ヒーロー「怪人コウシエン?」 (21)
≪秘密基地≫
ヒーロー「何だいそりゃ」
オペ子「毎年この時期に出現する怪人なんですよ~」
ヒーロー「そりゃまた夏の風物詩みたいな」
オペ子「まさにそうなんです~。去年はあなたの先輩が戦って倒したんですけど……」
ヒーロー「今年も現れてるのかい?」
オペ子「モニターに映しますね~ 実際に見てみてください」
モニター『キャーキャー ワーワー』(出現した怪人を前に騒ぐ群衆)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1534047542
ヒーロー「……ん?」
オペ子「どうかしましたか?」
ヒーロー「いや、『怪人コウシエン』なんて言われてるからてっきり野球少年みたいな見た目してるのかと思ったら」
ヒーロー「見た目はただの怪人なんだね」
オペ子「はい~。実を言うとこの名称は俗称なんです」
ヒーロー「というと?」
オペ子「出現する時期は同じだけど見た目は毎年違うんですよね~」
オペ子「なので毎年その都度正式名称が与えられているんですけど、ひとまとめにして呼ぶ際には俗称の『怪人コウシエン』を用いています」
ヒーロー「なるほどね。でもどうしてそう呼ばれてるんだい?」
オペ子「それは……さあ?」
ヒーロー「気になるね。調べておいてもらえるかな」
オペ子「了解しました~」ビシッ
ビーッ! ビーッ!!
ヒーロー・オペ子「「!」」
オペ子「エリアHに怪人コウシエンが出現!」
オペ子「甲子園球場へ向かっている少年野球チームのバスを襲撃した模様!」
オペ子「直ちに出撃準備をお願いします!」
ヒーロー「了解! 転送してくれ!」
オペ子「ご武運を!」ピッ
キィィィィン!!
≪エリアH≫
怪人コウシエン「ホロベー!! ホロベーーー!!」
ドゴォォォォン!!!
少女A「きゃぁぁぁ!!」
少年A「うわぁぁぁ!!」
怪人コウシエン「オナミダチョーダイ!! オナミダチョーダイ!!」キュィィィィン……!!!
少女A「あ、あわわわ……!」
ドオオオオオオン!!!
少年A「……?」
(怪人コウシエンの前にへたり込んでしまった少年少女)
(怪人の攻撃が届きそうになった瞬間、それが掻き消される)
(二人の前に立っていたのは――)
ヒーロー「みんな、ここは僕に任せて早く逃げて」
少年・少女「「ヒーロー……!」」
怪人コウシエン「ホロベー! ホロベー!!」
ヒーロー「さっきから何わけわかんないこと喚いてんだか」
ヒーロー「行くよ! ――変ッ! 身ッ!!」シュバッ!!
(ヒーローの変身アイテムが光り、鳴り、戦闘フォームに姿を変える)
ヒーロー「来年の後輩の仕事を増やすわけにはいかないからね。僕の代できっちり片つけさせてもらうよ!」
怪人コウシエン「ニッチャァ!! ニチニチニチ!!」
ゴォッ!! ドオオオオオオン!!
ヒーロー「ハァッ! テヤァッ!!」
(必殺武器を取り出し怪人の光弾を切り裂きながら戦うヒーロー)
(しかしなかなか有効打を与えられない)
ヒーロー(チッ、こいつ中々やるな……)
ヒーロー(ただの怪人なら楽に倒せるんだけど……いくら攻撃しても歯ごたえがない)
ヒーロー(だが取り立てて強力な特殊能力があるわけでもない)
ヒーロー(ただ訳わかんないことを喚きながら殴る蹴るを繰り返すだけ)
ヒーロー(こいつは何なんだ? どうやったら倒せる……?)
怪人コウシエン「ナミダチョチョギレ!! マスゴミィィィイッッ!!!」
ドガーーーーン!!!
