物語は、俺が止める!』
「馬鹿な、ここは俺の世界だ! ここでは…」
『それは、どうかな』
彼が言った瞬間、周囲の景色が一変した。
鮮やかなビル群は消え、一面の草原に。標識の代わりに巨木が立ち、当てもなく走る車は自由な獣立ちへと変化した。そして、虚ろな目で彷徨う人々は、我に返ったように立ち止まり、互いを見つめ合った。
その、無数の視線が、世界の中心に注がれる。
そこにいたのは、歪なコスチュームを来た怪人と、野性的な装甲を纏ったヒーロー。
「が…頑張れ!」
「仮面ライダー! 頑張れーっ!」
「やっつけろー!」
「馬鹿な! こんなこと、ここは俺の…」
『お前だけの世界じゃない。ここにいる、全ての人たち、皆の世界だ! そして…』
竜の上顎を押し、三度、噛み合わせる。
『ワイルド! マキシマムドライブ』
『この俺が…仮面ライダーファンタジーがいる限り…より強い想像が、より強い願いが勝つ!!』
青と赤の装甲が、右足に収束していく。地面を蹴って高く跳び上がると、装甲は一本の巨大な刃となった。
『ワイルド・バイト!!』
空中で右足を高く振り上げ…そして、振り下ろした。
巨大な牙を纏った踵落としが、ドーパントの体を真っ二つに切り裂いた。
「あ…が…ぐわあああぁぁぁぁっっっ!!!」
爆散するドーパント。
次の瞬間、周囲は元の北風町に戻り、倒れ伏す1人の男と、解放された大勢の人々が残された。
『…リンカ』
「…」
ファンタジーは、倒れて動かない女の体を抱き上げると…地面を蹴り、どこかへと去ってしまったのであった。
『向き合うC/願いの世界』完
アバンタイトルの前に設定投下します
『カートゥーンドーパント』
『漫画』の記憶を内包するガイアメモリで、正体不明のストリート画家が変身したドーパント。ファンタジー同様、変身後の姿は変身者の意思によって変わるが、彼は以前自分と戦い、風都から追放した仮面ライダーの姿を模倣している。しかしその配色は左右逆で、体型もかなりマッシブになっており、ドライバーの形も歪。
現実世界では薄紙を切り抜いたようなペラペラの体で行動しているが、これは本体から投影された像に過ぎず、どれだけ傷付けてもダメージを与えることはできない。本体は、後述するアニメーション世界の中に存在している。
このドーパントは、平面に絵を描くことで想像の世界を創り出すことができる。描いただけでは本人が隠れる程度のスペースしか確保できないが、人を攫い、その世界に引きずり込んで『住民』とすることで、世界の広さと強固さを増すことができる。また、その世界においてはドーパントの姿は自身の想像により近くなり、更に力もより強くなる。この世界においては、彼は以前戦った仮面ライダーの各フォームと必殺技まで再現してみせた。つまり彼は、以前ファングジョーカーの必殺技ファングストライザーを喰らったことになるが、あくまで前述の虚像であったため生還することができた。もしエクストリームまで出されていたら、彼は風都で尽きていただろう。
引きずり込んだアニメーション世界の中で、空想、作り話こそがカートゥーンの真実と宣言することで、トゥルースドーパントの一切の干渉を断ち切り、一方的に優位に立つことができた。しかし乱入してきたファンタジーによって、同系統の『空想』の力を叩き込まれたことで世界の強度が揺らいだ。そして、攫われた人々の声援を受けたファンタジーの必殺技によって、彼と彼の世界は滅ぼされたのであった。
メモリはパステルカラー迷彩という変わった配色。漫画のコマを繋ぎ合わせたような線で『C』と書かれている。
『ワイルドメモリ/仮面ライダーファンタジー・ワイルド』
『野生』の記憶を内包する、次世代型ガイアメモリ。ファンタジーが後述する暴走態になったときにメモコーンの胴体から出現するが、普段は存在しないメモリ。
『空想』の記憶を持つファンタジーメモリであるが、ドライバーを介して毒性を除去しているために騎士や魔術師の姿となっているだけで、ドーパントとしての本来の姿は、棘や刃に覆われた黒い体の、禍々しい魔物である。激情に身を任せたファンタジーは装甲が崩壊し、この姿になって暴走してしまう。普段の姿の数倍の膂力や敏捷性を発揮するが、理性は失われ、ただ怒りに任せて目に見える全てを破壊しにかかる怪物と成り果ててしまう。
しかし、ドライバーにワイルドメモリを装填することで、ファンタジーは理性を取り戻すことができる。これこそが、仮面ライダーファンタジー・ワイルドである。
元の黒いボディの上から、青と赤の帯が鎧のように体の周りを走る。この帯は必要に応じて形を変え、盾になったり武器になったりする。そのため暴走態からややスピードは落ちるが、怪力は顕在で、かつ理性があるため荒々しくも効率的な戦闘を行うことができる。まさに、ファンタジーにとってのワイルドカード。『切り札』である。
メモリの色は黄色。牙を噛み合せたような意匠で『W』と書かれている。このメモリをロストドライバーに装填して変形させることで、咆哮する竜の頭部のような形になる。
なお、本編登場はこの一回きり。電王のウィングフォームやフォーゼのロケットステイツのような、いわゆる劇場版限定フォーム。ファンタジー・ワイルドの活躍が見たいお友達は、この夏、映画館へ急げ!
(でもユニコーンのなかに内蔵されてるならナズェヅガワナインディスって気分になるような)
アイアンメイデン・ドーパント
「鉄の処女」ことアイアンメイデンのガイアメモリから生まれるドーパント
顔はアイアンメイデンに付けられた女性の顔、体色は青銅色で女性らしい豊満な体つき
背中にはマントを羽織っている。右手にはハートを模した赤い宝石の付いた錫杖を、左手には鳥籠の様なものを持っている どことなく貴族風
女性特効を持ちドーパントになっていようとも女性には強い、また女性の血を浴びると強化していく。左手の鳥籠には気に入った女性を閉じ込める能力があり、ここに閉じ込めた女性を飼育して自分好みの血に育てることもできる。
アイアンメイデンは伝承の存在ではあるが実際に展示品として作られているため迂闊に「真実」の能力で否定しようとすると痛い目に合う
劇場ボス相当だったのかあのオッサン…
敵側も結構好きで、ミズキちゃんクソガキのクソビッチなのにヒロインっぽくて気になってるけど、蜜屋先生やミズキのHシーンありますか?
どこを進んだのだろう。自分でも分からないまま、気が付くと彼は、町の北にある、山の頂上近くにいた。
リンカの体をそっと下ろすと、ドライバーからメモリを外し、変身を解除する。不思議なことにワイルドメモリは、抜いた途端に光になって消え、メモコーンは独りでに元の形に戻って走り去った。野生の装甲が解けた瞬間、彼はその場に膝を突いた。
「徹…」
「…いや、大丈夫だ」
徹は、弱々しく微笑んだ。それを心配そうに見つめるリンカも、傷だらけであった。
見上げると、朝日が昇るところであった。
「…ああ、今日もいい天気だ」
木漏れ日に目を細めながら、彼は息を吐いた。その隣に、リンカがそっと寄り添った。
「ガキの頃、夏休みにな。朝早くに家を抜け出して、こうして山に登って…カブトムシを捕まえたり、走り回ったり…こうして、空を見上げたり。雨が降っても、木に遮られて思ったほど濡れないし…」
「…」
「俺は…この町が好きなんだ。でかい風都の隣で、いろんな苦労をしながらも俺たちを育ててくれた、優しい母親のような、この町が」
「母親…ですか」
「ああ」
徹は、真面目に頷いた。
「だから、勝手に母を名乗って、この町の人たちを傷付ける奴を、俺は許せない」
「そういうことですか。…」
沈黙。やがてリンカは、彼に体を預けるように寄りかかった。
「私は…可能な限り、それを支援したいと思っています」
「何だよ、煮え切らないな」
徹は苦笑した。
「…」
「…リンカ?」
呼びかける徹。リンカは、しばらく黙って彼の肩に寄り添っていたが、不意に彼の首に両腕を回して抱き寄せた。
「おい…朝だぞ?」
「いつ次の襲撃があるか、分かりませんから」
彼の胸に縋り、顔を見上げる。撫で付けた髪はすっかり乱れて、額や頬にかかる毛先が妙に艶かしく見えた。
「…本当に、するのか」
「私は、それを希望します」
「そうか。…分かった」
徹は頷くと、彼女の首を抱き寄せた。
木漏れ日の下で、2人は初めて、一つになった。
「な、何なんだね君は!?」
工場の入り口に立って、真堂は叫んだ。彼の目の前には、白い詰め襟の服を着た、がたいの良い男がニヤニヤしながら立っていた。
「あ? てめえらの新しいご主人さまだよ」
「馬鹿なことを。お母様を差し置いて、この私が服従するものか!」アイソポッド!
赤褐色のガイアメモリを取り出した真堂。白い服の男は、相変わらずニヤニヤしたまま、懐から濃緑色のメモリと、そしてロストドライバーを取り出した。
「良いぜ。ペットの躾は、飼い主の最初の仕事だ」
ドライバーを装着し、メモリを掲げてみせる。
「…生物種としての、格の違いを見せてやる」
言い忘れてた
今夜はここまで
出来るなら安価したいな
安価がいいけど無理なさらず
よし、安価しよう!
↓1〜3でコンマ最大 財団Xのエージェント・ガイキが使用するガイアメモリ
「フォールダウン」
「堕落」の記憶を持つガイアメモリ
ドミネーター(支配者)
キング(王)
トランス
「変化」の記憶を持つ
というわけで仮面ライダードミネーターとなりました
設定厨なので設定の供養だけさせて
『エボリューションメモリ』
『進化』の記憶を内包する次世代型ガイアメモリ。本来、単独での使用は想定されておらず、他のメモリと同時に使用することで能力を進化、向上させることを目的として作られた。
___しかし、選ばれし者ならば単独で使用することで、人間の可能性、限りなき進化の顎(あぎと)に辿り着けるかもしれない。
メモリの色は濃緑。未来へ伸びる矢印と、遺伝子の二重螺旋が『E』の字を描いている。
『友長産婦人科』と書かれた看板の前で、2人は立ち止まった。
愛巣会での一件の後、超常犯罪捜査課に依頼して、塾の専属医だという友長真澄について調べてもらっていた。騒ぎに乗じて彼女も姿を消しており、蜜屋や母神教と何らかの関係がある可能性が高いと、徹とリンカは考えていた。
調査の結果、友長真澄という名の女医は日本国内に2人見つかった。その内1人は、九州の大学で研究室に勤めていた。そしてもう1人が風都で、産婦人科をしていた。年齢は48歳ということだが、塾で見た友長は年齢を推測しにくい容姿をしていたため、敢えて気にしないことにした。
「すみません」
患者が少ない頃を見計らって、受付の事務員に声をかけた。
「診察券はお持ちですか?」
「あ、いえ、そういうわけではなくて」
どうやら、受診に来た夫婦だと思われたらしい。慌てて否定すると、彼は奥をちらりと窺い、尋ねた。
「…あの、先生にお話を窺いたいのですが。私、記者をしている力野と申します。…」
閉院後の診察室で、友長と向かい合った2人は、これは別人だとすぐに分かった。
「アポイントも無しに、何の御用でしょうか?」
明らかに不愉快な声色で問う彼女は、塾で見た女とは程遠い。そもそも、目の前の友長医師は太っている。あの塾にいた友長は、胸は大きかったが腰は細かった。
「突然お邪魔してしまい、申し訳ありません。実は私たち、ある事件を追っておりまして」
故に、作戦を変えた。
徹は鞄から、一枚の顔写真を取り出した。これは警察署で予め作ってもらった、友長のモンタージュであった。
「この顔に見覚えはありませんか?」
「…」
写真を受け取り、一瞥した瞬間、彼女の顔が小さく歪んだ。
「心当たりが?」
「…いえ」
彼女は首を横に振ると、写真を突き返した。
「知っているとしても、患者さんの情報です。言うわけにはいきません」
「…はい」
そう言われると、警察でもない2人には手の出しようがない。ここのところは、大人しく引き下がることにした。
「得意の口八丁で何とかなりませんか」
「ならねえよ。警察ならともかく、ただの記者には…だが」
彼は、振り返って医院を一瞥した。
「あの女が、でたらめにここの医者の名を騙ったわけじゃないのは分かった」
「何か、接点がありそうな反応でした」
「ああ。それも、良い思い出じゃない。これがもし、『産婦人科医として』悪い思い出だとしたら…」
「厄介な患者。不可逆の病態。分娩の失敗。或いは…」
「…中絶。あの顔を見るに、一度や二度じゃなさそうだな」
「調べてみましょう。…但し、今度は警察と一緒に、です」
収穫は、思わぬところから得られた。
リンカが坂間刑事と共に市役所に行っている間に、何とアイドルドーパントの変身者だった太田衣麻理が、警察病院で目を覚ましたのだ。
「…ど、どうも」
徹が病室を訪れると、衣麻理は顔を赤くして俯いた。メモリの副作用で自己顕示欲が増幅していた彼女は、徹の目の前で裸になり、そのまま通りへと出ていったことがある。彼を見ると、その時のことを思い出してしまうのだろう。
「体調は大丈夫ですか?」
「は、はい…まだ、頭ががんがんしますけど…」
実際の所、彼女が目覚めるのはもっと先だと思っていた。ガイアメモリは、使い込むほどメモリブレイクされたときの反動が大きいことが多い。倒される直前の彼女は、かなりの力を溜め込んでいた。それでもこうして回復したのは、メモリとの相性が良かったのか、それとも能力の強化が可逆的なものであったからか。
それにしても、こうしてガイアメモリの影響を脱した太田衣麻理は、言い方は悪いが美人ではなく、どこにでもいるような平凡な顔つきをしていた。彼女のインタビュー記事を依頼した藤沢も、「何でこんなののために、大はしゃぎで記事作ったんだろ…」と首を捻っていた。当然、記事は没になった。
「起き抜けで申し訳ないんですけど…」
彼は、鞄から友長のモンタージュ写真を取り出した。
「ガイアメモリに関わったあなたなら、何か心当たりが無いかなと」
「この人は…」
正直なところ、徹はあまり期待していなかった。彼女にメモリを与えたのは、母神教から離れていた頃のミヅキだ。蜜屋に近いと思われる友長のことを、彼女が知っているとは思えなかった。
ところが、衣麻理は何かに気付いたように頷いた。
「…『バチカゼ』のボーカルに似てる、気がします」
「『バチカゼ』?」
首をひねる徹。衣麻理は、説明した。
「正式には、『薔薇とチークと北風乙女』で、略して『バチカゼ』って言うんですけど…インディーズのバンドで、メジャーデビューの話もあった、その筋では割と有名なガールズバンドだったんです。でも、何年か前に急に活動休止になって、それからしばらくして解散しちゃんたんです」
「で、この人がバチカゼのボーカルだと?」
「私、結構ライブとか行ってたんですよ? 最後に見た時はもう少し若かったけど…」
それから彼女は、不意に声を潜めた。
「…この人も、やっぱりガイアメモリに?」
「まだ分かりませんが」
「やっぱり…」
徹は、驚いて言った。
「やっぱり? ガイアメモリに手を出すような心当たりが?」
「そういうわけじゃないですけど、バチカゼって結構黒い噂が多くて…活動休止になった理由も、ボーカルが失踪したからだって言うのが、一番有力な説なんです」
「失踪…」
沈んだ面持ちで、頷く衣麻理。フーチューバーなるものを志した彼女の原点が、或いは黒い騒ぎの果てに消えた、そのインディーズバンドであったのかもしれない。
「バチカゼは、もう終わったの!」
とあるライブハウスの楽屋で、レザージャケットを着た女が叫んだ。目の前にいるのは、汚れた格好の中年女。隈の浮いた目をぎらつかせながら、反論する。
「終わってないわ! まだやれる。また…一つに」
「なれない…なれるわけない…だって、シノはもう」
「シノは、生きてるわ」
「えっ?」
乾いた唇を歪めて、女が言う。
「生きてるわ。そして、あたしたちを待ってる。だから、あたしたちはまた一つになって、シノを迎えてあげないと」
レザージャケットの顔に、狼狽が浮かぶ。
「…で、でも」
「大丈夫。…シノは、全部許してくれる」
言いながら彼女は……悪魔の小匣を、取り出した。
「!? な、何それ」
「さあ…一つになりましょ。また、『バチカゼ』として、一つに…!!」
「薔薇とチークと北風乙女。14年前に結成されたガールズバンドで、メンバーは全員北風町出身の5人」
徹が、パソコンの前で言う。隣でリンカが、黙って耳を傾けている。
「リードギターのエナ。リズムギター兼コーラスのサヤ。ベースのタラ。ドラムのママオ。そして、ボーカルのシノ。…本名、成瀬ヨシノ」
「連絡を受けて、戸籍を確認しましたが、3年前に成瀬の死亡届が提出されていました」
「ああ。よく探したら、その頃に彼女の自殺が、一部の芸能紙で報じられていた。だが、海岸に遺書と靴が置かれていただけで、遺体は見つかっていないらしい」
「では、成瀬が今も生きていて、母神教に関わっている、と?」
「ああ。まだ断言はできないが…」
その時、徹の携帯が鳴った。画面には『植木警部』の文字。
”大変だ、東吹寄のオフィスビルにドーパントだ!”
「すぐに行きます!」
徹は電話を切ると、立ち上がった。
「久し振りに植木さんに呼ばれた気がするな。…リンカ、行ってくる!」
今夜はここまで
東吹寄は、北風駅から電車で3駅離れたところにある地区で、土地が広く交通の便も良いため企業のオフィスが集中している。その中でもひときわ目立つ高層ビル(と言ってもせいぜい15階建てだが)の前に、警察車両が並んでいた。
「近付かないで! ここは迂回してください!」
交通整理を行う若い警官は、猛スピードで接近してくる白銀のバイクと、それに跨る西洋騎士に気付くと、ぽかんと口を開けた。
「え…」
『ちょっと通らせてもらうぜ!』
仮面ライダーはハンドルを切ると、警官を避けて破壊されたビルの入り口に向かって突撃した。
「タラー、どこにいるのー?」
屋内に入ると、気の抜けたような声が聞こえてきた。どうやら、ドーパントは上の階にいるらしい。それにしても、やたらと通る声だ。壁や天井が、びりびりと揺れている。
バイクを駆って、階段を駆け上がると、敵は何と6階にいた。
『見つけたぞ、ドーパント!』
「…?」
背後から飛んできた呼び声に、ドーパントが振り向いた。
やたらと不格好な体型であった。黒いスピーカーのような胴体で、人間なら頭がある部分には何もなく、代わりに両肩からエレキギターのネックが飛び出している。腕はシンバルや太鼓を雑にくっつけたような形状で、脚は色とりどりのケーブルがもつれ合ってできていた。
「誰、あんた」
『仮面ライダーファンタジー。お前を、止めに来た!』
「何よ、それ」
面倒くさそうに応えると…突然、ドーパントが大声で叫んだ。
『っ!?』
2本分のギターサウンドが、ファンタジーを襲う。凄まじい音量と圧力に、彼は思わず後退した。
『なっ、何だこれ……メモコーン!』
駆けつけた一角獣を変形させ、ドライバーに装填する。
『楽器のドーパント、か…?』クエスト!
『だったら、こいつでどうだ!』
赤と白の魔術師となり、両手を前に突き出す。現れた魔法陣の周囲の空気が、円形に歪んだ。
『くっ…空気が無けれが音は伝わらないが、流石にこの辺全部真空は無理か…っ』
「何だか知らないけど、邪魔しないでよね」
楽器のドーパントはファンタジーに歩み寄ると、左手にくっついたバスドラムで彼を殴りつけた。
『このっ!』
防御を解除して躱すと、クエストワンドを出現させた。タムやシンバルで攻撃するドライバーに、杖で応戦する。
「ふんっ! ふんっ!」
『たあっ! せっ!』
打ち合う度に、腕が痺れるほどの衝撃が襲う。まるで、数人に同時に殴られているかのようだ。
ファンタジーは一歩下がると、杖を突き出した。
『喰らえっ!』
杖から水が噴き出し、スピーカーに降りかかる。
「! アンプが…」
ドーパントは咄嗟に横に躱すと、左手を大きく振った。肘のあたりに付いたシンバルが、鋭い刃のように飛来する。
それを避けると、ファンタジーは今度は炎を放った。
「もうっ! さっきから機材に何てことを!」
『嫌なら、大人しくメモリブレイクさせろ』
「嫌。タラを探さないと。あの人で最後なのに」
『タラ? それは…』
言いかけて、彼ははっとなった。
『…まさか、バチカゼの』
「バチカゼは復活するわ! 再び、一つになるの!」
ドーパントが叫んだ次の瞬間、胴体のスピーカーから再び大音量のサウンドが流れ出した。爆音に絶えてよく聴いてみると、ギターだけでなくドラムのサウンドも混じっている。そして、何かの曲を演奏しているようであった。
『クソっ、これは…』
「タラ、タラ! 逃げないで! 一緒にシノを迎えましょう!」
歌うように叫ぶドーパント。ファンタジーは片耳を塞ぎながら、杖を振りかざすと…
『…せいっ!』
床を、杖の先で叩いた。そこから大きなヒビが走り、ドーパントの方へと伸びていく。
「そして、バチカゼは再び…ッッ!?」
ドーパントの声が止まった。
そして遂に、床が崩れ落ちた。
「ああああっっ…!?」
下の階へと落ちていくドーパント。それを追いかけるようにファンタジーは床の穴に飛び込んだ。
『クエスト・ラストアンサー!』クエスト! マキシマムドライブ
落ちていくドーパント目掛けて、銀色のグリフォンが吶喊を仕掛ける。迫りくる危機に、ドーパントは…
「…ふんっ!」
突然、体をばらばらに分解した。
『!?』
砕けていくドーパントを素通りして、1階の床に激突するファンタジー。すれ違いざまに彼が見たのは、ばらばらに漂って消えていく、2本のギターと、ドラムセットであった。
『Oの亡霊/一人ぼっちのロックバンド』完
今夜はここまで
「あんたが、バチカゼの元ベーシストのタラ、本名を足立宝だね」
植木の問いかけに、足立はおずおずと頷いた。
楽器のドーパントが出現したオフィスビルの6階には、ある音楽プロダクションがあった。バチカゼ解散後、足立は音楽プロデューサーとして頭角を現し、現在はそのプロダクションで働いているのであった。しかしドーパントが現れた時、幸運にも彼女は仕事で外出していて不在だった。
「プロダクションを襲った怪物は、あんたの名を呼んでたそうだ。何か、心当たりは無いか?」
「…」
足立は黙って手元を見つめると、やがておもむろにポケットに手を入れ、スマートフォンを取り出した。
「…2日前、知らないアドレスからメールが来ました」
画面には、『不明な差出人』から届いた、一通の電子メールが表示されていた。
”バチカゼは再結成する。あなたが最後”
「…バチカゼは、もう終わった存在なのに。この人は、何度も何度も再結成だ、復活だ、会いに来いって…」
「そして無視していたら、とうとう向こうから?」
「そういうことだと、思います」
そこへ、坂間ともう一人の若い警官が入ってきた。
「失礼します」
「おう、どうだった」
「既に死亡届の出ている成瀬以外の、元メンバーの行方を追ってますが…最後に自宅近くでドラムの比高麻央が目撃されたのを最後に、全員消息を絶っています」
「そうか…」
「…」
黙り込む足立に、植木は声をかけた。
「…率直に言って、犯人はバンドの元メンバーの誰かだろう。改めて訊くが、何か心当たりは無いか」
「…別に。強いて言うなら、不思議です」
「不思議?」
「だって…バチカゼがばらばらになって、もう10年近いのに…何で今更、よりを戻そうっての? あんなに取り返しのつかないことになったのに、どうして…!」
拳を震わせる足立。植木と坂間は、何も言えずに顔を見合わせた。
その頃。警察署の会議室では、徹とリンカ、そして衣麻理の3人が、スクリーンでライブのDVDを鑑賞していた。無論、バチカゼのライブである。衣麻理が実際に客として参加した回のもので、後日僅かに販売されたDVDも、彼女が入手したものであった。
「確かに、ボーカルは友長真澄に似ていますね」
マイクを握る女を凝視しながら、リンカが言った。個人制作らしく画質の荒い映像であったが、確かにボーカルのシノは、愛巣会で会った友長の若い頃といった感じで、ほとんど同一人物のように見えた。
「…デビューしてから5年もしない内に、どこかのレーベルからメジャーデビューの話は来てたらしいんですよ」
じっとスクリーンを見つめながら、衣麻理がぽつりと言った。
「でも…デビューさせようとしていたのは、バチカゼじゃなくて、シノ個人だったんです」
「それで、メンバーとの間に軋轢が?」
「あくまで、噂ですけど…」
画面から目を離さない衣麻理。徹も、彼女の横でスクリーンに目を凝らす。そのスカウトは、5人の中で彼女にだけ、輝く何かを見つけたのだろうか…
バンドの歌をバックに、一瞬だけ観客席が映った。
「…! 止めて!」
突然、リンカが叫んだ。
「えっ? あっ、はい…」
「10秒巻き戻して。…」
再び観客席が映る。ぐるりと見回すカメラワークの途中で、リンカが映像を止めた。
「ここ、最前列に」
「うん? ……あっ!」
彼女の指差す先を見て、徹は驚愕した。
「何で…何で、九頭がここに…!?」
2人の注目する先。観客席の最前列には、サビのメロディに合わせて手を振る、元ガイアメモリ密売人の、九頭英生の姿が映っていた。
「あんたもロックンロールを聴くんだな」
部屋に入ってくるや、白い詰襟服の男は蜜屋の座る椅子に歩み寄り、後ろから彼女の肩に腕を回した。この馴れ馴れしい髭面の偉丈夫に、蜜屋は僅かに眉をひそめるものの、あくまで穏やかな声で応えた。
「ええ。生徒たちの嗜好は把握しておくべきだもの」
「生徒、ねえ。あんた自身はどうなんだよ」
「…別に。興味ないわ」
「ははっ、そうかよ」
男は笑うと、肩に回した手を伸ばし、彼女の胸を掴んだ。
「…悪いことは言わないわ。もう少し、若い娘にしておきなさい」
「俺はな、強い女が好きなんだよ。俺より強い女なら、なおさら良い」
「だったら…」
そこへ、真堂が乱暴にドアを開けて入ってきた。
「おい、お前!」
「…ンだよ、騒がしいなコータ」
「ンだよじゃない! 試作品のメモリを勝手に持ち出して…お母様に知れたら、どうなるか」
「良いじゃねえか。あんたらの大事なお母様とやらを、湿っぽい聖堂から引きずり出せたら、大したもんじゃねえか」
「き、貴様…」
いきり立つ真堂。男は退屈そうに言う。
「大体、あんなのはオマケだ。…『X』のメモリは、いつになったら完成する?」
「…あと、少しだ」
「期待してるぜ」
全く心の無い口調。真堂は唇を噛んだ。
今夜はここまで
蜜屋先生のエロって需要ある…?
乙
エロ需要…あると思う(こなみ)
あります
捜査は難航を極めていた。最後に目撃されたのはドラムのママオだが、その前日にはリードギターのエナが、さらにその日の早朝には、ギターコーラスのサヤがそれぞれ別の場所で目撃されていたことが判明した。ママオがギターの2人を順に呼び出して襲ったと考えるのは簡単だが、同じことはその2人に対しても言える。ほとんど同時期に目撃されたために、3人への疑いが同じレベルになってしまったのだ。
失踪する前の行動が少しでも掴めないか。そう思った植木と徹は、リードギターのエナ、本名を出水恵那の夫、出水涼に話を聞いていた。
「本当に、突然でした」
出水は、暗い顔で答えた。
「でも、言われてみれば…いなくなる直前に、何か携帯に着信があったような気もします。ただ、妻とは言え他人の携帯を覗くのはマナー違反ですから」
「…失礼ですが、奥様とはどちらで出会われたのですか?」
「ああ。彼女も僕も、音楽の仕事をしてまして。レコーディングのスタジオでばったり会って、それ以来」
彼は、部屋の壁に張られた写真に目を遣った。そこには、ギターを提げたエナと、トランペットを持った出水の姿が映っていた。
「出水恵那はシロだろうか」
独り言のように、植木が零した。徹は首を横に振った。
「そう考えるのは早いと思います。そもそも、出水涼が共犯である可能性もあります」
「彼が?」
「ええ。…調べた所によると、2人はバチカゼの解散前には既に交際しています。10年近く連れ添った相手が急にいなくなったにしては、動揺が小さい気がします」
「いなくなることが、彼の中で既に織り込み済みだった、と?」
「ええ。こうやって口に出すと、別の可能性まで出てきちゃいますね」
「当てようか。…出水が別のメンバーと通じていて、協力して恵那を陥れた」
徹は頷いた。頷いておいて、溜め息を吐いた。
「…あくまで、憶測です。と言うより、妄想に近い」
「とにかく、今は足立の周辺を警戒した方が良いだろうな」
「私もそう思います」
現在、足立は本人の了承のもと少し離れたホテルに移ってもらい、そこで数人の警官による護衛を受けている。それとは別に、足立の自宅の方にはリンカが控えていて、ドーパントが襲撃してくるのを待っていた。
ところがその翌日、植木の携帯に届いたのは、ホテルで警護にあたる警官からの救助要請だった。
”ど、ドーパント、が…”
「何だと!? リンカさんから何か連絡は?」
”いえ…敵は直接、こちらに来たものと…うわあっ!”
「おいっ! マルタイは無事なのか?」
”坂間さんが、連れて逃げて…”
「分かった。君は身の安全を確保して、可能なら周囲の人の避難誘導を頼む」
植木は部下と共にパトカーに飛び乗ると、サイレンを鳴らして走り出した。
走り出して数分後、その隣を銀色のバイクが猛スピードで駆け抜けていった。
足立の自宅から十分離れた場所にある、古びたビジネスホテル。その入口は、粉々に破壊されていた。
『遅かったか…!』
既にセイバーメモリを装填し、蒼と銀の騎士の姿となったファンタジーは、足早にホテルの中へと進んだ。
例によって、ホテルの中ではドーパントの声が壁を震わせながら響き渡っていた。
「タラ、逃げないでよ、タラー!」
『…! 坂間刑事!』
エントランスに、坂間が倒れているのに気付き、彼は駆け寄った。
『大丈夫ですか?!』
「…っ、足立が、まだ上に…ここまで逃げてきたは良いが、見つかってしまった…足立は追いかけられて、咄嗟に階段を上って、行ってしまった」
『すぐ行きます。ここで休んでてください』
ひしゃげた非常階段のドアをくぐると、ファンタジーは上の階を目指した。
「やっと見つけた…」
廊下の突き当りで、追い詰められた足立に、楽器のドーパントが迫る。
「来ないで…来ないでよ」
「これで、皆でシノを迎えられるね。さあ、もう一度一つに」
『そこまでだ!!』
そこへ、仮面ライダーが現れた。彼は、驚いて振り返ったドーパント目掛けて、渾身の飛び蹴りを見舞った。
「きゃあっ!?」
『何でここが分かったのか知らないが…とにかく、倒す!』
剣を構えるファンタジー。ドーパントが金切り声を上げる。
「邪魔しないで!! 私たちの夢を…」
「あんた1人の夢だ!!」
突然、足立が叫んだ。
「シノはあたしたちを裏切った。そして死んだ! バチカゼはばらばらになって、それぞれが自分の道を見つけたのに。どうして、今更…」
「シノは生きてるわ。そして、バチカゼはまた蘇る…!」
『蘇るってんなら、まっとうに再結成してくれ! ガイアメモリなんて使うんじゃない!』
ファンタジーは剣を振り上げると、ドーパントに斬りつけた。ドーパントも、シンバルの刃で応戦する。
『足立さん、今のうちに逃げるんだ!』
「逃さない!」
ドーパントの足から無数のケーブルが伸び、足立の体に巻き付いた。
「っ、放してっ」
『!』
ファンタジーは、両手で剣を大きく振りかぶった。
『ジャスティセイバー・雷切!!』
次の瞬間、刀身を白い電光が走った。雷の刃で、足立に纏わりつくケーブルを一太刀に切断すると、返す刀でドーパントを斬った。
「ぐぅっ…!」
『せいっ、たあっ! …はあぁっ!!』
「ぐあっ」
袈裟に斬りつけた刃が、ドーパントの肩口を深く切り裂く。致命的な一撃に、とうとうドーパントが膝を突いた。
『トドメだ!』セイバー! マキシマムドライブ
蒼い閃光が、ドーパントに迫る。ドーパントは、膝立ちのまま体をファンタジーに向けると…
突然、胴体のスピーカーから甲高い音が鳴り響いた。
『くっ、ああぁっ!?』
剣閃が逸れる。その隙にドーパントは素早くケーブルを伸ばし、足立の体を捉えて引き寄せた。
『! やっ、やめろっ!』
「嫌っ! 放してっ!」
メモリを換える暇もない。ファンタジーは咄嗟に剣を振りかざしたが、足立の体を盾にされてしまい、動けない。
「あ、あぁ…」
彼女の体が、ケーブルの中に呑み込まれていく。やがて…ドーパントの背中から、もう一本のギターネックが生えてきた。しかし、両肩の二本と違い、弦は4本だ。
『…このぉっ!!』
耳をつんざく高音に耐えながら、剣を構えるファンタジー。その目の前で、ドーパントは突然、変身を解除した。
『!?』
「…」
そこに立っていたのは、先程ドーパントに取り込まれたはずの、足立自身であった。
『どういうことだ…?』
「これで、揃った…」
熱に浮かされたように、足立が言う。次の瞬間、その姿がゆらゆらと波打ち、そして消えた。
「力野さん! …こ、これは」
「…逃げられました」
変身を解除しながら、徹は悔しげに言った。
「ですが…犯人は分かりました」
邸宅の前にタクシーを停めると、出水涼は車を降りた。その顔には、隠しきれない興奮の色が浮かんでいた。
「ふ、ふふ…これで、ようやく…」
「出水、涼さん」
突然、背後から飛んできた声に、彼ははっと振り返った。
そこには、腕組みする植木と、徹が立っていた。
「…何ですか」
「あなたの奥様を攫ったと思われる犯人…あなたなら、お分かりでしょう?」
「何の話です。そんなの、こっちが知りたいくらいだ」
「あのドーパントには」
徹が、一歩前に進み出た。
「取り込んだ相手の得意とする楽器を、自分の体に出現させて利用するという特徴があった。実際、ベーシストの足立宝が取り込まれた後、奴の体からはベースのネックが生えてきた」
「…」
強張った顔で、2人を睨む出水。徹は続ける。
「だが…追い詰められたドーパントが発した音は、今までに取り込んだメンバー…ギター、ドラム、そのどれとも違っていた。……あれは、トランペットの音だった」
「!」
「出水さん、あんた、トランペット奏者なんだろう?」
突然、植木がぶっきらぼうな口調になって言った。
「失踪したメンバーと近いところにいながら、自分は狙われず…そして、ドーパントはバンドにいないはずのトランペットの音を発した。つまり、あの中には既に誰かトランペット奏者が取り込まれていた!」
「本当にバチカゼの再結成だけが望みなら、トランペットは必要なかったはずだ。なのに何故、ドーパントはトランペットまで取り込んだのか? …他ならぬトランペット奏者、お前がドーパントだからだ!」
出水を指差し、断ずる徹。出水は…
「…馬鹿な。さっきから聞いていれば、まるで自分が実際に見て、聞いたかのような言い方。恵那や、他の人たちが襲われるところを、君たちは見たのか?」
「見たさ」ファンタジー
「!?」
徹は、躊躇なくガイアメモリを掲げてみせた。それが、つい先程交戦した仮面ライダーのメモリだと分かった瞬間、出水の顔に狼狽が浮かんだ。
「…そういう、ことか!」
彼はジャケットの懐に手を入れると、金色のガイアメモリを取り出した。筐体には、音符の載った五線で『O』と書かれている。
「! ゴールドメモリ…!?」
『オーケストラ』
「これが…僕の夢だ…!」
「変身!」
メモリを耳に挿す出水。徹は変身すると、セイバーメモリを装填した。
『いくぞ!』
「邪魔なんてさせない…させないわ!」
ドーパントが、数人分の女の声を重ねたような声で叫んだ。
夜の高級住宅街で、激しい戦闘が始まった。
「バチカゼは…私の、夢だった!」
『お前も、ファンだったってことか』
バスドラムの拳を躱し、剣を突き出す。
「初めて見た時から…輝くものを感じてた! 一緒に、ステージに立ちたいって思ってた!」
『だったら何故ガイアメモリに手を出した! 恵那さんを説得すれば良かったのに』
「そんなのは無理よ! シノはもう死んだ…だから、諦めてた。でもあの日、神の力を得た!」
高速回転するシンバルが、ファンタジーの胸元目掛けて飛んでくる。それを弾き飛ばすと、彼は呻いた。
『お前も『神』か…!』
「そして今、メンバーが揃った! 今なら!」
オーケストラドーパントが、後ろへ下がる。それから両腕を広げると、スピーカーから大音量のサウンドが鳴り響いた。
それは、先日観たビデオに収録されていた、バチカゼの曲であった。
『もっと…やり方があったはずだろ!』
ファンタジーは、剣を高く掲げた。その刀身を、白い稲妻が走る。
『ジャスティセイバー…雷切!!』
振り下ろした切っ先から雷が迸り、ドーパントを襲う。が
「はははははっ!! もう効かない、効かないわ!!」
足のケーブルから電気が吸収され、音量が更に増していく。
『クソっ、駄目か…』
「おい、うるさいぞ!」
「今何時だと思ってるの?!」
そこへ、いくつかの怒声が飛んできた。見ると、数件の民家から住民が顔を出している。どうやら、迷惑なパフォーマーがいると思われたらしい。
『危ない!』
「…折角だから、コーラス隊に加わってもらいましょうか」
ドーパントが言った瞬間、足のケーブルが四方八方へと伸びて、住民を捕らえた。そのまま素早く引き寄せ、体に取り込んでしまった。
『やめっ…』
「ふふふふ…シノには敵わないけど、数合わせくらいなら…」
遂に、ドーパントの頭が生えてきた。黒いマイクのような頭部には、顔がなく、大きく開かれた口だけが無数に付いていた。
「さあ…シノに会いに行きましょ!」
大音量で音楽を流しながら、ドーパントが走り出した。
すれ違う人々を吸収しながら、逃走するドーパント。それをバイクで追跡するファンタジー。人間を取り込むたびにドーパントには口が増え、身体もどんどん大きくなっていく。
やがて住宅街を抜け、繁華街に出る頃には、全長数メートルを超える巨大な怪物になっていた。
「シノ! シノ! どこにいるの! 私たちはここよ!!」
『止まれ、止まれーっ!』
クエストメモリに換装し、杖を振りかざす。次々に火の玉をぶつけるが、怪物は止まらない。
何か、手はないのか。絶望的な気持ちでハンドルを握っていたその時
「…?」
突然、オーケストラドーパントが歩みを止めた。
『な、何が…』
立ち止まり、見つめる先には、1人の男が立っていた。
「…貴方を、生かしておくわけにはいきません!」
『あれは…九頭?』
逃げ惑う人々の真ん中に立つのは、怒りに燃えた顔の九頭英生であった。その両脇には、ミヅキとユウダイも控えている。
「残しておいてはならない、悪夢の残渣…兄弟たち、あれをお母様の目に触れさせてはなりませんよ!」マスカレイド
「は〜い」ラビット
「頑張ろうね、お姉ちゃん」クローバー
3人は各々メモリを挿し、ドーパントに変身した。その間際、ミヅキがファンタジーに気付いて、笑顔で手を振った。それから一転、緑と白に包まれていくユウダイに向かって舌打ちした。
白い花冠を被った、天使のような少年…クローバードーパントが両手をかざすと、オーケストラの体にシロツメクサが何重にも巻き付いた。そこへ、ラビットドーパントが飛び蹴りを見舞った。
「ぐうぅっ…」
呻くオーケストラドーパント。シンバルやタムの腕を振り回しながら、多重コーラスを響かせた。
「うるっさい! この音痴!」
キックの反動で飛び上がり、今度は踵落とし。動けない敵を、軽やかに傷付けていく。
そして遂に、巨獣が頭を地に伏せた。すかさずマスカレイドドーパントが、どこからともなく取り出したロケット弾を撃ち込む。
「死ね、死ね! 無かった過去です! 貴方達は…」
『おい待て! それ以上やったら死ぬぞ!』セイバー! マキシマムドライブ
トドメを刺される前に、メモリブレイクだけでもしようと剣を構え、バイクで迫る。ところが
『…ぐわあぁっ!?』
突然、正面から何かが激突し、ファンタジーはバイクごと跳ね飛ばされた。
次の瞬間、辺りが白い光に包まれた。
「! いけません…」
懇願する九頭。その隣に光が収束した。そして、その中から現れたのは…
『はあっ……っ! 友長、真澄…』
「…」
友長は一瞬、虚ろな目で目の前の怪物を眺めた。が、すぐに異様な光が灯った。
「…ああ。そう。そうなのね」
「シノ! シノ! やっと会えた!!」
たちまち息を吹き返す、オーケストラドーパント。シロツメクサの拘束を引きちぎり、連撃するラビットドーパントをはたき落とした。
「ぐえっ」
「さあ、こっちに来て…バチカゼを、もう一度!」
呼びかける、かつての友。友長真澄、いや、成瀬ヨシノは、穏やかな笑みを浮かべると…
「…あなたも、『母』が愛しましょう」
『…今、何て言った?』
呟いたその時、成瀬の体から白い光が迸った。溶け出すようにその体が霞み…やがて、そこに立っていたのは、マリア像めいた白い肌の、美しい女のドーパントであった。
「なりません…『お母様』!」
引き留めようとする九頭。しかし成瀬…『お母様』は構わず、片手を軽く突き出した。
「ぐあああぁっぁっっ!?!」
たったそれだけで、巨大なオーケストラドーパントの体が空高く打ち上げられた。
落ちてくるドーパント。『お母様』が両腕を広げると、その着地点に巨大な裂け目が開いた。
「さあ…母の胎内へ、おかえりなさい」
「嫌、あ、あああっ…」
蒸気を発する巨大な穴に、ドーパントが呑み込まれていく。助けを求めるように突き出したトランペットのベルが、根本からぼっきりと折れて、消えた。
『…なんてこった』
呆然と、ファンタジーは呟いた。出水やバチカゼのメンバーだけではない。道中で取り込まれた多くの人々ごと、あの穴に消えてしまった。
「また会いましたね、仮面ライダー」
『お前が…お母様…』
ファンタジーは、剣を構えた。
お母様は動じない。
「あのドーパントが心配なら、それは不要ですよ。あの子達は、母の中で再び生まれる時を待っています」
『! じゃあ、九頭が今も生きているのも』
「お母様の愛あってのことです」
マスカレイドドーパントが、2人の間に割って入った。
「お母様は、敵である貴方にも愛を注いでくださるのです。跪きなさい。それだけが、貴方の」
『…九頭』
ファンタジーは、彼の言葉を遮った。
『お前…バチカゼのファンだったんだな』
「やめなさい! その名を出すな! その名を、お母様に聞かせるな…」
「英生」
『成瀬ヨシノにメモリを与えたのは、お前なんだろ? …彼女を、愛していたのか。彼女に、何があった? バチカゼは、どうして崩壊した』
「やめろやめろやめろぉーっっ!!!」
九頭は絶叫しながら、ファンタジーに殴りかかろうとした。が、その動きはすぐに止まった。
「…英生。あなたが怒ることはありませんよ」
「お母様! 放してください…さもなくば」
彼の言葉は、途中で途切れた。見えない力が、彼の体をぺしゃんこに握り潰してしまったのだ。
メモリの機能で爆散する九頭。その後ろで、お母様は握った手を広げた。
『…お前がやったのか』
「彼はまた生まれてきます。何度も通った道です。それより」
マリア像めいた顔が、ファンタジーを捉えた。
「母は、あなたを愛したい。母と共に、帰りましょう?」
『…断る』
ドーパントの体が光に包まれ、また成瀬の姿に戻った。
「…いつでも、待っていますよ」
「待ってるよ〜!」
いつの間にか変身を解き、手を振るミヅキ。次の瞬間、ミズキとユウダイ、そして成瀬ヨシノの姿は、光の中に消えてしまった。
「…はい。能力の正体が分かりました。あのメモリは…」
深夜。アパートの玄関先に出て、リンカが電話をかけている。早口に情報を交わすと、彼女は電話を切って、部屋の中に戻った。
そこには、徹が立っていた。
「!」
「…ああ。用事は済んだか」
「な、ぜ…貴方が、起きて…」
「いや、喉が乾いただけだよ」
眠そうな顔で笑う徹。その顔を見た瞬間、リンカは何も言わず、彼に縋り付いた。
「ど、どうした? 何かあったか」
「…」
リンカは黙って、彼の体を押して寝室まで入った。そうして彼をベッドの上に押し倒すと、自分はその上に跨った。
「私は…貴方、に…」
乱暴にシャツを脱ぎ、質素なブラも外す。慎ましい乳房を露わにすると、背を曲げて彼の唇を奪った。
「んっ…っは。…嫌なことでもあったんだな」
「…」
残りの衣服も脱ぎ、徹の服も脱がせていく。裸の胸に、涙の雫がぽたぽたと落ちるのを、徹は何も言わず感じていた。
「…おう。ご苦労」
男は通話を切ると、携帯を放り投げた。
「随分とお仕事熱心なのね」
彼の下で、蜜屋が嫌味っぽく言った。男は嗤った。
「悪い悪い。もうしねえから」
言いながら彼女の乳房を乱暴に掴み、腰を大きく振った。
「んっ」
「いい具合じゃねえか。流石に先生は、ガキとつるんでるだけあってカラダが若い」
「教育、指導しているの。遊んでるんじゃないわ」
「はいはい、そうだな」
腰を振りながら、男は彼女の乳首に歯を立てた。身動ぎする蜜屋。
「っ、あぁ…中で出すから、孕めよ…」
「あっ…無茶、言わないで…っ」
男の動きが止まった。肩を震わす男。腹の中に広がる熱に、蜜屋は思わず湿った声を上げた。
その部屋の向こうでは、真堂が緊張の面持ちで机の上を見つめていた。
「つ…遂に、完成した…だが…」
作業台の上の、真新しいガイアメモリ。それを取り上げると、彼はごくりと唾を呑んだ。
「…あいつらは、もはや信用ならん…ならば…」
彼は辺りを窺うと、作業着のポケットから古びた二つ折りの携帯電話を取り出した。番号をプッシュし、耳に当てる。
「…もしもし、私だ。すぐに来てくれ。…いや、そんなことではない、もっと重要なことだ…」
『Oの亡霊/消えざる過去』完
今夜はここまで
『オーケストラドーパント』
『楽団』の記憶を内包するガイアメモリで、トランペット奏者の出水涼が変身するドーパント。ただ変身しただけの場合、スピーカーのような胴体からケーブルめいた手足が生えているだけの、貧弱なドーパントに過ぎない。しかし、このドーパントは他の人間を吸収・同化することで能力が増していく。特に相手が楽器の演奏者である場合、体にその楽器のパーツが追加されていき、スピーカーから出せる音も増えていく。また、吸収した人間の姿に変身することもできる。そのため出水は、バチカゼの元メンバーの前に現れる時は、誰か他のメンバーの姿を取った。しかしその一方で、ある程度意識も残るため、変身時は複数人の意識が混合した、曖昧な状態となる。男である出水が、変身後は女の声や口調になっていたのも、このためである。
フリーのトランペット奏者でありながら、結成時からの『薔薇とチークと北風乙女』のファンであった彼は、いつか彼女らのサポートメンバーとして共にステージに立つ日を夢見ていた。しかし、その夢は叶わずバンドは解散。ギタリストの財都丸恵那と結ばれるものの、満たされない日々を送っていた。そんなある時、白い服の男からこのメモリを渡され、「ボーカルのシノは生きている」と告げられる。その言葉を信じた彼はメモリを使用。妻の恵那に始まり、次々とメンバーを取り込んでいくこととなった。
メモリの色は金。音符の載った五線譜が円を描き、『O』の文字を形成している。金塗りではあるが正式な幹部メモリではなく、ミュージアム崩壊後に作られた新種のメモリ。色も幹部メモリを意識したわけではなく、金管楽器の色をイメージしただけである。
>>208をかなりアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました!
