【安価】ガイアメモリ犯罪に立ち向かえ【仮面ライダーW】 (723)

「何でですか!」

 机を叩き、問いただす彼に、編集長は硬い表情で言った。

「本社からの命令だ。…本当は、僕だって君の記事を載せたかったさ」

「本社って…クソっ、風都新聞の! 自分たちの街を悪く書かれたら、すぐにこうだ!」

「…」

 大判の封筒を彼に突き返すと、編集長はため息をつく。

「…だが、彼らに食わせてもらってるのも事実だよ。僕らも、路頭に迷いたくは無いからね。また今度、良いのを頼むよ」

 そう言うと編集長は、帰れと言わんばかりに手を振った。彼はもう一度机を掌で叩くと、足音も荒く部屋を後にした。



 ぎらついた盤面に虚しく吸い込まれていく銀の玉を眺めながら、彼は茹だった頭で考えていた。
 最近、この街で多発する怪奇現象。ビルが融け、鉄の塊が振り、地面に穴が開き、そして人が死ぬ。これらは、隣町の風都で数年前まで頻繁に起こっていた現象だった。そして、怪奇現象と前後してこの街に突如として広まった『母神教』なる新興宗教。
 彼は、一連の出来事を風都に端を発する事件と考え、取材し、記事に纏めた。そして、馴染みの雑誌社に持ち込んだのであった。
 編集長は、途中までは乗り気であった。だが、急に記事を却下した。それが、先程の出来事である。
 彼は、これが編集長にとっても不本意な決断であったと確信している。何故なら編集長もまた、この街を愛していると知っているからだ。

 『北風町』。風都に隣接する、人口3万人弱の町。風都が風力発電を軸とするエコの街として知られる一方で、この街の存在を知るものは少ない。表向きには、多くの産業を抱える風都のベッドタウンとして機能しているのだが、実際はそれだけでなく、街のイメージダウンに繋がるとして風都に切り捨てられたもの…例えば、産業廃棄物やゴミ処理場、更にはドヤ街や風俗店まで押し付けられているのが、この北風町であった。
 それでも、彼はこの街を愛している。生まれ育った街。華やかな都会の汚点を押し付けられた、この哀れな街に、これ以上、風都の暗部を持ち込まれるのが、我慢ならなかった。

 ぼうっとしていたせいで、気が付いたらハンドルを回しても何も出なくなっていた。下の玉受けは当然空。彼は舌打ちをすると、椅子から立ち上がった。

 パチンコ屋を出ると、外はもう夜だった。とぼとぼ歩く彼の背中が、人気の無い通りに差し掛かった所で、不意に後ろから声がした。

「ねえねえ、お兄さん」

「あ…?」

 振り返ると、如何にもヤンクめいた服装の若い男と女。男の方が、ニヤニヤしながら話しかけてくる。

「お兄さん、世の中が気に食わないって顔してるね」

「ンだと…?」

「ね、良いものあげる」

 女の方が、ポケットの中から何やら四角い小箱のようなものを取り出し、彼に握らせた。

「これは…USBメモリ…?」

 掌の上の、記憶媒体めいた箱には、甲殻類めいた意匠でアルファベットの『A』が書かれている。ボタンを押すと、唸るような声で『アノマロカリス』と音がした。

「これを使えば、君は人間を超えた存在になれる。それこそ…」




「…お前らか」



 彼は、ぽつりと呟いた。

「え?」

「お前らが、この街をめちゃくちゃにした犯人か!!」

 彼は叫ぶと、メモリを地面に叩きつけた。そして、男の胸ぐらを掴んだ。

「お前らが! この街を!」

「や、やべっ、こいつイかれてる」

「イかれてるだと? それはこっちの…」

「…仕方ない」

 突然、男がニヤリと嗤った。上着の内ポケットに手を入れると、また別のメモリを取り出し、彼の目の前に掲げた。
 触覚と顎を広げた、獰猛な雀蜂の頭部を象った『H』の文字。

『ホーネット』

「仕方ないから、正当防衛させてもらうね」

 そう言うと男は、左手首にメモリを突き刺した。女も同じメモリを取り出し、手首に刺す。
 メモリは体に吸い込まれ、二人の体は見る見る内に、蜂と人間を混ぜたような姿へと変貌していった。

「うわ、わっ…」

 逃げ出す彼を、二体の蜂人間は飛んで追いかける。そう、文字通り『飛んで』だ。
 忽ち彼は、路地の行き止まりに追い詰められた。

「じゃあ、死んでもらおう…」

「嫌だ、やめろ…やめろぉーっ!」




 ___これが彼の、ビギンズナイト。



↓1 主人公の名前

「…?」

 恐る恐る目を開けると、そこには徹に背を向けた、白いスーツ姿の人間が立っていた。その足元には、蜂人間たちがどちらも倒れている。

「あ、あんたは…」

「まだメモリブレイクに至っていません」

 徹に背を向けたまま告げる、白スーツの人物。それはくるりと彼の方を向くと、何か二つの物体を投げて寄越した。
 月明かりに照らされた顔は、意外にも若い女のそれだった。

「これは…」

「変身してください」

「はぁっ!? へ、変身って」

「ドライバーを腰に当てて」

「えっ? えっと…ドライバー…って、これか…?」

 渡された片方の物体。赤と銀の機械を腰に当てると、黒いベルトが伸びて巻き付いた。

「ガイアメモリをドライバーに装填して」

「!」

 渡されたもう一つの物体。今しがた見たものに比べると随分スマートな見た目をしているが、確かにそれは目の前で人間を怪物たらしめた、恐るべきメモリであった。
 しかし、今は命の危機である。彼はメモリを掲げると、ボタンを押した。



↓1〜3でコンマ最大 徹が変身するメモリの名前




『ファンタジー』



「ファンタジー…って、えっ?」

「急いだ方がよろしいかと」

 女に急かされて、徹は慌ててドライバーにメモリを差し込んだ。見ると、地面に伸びていた蜂人間たちがもぞもぞと動き出している。

「メモリを右に傾けて」

 言われるがまま、メモリを挿入したソケットを右に傾けた。

『ファンタジー!』

 メモリの声。ドライバーの前に、万年筆と罫線を合わせたような『F』の文字が浮かび上がり…

『…うわっ、何だこれ!』

 彼の姿は、お伽噺に出てくるような騎士の姿に変わっていたのであった。

「…テメェ…まさか、『仮面ライダー』だったなんて」

『仮面ライダー?』

 立ち上がって毒づく蜂人間に、徹は思わず聞き返した。
 仮面ライダーの噂は、彼も耳にしている。風都の危機に颯爽と現れ、人々を救うヒーロー。だが、所詮は風都限定の存在だと、全くアテにしていなかった。それが、まさか自分が…

「どうでもいい、死ねよぉ!」

『! おりゃあ!』

 片方の攻撃を躱し、お返しに蹴りを叩き込む。怯んだ相手に代わって、もう片方の蜂人間が襲ってきた。

「でもあんた、成り立てじゃん。あたしたちとは年季が違うわよ!」

『ふっ、やっ…わっ!?』

 棘の生えた腕が顔を掠める。

『そっ、そう言えばそうだよ! 俺、格闘技の心得とか何にもねえんだけど!?』

 いつの間にか後ろに下がり、傍観を決め込んでいる白スーツの女に、徹は叫んだ。

「心配いりません」

 女が、一歩前に踏み出す。



↓1

①貴方には素質があります(高適合度確定)

②こちらも用意しました(武器供与)

③僭越ながら、私も手伝います(メモリポチー)

「貴方には素質があります」

『素質って…っ!?』

 彼女の言葉に触発されるように、徹の体が突如、光に包まれた。
 光が収まった時、彼の体は、騎士の甲冑の上から更に、純白のマントを纏っていた。それだけでなく

『力が、みなぎる…それに、戦い方が分かってきた気がする…!』

「はっ、ほざくんじゃないよ!」

 殴りかかる蜂人間。が

「なっ!?」

 その拳を軽く受け止めると、徹は右手を差し上げ、人差し指を突き出した。その手をくるくると動かし、空中に何かを描いていく。

「何を…」

『生憎、こちとら書くのが仕事なんでね!』

 宙に描かれたのは、一本の長剣。完成した瞬間、何とそれは実体化し、徹の手に収まった。
 更に彼はドライバーからメモリを抜き、腰のスロットに差し込んだ。

『ファンタジー! マキシマムドライブ』

『ファンタジー・イマジナリソード!!』

「っ…ぐあああっ!!?」

 白い光を纏った剣に、蜂人間が斬り倒された。

「ひっ、た、助けて…うわああああっ!!」

『逃がすか!』

 更に、飛んで逃げようとする片割れも斬り捨てる。
 二体の蜂人間は地面に転がると、元の人間の姿に戻った。その体から、先程刺したガイアメモリが抜け落ち…砕け散った。

今日はここまで

最後に、このスレの注意事項をば
・安価は控えめ

・戦闘は自動

・エログロあり

・オリキャスは基本出てこない

・エターナる可能性

『仮面ライダーファンタジー』

 『空想』の記憶を内包するガイアメモリで、フリーライターの力野徹が変身した姿。基本形態は西洋の騎士のような姿をしているが、変身者のイメージ次第で魔術師や、はたまた魔物のような姿にもなれる。
 想像し描いたものを実体化するという、極めて汎用性の高い能力を持っているが、その出力は変身者の想像力に直結しているため、想像力豊かな人間でないとメモリの力を十分に引き出せない。



『仮面ライダーファンタジー アイデアル』

 ファンタジーメモリとの適合率が一定の水準を超えた時になれる姿。外見上は西洋甲冑の上から白いマントを纏った姿となる。
 『空想』を超越し『理想』を実現する力を持っており、変身者の想像力と表現力の許す限りの理想を具現化できる。早い話がチート。
 ただし理想とは言ってもあくまで自分で使う力のことであり、具現化したものを自分で振るわなければ意味がない。例えば、『当たると死ぬ剣』を具現化することはできるが、それを当てるのは変身者の腕前次第。また、幹部ドーパントやCJXなどのような単純に格上の相手には効果も限定的。

 薄暗い聖堂に、黄色いスーツを着た女が跪いている。彼女が向いている聖堂の上の方には、分厚い虹色のヴェールがかかっていて、その向こう側は窺い知れない。

「申し上げます。わたくしたちの育てたドーパントが、何者かに倒されました」

 淡々と、女は続ける。

「その前にも、わたくしの配下の売人が2人、倒されています。街では、『仮面ライダー』が現れたとの噂も流れています」



”仮面ライダー…”



 ヴェールの向こうから、エコーのかかったような女の声が聞こえてきた。

「はい。最近ようやく結成された、北風署の超常犯罪捜査課も、その存在の確保に乗り出しているようです」

”…”

 ヴェールごしに聞こえてくる溜め息に、女は深々と頭を下げた。

「申し訳ありません、『お母様』」

”…気に病むことはありません”

「お母様…」

”あなたの子は母の子。子を守るのは、母の使命です。母が不甲斐ないばかりに、不要な心配をかけましたね”

「そんなこと」

”ですが、もう心配はいりませんよ。___ミヅキ”



「はぁ〜い」



 気の抜けた返事と共に、ヴェールの向こうから一人の少女が姿を現した。白いロリータめいた服を着て、脱色したぼさぼさの髪をザンバラに伸ばしている。スーツの女が、密かに眉をひそめた。

”お話は先程の通りです。母の子たちを害するものを見つけ出し、懲らしめておしまいなさい”

「殺すの?」

”なりませんよ。仮面ライダーとて、母の子の一人…”

「お母様! なりません!」

”落ち着きなさい、愛しい娘。…捕らえて、母の前にお連れしなさい。母の愛を以て、生まれ変わらせて差し上げましょう”



「…うぅん」

 カーテンの隙間から差し込む光に目を覚ますと、徹はベッドの上で伸びをした。

「…っ、あぁ…」

「おはようございます」

「うわぁっ!?」

 ベッドの脇で直立不動のリンカが、徹に挨拶をした。
 寝床は気にしなくて良いと言われたので、昨夜は彼女より先に寝た。起きたときにはこの有様なので、彼女がどこで寝ていたのか、徹には知りようがない。

「朝食の準備ができています」

「あ、ああ、どうも…」

 目を擦りながら、徹はベッドから降りた。



「起きたは良いけど、今日はバイトも無いしな…」

「知っています」

 コーヒーを啜りながらぼやく徹に、リンカはすげなく言う。

「ですから、調査には良い機会かと」

「だよなぁ…」

 そもそも、週に3日はフリーにしてあるのは、本業の取材のためだ。今後はこの取材が、ガイアメモリ犯罪の調査に置き換わるということになるのだろう。

「そうは言っても、何から調べるかなぁ」



↓1 どうする?
①没にされた記事を読み返してみよう

②母神教について調べてみよう

③超常犯罪捜査課って何だ?

 考えて、ふと昨日の警察官の言葉を思い出した。

「そう言えば昨日、警察が『超常犯罪捜査課』って言ってたな…あれは、何だったんだろう?」

「文字通り、超常現象を用いた犯罪に対処する部門、まあ、実質ガイアメモリ犯罪に対処するための警察の組織です」

「はあ? ガイアメモリの存在は秘密じゃないのかよ」

「一般人には、です。警察組織の一部にはガイアメモリの存在も認識されています」

「何じゃそりゃ…あ、でも、知ってるからって対処できるのかよ?」

 この間の蜂人間や、大口の怪物を思い出す。あの腰の引けた警官に、あいつらと戦う力があるとは思えない。

「捜査の助けにはなるでしょう。ただ、最盛期と比べてガイアメモリ犯罪は大幅に減っていますので、その規模もかなり縮小されました。風都に設置されていた捜査本部も規模を縮小し、課長は現在育休中とのことです」

「いくきゅう…」

「以前は、その課長が仮面ライダーに変身し、ドーパントと戦っていました。ただし、その事実は他の警官には知らされていなかったようです」

「…」

 徹は考えた。恐らく、超常犯罪捜査課なる組織は、戦力にはならないだろう。だが、調査力に関してはアテにしても良いかも知れない。この間の蜂人間がメモリをばら撒いているとしたら、その手の密売人が他にもいてもおかしくない。そいつらが徒党を組んでいるとしたら、徹一人(とリンカ)だけでは手が足りない。
 徹は立ち上がった。

「取り敢えず…警察、行ってみるか」

 応接間に入ってくるなり、その警察官は露骨に嫌そうな顔をした。

「あんた、どこの記者よ」

「フリーの記者をしています」

「はっ、フリーねえ…」

 どかっとソファに腰を下ろすと、彼は投げつけるように名刺を渡した。名刺には、『北風署 超常犯罪捜査課 警部 植木忍助』と書かれている。徹も名刺を渡したが、ちらりと一瞥しただけでポケットに突っ込まれてしまった。

「で、あんたは?」

 当然のように徹の隣に座るリンカに、植木は怪訝な目を向けた。

「フリーの記者Bです。お気になさらず」

「はぁ……で? 何が聞きたいの」

「ここ最近、北風町で連続している怪奇現象について、こちらで対応しているとお聞きしまして」

「対応なんて、そんな立派なもんじゃないよ」

 植木は溜め息を吐いた。

「今抱えてるビル崩壊事件だって、手がかりの一つも掴めやしない。目撃者は『怪物がいた』って言うけど…」

「ほう、怪物が」

「…いや、おれも信じてなかったけどね。もう噂にもなっちゃってるし、この際だから言っちゃうけど…見たんだよ」

「見た?」

「怪物だよ。でっかい口のお化けが、通りで暴れてたんだ。おまけに、別の化物がやって来て、そいつをやっつけちまった」

「…」

 徹は口を閉じた。後から来た方とは、もちろん徹の変身した仮面ライダーのことである。

「後から来た方には逃げられちまったが、口の方は捕まえた。だが、気を失ったきり全然目を覚まさない。証言も得られそうにない」

「ビル崩壊事件については、何か分かったことは?」

「あんたねえ、話聞いてた? 無いんだよ何も!」

 植木はいらいらと机を叩いた。

「現場には化物がいました、だから何だよ! どっから来て、何がしたいのか、どうやってやっつけるのか…全然分からない! 署長からは、何遊んでんだって睨まれる始末だ」

「ですが、同様の事件は風都でも起きていたのでしょう? 風都署ではどうしていたんです?」

「風都とウチじゃ、上からの扱いが違うんだよ…」

 悲しげに、彼は首を振った。

「知ってるか? 向こうの課長は、サッチョウから来たエリートだぜ? そのくらい上の気合入ってんだよ。それが、現場がお隣に来た途端だんまりだ。人は寄越さねえ、予算は渋る…」

「…」

 嘆く植木に、徹は同情的な気持ちになった。何とか力になれないかと思った。
 故に、彼は口を開いた。

「…私に、協力させてもらえませんか」

「はあ? フリーの記者に、何ができるってんだよ」

「私は…」



↓1
①超常現象についての情報を持っています

②仮面ライダーの知り合いです

③仮面ライダーです

「私は…」

 仮面ライダーだ、そう言おうとして、思いとどまる。まだだ。そこまで打ち明けるのは早すぎる。

「…昨日、警部が遭遇した怪人の片方…平たく言えば、仮面ライダーの知り合いです」

「はあぁ!?」

 いよいよ植木の目つきが怪しくなった。徹は会話を打ち切られないよう、続けて言った。

「彼は用心深い性格で、私にも多くを語りませんが…それでも、この街を愛する存在であることに変わりありません。何より、昨日警部を驚かせてしまったことを、ひどく気にしていました」

「ちょっ、ちょっと待てよ!」

 植木が止めに入る。

「そんな、あの、魔術師ヤロウと知り合いだなんて、そんな話信じられるわけないだろ!」

「そう思われるのも無理はありません。ですので、彼から伝え聞いた情報を…」

 彼は慎重に、言葉を選びながら言った。

「吹流2丁目の路地で、二人の怪人と戦ったそうです。そこで怪人…ホーネットドーパントを倒し、メモリを破壊したと」

「!!」

 植木の顔色が変わった。彼は数分の間、黙って徹を見ていたが、やがて震える声で言った。

「……ご、極秘情報だ。そいつらは」

「メモリの密売人、でしょう?」

「なんてこった…!」

 植木は頭を抱え、天を仰いだ。

「ガイアメモリ、ドーパント…それだけじゃない、密売人の存在まで…もう、あんたに隠してもしょうがない」

 彼は、視線を徹に戻した。その顔が、興奮気味に紅潮していた。

「…そうだ。二人はまだ警察病院に入院しているが、奴らから数本のメモリを回収した。だが、その扱い方が分からないんだ。解析しようにも、我々の知る科学からは外れているし、分解の仕方も分からない…」

「協力しましょう」

 徹は、力強く言った。

「仮面ライダーは、強いですが孤独です。何より、ガイアメモリを街にばら撒く黒幕の存在がまだ見えていない。あなた方は、まだドーパントへの対処法を持っていませんが、優秀な刑事さんによる綿密な捜査が可能です。双方が協力し合えば、もう怖いものはない」

「し、しかし」

「私は、この街を愛しています。…警部もでしょう? ガイアメモリ犯罪の捜査が遅々として進まないことに、誰より不安と苛立ちを感じておられる」

「!」

「風都の陰で忘れられた、この北風町を愛する者同士…手を取り合う時です」

 徹は、笑顔で頷いた。

「流石、ファンタジーメモリに選ばれただけのことはあります」

 無感情でも分かるくらいに嫌味っぽく、リンカが言った。

「うるせえ。だが、得られたものはあっただろ」

「そうですね。ドーパントとの戦闘を引き受け、メモリブレイク後の犯罪者を引き渡すことを条件に、捜査情報の提供、資料の貸出を受けられるようになりました。何より」

「ああ」

 テーブルの上に並べられた、3本のガイアメモリ。警察が密売人から押収した、売り物のメモリである。
 ここは、北風署に近い喫茶店。寂れた店の、更に人気の少ない隅の席に、二人は陣取っていた。

「『アノマロカリス』『コックローチ』…これらは、需要が高かったためどの工場でも製造されていました。が」

 3本目の、焦茶色のメモリ。跳躍するネコ科の肉食獣の姿は、アルファベットの『S』に見えなくもない。

「『サーバルキャット』のメモリは、そう出回っていないはずです。製造した工場も、限られているでしょう」

「製造元を叩けるわけだな」

 徹は、メモリを封筒に入れて鞄に仕舞った。

「よし、このメモリはさっさと警察に返そう。こっちの手にある時に盗まれでもしたら、折角繋いだコネが台無しだ」



 北風町の、とあるオフィスの男子トイレにて。小便器で用を足していたある会社員の男は、突然首筋に何か冷たいものが触れるのを感じた。

「だっ、誰だっ」

「おじさ〜ん…」

 振り返って、ぎょっとする。
 そこには、白いロリータドレスに身を包んだ、一人の少女が立っていた。

「…どこから入ってきた」

 慌てて一物を仕舞い、チャックを締めながら男は問うた。少女は答えずに、聞き返した。

「もう、使わないの?」

「何を…っ!」

 目元に隈の浮いた陰気な顔で、ニヤニヤと嗤う少女。男は、彼女の言葉の意味を察し、思わず叫んだ。

「も…もうたくさんだ! 私は、あの会社に復讐できれば良かったのに…それが、あんな取り返しのつかないことに…」

「え〜、勿体無い」

 少女はずいと身を寄せると、慣れた手付きで彼のスーツの胸元をはだけた。
 露わになった左の胸板には、四角い電子回路めいた文様が、くっきりと刻まれていた。

「ほら…コネクターも泣いてるよ。メモリが欲しい、欲しいよ〜って」

「ふざけるな!」

 男は、少女を突き飛ばした。___突き飛ばそうとした。

「あははっ!」

 少女はその場で跳躍すると、宙返りしてトイレの天井を蹴り、男に肩車するように着地した。そのまま両脚で彼の首を締め上げると、ドレスの胸元から一本のメモリを取り出した。

「これ…返すね。二度と、ゴミ箱に捨てたりしちゃダメだよ〜」



『アースクエイク』



「や、やめろ、怪物なんて、いやだ! …やめろぉぉぉっっ!!」

 家に帰ろうとした時、徹の携帯が鳴った。

「もしもし?」

”力野さん、大変だ!”

「植木警部? どうかしましたか」

”北風駅前の、ビルが…”

「!!」

 最後まで聞く前に、2人は見た。遥か向こうで、一棟のビルが、煙を上げて崩れ落ちていくのを。

「すぐ行き…行くよう、仮面ライダーに伝えます!」

”ああ。我々は町民の避難を指揮する”

 電話を切ると、徹はドライバーとメモリを取り出した。

「しかし、遠いぞ…」

「問題ありません。貴方が想像すれば、移動手段も思いのままです」

「あ、そう言えばそうか。___変身!」ファンタジー!

『よし、だったら…』

 ファンタジーは、路上に放置されていた自転車に跨ると、人差し指でハンドルをなぞった。
 自転車が光に包まれ……やがて、白と銀の大型バイクへと変貌した。

『仮面ライダーなら、やっぱりバイクが無いとな! リンカ、先に家に帰っててくれ』

「はい」

『行ってくる!』

 ファンタジーはアクセルを吹かし、バイクを走らせた。




「きゃあぁぁっ!」

「た、助けてくれえっ!」



「はい車は入って来ないで! 皆さん、こちらに避難してください!」

 数台のパトカーが道路を封鎖し、ビルから避難してきた人々の逃げ道を確保している。パトカーの窓から身を乗り出し、崩れ行くビルを睨んでいた植木の前を、銀色の影が駆け抜けた。

「! 来たか、仮面ライダー…!」

 影は猛スピードで道路を走り、逃げる人とは反対に、ビルの中へと突っ込んでいく。

「誰か入って行くぞ!」

「止めないと」

「待て!」

 車を降りようとする他の警官を制し、植木は言った。

「心配ない。彼は、味方だ」




「あああっ! ああああっ!!」

 瓦礫を蹴散らしビルの中を進むと、目当てのドーパントの姿が見えた。灰色の岩石のような姿をしたそのドーパントは、何やら喚きながら壁を殴り、破壊している。

「いやだあああっ! うわあああっっ!!」

『おい、ドーパント!』

 ファンタジーの声に、ドーパントの動きがぴたりと止まった。虚ろな目が、乱入者の姿を捉える。

「か、仮面ライダー…」

『ビル崩壊事件の犯人は、お前か』

「お、おお……」

 何かを堪えるように、身を捩りながら、ドーパントは唸った。

「おれはぁ…妹を、過労死させた…あの会社が、憎くて……」

『…そうか。もう良いぞ』

 宙に鉄のハンマーを描き、両手で掴む。

『今、楽にしてやる。はあっ!』

「おおああああっっっ!!!」

 突然、ドーパントが足元を強く蹴った。次の瞬間、ビルの床が大きく揺れ始めた。しかも、ただ揺れるだけでなく、足元がどろどろに融け出したのだ。

『なっ、何だこれ…』

「ああっ! 体があああっ!!」

『!』

 咄嗟に倒れた棚の上に飛び乗った。そのままハンマーを振り上げ、ドーパントに飛びかかった。

『たあっ!』

「ぐうっ…」

 硬いハンマーが頭を直撃し、ドーパントはその場にうずくまった。ファンタジーはすかさずメモリをスロットに差し込むと、ハンマーを振り上げた。

『ファンタジー! マキシマムドライブ』

『ファンタジー・ブレーンクラッ…』

 言いかけた彼の頭を、何かが横から打ち据えた。

『ぐわあっ!?』

 ぬかるんだ足元に沈みかけて、ファンタジーは慌てて机の上に飛び乗った。
 視線を移すと、ドーパントの肩の上に、何かが乗っている。

「…あははっ」

『お前は…』

 それは、ウサギと人間を混ぜたような姿をした怪物、ドーパントであった。

「見つけたよ、仮面ライダー」

『お前、こいつの仲間か』

 ところが、乗られているドーパントの方は、寧ろ拒むように肩を揺すっていた。

「いやだ、いやだ、いやだああっ!」

「お母様には、捕まえて連れてこいって言われたけど〜…」

 ウサギのドーパントは、値踏みするようにファンタジーを見た。

「もうちょっと遊びたいって言うか〜? ここで終わらせちゃ、勿体無いっていうか〜」

『ふざけるのもいい加減に…』

 ハンマーを振り上げるファンタジー。ところが、ウサギのドーパントは軽く跳躍すると、ハンマーを蹴り飛ばしてしまった。

「…ね? もうちょっと強くなって、出直しておいでよ」

 相方の肩に戻ると、ウサギは嗤った。それから融けつつある地面に着地すると、大きな相方の体を軽々と担ぎ上げてしまった。

「じゃ、よろしく。バイバイ、仮面ライダーさん」

 次の瞬間、ウサギは跳躍し、窓を突き破って外へと逃げてしまった。
 後に残されたファンタジーは、追いかけようとして、奥から聞こえてくる悲鳴に気付いた。

 結局、事件の犯人は逃してしまった。不幸中の幸いは、彼の尽力で犠牲者を増やさずに済んだこと、その御蔭で、ドーパントは逃したものの植木警部はじめ、超常犯罪捜査課のスタッフの信頼を、ある程度は得ることができたことだった。



『Eの後悔/二輪車と口車』完

今夜はここまで

「井野定、33歳。北風建設の事務員。10歳年下の妹、遊香は2年前にノース・テクニクスに就職したが、過重労働に耐えかね半年前に自殺した」

「ああ、ニュースで見たことあります。結局、会社が裁判で負けたんでしたっけ」

 徹は写真を見ながら、以前取材した時のことを思い出していた。あの頃は、彼に限らず多くの記者が、問題となったノース・テクニクスや、その他の関連企業を取材していた。

「彼は多額の賠償金を得たはずだが、その金の行方は分かっていない。もしかしたら、ガイアメモリの購入資金に充てたのかも知れないな」

「妹を死に追いやった、ノース・テクニクスに復讐するために…」

 植木は溜め息を吐いた。

「こいつが犯人なら、復讐はとうに済んだはずだ。ノース・テクニクスは、オフィスビルごと崩壊したし、社長はおろか平社員に至るまで、一人残らず死んだ。それなのにどうして、今更…」

 徹は黙って考え込んだ。あのドーパントは、暴れながら嫌だ、嫌だと喚いていた。力を使うのは、不本意な様子であった。何より、ビル崩壊事件から同様の出来事は、今に至るまで起こっていなかった。復讐を終わらせた井野が、元の生活に戻ったのだと考えれば、まあ納得はできる。

「重要参考人であることには違いない。その、仮面ライダーから聞いた話によれば、な。今、部下を動かして確保に…」

 その時、タイミング良く植木の携帯が鳴った。

「私だ。…なに、井野がいない?」

 植木の顔が険しくなった。

「仕事にも来ていないのか。アパートには…」

 ここで一旦耳を離し、徹に言う。

「悪い、今日のところはここまでにしてくれないか。また今度、連絡するから」

 徹は頷くと、北風署を後にした。




 聖堂には、獣のような喘ぎ声が木霊していた。

「はあっ、あぁっ、あんっ」

「いやだ、いやだ、ああっ!」

 長椅子に仰向け転がされた男に、その上に跨って腰を振る少女。少し離れてその様子を眺めながら、黄色いスーツの女は顔をしかめた。

「どうしてその男を連れてきたの、ミヅキ」

「だって〜」

 腰を振りながら、ミヅキと呼ばれた少女は答える。

「こいつ、メモリ耐性なさ過ぎなんだもん。お母様に会わせないと、ちょっと面倒くさいかな〜って」

「…それは同意するわ。でも、貴女のその行いは何?」

 少女が、ニヤリと嗤う。

「久し振りの男だもん。愉しまないと。…誰かさんのおかげで、フラストレーションも溜まってることだし〜?」

「貴様…」

 女は唸ると、スーツの内ポケットから黄色と黒のメモリを取り出した。

「あはっ、やる気? 良いよ〜」

 少女も、ピンク色のメモリを手に取る。



”お止めなさい!”



「!」

 ヴェールの向こうから響いた声に、2人は慌ててメモリを仕舞った。女はその場に跪き、少女も男の上から降りた。

”母の子がいがみ合うことは許しませんよ”

「申し訳ありません」

 真っ先に謝罪する、黄色スーツの女。ヴェールの向こうで、薄い人影が小さく動いた。

”…その子は、ミヅキが?”

「そうそう。メモリを刺した瞬間に暴走しちゃうから、ほっとけないかな〜って」

”そのようですね。母の子の危機を、よくぞ救ってくれました”

「あはっ」

「か、帰してくれ…もう、嫌だ…」

 呻く男の首を掴むと、少女は長椅子に座らせた。ヴェールの向こうで、人影が言う。

”愛しい子。もう、心配はありません。子の苦しみは母の苦しみ。今、楽にしてあげましょう…”

 するすると、ヴェールが開く。スーツの女は目を閉じ深々と頭を下げ、少女はにかっと口角を吊り上げた。
 男は、目を見開いた。

「あ、ああ…ああああっっ…!」




「『アースクエイク』のメモリで間違いないでしょう」

 お茶を一口飲むと、リンカはそう断じた。

「『地震』か…だが、地面がどろどろに融けたのは? それも地震のせいか?」

「応用すれば、場所によっては可能です。特に現場付近は、地下水が流れていると聞きます」

「! 液状化現象か」

 少し前に取材したことを思い出す。風都から出たゴミが、北風町付近の豊かな地下水を汚染しているという内容で記事を書いたことがある。結局これも、没にされてしまったが。

「だが…またあのウサギのドーパントが来たら、どうしよう」

 どこか女性的なシルエットの、ウサギ人間。見た目に反して大柄なドーパントを軽々持ち上げる怪力で、その上高い跳躍力に強烈な蹴りを見舞ってきた。

「聞く限り、組織の幹部クラスのようですね。それはおいおい考えましょう。いざとなったら、私も足止めくらいはできます」

「大丈夫なのか…?」

「いずれにせよ」

 空になった夕食の皿を重ねながら、リンカは言う。

「勝てる方から倒していくべきでしょう。特にアースクエイクドーパントは、何らかの組織と接触した可能性が高い以上、確保すれば今後の調査に役立ちます」

「そうだな」

 徹は立ち上がった。今から出陣…というわけではなく、単に風呂を洗いに行くのだ。
 リンカが風呂やトイレをどうしているのか、徹は全く把握していないが、取り敢えず手の届くところは綺麗にしておこうと、彼なりに気を遣っているのであった。




 朝。誰もいない墓地に、一人の会社員が座り込んでいた。

「遊香…待ってろよ」

 呟くと、彼はやおら墓石の下の戸を開け、中から白い骨壷を取り上げた。それを抱え、いそいそと立ち去ろうとする背中に、後ろから声がした。

「遺骨を持って、どこへ行く気ですか」

「! 誰だ」

 振り返ると、そこには白いスーツに金色のネクタイをした、痩せた女が立っていた。先に声を聞いたから女と分かっていたのであって、黒い髪を撫で付けた整った顔立ちは、男にも女にも見えた。

