【シャニマス】お菓子、一本分の距離【福丸小糸】【浅倉透】 (14)

小糸ちゃんお誕生日おめでとうSSです マジめでたい おめでとう
日付が変わってる? だから?

・純粋に百合
・こいとお
・濃厚接触

などにご注意ください

過去シャニ作
【シャニマス】P「そのとおまど、待ったァー!」透・円香「「!?」」
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「誕生日プレゼントさ、何がいい?」

「えっ」

 そんなことを尋ねてきた、浅倉透。
 彼女の家でふたりきりになって、ベッドの上で並んで座って、楽しくお話をしていた……と思ったら、そんなことを言われてしまった。
 さすがにさすがの福丸小糸でも、ちょっと呆れてしまう。

「と、透ちゃん……。わたしの誕生日、今日だよ」

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「え、うん。だから、何がいいかなーって」

 透が悪びれた様子もなく、そんなことを言う。
 ズレた人だとは思っていたけど、ここまでだったとは。
 ちょっと怒っても……たぶん許されるはずだ。

「きょ、今日じゃ遅いの! そういうのはちゃんと用意しておかなきゃ!」

「あー……やっぱり?」

「やっぱり、じゃないでしょ! もう……」

「ごめん」

 ちょっとだけ真剣に怒っているのに、透の顔はいつもの表情のままで、それがちょっと嫌だった。

「えっと。ちゃんと用意しようと思ったんだけど、何を買えばいいのかわかんなくて……」

「去年はちゃんとプレゼントをくれたのに?」

「そうなんだけど……うん」

 何かを言いかけてやめた透が、ごまかすように顔をそらす。
 プレゼントを用意しなかったのがうしろめたいから、というのはたぶんある。
 でも、それ以上に透は何かを恥ずかしがってるように見える。
 何が恥ずかしいのかはよくわからなかった。プレゼントを用意しなかったこと自体が恥ずかしいわけでは、ない気がする。
 小糸としてはなんだかもやもやするし、面白くない。

「……そうなんだけど? どうしたの?」

「……なんでもない」

 はあ、と小糸はためいきをつく。

 自分の17歳の誕生日に、二人きりで透の家で過ごせることになって。
 どんなプレゼントを贈ってもらえるんだろうって、せっかく楽しみにしていたのに。
 ちょっとくらい拗ねたって……許されると思う。

「……わたしのプレゼントは、なんでもないってこと?」

 すこし皮肉っぽく言ってみると、驚いた顔で透がこっちを向いた。

「えっ、違う……ごめん」

 その真剣な顔に、小糸のほうも驚いてしまう。

「あ、あの、わたしも……ごめんなさい」

「私、そういうつもりじゃなくって……」

 透の言葉が尻すぼみに消えて、戸惑ったように目を泳がせる。自分が語るべき言葉を、探しているように。
 やってしまった。

 ……いくら楽しみにしていたからといって、誕生日プレゼントを用意してもらえなかったから怒る、というのは子供っぽいわがままだったかもしれない。
 当日に何が欲しいのかを聞くのは非常識であっても、透には何かを贈りたいという気持ちはあったのに。
 自分は、わがままで、透の気持ちを傷つけるようなことを言ってしまった。
 その恥ずかしさに小糸はうつむいてしまう。

「……ごめんね。わたし、わがままで……」

「そうじゃないよ、小糸ちゃん。私がわかってなかった。これじゃ、だめなんだ」

 透が、小糸の手をにぎった。
 ぎゅっ、と、少し冷たいけれどやわらかな感触が小糸の指をつつむ。

「ぴえっ!」

 この不意打ちに、小糸はどぎまぎしてしまう。こんな風に、急に手を握られるのは初めてだった。
 透は真剣な面持ちで、小糸に顔を近づける。見たことのない顔をしている透。
 とっくに見慣れているはずなのに、知らない表情をしているだけでこれほどに胸が高鳴ってしまうのか。
 固まってしまった小糸の様子にかまうそぶりもなく、透はまっすぐに小糸を見て、告げる。

「初めて、だったから」

「は、はじめて、って?」

 今までにない雰囲気をまとう透にどきどきしながらも、小糸は疑問を抱く。
 何度も自分は、透にプレゼントをもらっているのに……。
 透は静かに首を振る。

「……恋人に贈る、プレゼントだから」

「……あ……」

 恋人。
 そうだ。
 小糸と透は、恋人同士になったから。だから透は、何を贈ればいいのかわからなくなってしまったのだろうか。
 ……ずっと幼馴染で、親友で、同じユニットのメンバーで。
 そして、それ以上に特別な関係を望んで、告白をしたのは自分なのに。
 あまりにも近い場所にずっといた彼女。その距離を、自分も透も測りまちがってしまっていたのかもしれない。

