霊能力者「寺生まれの“D”です」(113)

俺の名はD

…そうスレタイでは名乗ったのだが、当然の事がこれはあくまでイニシャルだ

本名は寺田 大輔(てらだ だいすけ)

みんな大好き“Tさん”と名乗っても問題ない名前だが、俺は「破ぁ!」1つで悪霊を倒せるほど強くないなので“D”と名乗っている

まあ、ぶっちゃけ名前の所は霊能力者になるのだから本名とかイニシャルとかは割とどうでもいい話なのだが

因みに寺生まれのTさんとは違い、俺はガッツリこの力を主に使う職業に就いている

別にそういう会社とか組織がある訳じゃなく、個人事務所ではあるのだが

勿論インチキではない

正真正銘のモノホンの悪霊退治だ

そう、例えば

息子さん「クケッ……!クケケケッ!」

母親「先生っ、息子は……!」

霊能力者「任せておいて下さい」

こんな風に

息子さん「クケーッ!」

じたばた

霊能力者「物理的に縛ってるとはいえ、あんまし時間はかけられないね」

母親「息子は助かりますか!?」

霊能力者「んー、多分大丈夫かと。さて、」

助手「“D”先生、どのセットを今回は使いますか」

霊能力者「セットXで」

助手「了解しました」

パカッ

霊能力者「これでよし、と」

母親「あのー、先生……。それは……?」

霊能力者「霧吹きと十字架ですけど」

母親「まあ、それは見れば……」

霊能力者「……まあ、言いたいことは分かりますよ?ただ最近の除霊はマルチにカバーしないとやってられないんですよ」

母親「は、はあ」

霊能力者「助手ー、霧吹き頼む」

助手「はい」

プシャッ

息子さん「ギィィヤァァァァァア!!」

母親「!!」

助手「ただのオリーブオイルなので大丈夫ですよ」

霊能力者「効いたってことはやっぱりかー。やっぱりあれかー」

母親「あれとはなんですか!息子には何がついてるのですか!?」

霊能力者「悪魔です」

母親「」

助手「正確には映画『エクソシスト』に出てくるようなアレです」

霊能力者「コイツがモノホンなら面倒だな。一応本も用意しておいてくれ」

助手「かしこまりました」

母親「あ、悪魔って」

霊能力者「なんか最近外来種的なノリで日本にもきてるみたいなんですよー」

母親「外来種って……」

霊能力者「さっきも言った通りモノホンのガチ悪魔なら俺の“本業”とは少し違う分野になるので面倒ですけど。多分違うと思うので安心してください」

母親「違う?」

息子さん「クケーッ!」

霊能力者「まあ見といて下さい」

助手「先生、全ての準備が整いました」

霊能力者「じゃあやりましょか」

息子さん「クケケケーッ!」

じたばた

霊能力者「オラッ!」

ギンッ

息子さん「グゲッ」

助手「霧吹きもどうぞ」

プシャッ

息子さん「グゲゲッ」

霊能力者「十字架見えてんだろ、名前を言え」

息子さん「グギッ、グギゲゲゲッ……!」

霊能力者「こりゃどっちか分からんなぁ……。助手、」

助手「銀で出来たフォークもどうですか?」

プスッ

息子さん「グゴギィィイイイイイイイ!!」

霊能力者「名前を言えば外に出られるよ?」

息子さん「べ、ベリアル!我が名はベリアルッ!!」

ボワンッ

母親「ひっ!あ、悪魔っ!?」

助手「先生」

霊能力者「……」

ベリアル?「このエクソシスト共め!次は貴様らにとり憑いてやるっ!!」

母親「ひいっ!」バタリッ

助手「先生」

霊能力者「分かってるよ」

ベリアル?「怖気付いたか」

霊能力者「……可哀想だからお前にさいごに1つ教えてやるよ」

ベリアル?「な、何をいきなり」

霊能力者「本物の悪魔は日本語じゃ喋らんぞ」

ベリアル?「え」

霊能力者「破ァッ!」

チュボンッ!

