男友達「ゲームのようにラブコメ主人公は操作できない…か…」 (236)

主人公「なぁ男友達。女の子にモテるにはどうしたらいいんだろう?」

男友達「いきなりどうした」

主人公「だって、このまま彼女ができないまま高校生活終えるなんて嫌だよ…っ!」

男友達「とりあえず落ち着け? お前ならその気になればいくらでもつくれるから」

主人公「その気になってつくれるなら誰も苦労しないよ! はぁ…」

女幼馴染「ちょっと主人公! 何しょぼんとしてんのよ!? もっとシャキっとして!」

女委員長「そうよ主人公! 悩みごとがあるようなら私が相談に乗ったげるけど」

女後輩「見つけましたよ主人公先輩! 勉強で分からないとこあるんで教えてほしいんですが…」

主人公「もちろんいいよ。女幼馴染も女委員長も心配してくれてありがとね」

男友達「……」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1485992782

このSSについて補足を。ニュー速vipで投稿していたのですが
今朝方スレ落ちしていたことに気づいたので、こちらで続きを投下したいと思います。
なお、一応最初から投下していきたいと思います。

では、投稿のほうへ戻ります。

昼休み。

男友達「主人公。お前に一つ確認したいことがある」

主人公「何?」

男友達「お前は今、自分が置かれてる状況を客観視したことはあるか?」

主人公「客観? どゆこと?」

男友達「つまりだな。自分が女子にモテてるって自覚があるのかと」

主人公「そんなのあるわけないじゃないか…さっきも言っただろうに」

男友達「けど女子たちと触れ合う機会は明らかに多いよな」

主人公「別に普通だよ。それに機会が多くても
特別向こうが好意を持ってないんじゃ、全然モテてることにはならないよ…」

男友達「そうか…」(こいつには悪気があるわけじゃない。良い奴なのは俺も知ってるが…)

男友達「とにかくそのこと、俺以外の奴には言うんじゃねーぞ? 反感を買われかねない」

主人公「反感? なんで?」

男友達(こいつマジで周りの女子の好意に気づいてないんだよな…)

男友達「ただいまー」

妹「おかえりお兄ちゃん」

すでに高校から帰宅していた妹が兄を迎える。

妹「…ん? 何かあった?」

男友達「どうしてそう思う?」

妹「顔に書いてある」

男友達「鋭いな…別にそんなつもりはなかったが」

せっかくなので男友達は今日あったことを妹に話してみることにした。

男友達「…ということがあってな」

妹「なるほど」

男友達「どう思う?」

妹「どうも何も本当に気づいてないんじゃないの? 主人公くんって鈍感そうだし」

少し間を空けて、そして妹は再度口を開く。

妹「あたしの好意も含めてね」

男友達「やっぱり今でも好きなのか?」

妹「え、何その質問。愚問すぎるよ」

男友達「そこまで言うか」

妹「あー、もう! 本当は今日だって主人公くんに会いにいきたかったのに!」

男友達「そういや最近お前教室来ないよな。いつも昼休みに来てたのに」

妹「委員会活動のほうが忙しくてさ。しばらく行けそうにないかも」

男友達「そりゃ大変だな」

妹「なに他人事みたいに言ってんの? あたしが主人公くんに
会いに行けない間、お兄ちゃんには頑張ってもらわなきゃね」

男友達「? 頑張れって何を?」

妹「ギャルゲの【男友達】ポジションみたいなことしてよね」

男友達「すまん。全然意味が分からん」

※以降、【主人公】【男友達】【妹】といった【 】でくくったものは、
その言葉通りの意味を指すこととします。

男友達「なぜ急にギャルゲって単語が出てきたんだ…」

妹「まさかお兄ちゃん、ギャルゲ知らない?」

男友達「女の子と恋愛するゲームだろ? 知ってる。
そうじゃなくて…お前が主人公と会えないのと何の関係が」

妹「うーん…こりゃお兄ちゃんには勉強してもらうしかないかな」

そう言って妹は自分の部屋に戻り、とあるゲームソフトを持ってくる。

妹「はいこれ」

男友達「スーファミ(SFC)のやつか。すごい古いゲーム持ってきたな」

そしてタイトルは『ときめきメモリアル』であった。

男友達「え? ちょっと待て。なんでこんなの持ってるの?」

妹「なんでって、趣味だから」

男友達「ギャルゲやることが?」

妹「うん」

男友達「妹にそんな趣味あったとか今まで気づかんかった…」

妹「なんか衝撃的な顔してるよ?」

男友達「そりゃ衝撃的にもなる。…とりあえずこれをプレイすれば
【男友達】ポジジョンとやらが分かるのか?」

妹「うん。感想待ってるからね♪」

男友達「楽しそうだなお前」

そこで男友達は気づく。

男友達「ってかゲーム機本体は動くのか? もう20年前だぞこれ」

妹「心配ナッシング。あたし丁寧に使ってるからいまだに現役」

男友達「マジか…元々は父さんが大学生の頃買ったものだったはずだけど、
親子二代にわたって動き続けてるとは」

ともかく男友達はプレイしてみることにした。

男友達「…パラメーターってのがあるのか。これを伸ばしたり、
女の子との会話で好感触な選択肢を選んでいけばいいんだな」

妹「そうそう」

横で相づちを打つ妹。

男友達「なんでお前もいるんだ」

妹「いちゃいけないの?」

男友達「感想待ってるんじゃなかったのか」

妹「だってお兄ちゃんの反応面白そうだし」

男友達「この手のゲームを見られながらやるってのは…まぁいいけど」

羞恥心に耐えつつ、それから2時間が経過した。

男友達「なぁ妹」

妹「どうしたのお兄ちゃん」

男友達「この早乙女好雄ってやつ、なんでこんなにも女の子の情報知ってるんだ?」

早乙女好雄(さおとめ よしお)とは、初代『ときめきメモリアル』における【主人公】の【男友達】のことである。

妹「だって【男友達】ポジションだし?」

男友達「説明になってないぞ」

妹「えー。お兄ちゃんだって人並みの学生生活送ってりゃ、女子の情報の一つや二つ知ってるでしょ」

男友達「人並みに送っててもスリーサイズまで分かんねーよ…」

男友達「まさか透視能力でもあるのか? なんてな」

妹「当たり!」

男友達「は?」

冗談で言ったつもりだったのに、『当たり!』と返され面食らう男友達。

妹「4でさ。『Yの魔眼』って特技あるんだけど、
それ入手したらヒロインのスリーサイズ分かるようになるんだよね」

男友達「うん」

妹「で、このYってのが好雄のことじゃないかってファンからは予想されてる。
目利きの良さは公式が証明済みってこと」

男友達「いろいろ言いたいことがある」

妹「何?」

男友達「4って、お前『ときメモ4』もやってたの?」

妹「4どころかシリーズ全部やってるけど」

男友達「どんだけだよ」

妹「で、どう? 【男友達】ポジってのが何すればいいか分かった?」

男友達「…【主人公】が気になってる女の子についての情報を提供することか?」

妹「そうそう。ってことで、はい」

そう言って妹は両手を広げる。

男友達「何やってんだ?」

妹「練習。あたしを見て、スリーサイズ当ててみて?」

男友達「どうしてそうなった」

妹「これくらいできないようじゃ情報屋になんてなれないよ?
主人公くんのためにも魔眼を習得しようね」

男友達「嘘だろオイ」

信じられない状況に動揺を隠せない兄だった。

妹「あ、やっぱ今のナシ。凝視しなくていいから」

男友達「おお。さすがに狂った状況だと分かってくれたか」

妹「うん。あたしをじろじろ見ていいのは主人公くんだけだし」

男友達「なるほど」

妹「けど一応教えとくね。83、51、79」

男友達「え」

妹「機会があったら主人公くんに伝えといてね」

男友達「見るのはダメだけど知るのはいいのか…」

妹「だってお兄ちゃんが知っとかないと誰が主人公くんに伝えるの?
あたしが直接は嫌だよ。恥ずかしいし」

男友達「そもそも主人公にスリーサイズ知られること自体、恥ずかしいとは思わんのかお前は」

妹「だってあたしのこと意識してくれるかもしれないし」

男友達「ふむ…」

妹「見た目だって最近あたし頑張ってんだよ。髪だってようやく胸のあたりまで
伸びてきたし、スタイル維持するのに適度な運動も――」

何やらぶつぶつ言っている妹をよそに、兄は考える。確かに胸やお尻の大きさを具体的に知ってしまうと、
なにげなく接してる子でも一度は“女”として意識してしまうのかもしれないと。

男友達「けど、いつ伝えるんだ? さっき『機会があったら』って言ってたが…」

妹「あくまで主人公くんがあたしのこと多少でも
気になったときでいいよ。いきなり言ったら変だし」

男友達「じゃあ例えばだが、主人公が他の子を気になったらどうすんだ?
お前だって、あいつがいろんな女の子に好かれてんのは知ってんだろ?」

妹「もちろん。女幼馴染さん、女委員長さんとか。
あたしと同じ学年でも女後輩ちゃんとかいるもんね」

男友達「そのときは彼女らの情報を伝えりゃいいのか?」

妹「うん。そのためにも魔眼の能力はあったほうがいいかもね。
あたしみたいに自己申告してくれる特殊ケースなんてそうそうないし」

男友達「スリーサイズから離れろ。俺が言ってんのは
趣味や食べ物の好き嫌いとか、当たりさわりのない情報だよ」

妹「いいんじゃない?」

男友達「いや、だとしてもだ…どうも腑に落ちんぞ。
だってその場合、お前にとっては主人公の関心がよそにいくだけで良いことないだろうに」

マジメに男友達はそう考えていた。本当にゲームの早乙女好雄のように徹して、
ただただ主人公がその時々で気になる女の子の情報を伝えるだけなら、
妹にとってはライバルに塩を送るような行為になるだけだと。

妹「お兄ちゃん、妹だからって贔屓しちゃダメだよ?
好雄だって【妹】の優美っていう攻略ヒロインいるけど
別に美優に肩入れしてないじゃん。【男友達】ポジは常に中立でいなきゃ」

それを聞いてますます彼は思った。妹は一体何を考えてるんだ??と。
今話題にしているのは現実の自分たちなのであって、ゲームの世界の話ではない。

妹「納得してない顔だね」

男友達「そりゃそうだろ。お前の目的が不明すぎる」

妹「えっとね。これはあたしのためでもあるんだよ」

男友達「そうなのか?」

妹「うん。もし主人公くんがあたしと付き合うとしても、
それは他の女子のことも知った上で付き合ってほしいなって」

男友達「なんでだ?」

妹「逆に。何かの間違いであたしと付き合ったとして、その後に他の子の好意を知ったら?
主人公くん優しいから…ほっとけなくなると思う」

男友達「それは――」

そこまで言いかけて男友達は口をつぐんだ。なぜならその光景が容易に想像できてしまったからだ。
世話好きなあいつなら、そんな女子いたら間違いなく意識せざるをえなくなるよなと。

男友達「…つまり悩んだ上で、複数の女子の中からお前を選んでほしいってことか?」

妹「うん。そしたら長く続くよね。そこまでして選んでくれたってことなら」

男友達「…お前の言いたいことは分かった。けど本当にそれでいいのか」

妹「いまだに納得してないって顔してるね」

男友達「あぁ。だって、お前の好意に気づかないまま主人公が他の子と付き合いだす可能性もあるんだぞ?
それか、好意に気づいた上でお前を選ばない可能性だって」

妹「知ってる。そのときはあきらめる」

男友達「…潔いな」

妹「主人公くんの矢印があたしに向いてないんじゃね。
そんな一方通行状態で無理に付き合おうとしても、ダメなことくらい分かってる」

男友達「…そうか。そこまで考えてんなら俺から言うことは何もない。分かったよ…
あいつが誰か気になる女子がいるって言ったら、極力それに協力してやることにする」

妹「ありがと。なんか、お兄ちゃんも【男友達】ポジのことが分かってきたね?」

男友達「おかげ様でな」

妹「じゃあもっと勉強しよ? 今度はこのギャルゲを…」

男友達「…は? まだすんの??」

信じられないといった顔をした兄に向かって、妹が差し出したゲームソフトは『アマガミ』だった。

男友達「一つ聞きたいんだが」

妹「何?」

男友達「ギャルゲが趣味って言ってたが、『ときメモ』以外にもそういうのたくさん持ってんのか?」

妹「うん。50は越えてるかな?」

男友達「なん…だと…」

妹「ともかく、『アマガミ』やったら感想聞かせてね? さすがに今日はもう眠いから部屋に戻るよ」

男友達「あ、あぁ。おやすみ」

妹が部屋に入ったのを見送った後、男友達は思った。
いつから妹はこんなにギャルゲに染まってしまったのだろうかと。
確かに妹は昔からゲーマーではあったが、あくまでそれは格ゲーやRPGといった類いで、
少なくともギャルゲのようなジャンルに手を出していた記憶はなかったからである。

男友達「そういや中学に入ってからは妹との交流も減ったから、
その頃ギャルゲにはまり出したんだとしたら…俺が知らないのも無理はないのかも」

しかし男子ならともかく女子がギャルゲにはまるのってどうなんだと思いつつ、
彼は『アマガミ』のパッケージと説明書を眺める。

男友達「こっちのゲームは『ときメモ』と比べて髪色が地味なんだな。
なるほど、ひとえにギャルゲといってもいろいろあるのか」

妹と違い、まだ特に眠くなかった彼はPS2を起動させる。
そしてそのまま『アマガミ』で夜更かしプレイをしたのであった。

そして翌日の昼。

妹「おはよ、お兄ちゃん。いや、こんにちはかな」

男友達「おう。こんにちは」

妹「今日が休日でよかったね? そんな遅くまで寝てるなんて」

男友達「あれから『アマガミ』をずっとプレイしてたからな…」

妹「そうだったの? 別にプレイして感想言うのはいつでもよかったのに」

男友達「そうなんだが、特にやることもなかったから。ところで何聴いてるんだ?」

スマホにイヤホンを挿して、何やら聴いていた妹に尋ねてみる男友達。

妹「Acid Black Cherryの『DRAGON CARNIVAL』をね」

男友達「へー。お前のことだからゲーム音楽かと」

妹「…お兄ちゃん?」

妹は兄をギロリと見つめる。

妹「確かにあたしはゲーマーだけど、だからといって
ゲーム音楽しか聴かないってのは偏見だよ? それ以外の曲だって普通に聴くし」

男友達「そりゃそうか…すまん」

もちろんゲーム音楽といっても様々である。ただのBGMもあれば、
FFの『real Emotion』やテイルズの『カルマ』といった邦楽歌手・バンドのタイアップ曲もある。
しかし今の妹の発言を聞くに、どうもそのどちらでもなさそうなことを知った男友達だった。

妹「まあ…そうは言ったけどね。この曲、歌詞はちょっとゲームっぽいんだ」

男友達「そうなのか?」

妹「うん。どことなく『モンスターハンター』っぽい世界観というか。
あ、今のは完全にあたしの解釈だから、そんなマジメに受け取らないでね?」

男友達「歌詞の解釈も十人十色だし、お前がそう思ってるならそれでいいんじゃないか」

妹「うん。なんかさ、中学のとき…主人公くんと一緒に『モンハン』やったの
思い出しちゃうっていうか。とにかくあたしのお気に入りの曲」

男友達「…そうなんだよな。昔はそういう系のゲームしてたのに、
いつからお前はギャルゲがメインになってしまったんだ」

妹「あ、ギャルゲで思い出した。『アマガミ』の感想聞かせてほしいな?
あれだけ夜通しプレイしたってことは、結構進めたんでしょ?」

男友達「それがな…ゲームオーバーになってな…」

妹「え」

男友達「最初からまたやり直しだ…」

妹「ちょ、どゆこと?」

男友達「とある女性を追っかけてたら突然ゲームオーバーになった」

妹「あちゃー。あのルートにいきなり行っちゃったかー」

妹「お兄ちゃんって年上好きなの?」

男友達「別にそのつもりはないけど、もしかしたらそうなのかもしれない」

妹「はっきりしないね?」

男友達「こういうゲームの中での好みと実際の好みが一致してるかは分からんし…」

妹「それもそうだね。で、勉強のほうはどうだった?」

男友達「勉強って…あぁ、【男友達】ポジのことか」

昨夜の記憶をたどりながら男友達は口を開く。

男友達「梅原ってやつ、面白かったぞ」

梅原正吉(うめはら まさよし)。『アマガミ』における【主人公】の【男友達】キャラである。

妹「うん。見てて面白いキャラしてるよね」

男友達「特にこいつが出てくるとき専用のBGMが面白くてな」

妹「そっちかい」

男友達「いや、BGMって案外バカにできないぞ。例えば感動シーンで
『こち亀』の両さんが大失敗したようなBGM入れられたら台無しだろう」

妹「また極端な例出してきたねぇ…言いたいことは分かるけど」

男友達「梅原のテーマっていうのか? さすが寿司屋の次男坊なだけあって和風な曲調がよく合ってる。
あとは…剣道部ってとこも親近感わいたな。俺も昔やってたからつい仲間意識が」

妹「よかったね。で、肝心の性格のほうは?」

男友達「さっきも言ったが面白いし、それに元気づけてくれるキャラだ。
恋に億劫になってる主人公を励ましてくれたりさ。良い親友じゃないか」

妹「お。気づいたね」

男友達「? 気づいたとは?」

妹「それも【男友達】として重要な役割ってこと。昨日お兄ちゃんは何を学んだ?」

男友達「何をって…『ときメモ』からだよな。ええっと、主人公に女子の情報提供することか」

妹「そ。それでアマガミからももう一つ学んだよね?」

男友達「つまりこう言いたいのか? ただ機械的に情報提供するだけじゃなく、
場合によっては主人公を勇気づけたり喝を入れろと?」

妹「そうそう♪」

男友達「どうでもいいけど楽しそうだなお前」

妹「そりゃね。自分の趣味について人と話せるって楽しいもんだよ?」

男友達「そういうもんか」

妹「お兄ちゃんもギャルゲにはまってきた?」

男友達「うーん…正直よく分からん」

妹「あれ。ヒロイン可愛いとか思わなかった?」

男友達「それは思った。思ったけど…どうも今までこの手のゲームを
やったことなかったから、実感がいまいち沸かんっていうか」

妹「えー。昨日徹夜しといてよく言うね?」

男友達「あれはヒロインがってより、ゲームシステムやストーリー見たさに試行錯誤してたってのが強い。
俺にとってはギャルゲってだけで真新しいことの連続だったから…新鮮に映ったんだな」

妹「はぁ、つまり特定のヒロインにってわけじゃなく、適当にフラフラしてたと。
そりゃあのルート行ってゲームオーバーにもなるかぁ」

男友達「ただ、年上好きかもとは思った」

妹「そこは否定しないんだね」

妹「しかし…そっか。ゲームに慣れてないってなると、アニメとかのほうが抵抗は少ないのかな?」

男友達「アニメか。まあジャンルによるだろうけど」

妹「実は今さ。アマガミの9年後の世界をアニメでやってるんだよね」

男友達「…え? ゲームじゃなくていきなりアニメ化してるのか?」

妹「そうそう。『セイレン』ってアニメ」

男友達「お前は見てるのか?」

妹「うん。録画もしてる」

男友達「録画するくらい熱心なのか」

妹「いやいや…熱心も何も深夜帯なんだからさ。あたしみたいに夜弱いのは録画しないと見れないじゃん」

男友達「深夜アニメなのか? うーん…深夜アニメってのはハードル高いかもしれん」

妹「うっそー!? 今の時代に深夜アニメってだけで敬遠する人いるとは思わなかったよ。
今時の子ってあたしも含めてスマホでそういう情報も入ってくるから、みんなあんま抵抗なくなってるよ?」

男友達「ギャルゲやりまくってるお前が今時の子の代表づらするか」

男友達「ところで『アマガミ』の話に戻すが、梅原についてもう一つ気になったことがある」

妹「何?」

男友達「主人公の恋を応援してくれるわけだが、
本人も恋をしたいって言ってるよな? 誰が好きなんだろうなと」

妹「え、あくまで【男友達】ポジにすぎないキャラの恋が気になるの?」

男友達「すぎないなんて言うな。ナイスガイすぎて、
正直こいつの恋自体も応援したいって心境に駆られたくらいだぞ」

妹「そんなに梅やんのことが気に入ったんだね。
まあ誰が好きかは作中では明示されてなかったはずだよ」

男友達「…やっぱアレか? 仮に明らかにして、それが偶然プレイヤーが
狙ってる女の子とかぶったら気まずくなるから伏せてるのか」

妹「そういう配慮はあるかもね?」

男友達「自分の恋は影に伏せ、ただひたすら主人公の恋を応援する…
それが【男友達】たるポジションなのな」

妹「…なんか得意げな顔してるけどさ。もしかして、『ときメモ』と『アマガミ』やっただけで
ギャルゲの全てを理解した気になってる? ちょっとおこがましいよ?」

男友達「おこがましいことを俺は言ってしまったのか…」

妹「うん。だって特定の攻略ヒロインの名前挙げて
好きだって言ってる【男友達】キャラも、ゲームによってはいたりするし」

男友達「マジかよ」

妹「今からそれ部屋から取ってくるね」

男友達「しかも持ってんのかよ」

そう言って妹は『D.C.Ⅱ P.S.』と書かれたゲームソフトを持ってくる。

男友達「D.C.…?」

妹「ダカーポって読むの。音楽用語だね」

男友達「そっか。ってか2って何だ」

妹「ナンバリングだよ?」

男友達「だろうな。で、1やらんでいきなり2からプレイしても大丈夫なのか?」

妹「うん。前作知らなくても全然問題なくプレイできるから…って、そろそろ時間か」

男友達「どうした?」

妹「3時から友達とカラオケでさ。その後もいろいろ見て回るから帰り遅くなる予定ー」

男友達「そうなのか。楽しんできてな」

妹「そうするよ~」

そう言って妹は支度をしに自室へと戻る。

男友達「さて…どうしよう。起きたばっかで食欲わかんし…早速だが『D.C.Ⅱ』やってみるか」

男友達もまた自分の部屋に戻り、ギャルゲをするべくPS2を起動させる。

男友達「『D.C.Ⅱ P.S.』のP.S.ってはハードのPS2にちなんで
付けられてんのかと思ったけど…読みはPlus Situationの略なんだな」

説明書を手に取りながら、男友達はそうつぶやく。

男友達「正直、昨日からぶっ通しで休日もギャルゲってどうかと思うが…まあたまにはこういうのもいいか」

妹「お兄ちゃーん。出かけてくるね」

ドアを開け、廊下から兄の部屋に顔をのぞかせる妹。服も部屋着から外出用へと変わっていた。

男友達「おう」

妹「あー。もう『D.C.Ⅱ』してる。あたしとの話題作りのために
してくれるのは嬉しいけど、ご飯ちゃんと食べないとダメだよ?」

男友達「話題作りっていうか単純に気になるからやってるんだ。ご飯の件も分かってる」

妹「実はさっきサンドイッチ作っておいたから。お腹すいたら食べてね?」

男友達「そうなのか。ありがとう」

妹が部屋から立ち去った後、男友達は思った。なんとも気の利いた妹だと。

男友達「私服もめかし込んでて…オシャレにも敏感だし、見た目に関しては本当今時の子としか思えない」

だからこそ、そんな女子高生がギャルゲを50本以上やっているという事実に、
いかに昨日驚かされたかと思い知らされる男友達だった。

男友達「というか、またPS2か。古いの多くないか…?」

この点に関して、男友達は疑問に思っていた。今の時代なら
PS4、PSvita、スマホアプリ等にこの手のゲームはいくらでもあるんじゃないかと。

男友達「PS2って父さんが20代の頃買ったやつだぞ。
ましてや『ときメモ』のスーファミとかもっと前だし…」

そしてもう一点、気になることがあった。

男友達「50本以上ギャルゲを持ってるって言ってたが、
そんな金どこにあるんだ? 中古買うにしたって相当の値段になるはずだぞ。
バイトしてるわけでもないし、かといってオシャレ代をケチってる気配もないし…」

