男「焼ける様に綺麗な海」 (29)

※あまり長くないですが地の文多めです

「私の経験上ね、首吊りって言うのはかなり覚悟を決めている人の自殺方法だと思うの」

このおばさんは何を言っているのだろう。
彼女はこのなりでカウンセラーだと言う。
派手な服に身を包み、指には大きめの指輪も何個かついている。
心身喪失状態の人間と相対するのに相応しいとはとても思えなかった。

「はぁ、そうですか」

先程の発言は、私は貴方に共感していますよ、というポーズなのだろうか。
そう考えると生返事しか出てこない。
僕が何故カウンセリングなんて受けているのかと言えば、後輩に騙されて連れてこられたからだ。
別に後輩に裏切られただとか、許さないだなんて微塵も思っちゃいない。
ただ、こんなに心配かけてしまったのか、と実感する事と、こんな胡散臭いカウンセラーが常駐している我が校のレベルを嘆く事くらいしかできなかった。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1519181151

「私はね、職業柄、死にたいって言っている人はたくさん見るの」

そりゃそうだ。そう言う人達を相手にするのが貴女の仕事なんだから。

「でもね、実際に行動に起こす程覚悟の決まった人は中々居ないのよ?」

それもまた道理だろう。
大体、自ら進んでカウンセリングを受けよう何て思う奴は、まだそこまで追い詰められて居ないか、もしくは苦しんでる自分を美化している阿呆くらいだ。

「そうですか。でも、今はもう落ち着いているんで…」

「そう言われてもね、悪いけど、私は貴方のこと信用できないの。これは解ってもらえる?」

「まぁ…昨日の今日ですし、それは仕方ないかと」

僕がここに居る訳、後輩が僕を騙してでもここに連れて来た訳。

「もう一回確認するわね?自宅で首吊り、その後入水。間違いない?」

「えぇ、そうですね」

僕は自殺に失敗したのだ。

朝、目が醒めると、そろそろ演習の授業が始まりそうな時間だった。
発表資料は、できていない。と言うより、昨日の時点で最早諦めて投げ出していた。

「何もかも爆発しねぇかな…」

忌々しい程明るく照りつける太陽とは裏腹に、僕の心はどんどん曇っていく。
濁っていくと表現した方が適切かもしれない。
どうしようか、と部屋を見回して居ると、ふと、先日友人から返ってきたハムレットを視界の端に捉えた。

「『生きるか死ぬか、それが問題だ』…ってか」

しかし、僕には、彼の復讐の様に生死がどうでも良くなるほど固執するべき事柄もない。

「生きる希望もないけれど、死ぬ理由もない。覚悟も意思もない」

そんな腑抜けはどうするべきか。
取り敢えず、授業開始5分ほど前、ケータイの電源を切った。
どうせサボれば先生なり後輩なりが電話してくる。
幸い一人暮らしのアパートに固定電話はないため、電話線を抜く手間までは要らなかった。

「もう、いいや。何もしたくない」

そう言って干してあったタオルを一枚手に取る。
部屋の中に渡してある物干し竿にタオルを巻きつけ輪を作ってみる。
この部屋の中で済ますならこの方法が手っ取り早いか、と幾度となく妄想して居たため、ここまでは何も考えなくとも体は勝手に動いた。

