「アイドル」。
その言葉の意味は、それを認識する人の数だけ答えがあるのだろう。
偶像と仮面。出会いと成長。道と輝き。そして、夢と願い。
それはきっと、彼女自身にとっても同じこと。
この想いがあるから。それでも、信じたいものがあるから。
無数の線は──。
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彼女はステージ脇から、スタッフたちによって最終準備が行われているステージを見つめていた。
そこではポップアップやリフターの動作のチェックや、特殊な機材を用いた音響の微調整が行われていた。
照明のスタッフはステージ上部のライトを見上げ、ステージから客席へと向かう、光の軌跡を確かめた。
今までにない規模でのライブということもあり、たくさんの人々がこのステージに関わっている。
もちろんこのステージを作り上げようとするのはもちろん彼らスタッフだけではない。
彼女たちを応援してくれるひとたちの存在、そしてなにより彼女たち自身が経験したすべてがこのステージにつながっている。
出演者自身の最終確認が終わった後のこの時間、彼女は不思議な居心地の良さを感じていた。
スタッフたちの会話が、モニタに流れるテスト用の映像が、がらんどうとした客席が、あと数時間たらず先の熱と歓声の舞台を予感させ、胸を高鳴らせるのだ。
壁を背にしてしばらくその光景を眺めていたところで、彼女は自身がよく知る存在を見つけた。
「あら、プロデューサー。」
「このみさん、ゲネお疲れ様です。何か問題とかなかったですか?」
「ええ、こっちは大丈夫よ。」
いつからかこうして、どちらが言い出すでもなくゲネ終わりに舞台脇で話をするようになっていた。
とはいえ、たいていこの段階で問題が生じることはあまりなく、いつも何でもない話をするだけであった。
「そうですか。それならよかったです。」
彼はそう答えながら、遅くなってしまって少々きまりがわるい、といったように頬をかいた。
もちろん約束をしていたわけではないのだが、ふたりはそういう関係性でもあった。
「プロデューサーもお疲れさま。もしかして、そっちは何かあったの?」
「照明のスタッフさんと最終の打ち合わせを。……と言っても事項の確認くらいでしたけど。」
そう言いながら彼女の隣で彼は壁に身を預けた。
ふたりの目線の先には、数時間先の光り輝く舞台を予感させる、確かなものが存在した。
「ところで。『あの曲』はどうですか?」
彼は彼女の目を見て、そう尋ねた。
その表情は先ほどと比べて、さらにまっすぐなものだった。
もう何時間かで始まる今回のライブでは、ひとりひとり新曲が初披露されることになっている。
当然新しい曲に対しては、楽曲の世界観の理解から技術的なレッスンまで、今日までさまざまな準備を行ってきた。
彼の問いについて、彼女は時間をかけ、言葉を選ぶようにして答えた。
「……ええ。難しかったけれど、出来ることはすべてしてきたつもりよ。」
「でも。それ以上は、ステージに立ってみないとね。」
そう答える彼女はただまっすぐで。
二人は舞台の0番と、先に広がる客席を見据えていた。
***
開演時間もまもなくといった時間。
諸注意の放送が流され、会場は徐々に熱を帯び始めた。
まばらな光の間から新しい光が点灯し、一面はすでにサインライトで彩られていた。
ファンたちの逸る思いは、客席の照明が消えたのを合図に、一斉に動き出した。
舞台裏では、多くの人が固唾をのんで見守っていた。
この公演を象徴するような、まだ誰も知らないメロディが流れ出す。
裏方である彼もまた鼓動が早くなるのを感じていた。
スタッフの秒読みが始まった。
それに対して彼はそっと彼女にうなづき、彼女はそれをみて目線を交わす。
秒読みに合わせて、39人のアイドルたちは暗転したままのステージへ次々と飛び出していく。
耳馴染みがなく、それでいて開幕を予感させるその音楽は──。
「とびらあけて さあ行こうよ」
ステージ中のライトが39人のアイドルたち全員を一斉に照らす。
会場中から巻き上がる膨大な熱を受け、アイドルたちはそれに応えるように輝きを増していく。
たった一瞬の間で何十回、あるいは何百回と。
高翌揚が高翌揚を呼び、感情が呼応する。この瞬間が胸を高鳴らせる。
この会場中、すべてのひとがずっと待ち望んでいた瞬間だった。
「私たちの Brand New Theater Live!」
──その音楽は、皆が知る物語の新しいはじまりとなって会場中に響き渡った。
***
ライブも中盤が過ぎたころ、彼女は自身のステージ裏の待機位置にいた。
時間まではまだ少し時間があるが、ある曲をきっかけにこの場所に来ていたのだ。
目を閉じて、イメージをする。
自身のこの曲について。
詞の世界、感情、言葉。
何度も飲み込んで、また抱きしめて。
この想いは──。
