【艦これ】Extra Operation!! ドンと打ち上げ恋花火 (39)

※地の文アリ

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提督「あー終わった!ありがとな熊野、お疲れ様」

熊野「提督もお疲れ様ですわ」

予定された一日の業務を終わらせ、俺は秘書官の熊野にお礼を告げる。

柱に掛けられた時計を見ると、短い針が5の数字を指している。

夏と言う季節もあってか、まだ外は夕日の明かりで淡く照らされていた。

何時もは外が暗くなるまで執務室で仕事をしているが、今日は特別な日なので早くあがる様にしたのだ。

椅子に座りながら両腕を前に伸ばし大きく伸びをすると、同じように伸びをした熊野と目が合う。

一瞬の間の後、お互いの顔を見合わせて俺と熊野はクスリ、と笑い合った。

提督「...じゃあ約束通り、三ノ宮駅で待ってるから」

熊野「ええ、承りましたわ」

今日は神戸湾で、夏の風物詩とも言える花火が打ちあがるのだ。

二週間前ぐらいだろうか、午後の小休憩時に執務机でへたっていると、熊野が紅茶を淹れてもって来てくれた。

熊野がその様な事をするのは稀だったので、俺は彼女の意図を探ることにしてみた。

提督「珍しいな、熊野が紅茶を淹れてくれるなんて」

熊野「ひどい言い草ですわね、これもレディーの嗜みでしてよ」

提督「すまん」

どうやら唯の勘違いだったみたいだ。

このお嬢様は変な所で捻くれている所があるので、少し勘ぐってしまう。

供えてあったレモンを入れて少し紅茶を啜ると甘さが控えめである事が分かり、脳が糖分を欲していたので机の引き出しからポンタンアメを取り出す。


そのままアメを口に放り投げると、それを見ていた熊野が驚いた顔で俺に話しかけてきた。

熊野「て、提督。今、アメの包み紙をはがさずに食べませんでした?」

提督「ん。包み紙?いやこのアメには包み紙なんて無いけど」

口でアメを転がしながら、箱の中に残っていた四角いアメを新たに手のひらへ取り出す。

提督「ほら」

熊野「やっぱりあるじゃないですの、包み紙」

提督「...ははーん。これだからお嬢様は困る」

熊野はオブラートを知らないらしい。確かに知らない人が見れば包み紙に見えない事もないか。


提督「ほれ、口あけてみ」

熊野「わ、私は遠慮しますわ」

提督「いいから。騙されたと思って」

熊野「いーやーでーすーわー!」

そう言いながら彼女の口元へポンタンアメを近づける。

やわらかい唇にふに、とアメを押し付けると観念したのか、彼女は口をあけてアメを口の中へ迎え入れた。

熊野は暫くの間、硬く目を瞑り固まっていたが、オブラートが溶けたのか口の中でアメを転がし始めた。

熊野「包み紙が溶けましたわ!」

提督「不思議な感触だろ。割と好きなんだよポンタンアメ」

熊野「ぽんた...?」

提督「ポンタンアメな。熊野はお嬢様だから知らないか」

熊野「あら、提督も紅茶の飲み方を知らないのではなくて?」

そう言いながら彼女は、紅茶に浸かりっ放しだったレモンを救い上げる。知らないのはお互い様みたいだ。

そんなやり取りをしていると、熊野の視線が来客用の机の方を行ったりきたりしている事に気づいた。


提督「...熊野?」

熊野「な、なんですの?」

俺が声を掛けると、彼女は何事も無かったように返事を返す。

しかし暫くすると、また先程と同じように机の方を見るのだ。

流石に気になった俺は椅子から重い腰を上げ、彼女の注意を引く物を探す事にした。

机の上には飾りで置いてある黒い熊の人形、初雪が置いていったお勧めのノベルゲームのパッケージ、そして無造作に投げられた郵便物。

さて、どれだろうか。俺は初めにくまもんの人形を手に取り、彼女に問いかける。


提督「この子がほしいのか?欲張りさんめ」