…もう少し、設定を活かしたかったと反省
乙
プラトニックドーパント
『純粋』の記憶を内包するガイアメモリで変身したドーパント
ありとあらゆる不純物を消し去り、変身者の望むモノのみを残す光を放つ能力を持つ
特に、ドーパントや仮面ライダー等変身の類いで力を得ている存在には抵抗すらままならないだろう
光は概念的な存在であり、光を遮る。遮蔽物に隠れる等の行動では光を止める事は出来ない
対抗するには、純粋な想い。『誰かを助けたい』という善意から『何があっても倒す』という決意。『生きたい』という単純な想いでも効果がある
このドーパントに変身出来るという事はそれだけ使用者に純粋な想いがあるという事の証明でもある
生半可な気持ちでメモリを起動させた場合、強い拒絶反応が起きてしまう(ファイズのベルトの様な感じ)
(ここんとこ特殊系多いから、シンプルに殴って強いドーパントが欲しい)
(贅沢言うとまだ使ってないアルファベットのがいい)
こんな感じ?
マッスル・ドーパント
『筋肉』の記憶を内包するメモリ。ドーパント体は全身が異常なほど膨れ上がった赤い筋肉でできている。
特殊能力は無い…しいて言うなら並みのドーパントを遥かに凌駕する身体能力である。
メモリに惹かれる人物は『強靭な肉体(筋肉)を持つが精神が脆弱なもの』か『健全な精神を持つが貧弱(あるいは病弱)な肉体で強靭な肉体へのあこがれが強いもの』のどちらかという両極端なのがあるいみこのメモリの最大の特徴
アコナイト、アペタイト
バンブルビー
クローバー
D未消化
アースクエイク
ファンタジー、ファイアーアント、(false)
ガー「ゴッド!」
ホーネット
アイソポッド、アイドル
J、K未消化
ロングホーン
M、N未消化
オーケストラ
P未消化
クエスト、クインビー
ラビット、リインカーネーション
セイバー
トゥルース、ティーチャー
ユニコーン?
V未消化
ワサビ、ワイルド
X_t___
YZ未消化
DJKMNPVYZ が未消化アルファベットの模様
なお、アルファベット一字検索で探して各メモリ解説を探したので、解説でアルファベットが示されてないと抜けてるかも。というかカートゥーン(C)抜けてた
あと、アノマロやマスカレイドとかの本家産メモリは省いてあります。
まとめた勢いで
ネブラ・ドーパント
古代のオーパーツ、ネブラディスクの記憶を内包するメモリで変身する。
メモリの色は緑青(ろくしょう)色で、怪人体も同じ緑青色のずんぐりした鎧状の体に、金色の金属質で顔に太陽、胸に三日月、その他の部位に星の意匠がちりばめられている。
両腕にも、実物のネブラディスクにおける弧枠にあたる金色のラインがある。
ネブラディスクは一年365日の太陽暦と、一年354日の太陰暦の二つの暦のすりあわせを行うため用いられていたと推定されている。
そこから、このドーパントは二つの時間の流れを発生させる限定的な時間操作を行える。
腕にある金のラインで指し示した範囲または対象の時間の流れを、二倍程度早めるか遅くすることができる。持続時間は最大で(通常の時間の流れ側における)10分。
範囲の設定は最大で半径10m程度。同時には一つの対象または範囲にしか影響できない。
例えば自身の時間を早めて高速移動したり、相手を遅くしたり、カップ麺の待ち時間を半減させたりするだけでなく、
殴った拳が衝撃を与えている時間を長くして威力を高めたり、出血する傷口を加速して消耗を早めるなど、工夫次第での応用が自在に行える。
ナスカとかの古代ネタが足りなかったのでこんなものを
バガボンド・ドーパント
『放浪者』の記憶を内包するガイアメモリで変身。
メモリの色はビリジアン(暗い青緑色)で、後姿の人物のまとっているマントが風にたなびいてVの字を作っている。
ドーパントは三度笠を被り、着流しの上にマントを纏い、下駄を履いている。肌は白く、顔は食いしばった骸骨を連想させる。また、腰に刀を差している。
メイン武器はこの刀で、直接切るほかに斬撃を飛ばしたりすることもできる。
また、体力を大幅に消耗するが高速移動もできる(単純な速度はアクセルトライアルと互角だがこちらの方が使い勝手が悪い)
更に「放浪者」という特性からか拘束・束縛を無効化できる(例えるならウィザードのバインドや鎧武のナギナタ無双スライサーのオレンジ型のエネルギーなど)
ゾーメモリ
象ではなくゾー。ネパール等で飼われている牛とヤクの交配種の記憶を有している。
英語の綴りは様々だが、Z枠なので「ZO」でお願いします。
「J」……ジャスティスメモリ
『正義』の記憶を内包するメモリ。相性のいい人物は正義感の強い人物。言うならば王道の少年漫画の主人公のような人。
ドーパント体はご当地ヒーローのような姿だが使用者によって違う。
このメモリの恐るべきところはドライバーを利用しても防ぎきれない程の非常に強い毒性で、他者のために動く高潔な人物も己にとって不快な人物を正義のもとに排除する独裁者みたいまでに人格を変化させてしまう。
-----勝ったほうが正義、勝てば官軍なのだから
イールド・ドーパント(yield)
『対価交換』の記憶を宿すメモリで変身したドーパント。手が札束を横に並べている図でyの字になっている
対価を支払う事で自らの性能を引き上げる。特に高額な物を支払えば支払う程、腕力やスピードは格段に上がる
また、敢えてスペックをダウンさせる事で下げた分を他の能力に上乗せする事も可能。(スピードを落とした代わりにパワーを増やす等)
無限に成長を続けるという性質上、理論の上だけならばこのメモリを倒す事は不可能である
支払うものは何でもいいが、イールドという言葉の性質上、札束や金等の通貨類が好ましい
ディテクティブ・ドーパント
『探偵』の記憶を内包するメモリ。ドーパント体は鳥打帽状の頭部に、レンズを嵌めたような巨大な目が特徴。
メモリには、パイプと紫煙でDの字が形作られている。
ホームズの意匠に引っ張られているものの、どちらかというと名探偵よりも現実的な探偵に寄っている。
主な能力は張り込みのための気配遮断、暗視や望遠・広域視野といった超視力、聞き込みの質問に答えさせるための簡易な催眠能力、推理・推論に関する知能向上。
戦闘に際しては、敵の行動を推理しての先読みで回避や行動潰しができることが強みであるが、ドーパントとしては中の下程度のパワーしかない。
しかし、パワーのある味方がいる場合、推理力から繰り出すサポートは強力だろう
ええ、ほんへに喧嘩売る単語チョイスです
W10周年めでてえ
「…」
公園の身障者用トイレの前で、徹は黙って立ち尽くしていた。
ここは、彼とミヅキが初めて会った場所。しかし今、閉じた扉の中からは、何の音も、誰の声も聞こえてこない。
「…駄目、だよな」
諦めて去ろうとしたその時、後ろから彼の肩を叩く者がいた。
「!」
「やっほ~、仮面ライダーさん」
振り向くと、そこにいたのはミヅキ。彼女は軽く跳び上がると、彼の首にかじりついてキスをした。
「あたしに逢いに来たの。嬉しい!」
徹の手を引き、身障者用トイレに入ろうとする。しかし徹が動こうとしないので、怪訝な顔で振り返った。
「どうしたの? エッチしようよ」
「いや、ちょっと待ってくれ。その前に…」
彼は、ちらりと周囲を窺った。既に夜も深い時間だが、いつの間にか数人の男たちが集まっていて、ただならぬ表情で徹の方を睨んでいた。
「…場所を変えようか。目立つし、何だか雨も降りそうだ」
果たして、コンビニで買った惣菜を手に、煙草臭いラブホテルの一室に転がり込む頃には、外では土砂降りの雨が降っていた。
「仮面ライダーって、意外と庶民的なんだね~」
コンビニのレジで温めて、既に冷め始めたスパゲティを啜りながら、ミヅキが言った。
「普段は売れないフリー記者なんだよ。前に名刺渡したろ」
「あはっ、捨てちゃった」
「ああ、ちらりとも見ないでな」
徹は唐揚げを一個、口に入れた。咀嚼し、飲み込んで、それから口を開いた。
「…お母様の正体は、最初から知ってたのか」
「正体? …変身する前の姿なら、あたしはちょいちょい見てたけど。クズのおじさんもね」
「それが誰かまでは、知らなかったのか?」
「別に。お母様はお母様でしょ」
プラスチックの皿に付いたソースを舐めるミヅキ。徹は少し考えて、また尋ねた。
「皆が皆、あの姿を見てるわけじゃないのか」
「うーん、あの蜂ババアの前で変身を解いてるところは、見たことないかな」
「! そうなのか」
それが本当なら、蜜屋は自身の根城の奥に、他ならぬ自分の親玉がいたことを知らなかったことになる。思えば、お母様の直属となったユウダイも、元はと言えば蜜屋に洗脳された生徒の一員であった。友長真澄と名乗っていたあの時、自分は蜜屋のやり方に疑問を抱いていると言っていたことからも、お母様は蜜屋を快く思っていない、或いは、既に敵対してしまっているのかも知れない。
「ね、一緒に食べようよ」
差し出されたロールケーキを頬張りながら、徹はぼんやりと次の質問を考えていた。
しかし、思考は下半身に伝わる生温かい感触に遮られた。
「! ミヅキ…」
「んっ、む…」
いつの間にか彼女は、ベッドに腰掛ける徹の膝の間に座り込んで、彼の一物をズボンのファスナーから取り出して口に入れていた。
「…察してるかも知れないが、俺はリンカと同居してるんだぞ」
「ちゅ、れ…んむっ…」
「あまり大きな声では言えないが、寝たこともある」
「…ん、くっ、っぷぁ…ん…」
「だから、あんたとは…あ゛痛っ!?」
勃ちかけの陰茎に歯を立てられて、徹は悲鳴を上げた。
「…うるさいな~。フェラ中に話しかけないでって、前にも言ったでしょ」
不機嫌そうに言うミヅキ。徹はイチモツに傷が付いていないか確認しながら、諭すように言う。
「だから、こういうことは良くないって言いたいんだよ」
「何がいけないの? あたし、雑草以外の男とは皆エッチしたよ? あなたが、あの金ピカネクタイと寝たから、何?」
「…俺は、リンカが好きだ」
「…」
ミヅキは、呆然と彼を見た。ぽつりと、その唇から言葉が零れた。
「…あたしじゃ、ダメ?」
「あんたのことは大事に思ってる。助けたいとも思ってる。だけど…女としてとか、セックスしたいとか、そういう意味じゃない」
「じゃあどういう意味なの!」
突然、彼女が声を張り上げた。
「好きなら、エッチするでしょ! そうじゃない関係があるの? そんなの…あたし、知らない!」
「!」
徹ははっとなった。
幼い頃から母子家庭で育った彼女が、最初に出会った男は、女を性欲の捌け口としか考えない男だった。そこから孤児院、何処とも知れない路上、そして母神教で、彼女は人の温もりを知ることができただろうか。カラダを代償にしない関係を、一度でも築けたことがあっただろうか。
「誰も…あたし『だけ』を、愛してくれない…お母様だって…」
「…」
何と声をかけていいか分からず、黙り込む徹。ミヅキは立ち上がると、部屋の隅へと歩いて、そのまま座り込んでしまった。
「…!」
のしかかる体の重みで目が覚めた。
「愛してよっ…ねえっ…エッチしてよ…っ!」
暗がりの中で、彼に跨って激しく腰を振る少女。
彼は思わず、痩せこけたその体を強く抱き締めた。
「ミヅキ…ミヅキっ…!」
「あんっ…好きだから…好きって、言ってよぉ…」
「ミヅキ…俺は…」
言いかけたその時、突然、ベッドの隅に転がった彼の携帯電話が鳴った。
「えっ…」
「! …」
徹は一瞬躊躇って、恐る恐る携帯を手に取った。画面には、リンカの名が表示されている。
徹は、ミヅキの方をちらりと見た。
「…聞かせちゃおうよ。あたしたちが、愛し合うところ!」
彼女は悪戯っぽく言うと、彼の手から携帯を取り上げ、通話をタップした。
ところが、聞こえてきたのはリンカの声ではなかった。
”…ごきげんよう、仮面ライダー”
「なっ!?」
「ウジ虫ババア…何で」
スピーカーから聞こえてきたのは、愛巣会で聞いた、蜜屋志羽子のそれであった。
”どこで遊んでいるのかしら? あなたのとこの娘、寂しそうにしてたわよ”
「! おい! リンカをどうした!?」
徹は電話をひったくると、画面に向かって叫んだ。
”円城寺さんは…今、私たちが預かってるわ”
「どこだ!」
”前に来たでしょう? 真堂の、ガイアメモリ製造工場…早くしないと、この娘がどうなるかしらね”
「貴様…」
徹はベッドから飛び降りると、玄関に向かって突進した。そして、料金を入れないと出られないことを思い出して、地団駄を踏みながら部屋を見回した。
「窓を蹴破るか…」
そんなことを呟いた瞬間、ミヅキが無言で立ち上がり、そして跳躍した。
「…はああぁっ!!」
ハイドープの人間離れした脚力が、鉄の扉を襖か何かのようにぶち破る。着地したミヅキは、彼の顔を見ないで言った。
「行けば」
「ミヅキ…」
「勝手にしろっ!!」
「…っ」
徹は歯噛みすると、部屋を飛び出して行った。
後に残されたミヅキは、崩れるようにその場に座り込むと、声を上げて泣き出した。泣きながら、ポケットの中から何かを取り出した。
「ひぐっ…もういい…もういいもんっ…」
七色に光るそれは、禁断の力。
「全部…全部、ぶっ壊してやるっ!!」
土砂降りの雨を裂いて、銀色のバイクが走る。貨物集積所のゲートを突破し、四番倉庫へと向かう。
開け放たれたシャッターをくぐると、そこには真堂が、物憂げな顔で立ってた。
「…来たか、仮面ライダー」
彼は沈んだ声で言うと、赤褐色のガイアメモリを取り出した。
「君みたいな、分かりやすい敵だけならどんなに良かったことか…!」アイソポッド
「リンカを…リンカを返せ!!」ファンタジー! セイバー!
『おおおおおおっっ!!』
「ふぅんっ!」
剣と硬質な腕がぶつかり合う。
「姿を変えようと、君の剣で私を傷付けることはできんよ!」
『おおらぁっ! たあぁっ!』
ファンタジーは構わず、剣を振るって何度も斬りつける。斬りつけ、叩きつけ、突きつける。
とうとう、アイソポッドドーパントが苛々と唸った。
「しつこいね、君も!」
彼は後ろへ下がると、やおら雄叫びを上げた。
次の瞬間、その体が何倍にも膨れ上がり、ダイオウグソクムシめいた巨大な怪物へと変化した。
「大人しく、捕食者に喰われたまえよ!!」
『…待っていたぞ』クエスト!
「何…?」
メモリを換装し、魔術師の姿となったファンタジー。その頭上に、巨大な魔法陣が浮かび上がった。
彼は右手を硬く握り、肘を曲げると…
『…おりゃああぁぁぁぁっっっ!!!!』
頭上の魔法陣目掛けて、思い切り拳を突き上げた。
すると、巨大な怪物の足元から、更に巨大な拳が出現してドーパントの体を下から殴りつけ、ひっくり返してしまった。
「うわああぁぁっ!!?」
仰向けにひっくり返り、短い手足をばたつかせるドーパント。
『その体じゃ、簡単には戻れないだろ。そして…』セイバー!
『…硬い殻に覆われてるのは、背中側。つまり、腹の方が弱点だ!』セイバー! マキシマムドライブ
白いマントが翼のようにひらめき、騎士の体が宙へと浮かび上がる。
空中で、彼は白と蒼に輝く剣を振り上げた。
『セイバー…ジャスティスラッシュ!!』
「ぎゃあああぁっっっ!!」
輝く剣閃が、無防備なドーパントの腹を縦に切り裂く。断末魔と共に、怪物の体が爆ぜた。
「く、そ…こんな、ところで…は」
燻る炎の中で、真堂が藻掻く。その後ろ首からメモリが抜け落ち、砕け散った。
『…リンカを、探さないと』
リンカが囚われている工場を目指して、倉庫の奥へ進もうとするファンタジー。ところが
「…ははっ」
突然、荒れ果てた倉庫の中に、不敵な笑いがこだました。
『誰だっ!?』
「コータがやられたか。そりゃご苦労」
奥から悠々と歩いてきたのは、白い詰襟服の、大柄な男。その隣には、蜜屋も控えている。
『蜜屋! リンカを出せ!』
「少しは落ち着きなさいな。慌てたら、ケアレスミスが増えるわ」
「そうそう、先生もそう言ってることだしよ」
男は、ニヤニヤ嗤いながら一歩前へ出てきた。
「…もうちょっと、遊ぼうぜ」
その手に、深緑色のガイアメモリ。そして…
『メモリ、と…ドライバー!?』
ロストドライバーを腰に装着し、メモリを目の前に掲げる。筐体には、角張った刃のような字で『D』と書かれている。
ガイアウィスパーが、メモリの名を告げる。
『ドミネーター』
「生物種としての、格の違いを見せてやる。……変身」
『Dの闖入/ひび割れた愛』完
今夜はここまで
『ドミネーター』
ベルトを中心に、装甲が男の体を覆っていく。見る見る内に彼の体は、陸軍兵めいた深緑色のスーツに黒い防弾ジャケット、そしてガスマスクめいた複眼マスクに包まれた。その右手には、灰色の無骨なグローブが嵌っている。
『じゃ、楽しもうぜ…っ!』
『くっ!?』
目にも留まらぬスピードで、ドミネーターが肉薄する。突き出された正拳を剣で受けると、凄まじい衝撃がファンタジーの両腕を襲った。
『はっ、おらっ! どうしたァっ!』
『ぐっ…ふっ、うぅっ!』
素早いキックとパンチの連撃を、間一髪で躱す。洗練された敵の動きからは、豊富な戦闘経験が伺われた。
『せぇやっ!』
『! たあっ!』
回し蹴りを屈んで躱すと、すかさず剣を斬り上げた。
切っ先が、仮面の鼻先を掠った。
『はっはっはぁっ! 良いじゃねえか! 人間らしく足掻けよ!』
ドミネーターは一切怯まず、更に一歩踏み出し、拳を突き出した。
『ぐ、あっ!?』
止めきれず、拳が鎧の腹部にめり込んだ。一撃で、硬い装甲に亀裂が走った。
更に、前蹴りが膝を砕く。
『があぁっ!』
膝を突いたファンタジー。そこへドミネーターが、片足を大きく振り上げた。
『…ぬんっ!』
『!』
どうにか脇に転がり、落雷の如き踵落としを避ける。彼のすぐ隣で、コンクリートの床が大きくひび割れた。
その足に向かって、剣を突き出した。
『このっ…!』
『セコいことすんじゃねえ!』
『あぁっ!』
切っ先を蹴られ、剣が遠くへ飛んでいく。更に続くキックを両腕で受け止めると、転がって距離を取った。
立ち上がり、拳を構える。剣を拾いに行く暇はない。
『はぁっ…はぁっ…』
『そうだ。最後まで足掻け。そして…格の違いを思い知れ!』
拳が交差する。アッパーカットが空を切ると、カウンターのボディブローが突き刺さった。バックステップで衝撃を逃し、顔面へ手を伸ばす。それさえ軽くいなすと、逆のその手を掴まれた。
『おら…よォっ!』
『がはっ…!』
引き寄せ、腹に重い一撃。思わずうずくまったその顎に、爪先蹴りが炸裂した。
『ぐっ、ああぁぁぁっ!!?』
ファンタジーの体が天井近くまで吹き飛び…そして、床に墜落した。
『っ…く、そ…』
『ま、こんなもんだな』
仰向けに倒れるファンタジー。ドミネーターは、ドライバーからメモリを抜くと、腰のスロットに装填した。
『ドミネーター! マキシマムドライブ』
悠々と歩み寄る、その右足から、緑色のスパークが飛び散った。光と熱を放つその足を、大きく振り上げると…
『…あばよ』
『ぎゃああぁぁぁぁっっっ!!』
重い、あまりにも重いストンプが、彼の胸を踏み砕いた。装甲が爆ぜ、仮面が砕け、変身が解除される。
「…が、っ」
力尽きた徹。男も変身を解除すると、蜜屋のもとへと戻って行った。そのまま彼女と何か言葉を交わしているが、徹の耳には届かない。
「…!」
動けない彼の視界に、白いスーツが入ってきた。
「…」
「り、んか…」
攫われたはずのリンカが、無表情に彼を見下ろしている。幸い、傷は無さそうだ。かすれた声で、徹が訴える。
「にげろ…りん、か…にげ…」
「…」
彼女は何も言わず、彼の脇に屈み込むと…
……彼の腰から、ドライバーとメモリを外した。
「…え?」
「ご苦労さまでした、力野徹」
彼女はいつもの無感情な声で言うと、ドライバーとメモリを手に男の方へ歩み寄った。
「! だめ、だ…そっちは…」
しかしリンカは構わず、奪ったそれらのガジェットを、男に差し出した。
「『ガイキ』。事前の計画通り、ファンタジーメモリとロストドライバーを回収しました」
「おう、ご苦労」
ガイキと呼ばれた男は、興味無さそうに応えた。
リンカが、徹の方に向かって言う。
「財団Xによる、ガイアメモリ計画へのご協力、ありがとうございました。お陰様で、メモリ新造への道筋が立ちましたので、貴方との協力はここまでになります」
「ど…どういう…ことだ…」
「ミュージアムが崩壊し、T2計画も頓挫し、ガイアメモリ計画は長らく凍結となっていました。最初私たちは、破棄された計画の残滓が他の計画を邪魔することを危惧して、対象の組織を殲滅することを目的に動いていました。しかし、メモリの新造が可能となれば話は別です。組織の主導権を財団が奪還し、再び計画を始動することにしました」
「! じゃあ…あんたたち、これから」
リンカは目を細めた。
「…無軌道な暴力は殲滅します。メモリの力は、正しく理性的に用いられます。ご安心ください」
「待て…よ…!」
少しずつ、体力が戻ってきた。どうにか体を起こすと、徹は叫んだ。
「正しい、使い方なんてあるかよ…ガイアメモリは、この町からなくす…じゃないと」
「貸与していた、ドライバーとメモリは返却していただきます。命までは奪いません。貴方は…全て忘れて、明日から元の生活に戻りなさい」
「ふざけるな!! それで良いのかよ、あんたは…」
「帰って!」
「!?」
突然、リンカが声を張り上げた。はっとその顔を見ると、彼女の目元が小さく震えていた。
その少し後ろでは、ガイキと蜜屋が、じっと2人のやり取りを眺めていた。ガイキの手には、深緑色のメモリ。『良いならいつでも殺すぞ?』と言わんばかりに、とんとんとメモリを指で叩く。
「お願いだから…」
「リンカ…」
震える手を床に突き、力を振り絞って立ち上がる。そして、リンカに何か言葉をかけようとした時
彼の隣を、何かが猛スピードで駆け抜けた。
「!」
ピンク色の風が、リンカに向かって突進する。そして、絶叫しながら懇親の飛び蹴りを見舞った。
「貴女は…っ!」トゥルース
咄嗟に変身し、防御したリンカの腕に蹴りが突き刺さる。声を上げる間も無く、彼女の体は後ろの壁まで吹き飛ばされていった。
突然の闖入者は、徹を庇うように立ちはだかると、怒りに燃えた声で怒鳴った。
「…殺す。殺す、殺す、殺す殺す殺すっっっ!!!」
「ミヅキ…?」
ミヅキは、綺羅びやかなピンク色のメモリを掲げた。
「よくも…よくもあたしから、彼を奪っといて…ゴミクズみたいに、捨てたな! てめえらは殺す! ぐっちゃぐちゃにして殺す!!」
『ラビット』
しかし彼女は、それをコネクタに挿さず、更にもう一本のメモリを掲げた。
それを見た蜜屋とガイキの顔に、初めて動揺が浮かんだ。
「!? それは」
「おいおい、いつの間に完成してたのかよ…?」
七色の、サイケデリックな光を放つガイアメモリ。徹やガイキの所持する、仮面ライダーのメモリと同じ形状をしたそれには、もつれ合う2人の人間が『X』の字を形作っていた。
ミヅキが、徹を振り返った。
「ちょっと待っててね。こいつら殺して、それから一緒に帰ろ」
「待て、止めろ…」
ミヅキが、2本目のメモリのスイッチを押した。
『エクスタシー』
「っ…」
ミヅキの体が、一瞬、強張る。それでも彼女は両手でスカートの裾を掴むと、顔の高さまで大きく捲り上げた。
彼女の腿には、ラビットメモリのコネクタがある。しかし今、何も無かった方の腿にも、黒い生体コネクタが刻まれていた。
「はぁっ…はぁっ…っ」
スカートの裾を咥え、2本のメモリを振りかざす。
「エクス…タシィィィィッッッ!!」
『ラビット』『エクスタシー』
「っ、あっ…あ。ああっ…ああああああっっ!!」
メモリを挿した瞬間、その体がガクガクと震えだした。丸見えの白いショーツに、染みが広がり、震える太腿の間をびちゃびちゃと音を立てて滴り落ちた。
「ああっ、うっ、くあっ、あぁんっ…ああああっ…」
失禁しながら痙攣するミヅキ。その体を、ピンクと紫の光が包み…やがて、毒々しい紫の、兎の怪人へと姿を変えた。
「はぁ…っ…うああああああっっっ!!!!」
金切り声を上げたその瞬間、ラビットドーパントの姿が消えた。
「!? …ぐわっ!」
瞬きする間も無く、ガイキと蜜屋の体が吹き飛んだ。
ラビットは、壁際にうずくまるトゥルースドーパントに狙いを定めると、超高速で突進し、飛び蹴りを浴びせた。
「く、うぅっ…!」
「死ね! 死ね! 殺す!」
かざした杖が、蹴り折られる。ラビットドーパントは執拗に、何度も蹴り続ける。
「お前だけは…絶対殺す…!」
遂に倒れ伏したトゥルースドーパント。ラビットは空高く跳び上がると、トドメの一撃を見舞わんと、足を振り下ろし…
「…ぐっ…!」
しかし、それが敵の背中に突き刺さる前に、空中で飛び蹴りが彼女を襲った。
『コータめ、余計なことしやがって』
ラビットの前に着地したドミネーターが、舌打ちする。ラビットはすぐに立ち上がると、ドミネーターにキックを放った。
「殺す! お前も殺す! みんな殺す!!」
『おう、やってみろ!』
「止めろミヅキ! もう、止めてくれ…」
しかし、2人は戦いを止めない。目にも留まらぬ速さで飛来するキックを、ドミネーターは正確に防いでいく。
『甘い!』
ハイキックを片手で捕らえると、その足をぐいと捻った。ところがラビットドーパントはその場で跳躍すると、体ごと回転させ、その上自由な足でドミネーターの側頭部に回し蹴りを叩き込んだ。
『うぐっ…やるじゃねえか…!』
首をゴキゴキと鳴らし、拳を構え直す。
『どらぁっ!』
「ああああっ!」
ドミネーターが正拳を、ラビットが飛び蹴りを、それぞれ打ち込む。拳と足がぶつかり合い、火花が散った。
『らあっ! でえやっ!』
ボディブロー、アッパー、フック。今度はドミネーターの連撃がラビットを追い詰める。
「くっ、うっ、ああっ!」
突然、ラビットがその場に膝を突いた。
『はっ…楽しかったぜ…』
片足を大きく振り上げ、彼女の頭を踏み砕かんとする。が
「…っっっ!!」
『ぐぇっ!?』
無防備な腹に、ミサイルの如き頭突きが深々と突き刺さった。
「はぁっ…殺す…殺すぅっ!!」
倒れたドミネーターの胸を、強く踏みつける。トドメとばかりに、片足を振り上げたその時
「…ぐっ!?」
突然、彼女が胸を押さえて固まった。
見ると、その胸には巨大な棘が刺さっていた。
「何を遊んでいるの」
歩み寄ってきたのは、女王蜂。毒針の飛び出た右腕を、顔の前に掲げている。
「本当に。あなたは、最期まで出来の悪い生徒だったわね」
「ぐっ…あっ、があぁっ…」
悶え苦しむラビットドーパント。
拘束を脱したドミネーターが、舌打ちしながらメモリをドライバーから抜いた。
『けっ、ままならねえや』
メモリを、今度は右手のグローブにあるスロットに挿し、左の掌で叩く。
『ドミネーター! マキシマムドライブ』
右の掌を、苦しむラビットドーパントに向ける。すると、彼女の太腿から七色のメモリが抜け、彼の手に飛んでいった。
「! あぁっ…」
兎の体から紫色が抜け落ち、元の薄桃色に戻っていく。
ドミネーターが右手でメモリを握りしめると、メモリからスパークが弾けて、彼の手に吸い込まれていった。
『…ほう、まだ立つか。良いじゃねえか』
彼は、ゆっくりと彼女の方へ歩み寄った。
「! 止めろ…止めろ! もう…」
叫ぶ徹。
ドミネーターが、メモリを握った手を、腰溜めに構える。そして
『…でえぇやあぁぁっっっ!!!』
「ぎゃああぁぁあぁああぁっっっ……!!」
至近距離のパンチが、彼女の胸を貫いた。薄桃色の体が、何度も爆ぜた。毛が抜け、皮が剥がれ、耳が弾け飛んだ。
そして……そこにいたのは、血塗れで横たわる、小さな少女であった。
「ミヅキ…ミヅキ…?」
足を引きずって、徹が彼女の元へ駆け寄る。
「ミヅキ! おいミヅキ!!」
動かない彼女を、どうにか抱き起こす。
ミヅキが、薄く目を開けた。
「…仮面、ライダー…さん」
「ミヅキ、しっかりしろ! ミヅキ…」
彼女は、虚ろな目で彼の姿を認めると、血と一緒に言葉を零した。
「…あたしがいなくなったら…寂しい?」
「寂しいに決まってるだろ! だから死ぬな、しっかりしろ…っ!」
ミヅキは、弱々しく微笑んだ。
「そう。……よかっ、た…」
その、口元から。目元から。力が抜け…
「ミヅキ…ミヅキ! おい! ミヅキ…!!」
徹は、彼女の体を抱き上げると、よろよろと倉庫の出口を目指した。
「帰ろう…もう、休もう…」
ガイキは鼻を鳴らすと、蜜屋の肩を掴んで奥へと引っ込んでいった。リンカは、蹴られた腹を押さえながら、無表情に逃げていく2人を見つめていた。
「帰るぞ…一緒に…もう、これ以上…」
徹の腕の中で、ミヅキの体がどんどん軽くなっていく。
さらさらと音を立てて、彼女の体が崩れていく。___彼の腕から、落ちていく。
「嫌だ…ミヅキ…ああ…」
土砂降りの集積所。傷だらけの彼の腕に遺されたのは、ピンク色のガイアメモリだけだった。
「ああ…あぁ……ああああああああ…!!!」
殴りつけるような雨の中、ボロボロのメモリを胸に抱いて、徹は吠えるように泣き叫んだ。
『Dの闖入/砕けた命』完
今夜はここまで
乙
これミヅキはガチの退場なのかお母様に産み直してもらうのか
と言うか仮面ライダーじゃなくなった徹はこの先生きのこれるのか
『仮面ライダードミネーター』
『支配者』の記憶を内包するガイアメモリで、財団Xのエージェント・ガイキが変身した姿。深緑色の軍服めいたスーツに、黒い防弾ジャケットとブーツ、灰色のグローブを身に着けており、ガスマスクめいた複眼マスクの上から臙脂色のベレー帽を被っている。
エターナルメモリのように、他のガイアメモリを支配する能力を持っているが、変身態でその力が常に発揮されているわけではなく、マキシマムドライブの時にのみ行使することができる。しかし、能力を使わずとも純粋な身体強化だけで並大抵のドーパントを圧倒することができ、特に戦闘狂のガイキは強化された肉体による格闘戦の方を好む。
必殺技は、極限まで強化された脚力によるストンプ攻撃『ドミネーター・インフリンジ』と、相手のメモリを強制的に抜去し、メモリの力を吸収する『パーフェクト・ドミネーション』。後者は、吸収した力を相手に叩き込む二段攻撃も可能。但し、自分より適合率の高い相手からはメモリを奪うことができず、そもそもガイキ自身がこの技をあまり好まない。ミヅキに対して使用した時には、殆ど癒着と言っていいレベルで適合していたラビットメモリは奪えず、使ったばかりのエクスタシーメモリだけを奪う結果となった。
メモリの色は深緑。刃のような字で『D』と書かれている。
乙
ミヅキの退場悲しい…
これ途中の選択肢で先生の方を選んでいたら立場が逆になったのかな?
おおう……退場なのかどうなるのか
この状況からどうやって逆転できるのか
空気読まずにチートをぶん投げる
ゼニス・ドーパント
『頂点』の記憶を宿したガイアメモリで変身したドーパント
巨大な剣を携え、背にはマントをはためかせたヒロイックな容姿だが、色はベタ塗りの様な黒一色
他のメモリを使用すると、変身後は異形となる事が珍しいドーパント態においては逆に異質な勇ましい姿となっている
このメモリの何よりも特異な点は、『自分よりも格下のメモリからの干渉を受けない』事
A~Zのメモリ。即ちゼニスメモリ以外で変身したドーパント等の特殊な力はこのメモリには通用しない
メモリの能力頼みのドーパントや仮面ライダー等はそれだけで殺されたも同前であり、成す術なく薙ぎ倒される
本体の出力自体も他のメモリとは桁違いのパワーであり、ただ剣を奮うだけでも凄まじい驚異と成りうるだろう
正しく、ドーパントの頂点。並みの相手では足元にすら届かない天上のメモリ
まともに対抗できるのはメモリの中でも最高ランクのゴールドメモリの数々
もしくはこのメモリに左右されない力を持つ、ある『J』の記憶が宿ったメモリ。あるいは頂点に挑もうとする勇者……
メモリの色は金をも塗り潰すという意味で漆黒。下の道から伸びる階段。そしてその上に更に続く道で『Z』になっている
奇しくもこのメモリを超えうる力を持つと推測されるメモリの色も、また同じく黒である
イメージはラスボス手前の準ボスか最強フォームのサンドバッグ
正直盛りすぎた感が否めないのでもし使用される際に適宜デチューンしてくださるとありがたいです
思いついちゃたので投稿
ゼノ(XENO)メモリ
『異端』の記憶を宿したガイアメモリで、単独ではなく別のガイアメモリと組み合わせて使うのが前提のメモリ
このメモリの特徴的なのは単純に他のメモリを強化するのではなく、メモリに本来想定されていない『異端』な力を使用可能にさせるという点。
例えば『熱さ』を内包するヒートメモリと同時に使用すると、『零度以下』の『熱さ』……つまり冷気の力も使用させられる。(ある意味拡大解釈に近いかも?)
当然、本来想定されていない力を引き出すので同時使用したメモリには相当負荷をかけるため1回で壊れる可能性も高く、下手をしたらメモリの毒素で使用者が廃人になる可能性もある。
『エクスタシーメモリ』
『絶頂』の記憶を内包する、母神教によって造られた新造の次世代型ガイアメモリ。エクストリームに継ぐ、第二の『X』のメモリ。
単独で使用すると、たった1回で脳を完全に破壊し、廃人となってしまうほどの快感を与える。そのため、エクスタシードーパントというものは存在しない。しかし、一部のメモリと組み合わせて使うことで、能力を大幅に向上させることができる。特に、死ぬまで発情期の続く『ラビット』や、性欲の対象となりやすい『アイドル』、そのまま『ラースト(性欲)』などとの相性が良い。
しかし、それすらも副産物でしかなく、母神教の首魁がこのメモリを造らせた目的は、もっと別にあるようだ。
メモリの色はサイケデリックな虹色。絡み合って身悶えする男女が『X』の字を形作っている。
ちなみに、エクスタシーの綴りは本来"ecstasy"であるが、このメモリでは"Xtasy"となっている。
ハーピィレディだ(遊戯王並感)
悲しきエクストリーム枠かぁ……
気が付くと彼は、警察に保護されて病院にいた。
「…」
「力野さん…何があったか、そろそろ教えてくれないか」
呆然とベッドに横たわる徹に、植木が話しかけた。
「…」
「なあ…それにリンカさんは、どうしたんだ?」
「! …」
徹が、虚ろな目で植木を見た。それから、ぽつりと言った。
「…不器用な奴」
「はぁ?」
「あんな顔するくらいなら…最初から、裏切らなきゃ良いのに…それか、さっさと俺のことなんて、捨てちまえば良かったんだ…」
「…まさか、彼女が裏切ったのか」
「…」
徹は何も言わず、頭まで布団を被ってうずくまってしまった。
一体、どれほどの時間こうしていただろう。枕元に忍び寄る足音に、徹は目を覚ました。
傷の痛みに耐えながら、枕元の電灯を点ける。
「…!」
「こんばんは、仮面ライダーさん」
そこに立っていたのは、友長真澄…もとい、成瀬ヨシノ。即ち、母神教の首魁、『お母様』その人であった。
「何で、あんたがここに」
「愛しい子の、お顔を見に」
「…」
徹は体を起こし、ベッドの縁に座った。
「…今のあんたは? 『友長真澄』か? それとも『お母様』か?」
「その二つに、違いはありません。揺らぐことも」
「じゃあ、今も変わらず『お母様』なんだな? …」
年を押した上で、徹は尋ねた。
「…蜜屋を見張ってたな。部下なのに、信用してなかったのか」
「子を心配するのは、母の常です」
そう言うと成瀬は、徹の手を掴んで立たせた。
その背中から、白い光が溢れ出す。
「おい…何をする気だ」
「帰りましょう、愛しい子。…母は今、深い悲しみを感じています」
「ミヅキが、死んだからか」
「…」
光が、成瀬と徹を包み込む。
やがて2人は、真っ白な空間に佇んでいた。
「ここは…」
「母の、記憶の世界です」
成瀬がそう言うと、どこからともなく無数の本棚が出現し、2人を取り囲んだ。
「! まさか、ここは」
「母は、全ての母ですから…全て、知っているのですよ」
本棚がするするとスライドし、遠ざかっていく。その中で、一つの本棚が2人の前に移動してきた
。大きな本棚には、たった一冊だけ本が置かれていた。
「もちろん、あなたのことも」
「これは…」
手に取ると、革張りの表紙には『力野徹』と書かれていた。
ぱらぱらと捲ると、そこに記されていたのは、彼が今まで歩んできた人生。あるページで、紙を捲る手が止まった。
「…」
炎上する高層ビル。溶解するコンクリート。誰かに引きずられながら伸ばした手の先で…両親が、マグマの下に消えた。
「…風都…超常犯罪…」
仮面ライダーは、彼を、彼の両親を、救ってはくれなかった。当時高校生だった彼は、その時から明確に、風都を憎むようになったのだ。
「…」
本を閉じ、棚に戻す。
いつの間にか白い空間は消え、徹と成瀬は、薄暗い祭壇の前に立っていた。
「…ここが、母神教の本拠地か」
「ようこそ、母の家へ」
成瀬は、両腕を広げて歓迎のジェスチャーをしてみせた。
徹は動かず、また質問した。
「何故、俺をここに連れてきた?」
「病院で寝ているより、ここで待っていれば、あなたの求めるものが来てくれるのでは?」
「!!」
徹は、はっとなった。
財団Xが、ガイアメモリの新造能力を求めているとしたら、邪魔な仮面ライダーを排除した後に来るのは、その能力を持つ『お母様』の所に違いなかった。
徹が何か言いかけたその時、成瀬が突然、自分の着ているシャツのボタンを外し始めた。
「!? 何を」
シャツの前をはだけると、黒いブラジャーのフロントホックを外した。細い体に不釣り合いなほどに豊満な乳房が露わになり、徹は思わず目を逸しかけた。
しかし、逸らせなかったのは、大きく膨らんだ胸の谷間に、黒い生体コネクターがくっきりと刻まれていたからだった。
成瀬が、両手を胸元にあてがった。
「っ、く…ぅぅっ…!」
徹は最初、メモリを挿すところを見せるのかと思った。しかし、実際はその逆であった。
歯を食いしばる成瀬。そのコネクタから、金色のメモリがゆっくりと顔を出した。
「!」
「くっ…ああぁっ…!」
苦しげな声を上げながら、メモリを引き抜くと、成瀬はそれを徹に差し出した。
「これは…」
金色の筐体。リンカのそれと同じ、ゴールドメモリである。そこに描かれているのは、1人の赤子の絵であった。
「…いや、これは」
よく見ると、その赤子は2本の腕に抱かれている。両腕に抱いた赤子を、母親の視点から見た絵なのだと、徹は察した。そして、赤子を抱く2本の腕は、『M』の字に組まれていた。
「母神教の首魁が所持するメモリ、その名称は『マザー』です」
「電話でも聞いたが、まんまだな」
ソファに深々と沈みながら、ガイキが欠伸混じりに返した。
「ミュージアム最初期に造られたにも関わらず、現在に至るまで放置されてきたゴールドメモリです。人間の遺伝子を体内に取り込むことで、胎内でクローンを育成し、出産するなどの能力を持ちます」
「うわキモ。…そいつが何で、地球の本棚にアクセスする権限を持ってやがる?」
「神話の神々にも、母親は存在します。特に、ギリシャ神話の主神ゼウスの母は、地母神ガイアです」
「クレイドールエクストリームがヒトと地球を繋ぐ巫女なら、マザードーパントは地球そのものってわけか。……こじつけにも程があるぜ」
「無論、ただの使用者がその領域に到達することは不可能です。成瀬ヨシノとマザーメモリの適合率は、99.9%以上……或いは、100%かも知れません。抜去はほぼ不可能でしょう。メモリブレイクは、成瀬の死を意味します」
「しねえしねえ。要は生かしたまま、言うこと聞かせりゃ良いんだろ?」
ガイキが言ったその時、1人の少年が割り込んできた。
「ガイキさん、準備ができました」
「あいよ」
彼はソファから立ち上がると、リンカの肩を叩いた。
「おら、行くぞ」
「…はい」
リンカは、小さく頷いた。
部屋を出て、少年に続いて廊下を進むと、正方形の広い部屋に出た。白いリノリウムの床には、囲碁や将棋の盤面めいて、黒い線が等間隔に引かれている。
よく見ると、その赤子は2本の腕に抱かれている。両腕に抱いた赤子を、母親の視点から見た絵なのだと、徹は察した。そして、赤子を抱く2本の腕は、『M』の字に組まれていた。
「母神教の首魁が所持するメモリ、その名称は『マザー』です」
「電話でも聞いたが、まんまだな」
ソファに深々と沈みながら、ガイキが欠伸混じりに返した。
「ミュージアム最初期に造られたにも関わらず、現在に至るまで放置されてきたゴールドメモリです。人間の遺伝子を体内に取り込むことで、胎内でクローンを育成し、出産するなどの能力を持ちます」
「うわキモ。…そいつが何で、地球の本棚にアクセスする権限を持ってやがる?」
「神話の神々にも、母親は存在します。特に、ギリシャ神話の主神ゼウスの母は、地母神ガイアです」
「クレイドールエクストリームがヒトと地球を繋ぐ巫女なら、マザードーパントは地球そのものってわけか。……こじつけにも程があるぜ」
「無論、ただの使用者がその領域に到達することは不可能です。成瀬ヨシノとマザーメモリの適合率は、99.9%以上……或いは、100%かも知れません。抜去はほぼ不可能でしょう。メモリブレイクは、成瀬の死を意味します」
「しねえしねえ。要は生かしたまま、言うこと聞かせりゃ良いんだろ?」
ガイキが言ったその時、1人の少年が割り込んできた。
「ガイキさん、準備ができました」
「あいよ」
彼はソファから立ち上がると、リンカの肩を叩いた。
「おら、行くぞ」
「…はい」
リンカは、小さく頷いた。
部屋を出て、少年に続いて廊下を進むと、正方形の広い部屋に出た。白いリノリウムの床には、囲碁や将棋の盤面めいて、黒い線が等間隔に引かれている。
その部屋の中心に立つと、少年は一本のガイアメモリを取り出した。
『ゾーン』
少年の体が、小さな黒いピラミッドめいた形状になり、宙へと浮かび上がる。
次の瞬間、白い床からホログラムのように、建物や道路の小さな映像が現れた。それはよく見ると、北風町の全体図を精巧に投影したものであった。
「…俺は止めねえぜ」
突然、ガイキが口を開いた。
「何がですか」
「とぼけるなよ。…未練たっぷりなんだろ? あいつに」
「…」
リンカは、何も言わない。
彼らの足元で、ある一件の建物が点滅し始めた。それは、母神教の本部であった。
「では、転送します…!」
頭上で、黒いピラミッドが宣言した。
と、瞬く間に2人の体が、点滅する建物の映像に吸い込まれて、消えた。
今夜はここまで
ゆるくない募
>>351みたいなオーパーツ系のメモリ
今週末は更新できなそう
ストーンヘンジ・ドーパント
「ストーンヘンジ」の記憶を持つメモリの力で変身するドーパント
身体は直立巨石に手足が生えているだけなので一見弱そうに見える
ストーンヘンジの成り立ちには諸説あるが、古代の天文観測所という見解を強く発揮しており、空の見えるところで夜には星座の力を借りる強力な力を持つ
例えば射手座が出ているときにはボウガンの様な強力な射撃部気がしようで着たり、蛇つかい座が出ているときにはエナジーの蛇を扱ったりすることもできる。
なら、昼に戦えばいいのかというとそんな単純な話でなく、太陽礼拝の意味もあったという話による記憶から太陽の力を一部使うことが出来たりもする。
ゾディアーツではない。
お疲れやで……
ピラー・ドーパント
『柱』、なかでも錆びない鉄柱のオーパーツとして知られる『アショカ・ピラー』の記憶を内包するメモリの力で変身する。
黒鉄色のメモリで、パルテノン神殿のような柱の意匠がPの字を描いている。
ドーパント体も黒鉄の、胴体にあたる一本と、両腕の位置に浮翌遊する二本の合計三本の鉄柱になる。
ドーパント状態で胴体部は地面に刺さり全く移動することはできないが、折れず、錆びず、敵からの干渉をほとんど受けない
両腕の二本の鉄柱は、蛇神ヴァースキを貫いているとする伝説にちなんで、槍やパイルのように射出でき、固定砲台として機能する。
ヴィマーナ・ドーパント
神々の持つ空飛ぶ戦車『ヴィマーナ』の記憶を内包したドーパント
戦車、車、飛行機、宮殿等の諸説あるが、このメモリでは主に空中戦車としての面が強い
ドーパント体は非常に巨体であり、数十人乗り込んでもまだ余裕がある程頑強。そしてどれだけ無理な旋回をしても振り落とされない
火炎と水流を放射する攻撃を得意とし、上空からの空爆だけで甚大な被害を巻き起こす
メモリの色は火を表すオレンジ。戦闘機が空気をかき分け、そのかき分けた衝撃がVの字となっている
ネブラを採用するにあたって、相方が欲しいんだ
ネタバレすると、変身者は若い女
現時点ではヴォイニッチが浮かんでる
ヴォイニッチで良いと思うけど・・・案を置く
モナリザ・ドーパント
「モナリザ」の記憶で変身するドーパント
見た目は長髪の聖母の様な女性で杖を所持している
モナリザ・・・ガレリオのモナリザには不思議な点がある。それは恐竜らしきものが描かれているということだ。あの時代にどのようにして恐竜を知ることが出来たのか・・・謎に包まれている
その為かこのドーパントも恐竜態に変身することが出来る
ゆるくなくモチーフ指定したらめっちゃ集まってて草
(PC無いから更新できないけど、集まったアイデアを見ると書くのが楽しみになる)
(ストーリー展開まで安価したスレを今まで散々エタらせてきたけど、このくらいの安価でも自分の思いもよらない展開に繋がって楽しい)
そういや今までどれだけ採用されたんだっけ
もう7~8くらい採用されてる?