助手「起きて下さい」

母親「あれ?悪魔は……」

霊能力者「あのもどきは無事除霊したので問題はありません」

母親「で、では息子は!」

霊能力者「ご覧の通り」

息子さん「Zzz......」

母親「ああ…!」

霊能力者 「これでもう大丈夫ですよ」

──────
────
──

助手「それにしても最近増えましたね、“悪魔もどき”」

霊能力者「……正直今さら感あるけど、どっかで流行ってんのかねぇ」

本来ならば地縛霊という存在で産まれる筈であった悪霊

しかし、現代のネット社会では誰もが簡単にイメージの共有を行い、拡散する時代

人の恐怖に対するイメージの変化はハッキリとこちらの世界にも影響していた

積もり積もった多くの“ソレ”が現実のものとして現れる様になったのだ

既存のものとは比べ物にならない形で

霊能力者「……」

助手「……私の顔になにか」

霊能力者「別にー」

これはそんな徐々に無理ゲー化していく悪霊たちと仕事で戦う霊能力者、“寺生まれのD”の日常の物語

第1破ァッ!「こっくりさん」

教頭「やあ、大輔くん!よく来てくれたね」

霊能力者「お久しぶりです、先生」

教頭「あれから8年か。職業が職業だからこうして君の元気な姿が見れて嬉しいよ」

霊能力者「先生も変わらずお元気のようで」

教頭「今ではお陰様で教頭さ」

霊能力者「その頭がようやく似合う役職に着きましたね」

キラーン

教頭「減らず口も変わらんなぁ」

助手「……」

教頭「ところで君の隣の可愛い娘さんは……」

霊能力者「仕事の助手です」

助手「どうも」ぺこり

教頭「おーこれはこれは、こちらこそ。それにしても大輔の隣りに女性とは。お前もようやく……」

霊能力者「そんなんじゃないですよ」

助手「……」

ゲシッ

霊能力者「いたいっ。事実だろ」

教頭「ふむ……、」

出落ちかと思ったけど中々どうして
オカルト系のスレが立つの久しぶりな気がするし頑張ってほしい

霊能力者「それにしても凄いもん呼んでますね」

教頭「この距離でも分かるのかね」

霊能力者「グラウンド挟んだこの校門からもハッキリとその教室の前に浮かぶ“社(やしろ)”が見えますし」

教頭「社?は見えんが、やはり我々では対象不能レベルだったか」

霊能力者「最近のヤツらはドアを開けてこんにちはをしても立ち向かって来ますしね。鳩と同じですよ」

教頭「学長を説得するのに苦労したが、やはり君を呼んで正解だったようだ」

霊能力者「少なくとも不正解ではなかったと思いますよ」

助手「先生、そろそろ」

霊能力者「そうだね。そろそろ気づかれるかもしれないし行こうか」

教頭「……事前に伝えてはいるが、」

霊能力者「分かってますよ。教室の中には女子生徒が3人、少なくとも脱出の痕跡は無く監禁状態は2時間半。“最悪の場合”だった時のアフタフォローも仕事の内ですから」

教頭「すまない……」

霊能力者「大丈夫ですよ。邪神でも降ろしていなければまだ間に合いますよ」

助手「準備はしておいた方が宜しいですか?」

霊能力者「“最悪の場合”は有り得なくもないからね。すぐに出せるように」

教頭「……」

霊能力者「それと教頭先生にお願いがあるのですが、ここから先は俺の事を“D”と呼んでください。絶対に」

教頭「それはどうしてかね?」

霊能力者「名前は結構大事なものでしてね。ものによっちゃ死んじゃうので、出来るだけ守ってくださいね」

教頭「分かった。君の言う通りにしよう、D」

霊能力者「さて、悪霊退治に行くとしますか」

──────
────
──
ガチャガチャ

教頭「閉まっているな」

霊能力者「鍵開けてるのに開かないという事は、既に何かしらの物が降りて受肉も済ませてると見て良さそうですね」

教頭「受肉……!」

霊能力者「あ、そんな教頭先生が思ってるほど物騒なものじゃないですよ。ようはとり憑いてるだけですから」

助手「どうされますか」

霊能力者「まだ相手も分からないしなぁ……」

教頭「どうやって入るのだね?」

霊能力者「助手」

助手「はい」

霊能力者「斬って」

助手「はい」

ズパンッ!

ゴトンッ......

霊能力者「お邪魔しまーす」

教頭「い、今のは、」

助手「お気になさらず」

霊能力者「後で説明しますよ」

女子高生A・B「」グタッ......

教頭「き、きみたち!」

?「おや、随分と物騒なお客様ですね」

霊能力者「そうですかいね」

助手「相手から見ればそうかも」

?「まさかここに入って来ようとは。儀式が中断してしまったではないか」

霊能力者「何の儀式かは知らんが、名前の割に妙に強そうだな“こっくりさん”」

こっくりさん「おや、知っているのかね」

霊能力者「学校の教室で手軽に呼べて取り憑くヤツなんてあんたくらいなもんだしね」

こっくりさん「そうかそうか」ピョコン

霊能力者「それにしても最近のこっくりさんはとり憑いた相手を狐っ娘にしちゃうのか」

ピコピコ

こっくりさん「こちらも最初は普段通り狐の姿になると思ったのだが。どうも最近の人間はこのような姿がお好みらしい」

助手「そうなのですか?」

霊能力者「俺が知るか」

教頭「すまんが私も分からんな」

こっくりさん「不本意な姿ではあるが、お陰で嘗てないほどの力を得られたのだから問題はない」

霊能力者「こっちからすれば大問題だ」

こっくりさん「儀式も中断されたことだ。折角だから貴様にこの力の試運転に付き合ってもらおう」

霊能力者「どうしてそうなる」

こっくりさん「ほれっ」

ズビャンッ!

霊能力者「あっぶね」ピョンッ

バキバキッ......!

教頭「床が……!」

助手「“こっくりさん”というのに物理的に強いですね」

こっくりさん「ふむ、以前に比べ物理干渉力が上がっているか」

霊能力者「8年前とは真逆だな」

こっくりさん「っ!もしやお主」

霊能力者「またぶち殺しに来たよ」

こっくりさん「前回の小童か」

霊能力者「せーかい」

教頭「もしやと思っていたが、これは8年前のと同じやつなのか!」

霊能力者「ええ、8年前の他のみんなが卒業式の真っ只中で祓ってやったやつです」

助手「通りで帰ってきたらボロボロだと思ったら」

こっくりさん「あの時は泣いておったな」

霊能力者「人生に1度の卒業式がお祓い式になればそうなるさ。お前には分からんだろうが」

こっくりさん「呼ばれきたのに随分とまあ」

霊能力者「呼ばれても来るな」

こっくりさん「これは手厳しい」

助手「先生、あまり時間が」

霊能力者「おっと、私怨抜きでもお前にはさっさと消えて貰わんとな」

こっくりさん「月並みではあるが、前回同様そう上手くいけるかな」

霊能力者「百も承知だ。肉体にほぼ融合してるヤツの処置の面倒さは規模問わずだ」

教頭「だ……、じゃなくてD!どうにかなりそうか?」

霊能力者「特に問題はありませんよ。助手、30%解放して時間を稼いでくれ」

助手「了解しました」

霊能力者「頼むよ。じゃ、先生はそこで倒れてる2人をここから出して俺に着いてきて」

教頭「お、おい!」

ガララッ......

助手「……見逃すのですね」

こっくりさん「何をするかは知らんが、今回もそこまで長く遊べそうになさそうだしの。それなら久しぶりに似たもの同士で戯れるのも乙なものよ」

助手「そうですか」

シャキン

こっくりさん「おお、怖い怖い」

助手「それでは稼がせてもらいます」

こっくりさん「楽しませてみせよ」

バシュンッ!

助手「……」

ズゴンッ

こっくりさん「ん?消えた……、」ゾワッ

“今、貴女の後ろに居るの”

こっくりさん「ぬっ!」ぐるりっ

ガキンッ

助手「どうされました」

こっくりさん「……これは面妖な。何がどうなっているのやら」

助手「そうですか?」

こっくりさん「一瞬同族かと思ったが違うのか……?」

助手「私に聞かれましても」

こっくりさん「ふむ、ならばとにかく全力で当たらせて貰おう」

助手「どうぞお好きに」

こっくりさん「ていやっ」ジュポンッ

助手「尻尾が9本……」

こっくりさん「どっせい」

ズババババッ

メリーさんなのか……? でもメリーさんって憑依するタイプじゃなさそうだし、どうなんだろ

助手「……」

フッ......

こっくりさん「っ!」

ズドドドドドドッ......

こっくりさん「またか」

“今、黒板の前にいるの”

こっくりさん「不思議なものだ」くるり

助手「もう慣れましたか」

こっくりさん「慣れるもなにも驚きが先行してそれどころじゃない」

助手「はあ」

こっくりさん「一瞬同族かと思ったがどうもそれは違うようだ。常に人の気配を感じるが、その面妖な動きをする一瞬だけは別物」

助手「……」

こっくりさん「“怨霊”そのものだ」

助手「……」ザワザワ

こっくりさん「そっちが本性か」

助手「ふっ……!」

ジャキンッ

こっくりさん「身の丈程の包丁を瞬時に生成とは。“口裂け女”でも出来ん芸当だ」

助手「……張り切りすぎました」

こっくりさん「この狭い空間でその大きさは邪魔だろうな」

助手「何とかします」

こっくりさん「ふむふむ。では続けようか」シュルッ

ズドンッ

助手「……」フッ

こっくりさん「さてはて、試してみるかの」

“今、あなたの「前にいるの」

助手「!?」シュタンッ

こっくりさん「おお、試してみるもんだ」ズビャッ

助手「くっ」

ズバズバッ!