「これじゃ無理だな…」

ただ、想像していたよりもずっと、タオルが短く、輪に頭が通らない。
そこで、一度解いて、垂らしたタオルの下に首を持ってくる。

「これなら…」

その後、背伸びをして物干し竿と首を密着させ、タオルを首の下で縛った。
後は足の力を抜くだけ、それだけで全部終わる。終われる。

「これで、終われる、のに…」

いざとなると、脚は震え、呼吸も乱れてくる。
だが、現状既に爪先立ちであるため、覚悟が決まらなかったとしても、その内勝手に吊られる。

「そうだっ、このまま…紐解さえしなければっ…」

大した覚悟がなくとも、首を吊れる。
次第に脚の力が抜けてくる。

「くっ…がぁっ…」

首が締まる。今はまだ、息がし難いだけで、呼吸できないほどではない。

「はぁっ…くっ…」

息が上がり始める。呼吸が荒くなる。
手で首を押さえ、気道を確保しようとするが、もう自分の体重で引っ張られているタオルは、隙間を作ることも許さない。

「っ…」

手足に力が入らない。苦しい、でも、これで。

そう思った時、カランカラン、と金属製の何かが落ちる音がした。
気づけば僕は、床に突っ伏していた。

「っ…はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

噎せながらも起き上がってみると、首にはタオルが巻かれたまま、物干し竿も引っ付いたままだ。
固定していなかった所為で、物干し竿ごと落下した様子だった。
暫く呆然としていた。
先程までは、完全に死ぬ気でいたので、その後のことなど微塵も考えていなかった。
ゆっくりとタオルを解くと、物干し竿を同じ位置に戻し、もう一度同じ様に首を吊った。
苦しかったが、同じ様に失敗に終わり、暗い携帯の画面に写る自分の姿を見つめるしかなかった。

結局、その後何度やっても同じ結果で、回数を重ねるごとに首が赤くなっていくだけだった。
もうどうして良いか解らず、アパートを飛び出した。
財布だけ手に取り、車に乗り込むと何も考えずに、ただただ学校や自分の部屋から遠ざかる様に走らせた。
30分くらい走った頃だろうか、ふとある事を思い付いた。

「入水しよう」

波に飲まれれば、怖くなって引き返すこともできないし、偶然の失敗も少ないのではないかと考えたのだ。
そこで、僕は車を北へと走らせ、海へと向かった。
だが、道中、追われているかのような気がした。
後ろを走る白の軽自動車は、後輩が乗っていた車種だった気がする。
時計を見ると、演習の授業も終了している時間であり、そろそろ皆が異変に気付いていてもおかしくはない。
先生も生徒も揃ってお節介好きな人達だから、授業をサボり、電話にも出ない僕を探している可能性はある。

どちらでも良い、取り敢えず撒こうと何度か交差点を無意味に曲がってみた。
暫くして、ゆっくり走りながら後ろを窺うと、車は走っておらず、どうやら上手く撒けた様だ。
しかし、またすぐに灰色の軽自動車が後ろにピッタリと張り付いてきた。
あれは別の後輩が乗っていたのと同じ車だ。
その車も無事に撒いたが、その後同じ様な事が何度かあり、その度に道を逸れていたため、1時間程で辿り着ける所を3時間ほどかけた。

海に行く前に、折角なので城下町を見て回ることにした。
車は博物館の駐車場に停め、そのまま外へ行くのは気が引けたので、博物館の中を軽く見てから町へ繰り出した。

木造家屋が連なる光景は素晴らしいの一言に尽きるが、周辺を歩く観光客の目線が気になった。
一人旅くらいいいだろう、とやや気を害したが、突っかかる程の度胸もなく、その目線を避ける様に路地裏へと入って行く。

「はぁっ…はぁっ…」

走ったわけでは無いのだが、気付けば息が上がっていた。
吐気も催している。
逃げ込んだ先の路地に設置してあった自販機でお茶を買って、暫くその場にへたり込んだ。
しかし、路地裏と言えど人の通りが全く無いわけではなく、すぐに通行人の視線が気になって逃げ出した。
もうここには居られない、居たくない、と再び車に乗り込むと、一路海へと向かった。

海岸線を暫く走っていると、幅50メートル程の小さな浜を見つけた。
ここなら、と車を停め波打ち際まで降りて行く。
綺麗な夕焼けだった。
夕日は海に半分ほど沈んでおり、濃いオレンジから藍色まで色彩の変化を辿れた。
防波堤が浜の真ん中位まで伸びており、その先に先客がいた。
その人は、釣りをするわけでもなく、ただただ海を眺めていた。