「ごめん。ダメな言い訳だって思う」

「……ううん」

 きっと透は真剣に考えてくれたのだろう。
 自分が……福丸小糸が何を贈られて喜ぶのか。
 そして、恋人になってから初めての誕生日に、初めて贈るのにふさわしい品物とは、何なのかを。
 何でも器用にこなせてしまうはずの幼馴染が、今は少し不器用で……何よりもいとおしく思える。

「こういうの、初めてで……。恥ずかしがっちゃってごめんね」

「い、いいよ……」

 もう怒りも戸惑いも、小糸の中からは溶けて消えてしまった。その代わりに湧き出すものがあって、それがそのまま言葉に変わる。

「あの、ありがとう、透ちゃん」

「え?」

 透が謝っていたはずが、なぜか小糸にお礼を言われてしまった。その理由がわからないようで、透がきょとんとした顔をする。見慣れた顔だった。
 真剣な顔からいつもの表情に戻ったギャップがおかしくて、小糸は思わず噴出してしまう。
 透はますます不思議そうだ。

「ご、ごめん、笑っちゃった」

「私、面白いこと言った……?」

「ちがうよ。……透ちゃんの気持ち、嬉しくて」

 透はやっぱり、不思議そうな顔をしている。
 ぼーっとしていて、何を考えてるかわからない。そんな風に思われがち。
 でも、本当は繊細で敏感で、誰よりも友達想い。そして、恋人想い。
 そういうひとなのに、こういう機微にはまったくうとい。
 そんな透が愛しくて、小糸は顔をゆるませてしまう。

「えへへ……嬉しい」

「……プレゼントを用意してなかったのに?」

「うん。変だよね。えへへ……」

「……ちょっとね。ふふっ」

 そんな風に笑う小糸を見て、透も笑う。
 二人は見詰め合って笑いあう。
 こういう時間はこれまでもあったけど、でも、きっとこれまでとは違う。二人の特別な時間になったから。そんな風に小糸は思えた。

 そうしてひとしきり笑ったあと、透は言った。

「小糸ちゃんの誕生日プレゼント、さ。このあと、一緒に買いに行かない?」

「一緒にいくの?」

「うん。そういうのもアリかなって思ってたんだ。二人で選んだほうが特別になるかも……なんてさ」

 プレゼント、何がいい? という言葉の裏には、そういう思惑があったらしい。
 そういう気持ちを素直に口にだせなかったのは……つまり、いま、透は照れている。かわいいな、と思う。
 そんな彼女を見ていると自分もむずむずしてしまう。

「……えへへ。もー、最初からそういう風に言ってよ、透ちゃん!」

 そんな風におどけて、肩を軽く透にぶつけてみせる。

「ふふっ、ごめん」

「いいよ、ありがと」

「だから、まだなんにもあげてないって」

「……そんなことないよ」

「そうなの?」

「うん」

 もういろいろと、もらっちゃった気分。
 幸せそうな小糸に、透も微笑む。

「……でも、やっぱりちゃんと用意したいから。小糸ちゃんが一番ほしいもの、教えてほしい」

「うーん……」

 ほしいもの、か。

 改めて言われて、小糸は自分がほしいと思うものを考える。
 ただ欲しいというだけじゃない。透から贈ってもらえて、一番うれしいもの……。

(もしかしたら、もう手に入っちゃってるのかも)

 そう思って、透が握ったままの自分の手をかるく握り返す。
 透も、また握ってくれて。
 ……ひらめく。
 急速に連鎖する連想が小糸の頭を埋め尽くしてしまう。
 小糸の顔がなぜか赤くなる。今度は透もすぐそれに気づいた。

「どうかした?」

「ぴっ……な、なんでもない……あっ、なんでもなくない……」

「……どっち?」

 えっと、あの、その……もごもごと口ごもる小糸を、透は不思議そうに見つめる。
 やがて、ぎゅ、と小糸が透の手を強く握る。顔を上げて、透の顔をまっすぐに見た。

「あっ、あのね!」

「うん」

「…………ぁ、の……」

 そこで、小糸が止まる。透はやはり、何もわかっていない顔。
 実際には小糸は止まってはいなかった。身体も言葉も静止したまま、すさまじい勢いで脳が高速に計算を行っている。
 新入生総代表を務めたこともある小糸の卓越した頭脳が、この17年の生涯の中で、最高速度で回転した。
 果てることなく続くかと思われた思索も、ついにその果てを迎えた。そして、小糸は全ての答えを得る。得てしまう。

