注意
※地の文あり
※ジョジョネタはスレタイだけ
※灯織の中学時代妄想です
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「アイドル、ですか?」
同級生A「あれ、風野さんは知らなかったんだ。学園祭のステージで、アイドル呼ぶんだって」
「珍しいですね。中学生の学園祭でアイドルって」
同級生A「んー、確かに。でも実行委員の連中はノリノリでさー。何でも今日うちに下見に来るらしいよ、アイドル」
「そうですか」
登校すると、教室はいつもより少しだけ騒がしかった。
私はその理由を聞くと、そそくさと自分の席に移動して、イヤホンを耳に通す。
そうすれば、誰も私に話しかけて来なくなる。
それだけで、いつも通りの朝だ。
『価値ある人間であれ』
それが父親の口癖だ。
父と母は二人とも優秀な人間だった。
当たり前のように他者より優れていて、求められるままに結果を出せる。そんな人達だった。
幼少の頃は、私もそんな在り方を求められていたように思う。
しかし悲しいかな。私、風野灯織に優れた才能は無かった。
勉学も、芸術も、スポーツも、特筆すべき結果を残すには至らなかった。
もちろん、人並み以上に努力はした。だけど、得られる結果も人並み以上。人並み外れた結果は得られない。
詰まる所、私は凡人だったのだ。
そんな私が、家事を自分でするようになるのに時間はかからなかった。
せめて、自分のことは自分でできるように。
せめて、優れた両親の負担にならないように。
そんな思いがあったからか、家事の習得だけは早かったし抵抗もなかった。
自分の家事をするなどは、私にとっては当たり前。
例えば、「自分のお弁当を自分で用意する」ということも、私にとっては当たり前だったのだ。
同級生B「ひょっとして、風野さんってお弁当自分で作ってる?」
昼休み、学園祭にむけての話し合いはお弁当同伴で行われた。
クラス委員の私とAさん、学園祭実行委員のBさんの三人で、クラスとしての出し物を決めるという趣旨のものだったのだが……
同級生A「ん? どゆこと? 風野さんのお弁当変なの?」
同級生B「変って程じゃ無いけど、飾りっ気が無いからさー。あ、悪口言ってるわけじゃなくてね」
確かに私のお弁当の見た目は地味だ。理由は単純に、自分用で凝った物にする必要が無いから。
Bさんの予想はピタリと的中していた。
「自分で作ったものです。殆どが夕食の残り物ですが」
同級生B「この前も同じ感じだったけど、その時も?」
「はい。基本的には毎日自分で作っているので」
同級生A「へぇー、大変そう。しかしBもよく気が付いたねぇ」
同級生B「私も一時期作ってたんだよ。それが意外と面倒でさー。メニュー考えるのも、早起きするのもさ」
同級生A「うへー、私には絶対無理そう。母親任せでいいかなぁ……」
同級生B「私は一週間しか続かなかったな。風野さんはその点凄いね。大変じゃない?」
「大変だと思ったことは無いです」
「自分のことを自分でするのは、当たり前のことですから」
そう言葉にして、すぐに私は後悔した。
AさんとBさん、二人の顔が強張る。
同級生B「えっと、そのぉ……」
その反応は当たり前だ。
彼女達にしてみれば、自らの怠惰を責められたのだから。
「あ、その! そういうつもりじゃ……」
同級生A「はいはい、この話は終わり! そろそろ本題に入ろー!」
同級生B「あ、うん、そうだね。じゃあクラスアンケートの話から……」
最初の朗らかな空気はとうに消え去っていた。
またやってしまった。
そう思い、私は私を呪う。
放課後の教室。
私は帰る気にもなれず、音楽を聞きながら机に突っ伏していた。
昼休みの失言が、私の中で尾を引いていた。
もう少し考えて発言をするべきだった。
自分が口下手なことなど、とうに分かりきってる事だったのに。
「……っ」
自分の腕を強くにぎる。
曲の音量を上げる。
強く目を閉じる。
そうやって心を固くしなければ、自己嫌悪に押しつぶされてしまいそうになる。
私は部活動に所属していない。
あらゆる物に結果を求めて、求められていた私は、何かを好きになることが出来なかった。
そんな自分が、同好の集まりに所属することが許せなかった。
異分子になってまで、得られるものがあると思えなかった。
だから、曲と曲の切れ目に、校庭の喧騒が聞こえてしまった時、私は駄目になってしまった。
部活動の楽しそうな声。
それは、否応がなく自分の何もなさを思い知らせて来るのだから。
「……もう、嫌……」
私は、口下手な自分が嫌いだ。
私は、何かを好きになれない自分が嫌いだ。
私は、何も持っていない自分が大嫌いだ。
だけど、本当は自分のことを……
