――おしゃれなカフェ――
北条加蓮「明らかに私の顔を知ってるって反応だったね、今の店員さん」
高森藍子「加蓮ちゃんの声が聞こえないうちから、こっちに案内していましたよね」
加蓮「常連さんだって言い張っていいのかな」
藍子「そのうち、記念品とかもらえちゃうかも」
加蓮「藍子だったら何が欲しい?」
藍子「そうですね……ハンカチとか、欲しいかもしれないです」
加蓮「なんて控え目な」
藍子「でも、この時期はすぐに……。よく汗をかいちゃうから」
加蓮「言われてみれば確かに、あるに越したことはないよね」
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以下の作品と同じ設定の物語です。
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「たまにはジャンクフードでも」
藍子「あっ、来ました。はいっ、朝食セット、この子です。ありがとうございます。……あの、ごめんなさい。もうお昼も近いのに……」
藍子「え? まだお出しする時間だったから大丈夫……? あはっ、よかった。ありがとうございますっ」
加蓮「ありがとっ。え、なになに。いつも来てくれる人の為だから? ……あはは、だってさ、藍子」
藍子「さっそくもらえちゃいましたね、記念品♪」
加蓮「だねー。ううん、こっちこそお世話になってますっ。ありがとね♪」
藍子「……あはっ♪」
加蓮「……何? どしたの?」
藍子「いえっ。私、やっぱりこっちの方がいいなって」
加蓮「こっちって……ああ、この前のジャンクフード?」
藍子「はいっ。こっちの方が、みんなゆっくりしてて、静かで……お店の中にいるだけで、店員さんや、他のお客さんと、おんなじ時間を過ごしているって気になれます」
加蓮「そっか。……店員さーん? 後ろ姿だからってバレてないと思ってる? 今ニヤけたでしょ。ねえニヤけたでしょ」
加蓮「駄目だよ。藍子は私のなんだから」
藍子「私、加蓮ちゃんのだったんですか?」
加蓮「藍子が離れたくなるまで限定でね」
藍子「それじゃあ限定って言いませんよ」
加蓮「……ところで朝食セットって?」
藍子「加蓮ちゃん、午後からも収録ですよね。これを食べたら、朝ごはんを食べたって気分になれるかなって」
加蓮「うーん……?」
藍子「ほら、朝ごはんって、朝に起きてすぐ食べるものじゃないですか」
加蓮「そだね。食べないとちょーし落ちるよ」
藍子「じゃあ、朝ごはんを食べたら、まるでその時が朝起きたばかりの時みたいに思えて」
藍子「そうしたら、朝の仕事の疲れも取れるかな、なんて……さ、さすがに回りくどかったですか?」
加蓮「藍子にしては回りくどいなー。私、変な影響を与えちゃってる?」
藍子「加蓮ちゃんからは、いつも良い影響を受けてるつもりですよ」
加蓮「ありがと。ま、いいや。いただきます」
藍子「はいっ」
加蓮「んぐ……」メダマヤキ
加蓮「んぐんぐ……」ヤサイ
加蓮「んぐんぐ……」シロゴハン
加蓮「……」
加蓮「あ、なんか藍子の言いたいことが分かった!」
藍子「よかったですっ♪」
加蓮「おはようございます、藍子」ペコッ
藍子「おはようございます、加蓮ちゃん」ペコッ
加蓮「うん、今起きた。あれ? 私って今日もう仕事したっけ?」
藍子「加蓮ちゃんは、今起きて、お仕事に行く前に充電をしているんですよ」
加蓮「そっかー。ちょっと疲れてる気がしてたけど、気のせいだったんだね!」
藍子「朝からここに来るまで歩いちゃったから、きっと体がびっくりしちゃったんですっ」
加蓮「そっかそっか。よしっ、しっかり回復して午後からも頑張らなきゃね」
藍子「頑張ってくださいね!」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「……いやこれ洗脳じゃん」
藍子「せ、せめて思い込んでもらうってくらいにしましょうよ……」