先ほどのめかし込んだ妹を見る限りそれは無いと思っていた。

男友達「…待てよ。スーファミもPS2も買ったのは父さんだし、まさかソフトも…」

そこまで考えて男友達は思考を止めた。

男友達「いや、やめよう。あまり考えたくない推論より今は『D.C.Ⅱ』だ」

それからは『D.C.Ⅱ P.S.』のプレイに没頭する男友達。
そしてしばらくした頃、次のようなシーンが見受けられた。

板橋渉『俺は…月島にアタックしてみようと思ってんだ…!』

板橋渉(いたばし わたる)。『D.C.Ⅱ』における主人公の【男友達】キャラである。

男友達「おぉ。確かに妹の言った通りだった。こういうケースもあるんだな」

ちなみに月島小恋(つきしま ここ)とは、メインの朝倉姉妹に次いで出番の多い幼馴染ヒロインである。

男友達「さて、どうするか…ここは敢えて月島ルートに行ってみるか?」

ヒロイン目当てというより、板橋渉の反応が気になるというのが男友達の主たる動機であった。

……

妹「ただいまー」

男友達「おかえり。遅かったな」

妹「まぁね」

時刻は夜の10時を回っていた。

男友達「食べてきたのか?」

妹「そりゃそうだよ。この時間まで遊んでたらね」

男友達「じゃあ後は風呂入って寝るだけだな。もう風呂の用意はできてるぞ」

妹「へぇ~準備いいね。…そういやフローリングが綺麗になってるけど掃除でもした?」

男友達「風呂、トイレ、リビング、廊下をあらかた」

妹「その様子だと今日はギャルゲやらなかったのかな?」

男友達「いや。月島ルート終わらせたぞ」

妹「えぇ!? あんなに掃除して1ルート攻略する時間なんてあったの!?」

男友達「あぁ」

妹「ねぇ。ちゃんとテキスト読んでる? 読み飛ばしたりしてない?」

男友達「読んでる。そうじゃなきゃ勉強にならんからな」

妹「お兄ちゃんってもしかして英語や現代文の長文読解早い?」

男友達「それとこれとは関係ないと思うが…まあ早いほうかもしれん」

妹「ふーん。じゃあ一応主旨は掴みながらプレイしたってことなんだね。
にしてもなんで今日掃除を? お兄ちゃん当番だったっけ?」

男友達「昼のサンドイッチの礼だ。これで少しでもお前の家事負担が減ったろ」

妹「そっかぁ。じゃあ厚意に甘えるね。で、『D.C.Ⅱ』はどうだった?」

男友達「その話は明日でもいいんじゃないか。疲れてるだろ?」

妹「なんていうか遊び終わった後って、気持ちが高翌揚してて
不思議と眠たくならないんだよね。だからお風呂入るまで話には付き合ってあげる」

男友達「…そういうことなら。じゃあ感想を言うとだな」

妹「うんうん♪」

男友達「正直、拍子抜けした」

妹「どゆこと? 面白くなかった?」

男友達「そんなことない。実際に面白かったし、月島も可愛かった」

妹「じゃあ拍子抜けって?」

男友達「板橋が哀れすぎてな…」

妹「ん?」

男友達「月島があまりに板橋のこと眼中になさすぎて泣きそうになった」

妹「あ、あぁ。そゆこと…」

男友達「お前があんなこと言うから、てっきり【主人公】・【男友達】・ヒロインの
三角関係にでもなるのかと思いきや、全然そんなことはなかった」

妹「そりゃまぁギャルゲだし? そんなのやるの少女漫画くらいでしょ今なら」

男友達「…【男友達】ポジションってそういうことなのか? なんというか、扱いが…」

妹「おー。だいぶお兄ちゃんも理解してきたかな?
じゃあ今回勉強したこと言ってもらおうかな。今までのおさらいも含めて」

男友達「…一つ目は主人公の気になる女子の情報を提供すること。
二つ目は主人公を激励すること。そして…三つ目は噛ませ犬になることか」

妹「せいか~い♪」

男友達「ホント楽しそうだなお前」

男友達「けど、それって俺に当てはめると…つまりこういうことか? 主人公の前で
『俺は女幼馴染のことが好きだったんだ』とか言って噛ませ犬になればいいのか?」

妹「当てはめるならそうなるね」

男友達「いや、簡単に言うけどな? 俺は好きでもない女…女幼馴染にフラれることになるわけだよな?」

妹「うん」

男友達「それが噂になって、俺はクラスメートにあわれみの目で見られるわけか」

妹「よく考えたらそうなるね」

男友達「他人事だな!? なんてこった…思った以上にきつい役回りだなこれ」

妹「でもちょっと待って。別に女幼馴染さんに告白する必要はないでしょ?
ただ彼女のことが好きってのを主人公くんに伝えるだけで十分と思うけど」

男友達「そうなのか?」

妹「主人公くん、焦るんじゃない? それで女幼馴染さんを取られるかもって心理から、
女幼馴染さんのことを女として意識するようになるかも」

男友達「なるほど…」

妹「噛ませ犬の意味が分かった?」

男友達「あぁ。主人公の恋模様を加速させるための一手段ってことがな。
こんなやり方でもあいつのためになるんだなって勉強になったぞ」

※『D.C.Ⅱ』について補足。あくまで板橋渉は道化キャラというだけであって、
【主人公】である桜内義之が板橋に焚きつけられて月島に告白したという事実はない。

男友達「けど、あくまでそれは主人公が誰が気になる云々言い出してからでいいんだよな?」

妹「うん。だって例えば主人公くんが女委員長さんのことが気になってたとして、
そんな状況でお兄ちゃんが『女幼馴染が気になる』って言っても仕方ないでしょ?」

男友達「あぁ。主人公が誰を気になってんのか確かめてからじゃないとな。ところで妹」

妹「ん?」

男友達「仮にだぞ。お前のことが気になるって主人公が言い出したらどうすんだ?」

妹「そしたらあたしの情報を主人公くんに伝えればいいじゃない」

男友達「それもだが噛ませ犬の件についてだよ。その理屈でいくと、
俺はお前のことが気になるって主人公に言わなきゃいけないんだが」

妹「わお。シスコン兄貴の誕生だね」

男友達「わおじゃねーよ! さすがにそれはまずいだろ!?」

妹「そうかな?」

男友達「そうだよ。【妹】を公然と好きって言い張る兄ってやばくないか?
お前だって噂になりかねないんだぞ? そんな兄貴に好かれてる【妹】だって…」

妹「確かにそれはまずいかも?」

男友達「疑問形になってんじゃねーよコラ」

妹「じゃああたしを気になるって主人公くんが
言ったときに関してのみ、噛ませ犬のフリはしなくていいよ」

男友達「あぁ、助かる。俺の名誉のためにもな」

そのときだった。男友達と妹のスマホに同時に着信が入る。

男友達「ん? 父さんからか」

妹「あたしはお母さんから」

同時着信とは珍しいこともあるもんだと思いながら男友達は電話に出る。

男友達「もしもし?」

父「おぉ、久々に声が聴けて嬉しいぞ息子よ」

母「妹ちゃんも元気?」

妹「元気だよー。今お兄ちゃんはお父さんと電話してるみたいだけど、なんで同時にかけたの?」

母「そりゃねぇ。どっちか片方にかけたら不公平でしょ? だから兄妹同時にかけようと思ってね」

妹「へーなかなか殊勝な試みだね~。時差的に今そっちは朝?」

母「えぇ。カリフォルニアの空は青くて、相変わらず気持ちのいい朝よ」

アメリカ西海岸で海外赴任をしている両親からの久々の電話だった。そしてこのとき男友達は思った。
もしかしたらこれは、今日の昼に感じた疑念を父親にぶつけられる良い機会なのではないかと…。

男友達「…父さん。ちょっと気になることが…」

あくまで妹たちには会話が聞こえないよう、男友達は部屋の隅っこに寄り、声を小さめにする。

父「どうした? 小声にもなって」

男友達「…単刀直入に聞く。妹にギャルゲを伝授したのは父さんか?」

父「ん? そうだが。妹から聞いてなかったのか?」

男友達「……」

このとき男友達は驚愕していた。てっきりこんな事実を指摘され
父親は取り乱すと思っていたからだ。なんのことはない、それどころか平然としていた。

父「いやー青年時代が懐かしいな。あの頃何本という数のギャルゲを
PS2でプレイしたことか。そのソフトが今は全部妹に受け継がれてるわけだがな」

男友達「何やってんだよ父さん…」

父「…? なんだその呆れた声は? お前は人の趣味をバカにするのか?」

男友達「いや、そんなつもりはなかったけどさ。ってかいつ伝授したんだよ」

父「妹が中学に入ってからだな。その頃、押し入れに封印していたはずの
大量のギャルゲが妹に見つかって。以後、なぜか妹もはまってくれたんだ」

男友達「見つけてドン引きするどころか、はまってくれたのか…」

父親のギャルゲ好き遺伝子が娘に継承されたんだろうかと真剣に悩む男友達であった。

父「けど、こうなったのはお前のせいでもあるんだぞ」

男友達「は?」

思ってもみない父親の言葉に男友達は意表を突かれる。

男友達「俺のせいってどういうことだよ?」

父「そもそも妹はなんで押し入れを物色したと思う?」

男友達「なんでって…掃除でもしようとしたんじゃないの? それで結果的に見つかったとか」

父「違う。あのとき妹はこう言ってたぞ。『お兄ちゃんが構ってくれなくて暇だから、
何か面白いものを発見できないか押し入れを物色してみた』って」

男友達「マジか」

父「そうだぞ。後は当時、格ゲーやシューティングに飽き飽きしてたみたいでな。
テキストを読むゲームが斬新だったからはまったってのもあったらしい」

男友達「なるほど…」

父「だからそんな妹を満足させるために、私がギャルゲの楽しみ方を
電話や手紙で伝授したりしてな…お前が構ってあげなかったせいでこんなことに」

男友達「いやいや、なにその責任転嫁!?
妹がギャルゲにはまったのほとんど父さんのせいだよね!?」

父「そりゃほとんど私のせいだよ」

男友達「自覚あったのか」

父「だがな。99%は私のせいとしても、残りの1%はお前に責任がある」

男友達「どういう理屈だ」

父「じゃあ聞くが。妹がギャルゲ好きってのを今の今まで知らなかったのはなんでだ?」

男友達「え? そりゃぁ…」

昨日、主人公のことで妹と話すまでろくに交流がなかったせいである。

父「私の想像だが、お前と話してるときの妹は楽しそうな顔してないか? 違うか?」

男友達「……」

確かにギャルゲについて自分と話すときの妹は楽しそうな顔をしていたことを男友達は思い出す。

父「お前が中学のとき、受験勉強や剣道の試合だので忙しかったのは父さんも知ってる。
たぶん妹を相手にする余裕もあのときはなかったんだろう」

男友達「…そうだな」

父「だが、今はあのときと比べたらお前にも余裕はあるだろう? 少しは妹のことも気にかけてやってくれ」

ふと男友達は思い出した。そういえばあの頃、自分が面倒見れない代わりに主人公がよく家に来て
妹とゲーム対戦していたことを。両親不在だったこともあって主人公が家事を手伝ってくれる場面もあった。
そうした積み重ねが、妹が主人公を好きになるに至った要因なのかもしれないと。

男友達「…分かった。1%は俺のせいだと思っておくことにする」

父「うむ。分かればいいんだ」

妹「……」

男友達「え?」

そのときだった。すぐ背後に妹がいることに気づき、男友達は飛びのく。

妹「おぉ。まるで電光石火のごとく」

男友達「お、おい! お前いつからそこにいたんだ!?」

ひどく動揺する男友達。父親との会話に夢中になるあまり、背後に人が迫っていたことに気づけなかった。

妹「いつからって、お兄ちゃんが部屋の隅っこに行ってからずっと?
だっていかにも怪しかったし、気になっちゃったっていうか」

男友達「ほとんど最初からじゃねーか…」

恐れていたことが発生した。父とのギャルゲ仲間である妹に知られるのはいい。
そうではなく、妹のスマホを介して母親に知られたかもしれないことに男友達は戦慄した。
夫がギャルゲマスターだと知って妻が動揺しないはずがないからだ。

妹「まさかお兄ちゃんがお父さんとギャルゲについて話してるなんてねー」

男友達「ちょ!?」

やばいと思った。完全に今の妹の声はスマホを介して母親の耳に届いてしまっていると。

男友達「…妹。ちょっとスマホを交換してくれないか? 母さんと話したくなってな…」

妹「いいよー。あたしもお父さんと話してみたかったところだし」

そう言ってスマホを交換した直後、男友達は急いで先ほどの件を母親に弁明しようとする。

男友達「母さん? これはその――」

母「お父さんと会話がはずんでたようで何よりね。あなたもギャルゲに興味持ったの?」

男友達「…あ、あれ?」

何やら自分が思っていたのと事態は違っていた。母親からは不愉快な様子は微塵も感じられない。

男友達「…もしかして父さんがその手のゲームやってるってこと、母さん知ってたの?」

母「えぇ。知った上で結婚したわ」

男友達「心が広すぎるってレベルじゃねーぞ」

そうして久々の歓談の後、兄と妹は両親との通話を終える。

男友達「父さんと何話してたんだ?」

妹「最近気になってるギャルゲについて、かな」

男友達「…まさかとは思うが、父さんっていまだにギャルゲやってんの?」

妹「やってはないけどチェックはしてるみたいだよ」

男友達「やってないのに?」

妹「あたしに良い情報を知らせるためだって。良いお父さんだよね~」

男友達「良いお父さん…ねぇ…」

そこは言葉を濁しつつ、男友達は話題を変える。

男友達「とりあえず明日から学校だから…主人公のことは俺に任せとけ」

妹「うん。期待してるよ~」

男友達「いや…あんま期待されても困る。頭では分かってても、
【男友達】ポジション通りの行動を取れるかは分からん」

妹「じゃあほどほどに期待しとくね♪」

妹「さて、そろそろお風呂入ろっかな。お兄ちゃんはもう入ったんだっけ」

男友達「あぁ。俺は今から寝るよ」

妹「そっか。じゃあおやすみなさーい」

男友達「また明日な」

そう言って妹と別れ、男友達は自室へと戻る。

男友達「ここ二日間ゲームばっかしてたせいか…目が疲れたな。頭もか? 今日はすぐに眠れそうだ…」

消灯をし、ベッドに横たわる。

男友達「…今まで妹とは家事分担の取り決めくらいで、
ろくに話してなかったから…話題のタネができたのは良かった」

そして父親に言われた言葉を思い出しながら、男友達はつぶやいた。

男友達「今後は少しでも気にかけてやれれば…いいんだけどな」

その言葉を最後に彼は眠りに落ちた。

……

主人公「うーん…」

翌日。学校にて、いまだに主人公は悩んでいるようだった。

男友達「相変わらず顔が優れないな。この前の続きか?」

主人公「うん。彼女ができるにはどうすればいいのかなぁと…」

男友達「ええっとだな…」

ここで落ち着いて、男友達は熟慮する。【男友達】ポジションとして今の自分に何ができるのかと。
少なくとも、彼女がいないことで悩んでるのであれば…本人が恋愛ごとに興味を持っているのは間違いない。
とすると――

男友達「…誰か気になってる女子でもいるのか?」

まずはこの質問をするのがセオリーだろうと男友達は思った。
これについては昨日妹と話し合い、そして確認しあった事項でもあったからだ。

主人公「気になる女子は…いるといえばいる」

男友達「ッ! そうか、いるんだな」

予想できていた返答ではあったが、改めてそれを聞いて男友達は身を引き締める。問題は次に誰の名前が飛び出すか。
女幼馴染、女委員長、女後輩…いや、まさかの妹の名前を出す可能性だってある。ともかくどんな事態にも
対応できるようにしておかねば。そう覚悟していた男友達に主人公はこう述べた。

主人公「3年の女先輩さんが…ね。あんな彼女がいればなぁと」

男友達「…は?」

主人公「だからさ。女先輩さん」

男友達「……」(誰?)

予想外の事態が起こった。てっきり普段から交流のある女幼馴染や女委員長の名前が
挙がるかと思いきや、全く知らない人物だったからである。

男友達「…その人とお前が話してるとこ見たことないんだが…」

主人公「そりゃそうだよ。面識ないんだし」

男友達「…? 面識ないのに気になってんのか?」

主人公「うん」

男友達「またどうして?」

主人公「ほら、知ってるだろ? 僕が最近あったドラマの
とある女優のファンだってこと。女先輩さん、その人と似てるんだ…」

男友達「? あ、あぁ」

どういうことだろうかと男友達は疑問に思った。そんな女優に似てるほどの
美人or可愛い子でもいれば学校内でとっくに噂になってるはずだが、
そんな女子生徒が3年生にいるなどと男友達は聞いたことがなかったからである。

主人公「似てるっていうのは声のことね」

男友達「そっちかよ。ってか声フェチだったのかお前」

とにかく困ったことになったと男友達は思った。例えばこれが女幼馴染や女委員長なら同じクラスなだけに
情報が集めやすいし、女後輩でも妹が同じ1年生ということで妹経由で情報が得られると踏んでいた。
だが3年生にはパイプがない。ろくに女先輩の情報など集められないと考えたのである。

男友達「……」

これでは自分は早乙女好雄のような情報屋にはなれないと痛感した。
ならば梅原正吉のように激励するしかないのではないか?と彼は考える。

男友達「…お前ならいけるんじゃないか? とりあえずまずは会話してみるとか」

主人公「会話できたら嬉しいけど話す機会なんてないよ。
学年やクラスが同じでもない、部活や委員会が同じわけでもないし」

そりゃそうだと男友達は思った。というか、今のは少々無責任な激励だったのではと自分ながら思った。
ならば残された手段は板橋渉のように道化を演じ、そのことで妹が言ったように
主人公が焚きつけられれば、それに越したことはないと。

男友達「…実はな。俺も女先輩さんのことが好きだったんだ…」

主人公「え!?」

主人公「びっくりだよ。男友達が自分のほうから誰々が好きだなんて話するなんて」

男友達「驚かせてすまん。だが、実はそうだったんだ」

主人公「そっか…じゃあ陰ながら僕は応援することにするよ。頑張ってね」

男友達「…? あれ?」

そこで男友達は何かがおかしいことに気づく。

男友達「なんでそうなる? お前も女先輩さんのことが好きなんだろ?」

主人公「そうは言ってないよ。気になるとは言ったけど、声がね。ぶっちゃけそれ以上でもそれ以下でもないや」

そういえば、確かに『気になってる女子でもいるのか?』という質問だったなと思い返す男友達だった。

男友達「いや、あの流れだと明らかに気になる人=好きな人だって捉えてもおかしくなかった気が…」

主人公「そんなこと言われても。ってか女先輩さん、彼氏いるし」

男友達「彼氏持ちだったのか!?」

主人公「ともかく略奪愛になるけど応援してる。頑張ってくれ!」

女幼馴染「何々!? 男友達のやつ、彼氏持ちの女狙うって!?」

女委員長「りゃ、略奪愛なんてダメよ!」

女後輩「先輩!? 不純異性交遊です!」

男友達「君たちどっから湧いて出たの?」

……

妹の友達「妹ー。あんたのお兄さん、略奪愛しかけるんだって学校で噂になってるよ?」

妹「マジで!?」

男友達「ただいまー…」

疲れた様子で帰宅する男友達。女先輩を好きと言ったのは冗談だと
即座に主人公に釈明したものの、それだけで噂の広がりを止めることはできなかったようだった。

男友達「まあ人の噂も七十五日って言うし、あんま気にせんようにしよう…」

そう考えて2階に上がったところで、廊下で妹とばったり会う。

妹「あっ…」

そして兄を見るや否や、妹は自室へと引っ込んでしまった。

男友達「ん…?」

奇妙に思った。普段なら帰宅した男友達に、妹は『おかえり』等のリクアションをしているはずだからである。
だからこそ、まさかと彼は思った。件の噂を妹も耳にして、あらぬ勘違いをしてしまっているのではないかと。

男友達「妹…! もしかして俺に関する噂を学校で聞いたりしたか? あれはだな――」

妹の部屋の前ですぐさま釈明しようとする兄であったが。

妹「…そんな大声出さなくても聞こえてるって」

部屋から顔をのぞかせる妹。

妹「略奪愛のやつでしょ…?」

そう言う妹の頬は、心なしか赤くなってるように感じた兄だった。

男友達「妹…」

やっぱり件の噂を妹も聞いていたんだと彼は認識した。

妹「主人公くんが誰々を気になるって言って…それにお兄ちゃんが返事しちゃったんでしょ?」

男友達「…あれ? 事情知ってんのか?」

妹「知ってるも何も昨日お兄ちゃんと話したじゃん。【男友達】ポジションについてさ。
で、それをお兄ちゃんが実行した結果、そういう噂が広がっちゃったんだろうなって」

男友達「何もかもお見通しだったか…なら話は早い。実はな――」

妹「けどさ。言ったよね? あたしを気になるって言ったときは、噛ませ犬にならなくていいって」

男友達「…ん?」

妹「あたしのこと…好きって言ったんでしょ? お兄ちゃん。みんなの前でさ」

男友達「…え?」

妹「そりゃ、それで主人公くんが焚きつけられるなら嬉しいけどさ。でもそれって、
あたしが主人公くんのこと好きって知ってる人からすればお兄ちゃんが略奪愛してるように
見えちゃうのかなーって…。実の兄ってのもあって、なんか恥ずかしいねこういうの」

男友達「やばい。よく分からんが、情報が錯綜してるということは分かった」

とりあえず認識を共有するために、男友達は今日起こったことの真実を、
順を追って妹に説明するのであった。

男友達「――ということだ」

妹「なんだそういうことか~。まさか女先輩さんっていう伏兵がいたなんてね。あはは♪」

男友達「誤解が解けて何よりだ…けどちょっと確認したい。
それってあれか、俺がシスコンってふうに噂が広がってるってことなのか?」

妹「違うよ。あたしが聞いたのはあくまで略奪愛ってワードだけ。シスコン云々は
単にあたしだけがしてた勘違い。ちなみにそのこと他の子にも話してないから安心して?」

男友達「そうか。それならまぁ、よかったのか…」

妹「ともかくそういうことなら、明日友達に聞かれたらその噂については否定しとくね~」

男友達「あぁ、そうしてくれ。助かる」

妹「別に感謝とかいらないよ。ってか言ってしまえば今日の件はあたしに責任あるし…
【男友達】のポジション論をお兄ちゃんに押し付けすぎた結果なわけだし」

男友達「…気にしなくていいぞ? 結局は主人公の好き・気になるの解釈を取り間違えた俺の落ち度だから」

妹「でも気にしちゃうよ。何かお兄ちゃんのストレス発散になることないかな…そうだ!」

妹「お兄ちゃん。こういうときのストレス解消法って知ってる?」

男友達「え? うーん…遊んだり運動したりとか?」

妹「そうだね。けど他にも、自分より下の立場の人間見て
『あ、自分はまだマシなほうなんだ』って心を満たす方法もあるよ」

男友達「その解消法ネガティブすぎない?」

妹「そりゃ実在の人間を腐すとかならともかく、そうじゃないなら、ね?」

男友達「あー…お前が言おうとしてることが分かったかも」

妹は部屋から『さかあがりハリケーン Portable』という名のソフトを持ってくる。

男友達「つまりこのゲームの【男友達】キャラは悲惨だから、こいつ見て元気出せと?」

妹「身もふたもない言い方だけど、そういうことだね」

男友達「ホントに身もふたもないなオイ…」

妹「じゃ、あたしは宿題があるから。それプレイしたらまた感想聞かせてね♪」

男友達「あぁ」

そう言って妹は自室へと戻る。

男友達「正直こういう解消法はどうかと思うが…ってか三日連続でギャルゲをプレイすることになるのか俺は」

いろんな葛藤はあったものの、結局はPSvitaを起動させる男友達。

※『さかあがりハリケーン Portable』はPSvita用のとPSP用の二つがあるため、そこは注意が必要である。

男友達「乗りかかった船だし…ちょっとでも趣味を共有することであいつのことが分かってやれるなら。
む…このゲームの【男友達】は綺羅泰徳(きら やすのり)っていうのか。あだ名がヤスなんだな」

そしてしばらくプレイしていたところ、次のようなシーンが見受けられた。

ヒロイン『犯人はヤス!』

男友達「名前をヤスにした理由はこれか」

男友達「そういえば…今更ながらこれってPSvitaなんだよな。今までPS2だったから一気に新しくなった気がする。
PS2のソフトは父さんから譲ってもらったとして、vitaのは妹が自腹で買ってんのか」

そんなことを考えつつ、この日も男友達はギャルゲをぶっ通しでやり続けたのであった。

……

そして翌日の放課後。

主人公「大丈夫か男友達? なんかやけに今日はボーっとしてたけど」

男友達「あぁ、ちょっと昨日夜更かしして。そのせいかもな」

女幼馴染「ふーん? 略奪愛計画を夜遅くまで立ててたとか?」

男友達「だから違うっつーの」

さて、今から帰宅して、昨夜遅くまでやり通した『さかあがりハリケーン Portable』の感想を妹に言おう。
そう考えていたところだった。

妹「主人公先輩! お久しぶりです!」

男友達「!?」

主人公「おお、妹ちゃん。久々だね」

予想していなかった妹の来訪にびっくりする兄だった。

なお、妹は主人公と対面したときは敬語を使うようにしている。小・中学校の頃はタメ口だったものの、
高校以降は後輩・先輩を意識した話し方をしようと、本人がそう決めていた。

主人公「最近忙しいみたいだったけど、今日は大丈夫なの?」

妹「はい! ちょうど委員会活動も休みで…」

男友達「おい妹。急にどうしたんだ?」

小声で男友達は妹に話しかける。

妹「今主人公くんに言ったばっかでしょ? 委員会休みだって。それに…」

同じく妹も声のトーンを落とし、そしてこう言った。

妹「…お兄ちゃんばっかに任せっきりもアレだと思ったから。
たまにはあたしのほうからもアタックしよっかなって…」

男友達「そっか」

妹の目に活力が宿っているのを感じ、兄としてどことなく嬉しく思う男友達だった。

女幼馴染「じゃあ今日は妹ちゃんも一緒に帰る?」

妹「ばっちこーい♪」

ふと男友達は思った。女幼馴染等を筆頭に常に主人公の周りには女子がいるから、
なかなか妹も主人公と二人っきりになれるタイミングがないなと。

中学の頃は家で二人きりになる時間はあったものの、
さすがに高校に入ってからは思春期特有の恥ずかしさからか、
主人公を家に呼ぶこともめっきり少なくなってしまっていたのである。

クラス男子「男友達ー」

男友達「ん? どうした?」

クラス男子「毎度思うけど、お前主人公にムカついたりしないの?」

男友達「なんでだ?」

クラス男子「だって…ほら、見ての通り妹ちゃん、主人公にご執心じゃん」

男友達「そうだな」

クラス男子「兄として複雑にならねーの?」

男友達「別に…。そりゃどこの馬の骨か知らない奴ならともかく、
主人公は旧知の仲ってのもあってそれなりに信頼してんだよ俺は。だからまあそんなには」

クラス男子「そんなもんかね。俺はムカつくけどな」

男友達「なんでお前がムカつくんだ?」

クラス男子「ムカつくっていうか嫉妬? だってあんな可愛い妹ちゃんに言い寄られてんだぜ」

男友達「あぁ、そういうことか」

家族で身近な存在なだけに男友達はあまり自覚したことがなかったが、
他人の目には妹は可愛い部類に映っているんだろうかとつい考えさせられるのであった。

女委員長「ちょっと主人公! 盛り上がってるところ悪いけど、
今日は私と博物館に行くって約束だったでしょ!?」

主人公「あ、忘れてた」

妹「え?」

女幼馴染「え?」

主人公「ゴメンね。約束したの1週間前だったからすっかり忘れてたよ」

女委員長「もう…何かにメモするとかしておきなさいよね!」

男友達「女委員長、主人公とデート行くのか?」

女委員長「で、デート!? そんなんじゃないわよ。ただ、主人公ってバカで教養ないでしょ?
だから博物館に行って勉強させようって思っただけよ」

男友達「なるほど」(つまりデートだな)

