私の名は喪黒福造……人呼んで笑ゥせぇるすまん
ただのセールスマンじゃございません
私の取り扱う品物は「心」……人間のココロでございます
この世は老いも若きも男も女も、心の寂しい人ばかり
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします
さて、今日のお客様は――
≪24歳学生≫
――大学――
大学職員「この単位の取得状況では、今年も卒業は厳しいですよ」
学生「……そうですか」
大学職員「学生さんは、将来の展望についてどうお考えですか?」
学生「どうと言われても……」
大学職員「目標もなく留年を重ねても、卒業後のことをきちんと考えていないと前には進めませんよ」
大学職員「一度、大学を休むという選択肢も考えてみてください」
大学職員「あなた自身の人生のために、どういう選択をするのがベストなのか。自分でしっかりと考えてくださいね」
学生「はい……」
――飲み屋――
学生「んっ……んっんっ」
学生「プハ――――ッ」
学生「大将! ビール! ビール!」
大将「おい、学生。ちと飲み過ぎだろう。今日はもうこの辺でやめときな」
学生「飲まなきゃやってられないんすよぉ……ああー」
大将「ホラ見ろ、もうフラフラじゃねぇか。今日は酒代はいいから、さっさと帰れ」
学生「頭に来ますよ!」
バァン!
――路上――
学生「はぁー」
学生(人に当たるなんて最低だな……。全部自分が悪いのに……)
ドンッ!
学生「あ、すみませ」
喪黒「いえいえ、こちらこそ」
学生「ッ!?」
学生(何だこいつ……全身黒ずくめ。不審者だってはっきりわかんだね)
学生(絡まれないようにさっさと行こう)
喪黒「おや、もう行ってしまわれるのですか。学生さん」
学生「えっ……どうして僕が学生だと分かるんです?」
喪黒「その精悍な顔つきを見れば十中八九、若い学生さんだろうと思いましてね」
喪黒「どうやらまだお酒を飲み足りないご様子。どうです? 袖振りあうも他生の縁。近くのバーで一杯やりませんか?」
学生「ウーン。でもなあ……お金がないし」
喪黒「ご心配なく、ワタシがおごりますよ」
学生「あ、いいすか?」
喪黒「もちろん」
学生「しょうがねえなあ……じゃあ、ちょっとだけ」
――BAR【魔の巣】――
マスター「……」キュッキュッ
喪黒「おやおや、あなた、24歳で学生なのですか?」
学生「そうですねぇ。ダブっちゃいまして……」
喪黒「それは大変ですなあ。大学に通うにはずいぶんお金がかかると聞きますし」
学生「お金がなくて困ってます。親の仕送りも、留年したと伝えたらプッツリ途絶えちゃいましたし」
喪黒「それは困りもので。何か、バイトでもなさっているのですか?」
学生「コンビニとかでバイトをしているのですが、もっと割のいいバイト、どこかにないかなぁっていつも思ってます」
喪黒「ほほう」
学生「はぁー、でも……もし卒業できても、その先のことなんて……全然考えられないですよ」
喪黒「何をおっしゃいます。まだまだお若いあなたなら、この先何だってやっていけますよ。何か、好きなモノは無いのですか?」
学生「好きなモノですか? やっぱり王道を行くソープ系ですかね」
喪黒「ほう、ソープですか。ですが、お高いのでは?」
学生「ピンキリですよね。僕、両刀なので、どっちでもイケるタイプなんですよ」
喪黒「それは頼もしい限りですねえ。見たところ、体もよく鍛えていらっしゃるようで」
学生「そうなんですよ。体はいつも鍛えてますね。僕、できたらですけど、将来は体を使って出来る仕事がいいと思ってるんです。頭はよくないので」
喪黒「体を使う仕事ですか。具体的には、どういう?」
学生「あ、あの……。恥ずかしい話ですけど……子どもの頃の夢は俳優になることでして」
学生「こう、かっこいいアクション系のドラマに出て……有名になって……みんなの人気者になりたいって……」
学生「そんな気持ちがあって、ずっと体は鍛えてるんですけど……。現実問題、俳優なんてなれるわけがないし……ただの夢で終わっちゃいそうですけど」
学生「~~~ッ」ゴクゴクゴク
学生「アッー……」
喪黒「なるほど。あなたのお気持ち、よく分かりました」
喪黒「こちら、ワタシの名刺です」
学生「えっと、……喪黒福造さん?」
学生(あなたのココロをお埋めします……?)