熊野「違いますわ。あと私は黄色い熊さんのほうが好きですの」

提督「これは失礼」

どうやら違ったらしい。人形を元に戻すと、俺は次の物を彼女に見せる。

「熊野ってホラーゲームいける口?」

「怖いのは嫌いですわ」

じゃあこれも違うな。このノベルゲームはまたの機会に使わせてもらう事にしよう。

そして残るは、今日の朝方にポストに入っていた郵便物。

既に仕事関係のものは分類されて居るので、重要なものは残っていないと思うのだが...。

幾つかの郵便物に目を通すと、俺はある一つのチラシに目を引かれた。


その紙には、第四十八回みなとこうべ会場花火大会の文字。

「あら、花火ですか。...やはり夏と言えば花火、提督もそう思いませんこと?」

どうやら彼女のお目当ての物はこれらしい。

俺が例のチラシを手に取ると、熊野は間髪いれずに話しかけてきた。

「そうだな。熊野、この日の夜、何か予定入れたか?」

手帳を開け、自身の予定を確認する。この日は通常業務で特に用件は無いみたいだ。

「まだ何も入れていませんわ。...もしかして提督、熊野を連れてってくださるの?」



>>7 訂正

提督「この子がほしいのか?欲張りさんめ」

熊野「違いますわ。あと私は黄色い熊さんのほうが好きですの」

提督「これは失礼」

どうやら違ったらしい。人形を元に戻すと、俺は次の物を彼女に見せる。

提督「熊野ってホラーゲームいける口?」

熊野「怖いのは嫌いですわ」

じゃあこれも違うな。このノベルゲームはまたの機会に使わせてもらう事にしよう。

そして残るは、今日の朝方にポストに入っていた郵便物。

既に仕事関係のものは分類されて居るので、重要なものは残っていないと思うのだが...。

幾つかの郵便物に目を通すと、俺はある一つのチラシに目を引かれた。

>>8 訂正

その紙には、第四十八回みなとこうべ会場花火大会の文字。

熊野「あら、花火ですか。...やはり夏と言えば花火、提督もそう思いませんこと?」

どうやら彼女のお目当ての物はこれらしい。

俺が例のチラシを手に取ると、熊野は間髪いれずに話しかけてきた。

提督「そうだな。熊野、この日の夜、何か予定入れたか?」

手帳を開け、自身の予定を確認する。この日は通常業務で特に用件は無いみたいだ。

熊野「まだ何も入れていませんわ。...もしかして提督、熊野を連れてってくださるの?」


提督「ああ。もしかして駄目だった?」

熊野「いえ、その様な事はありませんわ!」

熊野「提督...これはその、でぇと、と言う物なのかしら」

提督「少なくとも俺はそのつもりだけど」

彼女と深い絆で結ばれたものの、これといって恋人らしい事をしていなかった事に気づく。

いつもの様に離れの家でだらだらするのもいいが、どうせなら一つ思い出を作りたいと思ったのだ。

それに日常に紛れるスパイスもたまには必要なのかもしれない。

うれしそうに手帳に予定を書き込む彼女を眺めながら、俺は頭の中で予定を組み立て始めた。


ホームの喧騒に背中を押されながら、俺は何とか電車へなだれ込む事に成功した。

やはりデートスポットとしては花火は鉄板なのだろうか、周りを見ると浴衣を着た男女の二人組みが散在していることが分かる。

一方の相方の熊野はというと、どうやら同じ電車に乗れたみたいだ。

先程マナーモードにしたスマホの画面を見た所、新着欄には電車に乗れたとの報告が入っていた。

どうして一緒に電車に乗らないのかと問われれば、熊野の希望だからとしか言いようが無い。

彼女は待ち合わせと言うものをしたかったらしく、現地近くの三ノ宮駅までは別々で行く手はずにしたのだ。

これだけは譲れないのですわ!と彼女は意気込んでいたが、俺には良く分からない話だ。


熊野と付き合い始めたのは先日のお風呂騒動の時になる。

あの後うっかり使ってしまった熊野のシャンプーの匂いから鈴谷にばれ、どこからともなく現れた青葉によって瞬く間に鎮守府全体へ拡散されてしまったのだ。