主人公「じゃ、そゆことで」

というわけで主人公は女委員長と二人で博物館デートに旅立ってしまった。

女幼馴染「あー何これ。なんかムシャクシャしてきたから
ゲーセン行って発散しよっかな。妹ちゃんと男友達も来る?」

妹「あたしたちはいいかな。存分に発散してきてね女幼馴染さん」

女幼馴染「そっかー。じゃ、またねー二人とも」

男友達「なにげにお前、勝手に俺の意見も代弁してくれたな」

学校からの帰り道。男友達は妹と一緒に下校していた。

妹「何? お兄ちゃんもゲーセン行きたかった?」

男友達「別にそうじゃないけど」

妹「あたしには分かるよ~? 昨日のギャルゲの感想、
あたしに言いたくて言いたくて仕方なかったんでしょ?」

男友達「なんで嬉しそうなんだ。それと、なんでそれ知ってんだ」

妹「お兄ちゃんの【妹】何年もやってたらね。なんとなく考えてることは分かるよ。
それに…あたしもそういう話したい気分だったし」

そしてこのとき、声のトーンが一瞬沈んだのを兄は見逃さなかった。

男友達「…さっきの件、やっぱショックか?」

妹「うーん…全くショックじゃないって言ったら嘘になるけど。でも主人公くんがモテるのって
今に始まった話じゃないから。いちいち気にしてたらキリがないかなって」

男友達「…思ったんだが、お前も委員長女みたいに
プライベートに約束取り付ければ二人っきりになれるんじゃないか?」

妹「簡単に言ってくれるね? ダメなんだよね、あたしってヘタレだからさ。そんな実行力もないよ」

男友達「中学の頃はよく一緒だったのにな。やっぱ高校生になるといろいろ距離感も変わるもんか?」

妹「うん」

男友達「そっか。分かった、じゃあ昨日の『さかあがりハリケーン Portable』の話をしよう」

妹「うん♪」

男友達「なんつーか、見てて面白いやつだったぞヤスは」

ヤスとは『さかあがりハリケーン Portable』の【男友達】綺羅泰徳の通称である。

妹「それ、『アマガミ』のときも梅やんに同じこと言ってなかった?」

男友達「あぁ…確かに梅原も面白いやつだったよ。けどヤスはその、なんというか…」

妹「なんというか?」

男友達「下ネタ的な意味で面白い」

妹「煩悩全開だったもんね」

男友達「エロいことしようとして、しくじる展開がもう様式美になってた」

妹「お兄ちゃんもああいう【男友達】ポジションになれる?」

男友達「つまり変態になれと?」

妹「うん♪」

男友達「迷いもなく即答してんじゃねーよ」

男友達「お前は変態の妹になるわけだが、いいのか?
ヤスの【妹】だって兄の変態ぶりに辟易してたぞ」

妹「そういえばその【妹】も攻略ヒロインだったよね。
綺羅凛(きら りん)って子だったか。可愛かった?」

男友達「よかったぞ。性格もまっすぐなところが気に入った。
で、変態の兄貴でもいいのか?」

妹「うわ、まだその話題ひっぱるかー」

男友達「当たり前だ。答えをはぐらかそうったってそうはいかないぞ」

妹「まあケースバイケースかな」

男友達「なんだと? 場合によってはアリだってのか」

妹「そもそも男の人って程度の差こそあれど、みんな変態っぽいとこはあるんでしょ?
いちいちそれに腹を立ててどうすんのよ」

男友達「待て。それは偏見だ」

妹「違うの?」

男友達「……」

全否定できないところを悔しく思う男友達だった。そういう自分だって
ネットでいやらしい画像を検索したことがないわけではない。つまり反論できなかった。

男友達「それでヤスの話に戻るが…」

妹「うわ、自分に都合悪くなったら話題変えたよこの人」

男友達「バレたか」

妹「うん。けど話題変えることを特別にあたしが許してあげる♪ さぁ、どうぞ」

男友達「そんなこと言われたら逆に話しづらくなったぞオイ…」

妹「じゃあ何を言おうとしてたのか当ててあげよっか。
大方、【主人公】の皆川巧(みながわ たくみ)もヤスと同じくバカ騒ぎしてんのに、
なんでいつもおいしい目にあうのは巧のほうなのかっていう理不尽さ。違う?」

男友達「エスパーかよ。なんで分かったんだ」

妹「だって【男友達】キャラに感情移入しやすいお兄ちゃんなら、
次にこういう感想来るんじゃないかなと」

男友達「まあ、そうなんだけどよ」

妹「でもそれってフィルターかかってない? よーく思い出してほしいなぁ。
同じことしてるように見えて、なんだかんだヤスのほうがやってること過激だった気がするけど」

男友達「そんなことは…。いや、そう言われると自信なくなってきたな…
確かに俺はヤス視点で見るあまり、客観的にストーリーを見れなくなっていたのかもしれん」

妹「そもそもギャルゲってのは【主人公】視点でプレイするものだよ? お兄ちゃん大丈夫?」

男友達「お前がそれを言うか!?」

妹「ん?」

男友達「いや、【男友達】キャラを勉強しろってギャルゲさせたのはお前だろう?
そりゃ、そういう視点になっても無理はないじゃないか」

妹「ホントだ。あたしのせいじゃん」

男友達「おい」

男友達「断って言っとくけど、ストーリー自体は楽しめたからな?
そこは薦めてくれたお前も安心してくれていい。キャラも濃いの多くて見てて飽きなかったし」

妹「ちなみに一番キャラが濃かったのは?」

男友達「ヤス」

妹「そこはヒロインじゃなくヤスなんだね」

男友達「そりゃそうだろう。そもそも寺の息子なのに煩悩垂れ流しって時点で、
おいしすぎる設定じゃないか。こんなの他だと鳥束くらいしか俺は知らない」

妹「鳥束?」

男友達「あぁ、悪い…」

急に他作品のキャラクター名を出してしまったことを詫びる男友達。

男友達「『斉木楠雄のΨ難』って漫画があってな。それに同じく寺の息子で、
煩悩全開な鳥束霊太(とりつか れいた)ってキャラがいるんだよ」

妹「……」

男友達「すまん。斉木を知らなかったか?」

妹「知ってるよ。ってか単行本持ってるし」

男友達「マジかよ」

妹「あたしが驚いたのはむしろその逆でね。お兄ちゃんって斉木知ってんだなって」

男友達「…そんなに驚くようなことか?」

妹「だってお兄ちゃんって無趣味だと思ってたし」

男友達「いくら無趣味でも少年漫画くらいは読むっつうの…」

妹「ふーん…♪」

男友達「…? 目を輝かせてどうしたんだ?」

妹「一つ聞くけど。お兄ちゃんってジャンプ読んでんの?」

男友達「雑誌ならたまに立ち読みする程度には。単行本も…まぁそれなりに」

妹「いいこと聞いちゃった。じゃあギャルゲから媒体を変えてみよっか?」

男友達「え?」

投稿を一時中断。ここまでがニュー速vipで投下された範囲です。
ここからは新しい投下となります。

では、投稿のほうへ戻ります。

男友達「媒体を変えるって?」

妹「ギャルゲは一旦お休みにして、ラブコメ漫画に軸足を移してみない?ってこと」

男友達「ラブコメ漫画か…」

妹「だってさすがに四日連続でギャルゲはきついでしょ?
ゲーム画面見続けて目も疲れてるだろうし。息抜きだよ息抜き」

男友達「まあ漫画だって見ることには変わりないが…それでも紙媒体だからゲームとは違いそうだな」

妹「うん。でさ、今まで読んだことあるラブコメあるなら教えてほしいなーって」

男友達「ないぞ」

妹「え?」

男友達「読んだことがないんだ」

妹「…え? ちょっと待って。ジャンプ読んでたら、
たいていラブコメジャンルの漫画が一つくらいは載ってるよね?」

男友達「そうなんだろうけど興味ないし今まで読み飛ばしてた」

妹「えぇ…もったいないことしてるねぇ…」

男友達「お前は読んでるのか?」

妹「いろいろね。けど…そっか。全く読んだことないとなると、
どれから薦めたらいいか迷っちゃうなぁ…」

男友達「じゃあ俺から条件を指定してもいいか?」

妹「いいけど、どうしたの?」

男友達「その…なんだ。この三日間ギャルゲをやり続けてきて、
【男友達】キャラがろくな目に遭ってこなかったのを見たわけじゃないか」

妹「まさしくそうだね」

男友達「だから次に読む作品は、【男友達】がそれなりに恵まれた境遇でいてほしいと思ってる」

妹「えー…」

男友達「露骨に面倒そうな顔してるな?」

妹「読んだことないから仕方ないのかもしれないけどさ。
ラブコメ漫画の【男友達】って、ギャルゲのそれより扱いが悲惨なこと多いよ?」

男友達「そうなのか?? なんてこった…」

妹「少女漫画ならそういうのあるんだけどさ。読みたいのは少年漫画なんだよね?」

男友達「あぁ」

妹「うーん…」

頭を悩ませ、しばらく考える妹。

妹「お兄ちゃんの言う恵まれた境遇の定義にもよるんだけどさ。
とりあえず有名どころでいいなら、『いちご100%』を薦めてみよっかな」

男友達「おぉ。それ、名前だけなら聞いたことあるぞ」

妹「ジャンプのラブコメとしては一応有名なほうではあるからね。
けどどうしよう…あたし持ってないんだよね」

男友達「持ってないって、じゃあどうやって読んだんだ?」

妹「古本屋に行ったりレンタル屋を駆使したりしてさ」

男友達「なるほど。じゃあ今から俺もそこへ向かってみるとしよう…全部で何巻出てる?」

妹「19巻だよ」

男友達「そうか。じゃあ妹は先に帰っててくれ」

妹「なんで?」

男友達「こんなに巻数出てんなら、1巻分抜けてたりするかもしれないじゃないか」

妹「そうだね。4巻だけないとか」

男友達「そうなったら困るから、今から都内のいろんな店舗を歩き回ってくる。
ちょうど全19巻見れるようにな。だから時間かかりそうだから…お前は先に帰ってたほうがいいと思って」

妹「そういうことならお先に失礼するね。けどその前に確認」

男友達「なんだ?」

妹「どうしていまだに【男友達】キャラにこだわってるのかなって」

男友達「え? それは――」

妹「もしかして頑なにあたしの言ったこと守ってる? 【男友達】ポジションを勉強して、
それをあたしのため…っていうか主人公くんのために活かしてって」

男友達「……」

妹「ありがとね? けど昨日の一件で分かったんだよ。それでお兄ちゃんに迷惑かけるのは
やっぱ嫌だなって。言い出したあたしがこんなこと言うのも虫がいいかもだけどさ…」

男友達「…いいのか?」

妹「うん。それに、あたしは【男友達】キャラとか関係なく、純粋にお兄ちゃんに
ギャルゲやラブコメ漫画を楽しんでほしいって思っててさ。ただそれだけなんだよ」

男友達「お前の言いたいことは分かった。だが断る」

妹「まさかこの流れで断られるとは予想してなかったよ…」

男友達「空気読まんですまんな」

妹「どゆこと?」

男友達「さっきも言ったがお前の言いたいことは分かったし、俺もそうしようと思った」

妹「うん」

男友達「けどな。体が言うことを聞かないんだ」

妹「??」

男友達「ここ数日間、【男友達】キャラに焦点を当てすぎたからだろう…。
つまり今後、恋愛系の作品を見るたびに【男友達】の視点で物語を見る癖がついちまったんだよ。
やめようとしても脳が勝手にそれを拒否する」

妹「…えっと、病気?」

男友達「病気ではないと思うが…けれど深刻な癖がついてしまったのは間違いない」

妹「あたしのせい?」

男友達「まぁ、発端はお前ではあるかもな」

妹「マジで!? どうしよう…責任とらなきゃ。お兄ちゃんのために、あたし何かできるかな?」

男友達「落ち着け。実を言うとな、案外こういうのも悪くないと思ってる」

妹「そうなの?」

男友達「あぁ。敢えて【主人公】じゃなく【男友達】に感情移入してみるのも…
また一興ってな。楽しみ方は人それぞれだし」

妹「まぁお兄ちゃんがそれでいいなら別にいいんだけど…」

男友達「けど俺がお前に影響を受けたのは事実だ。だからそれ相応の責任は取ってもらう」

妹「! う、うん。何?」

男友達「そう構えるなよ」

そう言って男友達は妹の頭を優しくポンとなでる。

男友達「ギャルゲでもラブコメ漫画でもいい。これからもお前のオススメ作品を俺に教えてくれ」

妹「…それがあたしの責任の取り方?」

男友達「あぁ」

妹「…そっか。分かったよ♪」

妹が帰宅してから数時間後。

男友達「ただいま」

妹「おかえりー。どうだった?」

男友達「とりあえず全部借りてきた」

妹「そうなんだ? 立ち読みしたりはしなかったの?」

男友達「しようと思ったんだが、やっぱ家でじっくり読みたいと思って。
で、レンタル店ってのがちまちま借りるより一気に借りたほうが安くつくから、そうすることにした」

妹「あー、10冊で割り引きとかあるもんね。
けど運よかったね? レンタル店に全部そろってたなんて」

男友達「そうでもない。7巻、8巻、17巻が借りられてた」

妹「うわ、嫌な抜け落ち。その3冊はどうしたの?」

男友達「中央線沿いのレンタル店行ってその3冊だけ借りた」

妹「代々木経由してまで探しに行ったんだ?
それはなんというかお疲れだったね…先に夕飯食べる? もうできてるけど」

男友達「助かる。じゃあいただくとするよ」

男友達「うまさが身にしみる」

妹「そんなに?」

男友達「あぁ。今度主人公にごちそうしたらいいんじゃないか? 胃袋つかめるぞ」

妹「よっしゃ! ギャルゲで研究した甲斐があった!」

男友達「…? 何言ってんの?」

妹「いや、おかしな人を見るような目で言われても」

男友達「なぜそこでギャルゲの単語が出てきた」

妹「だってヒロインの料理イベントって大抵のギャルゲでは高確率で登場するよ?
つい二日前にお兄ちゃんがやった『D.C.Ⅱ.P.S.』だって、作中三日目で弁当シーン出てきたでしょ」

男友達「そういやそうだったな…月島の弁当がうまいって選択肢選んだ記憶が。
ともかく、そこで出てきた食べ物の組み合わせを参考にしてるってことか?」

妹「そうそう。いやー結構バカにできないんだよこれ。男の人ってこういうのが好きなんだなって」

男友達「ねーよ。いや、けどギャルゲって男性向けを意識して作られてるし、
そこで出る料理の組み合わせもそれなりにマーケティングされて男の好みに近いものを?
確かにバカにできんのかもしれん…」

妹の言っていることが本当に正しいのか…脳内で激しい葛藤に遭遇する兄だった。

男友達「まぁお前の料理がうまいってのは本当だけど、今日は疲れたから余計にそう感じたってのはある」

妹「いろいろ歩き回ったからね」

男友達「それだけじゃない。単に俺の体力が落ちてるせいもある」

妹「そうなの?」

男友達「あぁ。最近素振りしてなかったからか…数日サボるだけでこうなるんだから油断できん」

ここで彼の言う『素振り』とは、竹刀を振る動作のことである。

妹「ギャルゲに没頭してたから仕方ないね♪」

男友達「なんでお前はそこで意地悪そうな笑顔を向けてくる…
とにかく明日からは気合入れんと。…そういえば妹」

妹「ん?」

男友達「【男友達】キャラが剣道やってるギャルゲってあるか? もしあればやってみたい」

妹「あるも何も『アマガミ』の梅やんが剣道部だったじゃん」

男友達「そうだが、『アマガミ』以外に何かないかと聞いてるんだ」

妹「うーん…いやまぁ一つ思いつくのはあるけど。けど急にどうしたの?」

男友達「どうせ【男友達】キャラに感情移入するなら、とことんまで突き詰めてやろうと思って。
で、自分と境遇が似てれば尚いい…だから剣道やってるキャラを――」

妹「お兄ちゃん帰宅部じゃん」

男友達「真顔で言うな。いや、今はそうだが中学のときは剣道やってたろ」

妹「あー、はいはい。そのせいであたしに全然構ってくれなかったもんね」

男友達「…それはすまんかったな」

妹「その分これから埋め合わせてよね? けど、貸すのどうしよっかなぁ…」

男友達「…まだ機嫌損ねてるのか?」

妹「いや、そうじゃなくて。そのキャラ、超人だから。果たして感情移入できるのかなって」

男友達「?」

妹「お兄ちゃん、たぶん勘違いしてるんだろうね。今までやってきたギャルゲの【男友達】が
良くも悪くも等身大のキャラばっかだったから。梅やんとはちょっと違うよ?」

男友達「……」(一体どんなキャラなんだ…?)

夕食を食べ終わり、自分の部屋へと戻る男友達。

男友達「…さて。腹もふくれたことだし、満を持して『いちご100%』を読むとしよう」

妹「だね」

男友達「いたのか。お前いつ部屋に入った?」

妹「お兄ちゃんが部屋に入るのと同時に」

男友達「忍者かよ。ってかお前も読むのか?」

妹「うん。久々にどんなストーリーだったか確認したいなって」

男友達「そうか。じゃあ一緒に読むか」

妹「うん♪」

そして勢いよく開いた1巻冒頭にて。それは、いちごパンツをはいた女の子が頭上から落ちてくるシーンだった。

男友達「……」

硬直する男友達。

妹「あはははっ! 実は一緒に見ようって言った目的はね?
お兄ちゃんのその驚いた顔を見たかったからで――」

男友達「1582…本能寺の変…」

妹「え?」

妹「今、本能寺の変って言った?」

男友達「あぁ」

妹「頭おかしくなっちゃった?」

男友達「俺はいたって正常だ」

妹「…どゆこと?」

男友達「中学のとき、必死に歴史の年号を覚えてたことを思い出してな」

妹「これ歴史漫画じゃないよ。幻覚でも見てる?」

男友達「俺を病人扱いするんじゃない。いいか? 1582っていちごパンツって読めるだろ?
それが年号でいうところの本能寺の変が起こった年なんだよ」

妹「…あの、硬直してたのって、そのときの思い出が浮かんで感傷に浸ってたってこと?」

男友達「そういうことだ。友達と一緒に『いちごパンツはいた信長死す』って覚えたり」

妹「なんてどうでもいい話なの…」

呆れて脱力した妹は、皿洗いをしに部屋から出て行ってしまったのであった。

それから2時間後。

妹「お兄ちゃーん。そろそろお風呂入ったら?」

男友達「あぁ。そうする」

すでに入浴し終え、寝間着を着ている妹が部屋に呼びにきていた。

妹「どこまで読み進んだの?」

男友達「今は15巻の130話のとこだ」

妹「はっや!? ちょ、ちゃんと読んでんの??」

男友達「内容はきちんと追いながら見てるぞ」

そういえばここ数日間のギャルゲプレイで、兄が速読だったのを思い出す妹。

男友達「お前の言う通りだな…確かに【男友達】の大草ってやつは
イケメンでリア充だった。こういうパターンもあるんだな」

男友達「けど、もう一人の【男友達】…小宮山力也の扱いについてはお察しだ。
まあ…たらこ唇って見た目からして道化臭やばかったけど」

しかしそのタイミングで男友達の認識に異変が生じる。130話最後のページをめくったところだった。

小宮山力也『このたび俺達』
端本ちなみ『めでたくカップルになりました~♡』

男友達「なん…だと…」

妹「おぉ、これだよこれ。あたしがさっき見たいと思ってたお兄ちゃんの驚き顔ってこんな感じ」

補足だが端本ちなみとはヒロインの一人の名前である。

男友達「…凄いなこの漫画。どう見ても噛ませ犬にしか思えないキャラでも彼女つくれるなんて…」

妹「でしょ?」

男友達「あぁ。この漫画は【男友達】キャラ全てにおいての希望だ」

妹「ちなみにこのカップル、すぐ別れるから」

男友達「たちの悪い冗談はよせ」

妹と入れ替わりで風呂に入り終わった男友達は、
その後再び『いちご100%』を読み始め、1時間もしないうちに読破したのだった。

妹「おぉ…0時直前でギリギリ読破できたね…ねむ…っ」

男友達「お前はもう寝ていいんだぞ?」

妹「そうだけど、せめて寝る前に感想をもらいたいと思ってね…。どうだった?」

男友達「…なんというか感動したな」

妹「そうなの?」

男友達「あぁ。【主人公】真中淳平以外のキャラも、女・男含めて背景や設定が掘り下げられてたから。
全編通して見ごたえがあったし…最後に外村美鈴のエピソードを入れたのもナイスだ」

妹「そりゃよかった。薦めた甲斐があったよ」

男友達「だが敢えて苦言を呈すなら…終わり方に納得がいかんかった」

妹「…そういう言い方するってことは、お兄ちゃんって西野派じゃなく東城派だったの?」

男友達「違う。そういう問題じゃない。俺が言いたいのは
小宮山が端本ちなみと破局する必要があったのかってことだ」

妹「やはりというか何というか…そっち関連のが気になるのねぇ…」

男友達「しかし…お前がラブコメ漫画を薦めてくれたおかげでギャルゲとの違いが分かった」

妹「ほお? 聞かせてもらいましょうかな?」

男友達「ずばり、漫画の場合は自分の思い通りにならない」

妹「ふむ」

男友達「結局は作者次第だからな。どういう終わり方をするかは作者が決める。
読者じゃない。一方、ギャルゲは終わり方に関してプレイヤーが自主的に操作できる」

妹「そりゃまぁゲームだからね」

男友達「あぁ。だからギャルゲのメリットを挙げるとすれば、そういう点なのかもしれんと思った」

妹「一つツッコミ入れていい?」

男友達「なんだ?」

妹「それってあくまで【主人公】の話であって、【男友達】のくっつく相手は
ギャルゲであっても操作できないよ? そこ分かってる?」

男友達「……」

額に右手を当て、そして深刻な表情で男友達はつぶやく。

男友達「本当だ…っ」

妹「まぁ【主人公】キャラの操作云々を含めたとしても、
ラブコメ漫画のが挙げられるメリットは多いと思うけどね」

男友達「そうなのか?」

妹「お兄ちゃんはさっき『漫画の場合は自分の思い通りにならない』
って言ったけど、それが良いって人もいるんだよ」

男友達「…?」

妹「だってそれって展開が予想できないってことでしょ? だから先を読む楽しさが出てくるっていうか」

男友達「あぁ…言いたいことは分かった。誰とくっつくんだろうとか、
このフラグがあるからこの子とくっつくんだとか議論のし甲斐はあるかもな」

妹「後は話題の共有度かなー。リアルやSNSでもそうだけど
ギャルゲよりラブコメ漫画のが話題にしてる人の絶対数が多いもん」

男友達「それはまぁなんとなく想像つくな…」

妹「うん。で、人と話題にすること自体が楽しいってのもあるでしょ。
だったらそういうのはラブコメ漫画のがうってつけってわけ」

男友達「一人で黙々とやる趣味もいいんだろうが…そっちのがいいって人も多そうだな」

妹「後は値段? 単純に漫画のが安いでしょ。しかもこっちはレンタル店もあるし。
古本屋の立ち読みで済ませる人もいるか」

男友達「中古だったらゲームでもあるぞ?
PS2みたいに昔のギャルゲなら1000円切ってるのも多いんじゃないか?」

妹「今時PS2とかそれ以前のギャルゲ買う人いるのかなぁ」

男友達「お前が言うな」

妹「いや、あたしはお父さんがハード持ってたから。今の若い子って普通PS2なんて持ってないでしょ。
かといってPS3やvita以降のギャルゲだと中古でも3000円とかザラにあるし」

男友達「じゃあPS2を購入すればいいじゃないか」

妹「そんな物好きいる? いたとして、PS2のハードってもう中古でも見かけないよ?」

男友達「じゃあスマホアプリならどうだ。よく無料でできるギャルゲっぽいの最近多いし」

妹「課金要素あるよ? まあ遊び方によるんだろうけど、
レンタルや立ち読みできる漫画よりお金かかりそうじゃない?」

男友達「……」

妹「他には?」

男友達「ありません…」

男友達「そういえば今の話で思ったんだが。お前のギャルゲ趣味って友人は知ってるのか?」

妹「知らないよ? まぁ向こうがそれ知ったらびっくりするかもね」

男友達「明かしてなかったのか。やっぱり話が合わないから?」

妹「合わないも何も話題に出したことないもの。万一出して悪く言われたら嫌だからさ」

男友達「そういうもんか…」

妹「うん。しかもあたしの場合女子だから、余計話しにくいよ」

男友達「ちなみに主人公には?」

妹「…実は主人公くんも知らないんだこのこと」

男友達「中学のとき、あいつ家に来てお前とゲームしてたけどさ。ギャルゲはやってなかったんだな」

妹「まあね。無難に格ゲーやRPGあたりをやったり」

男友達「…主人公はお前のそういう趣味を拒絶したり、バカにしたりはせんと思うが…」

妹「うん。主人公くん優しいから。けど、やっぱ明かせなかったな。
好きな相手なだけに、自分のそういうのさらけ出すって勇気いるから」

先ほどの話で、人と話題にするのも楽しさの一つだと妹は言った。
とすれば、今まで家族を除いてギャルゲ趣味をほとんど共有できなかったことに
多少なりともストレスがあったとしたら…。そこまで考えて男友達は次のようなことを言った。

男友達「…お前が俺とギャルゲ話すとき、楽しそうにしてたのって――」

妹「何?」

男友達「いや、何でもない」

妹「嬉しかったよ?」

男友達「!?」

気恥ずかしいから途中で言葉を濁したというのに、その濁したはずの言葉を妹に先取りされてしまっていた。

妹「正直さ。お兄ちゃんにカミングアウトしたとき、内心かなり緊張してたんだよね」

男友達「…そうだったのか?」

三日前のそのときのことを思い出すものの、妹がそんな様子であった記憶はなかった。

男友達「全然そんな感じしなかったが」

妹「そりゃまぁ平静装ってたし、何よりあのときお兄ちゃんの気が沈んでたから?
あたしの表情観察する余裕もなかったんじゃないの」

男友達「…確かに主人公の件で考え事してたっけか」

妹「ともかくさ。今ではこうやっていろいろ話せてるし、あのとき勇気出して良かったなって。
まあ…その緊張のせいで変に興奮状態なって、つい【男友達】ポジションやってとか
口から飛び出しちゃったけど」