>>403
カートゥーン
ファンタジー
アイドル
オーケストラ(提案時バンド)
クエスト
リインカーネーション
セイバー
トゥルース、ティーチャー
ワイルド
名前募集のもの含めてこれくらい採用されてるかな。漏れてたら失敬
次の瞬間、2人は薄暗い聖堂の真ん中に立っていた。祭壇のあるべき部屋の前方には、分厚い虹色のヴェールがかかっている。そこから、一つの人影が透けて見えた。
”待っていましたよ、子どもたち”
「財団Xです。アポイントも取らずに申し訳ありません。私たちは、貴女がたと取引を」
「よお、お母様とやら!」
ガイキが、大声で割り込んだ。
「俺たちに従え。さもなきゃ殺す」
”…”
あまりに乱暴な言い方に、ヴェールの向こうの人影は絶句し、リンカは溜め息を吐いた。
”…母は、あなた方を愛したい”
「好きにしろよ。だが、俺たちの言うことには従ってもらう」
「現時点で、私たちの利害は衝突しないと考えています。どうでしょうか。…貴女が、ガイアメモリをこの町に広げる理由を、聞かせていただけますか」
リンカの問いかけに、人影がゆらりと動いた。
”母は、全てを愛しています。全ての母であるが故に。ですが…”
「何か問題が?」
”子は多く、母は独り。全てを愛しても、それは伝わり難い…現にミヅキは、誰よりも愛を求めていたのに、母はそれに応えられなかった…”
「挙げ句、仮面ライダーとやらに寝取られちまったな。ははっ!」
”まさか。兄妹が睦み合うことを嫌う母がいましょうか”
「…」
ガイキは、うんざりした顔でリンカを見た。
「…それで? 結論は」
”ガイアメモリは、母の知恵。一度でも触れたものは皆、母の腕の中。腕の中で……一つになる”
「なるほど、そりゃあ良い」
ようやくガイキが頷いた。
「目指すところは大体一緒だな。よし、交渉成立……っぐ!?」
「っ!」
手を叩こうとしたその時、彼が呻き声を上げた。一拍遅れて、リンカがその場に膝を突いた。
「もちろん、君たち2人も一緒だよ」
「こ、の、野郎…」
振り返ると、そこにはシロツメクサの冠を被った、天使のような少年が立っていた。その手には、四つ葉のクローバーを模した重いメイス。
「『お母様』は必要だが、テメエはぶっ殺す…」ドミネーター!
「…やむを得ません」トゥルース
”ユウダイ。程々に、ですよ”
「はい、お母様」
ヴェールが開き、中からマリア像めいた白い女のドーパントが姿を現した。ドミネーターとトゥルースドーパントは、拳や杖を構えてそれらと向き合った。
『…ケッ』
「っ…」
肩で息しながら、舌打ちするドミネーター。その隣でトゥルースドーパントも、深呼吸を繰り返す。
”気負うことはありません、我が子たち。母に委ねなさい”
ゆっくりと祭壇を降り、2人に歩み寄るマザードーパント。彼女は2人を交互に見て、それから何か言おうとして……おもむろに、後ろを振り返った。
「!」
「! お前は…!」
そこには、右手の毒針を構え、今まさに主の背中に突き立てんとしていた、クイーンビードーパントがいた。
”母に、その毒を向けますか”
「…」
奇襲を見破られ、狼狽する女王蜂。いきり立つクローバードーパントを制すると、マザードーパントは、一言、呼びかけた。
”…『蜜屋先生』”
「!! その声、まさかあなたは」
白い光が、マザードーパントの体を包む。光が収まった時、そこに立っていたのは、ブラウスに白衣を纏った、自身の塾の専従医であった。
「友長…先生……ああ…」
女王蜂は呆然と呻くと…突然、ヒステリックな声で叫んだ。
「あああっ! あと少し、もう少しだったのに!! 誰も、誰にも私は…」
叫びながら、腕を振り上げ、そして突き出した。
「やめろ、このっ…!」
クローバーが駆け出すが、ドミネーターに阻まれる。
”…っ”
「はぁっ…はぁっ…」
女の胸に、猛毒の針が深々と突き刺さる。
女王蜂が腕を引くと、女が崩れ落ちた。
「お母様!!」
”案ずることは…あなたが、求めるなら…母、は…”
「…マザードーパントを確保しました」
倒れた女を、変身を解除したリンカが拘束した。ドミネーターもクローバーに致命のストンプを見舞い、意識を奪う。
「よし、撤収だ」
メモリを抜きながら、ガイキが宣言した。
「…ええ」
3人と1人で、聖堂の出口に向かった、その時。
「…熊笹が、死んだ」
「!?」
リンカが息を呑んだ。
「朝塚芳花も死んだ。顔も知らないドーパントを、何人も殺した」
たどたどしい足音。ガイキが、ニヤリと嗤った。
「へぇ、まだ来やがるか」
「ミヅキが…死んだ…!」
聖堂に現れた、もう一つの影。汗の滲んだ病衣を着て、全身に包帯やガーゼを当てた、傷だらけの男。
「俺は!」
男が…力野徹が、叫んだ。そして、右手を振りかざした。
「お前らを止める! 命に代えても!!」
その手に握られているものを見て、リンカが叫んだ。
「駄目!! それだけは」
病衣の前を開ける。青紫の痣が広がる胸の真ん中には、黒いコネクターが刻まれていた。
そして、右手に掴んだ最後の武器。装飾は剥がれ、筐体にはヒビが入った、ボロボロのメモリ。蝋燭の光に照らされて、鈍いピンクの光を放っている。
「済まない、ミヅキ。もう少しだけ…身勝手な大人に、付き合ってくれ」
『ラビット』
『逆襲のF/命に代えても』完
今夜はここまで
乙、これはミヅキ正ヒロインですわ
ウサギでファンタジーというと、最強フォームは不思議の国のアリスフォーム?
ところでマスカレイドとか見るに同じメモリなら誰が変身しても見た目は同じになるっぽい?
なら徹は腰から尻にかけて肉付きがいい女性的な見た目のバニーおっさんに……?
「うおおおおおおっ!!」
「やめて!!」
駆け寄ろうとしたリンカの前に、銀色の影が立ちはだかった。
「メモコーン…!?」
徹の胸に、ピンク色のガイアメモリが突き立てられた。その体が、黒い霧に覆われていく。
「っ、おおおっ…ああっ、くああああっっっ!!!」
絶叫する徹。傷だらけの体が、黒い外骨格に覆われる。禍々しい外殻は、更に鮮紅色の体毛に覆われ、辛うじて歪んだ獣の形へ変わっていく。
やがて、彼は赤と黒の、兎の魔物となった。
「はぁっ…はぁっ…おおおおおっっ!!」
徹が…ラビットドーパントが、駆け出した。
「! 来い」ドミネーター
『おらあっ!』
「らあぁぁぁっ!!」
飛び回し蹴りを腕で受けると、ドミネーターが拳で応戦した。更に、メモコーンが鋭い角で、ドミネーターの動きを妨害する。
「そんな…あのメモリを使って、それでも戦うというの…?」
二人の戦いに取り残されたリンカが、呆然と呟いた。
「あれは…兎ノ原美月の内臓を、そのまま移植するようなものなのに」
「はああっ!」
『ふんっ!』
方やキック、方やパンチで、互いを傷付け合うドミネーターとラビットドーパント。力量は明らかにドミネーターが上。しかし、メモコーンの補助で互角に渡り合っている。
ところが、そのメモコーンが、おもむろにラビットを離れた。
「っく、邪魔を…!」
彼が突撃したのは、クイーンビードーパント。いつの間にラビットの背後の周り、毒針を撃ち込まんとしていた。
しかし、その隙をドミネーターは見逃さない。
『貰ったぁ!』
「ぐっ、はっ…」
腹部にワンツーパンチを叩き込まれ、膝を突くラビット。
ドミネーターが、メモリを右手のグローブに装填する。
『悪いが、今はお仕事中なんだよ。さっさと片付けさせてもらう』ドミネーター! マキシマムドライブ
「っ、ぐ、ああっ、あああぁっ…」
悶え苦しむラビットドーパント。その胸からピンクのメモリが引き抜かれ、ドミネーターの右手へと飛んでいく。
それを握りしめると、メモリから緑のスパークを吸収しながら、拳を振りかざす。
『作り主に楯突くんじゃ……ねぇっっっ!!!』
「メモコーン!!?」
突進してくるメモコーンに、渾身の一撃を見舞う。スパークを纏った拳が頭を直撃し、メモコーンが粉々に砕け散った。
そして…
「あ…あっ、ぁ…」
ドミネーターの手の中で、メモリが砕け、床へと落ちていく。
ラビットドーパントの外装が崩れ、消滅していく。
「…」
冷たい床に、徹が倒れ伏した。
「…」
『…ま、計画に影響は無え。帰るぞ、リンカ、先生』
倒れて動かない徹を捨てて、出口へと向かうドミネーター。ところが
「…」
『…何のつもりだ』
今度は、リンカ。去ろうとする彼の前に、立ちはだかる。
「彼が、最後まで命を賭けるのならば…私はもはや、それを踏みにじることはできません」
『へえ』
やっぱりな、そう言わんばかりにドミネーターが鼻を鳴らす。
『一応、お作法として言っておくぜ。……財団を、裏切る気か』
「これは、裏切りではありません」
『ほう?』
リンカはスーツの懐に手を入れると、何かをドミネーターの足元に投げつけた。
それは、『辞表』と書かれた白い封筒であった。
「何故なら、私は今この時を以て、財団Xを退職するからです。そう…」
黄金のメモリと、ガイアドライバーを掲げ、毅然と宣言する。
「…寿退社です」トゥルース
今夜はここまで
正ヒロインはあくまでリンカです(断固たる意思)
『おらおらぁっ! どうしたぁっ!』
「く、あっ…!」
壁に叩きつけられ、崩れ落ちるトゥルースドーパント。拳を突き出したドミネーターの足元には、無数の羽が突き刺さったクイーンビーが倒れている。
ドミネーターと交戦するより先に、彼女は迅速にクイーンビーを無力化した。この女王蜂の不意打ちを、間近に何度も見てきたからだ。
果たして、それ自体は成功したものの、その程度でドミネーターの優位が揺らぐことなど無かった。
『足掻けよ、人間!』
髪を掴んで立たせると、腹に膝を打ち込む。前のめりになったその首を掴むと、ぐいと吊り上げた。
「ぐっ、くぅっ…」
『コトブキ退社だか何だか知らねえが、宣ったからにはやってみせろよ』
「っ…く…」
ぎりぎりと首を締め上げるドミネーター。その腕を掴む彼女の手から、力が抜けていく。
『…何だよ、呆気ねえ』
ドミネーターが舌打ちする。彼は片手を拳に固めると、言った。
『兄弟たちによろしくな。…あばよ』
「…」
爆音。打撃音。怒声。
「…」
崩れる音。砕ける音。倒れる音。
「…っ」
違う。
「…こんな」
こんなものは、求めてない。
「俺が…」
夢見たのは。願ったのは。
「俺たち、が…」
妄想か? 空想なのか?
_____違う!
「…守る、この、町を……っ!」
この想いは。この、願いは。
「……真実だっ!!」
『!?』
「…!」
突然、トゥルースドーパントの体が金色に光った。ドミネーターが咄嗟に手を離すと、彼女の体は眩い光を放ちながら、倒れ伏す徹の元へ、ゆっくりと滑っていった。
「はぁっ…くっ、はあっ…!」
「徹…」
金色のガイアメモリが独りでに抜け、彼女の手に戻った。
徹はよろよろと立ち上がると、彼女に向かって手を差し伸べた。
「リンカ…」
「…ええ」
リンカは頷くと、懐からロストドライバーと、ファンタジーメモリを取り出し、その手に握らせた。
次の瞬間
「っ!」
「!!」
二人の手の中で、ドライバーが金と銀の閃光を放った。それだけではない。リンカの腰に巻かれたガイアドライバーまでもが、金と銀に輝き始めた。
そして、光が収まった時…
「これは…」
「メモリのスロットが…増えた?」
空白だったドライバーの左側に、新たなスロットが追加されていた。しかも、リンカのガイアドライバーもまた、それと同じものに姿を変えていた。
リンカの左手に握られたガイアメモリの外装が、融けるように剥がれ落ちた。その中から現れたのは、同じ黄金の、真実のメモリ。___仮面ライダーの、メモリ。
「…リンカ」
徹は、リンカの目を真っ直ぐに見た。
「俺の空想に…俺の、夢に。……付き合ってくれるか」
「もちろんです」
リンカは、頷いた。ぎこちなく笑んだその頬を、一筋の涙が伝った。
「貴方の願い。いえ、私たちの願い。夢から、真実にしましょう」
徹はドライバーを装着すると、リンカの左側に立った。そして、それぞれのメモリを掲げた。
『トゥルース』『ファンタジー』
「「変身!!」」
リンカが、ドライバーの右のスロットに、金のメモリを装填した。挿し込まれたメモリはデータの光となって消え、徹の装着するドライバーの右側に出現した。
それを掌で押し込むと、徹は銀のメモリを左のスロットに装填した。そして、2本のスロットを、両手で左右に展開した。
『トゥルース』『ファンタジー』
徹の体が、黒い外骨格に覆われていく。それは、騎士の鎧の下に秘められた、禍々しい魔物の姿であった。
しかし、それが動き出すより先に、黄金の鳥のような獣が飛来し、その翼で後ろから彼を包み込んだ。翼は鎧となり、仮面となった。また、徹の体からも銀色の光が浮かび上がり、噛み合うように彼の装甲を形成した。
『…』
金と銀の騎士。彼は、ゆっくりと顔を上げると……ふと、自分の右側に目を遣った。
『…リンカ? あれ? リンカ、どこ行った?』
”ここです”
『えっ!? いや、ここって』
”貴方の中です。…どうやら、私たちは2人で、1人の仮面ライダーを形成しているようです”
『ふ、2人で…? そんなのアリかよ!?』
”こうして有るのだからアリです。そんなことより、今は”
『!』
はっと、前に目を向ける。
腕組しながら律儀に待っていたと思しきドミネーターは、やれやれと言った様子で腕を解いた。
『…終わったか?』
『ああ。…今度こそ、お前を倒す!!』
『上等だ。…おらあっ!』
ドミネーターが突進し、正拳突きを見舞う。ところが
『っ、硬ぇっ…』
『くっ…効かねえっ!』
その腕を掴み、引き寄せてから顔面を殴りつけた。
『ぐわああぁっ!?』
一撃で吹き飛ばされ、壁に激突するドミネーター。
ファンタジーは追撃せず、破壊されたメモコーンに片手をかざした。
すると、ばらばらになったメモコーンの破片と、砕け散ったラビットメモリが一所に集まり、元通りの一角獣の形に戻った。
更に、もう片方の手をかざすと、金と銀の大剣が出現した。
『メモコーン!』
復活したメモコーンが、彼の手元までジャンプした。それをキャッチすると、頭部から青いメモリを取り出した。
メモリを大剣の鍔に挿し込み、変形させる。
『セイバー! マキシマムドライブ』
高く掲げた剣から、黄金の光刃が伸びた。そして、それを…真っ直ぐに、振り下ろした。
『セイバー…トゥルーカリバー!!』
『ぐわぁぁぁぁぁっっっ!!?』
聖堂の天井ごと、刃がドミネーターを切り裂く。
叫び声とともにドミネーターの体が爆炎に包まれ…そして、クイーンビー諸共mどこへともなく消えた。
『逆襲のF/夢を真実に』完
今夜はここまで
『ラビットドーパント・ヴォーパル』
ミヅキの遺したラビットメモリで、力野徹が変身した姿。外観はファンタジーの素体から、鮮紅色の毛が生え、頭部には鋭い耳が伸びている。元のラビットドーパント同様、蹴り技を主体とした戦闘を行うが、徹の戦闘経験のため拳も使うことがある。
このラビットメモリは、ミヅキが長期間に渡って頻回に使用したものであり、もはや彼女の体の一部と言って良いほどに適合していた。このメモリを彼女以外の人間が使うことは、彼女の臓器を特別な処置なしにそのまま移植するようなものであり、普通ならば挿入した瞬間に凄まじい拒絶反応で死に至る。ガイアドライバーで毒性を軽減し、体の外ぎりぎりに留めていたリンカでさえ、人格に変調を来し、体調を崩すことになった。
それでも徹がこのメモリを使用して生存し、あまつさえ戦闘を行うことができたのは、彼の体に残ったファンタジーメモリの因子が彼を守ったこと、そしてラビットメモリに遺されたミヅキの最期の意思が、彼の体を受け入れたからであった。
しかし、それでも急ごしらえの戦闘態であることには変わりなく、熟練の戦士であるドミネーターの前では無力であった。パーフェクト・ドミネーションによってメモリを強制的に抜去され、メモリブレイクされることとなった。
というわけで、>>288の正解は『ダブルドライバー化してリンカと融合』でした
高適合ファンタジーの理想を現実にする力が久々に活かされた形になる
マニュアルドーパント
manualメモリで変身するドーパント。
物の正しい扱い方を発見して教える能力を持ち、本来なら非戦闘型で見た目も白衣にだて眼鏡、そしてマスカレイドそっくりである。物にはガイアメモリも該当しており、新参者だろうと半ば発狂してようとすぐに力の扱い方を伝授させることが可能。何を優先させて教え込むかも決められる。
ギジメモリ、ドライバー等も扱い方を即時発見して使いこなせる。暗証番号等でロックされた道具に関してはさすがに時間かかる。また、地球の本棚等の自分の手に余るものに対しても扱い方を理解でき、実践はできずとも他人に教えることができる。
このmanualメモリ自体も最初は変身用ではなく、ガイアメモリ製造を効率良くする為の中継装置だった
■戦術例
ドーパントに触れて能力や身体の扱い方を即座に教え、戦わせる。初陣マスカレイドでもアクロバティックな動きが可能になり、集団戦術で撹乱などの高度な戦術を叩き込ませることも可能。
マニュアルドーパント自体に戦闘向けな特殊能力はないが、体術や武器の心得、サバイバル術等を自分に教え込むことでマニュアル通りにこなせる。更に変身解除しても知識と経験は残るので、毒素に汚染されるリスクを減らせることも可能。また、元々非戦闘用なので肉体よりも精神へ毒素が回りやすいが、脳の扱い方つまり考え方を調べてしまえば解決できてしまう。なおメモリブレイクされても教え込んだ知識と経験は消えない
「この度は、大変ご迷惑をおかけしました」
徹と植木の前で、リンカは深々と頭を下げた。
「そんな顔するなよ。あんただって、やりたくてやってたわけじゃないんだろ?」
「ですが、貴方にあそこまでの無理を強いる結果となったのは事実です」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ」
植木が口を挟んだ。
「私にはまだ、事態がよく呑み込めてないんだ。…リンカさんが、一度は力野さんを裏切った。でも戻ってきた、そういうことで良いのか?」
「やや語弊があります。元々私は、彼を一方的に利用し、役割を終えた後は切り捨てる予定でいました。しかし、彼と行動を共にする内に、私の心境が変化しました」
「まあ、色々あったんですよ。色々」
強引に徹が纏めようとするので、植木は「ううむ」と唸った。
「とにかく…今は、信用して良いのか?」
「はい」
リンカが頷く。
「…そうか。それなら良い」
植木は、ソファから立ち上がった。そうして、応接室を出ようとした。
「どちらへ?」
「あっ、伝えてなかったかな。…力野さんが病院から消えた頃に、井野が目を覚ましたんだ」
「!!」
徹とリンカは思わず立ち上がった。
井野定は、元は普通の会社員であった。しかし、就職したばかりの妹が過重労働に耐えかねて自殺したことで、彼女を死に追いやった会社に復讐すべくガイアメモリに手を出し、大惨劇を引き起こした。その過程で彼は、母神教の中枢に触れたらしい。今まで捕らえてきた犯罪者の中でも、特に重要な人物であった。
「彼は、今どこに」
「まだ集中治療室だ。どうする? もう彼はメモリを持っていないが、付いてくるか?」
「…行きましょう」
リンカが言う。徹も頷いた。
警察病院の集中治療室には、物々しい警備体制が敷かれていた。井野を始め、ガイアメモリ犯罪者たちが数人入院しているのもあるが、一番の原因は最奥の個室に寝かされた、1人の新患にある。
母神教本部にて、クイーンビードーパントの毒針を受け、瀕死のマザードーパント・成瀬ヨシノ。ガイキを撃退した2人は、共に倒されたクローバードーパント・朝塚ユウダイと一緒に、彼女もこの病院に連れてきたのであった。
しかし、徹たちの今の目的は彼女ではない。スタッフステーション近くのベッドに近寄ると、先に来て待っていた坂間が植木に敬礼した。
「…やあ」
「…」
数本の点滴に繋がれた井野は、ベッドの上で体を起こしたまま、険しい顔で自分の手元を見つめていた。
「井野定さん、ですね?」
徹が、声をかけた。
「…ああ」
掠れた声で、井野は肯定した。
「貴方は…母神教の本部で、その教祖と会いましたね」
「…」
彼は、肯定も否定もせず、逆に聞き返した。
「…おれは、死刑になるのか」
「…」
徹は、植木の方をちらりと見た。植木は、硬い声で答えた。
「…それは、我々が決めることじゃない。然るべき裁判で決めることだ」
「…」
井野は、再び口を閉ざしてしまった。
3人は顔を見合わせると、その場を離れ、成瀬の方へ向かうことにした。
「今となっては、彼の証言はさほど重要ではありません」
一番奥の個室に向かいながら、リンカが小声で言った。
「私たちは既に、『お母様』の正体、およびその能力について把握しています。何より、この先にその『お母様』自身を確保しています」
「だけど、それはあくまでカタログスペックの話だろ?」
徹が反論した。
「そいつを友長、じゃない成瀬が、どんな風に使うのかは知っておきたい。それこそ、どうやって相手の心を捉えるのかとか、どうやって自分を『お母様』と呼ばせるまでに洗脳するのか、とか」
「…」
考え込むリンカ。植木は、ふと立ち止まって口を開いた。
「…どうする。ある程度分かるまでは、接触は控えておくか?」
「…確かに。今のところは、念の為そうしておきましょう」
リンカは頷いた。
___その夜。固く閉ざされた、集中治療室の個室にて。
ベッドに横たわる女に縋り付いて、一人の男がむせび泣いていた。
「ああ、おいたわしやお母様…まさか真堂さんを救出している間に、このようなことになっていようとは…」
『お母様』は、何も言わない。
「蜜屋は裏切り、真堂さんとユウダイ君は倒され、ミヅキは…あの娘は…あぁ…」
無機質な心電図の音が、すすり泣く声を無神経に切り刻む。
閉じた扉の外では、見張りの警官が死んだように眠りこけていた。警官だけではない。医者も看護師も、誰もが深く眠り込んで、少しも男の存在に気付かない。
「これも、我らにとって乗り越えるべき、試練なのでしょうか、お母様…」
その時、部屋の扉を叩く音がした。
「! 誰です」
振り返り、鍵を外して細く扉を開ける。
向こうに立っていたのは、病衣を着た一人の男。
「貴方は…」
「井野と言う者だ。……あんたには、『アースクエイク』と言ったほうが通じるか?」
「! ああ、思い出しました。ミヅキが連れて来た」
男は、井野を部屋に招き入れた。
「仮面ライダーの憂き目に遭いながら、よくぞ戻られました」
「おれには、もうお母様しかない。復讐も、会社も、全て失った…だからせめて、妹だけでも」
「ですが…お母様は今、このような有様で」
「…っ」
突然、ベッドの上の女が、小さく身じろぎした。
「! お母様」
「定…あなたの…妹の、お骨を…」
「生き返らせてくれるのか!?」
「あなたの…妹なら…母、の、娘…」
「頼む!」
井野は、ベッドの前に平伏した。
「遊香を取り戻せるなら…おれは何だってする! だから」
「…井野さん」
男が、その隣に膝を突いた。
「貴方の想いは、しかと聞き届けました。妹さんを取り戻した暁には…共に、お母様の愛を守り抜きましょう」
そう言うと彼は、井野に一本のガイアメモリを差し出した。
緑青色のメモリには、円形に歪んだ線で『N』と書かれていた。
「真堂さんが、命懸けで持って帰ってきたものの一つです。…きっと、貴方なら使いこなせるでしょう」
井野は頷くと、メモリを掲げ…自らの左胸に、突き立てた。
『ネブラ』
今夜はここまで
やっぱ皆さん、ミヅキには復活してほしい感じです?
乙
個人的にはWヒロインでリンカと取り合って欲しいという思いはある
クール系とビッチ系で凸凹Wヒロインやってほしいなあ
でも、なんかただけろっと復活しちゃうのも、あの最期を湿気らせるような
一波乱か二波乱あるか、または制限付きとか、何かはあってほしい
『ばそ風北』の暖簾をくぐると、店主が目ざとく見つけて、声をかけてきた。
「いらっしゃい、徹ちゃんにリンカちゃん。久し振り…」
言いかけて、ふと気付く。
「…あれ? リンカちゃん、雰囲気変わったね。それに、いつものスーツじゃないし」
「そうですね」
リンカは頷いた。
確かに、財団Xを抜けてから、彼女はトレードマークの白スーツを遂に脱いだ。
↓1〜3でコンマ最大 リンカの私服
「りんか」と達筆な毛質書体で書かれたブカブカのクソダサTシャツにショートパンツ
ブカブカジャージにチノパン
こういうのと
https://apple-believer.com/mysterious-cat-t-shirt/
ジャージとスウェット
どうあってもクソダサや色物にしたいすぎる……
玄さん路線で行くのか(困惑)
上下統一していないから更に酷い可能性(せめてジャージセットかスウェットセット……)
これの隣を歩くって何の罰ゲーム?
>>1公認正ヒロインなのに玄さん路線を走るのか(困惑)
加頭は元よりガイキは熟女フェチだし財団メンバーはどっかおかしすぎる…
「にしても…こういうのが趣味だったなんて」
「?」
きょとんとするリンカ。
濃紺のTシャツには、無数の星々や銀河、そして手前で目を見開き、何かの啓蒙を得たような猫がでかでかとプリントされている。その上から灰色のジャージを羽織り、下も同色のスウェットという、非常にラフな格好をしていた。
「流石に、この装いにネクタイは合わないかと」
「いや、そういう問題じゃなくて…ま、良いや。おっちゃん、北風蕎麦二つね」
「あいよ」
蕎麦を待ちながら、2人はファンタジーの新たな姿について話し合った。
「ドライバーが、全く別物になったんだよな」
テーブルの上に、2本挿しとなった新たなドライバーを置く。リンカも今、同じ物を所持している。彼女はそれに加えて、所持していたトゥルースメモリの形まで変わってしまった。
「風都の仮面ライダーが、これと同一のものを使用します」
「えぇ…」
徹は思わず、不満げな声を出した。彼は風都が嫌いだし、それに付随して向こうの仮面ライダーに対しても良い印象を持っていない。それが、同じものを使う羽目になったこと、何より、彼自身がこの形を、リンカと2人で力を合わせて戦うという、このドライバーを求めたことが、彼にとっては認めがたい事実であった。
「どのみちドライバーもメモリも、元は一つの組織が作ったものです。重複は避けられません。ただ、個人的に一つ、解決しておきたい問題が」
「何だ?」
「名称です。これまでは、貴方の使用するファンタジーメモリに準じて、仮面ライダーファンタジーと呼称していました。ですが、ここに私のトゥルースメモリが加わるとなると話は別です」
「『仮面ライダートゥルーファンタジー』…何だか分かんねえけど、どっかから怒られそうな名前だな」
「ここで一つ、新たな名称を考えるのはどうでしょう」
「そうだな…」
徹は、考え込んだ。
↓1〜3で>>1が気に入ったやつ 新たな仮面ライダーの名称
イカロス
仮面ライダーデュアル(仮面ライダーデュアル トゥルースファンタジー)
仮面ライダーフュージョン
「…『デュアル』」
「二重、二通り…そういった意味ですね。良いと思います」
「よし、仮面ライダーデュアル。それで決まりだな」
「はい、お蕎麦2人前」
「! どうも」
慌ててドライバーを引っ込めると、テーブルの上に二杯の蕎麦が並んだ。
2人は手を合わせると、蕎麦を食べ始めた。
今日はここまで
何故トゥルーファンタジーじゃ駄目なのかと言うと、今後トゥルーファンタジー以外の組み合わせも出てくるかもしれないからですね
『仮面ライダーデュアル トゥルーファンタジー』
ファンタジーメモリの能力に、徹とリンカの強い想いが作用することで、彼のロストドライバーとリンカのガイアドライバーは、ダブルドライバーへと姿を変えた。また、それに合わせてリンカのトゥルースメモリも次世代型へと進化した。
ソウルサイドにリンカのトゥルースメモリを、ボディサイドに徹のファンタジーメモリを装填し、ドライバーを展開することで変身する、新たな戦士。ファンタジーの魔物めいた素体の上からトゥルースドーパントを模した金色の鳥が覆いかぶさり、装甲となる。黄金の重厚な甲冑に、宝石の装飾が付いた綺羅びやかな外見で、ファンタジーの翼にもなる白いマントは健在。
『空想』の力に『真実』が加わることで、『空想を真実にする』というファンタジーの能力が更に強化されている。念じるだけで破壊された物を修復したり、自在に武器を具現化したりと、その力は変幻自在。また、2本のガイアメモリに2人分の力が合わさることで、単純な出力もファンタジー単体のほぼ2倍にまで向上している。
専用武器『イデアカリバー』は金色の刃の大剣で、鍔にメモリスロットがある。ここにファンタジーメモリやセイバー、クエストなどを挿し込むことで必殺技を発動する。
乙
今全部読んだけどこんな面白いSSあったなら早く知りたかった
乙
じゃあミズキとエッチして生まれるラビットファンタジーやリンカとミズキのレズセで出来るラビットトゥルースもあるんです?
イレイサードーパント
消すことに特化したドーパントであり、当該ドーパントの攻撃を受け続けると消しゴムで消すように受けた箇所が少しずつ消えてしまう。内部粛清用に開発された真っ白なEraserメモリで変身する。また、力を調節すれば相手の声帯のみや五感のみを消すこと、更には飛んでくるエネルギー体ですら消すことが可能。身体が白いゴム状でできており、ある程度は物理攻撃を吸収できる。
デメリットとして力を酷使すると身体から消しカスが発生して小さくなってしまう。消せる範囲が狭まり、そのままメモリブレイクされると変身者も小さくなってしまう。が、酷い場合は身体のあちこちが消えて出血、更に酷い場合は即死する。
アップグレードしてデリートドーパントになれるとの噂もあるが、果たして……
ホルスタインドーパント
「Holstein(乳牛)」の記憶を内包するメモリで変身する。巨乳でミルクが吹き出る。一見ギャグキャラに見えるが、突進の直撃でビル1棟を簡単に崩せる破壊力もある。
ホルスタインドーパントのミルクには微弱な幼児退行効果と、高濃度な栄養素と中毒性があり、これ無しでは生きていけなくなる人間どころか他ドーパントもいる程。逆にこれだけで生きていけるとも言える
効率よく噴乳するために過食と男性とのセックスからの妊娠がほぼ日常化しており、ホルスタインドーパントから積極的に行う。
女性が変身すれば変身解除しても巨乳化&ミルクが出るようになる。
『ナイトドーパント』
騎士の甲冑を纏った人型の蝙蝠の様なドーパント。
使用するメモリが『Knight(騎士)』と『Night(夜)』の二種類の異なる記憶を内包する特殊なメモリ(類例:親子丼ドーパント)。メモリの色は紺色。
『Knight』の高度な剣術及び騎乗術、防御力の高さと『Night』に含まれる『バット』の超音波『ヴァンパイア』の吸血や飛行能力等複数の能力を持つ
強力なメモリだが精神汚染の影響が強く『Knight』による正々堂々とした騎士道精神『Night』による卑怯で陰鬱な非道さを同時に反映される為、精神が耐えられず廃人になる事が多く、耐えられても二重人格になる等人格が破綻する
誤解しないで欲しいけど、リンカの玄さん路線は別に嫌というわけじゃないんだ
彼女は『真面目だけどどこかズレてる人』だから、そのズレがファッションセンスに現れてるという意味では当てはまる
ちなみに彼女は『非人間でありたいただの人間』でもある
(ガイキはそもそも人間じゃ)ないです
「…」
裸の胸板に頬を寄せたまま、蜜屋は黙りこくっている。
「先生でも取り乱すことがあるんだな」
いつものような軽い口振りで、ガイキが投げかけた。蜜屋は、彼の胸に彫られた奇妙な刺青を指でなぞると、ぽつりと言った。
「…私は、良い先生になりたいの」
「ああ、知ってるよ」
「誰も虐げない、虐げられない、平和な教室…そのためには、教師が強くないといけないわ」
「そうだな」
無関心そうに相槌を打つガイキ。蜜屋は、そんな彼の態度を気にも留めない。
「…あの娘が気がかり?」
「どいつが?」
「あの、リンカさん」
「まさか」
彼は鼻で笑った。
「奴は半人前だよ。財団みたいなお硬い所にいるより、惚れた男のとこにいた方が、もっと伸び伸びやれるだろうさ。ま、そういう意味じゃこれからに期待はしてる」
「敵になったのに?」
「敵だから、だろうが」
シーツの中に、手を差し入れる。蜜屋が、不機嫌そうに息を吐く。
「弱者を一方的に殺して、何になる? 弱い人間が、足掻きに足掻いて俺たちと殴り合うから楽しいんだ。…最終的に、殴り殺しちまってもな」
「弱い人間、ねぇ。それは私も入っていて?」
「どうだろうな。一つ言っておくと、蜂野郎の知り合いはいたが、あんたほどじゃ無かったぜ」
ガイキは、喉の奥でくっくっと嗤った。
ソウルドーパント
soul(魂)の記憶を内包したメモリで変身するが、その姿と強さは変身者それぞれ。攻撃的だが防御面に劣る者、傷を癒す事に特化した者、常に燃えるが自分を見失わない者、知識と念動力に優れた者等様々である。
正確には使用者の魂となる本心を怪物として曝け出させるメモリで、心の内にストレスを溜め込む者や闇を抱える者である程、化け物として強大な力を得る。
適合率が高ければ、内心異性だったり向上心が高い場合は本当に異性へ変身できたり自分を前向きに変えるなどの素敵要素もある。
使用し続けると反動で本心を自力で表に出せなくなるデメリットがある。この点はスパイにとってはありがたい恩恵になるかもしれない。
また、人によっては体が本心についていけずに疲弊からの幽体離脱することもある。そして一部のソウルドーパントはアップグレードすればウルトラが付くドーパントになれると夢見ている
「井野がいなくなっただと!?」
電話口で、植木が怒鳴った。
「坂間たちは何をしてたんだ! 他のスタッフもいただろう?」
語気を荒げる植木の側で、徹とリンカは静かに、受話器から漏れ聞こえる声に耳を澄ましていた。
”それが、いつの間にか全員が眠っていて…”
「眠っていただと?」
”翌朝、医師の一人が目を覚ました頃には、既に井野のベッドは空で、代わりに一人の看護師が眠っていました。その場にいたほぼ全員が目を覚ましましたが、その看護師はまだ起きません”
「植木さん、ちょっと失礼」
リンカは受話器を取り上げると、早口に言った。
「もしもし、円城寺です。その看護師には誰も近づけないでください。詳しいことは後ほど説明します。その際に、そちらの詳細もお聞かせ願います」
一方的に告げると、受話器を植木に返し、徹に向かって言った。
「急ぎましょう。その看護師に、何らかの手が加えられた可能性があります」
バイクから降り、警察病院の入り口まで走りながら、リンカが徹に尋ねた。
「熊笹修一郎が遺したメモリを覚えていますか」
「ああ。アイソポッドとかいう新しいメモリの試作品だろ?」
「いえ、今回は同封されていた別のメモリです」
「えっと…トリケラトプスとか…」
「『スリープ』というメモリがありました。それ自体は新しいものではありませんが、あの工場で量産できることに変わりありません」
「それが使われたかもしれないんだな」
集中治療室の入り口に、坂間が立っていた。彼は2人の姿を認めると、悔しげに言った。
「私たちがいながら、みすみす逃してしまった…」
「件の看護師は」
「…井野がいたベッドだ」
2人は坂間を置いて、集中治療室に入っていった。
警官の捌けた集中治療室。井野の眠っていたベッドには、確かに一人の若い看護師が横たわって、寝息を立てていた。
「この看護師とスリープメモリの適合率に依りますが、おそらく徹と私なら影響を受けることは無いでしょう」
恐る恐る歩み寄ると、徹は全身が重くなるような感覚を覚えた。
「だ、大丈夫なのか…?」
「このメモリは、使用した瞬間が最も危険です。ですが使用者以外は、遅かれ早かれ抵抗力を得て影響を脱することができます」
言いながらリンカは、看護師の肩を掴んでぐいとひっくり返した。
「! ありました」
露わになった彼女のうなじには、黒い生体コネクターが刻まれていた。
「おそらく、面会客を装いここまで案内させておいて、後ろからメモリを挿入したのでしょう」
そう言って、ドライバーとトゥルースメモリを取り出す。
「どうするんだ?」
「当然、メモリブレイクです」トゥルース!
「大丈夫なのか…?」ファンタジー!
「「変身!」」
徹の体が黒い外骨格に覆われる。リンカの体が金色の鳥の姿に変わると、徹の外骨格を更に包み込み、金色の装甲となった。これこそが仮面ライダーデュアル・トゥルーファンタジーである。
”ここは、こうしましょう”
デュアルはドライバーからトゥルースメモリを抜くと、腰のスロットに挿した。
『トゥルース! マキシマムドライブ』
両手をコネクターにかざし、力を込める。すると、コネクターからゆっくりと、灰色のメモリが抜けてきた。
『その力は…力? とにかく偽りだ…!』
その手に収まった、灰色のガイアメモリ。渦巻く羊の角を組み合わせたような字で『S』と書かれている。強く握りしめると、それは簡単に砕け散った。
「…っ」
看護師が、目を覚ました。
『! 大丈夫ですか』
「…」
彼女は、数度瞬きすると、ふと眉をひそめた。
『? 何か…』
「う、後ろに」
『!』
はっと振り返る。そこには、ナイフを振りかぶったマスカレイドドーパントいた。
「! …死になさい!」
臆さず、刃を振り下ろすマスカレイド。が
「…くっ!?」
『…たあっ!』
「ぐわあぁっっ!!?」
デュアルの装甲には傷一つ付かず、逆に彼の放ったパンチで壁まで吹き飛ばされてしまった。
「九頭さん!」
そこへ駆け寄ってきたのは
「…仮面、ライダー」
『あんた…』
憔悴した顔で立っていたのは、井野定。脇には、白い骨壷を抱えている。
『何で…何でそこまでして、妹にこだわるんだ!? これ以上、罪を重ねて…』
「うるさい! 復讐に手を伸ばしたばかりに、おれはもう贖いきれない罪を犯した。もう、帰るとこなんてないんだ…だったらせめて、妹だけでも!」
『妹さんは、それを望むのか!? 血に塗れた手で生き返って、喜ぶとでも思うのか』
「それを決めるのは、遊香だ…!」
「い、井野、さん…」
よろよろと歩み寄ってきたマスカレイドドーパントに骨壷を預けると…彼は、懐から緑青色のガイアメモリを取り出した。
『! それは』
『ネブラ』
「…最初から、このメモリに出会えていれば。不要な殺人なんて、しなくてよかったんだ…」
それから彼は、突然吼えた。シャツの前を引き裂き、左胸のコネクターに、メモリを突き立てた。
彼の体が、青銅の重厚な鎧に覆われていく。全体的に丸みを帯びたその鎧には、無数の金の鋲が打たれており、兜には円が、肩には三日月が、そして両腕には弧を描いた線が、それぞれ金で彫り込まれていた。
右手に斧を、左手に短剣を握ると、井野は…ネブラドーパントは、言った。
「これ以上…おれに、人を傷付けさせないでくれ…!」
『Nは帰れない/眠れる病院』完
今夜はここまで
にしても警察病院襲撃され過ぎな?