こっくりさん「宣言後に相手が認識した場所に移動する、か。うむ、実に初見殺しだ」

助手「……」

こっくりさん「タネが分かってしまえばもう問題ない。さて、どうするかね」

助手「……私の役目は時間稼ぎなので」

こっくりさん「ん?」

ガララッ

霊能力者「そ、あくまでもお前を消すのは俺だ」

助手「先生」

こっくりさん「小童か」

霊能力者「もう準備は出来ている。こっくりさんはお帰りの時間だ」

こっくりさん「出来るもんかな。私は既にこの少女の肉体とほぼ同化している。引き剥がすことも出来んぞ」

霊能力者「ほぼなら問題ない」

教頭「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」

ダダダダダダダダダッ!

ズシャー......

霊能力者「教頭先生お疲れ様です」

ダッダッダッ、

教頭「よ、呼んできやったぞ!だから早くなとかしてくれ!」

ダッダッダッ、

助手「何かがきてますね」

ダッダッダッ、

ダンッ

こっくりさん「……なんだコイツは」

霊能力者「紹介しよう。我が母校唯一の怪談、“動く人体模型”さんだ」

人体模型「……」

教頭「それでどうするんだ?戦わせる気か

霊能力者「まさか。まあ、見ておいて下さいよ」

こっくりさん「そいつでどうにかなるとで、も……!?」

ズズズズズ......

人体模型「……」

こっくりさん「力が……、抜けていく……?」へたり

ズズズズズ......

霊能力者「幾ら新しく力を得ようとルーツは変わらない。手軽に呼べる代わりの代償だな」

教頭「一体何が……」

シュウウウ......

助手「社が消えていってます」

霊能力者「当然だな」

こっくりさん「お前……、何を、した……」

霊能力者「簡単な事さ。お前さんは自分が降霊するという儀式空間を教室に作ることでその力を増させた。だから本来の空間に戻してやってるだけさ」

人体模型「……」

ズズズズズ......

こっくりさん「異物、か……」

霊能力者「そうだ。この学校では“動く人体模型”が主として存在している。こいつから見て学校の教室に社は不純物として判定された訳だ」

教頭「まさかコイツが役にたつとは」

人体模型「……」

こっくりさん「う、うああ、あ、あぁぁ、あ……」

ポコンッ

おもしろい

女子高生C「」ドサッ

狐「……ここまでか」

霊能力者「今回は随分と諦めがいいな」

狐「厄介なヤツが増えたしの。今回は大人しく消えてやろう」

人体模型「……」

霊能力者「出来ればもう2度と現れて欲しくないな」

狐「それは無理だ。呼ぶのはそっちだから」

霊能力者「さっきも言ったが呼ばれてもくるな」

狐「無茶を言う。全く我儘な連中だ」

霊能力者「我儘じゃないとやってられないんでね。破ァッ!」

チュボンッ!

助手「気配消失、完全に消滅しました」

霊能力者「うし、仕事おわりだな」

教頭「D、こいつはどうするんだ……?」

人体模型「……」

霊能力者「あー、それは気にしなくていいですよ」

教頭「祓ってくれないのか」

霊能力者「寧ろ祓わないほうがいいですよ」

人体模型「……」くるっ

ダッダッダッ......

助手「帰っていきましたね」

教頭「悪いやつではないのか?」

霊能力者「あれがビビらせる対象は夜遅くの校内にいる“異物”ですから。上手く付き合えば格安警備員ですよ」

教頭「ふむ……」

霊能力者「では俺たちは帰りますね。報酬は指定口座の方に振り込んでおいて下さい」

助手「失礼します」ぺこり

教頭「またなにかあれば頼むよ」

霊能力者「スケジュールが空いてれば。では、」

スタスタスタ......

教頭「……あいつも随分と立派になったものだ。さて、」

ごちゃあ......

教頭「教室の修繕費はどうやって引っ張りだそうか」

──────
────
──

助手「先生」くいっ

霊能力者「……なに?」

助手「1つ確認したい事なのですが、“こっくりさん”は学校の怪談ではなかったのでしょうか。“動く人体模型”に異物と認識されていたので違うのは間違えないようなのですが……」

霊能力者「学校の怪談ていうのは受動的な要素が需要の存在なんだよ」

助手「受動的……」

霊能力者「学校という限定的なフィールドに入った者に対して発生する、そこに憑いてるヤツが起こす事象が学校の怪談、七不思議と呼ばれるものだ」

助手「こっくりさんも満たしているのでは?」

霊能力者「残念ながらこっくりさんはこっち側から行う儀式を通して発生する能動的な存在だ。あくまで学校にいる存在ではなく、端的に言えばお客様なのさ」

助手「なるほど」

霊能力者「それにさ、あれは別に学校じゃなくても出来る。自宅でやったとしてもアイツは出てくる」

助手「確かにそう考えるとあまり“学校の怪談”という感じはしませんね」

霊能力者「……はあ、“こっくりさん”の件は片付いたがこっからが大変そうだ」

助手「終わったのではないのですか?」

霊能力者「本来ならばとり憑いて終わりのこっくりさんが儀式をおっぱじめてたんだ。多分だけど、近いうちに今日倒れていた3人から別件で依頼がきそうだ」

助手「……」

霊能力者「これだから面倒なんだよ」

「祓って終わりどころか、たまにどんどん連鎖していくってのがさ」

第1破ァッ! 終わり

ワード解説

物理干渉力↓
・霊が物理的にとやかくする力。基本的には物理的にいろいろと出来るヤツの方が霊としては力がある
・特にそこには存在しない物を出せる様なヤツは極めて危険。つまり田舎道を走るタクシーの後部座席をぐっしょり濡らす女は脅威的な力を持っている

タクシー女>『エクソシスト』の悪魔

くらいのイメージ

第2破ァッ!「くねくね」

霊能力者「実際問題さ、なんで俺って“破ァッ!”出来るんだろ」

助手「……才能があるからでは」

霊能力者「そう、それだ」

助手「なにがですか」

霊能力者「この手の道をインチキ無しで選んで者の大半が“才能がある”で片付けられてしまう」

助手「特性を考えれば元からの素養がある程度は必要不可欠ですし、当然と思いますが」

霊能力者「でもその才能ですら差があるんだぜ」

助手「……TさんとD先生みたいに、ですか」

霊能力者「ああ。同じ才能でありながら方や“破ァッ!”1つで全てを解決出来るヤツもいれば、俺みたいに様々な道具や策を用いてやっとこさ“破ァッ!”が撃てるヤツもいる」