「名もなきフリー記者Bです。…単刀直入に言います。井野定、メモリを捨てなさい」

「お前…」

 男…井野は、骨壷を強く抱き女を睨んだ。

「おれが…おれが戦えば…遊香が、帰ってくる…」

「帰ってくる? 貴方が何をしようと、死んだ者は帰ってきません」

「帰ってくるんだ! 『お母様』の力で…」

 井野は骨壷をそっと足元に置くと、スーツのポケットから灰色のガイアメモリを取り出した。中央には、3本の地震計めいた波形が並んで『E』の文字を描いていた。

「お願いだ…もう、帰ってくれ。おれに、この力を使わせないでくれ…!」

「お断りします」

 女は、何処からともなく黒の大型拳銃を抜き、銃口を向けた。

「! このぉ…!!」




『アースクエイク』



「うおおおおっ!!!!」

 足を上げ、地面を踏みならそうとする灰色のドーパント。そこへ、女が引き金を引いた。

「!?」

 銃弾の代わりに太いワイヤーが発射され、ドーパントの体に刺さった。女が腕を振り上げると、その体が宙へと投げ出された。

「っ、このっ…」

 引きちぎろうとワイヤーを掴む。
 そこへ、銀色の影が飛来し、激しく衝突した。

「うぐあぁっ!?」

 墓地の隣の空き地に落下したドーパント。少し遅れて、白と銀のバイクに跨った仮面ライダーが着地した。

『復讐は果たした。職場も失った。そんなお前が来るところは限られてる。…やっぱり、妹か』

「邪魔をっ! するなぁっ!」

 地面を踏みつけようとするドーパント。ファンタジーは素早く宙に鞭を描くと、その足を絡め取った。

『地震は起こさせないぞ!』

 そのまま空中へ跳ね上げると、ファンタジーは両腕を広げた。すると背中のマントが二つに分かれ、白い翼となった。

『空なら、地震は起こせないだろう。観念しろ!』

 下から蹴りを連発し、地面に落とさないように攻撃を加える。

「ぐっ、うぐっ、がっ」

『このままメモリブレイクだ…』

 ドライバーに手をやった次の瞬間

『…うわあっ!?』

 その背中を、強烈な蹴りが直撃した。
 地面に墜落するファンタジー。その胸の上に、新たな襲撃者が着地した。

『お前、あの時の』

「あははっ、来るに決まってんじゃ〜ん」

 ウサギ人間はけらけら嗤うと、ぐいと相手の胸を踏みつけた。

『ぐっ…』

 そこへ、アースクエイクドーパントも降りてきた。ウサギは彼を手招きすると、弾む声で言った。

「君の力で踏んづけたら、どうなっちゃうかな〜?」

「そ、そんなことをしたら死んでしまう」

「だ〜い丈夫。どうせお母様が、また産み直してくれるから…」

 会話する2体のドーパント。ファンタジーはウサギの足を掴むが、びくともしない。

「ほら、やってみなって…ゔぇっ」

 そこへ、小型のミサイルが飛来して、頭を直撃した。

「無駄話も大概に」

 ミサイルの飛んできた方向には、銃を構えたリンカが立っていた。引き金を引くと、次々にミサイルが飛んでくる。

「…ふんっ、可愛いオモチャ!」

 ウサギはジャンプすると、ミサイルを片っ端から蹴り落としていく。
 何も言わず、引き金を引き続けるリンカ。その額に、薄っすらと汗が浮かんだのをファンタジーは見た。

『…! 今なら』

 上から敵がいなくなったファンタジーは、立ち上がると、再び鞭を手にした。

「! させん!」

 地面を蹴る、アースクエイク。ファンタジーは飛び上がって振動を回避すると、鞭を振るった。

「うわっ…」

 鞭が腕に絡みつくと、ファンタジーは振り上げ、そして振り下ろした。

「わあーっ!?」

「? …ひゃっ」

 巨体がぶつかりそうになって、ウサギは慌ててその体を蹴り返した。ファンタジーは構わず、ハンマー投げのように、ドーパントのくっついた鞭を振り回す。

『うおりゃっ、当たれっ! たああっ!』

「…ば〜か」

『!?』

 ウサギは両手を前に突き出すと…何と、飛んできたドーパントの体をピタリと掴み取ってしまった。
 そのまま、ぐいと引っ張る。

『うわっ!?』

 今度はファンタジーの体が引っ張られ、宙に舞った。そこへウサギがジャンプし、強烈な飛び蹴りを見舞った。

『ぐわぁぁぁっ!!』

「ああっ!」

 珍しくリンカが叫んだ。ウサギ人間はつかつかと歩み寄ると、更に飛び蹴りを浴びせんと膝を曲げた。

「これで……っ!?」

 ところが、その動きは途中で止まった。と思うや、突然、胸を押さえて苦しみだした。

「ぐっ…な、にを…」

 くるりと後ろを振り返る。その背中には、鋭く巨大な棘が、深々と突き刺さっていた。
 ウサギの顔が、怒りに歪む。

「あんの、ウジ虫ババア……!」

 痛みに耐えながら地面を蹴ると、ウサギ人間はどこかへと飛び去ってしまった。

『…はっ、今のうちに』

 ファンタジーは鞭を手放すと、メモリをスロットに挿した。

『ファンタジー! マキシマムドライブ』

 マントが翼となり、ファンタジーの体が宙へと舞い上がる。

『ファンタジー・エクスプロージョン!!』

 そのまま空中で一回転し…地面に倒れているアースクエイクドーパントめがけて、ミサイルキックを放った。

「ぐわあぁぁぁっっ!!」 

 爆炎。ドーパントの体が崩れて、元の人間の姿に戻り、その左胸からメモリが吐き出され、そして砕けた。



「…」

 骨壷を墓に戻すと、徹は黙って立ち上がった。後ろに控えていた植木が、静かに言う。

「井野の意識はまだ戻っていない。何故、今更妹の遺骨を持ち出そうとしたのか…そして今まで、どこに姿を隠していたのか…できるだけ早く、聞き出したいと思う」

「お願いします」

 徹は頭を下げた。その耳元で、リンカは囁いた。

「あのドーパント…前に戦った時と、様子が違いました」

「ああ。前より、かなり落ち着いてる様子だった。それに、『お母様』って…」

「まあ、後のことは我々に任せてくれ。またよろしくと、仮面ライダーに伝えといてくれ」

「はい。では」

 パトカーに乗り込み、去っていく植木。リンカは、ぽつりと呟いた。

「ガイアメモリには、多かれ少なかれ毒性があります。耐性が低かったり、長く使い続けていると、いずれ体調や人格に変容を来します」

「らしいな」

「…ですので、ドーパントが徒党を組むことは、実は難しいことなのです。実現しようとするなら、少なくとも統率する者は、ドライバーなどで毒性を弱める必要があります」

「じゃあ、今の組織にも、そのドライバーとやらがあるんだろ」

「…」

 リンカは黙ったまま、じっと空を見つめている。その口が、小さく動いた。

「何だって?」

「…予測できない。敵の目的が、見えない。いえ、定まった目的など、最初から無いのかも」

「だったら?」

 彼女の目が、徹を真っ直ぐに捉えた。

「無軌道な力は…いずれ自壊します。しかし規模が大きすぎれば、周りへの影響も大きくなる。私達としても、できるだけ早く解決したい」

「…ああ、そうだな」

 徹は、ふっと笑った。

「ま、何だ。あんたに言っても説得力無いかもだけどよ」

 ぽんと、リンカの肩を叩く。

「…俺に、任せろ」

「…ええ。そうですね」

 リンカが、頷いた。その、石膏像のような口元に、微かに笑みが浮かんだように、徹は錯覚した。

『Eの後悔/墓場の凪』完

本編はここまで。次の進行について、一つだけ安価を

↓1〜3でコンマ最大 何から始める?
①『母神教』について調べる

②密売人狩り

③その他、要記述

次回、なぞのそしきに切り込む

『アースクエイクドーパント』

 『地震』の記憶を内包するメモリで、会社員の井野定が変身したドーパント。ひび割れた岩石めいた灰色の巨体で、足で地面を踏みつけることで強い振動を起こす。井野はほとんど使いこなせず、偶然液状化現象を引き起こした程度であったが、応用すれば地震だけでなく、振動を纏った強力な打撃攻撃も可能。また、空中に飛ばせば触れるものが無くなるため大方完封できるが、水中に投げ込むと津波を起こすため最悪手。
 メモリは灰色。地震計の波形が3つ並んで、『E』の横棒を形成している。



『Xマグナム(仮称)』

 財団Xのエージェント、リンカが所持する黒い射撃武器。財団B的にはトリガーマグナムのコンパチ品。
 単体でもドーパントに対抗できる強力な弾を発射できるが、リンカは一緒に所持している『ワイヤー』『ミサイル』『フラッシュ』のギジメモリを駆使してドーパントを撹乱する。

「私ども母神教は、母なる神の愛によって、この世に平和をもたらすことを目標に活動しております」

 黒スーツに赤いネクタイを締めた壮年の男は、にこやかに説明した。
 ここは、母神教の北風町本部。この日、徹とリンカは、入信を検討していると言ってこの場所に来たのであった。ちなみに、リンカはいつもの白スーツではなく、黒いタイトスカートにブラウスを身につけている。それでも、金のネクタイは健在であった。

「ここでは、兄弟たちが日々の行いを互いに称え合っています」

 通された広間では、10人ほどの男女が円形に並んだ椅子に座って、話し合いの最中であった。

「私は今日、捨てられた犬を保護しました」

「ぼ、ぼくは倒れた自転車を立て直しました!」

「あたしは…」

 目を細める徹に、相変わらず無表情のリンカ。男は誇らしげに頷いた。

「母の子として、素晴らしい行いです」

「! 長兄様、おはようございます!」

 男女が一斉に立ち上がり、男に挨拶した。

「今日は、新しく母の愛に触れんとする兄弟が、こうして来てくれました」

「ようこそ、母神教へ!」

「あ、ああ、どうも…」

 曖昧に会釈しながら、徹は男の方を見た。

「…えっと。静かな所で、詳しいお話を聞かせていただけないかな、と思いまして」

「ええ、もちろんです。こちらへどうぞ」

 男は、笑顔で2人を先導した。



 小さな応接室にて、向かい合って椅子に座ると、徹は早速質問した。

「純粋に気になっていたのですが…あなた方の信仰する『お母様』とは、一体どのような存在なのですか?」

 徹はわざと、今まで男の出さなかった『お母様』という単語を用いた。
 井野定やウサギ人間の言っていた存在。字面からして、この母神教と何らかの関わりはありそうだ。だが、まだそうと決まったわけではない。この組織には当然、超常犯罪捜査課の手も入っているが、今に至るまではっきりした証拠を挙げられていないのだ。

「母とは、神です」

 男は一切突っ込むこと無く、当然のように答えた。

「母は全てを知り、全てを愛し、全てを護ってくださいます。世界が母の愛に包まれれば、この世から争いは消え、全てが等しく母の子として、互いに尊重しあい、愛し合う、そんな素晴らしい世界になるのです」

「はあ…」

 男の勢いに圧倒されて、徹は引き気味に相槌を打った。一方のリンカは、いつもの無表情で男の顔をじっと見つめている。しかし、両手は机の下で、何やらもぞもぞと動かしていた。

「…そうだ。その、母とは…聖母マリア? それとも、摩耶夫人?」

「いいえ。母は、ただ万物の母として、この世に君臨しておられます。…お会いになりますか?」

「!? 会えるのですか」

「もちろん」

「それなら…」

 会ってみたい。そう言おうとした徹の腕を、不意にリンカが掴んだ。

「いえ、結構です」

 そのまま立ち上がると、足早に部屋の出口へ向かった。

「ちょっ、リンカ…」

「有意義な時間でした。ですがこれ以上は結構」

「そうですか」

 男は、存外にあっさりと引き下がった。

「いつでも、またいらしてくださいね。私どもは」

「…」

 ところが、リンカは部屋から出ず、代わりに内側から扉の鍵を閉めた。そして、言った。

「財団のリストと照合しました。…元ミュージアム密売人、九頭英生。ここでガイアメモリの密売に関わっていましたか」

「!?」

 ぎょっとする徹。しかし、驚いたのは男も同じであった。

「なっ…何者ですか、あなたは!?」

「名もなきフリー記者Bです。そして母神教は殲滅します」

 何処からともなく拳銃を抜き、男に突きつける。

「きさまぁ…そうはさせません!」

 男は、黒いガイアメモリを取り出した。そう、ガイアメモリである。

『マスカレイド』

 メモリを首筋に刺すと、男の顔が黒と銀の仮面に覆われた。

「! 危ないっ!」

 殴りかかってきた男に体当りすると、徹はドライバーを腰に装着した。

「こいつもドーパントだったか…変身!」ファンタジー!

『取り敢えず、倒す!』

「仮面ライダー…お前が…!」

 ファンタジーは剣を構えると、マスカレイドドーパントとの戦闘を開始した。



「くはっ…」

『このままメモリブレイクだ…』

「待ってください」

 力尽きたマスカレイドドーパントに必殺技を放とうとしたファンタジーを、リンカが止めた。

『何だ?』

「マスカレイドメモリには自爆装置が付いています。メモリブレイクすれば、変身者まで死亡します」

『何だって!? じゃあ』

「このまま捕らえましょう」

 リンカは銀色のギジメモリを取り出すと、銃に装填した。

『ワイヤー』

 引き金を引くと、銃口から太いワイヤーが飛び出し、ドーパントの体をぐるぐる巻きにした。

『よし、捕まえて警察に』

「…ふっ。この私が、死を恐れるとも?」

『何っ』

「!」

『フラッシュ』

 リンカが、クリアカラーのメモリを銃に装填する前に、マスカレイドドーパントの体が爆ぜた。




 聖堂の床に、2人の女が倒れている。黄色スーツの女は全身痣だらけで、片腕が妙な方向に折れ曲がっている。白いロリータ衣装の少女は、背中に鋭い棘が突き刺さり、体のあちこちに刻まれた噛み跡から血が滲んでいた。

”…母は悲しいです”

「っ…申し、訳」

”もう良いです。あなたたちは、一度折檻しなければなりません”

「! …」

「許して、お母様…だって、こいつが」

”お黙りなさい!”

 ヴェールが開き、人影が姿を現す。人影が手を上げると、2人の頭上にも巨大な手が出現した。

「…」

「嫌、許して、許して…」

 諦めたように目を閉じる女。泣きながら懇願する少女。
 人影が、手を振り下ろした。すると巨大な手が2人の上に落ち…

「ぐっ」

「いぎゃあぁああっぁぁぁっ!!!!」

 2人の体を、ぐしゃぐしゃに押し潰した。



「母神教の本部に、ドーパントがいた?」

 北風署にて。徹の言葉に、植木が身を乗り出した。

「はい。仮面ライダーが来てくれなければ、危ないところでした」

 尤もらしく言う徹。リンカが引き継いで説明した。

「幹部がドーパントに変身しました。追い詰めましたが、自害されました」

「だが、母神教は前も捜査して、何も見つからなかったからな…」

「深入りする必要は無いと思います。ドーパントが他にもいるなら、警察の皆さんにも危険が及びますから」

「まぁ…できるだけ頑張ってみるよ。で? 君たちはこれから、どうするの」

「私たちは…」



↓1〜3でコンマ最大 これからどうする
①密売人について調べる

②ウサギのドーパントについて調べる

③ガイアメモリ製造工場について調べる

④その他、要記述

 その日の夕方。2人は『ばそ風北』で蕎麦を啜っていた。

「しかし、いきなりウサギの方ですか。立ち向かう算段はおありで?」

「あんまり。だが、今の所残ってるドーパントって言ったら、あいつしかいないだろ。…」

 徹は、かけ蕎麦を啜るリンカの横顔をちらりと見た。

「…何か」

「いや…あんたも、普通に飯食うんだなって」

「私”は”人間ですから」

 涼しい顔で、汁を一口。
 そこへ、カウンターの向こうから店主が口を挟んできた。

「にしても徹ちゃん、無事で良かったよ」

「?」

「ほら、こないだの怪物…あんた、いつの間にかいなくなっちゃうからさ」

「! あ、ああ。俺も隠れてたんだけど…ほら、おっちゃんも見てただろ。仮面ライダー」

「そうそう! いや〜危ないところだった。彼が来てくれなきゃ、もっと酷いことになってた」

 会話しながら、徹はほっと胸を撫で下ろした。あの時は気にしていなかったが、今のところ自分が仮面ライダーであることは隠すことにしている。店主に知られたら、そこからまた多くの人々へ広がることは、想像に難くない。

「…で、ウサギのドーパントだけど」

 レンゲでネギの切れ端を掬いながら、徹は話を元に戻した。

「母神教の一員であることは間違いないだろう。『お母様』とか言ってたし。それから、中身は女」

「本当に? メモリの力で、声や外見を女性的に見せているだけでは?」

「うっ…それを考えだしたら、もうきりがないだろ」

「そうですね、私もそう思います」

 平然と言い、お茶を一口。徹は、ぽかんと彼女を見た。

「…あんた、冗談も言うんだな」

「時々は。…で、どうやって探しますか。母神教の線なら、警察も調べていると思われますが」

「そうだな。俺たちは、別の線から探すとしよう」

 徹はそう言うと、ふっと遠くを見る目になった。




「変な奴かい? …そう言えば」

「心当たりが?」

 北風駅前の公園にて。徹とリンカは、一人のホームレスから話を聞いていた。

「誰も信じちゃくれないんだけどね。その、ビルが崩れた日。例のビルの壁を、誰か白い服の娘が駆け上ってくのを見たんだよ」

「!」

 2人は顔を見合わせた。
 駅前にはまだ立入禁止のテープが張られ、パトカーや工事車両が出入りしている。そんな中で、2人は改めて聞き込みに来た。井野定が再びドーパントとして暴れだしたのは、他でもない自身の務める会社のあるビルであった。つまり、仕事中の井野に接触して、メモリを使わせた者がいた筈なのだ。そしてそれは、あの時現場に現れた、ウサギのドーパントである可能性が高いと、2人は見ていた。

「それは、具体的にはどんな人でした」

「そうだなあ…遠かったし、速くてよく見えなかったけど…」

 ホームレスの男は、髭の生えた顎を撫でながら言った。

「…でも、フリフリの派手な服だったよね。だから女の子って判ったわけだし。それに、若い娘だったかな。そんな感じ」

「なるほど…ありがとうございました」

 男に一万円札を握らせると、2人は公園を立ち去った。



 墓地の付近でも、似たような目撃証言を得られた。興味深いのは、以前からその女の存在は噂になっていたことで、しかもその内容というのが『白いゴスロリ衣装の少女が、夜な夜な公園の身障者用トイレで売春を行っている』というものであった。

「…」

「人がいる場所なら、この手の噂は、多かれ少なかれ存在するものです」

 黙り込む徹に、リンカが急にそんなことを言うので、彼は驚いたように顔を上げた。

「…何だよ、慰めてるつもりか」

「揺らぐな、と言いたいのです」

 リンカは、いつも通りの無表情で言う。

「貴方はこの街を愛している。街のために戦っている。…それで良いのです」

「…」

 徹は、溜め息を吐いた。

「…ああ、そうだな。悪かった」




「ふうぅ…っ、あぁっ…」

 ヴェールの向こうで、一つの人影が横たわっている。その腹は大きく膨れ上がって、胸の辺りには別の人影が2つ、かじりついてもぞもぞと蠢いていた。

「あ、あっ…あああっっ!!」

 悲鳴に近い叫び声と共に、人影の腰が大きく浮き上がった。それから少し遅れて、その脚の間から、更にもう一つの人影が、ずるりと転がり出てきた。
 人影は床に落ちると、よろよろと立ち上がった。

「お、おお…『お母様』…」

「はぁっ…英生…」

 『お母様』は、胸にくっついた人影を払いのけると、両腕を差し伸べた。

「よくぞまた、生まれてきてくれましたね…」

「貴女様が、再び産んでくださればこそ…私は、何度でも命を捧げます…」

「さあ、おいでなさい…お乳を飲みなさい…」

 人影は『お母様』に縋り付くと、その胸に顔を埋め、貪るように乳を吸い始めた。

「お母様、あたしも…」

「お母様、お母様…」

 除けられた2人がねだる。その声は、黄色スーツの女と、白いゴスロリの少女のそれであった。

『怪しいR/母とは神なり』完

今日はここまで

こんなドーパントとかガイアメモリどうでしょうとか、書いてくれたら採用するかもしれない

おつー

ガイアメモリ:ワイルド
「野生」「自然」の記憶を内包するメモリ
しかし、このメモリには隠された力がある
すなわち「ワイルドカード」に由来する「切り札」である

シネマメモリ

『映画』の記憶を内包したメモリ。
映画のフィルムが『C』を描いたような印が描かれている。
自身の定めた空間を『スタジオ』と定義し、自身の思うがままに操ることができるメモリ。このメモリの影響下においては物理法則すら無視する。
しかし、適合率が高い人物や『スタジオ』の外に出てしまった物には干渉できない。

 周囲に人がいないことを確認すると、徹はそっと自販機の取り出し口に手を差し入れた。

「!」

 内側に、何かがテープで貼り付けられている。剥がして手に取ると、それは小さな鍵であった。
 熊笹からガイアメモリ製造工場について聞いた翌日、2人は彼の遺した言葉に従って、証拠品のメモリを回収に向かっていた。メモリの入ったケースと鍵は別々に隠されていて、たった今鍵を回収したところであった。

「北風町公民館裏の自販機…2台ある内、風都くんが描かれている方。これで鍵は手に入れた」

「ケースの方は…」

「産業廃棄物処理施設、そこに放置された、廃トラック…!」

 鍵を上着の内ポケットに入れると、徹は早足に歩き出した。



 風都との境界線とは逆方向に進んだ、山の中腹。そこには広い産業廃棄物の廃棄場があり、風都のみならず他の工業地域から大量のゴミが持ち込まれていた。『産廃反対』の看板が立ち並ぶ中、錆びついて打ち捨てられた軽トラックを発見した。鍵もかかっていないドアを開け、シートを引き剥がすと、空になったエンジンルームに、銀色のアタッシュケースがあるのを見つけた。

「これか…!」

 取り上げ、車の外へ出す。B5サイズほどの小さなケースで、持ち上げると手にずっしりと来た。

「ここで開けましょう」

「ああ」

 鍵を挿し込み、蓋を開ける。
 中には、5本のガイアメモリと、1枚の紙切れが入っていた。徹は紙切れを、リンカはメモリを、それぞれ調べる。

「博物交易、第九貨物集積場の四番倉庫…の、地下…?」

「『サーバルキャット』『トライセラトップス』『オパビニア』『スリープ』…これは?」

 リンカが取り上げたのは、メモリというよりは回路に端子が直接くっついた、部品のようなものであった。

「何だそりゃ?」

「メモリのプロトタイプのようです。ですが、何の…?」

 回路上のスペースには、無数の節に分かれ、短い脚が何本も生えた節足動物のようなものが描かれている。どうやら、アルファベットの『I』と読ませるようだ。ボタンを押すと、従来のメモリ同様に声がした。



『アイソポッド』



「…『アイソポッド』?」

 どんな意味なのか分からず、きょとんとリンカの方を見た。そして、ぎょっとした。

「馬鹿な…そんなことは、あり得ない…」

 リンカは虚ろな顔で、早口に「嘘だ」「まさか」などと呟いていた。

「…り、リンカ?」

「まさか…リストに無い…このメモリは、完全に…」

 それから、はっと徹の方を見る。

「…行きましょう」

「行くって、どこに」

「紙に書かれていた場所、ガイアメモリ製造工場。急ぎましょう、今すぐに!」

「ま、待てよ! 流石に体勢を整えてからでも」

「事情が変わりました。事態は、一刻の猶予も無い…!」

 見たことのない彼女の剣幕に、徹は思わず頷いた。

「わ…分かった」




 徹が門の前にバイクを停めると、リンカはタンデムシートから飛び降りた。ヘルメットを外しながら、警備員の元へ駆け寄る。

「おい、待て!」

 徹の制止を聞かず、リンカは警備員に詰め寄った。

「財団Xです。ここを通しなさい」

「財団…何だって? 許可証かアポはあるの?」

「ここがミュージアム傘下の施設であったことは分かっています。責任者を呼びなさい!」

「ちょっ、ちょっと待ってくれよ…」

 警備員は困惑しながらも守衛所に引っ込むと、どこかへ電話を掛けた。
 数分後、門が静かに開いた。

「あ、開いた…」

「行きましょう」

 広い敷地を走りながら、徹は質問した。

「さっきの会話…『ミュージアム』って、何だよ?」

「数年前まで風都でガイアメモリを開発・製造していた組織です。今は壊滅し、幹部は全員死亡しています」

「それが、何でここで」

「それが知りたいのです」

 足を止めず、リンカは言う。

「既に消滅したはずの組織に設備が、何故未だに稼働しているのか…生き残った下部構成員が、個人的な資金稼ぎに細々と動かしているだけかと思っていましたが…」

 目の前に、『4』と書かれた建物が現れた。

「第四倉庫…!」

 2人は、開け放たれた倉庫の中へ飛び込んだ。



 広い倉庫の割に、置かれている荷物は少ない。地下へ向かう階段が無いか探していると、不意に後ろから声がした。

「やあ、お探しものかね」

「!」

 振り返ると、作業着姿の男が一人、立っていた。

「この集積場の責任者の、真堂だ。君たちが慌ててこの倉庫に走って行ったと聞いたものだから、追いかけてきたよ」

「工場の作業員風情が、随分と出世したものですね」

 リンカが、冷たい声で言い放った。それは、出会って間もない頃に、徹が一度だけ耳にした声色であった。
 真堂は、平然と頷いた。

「ああ。こう見えても、一生懸命働いてきたものでね。上司がいなくなって、一時期は路頭に迷いかけていたが、今では新しい上司のもと、充実した日々を送っているよ」

「上司…母神教、『お母様』ですか」

「ほう、財団はそこまで把握しているか」

「真堂!」

 徹が声を張り上げた。

「熊笹を殺したのは、お前だな!?」

「熊笹? ……ああ!」

 真堂は突然、声を上げて笑いだした。

「ああ、なるほど! あの小魚に、仲間がいたか。…君、悪いことは言わないから、その女から離れたまえよ。雑魚記者の分際で財団Xに関わるんじゃない」

「貴様…」

 ドライバーを手に取ろうとした徹を、リンカが止めた。

「少し待ってください」

「でも」

「どのみち、すぐに使うことになります。…真堂。熊笹修一郎の遺したメモリを拝見しました。その上で、お訊きします。どうやって、造った? ……『新種の』メモリを!」

 すると、真堂の顔が、待ってましたと言わんばかりに明るくなった。胸を叩き、誇らしげに言う。

「やはり、そこにあったか! …如何にも。ある時期から長い間凍結されてきた、新種メモリの開発を、我々は成し遂げた! 君たちが見たのはプロトタイプだが…」

 作業着のポケットから、赤茶色のガイアメモリを取り出し、掲げる。

「!!」



『アイソポッド』



「…今では、こうして完成にこぎつけた。折角だから、ここでお披露目といこうか。もっとも、それは目撃者潰しでもあるがね!!」

 メモリを後頚部に刺すと、彼の体は硬い殻に覆われた、ダンゴムシめいた姿へと変貌した。

「もう、使うからな! …変身!」ファンタジー!

 徹はドライバーを装着し、仮面ライダーに変身した。

「おっと、雑魚記者の正体は、仮面ライダーだったか。折角だ、一石二鳥といこうじゃないか」

 ドーパントが細く節くれだった手を叩くと、何処からともなく大勢の若者や男たちが現れた。

「さあ、『お母様』の愛を、彼らに知らしめてあげなさい」

「はい!」ホーネット

ホーネット マスカレイド マスカレイド ホーネット マスカレイド マスカレイド ホーネット…

 たちまち倉庫の中は、大量のドーパントに埋め尽くされた。

「人命は考慮しなくても構いません」ミサイル

 黒い銃を抜き、オリーブドラブのギジメモリを装填する。

「…殲滅します」




『ファンタジー…ミスティークエンド!!』

「ぐわあぁぁっ!!」

 魔法陣から放たれた炎や氷が、ドーパントの群れを襲うと、マスカレイドドーパントは爆散し、ホーネットドーパントは人間に戻った。

『これで…手下は片付けたぞ…!』

 息も絶え絶えに、ファンタジーがアイソポッドドーパントに詰め寄る。ドーパントは牙の生えた円形の口を蠢かせながら、キシキシと嗤った。

「だが君、満身創痍じゃないか」

『っ…』

 魔術師の姿をとったファンタジーだが、その衣服はあちこち破れて、下の装甲まで傷が入っていた。そしてその足元には、銃を握ったままのリンカが倒れていた。忍び寄ったマスカレイドドーパントに、後ろから殴られたのだ。
 ファンタジーは騎士の姿に戻ると、剣を握った。

『だが…あと一人だ!』

 斬りかかるファンタジー。ところが

『なっ…!?』

 ドーパントの硬い外殻に、剣が弾かれてしまった。防御が薄そうな部分を狙って突きを繰り出すと、何と剣が折れてしまった。

「はっはっはっは…効かん!」

『ぐあっ!?』

 細く硬い腕が、彼を殴り飛ばした。壁に打ち付けられながら、彼は宙にハンマーを描いた。

『これなら、どうだっ!』

 マントを広げ、滑空しながらハンマーを振り下ろす。しかし、これも通じない。

「言っておくがね」

 再度、振り下ろそうとしたハンマーを片手で止めると、アイソポッドドーパントは言った。

「私はまだ、実力の半分も出していないよ!」

『あ゛っ、がっ…』

 ファンタジーの腹部に、拳が突き刺さる。彼はその場に崩れ落ちると…変身が解け、徹の姿に戻った。

「では、さらばだ。あの世で小魚同士、仲良く恨み給え。我々、捕食者を…!」

 鋭い棘の生えた脚を上げ、徹を踏み殺さんとした、その時

「!?」

 彼を、銃弾が襲った。硬い殻に弾かれてもなお、銃撃は止まらない。

「…真堂」

「往生際が悪いね」

 ドーパントの目の前には、よろよろと立ち上がり、震える両手で銃を構えるリンカがいた。

「心配するな。君もすぐに、同じところへ送ってやろう。…それとも、あの世で彼を迎える、天使にでもなりたいのかね?」

「…」

 リンカは、黙って銃を下ろした。

「そうだ。人生、諦めが肝心だ…」

 ところが…リンカは、今度は片手を目の前に掲げた。
 その手には……

「何っ!?」

「ミュージアムの残党如きに、財団が敗れるのは道理に合いません。私たちも把握していない力を使われることも。何より」

 倒れ伏して動かない、徹に目を遣る。

「……今、ここで仮面ライダー…いえ、力野徹を失うのは…『私が』嫌だ…!!」

 リンカの剣幕に、たじろぐドーパント。
 いつの間にか彼女の腰には、無骨な金属のベルトが巻かれていた。そしてその手に握られていたのは、彼女のトレードマークであるネクタイと同じ、黄金色のガイアメモリであった。



↓1〜3でコンマ最大 リンカの所持するガイアメモリ(今までに出た案でも可)




『トゥルース』



「なっ、何故君がゴールドメモリを」

「スポンサー特権…と、言いたいところですが。これはただの拾い物です。まあ、それも運命」

「リンカ…?」

 徹が、彼女を見上げて呟く。リンカはドーパントを睨んだまま、応える。

「黙っていて申し訳ありませんでした。ですが、もう隠しません。……これが、私の『真実』」

 黄金に輝く筐体に、天秤を象った『T』の文字。リンカがそっと手を離すと、『真実』のメモリは吸い込まれるように、彼女の腰のベルトに嵌った。

『トゥルース』

 メモリがベルトの中へと吸い込まれ、彼女の体は金と宝石に彩られた、エジプト女神めいた姿へと変化した。金の冠には白い羽が差し込まれ、背中には七色の翼が生えている。エジプト十字を象った杖を振り上げると、彼女は言った。

「私は、裁きません。ただ真実を見定め、偽りを暴くのみ」

 杖を敵に向け、宣告する。

「…そして、殲滅する。偽りの力を。…それに縋った、悪しき者を!」

「世迷い言を…っ!?」

 襲いかかろうとしたアイソポッドドーパントの体が、突然固まった。

「ガイアメモリ…地球の記憶…それ自体は真実です。しかし、人間のものではない。それは偽り」

「ぐっ…うぐぅっ…」

 もがき苦しむドーパント。リンカ…トゥルースドーパントは、杖を振りかざした。その先端に、無数の金色の光弾が顕現する。

「終わりです」

 光弾が、一斉にドーパントを襲った。

「あ゛あああっっ!!!?」

 目も眩む爆炎の中で、アイソポッドドーパントがもがく。もがきながら、叫んだ。

「お、おのれ…おのれ、おのれ、おのれぇぇぇえぇぇええっっ!!」

 突然、その体がどくんと脈打った。硬質な殻が何倍にも膨れ上がり、遂には人間離れした巨大なダンゴムシめいた怪物へと成り果てた。

「…」

 トゥルースドーパントは、更に光弾を撃ち込もうとした。しかし、そこで足元に横たわる徹に気付いた。

「っ…リンカ…」

 彼は、震える手でドライバーを握り締め、必死に起き上がろうとしていた。

「…」

 彼女は、杖を下ろした。そうして、代わりに徹の体を抱き上げると、七色の翼を広げた。
 輝く体が、宙へと舞い上がる。そのまま彼女は、倉庫の屋根を突き破り、怪物のもとから飛び去ってしまった。

『Fを探せ/捕食者の牙』完

多分今日はここまで

『アイソポッドドーパント』

 『ダイオウグソクムシ』の記憶を内包するメモリで、ガイアメモリ工場長の真堂が変身したドーパント。全身が硬い殻に覆われ、殆どの物理攻撃が通用しない。防御面だけでなく、棘の生えた四肢による攻撃も強力。また、メモリの力を最大限解放することで、巨大な怪物態『ジャイアント・アイソポッド』へと変化する。モデルとなったダイオウグソクムシ同様、エネルギー効率が異常に高く、ドーパント態でいる間は年単位で食事を摂らなくても生きていける。過剰適合者なら、生身でも飲まず食わずで生きていけるかもしれない。
 ミュージアム壊滅後に新造された、完全に新種のガイアメモリ。戦闘能力以上にこのメモリは、製造した組織が地球の記憶、すなわち『地球の本棚』へアクセスする権限を持っていることを示す、極めて重大な証拠となっている。
 メモリの色は赤茶。いくつもの節に脚と触覚が生えた、等脚類(ワラジムシの仲間)めいた意匠で『I』と書かれている。

「…うっ、うぅ…」

 痛みに目を覚ますと、真っ白な天井が目に入った。その視界に、すぐにリンカの顔が割り込んできた。

「気が付きましたか」

「リンカ…?」

 どうにか体を起こすと、そこは病院の個室であった。ベッドの横には、リンカだけでなく植木警部の姿もあった。

「ここは…」

「警察病院だ」

 植木は、硬い顔で答えた。それから、徹が何か言う前に、彼に詰め寄った。

「何故隠していた。本当は…君が、仮面ライダーだったということを」

「えっ」

 徹は思わず、リンカの方を見た。彼女は、気まずそうに言った。

「…貴方ほど、上手に偽れませんでした」

「…」

 徹は溜め息を吐いた。思えば、あの時彼女が使ったのは『真実』のメモリだ。元々嘘を吐けない性質なのかも知れない。

「…怒らないでくださいね。あの時はまだ、あなた方を信用しきれていませんでした」

「警察をか」

「はい。…と言うより、警察が仮面ライダーをどう見ているのかが分からなかった。警部も、初めて仮面ライダーを見た時は、ドーパントに準じた対応をなさったでしょう?」

「それは…」

「敵か味方か分からない。その上で人間離れした力を持つ存在が、身近にうろうろしていては、お互いに落ち着かない。そう考えて、仮面ライダーという存在に対する信用が得られるまでは、正体を伏せさせていただこうと考えました」

「…そうか」

 植木は疲れたように首を振った。

「言いたいことは大体分かったよ。どっちにしても、もう過ぎた話だ。君を…仮面ライダーを疑うことはしない。ここだけの話、課ではガイアメモリだけじゃなく、仮面ライダーの動向も探ってたんだ。何処の誰なのか、目的は何なのか…」

「やっぱり」

「だが…何度も言うが、もう過ぎた話だ。これからは、純粋な味方として頼りにさせてもらうよ」

 植木は笑顔で徹の肩を叩いた。それから立ち上がった。

「じゃあ、今日は戻るとしよう。大まかな話はこの人から聞いた。…ゆっくり休んでくれ」

「ありがとうございます」

 立ち去ろうとして、思い出したように鞄の中から、一枚の封筒を出した。

「そうだ、頼りっぱなしじゃ何だ。前に君から聞いていた人物について、調べておいたから目を通してくれ。じゃあ」

 病室を出る植木に、徹は黙って頭を下げた。



「兎ノ原美月…風都出身で、生きていれば現在17歳。5歳の頃に両親が離婚し、母子家庭に育つが、7歳の頃に母親の恋人と同居するようになって以後、2人から虐待を受けるようになった。特に母親の恋人からは性的な虐待を受けていたらしい。児童相談所と警察の働きによって保護され、孤児院で暮らすようになるが、14歳の頃に孤児院から失踪。現在は行方不明」

 調査書には、孤児院時代の彼女の写真が同封されていた。ぼろぼろの人形を握りしめてぎこちない笑みを浮かべる、隈の浮いたその顔は、確かに公園で彼を誘った少女のそれであった。

「親に愛されなかった少女にとって、母神教、『お母様』は、文字通り母親みたいな存在なんだろうか…」

「…」

 ぼやく徹を、リンカはじっと見つめている。その口が、小さく動いた。

「…だとしても母神教は、野放しにできません」

「そう、そうだよ。さっきから気になってたんだ」

 徹は身を乗り出した。

「あのダンゴムシ怪人が、何でそんなに重要なんだ? 新種のメモリがあると、何が大変なんだ」

「それを説明するには、ガイアメモリの仕組みについて話す必要があります」

「どうせ入院してて退屈なんだ。じっくり聞かせてくれよ」

「分かりました」

 リンカは頷いた。

「…まず、ガイアメモリの仕組みについて。ガイアメモリはその名の通り、ガイア…すなわち地球の保持する情報を記録したメモリスティックです」

「うん」

「記録するからには、基になる情報が必要になります。この地球に存在する、あらゆる事象…生物や物体、果ては概念に至るまで、全ての知識を収めた空間が存在します。これを、『地球の本棚』と呼びます。地球の本棚で採取した情報を記憶媒体に書き込むことで、ガイアメモリが造られるのです」

「うん…うん?」

「ミュージアムがガイアメモリの製造を始めたのは、この地球の本棚にアクセスする権限を得たからです。正確には、ミュージアムを運営する家族の一人が、ある事件をきっかけにこの本棚に入り、地球の持つ記憶を本として閲覧する能力を得た」

「うん…?」

 話があちこちへ飛び始めて、徹はだんだん訳が分からなくなってきた。

「しかし、この人物…少年Rとしましょう。少年Rは、ある私立探偵によって拉致、と言うより保護されました。以降、彼はその私立探偵と共にミュージアムと敵対。ミュージアムは、ガイアメモリ開発の手段を失うことになりました」

「えっと…それで、新種メモリが造れなくなった、と?」

「はい。結局、少年Rは自身の手でミュージアムを壊滅させました。正確には、私立探偵と共に、ですが…まあ、それは良いでしょう。ミュージアムも、一時期は新たに地球の本棚にアクセスできる人間を創り出したようですが、それもすぐに死亡しました。つまり、現在に至るまで、地球の本棚にアクセスし、新しいガイアメモリを開発しようとする人間は存在しないのです」

「いや…その少年Rとやらが、また戻ってきたんじゃないか」

「あり得ません」

 リンカは、きっぱりと否定した。

「どうして」

「少年R…彼は他でもない。風都の仮面ライダー、その人ですから」



 その頃、別の病室で同じく目を覚ました者がいた。

「くっ…うっ」

 苦しげに呻きながら起き上がった、一人の少女。やつれた顔で周囲を見回すと、いらいらと首を振った。

「チクショウ…あの、仮面ライダー…!」

 悪態をつきながらベッドを降りようとして、床に崩れ落ちた。どうにか立ち上がろうと差し上げた手を、別の手が掴んだ。

「先生…!」

「ようやく目が覚めたのね、エミ」

 柔らかな声で言う人物。それは、黄色いスーツを着て眼鏡を掛けた、中年の女であった。
 少女の顔が、歓喜と怯えの混じった、複雑な表情に染まる。女は穏やかな笑みを浮かべたまま、少女を助け起こした。

「ずっと待ってたわ。あなたや、カケルが起きるのを」

「先生…ごめんなさい」

「良いの。人生には、失敗も必要よ。…何故なら」

 女は、スーツの懐から、一本のガイアメモリを取り出した。

「!」

「失敗を乗り越えて、人は成長するものだから」

 少女の手に、毒々しいオレンジ色のメモリを握らせる。メモリには、攻撃的な形状をした蟻が、細長い脚と触覚を伸ばして『F』の字を形作っていた。

「さあ…成長してみせて。期待しているわ」

「はい…先生」

 少女はゆっくりと頷くと…手首のコネクターに、メモリを突き立てた。



『ファイアーアント』



”火事です 火事です 病棟2階、特別処置室で火事です”

「!?」

 突然鳴り響いた非常ベルに、徹は思わずベッドから飛び降りた。そして、腹を押さえた。

「ぐぅっ…」

「じっとしてて。今、確認してきます」

 リンカは、病室の外へ飛び出した。
 数分後、戻ってきた彼女は、徹の肩を抱いて立たせながら、言った。

「ドーパントの襲撃のようです。逃げましょう」

「何だと…」

 彼は、懐からドライバーを出そうとして…今着ている病衣に、それが無いことに気付いた。

「ドライバーはここです」

「サンキュ…っとぉ!?」

 取り出してみせたドライバーを、リンカは素気なく引っ込めた。

「今の貴方は万全ではない。まずは自身の安全が第一です」

「だが、俺が戦わないと…!」

 その時、廊下で爆音が響いた。



「仮面ライダーはどこだぁーっ!!」



「!」

 徹はリンカを振り払うと、声のする方へ走り出した。
 そこでは、毒々しい橙色をした、蟻のような怪人が、逃げ惑う病棟のスタッフに火の玉を吐きかけているところであった。

「動くな!」

 駆けつけた警官隊が、陣形を組んで銃を構える。

「邪魔だあっ!」

「わあっ!?」

 しかし、燃え盛る火の玉に、警官たちは呆気なく引き下がった。
 代わりに、徹が前に進み出た。

「おい、ドーパント!」

「! お前は…」

 蟻人間が、徹の存在に気付いた。その反応に、彼は首を傾げた。

「ん? お前、どこかで会ったか?」

「とぼけるな…」

 ドーパントの体が解けていく。中から現れたのは、あの日路地で彼にメモリを売りつけようとした、二人組の密売人の、女の方であった。彼女も徹と同じ警察病院の病衣を来て、手にはオレンジ色のメモリを握っている。

「お前、まだ懲りてなかったのか」

「うるさい! 先生に、任されたの…だから、やり遂げないと!」

『ファイアーアント』

「まずは…仮面ライダー、お前を殺す!」

「徹!」

 そこへ、リンカが走ってきた。彼女は、頼りなく立ち尽くす徹と、蟻のドーパントを順に見て、諦めたように言った。

「…仕方ありません。この程度の敵なら、今の貴方でも倒せるでしょう」

「ああ、任せとけ。それと…」

 投げ渡されたドライバーとメモリを受け取ると、徹は照れくさそうに言った。

「…初めて、俺のこと名前で呼んだな。リンカ」

「!」

 彼女の頬が、微かに朱く染まるのを、彼は見ないフリをした。

「…変身」ファンタジー!