「綺麗ですね」

別に話しかけるつもりはなかったが、気付けば隣に立って一緒に夕日を眺めていた。

「そうですね」

特に含みを持たせるでもなく、その人は応えた。

「何を、なさっているんですか?」

頭では、こんな綺麗な海で[ピーーー]たらどんなにか良いだろう、と考えながらも、口は意識を離れ勝手に会話を続ける。

「…多分、貴方と同じですよ」

特に思いつめた風もなくそんな事を言うので、僕は少し苛ついた。

「貴方に何が解るんです?」

そう問い詰めると、
顔だけでこちらを振り返り、じっと僕の目を見つめる。

「…普通話しかけてきませんよ。気まずくなってどちらかが去るしかなくなるんですから」

その顔を見て僕は驚いた。穏やかな声色と表情ではあるのに、その目には僕はおろか、何も映してはいなかった。

「それに、貴方にだってこちらの事は解らないでしょう?」

その眼の漆黒から逃れたくて、僕は視線を外す。

「そう…ですね。すみません」

「いえ、良いんです。もう日も暮れますし」

それきり、その浜には、寄せる波音と近くを通る車の音しか聞こえなかった。

すっかり日が落ちるまで海を眺めて、それからここを立ち去る事を決めた。

「では僕はこれで…」

「さようなら」

今日始めて会ったのに、まるでお互い知っていたかの様に挨拶を交わし、揃って立ち上がる。
背を向け歩き出すと、ピチャピチャと水に触れる音が聞こえた。

「あの…お気を付けて…」

最後に振り返ると、その人は何かに救われた様に笑っていた。

「そちらこそ、お気を付けて」

お互いがお互いの末路を想定しながらも、何故だか口に出すのは憚られた。

次に僕が向かったのは、思い出の海。以前皆で花火をしたのだ。
ここからでは反対側になってしまうが、どうせ死ぬなら思い入れのある所が良いか、と思った。
尤も、他に適当な場所を知らない為、選択の余地はなかったが。

道中は何事もなかったが、もし通報されていたら警察は捜索に出たりするのだろうか、などと考えていたので、パトカーとすれ違う時には少し緊張した。

こちらの浜は、夏には海水浴場にもなるので、ちゃんとした駐車場もあり、季節でもないと言うのに何台か車が停まっていた。
浜に降りて行くと、何組かのカップルが海を眺めながら寄り添っていた。
一瞬、こいつらの目の前で入水してムードを台無しにしてやろうか、とも思ったけれど、それでは邪魔されてしまうかも知れない。
特に女の前では格好つけたがる男は多いし、良い人アピールさせてしまう事にもなり兼ねない。
それどころか、勝手に助けておいて、感謝させられでもしたら堪ったもんじゃない。

取り敢えず離れようと海岸線沿いに歩いて行く。
駐車場から離れるほど人は疎らになり、波の音がはっきりと聞こえる様になる。
周囲に人影が見えない所まで来ると、今度は波打ち際へと歩を進める。
先程までの歩調とは打って変わって、一歩一歩、ゆっくりと、進む。
次第に足元の粒は小さくなり、足音もジャリ、ジャリ、とはっきり聞こえる様になる。
また、一歩進むごとにその足音さえも飲み込まんとする程に波音も大きさを増していく。
波打ち際まで来ると、自然と足が止まってしまう。
ザブン、と打ち寄せ、さー、と引いていく。寄る波の音は確かに恐怖を駆り立てる。
しかし、静かに、ただ確実に砂を飲み込んでいく引き際にこそ強く恐怖した。
海がこんなに恐ろしいものだなんて、海水浴の時や、花火に来た時などには考えもしなかった。
僕には、これ以上前に進む事は出来ない。