喪黒「明日、名刺の裏に載せている住所にぜひお立ち寄りください」
学生「はあ」
喪黒「俳優になりたいというあなたの望み、ワタシが力添えして差し上げましょう。当面必要となるお金も稼ぐことができて一石二鳥ですよ」
学生「本当ですか? えっでも……これって何かの詐欺なんじゃ。俳優にしてやるって言ってお金をだまし取るとか、そういう」
喪黒「いいえ、ワタシはお金をいっさい受け取りません。お客様に喜んでいただければ、それが何よりの報酬でございます……ホッホッホッホ」
――廃ビル――
学生「この建物みたいだな……」
学生「……古びたビルだけど、大丈夫なのか?」
学生「やっぱり騙されたんじゃ……」
喪黒「学生さん」
学生「うわっ! も、喪黒さん」
喪黒「そろそろ来られる頃合いと思いまして、見に来ました。さあさあ、中へ入ってください、どうぞ」
ざわ・・ ざわ・・
学生「あれ、さっきまで静かだったのに……中に人がたくさんいる」
学生「これ……撮影スタジオ?」
学生「喪黒さん、これはいったい?」
学生「あれ、喪黒さん?」
監督「君が学生くんだね?」
学生「え、誰ですか?」
監督「何だね。その口のきき方は。私が監督だ。君の出演作品の監修も務めさせてもらう」
学生「監督って……」
監督「君の演技には期待をしているよ。さっそく演技指導に入るから、準備するように」
学生「僕が……演技を?」
監督「そうさ。君の演技がこの作品の出来を決めるんだ。役者として誇りを持って演じてほしい」
学生(僕が……俳優に!)
学生「はい! 頑張ります!」
――――――――
――
――まず「家さあ」だ
『まずうちさぁ……』
『お前のことが好きだったんだよ!』
『イキすぎィ!』
『この辺にぃ、美味いラーメン屋の屋台、あるらしいですよ』
『菅野美穂』
――じゃあ、オナニーとか?
『やりますねえ!』
『出そうと思えば(王者の風格)』
『ブッチッパ!』
喪黒「学生さんの出演作品が店頭にも並ぶようになりましたねえ」
学生「お久しぶりです。喪黒さん」
喪黒「おや、学生さん」
学生「喪黒さんのおかげで、僕は俳優としてデビューできました。好きなことをやって、お金までもらえて、本当に幸せです。ありがとうございました」
喪黒「ホホホ……それはよかった。おっと、一つだけ言い忘れていたことがありました」
学生「はい? 何です?」
喪黒「いいですか学生さん。今後もこのお仕事を続けていくおつもりならば、もう二度と、ソープを利用してはいけませんよ」
喪黒「これは約束です。よろしいですね」
学生「おかのした」
――――――
――
「ホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラ!」
「ひゃあっ・・あっあっあんっ・・・・・らめぇーっ」
学生「フゥー、気持ちいいー」
学生(喪黒さんはああ言ってたけど、やっぱり王道のソープ系はやめられねえな)
学生(約束破っちゃったけど)
学生「ま、多少はね」
喪黒「学生さん」
学生「ファッ!?」
喪黒「あれほど約束したのに……これはもう仕方がありませんなあ」
学生「わ、悪気はなかったんですよ! ヤバイと思ったけど性欲を抑えきれなくて……」
喪黒「言い訳は無用です」
学生「喪黒さん許して!」
喪黒「ドーーーーン!!!!」
学生「ぬああああああああああああああああああんッ」
――――――
――
カタカタカタカタ
野獣先輩『イキすぎィ!』
「くさい」
「キモい」
「汚物」
「うんこの擬人化」
「野獣死ね」
「ステハゲ」
「一生ネットの晒し者」
「元はホモビ」
……
カタカタ
元学生「死にてえなあ……」
カタカタ
『うぃいいいいいいいいいいい↑っす!どうも、シャムで~す!』
元学生「ぷっ」
元学生「……明日も頑張ろう」
喪黒「オーホッホッホ……、これで元学生さんも有名な人気俳優としてインターネット上でひっぱりだこ」
喪黒「とはいえ、常に世間の目に晒され、言いたい放題言われて飽きられたら見向きもされなくなる俳優業」
喪黒「何とも因果な商売でありますなあ……」
喪黒「ホッホッホ……オーーーホッホッホッホ……」
おわれ
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