加蓮「でもさ藍子。これはズルだよ。ズル」
藍子「えーっ。加蓮ちゃんのスケジュールを見て思いついたのに」
加蓮「午前と午後の仕事に3時間の空きがあるのも見据えた上で?」
藍子「ここでなら、ゆっくり過ごせるかなって……事務所は楽しいですけど、賑やかになっちゃうから」
加蓮「確かにね。あそこにいたら休まるものも休まらないよ」
藍子「ちょっとでも体力が回復できるなら……」
加蓮「…………はー。駄目だ。なんか藍子の掌でダンスさせられてるなぁ、私」
藍子「くすっ。……えへへっ」
加蓮「なんでそんなに嬉しそうなの」
藍子「だって加蓮ちゃん、いつも捻くれたことばっかり言うから……素直になってくれたら、それだけで私は嬉しいです」
加蓮「北条加蓮って某ネット百科事典で検索してみるといいよ。『北条加蓮とは、捻くれ者である』って1行目に書いてあるから」
藍子「それなら私が『加蓮ちゃんは、頑張り屋さんです』って書き換えちゃいます」
加蓮「じゃあ逆に考えてみてよ藍子。私が一切、冗談も言わない、からかうこともしない、意地悪も言わない。そんなの想像できる?」
藍子「もちろんです」
加蓮「…………即答」
藍子「というより、こうしてお話する前の加蓮ちゃんのイメージって、そんな感じでしたから」
加蓮「そういえば言ってたっけ。もっと真面目そうに見えるって」
藍子「最初の頃は、話しかけるのもちょっと躊躇われるくらいで……」
加蓮「そんなもんかなぁ……見えているようで見えていない物だね、自分のことなんて。こうさ、身体の外側に目があったらいいのに」
藍子「か、体の外側に??」
加蓮「なんか『ドラえもん』でそういう話なかったっけ。いや、あれは身体の違うところに目を付けるヤツだったかな? どうしてもお金が拾いたい話……だっけ」
藍子「詳しいんですね」
加蓮「『ドラえもん』くらい知ってるでしょー」
藍子「知ってますけど、そんな道具あったかな? って。それに、そんなお話があったなんて、パッとは出てきませんよ~」
加蓮「漫画はひと通り。暇つぶしには最適だったよ」
藍子「じゃあ、奈緒ちゃんとアニメの話ができたりも」
加蓮「んーん、奈緒相手なら聞き専。奈緒はどっちかっていうとオタク寄りのアニメだからなー。ポケモンとかサザエさんとかなら見てたけど、深夜アニメとかはもう見る手段がなかったからね」
藍子「それって、入院していた頃の?」
加蓮「いくざくとりー」
藍子「い、いくざ??」
加蓮「って返せばいいんだって。これも奈緒情報。そして今、知らない人に通じないじゃん! って脳内で奈緒をはたいた」
藍子「あはっ。私も、頑張ってついていかな」
加蓮「くていい」
藍子「えーっ」
加蓮「相手に合わせるより自分を主張していかないと、事務所の中で埋もれるよ?」
藍子「うう、私は控え目なくらいでいいんです」
加蓮「控え目」
藍子「控え目」
加蓮「…………」チラッ
藍子「……………………」
藍子「あ、店員さーん。すみません、この子に新商品の激甘いちごワッフ――」
加蓮「ごめん私が悪かった」
加蓮「ごちそうさまでした……っと」
藍子「お粗末さまでした♪」
加蓮「食べた食べた。すっかり朝ごはんだったな。目玉焼きの味、家のとぜんぜん違ってた」
藍子「お仕事で遅くなっちゃった時、よく外でお味噌汁や豚汁を食べるんですけれど、外で食べるとずいぶん違って感じますよね。お母さんのが恋しくなっちゃう」
加蓮「分かるー。……なんかこうしてのんびり朝ごはんを食べたの、けっこう久しぶりかも」
藍子「え? でも、朝は食べないと調子が落ちるって……」
加蓮「食べてることは食べてるよ。でもさ、アイドルをやってるとさー、食べることって手段になるよね」
藍子「手段?」
加蓮「もうカロリーメイトでいいやってなる」
藍子「……それ、Pさんに怒られるんじゃ」
加蓮「うん。ロケ先でやったらメッチャ怒られてその後にPさんが弁当とパンを山ほど買い込んでた」
