男「う、ううっ……」ﾋﾟｸﾋﾟｸ

男「バカな……自転車が、子供に競り負ける、だなんて……」

幼女「この程度？」

幼女「じゃあね」ｽﾀｽﾀ

男「ちくしょう……ちくしょーっ！！！」

執事「大丈夫でございますか、お坊ちゃま！」

男「じ、じい……」

執事「ひどいお怪我を！　すぐに病院に！」

男「いや、そんなことより僕はあのガキに復讐しなくちゃ気が済まない……！」

男「全財力を費やして、あのガキを見つけ出すんだ！」

執事「かしこまりました！」

男『わっ！？』ｷｷｰｯ

幼女『キャーッ！！！』

ﾄﾞｶﾞｼｬｧｧｧﾝ




執事「幸い、防犯カメラに一部始終が録画されておりましたので、幼女の特定は容易でしょう」

執事「我が財閥の調査チームを総動員させております」

男「特定したらすぐに知らせろ！」

男「あのガキには僕自ら鉄槌を下してやるんだ！」

執事「あの幼女を発見致しました！」

男「よくやった！」

執事「ところで復讐というのは一体どうやって……？」

男「決まっているだろう。自転車がダメだったのなら、自動車だ！　自動車で轢いてやるのさ！」

男「じい、ベンツを用意しろ！」

執事「はいっ！」

男「見つけたぞ、幼女！」

男「さすがのお前でもベンツで轢かれたらひとたまりもあるまい！」

男「喰らえーッ！！！」ﾌﾞﾛﾛﾛﾛﾛﾛ…

幼女「キャーッ！！！」





ドゴォォォォォンッ！！！

男「ベンツの方が……大破した、だと……！？」

幼女「ぬるいわね」ｽﾀｽﾀ

男「あぐぐ……またしても……」

執事「お坊ちゃま、しっかりなさって下さい！」

男「じい……今度は重機だ！　ブルドーザーを用意しろ！」

執事「かしこまりました！」

男「ふはははは、また会ったな！」ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ…

幼女「あっ！」

男「ここで会ったが百年目！　ブルドーザーでミンチにしてやるぁ！」ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ…

幼女「キャーッ！！！」





グワッシャァァァァァンッ！！！

男「が、がは……っ！　ブルドーザーでも、ダメ、なのか……」

幼女「期待外れもいいとこね」ｽﾀｽﾀ

男「期待、外れだとぉ……！？」

男「じい！」

執事「はっ！」

男「だったら今度こそ期待に応えてやる！　じい、今すぐ戦車を買ってこい！」

執事「お坊ちゃま、いくらなんでもやりすぎでは……」

男「やりすぎ？　あのガキにそんな常識は通用しない！」

男「幼女ーッ！！！」ｷｭﾙｷｭﾙｷｭﾙ…

幼女「またあなた？」

男「見ろ、戦車だ！」

男「この戦車でその可愛い顔をペシャンコにしてやるぜ！　覚悟しやがれ！」ｷｭﾙｷｭﾙｷｭﾙ…

幼女「キャーッ！！！」





ズガドゴォォォォォンッ！！！

男「戦車が、廃車に……」

幼女「あなたと遊んでる暇はないの」ｽﾀｽﾀ

男「遊び……！　僕の本気があの子にとっちゃ遊びかよぉ……！」

執事「お坊ちゃま……もうよろしいのでは……」

男「やだ！　僕は諦めないぞ！」

男「こうなったら戦闘機だ！　じい、戦闘機を買ってこい！」

執事「はい……」

男「ハッハーッ！　さすが米軍最新式の戦闘機、すごいスピードだ！」ｺﾞｫｫｫｫｫｯ

男「ミサイルとソニックブームの合わせ技で、今度こそあの幼女を……」ｺﾞｫｫｫｫｫｫｯ

男「――ん！？」ｺﾞｫｫｫｫｫｫｯ





幼女「ごめんね……」

弟「ううん、いいよ……」

幼女「欲しがってたミニカーを買ってあげたかったんだけど、お金が足りなくて……」

弟「ううん、だいじょうぶ」

弟「ありがとう、お姉ちゃん」ｺﾞﾎｯｺﾞﾎｯ

幼女「あ、お水もってくる！」





男「……」

おもちゃ屋店員「ありがとうございましたー！」





男「……」ｽﾀｽﾀ

男（このミニカーを……そっと彼女の家に置いていこう）

男「……」ｿｯ

男（すまなかったな……お嬢ちゃん）

男（弟のためにミニカーを買おうとしてた君を、車で轢いてやろうだなんて……）

男（僕は……間違っていた）

男（このミニカーで弟くんを喜ばせてあげてくれ……）

幼女「ちょっと待ってよ！」

男「！」

幼女「プレゼントしたまま逃げる、“置き逃げ”だなんて許さないんだから！」

男「だけど、僕は君のことを……」

幼女「ううん、もういいの」

幼女「お兄さん、一緒にあそぼ？」

男「……ああ！」

弟「ブーン、ブーン！　ぼくの車、はっやいぞー！」

男「おいおい、車は左側通行だぞー！　負けるかー！　ブオーン！」

幼女「キャハハ！　二人とも、交通ルールを破っていいのはミニカー遊びの時だけだよー！」

ｱﾊﾊﾊﾊ…



執事「ご立派になられましたな……お坊ちゃま」










　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　～おわり～

ｲｲﾊﾅｼｶﾅｰ?