彼女がゆっくり目を開けると、そこには彼がいた。
「緊張してたりしませんか?」
「そうね。全くないかと言われると嘘になるけど……。」
いつもと比べて少し緊張があるのは本当のようだった。
もちろんミリオンスターズ全員での大型ライブ、ということもあるのだが、なにより「あの曲」の初披露ということが大きいのだろう。
彼女はその言葉の先を続けようとしたが、そこでこちらへ近づく小走りの足音と、耳馴染みのある声が聞こえてきた。
「このみ姉さーん!」
「わっ、莉緒ちゃん。ステージお疲れ様。」
彼女のもとへ飛び込んできたのは百瀬莉緒だった。
もう。驚かさないの、といつもの調子で彼女は言葉を返すが、百瀬莉緒はどこか嬉しそうであった。
「さっきの曲ずっと見てたわよ。ステージ、どうだった?」
彼女のその問いの答えは、表情を見れば明らかであった。
「ファンのみんなが、凄くて。私までいろんな物を貰っちゃったわ♪」
頬に汗を流しながら、呼吸を整えながら。
その笑顔は、とても魅力的なものだった。
「ふふ。莉緒ちゃん、お疲れさま。髪が張り付いてるわよ?」
その後も何気ないやりとりする彼女たちの姿を見て、彼は静かに息を吐いた。
「このみさん、この曲の終わりでスタンバイです。それと……。」
「それと、ここでこのみさんのステージを見てますから。」
「ええ。担当アイドルのステージ、目を離しちゃダメよ?」
右腕に身につけたブレスレットを揺らして、彼女は薄暗がりの待機位置へと向かう。
暗幕たった一枚ごしの、ステージの熱と歓声を肌に受けながら、あとたった数分先のステージをその瞳の奥で感じた。
この胸の高鳴りはきっと──。
***
「ねえ」
問いかけるようにして、その言葉は紡がれた。
優しく差し込まれたスポットを浴びて、その歌声は意味を増していく。
伸ばされた手は何かに触れるようで、その表情には声にはのせない想いがあった。
「その一瞬は嘘ついていてもいいから」
目の前に広がるアリーナ席から、目を上げれば高いスタンドの1番上まで。
あるいは上手から下手まで180度すべてが一つの色で染まっていった。
「優しく ギュッと抱きしめて」
歌声を届かせるようにメロディは隠れ、ただ彼女の声だけがこの空間に響いた。
思いの数だけの桃色の甘い光たちが、彼女の声に呼応するように掲げられる。
それはゆっくりとした時間で、 ずっと心地の良い時間に感じられた。
きっと、今の彼女だからこそ歌える曲なのだろう。
紛れもなくアイドルの場所、ここから彼女は歌を歌う。
「ねぇ甘えてみてもいい?
この恋が本当だと伝えてみたいの
そのひと時はふざけたりは無しだよ
素顔のままでいたい」
胸に手を寄せ、そっとその手を前に向ける。
ステージ上部のステージライトが彼女を、そして客席を優しく照らした。
「優しく ギュッと抱きしめて」
「ギュッと抱きしめていてね...」
***
「凄く。凄く素敵でした。」
彼はその言葉をもって彼女を迎えた。
凡庸な表現であったが、きっとその言葉だから伝えられる事なのだろう。
「この曲なら、この曲を歌うこのみさんなら……!」
きっと、などという不確かな表現はしなかった。
目には決して見えない何かを感じて、それこそが誰も見たことがないその先を予感させたのだ。
「ええ、私にも……!」
「私にも、そう思えたの。だから……。」
この想いがあるから。
きっとそれはこの先のことだから。
「プロデューサー、その……。私のこと、これからもよろしくね♪」
「ええ、このみさん。こちらこそ、これからもよろしくお願いします。」
舞台の目の前に広がる、さまざまな光たち。
虹色の光がつないでくれたステージは、きっともっと先を見せてくれる。
隣を向けば仲間たちが、前を見れば私たちを応援してくれるみんながいるんだもの。
だからいつか。きっと大丈夫。
だって、私たちは──。
以上となります。
読んでくださった方ありがとうございます。
今年もこの日を迎えられて何よりです。
このみさん、誕生日おめでとうございます。
これからもよろしくお願いします。
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このみさんいい曲貰うよね、これも好き
乙です
馬場このみ(24)Da/An
http://i.imgur.com/LeTU0fs.jpg
http://i.imgur.com/b0M2C2G.jpg
>>8
百瀬莉緒(23)Da/Fa
http://i.imgur.com/JbNWTZH.jpg
http://i.imgur.com/5wYSJ7x.jpg
>>10
「To...」
http://m.youtube.com/watch?v=7I0r3vY2F4Q
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