当の本人である熊野も、初めは他の艦娘達に追及されて狼狽していたものの途中から開き直り、自ら事の全貌を話してしまった。

こうなるとどれだけ否定しても無駄であり、俺と熊野は公の元で付き合っている事になった。

個人としてはもう少し時間が経ってからの方が良かったのだが、遅かれ早かれぼろが出そうだったので結果的には変わらなかったのかもしれない。


電車に揺られながら、俺は窓に流れる眩い街の風景を眺める。

往来を行き来する膨大な量の人々を見て、まるで日常から離れた別の世界に迷い込んだみたいだと一人ごちる。

丁度大阪を過ぎた辺りで、熊野から新たなメッセージがチャットに飛んできた。

『少し御手洗いによってお化粧を整えるので、先に改札の外で待っていて貰えませんこと?』

了解、と短く返事を返すと俺は窮屈な車輌内で時間を潰す作業に戻った。

目の前のカップルが仲睦まじく話し合っている。

余り褒められた事ではないが、どうしても彼等の会話が耳に入ってきてしまい、盗み聴きをしているような形になってしまった。

どうやら付き合って間も無いらしく、どことなく辿々しい話に少し微笑ましくなる。

彼女の着た浴衣を褒めたり、花火、楽しみだねと当たり障りの無い会話が目の前で広げられていく。

考えてみれば俺と熊野も同じような関係なのかも知れない。

長い間鎮守府で仕事仲間としてやってきたせいもあってか、あまり彼女を特別に意識するような事は無いのだ。

別にそれでも良いとは思うのだが、もしかしたら今日何か変わるかも知れない。

気づけば目的地である三ノ宮駅へ電車が到着したようだ。

スマホをセカンドバッグに仕舞い込むと、人の流れに沿うように俺はホームへ電車から吐き出された。


改札から出て、人の邪魔にならない所で待って数分、向こう側に彼女の姿が見えた。

普段とは違う、落ち着いた色の浴衣と、後のポニーテイルをお団子にした姿に思わずどきりとさせられてしまう。

彼女もこちらに気づいたのか、小さく手を降りながら小走りで駆け寄ってきた。

熊野「提督。ごめんなさい、待たせましたわね」

少し汗をかいたのだろうか、熊野がハンカチで首元を抑えながらこちらに歩み寄る。

提督「全然。むしろもっと待っても良かった」

熊野「…何を馬鹿なことを言ってますの?早くしないと花火大会が始まってしまいますわ」

思ったより俺も余裕がないみたいだ。冷静を装いながらも、ポートライナー乗り場へ歩き始めた。

数歩歩くと、熊野が付いてきていない事に気づく。

不思議に思い、後ろを向いて彼女の名前を呼んだ。

しかし熊野はそこから動こうとはせず、こちらを見るばかりだ。


熊野「提督」

提督「どした」

熊野「…。」

熊野が無言で左手を前に差し出す。

...参ったな。

提督「…エスコートは初めてだから、お手柔らかに頼むよ」

熊野「ふふっ、宜しくてよ」

目の前に差し出された左手を右手で握り返して、彼女と同じペースで俺は歩き始めた。

手の内側から形容しがたい暖かさが俺の身体へ流れ込んでくる。

意識してはいけないと思い頭の中を空っぽにしようとするも、逆に彼女の事で埋め尽くされてしまう。

手汗が気になり始めた頃、急に熊野は左手を滑らせて指を俺の手の中へ滑り込ませてきた。

所謂恋人繋ぎの形になった訳だ。

驚いて彼女の顔を見ると、悪戯っぽい笑みを浮かべ、ペロっと小さく舌を覗かせる。

…どうやら今日は彼女のペースに乗せられる形になりそうだ。


ポートターミナルに着く頃、車内の窓から一つめの花火が打ち上げられるのが見えた。

どうやら開始には間に合わなかったらしい。これでも予定を出来るだけ繰り上げたので、仕方がないのだが。

熊野「提督!見ました!?」

提督「始まっちゃったみたいだな」

熊野「こうしてはいられませんわ!早く行きましょう」