男友達「あの言動にはそういう心理背景が働いてたのか…」

妹「もちろん、あたしや主人公くんのためにやってって言ったのは嘘じゃないよ?」

男友達「それは分かってる」

妹「また勇気出してみよっかな。お兄ちゃんにカミングアウトしたみたいに」

男友達「…勇気を出す?」

妹「委員長女さんが主人公くんを誘ったみたいにさ。あたしも彼誘ってみよっかなって」

男友達「妹…」

妹「いつまでも自分のヘタレな性格のせいにしてられないもんね…、……っ」

そのときだった。不意に妹の体がふらついたので、あわてて兄がそれを支える。

男友達「大丈夫か? 今日はもう寝ようか。あれから随分話し込んだもんな」

妹「だね…じゃあまた明日ね。おやすみなさーい」

男友達「あぁ。おやすみ」

自分の部屋に戻る妹。こうしてこの日は幕を下ろした。

……

主人公「なんかさ。妹ちゃんのことが気になって…」

翌日の昼休み。男友達に向かって、主人公がそんなことを口にしていた。

男友達「…気になるのか?」

主人公「うん」

まさかの展開だった。

男友達「……」

ここで【男友達】ポジションに徹するのであれば、早乙女好雄のように妹の情報を提供するのだろうが。
とりあえず男友達は様子見することにした。もうそのポジションには拘泥しなくていい
という趣旨の妹の言葉もそれには関係している。

男友達「…どういうところが気になったんだ?」

主人公「昨日さ。僕が委員長女と一緒に帰るってなったとき」

男友達「あぁ」

主人公「そのとき教室にいた妹ちゃんがひどく寂しそうな顔してた気がしてさ…。
久々に僕と帰ろうとしたのにオジャンになったから、ショックだったのかなって」

男友達「まあ残念だったとは言ってたかな」

主人公「そうだよね…」

男友達は思った。こいつは洞察力が鋭いのか鈍いのかよく分からんやつだと。
おそらく一瞬であったであろう表情の陰りに気づくわりには、肝心の好意にはこの男は
気づいていないのだと。陰りの原因も、単に一緒に帰れなかったから程度にしか考えてなさそうに見えた。

主人公「この埋め合わせは…やっぱりしたほうがいいよね?」

男友達「そうだな…」

『埋め合わせ』という言葉を聞く限り、その発言は義務感から来ているように男友達には思えた。
できれば妹とは自主的に時間を作ってほしいと思ったが、今は贅沢は言うまいと。
むしろこれはチャンスなのではと、このとき彼はそう考えていた。

男友達「実はな。今日あたり妹がお前に連絡しようかって言ってたぞ」

主人公「そうなの?」

男友達「あぁ。遊びに行きたいんだとかなんとか」

主人公「そうなんだ。なら、ぜひそれに応えてあげなきゃね」

今朝方のこと。昨日の決意通り、今日中に主人公を誘うということを、男友達は妹から聞いていたのである。
本来なら必要以上に妹・主人公間のやり取りに介入すべきではないものの、
これくらいの事前通知ならしてもいいはずだと彼は考えていた。

そんな話を主人公とした後。時刻は放課後となり、彼は家へと帰宅した。

男友達「…さて。今日の料理当番は俺か。頑張ろう」

妹「Wow!! Delicious!!」

男友達「なんで英語なんだ」

妹「おいしいから」

二人は夕食をとっていた。

男友達「…賛辞は嬉しいが、お前の作るほうがうまいぞ。俺のなんか見てみろ、
野菜も乱切りでサイズがでかい。器用なお前と比べるとダメダメだ」

妹「料理は見た目じゃないよ。味だよ? あぁっ、うまいうまい…」

男友達「まぁお前がいいならそれでいいんだけど」

妹「けど、ふむ…この腕前ならお兄ちゃん、料理上手な【男友達】キャラも目指せそうだね」

男友達「なんだそれ。ってか俺はもうそのポジションやらなくていいんじゃなかったのか」

妹「本気で捉えないでって。冗談だよ冗談~」

男友達「…あぁもう。お前がそんなこと言ったせいで無性に気になっただろうが。
そういうキャラで思い当たるのが誰かいるのか?」

妹「ええっとね。例えば『キスベル PlayStation(R) vita』の堀之内清司でしょ?
それに『夜明け前より瑠璃色な』の鷹見沢仁…あぁ、仁さんは
正確には幼馴染ヒロインの兄か。他には『左門くんはサモナー』の九頭龍芥――」

男友達「ちょっと待て」

妹「どうしたの?」

男友達「今、さらっと異物が混入されたぞ」

妹「何?」

男友達「何?じゃねーよ。左門だよ左門」

妹「そんなにおかしい?」

男友達「ギャルゲじゃないのはもちろんのこと、ラブコメ漫画でもないだろあれは」

『左門くんはサモナー』とは週刊少年ジャンプで連載中のコメディ・ギャグ漫画である。

妹「そうかな? ラブ要素あるコメディ漫画なんだから、字の通りラブコメでしょ」

男友達「おいおい…。そういう理屈で来るなら、じゃあ一つ聞くとしよう。
お前が純粋にコメディ・ギャグ漫画だと思ってる作品は何だ?」

妹「『魁!!クロマティ高校』とか『ボボボーボ・ボーボボ』とか」

男友達「……」

なんということだと男友達に激震が走った。確かにその二つと比べると、相対的に左門くんは
ラブコメ漫画であるのかもしれない…などと、彼は究極の選択を迫られることとなった。

妹「けどそんな反応するってことはお兄ちゃん、左門くんのこと知ってるんだ」

男友達「前にジャンプには目を通してるって言ったろ」

妹「じゃあ知ってるよね? 九頭龍が女子力のかたまりってこと」

ちなみに九頭竜芥(くずりゅう かい)とは、【主人公】左門召介の【男友達】である。

男友達「知ってる。性格は名前の通りクズ野郎だが、あいつの料理うまそうだよな」

妹「6巻43話の手羽先プリン作る回はやばかったよね。どんだけ料理スキルあるんだっていう」

男友達「え、なんでそんなに詳しいの?」

妹「漫画持ってるし」

男友達「マジかよ。しかしプリンか…。よし、手羽先プリンは作れんが、
明日は卵料理…オムライスでもお前に作ってやろう」

妹「やったー♪」(お兄ちゃんノリよすぎでしょ)

男友達「お前がこの前言った意味が分かってきたぞ」

妹「え? なんのこと?」

男友達「ギャルゲは料理の勉強になるって言ってたろ。
ヒロインの料理イベで披露される料理は参考になるとかで」

妹「そうだね」

男友達「けど、別に料理はヒロインだけの特権じゃない。
【男友達】キャラの作る料理を参考にしたっていいはずだ」

妹「う、うん」

男友達「よし。ギャルゲで料理の勉強って目的が新たに増えたぞ」

妹「ねぇ」

男友達「ん?」

妹「どんどんギャルゲやる理由がズレてってない…?」

男友達「何言ってんだ。ギャルゲは料理云々、はじめに言い出したのはお前だろう」

妹「なんだろうこの感覚。自分がやる分には思わないのに、他人が同じことやると凄くおかしく思えてくる」

男友達「って、こんな話してる場合じゃない。お前、主人公に連絡はしてみたのか?」

妹「やっと本題が来たね。さっきからタイミングうかがってたんだけど」

男友達「すまんかった…。で、どうだった?」

妹「明日。二人で遊びに行くことにした」

男友達「明日? あぁ…そういえば祭日だったか」

妹「お兄ちゃんは明日どうするの?」

男友達「最近体がなまってたから。適当に運動して、宿題して…時間あったらギャルゲやることにする」

妹「ラブコメ漫画のほうはもういいの?」

男友達「漫画もいいけど、どうやら俺は自ら操作するほうが好きらしい。だからギャルゲをな」

妹「なんだかんだで興味津々じゃん。お兄ちゃんも、やっぱ立派にお父さんの遺伝子受け継いでんね」

男友達「その言い方はやめろ…複雑な気持ちになってくる…」

とはいえ自分も以前、妹のギャルゲ好きを父親の遺伝子と関連付けて考えたことがあったため、
そこらへんはお互い様かと思うことにした兄だった。

妹「で? 今度はどういうギャルゲがしたいのかなお兄ちゃんは。料理要素あるやつ?」

男友達「いや、楽しみは後にとっておくタイプだから、それは今度でいい」

妹「今度でいいんかい。じゃあどういうのをご所望で?」

男友達「今まで俺、やってきたギャルゲが日常学園ものばっかだったろ。
だからたまには非日常系のもやってみたいと思ってな。あるならの話だが…」

妹「もちろんそういうソフトもあるよ。他に注文ある?」

男友達「【男友達】キャラは恵まれた境遇がいい」

妹「そこはブレないんだね…」

そして数秒思考した後、妹は部屋からとあるゲームソフトを持ってくる。

妹「これこれ。『Chaos;HEAd(カオスヘッド) NOAH』っていうんだけど」

男友達「サンキュー。風呂入り終わったら早速やってみるよ」

有言実行通り、入浴後に男友達は自室でPSPを起動させる。

男友達「今回はどういうゲームなんだ? カオスっていうくらいだから非日常要素に期待できそうだな」

そしてプレイを開始して1時間が経った頃。男友達は妹の部屋の前に立っていた。

男友達「妹…」

妹「どうしたのお兄ちゃん?」

廊下へと顔をのぞかせる妹。

男友達「俺にはな」

妹「うん」

男友達「これ以上の続行は無理だ…」

妹「え? まさかのリタイヤ??」

男友達「はっきり言ってやろう。これは何だ?」

妹「何だって言われても…」

男友達「作中【主人公】の【妹】の切断手首がな、部屋から見つかってな。心が折れた」

妹「非日常系がいいって言ったのお兄ちゃんじゃん」

男友達「あのな? 俺は魔法や超能力が多少出るくらいのファンタジーを想定してたんだ。なのに…っ!」

妹「お兄ちゃんにはこのゲームどう映ったの?」

男友達「サイコホラーに映った」

妹「でも可愛い女の子が登場してるよ?」

男友達「そういう問題じゃない…そもそも冒頭の時点でおかしかったんだ…
手つないで屋上から集団自殺とか、もうヤバイ以外の表現が思いつかんぞ!?」

妹「だっていろいろヤバイのがこのゲームの持ち味だし?」

男友達「なんでお前は平気そうなんだ…」

妹「そうそう。【男友達】キャラはどうだった? 三住大輔っての。
あたしの言った通りイケメンのリア充だったでしょ?」

男友達「怖すぎてもうそんな奴のことは忘れた…」

妹は思った。この兄に『ひぐらしのなく頃に』や『うみねこのなく頃に』を
やらせたらどうなるのだろうと。もしかして卒倒するのかもしれないなと。

妹「ってかお兄ちゃんってそんなにホラー耐性なかったっけ? サスペンスものとか普通に見てたよね?」

男友達「これはな。お前のせいでもある」

妹「えー。なんで?」

男友達「さっきも言ったが俺は、せいぜいファンタジー要素をかじった程度のギャルゲだと思って
プレイしてたんだ。それがふたを開けてみたら…心の準備をしてなかっただけに衝撃度が…
あとゲームの舞台が渋谷じゃないかこれ…リアルに家の近くってのもあって余計に恐怖が…」

妹「うん。なんというかゴメンね? お兄ちゃんには刺激が強すぎたね」

※補足。『Chaos;HEAd(カオスヘッド) NOAH』はいわゆるギャルゲのカテゴリには含まれないので注意が必要である。
定義にもよるのだが、仮にギャルゲを女性キャラとの恋愛を全面的に押し出したものであるとするなら、
カオスヘッドはそれには当てはまらない。どちらかといえば『Steins;Gate』や『ひぐらしのなく頃に』に
近いジャンルのゲームである。なお、公式ジャンル名は「妄想科学ADV」。

男友達「というわけで、この恐怖を忘れるために外に出て走ってくる」

妹「こんな夜中に? いやいやいや、落ち着こう?」

男友達「体を動かせば忘れると思ってな」

妹「あの、外は真っ暗だよ? 余計に怖くならない?」

男友達「じゃあ庭で素振りを…」

妹「それはそれでご近所さんから白い目で見られそうだからやめて?」

男友達「あぁ。なんかすまんな…情けない姿を見せてしまって」

妹「そんなこといいから、とりあえず深呼吸!」

男友達「すー、はー」

妹「お手!」

男友達「いや、それはおかしいだろう」

妹「つっこめるくらいには平静を取り戻したみたいね?」

男友達「そうだな…」

妹「温かいミルク入れたげよっか?」

男友達「ありがとう」

妹「…落ち着いた?」

男友達「おかげ様でな。ミルクもうまかった」

妹「にしてもお兄ちゃん、子どもみたいだったね?」

男友達「逆にお前は母さんみたいだったな…」

妹「いやー、珍しいものが見れたよ。いつもはクールで、声のトーンも落ち着いてるだけに」

男友達「恥ずかしい限りだ」

ここだけの話。男友達は、実際はそこまで怖がりというわけではない。ホラー耐性も人並みには
あるはずだった。ただ状況が悪かった。ゲームの世界だとは分かっていも、プレイヤーの【妹】キャラが
あのような目に遭わされるというのは、同じく【妹】をもつ兄として衝撃を受けざるを得なかったのである。

妹「お兄ちゃん」

男友達「ん?」

妹「お礼言っとくよ」

男友達「…? お前が俺に礼を言う要素なんてあったか」

妹「例えば自分が動揺してたとして、その自分以上に動揺してる人を見かけたら、
逆に冷静になれるって話聞いたことあるでしょ?」

男友達「…つまり俺がリタイヤ宣言しに部屋に訪れたとき、お前もお前で心が乱れてたと?」

妹「うん。明日のことで」

男友達「? あぁ…そうか。夕食のとき普通に話してたが、なんだかんだで緊張してるんだな」

妹「だって久々に主人公くんと二人っきりだもんね。それもデートっぽいことするわけだし…」

男友達「そういうときはな。手のひらに人の字を書いて飲み込めば落ち着く」

妹「…古典的すぎない? ってかさっきそれお兄ちゃんやってなかったじゃん」

男友達「本当に取り乱したときというのはな…落ち着くための手段すらも忘れてるもんだ…」

妹「そっか。ま、だからそんなお兄ちゃん見れて逆に落ち着いたわけ」

男友達「そんな意図はなかったが、クールダウンできたなら何よりだ」

妹「それでさ。明日は帰りがいつになるか分かんないから、あたしの分の夕食は作らなくていいから」

男友達「なんだと!? せっかくお前にオムライス作ろうと思ってたのに…
っていうのは冗談だ。分かった、存分に楽しんできてな」

妹「うん♪」

男友達「…一つ聞いていいか?」

妹「何?」

男友達「場合によっては明日告白することも…考えてたりするのか?」

妹「それはない」

男友達「言い切ったな」

妹「久々に遊ぶだけでも緊張してんのに、さすがにそれはね」

男友達「まあそれもそうか…」

妹「うん。けど探りを入れたりはしてみよっかな? どんな女の子がタイプ?とかそういうの」

男友達「いいんじゃないか? ともかく明日は応援してるぞ。ギャルゲしながら帰り待ってる」

妹「妹がデートしてる時間帯に兄はギャルゲとか凄い落差だね?」

男友達「言われてみると確かにそうだな?」

そんな他愛のない会話をしながら、この日は幕を下ろしたのだった。

男友達「しまった、どうしようか…」

そして翌日の朝10時。とっくに妹は外出している一方で、兄はあわてていた。

男友達「昨日、妹に聞くの忘れてた…」

『Chaos;HEAd(カオスヘッド) NOAH』をリタイヤした後、次にやる予定の
オススメ・ギャルゲを妹から聞き忘れていたことに気づいたのである。

今まで借りたギャルゲで、まだクリアしてない子のルートをやるという発想も
あるにはあったが、このとき男友達は新しいギャルゲをしたい気分だった。

男友達「とにかくいろんな作品に触れてみたいんだよな。しかしどうしたものか…」

新しいギャルゲを入手するためには、それが置かれている妹の部屋に侵入しなければならない。
本来、年頃の女の子の部屋に男が勝手に入るのはご法度であるが…

男友達「一瞬で退散するから許してくれ。一瞬で退散するから…!」

欲求に勝てなかった男友達は、そんな言い訳を虚空に向かって放ち、部屋に入ることにした。

男友達「早いとこ出なければ…。えっと、ギャルゲが置かれてる棚は…あぁ、これか」

早速その棚を見つけた男友達は、並べられたコンテンツの数々を興味深そうに見つめる。

男友達「…ギャルゲばっかりかと思ってたが、漫画も結構そろってんな。
『斉木楠雄のΨ難』・『左門くんはサモナー』以外にも『となりの柏木さん』や
『この美術部には問題がある』とか…表紙見ても後の二つはラブコメ漫画か」

そして男友達は次の事実にも気づく。柏木さんや美術部がジャンプ系列の漫画ではないことに。

男友達「今までジャンプ系ばっか読んでたから、たまにはそれ以外のを
読んでみてもいいかもな…って、いかん。一瞬で退散するんだった」

すでに一瞬ではなくなっていたが、とにかく意識を改め、棚のゲームコーナーに視線を集中させる男友達。

そういえばと男友達は思う。今まで自分は一貫して妹に薦められたギャルゲを
やってきたのであって、自らが選んでプレイするのは初めてだと。

男友達「…まずいな」

そして、ここにきて彼は困った事態に直面した。棚を見ると、確かに妹が以前言った通り
ギャルゲの数は軽く50を超えている。そのため、この多すぎる数の中から何か一つを選ぶというのが、
とても困難な作業のように思えたのである。

男友達「っていうかギャルゲ以外のゲームはどこ行った??
昔やってたはずの『バイオハザード』や『サイレントヒル』シリーズが
全然見当たらないんだが…売ったのか?」

いや、むしろそれは今の自分には好都合かもしれないと彼は考えた。

男友達「神頼みで適当に一本引き抜けば…100%それはギャルゲってことなんだからな」

そう言って彼は目をつむる。そしてゲームコーナーに向かって適当に手を差し出し、
ここだというタイミングで一つのソフトを棚から抜き出した。

男友達「『あかね色に染まる坂 ぽーたぶる』か…パッケージを見る限りだと
日常学園ものっぽいな。少なくとも昨日のような怖い系ではないっぽい」

というわけで目的を達成した彼はすぐさま妹の部屋を後にし、
自室でPSPを起動させつつ説明書を眺めていた。

男友達「ん? このゲーム…」

そこで彼は、昨日とは別の意味でひどい衝撃に襲われることになる。

男友達「【妹】って攻略できるもんなのか!?」

男友達「だって説明書見る限り、【主人公】の【妹】である長瀬湊(ながせ みなと)
ってのがメイン格っぽいし、なんか攻略できるっぽいぞ…!?」

そこまで確認したところで、男友達は今までやったギャルゲのことを思い出す。

男友達「そりゃ今までだって【男友達】キャラの【妹】を攻略できるってのはあった。
『ときめきメモリアル』の早乙女美優とか、『さかあがりハリケーン』の綺羅凛とか…。
けど今回のこれはケースが違う。なんせ【主人公】の【妹】なんだ」

男友達が驚くのも無理はなかった。というのも実際に【妹】をもつ兄として、自分の【妹】を
そういう対象として見たことなど一度もなかったからである。そのため、【妹】を攻略する
という行い自体がとても信じがたいというか、何か遠くの世界の出来事を見るような感覚に襲われた。

男友達「…まぁいい。どういうゲームなのか、とりあえずプレイして確かめることにしよう」

※補足1。彼は思い違いをしている。今までやったギャルゲで【主人公】の【妹】を攻略できるものは
なかったと言うが、実際に『アマガミ』の【妹】キャラである美也にはルートが存在している。
ただし美也ルートの解放条件がかなり時間の要するものであるため、単にまだそれに気づいてないだけである。

※補足2。ギャルゲにおいて【主人公】の【妹】が攻略できるというのは、さして珍しいことではない。
ただしひとえに【妹】とはいっても、実妹だったり義妹だったり、
あるいはそのどちらとも明記されていなかったりと、子細はゲームによって異なる。

男友達「ええっと、このゲームの【主人公】は長瀬準一、【男友達】は西野冬彦っていうのか。
冬彦はこの手のゲームの【男友達】にしては、珍しくまともっぽい知的な雰囲気出してるな」

ところが、すぐにその認識は崩壊した。

西野冬彦『美少女妹に優しく起こして貰ったとても羨ましい準一、おはようございます』

男友達「!?」

朝の出会い頭にそんなことを言われる。

西野冬彦『僕的ランキングでもこの学校の中で妹オブ妹に輝いている湊ちゃんならば――』

男友達「僕的ランキング…? 妹オブ妹…?」

西野冬彦『属性妹というものは得てして甘美かつ強い需要があるものですからね』

男友達「……」

とりあえず彼は思った。こいつは『さかあがりハリケーン』の綺羅泰徳と勝負できる逸材かもしれないと。

そしてしばらくプレイを進めるうちに男友達は気づく。

男友達「このゲーム、確かに湊はメイン格ではあるが…許嫁を筆頭に
幼馴染、先輩、後輩、生徒会長等の他ヒロインもそれなりに目立ってるし、
特別妹ゲーというわけではないみたいだな」

あくまで標準的な日常学園ものなのだなと認識を改め、プレイを続行していく。

※とはいえ、『あかね色に染まる坂』は体裁としては、長瀬湊と片桐優姫のダブルヒロインと
見なされることが多い。それはパッケージの構図と、そもそも1週目は
この二人のどちらかでないと攻略できないという要素等に起因している。

男友達「さて、どうするか。個人的には片桐優姫ルートが気になるが…」

片桐優姫(かたぎり ゆうひ)とは許嫁ヒロインである。そして、そういうヒロインというのは元来、
押しかけ女房のように【主人公】キャラに好き好きアタックするのだという先入観が男友達にはあった。
ところが彼女はそれとは真逆で、むしろ長瀬準一にはきつくあたる、というのが彼には斬新に映っていたのである。

男友達「いや、けれど――」

そう言って長瀬湊寄りの選択肢に舵を切る。

男友達「キャラでいえば優姫なんだが、シナリオに関してとなると湊のほうが気になる…」

それには彼特有の事情が関係していた。

男友達「はっきり言って湊ルートは全く想像できないんだ」

これこそ最たる理由であった。

男友達「準一と湊の仲が良いっていうのは分かる。そして、ここまで甘い雰囲気になることはないにしても、
俺も妹とそれなりにフレンドリーな関係は築いてきた。だからこそ準一と湊が
今後恋愛沙汰に発展するんだとしたら、その過程が全く想像できないんだ…
ちょうど俺と妹がそんな関係に発展するわけがないのと同じで」

もちろん今自分がやってるのは、あくまでゲームの話であって現実の話ではない。それは分かっているのだが、
仮にゲームだったとしてもどういう整合性をつけてこの二人が付き合うことになるのか、
そのあたりのシナリオが純粋に読み手として彼は気になっていたのである。

男友達「少なくとも共通ルートを見る限りだと、湊が異性としての好意を兄に抱いているようには見えない…
だから個別ルートで心境の変化が描かれることになるんだろうか?」

それからはしばらく黙々とプレイし続け、そして数時間が経過した頃。

男友達「……」

男友達は湊ルートをクリアし終わり、エンディングのスタッフロールを静かに眺めている最中であった。

男友達「…良かったな」

彼は素直にそう感じていた。

男友達「湊の気持ちがとても丁寧につづられてて…
最後まで目が離せなかった。幸せそうな湊と準一が見れて俺は嬉しい」

そんな謎の達成感を抱きながらふと男友達は時計を見る。すでに夜の7時を迎えようとしていた。

男友達「!? いつ夜になったんだ? 俺は昼食すらまだ食べてないんだぞ…?」

昼食を忘れるほど、自分がこのゲームに没頭していたという事実に驚く男友達。

男友達「自覚したら急に腹減ってきた…早いとこ夕食作るとしよう」

1階の台所へ下りていき、彼は食事の準備をする。

男友達「妹には自分の分まで作らなくていいって言われたけど、どうするか…」

食材や料理器具を取り出し、オムライス等の調理に励む男友達。

男友達「万一のために作っとこう。要らないなら要らないで、あいつの分を俺が食べればいい」

……

そうしておよそ2時間が経った。すでに男友達は自分の分は平らげ、妹の帰りをリビングで待っていた。

男友達「…誤算だった。作りすぎてあいつの分までは食べれんかった…とりあえずサランラップかけとくか」

そのとき。男友達のスマホに着信が入った。

男友達「メールか。妹からか?」

しかし送信相手は妹ではなく主人公だった。そして以下のような内容だった。

『カラオケの途中で妹ちゃんが帰っちゃってさ…
そのまま家に帰ってればいいんだけど、一応このこと伝えとくよ』

男友達「なんだって…?」

用事があるので投稿を一時中断します。
夕方頃にまた再開しようと思います。

とりあえず男友達は気持ちを落ち着ける。主人公のメール文面を見る限り、
特に大事が発生したというわけではない。単に妹が勝手にカラオケ店を出たに過ぎない。

男友達「いや、待て。なんで勝手に出たりしたんだ? 主人公と何かあったのか…?」

ともかく今は理由はなんだっていい。男友達は家を飛び出し、最寄りの桜新町駅へ向かう。
なぜなら今日のデートは渋谷のセンター街に行くと妹に朝聞いていたから、
家に帰るつもりで店を出たのであれば、もうすぐこの町の駅に着く頃だと彼は踏んでいたからだ。

渋谷と桜新町間はおよそ10分で行き来できる。だからこそ逆に言えば、
どこかで寄り道しているのであればこの時間に駅に着いたりはしない。
その場合は…本格的に心配をしないといけなくなる。それを見極める必要があった。

…着くのに時間はかからなかった。駅の出入り口付近に設置されたサザエさん像を横目に、
地下鉄構内へ向かって彼は階段を駆け下りた。

男友達「そろそろ次の電車が着くか…」

改札口付近にて、男友達は人の通行の邪魔にならないよう待機していた。
スマホも見るが、妹からの連絡はいまだにない。すでに夜の9時をすぎていたため、
改札口を通り過ぎるのは少年少女というよりは大人ばかりである。