?「あのー、すみませーん!」
私以外に人のいなかった教室に、突然人が入ってくる。
顔を上げて見てみると、高校生くらいの可愛い女の人が立っていた。
?「えっと、ここの生徒さんですよね? 私、道に迷っちゃって。校長室に行きたいんだけど……」
?「あ! 私は別に怪しい者じゃなくてね! 仕事でここに来てるんだけど……」
?「うぅ……。プロデューサーさんに、心配かけてるんだろうなぁ……」
相当テンパっているのか、女の人はこちらの言葉を聞かずに、まくし立てていた。
「えっと、アイドルの方ですよね? 今度の学園祭に来ていただける」
アイドル「あ、はい! そう! そうです!」
「校長室、案内しますよ」
アイドル「灯織ちゃん、本当にありがとうね!」
校長室までの数分で、随分と彼女は距離を縮めてきた。
私とは全然違う人だと思った。
「いえ、当然のことをしただけです。それではこれで……」
アイドル「あ、ちょっと待って灯織ちゃん」
「……? 何でしょうか」
アイドル「学園祭の私のステージ。絶対見に来てね」
「それは、どういう……」
アイドル「何だか悩んでるみたいだったから。元気になって貰えれば、って」
「……!」
その彼女の微笑に驚いた。
ほんの少し歳上なだけのはずの女性の笑顔は、見たことの無いものだった。
見ていて、安心する笑顔だった。
「……考えておきます」
私はこの時、初めてアイドルというものに興味が湧いた。
そして、学園祭当日。
私はステージを見るために、屋上に足を運んでいた。
ほとんどの生徒はステージを間近で見るために、校庭に出ている。
無人の屋上は居心地が良かった。
アイドル「それじゃあみんな! 盛り上がって、いっくよー!」
あの時のアイドルが、マイクを持って立っている。
音楽が鳴り始める。
ステージの熱は、まだ伝わってこない。
「……これは」
最初の感想は、『期待外れ』だった。
歌は上手いと言えるものだが、トップシンガーと呼ばれる人達と比べるほどでは無い。
ダンスも同じ。完成度は高いが、有無を言わせぬ迫力があるわけでは無い。
つまり凡庸。努力でたどり着ける領域の物に過ぎない。
だから、心が動かされるわけがない。
凡庸では、価値あるものにはなれない。
そう思った。
そう思っていた、はずなのに……
「……これ、は……」
ステージの周りは笑顔で満ちていた。
誰もが笑っていて、楽しんでいる。
そして何より、ステージ上のアイドルが、誰よりも眩しい笑顔を浮かべている。
「……あ、あれ?」
私の目から涙がこぼれる。
何で泣いているのか、何で他の誰も彼もが笑顔なのか、私にはわからない。
アイドル「それじゃあ、二曲目! 曲名は……」
ステージは続く。
その熱がようやく屋上に伝わってくると、この場所がひどく寒かったことに気がついた。
「はは、あはは……」
自分からも笑みがこぼれる。
涙を流しながらで、感情の整理もついていない。
外から見たら酷い笑みだろうが、私は確かに笑えていた。
そうして、同時にステージ上のアイドルを見て思う。
私もいつか、あんな笑顔で笑いたいと。
そうすれば、きっと……
めぐる「へぇー! 中学生の時にアイドルが来たんだ!」
灯織「うん。それがアイドルを志したきっかけかな。真乃は?」
真乃「私は公園で鳩さんと歌ってたら、プロデューサーさんにスカウトされて……」
めぐる「あはは! 真乃っぽーい!」
灯織「真乃はいい声してるもんね」
真乃「ほわ……。そ、そうかな……?」
めぐる「あ! 公園で思い出したんだけど、ピクニックだよピクニック!」
めぐる「二人でピクニック行ったことあるって聞いたよ! 私も行きたい!」
真乃「それ、結構前の話のことだよね」
灯織「でも名案だと思う。今度オフが合えば、三人で行こうよ」
めぐる「うん! 賛成賛成ー!」
真乃「じゃあまたお弁当頑張ってくるね。むんっ」
灯織「それなら私も頑張る。二人の好きなもの、もっと知りたいから」
真乃「ほわ……」
めぐる「……!」
灯織「あ、あれ? また私変なこと言ったかな……?」
真乃「ううん、全然! ただ嬉しくて、ほわってしちゃって」
めぐる「そうだよ! 感動の『ほわ』だよ!」
灯織「全然分からないんだけど……」
めぐる「灯織、大好き!」
灯織「ちょっと、めぐる! いきなりくっ付かないで!」
めぐる「えへへー」
真乃「ピクニック楽しみだね。灯織ちゃん! めぐるちゃん!」
終わりです。
読んでくれた方、お目汚し失礼しました
おっつ
今までにないタイプの信号機三人組で凄く良いですよね
乙乙
良かった
乙乙
全方位自爆形アイドル好き
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