「仮面…ライダぁーっ!!」

 飛んでくる火の玉を躱すと、ファンタジーは手に剣を出現させた。攻撃の隙間を縫って接近し、斬りつける。

『せいっ!』

「ふんっ!」

 剣と腕がぶつかり合う。数合打ち合うと、遂にファンタジーの斬撃が敵の肩を直撃した。

「くぅっ…!」

 痛みに苦しみながらも、両腕で剣を捕らえると、至近距離で火の玉を吐き出した。

『おっと!』

 咄嗟に剣を手放し、跳び下がる。

「炎? 『アント』のメモリに、そのような能力は」

『さっきファイアーアントって言ってたぞ?』

 ファンタジーの言葉に、リンカが目を見開く。

「『ファイアーアント』…ヒアリ!? これも新種のメモリですか」

『関係ないさ。炎には…』

 マントを翻し、魔術師の姿に変化する。

『…水だ! 喰らえ!』

 両手を突き出すと、魔法陣から激しい水流が噴き出し、ドーパントを襲った。

「ぎゃあぁぁぁっ!」

 煙を上げ、のたうち回るドーパント。

『トドメだ……うぐっ!?』

 ドライバーからメモリを抜こうとして、突然ファンタジーが腹を押さえて呻き出した。前の戦闘の傷が、また痛みだしたのだ。

「やはりまだ早かったですか…!」ミサイル

 リンカは銃を抜くと、ミサイルのギジメモリを装填し引き金を引いた。
 何発ものミサイルが直撃し、体勢を立て直そうとしたドーパントが再び倒れる。
 リンカはギジメモリを抜くと、ファンタジーに向かって銃を投げ渡した。

「これを使って!」

『おっと…分かった!』

 黒い銃のスロットに、ファンタジーメモリを装填し、銃身を変形させる。

『ファンタジー! マキシマムドライブ』

『ファンタジー・ウィザードバレット!!』

 引き金を引くと、銃口の先に巨大な水の球体が現れた。球体は見る見る内に膨れ上がり…爆ぜて、無数の水の弾丸となってドーパントを襲った。

「あっ、あ゛あっ、い゛やああっっ!!!」

 水に包まれたドーパントの体が、ぼろぼろと崩れ落ち、中から少女の体が出てくる。床に倒れ伏した彼女の手首から、オレンジのガイアメモリが抜け落ち、そして砕け散るのを見届けると…ファンタジーは、その場に崩れ落ちた。
 駆け寄ってくるリンカ。更にその向こうから、数人のスタッフが話しているのが聞こえる。

「大変です、患者の数が合いません」

「特室の火川くんは?」

「それが、避難させようとした時にはもう…」

 それを聞きながら、ファンタジー…徹は意識を失った。

『Tにご用心/失敗は成功のもと』完

今度こそ今日はここまで

『ファイアーアントドーパント』

 『ヒアリ』の記憶を内包するガイアメモリで、元密売人のエミが変身したドーパント。オレンジと黒の、禍々しい蟻のような姿を持つ。背中には大きな棘が生え、鋭い顎からは火を吐くことができる。また、相手に噛みついて、生身の人間なら即死するほどの強力な麻痺毒を流し込むこともできる。
 メモリの色は毒々しいオレンジで、長い触覚と脚を伸ばした攻撃的な外見の蟻が『F』の字を形作っている。アイソポッドメモリと同様、ミュージアム壊滅後に造られた新種のメモリ。

(寿司食いながら、そう言えばギャグ回挟まないとなって考えてました)

(寿司食いながら、もうドーパントまで考えちゃいました)







(相手の視覚と嗅覚と、そして味覚を完膚なきまでに潰す、恐るべきドーパントを考えちゃいました)

「…」

 ベッドに仰向けになったまま、徹はじっと天井を見つめていた。横では、リンカがペティナイフでりんごの皮を剥いている。

「…なあ、リンカ」

「じっとしていてください」

 起き上がろうとする彼の鼻先に、ペティナイフを突きつける。徹は慌てて、ベッドに背中を押し付けた。

「心配なのは分かるけど…俺、もう大丈夫だから」

「前もそう言っていたような気がします」

 素気なく言うと、彼女はりんごを一切れ、ナイフに刺して彼の口元に差し出した。

「う…」

 徹は黙って、突き出されたりんごを齧った。咀嚼しながら、ずっと気になっていたことを口に出した。

「…あんた、ドーパントだったんだな」

「…」

 リンカは、ナイフを引っ込めて彼を見た。そして、頷いた。

「…ええ」

「『拾い物』って言ってたな。それは…この街で拾ったのか? それとも風都で?」

「ミュージアムが壊滅した直後…」

 彼女は、齧りかけのりんごを口に入れた。数度咀嚼し、ごくりと飲み込む。

「…事後処理のために、私は風都を訪れました。前任者が独断で余計なことをした、その尻拭いも兼ねて。その際に、旧園咲邸…ミュージアム幹部の自宅で、数本のガイアメモリを回収しました。これは、その内の一本です」

 彼女の手に握られた、金色のガイアメモリ。天秤を象った『T』の文字からは、今まで見てきたメモリとは比べ物にならないほどの、強い力を感じる。

「どうやら、このメモリは私によく適合しているようでした。そこで、一緒に回収したドライバーと共に譲っていただきました。…まあ、実際に使うのは初めてでしたが。せいぜいお守り程度の認識でしたので」

「そうだったのか。……済まなかった」

「何が」

「俺が弱かったせいで、あんたまで戦わせてしまった。ドーパントになってまで…」

「今更です。これまでも私は、Xマグナムで戦闘に参加していました」

「だが、それとは訳が違う。だって」

「ガイアメモリの副作用を気にしているのなら、それは不要です。旧式のガイアドライバーとは言え、きちんと機能しているので、メモリの毒性はほぼ完全に除去されています」

 そこまで言って、彼女はりんごをもう一切れ、切り取って徹に突き出した。

「…済まないと思うのなら、きちんと体を回復させることです。次、貴方があのような危機に陥れば、私は一切の躊躇なくメモリを使用します」




 聖堂に設けられたベッドの上で、火川カケルは目を覚ました。

「っ…こ、ここは…」

「おはよう、カケル」

「! 先生っ!」

 黄色スーツの女に声をかけられて、彼は慌てて起き上がった。聖堂を見回して、尋ねる。

「先生、ここは…?」

「ここは、母神教の本部。『お母様』のお膝元よ」

「お母様の…」

 きょとんとするカケル。確かに、先生の言葉に『お母様』という単語は幾度となく聞いた。しかし、彼にとって尊敬すべき相手は目の前の女であって、それより上の存在をはっきりと意識したことは無かった。
 そんな彼に、ヴェールの向こうの存在が口を開いた。

”火川カケル。…愛しい、母の子”

「!」

 女が、その場に跪く。カケルは戸惑いながらもベッドを降りると、女に倣った。

”よくぞ、ここまで帰ってきてくれましたね。母は、嬉しいです”

「ど、どうも…」

”…あなたは、仮面ライダーとの戦いを生き延び、再び目を覚ましました”

「! …はい」

 少年は頷く。同時に、このヴェールの向こうの存在が言わんとすることを察した。

「ぼくは、メモリを渡そうとした相手が変身するところを見ました」

「それは、どんな人だった?」

 すかさず、女が質問する。少年は「名前までは分かりませんが」と断った上で、目の前で仮面ライダーとなった男の特徴を、できる限り詳しく説明した。また、彼に変身用のドライバーとメモリを与えた女についても話した。
 一通り聞き終えると、『お母様』は満足げに言った。

”ええ。英生の言葉とも一致します。どうやら、間違いないようですね”

「よくやったわ、カケル」

 女は誇らしげに、彼の肩を叩いた。

「あなたは、私の自慢の生徒よ」

「あ…ありがとうございます!」

「あなたになら…」

 女は、懐からオレンジ色のガイアメモリを抜き出した。

「!」

「…私の、手伝いを任せられるわ」

「…は、はい」

 カケルは、震える手でメモリを受け取った。



 夜の通りを、病院から出たリンカは一人で歩いていた。ファイアーアントドーパントの襲撃で一部損害を受けたものの、病院機能にはさほど影響が無かったとのことで、徹は引き続き警察病院に入院している。しかし、懸念事項は残っていた。メモリブレイク後、昏睡状態だった元密売人が、いかにして新たなガイアメモリを手にしたのか。加えて、ファイアーアントメモリもまた、リンカの持つ財団Xのリストに無い、新種のガイアメモリであった。
 リンカは既に、財団に追加支援を要請している。敵がガイアメモリを開発する手段を持っていること、仮面ライダーにさらなる力が必要であることを、強く伝えてある。

「今は、待つのみ…」

 呟きながら…リンカは、おもむろに鞄に手を入れ、Xマグナムを名付けた銃を抜いた。そしてそれを頭上に向けると、躊躇なく引き金を引いた。

「!」

 銃声。それからやや遅れて、彼女の目の前に、一体の怪人が降りてきた。
 それは、ミヅキを追い詰めた時に現れた、蜂女であった。

「よく、私の尾行が分かったわね」

「いやしくも蜂に扮するのなら、羽音の周波数くらい勉強してください」

「この私に『勉強しろ』と? なかなか面白いことを言う」

 リンカは何も言わず、銃を向けた。

「目的は何ですか。私達が奪取したラビットメモリですか」

「ラビットメモリ? …ああ、そう言えばそんなのもあったわね。今の今まで、すっかり忘れていたわ」

「どういうことですか。貴女は、兎ノ原美月の仲間ではないのですか」

「知らないわよ、あんな出来の悪い生徒」

 蜂女は、吐き捨てるように言った。

「とっくにその辺に捨てたわ。必要な情報も手に入れたもの。…そう」

 鋭い顎を、カチリと鳴らす。

「私の、優秀な生徒のおかげでね」

「生徒…『先生』…!!」

 何かを察し、走り出そうとしたリンカの前に、蜂女は立ち塞がった。

「もう気付いたの。あなたが、私の生徒だったら良かったのに」

「そこを通しなさい。さもなくば」

「真堂から、仮面ライダーよりあなたの方が危険であることは聞いてるわ。せいぜい、私の足止めに付き合って頂戴」

「お断りします」フラッシュ

「っ!?」

 リンカの銃から、凄まじい閃光が迸った。複眼に強い光を食らった蜂女は、思わず仰け反った。

「お、おのれっ」

 首を振り、どうにか視力を取り戻す頃には、既にリンカの姿は無かった。




「はあっ…くそっ」

 病棟の廊下を進みながら、徹は悪態をついた。
 リンカが帰った直後、またしてもドーパントが病院を襲撃した。今度は検査室を占拠し、仮面ライダーを連れてこいと宣っているのだという。
 この連日の襲撃は何だ。遂に、敵が超常犯罪捜査課を潰しに来たのか。それとも、仮面ライダーたる徹がこの病院に入院していることが、敵にバレたのか…?

「はぁっ…変身」ファンタジー!

 傷ついた体をおして、仮面ライダーに変身する。ドライバーを没収されなくて良かった。

『っ…ドーパントっ!』

 検査室に踏み込んで、あまりの熱に彼は思わず引き下がりかけた。

『な、何だこりゃ…』

「やっと来たね、仮面ライダー!」

 陽炎の向こうに、一人の少年が立っている。

『今度は、お前か』

「そう。あの時は遅れを取ったが、今度はそうは行かないよ」ファイアーアント

 オレンジ色のメモリを手首に刺すと、少年はヒアリのドーパントに変身した。

『お前もヒアリか…だったら!』

 ファンタジーは魔術師の姿になると、両手を掲げた。

『弱点は分かってる。喰らえ!』

 魔法陣から、水流が迸ってドーパントを襲った。ところが

「…ああ。ぼくにも分かってる。だから」

 彼は、身をかがめて水流を躱した。躱された水は、熱せられた壁にぶつかると、たちまち白い蒸気となった。

『! しまった』

 大量の煙が部屋を埋め尽くす。視界が白に染まり、ファンタジーは身構えた。

『どこに隠れた…!!』

 物音に、咄嗟に突き出した両手が、ファイアーアントの両顎を捕らえた。

「ふんっ!」

『くうぅっ…』

 力任せに押してくるドーパント。いつものファンタジーなら力負けすることは無いだろうが、今の彼は万全ではなかった。

『く、あ、あっ』

 仰向けに押し倒されるファンタジー。その背中を、熱せられた床が苛む。

「どうだ、仮面ライダー…!」

『くっ、ぐうっ、う…』

 じりじりと、尖った顎が彼の喉元に迫る。その距離が、見る見る内に狭まり、そして…



「徹!」

 部屋に飛び込んだ瞬間、絶叫が木霊した。

『ぐわああぁあぁぁっ!!』

「徹……っ!!?」

 晴れていく霧の中に、彼女は見た。オレンジと黒の怪人に組み倒され、肩口に鋭い牙を突きつけられた仮面ライダー…戦友の姿を。




『トゥルース』


「っ、はあっ…やった…先生、やりました!」

 動かなくなった仮面ライダーから牙を抜き、彼は歓喜に叫んだ。強力な毒を流し込んだ。仮面ライダーとは言え、当面は起き上がれないだろう。これで、お母様の…そして、先生の期待に応えることができた。

「ぼくが、ぼくが一番優しゅ」

 言いかけたその口が、途中で止まった。
 胸の辺りに違和感を感じ、視線を下に向ける。

「…え?」

 そこには、白い羽が深々と突き刺さっていた。
 彼が状況を把握するより先に、彼の体を金色の光弾が襲った。

「ぎゃああっ!?」

 壁まで跳ね飛ばされるドーパント。どうにか起き上がった彼は、ようやく理解した。
 仮面ライダーを庇うように立つ、エジプト女神めいた黄金の怪人を。……その、怒りに燃える瞳を。

「…た、たすけ」

 ぽつりと呟く彼の目の前で、女神は七色の翼を広げた。そこから、無数の羽が矢となって飛来し、彼を次々に刺し貫いた。

「あっ、ぎゃあっ、あがっ…ぐぁ…っ」

 腕がちぎれ、胸が砕け、頭が潰れても、攻撃が止むことは無かった。



 ___数分後。そこには、仰向けに倒れて動かない仮面ライダーと、それに物言わず縋り付く白スーツの女と、そして砕けたガイアメモリにぐちゃぐちゃの肉塊だけが残されていた。

『Tにご用心/怒れる女神』完

今日はここまで

『一角獣型ガイアメモリ メモコーン』

 自律稼働するユニコーン型ガイアメモリ。『セイバー』と『クエスト』2本のガイアメモリを内蔵しており、両脚を畳み、角を後ろに倒すことでセイバーメモリが、後ろ脚を回転させることでクエストメモリが出てきて、ロストドライバーに装填・展開することができる。展開した時、メモリ本体がセイバー側だとユニコーン、クエスト側だとグリフォンの頭部に変形する(ダブルドライバーに装填したファングメモリが恐竜の頭になるみたいな)。
 後述するクエストメモリの能力に加えて、メモコーン自体に解毒機能が備わっており、使用者に付いた毒を無効化することができる。



『セイバーメモリ』

 『剣』の記憶を内包する、次世代型ガイアメモリ。古今東西、あらゆる刀剣に加え、架空の刀剣をも再現することができる。また、エクスカリバーや草薙剣といった剣にまつわる伝説から、このメモリは『英雄の力』としての側面を持っているため、単なる切れ味以上に『悪』に対して強い力を発揮する。
 ファンタジーが騎士の姿で使用することで、鎧に青い装甲が追加され、専用剣『ジャスティセイバー』が出現する。
 メモリの色は青。シャムシールめいて『S』の字に弧を描く剣が描かれている。



『クエストメモリ』

 『探求』の記憶を内包する、次世代型ガイアメモリ。いかなる困難な課題に対しても、必ず解決するための道筋を示す力を持つ。これを応用することで、敵の弱点を看破したり、幻覚などの弱体化を解除することができる。また探求だけでなく、それを成し遂げる力・意志を概念として含んでいるため、使用すると防御や耐久も強化される。
 ファンタジーが魔術師の姿で使用することで、ローブに赤い装飾が追加され、専用杖『クエストワンド』が出現する。
 メモリの色は赤。虫眼鏡を象った『Q』の字が描かれている。

(本編前に玩具のCMでネタバレされることってあるよね)

(関係ないけどファングメモリは平成ライダーの中間強化ガジェットとして最高傑作だと思うの 設定はもちろんだけど、ギミックも格好良くておまけに一切無駄がない)

(ファングメモリの何が凄いって、ドライバーに装填した後も格好良いのが凄い)

(恐竜の胴体なんて邪魔くさい付属品になりそうなのに、バッチリ恐竜の頭部に変形して、おまけに開いた顎の間に『F』が来るとか天才か)



(ちなみに次点でNSマグフォンが好き。ガラケー状態だとマグネットスイッチ自体が邪魔くさいのが玉に瑕だけど)




 『ばそ風北』の暖簾をくぐった徹は、あまりの人の多さに仰天した。

「うわっ、今日は大盛況だな…」

 確かにここの蕎麦は美味いし、密かなファンの多い店ではあるのだが、あくまで隠れた名店といった立ち位置で、ここまで人が詰めかけることは今まで無かった。
 よく見ると、カウンターの周りに人混みができている。皆、蕎麦と言うよりはカウンターに腰掛けて蕎麦を食する人物が目当てのようだ。
 カウンターの手前で右往左往していると、奥にいる店主と目が合った。手招きされて台所の入り口に来ると、彼は開口一番「今日は、彼女と一緒じゃないのかい?」などと訊いてきた。

「別の仕事が入ってるんだ。…って言うか、彼女じゃないって」

 彼女と言うのはもちろんリンカのことである。実際、彼女は今、自分がかつて関わった教育評論家の蜜屋志羽子について、独自に調べているところであった。

「そうかぁ、残念だ。折角、あの『マリマリ』ちゃんが来てるのに…」

 店主は分かってるよと言わんばかりに頷くと、ふとカウンターの方に視線を向けた。
 人混みの隙間から、この店に不釣り合いな青いフリフリのドレスがちらりと見えた。

「…何、タレントか何か?」

「えっ、知らないの!?」

 店主が急に、素っ頓狂な声を上げるので、徹は慌てて辺りを見回した。

「今流行りの、大人気『フーチューバー』のマリマリちゃんだよ? 物書きやってるのに、徹ちゃん知らないの?」

「はあ…?」

 徹は首をひねった。
 フーチューバーの存在自体は知っている。某大企業が運営する動画投稿サイト『WhoTube』に動画を投稿し、広告収入を得ている人々のことだ。中には年収が数億円に上る者もいて、流石にその名前くらいは知っているが、マリマリなるフーチューバーの存在は初耳であった。

「まあ後で調べてみてよ。とにかく、そのマリマリちゃんが、今ウチに来て蕎麦の食レポをしてるんだ! これがフーチューブに投稿されたら、忙しくなるぞ…」

「おっちゃん…意外とミーハーだったんだな」

「別にそういうわけじゃないけどさ。マリマリちゃんは別格だよ。…そう、アイドルだよ!」

 齢60近い筈の店主は、少年のように瞳を輝かせて言ったのであった。



「…? 何を見ているのですか」

「ああ、これ」

 その日の夜。真新しいノートパソコンに向かって、じっと動画を観ている徹に、帰ってきたばかりのリンカが声をかけた。

「蕎麦屋のおっちゃんが観とけって言うもんだから」

 指差す先に映っているのは、例のマリマリなる少女。

「チャンネル登録者数140万人、最新の動画の再生数は300万回超えだってさ。大したもんだ」

「…」

 リンカは眉をひそめて、画面の向こうでコンビニ弁当を食べる少女を見た。やや大げさな仕草で牛丼弁当を絶賛しているのだが、彼女が着ているのはフリルたっぷりのメイド服だ。

「兎ノ原美月のような服装ですね」

「ははっ、言われてみれば。…」

 ブラウザバックし、動画一覧を開く。やたら数の多いそれをスクロールしながら、彼はぽつりと言った。

「…今度、この娘に取材することになった」

「貴方が?」

「ああ。と言うのも…」



 諦めて帰ろうとする徹を、店主は引き止めた。

「ちょっと待って。徹ちゃん、一度、マリマリちゃんとお話ししてくれないかな?」

「俺が? いや、俺、そのマリマリちゃんのこと、よく知らないし…」

「そう言わずに、ね。ここで会ったのも何かの縁だしさ。…実はあの娘、メディアとのコネを欲しがってるんだ。フーチューブだけだと、どうしても一部の層にしか見てもらえないからって」

「はあ…」

 店主の勢いに押された徹は、店の奥でまかない蕎麦を食べながら、彼女の撮影が終わるまで待った。そうして、自分が社会的地位の低いフリーライターであることを断った上で、彼女と会話した。
 マリマリこと太田衣麻理は、予想以上に彼に食いついた。

「フリーライター…って、雑誌の記事とか書いたりしてるんですか?!」

「えっと、まあ何本か」

「凄い! マリ、ネットでは最近売れてきたけど、本や雑誌にはまだ載ったことがないんです」

「そ、そうなんですか。じゃあ、これから」

 載ると良いですね。そう言おうとした彼を、彼女は遮った。

「取材してくださるんですか!? 是非お願いします!」

「えっ!? えっと、それは」

 身を乗り出し、両手を握ってくる衣麻理。近寄ってきたその顔が存外に美しくて、徹はどぎまぎした。

「…か、書いて、持ち込んで…載せてもらえるかは分からないですけど…」

「ありがとうございますっ! じゃあ、日程なんですけど…」



「…で、貴方は勢いに押された、と」

「…はい」

 無表情に徹を見つめるリンカ。無表情だが、近頃ようやく彼女の考えていることが、何となく分かるようになってきた。

「…ごめんなさい」

「何故謝るのですか」

 リンカは無感情に言いながら、彼の手からマウスを奪った。それから動画一覧を、一番下まで一気にスクロールした。

「…このマリマリなる人物、最初期の再生回数はせいぜい10数回です」

「フーチューバーって意外とシビアなんだぞ。最初は皆、そんなもんだ」

「これが一気に伸び始めたのは…」

 スクロールホイールをくるくると回し、画面を上へと送っていく。どう頑張っても3桁まで届かない再生数が一気に増えたのは、驚くことにほんの先週のことであった。

「この手のショービズ、それも個人が注目を浴びるためには、既に影響力のある人物の力が必要です。しかし、彼女はそれを利用したわけではなさそうです。加えて、一度付いた視聴者は過去の動画も観ることが多いですが、注目を浴びる以前の動画の再生回数は、相変わらず二桁台」

「た、確かに。…て言うかあんた、意外と詳しいんだな」

「何より」

 リンカはもう一つウィンドウを開くと、再生数の伸び始めた動画と、その一つ前の動画を再生し、横に並べた。

「…何だこりゃ、まるで別人じゃないか」

「化粧を変えたにしても、印象があまりにも違う。整形手術か、映像加工か」

「いや、CGは無いだろ。俺はこの顔、直接見たし…って」

 いつの間にか動画が終わり、新しい動画へ切り替わる。そこに映っている顔は、更に印象が変わっていた。と言うより、垢抜けて、美しく見えた。何より、先ほど徹が見た顔に、より近くなっていた。




 撮影を終え、店を出た衣麻理は、数人の男たちに囲まれた。興奮気味に寄ってくる彼らに笑顔で応えながら、衣麻理は通りを歩く。静かな住宅街において、彼女の格好は極めて目立つ。増えたり減ったりする野次馬を、彼女は寧ろ愉しむように歩いていた。
 とは言え、時間が遅いこともあって人の群れは徐々に散っていく。それでも熱心に追ってくるのは、4人の男であった。互いに牽制し合うように、衣麻理をストーキングする男たちを、彼女はちらりと覗き見た。そして

「…んふっ」

 いつの間にか彼女は、人気の無い公園の一角に来ていた。彼女はそこで立ち止まると、おもむろにフリルのたっぷり付いたスカートの中に手を入れた。その手が下へと下りると、彼女の太腿の間を薄いショーツがするすると滑っていった。
 困惑少々、期待大半にそれを見つめる男たちに背を向けたまま、彼女はくるりと首だけを回して彼らを見た。

「…みんな、マリのこと、好き?」

「好きだ!」

 一人が叫んだ。残りの3人も、口々に自分の思いの丈をアピールする。
 それを満足気に聞くと、衣麻理は言った。

「ありがとう。…これからも、ずっとマリのこと応援してね」

 ゆっくりと、片手でスカートの後ろを持ち上げる。鼻息荒くそれを見守る彼らの目に飛び込んできたのは、白い尻に刻まれた、黒い機械的な文様であった。
 もう片方の手に、ダイヤモンドめいて輝く小匣を掲げる。



『アイドル』



「永遠に、死ぬまで…マリのこと、推し続けてね…!」

 彼女が去った後、そこにはぼんやりと座り込んだまま動かない、屍めいた4人の男たちだけが残された。




「へえ、じゃあ最近は、風都で一人暮らしを」

「はい。ようやく売れ始めて、収入を入ってきたので、どうにか親を説得できました」

 メモを取りながら、彼はノート越しにちらりと彼女の顔を覗き見た。そして、密かに胸を高鳴らせた。
 先日『ばそ風北』で会ったときよりも、太田衣麻理は、明らかに綺麗になっていた。



 北風新報の藤沢編集長に、彼女を取材するので記事を載せられないか尋ねたとき、彼は徹の思っていた数十倍は食いついてきた。

”マジで!? マジでフーチューバーのマリマリちゃんの独占インタビューを取り付けたの!?”

「え、ええ。成り行きでと言うか」

”それ、絶対逃さないでよ。それから、絶対に他のとこには内緒だからね。その代わり、原稿料はうんと弾むから”

 受話器の向こうで、藤沢が大声で呼びかけている。

”社内の会議場押さえて! カメラマンも呼ぼう。付けれたらスナップショット集も付けたいな。それからインタビューには適当な女の子も同席させて。対面が男ばっかだと、過激なファンが凸ってくる…”

 電話越しの喧騒を、徹は呆然と聞いていた。



 そんな訳で、北風新報の社内にある会議室で、徹は衣麻理と向き合っていた。時折フラッシュが焚かれて、彼女の横顔や話している様子が写真に撮られる。派手な衣装は撮影の時だけのようで、今はデニムのショートパンツにカットソーと、ラフな格好をしている。

「親御さんの反応はどうでしたか。初めての一人暮らしだと、やっぱり心配されたのでは」

「そうですけど、二人共マリのこと応援してくれてますから」

「そうなんですね」

 徹の相槌に、衣麻理は意味深に微笑んだ。それがまたミステリアスで美しい。

「…これからやってみたいこと、展望がありましたら、教えていただけますか」

「やってみたいことはたくさんありますけど、やっぱり…歌ってみたいかな。歌が好きなんです」

「良いですね、そうなったら本物のアイドルみたいですね」

「応援してくれる人たちのおかげで、マリはどんどん有名になって、いつかは本当のアイドルになりたいなって、そう思ってます!」




 インタビューを終え、レコーダーとメモを鞄に収めると、徹は会社を出た。衣麻理の方は会社の人間が送り迎えまでしてくれるらしい。もう少し彼女と話していたかったが、後であらぬ疑いを掛けられても面倒だ。大人しく帰ることにした。
 帰り道、彼は『ばそ風北』に寄った。腹が減っていたのもあるが、何より店主が彼女へのインタビューのことを知りたがっていたからだ。

「…?」

 住宅街を突っ切った分かりにくいところに『ばそ風北』はある。普段は近所の住民や、常連くらいしか見かけないのだが、衣麻理が動画にしたこともあってか今日は人が多い。
 ところが、店の前でたむろしている人々は、誰一人として店に入っていかない。

「あの…何かあったんですか」

 少し離れてそわそわしながら突っ立っている男に、尋ねてみた。彼は苛立たしげに店を見て、言った。

「マリマリちゃんの動画見て、聖地巡礼に来たのに、この有様だよ」

「この有様って…」

 店に近寄って、気付く。

「…あれ、閉まってる」

 定休日は日曜日だが、今日は木曜日だ。定休日以外で店主が急に店を閉めたことは、徹の記憶では一度もなかった。

「朝からずっとこんな感じなんだよ」

「それはおかしいな…」

 徹は裏に回ると、勝手口を叩いた。

「おーい、おっちゃん、いるのかー?」

 呼びかけるが、反応がない。

「おーい、返事してくれないかー? おーい…」



 そのすぐ向こうには、店主が座っていた。しかし彼は一切動かない。その虚ろな目は、真新しいパソコンの画面を見つめている。
 そこには、華やかな衣装を着て駄菓子を食べる、太田衣麻理の映像が流れていた。

『永遠のI/インターネットのお姫様』完

今夜はここまで

>>188の後が抜けてた



 リンカは、徹の顔を真っ直ぐに見た。

「この女には、何かある。そう考えるべきでしょう。私はその日、行動を共にはできませんが…くれぐれも、気を付けてください」

ティーチャー・ドーパント
「教師」の記憶を内包するメモリを使用。
ドーパント体は胸から上で、時計台のついた凸の字型の校舎を模した姿になる。
胸部の昇降口に小規模な教室様の異空間を作り出し、そこへ犠牲者を吸い込み、『生徒』にしてしまう。
そのなかでは教師に扮した変身者が『教育』を行う空間であり、生徒に教えたいことを教え込む(実質、洗脳する)ことができる。
また、空間内では犠牲者は『校則』に縛られる。
ただし変身者も学校の規範に従わなければならず、例えば生徒への暴力や淫行などの問題行為を行うと『学級崩壊』を起こし、異空間を保てなくなる。
なお、宇宙との関係性はない。

ニンジャメモリ(ニンジャドーパント)

その名のとおり「忍者」の記憶を有したメモリ 割りに合わない値段
割りに合わない理由はユーザーによってドーパントの強さが極端に変わるから(まともに使える人がいなかった)
下忍・中忍・上忍と別れており、一般人が使うとほぼ下忍(マスカレイドと同じ強さ)にしかならない。アスリートの様に鍛えた人でも現状中忍までしか確認できていない。
男女と強さでドーパントの姿が変わり、男性は黒装束に、女性はぴっちりとしたスーツを着た様な姿を基本としてそこから中忍・上忍にランクが上がることによって更に装備が増えていく
メモリのNの形は手裏剣がNの字を作っている

バンド・ドーパント

「楽団」の記憶を内包するメモリで変身する
ZOOメモリと同じ様に一本のメモリで複数の能力を持っている
主に使用される能力は「ボーカル」「ギター」「ドラム」「キーボード」「ベース」これらに加えて使用者によっては「サックス」や「パーカッション」も加わる
ドーパント体は顔は五線譜を模したものであり、肩からはギターのネックが突き出た感じになっている
一本で複数の能力を使える強力なメモリであるが複数の能力の行使の条件として他の人間を取り込む必要がある。取り込む人間によってドーパントは強化され、「その楽器を演奏している変身者のバンド仲間」が一番強化の度合いが強い
バンド・ドーパントの奏でる音楽には様々な効果があり癒やしの能力から破壊まで様々な能力が使えるが、演奏中は移動ができないという欠点を持つ

「まず、今まで通り適当なドーパントで、仮面ライダーとあの女をおびき寄せて…」

 公園の身障者用トイレにて。タイルの上に転がした男に跨って、激しく腰を振りながら、ミヅキはぶつぶつと呟いた。

「…あの女を人質にして、それから…」

 組み敷かれて喘ぐだけの男の胸に、指で『作戦』を書き記す。

「…ああもうっ、駄目、ダメダメダメっ! 全っ然良い案が浮かばない!」

 ミヅキは考えるのを止めると、目の前の男との性交に専念し始めた。



 最後の男を見送ると、ミヅキは再びトイレの個室に向かった。今度は、単純に寝るためだ。
 その背中に、誰かが声をかけた。

「おい」

「…は~い?」

 一人追加。そう思い、振り返った彼女の顔が、引きつった。
 そこにいたのは、薄汚い格好をして、意地の悪い笑みを浮かべた、ガタイの良い一人の男であった。

「よう、美月。こんなところにいやがったのかよ」

 ミヅキは青ざめた顔で、小さく呟いた。

「…ぱ、パパ」

 その肩を乱暴に掴むと、男は汚い歯を剥き出して、言った。

「ほら、帰るぞ。俺『たち』の家になぁ!」




 その日、リンカは体調を崩していた。

「だ、大丈夫か…?」

 そもそも、彼女にも体調という概念があることを失念していた徹は、紅い顔でいつもの金ネクタイを締める彼女に、おろおろと尋ねた。

「軽微なものです。支障ありません」

「だけど、風邪はひき始めが肝心って言うし…」

「風邪ではありません。加えて症状の経過が、行動によって左右されることはありませんので、ご心配なく」

「いや、余計に心配なんだが」

 食い下がる徹をあしらうと、彼女はさっさと出かけてしまった。何でも、蜜屋志羽子について重要な手がかりを掴める寸前なのだそうだ。



 バイト先から帰る途中、人気の少ない道を歩いていた徹は、何かを聴きつけて立ち止まった。

「悲鳴…?」

 女の悲鳴のようなものが、彼の耳に届いた気がした。周りを見回すと、他に2人の通行人がいるが、どちらも何事もないように歩き続けている。
 気のせいだろうか。早く帰ろう、リンカも心配だし…。そう思い、再び歩き出そうとしたその時



「嫌っ、助けて…っ!」



「!!」

 はっと、振り返る。その瞬間、後方の曲がり角に消えていくピンク色のスカートの裾が目に入った。
 徹は、迷わず駆け出した。

 果たして、角を曲がった先は薄暗いビルの隙間で、更に入り込んだところには、一人の若い女と、それを壁に押さえつける一人の男がいた。

「おい、何をしてる!」

 徹は駆け寄ると、男の肩を掴んで引き剥がした。

「早く、今のうちに逃げろ!」

「っ…」

 女は何か言いかけたが、すぐに路地の出口へと逃げ出した。
 男は、徹の腕を掴むと、舌打ちした。

「テメエ、何しやがんだよ」

「それはこっちの台詞だ。…警察を呼ぶ」

「はっ、やれるもんならやってみやがれ!」

 そう言うと男は、徹を突き飛ばした。そして、汚れたジャケットのポケットに手を突っ込むと、酷薄な笑みを浮かべながらガイアメモリを取り出した。黒い筐体には、ヘドロめいた筆跡で『G』と書かれている。



『ガーベ「ゴーッド!」



 メモリの声を掻き消すように、男は叫んだ。

「ゴッド! 神! 俺は神だ!」

 そう言うと彼はよれたTシャツの襟を引っ張り、露わになった左胸のコネクターに、自称神のメモリを突き立てた。

「ガイアメモリ…!」

 男の体が、黒いヘドロと、しわくちゃのビニールめいた膜に覆われていく。その姿は、どれだけ好意的に見ても、神のそれではなかった。

「俺様の邪魔をしたらどうなるか、教えてやるよォ!」

「やれるものなら、な! 変身!」ファンタジー!