『…!』
「やあっ!」
斧を左手で止めると、右手に金色の大剣、イデアカリバーを出現させる。
『もう、止めるんだ!』
下から斬り上げた剣を、左の短剣で受け流す。そのまま斧を振り下ろした。
「止められるか! もう、止まれない…」
大剣で、大振りの一撃を受け止める。
と、突然、彼の腕に走る、金色の線が光り始めた。そして次の瞬間
『…っ、あぁっ!?』
いきなりネブラドーパントの腕が、目にも留まらぬ速さで閃き、数十発に及ぶ斬撃をデュアルの体に見舞ったのだ。
幸い、装甲の傷は軽微。しかし、衝撃が大きい。
『くっ…一体、何が』
”ネブラ…このガイアメモリが有する記憶は、『ネブラディスク』でしょう”
『ネブラディスクって、オーパーツの?』
”ええ。青銅と金で造られた円盤です。その用途は、太陽暦と太陰暦の同期という説が有力です”
『えっと、つまり?』
”2つの異なる時間流の同期、すなわち時間操作がドーパントの能力であると推測します”
『…よし、大体分かった!』
「余所見するな!」
振り下ろした斧を、片手で掴んだ。更に剣を握った左手も掴むと、そのまま鎧の胸を蹴りつけた。
「ぐぅっ…」
『要は動けなくすりゃ良いんだろ。いくら速くても、動けなきゃ意味がない!』
両腕を掴んだまま、繰り返し蹴りを叩き込む。攻撃を続けながら、ふとリンカがこぼした。
”…何かおかしい”
『うん?』
”周囲の動きが、やけに早いような”
『? …!!』
彼女の言う意味に気付いた瞬間、デュアルは金色に光るネブラドーパントの腕を離した。途端に体が軽くなった。いつの間にか彼の体には、重力めいた反発力が働いていたのだ。
そして、彼がネブラドーパントに釘付けになっている間に、マスカレイドドーパントが骨壷を持って、最奥の個室に向かって突進していた。
『止めろ!』
追いかけるデュアル。しかし、その足にネブラドーパントがタックルし、動きを封じる。その腕のラインが光り、彼の動きが更に鈍くなっていく。今なら分かる。これは、先程の時間操作の逆で、デュアルに流れる時間を遅くしているのだ。
「ここは、譲れません!」
マスカレイドとは言え、ドーパントはドーパントである。人間離れした脚力で駆け抜け、あっという間に個室の扉に辿り着き、中へと押し入った。
「お母様!」
「…」
白いベッドの上で、『お母様』がゆっくりと目を開けた。
『! 成瀬…』
「お母様、こちらを…」
成瀬の体が、白いマリア像めいた姿に変わる。マスカレイドが布団を剥ぎ取ると、その腹には大きな裂け目が開いていた。
そこに、骨壷を押し込んだ。
「井野さん!」
「ああ!」
ネブラドーパントが、デュアルの足を離した。そして今度は自分の時間を加速させると、マザードーパントの元へ駆け寄った。
「頼むぞ、お母様…」
光る腕で、彼女の腹に触れた。
すると、見る見る内にその腹が、大きく膨れ上がってきた。
『くっ…もう、止められないのか…』
「邪魔はさせませんよ!」
マスカレイドが立ちはだかる。
”マザードーパントには、僅かな遺伝子から人間のクローンを造る能力があります”
『それで妹のクローンを…』
「お母様の中で育まれるのは、クローンなどではありません。死した子どもたちが、還ってくるのです!」
『そんなことが有るものか! お前たちは間違ってる…!』
大剣を振り上げ、マスカレイドに斬りつけた。
そうこうしている間にも、マザードーパントの腹では『何か』が成長を続けていく。
『邪魔だ、このっ…』
マスカレイドドーパントを蹴り倒し、剣を叩きつけようとする。ところが、その動きが途中で止まった。
「はっ…はぁっ…」
振り返ると、そこにはシロツメクサの少年が立っていて、無数の蔓を伸ばしていた。
『ユウダイ君…いつの間に』
「僕は、運が良いんだ…」
クローバーの茎で、デュアルの両腕を締め付けながら、クローバードーパントが呟いた。
「この前受けた攻撃も、本当に危ない所は外れた。そして、またこうやって、お母様のために戦える…」
『それまでに、自分がどんな目に遭ったか覚えてないのか!?』
「覚えてるさ」
彼は、憎々しげに唸った。
「僕は、惨めな人間だった。全部、あの女…蜜屋のせいだ…!」
メイスを構え、デュアルに打ち掛かる。
『! せぇやっ!』
それを足で打ち返すと、両腕に力を込め、蔦を引きちぎった。
「なっ」
『それだけじゃない…お前は、もっと大事なことを忘れてるんだ!』
剣を振るい、打ち合う。突き出したメイスを払い、腹に深く斬りつけた。
「くぁっ…!」
追いすがってくるマスカレイドドーパントをいなし、マザードーパントとネブラドーパントの元へ歩み寄る。
『井野!』
「もう遅い…!」
ネブラドーパントは、マザーの腹から手を離した。既に、その腹は、妊婦のそれよりも大きく膨れ上がっており、中で何かが蠢いているように揺れていた。
「定…さぁ…」
「すまない、お母様…必ず、すぐに取り戻す!」
そう言うと彼は、両手で短剣を握ると…
___マザードーパントの腹に、深々と突き刺した。
『!!? 何をする!?』
「あっ、あ゛っ、ああぁぁっ…」
青銅の剣が、白い腹を縦に切り裂く。夥しい血が噴き出し、部屋を赤く染める。
駆け出したデュアルの足を、マスカレイドドーパントが掴んだ。
「私だって辛い! だが、今のお母様には、子供一人産み落とす力さえ残されていないのです…!」
『だからって、何でこんなことを!』
「これが! お母様の、愛なのです!」
血塗れの腹に両手を突っ込むネブラドーパント。ずるりと音を立てて引き出されたその手には…
「…」
「遊香…」
一人の女が、抱かれていた。
「井野さん、引き上げるよ!」
『待てっ!』
「行かせません!」
裸の女を腕に抱き、両腕を金に光らせるネブラドーパント。そこへ、クローバードーパントが合流した。
マスカレイドドーパントは一人、デュアルの背中にしがみつく。
「井野さん、ユウダイ君…私は、これまでです」
「おじさん…ありがとう」
「九頭さん、必ずお母様は、生き返らせる!」
3人の姿が、一瞬にして消えた。時間操作で、どこかへと走り去ったのだろう。
マスカレイドドーパントは、震える声で宣言した。
「もう、お母様はいない…これが私の、最期の親孝行です…!」
『…お断りします』
「えっ?」
戸惑うマスカレイドドーパント。と、突然その体から、黒と白のガイアメモリが抜け、デュアルの手に収まった。
九頭は、へなへなとその場に膝を突いた。
『…っと、リンカ、いきなり体動かすからびっくりしたぞ』
”失礼しました。ですがこれで、自爆は封じました”
『ああ。…九頭英生。色々思うところが有るだろうが…』
マスカレイドメモリを、粉々に握り潰す。
『…お前は、ここまでだ。おとなしく、お縄につけ』
九頭は、その場に泣き崩れた。
聖堂にて。長椅子に腰掛けて、うとうとしていた真堂は、足音に目を覚ました。
「あぁ…九頭さん、帰ったか…」
ところが、入ってきたのは九頭ではない。朝塚ユウダイはともかく、裸の女を抱いた見知らぬ男に、真堂は怪訝な目を向けた。
「…あんた、何者だ?」
「あんたが真堂か。九頭さんから話は聞いてる。…このメモリも、ありがたく使わせてもらっている」
「! ネブラメモリ…新しい同志なのか。そうか…」
「でも…おじさんは、仮面ライダーを止めるために…」
「気を落とすな、ユウダイ君。またお母様が…」
そこまで言って、言葉が途切れた。
「…お母様…は?」
「…死んだ」
「は?」
井野は、重々しく頷いた。
「遊香を、腹の中で育てたまでは良かった。だが、産み落とすことができなかった。だから、おれが腹を裂いて取り出した」
「…本当、なのかね」
「ああ」
井野は、女を祭壇の上に横たえながら答えた。
「…き、貴様ぁっっ!!」
赤茶色のメモリを取り出す真堂。
「待って!」
そこへ、ユウダイが割って入った。
「井野さんは、お母様の言うことに従っただけなんだ! それに、言うとおりにすればお母様は帰ってくるって」
「帰ってくるだと? 死者が帰ってくるのは、お母様の力だ! そのお母様が亡くなった今、どうやって」
「…真堂さん、あんたが持ち帰ったメモリについて、九頭さんに聞いた」
「!」
井野は、遊香の体にヴェールを被せると、真堂に歩み寄った。
「それを使えば、お母様は生き返るそうだ。…心当たりは無いか」
「…」
真堂は、黙ってどこかへと立ち去った。
数分後、帰ってきた彼の手には、一つの小さなケースが握られていた。
開けると、中には5本のガイアメモリが収まっていた。
「『ピラー』、『ストーンヘンジ』、『ヴィマーナ』、『モナ・リザ』…そして」
右端にある、生成り色のガイアメモリ。そこには、奇妙な黒い曲線で『V』と書かれていた。
「意味など持たない記憶だ…だが、言い換えれば『どんな意味でも持たせられる』」
真堂はメモリを掲げると、そっとスイッチを押した。
『ヴォイニッチ』
『Nは止まれない/血塗れの手』完
今日はここまで
乙、まさかゆるくない募で集まった奴全採用?
これ作劇的には第二部始動かな
『ネブラドーパント』
『ネブラディスク』の記憶を内包するガイアメモリで、井野定が変身したドーパント。緑青色の分厚い鎧で全身を固め、その体表には、金色の鋲が星図めいて無数に打ち込まれている。また、フルフェイスの兜の額には太陽を模した円が、胸から左右の肩にかけては三日月が、両腕には弧を描いた線がそれぞれ金で彫り込まれている。戦闘時には、青銅の斧と短剣を両手に持って戦う。
紀元前のヨーロッパ、今のドイツに当たる地域で用いられたとされるネブラディスクは、太陽の運行を計測し、太陰暦と季節を同期させるために用いられたという説が有力である。そこからこのメモリには『太陽暦と太陰暦、2つの暦を行き来する』、即ち限定的ながら時間を操る能力がある。具体的には、腕に彫られた金の線が光る時、今より進んだ暦に移動することで高速化、逆に遅れた暦に移動することで低速化することができる。また、自分だけでなく触れた相手の時間をも操作することができる。ちなみに、使用する斧と剣は、ネブラディスクと共に発掘された副葬品と同じ形をしている。
ガイキの襲撃によって工場が掌握された直後に、真堂が密かに製造し秘匿していた6本のガイアメモリの内の1本。これ自体は新造のメモリではないが、北風町の工場では製造されておらず、かつて真堂が別の工場に勤務していたときの記憶を頼りに作り上げた。
メモリの色は緑青色。縦線が半円形に曲がった字で、円のような『N』が書かれている。ゼロメモリの『Z』が90°回転したものと考えると分かりやすい
忘れてた
>>351を採用させていただきました。ありがとうございました!
そしてもう一つ
『マザードーパント』
『母』の記憶を内包するガイアメモリで、元歌手の成瀬ヨシノが変身したドーパント。白い、マリア像めいた美しい女の姿で、七色に輝くヴェールのような長衣を纏っている。
地球の本棚に収蔵されている『母』の本。そのページ数はあまりにも多く、人生をいくつ使っても読み切ることができないほどに情報に溢れている。神話を紐解けば、名だたる英雄や、神々にさえも母はいた。この世界を作り給うた神の母とは、即ち星、地球であった。特に、ギリシャ神話における主神ゼウスの母は、タイタン族の地母神ガイアである。そのことからマザードーパントは、自らの所有物として地球の本棚にアクセスする権限を持つ特異な存在である。
また、僅かな肉片や朽ちた骨であっても、遺伝子が残っていれば子宮に取り込むことで、胎内で遺伝子の持ち主を育成し、産み落とすことができる。生まれた子は無限に湧き出るマザードーパントの母乳を飲むことで体力を回復し、そして彼女を唯一の母と慕うことになる。母乳を飲まなくとも、対峙するだけで全ての生物は彼女に対して言葉にならない郷愁を感じ、精神の弱い者はそれだけで彼女を母と求めるようになる。
元々戦闘力はさほど高くはないが、戦う際には見えない巨大な手を繰り出したり、適合率が高ければ空間に巨大な『穴』を開けて、相手を呑み込むなどできる。
テラーメモリと同時期、即ちミュージアムがガイアメモリ製造に手を染めた最初期に造られた幹部メモリ。しかし、どういうわけかミュージアム下では一度も使用されることなく破棄され、巡り巡って下部構成員であった九頭英生の手に渡った。彼はある理由から、個人的にファンであったインディーズバンドのボーカルであった成瀬ヨシノにこれを渡し、以後は彼女に忠実に仕えることとなった。成瀬とマザーメモリの適合率はほぼ100%、少なくとも加頭とユートピアメモリ以上の適合率を叩き出している。そのため彼女はマザーメモリの能力をほぼ完全に引き出し、自在に使うことができる。その反面、人格は破綻しており、自らを『母』と称し、自分以外の全ての人間を我が子として扱っている。また、完全に体の一部と化しているメモリは、抜去にさえ苦痛を伴い、長時間メモリが体外にあると命に危険が及ぶ。そのためメモリは常時挿しっぱなしで、人間態とドーパント態を自由に行き来する。当然、メモリブレイクは彼女の死を意味する。
メモリの色は当然金。赤子を抱く2本の腕は、子を抱く母親の視点から見ると『M』の字に見える。
悪魔にも、母親がいた。
しかし、父は彼女を捨て『恐怖』を取った。
_______母は、修羅となった。
(流石にゆるくない募全部にガッツリ出番は無いかな)
(でもあの中の2個ぐらいは使う予定)
乙
猫のクソダサTでフェレンゲルシュターデンメモリって電波が降ってきた(唐突)
能力は全く思いつかない
「…おや?」
いつものように、知的好奇心の赴くまま、立ち並ぶ本棚の間を歩いていた青年は、ある棚の裏に縮こまる一人の少女に気付いて、足を止めた。
「君は、誰だい?」
「…」
黙りこくる少女。薄汚れたワンピースを着て、膝を抱えて座ったまま、小さく震えている。
「ここには、僕しか入れない筈なんだけどな。もしかして、最近誰かの気配がしてたの、君だったのかい?」
「…」
青年は、やれやれと言った様子で、髪留め代わりの蛇の目クリップを指で弄った。
「…まぁ、害が無いなら良いか。僕は調べ物が有るから、邪魔しないでくれよ」
…
「検索を始めよう。キーワードは…」
白い空間を、無数の本棚が行き来する。頭上を飛び交う分厚い古書の群れを、少女はじっと眺めている。
「『街』。『異世界』。『恐竜』…」
「…!」
突然、少女が立ち上がり、頭上を駆け抜けた一冊の本に向かって手を伸ばした。
「…駄目だな、もう少し絞り込まないと……うん?」
それに気付いた青年が、慌てて駆け寄る。
「待て、何をする気だ……っ、いや、なんでも無いよ翔太郎。こっちの話だ…」
虚空に向かって弁明しながら、少女が手に取った本の表紙に目を走らせる。
「『ラビット』…ウサギ? これが欲しかったのかい?」
「…」
ところが、『ラビット』の本は固く閉じていて、少女がどれだけ力を込めても、表紙さえ捲れない。
不審に思った青年が取り上げてみると、表紙はいとも簡単に開いた。
「…ああ、なるほど。君は『記憶』なんだ」
本を閉じ、飛来した棚に戻す。
「地球の記憶は、お互い勝手に干渉することはできない。モノの意味が、独りでに変わったら困るからね。君という人物について書かれた本が人格を得たのか、はたまたここに迷い込んだ君の魂が、本と結合したのか…」
そこまで言って青年は、くすりと笑った。
「…つまり君は、ウサギを追いかけてここまで来たのか。まるで『アレ』みたいだ。ええと…」
一台の本棚が、青年の前に飛んでくる。そこに1冊だけ置かれた本を手に取ると、表紙を開いて少女に差し出した。
「……そう。君はまるで…不思議の国の、『アリス』だ」
粋と粋がすぎるでしょこのたった1レスのシーン
『お母様』が、死んだ。
その胎で一人の女を育て、そしてネブラドーパントによって腹を切り裂かれて死んだ。
母神教の残党に奪われないよう、遺体は検視の後速やかに火葬された。解剖も検討されたが、マザードーパントがドーパント態から元に戻らず、また遺体に手を加えることによる危険が予測できないということで、見送られた。
体内にあるはずのマザーメモリは、焼却炉から出た遺骨のどこを探しても、出てくることは無かった。
「終わった…のか?」
曇天の公園。ベンチに座り込んで、徹がぽつりと零した。
「成瀬が死んで、ガイアメモリを造る能力は失われて…俺たちの戦いは、もう終わったのか?」
「いいえ」
隣りに座ったリンカが、きっぱりと否定した。
「失われたのはあくまでメモリを『新造』する手段です。まだ『量産』する手段は残されています。何より、母神教自体は未だ健在です。それに…」
声を潜め、続ける。
「…彼らが、『お母様』を復活させると言っていたことが気にかかる」
「そんなこと、できるのか? 死人を生き返らせること自体が、成瀬の力なんだろ?」
すると彼女は少し考えて、やがて言った。
「…できなくもない、と言えます」
「歯切れが悪いな」
「手段はいくつか考えられます。それを、彼らに実行可能か…最も現実的な手段で、成功率は2割弱でしょうか」
「そんなものか」
「いえ、彼らにとって2割は、十分に高いと言えます。この状況です。可能性が1%でもあるなら、彼らは進んで命でも賭けるでしょう」
「…そうか」
徹は長く息を吐くと…勢いよく立ち上がった。
「そうだよな。あんな終わり方は無いよな。…まだ、戦いは終わっちゃいない。そもそも、ガイキたちだってまだいるんだ」
「現状ガイアメモリ製造工場は、彼らが掌握しています。新たな力で、ドミネーターに対抗できるようになった今、彼らを先に攻めた方が良いかもしれませんね」
ところが、彼らが工場に攻め入る算段を立てている最中に、アパートに来客があった。
覗き穴越しに来客の姿を認めた時、徹は居留守を決め込もうかと迷った。だが、よく考えたらベランダからは部屋の明かりが漏れているし、耳をすませば薄い壁越しに会話だって聞こえたかもしれない。何より、居留守が『彼』にバレると、後が面倒臭い。徹は諦めて、ドアを開けた。
「やあ、久し振りだねえ。力野クン」
「…何の用ですか、亀井戸さん?」
粘つくような笑みを向ける、背の低い男。午後8時に厚かましくアパートに押しかけてきたこの男は、悪びれる様子もなく言った。
「こんなとこじゃ何だからさ。中で話そうよ」
亀井戸純吉。徹と同じフリーライター。徹や熊笹修一郎が社会問題を中心に扱うなら、彼は芸能人のスキャンダルや、風俗のレポートといった下世話な記事を中心に書いていた。別にそれは構わないのだが、彼はそもそも人格に難があり、同業者からも敬遠されている。徹もできることなら関わりたくないとは思っているのだが、悪いことに彼は、徹の大学の先輩であった。
その亀井戸は今、テレビを挟んでちゃぶ台の前に居座り、徹のとっておきのビールを当然のように啜っていた。
「…で、何の用ですか? 亀井戸さん、家が近所ってわけでも無いでしょう?」
「まあまあ、落ち着きなよ」
彼は例の粘っこい笑みを浮かべると、台所の方に目を遣り、言った。
「…アレが君の、『コレ』かい?」
小指を立てる、古臭いサイン。台所では、来客のためにリンカが簡単なつまみを作っている。
「…そんなところです」
「聞いたよ。いつの間に君が女のヒモになったって。確かに、あれは中々働き者に」
その言葉は、ちゃぶ台に皿を叩きつける鈍い音に遮られた。
「残念ながら、私は先日勤め先を退職しました。現在、家計は徹に依存しています。あとこちらは茄子の煮浸しです」
「ん、どうも」
動じることなく会釈すると、茄子を咀嚼しながら話し始めた。
「…仕事を手伝って欲しくてさ」
「仕事? 芸能関係は苦手って前に言った筈ですけど」
「知ってるよ。俺が持ってきたのは、別のやつ。…最近、風車町でちょっとした話題になってる店があってね」
「帰ってください」
徹は立ち上がると、玄関を指差した。
「前ならともかく、恋人がいるのに風俗レポなんてするわけ無いでしょう。他を当たってください」
「まあまあ」
彼は立ち上がろうともせず、ビール缶に口をつけた。
「風俗は風俗なんだけど、体験記とはちょっと違うんだ。何しろ、ちょっとヤバ気なことになっててね。もしかしたら、力野クンの得意分野に繋がるかも」
「…」
徹は黙って、目を細めた。亀井戸が続ける。
「ヤバいクスリが出回ってるかもしれない。その辺を調べてもらいたくてね」
そう言うと彼は、鞄の中から一枚の紙切れを取り出した。
「これ、店の概要。手伝ってもらえるなら、返事頂戴。じゃ」
それだけ言うと彼はおもむろに立ち上がり、さっさとアパートを出ていってしまった。
「じゃあ、後で合流しよう」
「何かあれば、すぐに連絡します」
そう言うと2人は、夜の歓楽街で別々の方向へ歩き出した。片方は薄暗い路地のバーへ。もう片方は、件の風俗店へ。
___バーに向かったのは、徹。そして風俗店に向かったのは、リンカの方であった。
今夜はここまで
今回採用したアイデアがもっと早く出てきていたら、リンカが裏切る前にこの話をやりたかった
がらんとしたバーに踏み入ると、徹はカウンターの真ん中に陣取った。
「…何か、前に来たことある?」
開口一番、無愛想なマスターが言う。徹は軽く笑った。
「ああ、1年くらい前に。…生ビール1つ」
ジョッキを受け取ると、泡に口だけ付けて、それからおもむろに尋ねた。
「何か面白い話無い? この辺で」
「こっちが知りたいくらいだよ」
素気なく切り捨てるマスター。徹は引かない。
「まあ待てよ。この辺りなら、ブンヤ好みの話題には事欠かないだろ? ヤクザとか、女とか」
「女、ねえ」
マスターが鼻を鳴らす。
「流石、ビジネスウーマンのヒモは言うことが違う」
「はあ?」
思わず、徹は身を乗り出した。隅のテーブルで縮こまっていた老人が、ちらりと彼の方を覗き見た。
「同業者の間で噂になってるよ。背の高い、スーツの女といつも一緒に歩いて、一緒の家に帰ってるって。二人暮らしならいい加減引っ越したら良いのに」
「同棲は否定しないけど、ヒモじゃねえからな?」
ビールを一口、飲み込む。
「…仕事だよ、仕事。亀井戸さんに頼まれたんだよ。あるイメクラが、ヤバい薬に手を染めてるんじゃないかってことで、調べてるんだ」
「ああ、『天国牧場』のことか。にしても、あんたも災難だったね。ドブ亀の頼みなんて断っちまえばいいのに」
「すぐ名前が出てくるくらいには、噂になってるわけだ。…断りたいのは山々だけど、あの人、大学のサークルの先輩だったんだよ。断ったら、後輩連中にどんなデタラメ流されるか」
「あんたも苦労人だね。これはサービスだよ」
小皿にポテトチップスを盛ってくれた。
「ありがとう。…で、その『天国牧場』とやら。どうやら幼児プレイの店だというのは事前に調べてきたんだが…ズバリ、どんな薬が出回ってるんだ?」
「ホルモン剤、かな。それも、違法輸入だって中々無いくらい、とびきり強いやつさ」
「ホルモン剤…じゃあアレか、コンパニオンの胸が、急に大きくなったとか」
「それだけじゃない。なんと、おっぱいが出るようになったって話さ。それも、一人二人じゃない。ここで話してった奴、一人残らずそれを見たんだから、きっと全員そうなってるんだろう」
「なるほど…」
チップスを一枚、噛んで考える。
この不本意な案件を彼が受けたのは、当然裏にガイアメモリが絡んでいると睨んだからだ。それでも、リンカがいながら実地調査に徹が赴くのは憚られたので、こうして馴染みの安酒屋に足を運んだのであった。
ちなみに、最初の険悪なやり取りは、2人が顔を合わせた時の、一種のルーティンであった。
「…だが、どうやって仕入れた…?」
既に徹は、目的のブツが薬ではなくガイアメモリと想定している。裏で取引されるガイアメモリは高額だ。コンパニオン全員が所持しているとしたら、それにかかるコストも相当なものになるだろう。母神教が直接関わっているのか、或いはとんでもない財力の持ち主が糸を引いているのか…
「さあね、このご時世、通販で何だって買えるだろうし…」
店のドアが一瞬開いて、すぐに閉じた。酔っ払いが、入る店を間違えたのだろう。気にすることもなく、2人は会話を続ける。隅の方では、老人がグラスに頬ずりしながらいびきをかいていた。
「お兄さん、寄ってかない?」
客引きの声を聞き流しながら、リンカは目当ての店へ真っ直ぐに突き進む。
そう、『お兄さん』である。元々背が高く、中性的な格好をしていたリンカであるが、洗いざらしのジーンズに地味なブルゾンを着て、髪を雑に掻き上げると、もうその辺の、それもかなり顔の良いヤンクと見分けがつかない。客引きは勿論のこと、裏路地で煙草を吹かしていた商売女たちでさえ、物陰から身を乗り出しては興奮気味にひそひそと話し合っていた。
しかし、彼女の目当てはそこには無い。雑居ビルの階段を登り、牛柄の看板の前で立ち止まると、店の名を呟いた。
「『天国牧場』…」
金属の扉を押し開ける。
「! いらっしゃいませー!」
カウンター越しに、若い男が声を張り上げた。扉を閉め、歩み寄ると、彼はラミネートされた紙を差し出した。
「どなたか、気になる娘はいますか?」
「…いえ」
「ではフリーですね。何分コースにしますか?」
「…」
時間ごとに値段が書かれている。下の方には、追加サービスについても書かれていた。
「…50分コースで」
掠れた声で答える。流石に普段の声だと、女だとバレる。
「オプションはどうなさいますか?」
男の指す文字列に目を走らせて、リンカは思わず瞬きした。バイブ貸し出し、聖水プレイ、3Pコース…ここに徹がいなくて良かった。彼がどんな反応をするか、想像はできなくもないが、絶対に見たくない。
断ろうとして、ある一節に目が留まった。
「…裸エプロン」
「50分フリー、裸エプロンですね。合計で2万円になります」
財布から万札を2枚抜き出し、差し出すと、すぐ横の待合室に案内された。煙草臭い部屋には、既に10人近くの男たちがいて、ソファに座ってスマホを弄ったり、テレビに流れる怪しげな精力剤のCMを眺めたりしていた。
2時間近く待って、ようやく呼ばれた。
待合室の出口で注意事項を聞くと、奥に通された。ずらりと並んだ部屋の一つに入ると、一人の女が立って、待っていた。
「あら、おかえりなさ〜い!」
「…どうも」
小さく会釈したリンカに、肩透かしを喰らったような顔をする女。化粧の厚い、ぎりぎり若いと言える顔。小柄だが、異様に胸が大きい。そして、リンカの注文通り、白黒の牛柄エプロンの他には、何も身につけていなかった。
「じゃあ、お部屋に入ろっか」
リンカに背を向け、部屋の奥へ歩いていく女。リンカは素早くその全身に目を走らせた。当然、趣味とか性的嗜好ではない。この格好なら、メモリの生体コネクターを探すのに丁度良いと考えたのだ。
しかし、目当てのコネクターが見当たらない。女は防水シートの上に正座すると、膝をぽんぽんと叩いた。
「ほ〜ら、膝枕してあげるね」
「…はい」
恐る恐る腰を下ろし、彼女の腿に頭を載せる。上を向くと、大きくせり出した乳房が、リンカの視界一杯に広がった。
女は、リンカの頭を優しく撫で始めた。
「よ〜しよ〜し、いい子いい子…辛いときは、た〜くさん、ママに甘えてね…」
「ママ…」
思わず、呟いた。
「そう、ママでちゅよ〜。いい子いい子…」
「…」
ママ。母親。…お母様。
何故、人はこうまで女親に固執するのだろう? リンカは、疑問を自覚した。彼女にも親はいたのだろう。しかし、まるで記憶に残っていない。それはつまり、彼女にとって親というものが、その程度の存在に過ぎなかったのだろう。
しかし、多くの人にとってそれは普通ではないらしい。母親の存在を常に求めているからこそ、この小さな女を求め、甘えるのだろう。そういう意味では、この商売女も、あのマザードーパントも、そう違わない存在なのかもしれない。
「…さ、おっぱいの時間でちゅよ〜」
「!」
考え込んでいて、今の状況を忘れていた。女はエプロンの紐を解くと、胸当てを捲って巨大な乳房を剥き出しにした。それを下から見上げていたリンカは、遂に見つけた。
右乳房の下に刻まれた、生体コネクターを。
「は〜い、どうぞ」
「んむっ…!?」
しかし、それを指摘するより先に、茶色い乳首を口に突っ込まれた。思わず吸うと、甘い母乳が大量に噴き出した。
「んっ…?!」
「いっぱい吸って、いっぱい飲んでね…」
撫でる女と裏腹に、リンカの中のトゥルースメモリの因子が、このミルクは危険だと告げる。口当たりが良く、栄養も豊富に含まれているようだが、それ以外に強力な依存物質めいたものが混ざっている。トゥルースメモリの力で抵抗しているが、それがなければ彼女は、徹の元へは帰れなくなっていただろう。
女が、リンカのズボンの股間に手を伸ばす。
「…あら、ママのおっぱいで、ここも大きく…大きく…?」
ところが、目当てのモノが触れない。女の顔が強張った。
「…君、もしかして」
「…っは、隠していて申し訳ありませんでした」
リンカは、乳首と口の中のミルクを吐き出すと、すっくと立ち上がった。
「私は女です。そして、貴女はガイアメモリ使用者ですね。その身体変化を見るに、使用メモリは『ホルスタイン』か、『ジャージー』か…」
「! お前、一体何者…」
「名もなきフリー記者Bです。そして」
ブルゾンの内ポケットから、無骨な大型拳銃を抜き、女に向ける。
「ガイアメモリは殲滅します」
「…知られたからには、生かしておけない…!」
女は、部屋の隅にあるクローゼットに突進した。
「逃しません」ワイヤー
銀のワイヤーが、彼女の足を絡め取る。しかしその頃には、女の手には、白と黒のガイアメモリが握られていた。丸みを帯びた牛柄の文字で『H』と書かれている。
『ホルスタイン』
右の乳房を持ち上げ、コネクターにメモリを挿す。すると、その下から更に2つの乳房が生えてきた。全身が白と黒の体毛に覆われ、四肢が分厚い筋肉に覆われていく。
足に絡まったワイヤーを引きちぎると、牛の怪人は唸った。
「店長の命令だから…ここで、殺す…!」
『Hな誘惑/不本意な仕事』完
そして今夜はここまで
土日の更新はありません
『Hな誘惑/不本意な仕事』完
そして今夜はここまで
土日の更新はありません
『ホルスタインドーパント』
『ホルスタイン種』の記憶を内包するガイアメモリで、イメージクラブ『天国牧場』のコンパニオンたちが変身したドーパント。全身を白と黒の体毛と分厚い筋肉に覆われ、手足の先には硬い蹄が付いている。パンチの一撃でコンクリートに穴を開け、突進からの頭突きはプレハブ小屋なら簡単に粉砕するほどの威力。また、四つの乳首からはレーザービームめいて母乳を発射することもできる。
この母乳は普通に飲むこともできる。甘く、栄養満点で、それだけで健康に生命が維持できるという理想的な飲み物だが、その反面強い依存性があり、副作用として飲めば飲むほど幼児退行していくという代物。
女性がこのメモリを使用すると、人間態においても乳房が異常に発育し、常に母乳を分泌するようになる。この母乳も、ドーパント態で出せるものと同一である。
ちなみに、類似品に『ジャージー』『ガンジー』『エアシャー』などがある。メモリの概要は殆ど変わらないが、母乳の味が微妙に異なるらしい。
マウスドーパント
ねずみの記憶を内包したメモリで変身する。
すばしっこい動きと爪攻撃で敵を翻弄し、噛みつきで即効性の毒を盛ることができる。ただし数十回の噛みつき程度では致死量に到達することはない。毒がまわっても動きが鈍くなり、意識が朦朧とし立てなくなり、発情してしまう程度である。
メス型の場合は非常に高い繁殖力を持っており、1人の男性やオス型ドーパントと1回交わっただけでたった数分で赤子を量産し、赤子の成長速度も早く更に数分もすれば自律できるようになって自ら異性を性的に襲うようになる。
上記の特性を活かして数で相手を押し潰し、犯しつくす戦法がメインになる。また、赤子にも両ドーパントの遺伝子情報が継承されており、実質生きた複合メモリである。その為、実験用マウスドーパントに他ドーパントの精液を注入し、産まれた赤子を忠実な兵士として育て上げる計画が立案されたことがある。
因みに、通常のネズミでも種によっては一度の出産で30匹生まれるとか。
蜂女が仮面ライダーになる時代かぁ(Twitter見ながら)
バーを出たところで、携帯が鳴った。
「! 早かったな…もしもし」
”ドーパントです。使用メモリはホルスタイン。現在、店内を逃走中です。既にドライバーを装着し、メモリを装填しています”
「うおっ、分かった!」
慌ててドライバーを装着した瞬間、右のスロットに金のメモリが出現した。
「変身!」ファンタジー!
左のスロットに銀のメモリを装填する。それから人のいない路地に駆け込むと、素早くドライバーを展開した。
黒い外骨格を纏いながら、徹はビルの壁を蹴り、夜の空へと躍り上がった。そこへ金色の鳥が飛んできて、彼の体を包み込んだ。
白いマントを翼に変えて、仮面ライダーデュアルが街の上空を滑空する。
『店の嬢がドーパントに変身したのか』
”はい。部屋から出て逃走している最中に、同じドーパントが別の部屋から数体ほど出てきました”
『やっぱり、コンパニオン全員がドーパントに…』
雑居ビルの2階。牛柄の看板の前に降り立つと、扉を蹴り破って押し入った。
店の中では、数体の雌牛のドーパントが、混乱しながら廊下をうろついていた。
「あの女、どこ?」
「急に消えたと思ったら…」
『おい!』
イデアカリバーを手に、デュアルが声を張り上げた。
『こんなところに、ドーパントがたくさんいたとはな。全員、メモリブレイクだ!!』
「! お前は…」
「仮面ライダー!?」
「か、仮面ライダーだと!」
カウンターの向こうから、男の店員が素っ頓狂な声を上げた。
「ま、まずい、皆でやっつけるんだ!」
男の号令に、その場にいたドーパントが一斉に突っ込んできた。
『! おらっ!』
先頭の一体に、剣を叩き込む。
『くっ…』
凄まじい衝撃に、思わず数歩後ずさる。そこへ、更に数体が突進してきた。
これ以上は受けきれない。デュアルは天井すれすれまで飛び上がり、集団の後ろへ着地した。
『これでも…喰らえ!』
大剣を大きく振るい、金の衝撃波を飛ばす。
「きゃあっ!?」
数体のドーパントが吹き飛ばされ、壁に衝突した。すかさず前進し、先頭の一体を斬り伏せた。
「くあっ…!?」
「やっ、やめろやめろ!」
男が身を乗り出す。が、すぐに引っ込んだ。目と鼻の先を、鋭い角を持った銀色の影が、猛スピードで駆け抜けたからだ。
『メモコーン!』
銀の一角獣は歌うように嘶くと、デュアルの手元に収まった。
赤のメモリを取り出し、イデアカリバーの鍔に装填する。
『クエスト! マキシマムドライブ』
『クエスト・ファイナルファンタズム!!』
剣から銀色の光が迸る。光は、無数の一角獣やグリフォン、ドラゴンといった幻想の獣へと変わり、ドーパントたちへ一斉に襲いかかった。
「きゃああぁっ!」
「ぎゃあぁっ!?」
雌牛たちの体からガイアメモリが抜け落ち、次々に砕け散っていく。
「ひっ…た、助けっ…」
”そう言えば、他の客は…?”
『! 待合室は?』
リンカの案内で待合室に足を踏み入れる。
そこでは、一体の雌牛のドーパントが、数人の客に乳を飲ませていた。
「はぁい、怖くないからね〜…」
「ママぁ…」「ママ、俺にも…」「ママ…」
『…何だコレ』
「!?」
思わず呟いた声に、ドーパントが反応した。彼女は弾かれたように立ち上がると、相手が誰なのか確認し、ゆっくりと両手を上げた。
雌牛から人間の姿に戻っていく。右の乳房から白と黒のメモリが抜け、床に落ちた。
『…そのまま、動くなよ。警察を呼ぶから』
逃げようとする客の1人を捕まえ、携帯電話を取り上げて110番。
『もしもし。植木さんに繋いで欲しい…』
「…駄目だ」
突然、向こうから誰かが呟いた。
「このままじゃ…おれが、殺される…!」
『うん?』
見ると、店員の男が、ゆっくりとデュアルに向かって歩いてきていた。
『命までは取らない。メモリは破壊するが…』
「い、い、嫌だあああぁぁぁっっっ!!」
『!?』
男は突然叫ぶと、走り出した。女が床に落としたガイアメモリを拾うと、左手に突き立てた。
『おい、止めろ!』
「おおおっっ…おあっ…あっ…」
その体が、白と黒の体毛に覆われていく。四肢が、筋肉で膨れ上がり、体格が増していき…
____突然、ずたずたに裂けた。
「ぎゃああああっっっぁあぁっっ…」
絶叫しながら、全身から血を噴く男。デュアルは咄嗟にトゥルースメモリを抜くと、腰のスロットに挿し替えた。
『止めなさい! ヒトは、牛ではない…』トゥルース! マキシマムドライブ
『だから…雄だからと言って、殺される道理はない…!』
”えっ、そういうことなのか!?”
体の統制権を預けた徹が、リンカに問いかける。リンカは、出血する男に掌を向けながら答える。
『ホルスタインに限った話ではありません。乳牛や、採卵鶏の雄に商品価値は無い…生まれてすぐに殺される運命です。恐らく、そのメモリを男性が使った場合も』
「あ゛っ、ああっお゛っ……ごはあっ」
男が、どろりとした血を吐いた。裂けた腹から、内臓が零れ落ちた。それを見た客とコンパニオンが、一斉に嘔吐した。
地獄のような景色の中で、遂に男は事切れた。
今夜はここまで
「…」
青年が、ページを捲る。隣に座った少女が、食い入るように中身を読む。
「熱心に閲覧するのに、君については少しも閲覧させてくれないようだ。『アリス』」
やれやれと肩を竦める。一言も発しない、地球の記憶にも関わらず本の形すらしていないこの少女を、青年は便宜的に『アリス』と呼ぶことにした。彼が差し出した『不思議の国のアリス』を、彼女がいたく気に入ったからだ。
「…まぁ、良いけど。ここから出られずにいるということは、君の肉体は既に消滅している可能性が高い。かと言って、完全に死んだわけでもなさそうだし。…」
と、ここで青年は、遠い目になった。ぽつり、呟く。
「…まるで、昔の僕みたいだ」
「…」
気付くと、少女が訴えかけるように彼の方を見ている。彼は、またページを捲った。
「…良いや、君が出られるようになるまで、少しは付き合ってやるとしよう。僕も、少しは辛抱を覚えたからね」
「メモリは店長から貰ったの」
取調室にて。コンパニオンの1人が証言した。
「他の娘も?」
「うん」
女が頷く。ホルスタインメモリを自ら使用し、悲惨な死を遂げたあの男が、『天国牧場』の店長だったらしい。
「先輩はもう持ってたし、後輩の娘も面接通ったすぐ後に貰ってたみたい」
「だが、ガイアメモリはそう何本も手に入るものじゃないぞ。店長がどこから仕入れてたのか、心当たりは無いのか?」
「さあ? 給料日以外に、店長とはあんまり関わらないようにしてたし。…あ、でも」
女は、不意に声を潜めた。
「…その給料日前に、店長がどこかに電話をかけてた。何か、おどおどしながら謝ってたけど、何だったんだろね?」
同刻、徹とリンカの2人は、鉄格子を挟んで1人の男と向かい合っていた。
「…九頭。いい加減、何か喋ったらどうだ」
「…」
独房の隅に座り込んで、2人をじっと睨むのは、九頭英生。元ミュージアムのガイアメモリ密売人にして、母神教のナンバー2。しかし、彼は仮面ライダーを道連れに自爆しようとしたところでマスカレイドメモリを引き抜かれ、破壊されてしまった。
今、彼は独房に籠もり、食事も口にせず、黙って座り込んでいる。
「本当に、成瀬が生き返ると思っているのか」
「当然です。お母様は、必ず帰ってこられる」
「どうやって? マザードーパントの力が無ければ、死者を復元することはできないはず」
リンカの問いかけに、九頭はうわ言のように答える。
「子供らの、強い想いが…必ずや」
「…」
徹は、この対話を打ち切った。代わりに、ポケットから白と黒のガイアメモリを取り出し、九頭に見せた。これは、死の間際に店長の手から抜け落ちたものだ。メモリの副作用で命を落とす前に抜去したかったのだが、結局間に合わなかった。
「これを、風車町の店に売ったのか」
「…ふん」
メモリを一瞥すると、九頭は鼻を鳴らした。
「懐かしい代物ですね。とうに投げ出した計画です」
「計画?」
「これくらいは話してもいいでしょう。…単一のメモリを、効率的に拡散する実験…しかし、預ける相手を間違えました」
「間違えた? 風俗店の店長に渡せば、店のために使うのは分かりきってただろ?」
すると九頭は、怪訝な目で徹を見た。
「店長? 私は、そんな者には渡していませんよ?」
「何だと?」
「私が、そのメモリを渡したのは…」
今夜はここまで
人の考察とか見るのめっちゃ好きなので、どんどん考察とか雑談してくれると嬉しい
もっとも>>1の作話下手だから考察の余地無いかもだけど
乙、オーケストラの件から考えるとメモリ犯罪に関与してるのは母神教だけじゃなさそうね
ガイキは人じゃないって言ってたけど、もしかしてNEVER?
安価によって当初想定してた流れが変わることがある。今の所、全部いい方向に進んでる
例を挙げるなら、リンカのメモリは当初『ロスト』を想定してたけど、安価で『トゥルース』になったことで徹の『ファンタジー』とダブルドライバーで強化形態という設定に繋がった
あと、一番気に入ってるのがドミネーター。飛び蹴り一辺倒のライダーキックの中、踏み付け攻撃をライダーキックと言い張る設定が作ってて非常に気持ち良かった。メモリぶっこ抜きパンチも、『ドミネーター』という単語から着想を得たし。ちなみに、アクセルのエンジンブレードのボツ案がこんな感じで敵のメモリを奪ってエネルギーを使い捨てるという設定だったらしい
せっかくだし質問するけど、>>1が募集ドーパントで気に入ってるのってどこら辺?勿論全部採用されてるから好みだけって前提で
ロストファンタジーってなると闇堕ちした感じになるね
後、>>1が供養していたエボリューションの設定が好き。
>>505は採用したドーパントの中でどれが気に入ってるかって意味なのか、それとも採用した各ドーパントのどこが気に入ってるかって意味なのかな?