藍子「あはは……」
加蓮「もちろん私は食べきれないし、Pさんがお腹たぷんたぷんにしてたなー。触ったらぷよぷよしててちょっと面白かったっ」ニヒヒ
藍子「ず、ずるいっ。その時の写真とかないんですか!?」
加蓮「残念」
藍子「むぅ、いつも写真ばっかり撮ってるのに」
加蓮「藍子に影響されたのかな? それに、ちっちゃい頃にまともに写真なんて撮ってなかったし撮ってもらってないからね、つい反動で」
藍子「あ……」
加蓮「……面倒くさいのはナシでいいよ――って面倒を持ち込んでるのは私か。うん、ごめん」
藍子「ご、ごめんなさいっ。あ……それなら今度、いっしょに写真を撮りにいきませんか? 公園とか灯台とか、いろいろな場所があるから!」
加蓮「私はそれより、人を撮ってる方が面白いんだよね……写真を撮ってる藍子を撮るならついていくけど」
藍子「そ、それはちょっとお恥ずかしいです」
加蓮「でしょ? ま、気にしない気にしない。話を振ったのは悪かったけど」
藍子「はぁい。そうだ、ご飯のお話なんですけれど」
加蓮「うん」
藍子「それなら、私、お弁当を作っちゃいましょうか? あっ、なんならお菓子も一緒にっ」
加蓮「…………藍子の今後の行動の予想」
藍子「え?」
加蓮「ここで私が首を縦に振るとするじゃん。するとまず藍子は帰りに本屋に寄るよね。バランスの取れたお弁当の作り方とか言って」
藍子「あぅ」
加蓮「それで試行錯誤する。結果、料理が楽しくなる。そうだ、どうせならPさんにも作ってあげよう。1人分も2人分も変わらないし」
藍子「あうぅ」
加蓮「そんな日々が続くと、今度は誰かとお弁当を作りたくなる。『加蓮ちゃん、一緒にお弁当を作りませんか? Pさんに届けてあげたりとかっ』」
藍子「あうぅぅ」
加蓮「――――んな未来、誰が訪れさせるかっ!」クワッ
藍子「ひゃー!」
加蓮「料理なんてもうしないって決めたの!」
藍子「あれ? そっち?」
加蓮「最近の女の人はね、台所になんて立たなくても生きていけるんだからね!」
藍子「言い切っちゃった……」
加蓮「ごほんっ。どう? 当たってた?」
藍子「すごく具体的で、ホントにそうしてるみたいに思えちゃいました……」
加蓮「やった」
藍子「まるで見てきたように言うんですね」
加蓮「それっぽく言ったらそれっぽく聞こえるでしょ? それだけだよ」
藍子「それだけ、って……」
加蓮「あとは病院で培った数少ない技術。人の行動予測と会話の予測くらいできなきゃね」
藍子「そ、そんな当たり前みたいに」
加蓮「コツを掴めば誰でもできるよ。藍子もやってみたら?」
藍子「面白そうですけれど……でも、未来を知っちゃったら、なんだかつまらなくなっちゃいそう」
加蓮「それは分かるな……それこそ『ドラえもん』じゃないけど、私だったら未来に行きたいなんて絶対に思わないよ」
加蓮「あ、未来に生きたいとは思うけどね」ドヤァ
藍子「わぁ……」パチパチ
加蓮「…………茶化してよ…………逆に辛いっていうかイタイじゃん…………」
藍子「そうなんですか?」
加蓮「天然なんて大っ嫌いだこんちくしょー」
藍子「じゃあ逆に、昔に行ってみたいとは思いますか?」
加蓮「難しいこと言うなぁ」
藍子「え? ……あはっ、そうでした。加蓮ちゃんには難しい話題ですね」
加蓮「お、今度は笑顔で言うんだ」
藍子「遠慮はいらないって言ったの、加蓮ちゃんですよ? 面倒もナシだって」
加蓮「ふふっ、ありがと藍子。そうだねー、狭い世界に絶望していたちっちゃな加蓮ちゃんも、他の人から見たらもしかしたら可愛かったりするのかな?」
藍子「きっとそうですよ」
加蓮「Pさんを連れて行ったらそのままスカウトしたりして」
藍子「あはっ、ありえそうです♪」
加蓮「藍子のちっちゃい頃はアルバムで見たんだっけ。なんというか…………うん、藍子だったね」
藍子「せ、成長してないのは自覚してます……」アハハ
加蓮「そこまでは言わないけど」