提督「ちょ、熊野!?」

今度は熊野に手を引かれる形で、俺は目的地への歩みを進める。

駅を出て神戸大橋を渡り始めると、打ち上げ花火特有のヒューっという高い音の後に頭上で大きな光の花が咲き乱れ、遅れて重低音が俺らの身体を大きく揺さぶる。

提督「熊野!耳、大丈夫か!?...熊野?」

熊野「…凄い!凄いですわあああああ!!」

提督「おお!?」

花火の音に負けないくらいの大きな声で彼女ははしゃぎだす。

手を繋ぎっぱなしの俺は彼女に振り回される形で、二回三回と人間メリーゴーランドをする羽目になった。


熊野「ねえ提督、私、長年の夢が叶ってしまいましたわ!」

熊野「生まれた地の神戸で、一度でいいから、こうやって花火を見たかったのですの!」

熊野「私、ついにやりましたわー!」

余程嬉しかったのだろうか、俺の手を離れた彼女は舞風も顔負けの大回転を披露する。

下駄を履いているのによくもまあ綺麗に回るもんだ、と感心していると彼女は急に止まり、こちらに振り返る。

熊野「提督も」

提督「?」

熊野「提督も嬉しいですか?私とここに来られて」

提督「...当たり前だ!」

着物の帯が着崩れしない様、細心の注意を払いながら、俺は熊野を勢い良く持ち上げる。

熊野「きゃー!高いですわあああああああ」

提督「おら!もっと近くで花火をみせてやんよ!!!」

熊野「でもそんなに変わりませんわあああああああ」

提督「なんだと!?じゃあ肩車でもするか!?おおん!?」

熊野「お断りですわああああああああああああ」

...これくらい馬鹿っぽい方が俺達にはちょうど良いかもしれない。

先程の刹那のしんみりとしたムードは何処へやら、彼女と俺は再び花火の下で回り始めた。

結局、後ろから来た子供連れの家族の視線で気まずくなるまで、戯れは続いたのだった。


予定していた場所である公園に着く頃には、大会が開始して既に15分ほど進んでいた。

立ちっぱなしで花火をみるのも何なので座れる場所を探すと、噴水の近くに丁度腰を掛けられそうな場所を見つけた。

周りの人に習いながら、熊野と隣同士に腰をかける。石の冷んやりとした感触が心地よい。

熊野「もう少しだけ、そちら寄っても?」

提督「ん、大丈夫だ」

拳一つ分の距離が無くなる。周りの喧噪が五月蝿いにも関わらず、彼女の息遣いさえ聞こえてきそうだ。

…何か会話をしなくては。

テスト



予定していた場所である公園に着く頃には、大会が開始して既に15分ほど進んでいた。

立ちっぱなしで花火をみるのも何なので座れる場所を探すと、噴水の近くに丁度腰を掛けられそうな場所を見つけた。

周りの人に習いながら、熊野と隣同士に腰をかける。石の冷んやりとした感触が心地よい。

熊野「もう少しだけ、そちら寄っても?」

提督「ん、大丈夫だ」

拳一つ分の距離が無くなる。周りの喧噪が五月蝿いにも関わらず、彼女の息遣いさえ聞こえてきそうだ。

…何か会話をしなくては。

提督「そう言えば、」

提督「たまやとかぎやのかけ声の由来、何処から来たか知ってる?」

熊野「知りませんわね」

提督「昔の花火屋の名前から取られたそうだ。花火屋の中でも特に出来のいい花火を打ち上げる花火屋がいてさ」

提督「それが」

熊野「玉屋と鍵屋だったと」

提督「そう。後からは綺麗な花火を称賛するための掛け声として残ったみたいだな」

熊野「なるほど。面白い話ですわね」

熊野「つまり、もし鈴谷が綺麗な花火を打ち上げる職人になったら、すーずやー!という掛け声が生まれる訳ですわね?」

提督「それは無理じゃないかなあ…」

親方姿の鈴谷を脳裏に浮かべてみる。薄着で汗を垂らしながら、他の職人たちと玉を詰め込む彼女。

?-どうして花火職人に?

インタビュアーの質問に彼女はこう答える。すーずやって掛け声、聞きたかったからっしょ。

…情熱大陸か何かか?