前者なら、設定を余さず活かせたという意味でアイドルかな。女ドーパントがやたらエロい所にメモリを挿すのが好き(特にホッパーとか)で、ニチアサに不適切なレベルまで振り切れたのも良かった。
逆に設定を活かせなかったと後悔してるのがオーケストラ。活かすどころか、オーケストラの設定は能力よろしく後付に後付を重ねたもので、途中までは本当にバチカゼのメンバーの誰かを変身者にするつもりだった。おかげで男を女口調で喋らせた辻褄を合わせるために、だいぶ苦しい設定を付け加えてしまった。
>男を女口調で喋らせた
よくあることだからへーきへーき(二つ後のライダーとか)
「あっ! あぁっ! んっ! はあっ…!」
あるホテルの一室にて。悲鳴のような嬌声を上げ、腰を振る裸の女。その下で獣のように唸る、小柄な男。
「ほらっ、動け、動けっ!」
「やだっ、もう、限界っ…許してっ」
泣きながら懇願する女。男は、容赦なく腰を突き上げる。
「ぎっ」
「誰のおかげで、食えてると思ってるっ! ほら、もっと…」
その時、金属の扉をノックする音が響いた。
男は無視して、女の腰を掴んで揺さぶり続ける。
「へへへっ…昨日は外したが、今日こそは力野の方が店に行くだろう…その隙に、あの女を」
次の瞬間
分厚い扉が、爆音と共に外側から吹き飛んだ。
「…うん?」
「はっ…ひっ…ぐぇっ」
男はそこで初めて異変に気付き、女を腰の上から突き落とした。
「な、何だよ…? …!」
威圧的な靴音を立て、部屋に押し入ってきたのは、例のあの女。
「おっと、君は…力野クンとこの娘じゃないか」
男は例の粘ついた笑みを浮かべながら、全裸のままゆっくりと近寄った。この女、何やらとんでもなくダサいTシャツを着ているが、それは置いておこう。
「どうしたんだい? もしかして、俺に逢いたくなったのか」
言いかけた言葉が、途中で途切れた。
彼の口には、無骨な大型拳銃がぴったりと突きつけられていた。
「っ…てめえまさか、ヤクザか」
「名もなきフリー記者Bです。そして」
部屋に入ってくる、もう一人の人物。彼の姿を認めた時、男の顔から笑みが消えた。
「…亀井戸さん」
「力野…」
徹は、溜め息を吐いた。
「俺に持ってきた仕事…アレ、亀井戸さんの自作自演だったんですね」
「…何の話だよ」
「とぼけるな!」
突然、徹が声を張り上げた。
「あんたは、母神教から大量のガイアメモリを供与された。目的は、1種類のメモリをある地域に、どれだけ広げられるかという実験のため。その実験場として風車町が選ばれ、持ち込む役として多くの店に顔が利くあんたが選ばれた。だが」
「貴方は、イメージクラブの店長と結託し、その店にのみメモリを貸与した。コンパニオンにメモリを使用させることで人間離れした力を与え、店の評判を上げ、そして売上の一部を受け取った」
「何で俺に、その裏を暴かせようとしたのか考えたが…あんた、俺を店で始末して、その隙にリンカを寝取る気だったな?」
リンカが、蔑むような目で亀井戸を睨んだ。
亀井戸は、きょときょとと2人を交互に見て、それからやっと口を開いた。
「…だったら、何だ」
そこへ、更に2人の男が駆け込んできた。
「!?」
「北風署、超常現象捜査課の植木だ」
「同じく坂間だ! 亀井戸純吉、お前を逮捕する!」
「…っ」
それを見た亀井戸は…
「…はっ…ははっ…かっはははははっ…!」
「何が可笑しい!?」
「人間4人で、何をするかと思ったら。逮捕だぁ? かひっ、ひゃひゃっひゃひゃっ…」
哄笑しながら、彼は…おもむろに、床に倒れた女を引き起こした。
「何をする!?」
彼は、女の右の乳首を乱暴につまむと、上に引っ張った。異様に膨らんだ乳房の下側には、黒いコネクターが刻まれていた。
「いっ、くっ…」
苦しげに喘ぐ女。そのコネクタから、白と黒のメモリが抜け落ちる。
それを手に取ると、亀井戸は4人を見回した。
「乳牛の雄の存在意義って、何だと思う?」
「やめろ、そいつは男が使ったら」
「ンなもん、決まってるよなァ!」
そう言うと亀井戸は、いきなり自らの股間を掴んだ。黒い毛に覆われた陰嚢を持ち上げると、なんとその裏側に、ガイアメモリのコネクターがあった。
『ホルスタイン』
乳牛のメモリが、男性器の中へと吸い込まれていく。と、その全身が白黒の毛と、鋼のような筋肉に覆われていった。頭からは黒く太い角が2本生え、手足の先は頑丈な蹄となり…そして、陰茎は突撃槍めいて太く、長く、鋭く尖り、陰嚢は床に付かんばかりに膨れ上がった。
「へっへぇ…俺は、『選ばれた』雄だ…」
「なるほど」
冷めた口調で、リンカが言う。
「種牛になれば、雄でも生きながらえるわけですか」
「男は殺す! 何故なら、俺が一番優れた雄だからだ。そして、女は犯す。ひひっ…死ぬまで孕ませてやるからな…」
「上等だ。リンカは、絶対に渡さない…」
怒りに燃える声で、徹が唸った。彼が懐から取り出した物に、ホルスタインドーパントが目を見開いた。
「それは…!」
「予め答えておきます。……貴方との性交渉は、断じてお断りします」トゥルース!
「植木さん、坂間さん、下がっていてください。……こいつを合法的にぶちのめす、またとない機会だ…!」ファンタジー!
「「変身!!」」
今夜はここまで
ボスドーパント
団体や組織を率いるboss(ボス)の記憶を内包した、葉巻に偽装された特製メモリで変身する。
メモリまたは当該ドーパントが、ボスに相応しい使用者を選ぶ。たとえ過剰適合者だとしても選ばれてない使用者には反応しない。ボスの素質を磨けば選ばれやすくなる。
当該ドーパントにボスの経験がなくても組織を纏め上げ、無線などを使用せずに遠距離でも部隊を動かす事ができる。また、当該ドーパントに危険が迫ると配下が即座にカバーしようとする。イメージするなら某歯車VのBIG BOSSがやれることに近い
最大の特徴はボスドーパントへ変身直後に周囲の人々やドーパントを即座に集め、忠誠心を芽生えさせて本心から誓わせる事。大半は当該ドーパントに従うが、少しでも同意できないと感じれば人間でも術中から抜け出す事ができる。
メモリの使用者候補はレジスタンスリーダー、マフィアのボス、社長等ではあるが、職歴に関係なくメモリに選ばれる事もある。
個人的には財団Xから抜け出した者達のレジスタンスリーダーとかが使用してそう
ウィッチドーパント
魔女(witch)の記憶を内包したメモリで変身する者と、メモリそのものが人型へ変身する者がある。仮面ライダーウィザード並みかそれ以上に様々な属性魔法を使いこなし、当該ドーパント自身や周辺のモノへ魔法をかけて強化や変形も得意とする。薬草や占い等の知識も豊富である
また正史である魔女狩り被害者達の記憶も内包しており、自分等を助けなかった異端扱いされない人間達への怒りや憎しみが変身者の闘争本能を加速させる。
反面当該ドーパントを自主的に守ろうとする人間、特に子供を見つけると恩を感じて全力で守る上に保護しようとする。個体によっては保護した相手に対して知恵を与え、生身で魔法を使役できるように教育することもある
なおハロウィンの時期になって人々が異端な格好(仮装)しているのを見ると大人しくなる
「ぬうああっ!」
『たあぁっ!』
蹄と大剣が激突した。強い衝撃に、剣を握る腕に痺れが伝った。
『硬ったぁ…このっ!』
胸を蹴り飛ばすと、よろめいた相手に向かって切っ先を突き出した。しかし、分厚い胸筋が刃を受け付けない。
ホルスタインドーパントはその場で床を蹴ると、頭突きを見舞ってきた。
『危なっ!?』
咄嗟に横に躱す。重機の如き突進が、勢い余って壁をぶち抜いた。隣の部屋のカップルが、悲鳴を上げて逃げていく。
「はぁ…はぁ…」
ゆっくりと振り返る、ホルスタインドーパント。彼は唸り声を上げると……突然、反り上がって腰を突き出した。
と、突撃槍のような巨大な陰茎から、白い液体が勢いよく噴き出してきた。
「ぬぅっ!」
『っ!』
生臭いは、躱したデュアルのすぐ横を駆け抜け、キングサイズのベッドを吹き飛ばした。
「ぬんっ! ふんっ! ふぅっ!」
『…リンカ』
”特に言うことはありません”
次々に飛んでくる精液を躱しながら、デュアルはイデアカリバーを左手に持ち替え、右手にXマグナムを握った。
「おらっ、死ねっ! 死ね…」
『うるさい!』ミサイル
「ぎえぇぇっ!!?」
小型ミサイルが股間を直撃し、ひっくり返る牛男。
「こ、この野郎…!!」
起き上がると、怒りに任せて突っ込んできた。
『お任せください』ワイヤー
突進してくるホルスタインドーパントに向かって、ワイヤーを放つ。銀色のワイヤーが牛の角に絡みついた。デュアルはその場で飛び上がり、突進を躱すと、そのままワイヤーを掴んで引っ張り、背中に跨った。
『っと、リンカも無茶するぜ…そらっ!』
銃を手放し、片手でワイヤーをしっかり握ると、ぐいと引っ張った。
「ぐぅっ、降りろ、降りろっ!」
『断るっ! 散々、良いように使いやがって!』
ロデオめいて、暴れるドーパントを繰るデュアル。部屋を破壊しながら走り回り、遂に壁を突き破ってホテルの外まで飛び出した。
そこは、3階であった。
「きゃぁーっ!?」
「ば、化け物だ!!」
「ぐぇっ」
コンクリートに叩きつけられ、ぐったりとするホルスタインドーパント。その背中に___
『はあぁっ!!』
「ぎゃあぁーっ!!」
深々と、大剣を突き立てた。
背中から降りたデュアルは、ファンタジーメモリを腰のスロットに装填した。
『ファンタジー! マキシマムドライブ』
苦しむドーパントを、遠くへと蹴り飛ばす。
デュアルの装甲が剥がれ、金色の鳥となって翼を広げた。そのまま猛スピードで、飛んでいくドーパントを追って駆け出した。
『デュアル…エクスプロージョン!!』
飛び上がった彼の足に、黄金の鳥が刃のように寄り添う。飛び蹴りが、金と銀の矢となって、ホルスタインドーパントを貫いた。
「ぐわあぁぁぁぁっっっ!!!」
爆ぜるドーパント。爆炎の中で、全裸の亀井戸純吉が崩れ落ちる。その傍らには、粉々に砕けたガイアメモリが散らばっていた。
「…感じます」
暗い独房の片隅で、やつれた男がぽつりと呟いた。
「お母様が、お戻りになられる…あの、外宇宙の秘技で…」
鉄格子の外では、腕組した看守が黙って目を光らせている。
「…そう、『ヴォイニッチ』の、大いなる奥義で」
別の看守が、欠伸しながら降りてきた。元いた看守は短く言葉をかわすと、その場を去っていった。
「…そうか。マザードーパントを生き返らせる算段はあるんだな」
電話口で、ガイキが念を押した。
「分かった。引き続き、サツとメモリ使用者を見張ってろ。そう、他のやつにも伝えておけ」
通話を切ると、ガイキは携帯を放り捨て、ソファに沈んで溜め息を吐いた。
「警察に、内通者がいるんですか」
「リンカの仕事だ」
女生徒の一人、速水かなえの問いかけに、ガイキは可笑しそうに喉を鳴らした。
「やれやれ、あいつが退職前に全部済ましといてくれて良かったぜ。俺は苦手だからな、こういう潜入とか根回しとか」
「…その、マザードーパントというのを生き返らせるのは、どうしてですか?」
「仕事だからだ」
即答するガイキ。かなえは食い下がる。
「仕事だからって、どうして」
「何でだろうな。お前も、いずれ大人になったら分かるだろうよ。皆が皆、お前らの先生みたいに働きたくて働いてるわけじゃねえ」
ふと遠い目になり、ぼそっと呟く。
「…ギヅビバデデロ、ギジャバスススダバシザ」
「えっ?」
「…何でもねえ。それより、先生を呼べ。お前らにも、もう一働きしてもらうぜ」
『Hな誘惑/選ばれし男』完
今日はここまで
乙
ガイキ…ゴラゲパゲゲルンムセギジャジャ?
『ホルスタインドーパント(種牛)』
『ホルスタイン種』の記憶を内包するガイアメモリで、フリーライターの亀井戸純吉が変身したドーパント。
ホルスタイン種を始めとする乳牛は、基本的に雌にしか商品価値が無い。そのため、雄の仔牛は生まれてすぐに処分されるか、せいぜい肉牛にされるのが普通である。そのため男性がホルスタインメモリを使用すると、変身した瞬間に生きたままシュレッダーに放り込まれたかのように、全身がずたずたに引き裂かれて死亡する。
しかし、一つだけ例外がある。雌牛を孕ませるために存在する雄牛、すなわち種牛である。
一定以上の適合率を持つ男性がホルスタインメモリを使用すると、優れた遺伝子を持つ種牛に相応しい雄として、例外的にドーパント態に変身しても死亡せず活動することができる。その場合は優れた雄であるという前提があるため、女性が変身した場合よりも更に強い力を持つことになる。具体的には、蹄によるパンチで鉄板をぶち抜き、頭突きでビルを倒壊させ、最高速で突っ込んでくる電車を真正面から受け止めることができる。また、分厚い筋肉は極めて硬く、生半可な刃はまるで通さない。雌と最も異なる点としては、乳房の代わりに巨大な陰茎と陰嚢があり、母乳の代わりに精液を弾丸めいて飛ばしてくる。これを雌のホルスタインドーパントが喰らうと、それだけで妊娠する。ホルスタインだけでなく、他の牛系ドーパントも同様に孕ませることができる。
九頭英生は、単一のガイアメモリを効率的に広める実験として、風車町にホルスタインメモリを拡散する速度を観測しようとした。その足がかりとして、町の人間に顔の効く亀井戸に無制限にメモリを供給した。しかし亀井戸は、それをむやみに広げることはせず、目を付けていたイメージクラブの店長を脅迫し、店のコンパニオンにメモリを使わせた。ホルスタインメモリの力を得た女性たちは風車町で評判となり、店は急速に売上を伸ばしたが、その半分は亀井戸に奪われることとなった。また、雇ったコンパニオンの中で一番人気の女も、亀井戸が独占していた。
富と女を得た亀井戸であったが、その欲望に底は無かった。同業者の力野徹が金持ち女と同棲しているという噂を聞くや、彼に接近し、店の闇を暴くという建前の元、彼を店に行くように仕向け、その隙に彼の女、つまりはリンカを寝取ろうと画策した。しかし、最初からガイアメモリの存在を疑った2人に、自身の悪事を暴かれることとなった。
メモリの色は白と黒の牛柄。下半分は丸みを帯びた牛柄の線、上半分は牛の角めいた尖った線で『H』と書かれている。
>>455をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました!
ドーパントを採用するときは、それで一話書けるかどうかで判断してる
お前グロンギかよぉ!?ヒューマギアも出さないと(一作目繋がり感)
スクラップ・ドーパント
『クズ鉄』の記憶を内包したガイアメモリで変身したドーパント
変身した当初は眩い様な銀色の精悍な姿のロボットだが、直ぐに朽ち果てた色へと変色してしまう
動き方も壊れた機械の様にぎこちなく、ノロノロとした鈍重な行動やバグが発生したかの様な怪音が体から聞こえてくる
当初はそのあまりに無惨な姿から、記憶通り廃棄される運命だったメモリだった
しかし『廃材を吸収して力を増す』特性が判明してからは、一転して有力なメモリとして扱われる様になった
特に廃棄された重機や既に住む人間のいなくなくなった廃屋等の人間に棄てられた物は相性が良いのか、ドーパント体に融合してしまう
戦い方はパワー任せの力業。その為このドーパントが暴れて被害が出れば出る程に強化されていってしまう
副次的な作用として、触れた物の使用された記憶がある程度把握できる
しかし、それは捨てられた物に限定される為使い勝手はあまり良くない
メモリの色は錆色。潰されたひしゃげた鉄骨がSの字になっている
廃材でパワーアップ……
そういえばブレイクしたメモリって廃材みたいなもんだよな?
(それより北風町には産廃の廃棄場がある)
廃棄場があって廃棄される予定だったメモリがある
これ、廃棄された屑メモリと運命的な出会いでもシナリオが出来そう?
「う、あっ、ああっ…ああぁぁあぁあああぁぁぁっっっ!!!」
絶叫し、崩れ落ちる男。その掌から、生成り色のメモリが抜け落ちる。それを拾い上げると、井野は苛立たしげに息を吐いた。
「クソッ…こいつも駄目か」
目を向けた祭壇には、ヴェールを被った若い女が横たわっている。彼の妹、井野遊香である。半年に自殺した彼女は、兄である定と、母神教の首魁・成瀬ヨシノ、すなわちマザードーパントによって生き返った。しかし、成瀬の腹から取り出されてから、彼女は一度も目を覚まさない。マザードーパントの腹から生まれた子は、マザードーパントの母乳によって体力を取り戻す必要があるからだ。
しかし、遊香の出産と引き換えに、成瀬は命を失った。成瀬を再び生き返らせるには、この生成り色のメモリ、『ヴォイニッチ』の力が必要であった。
「次を連れてくるよ。井野さん、それ隠しといて」
朝塚ユウダイが、聖堂を出て行く。
ヴォイニッチメモリの具体的な能力は、誰も知らない。一つ言えるのは、ごく僅かな選ばれた人間が使用しなければ、瞬時に精神が崩壊し、二度と戻れなくなるということだ。
井野は、動かなくなった男を担ぎ上げると、祭壇の裏に放り捨てた。何も知らない母神教の信者を、次々とここに呼び出してはメモリを試しているが、まだ一人もメモリに耐えきれた者はいない。
「遊香…待ってろよ…」
「よう」
「!?」
突然、背後から飛んできた声に、井野ははっと振り返った。
見ると、そこには白い詰め襟を着た髭面の大男が、目を細めて立っていた。
と、その隣に眼鏡を掛けた中年の女が、そして背後に、30人ほどの少年少女が手品めいて瞬時に姿を現した。
「誰だ!?」
「マザードーパントを生き返らせるんだろ? 手伝いに来たぜ」
「誰だと言っている…」ネブラ
「てめえにそれを訊く権利は無え!」
いきなり、男が井野の胸を掌で衝いた。あまりの衝撃に息が止まり、井野がその場に膝を突く。
「くっ……っ! あ、あんた…」
井野の目が、隣に立つ女の方を向いた。
「見たこと、あるぞ…そうだ、前にここで」
「ああ、誰と思えば。前にミヅキが連れて来た」
「そうか…同じ、お母様の…げほっ」
咳き込みながら、どうにか立ち上がる。それから、先程拾った生成り色のメモリを女に見せる。
「これを…このメモリを、使える人間を探せば…お母様が、戻ってくる」
「へえ」
男が、メモリをひったくった。
「おい、ガキども。ポイント稼ぎのチャンスだぞ。誰か、試してみるか」
「よせ! 選ばれた者以外が使えば、一瞬で廃人になるぞ」
その言葉に、女が息を呑んだ。
「だ、駄目よ! そんなこと、私の生徒たちにさせるわけには」
「先生…」
ある生徒が、思わず口を開く。ひそひそと話し合う声がして、やがてその中の一人が何か言おうとした、その時
「…うん? そこにいるのは」
「! …あぁっ!?」
突然、聖堂の床から大量の植物が伸び、生徒や女の体を雁字搦めに絡め取った。
その間を縫って、一人の少年が井野の隣に姿を現した。
「久し振りだね、愛巣会の小蝿クンたち」
「! あなたは…」
目を見開く女に、少年…ユウダイは、歯を剥き出して唸った。
「そして…蜜屋先生。僕から全てを奪った、腐れウジ虫女…!」クローバー
「糞ガキめ…」ドミネーター!
白服の男…ガイキが変身し、クローバードーパントに殴りかかる。それをメイスで受け流すと、彼は叫んだ。
「井野さん!」
「ああ!」ネブラ
青銅の騎士が、ドミネーターに斬りかかる。迎え撃とうとした拳に、クローバーの茎が絡みついた。
「っ、クソがっ!」
振り払った拍子に、奪ったヴォイニッチメモリが手から離れた。
「しまっ」
「…はい、キャッチ」
飛んできたメモリは、吸い込まれるようにクローバーの手に。彼はニヤリと嗤った。
「僕は、運が良いんだ。そして」
縛られた蜜屋と、彼女の生徒たちに向き直る。
「…丁度ここに、良い実験体がたくさんいるね」
「止めなさい!生徒たちに手出ししたら、許さないわ」
「僕も、少し前までそっちにいた。でも、あんたは僕をクズだと捨てた! …そこで見てなよ。あんたが僕にしたみたいに…僕も、あんたから奪ってやる…!」
「…何だ、どうなってる?」
「もぬけの殻ですね」
工場を見回して、徹とリンカは首をひねった。
博物交易、第九貨物集積所四番倉庫。すなわち、北風町に存在するガイアメモリ製造工場である。リンカの案内で工場に侵入したは良いものの、そこには人の気配がまるで無かった。
「ガイキや蜜屋はともかく、他の作業員もいない…」
見たことの無いような機械や、文字と画像で埋め尽くされた巨大な画面。つい最近まで動いていた気配はあるのだが、そこには誰もいない。
「どこかに出かけているのでしょうか。それこそ、母神教の本拠地などに」
「だが、どうやって? 敷地の前に、新しい車の跡なんかは無かったし…」
「方法ならあります」
そう言うとリンカは、徹を先導して壁にある質素な金属の扉を開け、中に入った。薄暗い廊下を歩き、また別の扉を開けると、そこは白い正方形の小部屋であった。
等間隔に黒い線の引かれた床に座って、一人の少年が本を読んでいる。
「…! 誰だ…」
慌てて立ち上がる少年。彼はリンカの姿を認めると、声を張り上げた。
「リ、リンカさん!? 何をしに来たんですか」
「ガイキたちをどこに転送しましたか。答えなさい」
Xマグナムを突きつけ、問いただすリンカ。少年は上ずった声で答える。
「ぼ、母神教本部…聖堂に」
「やっぱり…目的は何だ。母神教の掌握か?」
「そんなこと、ぼくは知らない! ガイキさんの命令で、皆を転送しただけだ」
「では、私たちも転送しなさい」
「そ、そんなこと」
「では、ここで貴方の所持する『ゾーンメモリ』を破壊します。…ガイキや他の皆さんが帰る手段を失うことになりますが、よろしいですね?」
「…」
少年は歯ぎしりすると、ポケットから一本のガイアメモリを取り出した。
「先生たちの邪魔をしないでくださいよ…」ゾーン
「それは、あちらの行動によります。…忠告しておきますが、他の場所に転送しようとは思わないことです」トゥルース!
ドライバーを装着しながら、リンカが釘を刺す。
「今、私はトゥルースメモリを装填しました。偽りは、全て暴かれます。…徹」
「ああ。今のうちに…変身!」ファンタジー!
白い部屋に、北風町の風景がミニチュアサイズで投影されていく。その中の一箇所が白く点滅し…デュアルの姿が、部屋から消えた。
今夜はここまで
荒らし速報
ID: +vAJUinAO、ID: XxAEAIo80、ID:vuMJPVEE0、ID: Ao8Lv9x9O、ID: cJcQzrkpo 、ID: 6ra6liDjO
ID: 89tlEEMSo
以上のIDが他スレにて悪質な荒らし行為をしている事が確認されました。
これ等のIDは荒らし目的のクソ安価を出しますのでご注意ください。
『クローバードーパント』
『シロツメクサ』の記憶を内包するガイアメモリで、学生の朝塚ユウダイが変身したドーパント。シロツメクサの花冠を被った、石膏像の天使のような姿をしており、四葉のクローバーを模したメイス(レンゲルラウザーよりは柄が短い)を振るったり、シロツメクサを自在に伸ばして敵を拘束したりできる。汎用性の高いメモリだが、それ以上に厄介なのは四葉のクローバーが持つ『幸運の象徴』に由来する、使用者の運の強化である。急いでいる時は目の前の信号は全て青になり、予報が雨の日に傘を忘れれば空は晴れ渡り、シャリシャリ君は食べたいだけ当たりが出て、自分を狙った攻撃は全て急所を外す。そのため、致命傷を与えるにはそれを上回る幸運か、運では追いつかないほどの飽和攻撃が必要となる。
母親である朝塚芳花を失ってなお蜜屋に洗脳されたままだったユウダイを、塾の専属医・友永真澄として行動していた成瀬ヨシノは密かに呼び寄せ、洗脳を解除する。そうして彼の復讐心を煽り、エクスタシーメモリの試作品を持たせて蜜屋に特攻させた。返り討ちに遭い死亡した彼の遺体を回収した成瀬は、マザードーパントの力で彼を再出産し、自身の子として新たな洗脳をかけた。塾の落ちこぼれとして蜜屋に虐げられながら、お母様に目をかけられ、深い寵愛を受けることになった『幸運』な彼に相応しいメモリとして真堂が与えたのが、クローバーメモリであった。
メモリの色は美しい純白。シロツメクサを編んだような線で『C』と書かれている。ホーネットメモリを挿す左手首のコネクターは再出産の際に失われ、このメモリのコネクターは母親のアコナイトメモリと同じく、喉に刻まれている。
(CSMダブルドライバー買おうかな…)
「嫌ああぁぁっ!!」「うわああぁっ!」「ひっ、い、あっ」
蔦に拘束された生徒たちが、次々にメモリを挿し込まれては、泡を吹いて動かなくなる。蜜屋が悲鳴を上げた。
「止めて! 私の生徒を…」
クローバードーパントは構わずに、寧ろ悲鳴を愉しむように、生徒たちにメモリを押し付けていく。
「あ…あぁ…」
壊されていく、蜜屋の生徒たち。ドミネーターはネブラドーパントにかかりきりだ。
蜜屋の視界には、過ぎし日の光景がフラッシュバックしていた。
___壊されたランドセル。折られた鉛筆。
”しわしわの志羽子、しわくちゃババア!”
___泥の塗られた机。トイレの個室で泣いていたら、上から水が降ってきた。
”べとべと蜜屋、しわくちゃ志羽子!”
___教師は、何も言わなかった。助けてはくれなかった。
「嫌…止めて…嫌あぁぁぁっっ!!」
『クイーンビー』
スーツのポケットから、黄色と黒のメモリが飛び出し、蜜屋の後頭部に収まった。
「はぁ…はぁ…あああっ!!」
女王蜂は絡みつく草を引きちぎると、虹色の翅を震わせてクローバードーパントに突進した。
速水かなえにメモリを挿そうとしていた彼は、不意打ちに成す術なく弾き飛ばされた。
「私が…教師が…一番強くないと…」
「…ははっ」
立ち上がりながら、クローバードーパントが嗤う。
「お母様に聞いたよ。あんた、子供の頃は虐められる側だったんだ」
「…ええ、そうよ」
「虐めたいから、あんたは教師になったんだ!」
「違う! 私は…」
翅を震わせると、生徒たちの持つホーネットメモリが独りでに動き出し、各々のコネクターに刺さった。
拘束が破られ、たちまち彼は無数のホーネットドーパントに囲まれた。
「完璧な教室…完璧な、生徒たち。成績の差こそあれ、誰も虐げない、虐げられない」
「子供相手にふんぞり返って、惨めなオバサンだ」
「教師が、私が一番強くないと! …ええ、少し考えれば分かるもの。この社会は、弱者を虐げてきた人間が作り上げてきた。彼らの都合の良いように」
「だから上に立って、人を虐げるんだ。弱い自分の憂さ晴らしに!」
「弱い人間の意見が必要だわ。教室をより良いものにするために」
「弱い人間をあんたが踏み躙ったから、今、僕がここにいるんだ!!」
メイスを振りかざすと、クローバードーパントは女王蜂に襲いかかった。
突き出された短剣を軽く躱すと、肘に手刀を叩き込む。よろめいた隙に、こめかみに肘鉄。崩れた相手の脳天に、瓦割りめいて拳を…
しかし、青銅の手甲に刻まれた金の線が光ると、敵の体は瞬時にずれた場所へ移動した。
『ちょこまかと…』
苛立たしげに唸るドミネーター。マキシマムドライブも試したが、適合率が高くメモリが奪えない。
振り下ろされた斧を受け止めると、呼びかけた。
『おい、何で俺たちが殴り合ってる!?』
「…」
『マザードーパントを生き返らせたいのは、お互い様だろうが! ここで俺たちが潰し合ったら、どっちも損だぞ!』
「…」
彼の言葉に、ネブラドーパントは少しの間動きを止め…やがてゆっくりと武器を下ろした。
『ああ…そうだ。それで良い』
ドミネーターは、ドライバーからメモリを抜き、変身を解除した。
「難しい話は後回しだ。今は、あの女を生き返ら」
言いかけた言葉が、不意に途切れた。
「…?」
ガイキは、ゆっくりと顔を下ろした。
見下ろした、自身の胸。
白い服を紅く染めて、キチン質の硬い腕が、彼の胸を貫いていた。
「お前は…お母様の、敵だ…!!」
振り返ると、そこにはダンゴムシめいた、赤茶色の怪人。
「…クソが」
血と共に、彼は悪態を吐いた。
「ぐぅっ…くあっ」
「完璧な教室に、貴方は不要よ。…それに、ミヅキもね」
無数のスズメバチに蹂躙されるクローバードーパントを見下ろしながら、女王蜂は冷たく言い放つ。
「クソぉ…お姉ちゃんまで、よくも…ぐあっ!」
踏み付けられ、思わず声を上げる。
「…その辺にしておきましょうか。さあ、不良生徒に止めを」
「はい、先生!」
取り囲むホーネットドーパントたちが一斉に飛び上がり、尻の棘を向ける。そして、かつての級友を串刺しにしようとした、その時
『そこまでだ!!』
「!? …あ゛っ!」
突然、ホーネットドーパントたちの体が床に落ちた。その体から次々にメモリが抜け、砕けていく。
「何事!?」
倒れ伏す生徒たちを押しのけ、クローバーとクイーンビーの間に現れたのは、金と銀の騎士。
「仮面ライダー…!」
『蜜屋…ガイキ…母神教…全部まとめてぶっ潰す!』
大剣を構えると、デュアルは女王蜂に斬りかかった。
「また私の邪魔を…!」
両腕で斬撃を止める。翅を広げて下がると、肩から白い弾丸を飛ばしてきた。
蜂の子めいた砲撃を剣で撃ち落としながら、デュアルは肉薄する。そして、また下がろうとしたクイーンビーに、重い袈裟斬りを見舞った。
「ああぁっ!」
「先生!」ロングホーン
「よくも…!」バンブルビー
『邪魔だ! …メモコーン!』
立ち塞がる生徒を斬り払うと、どこからともなく駆け寄ってきた一角獣を変形させ、剣の鍔に嵌め込む。
『これで終わりだ…』セイバー! マキシマムドライブ
金色に光り輝く剣を、女王蜂に振り下ろそうとした、その時
「…!! 止めて!!」
『!?』
突然、クイーンビードーパントが向こうを指して叫んだ。
「お前は…お母様の、敵だ…!」
唸るような声。そこに立っていたのは、アイソポッドドーパント・真堂甲太。その、鋭く尖った甲殻の腕が…
『ガイキ…!?』
ガイキ。財団Xのエージェント。リンカの元上司。ドミネーターの変身者。___ミヅキを殺した、張本人。
その彼の背中を、アイソポッドドーパントの腕が、真っ直ぐに刺し貫いていた。
「小崎君、速水さん! あの人を…」
「えっ? は、はいっ!」
蜜屋の命令に、バンブルビーとロングホーンがガイキの元へ走る。
”…徹。今のうちに”
『っ、分かってる…!』
金の光を放つ剣を、頭上に構える。
『セイバー…トゥルーカリバー!!』
振り下ろされた必殺の剣を、女王蜂は防御もせず、呆然と受け止めた。
『禁断のV/踏みにじられた叫び』完
今夜はここまで
「ゾーンメモリを持っているのが、自分たちだけだとでも思ったかね」
円形の口を軋ませて、等脚類の大王が嗤う。
「あれは我が工場の売れ筋でね。当然、何本も製造してあるし、忠実な職人たちの中にはメモリを扱えるものもいる。今頃、あの工場はもぬけの殻だ。私が確保した別の工場に、一人残らず転送したのだからな!!」
「…」
哄笑するアイソポッドドーパント。心臓を貫かれたガイキは、黙って突っ立ったまま動かない。
「これは没収する」
ネブラドーパントが、ガイキの腰からロストドライバーを毟り取った。
「所詮、財団とて少し大きいだけの被捕食動物に過ぎん! 真の肉食獣は…」
「…おい」
突然、ガイキの口が動いた。
「ガイキさん!」
「加勢します…」
「来るんじゃねえ!!」
駆け寄ってきた二匹の虫たちを一喝すると、やおら胸から突き出た腕を、両手で掴んだ。そして
「…ぬあぁっ!」
「ぎゃああぁぁぁっ!!?」
ぼっきりとへし折り、そのまま引きちぎった。
「はぁっ…はぁっ……おおおおおおっっっ!!!」
ガイキは吼えると、真っ赤に染まった服を掴み、引き裂いた。
露わになった、彼の上半身。血塗れの分厚い胸板には、奇妙な黒い刺青が刻まれていた。それはよく見ると、巨大な甲羅と鋭い嘴を持った、コウイカのようであった。
そして…彼の胸の真ん中に空いた穴。向こうの景色まで見えそうなほどに大きなその穴が、見る見る内に塞がっていく。
「なっ…何故だ…!?」
「ガイキさん、一体…」
「…」
ガイキは、唸り声を上げながら振り返ると、逃げようとするアイソポッドドーパントの肩を掴んだ。
「ひっ…は、離せ、離せっ…」
唸る彼の顔が、めきめきと音を立てて歪んでいく。目はぎょろりと大きく、黄色と黒の鋭い虹彩へ。口は黒く尖った嘴へ。全身の皮膚が青白く変色し、顎髭は無数の白い触手へと変わった。筋肉質な白い肉体を覆うように半透明の外殻が隆起し、そして今までドライバーを巻いていた腰には、灰色の石版めいたバックルが出現した。
禍々しい烏賊の怪人となったガイキが、嘴を大きく開けた。次の瞬間
「はあっ!」
「…っ!? あっ、あああっ! ぎゃああっ! あ゛あっ!?」
口から噴き出したのは、煙を上げる真っ黒な液体。それを浴びたドーパントの頭部が、燃え上がった。
絶叫するアイソポッド。しかし、ガイキは噴射を止めない。
「あ゛っ、あ゛ああっ…あ、がっ…」
とうとう、丸いキチン質の頭が爆ぜた。血と脳漿を撒き散らすそれを床に放り捨てると、ガイキは床に倒れたクローバードーパントの元へ歩み寄った。
「…」
「…花は」
掠れた声で唸ると、動かない少年を両手で吊り上げた。
「嫌いなんだよぉ!!」
「ああああっっ!!」
そのまま、床に叩きつける。その衝撃に、掴んでいた生成り色のメモリが手から離れ、宙に舞った。
それを空中でキャッチすると、今度は祭壇の方へと突き進んだ。
「…!! やめろ!!」
彼の意図の気付いたネブラドーパントが、止めに入る。
『なっ、何をする気だ!?』
呆然と成り行きを見守っていたデュアルも、我に返って走り出す。
「全部…知ってんだよ…このメモリも…誰に、適合するかも…」
呟きながら目指すのは、祭壇の上。眠ったまま目覚めない、井野遊香。
「止めろ! 止めろ! 止めるんだ!!」
「マザードーパントを…寄越せぇっ!!」
『ヴォイニッチ』
ヴェールを剥がし、裸の胸元に、メモリを突き立てた。
今夜はここまで
『マシンオトギハクバー』
仮面ライダーファンタジー、デュアル専用バイク。白い流麗なシルエットで、ファンタジーの仮面を模したフロントカウルに、馬のたてがみを模した銀のサイドカウルを装備。最高速度712km/h。運転手の念に応じて角が生えたり、翼が生えて空を飛んだりすることができる。素体はHONDA CBR1000RR。
初登場時は放置自転車を変形させて搭乗したが、以降は自費でマウンテンバイクを購入し、必要時に念じるとバイクに変形するようにしてある。これは徹だけでなくリンカもできるので、彼が出払っているときにリンカがバイクで迎えに行くことも可能。
(これでもイクサリオンよりは遅いんだぜ)
マジかよやっぱ753は315だわ
『ヴォイニッチ』
生成り色のメモリが、胸に吸い込まれていく。その肌に、無数の奇妙な文字が浮かび上がった。
と、硬く閉じられていたその目が、ぱっと開いた。
「遊香…遊香?」
吊り上げられるように、その体がゆっくりと起き上がる。彼女の肌の上を、夥しい数の未解読文字が駆け抜ける。文字に混じって、天体、植物、そして人間の絵も流れていく。
そして…祭壇の上に立ち上がった遊香が、両手を広げた。
「? …ああっ!?」
「…ぁ」
立ち尽くすネブラドーパントと、倒れ伏すクローバードーパント。その体から、各々のガイアメモリが抜け、彼女の手の中へと収まった。
遊香が、遂に口を開く。
”星”
ネブラメモリが、右の手へ。
”根”
クローバーメモリが、左の手へ。
握りしめた瞬間、その足元からシダのような奇妙な植物が急速に伸び始めた。更に、その頭上には青と赤の光を放つ、不気味な顔を持つ白の球体が出現した。
「な、何が…」
「…これで良い」
ガイキの姿が、人間に戻っていく。その口から顎にかけて、赤く焼け爛れている。
「回収しろ」
どこへともなく呟いた瞬間、彼と二匹の昆虫、すなわちバンブルビードーパントとロングホーンドーパントが、姿を消した。
”徹。私たちも撤収しましょう”
『だけど…!』
見回すと、メモリを破壊された生徒たち、それに蜜屋。聖堂は、未知の植物に急速に埋め尽くされていく。
”…では、できる限り回収して警察に引き渡しましょう”
『ああ!』
近くにあった長椅子に触れると、木材が独りでに動き出した。近くの長椅子や床の木材を剥がし取ると、組み合わさって無数の腕を持つ木製の重機めいた形に変わった。
それに跨ると、デュアルは叫んだ。
『皆、連れて帰るぞ!』
木でできた腕が動き出し、逃げ遅れた生徒たちを捕まえていく。最後に蜜屋を捕らえると、デュアルはファンタジーメモリを抜き、機体に突き立てた。木の機体が金属質な銀色に変化すると、力強い音を立てて前進を始めた。
本棚の立ち並ぶ白い空間。開きっぱなしの本を、座ってじっと眺めている少女の元へ、青年が近寄ってきた。
「君について、閲覧させてもらった」
彼の言葉を理解してか否か、彼女は次のページを催促するように掌で本を叩く。
「僕の相棒は探偵でね。地球の本棚が使えなくても、君という人物について知るには十分だ。……『北風町の仮面ライダー』と戦っていた兎のドーパントは、君だったんだね。アリス…いや、兎ノ原美月」
少女は一切の興味を示すことなく、本のページを叩き続ける。
その手が一瞬、本をすり抜けた。
「…そして、君がここにいられる時間は、残り少ないようだ」
青年は屈み込むと、本のページを捲った。食い入るように続きを読む少女に、彼は声をかけた。
「君という存在が消えかけているのか、あるいは君が収まるべき場所が出来上がりつつあるのか」
少女は、応えない。ただ一心に、不思議の国を旅するもう一人の少女を、目で追いかけている。
「行かなくて良いのかい?」
「…」
開かれたページを読み終えて、少女が顔を上げる。
青年が、またページを捲る。
「…そうだね。まだ、その時じゃない。時計を持った兎は、まだここにはいない」
少女に背を向ける。その姿が、ふっと消えた。
「…」
「…フィリップ?」
ガレージの真ん中でぼうっと立っていた青年に、髪の長いグラマラスな女が声をかけた。
「…ああ。大丈夫だ」
彼は梯子を登ると、隅に置かれた机の前に座った。
「ときめ。悪いけど、もう少し翔太郎と『猫を探して』いてくれないか」
すると女は、悪戯を覚えた子供のように微笑み、頷いた。
「うん、分かった」
ガレージを出ようとして、ふと足を止める。
「…アリスのこと、良いの?」
「何が?」
「ここに引き込もって、お話してるだけで良いの?」
「ああ、良いんだ。これが僕にできる、精一杯だから」
青年は机の端に置かれた、小さな箱を見つめながら答えた。
「でも、調べさせるだけ調べさせといて…翔太郎も気にしてたよ?」
「翔太郎に話せば、絶対立ち向かおうとする。僕たちもまだ、大きな敵を抱えているのに…それに」
彼は、瞬きもせずに続けた。
「…今は、そっとしておこう。あの町の仮面ライダーは…僕たちが、と言うよりもこの街のことが、嫌いみたいだから」
「…じゃあ、もう暫く猫探しして、翔太郎をここに近付けないようにする」
「頼んだよ」
去っていく女を見送ると、彼はぼそっと独りごちた。
「亜樹ちゃんは育休。翔太郎は猫探し。…こんなとこ、2人に見られるわけにはいかないからな」
ノートパソコンを開く。そこに繋がれていたのは、砕け散ったピンク色のガイアメモリ。数日前に彼の前に現れた、謎の一角獣型メモリガジェットが吐き出したものだ。
そして、それと回路を成すように繋がれた、1本のメモリ。接続されているのは、解析のためではない。『出力』のためだ。
「…何しろ…十数年ぶりに、僕がまた『悪魔』になるんだから」
(時系列とか気にしてはいけない)
今日は多分ここまで
乙、まあ風都探偵時空なのに所長が育休してる時点でね
(TV本編、小説(未読)、風都探偵から他のSSまで、様々なものが混じって混沌としている)
「どうして先生を置き去りにしたんだ!」
小崎が、ゾーンの少年に詰め寄った。少年は後ずさりながら弁明した。
「が、ガイキさんから、撤退するときは戦力になる者だけを回収するよう言われてたんだ! ここから、皆が見えてたわけじゃないし…強いエネルギーを発してる反応だけを回収したら、こうなったんだ」
「だからって、先生を…」
「おれだってびっくりしたよ! まさか先生が、やられたなんて…」
「ちくしょう、仮面ライダーめ…!」
小崎はその場に崩れると、拳で床を殴った。
一方、工場の休憩室にて。服を着たままシャワールームに入ると、ガイキは蛇口を全開にした。
冷たい水が頭から降り注ぐ。赤熱した鉄を水に浸したような音がして、シャワールームが一瞬で煙に包まれた。
その外では、速水かなえが不安げな顔で立っていて、すりガラスの向こうをじっと見つめている。
「あの…ガイキさん、あなたは一体…」
「…ど、が」
しゃがれた声が聞こえてくる。それから唸るように一言二言発しようとして、諦めたように黙り込んだ。
「…ガイキさん?」
呼びかけるかなえ。返ってきたのは、今まで聞いたことのない言語であった。
「ボゾグジャベデ…リントンボドダグ、グラブザバゲバギ」
「えっ? あの、何語…」
戸惑うかなえに、ガイキは耳障りな声で告げた。
「ゴセバ…グロンギン、ラベギブザ…」
「ガイキ…正式名称を、『メ・ガイキ・ギ』」
救出した人々を警察に任せた後、ようやく家に辿り着いた。鍵を締め、飲み物を用意し、落ち着いてからリンカは話し始めた。
「今から30年以上前、東京近辺で起きた未確認生命体による事件を知っていますか」
「俺が生まれる前だけど…たまにテレビとかで聞く」
「一部の警察組織を壊滅させ、首都圏で4000人近くの犠牲者を出した事件…それを引き起こした未確認生命体、グロンギ族の、現在確認されている唯一の生き残りが彼です」
「ま、待ってくれ! じゃああいつは、人間じゃ」
「はい。彼は人間ではありません。と言うより、財団Xのエージェントにおいて、私のような人間は少数派です」
そう言うと彼女は、お茶を一口飲んだ。
「…彼が財団に加わった正式な経緯を、私は知りません。確実に言えるのは、彼が他のグロンギ族と違い、無差別的な殺人を好まないこと。そして、財団に忠実な職員であることだけです」
「何だよそれ…じゃあ、デュアルの力で倒せるのか?」