男友達「ん…?」

そしてその大人ばかりの集団の中に、一人の見知った少女を彼は見つけた。

妹「あ…」

向こうも改札口で待つ兄の存在に気づいたらしく、視線を兄に向け歩いてくる。
しかしその目元はどこか赤くなっているような…そんな感覚がした男友達だった。

妹「…待っててくれたんだ。主人公くんから連絡でも受けた?」

男友達「あぁ。そうだが…」

妹「そっか」

兄を素通りする妹。そして会話はそれ以上続かなかった。

男友達「……」

家に向かって歩く妹の後ろを静かについていく。正直言えば、『大丈夫か?』『何かあったのか?』等の言葉を
投げかけてあげたかったが、敢えて彼は口をつぐんだ。妹に話してくれる意思が全く感じられない以上、
今はそっとしておくべきだと考えたのである。

それから数分して自宅に着いた二人。相変わらず無言のままであったが、
妹が2階に上がる際、階段付近で立ち止まる。そして兄のほうは見ないまま、こう告げた。

妹「今週はさ…お兄ちゃんに家事全部やってもらっていいかな?
その代わり、来週はあたしが全部するからさ…」

男友達「…構わないぞ? というか代わりになんて言わず、しばらく俺がやってもいいが」

妹「さすがにそこまで甘えるつもりはないよ。あと…明日ズル休みするから」

男友達「…つらいか?」

妹「体は悪くないから安心して? 学校にもあたしが連絡するし、明後日からは必ず行くから…」

男友達「…分かった」

妹「じゃあ、そういうことで…」

そう言って階段を上って行こうとする妹。

男友達「…妹」

妹「? 何…?」

呼び止める兄。先ほどから妹の態度に対してずっと受け身を貫いていた彼だったが、
これだけは言っておきたかった。

男友達「今日さ、お前の分のオムライスも作ったんだ。
冷蔵庫に入れとくから…明日腹減ったらチンして食べてくれ」

妹「うん。分かった」

そして今度こそ妹は2階へ上がっていく。

男友達「……」

生気のない妹の様子に彼は悟った。明らかに、主人公と何かがあったのだと。
そしてその何かを、今メールや電話で主人公に確かめることもできたが彼はしなかった。
こういうことは直接会って、明日学校で、口頭で確認したほうがいいだろうと。

妹「……」

自分の部屋に入った妹は静かにベッドに腰掛ける。

妹「…今は。こういうのが聴きたい気分かな…」

スマホにイヤホンを挿し、耳に当てる。その画面には、
SEKAI NO OWARI『眠り姫』と表示されていたのであった。

……

男友達「主人公…」

翌日、彼は主人公を校舎裏へと呼んでいた。重い話になる予感がした…
それゆえ、人気のない場所を選定した。人の耳に入れるような話ではないと思ったから。

男友達「…昨日。何があったのか聞いてもいいか?」

主人公「うん。といっても…僕も何が起こったのかよく分かってないんだけど…」

男友達「とりあえず、朝会った頃から順に話してほしい」

主人公「…分かったよ」

――――――――――――――――――――――――――――――

妹「主人公くん、まだかなー…っ」

朝10時頃。渋谷駅モヤイ像付近にて、妹はそわそわしながら待っていた。
この場所で主人公と待ち合わせすることになっていたのである。

ふと妹は自分の衣服を眺める。

妹「…それなりにオシャレしてきたつもり。色も地味すぎず目立ちすぎず、
スカート丈も短すぎず長すぎずを意識してるけど、主人公くんはなんて反応してくれるかな」

妹は考えていた。もしこれが『ときめきメモリアル』ならば、
何かしら衣装についてのコメントをもらえるはずだよねと。

主人公「ゴメン! 遅れちゃったね」

妹「先輩!」

そして少しばかり遅れて主人公が到着する。なお、対面したということで、
妹は高校入学以降、主人公に対しては常にそうしてきたように敬語モードへと改める。

妹「もう…5分遅刻ですよ?」

主人公「ゴメンゴメン。目覚ましをかけ間違えてたみたいで。これでも急いでやってきたんだ」

妹「まぁいいですけど? けど、『ときメモ』だったらあたしの好感度落ちてるとこですよこれ」

主人公「とき…え? なんだって?」

妹「!? な、なんでもないんです! なんでも!」

やばいと妹は思った。先輩とのデートで浮かれてるせいか、思ってたことが
口に出てしまっていたと。次からは注意しようと固く心に誓うのであった。

妹「それで、えっと…どうです?」

主人公「?」

妹は両手を後ろに回し、体を少しひねってみる。衣服に気づいてほしいという彼女なりの合図だった。

主人公「あ、あぁ、服のこと? とても似合ってるよ。可愛いね」

妹(!! やった!)

些細なモーションでも気づいてもらえたことに妹は感激した。

主人公「というか…ずいぶん背も伸びたね? もしかして160cmあったりする?」

妹「は、はい。ってかちょうどそれくらいです」

主人公「そっか。以前と比べて大人っぽく見えたのはそのせいもあるんだね」

妹「大人っぽいですか!? どうもです…っ」

予想外の賛辞にニヤニヤせざるを得ない妹だった。とりあえず先輩からコメントをもらえたことで
好感度ゲージが上昇したのは間違いないと彼女は踏んだ。

妹「じゃあどうします? まずはセンター街のほう行ってみます?」

実は今日は、特にどこへ行くというのが事前に決まっていたわけではなかった。
適当にぶらぶらして、気に入った施設があれば入って楽しみましょう
といったデートの約束であったからだ。

主人公「その前に僕から提案があるんだけど。いいかな?」

妹「なんです?」

主人公「いや、妹ちゃんって高校入ってから口調変わっちゃったなって思って」

妹「口調…」

主人公「昔はタメ口だったから。別に丁寧口調じゃなくていいのになって」

妹「で、でも。こういう先輩後輩の上下関係って大事じゃないですか?
昔はあたしそういうの意識してなかったってだけで、やっぱちゃんとしなきゃって」

主人公「うーん…僕は妹ちゃんとの関係においては、そういうの気にしないんだけどな」

妹「……」

冷静に今の状況を妹は考える。これはもしや進展イベントなのではないかと。
だとしたら、このチャンスをふいにするのはもったいないと結論付け、
先輩・後輩上下論を簡単に葬り去ることを決めた妹だった。

妹「えっと…じゃあ昔通りの話し方でいいんですよね?」

主人公「うん」

妹「じゃあ…主人公くん。これでいい?」

主人公「いいね。昔に戻ったみたいだよ」

妹「…あたしも。確かに小・中学校の頃ってこんな感じだったかも」

妹は思った。過去施したフラグ構築が今になって活きてくるというのは、
なんか『ときメモ2』の転校する前のプレイを思い出しちゃうなと。

主人公「…妹ちゃん大丈夫? なんかボーっとしてるけど」

妹「え? あ、だ、大丈夫! 考え事とか何もしてないから!」

自分でも妹は分かっていた。この『ときメモ』脳はなんとかしないといけないと。
しかし人は変わろうとは思ってもそう簡単には変わらない。まったく、難儀なものだよねと。

その後、二人はセンター街をぶらぶらし、ウィンドウショッピングにしゃれ込むことにした。

妹「この帽子どう?」

主人公「いいね。似合ってる」

妹「さっきからそればっかり。本当にそう思ってます?」

主人公「嘘じゃないよ。本当にそう思ってるから言ってる」

妹「じゃあ二者択一で。イルカと星のペンダント、どっちが好き?」

主人公「うーん…星かな」

妹(ということは月やクロスみたいな無機物が好きなのかな主人公くんって)

主人公「しかし妹ちゃん飽きない? さっきから買わないで見て回るだけって」

妹「だってそれがウィンドウショッピングってもんだよ? このお店にはこういうのがあるんだー
ってのを確認する意味もあったり。次買い物くるとき便利だもんね」

主人公「あぁ、ちゃんと意味ある行動というわけだね」

もっともそれは建前で、こうやって主人公の好きなものを把握しておきたい
というのが妹にはあった。次デートするとき、主人公好みの格好をしていれば、
より好感度が上がってくれるかもという淡い期待も込めて。

その後、二人はファミリーレストランにて昼食をとり、再びセンター街へと繰り出す。
それから今度は百貨店エリアを歩き回り、夕方になってからはカラオケ店に腰を落ち着かせることにした。

主人公「歩き回った後のカラオケっていいかもね」

妹「うん。歌ってなくても休憩できるから」

主人公「休憩…ね。食事でも頼む?」

妹「それもいいんだけど、やっぱ来たからには歌ってみたいかなって…!」

主人公「そうだね。じゃあ妹ちゃんからでいいよ」

妹「では、満を持して――」

マイクを手に取り、自由気ままなカラオケタイムがスタートした。

妹「ありの~ままの~♪」

主人公「女々しくて女々しくて――」

妹「この取扱説明書をよく読んで♪」

主人公「I’m a perfect human.」

とにかく歌いまくった。

しばらく歌い通した後、二人はのどの渇きを癒すためドリンクを飲む。

主人公「かなり歌ったね」

妹「そうだね。…はっ」

主人公「? どうかした?」

妹「ううん、なんでもない」

そういえば勢いでここまで来てしまったが、よく考えたらさっきファミレスで昼食とったとき、
趣味や好きなタイプを聞きだせるチャンスだったのでは?と妹は悔やんだ。
『ときメモ』においても、食事シーンでは相手に情報を聞き出せるものだと相場が決まっているからだ。

妹(けどここはリアル。例えばこのカラオケだって『ときメモ』だと
せいぜい選択肢一つ選ぶくらいだけど、実際には今ここで
いろんな質問を主人公くんにすることができる…!)

と相変わらずの『ときメモ』脳であったが、
そんなことを考えている妹に主人公が話しかけてくる。

主人公「そういえばさ。妹ちゃんと遊ぶのも久々だけど、そもそも外でこうやって
遊ぶの自体珍しいよね。昔は遊ぶにしても家でゲームとかだったからさ」

妹「え? あ、うん」

とりあえず思考を一時中断し、主人公との会話に向き直る妹。

主人公「格ゲー、RPG、シューティング、ホラゲーとか
いろいろやってたよね。今も家でしてるの? バイオとか」

妹(い、言えない。今一番はまってるゲームのジャンルがギャルゲだなんて)

主人公「僕は最近ゲームしなくなったんだけど。けどたまにしたくなるときがあるっていうか」

妹「そうなの?」

主人公「うん。だからもし今やってないなら、『バイオハザード』や
『サイレントヒル』とか貸してくれたら嬉しいな、なんてね」

妹(い、言えない。それらのゲーム全部売っぱらって
PSPやvita以降のギャルゲ購入の資金にあてたなんて)

主人公「後は、『モンハン』で一緒にドラゴン狩ったりもしたっけ」

妹「そういうこともしたりしたね」

ふと妹は思った。昔話に花が咲いているではないかと。
これは話題の広がり具合によっては主人公の親密度を上げられるチャンスかもしれないと。

妹「主人公くんを、あたしがよく支援してあげたり」

主人公「足引っ張っちゃったね。けど僕が弱いというよりは、
妹ちゃんのプレイングがうますぎなんだと思うよ」

妹「いやー、それほどでも~」

なんだかんだでゲームの腕を褒められるのは嬉しい妹だった。

主人公「『マリオWii』で二人とも泡になってゲームオーバーなったりとか」

妹「うんうん、あったあった」

主人公「ネスをうまく使えず復帰できなかったりとか…」

妹「主人公くん、『スマブラ』でよく自滅してたもんね」

主人公「後は…『カービイWii』でも遊んだね。妹ちゃんからドロップアウトしたコピー能力を、
黄カービィの僕が誤って飲み込んで…しかも星として吐き出しちゃって――」

妹「……」

それにしても。確かに久々に二人っきりになったとはいえ、なぜ主人公はここまで
過去のことを話してくれるのだろうかと妹は疑問に思った。まさか――

妹(あたしに…気があったりするのかな? だからこうやって懸命に話題作りに勤しんで…?
今日出会ったときも大人っぽいって言ってくれたし、もしかしたら…)

そう考え、妹は少し踏み込んでみることにした。

妹「そうだよね。あたし、コピーなくなってスカでボスと戦うはめになったんだよ?」

主人公「悪いことしちゃったよね…」

妹「だからさ。その埋め合わせってわけじゃないけど、主人公くんに一つお願いしちゃおっかな」

そう言って妹は、カラオケ予約する際の小型機械を主人公のもとへ持ってくる。
その画面にはすでにタッチペンで操作しておいたのか、デュエット曲一覧が表示されている。

妹「二人で…歌ってみない? せっかくカラオケに来てるんだもんね」

主人公「構わないよ。って…、やっぱり男女のデュエットって恋愛ソングが多いんだね」

曲一覧を眺めながら主人公がそうつぶやく。

妹「こういう恋愛系を主人公くんと歌ってみるのもいいかな…なんて」

このとき。画面を二人して覗き込んでいたため、妹と主人公は密着するくらいに距離が近づいていた。

妹(あたし…今ドキドキしてる…)

程よい胸の高鳴りが妹には心地よかった。それゆえか…。
不意に、いつまでもこんな淡い時間が続けばいいなと思いもした。

――けれど。終わりというのも、また不意に訪れるのであった。

主人公「妹ちゃん。ありがとね」

妹「? どういたしまして?」

突然のお礼。はじめ、妹はこのお礼を『今日は一緒に遊べて嬉しかった。ありがとう』程度のようなものだと
捉えていた。しかし次の瞬間、その解釈が全くの見当違いであったことを妹は知ることになった。

主人公「今度、彼女とカラオケ来るときの良い参考になったなって」

妹「彼女…」

この単語が何を意味するのか。少なくとも、
代名詞としての彼女ではないことは文脈からも明らかのように思われた。

妹「ま、待って。えっと…」

目をつむっているわけでもないのに。妹は視界が真っ暗になるような感覚に襲われた。

妹「主人公くん…彼女いたんだ?」

主人公「うん。あ、そういえばまだ妹ちゃんには言ってなかったね」

妹「……」

動悸が速くなっていたものの、なんとかして次の言葉を妹は紡ぎだそうとした。

妹「…いつから付き合ってるの?」

いろいろ聞きたいことはあったが…とりあえず現段階で妹が一番気になる事柄はこれだった。
確かに自分は同じ学年ではなかったから、主人公の交友関係を逐一把握できたわけではない。

けれど自分には兄がいたから、仮に恋人ができたとなれば親友である兄が
それを耳にしないはずがないし、あたしもその情報を知っていたはずだと。

主人公「二日前だよ」

妹「…!」

妹は驚く。本当につい最近のことではないかと。そしてその日というのは確か――

妹「…女委員長さんと一緒に博物館に行った日だよね。もしかして彼女っていうのは…」

主人公「そうだよ。女委員長のこと。実はさ、あの後帰り道で告白されて。
よく考えたら可愛いよなって思って付き合うことにしたんだ」

それならば。少なくとも昨日に関しては主人公くんが兄に、彼女ができたことを言う時間があった
ということになる。けれど兄がそれを知らなかったということは、どういうわけか主人公くんが
伝えていなかったのだと妹は悟った。いや、今はそれは問題ではない。妹は次の一点を問い詰めたかった。

妹「彼女ができた翌日に…よくあたしの誘いを受ける気になったね」

主人公「ん? 何かおかしかったかな」

妹「…フリーのときとは違うんだよ? こんなの…
もし女委員長さんが知ったら浮気に映っちゃうかもしれないんだよ?」

主人公「浮気!? いや、僕にそんなつもりはないよ。妹ちゃんのことそういう目で見てたわけじゃ――」

妹「主人公くんがそう思ってたとしても、傍からはそう映っちゃうよねってことが言いたかったの」

主人公「そういうもんなのか…。って、妹ちゃん…
涙目になってるけど大丈夫? 具合でも悪いの?」

妹「…え」

妹は気づかなかった。自分は限りなく平静を装っていたつもりなのに、
ふと顔に手を当ててみると、うっすら涙らしきものがあふれていたことがそのとき分かった。

妹「……」

やばいと、直感で妹は思った。こんな情緒不安定な状態でこのままいたら、
何か主人公に醜態をさらしてしまう予感があった。だから最後に、
個人的に今自分が一番聞きたいことを尋ねて…妹はこの場を立ち去ろうと思った。

妹「…あたしは大丈夫。それより…聞かせて? 主人公くん…今日出会ったとき、
あたしのこと大人っぽいって言ってくれたじゃない?」

主人公「え? う、うん」

妹「それってあたしのこと…“女”として意識したわけじゃなかったんだよね?」

主人公「うん、そうだよ。そりゃ妹ちゃんは大人っぽくなったと思うし、美人で可愛いとも思ってる。
けど僕にとっては、妹ちゃんは可憐な【妹】のような感じっていうか…
だから変な目で見てたりなんてしてないから、そこは安心してほしいな」

妹「…そっか」

美人、可愛い、可憐…そんな言葉の羅列、今の妹にはどうでもよかった。
【妹】、その評価が全てだったから。だからこそ妹は思った。昔話に花を咲かせたのも
気になったとかじゃなく、単に【妹】扱いしてる子への自然体トークに過ぎなかったのだと。

舞い上がっていたのは自分だけだったのだと。

妹「主人公くん…」

そう言いながら妹は財布を開け、紙幣と硬貨を取り出す。

妹「これ…あたしのカラオケ代。それじゃ…っ」

主人公「え!? 妹ちゃん!?」

そして最後に。カバンを手に取り、ドアから出ようとしたところで…妹は声を振り絞って言った。
なるべくその顔が、主人公にとって笑顔に映ってますようにという願いを込めて。

妹「女委員長さんのこと…どうか大切にしてあげて。あたし…応援してるからね…っ!」

カラオケ店を飛び出した妹は、とりあえず家にまっすぐ帰ることにした。
…寄り道をしたくなかったわけではない。正しくは寄り道する気力さえ、
このときの妹にはなかったというだけである。

妹「…明るいよね渋谷って」

こんな時間でも渋谷の街は活気であふれており、その光景が妹にはまるで別世界のように映っていた。
そんな虚ろな気持ちを抱えた状態で、彼女は地下街へと下り…そのまま駅の地下鉄構内へと入る。
田園都市線のホームにたどり着いたのもすぐのことだった。

妹「ここでいっかな…」

ホームの一番端まで歩いた妹は…ようやくそこで立ち止まる。
端っこというのもあるが、座席スペースもなかったため、特にその箇所には人がいなかった。

いろんな感情が交錯してひどい顔をしているであろう今の自分を人に見られないためには、
その場所は彼女にはうってつけだった。

妹「…バカみたい」

率直な感想だった。今日の自分を振り返って、改めて妹はそう思った。服へのコメントを
もらえるチャンスだの、好感度や親密度が上がっただの、情報を聞き出せる絶好ポイントだの…

何もかも見当はずれだった。現実はゲームのように進行するものではなかった。

妹「知ってるよそんなこと…っ」

現実とゲームは違う。そんなのは当たり前のことである。けれど、いざそれを
目の当たりにすると…まざまざと思い知らされた。ひどいと思った。…この状況を。

妹「……」

以前、自分は兄にこう言ったことがある。【男友達】ポジションの一つとして道化役を演じること、と。
ギャルゲにおいてはストーリー進行を円滑にする上での、常套手段の一つだと。

それがどうだ? ふたを開けてみれば今の自分こそ、それ以下のポジションではないかと。
すでに主人公には彼女がいるにもかかわらず、彼の好感度が上がったの何だの一人で騒ぐ。
滑稽すぎた。自分がこうなるなんて、妹は今日このときまで思いもしなかった。
無残としか言いようがなかった。

妹「でも、主人公くんは何も悪くない…」

そもそも。今日誘ったのは自分のほうである。たとえ傍から見れば浮気だったとしても、
本人はただ妹のお願いを受け入れただけ。むしろ彼女がいるにもかかわらず、
自分のために時間を割いてくれた主人公には感謝こそすれど、彼を責めていい理由などどこにもない。

…電車が来る。ただしそれは急行だったので妹はスルーすることにした。
桜新町には各駅停車でないと停まらないからである。

妹「…ってかあたし、嘘つきじゃん」

ホームから出発した急行電車を見送りながら、妹はそうつぶやく。以前、兄とこんな会話をした。

男友達『あぁ。だって、お前の好意に気づかないまま主人公が他の子と付き合いだす可能性もあるんだぞ?
それか、好意に気づいた上でお前を選ばない可能性だって』

妹『知ってる。そのときはあきらめる』

男友達『…潔いな』

妹『主人公くんの矢印があたしに向いてないんじゃね。
そんな一方通行状態で無理に付き合おうとしても、ダメなことくらい分かってる』

……

妹「今こうやって動揺してるくせに…何言ってんだよあたし…っ」

限界だった。これ以上、涙を我慢できそうにはなかった。壁にもたれながら、妹は静かに泣き出す。

妹「…もし。女委員長さんより先に告白していたら…。また変わってたのかな…」

いろいろ御託を並べて、告白は後回しでいいといった内容のことを、妹は兄に言ったことがあった。
今付き合ったら他の子に後でなびいちゃうんじゃないか、後から付き合ったほうが長く続くんじゃないか等。
けれど今更ながら考えると、あれらの理由も全ては告白に踏み切れない自分の勇気のなさを
正当化したかっただけなのではと。ただの言い訳だったのではと。

妹「…もう遅い」

と、そこまで考えたところで妹はどうでもよくなった。仮にそうだったとしても、
もうどうにもならないからである。現実にはセーブポイントなど存在しない。
都合が悪くなったからといって、そこからロードすることは叶わない。

ゲームと違って、現実はやり直すことなんてできない。

…いや、もしかしたらやり直せるのかもしれない。今の状態で主人公が妹に
なびく可能性もあるのかもしれない。けれど妹は、その可能性は限りなくゼロに近いと感じていた。

徹底した主人公の自分に対する【妹】扱い…
それを今日のデートを通じて痛感したから。そんなステレオタイプがそうそう覆るとは思えないし、
何より今付き合っている女委員長を、自分が横槍を入れることで不幸にしたくなかった。

妹「もうすぐ次の電車が来そうかな…」

各駅停車の到着時刻が迫っていた。

…ふと妹は思った。今頃一人残された主人公くんは何をしているのだろうと。
優しい彼のことだから、大方このことを兄に連絡しているかもしれない。
そうならば、心配した兄が駅であたしのことを待っているかもしれないと。

妹「だったら…こんな顔見せられないよ…っ」

だからこそ妹は決意した。今のうちに泣けるだけ泣いておこうと。
そうすればきっと、兄と会うときまでには涙声も解消されているはずだと。

必要以上に心配かけることもないはずだよね…と。

妹「…あ、あぁ…っ!!」

そして人が見ていない駅のホームの端っこで。一人の少女の涙腺が決壊した。

……

それから後のことは妹もよく覚えていなかった。各駅停車に乗って、駅に着いて、兄と会って、家に着いて…
気づけば自分の部屋で音楽を聴いていた。ただそれだけだった。

――――――――――――――――――――――――――――――

主人公「…ということがあってね」

昨日主人公が駅前で妹と会い、そしてカラオケ店で別れるまでの一部始終を聞き終えた男友達。

男友達「……」

男友達「おい」

主人公「!? ちょ…!?」

信じられないといった顔をする主人公。それもそのはず、なぜなら胸ぐらをつかまれていたから。

男友達「答えろ。お前…なんで一昨日、彼女ができたってこと俺に話さなかった?」

男友達にとってもっともな疑問だった。その情報を少しでも早く知っていたならば…
昨日、妹をこんなつらい目には遭わせなかったと。彼女がいることを妹も知っていたなら、
きっとデートを計画することもなかったはずなのだと。

主人公「なんでって…話し忘れてたってだけじゃないか…! というか彼女ができたからといって、
それを男友達に即刻話さなきゃいけない道理もないと思うんだけど」

それは主人公にとってももっともな意見だった。なぜすぐに話さなかった?というのは
あくまで男友達の兄としての個人的事情にすぎないからである。

主人公「あのときは僕…男友達に妹ちゃんのことを相談してたろ?
だからそれで頭がいっぱいで、女委員長のことまでは浮かばなかったというか…」

男友達「…じゃあ聞くが。お前は彼女ができた翌日に、
他の女のことで頭がいっぱいになってたってことか?」

主人公「何が言いたのか分かんないけど…それとこれとは関係ないだろ?
女委員長っていう彼女がいる一方で、僕は妹ちゃんとも良好な関係を維持しようと努めただけなんだ!」

男友達「…そうか」

悪意のない人間を責めても、これ以上どうにもならない…そう感じた男友達は
手を主人公の胸ぐらから放した。こいつは別に、キープしようとしてやっているわけではないのだと…。

男友達「…もう一つ聞かせてくれ。今でもお前は妹のことを、
【妹】のような存在として見ている…そうなんだよな?」

主人公「そうだよ? まあそんなことを実の兄の前で言うのもどうかと思うけど…」

男友達「お前の気持ちは分かった」

そう言って男友達は後ろを振り向く。

男友達「さっき胸ぐらつかんだのはすまんかった…。うまく言えんが、
今の俺はどうかしてる。だから家帰って頭冷やすことにするよ…」

主人公「お、おう…?」

ぽかーんとした表情の主人公を後目に、男友達はそのまま家へと帰宅したのであった。

男友達「…妹はどうしてるんだろうか。さすがに昼食はとってるよな…?」

そこまで重症ではないことを祈りつつ、男友達は妹の部屋をノックする。

妹「お兄ちゃん? いいよ、入っても」

男友達「…失礼するぞ」

部屋に入る男友達。妹のほうを見ると、ちょうどベッドに寝っ転がり、漫画を読んでいるようだった。

男友達「何読んでるんだ?」

妹「『斉木楠雄のΨ難』。見てこれ、燃堂が予告ホームランするシーンが超面白くてさー♪」

そう言って19巻を兄に提示してくる妹。

男友達「好きなんだな」

妹「そりゃそうだよ! 単行本持ってるくらいだし♪」

男友達「…無理するなよ」

妹「え」

男友達「そうやって無理にテンション上げようとしてんだろ? …なんとなく俺には分かるよ」

妹「あー…お兄ちゃんにはバレバレだった?」

19巻を枕元に置き、体勢を起こして兄に向き直る妹。

男友達「…ギャグ漫画を読むのが、こういうときのお前の対処法なのか?」

妹「そうだね。笑いって人を元気にしてくれるし」

斉木だけでなく『左門くんはサモナー』にしてもそうだが、
なぜギャルゲやラブコメ漫画好きな妹がギャグ漫画を?と男友達は以前から疑問に思っていたけれど。
もしかしたら気持ちが沈んだとき用に買ってる、というのもあるのかもしれないと彼は思った。

