【モバマスSS】前川みく「待ち合わせ」 (23)
ひゅうっと冷たい風が通り過ぎる
うう……寒い……Pチャンまだぁ?
こんなに寒いなら手袋を持ってくれば良かったな
冷たくなっちゃった手を合わせて、ほうっと息をかける
ちょっぴりあったかくなって、すぐにまた冷たくなっちゃう
「さむ……」
夜空を見上げると、お月様が静かに光ってる
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雲一つなくて、今日はとても綺麗に見えるな
うう……上向いてると首元が開いて寒い
みくが寒さに震えていると、革靴が石畳をこつこつと叩く音
「お待たせ。寒いのに悪かったな」
ほんとだよ、みくの手はひえひえなんだからね
「もう、遅いよっ! とは言えないもんね。お疲れ様、Pチャン」
いつも、みくたちのために頑張ってくれてるもんね
まぁ、それはそれとして
みくの手がこんなに冷たくなっちゃったから、Pチャンにあっためてもらおうかな
「どうした? そろそろ行くぞ」
ちょうどよくPチャンが背中を向けたので、こっそりと忍び寄って
「……えいっ!」
そして、少し遅れてからPチャンの変な声
「つめてぇ! はっ、離せみく!」
あー、Pチャンのほっぺあったかいにゃあ……
「みくの手がこんなにひえひえになっちゃんだよ? 責任とって」
「責任ってお前なぁ……あ、ラーメンでも食いに行くか」
ラーメンかぁ、体も温まりそうだしそれも良いかも
「後、俺のほっぺから手を放せ」
「それは聞けないお願いかにゃ、それと魚介系はなしだよ?」
「ちっ……」
今舌打ちしたよね? 絶対したよね?
Pチャンとみくの「待ち合わせ」
別に付き合っていたり、デートをするわけでもなくて、いつもの場所で待っているってだけ
でも、Pチャンを待っている時のみくはきっと退屈とか、そんな感じじゃなくて
んー……言葉にするのはちょっと難しいかも
その日のお仕事のこととか、ほかのアイドルの子たちのお話をして
時間があれば一緒にご飯食べて、それでおしまい
この「待ち合わせ」が始まってから、Pチャンと帰るのがとても楽しい
****
みくが事務所のソファで雑誌を見ている時
「悪いみく、今日の待ち合わせは無しだ」
Pチャンがみくを見つけるなり、そう言った
「う、うん。お仕事忙しそうだもんね」
「埋め合わせはいつかするからさ」
なーんだ、残念……今日も一緒に帰れると思ったけど仕方ないか
今日はどこかでご飯食べて帰ろうかな
あ、蘭子ちゃんがハンバーグ美味しいところ見つけたって言ってたし、そこ行ってみよ
今日はハンバーグ♪ 蘭子ちゃんのお墨付きなら期待できるかも
食べたカロリーはレッスンで消費するから大丈夫! なはず
まだ見ぬハンバーグにテンションが上がっちゃって、いつもの「待ち合わせ」の場所を通りすぎる
……そこで、見慣れた二人の背中を見つけた
待ち合わせでもないのに誰かを待つPチャンと
ふわりとしたボブカットでスレンダーな女性、え……楓さん?
二人がこちらに歩いてきたので、思わず隠れちゃった
なんで隠れてんの……普通に声かければよかった
これじゃ、何かみくが悪いことしてるみたい
「これからどうしましょう?」
「そっすね……時間もありませんから、とりあえず物を見たいと思います」
「ええ、わかりました。素敵な物があると良いですね」
むぅ……なんか楽しそうに話してるし
「タクシー拾いますから、ちょっと待っててください」
ふぅん、楓さんにずいぶんと優しいんだね
二人の会話を聞き逃すまいと、隠れながらできるだけ近づいてみる
でも、そんなに上手くいくわけなくて、前のめりになりすぎた
気づいた時にはバランスを崩していて、楓さんに気付かれちゃった
「あら……みくちゃん、お疲れ様」
「お疲れ様です、楓さん」
Pチャンとどこに行くんですか? とは聞けなかった
「一緒に帰りたいところだけど、今日は用事があるの。ごめんなさい」
深くお辞儀をする楓さん
用事……Pチャンとの、何の用事?
「えっと、みくは一人でも帰れるので……」
失礼しますと頭を下げて、楓さんから逃げるようにして走り出した
後ろからPチャンと楓さんの声が聞こえた気がしたけど、気にしない
人込みを抜けて、とにかく走る
息が上がってもお構いなしに、とにかく前へ、嫌なことが追いかけてこないように
でも、やっぱり限界はあるわけで、公園の近くで足が動かなくなっちゃった
……ちょっと休憩していこうかな、ベンチもあるみたいだし
はぁ……みく何やってるんだろう
ベンチに座って、ため息をひとつ
白い息がふわりと登って、やがて消える
そこに残るのはもやもやした、嫌な気持ちだけ
楓さんとPチャンどこに行くのかな、ご飯? お酒?