 徹は変身すると、長剣を構えた。自称神のドーパントが、驚いたように一歩退く。

「なっ…仮面ライダーだと…風都にしかいねえと思ってたのに」

『この町にだって、仮面ライダーはいるんだぞ。そして…』

 切っ先を、ドーパントに向ける。

『お前みたいに町の平和を乱すやつは、俺が倒す!』

 銀の刃が、ヘドロの体を深々と切り裂いた。

「ぎゃあぁぁっ!!?」

 それだけでなく、傷口からは灼けるように煙が立ち上る。
 剣は、古来から英雄の武器として様々な伝説に登場している。その記憶を有するガイアメモリによって形作られたこの剣は、特に悪しき存在に対して強力な効果を発揮した。

「ぐっ、うぅっ…」

『やぁっ!』

 切っ先が、ドーパントの体を貫いた。彼は憎々しげに唸った。

「うぅ…俺は…お、俺は、神だ…」

『女をレイプして、子供を虐げる、そんな汚い姿の神がいるものか!』

 剣を引き抜き、ドライバーの前にかざす。

『トドメだ…』

「俺はぁ! 神だあぁぁぁっっ!!!」

 突然、ヘドロに覆われたドーパントの体が、音を立てて沸き上がった。煮え立つタールが飛び散り、騎士の鎧に付くと、鎧が煙を上げて融け出した。

『!!』

 咄嗟にマントを広げると、体を防御した。その間にメモリを入れ替え、魔術師の姿に戻る。

『いい加減に…』

 防壁を展開し、更に掌を突き出す。次の瞬間、ドーパントの足元から巨大な炎の柱が噴き上がった。

「ぎゃあぁぁぁぁっっ!!」

 炎に包まれ、絶叫するヘドロのドーパント。燃え盛る体が次第に蒸発していき…やがて炎が収まった頃、そこにはボロボロになった一人の男が座り込んでいた。

「くそ…おれは…おれ、は…」

『…』

 無言で歩み寄る仮面ライダー。彼は、男の目の前に立つと、赤と銀の杖を振り上げた。

「俺はあぁっ! 俺はっ…」



『ガー「ゴッド! ゴッドゴッド! 神、だ…」



 喚きながら、黒いメモリを掲げる。
 仮面ライダーは、冷たい声で言った。

『ただの、クズ野郎だ』

 そして、手にした杖を、生身の男に向かって……




「もう止めて!!」


『…』

 仮面ライダーの手が止まる。
 彼の目の前に、汚れたピンクのロリータ服を着た、やつれた少女が立ちはだかった。

『…何でだ。そいつは、お前のことも傷付けたのに』

「これ以上…あたしの居場所を取らないで…」

 涙を浮かべながら少女が訴える。仮面ライダーは杖を下ろすと、言った。

『居場所だと? そんな所にいるんじゃない。…こっちに来るんだ』

「嫌! こんなパパだけど、お母様の邪魔をするあんたたちに比べたら、マシ」

 それから彼女は、地面に座り込んでぶつぶつ呟く男を抱えると、仮面ライダーに背を向けた。

「俺は、おれは…俺は、かみ、俺は…」

「帰ろう、パパ」

 汚れたアスファルトを蹴ると、塀を飛び越えて去って行った。



「…ただいま」

 家に帰った徹は、室内がやけに静かなのに気付いた。

「…リンカ?」

 嫌な胸騒ぎを感じ、寝室に向かう。
 そこには、ベッドに横たわって動かないリンカの姿があった。

「リンカ!?」

 駆け寄って抱き起こすと、彼女は苦しげなうめき声を上げた。

「おい…おい、しっかりしろ! リンカ、どうしたんだ…」

「…っ、はぁっ」

 歯を食いしばり、彼の腕を振り払うリンカ。こんな状態だというのに、いつもの白スーツの、上着のボタンすら外さない。捲れたジャケットの裾から、金属のベルトが見えた。

「…えっ?」

 金属ベルトだと? そんなもの、普段付けていたか?
 彼女の体を無理やり仰向けにすると、彼は上着のボタンを外して前を開けた。

「!!」

 露わになった彼女の腰には、彼女の所持しているガイアドライバーが巻かれていた。しかし今、そこに装填されているのは、金色のトゥルースメモリではない。

「これは…」

 半挿しになったメモリを掴み、抵抗する彼女を抑えて引き抜く。
 彼の手に収まったのは、ピンク色のガイアメモリ。耳をぴんと立てた、ウサギの頭部が描かれている。

「ずっと、ここに隠していたのか」

「…」

 何も言わず、彼女は小さく頷いた。メモリを外しただけで、彼女の顔から苦痛の色が引いていくのが分かった。

「何だってそんな、無茶なことを」

「警察病院に刺客が来た時…貴方の身の安全と同時に、このメモリを奪取しに来る可能性について考慮しました。その上で、常に私の目が届き、かつ他者には物理的に取り出せない場所…すなわち、私の体内という結論に達しました」

「だが、そのせいでこんな」

「…このメモリは、兎ノ原美月に適合しすぎました。臓器と接触しないよう、ぎりぎりガイアドライバー内に留めていましたが…凄まじい拒絶反応と副作用で、やや人格に変調を来しかけました」

 そう言えば最近、彼女から徹に触れたり、抱きついたりすることが多かったように思える。ラビットメモリを近くに置いていたために、彼女の性格に影響が出たのかも知れない。

「…とにかく、このメモリは俺が持っておくぞ」

「お断りします。これは、私が管理します」

「駄目だ! もうこれ以上、あんたが苦しい目に合うのは御免だ」

「ですが、貴方はこれを兎ノ原美月に返却する気でしょう?」

「…」

 徹は、言葉に詰まった。リンカがすかさず続ける。

「佐倉強也の虐待によって、兎ノ原美月は現在のような人格になった、そういう意味では彼女も被害者でしょう。しかし、それでも敵であることには変わりありません。彼女が再びメモリを手にすれば、我々、そしてこの町にとって大きな障害となることは明らかです。極端な話をするなら」

「…分かった。もういい分かった!」

「このまま、彼女を放置すべきでしょう」

「黙れ! それ以上言うな!!」

「佐倉のもとで、衰弱死でもしてくれた方が、我々にとってはプラスです」

「…あんた…っ!」

 徹は歯ぎしりしながらリンカを睨んだ。彼はリンカに背を向けると、足音荒く部屋を出て行った。




 夜の公園。ベンチに座り込んで、徹は溜め息を吐いた。電灯の下に、ピンク色のガイアメモリをかざす。

『ラビット』

「…どうして」

「!」

 顔を上げると、彼の目の前にミヅキがいた。

「どうして、あたしはここに」

「このメモリに引き寄せられたんだろう」

 ほとんど無意識に、メモリに手を伸ばすミヅキ。徹は、それをさっと引っ込めた。

「…返して」

「駄目だ」

「じゃあ、何のためにここに来たの。何であたしのメモリを持ってるの!」

「話すことなんてない! 返して!」

 飛び蹴りを浴びせようと、膝を曲げるミヅキ。徹は椅子から立ち上がると

「…っ!?」

 彼女の体を、きつく抱き締めた。

「放してっ…放してっ!」

「ガイアメモリは、あんたを幸せにはしてくれない! あの男もだ!」

「余計なお世話だって! あんたに何が分かるの!?」

「母神教も、あんたの居場所にはならない! お母様とやらだって、あんたを操って、戦わせるじゃないか」

「お母様は!」

 彼の脇腹に膝を打ち付けながら、ミヅキが叫ぶ。

「あたしを、愛してくれる…パパだって」

「違う! そんなのは嘘だ!」

 彼女を抱く腕に、力を込める。

「あんたは…生まれた時から、ずっと傷付いてきたんだ。勝手な大人たちに振り回されて、辛い思いをし過ぎたんだ。…もう、止めよう。まだ間に合う。やり直すんだ!」

「うるさい! うるさいうるさい、うるさいっ!!」



「…見つけたぞ、クソガキ」



 突然、背後から怒声が飛んだ。

「…佐倉、強也」

 徹はミヅキの体を離すと、佐倉とは逆の方へ、そっと押し出した。そうして、自分はその男と正面から向き合った。

「よぉ、ヒトの娘と、何盛ってやがんだよぉ!」

「一つだけ、訊きたい」

「…あん?」

 徹は一瞬、ミヅキの方を見て、それから問うた。

「ミヅキの母親…兎ノ原皐月は、今どうしてる?」

「ああ? …ああ、あいつか」

 彼はつまらなさそうに鼻を鳴らすと、言った。

「ムショ出てから、景気づけにヤッたら、何か死んじまった。…ひひっ、隠しといたのをメモリの力で、ドロドロに溶かして捨てたから、バレずに済んだけどな」

「! そんな」

「…そうか」

 徹は、ドライバーとメモリを掲げた。その足元に、小さな一角獣が寄り添う。

「もう、何も言わなくていいぞ。…ここが、お前の終わりだ」ファンタジー!

『…ミヅキ。向こう向いて、耳を塞いでろ。何かしようなんて考えるな。こいつは…あんたの人生には、初めからいなかったんだ』セイバー!

 銀と蒼の騎士は、剣を構えた。

「よく言うぜ! …娘は返してもらうぞ」



『ガ「ゴッド! ゴーッド!」



「俺は、神だからなぁ!!」

 ヘドロの弾幕が、ファンタジーを襲った。それを剣で叩き落としながら、彼は敵に肉薄していく。

『やあっ!』

「ぐふっ…」

 斬撃を受け止めると、ドーパントは足元にヘドロを広げた。

『!』

 飛び下がるファンタジー。すかさず黒いタールの鞭が、彼を襲う。それを切り払うと、彼はマントを広げて夜空に舞い上がった。

『たあぁっ!!』

「ぐはっ…!」

 重力の乗った一撃が、ドーパントの肩を切り裂いた。

「こ、の…」

 傷口が融け、また塞がっていく。彼は辺りを見回すと、突然、腕を長く伸ばした。
 手繰り寄せたのは、公園のゴミ箱。空き缶や、弁当の箱が捨ててある。彼はそれを持ち上げると、口を開けて中身を呑み込んだ。

「んっ、ぐっ、ぐっ…」

 やがて空になったゴミ箱を投げ捨てたドーパントの体は、先程よりも少しだけ大きくなっていた。

「ひひひっ…こいつでどうだっ!」

『くっ』

 重いパンチを、剣で受け止める。どうにか受け流すと、ファンタジーは剣を突き出した。切っ先が、黒い腹部を刺し貫く。だが、傷口がすぐに塞がってしまう。

『だったら…』

 ファンタジーが剣を掲げる。と、その刀身が激しく燃え上がった。

『ジャスティセイバー・レーヴァテイン! はあぁっ!!』

「ぐあぁぁっ!?」

 炎の剣が、ドロの体を切り裂き、更に蒸発させていく。ドーパントは更に体を強化すべく、周囲のゴミを探す。だが、見当たらない。

「…っ、そうだ」

 彼は何かを思いついたように呟くと、やおら体を黒い液状に変化させた。そのまま地面を這い進むと、ファンタジーの後ろにいたミヅキの方へと近寄っていった。

「最初から、テメエを喰っちまえば良かったんだよぉ!!」

「! パパ…」

『この野郎…っ!!』

 ファンタジーは猛然と駆け寄ると、人型に戻りつつあるその背中に、燃える剣を突き立てた。

「ぐうぅぅっ…ひっ…ひひっ…はははははっ…」

「…」

 ドーパントの体から、タールが黒い触手めいて伸び、ミヅキの体を捕らえた。ミヅキはその場から動こうとせず、じっと自分の義理の父親を見つめていた。

『ミヅキ! ミヅキ、逃げろ! クソっ…』

 体を燃やされながらも、娘を捕食しようと腕を伸ばすドーパント。ミヅキの体が、黒い液体に覆われていく…

『ミヅキ! ……手を、出せ』

「…!」

 ピンクのスカートが溶け、細い腿が露わになる。……そこに刻まれた、生体コネクターが。




『ラビット』


 次の瞬間、そこには、何事もなかったかのように立つミヅキと、その前で崩れ落ちる、ヘドロのドーパントがいた。

「美月…テメエ…」

『…これで、終わりだ』セイバー! マキシマムドライブ

『セイバー…ジャスティスラッシュ!!』

 蒼い閃光が、ドーパントの体を両断した。

「ぎゃあぁぁぁっ…」

 弱々しい断末魔。光が収まった時、そこにいたのは倒れ伏す薄汚い男と、砕け散った黒いガイアメモリ。散り際、持ち主の虚偽に抗議するように、メモリは自らの名を告げた。

『ガーベッジ』

「…ミヅキ」

 変身を解除して、徹は呼びかけた。
 ミヅキは動かず、倒れ伏す義理の父親を見つめていた。

「…ぐっ」

 佐倉は呻き声を上げると、どうにか上半身を起こした。

「み、美月…た、たす、け」

「…」

 ミヅキは黙って、彼の言葉を聞くと…
 彼の胸を、蹴り上げた。

「がっ…!?」

「やめろ!!」

 徹が身を乗り出すが、もう遅い。彼女の爪先は、佐倉の胸を、文字通り貫通していた。
 上げた脚から、スカートの裾が滑る。露わになったコネクターに、ピンク色のメモリを突き立てた。

『ラビット』

「み、づ、き…」

「やめろ! やめろおぉぉぉっっ!!」




「…バイバイ、パパ」


 兎の回し蹴りが、佐倉の頭を粉々に砕いた。飛び散る脳漿の中に立ち尽くすと、ラビットドーパント…ミヅキは、変身を解除した。

「あ…ああ…」

「…仮面ライダーさん」

 彼女は呟くと…突然その場で跳躍し、徹の胸に飛び込んだ。そうして、彼の唇に、自分のそれをそっと重ねた。

「ありがと。でも、兎は寂しいと死んじゃうの。…あたしには、お母様がいないと」

「どうして…俺のところじゃ、駄目だったのか…?」

 ほとんど無意識に問うた徹に、ミヅキは首を振った。

「あなたには、あの金ピカネクタイ女がいるから。…あなたのことは、好き。今まで数え切れない男とエッチしてきたけど、キスしたのはあなたが初めて」

 ゆっくりと、後ずさる。その背中から、眩い白の光が溢れ出した。

「…ああ。迎えに来てくれたの、『お母様』」



”おかえりなさい、愛しい子”



「!!」

 徹は目を見張った。白い光の中に、何かがいる。逆光に塗り潰された、一つの人影が。

”あなたが、再び母を求めるのを、ずっと待っていました”

「ごめんなさい、遅くなって」

”良いのですよ。…ときに”

「!」

 響く声が、徹の方を指した。

”貴方が、仮面ライダーですね。…母の娘が、お世話になりました”

「お前が…お前が、ミヅキを」

”貴方も、愛しい母の子。母の愛を求めるなら…或いは”

「…あたしに逢いたくなったら、いつでも来てね」

 照れくさそうに言うミヅキ。その体が、白い光に包まれ……そして、消えた。

『招かれざるG/バイバイ、パパ』完

今夜はここまで
そしてミヅキ編も一旦ここまで

『ガーベッジドーパント』

 『廃棄物』の記憶を内包するガイアメモリで、強姦魔の佐倉強也が変身するドーパント。ヘドロめいた黒の体に、ビニールめいた被膜が所々を覆っている。よく見ると、ヘドロの中からは空き缶やペットボトルといったゴミが浮いたり沈んだりしている。体を構成するヘドロを飛ばしたり、伸ばしたりできる他、体を液状に変化させることも可能。ヘドロの中では異常な早さで腐敗が進むため、人体などを溶かすこともできる。ゴミや死骸を吸収することで、傷を治したりパワーアップすることも可能。こう書くと使い勝手は良さそうだが、そもそもの戦闘力がそれほど高くない上、炎には極端に弱いため、仮面ライダーやドーパント同士の戦闘には不向き。
 警察から釈放された後、どこかのタイミングでこのメモリを手に入れた佐倉は、強姦の末殺害した内縁の妻である兎ノ原皐月の遺体を吸収し、証拠隠滅を図った。それ以降は、襲う女に近付いたり、犯した女の体を溶かしたりするのに能力を使っていた。また、彼はこれを神の力と信じ、ガイアウィスパーに被せるようにゴッドと叫んでいた。当然、ゴッドメモリなるものは存在しないし、したとしても幹部級のメモリになっていたであろう。
 メモリの色は黒。ヘドロの飛沫めいた筆跡で『G』と書かれている。

もうちょっとしたらまた出てくる




 トゥルースドーパントが、エジプト十字の杖を振りかざすと、スズメバチたちの動きが止まった。

「なにっ…」「ぐっ」「うあぁっ…!?」

「人の身で虫などに身をやつし。ただ一人の人間に盲目的に従い。組めぬ徒党を組んで、歪みを広げる。貴方たちの在り方は……偽りです」

 杖を振るうと、ドーパントたちがその場に膝を突き、崩れ落ちていく。しかしよく見ると、その程度には差があった。変身が解除される者もいれば、歩みが遅くなった程度の者もいる。
 そしてその中に、明らかに影響を受けていない、2匹の蜂がいた。

「小崎君、速水さん」

「はい」「はい。先生」

 女王蜂の号令で、2人は前に進むと……変身を解除し、それぞれ、別のガイアメモリを掲げた。



『バンブルビー』『ロングホーン』



 小崎が左肩に、速水が右脇腹に、新たなメモリを打ち込むと、彼らの姿はそれぞれ熊蜂と、カミキリムシの怪人へと変化した。

「真実。偽り。それを決めるのは、何? ……所詮は、メモリとの適合率の問題。簡単なことだわ」

 熊蜂が、太い腕で殴りかかってきた。それを杖で受け止めると、女神は片方の翼を広げ、鋭い羽をカミキリムシに向けて放った。

「っ、くっ、うっ」

 外骨格で羽を弾きながら、カミキリムシも女神に肉薄し、そして鋭い牙を剥き出した。大きく開かれた顎に向けて、女神が金の光弾を放つ。

「ああっ!?」

「ぐはっ…」

 突き出した杖が、熊蜂の腹を抉る。
 崩れ落ちた2体を蹴り飛ばすと、女神は女王蜂を睨んだ。

「人は。……蜂でも、甲虫でもない。彼らのこの姿は、どうしようもなく偽りです」

「こ、の…っ!」

 怒りに唸りながら、遂に女王蜂が翅を広げ、襲いかかってきた。




「せぇいっ!」

「ふんっ!」

 剣と爪がぶつかり合う。机を切り裂き、椅子を蹴散らしながら、ファンタジーは2匹のスズメバチと戦いを繰り広げていた。その後ろでは、相変わらず蜜屋の秘書が、黒板の前で絶えず洗脳の言葉を紡いでいる。

「蜜屋先生は絶対です。蜜屋先生を信じなさい。皆さんは優秀な生徒です。必ず、先生のご期待に応えなさい。…」

「こ、の…!」

 ファンタジーは手元に短剣を出現させると、男に向かって投げつけた。無論、直接刺さらないようにだ。
 鋭い刃が、すぐ耳元を掠めたと言うのに、男は一切怯まない。

「蜜屋先生の教えを広めるのです! ガイアメモリと、皆さんの努力で…」

「クソっ!」

 剣を片方のドーパントに突き立て、もう片方を拳で殴り倒した。

「ぐわっ!」

「倒しても倒しても…」

「くっ、そっ!」

 男の声が響く教室で、2人の生徒は何度倒されても、諦めずに立ち上がってくる。その動きに、疲労が見えない。

「キリがない…」

 剣を収めると、魔術師の姿になった。かざした手から炎が噴き出し、ドーパントを襲う。

「うわあぁっ!」

「お前もだっ!」

 殺しは論外だが、黙らせなければ。魔法陣から緑色の霧が噴き出して、男の顔を覆った。

「蜜屋先生は…っ! げほっ、がっ…!?」

「お前たちの教えは、確かに活かされてるぞ。…この、ワサビ攻撃にな!!」

 蜂たちの動きが鈍る。その隙に、メモリをスロットルに挿し込んだ。

『これで…』ファンタジー! マキシマムドライブ

『…終わりだ! ファンタジー・イマジナリソード!』

「ああああっっ!!」「ぐわああぁぁっ!」

 白い閃光が、2体のドーパントを切り裂く。スズメバチのメモリが破壊され、人間に戻った生徒たちは、ふっと教室から消え去った。

『よし、後はこの教師をどうにかすれば…』

 ところが、次の瞬間



「…仮面ライダー!」「見つけたぞ!」「わ、私が倒す…」「いや、俺だ!」



『何っ!?』

 教室に、新たにホーネットドーパントが、大量に出現したのだ。特に、ファンタジーの近くに出現したドーパントは、翅を広げてその場に浮かび上がると、尻から突き出した巨大な針を、ファンタジーに向けた。

「この教室が、あなたの墓場です! さあ、生徒たち!」

「はい!」

 男の号令で、スズメバチたちが一斉に襲いかかってきた。



 鋭い棘と、七色の翅が空中でぶつかり合う。時折介入してくる、バンブルビーとロングホーンをいなしながら、トゥルースドーパントはクイーンビーと射撃戦を繰り広げる。
 腕から棘を飛ばしながら、クイーンビーが叫んだ。

「あなたたち! ここで寝ているくらいなら、教室に加勢なさい!」

「! は、い…」

 トゥルースドーパントによって力を抑えられていたホーネットたちが、ゆっくりと起き上がる。

「仮面ライダーを倒しなさい。…活躍した生徒には、褒美を与えるわ」

「!!」

 女王蜂の言葉に、弱っていたはずの蜂たちが我先にと、ミニチュアの校舎に飛び込んでいく。

「! メモコーン、早く来て…」

「あなたの相手は、この私よ」

 手首から、巨大な針を伸ばして殴りかかる。間一髪で躱すと、杖で殴り返した。打撃を肩の装甲で受けると、そこに蜂の巣めいて六角形の穴が空いた。

「…!」

 咄嗟に翼を広げ、体を庇う。そこへ、白い弾丸が直撃した。

「っ、流石に手強い…」

「思ったほどでは無いのね。…さあ」

「はい」

 バンブルビーとロングホーンが、背中から彼女に致命傷を与えんと、腕を振り上げた。次の瞬間

「…っ!?」「痛っ!」

 歌うようないななき。銀の一角獣が何処からともなく飛び出し、2体のドーパントに体当たりを見舞った。

「! メモコーン、徹を助けて…」

 ところがメモコーンは校舎に目もくれず、今度は女王蜂に突撃した。

「メモコーン! 私のことは良いから…」

「っ、うっとおしい…!」

 跳び回る一角獣を捕らえると、クイーンビーは床に叩きつけて踏みつけた。そのまま、トゥルースドーパントを複眼で睨んだ。

「…キリが無いわね。どう、リンカさん? この際、あの頼りない仮面ライダーなんて捨てて、私たちの所に来ない?」

「…」

「あなたが単純な正義のために動いているわけじゃないことは、何となく察してるわ。どうせ、あの男とは一時的な協力関係…或いは、あなたが一方的に利用しているのでなくて?」

 手首の針を、鼻先に向ける。

「…場合によっては、私たちの方があなたの助けになるかも」

「…魅力的な申し出ですが」

 女神は、言った。

「ええ。物分りが良いのはとても」

「今は、ご自身の背後を気にするべきかと」

「!?」

 咄嗟に振り返る女王蜂。

 そこには、一人の少年がいた。

「お、お前が…お前が」

「…朝塚君。今更、何の用」

「お前が、母さんを!!!」

 少年…朝塚ユウダイは、泣きながら一本のガイアメモリを、両手で捧げ持った。
 奇妙なメモリであった。プロトタイプらしく剥き出しの基盤に端子しか付いていないのだが、基盤には白いテープが乱雑に巻かれていて、油性マジックらしき線で『X』と書かれていた。

「! どうしてそれを」

「ああああああああっっっ!!!!!」

 絶叫しながら彼は、そのメモリを喉に突き立てた。そのまま、クイーンビー…蜜屋志羽子に向かって、突進した。

「落ちこぼれが…ッッッ!?」

 棘を剥き出し、迎え撃とうとしたその体が、壁まで弾き飛ばされた。
 ユウダイは止まらず、ティーチャードーパントの所まで走り、そのまま小さな校舎に吸い込まれていった。




『ぐっ…く、うぅっ…』

 震える手で剣を握り、肩で息をするファンタジー。片手で覆った脇腹には、巨大な棘が深々と突き刺さっている。

「あと一回だ! 誰か!」

 彼に棘を見舞った少年が、仲間たちに叫んだ。彼自身は針を刺した瞬間、人間に戻ってしまった。一度使うと、ドーパント態を保てなくなるのかもしれない。
 スズメバチの針なのだから、効果も察するというものだ。先程からファンタジーは、全身に強い痺れを感じていた。しかし、こんなものは序の口だ。真に恐ろしいのは、2発目…一度毒を受けた体が、二度目に同じ毒を受けた時…その時は、間違いなく命は無いだろう。

「俺だ!」「私よ!」「どけっ、ここは…」

 せめてもの救いは、手柄を焦るあまりホーネットたちが押し合いへし合いして、中々ファンタジーに辿り着けずにいることだ。

『はあっ…はあっ…やあっ!』

 すり抜けてきた1人を切り伏せる。しかし、次は無さそうだ。彼の手から、剣が落ちた。
 メモコーン…クエストのメモリがあれば、毒を解除できるかも知れない。だが…

『…ったく、肝心の時に役に立たねえ!!』

 更にすり抜けてきた1人が突き出した、尻の棘を、ぎりぎりのところで掴んで止めた。そのまま床に投げつけると、とうとう彼は床に膝を突いた。せめて盾をと念じるが、具現化する力も残っていない。

『はぁっ…ここまで…なのか…っ!?』

 死を覚悟した、その時



「うあああああああっっ!!!」



『!?』

 突然、教室に誰かの叫び声が響き渡った。と思うや、部屋の中心に1人の少年が現れた。

『また加勢か…』

 ところがその少年は、ファンタジーではなく、教壇に立つ男に向かって一直線に突っ込んでいった。

「よくも! よくも母さんを! 母さんを、返せえええぇぇぇx!!!!」

「! ガキが…!」

 苛立った顔で、少年をあしらおうとする男。ところが、存外に少年の力が強い。
 ここに至って、ファンタジーは少年が何者なのか気付いた。

『ユウダイ君!? どうしてここに…』

「母さんを! 良くも!」

 男のスーツを掴み、殴りつけるユウダイ。

「劣等生め、ここで死ね!」

「ぐあぁっ…!」

 男が手をかざすと、コンクリートめいた液体が湧き出し、ユウダイの顔を覆った。気道を塞がれてもなお彼はもがいた。だが、それも長くは続かず、ユウダイは男の足元に崩れ落ちた。

「ふん、クズめ……っ!?」

 そこまで言って、突然彼の顔に狼狽が浮かんだ。

「しまっ…」

 次の瞬間、教室の空気が歪んだ。

『なっ、何が』

 床が揺れ、壁がひび割れ、机や椅子が溶けて無くなっていく。
 やがて…満身創痍のファンタジーは、元いた地下室に、大勢のホーネットドーパント、そして動かなくなった朝塚ユウダイと共に戻ってきた。

『はあっ…も、戻ってきた…?』

「徹!」

『!』

 呼びかける声に、はっと顔を上げる。そこにいたのは、女王蜂のドーパントと対峙する、黄金の女神。
 彼のもとに、小さな一角獣が駆け寄ってきた。

『遅いんだよ、お前はよ…!』クエスト!

 赤いメモリを装填すると、ファンタジーの姿は白いローブに赤い装飾を纏った魔術師に変わった。同時に、体を蝕む毒も消え、彼はすっくと立ち上がった。

『もう許さねえ! 母親だけじゃなく、息子まで…』クエスト! マキシマムドライブ

 ファンタジーの体を、白いマントが包み込んでいく。

「…チッ」

 女王蜂は舌打ちすると、翅を震わせて部屋から逃げ出した。後を追って、生徒たちも部屋を出ていく。
 それらを追うことはせず、巨大なグリフォンと化した仮面ライダーは、天井を突き破って宙へ舞い上がった。

『クエスト…ラストアンサー!!』

 急転直下、銀の矢が、ミニチュアの校舎を打ち砕く。

「ぐ、うっ」

 ぼろぼろに崩れ落ちた校舎の中で、男が倒れる。その体から紺色のメモリが吐き出され、そして砕け散った。

「…ユウダイ君!!」

 変身を解除すると、徹はユウダイの体を抱き起こした。

「…ユウダイ君…おい、しっかりしろ!」

 しかし、彼は動かない。息をしていない。……心臓が、動いていない。

「そんな…」

「警察を呼びましょう」

 同じく変身を解除したリンカが、冷静に言った。

「この塾はクロだと証明できました。ティーチャードーパントの変身者が逃げない内に」

「…ああ」



 植木警部に連絡し、超常犯罪捜査課が到着し、捜査が始まり……その、どこかのタイミングで。
 朝塚ユウダイの遺体は、まるで蜃気楼か何かのように、忽然と姿を消したのであった。




 大聖堂。白いヴェールの向こうには、2つの人影が蠢いていた。

「あぁ…母さん…母さん…」

”可哀想なユウダイ…愛しい子”

 祭壇に仰向けに横たわる、白い女。その上に、裸の少年が寝そべって、泣きながらその胸にしがみついている。

”もう、心配いりません。あなたは一度死んで、母の胎から生まれました。これで、身も心も、母の子…”

「母さん……『お母様』…」

”ふふふ…そうですよ、ユウダイ…さあ、生まれたてのあなたには、母のお乳が必要です…たんと召し上がれ…”

「お母、様…」

 うわ言のように言いながら、彼は顔を上げ、女の胸に吸い付いた。

”んっ…ぁ…”



「…」

 ヴェールの外から、それを不機嫌そうにミヅキは見つめていた。



「んっ、んっ、んくっ…お母様、もっと…」

”ええ。もっと、好きなだけ…”



「…」

 悩ましげな声に浮かされるように、無意識にスカートの中に手を伸ばす。

「…っ」

 苛立ち。焦燥。そして、嫉妬。凡そ不愉快極まりない感情を快感で塗り潰すように、彼女は自らの秘部を乱暴に弄ったのであった。

『Sの秘密/働き蜂の先生』完

今夜はここまで

『ティーチャードーパント』

 『教師』の記憶を内包するガイアメモリで、朝塚志羽子の秘書が変身するドーパント。変身すると全身がコンクリートめいた物体に覆われ、全高2m弱の小さな校舎のような姿となる。その玄関に当たる穴から範囲内の人間を吸い込み、内部に創られた『教室』に閉じ込めることができる。そこでは変身者を『教師』、吸い込まれた人間を『生徒』として、『授業』という名の洗脳が行われる。また、教室内では変身者が予め定めておいた『校則』に縛られ、それに違反するとそこにいる全ての人間が違反者を排除しにかかる。ただし変身者も校則に縛られ、万が一変身者が違反した場合は教室が崩壊し、中にいる人間は全員元の場所に強制的に戻される。なお、上記は全てドーパント内部のことであり、ドーパント自身の肉体は文字通り校舎となるため一切の身動きがとれない。そのためティーチャードーパントが十全の力を発揮するには、外で体を護衛する者が必要。
 蜜屋は自身の生徒の中から見込みのある者をこのドーパントに洗脳させ、自身の手下としていた。仲間割れを起こした手下の再洗脳を命じられた秘書であったが、生徒と一緒に力野徹まで吸収してしまう。洗脳を止めさせようと変身する彼を、校則違反として排除しようとしたのはよかったものの、途中で同じ生徒である朝塚ユウダイの妨害に遭う。彼は怒りに任せてユウダイを殺害するが、そのせいで『何人も教師と生徒を傷付けてはならない』という校則に自ら違反することとなってしまい、教室は崩壊した。
 メモリの色は紺。鞭(ウィップではなくケインの方)と鉛筆を組み合わせた意匠で『T』と書かれている。



>>206をアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました!