男友達「…けど、まだ時間はかかりそうって感じか」

妹「うん。あ、学校には明日ちゃんと行くから、そこは心配しないで?
それとさっき言ったシーンが面白いってのは本当だからね?」

男友達「あぁ。分かったよ」

妹「…ねぇ。もしかして、主人公くんから昨日の事情でも聞いた?」

男友達「どうしてそう思う?」

妹「お兄ちゃんならそうするかなって思ってさ」

男友達「…当たりだ。粗方聞いてきた」

妹「そっか」

妹「…聞いてどう思った?」

それはストレートすぎる質問だった。

男友達「…いろいろ思った。複雑にもなった。けど、俺が一番思ったのは――」

妹が座るベッドの横に腰掛け、その頭に静かに手を置いた。

男友達「つらかったろ…」

妹「…っ!」

次の瞬間、妹はその手を払いのけていた。

妹「ちょっと…こんなタイミングで優しくしないでくれるかな…」

男友達「す、すまん。今のはデリカシーがなかったか…」

妹「そうじゃなくて。そんなことされたら甘えたくなっちゃうじゃん…」

兄の前では泣きたくないと昨夜決めた妹にとっては。
涙腺が緩みそうな行為を、ただしてほしくなかっただけなのである。

妹「でもね? こうするんならいいかも」

そう言って妹は横に座っていた兄のほうに、静かに体を寄せる。
妹の頭が兄の肩にこつんと当たる格好となっていた。

妹「しばらくこうさせて?」

男友達「…あぁ」

妹のささやかな願いを受け入れ、兄は目をつむる。

……

それから5分ほどが過ぎた頃だったろうか。妹が口を開いた。

妹「リアルって難しいね」

男友達「……」

兄は無言のまま、妹の次の言葉を待った。

妹「当たり前のことではあるんだけど。ゲームのように思い通りにはいかないなって…」

男友達「…そういえば以前もそんな話をしたな」

妹「…そうだっけ?」

男友達「いつだったか、ギャルゲと漫画の話したろ。それで俺が、
ギャルゲのが【主人公】を操作できて思い通りになるって言ったりな」

妹「…そんな話もしたね。確かそれ、漫画は漫画で良いこともあるってあたし言った気する。
読者の思い通りにならないからこそ、逆に予想のし甲斐があるんだって」

男友達「言ってたな」

妹「そう考えると、今のあたしも同じだね」

男友達「…どういうことだ?」

妹「リアルってのは思い通りにならないからこそ面白い…なんてね。そんな感じに自分を慰めてみたり」

男友達「…っ」

ニヒルな笑みを浮かべる妹に、思わず兄は衝動的に言いそうになった。
『だったら俺が思い通りになるよう、主人公に働きかけてやろうか?』と。

しかし――

妹「…ダメだよお兄ちゃん」

その言葉は、妹の突然の否定によって打ち消された。

男友達「妹…なんで俺が考えてることを…」

妹「うん。実はね、お兄ちゃんが主人公くんから話を聞いたって知ったときから、
すでに思ってたんだ。そんなこと考えてたんじゃないかって」

男友達「……」

妹「お兄ちゃん優しいから。けど、ダメ」

男友達「…理由を聞いてもいいか?」

妹「女委員長さんのほうがあたしより先に告白した。それが全て」

『それが全て』、その箇所を強調して言う妹だった。

妹「告白するってね? とても勇気がいることなの。たぶん女委員長さんも…
相当頑張ったんじゃないかな。少なくとも、今まで告白しなくてもいい理由を
あれやこれやと屁理屈並べてた、そんなあたしの何倍も」

男友達「だから…今の主人公と女委員長の関係を壊してはいけない…そういうことか?」

妹「…うん」

重い頷きだった。そしてそれに、兄は何も言えなくなってしまった。

男友達「…お前の気持ちは分かった。けど…その上で聞きたい。俺にできることは何かないか?」

妹「それならすでにやってるじゃん。こうやってお兄ちゃんに寄り添ってるのってね、すごく安心するんだ…」

男友達「そうか…」

妹がそう思ってくれているのならということで、兄は自分を納得させることにした。

妹「あ。できることなら他にもあるかも」

何かを思いついたように妹は立ち上がり、そして兄に向き直って言う。

妹「料理。お兄ちゃんの作るの好きだし、これからもごちそうして?」

男友達「…そんくらいなら、いくらでも作ってやるよ」

妹「マジ? そういえば…昨日作ってくれたオムライスのお礼、
まだ言ってなかったね。ありがと♪ ちゃんと食べたよ」

男友達「おお。一応食事はとったんだな…よかった」

妹「それでさ。もしかしてお兄ちゃんも昨日オムライス食べたの?」

男友達「そうだぞ」

妹「じゃあ二日続けて卵料理ってのはアレだから…今日は和食あたりで攻めてみよっかな」

男友達「ん? 今日はお前が作るのか?」

妹「そうだけど?」

男友達「…昨日、今週の家事は俺がするってなってなかったか」

妹「そうだっけ。でもね、あたしはもう回復したから大丈夫」

男友達「…本当か? 無理してないか?」

妹「疑い深いね? 大丈夫だよ。そりゃ、主人公くんへの気持ちに
整理をつけられたかっていうとまだ。けど日常生活に支障ないくらいには」

男友達「そういうことなら、まぁ…」

妹「ってかむしろさせて。部屋でじっとしてると良くないこと考えちゃうから。
動いてたほうがそういうのも忘れられるもの。ってことで今日は魚料理でいい?」

男友達「あぁ。期待してる」

妹「じゃあ今から作るから待っててね~♪」

そう言って部屋を出ていこうとしたが、ドアノブに手をかけたところで妹は再度振り向いた。

妹「…寄り添って分かったけど。お兄ちゃんってたくましい体してるね」

そして今度こそ部屋から出ていく妹だった。

男友達「そりゃ元・体育会系だからな」

その言葉を最後に、男友達も同様に廊下に出て、自室へと戻る。

男友達「……」

ベッドに腰掛け、考える。そしてしばらくして彼は一つの結論に達した。それは――

男友達「…やっぱり納得できねぇ」

妹には『分かった』と言った手前、申し訳ないとも思ったが…
やはりこればかりは簡単に割り切れるものではなかった。

男友達「いくら女委員長が妹より告白したのが早かったからって…それだけだろ?
今までの積み重ねで言うなら、妹のがずっと頑張ってたはずだぞ…?」

小学校以来、主人公に想いをよせる妹をずっと見てきた兄にとっては、
そう簡単に『はい、そうですか』とあきらめられるものでもなかった。何より――

男友達「主人公がこの期に及んで妹の好意に気づいてないってのが、もうやるせない…」

男友達「…もし」

彼は空想する。

男友達「この世界がゲームだったら…。そしたら、俺がプレイヤーとして主人公を操作して…
妹ルートに向かわせる。ましてや妹の好意に気づかないなんて、絶対にさせるかよ」

その内容は、清々しいまでにバカげた夢想だと言えた。魔法や超能力を使って
相手をどうにかするのと同義であるくらい狂った発想である。

男友達「…はぁ」

自暴自棄ぶりに嘆息していたところ、ふと男友達は妹の言葉を思い出した。
漫画等のラブコメ作品というのは、概ねギャルゲと違って思い通りにはいかないのだということを。

男友達「ゲームのようにラブコメ主人公は操作できない…か…」

まだ自分が知らない無数のラブコメ作品でさえそうなのである。ましてや作品ですらない現実…
妹や主人公のリアルが思い通りにならないのは当然のことのように思わされた。

男友達「…そもそも。妹自身にすでにダメ出し喰らってんだ。俺がかき乱すことを妹は望んでない…。
だったら、主人公を操作できたらとかいう俺のくだらん未練も断ち切らんとダメなんだ…」

断ち切るにはどうしたらいいか。

その解決法は、妹と主人公以外の…もう一人の当事者の想いを確かめる他にないと男友達は判断した。
そうすればきっと、妹の言った言葉…『女委員長さんのほうがあたしより先に告白した。それが全て』に
自分なりの答えを見出せそうだったから。

翌日の昼休み。

男友達「女委員長…ちょっといいか?」

女委員長「男友達くん? 何か用事?」

主人公がトイレに行っている間を見計らって、男友達は女委員長を呼び出す。

男友達「教室で話すにはちょっとアレだから…廊下に来てくれないか」

女委員長「構わないけどアレって? はっ! まさか…」

男友達「どうした」

女委員長「もしかして主人公から私を略奪しようとしてる!?」

男友達「その噂まだ続いてんのか…だから略奪愛には興味ないっつーの」

とにかく誤解を解き、二人は廊下へと出る。

女委員長「それで何? 男友達くんが私と二人で話って珍しいね」

男友達「主人公のことで聞きたいことがあって」

女委員長「えぇ!? やっぱり略奪…」

男友達「だから違うって。あいつの親友としてさ…お前らの恋愛事情が気になるんだよ」

女委員長「気になる? なんで?」

男友達「ええっと、何かあったとき、俺があいつにアドバイスできることもあるかもしれないなって…」

女委員長「あぁ! つまり主人公の保護者的なことを
男友達くんはやろうとしてんのね。感心感心、さすが親友!」

とはいえ、このとき男友達は…自分を主人公の親友だと言える資格はないような気がしていた。
昨日、妹の兄という個人的事情だけで主人公に憤っただけに尚更である。

女委員長「いいわよ。けどやっぱ自分の恋愛話するのは恥ずかしいわね…
場所移動していい? ここって人の目あるし」

そういうわけでさらに場所を移す二人。しばらく歩き、普段人が来ない旧校舎1階へと移動する。

女委員長「ここならいいかな…。で、恋愛って言うけど
具体的にどんなことが聞きたいの? あんまり恥ずかしいのはやめてよね」

男友達「…単刀直入に聞きたい。あいつのどんなところが好きになったんだ?」

女委員長「いきなり直球なのが来たわね…。そうね、一言では言い表せないけど…
良くも悪くも純粋なところに惹かれたってとこかしら」

男友達「良くも悪くも純粋…?」

女委員長「ごめんなさい、分かりにくかったよね。真っ白なキャンバスっていうか」

男友達「もっと分からなくなったぞ」

女委員長「ああ、もう! じゃあ砂が水を吸収するように、
新しいことをそのまま受け入れる子どものような性格ってのはどうかしら!?」

男友達「…つまり子どものような性格が可愛いってことか?」

女委員長「それ! 斬新なのよ。だってそうじゃない? この年齢になってくると私らって
常に先入観で物事見たりするじゃない。けどあいつは、そんなんじゃないでしょ?」

男友達「なんとなく言いたいことは分かった気がする」

女委員長「博物館に行ったときもね。展示品を見たとき、まるで子どもが目をキラキラさせるように
興味もってくれるの。それで思ったの。こういう先入観なしの、ありままの気持ちを…
私も彼と一緒に共有したいなって」

男友達「…だから告白したってことか?」

しかし次の瞬間、男友達にとって予想外の答えが返ってくる。

女委員長「それはあるわ。けど、元々小学校のときから彼のことは気になってたというか」

男友達「…なんだと」

それを聞いて男友達はびっくりした。昔から思い続けていたのは妹だけではなかったのかと。

女委員長「といっても好意を持ってたわけじゃないわよ? あくまで気になる男の子ってだけ」

男友達「気になる男の子か…」

女委員長「うん。私って…自分では自覚ないけど優等生っぽく見えるとこが
昔からあったらしくて。だからクラス委員とかに推薦されることも多かった」

男友達「ん? あ、あぁ」

主人公の話かと思いきや急に女委員長自身の話になっていたが、
男友達は黙って続きを聞くことにした。

女委員長「だからプレッシャーがあった。
自分はそんなふうに振舞わないといけないんだって。今だってそう」

主人公「クラスの役職だけじゃなく、吹奏楽部の次期部長にも任命されてたんだっけ確か」

そんな話を以前男友達は聞いたことがある。クラス担任から部活のことで
『部長就任おめでとう』と彼女が言われていたことを思い出したのだった。

女委員長「そ。だからそんな私にとっては主人公のマイペースさが
昔からまぶしく映ってたし、憎たらしくもあったわ」

男友達「……」

なるほど、そこで主人公の話とつながるわけかと男友達は納得した。

女委員長「だからボーっとしてるあいつに私がムカついて喝入れたりとか…
そういう場面、男友達くんも今まで何度も見てきたでしょ?」

男友達「あぁ。つい最近の博物館に行く日もそうだった」

女委員長「でも…思ったの。私、嫉妬してたのかなって。あいつは私の持ってないものを
持ってる気がして。一緒にいたら、私はこう振舞わなきゃいけないっていう束縛感からも
解放してくれるような気がして。…もしかしたら自分で気づいてなかっただけで、
昔から好意はあったのかもしれないわね?」

男友達「…そうだったのか」

まさか主人公の抜けた性格が周囲にそんな影響を及ぼしていたとは、
男友達はただただ驚くばかりだった。

男友達「それで、やっぱり…告白するときは緊張したか?」

女委員長「当たり前でしょ!? 心臓バクバクしてたし。けど博物館に行った後、
なんか良い雰囲気だったから、するならここしかないと思って…死ぬ気で言ってみたの。
受け入れてくれて本当によかったけどね…振られたらどうにかなりそうって思ってたから…」

男友達「…そっか。もう結構だ」

彼は話を切り上げることにした。

女委員長「もういいの?」

男友達「あぁ。お前たちの関係は十分すぎるほど把握した」

女委員長「私と主人公の間に何かあったとき、あいつのこと助けられそう?」

男友達「たぶんな」

教室に帰っていく男友達。それから時刻は放課後となり、彼は自宅へ向けて下校していた。

男友達「……」

その最中。『女委員長さんのほうがあたしより先に告白した。それが全て』
という妹の言葉が頭の中を反芻していた。

男友達「そうなのかもしれないな…」

率直に彼はそう思った。女委員長が主人公を好きなった理由や、それまでの過程を聞いたことで…
妹のそれまでの積み重ねと比較しても、両者の気持ちに優劣など付けられないと思ったからだ。

それならば結局、妹の言った通り告白のタイミングが決め手になったという理屈も、
なんとなく受け入れられそうだった。

男友達「もう今の女委員長との関係を壊そうなんて俺は思わない。
主人公を操作云々の未練も消えた。だが――」

困った事態が発生した。今の男友達に、それとは別の未練が沸き起こっていたのである。

男友達「今度は女委員長のことが心配になってきたぞ…。
主人公のあんな性格で、これからも大丈夫なのか…?」

懸念はまさにそれだった。

男友達「女委員長があいつに対して言った『良くも悪くも純粋』ってのは、まさに言い得て妙なんだ」

確かに主人公の純粋無垢なところは人を惹きつける。魅力的に映ることもあるのだろう。

けれど悪い部分に目を向けたらどうなるか。今後もやつが女委員長の神経を逆なでしたり、
好意を無意識のうちにないがしろにすることは容易に起こりうるのではないか。

男友達「辛口評価になるが…主人公の難点を挙げるならこの3点だよな…」

1.人の好意に鈍感である
2.人を無意識のうちに傷つける
3.キープと見なされかねない行為を平然とする

とはいえ、これらが異常な性質というわけでもない。
実際、男友達も2に関しては当てはまるかもしれないと思ったからである。
けれど、3点全てが合わさっている人間となると限られてくるのではないかと。

男友達「……」

順番に分析していく男友達。まず1に関してはそこまで心配してなかった。
というか、すでに主人公と女委員長は両想いで互いの想いを確認済みなのであるから、
妹のときみたいなすれ違い悲劇は起こらないはずだと。

男友達「2と3はありえそうだよな…」

例えば女委員長の気づかいに全然気づかなかったり、本人に悪気はなくとも彼女を怒らせる物言いをする等々。

だがしかし、そこまで考えて男友達は思った。こういうのはあくまで当人たちの
問題であって、第三者である自分が介入してもお節介どころか迷惑なのではないかと。

男友達「いや、けれど…」

『私と主人公の間に何かあったとき、あいつのこと助けられそう?』というお願いを
女委員長から受けたばかりだし、何よりあのまま主人公の難点を放置しておくというのは、
友達としてどうかと思ったのである。

男友達「ただヘラヘラ笑って迎合するだけが友達じゃないよな…
指摘すべきところはちゃんと指摘しないと…」

…仮に。妹が言っていたギャルゲの【男友達】ポジションとしての役割がまだ活きているのならば。
今の自分にできるのは、もうそれくらいしかないと彼は考えていたのである。

男友達「困った」

だが、そこまで考えたはいいものの、具体的にはどうすればいいのかという袋小路に男友達ははまっていた。

男友達「直接指摘しても…それじゃ意味がない」

それをしたところで、一時的には守るかもしれないが…のど元過ぎればまた同じことを
繰り返すだろうと男友達は考えた。結局は友達に言われたから仕方なく配慮しただけであって、
自ら心の底からやめようと思わない限り、根本的な改善にはつながらないのだと。

男友達「そのためにはあいつが自ら己の難点に気づく必要があるんだが…
一体どうすれば気づかせられる…?」

間接的に働きかけることほど難しいものはないと男友達は痛感していた。具体的にどうやって?と。
…そしてそれから数時間後、彼は帰宅することとなる。

男友達「ただいまー」

妹「おかえり。今日は遅かったね? もう夕飯の準備進めてるよ」

エプロン姿で廊下へ姿を現す妹。ちなみに帰りが遅れたのは、公園や広場に寄り道して、
主人公に気づかせるための具体的方法をベンチに座りながら模索していたからである。

しかし、結局そこまでしても男友達は有効な手段を見出せずにいた。

妹「今日は肉料理だから。楽しみにしててね♪」

男友達「そうか。腹すかして待ってる」

2階に上がり、自分の部屋へと入る。そしてベッドへと男友達は倒れこむ。

男友達「さっきの明るい妹の様子見ると、だいぶ回復してきたのか…? そうだといいんだが」

そうつぶやきながら、ふと彼は机のほうを眺める。
『あかね色に染まる坂 ぽーたぶる』のソフトが置きっぱなしになっていたことに気づいた。

男友達「やばい。いろいろあって忘れてたが、そういえばこのソフト
まだ妹に返してなかった。というか、借りたことすら言ってなかった…」

なんということだと思いながら、そのソフトを手に取り
妹に謝罪しに行こうかと考えていた、そのときだった。

男友達「…待てよ」

彼は、某名探偵がひらめいたとき、頭にレーザーが貫通するような感覚に襲われた。

男友達「確か主人公のやつ…妹のことはずっと【妹】のようにしか見てなかったと言ってたな…」

男友達「…何を考えてるんだ俺は?」

彼は戦慄した。なぜなら、ふと思いついた具体的方策は、客観的にあまりにクレイジーすぎるものだったからだ。

男友達「いや…この際、世間体なんかどうでもいい。
これしか有効な方法が思いつかないのなら、もうそれに賭けるしかない」

覚悟を決めた男友達は、そのソフトを妹のもとへは持っていかず、
それどころか自分の学校カバンへと入れてしまっていた。

……

翌日の昼休み。

男友達「主人公。大事な話がある。来てくれないか?」

主人公「いいけど、どうしたの? …妹ちゃんのこと?」

男友達「いや、今日は妹は関係ない」

そう言って校舎裏へと主人公を連れ出す男友達。
今から出す話題は、どうしても人目のある場所でははばかられたからである。

男友達「…主人公。お前、確かPSP持ってたよな。今も持ってるか?」

主人公「え? う、うん。今も売らずに持ってるけど」

男友達「それなら話は早い。主人公…俺と取り引きをしよう」

主人公「取り引き??」

男友達「あぁ。お前の時間をよこせ。その代わり、お前は至高の娯楽を享受できる」

主人公「何を言ってるのかさっぱりなんだけど…」

男友達「前置きが長くなったな。つまりこういうことだ」

そう言って男友達はカバンから『あかね色に染まる坂 ぽーたぶる』を取り出し、それを主人公に提示する。

主人公「!? これって…」

男友達「そうだ。パッケージ見ても分かる通りギャルゲってやつだ。
これを時間をかけてプレイしてほしい…。後悔はさせない。
きっとその費やした時間に匹敵、いや、それ以上の楽しさをお前は味わえるはずなんだ…!」

やってしまった。もう引き返せない。男友達は改めて覚悟を決める。

主人公「ま、待ってよ!? 急に言われても…というか男友達ってこういうのやる趣味あったの?」

男友達「あぁ…。実はそうなんだ」

主人公「いや、まあ、趣味は千差万別だし否定しようとは思わないけど…僕がやるっていうのは正直…」

男友達「抵抗があるか?」

主人公「それもそうだし、今リアル彼女がいるのにギャルゲをやれって言われても…」

確かにそうだなと男友達は他人事のように思った。
今までギャルゲのギの文字も触れたことのないような一般人に突然見せるだけでもアレなのに、
ましてやつい最近彼女ができたばかりの人間にギャルゲをやれというのは無謀そのものだ。

男友達「……」

プレイさせるのは実質不可能のように思われた。だが、それはあくまで常識的な範囲内で
交渉している場合に限る。恥も外聞もかなぐり捨てた今の男友達にとって、
今の段階で不可能と断じるのはただの言い訳のように思えた。

というわけで彼は最終手段に訴えた。

主人公「な!? お、おい…男友達? 何やってんだお前…??」

男友達「…本当にな。面白いんだ。頼む…お願いだからプレイしてくれ…っ」

男友達は主人公に土下座した。

主人公「とりあえず顔上げてくれよ!? こんな真似やめてくれ!」

男友達「そうはいかない。俺は…本気なんだ…」

主人公「…なんというか、今僕は凄くびっくりしてるよ…」

目を大きくしながら主人公は言葉を続ける。

主人公「土下座もだけど…何より男友達が僕に頼み事をするってのがね…。
僕がわがまま言うことはあっても、逆はあまりなかったはずだから…」

男友達「…それくらい本気ってことだ」

主人公「男友達…」

それから数秒して。主人公は意を決したように口を開いた。

主人公「…分かった。そのギャルゲってのをプレイしてみよう」

男友達「!! 本当か…!?」

主人公「うん。だから…もう顔を上げてくれるかな」

主人公の要請を受け、男友達は静かに立ち上がる。

主人公「ただし…いつプレイし終えるかは分かんないよ? それでもいいのなら」

男友達「全然構わない。お前が手に取ってくれただけでも…俺は嬉しいんだ」

主人公「そんなに土下座してまで薦められたらね…逆に気になってしまうってもんだよ」

男友達「そうか。ともかく…ありがとう主人公」

自分のすべきことは終わったと男友達は思った。
あとは気づくかどうかは…主人公のプレイングに任せることにしたのだった。

……

都内の中古ショップとスーパーに立ち寄り、その後男友達は帰宅する。

男友達「ただいま」

妹「おかえり…。ちょっと! 今日も帰ってくるの遅くない?
今日は料理当番、お兄ちゃんなんだけど忘れてる??」

男友達「そんなわけないだろう。証拠にほら」

スーパーで買ってきた食材を見せつける。

男友達「今から至急お好み焼き作るからな。待っててくれ」

妹「いいね! じゃあ待ってるよ。お腹すいたぁ…」

妹は1階の居間でテレビを見ている。チャンスだと思い、兄は自分のカバンを
2階の自室に持っていく振りをしながら、こそっと妹の部屋に侵入する。

男友達「また勝手に侵入してしまった…すまん。けど、これで最後にする」

そう言って彼は、カバンから中古ショップで購入した『あかね色に染まる坂 ぽーたぶる』を取り出す。
このソフトは、妹から借りて主人公に貸したものとは全くの別物である。

男友達「なかなか無いもんだよな…。そのせいで都内の中古ショップを
歩き回るはめになって、帰りが遅くなってしまった…」

ともかくそのソフトをゲームコーナーの棚に補充する兄。

男友達「主人公がいつプレイし終えるか分からんからな。さすがに長期に棚から抜けてたら
妹も無いのに気づくだろうし…。もし気づいたとして、俺の部屋にもソフトがないってなると
『どこにやった?』って話になる。だからこうするしかなかったんだ…」

幸い、中古といっても外装は綺麗であるからおそらくバレないだろうと踏んだ兄であった。

妹「お兄ちゃん!? 料理しないでどこ行ったのぉー…」

1階から亡霊のような悲痛な叫びが聞こえてくる。よほどお腹がすいていたらしい。

男友達「今行くから! それまで生きつないでくれ」

自室に戻った後、急いで調理の準備を始める兄であった。

妹「おいしい♪」

男友達「喜んでくれて何よりだ」

妹「ねぇ。お兄ちゃんって主夫でも目指してんの? やけに女子力高いよね?」

男友達「何を言い出すかと思えば。両親不在だから勝手に家事力が上がっただけだし…
料理に関してはお前のほうが上手だからな。昨日のすき焼きも見事だったし」

妹「褒めても何も出ないよ? いや、ギャルゲを出してあげよう」

男友達「脈絡もなくいきなりギャルゲの話が出たなオイ」

妹「いやぁ、最近お兄ちゃんってギャルゲ成分足りてなかったろうし、死なないかなって心配で」

男友達「なんだその成分は。摂取できんと死ぬくらいの禁断症状だったのか俺は」

とはいえ、ギャルゲをやってくれと土下座する姿は、
傍から見れば患者そのものだろうなと兄はひそかに思った。

男友達「けど…そういえばやってなかったかもな」

妹、主人公、女委員長の恋愛関連に手いっぱいで、プレイする余裕もなかったのは確かだった。

妹「久々にやってみない? してみたいのとかあったら教えてほしいな」

男友達「そうだな…。実は俺は今、姉キャラが気になってたりする」

妹「え、お兄ちゃんって姉萌えだったの? ごめんね…あたしが年下で」

男友達「違う。別にそういう属性があるわけじゃない」

妹「じゃあどゆこと?」

男友達「なんというか…今まで俺がやってきたギャルゲって、
【妹】キャラが多かったわりには姉は見かけんと思ってな。
実際どうなんだ? 少ないのか?」

妹「あるゲームにはあるよ? ってか『D.C.Ⅱ P.S.』にも音姉いたじゃん」

男友達「あれは別に【主人公】や【男友達】の姉ってわけじゃないし、
性格や立ち位置がそれっぽいだけだから除外だ」

妹「なんとも細かい定義付けしてんだね…。
とりあえず待っててよ。姉キャラいるゲーム取ってくるから」

そう言って数分後、自室からそれに該当するソフトを持ってくる妹。

妹「これこれ。『ToHeart2』っていうんだけど」

男友達「おい」

妹「ん? どうしたの?」

男友達「『D.C.Ⅱ P.S.』に続いてまたナンバリングが2か。
前も同じこと聞いたが、1からやらなくてもいいのか?」

妹「大丈夫、大丈夫。2からやっても全然楽しめるから♪」

男友達「ギャルゲってそんなものなのか…?」

とにかく夕食を終え、入浴もし終えた兄妹は、兄の部屋で満を持してPS2を起動させる。

妹「~♪」

その兄の横で陽気そうにテレビ画面を眺める妹。

男友達(こいつも段々日常を取り戻してきたって感じだな…)

もちろん、久々にギャルゲがしたいというのは兄の本心である。
けれど、一緒にそれをすることで妹が楽しんでくれるなら…というのも
理由にあるのは言うまでもない。少しでも早く、主人公との例の件から立ち直れるようにと。

男友達「おお…赤髪ロングの子が出てきたぞ。これが【男友達】の姉、向坂環か」

妹「タマ姉たまんねぇ」

男友達「急にどうした」

妹「タマ姉可愛いなって。あ、タマ姉ってのは向坂環(こうさか たまき)のニックネームね」

男友達「それは分かったが、なんだよその台詞。シャレか」

妹「そうだよ? でも言いやすいでしょ」

男友達「確かに語呂はいいな」

それから登場人物も粗方そろったところで、
キャラクターや会話選択画面がたびたび出てくるようになるが――

妹「あれ? さっきから小牧愛佳(こまき まなか)の選択肢ばっか選んでるけど」

男友達「あぁ。この子からいこうと思って」

妹「あんなに姉キャラ言っといてタマ姉じゃないんかい」

さらにそれから1時間が経過した頃。

妹「そういえば言い忘れてたよ」

男友達「なんだ?」

妹「姉キャラのことなんだけどさ。意外といるよ?
よくよく思い出せば『セイレン』の主人公にもお姉ちゃんいるし。
嘉味田十萌(かみた ともえ)っていうんだけど」

男友達「『セイレン』って?」

妹「え。先週した会話もう忘れたの?? 『アマガミ』のとき話したじゃん」

男友達「『アマガミ』…あぁ、そうだったか。確かそっから10年後の話なんだっけ?」

妹「9年後ね。今アニメで絶賛放送中」

男友達「そんなことも言ってたな」

妹「興味もった? あのときはお兄ちゃん、
深夜アニメとかハードル高いって言ってたけど…今ならどうかな?」

男友達「…録画してるんだったっか?」

妹「してるよ」

男友達「じゃあ時間あったら見るとすっか…。なんか悔しいが、
ギャルゲ云々で散々お前に影響受けたせいか、ハードル下がっちまったよ」

妹「悔しがってるお兄ちゃん可愛いね♪」

男友達「すっかりしてやられた気分だ…」

そして、さらにそれから数時間が経過した頃。

妹「……」

妹は白目をむいていた。

男友達「おい妹…もう寝たほうがいいんじゃないか? 深夜の2時だぞ??」

夜に比較的強い兄はともかく、元々深夜アニメも録画してないと見れないくらい
夜に弱い妹にとっては、この時間に白目であっても意識を保ってるのはむしろ奇跡だと言えた。

妹「面白いシーンを…見るまでは! 面白いシーンを見るまでは…っ」

男友達「なんだ? もうちょっとしたらゲームで面白いシーンでもくるのか?」

なら少しでも早くゲーム進行を速め、妹を早めに寝かせたほうがいい。
そう考えながらボタンをカチカチしていると、ゲーム内での時間が5月8日の修学旅行の日となった。

男友達「は?」

そのとき、彼は目を疑うような光景を見た。

【主人公】が【男友達】キャラである向坂雄二の両肩に手を置いて、
『雄二ーっ!!』と叫んだあと、スタッフロールが流れ出したのである。

男友達「は? …は? なんだこれは…? 俺は小牧愛佳ルートへと進んでたはずだが…」

妹「きたーっ!! 混乱してるお兄ちゃんの面白い顔シーンきたーっ!!」

妹は復活した。まるでこのシーンを待ってましたとばかりに。

男友達「お前が待ってた面白いシーンってゲームのことじゃなく俺の反応かよ!?」

妹「あー、おもしろ…っ!」

男友達「ってか、一体どういうことだこれは? お前は何か知ってるのか?」

妹「まごうことなき友人エンドだね。どのヒロインともルートに入らなかった場合、こうなるの」

男友達「なんだって…」

妹「一週目が友人エンドって…面白すぎるよお兄ちゃん…ぷっ、くくくっ!!」

男友達「待て。納得いかんぞ!? だって俺は、ずっと愛佳の選択肢を選んでたじゃないか…!?」

妹「それなんだけどねー。いつだったか、愛佳のキャラ選択ができない日があったでしょ」

男友達「…そうだな? だから俺は、その日は何もせずスキップしたわけだが…」

妹「それがそもそもの間違いでね? そのときは
十波由真(となみ ゆま)ってヒロインを選んでなきゃいけなかったの」

男友達「なんだって!? ルート外のヒロインも選択しないといけないとか
要求される操作レベル高すぎないか!?」

兄は愕然とした。

妹「何言ってんの? 由真って愛佳の親友キャラなんだからさ。ちょっと勘が良い人なら、
友人から愛佳の話が聞けるかもってんで…愛佳の選択ないときは由真選んだりしてると思うけど」

男友達「! 確かにそうだな…。いや、だが、俺が今までやってきたギャルゲは…
単にそのヒロインだけを選んでればルートにたどり着けるものだったぞ??」

※途中でゲームオーバーになった『アマガミ』は除く。

妹「慣例に縛られるのはよくないなぁ。そういうゲームもあるってこと」

男友達「マジかよ…なんかいい勉強になった。って、待て」

妹「ん?」

男友達「それを知ってんなら愛佳の選択肢出てないとき、由真を選べとかお前が言ってくれれば…!
ってかそのとき悠長に『セイレン』の話してたよなお前!?」

妹「実はね? さっきのお兄ちゃんの間抜け顔を見るために…
意図的に由真のことは黙って他の話してたの♪」

男友達「そのためだけにお前…何時間もこんな深夜まで起きてたってか…たいした奴だ…」

妹「ってわけでおやすみ!!」

その瞬間、妹は兄のベッドに頭から倒れこむ。眠気が限界に達したようだった。

男友達「ほら、言わんこっちゃない…」

兄は妹の体をゆする。

男友達「ここはお前のベッドじゃない。自分の部屋に戻るんだ」

しかし呼びかけても反応がない。すっかり夢の世界へと旅立ってしまったようだった。

男友達「仕方ない…抱えるか」

寝てしまっている妹をおんぶし、自室を出て妹の部屋へと入る。
そしてベッドに寝かせようとした…そのときだった。

妹「主人公…くん…っ」

寝言だろうか。そんなことをかすかに言いながら、妹は兄の首元にキスをしていた。

男友達「こいつ…」

その顔を見る。今にもつむった目から涙を流しそうな…そんな寂しそうな表情をしていた。

男友達「……」

さっきまで気丈に振舞ってはいたけれど。なんだかんだで、
主人公への未練を完全に断ち切れていたわけではないんだと…兄は知った。

むしろ変にテンションが高かったのは、それをごまかすため…
というのもあったのかもしれないと兄は思った。

男友達「俺は主人公じゃないぞ…」

そう言って兄は妹をベッドに寝かせる。改めてその顔を見た。
…寂しそうな表情ではあるが、同時に綺麗な顔でもあった。美人だとも思った。

男友達「主人公…」

何もない虚空に向かって兄はつぶやいた。

男友達「妹を振ったこと。後悔すんなよ」

そう言い残し、彼は妹の部屋を出て行ったのであった。

1週間ほどが過ぎた、ある日のことだった。

主人公「男友達…」

呼びかけられ、男友達は人気のない旧校舎1階へと連れていかれる。以前とは逆の状況だった。

主人公「お前に…話がある」

その主人公の行動は、傍から見れば唐突のように思えた。けれど、男友達はそうは思っていなかった。

男友達「その前に…聞かせてくれ」

主人公「…なんだ?」

男友達「『あかね色に染まる坂 ぽーたぶる』は、やってみたか?」

主人公「あ、あぁ。とりあえず一人はクリアした…」

男友達「そうか…分かった。すまん、話をさえぎって。続けてくれ」

今の返答で、男友達はこれから来たる流れを予見した。

主人公「妹ちゃんは…僕のことが好きだったのか…?」

男友達「…その好きってのは友達としての好きか?」

主人公「違う! そうじゃない…異性としての好きだ」

男友達「……」

一呼吸置いて、男友達は答えた。

男友達「そうだよ」

迷いのない返事に主人公は一瞬動揺するが、会話を続ける。

主人公「…兄であるお前は、このことをずっと知っていたのか…?」

男友達「あぁ。ずっと昔から」

主人公「……」

とても申し訳なさそうな顔をしながら…主人公は言葉を紡いだ。

主人公「…全てに合点がいったよ。妹ちゃんがカラオケ途中で帰ったのも…
お前がこの前、僕につっかかってきたことも含めて全部…」

主人公「僕は…なんてことを…」

男友達「…気づいた上でお前に聞く。それでも妹と付き合う気はない。そうだな?」

主人公「それは…うん。たとえ妹ちゃんの気持ちに気づいたとしても…
今の女委員長の想いを無下になんて僕にはできない…!」

男友達「…いいんじゃないか?」

主人公の予測とは裏腹に、男友達の口から飛び出した言葉は肯定だった。

男友達「というかな。もし同情心だけでお前が女委員長を傷つけて
別れるつもりなら、それこそどうしようかと思ってた」

主人公「男友達…」

感傷的になりつつも、相変わらず弁解のしようもない顔をしている主人公だった。

主人公「けれど…妹ちゃんを傷つけた事実は消えない。僕はどうやって謝れば…」

男友達「謝罪はいらない」

あくまで物腰の柔らかい態度で、男友達は言葉を続ける。

男友達「ただし、約束してくれないか?
これからお前が付き合う女委員長に対して、同じことはしないと…」

主人公「もちろんだよ…。知らなかったじゃ済まされない。
相手の気持ちに鈍感にならないよう…これからは気を付けたいと思う」

男友達「…それが聞ければ俺は十分だ」

主人公「ただ…女委員長とは付き合っていくとしても。これから妹ちゃんとは
どう接すればいいのかな? もう話しかけないほうがよかったりするのかな…」

男友達「そうだな…」

しばらく思考した後、男友達は返答する。

男友達「俺の憶測だが。妹もお前との絶交を望んでるわけじゃないと思う。
だから…少しくらいなら話してもいいんじゃないか」

主人公「…そっか。分かったよ。あ、とはいっても――」

あわてて主人公は言葉を付け足す。

主人公「無神経にデートに誘うような…そんな真似はしないし、あと…妹ちゃんと接することで
女委員長に浮気と見なされないようにも気を付ける。節度はわきまえたいと思うよ」

男友達「……」

予見こそしていたものの、男友達は内心驚いていた。一度自分の内面を自覚しただけで、
人はここまで気配りに敏感になれるようになるのかと。少なくとも以前の、
人の好意に鈍感だったときの主人公は、もうそこにはいない気がした。

主人公「それとさ。さっき謝罪はいらないって言ってたけど…
たとえ妹ちゃんにいらなかったとしても、男友達には言っておきたいんだ」

男友達「俺に?」

主人公「あぁ。だって…妹ちゃんの想いを知っていて、それでずっと鈍感な僕の態度を見てきたんだ。
兄として相当つらく思うときもあったはずだよ。だから…ごめん」

男友達「…もういいんだ。それに、むしろ謝るのは俺のほうだ」

主人公「男友達が? どうして?」

男友達「いくらお前が鈍感だったとしても…あくまでそこに悪意はなかったんだ。
そんな人間の胸ぐらをつかむ資格なんか俺にはなかったし、完全に兄としてのエゴだった」

主人公「そんなことは――」

男友達「それともう一つ」

主人公の言葉をさえぎり、男友達は話を続ける。

男友達「何より俺、お前と女委員長が付き合い始めたこと…まだ祝ってなかったじゃないか」

主人公「男友達…」

男友達「大事な親友の初彼女だってのに、言うのが遅れるようじゃ友達失格だよな。
けど…今からでもいいから言わせてくれ。おめでとう男友達。
女委員長と末永く付き合っていけることを…俺は願ってる」

主人公「ありがとう男友達。それと、友達失格だなんてとんでもないよ。
男友達とは楽しくやっていきたい…昔も、そしてこれからも」

男友達「…どうもな。けど、さすがに遊んだりは彼女のほうを優先しろよ」

主人公「うん。分かってる」

和気あいあいとした雰囲気の二人は、そのまま教室へと戻っていく。

男友達「……」

教室に帰る途中、彼は思っていた。確認こそしていないが、『あかね色に染まる坂 ぽーたぶる』で
主人公が攻略し終えた1ルートというのは、おそらくは長瀬湊のことなのだろうと。

主人公は妹のことを元来【妹】のような存在としか見てこなかった。
ましてや恋愛関係に発展するなど考えたこともなかったはずだ。だからこそ、ゲームシステム上、
1週目は長瀬湊か片桐優姫のどちらかのルートへしか行けないと分かったとき、
主人公なら長瀬湊を選ぶ可能性が高いと男友達は考えていた。

【妹】である長瀬湊は、一体どういう過程を踏んで【主人公】と恋愛関係になるのか。

そんなことはありえないという先入観があるだけに、シナリオは気になったはずである。
ちょうど実の兄であり、妹との恋愛関係など全く想定できない男友達が、
整合性という観点から興味本位で湊ルートを選択したのと同じように。

もちろん逆のパターンもある。ありえないという先入観があるからこそ、
【妹】の湊を避けて片桐優姫ルートに入る可能性もあるし、もしかしたら実際はそうなのかもしれない。

男友達(けど、それならそれで構わなかった)

仮に優姫ルートだったとしても。ダブルヒロインの片割れだけに、
そっちでも湊の心情はある程度は描かれたはずだと男友達は踏んでいた。

どちらにせよ、湊が兄に対して抱いていた気持ちや言動の数々を主人公が知ったことは、
彼が今までずっと【妹】視していた妹について再考するきっかけを与えたはずなのである。

『もしかしたら妹ちゃんとこうなる可能性もあったのか?』と。

一度それに気づけば、あとは自然とそれまでの妹の言動も違った視点で見えてくるようになる。
『あのときの言葉や行動は、僕のことが好きだったからじゃ…』等々。
そこから主人公は、いかに自分が今まで鈍感で、無意識のうちに妹を傷つけていたのか…
おそらくは思い知ったのだろうと。

※ちなみに、男友達自身はこのゲームをやったからといって、妹との恋愛可能性など
微塵も考えたことはない。それは結局、主人公とは違って妹が実の【妹】だからである。
例えば男友達にも【妹】視している後輩女子でもいれば、また話は違ったかもしれない。

とにもかくも、ギャルゲで自分の難点に気づかせるという、いろんな意味でありえない方法が
なんとか実を結んだその数日後…男友達は妹から意外な報告を受けることになる。

男友達「ただいま」

妹「おかえり…っ」

男友達「…ん? そわそわしてるが何かあったのか」

妹「実はね。今日…カラオケで別れて以来、主人公くんと初めて口をきいて」

男友達「おぉ、そうなのか」

妹「うん。昼休み、ジュース買いに1階に下りたらね。偶然主人公くんと会ってちょっと話を」

そんな妹の報告を受けている男友達の顔に、特に驚いた様子は見受けられなかった。
その程度の交流に関しては、とっくにこの前の主人公との会話で了承済みだったからだ。

妹「なんていうか…ホッとしてるんだ。もう二度と話せないかもって思ってたから。
そりゃ、もう主人公くんの彼女にはなれないけどね。それでも…
せめて前みたいに他愛のない話ができるくらいにはって思ってたから」

男友達「それは…よかったな」

主人公との絶交を望んでいるわけではないという、
以前した憶測が当たっていたことが分かり、兄もまた胸をなでおろすのであった。

妹「それにしても…まさか主人公くんがギャルゲに理解あったなんて。なんか感動的かも!」

男友達「!? なんだと…??」

そういう意味での意外な報告だった。

妹「あたしってゲーマーじゃん?」

男友達「いきなり言われても。まあいろんなジャンルやってるし、
数もこなしてるからそうなんだと思うが」

妹「だからさ。『もしかしてギャルゲもやってるの?』って主人公くんに言われたんだよね」

男友達「なんと…。で、お前はなんて答えたんだ?」

妹「久々に話せただけでも緊張してたのに、それに加えて
予想外な質問が来ちゃったからさ。カミングアウトしそびれちゃったんだよね…。
『あぁ、そういうジャンルのゲームがあるってことは知ってるよ?』って返しちゃった」

男友達「お前の無難な対応にも納得だ。そりゃ普通はそうなる」

妹「まあ…流れはともかくとして、理解があるって分かったのは収穫だったかな。
ようやく主人公くんともギャルゲの話できるんだって思うとね」

男友達「そういやお前って…家族以外とそういう話できなかったから、
仲間が増えたのは喜ばしいことかもな」

妹「うん♪ あー、もしオススメ聞かれたらなんて答えよっかな…ギャルゲ初心者でも
すぐなじめる『アマガミ』あたりか、それとも『CLANNAD(クラナド)』や
『車輪の国 向日葵の少女』みたいなので攻めてみるか…うーん…」

そしてこのとき。何やらぶつぶつ言っている妹を横目に、男友達はとある事態を懸念しつつあった。

まず主人公の行動自体に男友達は驚いていた。たとえ相手が妹であったとしても、
学校という公共空間で堂々とギャルゲの話を今後もしていくつもりなら、つまり――

男友達(いずれギャルゲやってるってことが委員長女にバレるのでは…?)

そう彼は思った。いや、下手すれば自らカミングアウトして
『女委員長もやってみない?』と言いかねないと。

もちろん、それを知ったからといって女委員長なら許してくれそうではあるが、
だとしても世の中というのは何が起こるか分からない。ギャルゲというジャンルに理解のある
妹や母のような存在がむしろ希少種すぎるのである。であるがゆえに、
女委員長に知られないに越したことはないと、男友達はそう考えていた。

そして懸念はまだあった。

男友達(ギャルゲの話で妹と盛り上がることで、女委員長が浮気認定しないだろうか…)

こっちの問題も切実だった。主人公に関しては、この前話した通り、浮気と思われない程度に
節度はわきまえると言っていたから、そこは男友達も信用していた。

問題は妹のほうである。
彼女になることはあきらめているようだが、本人がどこまで主人公との距離感をこれから保っていくのかが、
現時点で不透明なのである。本人にそのつもりはなくとも、女委員長がその距離感をどう判断するのか。
場合によっては浮気認定もありうるのではと。

なんということだ…と男友達は思った。主人公に自分の内面と向き合わせるためのギャルゲ貸し出しが、
まさかこんな副次的効果を生むかもしれないことを、彼は想定していなかった。

ゆえに、妹の部屋にあった『あかね色に染まる坂 ぽーたぶる』を主人公に貸したのが発端だったんだと
妹にバレることは、今の男友達にとってはどうでもいい些細な問題だった。
自分のことより主人公を取り巻く今後の環境を心配していたのである。

妹「お兄ちゃん? なんか難しい顔してるね。思ってること当ててあげよっか?」

男友達「え?」

妹「大方、女委員長さんのことでも考えてたんでしょ?」

男友達「…相変わらずお前は人の心を読むのな。なんで分かった?」

妹「今でもお兄ちゃんが【男友達】ポジションに徹しようとしてるんならさ。
たぶん今そのこと考えてたんじゃないかなーって。ギャルゲ趣味が
女委員長さんにバレないかとか、あたしとのやり取りが浮気に見られないかとか」

男友達「……」

ほぼ言い当てられ、ぐうの音も出ない兄だった。

妹「あたしだって分をわきまえることくらいできるよ? 確かにギャルゲを
主人公くんと話せるのは嬉しいけど、大っぴらに学校で話すつもりはないっていうか。
今日は初めてだったからうまく対応できなかっただけで、次からは気を付ける」

男友達「そうだったのか…」

妹「うん。それに仮にバレそうになったら、あたしのほうから女委員長さんに話すよ。無理やりあたしが
話題にしたとか。あと…主人公くんのほうから女委員長さんにカミングアウトするようなら、
そのときは理解してもらえるようあたしも彼女に働きかけてみるつもり。何より――」

兄の目をまっすぐ見て、そして妹は言い放つ。

妹「浮気に見られないためにも、主人公くんと二人っきりでとか…そんな濃厚な時間も作らない。
ギャルゲを一緒にプレイしたりするのはお兄ちゃんだけだから…安心して?」

男友達「正直…びっくりだ。そこまで配慮できるくらい、お前も回復したってことなのか」

妹「そうかもね? 自分でも結構驚いてる。たぶんだけど、
あたしの中で主人公くんに対する心の整理が…ついたのかなって。
今日会話ができたのも関係ありそうかな。吹っ切れたっていうか」

男友達「そっか。それなら…よかった」

あの夜以来、陰を抱えた妹が立ち直れたことを…本当によかったと思う兄だった。

妹「それより、あたしのことよりお兄ちゃんだよ。
いつまで【男友達】ポジションを貫き続けるの? 心配だよ」

男友達「え、俺?」

急に話題の矛先が自分に移ったことに動揺する兄だった。

男友達「ポジションも何も、俺は主人公の友達なんだから…気にかけるのは当然のことだろう?」

妹「そうだけどさ。にしてもこだわりすぎだよ。今考えてたことだって
お兄ちゃんが対策しなくても、あたしの立ち回りでも何とかなるって分かったじゃん」

男友達「そりゃそうかもしれないが…」

妹「ねぇ。お兄ちゃんもさ。人のサポートばかりじゃなく、
そろそろ自分が主役になってみてもいいんじゃないかなって…あたしは思うよ?」

男友達「そうは言うがな…。俺はどこまでサポートできたんだろうか」

そこで、ふと彼は以前妹と語り合った【男友達】ポジションの3項目を思い出してみることにしたのだった。

1.主人公が気になっている女の子の情報を提供する
2.主人公の恋を応援したり激励する
3.良い思いをせず、主人公のための道化役に徹する

まず1はダメだと彼は思った。気になっていると言われたことはないものの、
結果として彼女になった女委員長に関する情報を何一つ主人公に提供できなかったからだ。

3も微妙のように思えた。自分が踏み台になって主人公がラッキーイベントに遭遇したことはないし、
女委員長の件で主人公を焚きつけた事実もない。

男友達(そうなると、唯一該当しそうなのが2ってことになるが…)

この前の主人公との会話で、女委員長との仲を祝福したことはあったが…
言ってしまえばそれだけのように思えた。

妹「お兄ちゃん、また難しい顔してる」

男友達「だってな。俺が主人公のために何かしてやれたのかと思うと――」

そのときだった。背伸びした妹の手が…兄の頭に優しく置かれた。

妹「あたしは…頑張ったと思うよ? お兄ちゃん、自分が気づいてないだけで
たくさん考えて、たくさん動き回ってくれたと思うから…。だから、お疲れ様」

男友達「妹…」

普通ならそこで『兄の頭をなでるな。恥ずかしい』の一言でも出るところだが、
このとき男友達は、なぜか気分が感傷的になりつつあった。

男友達「お前にそう褒めてもらえると…なんか救われた気がする」

男友達「けど…それについては分かったけど、主役ってのはどういう意味なんだ」

妹「…自分の意志で、主体的に恋愛するってことだよ」

男友達「恋愛…」

彼はその言葉について考える。

男友達「…そう突然に言われても。俺には今――」

妹「知ってる。今好きな人はいないって言いたいんでしょ?」

男友達「…また言い当てやがったか」

妹「ふふっ、何年も【妹】やってたらね。以心伝心ってやつかな」

妹「あのね。別に、今すぐ恋愛しろって言いたいんじゃないよ。
ただ…もし近い将来、お兄ちゃんが本当に好きだって思える人が現れたら、そのときは…」

頭をなでるのをやめ、妹は真剣な表情で兄を見つめた。

妹「あたしみたいに後悔だけはしないでほしいなって。あれこれ言い訳して、
告白をずっとしてこなかった…どっかの誰かさんみたいにさ」

男友達「…そうならんような心構えをするってのが、お前の言う『主役になる』ってことなのか?」

妹「そゆこと♪」

そう答えたときの妹はとても明るい顔をしていた。自分が言いたかったことを
ようやく兄が汲み取ってくれて…嬉しく思っていたのである。

男友達「そっか。分かったよ、肝に銘じておく」

妹「銘じる…ね。一応言っとくけど、こういうのって口だけじゃ意味ないからね?
自己暗示でもいいから強く思わないと…ダメなんだから」

男友達「強く思う…か」

妹の強い意思を感じた彼は、改めて『主役になる』ということを意識した。

そして――

主人公「…お前の言う通り、ちゃんと念じた。
本当に好きな人が現れたら、後悔はしないよう頑張るって」

※これ以降、男友達は主人公と表記。ちなみに、前の主人公は元主人公と表記します。

主人公「まぁ、そうはいっても…突然これで何かが変わるってわけでもないと思うが」

妹「そうかな? オーラも違って見えるけど」

主人公「なんだよそれ」

妹「じゃあいつも通りのことしてみよっか?
それで普段と違うことでも起これば、変わったって認識できるでしょ」

主人公「いつも通りのこと?」

妹「あたしにギャルゲのオススメ聞くとかそういうことだよ~」

主人公「そんなのが日常化してたとか全然自覚なかったな…」

妹「で、何か興味ありそうな題材ある? あれば見つけてくるけど」

主人公「ふと思い出したんだが」

妹「何?」

主人公「剣道やってる【男友達】が出るギャルゲはどうなった? 前から言ってたよな俺」

妹「あ。ごめん。今の今まで忘れてた」

主人公「…ずいぶん音沙汰なかったし、そんなこったろうとは思ってた」

妹「悪かったよ。とにかくそれに強烈に、該当するのあるから。持ってくるね」

そう言って自室に戻り、ソフトを取ってくる妹。

妹「これ。『リトルバスターズ! Converted Edition』っていうんだけど」

主人公「金髪で銃かまえてる女の子が先頭のパッケージなんだな」

妹「そうそう♪」

主人公「で、剣道男子の名前は?」

妹「ええっと…宮沢謙吾っていうの」

主人公「そうなのか。宮沢謙吾…どんなキャラなのか楽しみだ…」

妹「……」

主人公「…? 急に黙ってどうした?」

妹「何も変わってなくない?」

主人公「いたって平和なやり取りだが」

妹「そうじゃなくて!! お兄ちゃんのオーラ変わったと思ったのに、本当にいつも通りじゃん!?」

主人公「そりゃいつも通りのことしてんだから、
普段と違うことなんて起きるはずないだろ。何を期待してるんだお前は」

妹「…はぁ。お兄ちゃんもお兄ちゃんだよ」

主人公「どういうことだ」

妹「もう【男友達】ポジションにこだわらなくてもいいって言ったのに。
相変わらずゲームの話でも一目散に【男友達】・宮沢謙吾に注目する始末だし…
そろそろ【主人公】とかに興味持たない?」

主人公「あのな。名目だけ変わってもな、人の中身ってのはそう簡単には変わらないんだぞ」

妹「カッコイイこと言ってるつもりかもしれないけど、カッコ悪いよ?」

主人公「まあそうだろうな」

妹「…あれ。なんかデジャヴが…」

妹はこれと似たような体験を以前したことがあるような気がした。
はて、一体いつのことだったろうかと思考させていると、
元主人公と渋谷デートしたときのことを思い出した。

『自分でも妹は分かっていた。この『ときメモ』脳はなんとかしないといけないと。
しかし人は変わろうとは思ってもそう簡単には変わらない。まったく、難儀なものだよねと』

妹(なるほど。同類だったか)

主人公「…ボーっとしてるが大丈夫か?」

妹「大丈夫じゃないよ。お兄ちゃんのせいで考え込んじゃってたの」

主人公「意味不明な責任転嫁をするな」

その後、夕食を食べ終えた二人は、前もって言っていた通り
『リトルバスターズ! Converted Edition』をプレイし始める。

そして本編をプレイして、およそ30分が経過した頃のこと。

主人公「お。いい主題歌だな」

妹「だよね?」

流れ出したOPを見て、二人は感想を言い合っていた。

…いつもと変わらぬ風景。
けれど、確かにそこには兄妹のささやかな団らんがあったのであった。

THE END...?