ヒーロー「くっ……! ハッ、いない」
ヒーロー「逃げられたか……」
ピピッ
オペ子『こちらオペ子です。ヒーローさん、聞こえますか?』
ヒーロー「こちらヒーロー。すまない、逃げられた」
オペ子『レーダーからも消えました。瞬間移動能力を持っているのか、あるいは……』
ヒーロー「……とにかく、付近を調査してから戻るよ。少年少女たちのこともあるし」
オペ子『わかりました。では私はヒーローさんに頼まれた件、やっておきますね』
ヒーロー「ああ、頼む」
ピピッ
ヒーロー「さて……」
タッタッタッ
ヒーロー「みんな、大丈夫? 怪我はないか?」
監督「ああ、幸い軽傷者が数名で済みました。ありがとうございます」
ヒーロー「いえいえ。ところで……」
監督「はい……。わかっております」
ヒーロー「みんな、ごめんな。これから野球観に行くつもりだったんだろうけど……」
少年・少女「「…………」」
ヒーロー「怪人の事件に関わった人は万が一の事態に備えて専門の病院に行かなくちゃいけないんだ」
ヒーロー「だから――」
少年A「うん、いいよ」
ヒーロー「! 本当かい?」
少女A「ヒーローさんの頼みだもん。あなたがいなかったら私死んでたし」
少年A「これで病院に行かなかったらヒーローに迷惑かけちゃうんでしょ?」
ヒーロー「ありがとう。後で差し入れ持っていくよ」
(ヒーロー組織の専門スタッフが来て少年少女たちを連れて行く)
(その際、ヒーローは気になる会話を耳にした)
少年B「野球見たかったけどなぁ……仕方ないし帰ってライジャー戦隊でも見よーっと」
少年C「今日はやってないぞ。甲子園中継でお休みだぞ」
少年B「あっ、そうだった。ちぇーっ、つまんねーな」
ヒーロー「…………」
≪秘密基地≫
ウィィィィン
ヒーロー「ただいま戻りました。付近を調査するも目立った収穫はありませんでした」
オペ子「お疲れさまです~ コーヒー淹れましょうか?」
ヒーロー「ああ、ありがとう。頼む」
コポコポ…
オペ子「そういえばヒーローさん、わかりましたよ~ 『怪人コウシエン』の名前の由来」
ヒーロー「本当かい?」
オペ子「SNSやネット掲示板が発祥のようですね~」
オペ子「毎年この時期になると甲子園中継で日曜朝のアニメや特撮がお休みになっちゃうらしいんです」
ヒーロー「ああ、それ少年少女たちも言っていたよ」
オペ子「それでその寂しさを紛らわせるために生まれたのが『怪人コウシエン』という概念」
オペ子「つまり『ヒーローでも倒せない、毎年現れる怪人』というネタなんですね」
オペ子「その年に放送している番組の敵によって呼び方が変わるらしいですよ。『コウシエンローミューダ』とか『コウシエンボガスター』とか」
ヒーロー「ユニークだね。放送休止もネタにして楽しもうとするなんて大人だな」
オペ子「そして現実でも同様に毎年決まった時期に現れる怪人を、俗称で『怪人コウシエン』と呼ぶようになった~……と」
ヒーロー「…………」
オペ子「どうかしましたか?」
ヒーロー「うーん。引っかかることがあって」
ヒーロー「すまないが次の出撃までにイマジンパルススキャナーとイマジンパルスブレイカーを用意してくれるかな」
オペ子「イマジンパルスシリーズですか。……成程。わかりました」
ヒーロー「僕の予想が正しければ、怪人コウシエンの正体は――」
ビーッ! ビーッ!!
オペ子「! エリアHに再び怪人コウシエンが出現しました!」
オペ子「今度は甲子園球場の付近に出現している模様!」
ヒーロー「……仕方ない、イマジンパルススキャナーだけ持っていく。ブレイカーは準備ができ次第転送してくれ!」
オペ子「わかりました! ご武運を!」ビッ
ヒーロー「行ってくる!」
キィィィィン!!
≪エリアH≫
キャーー!! ウワアアーーーッ!!!
怪人コウシエン「ホロベ! ツブス! ホロボース!!」
怪人コウシエン「コーシエン! チューシィィィィ」キィィィィン…!!!
怪人コウシエン「ホロボオオオオオオオオオオオオ」ゴォォッ!!!
ヒーロー「――ハァァッ!!」シュバァァッ!!
ドガァァァァン!!
怪人コウシエン「!」
(球場外壁に放った火炎弾がヒーローの拳に打ち砕かれる)
(怪人が驚いている隙にイマジンパルススキャナーを構えるヒーロー)
ピッ ピッ ピピピッ
ヒーロー「やはり思ったとおりだ。こいつには実体がない」
オペ子『ということは……思念体?』
ヒーロー「感情種別は……『悪意』『殺意』『興奮』」
オペ子『厄介な感情ばかり集まりましたね……』
ヒーロー「この思念が電磁波となってこの怪人の元に送り込まれているはずだ。どこから送られているのか調べてくれ」
ヒーロー「それとこいつの鳴き声を解析班に回してくれ! 思念体の発している声なら何らかの意味があるはずだ!」
オペ子『了解!』
怪人コウシエン「ニッチャァァァァアアア!!! サアアアア!! プリップリプリッ!!!」
(目的を阻まれた怪人が異常興奮しながら突進する)
(球場を守りながら戦うことを強いられるヒーローは徐々に押されていく)
怪人コウシエン「ギエエエエエエエエエエエエエエエロオオオオオオオオオオオ!!!!!」
ドガァァッ!!