かと言って、引き返す程甘い覚悟でここに来たわけではない。
そうして僕は、その場に立ち尽くす事しか出来なくなった。

怖い。

すぐ近くまで波が寄せる。

怖い。

空を見上げれば三日月だけが僕を照らしていた。

怖い。

遠く水平線を見渡せば全てを飲み込むかの様な黒。

怖い。

靴に海水が沁みてきた。潮が満ちてきているのだ。

寒い。

先程まで寒さなんて微塵も感じなかったのに、海水に濡れる度全身に寒さが広がる。

温かい。

水位が上がるに連れて、沈んだ部分が温かく感じる。

冷たい。

膝下まで海水面が上がってきた。脚に当たって跳ねる海水が膝や腰に打ち付け冷たい。

寒い。

もう足先の感覚はない。一方で全身の震えが止まらない。

暗い。

震えを抑えようと肩を抱くと、足元が目に入る。既に靴先は砂に埋もれており、暗い水面が更に見えなくしようとしていた。

どれ位の間海水に浸っていただろうか。
体感的には、3時間ほど立ち尽くしている気がする。
実際は30分かも知れない。
兎に角、寄せては返す波に揉まれ続け、気付けば海水面は腰を超えていた。

「っ…!そろそろっ、波に逆らえなくなってきたな…」

波が寄せる度に押し流されそうになる。
波が引く度に引き込まれそうになる。
不思議と、恐怖は無かった。
膝を超えたあたりから、震えも止まり、笑いさえ込み上げていた。

「こ、これなら…」

一歩、踏み出す。
波が僕を飲み込もうと、前から後ろから交互に攻め立てる。
それに逆らう様に、踏ん張り、も一歩踏み出す。
また飲み込まれそうになるが堪える。

へそを濡らした辺りで、ふと胸ポケットが気になった。

「あぁ、まだ湿気ってなかった」

僕の愛飲している赤マルだった。
ボックスも嫌いじゃないがソフトの方が好きだ。
片方だけ銀紙が剥いてある口から一本取り出す。
口に咥え、先端を手で覆いながら火をつける。
震える唇では上手く吸えず、なかなか煙が上がらない。
海風が吹くせいもあるかも知れない。
何度かやって、ようやくの事タバコに火がつくと、少しホッとした気持ちになった。
深く吸い込み、吐き出す。その度に思い出したかの様に体が震える。

「僕は…まだ生きている…?」

そんな事を呟きながら、また煙を吸い込み、吐き出す。
立ち昇る煙は、紫なんかではなく、ただただ白く、薄く広がっていく。
吐息と煙と、境界線が分からない。
そのどちらも、すぐに夜闇に呑まれて消えていく。

「…怖い」

吸いきってしまった。
踏み出そうと、踏み出さなければと、そう思うが足が動かない。

「これを全部吸ってしまわないとな。どうせ流されたら湿気ってしまう」

そう、誰にともなく言い訳を口にする。
そうして次の一本に火をつける。
僕の思いとは裏腹に、今度はすんなりと点火出来てしまう。
3本目を咥えた時には、何故だかしょっぱい味がした。
胸ポケットに入れていたから、海水はかかっていないはずだが。
4本目を取り出した時には、最早咥えられなかった。
奥歯はガチガチと音を立て、呼吸も荒くなる。
手足がピリピリと痺れてきて、息が上手く吐き出せない。
肩を抱いていた腕は、まるでセメントで固められた様に動かせない。

「ーっーっーっ…」

焦りから、更に呼吸が速くなる。

そして、今までで一番大きな波が打ち寄せた。
胸の辺りまで打ち付けると、動けない僕は簡単に波にさらわれてしまった。
肩を抱いた姿勢のまま、後ろに倒れこむ。
それと同時、目や口、鼻から海水がなだれ込み、何が何だか分からなくなる。
呼吸をしようとして更に海水を飲み込む。
今海水に飲み込まれているのはぼくなのに。
僕は今どっちを向いてどっちに流されているのだろう。
そもそも浮いているのか、沈んでいるのか。
まだ生きているのか、もう死んだ後なのか。
体が動かないからもがくこともできない。
あぁ、このままいけば本当に死ぬ。

苦しい、のだろうか。
嬉しい、とも違う。

「怖い…」

気付けば僕は浜に打ち上げられていた。
僕の呟きは言葉になっていたかは怪しい。
何せ今も噎せながら海水を吐き出している。
生きている。
フラフラと立ち上がり、もう一度海を眺める。
先程よりも、波の音は小さく聞こえる。
だが、再び足を海水に浸けることは出来なかった。