助手「同じ“才能”でも開きがあると」

霊能力者「そして俺はガッツリその手の技術を幼少の頃から英才教育の如く受けてこれだ」

助手「D先生の才能がTさんと同様の“破ァッ!”特化でしたら私は存在していませんが」

霊能力者「すまん、別にそんなつもりで言った訳じゃないんだが」

助手「分かってますよ。冗談です」

霊能力者「真顔過ぎて反応に困るんだよなぁ」

助手「で、何が言いたいのでしょうか」

霊能力者「……つまるところ、この“破ァッ!”というものは後天的に身につけられんじゃないかと」

助手「霊媒塾を開きたいということですか」

霊能力者「かなり先読みをした答えが返って来たけど正解」

助手「理由を聞かせて貰っても」

霊能力者「俺みたいに微妙なヤツは育成に回って、現場は量産型Tに任せるってした方が効率が良くないかなーと」

助手「それは面白い発想ですね」

霊能力者「だろ?」

助手「ですが、」

霊能力者「ん?」

助手「3年前にD先生が『後天的に“破ァッ!”の才能は身につかない』、という論文を出していなければその考えを支持していました」

霊能力者「だよなぁ。自分で研究して結論出してるもんなぁ、『無理』って」

助手「……」

霊能力者「どっかで今の人類のルーツは1人の女性とかいう話を見たけど、それならなんで全人類その才能持ってないんだよ」

助手「……」

霊能力者「全員持っときゃ俺もこんな道選ばなくて良かったのにさ」

助手「……」

霊能力者「他の寺生まれが全員Tになればなぁ、」

助手「先生」

霊能力者「……なに」

助手「現実逃避はその辺にして、そろそろコレと向き合ってあげて下さい」

霊能力者「……どうしてもか」

助手「どうしてもです」

霊能力者「……帰りてぇ」

助手「もう覚悟を決めましょう。仕事ですから」

くねくね「……」くねっ

霊能力者「あー気持ちわりぃ。イメージ図のウン倍も気持ち悪い」

助手「そうですね。私も初めて実物を見ましたが、想像以上です」

くねくね「……」くねっ

霊能力者「動きと見た目がクソみたいなマッチしてて吐き気がしてくる」

助手「怖い、と言うよりもキモいが先にきますね」

くねくね「……」くねくね

霊能力者「動くんじゃねぇ!」

くねくね「……」くねっ

助手「D先生、確かに見た目はかなり気持ち悪いですが『動くな』は言い過ぎでは?」

霊能力者「なんでさ」

助手「D先生がここに到着してからかれこれ1時間、彼はここから動かず待っててくれているんですよ」

くねくね「……」くね~

霊能力者「そんな事言われても」

助手「目の前で先生がずっとどうでもいい話をして現実逃避をしている間も、ずっとこの場で終わるのを待っててくれていたんですよ」

霊能力者「その間に移動して欲しかったけどな」

くねくね「……」くねっ

霊能力者「……」

くねくね「……」くね~

霊能力者「……」

くねくね「……」くねっくねっ

霊能力者「……」

くねくね「……」くねねっ

霊能力者「……」

くねくね「……」ねくねく

霊能力者「いや無理だ。動くだけで気持ち悪さが乗算されて見てるだけでご飯3杯吐ける」

助手「ダメです。しっかり飲み込んでありのままの彼と真摯に向き合って対処して下さい」

くねくね「……」くねっ

霊能力者「……キャンセルは」

助手「ダメです。既に報酬の半分を前払いで振り込んで貰ってます」

霊能力者「やるしかないのか」

助手「やるしかありません」

くねくね「……」くねっ

霊能力者「でも向き合ったところで半分お手上げなんだよなぁ、現状」

助手「何故ですか」

霊能力者「だってこいつ生物として実体があるし」

助手「それは本当ですか」

霊能力者「……見とけよ」

ぺとっ

ぐにぃ

くねくね「……」くねっ!

助手「なんと」

霊能力者「俺の“破ァッ!”は“生物として実体がある”というものには効かないからな。困った事に」

助手「それは困りましたね」

くねくね「……」くねっ

助手「ですがこの周辺の村では既に3人が“くねくね”を見たことによる錯乱状態であると言われています。ここで手を打たなければ」

霊能力者「……」

助手「ところで、先ほど気になっていたのですが」

霊能力者「なに?」

助手「先生は見ていらしても平気なんですね」

霊能力者「……いまさら?」

助手「先生がすぐに現実逃避をし始めたので言うタイミングがありませんでした」

霊能力者「訓練してたしね」

助手「訓練、ですか」

霊能力者「小学生の頃にEとな」

助手「E……。あ、“邪視”のEさんですか」

霊能力者「ああ。裸眼のアイツと2時間ひたすら見つめ合うとかいう拷問を3年ちょっとぐらい」

助手「それで耐性ができたということですか」

霊能力者「慣れって怖いな」

くねくね「……」くねっ

霊能力者「お前の見た目には慣れないけど」

※邪視とは
・見つめ合った相手を極度のダウナー状態にして発狂させる眼を持つ者、又は類似するモノ
・不浄なもの(排泄物や裸体)とかがアレルギーレベルで弱点。それらを裸眼で見たりすると逆に発狂する

助手「外的要素であれば村人に対策してもらう形で対処出来ると思ったのですが、そこやり方は無理そうですね」

霊能力者「こいつがやる前に村人が全滅するな」

助手「……切り刻んでみますか?」

くねくね「……」くねっ!

霊能力者「それは出来れば最後の手段に」

助手「そうですか」ぽいっ

くねくね「……」くねー

霊能力者「……うーん。ネットで調べてもこいつに関する話はとにかく中途半端だな」

助手「私も事前に調べて見ましたが、これといった対処方どころか“くねくね”自身のエピソードすらありませんでした」

くねくね「……」くね~

霊能力者「マジで何なんだよオマエは」

ぐに~

くねくね「……」くねっ!

霊能力者「……!」

助手「見た目通り柔らかいですね」

霊能力者「助手」

助手「はい?」

霊能力者「少し試したい事ができた。これが無理ならセットTを用いた処理をするから準備を頼む」

助手「村の方に事前に許可を取ってませんが」

霊能力者「なにか言われたら謝り倒す。あくまでそれを使うのは今から試す事が無理だった時だ」

助手「わかりました。では取りに行ってきます」

タッタッタッ......

くねくね「……」くねくね~

霊能力者「おい」

くねくね「……」くねっ

霊能力者「俺と意思疎通が出来るなら“くね~”と動け」

くねくね「……」くね~

霊能力者「本当に出来ているなる“くね~”と動け」

くねくね「……」くね~

霊能力者「……こいつマジでこっちの言葉理解出来てんのか」

くねくね「……」くね~

霊能力者「俺が今から聞くことにハイなら“くねっ”違うなら“くね~”それ以外なら“くねくねっ”と動け」

くねくね「……」くねっ

霊能力者「オーケー、それなら1つ目だ。まずお前は“霊”か?」

くねくね「……」くね~

霊能力者「“霊”ではない、か。じゃあ次に、お前は山に憑く神かそれに類似するものか」

くねくね「……」くね~

霊能力者「……自分でも分からないか?」

くねくね「……」くねっ

霊能力者「土地神でも無ければ妖怪でもない、久しぶりの“新型”か」

くねくね「……」くねっ

霊能力者「うん、何とかなりそうだ。少なくとも“架空の伝承”タイプじゃなさそうだし」

助手「持ってきました」

どしんっ

霊能力者「ご苦労。ま、使わんと思うけど」

助手「処理手段が思いついたのですね」

霊能力者「ああ。グロい処理はしなくて済みそうだ」

助手「生物系を物理除霊は見た目が酷いですから、避けれて良かっですね」

くねくね「……」くねっ

霊能力者「さて次だ。これが出来るなら仕事はお終いだ」

くねくね「……」くねくねっ

霊能力者「棒状になれるか?」

くねくね「……」くねっ

くねっ、くねねっ

ぽんっ

くねくね「……」にょろーん

助手「……普通に気持ち悪い見た目になりましたね」

霊能力者「見た目はキモいが大成功だ。俺の予想通りだ」

助手「予想通り、ですか」

霊能力者「ああ。さっき調べていて気づいたんだが、“その姿を見てそれをくねくねだと認識したらアウト”というのがコイツで発生する害だ」

助手「媒体によってシチュエーション等に違いはありますが、確かに大体はそのような形ですね」

霊能力者「そう、だから誰もこいつの生態が分かってないんだ。本人様含めてな」

くねくね「……」くねっ

棒状でクネクネとしてるってそれもしかしてバ(ry

霊能力者「つまりコイツ自体にはアンデンティティーがあんまりないんだ」

助手「確かにくねくねと動いていて白い事以外は特に存在そのものについては言及されていませんね」

霊能力者「だからこっちから介入できる要素がある」

くねくね「……」にょろーん

霊能力者「確証はなかったが、こいつ自身が出来ると思ったら出来るみたいだ」

助手「“くねくね動いてる白いなにか”であれば問題ないということですか」

霊能力者「“名前と現象”が主体なお陰で成立したことだな」

くねくね「……」にょろーん

助手「……もう一声何とかできませんか」

くねくね「……」にょろり

霊能力者「そうだな。……球体状になれるか?」

くねくね「……」にょろにょろ

にゅるん、くねねっ

ぽんっ

くねくね「……」ぽよんっ

助手「……スライムみたいですね」

霊能力者「元がツルツルだったのに丸くなったせいかツヤも増して某ゲームのスライムにしか見えないな」

くねくね「……」ぴょこん

霊能力者「げっ、てっぺんに突起物増やして形近づけやがった」

助手「茶目っ気がありますね」

くねくね「……」ぽよよん

霊能力者「これでよし、かな」

助手「……なるほど。この見た目なら“くねくね”とは思えませんね」

霊能力者「あの発狂現象の発動条件はこいつの存在認識というのがメインだ。それなら見た目を変えちまえばいい。この見た目なら“くねくね”には繋がらないからな」

くねくね「……」ぽよんっ

霊能力者「ぽよんぽよんしてるのは少し想定外ではあったが」

助手「完全にアンデンティティーが死んでますね」

霊能力者「おい、今後は常にこの姿でいろ。分かったら“ぽよよん”、無理なら“ぽよんっ”」

くねくね「……」ぽよよん

助手「先ほどとは違い可愛らしいですね」

霊能力者「これなら問題ないだろ。何かあったら次こそテルミットだけど」

──────
────
──

霊能力者「─ということで、無力化した状態で山の中に戻しました。見かけることがあるかもしれませんが無害ですのでご安心下さい」

村長「此度はありがとうございました」

助手「錯乱状態の方には先ほどお渡しした札を入れたお風呂の中に毎日30分程度入れて下さい。個人差はありますが、1週間ほどで元に戻られます」

村長「ありがとうございます。その、また何かあった時には、」

霊能力者「その時にはすぐにご連絡ください。今度は完全に消しますので」

村長「分かりました。帰りには気を付けて下さい」

霊能力者「ええ。それでは」

ざっざっざっ......

村長「……」

村人「言わなくてよかったんか?」

村長「気づいておらんようだし、そのまま行ってくれるならその方がいいだろう」

村人「ま、そっか」

村長「高い金払っておるんだ。これぐらいのアフターケアがあってもよかろう」

霊能力者「あいつら絶対気づいてただろ」

助手「ですね」

霊能力者「背中に引っ付いてるってどんな逆だよ」

助手「そうですね」

霊能力者「……どうする」

助手「山に返すのが無難かと思います」

霊能力者「だよなぁ」

助手「……」

霊能力者「……」

助手「……あの」

霊能力者「なんだ」

助手「今後の研究には丁度いいサンプルになるとおもうのですが」

霊能力者「なら持って帰るか」

助手「そう仰られるなら」

くねくね「……」ぽよんっ

第2破ァッ!終わり

テルミットで調べてみたら使い道一覧に除霊ってあって草
雑魚相手ならクネクネで無双できそうだけど、このDさんはそういう使い方しなさそうかもな

第3破ァッ!「新築マンションの地縛霊」

不動産屋「緊急の御依頼となってすいません」

霊能力者「お気になさらず。緊急じゃない依頼の数なんて1割もありませんから」

助手「除霊という事で依頼を受けたのですが、詳しいお話を聞かせて貰ってもよろしいでしょうか」

不動産屋「はい、今回は私たちが管理する新築のマンションに出た霊を祓って頂きたいのです」

霊能力者「新築マンションに霊ですか」

不動産屋「はい。一応私共の方で事前に土地の経歴等を調べホワイトでしたので建てたのですが……」

霊能力者「それは災難でしたね」

不動産屋「建築業者の方にも事故等が無かったかを確認しましたが、その様な事実は確認出来ず完全にお手上げです」

助手「つまり現時点では原因もなく湧いてきたということでしょうか」

不動産屋「はい、我々の調査ではそのように出ています」

霊能力者「一先ず現場に行って実物を確認しないと何も言えませんね」

不動産屋「社員に車を出させます。本件は何卒宜しく御願い致します」

霊能力者「聞いた限りではそこまで大したものではなさそうですので安心して待ってて下さい」

社員「表に車を出していますのでこちらへ」

助手「失礼します」ぺこり

バタンッ

ブロロロロ......