夕食をとってくるので2時間ほど投稿を一時中断します。
その後に後日談を投下して終わりにしようと思います。

後日談

その後の主人公と妹の日常を、◆の章別にお送りします。



◆『D.C. P.S.』(PS2)をプレイした場合

主人公「俺さ、あれから『D.C.Ⅱ P.S.』のいろんな子のルートをクリアしたけど」

妹「うん」

主人公「やっぱ初代の『D.C.』もやってないと何か落ち着かない…ってわけでプレイしてみたい」

妹「いいよ~」

そう言って初代である『D.C. P.S.』を妹は持ってきて、早速プレイすることとなった。
ところが数十分が過ぎた頃、主人公にとって予想外の事態が発生する。

主人公「杉並…? なんでお前がここに…?」

杉並とは『D.C. P.S.』及び『D.C.Ⅱ P.S.』における【男友達】の名前である。

主人公「ⅡってⅠから数十年後の話のはずだが…なんでこいつⅠにもいるの?」

妹「ネットではクローン説やタイムトラベラー説も挙がってるね。神だって説も」

主人公「…なんか性格が変な奴だとは思ってたが、こいつ神かもしれないのか…」

主人公はひどく困惑した。

◆『ホチキス』(PSvita)をプレイした場合

携帯機のままだと一緒に画面を見にくいということで、
PSvita TVを使用して妹と一緒に『ホチキス』をやっていた主人公。

主人公「ってか何だよこのタイトル。文房具だよな」

妹「kissと掛けてんじゃないかなぁ? 何だろうね?」

主人公「そういやお前はすでにクリア済だから、知っててとぼけてる可能性もあるのか…」

そしてしばらくプレイしていると、【男友達】キャラである中津幸太郎が出てきた。

主人公「お、こいつはなんか知的っぽい雰囲気を醸し出してるな。頼もしそうだ」

中津幸太郎『1年生になったーらー♪ 1年生になったーらー♪ 妹100人できるかな♪』

主人公「……」

妹「どう思った?」

主人公「変態だな」

綺羅泰徳、西野冬彦に次ぐ3人目の逸材が現れたかと息をのむ主人公であった。

◆『SHUFFLE!(シャッフル!)』(PS2)をプレイした場合

主人公「…おかしいな」

妹「どうしたの?」

主人公「シアやリンのルート行こうと思ってんのに、なぜかいつも楓ルートにたどり着いてしまう…」

妹「あぁ、そのゲームね。よっぽど選択肢に気を付けてないと高確率で楓ルートに行くようになってるの」

主人公「そうだったのか?? けどまぁ分かるっちゃ分かるな…普通に生活送ってたら
楓ルートに行くのも納得というか。【主人公】に対してすごく献身的だもんな」

妹「ちなみにアニメでは楓のヤンデレシーン見れるよ」

主人公「…は? 突然何を言ってる?
そんな楓のシーン…ゲームでは一度たりとも見かけなかったんだが」

妹「うん。ところがアニメでは――」

主人公「くそっ、アニメが気になってきた…っ」

◆『星のカービィWii』(Wii)をプレイした場合

妹「ねぇ。ギャルゲもいいけど、たまには他のジャンルもプレイしてみない?」

主人公「いいけど持ってんのか? お前の本棚って今ギャルゲしか置いてなかった気が…」

妹「うん。だから最近中古でいくつか買い戻して。カービィやらない?
昔お兄ちゃんもやってたから操作は知ってるよね?」

というわけで『星のカービィWii』を二人で協力プレイすることになった。
1Pが主人公(カービィ)、2Pが妹(デデデ大王)である。そして現在、ラスボス戦であった。

主人公「…なんかさ。1Pカービィってコピー能力失うと、ほぼ2Pの独壇場だよな。
お前は能力失うこともないからハンマーで叩きまくれるし」

妹「ボスが出す星を吸い込んでぶつければいいじゃん」

主人公「それができりゃ苦労しないんだよ。めったに星出さないし、
出して吸い込んだとしても、それが素早いボスには当たらんしでもう…」

妹「じゃあやり直す? お兄ちゃんはリーフでずっとガードしてて、
あたしの力だけでボス倒してあげるよ?♪」

主人公「俺いらなくね?」

◆『サイレントヒル3』をプレイした場合

続けて非ギャルゲのゲームをプレイする二人。

そのプレイ途中、【主人公】であるヘザーが電車に閉じ込められてしまう。
そのまま電車は出発し、中には得体の知れない化け物もいるという非常に危険な状況であった。

主人公「ホラーではありがちだが、実際見知らぬ電車に閉じ込められて急発進されるって怖いよな」

妹「あたしもこの前似たような目にあったよ」

主人公「…マジで言ってるのか? この東京でそんな怪談があったのかよ」

妹「夜、渋谷からの電車に乗ってたんだけどね。なぜか桜新町で止まってくれなくて…」

主人公「うん」

妹「気づいたら二子玉川まで連れていかれてた…」

主人公「それ間違えて急行に乗っただけだよな」

妹「他にもこのへんの桜新町だと――」

主人公「俺のツッコミはスルーか」

妹「サザエさん像のさ。波平さんの髪の毛が…夜の間に消滅しちゃうっていう…」

主人公(それは心霊現象じゃないってツッコミ入れられたいのかこいつは??)

※盗難です

◆『Chaos;HEAd(カオスヘッド) NOAH』(PSP)を再びプレイした場合

妹「じゃあそろそろギャルゲに戻ってみよっか」

主人公「だな」

妹「ってわけで『Chaos;HEAd(カオスヘッド) NOAH』を…」

主人公「なんだって!? やめてくれ!!」

妹「だってギャルゲプレイに戻りたいってお兄ちゃんも言ったじゃん」

主人公「それ、途中で俺がリタイヤしたの知ってて薦めてるよな?」

妹「…なんで『サイレントヒル3』ができてこっちができないんだろうなぁお兄ちゃんは…」

とりあえず無理やり兄にプレイさせることにした妹だった。

※あくまでこのゲームをギャルゲだと思っているのは妹なので注意が必要である。
サイコホラーを題材としたノベルゲームと言ったほうが適切であるかもしれない。

主人公「それにしても…斬新なゲームだよなこれ。ポジティブ妄想かネガティブ妄想のどちらかを選んで、
その妄想を体感できるっていうのは。公式ジャンル名が『妄想科学ADV』なだけはある」

妹「どっち選ぶの?」

主人公「そりゃポジティブのほうだ。なんで好き好んでネガティブいって怖い目にあわんといけんのだ…」

そしてちょうどそのとき、【主人公】西條拓巳の【妹】・西條七海に対しての
妄想選択シーンが来た。当然、主人公はポジティブ妄想を選択する。

主人公「しかし妄想だったとしても、まさか【妹】がこんな甘いシチュエーションを提供してくるとは…」

そういえば『あかね色に染まる坂』同様、このゲームでも【妹】を攻略できるのだろうか?と
ふと考えていた兄に、妹が次のようなことを言った。

妹「お兄ちゃんもあたしで妄想したことあるの?」

主人公「…は?」

あまりに予想外すぎる一言に主人公は目が点になる。

主人公「何を言い出すんだ?」

妹「ってかこのゲームに限らず【妹】ルートの存在してるゲームって多いからさ。
お兄ちゃん…っていうか男の人って【妹】に甘えられたい願望でもあるのかなーと」

主人公「知らん。それに、だったらなんだっていうんだ」

妹「こうしちゃおっかなぁと。わー、PSPってテレビと違って画面小さいから見にくいわー、
こりゃお兄ちゃんに近づかないととても見えないわー」

明かな棒読みで、けれど妹は兄の後ろから密着し、顔を真横に近づける。

妹「どう? 【妹】に接近された気分は?」

主人公「ずばり集中力が切れる」

妹「集中力切れるほどドキドキしてるってことなんだ?」

主人公「違う。気が散ってゲームに集中できないって意味だ」

妹「本当?」

主人公「あのな…からかうのもいい加減にしろ。大体お前、
胸が俺の背中に当たってんだぞ。いくら兄妹といえど恥ずかしくないのか?」

妹「……」

そのとき。なぜか急に無言になる妹だった。

主人公「お、おい…まさか当たってるって自覚なかったのか?」

妹「なかったわー…」

先ほどと同じ棒読みではあったものの、
明らかに動揺の色が見えた妹だった。頬も赤くなっている。

主人公「これに懲りて次は自重するんだな」

妹「う、うん…。お兄ちゃんも勝手にあんな妄想しちゃダメだよ?」

主人公「さっきのは妄想じゃなく現実だし、ってか勝手に事実を捏造するな」

妹「なんか気まずい雰囲気になっちゃったね…?」

主人公「お前のせいでな」

とはいえ、さすがに主人公もホモではないので、
さっきの出来事に対して全く動揺がなかったかと言われれば嘘になる。

主人公「気分転換に庭で素振りでもしてくる」

とりあえずモヤモヤを吹き飛ばすために体を動かそうと思った兄だった。

主人公「……」

竹刀を手に取り、無心のまま振りまくる。そしてウォームアップしてリズムに乗ってきたのか、
庭に立ててあった練習用のカカシに向かって勢いよく振り下ろす。

主人公「マーン!!!」

妹「そこはメーンじゃないんだ」

主人公「見てたのか」

妹「うん。急にお兄ちゃんが外に出たから、なんか心配になって。で、さっきの叫び声…何?」

主人公「『リトルバスターズ!』の宮沢謙吾がな。竹刀もってマーン!って言ってたから影響受けてな」

妹「お兄ちゃんって単純だよね」

◆『CLANNAD(クラナド)』(PS2)をプレイした場合

主人公「お前に薦められてた『CLANNAD(クラナド)』…粗方プレイし終えたぞ」

妹「そっか。どうだった?」

主人公「とりあえず、まず【男友達】・春原陽平(すのはら ようへい)の扱いについて言いたい」

妹「うん」

主人公「奴にとってはあまりに非情すぎる世界だ…学校のダストシュートに、
まるで物のようにシュートされるシーンには目を疑った。あれで生きてたことに拍手を送ろう」

妹「春原って耐久力あって凄いよね」

主人公「耐久力とかそういう問題じゃねーから」

妹「で、シナリオのほうはどうだった?」

主人公「…さすがだよ。ファンから“人生”と言われてるだけあって、良い意味で重厚すぎた。
人の一生ってのを考えさせられるゲームだったよ。春原はともかく」

妹「高評価みたいで、あたしもそれ聞けて嬉しいな」

主人公「どのヒロインルートも…目を見張るような話運びだった。春原はともかく」

妹「そうだね。春原はともかく」

◆『名探偵コナン』を語った場合

妹「ふと思ったんだけどさ。以前お兄ちゃん、【男友達】が恵まれてる漫画はないのかって、
『いちご100%』のとき言ってたじゃん?」

主人公「言ってたな」

妹「よく考えたら『名探偵コナン』があったなって」

主人公「…ん?」

妹「だって【男友達】の服部平次って和葉とラブコメしてるわけだし、
恵まれてるポジションだって言えるんじゃない?」

主人公「いや…待て待て待て」

妹「どうしたの?」

主人公「『名探偵コナン』をラブコメ漫画の類いと同じくくりにして語るのは
何かおかしくないか…!? ってか推理漫画だろうあれは…??」

妹「推理がメインだとしてもラブコメ要素もあるのは間違いないよね。
それに今年2017年の映画タイトルも『紅の恋歌(ラブレター)』で
恋愛を匂わせるタイトル、しかも平次がメインみたいだし」

主人公「なんやて工藤!?」

妹「せや。今年の活躍はもろたで工藤」

主人公「…ノリいいな?」

妹「お兄ちゃんこそ」

◆『アマガミ』(PS2)を再びプレイした場合

妹「あのさ。ゲームオーバーになったっきり、『アマガミ』って放置してなかった?」

主人公「!? しまった…そういえばそうだった」

というわけで再び『アマガミ』プレイに勤しむ主人公。

妹「前みたいにならないよう攻略ヒロインはちゃんと決めといたほうがいいよ?」

主人公「分かってる。そうだな…じゃあのんびりした感じの桜井梨穂子に行ってみるか」

妹「可愛いよね。お菓子好きなところとか特に」

主人公「あぁ。今もこうやって【主人公】にお菓子を分けて――」

そのときだった。


・これはダメか?     ・じゃあ、そこの……
・これ、おいしそうだな  ・だったらこっちの……
・これがいいなぁ     ・しからばこちらの……


主人公「おい!? 選択肢が6つも出現したんだが!!?」

妹「そうだね」

主人公「こんなに選択肢出るとか、今までやったギャルゲの中でも最多だぞ…」

そして数日後、だいぶ『アマガミ』も進めて…
桜井梨穂子ルートの終盤に差し掛かっていたときだった。

主人公「お、選択肢がきたぞ」


・梨穂子はかわいいなあ!
・梨穂子はかわいいなあ!!
・梨穂子はかわいいなあ!!!


主人公「……」

妹「どうしたの黙って? ほとんど同じ選択肢が3つ出てきたから困惑しちゃった?」

主人公「違う。俺は今、【主人公】とシンクロしたんだ。
確かにこの状況、それ以外の言葉は見つからない」

妹「じゃあどうせだからこの台詞、一緒に叫んじゃおっか」

主人公「え、叫ぶのか?」

妹「だってこの選択肢の違いって、要は『!』マークの多さっていう気持ちの問題でしょ?
だったらあたしらも気持ち強めにしたほうが…より【主人公】に感情移入できるんじゃないかなって」

主人公「…そのために声を出して気分を高翌揚させるってか。
いいぞ、それに乗ってやろう。せーのっ」

兄妹「「梨穂子はかわいいなあ!!!!!!!!!!!」」

近所の人「こんな深夜に隣の家から謎の絶叫が…」

◆何も変化がない

妹「ねぇお兄ちゃん」

主人公「なんだ」

妹「お兄ちゃんって主役になったんだよね? ちゃんと決意したはずなんだよね?」

主人公「あ、あぁ。少なくとも気持ちは【主人公】でいるつもりだが…」

妹「けど全然変化ないよね? 『D.C. P.S.』や『アマガミ』を
プレイしたりとか、やってることがことごとくいつも通りだよ」

主人公「別にいいじゃないか。何か問題なのか」

妹(…あれ。そういえばよく考えたら、『アマガミ』では【男友達】の梅原じゃなく
ヒロインの梨穂子に熱中してたし…少しずつではあるけど変わってきてるのかな?)

そうひそかに感じつつも、妹は別の疑問を投げかける。

妹「まあ家のほうはともかくとして、学校では楽しくやってるの?」

主人公「人並みには楽しんでると思ってるが」

妹「ホントかな? 明日からはもっと気合入れて学校に行ってみよ?」

主人公「だからお前は俺に何を期待してるんだ…」

とりあえず【主人公】だという自覚を改めて持って、明日は登校してみようと思った主人公だった。

◆女幼馴染の今

女幼馴染「主人公ー! 放課後うちとゲーセン行かない?」

主人公「やぶから棒にどうした」

女幼馴染「最近の元主人公のことは知ってるよね?」

主人公「あぁ」

そっちのほうを見る。相変わらず元主人公と女委員長は仲良くしている。

女幼馴染「なんていうか、女委員長っていう彼女の邪魔するわけにもいかないし、
もう今までみたいにうちが元主人公を気軽に誘うってできないのよ」

主人公「だから俺ってか? けど、それくらい同じ女子同士で行けばいいじゃないか」

女幼馴染「周りの子ってゲーセンに興味ないし。ってかあんたどうせ暇でしょ」

主人公「決めつけるとは失礼な奴だ」

女幼馴染「違うの?」

主人公「……」

まさか、妹と家でギャルゲをプレイしまくってるから忙しいとは言えない主人公だった。

◆女後輩の今

女後輩「チラ…チラ…っ」

主人公「ん? あれは…」

昼休みのことだった。教室のドアから、クラスをチラッチラッと覗き込んでいる女子がいたのである。

主人公(たまに元主人公のところに勉強を教わりにきてた後輩の女の子じゃないか)

そして、どうも教室に入るのを躊躇していたようなので、主人公は助け舟を出そうと廊下へ出た。

主人公「女後輩さん。もしかして元主人公に用事?」

女後輩「! は、はい。そうなんです…」

人と話すことに慣れてないのか、呼びかけられてびっくりする女後輩。

女後輩「けれど…元主人公先輩は彼女ができちゃったから…
そんな彼女さんとの時間に私が割って入るのもどうかと思って…」

女後輩の言葉通り、相変わらず元主人公は女委員長と仲良さそうに会話していたのであった。

女後輩「あぁ…でもこのままだと私、赤点とっちゃう…どうすれば…」

ふと主人公は女後輩の持っていた物に目を落とす。数学の教科書を抱えていた。

主人公「数学を教わりにきたのか?」

女後輩「はい。この教科、本当に苦手で…」

主人公「そっか。先生や親、友達に教えてもらうとかは?」

女後輩「先生と両親は仕事で忙しそうで…。友達にも、
そんな面倒なこと教えてもらうのは気が引けるというか…うぅ…っ」

主人公「…なるほど」

主人公は理解した。この子は遠慮しがちで、必要以上に相手に気を遣いすぎるタイプなのだろうと。
だから気軽に話せる元主人公との相性はバッチリだったが、その彼とはもう今までのように話せない。
となると…。

主人公「どこが分からない? 俺でよければ教えるが」

自分にも女後輩と同じ年の妹がいて、その妹に勉強を教えることが今まで何度かあった。
だから、そのスキルを活かして少しでも女後輩の役に立てればと考えていた主人公であった。

女後輩「えぇ!?」

女後輩は驚いた顔をする。

主人公「あぁ…ごめん。急な話だったな」

それもそうだろうと主人公は思った。ただでさえ人見知りっぽい彼女に、
今までろくに会話したこともない先輩男子が勉強の誘いをしてきたのである。
動揺するのも当然だと。

主人公「そもそも女後輩さんは俺のこと知らないよな」

女後輩「あ、いや…知ってますよ? 元主人公先輩のお友達さんですよね?」

一応存在は認知されていたらしい。

主人公(そういや以前の略奪愛云々のとき、よく考えたら女後輩さんに話しかけられてたっけ)

女後輩「それより、教えてくれるって本当ですか!?
実は数学の小テストが明日あって…もし教えてくれるなら凄く助かるんです…っ」

それを聞いて主人公は思い直した。先ほどの彼女の驚きは拒絶ではなく、むしろ感激だったのだと。

主人公「本当だぞ。といってもここはアレだから、図書室にでも行くか?」

女後輩「はい! お願いします!」

◆妹の決意

放課後となった教室で、妹は友達に話しかけられた。

妹の友達「ねぇ妹~! 聞いた聞いた~?」

妹「やけにテンション高めだけど、どうかした?」

妹の友達「あんたのお兄さんがさ。隣のクラスの女後輩に、
図書室で…手取り足取り勉強教えてたって噂になってるよ~?」

妹「ふーん」

妹の友達「あれ? 反応うっす。動揺したりしないの?」

妹「なんで動揺しないといけないんだか」

むしろそれは妹の予想していたことでもあった。兄が【主人公】としての自覚を持った以上、
これまでとは違ったことが起こる可能性は十分に想定していたからだ。
女後輩と接点ができたというのも、たぶんその一環なのだろうと。

妹の友達「奪われちゃうよ? いいの?」

妹「いや、奪われるって…別にお兄ちゃんはあたしの彼氏じゃないし…」

妹の友達「一緒に過ごす時間も奪われちゃうよ?」

妹「…!?」

そして、この言葉には反応する妹だった。

妹(待てよ…よく考えたら、女後輩ちゃんをはじめとして
他の人と接する時間が増えたら、相対的にあたしとギャルゲする時間が減る…ッ!?)

妹の友達「いいのかな~?」

妹「よくないッ!!」

妹の友達「うわ!? びっくりしたぁ…」

突然の絶叫に友達は驚いた。

妹(…とはいっても、あたしのためだけにお兄ちゃんの他の人との交流を狭めるのは悪いし)

そんなジレンマがあったからこそ、妹は決意した。
もしかしたら一緒にいられる時間が減るかもしれないけど…
とあるお願いごとをしてみようと。

投稿を一時中断。最後にエピローグを投下する前に
今まで本編に登場した作品をまとめておこうと思います。
(※一瞬名前が挙がっただけの作品は省略)

◆ギャルゲ
『ときめきメモリアル』、『アマガミ』、『D.C. P.S.』、『D.C.Ⅱ P.S.』、
『さかあがりハリケーン Portable』、『あかね色に染まる坂 ぽーたぶる』、
『Toheart2』『リトルバスターズ! Converted Edition』、『ホチキス』、
『SHUFFLE!(シャッフル!)』、『CLANNAD(クラナド)』

◆それ以外のゲーム
『Chaos;HEAd(カオスヘッド) NOAH』、『星のカービィWii』、
『モンスターハンター』、『サイレントヒル3』

◆漫画
『いちご100%』、『名探偵コナン』、『斉木楠雄のΨ難』、『左門くんはサモナー』

◆音楽
Acid Black Cherry『DRAGON CARNIVAL』、SEKAI NO OWARI『眠り姫』

◆その他
桜新町のサザエさん像

では、投下のほうに戻ります。

◆エピローグ

主人公「ただいま」

妹「おかえり。ねぇお兄ちゃん…
今日さ、女後輩ちゃんに手取り足取り勉強教えてたって本当?」

主人公「え、なんだよ手取り足取りって…俺は普通に教えてただけだぞ」

妹「まぁそうだろうとは思ってたけど。で、楽しかった?」

主人公「楽しかったというか…とりあえず女後輩さんが
問題を解けるようになったから、それは素直に嬉しく思うかな」

妹「そっか。あのさ、お兄ちゃんに一つお願いがあるんだ」

主人公「なんだ?」

妹「今後さ。お兄ちゃんのリアルがいろいろ忙しくなったり…たぶんあると思うんだよね」

主人公「まぁ…そうだな? 人生ってのは何が起こるか分からんし」

妹「うん。それでもさ…それでも、あたしと遊ぶ時間は、
ちょっとでいいから確保してくれてたら嬉しいな。なんて…」

主人公「……」

主人公「そんなことか」

妹とは対照的にあっけらかんと言い放つ兄。

主人公「改まって何を言うかと思えば。
お前との時間を確保するのは当たり前だろ。というより――」

妹の目を真っすぐ見て、兄は言う。

主人公「たとえ忙しくなったとしても、お前を無下にしたりなんて
絶対しない。何かあったら助けてやりたいとも思ってる」

妹「お兄ちゃん…」

主人公「その代わり、俺に何かあったらお前が助けるんだぞ」

妹「えぇー」

まさかの兄からのお願いに妹は脱力した。

主人公「こういうのは持ちつ持たれつって言うじゃないか」

妹「じゃあ…今日の夕飯は一緒に作る?♪」

主人公「たまにはそういうのもいいかもな」

これから主人公がどんなストーリーを歩んだとしても――

少なくとも妹との時間が潰えることはなさそうだった。
それは主人公の唯一操作されえない部分であったし、
妹もまた、兄との時間共有に向けて…
夕食を終えた後、早速自室の本棚にてゲームを見繕っていたのであった。

妹「次は…『この青空に約束を』あたりでいってみよっかな?」

memory that will last for a lifetime...

以上です。ここまで見てくれた方々、ありがとうございました。

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