加蓮「すみませーん、アイスコーヒー1つ。藍子は?」
藍子「じゃあ、アップルジュースでっ」
加蓮「うん、お願い。……うわ、もう来て1時間も経ったんだ」
藍子「次の収録、何時からでしたっけ」
加蓮「14時半。といっても移動があるから13時には出ないと……」
藍子「ごめんなさい。あんまりゆっくりできない時に、誘っちゃって」
加蓮「いいっていいって。息抜きも大切だし、忙しくなっちゃうとどうしても自分から誘えないしさ」
加蓮「安心してよ藍子。藍子のスケジュールがぎっちりの時も、しっかりメッセージ飛ばしてあげるから」
藍子「お手柔らかに……」アハハ
加蓮「でもこうしてアイドルやってると、たまにのんびりしたくなるねー……藍子は? って、いつものんびりしてるか」
藍子「私は、あんまりてきぱき動けないから……。それに、忙しい時なんて、目が回っちゃいます」
加蓮「だね」
藍子「それでも、のんびりする時間は大切ですよね。カフェだけじゃなくて、学校とか、ご飯の時とか……」
加蓮「さすがにカロリーメイトで誤魔化してると、あれ、自分で何やってるんだろ、ってなるね」
藍子「美味しいご飯を食べている時って、ほんとに幸せですよね!」
加蓮「分かる分かる。ロケから帰ってお母さんの料理を食べるとさ、ほっとするよね」
加蓮「ついお礼を言っちゃったら、熱でもあるんじゃないかって心配されちゃって」
藍子「毎日お礼を言ったら、変に思われることもないですよ♪」
加蓮「そこまで行くと私のキャラじゃないなー」
藍子「他には、お風呂にのんびり入ったり、眠る前にゆっくり本を読んだり」
加蓮「あー……お、アイスコーヒー来た。うん、アップルジュースがあっち」
藍子「ありがとうございますっ」
加蓮「お風呂はいいかも。ああいう"時間が必要な時"っていうの、あんまり好きじゃなくて。ついぱぱっとしちゃうんだよね」
藍子「移動時間も、まだ苦手ですか?」
加蓮「最近はコンビニで雑誌を買ったり、クロスワード解いたりしてるんだ。頭の体操にもなるしオススメだよ」
藍子「私はいつも、Pさんとお話をしていたら到着してしまって」
加蓮「おのれ魔女め」
藍子「せめて魔法使いっ」
加蓮「寝る時なんかも基本的に即おやすみなさいかなぁ。身体のスイッチが切れるっていうか」
藍子「あ、分かります! お布団に入ったら、もう出られませんよね」
加蓮「なのに目覚ましが鳴ったら身体は動くし、学校の準備やらアイドルの準備やら」
藍子「あはっ、なんだか想像できちゃいます」
加蓮「土曜日にさ、今日はオフだからって制服を着こみだした時には自分を疑ったよ」
加蓮「しかもお母さんに見られて初めて気付いたからね。死ぬほど笑われたなぁ」
藍子「私もやっちゃったことあります。私なんてっ、鞄に教科書まで入れちゃってたんですよっ」
加蓮「私よりアホだ!」
藍子「あうぅ……お父さんに、すっごく変な目で見られちゃったんです」
加蓮「それでそれで?」
藍子「なんだか恥ずかしいから、制服での撮影だってことにしておいて……事務所に行って、Pさんには学校に用があるってことにしておきました」
加蓮「藍子が嘘をついてもすぐ見抜かれそうじゃない?」
藍子「……午後からレッスンだったし、日曜日でしたから……Pさん、きっとすぐに気付いたと……」
藍子「でも、レッスンの時まで何も言ってこなかったんです。うう、思い出したらまた恥ずかしくなっちゃって」
加蓮「ふふっ。私に見られなくて良かったね。私が見たらきっと大笑いをしてたよ」
藍子「もーっ……」
加蓮「せっかくなら、そのまま学校に行っちゃおうか。衣装としての制服なら事務所にもあると思うし」
藍子「それなら……ちょっとは、恥ずかしくないのかな……?」
加蓮「学校に行ってさ、別に何もやらないでぶらぶらするんだ。藍子と2人で。廊下を歩いたり、誰もいない教室に入ってみたり」
藍子「そうしたらきっと、先生に見つかっちゃうんです。加蓮ちゃんを学校に案内してる、ってことにして」