社員「ここからは私が担当させて頂きます。何かご要望があれば気兼ねなくお申し付けください」

霊能力者「じゃあ普通に対応してくれません?俺たち別にそんな偉い人でもないですし」

社員「ですが社長からは最大限の礼を尽くせと言われておりまして」

霊能力者「では普通に対応するのが俺たちへの最大限の礼節ということで」

社員「は、はあ……」

助手「先生はまともな社会を経験を積まれていませんので堅苦しいのがお嫌いなのです。お気になさら必要はありません」

霊能力者「おい俺が社会不適合者みたいな印象を与えるようなことを言うな。堅苦しいのが苦手なのは間違えないけど」

社員「……分かりました。ではそのように」

霊能力者「ところで確認しておきたいんですけど、あなたは事故物件扱うのってもしかして初めて?」

社員「はい。入社して今年で2年目ですが今回が初めてです」

霊能力者「そうですか。では、予めこれだけは覚えておいて下さい」

社員「……」ごくり

霊能力者「何が起きても所詮は霊ですのでお化け屋敷感覚で楽しんで下さい」

社員「へ」

助手「落ち武者の群れでもない限りは死にはしませんので」

社員「死には、てっ……」

霊能力者「その職場で働いている限りでは事故物件なんてその内年に4、5件扱うようになりますからね。そのぐらいの気持ちではないと疲れますよ」

社員「な、なるほど」

霊能力者「そう言えばさっき入社2年目と言ってましたけど、もしかして今23とかですか?」

社員「ええ、ちょうど先月で23になりましたね」

霊能力者「おお、ジャスト同い年ですね。それなら気分をより盛り上げる為にここからは互いに敬語は無しで行きましょう」

社員「ちょ、それは」

霊能力者「お化け屋敷に行くのに畏まってちゃ気分も盛り下がるしねー。はい、敬語禁止」

社員「そ、そんなぁ」

助手「これも仕事を円滑に勧めるためのものです。ご協力をお願いします」

社員「でも……」

霊能力者「……死にますよ?」

社員「楽しみだなぁっ!」

霊能力者「分かればよろしい」

キキーッ

バタンッ

社員「ここが依頼の物件です」

霊能力者「……」

助手「……」

社員「……物件だよ」

霊能力者「ヒュー。随分立派な物件だこと」

助手「私たちの自宅兼事務所のぼろビルとは雲泥の差ですね」

社員「ここは富裕層の方を主にターゲットとした物件ですかr、だからだよ」

霊能力者「俺とは縁がなさそうな所だ」

社員「……」

霊能力者「あ、別に稼ぎが無いわけじゃなくてマンションよか戸建ての方が住むなら都合がいいって話だから」

助手「ちなみに現在の貯金は──」ごにょごにょ

社員「!?」

霊能力者「寡占事業だしね」

社員「すごいなぁ……」

霊能力者「命かけてるしね。ほら、あれ見てよ」

社員「ん?」

ガシャーンッ!ガシャーンッ!

助手「オートロックの大きなガラス戸が全力で開閉を繰り返して我々をお出迎えをしてますね」

社員「」

霊能力者「ここまで全力で歓迎されるのは久しぶりだなぁ」

助手「ガラスが割れているのは当然の事ながら、激しすぎてフレームが歪んでいますね」

社員「ぼ、防弾性もあったのに……!」

霊能力者「中々歯ごたえのありそうなヤツがいそうだ」

助手「どのようにして中に入りましょうか」

社員「ここは無理だから2階から梯子で、」

霊能力者「いや、ここは“お化け屋敷”だ。正面玄関から中へ入ろう」

助手「如何にして?」

霊能力者「これを使おうか」

パラララッ

社員「……名刺?」

霊能力者「たまにカッコよく行かせて貰おう」

クシャ、クシャッ

霊能力者「折紙人形“粗神”」

グシャンッ

粗神「……」ムキンッ

社員「名刺が小学生サイズの人形に……」

霊能力者「これは特殊な製法を用いて作られた無駄に頑丈な紙で出来た人形だ」

助手「……」

粗神「……」ムキムキンッ

霊能力者「こいつならあのオートロックの扉も止められる」

社員「おおっ!」

霊能力者「よし、いけっ」

粗神「……」ダッ

助手「あの、」

霊能力者「ん?」

助手「名前をお間違えでは?」

粗神「……」ぴたっ

霊能力者「……そうだっけ」

助手「ええ。作成当時は確か……、」

ぺラッ

助手「ありました。これは──、」

霊能力者「まて、そのノートはなんだ」

助手「先生の情報を私になりにまとめているノートですが」

霊能力者「なにそれこわい」

粗神「……」へいっ

助手「では改めまして」

霊能力者「おいバカやめろ」

助手「この子の正式名称は“レギオンVer.II:理想の上書き(ラスト・ダンス・バタリオン)”です」

粗神「……」カッ

グシャンッ

ペカー

社員「見た目が丸っこい感じから騎士みたいな装飾に変化した……」

粗神「……」シュピーン

助手「やはり後付けよりは本当の名前で呼ばれた方が強くなりますね」

霊能力者「……そーですね」

助手「私は良いと思いますよ。中学生らしい感じが出ていて」

霊能力者「その感じが嫌だったから後でそれっぽい名前付けたんだけどなぁ!?」

社員「あー、なるほど。通りで懐かしい気がすると思ったら」

霊能力者「……」

助手「さて、“理想の上書き”さん。あれを止めて来て下さい」

ガシャーンッ!ガシャーンッ!

粗神「……」ぐっ

ダッ

ガシャーンッ!ガシャーンッ!

粗神「……」ガッ

ズズーン......

社員「止まった!」

助手「それでは先に進みましょう」

霊能力者「……待て」

助手「?」

グシャッ

粗神「」

ガシャーンッ!ガシャーンッ!

社員「潰れた……」

助手「あら、“理想の上書き”さんが」

霊能力者「当たり前だ。容姿に八割使ってる形態でどうにか出来るわけないだろ」

助手「このノートにはこの形態でなら暗黒ネビュラーパワーが得られると記載されてますが」

霊能力者「忘れろ」

社員「ど、どうするんですか!?」

霊能力者「まあ、普通に“粗神”再起動させるだけだな」パチンッ

粗神「……」むくり

社員「あ、最初の丸っこいのに」

霊能力者「いけ」

粗神「……」ダッ

バコーンッ!

助手「吹っ飛ばしましたね」

霊能力者「張り切り過ぎだな」

社員「ああ、修理費が……」

粗神「……」ムキンッ

霊能力者「先に進もうか」

助手「はい」

スタスタ......

社員「……」

霊能力者「どうした?」

社員「いや、あのさっきの人形ことで」

霊能力者「粗神のことか」

社員「ちょっとイメージと違ったな、と」

霊能力者「?」

社員「いや、普通ならこういうのって複雑な形であればある程強いんじゃないかなって」

霊能力者「あー……。なるほど」

助手「……」

社員「こう、念力が増せばま増すほど禍々しいものがっ、的な感じかなって」

霊能力者「漫画の読みすぎ」

社員「なっ」

霊能力者「確かに一見すれば不思議なパワーで動いてるように見えるもんな、あれ」

社員「……違う?」

霊能力者「違いよ。こいつも立派な化学と科学の賜物だ」

社員「もしかして機械!?」

霊能力者「ではない。さっきも言った通り、こいつは特殊な製法で作られた紙だ。でも、この紙の中にはそれこそ電子回路のように色んなものが埋め込まれている」

社員「でもそれならそれを動かすエネルギーとかどうなってるんだ?」

霊能力者「そこら辺から回収してるけど」

社員「酸素とか?」

霊能力者「いや」

社員「二酸化炭素?」

霊能力者「いや」

社員「じゃあなに?」

霊能力者「知らん」

社員「」

霊能力者「まあ、分からんけど摩訶不思議パワーで動いていないのは間違えない」

社員「ええー……」

霊能力者「原始時代の人間が化学の要素を理解せずに火を起こしをしてる状態と同なじだと思ってくれ」

社員「なんだかよく分からないけど、とにかくイメージしていた感じではないって事は理解できた」

霊能力者「飲み込みがはやいな」

社員「水で流し込んでるだけ」

助手「いきなりその様な事を言われても即座に理解出来る方が難しいかと」

霊能力者「概要だけでも理解してくれれば十分」

助手「そうですか」

霊能力者「それよか気になったんだが……。さっき一瞬ですます調に戻ってなかったかね社員くん?」

社員「へ?」

霊能力者「それじゃダメダメ。説明の仕方も悪かったが、それもこの件じゃ立派な業務の1つだ」

社員「って言われても」

霊能力者「それに今後も長い付き合いになる訳だし、形からでも友達で行こう」

社員「長い付き合い?」

霊能力者「そうだとも。あの人がわざわざキミを付けたのは今後もこんな案件を任せるっていうことだしね」

社員「ええっ!?」

霊能力者「だから普段の友達と同じ感じで話してくれ。その方が円滑に行く」

社員「……分かったよ。後で文句言うなよ」

霊能力者「ああ、それでいい。逆に次ですます調に戻ったらチクるからな」

社員「何をだよ」

霊能力者「無礼働きやがった、てっ」

社員「ひでぇ」

霊能力者「しかしどうしたもんか」チラッ

粗神「」しーん

助手「エネルギー切れてますね」

霊能力者「お前のせいでな」

社員「えっ、もうダメなのか」

霊能力者「そりゃね。無駄な変形にほぼ全パワーを使った再起動、そんなことしたらあっという間に落ちるさ」

助手「残念です。これでまた暫く充電期間ですね」

霊能力者「ハア……。次にこいつの出番があっても1年後か」

社員「長すぎだろ」

霊能力者「だってこいつ大気中の謎物質を吸収するかたちでしか充電的なの出来ないし」

社員「……コスパ悪過ぎやしないか?」

助手「あくまでこの手のモノはカッコつけ専用ですので」

社員「カッコつけって……」

霊能力者「ま、やるもんじゃないね柄じゃないことは。“破ァッ!”だけじゃ見栄えが悪いとはいえ」

ズズズ...

助手「この充電期間が2時間程度にでもなれば実用性もあるのですが」

霊能力者「そうなったら大量生産して護身用として売れるんだけどなぁ」

助手「ただ、これは一般の人が使うにはオーバーな代物と思います」

霊能力者「やっぱそこだよなぁ。前から一般向けの商品化を“B”と一緒に考えてはいたんだが、けっきょくそこに辿り着いちゃう」

助手「人を傷つけない程度のモノにしてはどうでしょうか」

霊能力者「それしちゃうと悪霊退散できなくなる」

助手「難しいですね」

霊能力者「まあ、現状で本体のコスパの問題がある以上は商品化なんて夢のまた夢なんだが」

ズズズ...

社員「……」

霊能力者「どうした?」

ズズズ...

社員「いや、さっきからエレベーターホールの鏡から人型の何かが出て来てるんだが」

霊能力者「ありゃま」

社員「……式神とかじゃないよな?」

「おぉぉぉ……」

ズズズ...

霊能力者「あれは悪霊だな」

社員「だよな。当然のようにスルーしてたから出してるものだと思ってた」

霊能力者「アレに憑かれると祓うまで治らないうつ症状が出るから触れるなよ」

社員「いや倒してくれよ」

悪霊「おぉぉぉ……」ズズズ...

くるりっ

霊能力者「……」

悪霊「……」

ブワッ!

助手「気づかれましたね」

社員「こっちに来てるぞ!」

霊能力者「助手、セットMを頼む」

助手「了解しました」

コトン

社員「音楽プレイヤー?お経でも流すのか」

助手「まさか。お経で祓えたら私たちは必要ありません」

霊能力者「よーい、スタート」

助手「はい」

ピッ

♪~

社員「このイントロはまさか……」

ズズズ...

悪霊「おぉぉぉ……」

ゾロゾロ

社員「うおっ、鏡からどんどん湧いてきてるっ!?」

霊能力者「いくぞー」

助手「せーのがさんはい」

霊能力者「破ッ、破ッ、破ァーッ!」

悪霊「」

ボボンッ!

霊能力者「破ッ、破ッ、破ァーッ!」

ボボンッ!

社員「……これを流しながらする意味は」

助手「ノリが良くなります」

社員「ここに来てそんな時間は経ってないけど徐々に除霊のイメージが……」

助手「いい勉強になりましたね」

霊能力者「破ッ破ッ破ッ!破ァッ!」

ボボボンッ!

♪~

霊能力者「破ッ、破ッ、破ァーッ!」

悪霊「うぉぉぉ……」

ボボンッ!

助手「ただ、先生がこれを使われる際は余程の事がない限りはありません。ここにいる霊は相当のものだと判断されたようですね」

社員「……俺にも分かる例えでその相当がどの程度のものか教えてくれないか?」

助手「あの悪霊がモヒカンだとすれば少なくとも山のフドウ程度の強さはあるかと」

社員「分かるようで少し判断に困る例えではあったけど帰りたい気分になった」

助手「事前に分かっていれば貴方には遺書の準備をさせていました」

社員「帰りたい」

助手「ダメです」

何のメロディーなんやろ、エクササイズとかかな?

