「はぁ、はぁ、はぁ……ここまで来れば食われることもないだろう……」
俺は食われる寸前にあったある食い物だ。
なんの運命のイタズラか、心と動く力を手に入れることができた俺は、
どうにか食われる前に逃げ出したのだ。
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人間どもから逃げ切るのは本当に大変だった……。
奴らの目を盗んで皿から飛び出し、丸く、手足になるようなものもない体で、必死に逃げた。
逃げまくった。
食われたくない。その一心で俺は逃げ続けた。
人間には「食い物は食われることを望んでいる」「食べてあげることが供養になる」
という価値観を持つ者が多いらしいが、そんなことは決してない。
食われて終わる生と、食われず安らかに朽ちていく生。
どちらがいいと尋ねられたら、圧倒的に後者の方がいいに決まってる。
人間だってそうだろう?
誰だって食われて死ぬよりは、安らかに天寿を全うしたいはずだ。
食い物だって同じことなのだ。
とにかく、ここまで登ってくればもう安心だ。
あとは静かに腐って、朽ちていくのを待つだけ。
俺はようやく安息の地を手に入れたのだ……。
だが、異変が起こる。
「なんだ、この揺れは?」
俺のいる場所が、突然揺れ始めた。
揺れの原因はどうやら地震のようだ。
そこまでの震度ではないのだが、俺のいる場所はヘタクソな日曜大工で作られたらしく、
震度以上によく揺れる。
なんという手抜き工事だろうか。
俺の丸い体には、その場に留まる力は少なく、もはや自身の転がりを抑えることはできなかった。
いきなりの地震、手抜き工事、転がりやすい体……悪条件が重なりすぎだ。
やっと人間から逃げ切ったと思ったのに……。
せっかく安らかな余生を送れると思ったのに……なんという不運!
揺れはますますひどくなり、今いる場所からの落下は避けられそうにない。
しかも、最悪なことに下には人間がいるじゃないか!
「あんだけ苦労してここまで来たのに、こんな結末になるなんてあんまりだぁ!
思いがけない不運ってのはこういうことをいうんだぁぁぁっ!」
俺は自分のあまりの運の悪さを呪い、絶叫した。
絶叫しながら落ちていった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!!」
――ぱくっ。
「ん……寝転がってたら小さな地震が来て、そしたら棚からぼたもちが落ちてきた。
こりゃラッキーだ」
ぼたもちはよく噛まれ、よく砕かれ、よくすり潰され、よく味わわれ、そして、
「ごちそうさま」
飲み込まれてしまった。
【棚から牡丹餅(ぼたもち)】
思いがけない好運がめぐってくることのたとえ。
――広辞苑より抜粋。
― おわり ―
誰かの幸運は不運であるというオチは良いけど
もっと短くまとめられたんじゃないかな
最後のセリフも説明的すぎた印象
落ちてるようで落ちてない……
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