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熊野「提督、私あれが食べたいですの」

馬鹿な妄想をしていると、熊野がこちらへ声を掛けてきた。

彼女の視線の先には、可愛らしい形をしたベビーカステラが屋台で売られている。その中には、かの有名な100エーカーの森にすむ彼の姿もあるようだ。

打ち上げ花火が既に始まっている事もあってか、並んでいる人もまばらだ。

彼女の手を取ると、注文している先客の後ろにつく。

提督「ベビーカステラかぁ…久しぶりに食べるな」

熊野「確かに提督がベビーカステラを食べる姿は想像できませんわね。ぽんたんあめがお似合いですわ」

提督「…いまポンタンアメをバカにしたな?裁判で会おう」

熊野「望むところですわ、どう考えても私の勝訴ですけど。大体、提督側につく艦娘は居ないでしょうに」

提督「いや、鳳翔さんはポンタンアメ派だね。間違いない」

熊野「それなら駆逐艦のちびっ子たちはみんなベビーカステラ派に違いありませんわ!!」

熊野「多数決なら私のベビーカステラ派の勝ちですわね」

提督「いや待て。鳳翔さんは全ての母と言っても過言じゃない。つまり艦隊全員の投票権を持っていてもおかしくないわけだ」

熊野「民主主義が崩壊しますわ!?」

乙、ボンタンアメ美味しいよね

>>24 美味しいですね コンビニに置いてあるとつい買っちゃうぐらいには好きです
そして今までボンタンアメの事をポンタンアメと憶えてました 衝撃の事実ですよ...