更新待ってる

更新いつかなと思ったら速報の方でやってるんかい

>>94
すいません。もう誰も見てないものだと思ってました
一応オチが思いついたのでまとめます

──────
────
──

霊能力者「破ッ、破ッ、破ァーッ!」

チュボボボンッ

~♪

助手「曲のジャストで終おわりましたね」

霊能力者「たまにやると気持ちがいいな“Pump it除霊”」

社員「……本当にそんな危ないヤツなのか。見てて全く思わないんだが」

『なら確認してみるかい?』

社員「!?」

霊能力者「おうおう、お出ましかい」

助手「ふむ……」

『屋上でまってるよ』

チーン

社員「エレベーターが……。止めてあったのに」

霊能力者「乗るしかねーか」

助手「そのようですね」

社員「ここは安全に階段で行った方が」

霊能力者「……このマンションは何階まであるんだ」

社員「地上45階だけど」

霊能力者「普通に登るのが辛すぎるし、体育2の俺には無茶すぎるわ」

助手「何かありましても私がなんとか致します」

社員「なんとかって……」

霊能力者「んじゃ、行きましょか」

ポーン

『屋上です』

チーン

霊能力者「とーちゃーく」

助手「やはり高級マンションだけなあり、屋上であってもそれなりの施設がありますね」

社員「……入口で結構時間使ったのに、こんなにあっさりラスボス戦みたいなのは釈然としない」

霊能力者「マンガの読みすぎだろ。主人公がじゃあるまいし」

『そうだ。なぜならボクが主人公だからさ』

フワッ

霊能力者「やあ、きてやったぞ」

助手「他には何も感じませんし、どうもコレが今回ここに根を張る地縛霊のようですね」

『キミにはボクがただの霊にしか見えないようだね』

霊能力者「いや実際そうだろ」

『それはどうかな?』

社員「それはどういう事だ」

霊能力者「おい乗ってやるな。つけ上がるだろ」

『見ろ、これがボクの霊力だ!!』

ブワッ

社員「うおっ!?」

助手「……何かオーラみたいなモノを出してますね」

霊能力者「綺麗だな」

助手「それにしても霊力とはなんでしょうか」

霊能力者「知るかよ」

『ふっ、低レベルなキミたちには感じることが出来ないようだね』

霊能力者「何を感じろってんだ」

『ふふっ、ここまで溜まったんだ。後もう少しで復活できる』

霊能力者「なんの話かは知らんがそろそろ祓っていいか?」

『ボクの力すら感知できないキミに出来るかな?』

霊能力者「力って言われてもなぁ」

助手「この地区は商社が多いですから現象化に必要な感情は充分かと」

霊能力者「つってもただの地縛霊が現象化してもなぁ。どう見ても外部干渉から産まれたものでもないし」

社員「……なんか雰囲気強そうだけどそうでも無いのか?」

霊能力者「まあ、こっちの雰囲気を感じで頂ければ」

『言ってくれるじゃないか』

助手「事実を申してるだけなのでお気になさらず」

あっちでも書いてるのにスマンですな
更新乙です

『戯言もそこまでだっ!消え去れ!!』バッ

ギュオンッ!

霊能力者「破ァッ!」

バチュンッ

『あ』

バシュウウウ......

『』

社員「ええー……」

霊能力者「まあ、そうなるよね」

助手「お疲れ様でした」

社員「釈然としない……」

霊能力者「マンガじゃないしね。こんなもんだよ」

助手「さて戻りましょうか。あなたはマンション修理の手続きもありますでしょうし」

社員「ああ……。そうだったぁ……」

霊能力者「ま、俺らも手伝うからさ」

──────
────
──

ガチャッ

社員「いらっしゃいませ……、あっ」

霊能力者「よっ」

助手「ご無沙汰しております」

社員「先日はお世話になりました。……本日は何用で」

霊能力者「そんなに警戒しないでよ。少し事後報告をと思ってね」

社員「お茶です。どうぞ」

コトッ

霊能力者「あっ、どうも」

社員「……で、事後報告とは」

助手「あの地縛霊についてこちらで調べたことをお知らせしようかと」

霊能力者「まあ聞いて損することはないから聞いてくれ」

社員「はあ、」

助手「それではこちらの資料を見て下さい」

社員「……山田 次郎?」

霊能力者「ん、そいつが今回の地縛霊を産んだヤツね」

助手「2年前にそこから100mほど離れた地点でトラックに轢かれて亡くなったそうです。事故状況からして自殺の線も有り得たそうですが」

霊能力者「状況的には産まれたこと自体が奇跡に近いが、その影響でかここ最近まで大人しくしてたみたいだな」

社員「……あの」

霊能力者「あ、今誰もいないから普通に話してくれ」

社員「……そうか。なあ、さっきから気になってんだが“産まれる”ってなんだ?死んだ人間が霊になるんだろ?」

霊能力者「いや、死んだらそこで終わりだぞ」

社員「なっ」

助手「端的に言いますと、霊とは大気中に存在する何らかの物質が人間の発生させた感情を吸収し変化させて産まれるものである、と最近の研究ではされています」

霊能力者「つまり故人と霊の間に直接な関係はないし、死んでも天国やら地獄とかもない」

社員「……霊能力者の発言とは思えないな」

霊能力者「仕方ないだろ。無いものはないんだし」

助手「元々死後の世界という存在は、生きている人間の死に対する恐怖を誤魔化す為に作られたものですしね」

社員「夢も希望もないな」

霊能力者「だから今を全力で生きるんだろ」

助手「……先生、発言が少しクサイです」

霊能力者「うるせーやい」

こっちでやるなら以前書いてた板の方にも報告しときなよ
こっちスレに誘導するなりさ

社員「あっ、でもあの幽霊?は“復活”がなんとか言ってた気がするんだけど」

助手「ええ、その点は我々も気になったので今回調査しました」

霊能力者「ぶっちゃけこれが今回の目玉だな」

社員「やっぱり“復活”って蘇るってことなのか?」

霊能力者「まあ、ニュアンス的にはそうなのかな。バッサリ結論から言えばありゃ妄言だ」

社員「妄言……」

助手「はい、身辺調査をした結果彼は生前ネット掲示板等に“転生したら~”といったようなものを投稿していたのが判明しました。あまり私生活も上手くいっていなかったようで、本人のSNS等にも類似するような書き込みがされていました。恐らくは憧れに似た何かを持っていたかと」

社員「死んでも尚黒歴史が掘り返されるのか……」

霊能力者「でだ、あの地縛霊はそこを色濃く反映されて産まれたって訳。多分“復活”ていうのも自身の存在を維持する為に作られた“アイデンティティー”ってことだな」

助手「過去50年程を遡っても死者の霊からの“復活”と呼ばれる現象が観測されてない以上、現状ではあの発言は妄言と言ってもよろしいかと」

霊能力者「“受肉”するパターンもあるが、それで産まれたとしてもそいつはもう別の何かだしな」

社員「……何故そんな話をわざわざ」

霊能力者「これから長い付き合いになるからな。お前さんがこの仕事を続けるならな」

社員「……」

霊能力者「……実は式神を動かしてるのも“霊”を作ってるのも全部同じ物質なわけよ」

社員「何となくそんな気はしてた」

霊能力者「観測できてない今現在は“暗黒物質”と呼ばれるものだ。そう遠くない内には観測に成功したりとか、その物質の性質とかそれによって発生するメカニズムとかの解明もされると思う」

社員「……」

霊能力者「霊ってのは“フィクション”じゃなくて“リアル”のものだ。そして、それを構成するのもまた“リアル”なモノだ。だから死んでもそこで終わりだし、故人から産まれた霊はそいつ自身じゃない」

社員「……別に死後の世界とか特別を信じてた訳じゃないけど……。なんかさ、こう、……複雑だな」

霊能力者「ま、死んだ後の事なんて考えても無駄だし気にすんな。大事なのは今だ」

助手「そうですね」

霊能力者「だから霊に対して同情もクソも要らねぇ。困ったら俺らみたいな連中を呼んで祓って貰え。死んだ奴だって半分くらいは死後も他人に迷惑かけたいとは思ってないだろうし」

社員「……なあ、ホントに俺たちはタメなのか?とてもそうには思えないんだが」

霊能力者「そりゃそうだろ。なんせ俺は」

「“寺生まれ”、だからな」

第3破ァッ! 終わり

すいませんがここでの更新は一旦これで打ち切ります

同じスレタイで設定が同じものを速報vipの方でやってますが、今後はそっちで進行していく予定です

ここまで読んで下さいましてありがとうございましたm(_ _)m

乙乙!

深夜だと久しぶりに見たオカルト系スレだったけど楽しかったですぜ

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