『バンブルビードーパント』

 『熊蜂』の記憶を内包するガイアメモリで、愛巣会の生徒小崎善貴が変身するドーパント。ホーネットに比べてマッシブな体つきで、パワフルな肉弾戦が得意。その反面、飛行能力はほぼ無く、動きもやや鈍重。
 メモリの色は焦茶。蜂の片羽を象った『B』の字が書かれている。



『ロングホーンドーパント』

 『カミキリムシ』の記憶を内包するガイアメモリで、愛巣会の生徒速水かなえが変身するドーパント。硬い外殻に鋭い牙を持ち、長い触覚で相手の気配を察知することにも長けている。ミュージアム崩壊後に造られた、新造のガイアメモリ。
 メモリの色は赤。長い触覚を直角に広げた、カミキリムシの頭部が『L』に見える。ちなみに、カミキリムシの中でもこのドーパントはクビアカツヤカミキリに似ている。

『クイーンビードーパント』

 『女王蜂』の記憶を内包するガイアメモリで、教育評論家の蜜屋志羽子が変身するドーパント。女性的な蜂の体を素体に、虹色の翅、巨大な複眼、琥珀めいた装飾、蜂の巣を象った六角形の装甲と、随所に高貴な意匠が施されている。ホーネットドーパントと違い飛行時間に制限が無いだけでなく、一度使用すると変身を解除される毒針も、腕から無限に撃つことができる。また、肩の装甲からロケットランチャーめいて白い弾丸を放つことも可能。しかしこのメモリの真価は『虫たちの女王』であることで、このメモリ自体がビーやホーネット、バンブルビーといった蜂系のドーパントを操る能力を持っている。加えて適合率の高い蜜屋は、蜂だけでなく昆虫全般のドーパントをも操ることができる。
 シルバーメモリとゴールドメモリの中間に位置する、幹部級を除けば最高級のメモリで、ミュージアム下で2本しか製造されなかった特注品。1本を禅空寺朝美が、そしてもう1本を蜜屋志羽子が所持していた。つまり、ミュージアム崩壊前から彼女はガイアメモリの使用者であった。その上で彼女は、自身の生徒に量産型のホーネットメモリを持たせることで、操作、洗脳の足がかりとしていたのだ。
 メモリの色は黄色と黒の縞模様。円形のハニカムの縁に、一匹の蜂が佇む画を『Q』と読ませる。

『トゥルースドーパント』

 『真実』の記憶を内包するガイアメモリで、財団Xのエージェント、円城寺リンカが変身するドーパント。白地に藍色の隈取の施された仮面に、白い羽の刺さった黄金の冠を被り、金糸で刺繍された白の長衣の上から、黄金と宝石の装飾をいくつも纏っている。その手にはエジプト十字、すなわち生命を意味するアンクを象った杖を持ち、背中からは七色の羽の生えた翼が伸びている。モチーフは、その羽が罪の重さを量る分銅となる、エジプト神話における真実の女神マァト。金色の光弾や、鋭い羽を飛ばす攻撃は、並のドーパントなら瞬殺できるほど強力。しかしこのメモリの本質はそこではなく、『真実を量る』こと。特にドーパントに対しては、適合率が低かったり、元の姿や性質からかけ離れているほどにメモリの力が強く作用し、程度によってはそれだけでメモリブレイクできることもある。
 元はミュージアムにて製造されたゴールドメモリ、すなわち園咲家の人間やその関係者にのみ使用を許された、極めて強力なメモリ。ミュージアム崩壊後、旧園咲邸を家宅捜索した際にリンカが発見し、そのままガイアドライバーごと所有することになった。しかし、もしミュージアムが崩壊していなければ、このメモリを使用する人間が、いずれ園咲家に誕生する予定だったのかもしれない。
 メモリの色は当然金。天秤を象った『T』の字が書かれている。







 ……余談だが、白の長衣はほとんどシースルーで、宝石の襟や細い前垂れ付きベルトで局部をかろうじて隠しているため、肌の露出が少ないくせにタブードーパントよりもエロいと一部ではもっぱらの評判である

「徹」

「どうした?」

 北風署から帰る道すがら、おもむろにリンカが口を開いた。
 蜜屋の秘書は逮捕され、愛巣会には捜査の手が入った。地下室からは大量のガイアメモリが押収され、塾がこの町でのガイアメモリ犯罪の中心にあったことは確実になった。しかし、蜜屋と彼女の生徒の一部は、その場から失踪し、その行方は分かっていない。残った生徒は皆、ガイアメモリについては何も知らされていなかった。

「今までの…そして今回の事象から、今後のために一つの提案があります」

「おう、何だ?」

「徹。…私と、性交渉をしてください」

「…」

 徹は、ぴたりと立ち止まって彼女を見た。彼女は、あくまで無表情に彼を見返した。

「…悪い、よく聞こえなかった」

「私と性交渉、セックスをしてください」

「まっ…」

 さっと周囲を見回す。幸い、2人の会話を聞く者は、その場には見当たらない。
 彼はリンカの手を掴むと、偶然その場にあった喫茶店に引っ張り込んだ。

「…あの、このような公共の場では、流石に」

「ここでする無いだろ!」

 用意するのに時間がかかりそうなドリップコーヒーを注文し、一番奥の席に向かい合って座ると、徹は声を潜めて問うた。

「…その。一つ聞かせてくれ。それは…何でだ?」

「メモコーンの挙動が原因です」

「メモコーンの? …あ」

 徹は、すぐに思い至った。リンカが説明する。

「本来、セイバーメモリにもクエストメモリにも、自律行動するライブモードの想定はされていません。2つのメモリと、前に財団が入手したユニコーンメモリを部品に作られたのが、メモコーンです」

「ふむ」

「ライブモードの有用性は、風都の仮面ライダーで実証済みです。実際、メモコーンも有事の際には戦力としても役立ちました。が…」

「ユニコーン特有の、アレだな?」

「ええ。神話において一角獣は、高い戦闘力を持ち、また毒を浄化する力もあります。ですが、それと同時に、処女に懐くという性質もあります。彼は作られた目的の通り、窮地において私たちをサポートしてくれますが……これまでの挙動を見るに、明らかに優先順位があります」

「確かに…」

 アイドルドーパントと対峙した時。ティーチャードーパントに吸収された時。ピンチにも関わらずメモコーンが助けに来なかった。そんな時は、決まってリンカもピンチに陥っているときだった。

「メモコーンは、当然ガイアメモリとしてドライバーに装填されなければ、本領を発揮しません。私を優先したがために共倒れになるのは、避けなければならない。ならば、私を優先しないようにするしかありません。ですので、私の処女を、貴方に」

「わ、分かった分かった!」

 徹は慌てて彼女の言葉を止めた。店員が、コーヒーを持って近付いていたからだ。
 カップを置いて店員が去っていくのを確認すると、徹は長い息を吐いた。

「…言いたいことは分かった。だが…考えさせてくれ」

「なるべく短めにお願いします」

「あんた…」

 徹は、苦々しく彼女を見た。

「嫌じゃないのかよ、初めての相手が俺とか……それに、そんな格好してるんだから、てっきりそういうのが嫌いなのかと思ってた」

 リンカは美人だが、女性的とはとても言い難い。細身の白いパンツスーツスタイルで、黒い髪を後ろに撫で付けた姿は、寧ろ男装の麗人と言った風貌だ。

「生まれ持った肉体の形状から、女性的な部分を強調するより、男性的に振る舞ったほうが任務に有用だと判断しただけです。ですが、相手については…」

 彼女はふと口を閉じると、黙って天井を向き、机を見つめ、それから指先を見て…やがて、ぽつりと言った。

「…いえ。何度思考し直しても、貴方以外に相手が浮かびませんでした」

「…そ、そうか」

 そう言われると、急にドキドキしてきた。今までの人生に色恋沙汰が無かったわけでは無いのだが、このように今まで共闘してきた相手との関係性が、劇的に変わるかもしれないと言うのは、中々にスリリングな、心躍るような気分であった。改めて見ると、無表情で無愛想な彼女の顔が、急に輝いて見えた。

「もしかして、誰か操を立てる相手が?」

「えっ? いや、そんなのは」

「…兎ノ原美月、ですか」

「!? いやいやいや、そんなわけ…」

 慌てて否定しようとした、その時、通りから悲鳴が聞こえてきた。

「! 落ち着いて考える暇も無いってか。要は、あんたがピンチにならなきゃ良いんだろ? 取り敢えず、そこに隠れてろ!」

 ドライバーとメモリを取り出すと、徹は喫茶店を飛び出した。




「ねえ、お母様」

”どうしました、ミヅキ”

 ヴェールの向こうに、ミヅキは呼びかけた。

「あたしにも、おっぱい」

”ええ、良いですよ。こちらにいらっしゃい”

「あたしだけじゃなきゃ嫌。そこのクソガキは追い出して」

 ヴェールの向こうの影は、二人分。玉座に座るお母様に縋り付いて、ユウダイが乳を吸っているのだ。

”いけませんよ。この子も母の子ですから、みんな平等です”

「嫌だ!」

 ミヅキは叫ぶと、あの生意気な少年を引きずり降ろさんと、ヴェールに向かって突進した。が

”ミヅキ!”

「ぎゃっ!?」

 突然、巨大な拳が現れ、ミヅキの体を殴り飛ばした。

”母の子がいがみ合うことは許しません! 何度言えば分かるのですか!?”

「…お母様のバカっ!!」

 ミヅキは吐き捨てると、聖堂から走り去っていった。
 入れ替わるように、作業着姿の男が入ってきた。

「反抗期、ですな。子を愛すればこそ、子に苦しむこともあります」

”甲太…”

 ガイアメモリ工場長、真堂甲太は、持ってきた小さなケースを恭しく差し上げた。

「…新たなお母様の愛子のために、新たな力をご用意いたしました」

”ありがとうございます。…さあ、ユウダイ”

「はい、お母様」

 ヴェールを捲って、朝塚ユウダイが姿を現す。相変わらず服を着ていない彼の前で、真堂はケースを開けた。

 中には、一本のガイアメモリが鎮座していた。

「食い物にされる立場から一転、捕食者にまで上り詰めた。幸運な君には、このメモリが相応しい」

 メモリを手に取ると、ユウダイは目の前に掲げた。
 白い筐体に、花冠めいた『C』の文字。ガイアウィスパーが、弾むように自らの名を告げた。



『クローバー』






 悲鳴のもとへ駆けつけると、そこには一体の奇妙な怪人がいて、女を掴んで連れ去ろうとするところであった。

『おい、待て!』

「…うん?」

 振り向いた怪人。アメリカンコミックのヒーローのようにやたらマッチョな人型をしていて、右半身が黒、左半身が緑色に塗装されている。その腰には、歪ながらファンタジーのそれに似たドライバーらしきものが装着されていた。そもそも怪人は皆奇妙と言われればそうなのだが、この怪人は今までとは何かが違った。存在自体が、違和感なのだ。言うなれば、海の底を猫が平泳ぎしているような…

「おお、『お前も』仮面ライダーか!」

『お前も? 仮面ライダーは俺1人だ!』

 剣を抜き、斬りかかるファンタジー。

「いいや、俺も仮面ライダーだっ!」

 拳で応戦する、自称仮面ライダー。濁った赤の複眼が点滅する。
 剣がその肩口を切り裂いた時、ファンタジーは強い違和感を覚えた。

『軽すぎる…?』

 確かに刃が相手を捉えたはずなのに、斬った感触がしないのだ。その割に見た目のダメージは大きく、相手の肩には深い傷痕が付いていた。

「おおう、やるな…」

 傷痕が、瞬く間に塞がっていく。やはり、見た目ほどのダメージは無いようだ。

『やり辛い…』

 斬り結ぶ両者。しかし、まるで暖簾を殴っているかのように、手応えがない。
 とうとう業を煮やして、ファンタジーは魔術師にの姿に変わった。

『こいつはどうだっ!』

 魔法陣から噴き出す炎が、仮面ライダーもどきの体を包む。

「ぎゃあぁぁぁっ!? やめろっ、やめんかっ!」

『効いてるな。このまま…』

 ところがある瞬間、炎が幻のように消えてしまった。

「ふぃ〜、危ないところであった」

『こっ、この野郎…』

 平然と立つドーパントに、苛立つファンタジー。両手に魔法陣を出現させると

『喰らえぇ!!』

 ありったけの炎を、敵目掛けて撃ち込んだ。
 ドーパントは、迫りくる炎の弾幕を目の前に___

 ___横を、向いた。

『!?』

 ファンタジーは目を疑った。
 横を向いたドーパントの体には、『厚み』が無かった。切り抜いた紙のように薄っぺらな体を自在に折り曲げて、飛んでくる炎を巧みにすり抜けていく。

『な、何かおかしいぞ…?』

 ファンタジーが攻撃を止めると、ドーパントは近くにあった建物の壁に走り寄り、ぴったりと張り付いた。
 次の瞬間、その体から色が消え…溶け込むかのように、壁の中へと消えてしまった。



 北風町、博物交易第九貨物集積場四番倉庫。すなわち、旧ミュージアムのガイアメモリ製造工場にて。蜜屋と真堂が向かい合っていた。相変わらず平然と立つ真堂に、敵意の目を向ける蜜屋。その後ろでは、彼女の生徒たちが同様に色めき立って真堂を睨んでいた。

「…どういうことかしら」

「何がかね?」

「とぼけないで。ユウダイに、例の試作品を渡したのは、あなたでしょう」

「私が?」

 真堂は、驚いた顔をした。

「流石に、君やお母様以外に大事な試作品は渡さんよ。何かの間違いじゃないのか」

「目の前で、アレを使うところを見たわ。それならあの試作品は、一体誰に渡したの」

「君でなければ、お母様以外にいないさ。…ああ、実際、進捗を訊かれた時にお渡ししたんだった」

「…」

 蜜屋はしばらく、黙って真堂を睨みつけていたが、やがて溜め息を吐いた。

「…お母様、が」

「何かお考えの上でだろう。そう気を落とすな。生徒たちを匿うスペースくらいなら、用意しよう」

「ええ、感謝するわ」

 生徒たちを先導し、その場を立ち去ろうとする、蜜屋。去り際、彼女は質問した。

「…例のモノ、完成はまだなの?」

「あと少しさ。お母様から、『記憶』は全て頂いた。後は出力を調整するだけだ」

「早めにお願いね」

「もちろん」

 真堂は頷いた。




「や〜れやれだ…」

 落書きだらけの橋の下で、男は息を吐いた。よく見ると、柱にスプレーで書かれたような落書きは、全てが助けを求めるような人間の絵であった。

「風都を逃れてこの町に来たが、ここでも仮面ライダーかぁ。ぼくの『作品』は、いつになったら完成するやら…」

「いい方法、教えてあげよっか」

「…ほ〜う?」

 不意に投げかけられた声に、男は動じることなく応えた。
 歩いてきたのは、白いロリータ服の少女。男は、眼鏡をくいと正した。

「仮面ライダーには、どうしようもない弱点があるの。まあ、普通のドーパントからしたら寧ろ危ない相手なんだけど…君にとっては、弱点」

「面白いことを言うねぇ。君、さてはぼくの同類だな?」

「ま、そんなとこ」

「よし、乗った!」

 男は、笑顔で膝を叩いた。そうして、少女の肩に手を置くと、言った。

「じゃあ今からラーメン食いに行こう。…心配ない、ぼくが奢るからね」

『向き合うC/はりぼてのヒーロー』完

今夜はここまで




「『カートゥーン』のメモリ、でしょう」

「カートゥーン」

 『ばそ風北』で、蕎麦を注文した徹とリンカ。料理が届くのを待ちながら、リンカはおもむろに口を開いた。

「貴方の証言によると、そのドーパントの外見は風都の仮面ライダーに酷似しています。ですが、粗が目立つ。本物は配色が左右逆ですし、貴方の言うように筋肉質な体型ではありません」

「偽物に成りすますメモリじゃないのか」

「『ダミー』メモリは現存しています。ですが、体に厚みが無い、物理攻撃が通用しない、壁に溶け込むといった特徴はダミーにはありません。何より…」

「ほい、お蕎麦2人前」

「どうも。…カートゥーンメモリだとすれば、人を拉致しようとしていたことに説明がつきます」

「へえ? どうして」

「カートゥーンドーパントは、現実世界の他に、その名の通りアニメーションの世界を創り出すことができます。その世界の強度を保つには、アニメーション世界の住民、すなわち人間が必要です」

「なるほど、だから人を攫ってたってわけか。……にしても、ティーチャーに続いてまた異世界か」

 割り箸を割りながら、溜め息を吐く。

「ガイアメモリってのは、恐ろしいな。早くこの町から、滅ぼさないと」

「…ええ、そうですね」

 何故か少し躊躇って、リンカは頷いた。



 明け方。まだベッドで眠っている徹を尻目に、リンカは誰かと通話していた。

「…ええ、分かっています。ですが、今はまだ能力の全容が見えない」

 ちらちらと徹の方を窺いながら、努めて冷静に答える。

「財団の力で、制御できるか…或いは、コストに見合った効果を得られるか」

 会話しながら、彼女は硬く目を閉じた。そのまま二言三言、話していたが、やがて目を開くと、彼女はきっぱりと言った。

「…ええ。そうなった暁には……仮面ライダーは、もはや不要です。私の手で処分します」

 電話を切ると、リンカは目を閉じた。

「私、は…」

 徹の横たわるベッドに腰掛け、そっと彼の肩に触れる。

「…必要なことを、成すだけ」

 金色のネクタイを、緩める。上着を脱ぎ、シャツのボタンに手をかけて…

「…!」

 はっと、部屋の窓に駆け寄った。
 窓から見える道路に、人影が一つ。下から真っ直ぐに、リンカを見つめている。
 リンカは服を直すと、Xマグナムとガイアドライバー、そしてガイアメモリを鞄に詰めて外へ飛び出した。

「やあ、聞いた通りの金ネクタイだ」

「何の用でしょう」

 街灯の下で待ち受けていたのは、1人の中年男。白髪交じりの長髪に、銀縁の丸眼鏡をかけている。
 男はリンカの質問に答えず、続けた。

「だが…美しい。ぼくの『作品』に添えるに相応しい…!」



『カートゥーン』



「!!」

 すぐさま銃を抜き、男に向けて連射する。
 爆炎の中で、男の体は緑と黒のヒーローもどきへと変化していく。それと同時に、彼の体から実在感とでも言うべきものが抜け落ちていくのに、リンカは気付いた。

「…わざわざ墓穴に飛び込んできましたか」トゥルース

「まさか。君の墓穴を掘りに来たのさ」

 男が言った次の瞬間、その体がコンクリートの地面に吸い込まれるように消えた。と思いきや、今度はトゥルースドーパントの体が地面へと引きずり込まれていった。

「!?」

 見ると、足元にはいつの間にか、色鮮やかな町の絵が描かれていた。
 そこへ駆け寄ってくる、銀の影。

「! メモコーン、来ないで…」

 アニメーションの町へと消えていく、金の女神。後を追うように、銀の一角獣がその中へ飛び込んだ。




「…リンカ?」

 はっと、徹は目を覚ました。何か、嫌な予感がしたのだ。
 それと同時に、彼の耳に微かな声が届いた。



「メモコーン、来ないで…」



「!!」

 徹は跳ね起きると、枕元のドライバーとメモリを取り上げた。

『ファンタジー』

「変身!」

 勢いよく窓を開けると、騎士の姿に変身しながら外へと飛び降りた。

「リンカ! ……っ!?」

 着地して、その地面にパステルカラーの町が描かれているのに気付いた。その中には数人の人間が、助けを求めるように彷徨っている。そして、その中に

「リンカ!!」

 先日対峙したドーパントと向き合う、真実の女神の姿を見つけた。
 ファンタジーは助けに行こうと地面を踏みつけたが、反応がない。

「クソっ、どうすれば…」

「どうしようもない、かな〜」

「!!」

 顔を上げたファンタジー。その目の前に、悠々と姿を表した、ピンクのドレスの少女。

「ミヅキ…」

「逢いに来たよ、仮面ライダーさん」

 彼女は、片手でスカートの裾を小さくたくし上げた。白い太腿に、黒いコネクターが露わになる。

「一応訊くけど…あんな女は捨てて、あたしと一緒にお母様のところへ行こう?」

「断る!」

「…だよね〜」ラビット

 ラメやスパンコールで彩られた、ピンクのメモリが突き刺さる。ミヅキの体が靄に包まれると、薄桃色のウサギの怪人へと姿を変えた。
 その場で跳躍し、飛び蹴りを見舞うラビットドーパント。それを剣で受け止めると、ファンタジーは言った。

「悪いが、今はあんたに構ってる暇は無いんだ。リンカを、助けに行く!」

今夜はここまで

(更新が減って申し訳ない。仕事が忙しい時期なんです)

(ところで、ファンタジーの最終フォームってどんなのだと思います?)




「…!」

 気が付くと、リンカは色鮮やかな都市の真ん中に立っていた。左右には、ピンクや緑色のビル群。目の前には、例の仮面ライダーもどき。ビルの隙間を縫うように歩くのは、虚ろな目をした人間たち。そして空には、今までいた北風町の住宅街が、薄っすらと見えた。

「この町は、偽りです」

 冷静に、彼女は杖を掲げた。

「人々の魂で塗り固めた、空想の世界。偽りの産物」

「…ああ、当然さ」

 カートゥーンドーパントは、当然のように言い放った。

「…何ですって?」

「だって、カートゥーンとはそういうものだろう? 作り話、空想、想像。それこそが物語。……それこそが、物語の『真実』」

「!!」

 どぎつい街並みが、急に現実感を帯び始めた。

「それとも、ノンフィクション以外は認めないタチかね? そりゃあ損だ」

 明らかに偽物のようだったドーパントの姿が、いつか資料で見た本物の仮面ライダーに近付いていく。周囲に、旋風が吹き始めた。

「…関係ない!」

 虹色の翼を広げ、鋭い羽を飛ばす。
 ところが、ドーパントが片手を上げると、羽は風に巻き込まれて明後日の方向へと飛んで行ってしまった。

「この世界では、俺が真実だぜ」

『サイクロン』『トリガー』

 怪人の右半身が、黒から青色へと変わる。その手に青色の銃を握ると、高速の弾丸をトゥルースドーパントに向けて放った。

「! ああぁっ!?」

 避けきれず、胸に直撃した。凄まじいダメージに、彼女は膝を突いた。

「良いねぇ、仮面ライダーはこうでなくっちゃ!」

『ヒート』『トリガー』

「ヒーローが活躍する、そのための街。それこそがぼくの目指す『作品』! そのためには、やられる怪人も必要だ…」

『トリガー! マキシマムドライブ』

「このっ…偽り、です…この、街は…」

「言いたいだけ言え。ここでは、俺が真実だ!」

 銃口に、眩い炎の玉が膨れ上がっていく。そして、目の前の怪人に引導を渡すべく、引き金を引こうとした、その時

「…むっ!?」

 彼の手に銀色の影が激突し、銃を弾き飛ばしてしまった。

「! メモコーン…」

「何だよ、無粋な…」

 仮面ライダー目掛けて、さらなる突撃を仕掛けんとする一角獣。ところが、それにまた別の影が突っ込んできた。

「…まあ、こっちにもいるんだがね。『ファング』!」

『ファング』『ジョーカー』

 仮面ライダーが、白と黒の獰猛な姿へと変わる。
 怪人は、杖に縋ってどうにか立ち上がると、ふと空を見上げた。

「!」

 そこには、兎のドーパントと交戦する銀色の騎士の姿があった。
 怪人は叫んだ。

「メモコーン! 私は…私は、良いからあの人を」

「そうホイホイと行き来できるとでも?」

 仮面ライダーは怪人の胸ぐらを掴むと、無理やり立たせた。

『アームファング』

「さあ…ぼくの作品になれ!」




「ぐっ、がぁっ…」

 顎に膝蹴りを受け、仰向けに倒れるファンタジー。その上に馬乗りになると、ラビットドーパントは囁いた。

「ねぇ…一緒に来てよ。あたし、あなたのこと大好きだから」

『敵同士だったあんたから、そこまで言ってもらえて嬉しいよ。だが、これだけは譲れない…!』

 相手の腕を掴んで引き倒すと、逆に馬乗りになる。

『もう、戦うのは止めるんだ、ミヅキ! このまま心と体を傷付けて、何になる』

「お母様が、あたしを愛してくれる!」

 高く跳ね上げた脚が、ファンタジーの後頭部を直撃した。その体が前のめりに吹き飛ばされ、転がった。

『ぐあっ!?』

「…あなたも、愛してもらえる。一緒に」

『断る!!』

 体制を立て直すと、素手で殴りかかった。
 ところがその時、何かに引っ張られるように、彼の動きが止まった。

『…?』

 見ると、彼の足首と腕に、緑色の蔦のようなものが絡みついている。

「!」

 兎のドーパントが、はっと後ろを向いた。その視線を追って、気付いた。

『!! ゆ、ユウダイ君…?』

「…こんにちは、仮面ライダー」

 新たな乱入者…それは、ティーチャードーパントに挑んで死んだはずの、朝塚ユウダイであった。
 彼はラビットドーパントの方を見ると、呆れたような声で言った。

「何遊んでんの。さっさと殺して、お母様に産み直してもらえばいいのに」

「うるさい…!」

 憎々しげに唸るウサギ。ユウダイは口元を歪めると…懐から、純白のガイアメモリを取り出した。

『!? な、何をする気だ!』

「同じお母様の子として、お姉ちゃんに加勢するんだ」



『クローバー』



『! やめろ! 君のお母さんは、そんなこと』

「お母さん? 僕の親は、お母様だけだ」

 純白のメモリを、喉に突き立てる。
 その体が、緑色の草と、白い花に覆われていく。
 それと同時に、ファンタジーの体まで緑の草に包まれていった。

『っ、マズい…』

 魔術師の姿になり、炎で草を焼き払う。しかし、それ以上のスピードで茎が伸び、彼の体を締め上げていく。
 その光景を前に、ラビットドーパント…ミヅキは…

「…お姉ちゃんって、言うな!」

 ユウダイの方へ、飛び蹴りを仕掛けた。

「…」

 彼が片手を上げると、無数の草が伸び、矢の如き蹴りを柔らかく受け止めてしまった。

「お姉ちゃん、反抗期は止めにしよう?」

「クソがっ…この、雑草野郎…」

 悪態を吐きながら、纏わりつく草…シロツメクサの茎と葉に噛みつき、食い千切る。
 内輪揉めを始める2人を前に、ファンタジーはどうにか拘束を脱すると、足元に目をやった。

『!!』

 それを見た瞬間。考えるより先に彼は、白いマントをはためかせ、パステルカラーのアニメーションの世界へと、飛び込んでいった。




「…」

 金の装飾は削り落とされ、白の長衣は切り裂かれ、あちこちから青い血が流れる。白と黒の仮面ライダーは、執拗に腕の刃で怪人を斬りつける。彼の足元には、小さな一角獣が力尽きて倒れていた。
 薄れゆく意識の中で、彼女はぼんやりと考えた。

(…ここで、終われば…彼を、裏切らずに済む…)

「これで、トドメだ!」

『ファング! マキシマムドライブ』

 踵に、白い刃が出現する。そのまま飛び上がり、瀕死の怪人に、正義のキックを……



『……おい』



「…っ!?」

 高速回転するキックは、崩れ落ちる怪人ではなく、突然立ちはだかった銀色の騎士を捉えた。

「っ、このままっ…」

『…』

 鋭い刃が、騎士の鎧を砕き、剥がしていく。
 ___その下にある、漆黒の獣が、姿を現す。騎士でも魔術師でもない、お伽噺の……怪物。

「! な、何だ、その姿は」

「…駄目…とお、る…」



『グウゥゥ・・・』



 棘と刃に覆われた、禍々しい黒のボディ。深紅の複眼の下で、乱杭歯が軋んだ。

『ア゛ア゛ァァァァアアァッッ!!!』

 獣が、吠えた。彼は地面を蹴ると、凄まじい勢いで仮面ライダーに襲いかかった。

「ぐわっ!?」

 鋭い爪が、仮面ライダーの体を切り裂いた。咄嗟に腕の刃で応戦するが、その刃まで切り落とされた。

「何だっ、何だこれはっ!?」

「徹…徹っ! ……メモコーン!!」

 リンカの叫びに呼応するように、メモコーンが再び立ち上がった。カートゥーンドーパントを組み敷いて、一方的に蹂躙するファンタジーの元へ駆けつけると、その頭に頭突きを喰らわせた。

『グァッ! ……っ、はっ』

 彼の動きが止まった。一瞬、彼は戸惑うように周囲を見回した。そして足元に寄ってきた一角獣に気づくと、すぐにそれを拾い上げた。脚を折り畳むと……
 ……胴体を、二つに割った。

「!」

 中から現れたのは、黄色いガイアメモリ。噛み合う5本の牙が『W』の字を形作っている。




『ワイルド』



「ファンタジーの…第三の姿…!」

『超…変身!!』

 ドライバーに装填し、変形させる。メモコーンの体が、咆哮する竜の頭部となってドライバーと結合する。

『ワイルド』

『おお…うおおおぉぉぉぉ!!!』

 黒い体に、黄色のたてがみが生える。全身に青と赤のラインが走り、流麗な装甲を形成していく。
 ファンタジーが、言った。

『お前の身勝手な夢…物語は、俺が止める!』

「馬鹿な、ここは俺の世界だ! ここでは…」

『それは、どうかな』

 彼が言った瞬間、周囲の景色が一変した。
 鮮やかなビル群は消え、一面の草原に。標識の代わりに巨木が立ち、当てもなく走る車は自由な獣立ちへと変化した。そして、虚ろな目で彷徨う人々は、我に返ったように立ち止まり、互いを見つめ合った。
 その、無数の視線が、世界の中心に注がれる。
 そこにいたのは、歪なコスチュームを来た怪人と、野性的な装甲を纏ったヒーロー。



「が…頑張れ!」

「仮面ライダー! 頑張れーっ!」

「やっつけろー!」



「馬鹿な! こんなこと、ここは俺の…」

『お前だけの世界じゃない。ここにいる、全ての人たち、皆の世界だ! そして…』

 竜の上顎を押し、三度、噛み合わせる。

『ワイルド! マキシマムドライブ』

『この俺が…仮面ライダーファンタジーがいる限り…より強い想像が、より強い願いが勝つ!!』

 青と赤の装甲が、右足に収束していく。地面を蹴って高く跳び上がると、装甲は一本の巨大な刃となった。

『ワイルド・バイト!!』

 空中で右足を高く振り上げ…そして、振り下ろした。
 巨大な牙を纏った踵落としが、ドーパントの体を真っ二つに切り裂いた。

「あ…が…ぐわあああぁぁぁぁっっっ!!!」

 爆散するドーパント。
 次の瞬間、周囲は元の北風町に戻り、倒れ伏す1人の男と、解放された大勢の人々が残された。

『…リンカ』

「…」

 ファンタジーは、倒れて動かない女の体を抱き上げると…地面を蹴り、どこかへと去ってしまったのであった。

『向き合うC/願いの世界』完

アバンタイトルの前に設定投下します

『カートゥーンドーパント』

 『漫画』の記憶を内包するガイアメモリで、正体不明のストリート画家が変身したドーパント。ファンタジー同様、変身後の姿は変身者の意思によって変わるが、彼は以前自分と戦い、風都から追放した仮面ライダーの姿を模倣している。しかしその配色は左右逆で、体型もかなりマッシブになっており、ドライバーの形も歪。
 現実世界では薄紙を切り抜いたようなペラペラの体で行動しているが、これは本体から投影された像に過ぎず、どれだけ傷付けてもダメージを与えることはできない。本体は、後述するアニメーション世界の中に存在している。
 このドーパントは、平面に絵を描くことで想像の世界を創り出すことができる。描いただけでは本人が隠れる程度のスペースしか確保できないが、人を攫い、その世界に引きずり込んで『住民』とすることで、世界の広さと強固さを増すことができる。また、その世界においてはドーパントの姿は自身の想像により近くなり、更に力もより強くなる。この世界においては、彼は以前戦った仮面ライダーの各フォームと必殺技まで再現してみせた。つまり彼は、以前ファングジョーカーの必殺技ファングストライザーを喰らったことになるが、あくまで前述の虚像であったため生還することができた。もしエクストリームまで出されていたら、彼は風都で尽きていただろう。
 引きずり込んだアニメーション世界の中で、空想、作り話こそがカートゥーンの真実と宣言することで、トゥルースドーパントの一切の干渉を断ち切り、一方的に優位に立つことができた。しかし乱入してきたファンタジーによって、同系統の『空想』の力を叩き込まれたことで世界の強度が揺らいだ。そして、攫われた人々の声援を受けたファンタジーの必殺技によって、彼と彼の世界は滅ぼされたのであった。
 メモリはパステルカラー迷彩という変わった配色。漫画のコマを繋ぎ合わせたような線で『C』と書かれている。

『ワイルドメモリ/仮面ライダーファンタジー・ワイルド』

 『野生』の記憶を内包する、次世代型ガイアメモリ。ファンタジーが後述する暴走態になったときにメモコーンの胴体から出現するが、普段は存在しないメモリ。
 『空想』の記憶を持つファンタジーメモリであるが、ドライバーを介して毒性を除去しているために騎士や魔術師の姿となっているだけで、ドーパントとしての本来の姿は、棘や刃に覆われた黒い体の、禍々しい魔物である。激情に身を任せたファンタジーは装甲が崩壊し、この姿になって暴走してしまう。普段の姿の数倍の膂力や敏捷性を発揮するが、理性は失われ、ただ怒りに任せて目に見える全てを破壊しにかかる怪物と成り果ててしまう。
 しかし、ドライバーにワイルドメモリを装填することで、ファンタジーは理性を取り戻すことができる。これこそが、仮面ライダーファンタジー・ワイルドである。
 元の黒いボディの上から、青と赤の帯が鎧のように体の周りを走る。この帯は必要に応じて形を変え、盾になったり武器になったりする。そのため暴走態からややスピードは落ちるが、怪力は顕在で、かつ理性があるため荒々しくも効率的な戦闘を行うことができる。まさに、ファンタジーにとってのワイルドカード。『切り札』である。
 メモリの色は黄色。牙を噛み合せたような意匠で『W』と書かれている。このメモリをロストドライバーに装填して変形させることで、咆哮する竜の頭部のような形になる。



 なお、本編登場はこの一回きり。電王のウィングフォームやフォーゼのロケットステイツのような、いわゆる劇場版限定フォーム。ファンタジー・ワイルドの活躍が見たいお友達は、この夏、映画館へ急げ!