提督「何だ知らなかったのか、うちの鎮守府は鳳翔さんがトップの絶対君主制だぞ?鳳翔さんが白と言えば黑でも白になるし、ついでに吹雪のパンツの色も白になる」

熊野「吹雪ちゃんのパンツ事情はどうでも良いですわ…提督って案外適当な所が有りますわね」

提督「この前熊野に騙された事、根に持ってるからな」

熊野「ちっちゃい男ですわ」

これぐらいの冗談は多めに見て欲しい。少しはおちょくらないとこっちが振り回されっぱなしだからな。

まあ、冗談を言う相手を間違えるとひどい目に会うのだが。霞辺りからはキツイ回し蹴りが飛んで来たのは言うまでもない。

熊野「今、他の女の事を考えましたわね?」

提督「んんっ、して、ないぞ?」

…その点、熊野との距離は丁度良いのかもしれない。


周りの露店の客が一人、また一人と捌けて行くのを眺めていると、急に体の右側から衝撃が飛んできた。

提督「おっと」

衝撃があった足元を見ると、そこには小さな影が蹲っていた。どうやら子供にぶつかってしまったらしい。

熊野「あらら、ボク、大丈夫ですの?」

少年「あ、え…ぅああああん!!!」

小学生位の子だろうか。熊野が声をかけるも、少年の目には見る見るうちに涙が溜まっていき、泣き出してしまった。

熊野「ど、どうしましょう提督」

提督「まあ俺に任せておけ」

ちっちゃい子が泣き出すのは、俺の経験則から大きく分けて3つの場合がある。

一つ目はお腹が減った時。人間誰しも空腹には耐え難いもので、子供なら尚更だろう。

二つ目はお目当てのおもちゃが買って貰えなかった時。売り場でヤダヤダ大旋風を親にお見舞いする事請け負いだ。

そして最後の三つ目、歩き疲れた時。親に連れられて歩いたあの日、疲れてよくおんぶを強請ったのを今でも覚えている。

ここから導かれる、俺がすべき事は…


提督「ほーら、おいちゃんが抱っこしてやるぞー」

少年「んぎゃああああああああああああ!!!!」

しまった、ぎゃん泣きじゃないか!どうやら俺は選択肢を間違えたらしい。

熊野「ちょっと提督!?何をしていますの!?」

提督「いや、疲れているだろうから抱っこでもしてあげようかなって」

熊野「だからって、見知らぬおじさんに抱っこされて喜ぶ子供はいませんわ!」

そうじゃん、俺見知らぬおじさんだったわ。パパじゃなかったわ。

呆気に取られていた俺を尻目に、熊野は涙と鼻水でグズグズになってしまった男の子の顔をハンカチで丁寧に拭う。

熊野「ああ、ほら泣かないで。男の子は滅多に涙を見せない物ですわ」

少年「うえぇ…ママあああ」

熊野「どうやら迷子みたいですわね」

言われてみれば子供とセットのはずの親の姿が見つからない。周りを見渡しても見渡してもそれらしい人は居ないようだ。


熊野「提督」

提督「そうだなあ…」

親とはぐれた子供をその場に放置する程、俺は鬼じゃない。

熊野と二人で子供の手を取り合うと、列を外れて親を探す事にした。

提督「…なあ少年、俺の顔、そんなに怖かった?」

少年「う”ん”…」

提督「そっかぁ…そっかぁ…」

提督「少年、正直なのは結構な事だが、これから生きていく上でお世辞という物を覚えていくと良いかもしれなイタタタタ!!!!」

熊野「ほんとこの人は…」

少年「おいちゃん怒られてやんのー!」

提督「少年、君以外と余裕あるんじゃないの?」

少年「うえええええええん!!!」

熊野「提督?」

提督「ちょ、これは理不尽じゃないか?」

熊野「言うなれば提督とこの子の間柄は事故を起こした自動車と歩行者ですわ」

提督「つまり?」

熊野「10:0で提督が悪いのですわ」

提督「そんなー!」


おつ


提督「...で、お父さんとはぐれちゃった訳だ」

少年「うん...」

少年が言うには、迷子になった経緯はこうだ。

父親と手をつないで歩いているとクラスメイトに似た子を見つけたそうだ。

後姿だったので本当にクラスメイトかどうか定かではなかったのだが、その子と話したかった為に、彼は父親の制止を振り切って追いかけたのだ。

振り切って走り出したまでは良かったのだが、周りの観覧客に紛れてしまい見つけられず、それに加えて彼自身も父親とはぐれてしまった...というのが事の顛末らしい。

提督「ちゃんと親の言う事は聞かないとな...多分、お父さんも今頃君を探し回ってる」

俺と熊野に挟まれた形で歩む少年は、俯きながら泣きべそをかいている。

まあ乗りかかった船なのだから、きちんと少年を親の元へ返す事にしよう。

それに父親とはぐれてから、時間はあまり経っていないそうなので、まだ近くにいるかもしれない。


熊野「とりあえず、お父さんはどんな方ですの?」

そうだな、人探しをするときの基本はその人の特徴を聞く事だ。

提督「流石だなワトソン君」

熊野「誰がワトソンですか」

少年「えーっと...お父さんは優しくて、でもちょっと頼りなくて...でもかっこいいよ!」

熊野「だそうですわホームズ」

さすがにかの有名な名探偵ホームズにも無理と言うものがあるだろう。

提督「お父さんの服とかは分かるか?身に付けてるものとか」

少年「あっ、お父さん眼鏡かけてるよ!あとね、白いシャツ!」

提督「白?無地の真っ白なシャツって事か?」

少年「うん!」

これは有益な情報である。暗がりの場所では白い服装は比較的見つけやすい筈だ。

提督「じゃあ、お父さんとはぐれた場所まで戻ろうか」

少年「わかった、たぶんこっち!」

熊野「だめですわ。ちゃんと手をつないで、ね?」