それとも……ううん、こんなこと考えれば考えるほど嫌な気分になる
だけど、だけど……
嘘はついてほしくなかったかな
二人で出かけるなら、そう伝えてくれてもいいのに……
そりゃあ、みくもいい気分じゃないけど……それでも嘘をつかれるよりかは全然良いよ
空を見上げると、いつかの空みたいにお月様が綺麗に見えた
お月様は大きな空で一つだけで寂しくないのかな?
それとも、周りのお星様とお友達で平気なのかな?
みくは何だか一人ぼっちに思っちゃって、悲しいな……
「ここにいたのか……」
みくとお月様の間に見慣れた顔
「ほっといて、猫ちゃんは気まぐれなの」
走ってきたのかな、Pチャンの息がぜぇぜぇしてる
「ほっとけるかよ……くそ、最近運動不足がたたってるな……」
息を整えるためか、Pチャンが深呼吸を何度か
「楓さんはどうしたの? 早く戻ったほうが良いよ」
「あれは……みく、俺の話を聞いてくれ」
嘘をついておいて、よくそんな事言えるね
「都合が良すぎると思わない? みくに嘘までついて」
「あれは確かに俺が悪かった、すまない」
頭を下げるぐらいなら、最初からやらなければいいんじゃないかな
「話はそれだけ? みくはもう帰るから」
体も冷えてきたし、もうPチャンと話すことはないかな……
「待ってくれ、あれは……理由があるんだ」
弱弱しい言葉で、そんなになっても言い訳するんだ
……それなら、もういいや
「どうせ大した理由じゃないんでしょ? お疲れさまでした」
適当にお辞儀をしてから、Pチャンに背中を向けて歩き出す
今日は李衣菜ちゃん呼んでたくさん愚痴っちゃおうかな
そうだ、スイーツとかいっぱい買ってやけ食いしちゃうんだからっ
「……みくの誕生日が近いから、プレゼントを見繕ってもらおうかと思ったんだ」
みくの足を止めたのは、そんな一言だった
「本当は俺が選べば良かったんだけど、自信がなくてさ……」
みくの誕生日。そっか、そういえばそろそろだった
「楓さんとお酒飲んだり、ご飯食べに行くんじゃなかったの?」
「トップアイドル様に手なんか出せるかよ、明日から飯が食えなくなる」
ふぅん、そっか
「でもさ、なんで嘘なんてついたの? それに、他の女の人と買いに行こうとしたの?」
「それは……」
困ったように頭をかいて、Pチャンがゆっくりと口を開いた
「こうでもしないと買いに行く時間が取れなかったんだ。最近いつもみくを送っていたし」
あ……確かに最近は毎日みたいにPチャンと帰ってたかも
「楓さんは……みくちゃんのプレゼントなら私が選びませんと! とかつまらないダジャレ言って、な?」
楓さんはぶれないにゃあ……
じゃあ、つまりはみくの勘違いってことかな? でも、やっぱり嘘はよくないよね?
「でもでも……やっぱり嘘は良くないよ? みくの気持ちわかる!?」
今日も一緒に帰れるって思ってたのに、嘘までつかれたみくの気持ち
「ねぇ、Pチャンに……わかるの?」
「すまない。みくのためと思って動いたけど……この通りだ」
「謝るのなんて誰でもできるよっ! なんで? ……なんでみくに……」
気持ちが抑えられないや、もう自分でもどうしたらいいのかわからない
「ばか、ばかばかっ! Pチャンなんて大っ嫌い!!」
子供みたいにPチャンを一方的に責めちゃったけど
みくは自分自身も大っ嫌いになっちゃいそうだった
勝手に涙が溢れて、目の前が滲んでいく
その中で、Pチャンが困った表情をしているのだけはわかった
「みく……」
Pチャンがみくに少しずつ近づいてくる
「見ないで……泣いてる顔見られるの、嫌だから」
Pチャンと顔を合わせたくなくて、そっぽを向くけど
「ふにゃあっ!?」
みくのほっぺを抑えて、無理やり顔を正面に戻された
「ちゃんと顔を見せろ、みくの顔を」
離してほしいのに、顔を見られたくないのに
体に力が全然入らなくて、Pチャンの手を振りほどけない
「Pチャンの、ばか……」
みくのばか……心の中でそう呟く
「ああ、馬鹿で良いよ」
ほっぺに触れているPチャンの手はまだ冷たいけど
胸の奥がぽかぽかしてきて、全然気にならない
なんだろう……不思議な気持ち
「ごめんな、こんな思いさせちゃって……」
「謝っても許してあげない、こういう時は行動で示すの」
「行動? ……今誰もいないよな」
きょろきょろと辺りを見回すPチャン。そして、こほんと咳払いをしてから、みくに顔を近づけてくる
それから、おでこの辺りにちょっとカサついてて温かい感触がした
「今回はこれだけだ。それにしても、みくのほっぺ本当にあったかいな」
恥ずかしそうに言うPチャンに、みくはできる限りの笑顔で返す
「仕方ないにゃあ。みくのほっぺであったまっていいよ」
Pチャンの手に自分の手をそっと重ねて、包み込む
このあったかい気持ちをくれた人を離さないように
おしまい
読んでくれた人に感謝を
みくにゃん担当P、また、みくにゃんを愛する方たちに送ります
お疲れさまです!
みくにゃん良いにゃん
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