ヒーロー「ぐはぁっ……!!」ゴロゴロッ
ヒーロー「くっ……」
ピピピッ
ヒーロー「!」
オペ子『お待たせしました! イマジンパルスブレイカーを転送します!』
キィィィン!
ヒーロー「よし、ありがとう! これで攻撃が効く!」ガシッ
オペ子『報告が二つあります! 戦いながら聞いてください!』
ヒーロー「ああ、頼む!」
(イマジンパルスブレイカーとは対思念体専用武器だ)
(剣と銃の2モード変形することができ、怪人の火炎弾を銃で叩き落としながら近接では剣で切りつける)
(徐々に形勢がヒーローの方へ傾き始める)
オペ子『まず電磁波を発射している地点です。調べてみたところ、その家の住人のSNSアカウントでは甲子園大会に関する発言がありました』
ヒーロー「やはりニチアサファンの『怪人コウシエン』がそのまま具現化していたんだな」
ヒーロー(だが――そうなると疑問が浮上する)
ヒーロー(『怪人コウシエン』ネタは寂しさを紛らわせるために生み出された大人のネタのはずだ)
ヒーロー(なのに何故こいつは『悪意』『殺意』『興奮』といった感情で構成されているんだ?)
オペ子『次に、鳴き声の解析データが出ました! ……ちょっと、あんまりお聞かせしたくないんですが』
ヒーロー「構わない、聞かせてくれ!」
オペ子『わ……わかりました』
(ヒーローの耳に解析データが流れてくる)
(思わず顔をしかめるヒーロー)
(それもそのはず、その言葉は無価値な正義、無根拠な罵倒、無意味な暴言)
(聞くに堪えない、人間の悪意だった)
ヒーロー「なるほどね、ようやくわかった」
ヒーロー「もし『怪人コウシエン』がそのまま具現化されていたなら容姿に野球要素が濃く反映されていたはず」
ヒーロー「こいつは『怪人コウシエン』の具現化じゃない。『怪人コウシエンに対する怨念』の具現化だったんだ」
怪人コウシエン「エモ……エモエモエモ……エボボボボボボボ!!!」
怪人コウシエン「ザンコクショー!! オナミダチョーダイ!! ホロボオオオオオオオオオス!!!」
(渾身の力を込めて怪人が巨大火炎弾を放つ)
(ヒーローはイマジンパルスブレイカーのリミッターを外して迎え撃つ)
(周囲に撒き散らされる青白い電光)
(トリガーを引くと同時に轟音が空気を揺らし――)
ヒーロー「――イマジンパルスブラスターーーー!!!!!」
怪人コウシエン「ゴ…………ア……ァ……!!!!」
怪人コウシエン「ホロ……ボス…………ヤキ……ホロ……」
怪人コウシエン「バクハヨコクゥゥゥゥウウウウウウウウウ!!!!!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!
(醜い断末魔を残し)
(怪人の体は爆発の中に消えた)
≪後日、秘密基地≫
コトッ
オペ子「コーヒー入りましたよ~」
ヒーロー「ああ、ありがとう。……ん、おいしい」
オペ子「それにしても……怪人コウシエンの正体が、怪人に対する怨念だったなんて」
ヒーロー「今回具現化するにあたっては『怪人に対する怨念』だけだったけど、きっと『高校野球に対する』『野球に対する』『スポーツに対する』怨念というのもあるんだろうな」
オペ子「辛いものですねえ~」
ヒーロー「人それぞれに事情があるからどうとも言えないけど……。『好きなものを見たい』、その気持ちを盾にして過激な非難を行うのは悪意としか言いようがないね」
オペ子「いい歳して日曜朝のアニメや特撮にぞっこんな人はやっぱりどこか変なんでしょうかね~」
ヒーロー「いや、それは違うよ」
オペ子「え?」
ヒーロー「ニチアサにやっているのは正義のヒーローの物語だ」
ヒーロー「彼らの生き様を見て、作品に込められたテーマを読み取って、自分の生き方をより良くしようと思う人たちは少なくないはずだよ」
オペ子「……そうですね。そうだといいですね」
ヒーロー「僕は信じてるよ。僕の後輩の前には怪人コウシエンが現れないことを」
ビーッ! ビーッ!!
ヒーロー「!」
オペ子「ヒーローさん! 怪人チャイコレアンが出現しました!」
ヒーロー「またか……イマジンパルスブレイカー用意しておいて!」
オペ子「了解!」
(現場へ転送されていくヒーロー)
(今日もまた、彼らの仕事は山積みだ)
(がんばれヒーロー、この世から悪意が消えるまで)
おしまい
おつ
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