走り出そうとした少年の手を、熊野と同じようにしっかりと繋ぎ止める。

これは親御さんも大変だな...目を離したら何処に行くか分かった物ではない。

小さい頃の自分もそうだったのだろうか。


少年「僕ね、お父さんにフランクフルト買ってもらう約束したんだ」

熊野「じゃあ尚更、お父さんを見つけないといけませんわね?」

少年「うん、楽しみ!」

遥か頭上で咲き乱れる花火に照らされながら、俺達は三人で人ごみの中を掻き分けていく。

暫く経つと少年にも余裕が戻ってきたのか、無邪気にはしゃぎながら熊野とお喋りに花を咲かせ始めた。

少年「ねえ、おねえさんの名前はなんていうの?」

熊野「私ですか?熊野、と申しますの」

少年「くまの、かぁー。くまのは、おいちゃんとつきあってるの?」

流石小学生、ませてやがる。

一方の熊野はというと、口元に手を当てながら穏やかに笑っていた。

そしてこちらをちらりと一瞥すると、

熊野「やっぱり、そう見えますの?」

と含みのある返事をした。

少年「えー、違うの?ねえおいちゃん、教えてよ!」

提督「そうだな、たぶん君の想像通りだと思うぞ」

少年「もー、よくわかんない!」

提督「何時か分かるさ」


少年「ずるいー!お父さんもそうだ、子供だからって秘密にするもん」

提督「例えば?」

少年「お父さん達、僕が寝た後にこっそり何か飲んでるんだ。黄色いしゅわしゅわの奴」

提督「あーなるほどな」

確かにお酒は子供には無縁なものだろう。親が秘密にしたいのも分かる。

少年「知ってるの?」

提督「俺は知らないなぁ」

少年「...ほんとう?」

提督「本当ダヨ、ワタシウソツイタコトナイヨ」

少年「絶対嘘だ」

提督「熊野なら知ってるかもな」

熊野「残念ですけど、私にも良く分かりかねますわ」

提督「まあ、何時か分かるさ」

少年「またそれじゃん」

提督「悪いな」

取り留めの無い無駄な会話が繰り広げられる。

そしてそれを悪くないと思う自分も居る。

なんだろう、何時かこうやって自分の子と会話をする日が俺にも来るのだろうか。

熊野「ふふっ、なんだか楽しいですわ」

提督「...ああ、そうだな」


提督「ここか?お父さんとはぐれた場所」

少年「...」

俺と熊野の手を引く少年が急に立ち止まる。どうやら彼の父親とはぐれた場所に辿り着いた様だ。

しかし残念な事に、少年の親の姿は辺りには見当たらなかった。

ここで暫く待つ方が良いのかもしれないが、少年の暗い顔色を見るに余り得策とは言えないだろう。

提督「熊野、悪いが迷子案内の場所を調べてもらえるか」

熊野「...おそらく向かい岸のハーバーランド側ですわ。こちら側からでは」

携帯端末で花火大会の特設HPをこちらに見せてくる。彼女の言うとおり、簡易地図に指し示された場所は、

提督「遠すぎるな」

現在俺達が居るしおさい公園からは、当然歩いて行ける様な距離ではない。

いっその事、最寄り駅の駅員に託した方が良いのだろうか。

提督(...やっぱり駄目だな)

俺にはどうしてもこの少年を、再び一人にする気にはなれなかった。

提督「少しの間、待っててくれるか?周りを探してくる。熊野!」

熊野「はい」

提督「親御さんが来るかもしれないから、この子に付き添っていてくれ」

熊野「承りましたわ」

熊野にそう告げると、俺は足早にその場を駆け出した。


熊野「大丈夫ですわ。ちゃんと提督が見つけてきてくれます」

少年「うん」

とは言ったものの、彼はこの子の親を見つける事ができるのかしら、と私は不安になってしまう。

先程から私達の前を多くの人が通り過ぎていく。

やはり花火大会と言うだけの事はあって、普段とは比べ物にならない程の人通りだ。

隣に腰をかけている少年も必死に親御さんを探している様ではあるが、今の所それらしき姿は見つけられていない。

少年「...くまのは寂しくないの?」

熊野「私ですか?私はもういい歳ですから、寂しくなんてありませんわ」

少年「くまのは大人なんだね」

熊野「ええ」

そう返したものの、私は何気ない少年の言葉に、心の何処かで突っ掛かりを覚えていた。

(寂しい...か)


艦娘は外見は人間と外見こそ似ているものの、本質は似て非なるものだ。

陸ではこうやって人と変わりない姿で過ごしているが、一度戦場である海上へ出れば艤装を展開し、人類の敵である深海棲艦と砲撃の応酬をする。

当然、戦闘では負傷者も出るし、場合によっては航行不能な損害を被る事だってある。

それでも私達は沈まない限り、工廠で入渠すれば傷は癒え、そして再び戦場へ舞い戻るだろう。

その姿は兵器と言っても過言ではない。

しかし兵器である私達にも心と言うものが存在するのだ。

人と同じように喜怒哀楽の感情を持ち、心の拠り所を求める。

それは同じ戦場に立つ仲間だったり、かけがえのない日常を守る為だったり、様々だ。

そして私、航空巡洋艦熊野にとって提督は心の拠り所となる存在である。

左手の薬指に付けられた指輪を無意識に撫でる。

彼から渡された、この鈍く光る指輪にはどのような意味が含まれていたのだろうか。

私の鎮守府では今までケッコンカッコカリをした艦娘は存在せず、事実上、私だけが提督と深い絆を結んでいる事になる。

この指輪を渡された時、彼からはこれからもよろしく頼む、と言う言葉だけであった。

彼は私をどう見ているのだろう。兵器の艦娘として?それとも...

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