「分かりません。ドーパントでない以上、メモリブレイクによる無力化は不可能です。また、グロンギ族には高い肉体回復能力があり、致命傷を与えるのは困難です。しかし」
「しかし、何だよ?」
「…彼の近くで働いていた私の、私見ではありますが…彼は、理知的で理性的な人物です。ガイアメモリの新造手段を確保するために不要な殺戮は行わないでしょうし、もし任務に失敗したとしても、財団の命令に従って直ちに撤退するでしょう」
「だがあいつは、ミヅキを殺した!」
「兎ノ原美月から仕掛けた交戦の結果として、です。彼は理性的ですが、当然慈悲深いわけではない。降り掛かった火の粉は払いますし、売られた喧嘩は全力で買う」
「じゃあ、どうすれば…」
「…今は、母神教に専念しましょう。マザードーパント復活の引き金は引かれてしまったようですが、まだ手遅れと決まったわけではありません。彼らの妨害をしつつ、ガイキたちはその都度、応戦することにするべきでしょう」
「…」
難しい顔で黙りこくる徹。リンカは、ふっと息を吐くと、彼の肩に手を置いた。
「…仇討ちに囚われないでください。私は…貴方を、失いたくない」
「!」
リンカが、彼の首に腕を回す。
「最後まで彼女と敵対していた私が言うのは憚られますが…彼女は死に、私は生きている。そして、貴方も」
「…」
「母神教が何と言おうと、命は一つしかありません。どうか、死なないで…死に、走らないで」
徹は、ゆっくりとその背中に、腕を回した。
「…ああ」
細い彼女の体をきつく抱きしめながら、彼は絞り出すように答えた。
『禁断のV/死んだ女と生きている女』完
今度こそ、今夜はここまで
金村源治郎は、ホームレスである。毎週水曜日に、北風駅前のゴミステーションで空き缶を漁っては、ゴミ袋に詰めて自転車に載せ、業者に売って生計を立てている。
数年前まで、彼は風都の工業地帯で町工場を営んでいた。風都タワー再建の際には、彼の作る部品が必要とされ、大いに潤ったりもした。しかし、風都タワー再建は、同時に風力発電の技術革新をももたらした。その結果、革新に追いつけなかった彼の工場は売上を落とし、遂には廃業にまで至ってしまった。妻とはとうに死に別れ、子供も独立した後だったのが幸いだった。全てを失った彼は、齢六十にして路上に暮らすことを選んだのであった。
さて、水曜日。仕事に向かう人の波を尻目に、彼はゴミ捨て場を漁る。
「源さん、調子はどうだい」
「あんま、良くねえなぁ」
『同業者』の問いかけに、溜め息で答える。
「近頃は、コーヒーさえペットボトルだ」
「じゃあ、ペットボトルに鞍替えするべ」
「…」
金村は黙り込む。蓋だラベルだ、面倒臭い。単価が安い。色々言い訳は浮かぶが、彼が空き缶にこだわるのは、手に触れた金属の心地よい冷たさから、どうしても離れ難かったからだった。
「…今日は、こんなもんだな。ああ、またカツ丼が喰いてぇなぁ」
大きく膨らんだゴミ袋を2つ抱えて、同業者が去っていく。何とか言う記者から、協力の礼に貰った1万円で食べた、チェーン店のカツ丼の味が忘れられないらしい。
金村は袋の口を縛ると、立ち上がった。まだ袋に余裕はあるが、詰めるものが見当たらなかった。
「…」
業者の事務所を出た彼は、しょんぼりと掌の500円玉を見つめていた。何とか買い物はできるだろうが、どうにも食欲が無い。
どうしようか考えあぐねていると、目の前にバスが停まった。どうやら、ここはバス停だったようだ。
目の前で、ドアが開く。無視して歩き出そうとして、ふと足を止める。
「…あい、ごめんよ」
独り言のように断ると、彼は高いステップを上り、バスの車内に乗り込んだのであった。
井野定は、背丈より高い植物が生い茂る室内で、黙って立ち尽くしていた。
ここは、かつては母神教本拠地の最奥部にある、教会めいた聖堂であった。しかし今、その面影はない。長椅子や床の一部は、仮面ライダーに人命救助マシンの材料として持ち去られ、床一面には未知のシダめいた植物が生い茂っている。
唯一、植物が途切れているのは、祭壇の中央。そこには、一人の女が両手を広げて、真っ直ぐに宙に浮かんでいる。服の類を一切身に付けていない彼女の肌には、凄まじい量の謎の文字や、天体、植物、人間を描いた挿絵が、高速で流れていた。その頭上には、不気味な顔の付いた球体が浮遊し、青と白の光を放っている。そして、彼女の周囲には、透き通ったカプセルめいた物体が並んでおり、球体と未知の植物の茎で接続されていた。
今、並んでいるカプセルは3つ。薄緑色の液体を通して見えるのは、2人の女と、1個のガイアメモリ。一人は、待ち望んだ『お母様』こと、成瀬ヨシノ。そして、時折指や瞼を動かし、今にも誕生を迎えそうな、もう一人の女は…
「…」
井野の顔が、苦々しく歪む。しかしその目には、次第に奇妙な光が灯ってきた。
そして、その隣では朝塚ユウダイが、同じく目の前の培養槽を見守っていた。井野と違い、彼の顔は歓喜と期待に溢れていた。
ユウダイが、呟いた。
「…おかえり、『お姉ちゃん』」
その日、徹は北風町のゴミ処理施設にいた。取材のためではない。アルバイトのためだ。
リンカが財団を退職したことで、資金面での支援が絶たれた。彼女に言わせれば現在は徹の収入で生活しているとのことだが、実のところ彼のバイト代や安い原稿料で2人分の生活は賄えず、財団にいた頃のリンカの貯金を切り崩しているのであった。
近頃は、仮面ライダーとしての戦いに多くの時間を割いている。今まで続けていたアルバイトも、殆ど辞めてしまった。それでも彼女に頼りっぱなしはいけないと、日雇いの仕事を見つけては汗を流しているのであった。
この日の仕事は、ゴミの積み下ろし。収集車から施設に入り口に、持ってきたゴミを下ろす作業であった。
「お疲れ様でしたー」
給料袋を受け取り、散り散りになる労働者たち。午前中だけとは言え、慣れない肉体労働に疲れ果てた徹は、帰りの送迎バスの中でうとうとしていた。
「…」
母神教との戦いに身を投じてから、彼には休む暇がない。警察の一部にしか正体を明かしていない彼は、周りの人に悟られないよう、できる限り普段どおりの生活を心がけていた。
しかし、戦いは激しさを増す一方だ。立ち向かうべき敵の数まで増えた。身も心も、既に限界に近かった。
「…っ!?」
突然、バスが大きく揺れた。思わず目を覚ましたが、バスは特に何か起こったでもなく、変わらず進んでいく。
石でも踏んだのだろう。この辺りは山道で、路面が良くない。
再びまどろみに帰ろうとした徹の目に、遠くの産廃の廃棄場が映った。そこで何かが動いたような気がしたが、きっと気のせいだろう。
「いつになったら、仮面ライダーと戦うんですか!」
小崎が、ガイキに詰め寄った。ガイキは退屈そうにソファに沈んだまま、欠伸混じりに一蹴した。
「アレは後回しだ。今はマザードーパントの確保が優先だ」
「でも、あいつは先生を…」
「やられた先生が悪い」
「!? この…」
焦げ茶色のメモリを抜く小崎。
そこへ、かなえが駆け寄ってきた。
「小崎君、やめて!」
「速水さん! こいつは、先生を侮辱した!」
「ねえ、落ち着いて。…確かに、メモリブレイクされちゃったけど、先生はまだ生きてる。やるべきことをこなしていけば、きっとまた先生にも会えるわ」
「…」
「ね? 先生も言ってたでしょ。投げ出さず、一歩一歩進むのが一番の近道だって」
「…っ」
小崎は歯ぎしりすると、踵を返して去っていった。
残されたかなえは、ガイキの隣に腰を下ろした。
「…小崎君のこと、悪く思わないでください。彼、先生のことを誰よりも尊敬してたから」
「思わねえよ。興味無え」
そこまで言って、軽く咳き込む。気道が塞がるほどの大火傷を負った彼だが、それも1日足らずで喋れるまでに回復した。それでも、まだ少し咳が出るようだ。
「…先生の言う通り、目的に向かって着実に進んでるんだ。あくまで仕事中だからな。要らねえ危険は抱え込まねえに限る」
「…」
静かに、彼の言葉に耳を傾けるかなえ。その頬が、微かに朱い。
それを知ってか知らずか、ガイキも普段より饒舌だ。
「だが…手は打ってある。元はマザードーパントを引きずり出すための罠だったが、そのまま仮面ライダーにも使える」
「それは、どんな?」
「使えばどうしようもなく目立っちまう、迷惑なメモリさ。まさか、第一弾のオーケストラで本命が釣れるとは思ってなかったが…残ったやつらも、有効に活用するとしよう。そうだな…」
虚空を見つめ、呟く。
「…そろそろ、『アレ』が動き出す頃かもな」
今日はここまで
ゆるくない募
でっかくなるドーパント
おっつおっつ
ストラクチャー・ドーパント
『構造物』の記憶を内包するメモリで変身する。無秩序に配管のような模様が走る機械の集合体のような姿。体の各所にメモリスロットが存在する
単体の状態では非常に弱いが、メモリスロットに新たなメモリを挿すことで体を組み立てて巨大化していく。
巨大化した部位には新たにメモリスロットが少なくとも2つ追加され際限なく巨大化する『メガ・ストラクチャー』となる
追加使用したメモリの記憶はほぼ利用できず単純に巨大化のためだけに使用されるため使いみちのないゴミメモリ(ビーンメモリなど)や有り余っているマスカレイドメモリが主に使われている
というより考えなしに強力なメモリを組み立てに利用するとバランスを崩して自壊しかねないためどう組み立てるか考える必要がある
(本体→マスカレイド→強力なメモリだと動かしたときにマスカレイド部分が重みに耐えきれず折れる。マスカレイド数本分で強力なメモリを支えるなどの工夫が必要)
倒すためには外側を覆うメモリをどうにかして壊していき本体にたどり着く必要がある
メモリの毒素は全メモリ分しっかり届くため並の使用者がメガ・ストラクチャーになると死ぬ
『セクシャルデザイア』
『性欲』の記憶を内包するメモリで変身するドーパント。
通常形態は普通の大きさのドーパントだが、セックスをするたびに能力と性欲が上昇し、セックスした人数や回数が多くなると巨大化することが可能になる。
更に、非常に危険な使い方として巨大化するほどにセックスをしたユーザーが一定期間禁欲をすることで理性と引き換えに超強化の巨大暴走状態になことができる。この状態になると理性を取り戻すには十数人の相手を三日三晩ぶっ続けでセックスしないといけなくなる。
当然なことながら男女によって姿が違い、男性は直接男性器を模したドーパント体に、女性は全裸の様なドーパントになる。また、ドーパントの特殊能力も男女によって変化し、男性ならば精液を注ぎ込んだ相手を操る能力になり、女性ならば精液を注いだ相手の寿命を奪って身体の調子を整えることができる。戦闘に置いては肉弾戦のほかに性欲に関する幻惑を見せたりすることができる。
『性欲』とは時として他者の命を奪うことにもなる強い『欲望』である。(Wの次回作のオーズにちょっとひっかけて考えました)
バルーン・ドーパント
『風船』の記憶を宿したガイアメモリで変身するドーパント
周囲の空気や物体を吸い込み、その姿を際限無く膨張させていく能力を持つ
変身した瞬間より膨らんでいき、数時間後にはパンパンに膨れた体にオマケ程度に手足がちょこんと伸びた姿となる
ユーモラスな見た目とは裏腹に、可燃性のガスを放射する。空中飛行等の被害が出やすい危険な性質を持っている
また、充分に空気を蓄えたならば衝撃を体内で分散させ、反発するカウンターも行える様になるので生半可な攻撃は通用しない
極めつけにはメモリブレイクをした瞬間体が破裂。溜め込んでいた空気を吐き出し周囲に轟音と風害を引き起こす
総じて、変身した時点で何らかの被害が出る事を覚悟しなくてはならない厄介なメモリであると言える
因みに変身者の体が破裂するので、変身者はほぼ死ぬ事が確定している
バトルシップドーパント
戦艦(battleship)の記憶を内包したガイアメモリで変身する。戦艦の形をした金属体ドーパントであるが、明らかに戦艦以上の大きさである。海上で変身するのがメインだが、地上でも変身可能である。当然その場合は簡単に動けない。地面を掘りながら無理矢理進むことになる
主砲や対空機関銃等を備え、機雷をばら撒いたり魚雷や対艦ミサイル等を発射する等武装が豊富である。錨(イカリ)を射出して攻撃することも可能。また内蔵の特殊センサーで敵をすぐ捕捉できる。
他人型ドーパントを乗せることも可能で、乗員による武装操作も可能。
対人戦で活躍するのは機雷や機関銃だろうか
>>568
なんかスペースパンジャンドラム射出して来そう
スーパーヒーロードーパント
『超英雄』のメモリで変身するドーパント。
このメモリは同型のタイプのものが5色存在し、5色すべてのメモリの使用者を見つけないと使用することができない(内、一人は必ず女性でないといけない)
仮面を身に着け、5種類のスーツを着たドーパントで5人で一つの存在となる。そのため厄介なことに5体同時にメモリブレイクしないといけない。1体1体のドーパントは並みの力しか持たないが、5体という数とその連携が厄介な事になる
更に追いつめられると5体のドーパントが合体して巨大ロボットの様な姿へと変身することが可能。強力になる反面、この状態で倒されると5体同時にメモリブレイクしたと判断される諸刃の剣のため、最後の手段である
バスから降りたところで、リンカからのメールに気付いた。
”このメッセージに気付くのは、昼食時かと思います。いつもの蕎麦屋に来てください”
「そう言えば、最近行ってなかったな…」
見慣れた住宅街を歩き、細い通りを幾つも曲がると、2階建ての住宅に隠れるように建つ一件の蕎麦屋に辿り着く。『ばそ風北』と書かれた暖簾をくぐると、聞き慣れた声が彼を迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
そう、数年来の顔馴染みである、蕎麦屋の店主……じゃない。
「えっ、リンカ!?」
何と彼を出迎えたのは、白い作務衣と青い前掛けに身を包んだリンカであった。
「何でここに…その格好は…」
「リンカちゃんがね、徹ちゃんの力になりたいって言ってきてね」
奥から、店主が出てきた。
「急に休んだり、仕事中に用事が入っても良いような働き先がないかって訊かれたんだ。流石に無いかなって思ったけど、よくよく考えたら一つ見つかってね。…ここさ」
彼はにこにこしながら、リンカの肩を叩いた。
「丁度、看板娘が欲しかったところなんだ。元々一人でやってきたし、いつ抜けても大丈夫だからさ」
「本当に、感謝しています」
深く頭を下げるリンカ。徹は2人を呆然と見て、口ごもりながら言った。
「で、でも…その、そんな無茶な…だって」
「…分かってるよ」
突然、店主が静かな声になった。他の客に聞こえないよう、耳元で言う。
「徹ちゃんは今までずっと、働きながら…仮面ライダーとして、頑張ってきたんだろう?」
「!! …っ」
その言葉を聞いた瞬間、徹の目から涙が溢れた。
「おっちゃん…ありがとう…リンカ…っ!」
「ああぁ、泣くなよぉ。ほら、昼飯まだなんだろう? 蕎麦作るから、食ってきな」
店主が厨房に引っ込む。リンカもテーブルの片付けを始めた。
徹は一人、カウンターに突っ伏して、声を殺してむせび泣いていた。
化学的な異臭を放つ産廃の山で、金村源治郎は涙を流していた。
仰向けに横たわった彼の手には、鉄錆のような色をした、一本のメモリスティックが握られている。その筐体には、ひしゃげた鉄骨のような文字で『S』と書かれている。
『スクラップ』
メモリスティックから、声がした。金村が、溜め息を吐いた。
「そうだよなぁ…もう、おれもスクラップだ…」
何も創れない。何も遺せない。ただ、人様が捨てたゴミに縋って、今日までみっともなく生きてきた。だが、それももう…
「ユキエ…ひとりぼっちにして、すまなかったなぁ…おれも、今そっちに行くよ」
『スクラップ』
「…お前さんも、おれと一緒だな」
メモリを、目の前に掲げる。
「まだ立派に使えるのに、使えねえ、要らねえって捨てられちまってよ。ま、おれを捨てたのは、結局おれ自身だったんだがな…」
その手から、メモリが滑り落ちた。
何の偶然か、それは銅色の端子を下にして落ちた。
そしてそれは、吸い込まれるように彼の右目に突き刺さった。
「っ、あ…」
『スクラップ』
『Sの山にて/捨てられた男の涙』完
今日はここまで
乙
おつ。コネクタ無しの直挿し?
負担がエグいから普通はコネクタ手術するだけで直挿し自体は出来るはず
ホエールドーパント
現存する史上最大の動物、クジラ(whale)の記憶を内包したガイアメモリで変身する。本物のクジラよりも大きな身体で地面をローリングして更地へ、潮を吹いて大雨を発生させることができる。また口から大きく息を吸ってあらゆるものを吸い込み、吐き出すことであらゆるものを吹き飛ばす。
勿論海を優雅に泳げる。人や物を運ぶことも可能
なお実物のクジラがオキアミしか食わないことから、このドーパントも人間やドーパントを食べて消化することはない
TV本編だと陸上部の子供たちがバードメモリをコネクタ無しで打ち回ししてましたね
アレやると手首がかなり痛々しいことになる
(ちなみに動物カテゴリではなく生物カテゴリだと史上最大の生物はアメリカのきのこで大きさ15ヘクタール重さ推定100トンらしい)
(重箱の隅案件だが、ザトウクジラは泡で魚の逃げ場を奪う独特の狩りを行うし、マッコウクジラあたりはダイオウイカを捕食することもあるのであまり安心できない)
(そう言えば井坂って耳にウェザー挿してるけど、コネクターが耳にあるんだっけ、耳穴に直挿しだっけ)
(ピクシブ百科だと身体中に生体コネクタがあるけど「危険な「直挿し」を信条」って記述があるから直挿しなのでは?)
「…ん、くぅ…」
目が覚めて、徹はまだ夜中であることに気付いた。
視線を移すと、ベッドの中にはリンカもいて、彼の腕を抱いて寝息を立てている。思えば、最初はどこで寝ているのか、身支度などはどうしているのか。そもそもどうやって生きているのかさえ、まるで見当もつかなかった。だが、こうして間近に見てみると、彼女も彼と変わらない、一人の人間であることに気付かされる。
「…いつも、ありがとうな」
囁いて、前髪をそっと撫ぜる。そうして、再び眠りに就こうとしたその時、枕元の携帯電話が鳴った。
「!? な、何だよこんな時間に…」
「植木警部でしょうか?」
瞬時に目覚めたリンカが、予想する。
果たして、着信の相手は本当に植木であった。
「もしもし?」
”夜遅くにすまない。ドーパントだ”
「そんなとこだろうと思ってました。場所は?」
”衝立山の、産業廃棄物の廃棄場は分かるかね”
「! はい。つい昨日、近くを通りました」
”行けば分かると思う。今はまだ大丈夫だが…このままでは、甚大な被害が出るだろう”
植木の言う意味は、現場に辿り着くよりも前に、すぐに理解できた。
「な…何だあれ…?」
遥か向こうに見える、北風町の北側にある衝立山。そこから伸びるように、巨大な影が立っているのが、星明りの下でもはっきりと見えた。しかもそれは、見る見る内に大きさを増しているようであった。
「プロリファレーション…グロース…いえ、地理的にはツリー…?」
リンカが呟く。
「廃棄場…なら、ガーベッジの方が」
「!」
徹は、あの残忍な強姦殺人魔を思い出した。あれと同じメモリが、まだ残っているのだろうか。
「急ごう」ファンタジー!
「ええ」トゥルース!
「「変身!!」」
2人の影が合わさり、一人の仮面ライダーとなる。アクセルを吹かすと、バイクの後面から白い翼が生えた。
『よし、飛ぶぞ!』
ハンドルを握ると、翼がはためいて、バイクが空へと舞い上がった。そのままスピードを増しながら、山にそびえる巨大な怪物へと接近していった。
近寄りながら、デュアルは違和感を覚えた。
『こいつ…動かないのか…?』
星明りに照らされたそれは、細長い歪な人型をしていた。冷蔵庫やトラックといった廃棄物を雑に繋ぎ合わせたような体をしており、数十メートルはあろうかという高い身長で、地面に付きそうなほど長い腕が着いている。
その、モアイ像のようなのっぺりとした顔に近づくと、デュアルは呼びかけた。
『おーい!』
”…”
『おい、聞こえるか! 変身を解除しろ!』
細長い目が、薄く開いた。ぼろぼろと埃を落としながら、巨大な口がもごもごと動いた。
”…あ、ぃ…”
『何だって!?』
”…ああ…ここが、あの世…か”
『しっかりしろ、あんたはまだ死んじゃいない!』
”メモリ使用後の陶酔感で、正気を失っているのかも知れません”
『じゃあ、今のうちにメモリブレイクだ…』
ファンタジーメモリを、腰のスロットに装填しようとしたその時
『…うわっ!?』
突然、赤い光弾が彼を襲った。咄嗟にハンドルを切り、間一髪で躱す。
しかし、光弾は次々に飛んでくる。下から飛んでくるから、相手は地表にいるのだろう。目を凝らすと、強化された視界に、小さな人影が怪物の足元に佇んでいるのが、辛うじて見えた。
『このドーパントはまだ動かないし…あっちから先に』
飛来する光弾を躱しながら、地上に向かって突っ込む。新手のドーパントだろう。そう思い、最初からマキシマムの準備をしながら飛んでいた彼は、近づいてくる相手の姿を認め、思わず叫んだ。
『う…嘘だ!?』
すぐにハンドルを切り、再び距離を取る。
”…ありえない、と言いたいところですが”
彼の中で、リンカが呟く。
”この事態を、想定しておくべきでした”
『でも…あれは…そ、そんな』
ヘッドライトに照らされた、意外に小さな人影。
水色のゴスロリ衣装を身に纏い、紅と銀の杖を携えた、それは。
『…だって、彼女は…ミヅキは、もう…!』
あの土砂降りの中、彼の腕の中で息絶えた筈の、ミヅキであった。
今夜はここまで
>>1の想像以上にミヅキ人気が高くてびっくりした
乙
そりゃ歪んでたとはいえ徹に正直に好意を示してたり、助けに入ったりと割とリンカ以上にヒロインしてた感があるからねぇ
乙
「…」
何も言わず、杖を振るって光弾を飛ばすミヅキ。よく見ると、彼女の腰にはロストドライバーが巻かれていた。おそらく、ネブラドーパントがガイキから奪った物だろう。問題は、装填されているメモリだ。
『あれは…メモコーン!?』
ドライバーに結合していたのは、グリフォンの頭部。メモコーンに秘められた、クエストメモリ。
『クソッ、どういうことだ!』
”メモコーンが、母神教によって捕縛されたと考えるべきでしょう”
デュアルの…徹の中に、だんだんと怒りが沸いてきた。
『まだ…まだ、戦わせるのかよ…!』
イデアカリバーを抜き、光弾を叩き落とす。
『もう、十分頑張っただろ! まだ、足りないのかよ…せっかく、眠りに就いたのに…また、引きずり出して、ミヅキを戦いの道具にするのかよ!!』
右手をかざすと、地面から無数の鎖が伸びてミヅキの足を絡め取った。
「…」セイバー!
メモコーンを変形させ、セイバーメモリを装填する。杖が変形し長剣になると、それで鎖を切った。それから突然跳躍すると、バイクに乗ったデュアルに斬りかかった。
『!』
バイクを飛び降り、大剣で受ける。斬撃をいなしながら、叫んだ。
『ミヅキ! もう止めろ、ミヅキ!』
「…」
『ミヅキ…おい、どうして…』
ミヅキは、応えない。何も言わず、虚ろな目つきで剣を振るい、デュアルを襲う。
”彼女は、以前の兎ノ原美月とは違うようです”
『…そうみたいだ』
”姿を模しただけの完全な偽物か、あるいは精神までは取り戻せていないのかも”
『だったら、どうしたら…!』
少し置いて、リンカが答えた。
”…後ろの、巨大ドーパントから先に対処しましょう”
『分かった!』
右手を突き出すと、ミヅキの足元から無数の鉄の杭が伸び、彼女をぐるりと取り囲んだ。飛び上がれないほどに高い檻に彼女を閉じ込めると、デュアルは再びバイクに跨り、空高く舞い上がった。
トゥルースメモリを腰のスロットに装填し、起動する。
『起きなさい』トゥルース! マキシマムドライブ
巨大な顔の前で、念じる。
『貴方は、人間です。鉄の巨人になど、なってはいけない』
”! お…おお…”
巨大なドーパントが、軋んだような声を上げる。その顔から鉄くずがボロボロと剥がれ落ちていく。右目から、何かが出てくるのが見えた。
”あれが、ガイアメモリ…”
『目を覚ましなさい。それは、偽りの姿…偽りの光景』
”よし、いい感じだ…”
身体を構成する廃棄物が、音を立てて崩れ落ちていく。これならいけると勝利を確信した、次の瞬間
___遥か下方、ミヅキの手から、虹色の何かが放たれた。
”…っ! お、あ、あああっ…
悶え苦しむ、鉄の巨人。崩れかけていた身体が、再び足元の廃棄物を吸収し、膨れ上がっていく。
”あ…お、おれは…お、おれはああああああっっっ!!!”
”な、何が起こったんだ!?”
『…! 徹、あれを』
視線の先。ドーパントの脇腹辺りで鉄くずに埋もれるように、サイケデリックな光を放つ小さなメモリが刺さっていた。
”あれは…エクスタシーメモリ!?”
『…敵が動きます』
”あ…ああ、仲間が…呼んでる…”
巨人が呻く。そして…遂に、長い足を一歩、前に踏み出した。
『ま、マズい! 止めないと』
大剣を振りかざし、バイクで接近する。ところが
”仲間、があっ!!”
『うわあーっっ!?』
巨大な手を無造作に振るうと、バイクをはたき落としてしまった。
シートから振り落とされたデュアルはマントを広げ、どうにか空中に留まる。薙ぎ払われたバイクは、巨人の手に張り付き…そのまま、掌に吸収されてしまった。
”! 分かりました。あのドーパントは”
『何だ?』
”『スクラップ』です。金属の廃材を吸収し、巨大化するという特徴があります。そして…”
『そして?』
”…これを仕組んだのは、恐らくガイキです”
『何だって!?』
リンカが説明する。
”彼は北風町に出てきた時、まず母神教の首魁を表に露見させることを画策しました。そのために、制圧したガイアメモリ工場から数本のメモリを持ち出し、適当な人物に渡すか、町の各所に設置しました。選定したメモリの共通点は一つ。必要な条件を満たせば、巨大化し、破壊行為に走るということ”
『スクラップもその中の一つなんだな?』
”ええ。しかも、使用してすぐに巨大化するよう、材料の豊富な廃棄所に設置したと思われます”
『…リンカ。まだ何か、言いたいことがあるんじゃないか?』
”…”
徹の問いかけに、彼女は済まなそうに言った。
”…この町でガイキとコンタクトを取った時点で、既に1本のメモリが起動していました。…『オーケストラ』です。私は…出水涼に、足立宝の居場所を教えました。彼が自宅に向かわず、真っ直ぐホテルを襲ったのは、そのためです”
『…分かった』
木々を薙ぎ倒し、町へと降りていくスクラップドーパント。彼の進行方向には、無数の建物や金属でできた機械などがある。それらを、破壊した側から吸収し、更に巨大化していくのだろう。
白い翼を広げ、空を追いかけながら、徹は言った。
『あんたも、大変だったんだな』
”…”
『心配するな。俺は、今のあんたを信じてる』
頭の中で、様々な感情が渦巻くのが分かる。だが、今は目の前の敵に集中する時だ。彼は、真っ直ぐに巨大な鉄の背中を追った。
警察病院、集中治療室。手錠で繋がれた九頭英生をあるベッドの前に連れて来ると、坂間は言った。
「こいつも、お前の仲間だったそうだな」
人工呼吸器に繋がれ、固く目を閉じているのは、蜜屋志羽子。彼女の姿を認めると、九頭は鼻で笑った。
「ふん、裏切り者に相応しい末路です」
「遅かれ早かれ、お前の仲間は皆こうなるぞ。お前が、いつまでも口を割らなければな」
「あなた方は、勘違いしておられる」
九頭は、不吉な顔で言った。
「お母様は、この世全てのお母様です。ならば、この世界に生きる全ては、皆兄弟。皆、同志。その全てを、この狭い部屋のベッドに、ずらりと並べてみせるとでも?」
「デタラメを言うな!」
「我々は死を超越しています。ここに横たわったとて、敗北ではありませんよ。…いずれ、あなたにも分かります」
「…もういい、連れて行け」
坂間は溜め息を吐いた。一緒に来た警官が、九頭の手錠に繋がる縄を引いて、病室を出て行った。
窓の外は、そろそろ明け方だろうか。先程出現した巨大ドーパントが動き出しているのに気付き、彼は息を呑んだ。
「ま、マジかよ…」
真っ直ぐにこちらに向かってくる、巨大な怪人。その周囲を、金と銀の影が飛び回っているのを、彼は視界の隅に捉えた。
「おらっ! たあっ!」
翼をはためかせ、大剣を振るってドーパントに斬りかかる。しかし、表面をわずかに削るばかりで、巨人は少しも動じない。
”メモリのある部位を、直接叩く必要があるようです”
『メモリ…確か、右目だったな』
顔に接近するデュアル。しかし
”うう、あああっ!!”
『ああっ! 近寄れない…っ!』
巨大な腕が、蝿でも追い払うかのように彼の接近を阻む。
『どうにか、足止めしないと…』
”…”
考え込むリンカ。やがて、思いついたように言った。
”スクラップドーパントが吸収できるのは、主に鉄の廃材です。つまりあの体は、殆どが鉄でできています”
『つまり?』
”磁石があれば、あれを止められるかも”
『磁石だな!?』
さっと周囲を見回す。しかし、磁石はおろか磁石になりそうな物は、あらかたドーパントに吸収されてしまっている。
『落ち着け…考えろ…ファンタジーメモリとトゥルースメモリを合わせれば、もう何でもアリなんだ…』
そして、思い至る。
『…そうだ、土だ! 鉄だって、元は鉱石や砂鉄…だったら』
地面に降り立つと、足元に両手を置いた。
『うおおお…おおおああああっっ!!!』
金と銀の光が迸り、地面に広がる。
”…?”
巨人の歩みが、遅くなった。足を持ち上げようとして、地面から離れないのに気付く。
『まだまだぁ…っ!!』
木々の間から、凝集した黒い金属塊が無数に浮かび上がる。それら全てが、強力な磁石であった。
”…あ、ああああ…”
見上げるような巨体がぐらりと揺れ…そして、遂に倒れた。
轟音と共に、大きく揺れる衝立山。デュアルは再び飛び上がると、ファンタジーメモリを腰に想定んした。
『ファンタジー! マキシマムドライブ』
体から金の鳥が飛び立ち、デュアルの足先を掴む。そして、仰向けに倒れた巨人の右目に向かって、共に金と銀の矢となって突っ込んだ。
『デュアル・エクスプロージョン!!』
”あ、が、ああああっっっ!!!”
山の斜面が、爆発した。倒された木々が、木屑となって舞い上がる。
土煙の中、立ち尽くすデュアルの足元には、一人の老人が倒れていた。その顔の横には、鉄錆色の、足の横には虹色の残骸が散らばっていた。
『おい、しっかりしろ』
抱き起こすと、老人は左目を薄っすらと開いた。右目は痛々しく腫れ上がっている。コネクターを介さずに、メモリを挿してしまったのだろう。
「…ここ、は」
『衝立山だよ。もう少しで、町だ』
ちらりと、後ろを振り返る。薙ぎ倒された看板や電柱の向こうに、民家が見えた。もう少しで、大きな被害が出るところだった。
「夢、見てたみてえだ…懐かしい…鉄触ってて…」
『夢みたいなものだった。起きろ、もう朝だ』
「冷てえ…けど、あったけえ、夢だったなぁ…」
『おい…おい、よせ! しっかりしろ!』
右手が、ゆっくりとスクラップメモリの残骸に触れる。
「…そうだ。ずっと…この感触が…忘れられなかったんだ…」
右手が、落ちた。左目が、再び閉じた。
『おい! 待て! 死ぬんじゃない…』
”…徹”
乾いた唇が、小さく動いた。
「…ユキ、エ…」
そして…動かなくなった。
「朔田友子は、隕石に恋したんだって」
ソファーに座って、速水かなえは言った。彼女の膝に頭を載せて横たわっているのは、ガイキであった。
「ぶつかったり、憎んだりもしたけど、だんだんと心惹かれて…」
「…」
ガイキは瞬きもせずに目を開いたまま、じっと黙っている。
「…ガイキさんは、きっと宇宙人なんですね」
短く刈り込まれた髪を、優しく撫でる。
「隕石に乗ってやってきた…最初は、敵だと思ってたけど」
「…」
背中を曲げ、髭に覆われた頬に、そっと口づけした。
「…ガイキさん。わたし…貴方に、恋しました」
「…」
ガイキが、目を閉じた。少し遅れて、いびきが聞こえてくる。
もう一度口づけしようとして、かなえは、彼の顔がやつれ果てているのに気付いた。
その日も、その次の日も、またその次の日も。
ガイキは、目を覚まさなかった。
『Sの山にて/男は眠った』完
『スクラップドーパント』
『鉄屑』の記憶を内包するガイアメモリで、ホームレスの金村源治郎が変身したドーパント。変身した瞬間は銀色の精悍なシルエットのロボットめいた姿だが、すぐに錆に覆われ、動きも鈍くなる。何もしなければものの数分で完全に動けなくなり、錆に塗れた人型の鉄屑と化してしまうという酷い外れメモリ。それでもこのメモリが製造ロットに乗ったのは、『周囲の金属の廃材を吸収し、巨大化する』という特性によるもので、最初に変身する場所さえ間違えなければ、このメモリは使用者に強大な力を与えることができる。
吸収した廃材は体の一部となるだけでなく、まだ使われていた頃の記憶を使用者に少しずつ流し込む。そのため、一気に大量の廃材を吸収すると、流れ込んでくる記憶によって使用者の自我が薄れ、曖昧な状態となってしまう。メモリを抜けば解除はできるものの、そもそもメモリの抜き方すら忘れてしまうという致命的な欠点があり、やはり外れメモリであることには変わりなかった。
ガイキによって産業廃棄物の廃棄場に放置されたこのメモリを、事故で使用してしまった金村は、変身した瞬間に周囲の夥しい量の廃材を吸収し、一気に巨大化した。同時に自我が崩壊し、呆然とその場に立って動かなかったが、ミヅキによってエクスタシーメモリを追加で挿されたことで暴走。町から聞こえてくる廃材の『声』に引き寄せられ、山を下り始める。しかし、全身が鉄であることに着目したデュアルによって、巨大な磁石に変えた山に縫い留められ、メモリブレイクされた。高齢に加えてスクラップメモリの負荷、そしてエクスタシーメモリの毒性によって彼の体は限界を迎えた。冷たく、懐かしい鋼材に囲まれ、デュアルの腕の中で、亡き妻のもとへと旅立ったのであった。
メモリの色は鉄錆色。捻じ曲がった鉄骨が『S』の字を描いている。
>>525をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました!
植物に覆われ、鬱蒼とした聖堂。祭壇の下で、一人の少女が寝息を立てている。祭壇の上には、体中に未解読文字や神秘的な絵を描かれた女が、不気味な太陽と共に浮かんでいる。太陽から伸びた蔦の先には、3個の培養器。一個には女が、一個にはガイアメモリが漂っている。そして、最後の一個は既に空であった。
「…」
少女のもとに、井野が近付いてきた。彼は、裸で浮かぶ妹を見ないようにしながら少女に歩み寄ると、やがてゆっくりと手を伸ばした。
「…思えば、お前のせいで、おれは…おれの人生は」
ところが、彼の前に立ちはだかる者があった。
「…また、お前か。ロボットめ」
威嚇するように嘶くそれは、銀色の小さな一角獣。
少女が目を覚ました。彼女は、片手に握ったロストドライバーを、腰に当てた。
「やめろ。もういい」
井野は諦めて、少女に背を向けた。
そして、後ろにまた別の人間が立っていることに気付いた。
「…君か」
「どうもぉ〜」
へらへらと手を振るのは、一人の女。タイトなレザーパンツに裾を結んだ白いブラウス姿で、グラマラスな体型をしている。妙に上気した顔の彼女の後ろには、疲れ果てた表情のユウダイが付いてきていた。
「またユウダイ君に手を出したのか」
「だってぇ〜、我慢できなくてぇ」
くねくねと腰を振りながら近寄ると、やおらブラウスの胸元を引っ張る。服の下にブラジャーは付けておらず、黒ずんだ乳首が露わになる。
「…お兄さんも、どう?」
「やめろ! ここは聖堂だぞ!」
「井野さん…」
ユウダイが、掠れた声で言った。
「僕なら、大丈夫…それにナギさんは、お姉ちゃんを連れ帰ってくれたし」
「や〜ん、いい子ぉ〜!」
豊満な胸に、彼を抱き寄せる。
「お姉さん、ご褒美あげちゃう」
「あはは…ありがと」
苦々しい顔で、2人を眺める井野。
咲原ナギというのが、この女の名前である。彼女について説明する前に、塵となって消えた筈の兎ノ原美月について語る必要がある。
ヴォイニッチの力を得た井野遊香は、目的の『お母様』こと成瀬ヨシノだけでなく、ミヅキをも生き返らせた。成瀬より先に完成した彼女は培養器を出た。しかし、生き返った彼女は抜け殻同然で、意志もなければ言葉も喋らなかった。井野とユウダイは、そんな彼女にガイキから奪ったロストドライバーを与え、母神教の尖兵とすることにした。ネブラメモリとクローバーメモリが遊香によって成瀬復活のために使われており、ドーパントに変身することができなくなっていたからだ。
最初、ドライバーには工場から持ち込まれたエクスタシーメモリを装填するつもりだった。ところが、そこへ現れたのは銀色の一角獣。彼はミヅキに常に寄り添い、時にガイアメモリとして、彼女に力を与えたのであった。
さて、意志なき戦闘マシーンとして仮面ライダーに挑んだミヅキ。しかし、仮面ライダーによって檻に閉じ込められてしまう。それを救い、聖堂まで連れ帰ったのが、ナギであった。
「…はぁい、ここまで」
ひとしきりユウダイに『ご褒美』を与えた彼女は、解いたブラウスを結び直すと、2人の男に背を向けた。
「どこへ行く」
「遊んで来るわぁ〜。ちゃあ〜んと戻って来るから、心配しないでねぇ」
そう言うと彼女は、艶かしく尻を振りながら、その場を去って行った。
この日、徹とリンカは、風都にあるダム湖に来ていた。これは、例によって北風新報の藤沢編集長から頼まれた仕事のためであった。
「幻の”フッキー”を目撃せよ、ねえ」
ダム湖の畔にある真新しい小屋の前で、徹は溜め息を吐いた。
「今日びそんなオカルトが流行るかっての」
「ですが、目撃証言は多いようです」
鞄から数枚のプリントを出して捲りながら、リンカが言う。彼女の着ているシャツに描かれているのは、片手を上げて小判の海に沈む、銀色の招き猫。
「…だからって、わざわざ記事にするほどか?」
それを見ないようにしながら、徹が反論する。
「真偽を確かめると言うよりは、記事にして注目を集めること自体が目的のように思えます」
小屋の前に建てられた、これまた新しい看板に目を遣る。
『フッキーに会えるかも!? ボート貸します』
徹が、また溜め息。
「こんなことしてる場合かよ…」
「…なあ、ボート借りたいんだけど」
「大体、北風新報が何で風都の観光記事なんて書かなきゃ…」
「…おい、無視すんなって」
「俺はボート屋じゃねえ!」
とうとう、徹が怒鳴った。
大声を出されて、帽子を被った若い男が一歩下がる。
「おっと、勘違いしてた。悪い悪い」
徹は、怪訝な目で男を見た。
こんな山奥に来ているというのに、カッターシャツにスラックスを穿き、きっちりネクタイを締めて黒いベストを羽織り、同じく黒の中折れ帽を被っている。気取った格好の割に、妙に垢抜けない男であった。
「何だよ、あんたもフッキーとか言うのを見に来たのか?」
「まあ、そんなとこだ。仕事の一環でな」
「へえ、あんたも仕事か」
そこへ、一人の女が駆け寄ってきた。こちらはシースルーのキャミソールに股上の浅いタイトジーンズを穿いた、刺激的な体つきの若い女だ。男の恋人だろうか。
「翔太郎!」
「ときめ、何か気になるものはあったか?」
「何も…気配も無い」
意味深な会話を交わす2人。徹とリンカは、顔を見合わせた。
向こうも、2人のことが気になったらしい。
「…お二人は? デートにでも来たんですか?」
「取材です」
ときめと呼ばれた女の質問に、リンカが答えた。彼女は翔太郎と言う男の方をちらりと見やると、微かに目を細めた。
「…ん? 俺の顔に何か付いてるか?」
「いえ」
目を逸らすリンカ。取り繕うように、小屋の扉に歩み寄る。
「我々を貸しボート屋と間違えたということは、この店は空だったのですか」
「ああ。あんたらが来るちょっと前からいたんだけど、ノックしても返事が無いんだ。だからこの辺を見て回って、帰ってきたら誰かいると思って」
「それで俺たちに声をかけたんだな」
「うーん、しゃあない。一旦帰って、出直すか…」
翔太郎が言いかけたその時
「…おやっ、お客さん?」
「!」
見ると、湖の方から一人の老婆が歩いてくるところであった。
「もしかして、ボート屋さんですか?」
「そうそう。ごめんねえ外で待たせちゃって! さ、中で休んでって。良かったら、湖も見てってよ。綺麗だからさ」
一旦区切る
ついに接触か……
久しぶりに安価スレっぽいことをしてみようかな
「私たちは、最近このダム湖で目撃されるようになったという、フッキーと呼ばれる生物を探しに来ました」
リンカの説明に、老婆は困ったように唸った。
「何か、都合の悪いことが?」
「悪いってほどじゃないんだけどねぇ…」
緑茶の注がれた湯呑を両手で握って、ぽつりと言う。
「…何であたしが、ダム湖でボート屋なんかやってるか、分かるかい?」
「…」
翔太郎とときめは、黙って老婆に注目している。
「…もしかして、お婆さんの家は」
「あれの底さ」
老婆が頷く。
「別に、無理くり追い出されたわけじゃない。必要だと分かって引っ越したんだけど、それでも寂しくてね。暇に任せて、静かにやってたのに、フッキーの噂が立ってからはひっきりなしさ。思い出に浸る暇もないもの」
「そうだったんですか…」
沈んだ声で相槌を打つ徹。この時既に彼の頭の中には、フッキーなどいない、無責任な噂のせいで近隣住民が困っているという、記事の大筋が出来上がっていた。
そのためには、静かな湖の写真が必要だ。
「…一応、ボートを貸していただけませんか。フッキーがいないとしても、折角の綺麗なダム湖です。写真は撮っておきたい」
「ああ、良いよ。表にあるから、持っていきなさいな」
表にあるボートは、一台だけだった。普通に乗って2人、どう頑張っても3人が限界だろう。
「俺たちが乗るからな」
ボートに近付こうとした徹を、翔太郎が呼び止めた。
「おい、待てよ! 俺たちもフッキーを探しに来たんだぞ」
「後で良いだろ。俺たちが先だ」
「いや、俺たちが…」
↓1〜3でコンマ最大 誰が乗る?
①徹&リンカ
②翔太郎&ときめ
③まさかの翔太郎&徹
④まさかまさかのときめ&リンカ
4
3
3
「…」
言い争う2人を尻目に、ときめとリンカはボートを引っ張り、岸に浮かべた。そして
「…はい、2人で」
「行ってらっしゃい!」
「えっ?」
「…おわあぁっ!?」
首根っこを捕まれ、ボートに放り込まれる翔太郎と徹。彼らに2本のオールを投げつけると、2人の女はボートをぐいと押し出した。
「ちょっ、あっ、あーっ!?」
叫びも虚しく、ボートは見る見る内に沖の方へと遠ざかっていった。
「…」
「…」
持ってきたカメラで、湖の景色を撮る徹。翔太郎も、持参した奇妙な形のカメラで、湖の風景を写真に撮っている。
「あんたたち、記者か何かなのか?」
「ああ、フリーの記者だ。…一応、名刺」
懐から名刺を取り出し、渡す。翔太郎はそれを受け取ると、自分も名刺を差し出した。
「『鳴海探偵事務所 左翔太郎』…探偵?」
「そう。風都一のハードボイルド探偵とは、この俺のことよ!」
「ふぅん…」
名刺入れに仕舞い、改めて相手の顔を眺める。
帽子の下は、意外と精悍な顔付きの色男だった。それによく見ると、線は細いが体つきはしっかりしている。恐らく、殴り合いになったら勝てないだろう。
「っと…で? 力野さん? は、フッキーの取材に来たってわけ」
「そうそう。オカルトとか得意じゃないけど、お得意様に頼まれたら仕方ない。…あんたは? 左さん。探偵が何で、こんなところに来てる」
「俺は、人探しだ」
「へえ、探偵っぽい。どんな?」
「そこから先は、依頼人の秘密に関わる」
「あ、そ。じゃあせいぜい、俺の仕事の邪魔をしないで…」
言いかけたその時、突然翔太郎が、その場で立ち上がった。
「うわっ、何すんだよ! ボートがひっくり返る…」
「しっ」
片手を上げ、徹を制止する。それから、声を潜めて言った。
「…何か、聞こえねえか」
「何かって、何が」
「こう…波というか、水が揺れるような……っっっ!?」
「はあ? ……あああっ!?」
突然、2人の目の前で水面が大きく揺れた。と思った次の瞬間、巨大な影が、湖の中から姿を現した。
「あ…こ、これは…」
「ふ…ふ…」
「「フッキーだああああっ!!?」」
ときめとリンカは、ダム湖の周りを2人で歩いていた。
「円城寺リンカ、さんね」
「リンカ、で構いません。それに数ヶ月以内に、円城寺は旧姓になると予想されます」
「えっ? じゃあ、結婚を」
「彼が望むなら」
「お、おめでとうございます…」
「時に、貴女は? 同行している探偵とは、どのようなご関係で?」
「し、翔太郎は探偵としての先輩というか…わたし、あの人の助手だから」
「そうでしたか」
木々の茂る湖畔を歩きながら、リンカがぼそっと呟く。
「…本当に、何も覚えていない」
「何?」
「いえ、こちらの話です。…探偵が、未確認生物を探しにここまで?」
「ううん。正確には、フッキーを追いかけて行方が分からなくなった人を、探しに来たの」
「なるほど」
頷くリンカ。ときめは、そんな彼女の着ているシャツが気になるのか、ちらちらと横目で見ながら言った。
「…き、記者って、変わった人が多いのかな」
「そうですね。徹を見ていると、そう思います」
「徹さん…あの人は」
「ですが」
彼女はおもむろに立ち止まると、ときめの方をじっと見て、言った。
「彼は、真っ直ぐです。それこそ、変わっていると思われるほどに」
言いながら彼女は…鞄に手を入れ、無骨な大型拳銃を抜いた。
「!!? リンカさん、何を」
「出てきなさい」
リンカはそれを、脇の木立に向けた。
すると、木の陰から一つの人影が現れた。
「…彼の、真っ直ぐなところに惹かれたのでしょう。私も、……『彼女』も」
そこに立っていたのは、水色のゴスロリ衣装を着た少女。
「大人しく投降して。これ以上、徹を悲しませないでください。……兎ノ原、美月!」
今夜はここまで
「こ、こうなったら…」
「いや、待て」
懐に手を入れかけた徹を、翔太郎が止めた。彼は『フッキー』の方を向くと、慎重に身を乗り出した。
『フッキー』は、長い首だけを水面から出して、じっとボートの上の2人を見ていた。大きな口からはずらりと並んだ鋭い歯が覗き、太い首はいかにも力強い印象であるが、ぎょろりと丸い目は、どこか愛らしささえ感じる。
「あ…あんたが、フッキーか」
「こいつ、襲ってこない…?」
「あんたに訊きたいことがある!」
そう言うと翔太郎は、懐から一枚の写真を取り出した。
そこに写っていたのは、一人の中年男性。冒険家のような格好をしている。
「この男を知らないか…」
ところが、写真を見た瞬間、フッキーの目つきが変わった。突然首を大きく振り上げると、ボートに向かって振り下ろしたのだ。
「うわああっ!?」
「危ないっ!」
急いでオールを漕ぎ、距離を取ろうとする徹。しかし、水面を叩く衝撃だけで、ボートが大きく揺れた。
「左さん、逃げないと…」
「分かってる。ただ、湖の真ん中じゃ…」バット
「!? ガイアメモリ…?」
翔太郎が青いメモリをカメラに挿し込むと、何とカメラがコウモリ型ロボットに変形し、空に跳び上がった。
更に片腕を突き出すと、黄色いデジタル時計からワイヤーが伸び、コウモリにくっついた。
コウモリは一直線に岸まで飛ぶと、近くにあった気にワイヤーを巻き付けた
「しっかり掴まってろよ…」
猛スピードでワイヤーが巻き取られる。引っ張られて、ボートも岸へと近づいて行く。
「よし、もうすぐで…」
「…左さん! 後ろ!」
振り返ると、追いかけてきたフッキーが、巨大な口を開けてボートに噛みつこうとしていた。
「力野さん、飛べーっ!!」
「うおおおーっ!!」
ボートの底を蹴り、ジャンプする。翔太郎が徹の肩を掴むと、ワイヤーに引かれてどうにか陸地まで辿り着いた。
「痛た…」
「た、助かった…」
立ち上がる徹。そして、気付く。
いつの間にか湖畔には多くの人がいて、水中に消えゆくフッキーにカメラやスマートフォンを向けていた。
「こ、この娘は…?」
「説明する時間も義理もありません」ワイヤー
銃から銀色のワイヤーが放たれる。それを軽々と躱すと、ミヅキはリンカに接近した。
「ときめ、手伝って! スタッグフォンぐらいは持っているでしょう?」
「!! 何でわたしが、コレ持ってるって…」スタッグ
やや時代遅れな二つ折り式携帯電話に、ピンク色の疑似メモリを装填する。すると携帯電話がクワガタムシ型ロボットに変形し、ミヅキに突進を仕掛けた。
ところが、それは宙で撃ち落とされた。
「ああっ!」
体当たりでスタッグを撃墜した、銀色の影が、ミヅキの前に庇うように立つ。
「メモコーン…それ以上私たちを阻むなら、破壊します」
「! あの時のユニコーン君…じゃあ、この娘が…『アリス』」
「面識があるのですか? …っ!」
回し蹴りを銃床で受ける。二度目の蹴りをバック転で躱すと、空中でワイヤーを放った。
「…」
跳び上がって躱すミヅキ。ときめは撃ち落とされたスタッグフォンを拾うと、番号をプッシュした。
「もしもし!? …助けて、翔太郎!!」
2人の男が駆けつけた時、ミヅキは長剣を構え、ときめとリンカを追い詰めるところであった。
「リンカ! …ミヅキ!?」
「ときめ、大丈夫か!?」
「うん! それより、この娘は…」
「…これは、俺たちの問題だ。悪いが、手出ししないで欲しい」
徹が、ミヅキの前に立ち塞がる。
しかし、翔太郎は従わず、徹の隣に立った。
「聞こえなかったのかよ」
「悪いな。助手に手出しされて、黙っていられる俺じゃねえんだ」
そう言うと彼は…懐から、黒いガイアメモリを取り出した。
『ジョーカー』
「!? 左さん…あんた『も』」
「…『も』?」
徹は、ポケットから銀のガイアメモリを抜き、掲げた。一歩後ろで、リンカも金のメモリを抜く。
『ファンタジー』『トゥルース』
「ドライバー…しかも、ダブルの? 何でリンカさんが」
「「変身!」」
「変身!」
『サイクロン』『ジョーカー』
『トゥルース』『ファンタジー』
『…ま、マジで』
『まさか、本当に…』
『『あんたも、仮面ライダーだったのか!?』』
『Pの願い/フッキーを探せ!?』完
並び立つ金と銀の騎士と、緑と黒の超人。
”ミュージアムを壊滅させ、NEVERを撃退し、T2計画を失敗に追い込んだ、風都の英雄。仮面ライダーW…!”
『…ああ、出会ってしまったか』
Wの右側から、溜め息混じりの声が聞こえた。
『あんたが何だか知らないが…絶対に手出しするんじゃねえ!』
大剣を構えると、デュアルはミヅキに向かって踏み込んだ。ミヅキは長剣を振るい、デュアルに襲いかかる。
『ミヅキ、目を覚ませ!』
「…」
『もう、戦うのは止めるんだ! ミヅキ…』
『彼女に君の声は届かない! 何故なら、アリス…兎ノ原美月は、そこにはいない!』
『うるさい! お前に何が分かる…』
右手を掲げると、空中に無数の細長い包帯が出現し、ミヅキに向かって伸びた。それらを一つ残らず切り払うと、彼女はメモリをクエストに挿し替えた。
「…」
杖から炎を飛ばし、デュアルを攻撃する。幾つかはWにも向かったが、全てはたき落とされた。
『翔太郎、彼女を傷付けないようにするんだ』ルナ!
『当然だ、フィリップ!』ルナ! ジョーカー!
デュアルの前に、長い腕が割り込んだ。黄色い腕が杖を叩き落とすと、更に彼女の周りをぐるりと囲んだ。
「…」
ミヅキは動じず、その場に跳び上がると、長い腕の上を走ってWに飛び蹴りを放った。
『!』ルナ! メタル!
腕を引っ込めると、代わりに鋼の棍を出現させ、蹴りを受け止めた。棍は自在に伸びて、彼女の動きを封じる。
『だから、余計なことをするな!』
デュアルが、空中に巨大な籠を出現させ、ミヅキの上に落とした。
『おっと!』
飛び退くW。ミヅキは逃げ遅れて、籠の中に閉じ込められた。
「…」セイバー!
落ちた杖が剣に変形し、ミヅキに向かって飛来する。しかし、竹製に見えるそれは、竹と違って刃を通さない。
『…ミヅキ』
デュアルは大剣を置くと、籠に向かって歩み寄った。
『しっかりしろ。俺が分かるだろ。…俺のために、命懸けで戦ってくれたじゃないか』
「…」
ミヅキは、応えない。
『聞いてくれ、北風町の仮面ライダー。彼女の意識は、まだそこにいない』
『黙ってろ! …なあ、思い出してくれよ! そうしたら、もう二度と戦わなくていいんだ。あんたは、もう十分頑張ったんだから』
「…」
ミヅキが、ドライバーに手を伸ばす。セイバーメモリを外すと、ライブモードに戻ったメモコーンが、彼女の足元に着地した。
『そうだ。武器を捨てるんだ。もう、あんたには必要ない…』
デュアルもドライバーからメモリを抜こうとした。次の瞬間
『…危ない!』
『え? …うああっ!?』
突然、彼の足元で何かが爆ぜた。
咄嗟に飛び退くデュアル。一方のミヅキは、別の手によって引き寄せられていた。
『だっ、誰だ!?』
「んふふふ…」
湿っぽい女の笑い声。粉塵の中から、新たな乱入者が姿を現した。
それは、二枚貝めいた形状の、不気味なドーパントであった。貝と言っても貝殻に当たる外殻は肌色で柔らかく、縦に裂けた殻の隙間からは赤いぶよぶよした肉のひだが覗いている。裂け目の上の方から突き出たピンク色の球体が頭部だろうか。殻から突き出た手足は妙に細く、艶めかしい。それが一層、不気味さを際立たせていた。
「初めまして〜、仮面ライダーさぁん…」
ねっとりとした声で喋る、二枚貝のドーパント。デュアルが大剣を構えた。
「…ちょっとぉ〜、挨拶もなしに斬りかかるなんて、酷いわぁ〜?」
『…あんた、誰だ』
Wが、一歩前に進み出た。
ドーパントが、興味なさそうに目(見当たらないが、おそらくどこかにあるのだろう)を逸した。
「風都の仮面ライダーはもう良いの〜。どうしても遊びたいって言うなら…」
やおら、Wの方に体を向けると、突然、肉のひだの隙間から、何かの液体が勢いよく吹き出した。
『うわっ!?』
避け損ねて、液体を浴びるW。反撃しようとして、その動きが止まった。
『っ…な、何が…っ!?』
『…マズい。このドーパント、メモリは…』
右側が喋った次の瞬間、Wがその場に伏せた。そして、何かに耐えるように、地面を繰り返し殴り始めた。
「どうしたの? 大丈夫…」
『来るな!』
その隙に、ミヅキを抱えたドーパントが背中を向ける。
『あっ、待てっ!』
「さようならぁ〜、今度は、『お母様』と一緒に、ね〜」
その姿が、ふっと掻き消えた。
『…おい、どうしてくれんだよ!』
突っかかるデュアル。しかし、Wは応えず、四つん這いになって何かに耐えている。
そこへ…
『…! 何だあれ…』
啼声と共に、飛来したものがあった。
”…エクストリームメモリ”
それはWのもとへ飛んでくると、独りでにドライバーに収まった。
『エクストリーム』
虹色の光が迸る。光の中で、Wが一瞬だけその姿を変えた。
しかし、それはすぐに消えた。変身すら解除され、そこにいたのは、地面に突っぷす翔太郎と…
「…初めまして、北風町の仮面ライダー」
緑色のパーカーを着て、翔太郎と同じドライバーを身に着けた、一人の青年であった。
今夜はここまで
相当アレなメモリでは……
これを実写でやったらどうなりますか?(純粋な目)
書き忘れてたけど、>>623でWに駆け寄ったのはときめね
ゴマンダーというかヒャクメルゲというか(婉曲表現)
「あたしは、もうここを離れるよ」
貸しボートの小屋で、老婆はぽつりと言った。
「ボートも失くしちゃったし、何よりあんな大事になっちゃ大変だ」
「…」
沈痛な面持ちでそれを聞く徹。翔太郎やときめも気まずそうにしている中、エクストリームメモリと共に現れた青年だけが、きょろきょろと小屋の中を見回していた。
「だからもう、帰っておくれ」
「…失礼しました」
立ち上がる徹。リンカも後に続く。
「一つ、訊きたい」
不意に、青年が口を開いた。
「あなたは、静かにこのダム湖を見守りたい、ボート屋は隠れ蓑だと言った。…だったら何故、看板にはフッキーと会えるなんて客を煽るような言葉を書いた?」
「おい、もう良いだろ」
「…友達に勧められたのさ。折角だから、乗っかっとけってね。あたしゃ押しに弱くて」
「もう一つ。ここには、数年前にも来たことがあるが、その時は貸しボートなんて無かった。本当に、あなたはここにいたのか?」
「…」
徹が、青年の肩を掴んだ。
青年は、追求を止めない。
「最後に。僕たちは、ある人物を探すよう頼まれてここに来た。ダム湖に現れた未確認生物に、翔太郎がその人物の写真を見せたら、態度が一変したそうだ。何か、知らないかい」
「知らないよ! そんな男…」
「…そうか」
青年は頷くと、引き下がった。
「もう、帰るぞ。…お邪魔しました。ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
徹は頭を下げると、小屋を辞した。
「悪いけど、僕たちはもう少しここに残るよ」
小屋を出るなり、青年が言った。
「おい…いい加減にしろよ」
詰め寄る徹に、彼は平然と言い返す。
「あのお婆さんは気の毒だが、それとは別に人探しがまだ残ってる。あのフッキーとかいう恐竜が、目的の人物について何か知っている可能性が高い。直接話は聞けないだろうけど、手がかりは掴めるだろう」
「…」
苛立たしげに息を吐く徹。青年は、低い声で言った。
「…僕たちは、お互いに深く関わらないほうが良い」
「フィリップ、そんなこと言うなよ…」
「翔太郎。彼にも事情があるんだ。照井竜のように、考えを変えられると思わない方が良い」
「あんたの言う通りだよ」
徹は、唸るように言った。
「風都の仮面ライダーなら、風都の中でヒーローでも気取ってれば良い。俺たちの町は…俺たちで十分だ」
彼らに背を向け、足音荒く歩き出す。リンカは、それに付いていこうとして…ふと、足を止めて翔太郎たちを見た。
「…円城寺リンカ」
フィリップと呼ばれた青年が、呟く。
「君は一体、何者だ?」
「名もなきフリー記者Bです。以前は勤め人でしたが、先日退職しました」
「そんなわけないよ! 普通の記者が、銃やメモリを持っているわけ…」
「…私の知る限り、万灯雪侍の件に財団は一切関知しておりません。悪しからず」
「!! あんた」
「もう退職したと言ったでしょう? 今の私は、主婦兼パート従業員ですので。では」
色めき立つ翔太郎たちを残して、リンカは徹を追ってその場を去った。
「…さて、行こうか」
徹たちが見えなくなったことを確認すると、おもむろにフィリップが小屋の方を向いた。
「えっ?」
「もう、答えは出ただろう? 後は、仕上げだ。…この街を泣かせる輩を、倒しに行こう」
独房の中で、じっと黙って座っていた九頭が、不意に顔を上げた。
「…来た」
「…」
看守は、取り合わない。
「外宇宙の秘技を経て…お母様が、再びこの世に、帰って来られる」
弱りきった足で立ち上がると、天を仰ぎ、叫ぶ。
「お母様が…お戻りになられる!!」
「…」
看守が、密かにポケットの中のスマートフォンを覗き見る。
ロック画面には、彼の主の不在を告げるアラートが、ずらりと並んでいた。
「1つ。天候によって水位が変動するダム湖において、観光目的のボートは一般的でない」
「な、何だいあんたたちは!?」
「1つ。フッキーの噂が広がったのは、ここ数週間程度の話だ。それなのにしっかり看板を用意する辺り、やけに準備が良い」
「…」
老婆が、2人の狼藉者を睨む。
「1つ。…俺たちは数年前にもここに来たが…やっぱり、こんなボート屋無かったぞ。ダム湖に沈んだ故郷を偲ぶにしては、随分と急だな」
「何より」
フィリップが、声を張り上げた。
「…このダムが出来たのは、もう80年以上は前の話だ。お婆さん、一体幾つかな?」
「…幾つに見えるかい」
おもむろに、老婆が尋ねた。
「あそこに住んでたのは、ほんの赤ん坊の頃さ。だからって、語る思い出も無いなんて思われちゃ嫌だね。あそこは確かに」
「あんたが最初に俺たちと会った時」
翔太郎が、老婆の言葉を遮った。
「湖の方から歩いてきたよな。あの後、ちょっとした用事ができる前に、そっちの方をちょっと探してみたら…」
彼が見せつけたものに、老婆ははっと息を呑んだ。
それは、1台の一眼レフカメラであった。全体に水を被り、レンズは割れてしまっている。しかし、翔太郎が操作すると、奇跡的に電源が入った。
「これは、フッキーを探しに行くと言って消息を絶った、二海健蔵という冒険家が持っていたものだ。俺たちは、二海の娘の香菜ちゃんに頼まれて、彼を探しに来た…」
画面にプレビューが映る。幼い少女。公園。花畑…それは突然、森や湖の写真に変わった。
そして最後に映ったのは、一人の老婆が、謎の小箱を掲げ、今まさに足に刺さんとしている光景であった。
「…あの男」
突然、老婆が低い声で言った。
「大人しく、カネで手を打っておけば、命を失わずに済んだってのに…」
「! …殺したのか」
「もうとっくにあたしの腹の中さ。でも、直前にあいつが投げつけたそのカメラだけは、どうしても見つけ出して処分しなきゃいけなかった…」
「それで、湖の中を嗅ぎ回っていたのか。…ドーパントに変身して!」
老婆が、灰色のガイアメモリを取り出した。
『プレシオサウルス』
「後ちょっとで、競艇の負けが取り戻せるんだよ…タダで貰った、このメモリで!」
そう言うと彼女は、いきなり小屋を飛び出した。
「待てっ!」
追いかける翔太郎とフィリップ。
老婆は湖畔で立ち止まると、ゆっくりと2人の方を向いた。
「…どうして、ここに故郷が沈んでるなんて、湿っぽい作り話なんてしたと思うかい?」
「検索はしていないが…それだけは、事実だと思っていた」
すると彼女は、可笑しそうに声を上げて嗤った。
「後追いに真似されちゃ、あたしの取り分が減るだろ? 縁もゆかりもあるあたしだけが、ここでボート屋をできるようにしたかったのさ! フッキーとしてお客さんを楽しませて、あたしは貸しボートで儲けて…皆が幸せになるってのに! 邪魔するんじゃないよ!!」プレシオサウルス
サンダルを脱ぎ、片足を上げると、足の裏にコネクタが見えた。そこにメモリを挿すと、老婆は湖に飛び込んだ。
「…行くぞ、相棒」ジョーカー!
「ああ」サイクロン!
「「変身!!」」サイクロン! ジョーカー!
湖に、巨大な首長竜が出現する。
私欲のために人を殺し、少女を泣かせた街の敵。……彼らは、投げかける。
『『さあ…お前の罪を、数えろ!!』』
今夜はここまで
聖堂に響いた、乾いた破裂音に、井野は目を覚ました。
「…!」
祭壇に駆け寄る。
一人の女が入った培養器に、ヒビが入っている。
「お母様…」
「井野さん、どうしたの…!!」
ユウダイも気付いて、走ってきた。
ヒビが、広がっていく。それと同時に、ガイアメモリの入った培養器にも亀裂が走った。
「お母様…お母様が、帰ってきた…!」
培養器の壁が、遂に崩れ落ちた。流れ落ちる液体を踏んで、裸の女がゆっくりと前に進み出る。
「お母様!!」
たまらず、ユウダイが彼女に抱きついた。
「…」
ところが、女は虚ろな目でじっと前を見たきり、何も応えない。
「お母様…?」
「ミヅキと一緒だろう。精神まではまだ戻っていない」
「そんな…」
「まだ、希望はある」
井野の言葉と同時に、最後の培養器も開いた。彼はその中から、金色のガイアメモリを手に取ると、女に近寄った。
金色のメモリには、2本の腕に抱かれる赤子の絵。子を抱く母の腕が、『M』の字を成しているのだ。
『マザー』
起動した瞬間、メモリが彼の手から飛んだ。そして、吸い込まれるように、女の豊満な乳房の間に刺さった。
女が、目を開ける。
「…ああ」
その体が、白い光に包まれ…やがて、マリア像めいた姿に変わった。
「お母様!」
「愛しい子たち。母を想う心が、母をこの世に蘇らせてくれました」
「なあ、おれは約束は果たしたぞ。だから」
『お母様』が、頷いた。そして、ふと後ろを振り返った。
”……ぁ”
祭壇の上に浮かんでいた女が、支えを失ったように落ちてくる。井野が慌てて受け止めると、その腕の中でぐったりと脱力した。
『『トリガー・フルバースト!!』』
「ぎゃああぁぁっっ!!?」
無数の光弾が、水上の首長竜に炸裂した。爆炎の中から、気絶した老婆をどうにか拾い上げると、Wはほっと一息ついた。
『やれやれ、これで一段落…』
と、突然その動きが止まった。
『…どうした、フィリップ?』
『アリスが…』
『アリス? って、さっきの娘か』
『悪い翔太郎、後は頼んだ!』
『えっ、ちょっ、おい!?』
止める間もなく右手がドライバーを閉じ、黄色のメモリを引き抜いた。変身が解けると、老婆の体の重さにハードスプラッシャーの上で翔太郎がよろめいた。
「うおっと!? おい…おいフィリップ!」
湖畔に目を遣ると、ときめが保護していたフィリップの体が起き上がり、そして座ったまま気絶したように固まったところであった。
___白い空間にて。本棚さえ取り払われた何もない場所で、座って本を読む少女に、近寄るものがあった。
「…ミヅキ。さあ、母の元へ帰りましょう」
『Pの願い/ライダーとライダー』完
今夜はここまで
『プレシオサウルスドーパント』
『プレシオサウルス』の記憶を内包するガイアメモリで、貸しボート屋の老婆が変身するドーパント。本物のプレシオサウルスとそう変わらない、巨大な体のドーパントであるが、本物に比べると若干首から先の比率が大きく、デフォルメされている。これはかの有名な未確認生物、『ネッシー』の正体ではないかとする説によるもので、狭い湖でも巨大な首を出して泳げるような体になっている。
陸地でもある程度は動けるが、当然水中のほうが速度も力も発揮できる。また、口からエネルギー弾を出したり、大きな波を起こして攻撃することもできる。
マザードーパントをおびき寄せるべく、ガイキが北風町にばら撒いたメモリの一つ。競艇で負けこんで借金を抱えていた老婆は、ガイキからこのメモリを渡されると、風都のダム湖で未確認生物『フッキー』として行動し、その上でダム湖を巡るボートをレンタルしてフッキー目当ての観光客を集め、金儲けをすることを思いついた。競合者が出にくくなるよう、ダム湖に沈んだ村の住民を装うという念の入れようであったが、フッキーを探しに来た冒険家、二海健蔵に変身するところを目撃されたため、口封じに殺害。ドーパント態で生きたまま飲み込んだため遺体は残らなかったが、変身するところを収められたカメラが水中に投げられたため、人目を忍んでは湖底を探し回っていた。
しかし、二海の娘の依頼で彼を探しに来た私立探偵、左翔太郎とフィリップによって湖畔に打ち上げられたカメラを発見され、正体を看破された。これも口封じするべくドーパントに変身するが、仮面ライダーに変身した2人によって撃破、メモリブレイクされた。
メモリの色は灰色。横から見た首長竜の頭部が『P』の文字に見える。
>>123を採用させていただきました。ありがとうございました!
年末進行でお忙しかしら
「…ミヅキ。さあ、母の元へ帰りましょう」
「やめるんだ!!」
「っ!?」
手を差し伸べる女に、叫びながら突進するフィリップ。不意打ちに女は軽くよろめいたものの、動じることなく2人を見た。
「あなたも…母の子」
「ふざけるな!」
少女を庇うように立ち尽くすと、彼は断じた。
「最近、地球の本棚に不審な気配があった…アリスかと思っていたが、お前だったんだな」
「母とは、星。ならばこの本棚は、母の知識、母の知恵」
「地球の記憶は、誰か一人が独占して良いものじゃない…悪用することも!」
噛み締めるように、宣言する。彼の脳裏には、かつての自分の行い、そして彼を利用した人々の顔が浮かんでいる。
拳を握り、頼りないファイティングポーズを取る。
「その手で、何をするというのですか? 愛しい子」
「お前を…ここから、追い出す!」
風都のダム湖から帰ってきたときには、もう日が暮れていた。
「どのように記事を書くつもりですか」
「もう、フッキーは本当にいたという方向で書くしか無いだろ…」
その時、徹の携帯電話が鳴った。
「…もしもし?」
”あっ、力野くん?”
「藤沢さん? どうしたんですか」
電話の相手は、徹にフッキーの記事を依頼した、北風新報の藤沢編集長であった。
”君、SNSか何かやってる?”
「はあ、少しは」
”ちょっと、フッキーで検索してみてよ”
電話を繋いだまま、SNSでフッキーについて調べてみる。
藤沢の言わんとすることは、すぐに分かった。
「仮面ライダーが…フッキーと、戦ってる!?」
巨大な首長竜と戦うWの姿が、様々な角度から収められた写真が、多くの人々によって投稿されている。時間を見ると、今からほんの数十分前の出来事のようだ。
“悪いけど、今度の記事は無しだ。風都署の超常犯罪捜査課ってところからストップがかかったんだ。悪いけど、そういうことで”
「…」
電話が切れる。徹は唇を噛みながら、携帯をポケットに突っ込んだ。そのまま歩き出そうとしたところで、リンカが黙って立ったまま動かないことに気付いた。
「…リンカ?」
振り返り、ややぶっきらぼうに呼びかける。
リンカは、彼の肩越しに、じっと何かを見ていた。
「…?」
彼女の視線を追い…そして、気付く。
いつの間にか進行方向に、一人の女が立っていることに。
「んふふ…」
粘ついた声で嗤う女。タイトなレザーパンツに白いブラウスを着て、ボタンを止めずに裾を前で結んでいる。
その笑い声に、覚えがあった。
「お前、まさか」
「こんにちはぁ〜」
へらへらと手を振りながら、くねくねと歩み寄ってくる女。彼女は、大きくはだけた胸元を徹に見せつけるようにお辞儀すると、慇懃に名乗った。
「咲原ナギって言いますぅ〜、よろしくね」
「ミヅキをどこへやった!」
胸ぐらを掴むと、ブラウスの結び目が解けた。下着も付けない乳房が露わになって、徹は思わず目を逸らした。
ナギは一切動じず、むしろ剥き出しの胸を擦り付けるように身を寄せてくる。
「ミヅキちゃんはぁ〜、すぅ〜ぐ迷子になっちゃうからぁ〜…その度に、お姉さんが連れ帰ってあげてるのぉ〜」
「…母神教の、本拠地か」
「んふふふ…」
意味深に嗤うナギ。何か言おうと開いたその口に、黒い銃口が捩じ込まれた。
「っ」
「離れなさい」
Xマグナムを握り、静かに怒りを燃やすリンカ。ナギは途端に冷めた顔になり、徹の身体を離した。
ブラウスを結び直すナギに、リンカが吐き捨てるように言う。
「何の目的で私たちの目の前に現れたか知りませんが、私たちが貴女に要求することは一つ。メモリを棄て…」
「…恋人?」
いきなり、ナギが口を開いた。
「それが何か」
「そう! 君たち、恋人同士! だって匂うもの! 君たち2人のお股から、同じ匂いが…」
「おい! ふざけるのも大概に」
「もう、我慢出来なぁ〜い!」
そう言うと彼女は、突然ズボンのホックを外し、足首まで一気に下ろした。
当然のようにショーツも穿いておらず、剥き出しになった彼女の秘部。陰毛は剃り落としているようだが、余程『使い込まれて』いるのか、かなり黒ずんでいて、はみ出したひだが垂れ下がっている。
その隙間から、何が銀色のものが覗いていた。
「はぁ…ぁんっ…」
脚を広げ、いきむナギ。
すると、彼女の膣内から何かがゆっくりと抜け落ちてきた。
「! あれは」
銀色の端子から露わになったそれは、臙脂色のガイアメモリであった。筐体には『♂』と『♀』の記号を組み合わせた意匠で『L』の字が書かれていた。
愛液に塗れたメモリをつまみ上げ、目の前に掲げる。
「この『L』はねぇ〜…『LOVE』のLなのよぉ〜」
ところが、ガイアウィスパーは同調しない。
『リビドー』
端子を上にして、再び膣に挿入する。
「んっ、あっ、あぁっ…はんっ!」
服が脱げ、全裸になる。その股間だけが、見る見るうちに肥大化し、どんどん全身を覆っていく。
遂に彼女は、二枚貝めいた女性器のドーパントへと変貌した。
「…」トゥルース!
「ああ。何も言わなくていいぞ」ファンタジー!
咲原ナギ…リビドードーパントが、叫んだ。
「さぁ…愛し合いましょ、欲望のままに!!」
今夜はここまで
乙
そういえばこのスレはR18スレだった
『はあっ!』
「ぁんっ!」
大剣の一撃を、ぎりぎりで躱すドーパント。歪な肉体にも関わらず、しなやかな動きで攻撃をいなしていく。
「んん…あっ!」
突然、リビドードーパントがデュアルに向けて何かの霧を噴きつけた。デュアルはマントを翻し、それを防ぐ。
効果は分からないが、Wが一撃で行動不能になった代物だ。絶対に受けるべきではない。
『…まだやるか』
大剣を構える。
「愛し合うの、あなたと、あたしで!」
『断る!』
突き出す切っ先を避けると、足元を回し蹴りが駆け抜けた。軽く下がって躱し、再び斬りつける。それは拳で弾かれて、更にカウンターパンチが飛んできた。
『っ!』
「はぁんっ!」
片手で拳を止めた。それをぐいと引き寄せると、ぶよぶよした胴体に膝蹴りを打ち込んだ。
「んんぅっ…」
うずくまるドーパント。がら空きの背中に、剣を振り下ろした。
「いっ、たあぁぁっ…!」
『せぇやっ!』
更に一撃。剣を地面に突き立て、ファンタジーメモリをドライバーから抜いた。
『これで…』
腰のスロットに装填しようとした、その時
「…んふっ」
リビドードーパントが、何かを取り出した。
『! それは』
『エクスタシー』
サイケデリックな七色に輝くメモリを掲げると、彼女はゆっくりと姿勢を正した。
「焦らしプレイはぁ…好きじゃ、ないのぉぉぉぉ!!!」エクスタシー
肉の裂け目に、エクスタシーメモリを挿入した。
次の瞬間、その体が紫色に光った。
「あっ、あ、ああっ…はああぁぁっっっ…!!!」
全身から、濃い霧が噴き出す。
『マズい…!』
すぐに防壁を展開し、霧を防ぐ。しかし、周囲一帯を覆わんばかりの霧を、デュアルも少し浴びてしまった。
『…っ、な、何だこれ…』
身体が熱くなってくるのを、徹は自覚した。
彼の中で、リンカも同じ感覚を抱いていることに気付く。
”…偽り…これは、偽り…こんな、感覚は…”
『り、リンカ』
霧の中で、リビドードーパントの身体が変形していく。全身を覆うほど肥大していた女性器が縮み、普通の女性のような姿に戻る。しかし、胴体には乳房が6つ付いており、長い髪の生えた頭部に顔は無く、縦に裂けた穴がぽっかりと空いているばかりであった。
「はあっ。あああっ! ああああっっ!」
『っ!?』
目にも留まらぬ鋭い突きを、慌てて防御する。体の異常に加えて、エクスタシーメモリで強化された攻撃に、思わず姿勢が崩れる。
「はあっ! あんっ!」
奇妙な叫びを上げながら、パンチやキックを繰り出す。デュアルは防御が追いつかず、遂に前蹴りを腹に受けてしまった。
『ぐはっ…』
「はぁんっ、はっ、早くっ…」
仰向けに倒れたデュアルに跨り、くねくねと腰を振るリビドードーパント。
『こ、こいつ…』
拳を握り、反撃の機を伺う。
敵は激しく仰ぎながら、股間をデュアルの脚に擦りつけていたが、やがてその動きが止まり、そして呟いた。
「…や」
『っ、このっ!』
すかさず突き出した正拳を跳んで躱すと、ドーパントが叫んだ。
「嫌、嫌っ!! 全っ然、『気持ち良くない』のっ!!!」
『なっ…?』
困惑するデュアルの前で、彼女は喚きながら、どこへともなく走り去ってしまった。
『…っ!』
敵が去った途端に、先程の違和感がぶり返してきた。
『クソッ…これは…』
ドライバーに手をかけた時、彼の中でリンカが叫んだ。
”変身を解除しないで! …これはトゥルースメモリでも無効化出来ません”
『何でだ?』
”これは…この感情は…”
『この感情は?』
”…偽りでは、ありません”
『…』
デュアルは辺りを見回すと、マントを広げ空へ飛び上がった。
使ったことの無いほどにメモリの能力を駆使し、誰にも見られないよう空や地中を進み、ようやく部屋にたどり着いたデュアルは、ドライバーからメモリを抜いた。
「っ、はあっ…!」
「と、徹…」
上気し、蕩けきった目のリンカ。それを見た瞬間、徹は彼女を床に押し倒した。
「はっ、リンカ、りんかっ」
引き裂くようにシャツを脱がせる。リンカも、徹の服を力づくで剥ぎ取っていく。
そのまま2人は、もつれ合うように朝まで求めあった。
「くっ…はぁっ…」
「…」
少女を背中に庇う、傷だらけのフィリップ。満身創痍になりながらも、彼は諦めずに立ち上がる。
女は、微笑みを絶やさずに彼を追い詰める。
「諦めなさい。母の腕に」
「うるさい!」
震える手を拳に固め、女を睨む。
女の身体が、白いマリア像めいた姿へと変わる。
「!」
「来なさい…そして…生まれ変わりなさい!」
女が片手を上げ、そして振り下ろそうとした、その時
「…!?」
「これは…」
周囲を漂う本棚から、一冊の本が飛来し、2人の間に割り込んだ。
分厚い、大きな本。表紙には『MOTHER』の文字。
「『母』…」
かつてこの本には、何重にも鎖が巻かれ、硬く封印が施されていた。しかし、今は違う。
家族を。そして母を。彼自身が受け入れたことで、記憶の封印は解かれた。
故に。
「…」
本がひとりでに開き、光が溢れ出る。
「…あなたは」
その光の中から、『彼女』は現れた。
黒いコートに身を包み、つば広の帽子を目深に被り、白い包帯で顔を覆った、一人の女。
「…そうだ。僕にも、母親がいる。お前じゃない、母さんがいる…!」
フィリップが断じる。
黒コートの女が、拳銃を抜いた。
『ボム』
”来人”
赤いガイアメモリを銃に装填しながら、彼女は言った。
”語りかけなさい。彼女に…かつて『あの人』が、お前にそうしたように”
「…!」
フィリップは…園咲来人は、力強く頷いた。
『肥大するL/偽りなき感情』完
今夜はここまで
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
長椅子に仰向けに転がしたユウダイの上で、激しく腰を振っていたナギは、不意にそこから飛び降りると、喚いた。
「あ゛あ゛ああっ! 全っっっ然っ! 感じないっっ!!」
そこへ、井野が入ってきた。彼は足音荒く彼女に歩み寄ると、突然その胸ぐらを掴んだ。
「貴様! よくも…」
その顔は、微かに上気している。
「はぁんっ…なぁに、定くぅん…」
粘ついた視線を向ける彼女に、彼は怒鳴った。
「よ、よくも…よくも、あんな夢を…」
「あたしは、あなたにとって『気持ちいい』夢を見せただけ…あれは、あなたの望みなのよぉ…」
「っ…」
ナギはおもむろに彼の股間を掴むと、祭壇を指差した。
「ほぉら…お望みのものが、あそこに」
指差す先には、祭壇に腰掛けるマザードーパントと、その胸にしがみついて乳を吸う、裸の女。井野の実の妹、遊香。
「ふ、ふざけるな…」
「良いからヤれよ!」
ナギが、ヒステリックに怒鳴った。
「妹ちゃんのマンコにチンポぶち込んで、バコバコやってビューってザーメン出せよ! 気持ち良くなれよ! あたしはもう、気持ち良くなれないんだよぉ…」
大声で泣き出す、半裸の女。
泣き喚くナギの目つきが、だんだんとおかしくなってきた。
「そう…そうよぉ…自分が気持ち良くなれないんだからぁ…みんなに気持ち良いとこ、見せてもらわなきゃ…」
その視線が、聖堂の隅で座り込むミヅキを捉えた。
「ミ・ヅ・キ・ちゃぁ~ん!!」
「…」
ミヅキのもとへ歩み寄り、肩を掴んで立たせる。
「付いてきてよ」
「…」
何も言わず、されるがままのミヅキ。井野はマザードーパントの方を見た。
「おい、お母様! こいつをどうにかしてくれよ…」
「…」
しかし、『お母様』は取り合わない。井野は溜め息を吐いた。
そんな彼らを尻目に、ナギはミヅキを連れて、どこかへと去ってしまった。
明け方になって、ようやく徹とリンカは正気を取り戻した。
「はぁ…っく」
震える手で、額の汗を拭う。リンカは床の上で、ぐったりと倒れたままだ。
「な…何だったんだ、アレは…」
リビドードーパントが吐き出した、怪しい霧。それを浴びた瞬間、湧き上がってきた強い衝動。同じものを、リンカも感じているようであった。
「リンカ…大丈夫か」
「…はい」
リンカがすっくと起き上がった。彼女は裸のまま立ち上がると、言った。
「ようやく頭がすっきりしました。シャワーを浴びてきます」
「あ、ああ」
浴室に向かうリンカ。引き締まった尻が揺れるのを見て、さんざんぶち撒けたはずの衝動がまた湧き上がってくる気がして、彼は慌てて目を逸らした。
服を着直しながら、リンカがシャワーから上がるのを待っていると、突然携帯電話が鳴った。しかも、徹のではなく、リンカのものだ。
流石に、勝手に出るわけにはいかない。彼は震える携帯を拾い上げると、浴室の扉に向かって言った。
「リンカ、電話が鳴ってるぞ!」
「…失礼」
いきなり扉が開いて、リンカが腕を伸ばした。彼女は電話を受け取ると、耳に当てた。
「もしもし、円城寺です。いつもお世話になってます。…はい、断り無く遅刻してしまい、申し訳…はい?」
「…おっちゃん?」
漏れ聞こえるのは、『ばそ風北』の店主の声だ。今はリンカがそこでアルバイトをしている。出勤の確認だろうか。
「…分かりました。準備でき次第、すぐに行きます」
電話を切り、徹に返す。
「…お。おう」
まごつきながらも受け取る徹。その視線は、濡れた髪や、白いうなじや、控えめな乳房などにちらちらと向いている。
彼女は、そんな彼の顔を見て、彼のズボンの股間を見て、それから
「続きは帰ってから、です」
と、すげなく言って浴室の扉を締めた。
徹はしょんぼりと居間に戻った。
一旦区切る
1時間後。まだ暖簾もかかっていない『ばそ風北』の扉を開けると、もう出汁の香りが漂ってきた。開店前だと言うのに、一人の男がカウンターに座って蕎麦を啜っていた。
「…ん、ここの蕎麦はうめえな!」
「おっ、良い食べっぷりだね! 今度はお友達も連れておいでよ」
店主と威勢のいいやり取りを交わすその人物を見た瞬間、徹はその場で後ろを向いた。
「帰るぞ、リンカ」
「あーっ、ちょっと待て!」
カウンターの男、左翔太郎が慌てて立ち上がった。
「折角会いに来たのに、そりゃ無いぜ」
「…何の用だ」
徹は舌打ちすると、店内に入った。
「力野さんとリンカさんに伝えときたいことがあってよ。どこに行けば会えるかツテで調べてみたら、この店によく来るって言うから」
「2人に会いたいって言うから、ちょっと早いけど呼んじゃった。ごめんね」
「いや、おっちゃんは悪くない。だけど…」
徹は一つ離れた席に座ると、翔太郎を睨んだ。
「しょうもない用事だったら、許さねえからな」
「分かってるよ」
彼は、徹の隣に座り直した。リンカも、反対側の隣に腰を下ろす。
「…っていうか、店主のおっちゃんは」
「俺のこともドーパントのことも、全部知ってる。気にせず話せ」
「そうか。…まず、昨日のドーパント。メモリは『リビドー』だ」
「知ってる」
「あの、噴き出す煙は、浴びた相手の欲求を刺激し、その…性欲を、極限まで高める」
「…知ってる」
徹は硬い顔で切り捨てた。自分たちが身を以て味わったとは、流石に言えないが。
「それだけか? まだ俺たちの方が詳しいぞ」
「変身者は、咲原ナギ。風車町の風俗嬢だったらしいが、数週間前に白い服を着た大柄な男の相手をした日を境に、姿を消した」
「!」
白い服の男。ガイキか。
「…相棒が手が離せない今、これが俺たちの調べた精一杯だ」
「そうか」
徹は短く答えると、椅子から立ち上がった。
「じゃあ帰れ」
「おい」
「もう用はないだろ。帰れ」
「おい!」
翔太郎は立ち上がり、徹の肩を掴んだ。その手を振り払おうとすると、そちらも掴まれた。
「…財団Xが、まだ何かしようとしてんのか」
「お前らには関係ない」
「関係ないはずがあるかよ! あいつらは、何度も街を泣かせた! まだやろうってんなら、絶対に許さねえ!」
「街? 風都か。…いい気味だ」
次の瞬間、彼の身体がテーブル席の向こうまで吹き飛んだ。
「徹!」
「徹ちゃん!?」
「…」
左の拳を突き出し、怒りに震える翔太郎。
「…あんただって、この北風町が好きなんだろ」
震える声で、言う。
「だったら…何でそんなことが言えるんだよ…故郷を愛する者同士…何で、分かり合えないんだよ…!!」
「…街を泣かせる奴は、許さない」
腫れ上がった頬をさすりながら、徹はよろよろと立ち上がった。
「『街に泣かされた』人のことを、あんたは考えたことがあるのか?」
きっと、翔太郎を睨みつける。
「俺が生まれるずっと前から…この町は、泣いてんだよ…カネ、ゴミ、暴力、挙げ句ガイアメモリ、ドーパント…全部、全部…風都から持ち込まれた。押し付けられてきた…ずっと!」
涙を浮かべながら、彼は叫んだ。
「この町を泣かせるのは…お前ら、風都なんだよ!!」
店の出口を指差し、怒鳴る。
「分かったら、さっさとこの町から出ていけ!!」
「…っ」
翔太郎は歯ぎしりしながら彼を見ていたが、やがて諦めたように、出口に向かった。
去り際、彼はぽつりと言った。
「…相棒は、今も戦ってる」
「…」
「『アリス』…あの娘を、助けるために」
そこまで言って、彼は店を後にした。
徹は、その場にがっくりと膝を突いた。
ここ最初からやりたかったやつ?
当初はオリキャスほぼ出ない予定だったみたいだし違うんじゃない?偽ダブルが出てきたから翔フィリがいる事が確定した位だし
意識したかは知らんけど、あそこの決着は偽のダブルをWのメモリのジョーカーで倒した部分が芸コマだから好きよ
人通りの多い通りに辿り着くと、ナギはメモリを起動した。
『リビドー』『エクスタシー』
「はぁっ…はあああんっっっ!!!」
服が消え、ナギの身体が歪な女体へと変化する。
「うわあっ!?」
「ばっ、化け物だーっ!」
逃げ惑う人々を物色するように見回すと、突然、全身から白い霧を吹き出した。
不運にも、それを浴びた数人の人の足が止まった。
「うっ、な、何…」
「体が、熱く…」
一人の男と、一人の女の目が合った。次の瞬間、偶然すれ違っただけの2人は、その場で服を脱がし合い、激しく交わり始めた。
それを皮切りに、その場にいた人々が、近くにいた人間を押し倒し、犯し始めた。
「もっと…もっと盛って…気持ち良くなって…!」
霧を撒き散らしながら、悠々と通りを歩く。人々が、性欲に狂っていく。
その隣を、少女は黙ってついて行く。魂の無い彼女には感情も欲求も無く、従ってリビドーの霧を浴びても平然としていた。
やがて、数人の男たちの前で、リビドードーパントが声を張り上げた。
「はぁい、ちゅうもぉ~く!」
「はあっ、はあっ」
「ああっ、何かすげえ」
「が、我慢できない…っ」
「君たちぃ…ムラムラしてぇ、死にそうって感じぃ?」
少女を、彼らの方へと突き出す。
「…ほぉら、この娘、とぉーっても上手よ!」
「はっ、はっ、ああっ」
「もしかして…こいつ、公園にいたって噂の」
「誰でもいい! もう我慢できねえ!」
男たちが、少女に襲いかかる。水色のゴスロリ衣装を剥ぎ、その身体を犯さんとする…
『ワイヤー』
次の瞬間、どこからともなく飛んできた銀色のワイヤーが、彼女の腰に巻き付き、遠くへと引っ張り上げてしまった。
「はあっ…間に合いました」
飛んで行った先には、一人の女。構えた黒い大型拳銃から、ワイヤーが伸びて少女を捕らえている。
その隣の男が、ゆっくりとドーパントの元へ進み出た。
「…あらぁ」
「咲原ナギ…」
ドライバーを腰に当て、メモリを抜く。
『ファンタジー』
「あらぁ…あたしのこと、知ってくれてるの」
「お前も…何か理由があって、ガイアに手を出したんだろ」
ドライバーにメモリを挿し、展開する。
『…だけど、まずは罪を償うんだ』
近寄るだけで、リビドーの霧が理性を蝕む。
”耐えて、としか言えませんが”
リンカが囁く。
”後で、いくらでも相手になります。だから、頑張って”
『ああ!』
大剣を振りかざし、リビドードーパントに斬りかかった。
”…”
膝を突く、コートの女。マザードーパントが、ゆっくりと歩み寄る。
「復讐に呑まれ、我が子さえその炎に焚べた、小さな女。あなたに『母』は、相応しくない」
「お前…」
フィリップが、思わず声を荒げた。
「それを決めるのは、お前なんかじゃない…!」
呆然と2人の女を見守る少女に、向き直る。
「アリス! 目を覚ますんだ。君には、本当に大切な人が…愛する人が、いるはずなんだ!」
”来人…”
黒コートの女が、呟く。
”もし…嘘でも良い…私を、許して…認めてくれるなら”
再び飛来した、『母』の本。分厚いその本が光りに包まれ、女の手に吸い込まれていく。
光が収まった時…そこにあったのは、金色のガイアメモリであった。描かれているのは、子を抱く母の腕。
『マザー』
「…母さん!」
”ありがとう”
その腰に、ガイアドライバーが出現する。
スロットにメモリを挿し込むと、女の体が灰色の光りに包まれ……そして、目の前の敵と同じ、マリア像めいた姿に変わった。
しかし、その肌は灰色でところどころ剥げ落ちており、真っ黒に落ち窪んだ空っぽの眼窩からは血の涙めいて、赤い筋が頬を走っていた。
”私は、記憶の残滓だが…これで、命を賭けて戦える”
次の瞬間、2つの強大な力が、激突した。
(イメージは浦上天主堂の被爆したマリア像な)
『はあっ…ああああっ!!』
遮二無二振り回した大剣が、ドーパントを逸れて空を切る。
”心が乱れています。落ち着いて”
『分かってるよ! 分かって…ぐあっ!』
「邪魔、邪魔ぁっ! あたしは、あの娘が滅茶苦茶に犯されるとこをぉっ…」
しなる腕で、デュアルの手から剣をはたき落とす。
『ああっ!?』
「見たいのぉっ!!」
そのまま、ミヅキのもとへ突進する。
「…」
「はあっ! はあっ!」
腰に巻き付いたワイヤーを引きちぎる。そして、水色のゴスロリ衣装を、引き裂くように脱がせようと、襟元を掴む。
『やめろーっ!』
剣を拾う間も惜しい。ドーパントに向かって駆け出すデュアル。
その、隣を
『…!?』
銀色の影が、駆け抜けた。
「早く、はやっ…ああっ!?」
突っ込んできた銀色に、ドーパントが弾き飛ばされた。デュアルが、声を上げる。
『メモコーン…!?』
よく見ると、一角獣の口には、ピンク色の物体が咥えられていた。メモコーンが、それを少女に向かって差し出す。
「…?」
少女が、手に取る。それは、ピンク色のガイアメモリ。それも、透き通った次世代型メモリ。
___仮面ライダーの、メモリ。
「…あ」
少女の口から、声が零れる。
「あああああああああっっっっっ!!!!」
「目を覚ますんだ!」
来人が、叫ぶ。
「僕は……かつて、自分で考えることをしなかった。選ぶことから逃げてきた。そのために……大切な人を、失った。多くの人を、街を、泣かせることになった!」
崩壊する塔。燃え上がる研究所。…飛び交う銃弾の中で、倒れた男。
「それが僕の罪……アリス、君はどうだ」
ひび割れたマザードーパントが、光弾を受けて膝を突く。
「過去と向き合って…罪に向き合って…そして、未来を…自分自身を、取り戻すんだ!!」
「…!」
少女の目が、ぴくりと動いた。
”くっ、あっ!”
「これで、終わりです」
「アリス! ……『兎ノ原美月』!!」
『サイクロン』
緑色のメモリを掲げ…少女に向かって、振り下ろす。
「そして、問いかけるんだ! さあ…」
「「お前の罪を、数えろ!!」」
「っ!?」
ガレージの真ん中で、彼は目を覚ました。跳ね起きて、声を張り上げる。
「メモリは!?」
「フィリップ!」
ときめが駆け寄ってくる。
「机の上の、アレだよね? さっき、ユニコーンみたいなメモリが来たから、渡しといたよ」
「そうか…」
ほっと息をついて、その場に座り込む。
「…良いの? 自分は助けに行かなくて」
「良いんだ。彼らには、深く関わるべきじゃない。翔太郎も思い知ったようだし…」
相棒は隅のベッドに縮こまって、黙り込んでいる。先程からずっと左の手の甲を、後ろめたそうに触っていた。
「…それに、僕が恋した女性は、皆不幸になってしまうようだからね」
「えっ?」
思わず聞き返すときめ。フィリップは応えず、机の上の小箱をじっと眺めていた。
ときめは知る由もないが、硬く閉ざされた箱の中には、壊れた1本のガイアメモリが入っていた。灰色の筐体に描かれているのは、時計を模った『C』の文字。その針は、11時59分で止まっていた。遠い昔に『彼女』の思い出も、時計と同じように止まってしまった。
「…さて、僕たちには僕たちの仕事がある。翔太郎、いつまで悩んでいるんだ___」
「…7歳までのことは、覚えてない」
ゆっくりと、少女が立ち上がる。
「7歳からのあたしは、男の玩具。14歳までは、ものを考えられないお人形」
ロストドライバーを、腰に装着する。
「…17歳までのあたしは、操り人形。偽物のママに愛されたくて、たくさん人を殺した…」
『ミヅキ…』
「罪なら…もう、数えたよ。あたしの罪…本当のママのこと、綺麗さっぱり忘れちゃったこと。人を傷付けながら、そのくせ愛をおねだりしてたこと。…」
デュアルの方をじっと見つめて、続ける。
「…本当に愛する、愛してくれる人に、死ぬ時まで気付かなかったこと」
よろよろと立ち上がるドーパントに、視線を戻す。
「誰も、許してくれないと思う。許してなんて言えない。でも……一度だけでいい。やり直せるのなら…!」
彼女は、一角獣から受け取ったメモリを目の前に掲げた。
ピンク色の筐体。描かれているのは、走る少女の横姿。翻ったスカートの裾が『A』の文字を描いている。
「あたしは、戦う!!」
『アリス』
「変…身!!」
ミヅキの身体が、光りに包まれた。
今夜はここまで
otu
よき……
お忙しいのかしら
『アリス』
無数のトランプカードが、旋風と共にミヅキの体を覆う。それはドレスめいた装甲へと変わり、やがて彼女は赤と白と黒の仮面ライダーとなった。
『…これが、新しいあたし』
「ミヅキちゃん…」
リビドードーパントが、ゆらりとミヅキに…仮面ライダーアリスに、肉薄する。
『行くよ!!』
胸の前で交差した両手に、2挺の拳銃が出現した。片方は紫で、片方は赤。紫の銃を向けると、無数の弾丸が放たれた。
『たあっ!』
「んあああっっ!!」
撃たれながらも前進するドーパント。アリスも、引き金を引きながら走り出す。
2つのキックが、交差した。
『はあっ! やあっ!』
「んんっ! あはぁっ!」
しなやかで鋭い攻防。鞭のようにしなる連撃を掻い潜ると、アリスは胸元に赤い銃を向けた。
『これでっ…!』
「んはあぁぁああっっ!!」
灼熱の弾丸が、ドーパントの身体を吹き飛ばす。
アリスはドライバーからメモリを抜くと、赤い銃のスロットに装填した。
『アリス!』
右の踵に赤い銃を。左の踵に紫の銃を。それぞれ装着する。
『マキシマムドライブ』
『はあぁぁぁぁ…』
アリスは助走を付けると、空高く跳躍した。そして、左足を敵に向けて突き出した。
『アリス・イン……』
無数の弾丸が、吹き飛ぶドーパントの身体を空中に縫い止める。
アリスは空中で身体を捻りながら、右足を高く突き上げた。その、赤い銃口に、色とりどりの巨大な光弾が膨れ上がる。
重力に任せて落下しながら、アリスはそれを、リビドードーパントに___
『…ワンダーランドっっ!!!』
___叩きつけた。
「んああああああっっっ!!!!」
絶叫しながら光弾に灼かれるドーパント。その身体が、ピンク色の靄に包まれ…消えた。
『肥大するL/少女は戦う』完
今夜はここまで
『仮面ライダーアリス』
『少女』の記憶を内包するガイアメモリで、兎ノ原美月が変身した姿。トランプと兎を混ぜた意匠の、ドレスめいた装甲と仮面を纏い、ラビットドーパント時代の足技と、性質の異なる二挺の拳銃『マッドハッター』『ハートクイーン』を使って戦う。
ドミネーターに殺害されたミヅキであったが、その魂はラビットメモリと強く癒着しており、メモリブレイクと同時に彼女の自我は、メモリに書き込まれた兎の記憶に引き摺られて『地球の本棚』へ辿り着いた。そこで記憶を失って彷徨っていた彼女を見つけたのが、青年フィリップであった。同時期にメモコーンに授けられたラビットメモリの残骸から、彼は彼女の性質を見抜き、彼女の魂を身体へ返すことを考えた。
彼は『不思議の国のアリス』を軸に、ラビットメモリから抽出した記憶、そして囚われた魂を新たな筐体に移し、次世代型メモリ『アリスメモリ』を完成させた。最後にサイクロンメモリを通してミヅキの自我を書き込まれたアリスメモリは、メモコーンによって身体だけの彼女の手に渡った。魂と自我が身体へ戻ったことでミヅキは生前の記憶をも取り戻し、完全な復活を遂げたのであった。
必殺技は『アリス・イン・ワンダーランド』。銃を両足に装着し、マッドハッターから放たれる無数の弾丸で敵の身体を捕らえ、ハートクイーンの強烈な光弾を叩き込む。
メモリの色はピンク。ワンピースを着た駆ける少女の横姿が描かれ、翻るスカートが『A』の文字を象っている。かつて悪魔と呼ばれた男が、誰かを救うために創った、最初で最後のメモリである。
ガイキ&かなえルートと母神教&井野遊香ルート どっちから先に見たいですか?
例によって順番の問題なので最終的にはどっちも書きます
母神教&井野遊香ルートに一票
わいも母神かなー
『…』
メモリをドライバーから抜くと、『アリス』の装甲が剥がれ落ちていく。中から現れた、一度失われた筈の少女を、彼もまた変身を解除しながら見つめた。
「仮面ライダー、さん…」
ぽつり、ミヅキは呟いて…それから、気まずそうに微笑んだ。
「…えっと、名前、知らないや」
「徹。力野、徹だ」
「徹。…徹っ!!」
叫びながら、彼女は徹の胸に飛び込んだ。
「徹…とおる…」
「ミヅキ…おかえり…!」
固く抱き合い、涙を流す2人を、リンカは気まずそうに眺めていた。
「母神教のボスは、こいつで間違いないんだな?」
坂間が差し出した写真を見て、ミヅキはすぐに頷いた。
「幹部にも知らない奴がいる中で、お前は正体を見せられるほどに信頼されてた、ってわけか」
「…じゃないの」
坂間は、机越しに彼女をジロリと睨んだ。
ここは北風署の取調室。再会を果たした徹たちであったが、いつまでも喜んでいられない。彼女が正気を取り戻したことは、リビドードーパント・咲原ナギを通じてすぐに知れるだろう。今の内に、できる限りの情報をミヅキから得ておきたかった。
「お前の今までの罪を、立件しようと思えばできるんだぞ」
「なら、したら良いじゃん。あたしはもう、逃げないよ」
「おい、よさないか坂間」
一触即発の空気に、植木が割り込んだ。
「今の所、得られるのは彼女の自供だけだ。物証は殆ど残っちゃいないだろう。それに、彼女はまだ17だ」
「…」
不服そうにミヅキを睨む坂間。ミヅキは、真っ直ぐに見つめ返して、言った。
「…あたしは、逃げない。裁きはちゃんと受ける。もし死刑になっても…仕方ない」
「兎ノ原さん…」
植木は、呟くように言った。
「君に、どんな心境の変化があったのか分からない。我々としては、当然掌を返して君を信じるわけにはいかない。だから…そうだな。当面は、うちの留置室にいてもらう。ただ、怪しい行動をしなければ監視は順次減らしていくし、我々か力野さんたちが一緒なら、外を歩いても良い」
「…うん、分かった」
「最後に…」
椅子から立ち上がりかけて、ふと植木は尋ねた。
「…力野さんが言うには一度死んだ君が、何故生き返ったのか…本当に、覚えていないんだね?」
「…」
ミヅキは、小さく頷いた。
「死んだときのことは、大体覚えてる。でも、そこから先はよく覚えてない。白い空間にいて、誰かと話してて、気がついたら街中に立ってた」
「分かった。もういいよ」
植木は溜息を吐くと、取調室を出た。その後ろを、憮然とした顔の坂間が、苛々と歩いた。
「…クソッ、どいつもこいつも情に絆されて…」
夜の住宅街を、坂間が歩いている。その手には、空の缶ビール。道すがらコンビニで買って、家まで待ちきれずに飲んだのだ。
未成年だろうが、相手は重罪人だ。母神教の幹部としてガイアメモリを町にばら撒き、人を殺した。改心したなど、嘘に決まっている…
「…あ」
「…」
「…あのっ」
「何だよ…っ!」
声荒く振り返って、彼はぎょっとした。
白い街灯の下で、一人の女が立ち尽くしている。頼りない灯りに照らされた女は、薄いカーテンのようなものを身体に巻き付けただけの裸だった。
「ど、どうしたんだ!? 君、その格好は…」
「助けてっ…助けてください…」
「安心しなさい、私は警察官だ。すぐに君を保護し」
「警察っ!?」
坂間の正体を知った瞬間、女は踵を返して駆け出した。しかし、坂間はその腕を掴んで離さない。
「待てっ、何の事情か知らないが、悪いようにはしない!」
「駄目っ、警察は、駄目…」
抵抗する女。しかし、力の差がありすぎる。
やがて彼女は諦めると、啜り泣きながらその場に座り込んだ。
「…何があったんだ。どうしても警察が嫌なら、どこか別の場所で話しても良い。…君は、一体何者なんだ…?」
女が顔を上げる。涙に濡れたその顔に、彼は奇妙な既視感を覚えた。
果たして彼女は、とんでもない答えを彼に投げて寄越した。
「井野…井野、遊香…」
「井野…? って、まさか」
女…井野遊香は、震える声で言った。
「死んだと思ったのに、何で…生き返りたくなんて、なかった…!」
今夜はここまで
まだか
保守
ほ
「遊香はどこに行った!?」
ナギの胸ぐらを掴んで井野は怒鳴った。
「さぁ~? あたし、知らなぁ~い」
「ふざけるな! やっと意識が戻ったと思ったら…おい、お母様!」
祭壇に目を向ける。祭壇は分厚いヴェールで閉じられていて、その向こうで一人分の影が、微動だにせず立っているのが見える。
「何で遊香を逃したんだ! 何で、遊香は…」
「生き返っても、気持ちいいこと無いって思ったんじゃないのぉ?」
「そんなはずあるか! 遊香は、本当は死ぬ必要なんて無かったんだ。折角生き返れたのに…」
「…もう、良くない?」
聖堂の隅に座っていたユウダイが、おもむろに口を開いた。
「遊香さんが必要なのは、お母様を生き返らせるためでしょ? もうお母様は帰ってきたんだから、後は自由にさせてあげたら」
「…っ」
井野は歯軋りすると、冷淡な彼らに背を向けた。そして足音荒く、聖堂を後にした。
・・・
「多分、知ってると思います。わたし、仕事が辛くてビルから飛び降りて…一度、死にました」
「でも、気がついたら薄暗い部屋にいて…そこに、兄もいました。それに『お母様』も」
「最初は喜んだんですけど…すぐに、自分が生き返った理由を…そして、兄がしてきたことを知って…それで怖くなって、逃げてきました」
「それでも…あんなことをしたけど…でも、わたしの兄だから…家族だから…お願いです、どうか、警察だけは」
・・・
「実は、ちょっとだけ覚えていることがあるんだよね~…」
レモネードをストローでかき混ぜながら、ミヅキが口を開いた。
「覚えてるっていうか、思い出したっていうか…多分、『身体』の方が覚えてたんだと思うんだけど」
「どんなことを?」
徹が尋ねた。
ここは、北風駅前のカフェ。一度リンカと来たことのある店だ。今、奥のテーブル席にミヅキが、その向かいに徹とリンカが、隣り合って座っていた。
「変な、あったかい液体に浸かってたの。それで、頭の上で草の根みたいなのがうねうねしてた」
「あの時ガイキが、井野遊香に使用したメモリは『ヴォイニッチ』と言うものでした」
リンカが口を挟む。
「刻まれた記憶は『ヴォイニッチ手稿』」
「あの、未解読の言語で書かれてるオカルト書か? どんな力があるんだ」
「分かりません。或いは、最初から意味など無いのかも」
「だけど、現にそれで成瀬とミヅキは生き返ったわけで」
「いえ。『意味のない』ことに意味がある。ということです」
「?」
首をひねる徹に、リンカは言った。
「…以前、成瀬と共に『地球の本棚』に入った、そう言いましたね?」
「ああ」
「であるならば、成瀬…マザードーパントには、地球の記憶を改竄する能力がある可能性があります。最初から意味のないヴォイニッチ手稿の記憶を白紙のノート代わりにして、自身の都合の良い能力を書き加えたのかも」
「え~、じゃあ、いよいよメモリの能力はお母様しか知らないことに…」
そこでミヅキは、ふと口をつぐんだ。窓の外をちらりと見て、呟く。
「何か、外がうるさくない…?」
徹とリンカも、外を見て…弾かれたように立ち上がった。
道路に、一人の警官が倒れていた。そこに、剣と斧を持ってゆっくりと迫るのは、青銅の騎士。
「ま…不味い! リンカ、悪いけど会計…」
「私も出ないと! ミヅキ、これで会計を」
「えっ? ちょ、待ってよ!」
ミヅキに5千円札を押し付けると、リンカと徹は喫茶店を飛び出し、ドライバーを身に着けた。
「「変身!」」トゥルース! ファンタジー!
・・・
「遊香を! 遊香を出せぇっ!」
倒れた警官に向かって、青銅の剣を振りかぶるネブラドーパント。そこへ、金色の大剣が飛来し、2者の間に刺さった。
『そこまでだ!』
「! 仮面ライダー…」
憎々しげに唸るネブラ、井野。彼は警官から仮面ライダーに標的を変えると、剣と斧で斬りかかってきた。
「はあっ! せえっ!」
『くっ』
地面から大剣を抜き、防御するデュアル。刃がぶつかると、奇妙な重圧が彼らを襲った。
”時間操作です。直接攻撃は、望ましくない”
『みたいだな。そらっ!』
剣を乱暴に叩きつけると柄から手を離、マントを広げ後ろへと飛び下がった。そうして代わりにXマグナムを抜くと、次々に金色の光弾を撃ち込んだ。
「くそ! 小賢しい、このっ!」
武器で光弾を撃ち落とすネブラ。
『いい加減、諦めたらどうだ! 母神教もお母様も、何度蘇ろうが、何度でも俺たちが倒す!』
「ふざけるな! 折角、遊香が帰ってきたのに…また、一緒に暮らせるのに…」
言いかけたその言葉が、ふと止まった。
仮面越しの彼の視線を追って、デュアルは慌てて銃撃を止めた。
『ミヅキ! 危ないから下がってろ!』
「…ミヅキ…何故、お前が」
「久し振り、井野さん」
気まずそうに挨拶するミヅキ。デュアルは彼女を庇うように立つと、言った。
『ミヅキは、罪を償うと決めたんだ』
「…ふざけるな」
震える声で、ネブラが呟く。
「ふざけるな…ふざけるな! 元はと言えば、お前が…お前が、おれの人生を! お前さえいなければ!!」
叫びながら、彼は剣を振りかざして突進してきた。
『! …っく』
両腕で斬撃を受け止めるデュアル。加速された刃が食い込み、思わず呻いた。
ネブラは、怒りに任せて武器を振り回す。
「お前が! お前のせいで! お前のせいで、またメモリを使って…お、お前のせいで、おれは…」
剣を振り下ろし、呟く。
「…お母様を、知ってしまった」
「井野さん…やり直そう。あたしにできたんだから、きっと」
「…そうだ」
不意に、ぞっとするほど冷たい声で、ネブラ…井野が、呟いた。
「そうだ…初めから…いなければ良かったんだ。お前も…遊香の会社も、仮面ライダーも、お母様も…」
『井野…』
「…この、世界も。おれと、遊香だけで良かったんだ…!」
『井野!?』
哄笑しながら、両手を空に掲げる井野。その頭上に突如、巨大な青銅の円盤が出現した。
「かっはははははっ!! そうだ! この世界! 遊香以外の世界を、全て削り取ってしまえば…」
円盤に、金色の線が走り…周囲に、無数の熱線を放ち始めた。
『やめろ!!』
「…この世には、おれと、遊香だけだ」
デュアルは両手を掲げ、球形のバリアを張り巡らせる。間一髪で無差別殺戮光線を防ぐと、彼は叫んだ。
『ミヅキ! 周りの人を避難させるんだ! …それから、遊香って人は、絶対にこっちに連れてくるな!』
「わ、分かった!」
バリアをすり抜け、ミヅキが叫びながら人々を誘導し始める。
”…ネブラメモリに、完全に理性を飲み込まれたようです”
『ああ…一刻も早く、俺たちでこいつを止めるぞ!』
・・・
「…遊香さん、お茶でも」
「あ、ありがとうございます…」
坂間から湯呑を受け取ると、遊香はおずおずと口を付けた。
彼が遊香を拾ってから、もうすぐ1週間になる。独り身なのを良いことに自宅のアパートに匿ってしまったことを、彼は後悔していた。
一刻も早く、植木警部や警察に引き渡すべきだ。しかし、それでは…
「…!」
不意に彼の携帯電話が鳴った。画面には『植木警部』。痛む心臓を押さえながら、彼は電話を耳に当てた。
「はい?」
”駅前に、ドーパントだ。…井野だ”
「!! …す、すぐに」
遊香をちらりと伺い、頷く。
通話を切ると、遊香が静かに問うた。
「兄ですか」
「…はぁ」
「お願いです!」
突然、遊香は坂間の腕を掴んだ。そうして、涙を流しながら訴えた。
「兄に会ったら…わたしは…遊香は、死んだと…また自殺したと…伝えてください」
「!!」
彼女の意図を察した瞬間、彼は彼女の手を握り返した。
「…死んではいけない」
彼女は、生きている。だが、兄への伝言を、彼女は真実にする気だ。すなわち
「お願い! 死なせて! わたしのせいで、兄は狂ってしまったの…だから」
「君は悪くない!」
坂間は、泣き叫ぶ遊香を抱きしめた。
「お願い、行って! もう良いの…早く、兄を逮捕して!」
「駄目だ。君を一人にはしない…」
坂間の携帯電話が、再び鳴る。それを止めようとした、その時
「…みぃ〜つけ…たぁっ!」
今夜はここまで
風都探偵の最新刊が出て、ようやくモチベが戻ってきました
カギカッコの使い分けとか結構忘れてるわ…
おかえり!しゅきいいいいい!(スクリーム感)
忘れてた
『Nにさよならを/情に棹させば』完
「咲原ナギ…お前のことは、聞いているぞ…」
遊香を庇いながら、坂間が言う。咲原はニヤニヤ嗤いながら、彼ににじり寄る。
「あたしぃ…気付いちゃったのぉ…あなたたち2人で気持ちよくなっちゃうのも良いけどぉ…」
「! く、来るなっ」
「お肉と、お魚っていうか~? 今は、お肉の気分って言うか…」
「ぐあっ!?」
「坂間さんっ!?」
坂間を軽く蹴り飛ばし、遊香の腕を掴む。
「やっ」
「いらっしゃい。そしたら、みぃ~んな、気持ちよくなれるわ!」
・・・
「逃げて! ここは危険なの!」
「ここは通行止めだ! …ええい、坂間は何をやってる!?」
バリケードの前で車や通行人を追い返しながら、植木は毒づいた。その近くではミヅキが走り回って、人々を避難させている。逃げる人々に目を凝らしながら、その中に見知った顔がないか探していた。
「遊香…井野遊香さん…」
ネブラドーパント…井野定は、彼女に会わない限り攻撃を止めないだろう。しかし、デュアル…徹は、彼女を会わせてはならないと言った。なら、そうするべきだ。自分にできることをしないと。本当は、自分も彼と一緒に戦いたいが…
「…?」
人混みの中で、何かが目を引いた。遊香ではない。あれは…
「…!」
「…あっ、兎ノ原さん!?」
『彼女』を見つけた瞬間、ミヅキは駆け出していた。
・・・
「はははっ、ははははっ! 滅べ、滅びろ!」
『くっ、やめろっ、はあっ!』
頭上の青銅板から、無数の熱線を放つネブラ。それが逃げる人々に当たらないよう、デュアルはバリアを出現させたり、剣で受け止めたりしている。時には間に合わず、身体で止めてもいる。
『はぁっ…はぁっ…』
「滅びろ、何もかも! 遊香以外は…」
先程から攻撃が妨害されているにも関わらず、井野は動じない。或いは理性が崩壊して、奔走するデュアルの存在すら認識できていないのかも知れない。
”このままでは、保ちません”
『…』
”人手が必要です。ここは…”
『…駄目だ』
徹は、唸るように言った。
『ミヅキを、また戦わせるわけにはいかない』
”…”
「死ね、死ね! 滅べ! こんな世界、遊香だけがいれば」
「そうそう! 妹ちゃんさえいれば!」
『!?』
人々が逃げ去った駅前に、躍り出た人影。それを認めた瞬間、デュアルが叫んだ。
『咲原! あんた…っ、しかも』
「離して…っ!」
咲原は、もがく一人の女を引きずっていた。彼女の声を聞いた瞬間、ネブラの動きが止まった。
「…遊香? 遊香…そこにいるのか!」
攻撃を止め、声の方へ歩き出す。
『よせ!』
「ええ、こっちよ! さあ2人で気持ちよくなって…そうしたら、あたしも…」
ところが咲原の言葉は、一人の男の突進によって遮られた。男は遊香の手を取ると、自分の後ろ庇い、ネブラと咲原の前に立ちはだかった。
「遊香さん…逃げるんだ…」
「さ、坂間さん…」
『坂間刑事!? どうしてあなたが』
「そこをどけ!」
ネブラが怒鳴った。
「遊香を寄越せ…遊香は、おれのものだ!」
「誰のものでもない!」
坂間は、震える声で叫んだ。
「遊香さんは…遊香さんの命は…遊香さんだけのものだ! お前なんかが決めることじゃ」
「ふんっ!」
「ぐああぁっ!!?」
青銅の腕で殴りつけると、坂間の身体が木っ端のように吹き飛び、電柱に激突した。
「坂間さん!?」
「遊香…」
ネブラドーパント…井野が、妹のもとへと歩み寄る。
「さあ…こっちに来るんだ…また、一緒に暮らそう…」
「…お兄ちゃん」
「…おれたち、2人だけの世界で! さあ!」
「…ごめんなさい」
遊香は、首を横に振った。ズボンのポケットに手を入れると、生成り色のガイアメモリを取り出した。
『ヴォイニッチ』
「わたしは…わたしの人生は…自分で決める…!」
『遊香さん! よせ…』
「…ああああああっっっ!!!」
叫びながら遊香は、ヴォイニッチメモリを、胸元に突き立てた。
遊香の目から、光が消える。その頬を、夥しい未解読文字と不気味な絵が、猛スピードで流れていく。
「ゆ、遊香…」
ネブラドーパントが、恐る恐る手を伸ばす。が
「うわっ!?」
「…」
薄緑色の氷柱のようなものが地面から突き出し、その手を防いだ。
遊香…ヴォイニッチドーパントが、呟いた。
「…星…が、わたしに…触れるな」
「遊香…遊香ぁっ!!」
ネブラは突然叫ぶと、剣を振り上げた。斬りつける刃を、遊香は透明な刃で躱す。
「誰が! 誰が、お前を生き返らせてやったと!」
「…」
頭上に、巨大な青銅の円盤が出現する。ネブラは…井野は…それを、妹に向けて、投げた。
「…お前さえ、いなければぁっ!!」
『井野…お前って奴はっ!!』
デュアルが、大剣を掴んで飛び込み、円盤を受け止めた。
『いつも…何でもかんでも…他人のせいにして、被害者ヅラして…』
「おおお…おおおお…!」
『お前は、何も守れない、愛せない! 我が身が可愛いだけの…っ』
そこまで言って、徹ははっと黙り込んだ。
___それは、自分も同じでは? 身の回りの悪い出来事…それを全て、風都のせいにして…
”…徹!?”
『! …ぐあっ!』
青銅板が、デュアルの身体を弾き飛ばした。襲いかかる巨大な円盤を、遊香は未知のシダ植物を地面から生やして受け止める。
『く、そ…っ!』
・・・
「…違う」
3者の戦闘を、遠くから眺めていたナギは、呟いた。
「違う…違う、違う、違う違う違う!! こんなの…全っ然、『気持ちよくない』っっっ!!」
ピンクと虹色、2本のガイアメモリを振り上げ、一斉に起動する。
「エクスっっ!! …タシぃぃぃぃっっっ!!!!」
『リビドー』『エクスタシー』
「徹! …きゃあっ!?」
戦場に駆け込んできたミヅキを襲ったのは…
「な…なに、これ…」
「はあんっ…み、みづき、ちゃあん…」
そこにいたのは、ぶよぶよした巨大な肉塊であった。薄ピンク色の、ヌメヌメした球体は、下から生えた無数の触手をくねらせると、ゆっくりとミヅキの方を向いた。
肉塊の前面…そこには、巨大な裂け目が縦に開いていた。無数に蠢く触手は、全て男性器の形をしていた。
「いっしょに…えくすたしいぃぃぃっっっ!!!」
『ミヅキ…済まないっ!』
倒れ伏すデュアルは、どうにか力を振り絞って、ロストドライバーとメモリを空へ投げた。どこからともなく駆けつけたメモコーンがそれを受け取ると、猛スピードでミヅキの元へと走った。
「! ありがとっ」
ミヅキは、ドライバーを腰に装着した。
「…君を見てると、ちょっと前の自分を思い出すよ」アリス!
『少女』のメモリを装填し、展開する。
『アリス!』
『だから…あたしが、楽にしてあげる!!』
・・・
「くそっ! くそおっ! 何で…」
「…」
『せえやっ!』
青銅板をシダの葉で弾きながら、透明な刃で鎧を傷付けるヴォイニッチドーパント・井野遊香。妹に気を取られている間に、デュアルが後ろから斬りつける。
向こうでは、巨大な生殖器の怪物と仮面ライダーアリス・ミヅキが戦っていた。
「ミヅキちゃん、ミヅキちゃんミヅキちゃああああんっ!!」
『たああああああっっ!!』
打ちかかる触手を躱しながら、次々に弾丸を撃ち込む。
『メモコーン!』セイバー!
メモコーンを変形させ、青いメモリを取り出す。アリスメモリから差し替えると、それは一角獣の頭部となった。
アリスの手に、蒼と銀の長剣が現れる。それで、襲いかかる触手を斬り落とした。
『やあっ!』
「ぎいぃぃぃああぁぁっっ!!?」
巨大な裂け目から泡立つ血を噴き、のたうつリビドードーパント。更に接近し、次々と斬りつけるアリス。
『井野…いい加減に、終わらせてやる…!』ファンタジー! マキシマムドライブ
アリスも、メモリを銃に装填し、踵に装着した。
『アリス・イン…』アリス! マキシマムドライブ
金と銀の矢が、ネブラドーパントに突き刺さる。
色とりどりの光球が、リビドードーパントを呑み込んだ。
『デュアル・エクスプロージョン!!』
『ワンダーランド!!』
「ぐわあぁぁぁっっ!!」
「んあああぁぁ…っっ」
崩れ落ちる、井野とナギ。その傍らで、各々のガイアメモリが砕け散る。
倒れ伏す兄の元へ…ヴォイニッチドーパントが、ゆっくりと歩み寄った。
「ゆ…遊香…たすけ…」
「…」
見下ろす虚ろな目に、一瞬だけ光が灯った。
「…お兄ちゃん」
焼け焦げた地面に膝を突き、兄を抱き起こす。
次の瞬間、2人を無数のシダ植物が覆った。
『何をする気だ!?』
そこへ、気絶していた坂間が、目を覚まして駆け寄ってきた。
「やめろ、やめるんだ! …遊香さんっ!!」
「…一緒に、逝こう」
「遊香さあああぁぁんっっ!!!」
2人の足元に、巨大な穴が開く。緑と赤の触手の蠢く穴の中へと、2人は消えた。
穴が閉じる。何事も無かったかのように広がる、冷たいコンクリートを、坂間は叫びながら何度も拳で打った。
・・・
一同が井野兄妹に気を取られている間に。倒れるナギの側へ、密かに近寄る者があった。
「…あった」
彼は、ナギの傍らに転がる虹色のメモリを拾い上げると、怪しく微笑んだ。
「これで、やっとお母様の望む形になった…」
「…ふふ…気持ち、よかったぁ…っ」
足元で、ナギが満足気に息を吐く。その身体が、たちまち白い灰となり…消えた。
『Nにさよならを/流されて永遠』完
『リビドードーパント』
『性欲』の記憶を内包するガイアメモリで、風俗嬢の咲原ナギが変身するドーパント。最初は全裸の女性を姿をしており、相手の性欲を増大させる霧を吹きかける程度の能力しか持たない。しかし、ドーパント態、人間態問わず性交を重ねることで性器が肥大していき、身体能力や霧の効果も増していく。しかしこのメモリが真に威力を発揮するのは、性欲を溜め込んだ時、つまり禁欲を続けた時で、溜め込まれた性欲によって身体能力が爆発的に向上する。
重度の快楽主義者であった咲原は、ガイキからこのメモリを渡されると、生来の欲望のまま能力を行使し強力な力を得た。しかし、異常性欲の彼女に禁欲など到底不可能であり、メモリの能力を極限まで引き出せるようになるのはエクスタシーメモリと併用してからになった。
メモリの色は臙脂(途中からピンクと間違えてたけどこっちが正しい)。♂と♀の記号を組み合わせて『L』と書かれている。
>>566をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました!
『リビドードーパント・エクスタシー』
リビドードーパントがエクスタシーメモリを追加で挿入した姿。肥大した性器は元のサイズに戻り、均整の取れた全裸の女の姿に戻っている。しかし、その頭に顔は無く、代わりに女性器が開いている。体格こそ下がったが身体能力は格段に上がっており、常に性欲を増大させる霧を全身から放っている。
エクスタシーメモリによる強い絶頂によってナギは全身の感覚神経が破壊されてしまい、快感を全く感じられなくなってしまった。それによってナギは常に禁欲を強いられている状態となり、遂にリビドーメモリの底力を引き出す結果となった。性欲が限界に達した彼女は巨大なビッグ・リビドーとなりミヅキに襲いかかるが、仮面ライダーとなった彼女に返り討ちに遭った。リビドーとエクスタシー、2本のメモリの限界出力に人間の体が耐え切れる筈もなく、メモリブレイクされた後はかつてのミヅキのように灰となって消えた。
『ラビットドーパント・エクスタシー』
ラビットドーパントがエクスタシーメモリを追加で挿入した姿。体毛は毒々しい紫になり、全身の筋肉量が増している。ハイドープであるミヅキの、ただでさえ高い身体能力が何倍にも向上し、人間どころか野生動物すら軽く凌駕する脚力や聴力を得た。その速度は、アクセルトライアルのマキシマムドライブを見てから全回避することさえ容易いレベル。
欠点は、『絶頂』のメモリと兎ノ原美月の相性が致命的に悪いこと。ドミネーターメモリの力で強制的に抜去され倒されてしまったが、そうでなくとも彼女はこの形態を長時間維持することはできなかった。適合率の低い上に、毒性があまりに高いエクスタシーメモリに蝕まれた彼女の身体は、ドミネーターのマキシマムドライブで完全に破壊され、徹の腕の中で灰となって消えた。
『ヴォイニッチドーパント』
『ヴォイニッチ手稿』の記憶を内包するガイアメモリで、井野遊香が変身するドーパント。姿形は人間態と変わりないが、全身を原本に記された未解読文字や不気味な挿絵が高速で流れるようになり、地球上に存在しないシダ植物や薄緑の透明な刃を繰り出して攻撃したりできる。
「言語としての体を成している」とされながらも、内容が未だに解読されていないヴォイニッチ手稿。その本当の意味は地球の本棚にすら記されておらず、無責任な解釈が何重にも書き重ねられた無意味な本となっている。地球の本棚に干渉できるマザードーパントはこれに目をつけ、自身が万が一死亡しても復活できるような保険とした。すなわち、描かれた挿絵を「植物と天体の力で復活する女性」と解釈し、メモリにその能力を付与することとした。これによってヴォイニッチドーパントとなった井野遊香は、クローバーメモリから植物の、ネブラメモリから天体の力を得、以てマザードーパント、成瀬ヨシノと、兎ノ原美月を復活させることに成功した。
もとよりヴォイニッチ手遞ソ縺ョ險俶?縺ォ諢丞袖縺ッ辟。縺上?∵勸騾の人髢薙?菴ソ逕ィ縺ィ使用と蜷梧凾縺ォ豬√@霎シ縺セ繧後k閹ィ螟ァ縺ェ『空白』縺ォ閼ウ縺瑚?舌∴蛻?l縺夂イセ逾槭′蟠ゥ螢翫☆繧九?ゆコ暮㍽驕企ヲ吶′繝。繝「繝ェ縺ォ閠舌∴蛻?l縺溘?縺ッ縲∵ュサ莠。縺励※蜊雁ケエ邨後▲縺ヲ縺九i蠕ゥ豢サ縺励◆縺薙→縺ァ蝨ー逅??譛ャ譽壹↓險倥&繧後◆險俶?縺ォ遨コ逋ス縺悟ュ伜惠縺吶k縺九i縺ァ縺ゅk縲ゅ◎繧後〒繧ゅ?縺ソ蜃コ縺咏ゥコ逋ス縺ォ邊セ逾槭r陜輔∪繧後?√Γ繝「繝ェ菴ソ逕ィ縺碁聞蠑輔¥縺サ縺ゥ縺ォ蠖シ螂ウ縺ョ豁」豌励?失われていく。
メモリの色は生成り色。原本に記された文字のような線で『V』と書かれている。
おお、なつい…
リビドーのLって使ったかどうかわからなかったから苦し紛れにS(セクシャルデザイア)にしたやつだ
メモリ募集まだ受け付けていたら…
シードメモリ
種子の記録が内包されたメモリ。植えついた者(物)から養分を吸い取り、発芽するという特殊なメモリである。
使用者の適合率が低ければ上記特徴から使用者から養分を吸い取り苗床にし、植物体ドーパントが生える。種を作り増やすために花の香りで人間や動物達を誘い捕まえ、花粉を植え付けたり精液を取り込む事で種を増やし、そのまま相手を新しい種の苗床にする。
また使用者の適合率が高いと種(メモリ)が使用者を有益と判断し、寄生ではなく共生を選んで使用者を植物体ドーパント(人型)にする。
オスであれば種付けおじさん、メスであれば種絞りおb…お姉さんの才能が開花したドーパントになり、種を増やそうとする。
このドーパントに犯されたモノも苗床になり大抵はその場に打ち捨てられるが、気に入られて永遠に種作りの道具として大切に拘束され犯され続けてしまう場合もある。
シードドーパント(人型)は種の硬い殻を装甲に体表面を覆うが、装甲含め全身が植物体故に熱に弱い。また種を遠くへ飛ばしたい習性からサイクロンメモリの少し強い攻撃を受けただけで簡単にふっ飛ぶ。冬越しの特性から冷気への耐性はあるが、発芽を遅らせたい本能から動きが鈍くなる。
水を多く吸い込み重みが増す事で火や風の耐性を一時的に持つことができる。更に未発達な根をムチのように伸ばして中距離攻撃、花粉や香りを飛ばして遠距離攻撃が可能。精子または卵子を種に作り変え、マシンガンのように連射も可能。花粉や香り対策が無ければそのままシードドーパントに組み付かれて種作りが始まるだろう。
なおこのメモリを栄養豊富な広大な畑に挿して普通の植物のように育て続けた結果、風都タワー並のとても大きな植物体ドーパントが生えて大惨事になった実験記録があるとかないとか。
なおこのメモリを煮て食べる事はできない。
「…」
薄暗い部屋。ソファの上で、一人の男が横たわっている。
「…っ」
死んだように眠っていたその身体が、びくっと震えると、すっくと起き上がった。彼は、不思議そうな顔で辺りを見回し…突然、弾かれたように立ち上がった。
さっと、窓のない壁を順に見る。それから、天井の換気孔に目を向ける。あった。財団に入ったその日から、24時間365日、常に自分に向けられたスナイパーライフルの銃口。壁越しだが、向こうにも気配を感じる。合計4挺。いつもと同じ。
携帯をポケットから出し、画面をみて思わず舌打ちした。
「…クソッ」
眠ってしまった。2164時間ぶりに、168時間も。夥しい数の着信履歴の、一番上を押し、携帯を耳に当てる。
「…俺だ。悪い、ちょっと休んでた。そっちはどうだ。…そうか。先生が目を覚ましたか」
通話しながら、辺りを見回す。子供たちの姿が無い。外出しているのか、それとも、眠りこけるガイキに愛想を尽かしたか…
・・・
「…いえ。『こちら』におります」
看守は答えながら、そっと牢の中を伺った。
看守は答えながら、そっと牢の中を伺った。
不用心にも開け放たれた格子の向こうには、数日前に目を覚ました蜜屋志羽子。そして、速水かなえと小崎善貴。
かなえが、ポケットから黄色と黒の縞模様のガイアメモリを取り出した。
「…塾の、先生の部屋の隠し金庫にありました」
「これで、また僕たちを導いてください!」
「ええ…」
蜜屋は、ふと遠い目になると、ぽつりと言った。
「…本当に、良かった。素晴らしい生徒たち…私のやってきたことは、間違いじゃなかった…」
___この国の教育を変えたい。そう思って、北欧を訪れた私は、この国と何一つ変わらない現実…いじめ、非行、スクールカーストに絶望した。この国を出ればという幻想は、一瞬で打ち砕かれたわ。
私は、4年間を予定していた留学を1ヶ月で中断した。そして、余った学費でガイアメモリを買った。超人の力を与えるメモリのことは、大学時代に聞いていたけれど、それに縋ることになるなんて思いもしなかった。
でも、確かにメモリは、私に望む力を与えてくれた。私の前で、生徒たちは平等になった…
・・・
「蜜屋志羽子が愛巣会を設立したのは、今から17年前。当時はまだ、小さな私塾でした。生徒もほんの10名足らず」
「それが、急にあんなでっかくなったのか」
「興味深いことがあります」
北風署の一室で、徹とリンカ、それに植木とミヅキが資料を囲んでいる。
井野兄妹の一件が相当ショックだったのか、坂間は先日から有給を取って休んでしまった。
「ミュージアムの崩壊と、愛巣会が急激に規模を広げた時期が、殆ど一致します」
「つまり…どういうことだね?」
「もしかして…ガイアメモリの価格が暴落して、仕入れやすくなったとか?」
リンカが頷いた。
「仮に、蜜屋の目的が生徒たちの支配だとして…クイーンビーメモリは、それだけでは洗脳能力は持ちません。せいぜい力による恐怖政治を敷くぐらいでしょう。しかし、相手が蜂系のドーパントなら話は変わる。いえ、蜜屋ほどの適合者なら、昆虫系全てでしょう」
「母神教の宗教法人登録が、その2年後だ。愛巣会はその直後に、更に規模を広げている」
「母神教が持ってる工場から、直接メモリを貰えるようになったからね〜…」
ミヅキが、複雑そうな顔で言った。少し前までは、彼女自身がそちら側にいたからだ。
「ええ。ここで危惧すべきことは…蜜屋が、自身がやられた時のことを考えていないはずが無いということです」
「つまり、後任がいる?」
「もしくは、既に予備のメモリを造らせている」
「…」
徹と植木は、互いに顔を見合わせた。ミヅキが、困惑気味に2人を交互に見る。
やがて、ミヅキを除く3者が、一斉に立ち上がった。
「拘置所へ行かないと!」
「そうです。愛巣会の残党は、ゾーンメモリを所持しています。奇襲される前に、早く!」
保守
公式からまた大変な発表がありましたがいかがお過ごしでしょうか
まさかのアニメ化ですよ
メンタルやって無職になったり短期間で2回引っ越す羽目になったり色々あったんだけど、一番の問題は引き出しの限界を悟ってしまったこと
この先考えてた展開、もう前にやったことの焼き直しに過ぎないと気付いてしまった
・・・
「愛巣会と母神教は、言わば人生の流れ…『お母様』の下に集った子供たちを、私たちが教育し社会に送り出す…難しいことは、こちらに任せてもらえれば良かったの。ガイアメモリさえ供給してくれるなら…」
「…」
大真面目に聞く小崎。看守は、腕時計を気にしている。
「でも…『お母様』は、私を信用していなかった。ずっと側に潜んで…私を監視していた。私は、また裏切られた」
蜜屋は、深い溜め息を吐いた。
「…裏切られてばかりの人生だったわ。同級生に裏切られ、教師に裏切られ、北欧の現実に裏切られ、『お母様』に裏切られ…でも」
小崎と、速水。2人を見て、彼女は微笑んだ。
「…あなた達は、裏切らなかった。ここまで私についてきてくれた…だから、私は教師として、最後まであなた達を導くわ」
「はい!」
「さあ、速水さん。メモリを」
「…」
ところが…かなえは、動かない。
「速水さん?」
「…お勉強が終わったら、人はどうなると思いますか?」
女王蜂のメモリを、掲げる。
『クイーンビー』
「お父さんが亡くなって…真っ暗闇に閉じ籠もっていたわたしを、あなたは救ってくださいました。光の当たる場所で…わたしは、初めて人を好きになった。…恋をしました」
「素晴らしいことよ。貴女の人生が守られるよう、私はいつまでも」
「その人は、強い人が好きなんだそうです。だから、わたし、強くならないと」
「…ええ。貴女の恋が叶うよう、私はいつでも協力するわ」
「ありがとうございます」
かなえは、頷いた。蜜屋も、頷いた。
「さあ、早くそのメモリを」
「速水さん、急ごう。そろそろ見張りが」
蜜屋と小崎に促され、かなえはクイーンビーメモリを…
風都探偵アニメ始まったっすね
また帰ってきてくれないかな
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