加蓮「お、藍子の学校に行く設定なんだ。そこで私が、ここはいい学校だねって言う。ちょっと身体が弱いんだけど、ここなら楽しそうだね、とか言ってみてさ」
藍子「なら私が、転校してきちゃいますか? って冗談で言ってみます」
加蓮「それもいいかもね、って言って、そうだなー……その日は帰宅。晩御飯の時に両親と大げんかして、藍子の家に転がり込む」
藍子「次の日は月曜日なんですよ?」
加蓮「アイドルの仕事だってことにしとこ。事務所に行って、Pさんに、今日は家に帰りたくないんだ……って言ってドキドキさせる」
藍子「あ、朝からですか……」
加蓮「で、すぐにバレるから、その時に事情を話して、なんやかんやあって藍子と同じ学校に通うことになるんだ。ハッピーエンド、めでたしめでたし」
藍子「お疲れ様です。……でも、何も解決していない気がしますけれど」
加蓮「飽きた」
藍子「えー」
加蓮「ってかこういう話、前にもしたし」
藍子「ですけど」
加蓮「……でも、やっぱり想像しちゃうなぁ。ううん、もちろんアイドルをやってるのはとても幸せだよ? 飽きたり嫌になったりなんて1度もない」
加蓮「でもさ、たまに行った学校の帰り道を歩いたり……ううん、歩いてるクラスメイトを見たりしたらさ」
加蓮「もしもアイドルやってなかったら……って。クラスメイトとして藍子に出会ってたら、どうなってたかなって」
藍子「……そうですね。私は、でも、そんなに変わらないかもしれませんけど、加蓮ちゃんは」
加蓮「うん。人生、まるっきり変わってたね。悪い意味……ううん、良い意味も、きっとあるんだよ」
加蓮「藍子とクラスメイトか。一緒に勉強して、一緒にご飯を食べて、藍子の長話に付き合って」
加蓮「一緒に帰って、たまに遊びに行って、くだらない感じで過ごして」
加蓮「……ううん、私にはやっぱりアイドルの方が向いてるね。想像したら……それはそれで幸せなんだろうけど、なんか違うって感じがした」
藍子「それが、加蓮ちゃんですから」
加蓮「ごめんね、藍子。藍子が嫌って訳じゃないんだけど」
藍子「加蓮ちゃんはやっぱり、真面目な加蓮ちゃんです。そんなことで謝られても、なんてお返しすればいいか迷うだけじゃないですか」
加蓮「……ふふっ」
加蓮「…………」チラチラ
藍子「あれ、加蓮ちゃん?」
加蓮「ん……ごめんごめん。ちょっと通知が来てて。今日のスケジュールの確認だけだけどね」
藍子「大丈夫でしたか?」
加蓮「単なる確認。いつも通りの収録だけど、けっこう楽しみなんだ」
藍子「頑張ってくださいね……そうだ、加蓮ちゃんの応援に行っちゃおうかな?」
加蓮「そんなことやったら藍子までキャストに巻き込まれてスケジュール帳が埋まるよ」
藍子「……今日は家でアルバムの整理をしていますね」
加蓮「スケジュール、結構キツイんだ」
藍子「忙しすぎるのもちょっと……」
加蓮「あ、そうだ。Pさんと言えば」
藍子「?」
加蓮「前にPさんがさ、なーんか悩んでたんだ。ちょっとだけ楽しそうに」
藍子「はあ」
加蓮「問い詰めてみたら、なんか歌鈴ちゃんに誘われたって言うんだよね。ほら、藍子がよく仲良くしてる巫女ちゃん」
藍子「歌鈴ちゃんが、Pさんを?」
加蓮「詳しくは聞いてないけど、あれ明らかにアイドルとしてじゃないよ」
藍子「お買い物にでも誘ったのでしょうか」
加蓮「知らないけどね」
藍子「私もついていこっかなぁ……。歌鈴ちゃん、まだ転んじゃうことが多いから、放っておけないんです」
加蓮「ついていってあげるといいよ。藍子がいると安心だね」
藍子「あれ? でも、加蓮ちゃんがPさんからそのお話を聞いたのって……」
加蓮「…………いつだっけ?」
藍子「……次の機会があったら私も話してみます」
加蓮「うん、そーしなさい」
藍子「……」ズズ
加蓮「……」ズズ
藍子「……」ズズ
加蓮「…………あっれ?」
藍子「?」カオヲアゲル
加蓮「ん、いや、それですっごいムカついたって話をしようと思ったんだけどさ……」
藍子「……???」
加蓮「いやほら、ドギマギしてたPさんにね。私が誘っても大人の余裕って感じであっさりかわすのに」
藍子「普段の態度を思い返してみてください」
加蓮「ああ、うん……」トオイメ
加蓮「……じゃなくて。そっからPさんは渡さないって言いたかったんだけど」
藍子「だけど?」
加蓮「ほら、藍子が言ったじゃん。歌鈴ちゃんが心配だからついていくって」
藍子「言いましたね」
加蓮「ってことはさ、藍子もPさんについていくってことになるじゃん」
藍子「そうですけれど……」
加蓮「ぜんぜんイラッと来なかった」
藍子「???」
加蓮「それに、さっきのお弁当の話もさ。藍子がPさんに弁当を作るって言い出しても何も思わなくて、どっちかっていったら料理させられる方が嫌だなって思うくらい」
藍子「ええと……??」
加蓮「や、ほら……ね? Pさんがドギマギしてたのがムカつくとか、藍子がPさんに弁当を持ってくるってことはつまりそういうことで……まあ、その、ね」
藍子「??????」
加蓮「………………………………私って、その、Pさんのことが好きなんだけどさ」
藍子「あっ」ポン
加蓮「このっ」ペシ
藍子「きゃうっ」
加蓮「ぐぬぬ。叩いてもぜんぜん満足できない。で、普通に考えて、Pさんが他の女子と出かけるってすっごいムカつくことなのに」
加蓮「なんでだろ。藍子が相手だとぜんぜんムカつかない」
藍子「そんなこと言われても……」ズズッ
加蓮「でも藍子もPさんのこと好きだよね?」
藍子「あぷっ」ゲホッ
藍子「そ、そ、そんなはっきり!」
加蓮「だよね?」
藍子「…………………………………………………………はぃ」
加蓮「ふふっ。それを知ってるのに、ぜんぜんムカつかないんだ……変だなって」
藍子「でも、私もぜんぜんですよ? 加蓮ちゃんがPさんとお出かけしても、仲良しさんだなって思うだけになるでしょうから」
加蓮「藍子って誰にでもそうじゃない? 歌鈴ちゃん……は無理か。じゃあ他の誰かでもいいや。想像しても、うっわムカつく! みたいな風にはならないでしょ」
藍子「うーん………………そうかも」
加蓮「私はほら、Pさんにもだけど、歌鈴ちゃんにもはっきりムカついたんだし」
加蓮「でもさ、私、歌鈴ちゃんとほとんど話したことないから顔もうまく出てこなくて」
加蓮「歌鈴ちゃんそのものにイラッと来るんじゃなくてさ、他の女の子がPさんを誘ったって事実だけでムカついたんだよね」
藍子「歌鈴ちゃん、とてもいい子ですよ。いい子で、頑張り屋さんで、きっと、加蓮ちゃんとお似合いだと思いますっ」
加蓮「うん。藍子から何回も話を聞いてるから妙なイメージになっちゃってる」
藍子「あ、あはっ」
加蓮「実際に会ったらギャップか何かでムカつく未来が見えるんだよね……ほら、あの子ってドジっ娘なんでしょ?」
加蓮「藍子からすごい頑張り屋って聞いて期待していったらすっ転んでました……は、ちょっとぷちんと来るかも」
藍子「じゃあっ、歌鈴ちゃんがどういう風に転んでいるかお話したらいいでしょうか」
加蓮「それ本人にメッチャ失礼じゃない?」
藍子「…………そうでした」
加蓮「歌鈴ちゃんの話はともかく。なんなんだろーね……たぶん他の人でもムカつくっていうか、想像したら今すぐPさんをはたきたくなった」
藍子「私だったら、いいんですか?」
加蓮「なんだよねー。訳分かんない」
加蓮「というか……例えばの話なんだけどさ」
藍子「……?」
加蓮「例えば。例えばよ……例えばの話だから……その、例えば、」
藍子「それじゃ分かんないですっ」
加蓮「…………例えば……その、私が、Pさんに告白とかしたりして……恋人とか、なっちゃって」
藍子「どきどき」
加蓮「そこに藍子がいてもいいかな……って、思った」
藍子「私が……?」
加蓮「ぶっちゃけて言うと二股」
藍子「ふ、ふたまた……Pさんが?」
加蓮「やるかやらないかじゃなくて、そういう仮の話。でも藍子ならいいかなって」
藍子「はぁ。私も、加蓮ちゃんならあんまり気にしないかもしれません」
藍子「その………………………………そ、その、も、もしも、Pさんと、えと…………ぁう」
加蓮「…………」ズズ
藍子「へっ、変なこと言わないでください!」
加蓮「変なことじゃないよ。真面目に話してるもん」
藍子「うーん…………」
藍子「もしも、私ならいてもいって言ってくれる理由が……私を好きだっていう理由なら、私はすっごく嬉しいです♪」
加蓮「ん…………」
加蓮「…………そうなのかもね。ふふっ、先に答えに辿り着かれちゃったか」
藍子「あはっ、今日は私の勝ちですね」
加蓮「藍子が好き、かー。なんか口に出して言うと……」
藍子「口に出して言うと?」ワクワク
加蓮「超ムカつく」
藍子「えええ!?」ガーン
加蓮「っていうか鳥肌が。こう、ぞくぞくっと」
藍子「なっ、なんでですか! もっと言いましょうよほらほらっ好きだって!」
加蓮「やだ」
藍子「わ、私は口に出して言ったら幸せな気持ちになれますよっ? 加蓮ちゃんが好きです、って! ほら、加蓮ちゃんも言ってみてください!」
加蓮「やだ」
藍子「むー! じゃあ、私のことが好きなら私のことを好きだって言ってください!」
加蓮「藍子なんて大っ嫌い」
藍子「も、もうっ、もう~~~っ! このっ、えと、ひ、ひねくれもの!」
加蓮「知ってるでしょ」
藍子「加蓮ちゃんなんて大っ嫌いです!」
加蓮「気が合うね。私も藍子のことが大っ嫌いだ」
藍子「ばかー!」
加蓮「ばーか」
藍子「…………」ムスー
加蓮「…………」ムツカシイカオ
藍子「…………」ズズ
加蓮「…………」ズズ
藍子「ふうっ……」
加蓮「ちょっとすっきりしたかも」
藍子「叫んだからですか? 周りのみなさんからすごい顔で見られちゃってますけど」
加蓮「そこら辺の女子高生が騒いでるだけでしょ」
藍子「……(小声)あちらの方(かた)、だいぶ加蓮ちゃんを確認されてるみたいですけれど……?」
加蓮「……(小声)正直ごめん」
藍子「あっ、大丈夫みたいですね。勘違いだってあっちを向いたみたいです」
加蓮「うん、ちょっと反省」
藍子「まだお時間はありますし、カラオケにでも行きますか? 1時間だけでも、きっといい気分転換になりますよ」
加蓮「んーん。いい。それに、すっきりしたのって、叫んだからじゃないよ」
藍子「え?」
加蓮「大っ嫌い、って言ったこと。普段、そんなこと誰にも言わないもん。だから口に出せてすっきりした」
藍子「あ、あは……へんなの」
加蓮「さすがに真正面から嫌いって言える相手はそうそういないからね……。だいたい、好きとか嫌いとかってはっきり言うことそんなにないし」
藍子「言われてみれば、そうかもしれません。ふふっ、だからちゃんと口に出したら幸せになれるんですよ?」
加蓮「嫌いだって?」
藍子「そっちじゃなくてー!」
加蓮「嫌いだって思うことはあっても言わないもん、普通。藍子だってそうでしょ?」
藍子「私、そんなに嫌いだって思うことがないから……」
加蓮「はいはいどうせ藍子に比べたらねじ曲がってますよーだ」
藍子「……あ、今、嫌いなことが1つだけ見つかりました。加蓮ちゃんがそうやって、自分のことを嫌だって言うの、私も嫌です」
加蓮「え、これ? そうなんだ……過小評価ばっかりの藍子じゃないけど、けっこう言ってたなぁ私も。ごめん」
藍子「好きなものを貶されたら、誰だって嫌な気持ちになります。それが、本人であっても」
加蓮「凄いと思う人を貶されたら、誰だって嫌な気持ちになるよ。それが、本人であっても」
藍子「同じですね。私も、加蓮ちゃんも」
加蓮「私はいいんだって。いっつも自分のことばっかり考えて生きてるし。藍子はたまには自分の為に生きてみれば?」
藍子「私だって、私の為に生きていますよ?」
加蓮「そうは見えないから言った。ま、いっか。藍子がそう言うんならきっとそうだね」
藍子「はいっ」
藍子「ところで、尊敬する人って、私……のことで、いいんですか?」
加蓮「うん。前に藍子にがじられた時に――」
藍子「ま、待ってくださいっ。がじられた時!?」
加蓮「いや、ほら、ポテト食べた後にさ、私の指――」
藍子「わーっ、わーっ! ……そ、そのお話は、その、ここでは…………」
加蓮「あれ、あの時は平気だったじゃん。後から恥ずかしくなっちゃった?」
藍子「うぅ……あれは、その、……あ、あんまり慣れない場所だったから、きっと変な気持ちになっちゃっただけです!」
加蓮「ホントにそれだけ?」
藍子「ホントにそれだけ!」
加蓮「へぇぇ…………」ニヤニヤ
藍子「…………………………せ、せめて、このお話は、その、誰もいないところで……」
藍子「それにっ! 加蓮ちゃんだって人前でやったら変な噂になるからって言ったじゃないですか!」
加蓮「ふふっ。ごめんごめん。…………うくくっ」
藍子「もーっ!」
加蓮「あはははっ、えっと、何の話だっけ? あ、そうそう、とにかくポテトを食べた時にさ、ほら、言ったじゃん私」
加蓮「藍子が自分のこと、アイドルらしくないって言うのが腹立つって。それのこと」
藍子「……ふぅ……」オチツイタ
藍子「そうなんですか……なんだか、ちょっと照れちゃうな」
藍子「それにっ。私は"尊敬される"より"好きになってもらう"方が好きですよ」
加蓮「あーもう、またそこに返ってくるか……」
藍子「嫌いの気持ちも好きの気持ちも、たまには口に出しましょう。それで、ずっと楽になる筈だから」
藍子「それが難しいから……せめて、自分のことは好きって言ってあげてください。加蓮ちゃん」
加蓮「…………」
藍子「……ね?」
加蓮「自分を好きに、かぁ……難しいなぁ…………好かれることも、よく分からないのに」
藍子「加蓮ちゃんなら、難しいことでもきっとできますから」
加蓮「…………んー………………藍子」
藍子「はいっ」
加蓮「その、さ……苦手なことを押し付けるみたいで悪いんだけど」
加蓮「ちゃんと私のことを嫌いになって。自分のことが嫌いな私を嫌いになって」
加蓮「たぶん、その本性を変えるには、メチャクチャ時間がかかるから」
加蓮「でも、藍子が私のことを本気で嫌ってくれたら……ちょっとは、頑張れるかも、なんて」
藍子「……」
藍子「……もうっ、しょうがないですね加蓮ちゃんは」
藍子「じゃあ、ゆっくり、ゆっくり、付き合いますね」
加蓮「あはっ。藍子の本領だね」
藍子「こう見えても私、頑固なんですよ?」
加蓮「知ってるよ」
藍子「加蓮ちゃんが嫌だって思っても、どこまでもついていきますから」
加蓮「うん。お願い」
藍子「私、あなたのことが大好きですから」
加蓮「あっそ」
加蓮「……なんだか真面目な話をしちゃったね」
藍子「しちゃいましたね」アハハ
加蓮「もっとだらだらしたいんだけどなぁ、藍子といる時は……。……ばーか」
藍子「加蓮ちゃんが真面目なのがいけないんです、きっと」
加蓮「あ、私のせいにした。自分のこと棚に上げて私のせいにした」
藍子「えへ」
加蓮「はー……藍子」
藍子「はい」
加蓮「大っ嫌い」
藍子「私も、大っ嫌いです」
加蓮「……ふふっ」
藍子「もうっ。あっ、すみませーん。マカロンを1つ、お願いしますっ」
加蓮「お腹がすいたの?」
藍子「ちょっぴり。加蓮ちゃんも一緒に食べませんか? ここのマカロン、美味しいんです♪」
加蓮「そういえば食べたことなかったっけ、スタンダートの奴。じゃ、私ももーらおっと♪」
おしまい。相変わらず面倒くさい2人です(最高の褒め言葉)。
>>62
スタンダートになってるよん
乙、百合ではないがいい距離感。なるほど「レンアイ」ですな
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