「と、透ちゃん。今日、何の日か知ってる?」

「え、誕生日でしょ。小糸ちゃんの」

「うん、でももう一個あってね……!」

 ベッドから身を乗り出して、自分の鞄を手に取る。名残をおしみながら透から手を離して、鞄を開け。中をさぐってすぐにみつけた。
 小糸が取り出したのは、未開封のポッキーだった。
 透の家へと向かう途中で、コンビニに寄って買ったものだ。

「今日はね、ポッキーの日なんだよ!」

「あー……、あったね。そういうの」

「だから、一緒にたべよ!」

「えっ。いいけど」

 急な成り行きに透は目をぱちぱちさせている。
 小糸はポッキーの紙箱を開けようとするが焦りすぎでうまくいかず、結局力任せに箱をびりびりに破った。
 急にワイルドになった小糸を見て、透は表情に出さないまま驚いている。
 続けて小糸は箱の中にあるビニール袋も破り、何本ものポッキーがあらわになる。そっと一本のポッキーをつまみ、おそるおそるといった面持ちで取り出す。
 たったそれだけの行為に、小糸は身体の震えを必死にこらえている。

「じゃ……、じゃあ、ね! 一緒に食べよ!」

「うん。……大丈夫?」

「へっ、へいき! 全然っ!」

 かつてないほどに緊張した顔で、まったく大丈夫ではなさそうな口調で小糸は言う。そのままなぜか深呼吸をして、よし、と決意する。
 小糸はポッキーを口に運び、チョコレートがコーティングされた側をくわえた。
 そして残りの箱は投げ捨てた。

「あっ」

 小糸は、ポッキーをくわえたまま、ビスケット側を透に向かって突き出す。

「……えっ」

 小糸の顔はかつてないほどに赤く、くわえたお菓子はわずかに震えていた。
 その目だけが、ただひたすらに強い視線を発して透を射抜いている。
 ……透は少しだけ目を上向けて、いまの事態を考えてみた。

「あっ。あー」

 そして納得したように、視線を小糸に戻す。
 わかってくれた、と小糸は確信する。
 自分がほしいものを、わかってくれた。
 だから、小糸はそっと目をつぶって、待つ。胸の音が、彼女に聞こえているかどうかだけが気になっていた。
 透は、ゆっくりと小糸に顔を近づけ……。

「えい」

 突き出たポッキーをつまんで、ぽきっ、と折った。チョコレート部分の半ばから折れる。
 小糸はびっくりして目を開けてしまう。
 見えたのは、折れたお菓子を口に運ぶ透の姿だった。

「うん。おいしい」

「…………」

 小糸は口に残ったポッキーをすすり、ぼりぼりと噛み砕いた。透をにらみつけながら念入りに噛んだ。
 何がおかしいのか、透はそんな小糸を見ていたずらっぽい笑みを浮かべている。
 もう、文句を言ってやらなければ気が済まなかった。

「とお……」

「んっ」

 開きかけた口を、唇がふさぐ。

「ぴぇ」

 透の目が、小糸を見つめていた。
 透の目を、小糸が見ていた。
 ……ほんの少しの永遠みたいな。
 そんな時間が過ぎて、唇が離れる。
 ふ、と互いに息を吐いて。 

「……小糸ちゃんは、おいしかった?」

「…………ばっ、ばかぁ……」

 真っ赤な小糸を見た透が、くすぐったそうに笑う。
 小糸は何も言えないまま透を見つめて、ふと、彼女の頬が赤いことに気づいた。

 思う。
 ……わたし、いまのってもらってないよね。
 ……わたしの誕生日なのに。
 ……わたしだけじゃ、不公平だもん。

 透の両肩をがしりと小糸が掴んだ。
 え、と透が驚いた顔になり。
 そういう顔、もっと見たいな、と。
 小糸は顔を近づけて。

 お菓子一本分の距離が、また縮まる。




 おわり

読んでいただきありがとうございました
こいとおはもうちょっと研究されてもいいテーマなのではないかと思います
いや自分が見ていないところにいっぱいあるのかもしれませんね
ちょっと探してきます
ありがとうございました

たまらん

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