 どこを進んだのだろう。自分でも分からないまま、気が付くと彼は、町の北にある、山の頂上近くにいた。
 リンカの体をそっと下ろすと、ドライバーからメモリを外し、変身を解除する。不思議なことにワイルドメモリは、抜いた途端に光になって消え、メモコーンは独りでに元の形に戻って走り去った。野生の装甲が解けた瞬間、彼はその場に膝を突いた。

「徹…」

「…いや、大丈夫だ」

 徹は、弱々しく微笑んだ。それを心配そうに見つめるリンカも、傷だらけであった。
 見上げると、朝日が昇るところであった。

「…ああ、今日もいい天気だ」

 木漏れ日に目を細めながら、彼は息を吐いた。その隣に、リンカがそっと寄り添った。

「ガキの頃、夏休みにな。朝早くに家を抜け出して、こうして山に登って…カブトムシを捕まえたり、走り回ったり…こうして、空を見上げたり。雨が降っても、木に遮られて思ったほど濡れないし…」

「…」

「俺は…この町が好きなんだ。でかい風都の隣で、いろんな苦労をしながらも俺たちを育ててくれた、優しい母親のような、この町が」

「母親…ですか」

「ああ」

 徹は、真面目に頷いた。

「だから、勝手に母を名乗って、この町の人たちを傷付ける奴を、俺は許せない」

「そういうことですか。…」

 沈黙。やがてリンカは、彼に体を預けるように寄りかかった。

「私は…可能な限り、それを支援したいと思っています」

「何だよ、煮え切らないな」

 徹は苦笑した。

「…」

「…リンカ?」

 呼びかける徹。リンカは、しばらく黙って彼の肩に寄り添っていたが、不意に彼の首に両腕を回して抱き寄せた。

「おい…朝だぞ?」

「いつ次の襲撃があるか、分かりませんから」

 彼の胸に縋り、顔を見上げる。撫で付けた髪はすっかり乱れて、額や頬にかかる毛先が妙に艶かしく見えた。

「…本当に、するのか」

「私は、それを希望します」

「そうか。…分かった」

 徹は頷くと、彼女の首を抱き寄せた。
 木漏れ日の下で、2人は初めて、一つになった。



「な、何なんだね君は!?」

 工場の入り口に立って、真堂は叫んだ。彼の目の前には、白い詰め襟の服を着た、がたいの良い男がニヤニヤしながら立っていた。

「あ? てめえらの新しいご主人さまだよ」

「馬鹿なことを。お母様を差し置いて、この私が服従するものか!」アイソポッド!

 赤褐色のガイアメモリを取り出した真堂。白い服の男は、相変わらずニヤニヤしたまま、懐から濃緑色のメモリと、そしてロストドライバーを取り出した。

「良いぜ。ペットの躾は、飼い主の最初の仕事だ」

 ドライバーを装着し、メモリを掲げてみせる。

「…生物種としての、格の違いを見せてやる」

言い忘れてた

今夜はここまで

「あんたが、バチカゼの元ベーシストのタラ、本名を足立宝だね」

 植木の問いかけに、足立はおずおずと頷いた。
 楽器のドーパントが出現したオフィスビルの6階には、ある音楽プロダクションがあった。バチカゼ解散後、足立は音楽プロデューサーとして頭角を現し、現在はそのプロダクションで働いているのであった。しかしドーパントが現れた時、幸運にも彼女は仕事で外出していて不在だった。

「プロダクションを襲った怪物は、あんたの名を呼んでたそうだ。何か、心当たりは無いか?」

「…」

 足立は黙って手元を見つめると、やがておもむろにポケットに手を入れ、スマートフォンを取り出した。

「…2日前、知らないアドレスからメールが来ました」

 画面には、『不明な差出人』から届いた、一通の電子メールが表示されていた。



”バチカゼは再結成する。あなたが最後”



「…バチカゼは、もう終わった存在なのに。この人は、何度も何度も再結成だ、復活だ、会いに来いって…」

「そして無視していたら、とうとう向こうから?」

「そういうことだと、思います」

 そこへ、坂間ともう一人の若い警官が入ってきた。

「失礼します」

「おう、どうだった」

「既に死亡届の出ている成瀬以外の、元メンバーの行方を追ってますが…最後に自宅近くでドラムの比高麻央が目撃されたのを最後に、全員消息を絶っています」

「そうか…」

「…」

 黙り込む足立に、植木は声をかけた。

「…率直に言って、犯人はバンドの元メンバーの誰かだろう。改めて訊くが、何か心当たりは無いか」

「…別に。強いて言うなら、不思議です」

「不思議?」

「だって…バチカゼがばらばらになって、もう10年近いのに…何で今更、よりを戻そうっての? あんなに取り返しのつかないことになったのに、どうして…!」

 拳を震わせる足立。植木と坂間は、何も言えずに顔を見合わせた。



 その頃。警察署の会議室では、徹とリンカ、そして衣麻理の3人が、スクリーンでライブのDVDを鑑賞していた。無論、バチカゼのライブである。衣麻理が実際に客として参加した回のもので、後日僅かに販売されたDVDも、彼女が入手したものであった。

「確かに、ボーカルは友長真澄に似ていますね」

 マイクを握る女を凝視しながら、リンカが言った。個人制作らしく画質の荒い映像であったが、確かにボーカルのシノは、愛巣会で会った友長の若い頃といった感じで、ほとんど同一人物のように見えた。

「…デビューしてから5年もしない内に、どこかのレーベルからメジャーデビューの話は来てたらしいんですよ」

 じっとスクリーンを見つめながら、衣麻理がぽつりと言った。

「でも…デビューさせようとしていたのは、バチカゼじゃなくて、シノ個人だったんです」

「それで、メンバーとの間に軋轢が?」

「あくまで、噂ですけど…」

 画面から目を離さない衣麻理。徹も、彼女の横でスクリーンに目を凝らす。そのスカウトは、5人の中で彼女にだけ、輝く何かを見つけたのだろうか…
 バンドの歌をバックに、一瞬だけ観客席が映った。

「…! 止めて!」

 突然、リンカが叫んだ。

「えっ? あっ、はい…」

「10秒巻き戻して。…」

 再び観客席が映る。ぐるりと見回すカメラワークの途中で、リンカが映像を止めた。

「ここ、最前列に」

「うん? ……あっ!」

 彼女の指差す先を見て、徹は驚愕した。

「何で…何で、九頭がここに…!?」

 2人の注目する先。観客席の最前列には、サビのメロディに合わせて手を振る、元ガイアメモリ密売人の、九頭英生の姿が映っていた。




「あんたもロックンロールを聴くんだな」

 部屋に入ってくるや、白い詰襟服の男は蜜屋の座る椅子に歩み寄り、後ろから彼女の肩に腕を回した。この馴れ馴れしい髭面の偉丈夫に、蜜屋は僅かに眉をひそめるものの、あくまで穏やかな声で応えた。

「ええ。生徒たちの嗜好は把握しておくべきだもの」

「生徒、ねえ。あんた自身はどうなんだよ」

「…別に。興味ないわ」

「ははっ、そうかよ」

 男は笑うと、肩に回した手を伸ばし、彼女の胸を掴んだ。

「…悪いことは言わないわ。もう少し、若い娘にしておきなさい」

「俺はな、強い女が好きなんだよ。俺より強い女なら、なおさら良い」

「だったら…」

 そこへ、真堂が乱暴にドアを開けて入ってきた。

「おい、お前!」

「…ンだよ、騒がしいなコータ」

「ンだよじゃない! 試作品のメモリを勝手に持ち出して…お母様に知れたら、どうなるか」

「良いじゃねえか。あんたらの大事なお母様とやらを、湿っぽい聖堂から引きずり出せたら、大したもんじゃねえか」

「き、貴様…」

 いきり立つ真堂。男は退屈そうに言う。

「大体、あんなのはオマケだ。…『X』のメモリは、いつになったら完成する?」

「…あと、少しだ」

「期待してるぜ」

 全く心の無い口調。真堂は唇を噛んだ。

今夜はここまで

蜜屋先生のエロって需要ある…?




 捜査は難航を極めていた。最後に目撃されたのはドラムのママオだが、その前日にはリードギターのエナが、さらにその日の早朝には、ギターコーラスのサヤがそれぞれ別の場所で目撃されていたことが判明した。ママオがギターの2人を順に呼び出して襲ったと考えるのは簡単だが、同じことはその2人に対しても言える。ほとんど同時期に目撃されたために、3人への疑いが同じレベルになってしまったのだ。
 失踪する前の行動が少しでも掴めないか。そう思った植木と徹は、リードギターのエナ、本名を出水恵那の夫、出水涼に話を聞いていた。

「本当に、突然でした」

 出水は、暗い顔で答えた。

「でも、言われてみれば…いなくなる直前に、何か携帯に着信があったような気もします。ただ、妻とは言え他人の携帯を覗くのはマナー違反ですから」

「…失礼ですが、奥様とはどちらで出会われたのですか?」

「ああ。彼女も僕も、音楽の仕事をしてまして。レコーディングのスタジオでばったり会って、それ以来」

 彼は、部屋の壁に張られた写真に目を遣った。そこには、ギターを提げたエナと、トランペットを持った出水の姿が映っていた。



「出水恵那はシロだろうか」

 独り言のように、植木が零した。徹は首を横に振った。

「そう考えるのは早いと思います。そもそも、出水涼が共犯である可能性もあります」

「彼が?」

「ええ。…調べた所によると、2人はバチカゼの解散前には既に交際しています。10年近く連れ添った相手が急にいなくなったにしては、動揺が小さい気がします」

「いなくなることが、彼の中で既に織り込み済みだった、と?」

「ええ。こうやって口に出すと、別の可能性まで出てきちゃいますね」

「当てようか。…出水が別のメンバーと通じていて、協力して恵那を陥れた」

 徹は頷いた。頷いておいて、溜め息を吐いた。

「…あくまで、憶測です。と言うより、妄想に近い」

「とにかく、今は足立の周辺を警戒した方が良いだろうな」

「私もそう思います」

 現在、足立は本人の了承のもと少し離れたホテルに移ってもらい、そこで数人の警官による護衛を受けている。それとは別に、足立の自宅の方にはリンカが控えていて、ドーパントが襲撃してくるのを待っていた。




 ところがその翌日、植木の携帯に届いたのは、ホテルで警護にあたる警官からの救助要請だった。

”ど、ドーパント、が…”

「何だと!? リンカさんから何か連絡は?」

”いえ…敵は直接、こちらに来たものと…うわあっ!”

「おいっ! マルタイは無事なのか?」

”坂間さんが、連れて逃げて…”

「分かった。君は身の安全を確保して、可能なら周囲の人の避難誘導を頼む」

 植木は部下と共にパトカーに飛び乗ると、サイレンを鳴らして走り出した。
 走り出して数分後、その隣を銀色のバイクが猛スピードで駆け抜けていった。



 足立の自宅から十分離れた場所にある、古びたビジネスホテル。その入口は、粉々に破壊されていた。

『遅かったか…!』

 既にセイバーメモリを装填し、蒼と銀の騎士の姿となったファンタジーは、足早にホテルの中へと進んだ。
 例によって、ホテルの中ではドーパントの声が壁を震わせながら響き渡っていた。

「タラ、逃げないでよ、タラー!」

『…! 坂間刑事!』

 エントランスに、坂間が倒れているのに気付き、彼は駆け寄った。

『大丈夫ですか?!』

「…っ、足立が、まだ上に…ここまで逃げてきたは良いが、見つかってしまった…足立は追いかけられて、咄嗟に階段を上って、行ってしまった」

『すぐ行きます。ここで休んでてください』

 ひしゃげた非常階段のドアをくぐると、ファンタジーは上の階を目指した。




「やっと見つけた…」

 廊下の突き当りで、追い詰められた足立に、楽器のドーパントが迫る。

「来ないで…来ないでよ」

「これで、皆でシノを迎えられるね。さあ、もう一度一つに」

『そこまでだ!!』

 そこへ、仮面ライダーが現れた。彼は、驚いて振り返ったドーパント目掛けて、渾身の飛び蹴りを見舞った。

「きゃあっ!?」

『何でここが分かったのか知らないが…とにかく、倒す!』

 剣を構えるファンタジー。ドーパントが金切り声を上げる。

「邪魔しないで!! 私たちの夢を…」

「あんた1人の夢だ!!」

 突然、足立が叫んだ。

「シノはあたしたちを裏切った。そして死んだ! バチカゼはばらばらになって、それぞれが自分の道を見つけたのに。どうして、今更…」

「シノは生きてるわ。そして、バチカゼはまた蘇る…!」

『蘇るってんなら、まっとうに再結成してくれ! ガイアメモリなんて使うんじゃない!』

 ファンタジーは剣を振り上げると、ドーパントに斬りつけた。ドーパントも、シンバルの刃で応戦する。

『足立さん、今のうちに逃げるんだ!』

「逃さない!」

 ドーパントの足から無数のケーブルが伸び、足立の体に巻き付いた。

「っ、放してっ」

『!』

 ファンタジーは、両手で剣を大きく振りかぶった。

『ジャスティセイバー・雷切!!』

 次の瞬間、刀身を白い電光が走った。雷の刃で、足立に纏わりつくケーブルを一太刀に切断すると、返す刀でドーパントを斬った。

「ぐぅっ…!」

『せいっ、たあっ! …はあぁっ!!』

「ぐあっ」

 袈裟に斬りつけた刃が、ドーパントの肩口を深く切り裂く。致命的な一撃に、とうとうドーパントが膝を突いた。

『トドメだ!』セイバー! マキシマムドライブ

 蒼い閃光が、ドーパントに迫る。ドーパントは、膝立ちのまま体をファンタジーに向けると…
 突然、胴体のスピーカーから甲高い音が鳴り響いた。

『くっ、ああぁっ!?』

 剣閃が逸れる。その隙にドーパントは素早くケーブルを伸ばし、足立の体を捉えて引き寄せた。

『! やっ、やめろっ!』

「嫌っ! 放してっ!」

 メモリを換える暇もない。ファンタジーは咄嗟に剣を振りかざしたが、足立の体を盾にされてしまい、動けない。

「あ、あぁ…」

 彼女の体が、ケーブルの中に呑み込まれていく。やがて…ドーパントの背中から、もう一本のギターネックが生えてきた。しかし、両肩の二本と違い、弦は4本だ。

『…このぉっ!!』

 耳をつんざく高音に耐えながら、剣を構えるファンタジー。その目の前で、ドーパントは突然、変身を解除した。

『!?』

「…」

 そこに立っていたのは、先程ドーパントに取り込まれたはずの、足立自身であった。

『どういうことだ…?』

「これで、揃った…」

 熱に浮かされたように、足立が言う。次の瞬間、その姿がゆらゆらと波打ち、そして消えた。

「力野さん! …こ、これは」

「…逃げられました」

 変身を解除しながら、徹は悔しげに言った。

「ですが…犯人は分かりました」




 邸宅の前にタクシーを停めると、出水涼は車を降りた。その顔には、隠しきれない興奮の色が浮かんでいた。

「ふ、ふふ…これで、ようやく…」

「出水、涼さん」

 突然、背後から飛んできた声に、彼ははっと振り返った。
 そこには、腕組みする植木と、徹が立っていた。

「…何ですか」

「あなたの奥様を攫ったと思われる犯人…あなたなら、お分かりでしょう?」

「何の話です。そんなの、こっちが知りたいくらいだ」

「あのドーパントには」

 徹が、一歩前に進み出た。

「取り込んだ相手の得意とする楽器を、自分の体に出現させて利用するという特徴があった。実際、ベーシストの足立宝が取り込まれた後、奴の体からはベースのネックが生えてきた」

「…」

 強張った顔で、2人を睨む出水。徹は続ける。

「だが…追い詰められたドーパントが発した音は、今までに取り込んだメンバー…ギター、ドラム、そのどれとも違っていた。……あれは、トランペットの音だった」

「!」

「出水さん、あんた、トランペット奏者なんだろう?」

 突然、植木がぶっきらぼうな口調になって言った。

「失踪したメンバーと近いところにいながら、自分は狙われず…そして、ドーパントはバンドにいないはずのトランペットの音を発した。つまり、あの中には既に誰かトランペット奏者が取り込まれていた!」

「本当にバチカゼの再結成だけが望みなら、トランペットは必要なかったはずだ。なのに何故、ドーパントはトランペットまで取り込んだのか? …他ならぬトランペット奏者、お前がドーパントだからだ!」

 出水を指差し、断ずる徹。出水は…

「…馬鹿な。さっきから聞いていれば、まるで自分が実際に見て、聞いたかのような言い方。恵那や、他の人たちが襲われるところを、君たちは見たのか?」

「見たさ」ファンタジー

「!?」

 徹は、躊躇なくガイアメモリを掲げてみせた。それが、つい先程交戦した仮面ライダーのメモリだと分かった瞬間、出水の顔に狼狽が浮かんだ。

「…そういう、ことか!」

 彼はジャケットの懐に手を入れると、金色のガイアメモリを取り出した。筐体には、音符の載った五線で『O』と書かれている。

「! ゴールドメモリ…!?」




『オーケストラ』



「これが…僕の夢だ…!」

「変身!」

 メモリを耳に挿す出水。徹は変身すると、セイバーメモリを装填した。

『いくぞ!』

「邪魔なんてさせない…させないわ!」

 ドーパントが、数人分の女の声を重ねたような声で叫んだ。
 夜の高級住宅街で、激しい戦闘が始まった。

「バチカゼは…私の、夢だった!」

『お前も、ファンだったってことか』

 バスドラムの拳を躱し、剣を突き出す。

「初めて見た時から…輝くものを感じてた! 一緒に、ステージに立ちたいって思ってた!」

『だったら何故ガイアメモリに手を出した! 恵那さんを説得すれば良かったのに』

「そんなのは無理よ! シノはもう死んだ…だから、諦めてた。でもあの日、神の力を得た!」

 高速回転するシンバルが、ファンタジーの胸元目掛けて飛んでくる。それを弾き飛ばすと、彼は呻いた。

『お前も『神』か…!』

「そして今、メンバーが揃った! 今なら!」

 オーケストラドーパントが、後ろへ下がる。それから両腕を広げると、スピーカーから大音量のサウンドが鳴り響いた。
 それは、先日観たビデオに収録されていた、バチカゼの曲であった。

『もっと…やり方があったはずだろ!』

 ファンタジーは、剣を高く掲げた。その刀身を、白い稲妻が走る。

『ジャスティセイバー…雷切!!』

 振り下ろした切っ先から雷が迸り、ドーパントを襲う。が

「はははははっ!! もう効かない、効かないわ!!」

 足のケーブルから電気が吸収され、音量が更に増していく。

『クソっ、駄目か…』



「おい、うるさいぞ!」

「今何時だと思ってるの?!」



 そこへ、いくつかの怒声が飛んできた。見ると、数件の民家から住民が顔を出している。どうやら、迷惑なパフォーマーがいると思われたらしい。

『危ない!』

「…折角だから、コーラス隊に加わってもらいましょうか」

 ドーパントが言った瞬間、足のケーブルが四方八方へと伸びて、住民を捕らえた。そのまま素早く引き寄せ、体に取り込んでしまった。

『やめっ…』

「ふふふふ…シノには敵わないけど、数合わせくらいなら…」

 遂に、ドーパントの頭が生えてきた。黒いマイクのような頭部には、顔がなく、大きく開かれた口だけが無数に付いていた。

「さあ…シノに会いに行きましょ!」

 大音量で音楽を流しながら、ドーパントが走り出した。




 すれ違う人々を吸収しながら、逃走するドーパント。それをバイクで追跡するファンタジー。人間を取り込むたびにドーパントには口が増え、身体もどんどん大きくなっていく。
 やがて住宅街を抜け、繁華街に出る頃には、全長数メートルを超える巨大な怪物になっていた。

「シノ! シノ! どこにいるの! 私たちはここよ!!」

『止まれ、止まれーっ!』

 クエストメモリに換装し、杖を振りかざす。次々に火の玉をぶつけるが、怪物は止まらない。
 何か、手はないのか。絶望的な気持ちでハンドルを握っていたその時

「…?」

 突然、オーケストラドーパントが歩みを止めた。

『な、何が…』

 立ち止まり、見つめる先には、1人の男が立っていた。



「…貴方を、生かしておくわけにはいきません!」



『あれは…九頭?』

 逃げ惑う人々の真ん中に立つのは、怒りに燃えた顔の九頭英生であった。その両脇には、ミヅキとユウダイも控えている。

「残しておいてはならない、悪夢の残渣…兄弟たち、あれをお母様の目に触れさせてはなりませんよ!」マスカレイド

「は〜い」ラビット

「頑張ろうね、お姉ちゃん」クローバー

 3人は各々メモリを挿し、ドーパントに変身した。その間際、ミヅキがファンタジーに気付いて、笑顔で手を振った。それから一転、緑と白に包まれていくユウダイに向かって舌打ちした。
 白い花冠を被った、天使のような少年…クローバードーパントが両手をかざすと、オーケストラの体にシロツメクサが何重にも巻き付いた。そこへ、ラビットドーパントが飛び蹴りを見舞った。

「ぐうぅっ…」

 呻くオーケストラドーパント。シンバルやタムの腕を振り回しながら、多重コーラスを響かせた。

「うるっさい! この音痴!」

 キックの反動で飛び上がり、今度は踵落とし。動けない敵を、軽やかに傷付けていく。
 そして遂に、巨獣が頭を地に伏せた。すかさずマスカレイドドーパントが、どこからともなく取り出したロケット弾を撃ち込む。

「死ね、死ね! 無かった過去です! 貴方達は…」

『おい待て! それ以上やったら死ぬぞ!』セイバー! マキシマムドライブ

 トドメを刺される前に、メモリブレイクだけでもしようと剣を構え、バイクで迫る。ところが

『…ぐわあぁっ!?』

 突然、正面から何かが激突し、ファンタジーはバイクごと跳ね飛ばされた。
 次の瞬間、辺りが白い光に包まれた。

「! いけません…」

 懇願する九頭。その隣に光が収束した。そして、その中から現れたのは…

『はあっ……っ! 友長、真澄…』



「…」



 友長は一瞬、虚ろな目で目の前の怪物を眺めた。が、すぐに異様な光が灯った。

「…ああ。そう。そうなのね」

「シノ! シノ! やっと会えた!!」

 たちまち息を吹き返す、オーケストラドーパント。シロツメクサの拘束を引きちぎり、連撃するラビットドーパントをはたき落とした。

「ぐえっ」

「さあ、こっちに来て…バチカゼを、もう一度!」

 呼びかける、かつての友。友長真澄、いや、成瀬ヨシノは、穏やかな笑みを浮かべると…




「…あなたも、『母』が愛しましょう」


『…今、何て言った?』

 呟いたその時、成瀬の体から白い光が迸った。溶け出すようにその体が霞み…やがて、そこに立っていたのは、マリア像めいた白い肌の、美しい女のドーパントであった。

「なりません…『お母様』!」

 引き留めようとする九頭。しかし成瀬…『お母様』は構わず、片手を軽く突き出した。

「ぐあああぁっぁっっ!?!」

 たったそれだけで、巨大なオーケストラドーパントの体が空高く打ち上げられた。
 落ちてくるドーパント。『お母様』が両腕を広げると、その着地点に巨大な裂け目が開いた。

「さあ…母の胎内へ、おかえりなさい」

「嫌、あ、あああっ…」

 蒸気を発する巨大な穴に、ドーパントが呑み込まれていく。助けを求めるように突き出したトランペットのベルが、根本からぼっきりと折れて、消えた。

『…なんてこった』

 呆然と、ファンタジーは呟いた。出水やバチカゼのメンバーだけではない。道中で取り込まれた多くの人々ごと、あの穴に消えてしまった。

「また会いましたね、仮面ライダー」

『お前が…お母様…』

 ファンタジーは、剣を構えた。
 お母様は動じない。

「あのドーパントが心配なら、それは不要ですよ。あの子達は、母の中で再び生まれる時を待っています」

『! じゃあ、九頭が今も生きているのも』

「お母様の愛あってのことです」

 マスカレイドドーパントが、2人の間に割って入った。

「お母様は、敵である貴方にも愛を注いでくださるのです。跪きなさい。それだけが、貴方の」

『…九頭』

 ファンタジーは、彼の言葉を遮った。

『お前…バチカゼのファンだったんだな』

「やめなさい! その名を出すな! その名を、お母様に聞かせるな…」

「英生」

『成瀬ヨシノにメモリを与えたのは、お前なんだろ? …彼女を、愛していたのか。彼女に、何があった? バチカゼは、どうして崩壊した』

「やめろやめろやめろぉーっっ!!!」

 九頭は絶叫しながら、ファンタジーに殴りかかろうとした。が、その動きはすぐに止まった。

「…英生。あなたが怒ることはありませんよ」

「お母様! 放してください…さもなくば」

 彼の言葉は、途中で途切れた。見えない力が、彼の体をぺしゃんこに握り潰してしまったのだ。
 メモリの機能で爆散する九頭。その後ろで、お母様は握った手を広げた。

『…お前がやったのか』

「彼はまた生まれてきます。何度も通った道です。それより」

 マリア像めいた顔が、ファンタジーを捉えた。

「母は、あなたを愛したい。母と共に、帰りましょう?」

『…断る』

 ドーパントの体が光に包まれ、また成瀬の姿に戻った。

「…いつでも、待っていますよ」

「待ってるよ〜!」

 いつの間にか変身を解き、手を振るミヅキ。次の瞬間、ミズキとユウダイ、そして成瀬ヨシノの姿は、光の中に消えてしまった。




「…はい。能力の正体が分かりました。あのメモリは…」

 深夜。アパートの玄関先に出て、リンカが電話をかけている。早口に情報を交わすと、彼女は電話を切って、部屋の中に戻った。
 そこには、徹が立っていた。

「!」

「…ああ。用事は済んだか」

「な、ぜ…貴方が、起きて…」

「いや、喉が乾いただけだよ」

 眠そうな顔で笑う徹。その顔を見た瞬間、リンカは何も言わず、彼に縋り付いた。

「ど、どうした? 何かあったか」

「…」

 リンカは黙って、彼の体を押して寝室まで入った。そうして彼をベッドの上に押し倒すと、自分はその上に跨った。

「私は…貴方、に…」

 乱暴にシャツを脱ぎ、質素なブラも外す。慎ましい乳房を露わにすると、背を曲げて彼の唇を奪った。

「んっ…っは。…嫌なことでもあったんだな」

「…」

 残りの衣服も脱ぎ、徹の服も脱がせていく。裸の胸に、涙の雫がぽたぽたと落ちるのを、徹は何も言わず感じていた。



「…おう。ご苦労」

 男は通話を切ると、携帯を放り投げた。

「随分とお仕事熱心なのね」

 彼の下で、蜜屋が嫌味っぽく言った。男は嗤った。

「悪い悪い。もうしねえから」

 言いながら彼女の乳房を乱暴に掴み、腰を大きく振った。

「んっ」

「いい具合じゃねえか。流石に先生は、ガキとつるんでるだけあってカラダが若い」

「教育、指導しているの。遊んでるんじゃないわ」

「はいはい、そうだな」

 腰を振りながら、男は彼女の乳首に歯を立てた。身動ぎする蜜屋。

「っ、あぁ…中で出すから、孕めよ…」

「あっ…無茶、言わないで…っ」

 男の動きが止まった。肩を震わす男。腹の中に広がる熱に、蜜屋は思わず湿った声を上げた。



 その部屋の向こうでは、真堂が緊張の面持ちで机の上を見つめていた。

「つ…遂に、完成した…だが…」

 作業台の上の、真新しいガイアメモリ。それを取り上げると、彼はごくりと唾を呑んだ。

「…あいつらは、もはや信用ならん…ならば…」

 彼は辺りを窺うと、作業着のポケットから古びた二つ折りの携帯電話を取り出した。番号をプッシュし、耳に当てる。

「…もしもし、私だ。すぐに来てくれ。…いや、そんなことではない、もっと重要なことだ…」

『Oの亡霊/消えざる過去』完

今夜はここまで

『オーケストラドーパント』

 『楽団』の記憶を内包するガイアメモリで、トランペット奏者の出水涼が変身するドーパント。ただ変身しただけの場合、スピーカーのような胴体からケーブルめいた手足が生えているだけの、貧弱なドーパントに過ぎない。しかし、このドーパントは他の人間を吸収・同化することで能力が増していく。特に相手が楽器の演奏者である場合、体にその楽器のパーツが追加されていき、スピーカーから出せる音も増えていく。また、吸収した人間の姿に変身することもできる。そのため出水は、バチカゼの元メンバーの前に現れる時は、誰か他のメンバーの姿を取った。しかしその一方で、ある程度意識も残るため、変身時は複数人の意識が混合した、曖昧な状態となる。男である出水が、変身後は女の声や口調になっていたのも、このためである。
 フリーのトランペット奏者でありながら、結成時からの『薔薇とチークと北風乙女』のファンであった彼は、いつか彼女らのサポートメンバーとして共にステージに立つ日を夢見ていた。しかし、その夢は叶わずバンドは解散。ギタリストの財都丸恵那と結ばれるものの、満たされない日々を送っていた。そんなある時、白い服の男からこのメモリを渡され、「ボーカルのシノは生きている」と告げられる。その言葉を信じた彼はメモリを使用。妻の恵那に始まり、次々とメンバーを取り込んでいくこととなった。
 メモリの色は金。音符の載った五線譜が円を描き、『O』の文字を形成している。金塗りではあるが正式な幹部メモリではなく、ミュージアム崩壊後に作られた新種のメモリ。色も幹部メモリを意識したわけではなく、金管楽器の色をイメージしただけである。



>>208をかなりアレンジして採用させていただきました。ありがとうございました!
…もう少し、設定を活かしたかったと反省

まとめた勢いで

ネブラ・ドーパント
古代のオーパーツ、ネブラディスクの記憶を内包するメモリで変身する。
メモリの色は緑青(ろくしょう)色で、怪人体も同じ緑青色のずんぐりした鎧状の体に、金色の金属質で顔に太陽、胸に三日月、その他の部位に星の意匠がちりばめられている。
両腕にも、実物のネブラディスクにおける弧枠にあたる金色のラインがある。

ネブラディスクは一年365日の太陽暦と、一年354日の太陰暦の二つの暦のすりあわせを行うため用いられていたと推定されている。
そこから、このドーパントは二つの時間の流れを発生させる限定的な時間操作を行える。
腕にある金のラインで指し示した範囲または対象の時間の流れを、二倍程度早めるか遅くすることができる。持続時間は最大で(通常の時間の流れ側における)10分。
範囲の設定は最大で半径10m程度。同時には一つの対象または範囲にしか影響できない。

例えば自身の時間を早めて高速移動したり、相手を遅くしたり、カップ麺の待ち時間を半減させたりするだけでなく、
殴った拳が衝撃を与えている時間を長くして威力を高めたり、出血する傷口を加速して消耗を早めるなど、工夫次第での応用が自在に行える。


ナスカとかの古代ネタが足りなかったのでこんなものを

 気が付くと彼は、警察に保護されて病院にいた。

「…」

「力野さん…何があったか、そろそろ教えてくれないか」

 呆然とベッドに横たわる徹に、植木が話しかけた。

「…」

「なあ…それにリンカさんは、どうしたんだ?」

「! …」

 徹が、虚ろな目で植木を見た。それから、ぽつりと言った。

「…不器用な奴」

「はぁ?」

「あんな顔するくらいなら…最初から、裏切らなきゃ良いのに…それか、さっさと俺のことなんて、捨てちまえば良かったんだ…」

「…まさか、彼女が裏切ったのか」

「…」

 徹は何も言わず、頭まで布団を被ってうずくまってしまった。




 一体、どれほどの時間こうしていただろう。枕元に忍び寄る足音に、徹は目を覚ました。
 傷の痛みに耐えながら、枕元の電灯を点ける。

「…!」

「こんばんは、仮面ライダーさん」

 そこに立っていたのは、友長真澄…もとい、成瀬ヨシノ。即ち、母神教の首魁、『お母様』その人であった。

「何で、あんたがここに」

「愛しい子の、お顔を見に」

「…」

 徹は体を起こし、ベッドの縁に座った。

「…今のあんたは? 『友長真澄』か? それとも『お母様』か?」

「その二つに、違いはありません。揺らぐことも」

「じゃあ、今も変わらず『お母様』なんだな? …」

 年を押した上で、徹は尋ねた。

「…蜜屋を見張ってたな。部下なのに、信用してなかったのか」

「子を心配するのは、母の常です」

 そう言うと成瀬は、徹の手を掴んで立たせた。
 その背中から、白い光が溢れ出す。

「おい…何をする気だ」

「帰りましょう、愛しい子。…母は今、深い悲しみを感じています」

「ミヅキが、死んだからか」

「…」

 光が、成瀬と徹を包み込む。

 やがて2人は、真っ白な空間に佇んでいた。

「ここは…」

「母の、記憶の世界です」

 成瀬がそう言うと、どこからともなく無数の本棚が出現し、2人を取り囲んだ。

「! まさか、ここは」

「母は、全ての母ですから…全て、知っているのですよ」

 本棚がするするとスライドし、遠ざかっていく。その中で、一つの本棚が2人の前に移動してきた
。大きな本棚には、たった一冊だけ本が置かれていた。

「もちろん、あなたのことも」

「これは…」

 手に取ると、革張りの表紙には『力野徹』と書かれていた。
 ぱらぱらと捲ると、そこに記されていたのは、彼が今まで歩んできた人生。あるページで、紙を捲る手が止まった。

「…」

 炎上する高層ビル。溶解するコンクリート。誰かに引きずられながら伸ばした手の先で…両親が、マグマの下に消えた。

「…風都…超常犯罪…」

 仮面ライダーは、彼を、彼の両親を、救ってはくれなかった。当時高校生だった彼は、その時から明確に、風都を憎むようになったのだ。

「…」

 本を閉じ、棚に戻す。
 いつの間にか白い空間は消え、徹と成瀬は、薄暗い祭壇の前に立っていた。

「…ここが、母神教の本拠地か」

「ようこそ、母の家へ」

 成瀬は、両腕を広げて歓迎のジェスチャーをしてみせた。
 徹は動かず、また質問した。

「何故、俺をここに連れてきた?」

「病院で寝ているより、ここで待っていれば、あなたの求めるものが来てくれるのでは?」

「!!」

 徹は、はっとなった。
 財団Xが、ガイアメモリの新造能力を求めているとしたら、邪魔な仮面ライダーを排除した後に来るのは、その能力を持つ『お母様』の所に違いなかった。
 徹が何か言いかけたその時、成瀬が突然、自分の着ているシャツのボタンを外し始めた。

「!? 何を」

 シャツの前をはだけると、黒いブラジャーのフロントホックを外した。細い体に不釣り合いなほどに豊満な乳房が露わになり、徹は思わず目を逸しかけた。
 しかし、逸らせなかったのは、大きく膨らんだ胸の谷間に、黒い生体コネクターがくっきりと刻まれていたからだった。
 成瀬が、両手を胸元にあてがった。

「っ、く…ぅぅっ…!」

 徹は最初、メモリを挿すところを見せるのかと思った。しかし、実際はその逆であった。
 歯を食いしばる成瀬。そのコネクタから、金色のメモリがゆっくりと顔を出した。

「!」

「くっ…ああぁっ…!」

 苦しげな声を上げながら、メモリを引き抜くと、成瀬はそれを徹に差し出した。

「これは…」

 金色の筐体。リンカのそれと同じ、ゴールドメモリである。そこに描かれているのは、1人の赤子の絵であった。

「…いや、これは」

 よく見ると、その赤子は2本の腕に抱かれている。両腕に抱いた赤子を、母親の視点から見た絵なのだと、徹は察した。そして、赤子を抱く2本の腕は、『M』の字に組まれていた。



「母神教の首魁が所持するメモリ、その名称は『マザー』です」

「電話でも聞いたが、まんまだな」

 ソファに深々と沈みながら、ガイキが欠伸混じりに返した。

「ミュージアム最初期に造られたにも関わらず、現在に至るまで放置されてきたゴールドメモリです。人間の遺伝子を体内に取り込むことで、胎内でクローンを育成し、出産するなどの能力を持ちます」

「うわキモ。…そいつが何で、地球の本棚にアクセスする権限を持ってやがる?」

「神話の神々にも、母親は存在します。特に、ギリシャ神話の主神ゼウスの母は、地母神ガイアです」

「クレイドールエクストリームがヒトと地球を繋ぐ巫女なら、マザードーパントは地球そのものってわけか。……こじつけにも程があるぜ」

「無論、ただの使用者がその領域に到達することは不可能です。成瀬ヨシノとマザーメモリの適合率は、99.9%以上……或いは、100%かも知れません。抜去はほぼ不可能でしょう。メモリブレイクは、成瀬の死を意味します」

「しねえしねえ。要は生かしたまま、言うこと聞かせりゃ良いんだろ?」

 ガイキが言ったその時、1人の少年が割り込んできた。

「ガイキさん、準備ができました」

「あいよ」

 彼はソファから立ち上がると、リンカの肩を叩いた。

「おら、行くぞ」

「…はい」

 リンカは、小さく頷いた。
 部屋を出て、少年に続いて廊下を進むと、正方形の広い部屋に出た。白いリノリウムの床には、囲碁や将棋の盤面めいて、黒い線が等間隔に引かれている。

 よく見ると、その赤子は2本の腕に抱かれている。両腕に抱いた赤子を、母親の視点から見た絵なのだと、徹は察した。そして、赤子を抱く2本の腕は、『M』の字に組まれていた。



「母神教の首魁が所持するメモリ、その名称は『マザー』です」

「電話でも聞いたが、まんまだな」

 ソファに深々と沈みながら、ガイキが欠伸混じりに返した。

「ミュージアム最初期に造られたにも関わらず、現在に至るまで放置されてきたゴールドメモリです。人間の遺伝子を体内に取り込むことで、胎内でクローンを育成し、出産するなどの能力を持ちます」

「うわキモ。…そいつが何で、地球の本棚にアクセスする権限を持ってやがる?」

「神話の神々にも、母親は存在します。特に、ギリシャ神話の主神ゼウスの母は、地母神ガイアです」

「クレイドールエクストリームがヒトと地球を繋ぐ巫女なら、マザードーパントは地球そのものってわけか。……こじつけにも程があるぜ」

「無論、ただの使用者がその領域に到達することは不可能です。成瀬ヨシノとマザーメモリの適合率は、99.9%以上……或いは、100%かも知れません。抜去はほぼ不可能でしょう。メモリブレイクは、成瀬の死を意味します」

「しねえしねえ。要は生かしたまま、言うこと聞かせりゃ良いんだろ?」

 ガイキが言ったその時、1人の少年が割り込んできた。

「ガイキさん、準備ができました」

「あいよ」

 彼はソファから立ち上がると、リンカの肩を叩いた。

「おら、行くぞ」

「…はい」

 リンカは、小さく頷いた。
 部屋を出て、少年に続いて廊下を進むと、正方形の広い部屋に出た。白いリノリウムの床には、囲碁や将棋の盤面めいて、黒い線が等間隔に引かれている。

 その部屋の中心に立つと、少年は一本のガイアメモリを取り出した。

『ゾーン』

 少年の体が、小さな黒いピラミッドめいた形状になり、宙へと浮かび上がる。
 次の瞬間、白い床からホログラムのように、建物や道路の小さな映像が現れた。それはよく見ると、北風町の全体図を精巧に投影したものであった。

「…俺は止めねえぜ」

 突然、ガイキが口を開いた。

「何がですか」

「とぼけるなよ。…未練たっぷりなんだろ? あいつに」

「…」

 リンカは、何も言わない。
 彼らの足元で、ある一件の建物が点滅し始めた。それは、母神教の本部であった。

「では、転送します…!」

 頭上で、黒いピラミッドが宣言した。
 と、瞬く間に2人の体が、点滅する建物の映像に吸い込まれて、消えた。

今夜はここまで

 『ばそ風北』の暖簾をくぐると、店主が目ざとく見つけて、声をかけてきた。

「いらっしゃい、徹ちゃんにリンカちゃん。久し振り…」

 言いかけて、ふと気付く。

「…あれ? リンカちゃん、雰囲気変わったね。それに、いつものスーツじゃないし」

「そうですね」

 リンカは頷いた。
 確かに、財団Xを抜けてから、彼女はトレードマークの白スーツを遂に脱いだ。



↓1〜3でコンマ最大 リンカの私服

玄さん路線で行くのか(困惑)

「にしても…こういうのが趣味だったなんて」

「?」

 きょとんとするリンカ。
 濃紺のTシャツには、無数の星々や銀河、そして手前で目を見開き、何かの啓蒙を得たような猫がでかでかとプリントされている。その上から灰色のジャージを羽織り、下も同色のスウェットという、非常にラフな格好をしていた。

「流石に、この装いにネクタイは合わないかと」

「いや、そういう問題じゃなくて…ま、良いや。おっちゃん、北風蕎麦二つね」

「あいよ」



 蕎麦を待ちながら、2人はファンタジーの新たな姿について話し合った。

「ドライバーが、全く別物になったんだよな」

 テーブルの上に、2本挿しとなった新たなドライバーを置く。リンカも今、同じ物を所持している。彼女はそれに加えて、所持していたトゥルースメモリの形まで変わってしまった。

「風都の仮面ライダーが、これと同一のものを使用します」

「えぇ…」

 徹は思わず、不満げな声を出した。彼は風都が嫌いだし、それに付随して向こうの仮面ライダーに対しても良い印象を持っていない。それが、同じものを使う羽目になったこと、何より、彼自身がこの形を、リンカと2人で力を合わせて戦うという、このドライバーを求めたことが、彼にとっては認めがたい事実であった。

「どのみちドライバーもメモリも、元は一つの組織が作ったものです。重複は避けられません。ただ、個人的に一つ、解決しておきたい問題が」

「何だ?」

「名称です。これまでは、貴方の使用するファンタジーメモリに準じて、仮面ライダーファンタジーと呼称していました。ですが、ここに私のトゥルースメモリが加わるとなると話は別です」

「『仮面ライダートゥルーファンタジー』…何だか分かんねえけど、どっかから怒られそうな名前だな」

「ここで一つ、新たな名称を考えるのはどうでしょう」

「そうだな…」

 徹は、考え込んだ。



↓1〜3で>>1が気に入ったやつ 新たな仮面ライダーの名称

「…『デュアル』」

「二重、二通り…そういった意味ですね。良いと思います」

「よし、仮面ライダーデュアル。それで決まりだな」

「はい、お蕎麦2人前」

「! どうも」

 慌ててドライバーを引っ込めると、テーブルの上に二杯の蕎麦が並んだ。
 2人は手を合わせると、蕎麦を食べ始めた。

今日はここまで

何故トゥルーファンタジーじゃ駄目なのかと言うと、今後トゥルーファンタジー以外の組み合わせも出てくるかもしれないからですね

『仮面ライダーデュアル トゥルーファンタジー』

 ファンタジーメモリの能力に、徹とリンカの強い想いが作用することで、彼のロストドライバーとリンカのガイアドライバーは、ダブルドライバーへと姿を変えた。また、それに合わせてリンカのトゥルースメモリも次世代型へと進化した。
 ソウルサイドにリンカのトゥルースメモリを、ボディサイドに徹のファンタジーメモリを装填し、ドライバーを展開することで変身する、新たな戦士。ファンタジーの魔物めいた素体の上からトゥルースドーパントを模した金色の鳥が覆いかぶさり、装甲となる。黄金の重厚な甲冑に、宝石の装飾が付いた綺羅びやかな外見で、ファンタジーの翼にもなる白いマントは健在。
 『空想』の力に『真実』が加わることで、『空想を真実にする』というファンタジーの能力が更に強化されている。念じるだけで破壊された物を修復したり、自在に武器を具現化したりと、その力は変幻自在。また、2本のガイアメモリに2人分の力が合わさることで、単純な出力もファンタジー単体のほぼ2倍にまで向上している。
 専用武器『イデアカリバー』は金色の刃の大剣で、鍔にメモリスロットがある。ここにファンタジーメモリやセイバー、クエストなどを挿し込むことで必殺技を発動する。

誤解しないで欲しいけど、リンカの玄さん路線は別に嫌というわけじゃないんだ
彼女は『真面目だけどどこかズレてる人』だから、そのズレがファッションセンスに現れてるという意味では当てはまる
ちなみに彼女は『非人間でありたいただの人間』でもある



(ガイキはそもそも人間じゃ)ないです

『…!』

「やあっ!」

 斧を左手で止めると、右手に金色の大剣、イデアカリバーを出現させる。

『もう、止めるんだ!』

 下から斬り上げた剣を、左の短剣で受け流す。そのまま斧を振り下ろした。

「止められるか! もう、止まれない…」

 大剣で、大振りの一撃を受け止める。
 と、突然、彼の腕に走る、金色の線が光り始めた。そして次の瞬間

『…っ、あぁっ!?』

 いきなりネブラドーパントの腕が、目にも留まらぬ速さで閃き、数十発に及ぶ斬撃をデュアルの体に見舞ったのだ。
 幸い、装甲の傷は軽微。しかし、衝撃が大きい。

『くっ…一体、何が』

”ネブラ…このガイアメモリが有する記憶は、『ネブラディスク』でしょう”

『ネブラディスクって、オーパーツの?』

”ええ。青銅と金で造られた円盤です。その用途は、太陽暦と太陰暦の同期という説が有力です”

『えっと、つまり?』

”2つの異なる時間流の同期、すなわち時間操作がドーパントの能力であると推測します”

『…よし、大体分かった!』

「余所見するな!」

 振り下ろした斧を、片手で掴んだ。更に剣を握った左手も掴むと、そのまま鎧の胸を蹴りつけた。

「ぐぅっ…」

『要は動けなくすりゃ良いんだろ。いくら速くても、動けなきゃ意味がない!』

 両腕を掴んだまま、繰り返し蹴りを叩き込む。攻撃を続けながら、ふとリンカがこぼした。

”…何かおかしい”

『うん?』

”周囲の動きが、やけに早いような”

『? …!!』

 彼女の言う意味に気付いた瞬間、デュアルは金色に光るネブラドーパントの腕を離した。途端に体が軽くなった。いつの間にか彼の体には、重力めいた反発力が働いていたのだ。
 そして、彼がネブラドーパントに釘付けになっている間に、マスカレイドドーパントが骨壷を持って、最奥の個室に向かって突進していた。

『止めろ!』

 追いかけるデュアル。しかし、その足にネブラドーパントがタックルし、動きを封じる。その腕のラインが光り、彼の動きが更に鈍くなっていく。今なら分かる。これは、先程の時間操作の逆で、デュアルに流れる時間を遅くしているのだ。

「ここは、譲れません!」

 マスカレイドとは言え、ドーパントはドーパントである。人間離れした脚力で駆け抜け、あっという間に個室の扉に辿り着き、中へと押し入った。

「お母様!」

「…」

 白いベッドの上で、『お母様』がゆっくりと目を開けた。

『! 成瀬…』

「お母様、こちらを…」

 成瀬の体が、白いマリア像めいた姿に変わる。マスカレイドが布団を剥ぎ取ると、その腹には大きな裂け目が開いていた。
 そこに、骨壷を押し込んだ。

「井野さん!」

「ああ!」

 ネブラドーパントが、デュアルの足を離した。そして今度は自分の時間を加速させると、マザードーパントの元へ駆け寄った。

「頼むぞ、お母様…」

 光る腕で、彼女の腹に触れた。

 すると、見る見る内にその腹が、大きく膨れ上がってきた。

『くっ…もう、止められないのか…』

「邪魔はさせませんよ!」

 マスカレイドが立ちはだかる。

”マザードーパントには、僅かな遺伝子から人間のクローンを造る能力があります”

『それで妹のクローンを…』

「お母様の中で育まれるのは、クローンなどではありません。死した子どもたちが、還ってくるのです!」

『そんなことが有るものか! お前たちは間違ってる…!』

 大剣を振り上げ、マスカレイドに斬りつけた。
 そうこうしている間にも、マザードーパントの腹では『何か』が成長を続けていく。

『邪魔だ、このっ…』

 マスカレイドドーパントを蹴り倒し、剣を叩きつけようとする。ところが、その動きが途中で止まった。

「はっ…はぁっ…」

 振り返ると、そこにはシロツメクサの少年が立っていて、無数の蔓を伸ばしていた。

『ユウダイ君…いつの間に』

「僕は、運が良いんだ…」

 クローバーの茎で、デュアルの両腕を締め付けながら、クローバードーパントが呟いた。

「この前受けた攻撃も、本当に危ない所は外れた。そして、またこうやって、お母様のために戦える…」

『それまでに、自分がどんな目に遭ったか覚えてないのか!?』

「覚えてるさ」

 彼は、憎々しげに唸った。

「僕は、惨めな人間だった。全部、あの女…蜜屋のせいだ…!」

 メイスを構え、デュアルに打ち掛かる。

『! せぇやっ!』

 それを足で打ち返すと、両腕に力を込め、蔦を引きちぎった。

「なっ」

『それだけじゃない…お前は、もっと大事なことを忘れてるんだ!』

 剣を振るい、打ち合う。突き出したメイスを払い、腹に深く斬りつけた。

「くぁっ…!」

 追いすがってくるマスカレイドドーパントをいなし、マザードーパントとネブラドーパントの元へ歩み寄る。

『井野!』

「もう遅い…!」

 ネブラドーパントは、マザーの腹から手を離した。既に、その腹は、妊婦のそれよりも大きく膨れ上がっており、中で何かが蠢いているように揺れていた。

「定…さぁ…」

「すまない、お母様…必ず、すぐに取り戻す!」

 そう言うと彼は、両手で短剣を握ると…



 ___マザードーパントの腹に、深々と突き刺した。



『!!? 何をする!?』

「あっ、あ゛っ、ああぁぁっ…」

 青銅の剣が、白い腹を縦に切り裂く。夥しい血が噴き出し、部屋を赤く染める。
 駆け出したデュアルの足を、マスカレイドドーパントが掴んだ。

「私だって辛い! だが、今のお母様には、子供一人産み落とす力さえ残されていないのです…!」

『だからって、何でこんなことを!』

「これが! お母様の、愛なのです!」

 血塗れの腹に両手を突っ込むネブラドーパント。ずるりと音を立てて引き出されたその手には…

「…」

「遊香…」

 一人の女が、抱かれていた。

「井野さん、引き上げるよ!」

『待てっ!』

「行かせません!」

 裸の女を腕に抱き、両腕を金に光らせるネブラドーパント。そこへ、クローバードーパントが合流した。
 マスカレイドドーパントは一人、デュアルの背中にしがみつく。

「井野さん、ユウダイ君…私は、これまでです」

「おじさん…ありがとう」

「九頭さん、必ずお母様は、生き返らせる!」

 3人の姿が、一瞬にして消えた。時間操作で、どこかへと走り去ったのだろう。
 マスカレイドドーパントは、震える声で宣言した。

「もう、お母様はいない…これが私の、最期の親孝行です…!」

『…お断りします』

「えっ?」

 戸惑うマスカレイドドーパント。と、突然その体から、黒と白のガイアメモリが抜け、デュアルの手に収まった。
 九頭は、へなへなとその場に膝を突いた。

『…っと、リンカ、いきなり体動かすからびっくりしたぞ』

”失礼しました。ですがこれで、自爆は封じました”

『ああ。…九頭英生。色々思うところが有るだろうが…』

 マスカレイドメモリを、粉々に握り潰す。

『…お前は、ここまでだ。おとなしく、お縄につけ』

 九頭は、その場に泣き崩れた。




 聖堂にて。長椅子に腰掛けて、うとうとしていた真堂は、足音に目を覚ました。

「あぁ…九頭さん、帰ったか…」

 ところが、入ってきたのは九頭ではない。朝塚ユウダイはともかく、裸の女を抱いた見知らぬ男に、真堂は怪訝な目を向けた。

「…あんた、何者だ?」

「あんたが真堂か。九頭さんから話は聞いてる。…このメモリも、ありがたく使わせてもらっている」

「! ネブラメモリ…新しい同志なのか。そうか…」

「でも…おじさんは、仮面ライダーを止めるために…」

「気を落とすな、ユウダイ君。またお母様が…」

 そこまで言って、言葉が途切れた。

「…お母様…は?」

「…死んだ」

「は?」

 井野は、重々しく頷いた。

「遊香を、腹の中で育てたまでは良かった。だが、産み落とすことができなかった。だから、おれが腹を裂いて取り出した」

「…本当、なのかね」

「ああ」

 井野は、女を祭壇の上に横たえながら答えた。

「…き、貴様ぁっっ!!」

 赤茶色のメモリを取り出す真堂。

「待って!」

 そこへ、ユウダイが割って入った。

「井野さんは、お母様の言うことに従っただけなんだ! それに、言うとおりにすればお母様は帰ってくるって」

「帰ってくるだと? 死者が帰ってくるのは、お母様の力だ! そのお母様が亡くなった今、どうやって」

「…真堂さん、あんたが持ち帰ったメモリについて、九頭さんに聞いた」

「!」

 井野は、遊香の体にヴェールを被せると、真堂に歩み寄った。

「それを使えば、お母様は生き返るそうだ。…心当たりは無いか」

「…」

 真堂は、黙ってどこかへと立ち去った。

 数分後、帰ってきた彼の手には、一つの小さなケースが握られていた。
 開けると、中には5本のガイアメモリが収まっていた。

「『ピラー』、『ストーンヘンジ』、『ヴィマーナ』、『モナ・リザ』…そして」

 右端にある、生成り色のガイアメモリ。そこには、奇妙な黒い曲線で『V』と書かれていた。

「意味など持たない記憶だ…だが、言い換えれば『どんな意味でも持たせられる』」

 真堂はメモリを掲げると、そっとスイッチを押した。




『ヴォイニッチ』


『Nは止まれない/血塗れの手』完

今日はここまで

『ネブラドーパント』

 『ネブラディスク』の記憶を内包するガイアメモリで、井野定が変身したドーパント。緑青色の分厚い鎧で全身を固め、その体表には、金色の鋲が星図めいて無数に打ち込まれている。また、フルフェイスの兜の額には太陽を模した円が、胸から左右の肩にかけては三日月が、両腕には弧を描いた線がそれぞれ金で彫り込まれている。戦闘時には、青銅の斧と短剣を両手に持って戦う。
 紀元前のヨーロッパ、今のドイツに当たる地域で用いられたとされるネブラディスクは、太陽の運行を計測し、太陰暦と季節を同期させるために用いられたという説が有力である。そこからこのメモリには『太陽暦と太陰暦、2つの暦を行き来する』、即ち限定的ながら時間を操る能力がある。具体的には、腕に彫られた金の線が光る時、今より進んだ暦に移動することで高速化、逆に遅れた暦に移動することで低速化することができる。また、自分だけでなく触れた相手の時間をも操作することができる。ちなみに、使用する斧と剣は、ネブラディスクと共に発掘された副葬品と同じ形をしている。
 ガイキの襲撃によって工場が掌握された直後に、真堂が密かに製造し秘匿していた6本のガイアメモリの内の1本。これ自体は新造のメモリではないが、北風町の工場では製造されておらず、かつて真堂が別の工場に勤務していたときの記憶を頼りに作り上げた。
 メモリの色は緑青色。縦線が半円形に曲がった字で、円のような『N』が書かれている。ゼロメモリの『Z』が90°回転したものと考えると分かりやすい

忘れてた

>>351を採用させていただきました。ありがとうございました!

そしてもう一つ



『マザードーパント』

 『母』の記憶を内包するガイアメモリで、元歌手の成瀬ヨシノが変身したドーパント。白い、マリア像めいた美しい女の姿で、七色に輝くヴェールのような長衣を纏っている。
 地球の本棚に収蔵されている『母』の本。そのページ数はあまりにも多く、人生をいくつ使っても読み切ることができないほどに情報に溢れている。神話を紐解けば、名だたる英雄や、神々にさえも母はいた。この世界を作り給うた神の母とは、即ち星、地球であった。特に、ギリシャ神話における主神ゼウスの母は、タイタン族の地母神ガイアである。そのことからマザードーパントは、自らの所有物として地球の本棚にアクセスする権限を持つ特異な存在である。
 また、僅かな肉片や朽ちた骨であっても、遺伝子が残っていれば子宮に取り込むことで、胎内で遺伝子の持ち主を育成し、産み落とすことができる。生まれた子は無限に湧き出るマザードーパントの母乳を飲むことで体力を回復し、そして彼女を唯一の母と慕うことになる。母乳を飲まなくとも、対峙するだけで全ての生物は彼女に対して言葉にならない郷愁を感じ、精神の弱い者はそれだけで彼女を母と求めるようになる。
 元々戦闘力はさほど高くはないが、戦う際には見えない巨大な手を繰り出したり、適合率が高ければ空間に巨大な『穴』を開けて、相手を呑み込むなどできる。

 テラーメモリと同時期、即ちミュージアムがガイアメモリ製造に手を染めた最初期に造られた幹部メモリ。しかし、どういうわけかミュージアム下では一度も使用されることなく破棄され、巡り巡って下部構成員であった九頭英生の手に渡った。彼はある理由から、個人的にファンであったインディーズバンドのボーカルであった成瀬ヨシノにこれを渡し、以後は彼女に忠実に仕えることとなった。成瀬とマザーメモリの適合率はほぼ100%、少なくとも加頭とユートピアメモリ以上の適合率を叩き出している。そのため彼女はマザーメモリの能力をほぼ完全に引き出し、自在に使うことができる。その反面、人格は破綻しており、自らを『母』と称し、自分以外の全ての人間を我が子として扱っている。また、完全に体の一部と化しているメモリは、抜去にさえ苦痛を伴い、長時間メモリが体外にあると命に危険が及ぶ。そのためメモリは常時挿しっぱなしで、人間態とドーパント態を自由に行き来する。当然、メモリブレイクは彼女の死を意味する。
 メモリの色は当然金。赤子を抱く2本の腕は、子を抱く母親の視点から見ると『M』の字に見える。




















 悪魔にも、母親がいた。

 しかし、父は彼女を捨て『恐怖』を取った。





 _______母は、修羅となった。

(流石にゆるくない募全部にガッツリ出番は無いかな)

(でもあの中の2個ぐらいは使う予定)

「…おや?」

 いつものように、知的好奇心の赴くまま、立ち並ぶ本棚の間を歩いていた青年は、ある棚の裏に縮こまる一人の少女に気付いて、足を止めた。

「君は、誰だい?」

「…」

 黙りこくる少女。薄汚れたワンピースを着て、膝を抱えて座ったまま、小さく震えている。

「ここには、僕しか入れない筈なんだけどな。もしかして、最近誰かの気配がしてたの、君だったのかい?」

「…」

 青年は、やれやれと言った様子で、髪留め代わりの蛇の目クリップを指で弄った。

「…まぁ、害が無いなら良いか。僕は調べ物が有るから、邪魔しないでくれよ」



「検索を始めよう。キーワードは…」

 白い空間を、無数の本棚が行き来する。頭上を飛び交う分厚い古書の群れを、少女はじっと眺めている。

「『街』。『異世界』。『恐竜』…」

「…!」

 突然、少女が立ち上がり、頭上を駆け抜けた一冊の本に向かって手を伸ばした。

「…駄目だな、もう少し絞り込まないと……うん?」

 それに気付いた青年が、慌てて駆け寄る。

「待て、何をする気だ……っ、いや、なんでも無いよ翔太郎。こっちの話だ…」

 虚空に向かって弁明しながら、少女が手に取った本の表紙に目を走らせる。

「『ラビット』…ウサギ? これが欲しかったのかい?」

「…」

 ところが、『ラビット』の本は固く閉じていて、少女がどれだけ力を込めても、表紙さえ捲れない。
 不審に思った青年が取り上げてみると、表紙はいとも簡単に開いた。

「…ああ、なるほど。君は『記憶』なんだ」

 本を閉じ、飛来した棚に戻す。

「地球の記憶は、お互い勝手に干渉することはできない。モノの意味が、独りでに変わったら困るからね。君という人物について書かれた本が人格を得たのか、はたまたここに迷い込んだ君の魂が、本と結合したのか…」

 そこまで言って青年は、くすりと笑った。

「…つまり君は、ウサギを追いかけてここまで来たのか。まるで『アレ』みたいだ。ええと…」

 一台の本棚が、青年の前に飛んでくる。そこに1冊だけ置かれた本を手に取ると、表紙を開いて少女に差し出した。

「……そう。君はまるで…不思議の国の、『アリス』だ」




 『お母様』が、死んだ。
 その胎で一人の女を育て、そしてネブラドーパントによって腹を切り裂かれて死んだ。
 母神教の残党に奪われないよう、遺体は検視の後速やかに火葬された。解剖も検討されたが、マザードーパントがドーパント態から元に戻らず、また遺体に手を加えることによる危険が予測できないということで、見送られた。
 体内にあるはずのマザーメモリは、焼却炉から出た遺骨のどこを探しても、出てくることは無かった。

「終わった…のか?」

 曇天の公園。ベンチに座り込んで、徹がぽつりと零した。

「成瀬が死んで、ガイアメモリを造る能力は失われて…俺たちの戦いは、もう終わったのか?」

「いいえ」

 隣りに座ったリンカが、きっぱりと否定した。

「失われたのはあくまでメモリを『新造』する手段です。まだ『量産』する手段は残されています。何より、母神教自体は未だ健在です。それに…」

 声を潜め、続ける。

「…彼らが、『お母様』を復活させると言っていたことが気にかかる」

「そんなこと、できるのか? 死人を生き返らせること自体が、成瀬の力なんだろ?」

 すると彼女は少し考えて、やがて言った。

「…できなくもない、と言えます」

「歯切れが悪いな」

「手段はいくつか考えられます。それを、彼らに実行可能か…最も現実的な手段で、成功率は2割弱でしょうか」

「そんなものか」

「いえ、彼らにとって2割は、十分に高いと言えます。この状況です。可能性が1%でもあるなら、彼らは進んで命でも賭けるでしょう」

「…そうか」

 徹は長く息を吐くと…勢いよく立ち上がった。

「そうだよな。あんな終わり方は無いよな。…まだ、戦いは終わっちゃいない。そもそも、ガイキたちだってまだいるんだ」

「現状ガイアメモリ製造工場は、彼らが掌握しています。新たな力で、ドミネーターに対抗できるようになった今、彼らを先に攻めた方が良いかもしれませんね」




 ところが、彼らが工場に攻め入る算段を立てている最中に、アパートに来客があった。
 覗き穴越しに来客の姿を認めた時、徹は居留守を決め込もうかと迷った。だが、よく考えたらベランダからは部屋の明かりが漏れているし、耳をすませば薄い壁越しに会話だって聞こえたかもしれない。何より、居留守が『彼』にバレると、後が面倒臭い。徹は諦めて、ドアを開けた。

「やあ、久し振りだねえ。力野クン」

「…何の用ですか、亀井戸さん?」

 粘つくような笑みを向ける、背の低い男。午後8時に厚かましくアパートに押しかけてきたこの男は、悪びれる様子もなく言った。

「こんなとこじゃ何だからさ。中で話そうよ」



 亀井戸純吉。徹と同じフリーライター。徹や熊笹修一郎が社会問題を中心に扱うなら、彼は芸能人のスキャンダルや、風俗のレポートといった下世話な記事を中心に書いていた。別にそれは構わないのだが、彼はそもそも人格に難があり、同業者からも敬遠されている。徹もできることなら関わりたくないとは思っているのだが、悪いことに彼は、徹の大学の先輩であった。
 その亀井戸は今、テレビを挟んでちゃぶ台の前に居座り、徹のとっておきのビールを当然のように啜っていた。

「…で、何の用ですか? 亀井戸さん、家が近所ってわけでも無いでしょう?」

「まあまあ、落ち着きなよ」

 彼は例の粘っこい笑みを浮かべると、台所の方に目を遣り、言った。

「…アレが君の、『コレ』かい?」

 小指を立てる、古臭いサイン。台所では、来客のためにリンカが簡単なつまみを作っている。

「…そんなところです」

「聞いたよ。いつの間に君が女のヒモになったって。確かに、あれは中々働き者に」

 その言葉は、ちゃぶ台に皿を叩きつける鈍い音に遮られた。

「残念ながら、私は先日勤め先を退職しました。現在、家計は徹に依存しています。あとこちらは茄子の煮浸しです」

「ん、どうも」

 動じることなく会釈すると、茄子を咀嚼しながら話し始めた。

「…仕事を手伝って欲しくてさ」

「仕事? 芸能関係は苦手って前に言った筈ですけど」

「知ってるよ。俺が持ってきたのは、別のやつ。…最近、風車町でちょっとした話題になってる店があってね」

「帰ってください」

 徹は立ち上がると、玄関を指差した。

「前ならともかく、恋人がいるのに風俗レポなんてするわけ無いでしょう。他を当たってください」

「まあまあ」

 彼は立ち上がろうともせず、ビール缶に口をつけた。

「風俗は風俗なんだけど、体験記とはちょっと違うんだ。何しろ、ちょっとヤバ気なことになっててね。もしかしたら、力野クンの得意分野に繋がるかも」

「…」

 徹は黙って、目を細めた。亀井戸が続ける。

「ヤバいクスリが出回ってるかもしれない。その辺を調べてもらいたくてね」

 そう言うと彼は、鞄の中から一枚の紙切れを取り出した。

「これ、店の概要。手伝ってもらえるなら、返事頂戴。じゃ」

 それだけ言うと彼はおもむろに立ち上がり、さっさとアパートを出ていってしまった。



「じゃあ、後で合流しよう」

「何かあれば、すぐに連絡します」

 そう言うと2人は、夜の歓楽街で別々の方向へ歩き出した。片方は薄暗い路地のバーへ。もう片方は、件の風俗店へ。
 ___バーに向かったのは、徹。そして風俗店に向かったのは、リンカの方であった。

今夜はここまで

今回採用したアイデアがもっと早く出てきていたら、リンカが裏切る前にこの話をやりたかった




 がらんとしたバーに踏み入ると、徹はカウンターの真ん中に陣取った。

「…何か、前に来たことある?」

 開口一番、無愛想なマスターが言う。徹は軽く笑った。

「ああ、1年くらい前に。…生ビール1つ」

 ジョッキを受け取ると、泡に口だけ付けて、それからおもむろに尋ねた。

「何か面白い話無い? この辺で」

「こっちが知りたいくらいだよ」

 素気なく切り捨てるマスター。徹は引かない。

「まあ待てよ。この辺りなら、ブンヤ好みの話題には事欠かないだろ? ヤクザとか、女とか」

「女、ねえ」

 マスターが鼻を鳴らす。

「流石、ビジネスウーマンのヒモは言うことが違う」

「はあ?」

 思わず、徹は身を乗り出した。隅のテーブルで縮こまっていた老人が、ちらりと彼の方を覗き見た。

「同業者の間で噂になってるよ。背の高い、スーツの女といつも一緒に歩いて、一緒の家に帰ってるって。二人暮らしならいい加減引っ越したら良いのに」

「同棲は否定しないけど、ヒモじゃねえからな?」

 ビールを一口、飲み込む。

「…仕事だよ、仕事。亀井戸さんに頼まれたんだよ。あるイメクラが、ヤバい薬に手を染めてるんじゃないかってことで、調べてるんだ」

「ああ、『天国牧場』のことか。にしても、あんたも災難だったね。ドブ亀の頼みなんて断っちまえばいいのに」

「すぐ名前が出てくるくらいには、噂になってるわけだ。…断りたいのは山々だけど、あの人、大学のサークルの先輩だったんだよ。断ったら、後輩連中にどんなデタラメ流されるか」

「あんたも苦労人だね。これはサービスだよ」

 小皿にポテトチップスを盛ってくれた。

「ありがとう。…で、その『天国牧場』とやら。どうやら幼児プレイの店だというのは事前に調べてきたんだが…ズバリ、どんな薬が出回ってるんだ?」

「ホルモン剤、かな。それも、違法輸入だって中々無いくらい、とびきり強いやつさ」

「ホルモン剤…じゃあアレか、コンパニオンの胸が、急に大きくなったとか」

「それだけじゃない。なんと、おっぱいが出るようになったって話さ。それも、一人二人じゃない。ここで話してった奴、一人残らずそれを見たんだから、きっと全員そうなってるんだろう」

「なるほど…」

 チップスを一枚、噛んで考える。
 この不本意な案件を彼が受けたのは、当然裏にガイアメモリが絡んでいると睨んだからだ。それでも、リンカがいながら実地調査に徹が赴くのは憚られたので、こうして馴染みの安酒屋に足を運んだのであった。
 ちなみに、最初の険悪なやり取りは、2人が顔を合わせた時の、一種のルーティンであった。

「…だが、どうやって仕入れた…?」

 既に徹は、目的のブツが薬ではなくガイアメモリと想定している。裏で取引されるガイアメモリは高額だ。コンパニオン全員が所持しているとしたら、それにかかるコストも相当なものになるだろう。母神教が直接関わっているのか、或いはとんでもない財力の持ち主が糸を引いているのか…

「さあね、このご時世、通販で何だって買えるだろうし…」

 店のドアが一瞬開いて、すぐに閉じた。酔っ払いが、入る店を間違えたのだろう。気にすることもなく、2人は会話を続ける。隅の方では、老人がグラスに頬ずりしながらいびきをかいていた。



「お兄さん、寄ってかない?」

 客引きの声を聞き流しながら、リンカは目当ての店へ真っ直ぐに突き進む。
 そう、『お兄さん』である。元々背が高く、中性的な格好をしていたリンカであるが、洗いざらしのジーンズに地味なブルゾンを着て、髪を雑に掻き上げると、もうその辺の、それもかなり顔の良いヤンクと見分けがつかない。客引きは勿論のこと、裏路地で煙草を吹かしていた商売女たちでさえ、物陰から身を乗り出しては興奮気味にひそひそと話し合っていた。
 しかし、彼女の目当てはそこには無い。雑居ビルの階段を登り、牛柄の看板の前で立ち止まると、店の名を呟いた。

「『天国牧場』…」

 金属の扉を押し開ける。

「! いらっしゃいませー!」

 カウンター越しに、若い男が声を張り上げた。扉を閉め、歩み寄ると、彼はラミネートされた紙を差し出した。

「どなたか、気になる娘はいますか?」

「…いえ」

「ではフリーですね。何分コースにしますか?」

「…」

 時間ごとに値段が書かれている。下の方には、追加サービスについても書かれていた。

「…50分コースで」

 掠れた声で答える。流石に普段の声だと、女だとバレる。

「オプションはどうなさいますか?」

 男の指す文字列に目を走らせて、リンカは思わず瞬きした。バイブ貸し出し、聖水プレイ、3Pコース…ここに徹がいなくて良かった。彼がどんな反応をするか、想像はできなくもないが、絶対に見たくない。
 断ろうとして、ある一節に目が留まった。

「…裸エプロン」

「50分フリー、裸エプロンですね。合計で2万円になります」

 財布から万札を2枚抜き出し、差し出すと、すぐ横の待合室に案内された。煙草臭い部屋には、既に10人近くの男たちがいて、ソファに座ってスマホを弄ったり、テレビに流れる怪しげな精力剤のCMを眺めたりしていた。




 2時間近く待って、ようやく呼ばれた。
 待合室の出口で注意事項を聞くと、奥に通された。ずらりと並んだ部屋の一つに入ると、一人の女が立って、待っていた。

「あら、おかえりなさ〜い!」

「…どうも」

 小さく会釈したリンカに、肩透かしを喰らったような顔をする女。化粧の厚い、ぎりぎり若いと言える顔。小柄だが、異様に胸が大きい。そして、リンカの注文通り、白黒の牛柄エプロンの他には、何も身につけていなかった。

「じゃあ、お部屋に入ろっか」

 リンカに背を向け、部屋の奥へ歩いていく女。リンカは素早くその全身に目を走らせた。当然、趣味とか性的嗜好ではない。この格好なら、メモリの生体コネクターを探すのに丁度良いと考えたのだ。
 しかし、目当てのコネクターが見当たらない。女は防水シートの上に正座すると、膝をぽんぽんと叩いた。

「ほ〜ら、膝枕してあげるね」

「…はい」

 恐る恐る腰を下ろし、彼女の腿に頭を載せる。上を向くと、大きくせり出した乳房が、リンカの視界一杯に広がった。
 女は、リンカの頭を優しく撫で始めた。

「よ〜しよ〜し、いい子いい子…辛いときは、た〜くさん、ママに甘えてね…」

「ママ…」

 思わず、呟いた。

「そう、ママでちゅよ〜。いい子いい子…」

「…」

 ママ。母親。…お母様。
 何故、人はこうまで女親に固執するのだろう? リンカは、疑問を自覚した。彼女にも親はいたのだろう。しかし、まるで記憶に残っていない。それはつまり、彼女にとって親というものが、その程度の存在に過ぎなかったのだろう。
 しかし、多くの人にとってそれは普通ではないらしい。母親の存在を常に求めているからこそ、この小さな女を求め、甘えるのだろう。そういう意味では、この商売女も、あのマザードーパントも、そう違わない存在なのかもしれない。

「…さ、おっぱいの時間でちゅよ〜」

「!」

 考え込んでいて、今の状況を忘れていた。女はエプロンの紐を解くと、胸当てを捲って巨大な乳房を剥き出しにした。それを下から見上げていたリンカは、遂に見つけた。
 右乳房の下に刻まれた、生体コネクターを。

「は〜い、どうぞ」

「んむっ…!?」

 しかし、それを指摘するより先に、茶色い乳首を口に突っ込まれた。思わず吸うと、甘い母乳が大量に噴き出した。

「んっ…?!」

「いっぱい吸って、いっぱい飲んでね…」

 撫でる女と裏腹に、リンカの中のトゥルースメモリの因子が、このミルクは危険だと告げる。口当たりが良く、栄養も豊富に含まれているようだが、それ以外に強力な依存物質めいたものが混ざっている。トゥルースメモリの力で抵抗しているが、それがなければ彼女は、徹の元へは帰れなくなっていただろう。
 女が、リンカのズボンの股間に手を伸ばす。

「…あら、ママのおっぱいで、ここも大きく…大きく…?」

 ところが、目当てのモノが触れない。女の顔が強張った。

「…君、もしかして」

「…っは、隠していて申し訳ありませんでした」

 リンカは、乳首と口の中のミルクを吐き出すと、すっくと立ち上がった。

「私は女です。そして、貴女はガイアメモリ使用者ですね。その身体変化を見るに、使用メモリは『ホルスタイン』か、『ジャージー』か…」

「! お前、一体何者…」

「名もなきフリー記者Bです。そして」

 ブルゾンの内ポケットから、無骨な大型拳銃を抜き、女に向ける。

「ガイアメモリは殲滅します」

「…知られたからには、生かしておけない…!」

 女は、部屋の隅にあるクローゼットに突進した。

「逃しません」ワイヤー

 銀のワイヤーが、彼女の足を絡め取る。しかしその頃には、女の手には、白と黒のガイアメモリが握られていた。丸みを帯びた牛柄の文字で『H』と書かれている。



『ホルスタイン』



 右の乳房を持ち上げ、コネクターにメモリを挿す。すると、その下から更に2つの乳房が生えてきた。全身が白と黒の体毛に覆われ、四肢が分厚い筋肉に覆われていく。
 足に絡まったワイヤーを引きちぎると、牛の怪人は唸った。

「店長の命令だから…ここで、殺す…!」

『Hな誘惑/不本意な仕事』完
そして今夜はここまで

土日の更新はありません

『Hな誘惑/不本意な仕事』完
そして今夜はここまで

土日の更新はありません

『ホルスタインドーパント』

 『ホルスタイン種』の記憶を内包するガイアメモリで、イメージクラブ『天国牧場』のコンパニオンたちが変身したドーパント。全身を白と黒の体毛と分厚い筋肉に覆われ、手足の先には硬い蹄が付いている。パンチの一撃でコンクリートに穴を開け、突進からの頭突きはプレハブ小屋なら簡単に粉砕するほどの威力。また、四つの乳首からはレーザービームめいて母乳を発射することもできる。
 この母乳は普通に飲むこともできる。甘く、栄養満点で、それだけで健康に生命が維持できるという理想的な飲み物だが、その反面強い依存性があり、副作用として飲めば飲むほど幼児退行していくという代物。
 女性がこのメモリを使用すると、人間態においても乳房が異常に発育し、常に母乳を分泌するようになる。この母乳も、ドーパント態で出せるものと同一である。
 ちなみに、類似品に『ジャージー』『ガンジー』『エアシャー』などがある。メモリの概要は殆ど変わらないが、母乳の味が微妙に異なるらしい。

 金村源治郎は、ホームレスである。毎週水曜日に、北風駅前のゴミステーションで空き缶を漁っては、ゴミ袋に詰めて自転車に載せ、業者に売って生計を立てている。
 数年前まで、彼は風都の工業地帯で町工場を営んでいた。風都タワー再建の際には、彼の作る部品が必要とされ、大いに潤ったりもした。しかし、風都タワー再建は、同時に風力発電の技術革新をももたらした。その結果、革新に追いつけなかった彼の工場は売上を落とし、遂には廃業にまで至ってしまった。妻とはとうに死に別れ、子供も独立した後だったのが幸いだった。全てを失った彼は、齢六十にして路上に暮らすことを選んだのであった。

 さて、水曜日。仕事に向かう人の波を尻目に、彼はゴミ捨て場を漁る。

「源さん、調子はどうだい」

「あんま、良くねえなぁ」

 『同業者』の問いかけに、溜め息で答える。

「近頃は、コーヒーさえペットボトルだ」

「じゃあ、ペットボトルに鞍替えするべ」

「…」

 金村は黙り込む。蓋だラベルだ、面倒臭い。単価が安い。色々言い訳は浮かぶが、彼が空き缶にこだわるのは、手に触れた金属の心地よい冷たさから、どうしても離れ難かったからだった。

「…今日は、こんなもんだな。ああ、またカツ丼が喰いてぇなぁ」

 大きく膨らんだゴミ袋を2つ抱えて、同業者が去っていく。何とか言う記者から、協力の礼に貰った1万円で食べた、チェーン店のカツ丼の味が忘れられないらしい。
 金村は袋の口を縛ると、立ち上がった。まだ袋に余裕はあるが、詰めるものが見当たらなかった。



「…」

 業者の事務所を出た彼は、しょんぼりと掌の500円玉を見つめていた。何とか買い物はできるだろうが、どうにも食欲が無い。
 どうしようか考えあぐねていると、目の前にバスが停まった。どうやら、ここはバス停だったようだ。
 目の前で、ドアが開く。無視して歩き出そうとして、ふと足を止める。

「…あい、ごめんよ」

 独り言のように断ると、彼は高いステップを上り、バスの車内に乗り込んだのであった。




 井野定は、背丈より高い植物が生い茂る室内で、黙って立ち尽くしていた。
 ここは、かつては母神教本拠地の最奥部にある、教会めいた聖堂であった。しかし今、その面影はない。長椅子や床の一部は、仮面ライダーに人命救助マシンの材料として持ち去られ、床一面には未知のシダめいた植物が生い茂っている。
 唯一、植物が途切れているのは、祭壇の中央。そこには、一人の女が両手を広げて、真っ直ぐに宙に浮かんでいる。服の類を一切身に付けていない彼女の肌には、凄まじい量の謎の文字や、天体、植物、人間を描いた挿絵が、高速で流れていた。その頭上には、不気味な顔の付いた球体が浮遊し、青と白の光を放っている。そして、彼女の周囲には、透き通ったカプセルめいた物体が並んでおり、球体と未知の植物の茎で接続されていた。
 今、並んでいるカプセルは3つ。薄緑色の液体を通して見えるのは、2人の女と、1個のガイアメモリ。一人は、待ち望んだ『お母様』こと、成瀬ヨシノ。そして、時折指や瞼を動かし、今にも誕生を迎えそうな、もう一人の女は…

「…」

 井野の顔が、苦々しく歪む。しかしその目には、次第に奇妙な光が灯ってきた。
 そして、その隣では朝塚ユウダイが、同じく目の前の培養槽を見守っていた。井野と違い、彼の顔は歓喜と期待に溢れていた。
 ユウダイが、呟いた。

「…おかえり、『お姉ちゃん』」



 その日、徹は北風町のゴミ処理施設にいた。取材のためではない。アルバイトのためだ。
 リンカが財団を退職したことで、資金面での支援が絶たれた。彼女に言わせれば現在は徹の収入で生活しているとのことだが、実のところ彼のバイト代や安い原稿料で2人分の生活は賄えず、財団にいた頃のリンカの貯金を切り崩しているのであった。
 近頃は、仮面ライダーとしての戦いに多くの時間を割いている。今まで続けていたアルバイトも、殆ど辞めてしまった。それでも彼女に頼りっぱなしはいけないと、日雇いの仕事を見つけては汗を流しているのであった。

 この日の仕事は、ゴミの積み下ろし。収集車から施設に入り口に、持ってきたゴミを下ろす作業であった。

「お疲れ様でしたー」

 給料袋を受け取り、散り散りになる労働者たち。午前中だけとは言え、慣れない肉体労働に疲れ果てた徹は、帰りの送迎バスの中でうとうとしていた。

「…」

 母神教との戦いに身を投じてから、彼には休む暇がない。警察の一部にしか正体を明かしていない彼は、周りの人に悟られないよう、できる限り普段どおりの生活を心がけていた。
 しかし、戦いは激しさを増す一方だ。立ち向かうべき敵の数まで増えた。身も心も、既に限界に近かった。

「…っ!?」

 突然、バスが大きく揺れた。思わず目を覚ましたが、バスは特に何か起こったでもなく、変わらず進んでいく。
 石でも踏んだのだろう。この辺りは山道で、路面が良くない。
 再びまどろみに帰ろうとした徹の目に、遠くの産廃の廃棄場が映った。そこで何かが動いたような気がしたが、きっと気のせいだろう。




「いつになったら、仮面ライダーと戦うんですか!」

 小崎が、ガイキに詰め寄った。ガイキは退屈そうにソファに沈んだまま、欠伸混じりに一蹴した。

「アレは後回しだ。今はマザードーパントの確保が優先だ」

「でも、あいつは先生を…」

「やられた先生が悪い」

「!? この…」

 焦げ茶色のメモリを抜く小崎。
 そこへ、かなえが駆け寄ってきた。

「小崎君、やめて!」

「速水さん! こいつは、先生を侮辱した!」

「ねえ、落ち着いて。…確かに、メモリブレイクされちゃったけど、先生はまだ生きてる。やるべきことをこなしていけば、きっとまた先生にも会えるわ」

「…」

「ね? 先生も言ってたでしょ。投げ出さず、一歩一歩進むのが一番の近道だって」

「…っ」

 小崎は歯ぎしりすると、踵を返して去っていった。
 残されたかなえは、ガイキの隣に腰を下ろした。

「…小崎君のこと、悪く思わないでください。彼、先生のことを誰よりも尊敬してたから」

「思わねえよ。興味無え」

 そこまで言って、軽く咳き込む。気道が塞がるほどの大火傷を負った彼だが、それも1日足らずで喋れるまでに回復した。それでも、まだ少し咳が出るようだ。

「…先生の言う通り、目的に向かって着実に進んでるんだ。あくまで仕事中だからな。要らねえ危険は抱え込まねえに限る」

「…」

 静かに、彼の言葉に耳を傾けるかなえ。その頬が、微かに朱い。
 それを知ってか知らずか、ガイキも普段より饒舌だ。

「だが…手は打ってある。元はマザードーパントを引きずり出すための罠だったが、そのまま仮面ライダーにも使える」

「それは、どんな?」

「使えばどうしようもなく目立っちまう、迷惑なメモリさ。まさか、第一弾のオーケストラで本命が釣れるとは思ってなかったが…残ったやつらも、有効に活用するとしよう。そうだな…」

 虚空を見つめ、呟く。

「…そろそろ、『アレ』が動き出す頃かもな」

今日はここまで

ゆるくない募
でっかくなるドーパント




「こ、こうなったら…」

「いや、待て」

 懐に手を入れかけた徹を、翔太郎が止めた。彼は『フッキー』の方を向くと、慎重に身を乗り出した。
 『フッキー』は、長い首だけを水面から出して、じっとボートの上の2人を見ていた。大きな口からはずらりと並んだ鋭い歯が覗き、太い首はいかにも力強い印象であるが、ぎょろりと丸い目は、どこか愛らしささえ感じる。

「あ…あんたが、フッキーか」

「こいつ、襲ってこない…?」

「あんたに訊きたいことがある!」

 そう言うと翔太郎は、懐から一枚の写真を取り出した。
 そこに写っていたのは、一人の中年男性。冒険家のような格好をしている。

「この男を知らないか…」

 ところが、写真を見た瞬間、フッキーの目つきが変わった。突然首を大きく振り上げると、ボートに向かって振り下ろしたのだ。

「うわああっ!?」

「危ないっ!」

 急いでオールを漕ぎ、距離を取ろうとする徹。しかし、水面を叩く衝撃だけで、ボートが大きく揺れた。

「左さん、逃げないと…」

「分かってる。ただ、湖の真ん中じゃ…」バット

「!? ガイアメモリ…?」 

 翔太郎が青いメモリをカメラに挿し込むと、何とカメラがコウモリ型ロボットに変形し、空に跳び上がった。
 更に片腕を突き出すと、黄色いデジタル時計からワイヤーが伸び、コウモリにくっついた。
 コウモリは一直線に岸まで飛ぶと、近くにあった気にワイヤーを巻き付けた

「しっかり掴まってろよ…」

 猛スピードでワイヤーが巻き取られる。引っ張られて、ボートも岸へと近づいて行く。

「よし、もうすぐで…」

「…左さん! 後ろ!」

 振り返ると、追いかけてきたフッキーが、巨大な口を開けてボートに噛みつこうとしていた。

「力野さん、飛べーっ!!」

「うおおおーっ!!」

 ボートの底を蹴り、ジャンプする。翔太郎が徹の肩を掴むと、ワイヤーに引かれてどうにか陸地まで辿り着いた。

「痛た…」

「た、助かった…」

 立ち上がる徹。そして、気付く。
 いつの間にか湖畔には多くの人がいて、水中に消えゆくフッキーにカメラやスマートフォンを向けていた。



「こ、この娘は…?」

「説明する時間も義理もありません」ワイヤー

 銃から銀色のワイヤーが放たれる。それを軽々と躱すと、ミヅキはリンカに接近した。

「ときめ、手伝って! スタッグフォンぐらいは持っているでしょう?」

「!! 何でわたしが、コレ持ってるって…」スタッグ

 やや時代遅れな二つ折り式携帯電話に、ピンク色の疑似メモリを装填する。すると携帯電話がクワガタムシ型ロボットに変形し、ミヅキに突進を仕掛けた。
 ところが、それは宙で撃ち落とされた。

「ああっ!」

 体当たりでスタッグを撃墜した、銀色の影が、ミヅキの前に庇うように立つ。

「メモコーン…それ以上私たちを阻むなら、破壊します」

「! あの時のユニコーン君…じゃあ、この娘が…『アリス』」

「面識があるのですか? …っ!」

 回し蹴りを銃床で受ける。二度目の蹴りをバック転で躱すと、空中でワイヤーを放った。

「…」

 跳び上がって躱すミヅキ。ときめは撃ち落とされたスタッグフォンを拾うと、番号をプッシュした。

「もしもし!? …助けて、翔太郎!!」



 2人の男が駆けつけた時、ミヅキは長剣を構え、ときめとリンカを追い詰めるところであった。

「リンカ! …ミヅキ!?」

「ときめ、大丈夫か!?」

「うん! それより、この娘は…」

「…これは、俺たちの問題だ。悪いが、手出ししないで欲しい」

 徹が、ミヅキの前に立ち塞がる。
 しかし、翔太郎は従わず、徹の隣に立った。

「聞こえなかったのかよ」

「悪いな。助手に手出しされて、黙っていられる俺じゃねえんだ」

 そう言うと彼は…懐から、黒いガイアメモリを取り出した。



『ジョーカー』



「!? 左さん…あんた『も』」

「…『も』?」

 徹は、ポケットから銀のガイアメモリを抜き、掲げた。一歩後ろで、リンカも金のメモリを抜く。



『ファンタジー』『トゥルース』



「ドライバー…しかも、ダブルの? 何でリンカさんが」

「「変身!」」

「変身!」



『サイクロン』『ジョーカー』

『トゥルース』『ファンタジー』



『…ま、マジで』

『まさか、本当に…』



『『あんたも、仮面ライダーだったのか!?』』

『Pの願い/フッキーを探せ!?』完

『…っ!』

 敵が去った途端に、先程の違和感がぶり返してきた。

『クソッ…これは…』

 ドライバーに手をかけた時、彼の中でリンカが叫んだ。

”変身を解除しないで! …これはトゥルースメモリでも無効化出来ません”

『何でだ?』

”これは…この感情は…”

『この感情は?』

”…偽りでは、ありません”

『…』

 デュアルは辺りを見回すと、マントを広げ空へ飛び上がった。



 使ったことの無いほどにメモリの能力を駆使し、誰にも見られないよう空や地中を進み、ようやく部屋にたどり着いたデュアルは、ドライバーからメモリを抜いた。

「っ、はあっ…!」

「と、徹…」

 上気し、蕩けきった目のリンカ。それを見た瞬間、徹は彼女を床に押し倒した。

「はっ、リンカ、りんかっ」

 引き裂くようにシャツを脱がせる。リンカも、徹の服を力づくで剥ぎ取っていく。
 そのまま2人は、もつれ合うように朝まで求めあった。




「くっ…はぁっ…」

「…」

 少女を背中に庇う、傷だらけのフィリップ。満身創痍になりながらも、彼は諦めずに立ち上がる。
 女は、微笑みを絶やさずに彼を追い詰める。

「諦めなさい。母の腕に」

「うるさい!」

 震える手を拳に固め、女を睨む。
 女の身体が、白いマリア像めいた姿へと変わる。

「!」

「来なさい…そして…生まれ変わりなさい!」

 女が片手を上げ、そして振り下ろそうとした、その時

「…!?」

「これは…」

 周囲を漂う本棚から、一冊の本が飛来し、2人の間に割り込んだ。
 分厚い、大きな本。表紙には『MOTHER』の文字。

「『母』…」

 かつてこの本には、何重にも鎖が巻かれ、硬く封印が施されていた。しかし、今は違う。
 家族を。そして母を。彼自身が受け入れたことで、記憶の封印は解かれた。

 故に。

「…」

 本がひとりでに開き、光が溢れ出る。

「…あなたは」

 その光の中から、『彼女』は現れた。
 黒いコートに身を包み、つば広の帽子を目深に被り、白い包帯で顔を覆った、一人の女。

「…そうだ。僕にも、母親がいる。お前じゃない、母さんがいる…!」

 フィリップが断じる。
 黒コートの女が、拳銃を抜いた。

『ボム』

”来人”

 赤いガイアメモリを銃に装填しながら、彼女は言った。

”語りかけなさい。彼女に…かつて『あの人』が、お前にそうしたように”

「…!」

 フィリップは…園咲来人は、力強く頷いた。

『肥大するL/偽りなき感情』完

今夜はここまで

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

 長椅子に仰向けに転がしたユウダイの上で、激しく腰を振っていたナギは、不意にそこから飛び降りると、喚いた。

「あ゛あ゛ああっ! 全っっっ然っ! 感じないっっ!!」

 そこへ、井野が入ってきた。彼は足音荒く彼女に歩み寄ると、突然その胸ぐらを掴んだ。

「貴様! よくも…」

 その顔は、微かに上気している。

「はぁんっ…なぁに、定くぅん…」

 粘ついた視線を向ける彼女に、彼は怒鳴った。

「よ、よくも…よくも、あんな夢を…」

「あたしは、あなたにとって『気持ちいい』夢を見せただけ…あれは、あなたの望みなのよぉ…」

「っ…」

 ナギはおもむろに彼の股間を掴むと、祭壇を指差した。

「ほぉら…お望みのものが、あそこに」

 指差す先には、祭壇に腰掛けるマザードーパントと、その胸にしがみついて乳を吸う、裸の女。井野の実の妹、遊香。

「ふ、ふざけるな…」

「良いからヤれよ!」

 ナギが、ヒステリックに怒鳴った。

「妹ちゃんのマンコにチンポぶち込んで、バコバコやってビューってザーメン出せよ! 気持ち良くなれよ! あたしはもう、気持ち良くなれないんだよぉ…」

 大声で泣き出す、半裸の女。
 泣き喚くナギの目つきが、だんだんとおかしくなってきた。

「そう…そうよぉ…自分が気持ち良くなれないんだからぁ…みんなに気持ち良いとこ、見せてもらわなきゃ…」

 その視線が、聖堂の隅で座り込むミヅキを捉えた。

「ミ・ヅ・キ・ちゃぁ~ん!!」

「…」

 ミヅキのもとへ歩み寄り、肩を掴んで立たせる。

「付いてきてよ」

「…」

 何も言わず、されるがままのミヅキ。井野はマザードーパントの方を見た。

「おい、お母様! こいつをどうにかしてくれよ…」

「…」

 しかし、『お母様』は取り合わない。井野は溜め息を吐いた。
 そんな彼らを尻目に、ナギはミヅキを連れて、どこかへと去ってしまった。




 明け方になって、ようやく徹とリンカは正気を取り戻した。

「はぁ…っく」

 震える手で、額の汗を拭う。リンカは床の上で、ぐったりと倒れたままだ。

「な…何だったんだ、アレは…」

 リビドードーパントが吐き出した、怪しい霧。それを浴びた瞬間、湧き上がってきた強い衝動。同じものを、リンカも感じているようであった。

「リンカ…大丈夫か」

「…はい」

 リンカがすっくと起き上がった。彼女は裸のまま立ち上がると、言った。

「ようやく頭がすっきりしました。シャワーを浴びてきます」

「あ、ああ」

 浴室に向かうリンカ。引き締まった尻が揺れるのを見て、さんざんぶち撒けたはずの衝動がまた湧き上がってくる気がして、彼は慌てて目を逸らした。



 服を着直しながら、リンカがシャワーから上がるのを待っていると、突然携帯電話が鳴った。しかも、徹のではなく、リンカのものだ。

 流石に、勝手に出るわけにはいかない。彼は震える携帯を拾い上げると、浴室の扉に向かって言った。

「リンカ、電話が鳴ってるぞ!」

「…失礼」

 いきなり扉が開いて、リンカが腕を伸ばした。彼女は電話を受け取ると、耳に当てた。

「もしもし、円城寺です。いつもお世話になってます。…はい、断り無く遅刻してしまい、申し訳…はい?」

「…おっちゃん?」

 漏れ聞こえるのは、『ばそ風北』の店主の声だ。今はリンカがそこでアルバイトをしている。出勤の確認だろうか。

「…分かりました。準備でき次第、すぐに行きます」

 電話を切り、徹に返す。

「…お。おう」

 まごつきながらも受け取る徹。その視線は、濡れた髪や、白いうなじや、控えめな乳房などにちらちらと向いている。
 彼女は、そんな彼の顔を見て、彼のズボンの股間を見て、それから

「続きは帰ってから、です」

 と、すげなく言って浴室の扉を締めた。
 徹はしょんぼりと居間に戻った。

一旦区切る




『アリス』



 無数のトランプカードが、旋風と共にミヅキの体を覆う。それはドレスめいた装甲へと変わり、やがて彼女は赤と白と黒の仮面ライダーとなった。

『…これが、新しいあたし』

「ミヅキちゃん…」

 リビドードーパントが、ゆらりとミヅキに…仮面ライダーアリスに、肉薄する。

『行くよ!!』

 胸の前で交差した両手に、2挺の拳銃が出現した。片方は紫で、片方は赤。紫の銃を向けると、無数の弾丸が放たれた。

『たあっ!』

「んあああっっ!!」

 撃たれながらも前進するドーパント。アリスも、引き金を引きながら走り出す。
 2つのキックが、交差した。

『はあっ! やあっ!』

「んんっ! あはぁっ!」

 しなやかで鋭い攻防。鞭のようにしなる連撃を掻い潜ると、アリスは胸元に赤い銃を向けた。

『これでっ…!』

「んはあぁぁああっっ!!」

 灼熱の弾丸が、ドーパントの身体を吹き飛ばす。

 アリスはドライバーからメモリを抜くと、赤い銃のスロットに装填した。



『アリス!』



 右の踵に赤い銃を。左の踵に紫の銃を。それぞれ装着する。



『マキシマムドライブ』



『はあぁぁぁぁ…』

 アリスは助走を付けると、空高く跳躍した。そして、左足を敵に向けて突き出した。

『アリス・イン……』

 無数の弾丸が、吹き飛ぶドーパントの身体を空中に縫い止める。
 アリスは空中で身体を捻りながら、右足を高く突き上げた。その、赤い銃口に、色とりどりの巨大な光弾が膨れ上がる。
 重力に任せて落下しながら、アリスはそれを、リビドードーパントに___

『…ワンダーランドっっ!!!』

 ___叩きつけた。

「んああああああっっっ!!!!」

 絶叫しながら光弾に灼かれるドーパント。その身体が、ピンク色の靄に包まれ…消えた。

『肥大するL/少女は戦う』完

今夜はここまで

『仮面ライダーアリス』

 『少女』の記憶を内包するガイアメモリで、兎ノ原美月が変身した姿。トランプと兎を混ぜた意匠の、ドレスめいた装甲と仮面を纏い、ラビットドーパント時代の足技と、性質の異なる二挺の拳銃『マッドハッター』『ハートクイーン』を使って戦う。
 ドミネーターに殺害されたミヅキであったが、その魂はラビットメモリと強く癒着しており、メモリブレイクと同時に彼女の自我は、メモリに書き込まれた兎の記憶に引き摺られて『地球の本棚』へ辿り着いた。そこで記憶を失って彷徨っていた彼女を見つけたのが、青年フィリップであった。同時期にメモコーンに授けられたラビットメモリの残骸から、彼は彼女の性質を見抜き、彼女の魂を身体へ返すことを考えた。
 彼は『不思議の国のアリス』を軸に、ラビットメモリから抽出した記憶、そして囚われた魂を新たな筐体に移し、次世代型メモリ『アリスメモリ』を完成させた。最後にサイクロンメモリを通してミヅキの自我を書き込まれたアリスメモリは、メモコーンによって身体だけの彼女の手に渡った。魂と自我が身体へ戻ったことでミヅキは生前の記憶をも取り戻し、完全な復活を遂げたのであった。
 必殺技は『アリス・イン・ワンダーランド』。銃を両足に装着し、マッドハッターから放たれる無数の弾丸で敵の身体を捕らえ、ハートクイーンの強烈な光弾を叩き込む。
 メモリの色はピンク。ワンピースを着た駆ける少女の横姿が描かれ、翻るスカートが『A』の文字を象っている。かつて悪魔と呼ばれた男が、誰かを救うために創った、最初で最後のメモリである。

「遊香はどこに行った!?」

 ナギの胸ぐらを掴んで井野は怒鳴った。

「さぁ~? あたし、知らなぁ~い」

「ふざけるな! やっと意識が戻ったと思ったら…おい、お母様!」

 祭壇に目を向ける。祭壇は分厚いヴェールで閉じられていて、その向こうで一人分の影が、微動だにせず立っているのが見える。

「何で遊香を逃したんだ! 何で、遊香は…」

「生き返っても、気持ちいいこと無いって思ったんじゃないのぉ?」

「そんなはずあるか! 遊香は、本当は死ぬ必要なんて無かったんだ。折角生き返れたのに…」

「…もう、良くない?」

 聖堂の隅に座っていたユウダイが、おもむろに口を開いた。

「遊香さんが必要なのは、お母様を生き返らせるためでしょ? もうお母様は帰ってきたんだから、後は自由にさせてあげたら」

「…っ」

 井野は歯軋りすると、冷淡な彼らに背を向けた。そして足音荒く、聖堂を後にした。

・・・

「多分、知ってると思います。わたし、仕事が辛くてビルから飛び降りて…一度、死にました」

「でも、気がついたら薄暗い部屋にいて…そこに、兄もいました。それに『お母様』も」

「最初は喜んだんですけど…すぐに、自分が生き返った理由を…そして、兄がしてきたことを知って…それで怖くなって、逃げてきました」

「それでも…あんなことをしたけど…でも、わたしの兄だから…家族だから…お願いです、どうか、警察だけは」

・・・

「実は、ちょっとだけ覚えていることがあるんだよね~…」

 レモネードをストローでかき混ぜながら、ミヅキが口を開いた。

「覚えてるっていうか、思い出したっていうか…多分、『身体』の方が覚えてたんだと思うんだけど」

「どんなことを?」

 徹が尋ねた。
 ここは、北風駅前のカフェ。一度リンカと来たことのある店だ。今、奥のテーブル席にミヅキが、その向かいに徹とリンカが、隣り合って座っていた。

「変な、あったかい液体に浸かってたの。それで、頭の上で草の根みたいなのがうねうねしてた」

「あの時ガイキが、井野遊香に使用したメモリは『ヴォイニッチ』と言うものでした」

 リンカが口を挟む。

「刻まれた記憶は『ヴォイニッチ手稿』」

「あの、未解読の言語で書かれてるオカルト書か? どんな力があるんだ」

「分かりません。或いは、最初から意味など無いのかも」

「だけど、現にそれで成瀬とミヅキは生き返ったわけで」

「いえ。『意味のない』ことに意味がある。ということです」

「?」

 首をひねる徹に、リンカは言った。

「…以前、成瀬と共に『地球の本棚』に入った、そう言いましたね?」

「ああ」

「であるならば、成瀬…マザードーパントには、地球の記憶を改竄する能力がある可能性があります。最初から意味のないヴォイニッチ手稿の記憶を白紙のノート代わりにして、自身の都合の良い能力を書き加えたのかも」

「え~、じゃあ、いよいよメモリの能力はお母様しか知らないことに…」

 そこでミヅキは、ふと口をつぐんだ。窓の外をちらりと見て、呟く。

「何か、外がうるさくない…?」

 徹とリンカも、外を見て…弾かれたように立ち上がった。
 道路に、一人の警官が倒れていた。そこに、剣と斧を持ってゆっくりと迫るのは、青銅の騎士。

「ま…不味い! リンカ、悪いけど会計…」

「私も出ないと! ミヅキ、これで会計を」

「えっ? ちょ、待ってよ!」

 ミヅキに5千円札を押し付けると、リンカと徹は喫茶店を飛び出し、ドライバーを身に着けた。

「「変身!」」トゥルース! ファンタジー!

・・・

「遊香を! 遊香を出せぇっ!」

 倒れた警官に向かって、青銅の剣を振りかぶるネブラドーパント。そこへ、金色の大剣が飛来し、2者の間に刺さった。

『そこまでだ!』

「! 仮面ライダー…」

 憎々しげに唸るネブラ、井野。彼は警官から仮面ライダーに標的を変えると、剣と斧で斬りかかってきた。

「はあっ! せえっ!」

『くっ』

 地面から大剣を抜き、防御するデュアル。刃がぶつかると、奇妙な重圧が彼らを襲った。

”時間操作です。直接攻撃は、望ましくない”

『みたいだな。そらっ!』

 剣を乱暴に叩きつけると柄から手を離、マントを広げ後ろへと飛び下がった。そうして代わりにXマグナムを抜くと、次々に金色の光弾を撃ち込んだ。

「くそ! 小賢しい、このっ!」

 武器で光弾を撃ち落とすネブラ。

『いい加減、諦めたらどうだ! 母神教もお母様も、何度蘇ろうが、何度でも俺たちが倒す!』

「ふざけるな! 折角、遊香が帰ってきたのに…また、一緒に暮らせるのに…」

 言いかけたその言葉が、ふと止まった。
 仮面越しの彼の視線を追って、デュアルは慌てて銃撃を止めた。

『ミヅキ! 危ないから下がってろ!』

「…ミヅキ…何故、お前が」

「久し振り、井野さん」

 気まずそうに挨拶するミヅキ。デュアルは彼女を庇うように立つと、言った。

『ミヅキは、罪を償うと決めたんだ』

「…ふざけるな」

 震える声で、ネブラが呟く。

「ふざけるな…ふざけるな! 元はと言えば、お前が…お前が、おれの人生を! お前さえいなければ!!」

 叫びながら、彼は剣を振りかざして突進してきた。

『! …っく』

 両腕で斬撃を受け止めるデュアル。加速された刃が食い込み、思わず呻いた。
 ネブラは、怒りに任せて武器を振り回す。

「お前が! お前のせいで! お前のせいで、またメモリを使って…お、お前のせいで、おれは…」

 剣を振り下ろし、呟く。

「…お母様を、知ってしまった」

「井野さん…やり直そう。あたしにできたんだから、きっと」

「…そうだ」

 不意に、ぞっとするほど冷たい声で、ネブラ…井野が、呟いた。

「そうだ…初めから…いなければ良かったんだ。お前も…遊香の会社も、仮面ライダーも、お母様も…」

『井野…』

「…この、世界も。おれと、遊香だけで良かったんだ…!」

『井野!?』

 哄笑しながら、両手を空に掲げる井野。その頭上に突如、巨大な青銅の円盤が出現した。

「かっはははははっ!! そうだ! この世界! 遊香以外の世界を、全て削り取ってしまえば…」

 円盤に、金色の線が走り…周囲に、無数の熱線を放ち始めた。

『やめろ!!』

「…この世には、おれと、遊香だけだ」

 デュアルは両手を掲げ、球形のバリアを張り巡らせる。間一髪で無差別殺戮光線を防ぐと、彼は叫んだ。

『ミヅキ! 周りの人を避難させるんだ! …それから、遊香って人は、絶対にこっちに連れてくるな!』

「わ、分かった!」

 バリアをすり抜け、ミヅキが叫びながら人々を誘導し始める。

”…ネブラメモリに、完全に理性を飲み込まれたようです”

『ああ…一刻も早く、俺たちでこいつを止めるぞ!』

・・・

「…遊香さん、お茶でも」

「あ、ありがとうございます…」

 坂間から湯呑を受け取ると、遊香はおずおずと口を付けた。
 彼が遊香を拾ってから、もうすぐ1週間になる。独り身なのを良いことに自宅のアパートに匿ってしまったことを、彼は後悔していた。
 一刻も早く、植木警部や警察に引き渡すべきだ。しかし、それでは…

「…!」

 不意に彼の携帯電話が鳴った。画面には『植木警部』。痛む心臓を押さえながら、彼は電話を耳に当てた。

「はい?」

”駅前に、ドーパントだ。…井野だ”

「!! …す、すぐに」

 遊香をちらりと伺い、頷く。
 通話を切ると、遊香が静かに問うた。

「兄ですか」

「…はぁ」

「お願いです!」

 突然、遊香は坂間の腕を掴んだ。そうして、涙を流しながら訴えた。

「兄に会ったら…わたしは…遊香は、死んだと…また自殺したと…伝えてください」

「!!」

 彼女の意図を察した瞬間、彼は彼女の手を握り返した。

「…死んではいけない」

 彼女は、生きている。だが、兄への伝言を、彼女は真実にする気だ。すなわち

「お願い! 死なせて! わたしのせいで、兄は狂ってしまったの…だから」

「君は悪くない!」

 坂間は、泣き叫ぶ遊香を抱きしめた。

「お願い、行って! もう良いの…早く、兄を逮捕して!」

「駄目だ。君を一人にはしない…」

 坂間の携帯電話が、再び鳴る。それを止めようとした、その時




「…みぃ〜つけ…たぁっ!」


今夜はここまで

風都探偵の最新刊が出て、ようやくモチベが戻ってきました
カギカッコの使い分けとか結構忘れてるわ…

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