歩行も困難なほどに全身は震え、体を引き摺る様にして波打ち際から離れる。
砂浜から砂利の所まで来ると、一気に体の力が抜けた。

「…怖、かった。[ピーーー]…なかった…」

恐怖からか、後悔からか、兎に角泣き叫んだ。
と言っても海水を飲んだこともあるし、何より死が迫った瞬間の感覚が抜けなくて、大声は出なかったが。
僕は、全身を濡らしたまま車へと戻った。
取り敢えず座席に座るが、海水をたっぷり吸い込んだ服は冷たく、どんどん体温を奪っていく。

海があんなに怖いとは知らなかった。
死があんなに恐いとは思わなかった。
未だ体の震えは止まらない。
このままでは低体温で死ぬ。そう頭に過ぎると、更にガタガタと震え、車ごと揺れていた。
身に纏っているものを全部脱ぎ、後部座席に常備してあった仮眠用の毛布に包まった。
寒いには寒いが、あのまま濡れた服を着ているよりはマシだろう、と思うと安心感からか意識を失ってしまった。

目が醒めると、周囲は既に明るかった。
平日の朝だと言うのに、ちらほらと散歩している人が見受けられる。
このままこうしている訳にはいかないので、取り敢えず昨日脱いだ服を着る。
まだ水気を含んでおり、潮の香りもする。
その香りに昨日の情景がフラッシュバックするが、振り払う様に忘れる。
海に入った時よりは幾分か落ち着いていたので、そのまま車を家に走らせる。

帰宅するとすぐに、濡れた衣服を脱ぎ捨てシャワーを浴びる。
ふとした瞬間に暗い海が頭に浮かぶので、極力何も考えない様にした。
しかし、体を伝うお湯が、顔から滴る水滴が、排水口を目指す水の流れが、海を思い出させる。
思考を放棄した頭は、容易に恐怖の支配を受け入れる。
記憶ごと洗い流すかの如く、全身をゴシゴシ擦る。
擦りすぎて皮膚がヒリヒリと痛むが、痛みを感じている間は、恐怖を忘れられた。

30分程浴びただろうか、多少スッキリして上がると、下着だけつけ布団に倒れこんだ。
髪を乾かす気も起きない。
未だ思考は戻ってこないが、先程の様に海に揺り戻されることもない。
しばらく、何をするでもなくボーッとしていると、扉が開いた。

「先輩、勘弁してくださいよ」

頭だけで訪問者を確認すると、ゼミの後輩だった。

「授業来ないし、電話も出ないし、ここ来てみても居ないし…」

迷惑かけたな、とか、どうしたら良かったんだろうな、とか色々言葉は浮かぶが口を通っていかない。

「はぁ…で?どこに居たんですか」

呆れた様に言うとベッドの側に座り込んだ。

「海…。綺麗だったよ」

溜息すら出て来ない様子だ。

静寂が心地悪く、二の句を継いだ。

「怖かった…けど…」

「怖かった?」

これだけで伝わると思ったが、どうやら自意識過剰だったらしい。

「入水…したんだ。失敗したけど」

「ジュスイ?」

「自殺未遂」

端的に答えると、また静寂が訪れる。
ギシっと体の向きを変える。

「先輩、本当にやめてくださいよ…」

いつの間にか立ち上がってこちらを見下ろしている。
この姿勢からでは表情までは伺えないが、口調からは言葉を選んでいる感じがした。

「ゼミのみんな、交代でここ来てたんですから…皆心配してたんですよ」

穿った見方をしてしまうのは、気の持ち様からだろうか。

「警察にも通報しようか悩んでたくらいです」

「…すまん」

ここに来てようやく謝罪が言葉になった。
相変わらず寝そべった状態なので、謝る気がある様には見えないだろうが。

「まぁいいです、取り敢えず生きてたから。それより、ちょっと散歩しません?」

これで終わり?

えぇ、終わりです
タイトルは私が入水した海が焼野と言う所だったからです
それ以外に意味はありません
続きもありません
それ以降特に語るべき事も起きなかったので

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom