みく「笑顔が素敵だから」 (208)


デレマスのSSです
公式じゃない設定がたくさん出てきます
ちょっとだけ長めです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1518748557







事務所


モバP「それじゃあ紹介するぞ」

モバP「この子がうちの事務所の新人アイドル前川みくだ」

みく「前川みくにゃ!猫ちゃんアイドルとして頑張っていくにゃ!」

みく「よろしくねっ!」

モバP「そして、みくにとって先輩にあたるうちのアイドル、安部菜々さんだ」

菜々「安部菜々です!よろしくお願いします、みくちゃん」

菜々「猫ちゃんアイドル!良いですねえ!ナナにもその若いエネルギー分けて下さいねっ!」

菜々「まだまだ売れてないけど、頑張って誰もが知ってるアイドルになれる日まで夢に向かって頑張ってるんです!」

みく「おー!」

菜々「みくちゃん!一緒に頑張ろうね!」

みく「うん、ナナチャンよろしくにゃ!!」






モバP「よし、自己紹介はこんなもんでいいか?」

モバP「早速で悪いがレッスン室へ向かうぞ」

モバP「みくには施設設備の紹介も兼ねて、レッスンを受けてもらう」

モバP「菜々さんも一緒に入ってもらっていいかな?」

菜々「もちろんですっ!」

みく「楽しみにゃ!」

モバP「それじゃ早速向かおうか」

菜々みく「おー!」

スタスタ








レッスン室


トレーナー「はいっ!そこまで!」

菜々「はあはあ」

みく「はあはあ」

トレーナー「安部はもう少し体力付けろよ、基礎はしっかり出来てるから問題ないが……」

トレーナー「前川は……」

トレーナー「体力はあるようだが、まだまだこれからだな……今まで自主練習してたのか?」

みく「は、はい……」

トレーナー「しっかり最初から指導していくからそのつもりでな」

みく「……はい」

トレーナー「よーし!それじゃあ、歌の方も見ていくぞ、まず発声から――」






レッスン室
夕方

トレーナー「はい、じゃあこれでレッスン終わりだ、また明日な」

菜々みく「ありがとうございましたっ!」

みく「はあはあ」

みく「つ、疲れたにゃ……」

菜々「えへへ、最初はみんなそうです!」

みく「ナナチャン……」

菜々「?」

みく「……超すごかったにゃ!!」

菜々「!!?」







みく「ダンスも歌も超上手いにゃ!」

みく「なんでナナチャンみたいなアイドルが売れてないのかわからないにゃ!」

菜々「うっ」グサグサ

みく「あ……ごめんにゃ」

菜々「ううん、大丈夫ですよ」

菜々「実力だけじゃ駄目な世界だからですかね」

菜々「タイミングもニーズも運も容姿も、そして実力も全部大事だって」

菜々「プロデューサーの口癖なんです」

みく「全部が大事……」






みく「それでもナナチャンは絶対売れるにゃ!」

みく「このまま頑張ればいつかその時が来るにゃ!」

みく「みくが断言するよ!」

菜々「いつか……うん……」

菜々「えへへ、プロデューサーも頑張って動いてくれてるし、頑張ろうねっ、みくちゃん!」

みく「うんっ!」

菜々「みくちゃんは猫アイドルを目指してるんでしたっけ」

みく「そうにゃ!みくは猫ちゃんアイドル一筋でアイドルになってみせるにゃ」

菜々「お~!」






みく「ナナチャンはどうなの?」

菜々「え?」

菜々「そうですね」

菜々「ナナは歌って踊れる声優アイドルになって、キラキラのステージでみんなに夢を届けるアイドルになりたいです!」

菜々「永遠の17歳!JKアイドルウサミンこと安部菜々ですっ」キラキラ

菜々「って感じです♪」

みく「……」

菜々「みくちゃん?」

菜々「引いちゃいました?」

みく「はにゃっ!ごめんごめん!」

みく「ううん、そんなことないよ!」

菜々「えへへ、レッスン疲れましたもんね」

菜々「ナナはもう帰りますけど……みくちゃんも一緒に帰りますか?」

みく「あ!みくはまだPチャンの説明を受けに帰らなきゃいけないから……」

菜々「そうですか、ふふ、じゃあまた明日ですね」

みく「うん、ナナチャン!また明日ねっ!」








事務所
夕暮れ

モバP「よう、おかえり、みく」

みく「疲れたにゃ……」

モバP「どうだった?レッスンは」

モバP「そして安部菜々は」

みく「……」

みく「……うん、本当に凄かったにゃ」

みく「……」

みく「歌もダンスも上手いし、それだけじゃない」

みく「なんというかアイドルの才能を見せつけられた感じ」

みく「……」

みく「あの人こそみくが目指す理想のアイドル像だにゃ……」

モバP「うん、会わせておいて良かったよ」






みく「……」

みく「なんでナナチャンが売れてないのか、不思議でならないにゃ」

みく「……Pチャンが無能なの?」

モバP「こいつはっきり言いやがるな……」

モバP「アイドルってのはな、実力だけじゃ売れないんだよ」

モバP「他にもな、タイミング……」

みく「タイミング、ニーズ、容姿、実力、運でしょ?」

モバP「ん?菜々さんから聞いたのか?」

みく「うん、Pチャンの口癖だって、実力だけじゃ駄目だって」

モバP「そうだな……」

モバP「俺はプロデューサーとしてニーズとタイミングを上手く調整していくのが仕事だ」





モバP「容姿はまあ問題ないとして、お前たちアイドルは実力をつけて貰うのが当面の仕事になる」

モバP「そして……」

みく「運……」

モバP「こればかりはどうしようもない」

みく「ナナチャンはそれが、”運”が今のところ足りてないってことなの?」

モバP「もちろんまだまだ俺も菜々さんも完璧とは言えないだろう」

モバP「運だけがないってことはないだろうけどな」

みく「……」

みく「でも、一番欠けているのが運だとしたら……」

みく「売れるのも時間の問題だにゃ……」






みく「いつか最高のアイドルとしてデビューできるに違いないにゃ!」

モバP「……いつか、ね」

みく「……?」

モバP「実はな、菜々さんは引退という道も視野にいれている」

みく「!?」

みく「な、なんでにゃ!?」

みく「あんなに凄いのに!」

みく「そんなの絶対ありえないにゃっ!!」





モバP「……詳しくは話せんが」

モバP「……」

モバP「まあ、家庭の事情とうちの事務所との契約上だな」

みく「事務所がナナチャンを捨てるってこと!?」

モバP「落ち着け、そんな訳ないだろう」

モバP「菜々さんは才能に溢れてる、それは俺も事務所も認めている」

みく「じゃ、じゃあ」

モバP「ああ、本人の意志の方だ」

モバP「……」

モバP「とにかく……待ってればいつか、なんて時間は菜々さんには残されてないってことだな」

みく「……」





みく「……」

みく「そんなのって……」

モバP「みくが今それを心配しても仕方ないだろう……」

モバP「まずは、自分の心配から始めたほうがいいな」

モバP「トレーナーさんから連絡来たぞ」

モバP「まだまだだってな」

みく「うげっ!」

モバP「うげっじゃあないんだよ、明日からみっちりレッスンに入ってもらうからな」

みく「わ、分かったにゃ……」

みく「……」

モバP「よし、今日はここまでだ」

モバP「今日は暗くなってきたし、女子寮に俺が送ってやろうか?」

みく「いや、土地勘つけるためにも電車で帰るにゃ!」

モバP「そうか、気をつけてな」

みく「はぁい!おつかれにゃ!」






事務所から駅までの小道


みく「……」

みく「案の定迷ってしまった」

みく「……」

みく「こんなことならPチャンに送ってもらえば良かった」

みく「……」スタスタ

みく「……多分この細い道をまっすぐ抜ければ駅に出るはず!」

みく「……」スタスタ

みく「……」スタスタ






みく「……」スタスタ

みく「……ん?道端に灯りが……」

みく「出店……?」

みく「……」すた

みく「……」

怪しすぎる老婆「いらっしゃいませ」

みく「……」 ジー

老婆「何か?」

みく「えっ、いや何を売ってるのかなって……」





老婆「……」

みく「えーっと、一品だけ……」

みく「『帰れるICカード』?」

みく「電車に乗る時に使うICカードだよね……これ」

みく「(帰れるって家に帰れるってこと?行きは使えないの……?)」

みく「あ、あの『帰れる』ってどういうこと?」

老婆「……」

みく「えっと……ちょっと気になって……」

老婆「……それは『帰れる』という意味でございます」

みく「は、はあ」





みく「……普通のICカードと違うの?」

老婆「それは、お買上げになった方のみお分かりになるのです」

みく「(な、なんにゃ、この人、怪しすぎにゃ……)」

みく「ちなみにおいくら?」

老婆「1500円でございます」

みく「普通の値段……」

みく「まあ、ICカード持ってないし買っておこうかな!はい、1500円!」

老婆「ありがとうございます」





最寄り駅


みく「なんだったのかな、あの店は」

みく「それにこのICカード……変なデザイン。真っ白だし……」

みく「ま、いっか」

みく「早速チャージするにゃ!」諭吉トリダシー

Pi

画面「認識出来ません」

みく「あん?」

Pi

画面「認識出来ません」

みく「……」





みく「……」

みく「ま、まさか」

Pi Pi

画面「認識出来ません」

みく「……」

みく「ま、まさか」

みく「みく、騙された……?」

みく「……」

みく「うにゃ゛ーーーーーーっ!!」

みく「ほんまなんなん!!」

みく「明日あの出店に行って文句言ってやる!」

駅内アナウンス「○◯行き電車が参ります、○◯行き電車が参ります」

みく「うげぇっ、やばっ!!」

みく「とにかく代わりのICカード買わなきゃ!」

みく「駅員さーーん!!」ダッシュ






1ヶ月後
事務所


みく「はーー、午前のレッスン疲れたにゃ」ドサッ

菜々「ふふ、お疲れ様みくちゃん」

みく「やっぱりナナチャンは凄い!」

みく「みくも追いつけるように頑張るにゃ」

菜々「一緒に頑張りましょうね」

モバP「レッスン久しぶりに見学させて貰ったが、みくも中々良くなってきているぞ」

モバP「ダンスはとにかく身体に染み込ませることが大事だ」

モバP「これからも反復練習だな」

みく「分かったにゃ」

菜々「ふふ」





菜々「それでプロデューサー、今日ナナ達を呼び出したのはなんででしょう……」

みく「そうにゃ!このまま午後もレッスンじゃなかったの?」

モバP「ああ、話があってな」

モバP「菜々さんとみく二人組でオーディションを受けてもらう」

菜々みく「!!!」

モバP「ゲーム会社のイベントの仕事だな」

モバP「どうだ、試してみるか?」

みく「当然にゃ!」

みく「みくの鮮烈デビュー期待してるにゃ!!」

モバP「そう言ってくれると思ったよ。菜々さんは?」

菜々「ええ、もちろん受けさせて下さい」

モバP「……分かった、手続き諸々はもちろんこっちでやっておく」





モバP「この仕事が決まれば、上手くいけばゲーム広報イベントにも今後呼ばれるようになり、主題歌への抜擢という可能性もある」

モバP「まずは小さなイベントだが、この先いろいろな可能性がありそうなんだ」

菜々「……!」

みく「お~っつ!!」

モバP「午後からはそれに合わせたレッスンだな」

モバP「トレーナーにはもうオーディションのことは伝えている」

みく「分かったにゃ、それじゃ行ってくるね!!」ダッシュ ドアバタン

菜々「あっ!みくちゃん待って下さい~」

モバP「……」






3週間後
事務所


みく「明日はついにオーディションにゃ!!」

みく「ナナチャン頑張ろうね!」

菜々「ふふ、そうですね」

モバP「明日なんだが……」

モバP「昔から愛されていて伝統あるシリーズ作品新作のPRとなる」

みく「はあ」

モバP「向こうのプロデューサーとも面識があってな、そいつのタイプからして……」

モバP「今回はふたりともキャラクターを一旦置いて、正統派アイドルとしてオーディションを受けてみるのはどうだ」

みく「!?」

みく「猫ちゃんアイドルじゃだめなの!?」

モバP「駄目ではないが、相手が何を求めているかって問題だな」

モバP「正直これは賭けだが……」





みく「……」

菜々「ナナは良いですよ」

菜々「やってみましょう、それで」

みく「ナナチャンが言うなら……」

みく「今回はそれでやってみるにゃ」

モバP「すまないな二人とも」

モバP「それじゃあ、今日はこれで終わりだ」

モバP「帰ってしっかり身体を休めてくれ」

みく「分かったにゃ!」

菜々「はい、みくちゃん明日はよろしくお願いしますね」

みく「任せておいてにゃ!」

菜々「あっ、みくちゃん、もしオーディションで良い結果だったらお手伝いしてる喫茶店が出してるゴージャスパフェをご馳走しますよ!」

みく「えっ!?いいの!?」

菜々「はい!約束です!だから明日は頑張りましょうっ!」

みく「うんっ」






次の日
オーディション会場
夕方(オーディション終了後)


みく「はー、緊張したにゃあ」

菜々「みくちゃんお疲れ様でした」

みく「どうだったかなどうだったかな、不安だにゃあ」

菜々「結果は3日後みたいですね」

菜々「それまでドキドキですね」

モバP「お疲れ様ふたりとも」

モバP「よく頑張ったな」

モバP「俺は向こうのプロデューサーに挨拶してくるよ」




モバP「二人ともこのまま解散で大丈夫か?」

みく「大丈夫にゃ!」

菜々「ナナはプロデューサー待ってますよ」

モバP「……ん?そっか、悪いな」

モバP「じゃ、みく気をつけて帰れよ」

みく「はぁい!おつかれさまにゃ!」

みく「ナナチャンもお疲れさま!」

菜々「うん、また明日ね、みくちゃん」

みく「ばいばーい」スタスタ




みく「……」スタスタ

みく「あ、そういえばあの黒いICカードを売ってた出店」

みく「あれから見かけないにゃ……」

みく「文句言ってやろうと思ったのに……」ブツブツ

みく「まあ電車で使えるとはあのお婆さんひとことも言ってないわけだし……」

みく「……」

みく「……まあいいか」





3日後

事務所
夕方

みく「レッスン今日は新しいことやらされてハードだったにゃ……」

菜々「ナナも腰が……」

モバP「はは、トレーナーさんも気合入ってるなあ」

みく「それでPチャンオーディションの結果は来たの!?」

モバP「ん、まだだな。そろそろ自分に電話がくるはずだが……」

Pururururururu

みく「!!」

モバP「おっと、来たか」

モバP「ちょっと電話出てくるな」スタスタ

みく「う、うん」

菜々「……」



~~~~~~~~~~~~~

モバP「……」スタスタ

みく「……あ、Pチャン!」

みく「ど、どうだったにゃ」

菜々「……」

モバP「……すまん、俺のミスだ」

モバP「今回は見送りになったよ……」

みく「あーーーそっかあ」

菜々「……残念です」





モバP「俺がもっと情報をリサーチ出来てたら、お前らを……」

みく「ちょちょっと、Pチャンがそこまで落ち込むことないにゃ!」

みく「次回はもっと頑張るにゃ!」

みく「ね!ナナチャン!」

菜々「そうですねっ!そんなに落ち込まないで下さいプロデューサー」

モバP「……ああ」

モバP「今日はこれで終了だ、また明日な」

モバP「すまん」

みく「分かったにゃ!次回もPチャンよろしくね!」

菜々「はい!じゃ、菜々は先に帰りますねっ」

モバP「ああ」

菜々「お疲れ様でしたっ」スタスタ

みく「ナナチャンおつかれにゃ~」

ドアバタン





みく「あー、本当に残念だったにゃ」

モバP「……」

モバP「今回のオーディションな、俺の知らない新しいプロデューサーも審査に入ってたみたいなんだ」

みく「?」

モバP「その人は所謂キャラクター性を持ったアイドルを探していたらしい、と今電話で聞いた」

みく「えっ、ってことは……」

モバP「そうだ、いつもどおりのお前たちなら通ってたかもしれんな」

みく「そんな……」

モバP「完全に俺のミスだ」

モバP「本当にすまない」

みく「……」





みく「……そんなの仕方ないにゃ!」

みく「それこそ運が悪かっただけにゃ!」

みく「次回はきっと……!!」

モバP「次回か……」

モバP「……みく前にした話覚えてるか?」

みく「?」

モバP「菜々さんにはな、時間がないんだ」

みく「!」

モバP「そして、菜々さんは今回のこのオーディションに賭けていた」





みく「え……まさか」

モバP「……」

みく「そ、そんな……引退……?」

モバP「すぐすぐという話ではないが……な」

モバP「……」

モバP「『約束』があるからな」

みく「約束……?」

モバP「だからな、これは全部俺のせいなんだ」

モバP「あいつをトップアイドルにしてやるのが俺の使命だったはずなのに……」

モバP「……」

モバP「もちろんそうはならないように、出来る限りのことをしていこうと思う」

みく「……うん」





事務所最寄り駅


みく「うげぇ、酷い雨だった……」

みく「……」

みく「……」

みく「はぁ、ナナチャン……」

みく「みくは何かしてあげること出来ないかな」

みく「ナナチャンの凄さをみんなに知ってほしい」

みく「そして……」

みく「……」





みく「……」

みく「……」

駅内アナウンス「まもなく○◯行き電車が参ります」

みく「うげぇっ!まずい!」

みく「ぼーっとしてる場合じゃなかった!!」

みく「走れ走れ」スタコラダッシュ

みく「はあはあ」ダッシュ

みく「あ、改札……!」

みく「ICカード、カバンに入れっぱなしだ……!」

みく「あった!これだ!」ゴソゴソ





みく「てい」

Pi ガコン
きらきらきらーん

みく「良かったあ、間に合いそう」

みく「……」

みく「ってこのICカード!例の白い使えないやつじゃん!!」

みく「あれ!?みくこれで改札通れたの……?」フリムキ

シーン

みく「……」

みく「えっ、ここ……どこ?」

みく「さっきまでいた駅じゃない……!」

みく「誰もいないし……」シーン

みく「壁も床も真っ白で……凄く静か……」

みく「……」





みく「……」

みく「な、なんで……どういうこと?」キョロキョロ

みく「これは夢?」

みく「……」スタスタ

みく「あ、案内版がある……」

みく「大きな案内板……みくの知ってる土地じゃなさそう」

みく「駅名が書いてある……」

みく「ここは『時間駅』……?」









時間駅


みく「時間駅ってなに……」

みく「そんな駅名聞いたことが……」

みく「……」スタスタ

駅内アナウンス「まもなく電車が参ります、お乗りの方はお急ぎ下さい」

みく「うわっ!?」

みく「びっくりしたっ!」

みく「電車……来るんだ」

みく「とりあえずホームに向かおう……」スタスタ






時間駅ホーム


プシュー

みく「本当に電車停まってる……」

みく「電車も、線路も真っ白……」

みく「こんな都会なのに一両編成だし」

みく「……」

みく「『過去行き』……?」

駅内アナウンス「まもなく発車致します」プシュー

みく「……改札からもう出れなくなってたみたいだし」

みく「乗って……みるしかないにゃ」

みく「……」スタスタ

ドアガコン プシュー
キュイーン






時間電車車内


ガタンゴトン

みく「結構走ってるみたいだけど、外、真っ暗で何も見えない……」

車内アナウンス「次は『1日前』『1日前』」

みく「1日前??」

みく「……」

みく「……」

みく「降りてみよう」






1日前駅
ホーム


みく「さっきの時間駅?とそのままそっくりな駅に着いた……」

みく「……」スタスタ

みく「……なんだか怪しいけど静かで綺麗な場所」

みく「……」スタスタ

みく「あ、改札……」

みく「さっきの……白いICカードで出られるのかな」

みく「……」スタスタ

みく「おりゃ」

Pi ガコン
きらきらきらーん





みく「……!!」

みく「ここはいつも使ってる駅!!」

みく「一体どういうこと?」

みく「いつも通りの風景」

ガヤガヤ

みく「人もたくさんいるし……」

みく「なんだったのかな、夢?」

みく「……」スタスタ

みく「ん?雨……やんでるみたい」

みく「……帰ろ」スタスタ






次の日

事務所
夕方

みく「レッスン疲れたにゃ~」

菜々「新しいダンスだったから腰が痛いです~」

菜々「みくちゃんはいきなりあんなの踊れるなんて凄いですねっ」

みく「えっ、だって昨日……」

菜々「昨日?」

みく「昨日あのダンスやったよね?」

菜々「昨日はいつもの基礎でしたよね?」

みく「あ、あれ!?」




菜々「プロデューサー、そういえばオーディションの結果は……」

モバP「ああ、そろそろ自分に連絡が来るはずなんだがな……」

みく「!?」

モバP「?」

モバP「どうしたみく」

モバP「猫が豆鉄砲食らったような顔して」

みく「えっ!いや……えっ!」

みく「きょ、今日って何日だっけ?」

菜々「みくちゃん16日だよ、ずっとドキドキしてたオーディションの結果発表日ですよ?」

みく「!!!?」



モバP「おいおい、ボケてるのか?」

みく「い、いやそんなはずは……」

みく「ちょ、ちょっと電話しくてるにゃ!」スタコラダッシュ

菜々「?」

ドアバタン





事務所廊下


みく「どどどどどどど」

みく「どういうことにゃ……」

みく「……」スマホトリダシ

スマホ「2月16日」

みく「う、うそ……本当に16日」

みく「1日戻ってる……?」

みく「……!!!」




みく「ま、ま、まさか……」

みく「あの時間駅のせい?夢だと思ってたのに……!」

みく「1日前駅で降りたから1日戻ったってこと?」

みく「……」

みく「……よく考えると2日連続で女子寮の夜ご飯ハンバーグだったのも」

みく「今日のレッスンが昨日と同じだったのも」

みく「昨晩雨が急にあがってたのも」

みく「全部時間が戻ったから……」





みく「むしろ、よく夜まで気づかなかったな……みくニュースとか見ないから……」

みく「……」

みく「でも、凄い……」

みく「あのICカードで時間駅を利用したのが原因だとしか思えない」

みく「あ!『帰れるICカード』って過去に『帰れる』ってこと!?」

みく「とにかくこれは本物みたい……」

みく「あ……ということはまたオーディションの結果を聞くことに……」

みく「……」スタスタ





事務所


みく「……」スタスタ

菜々「あ、みくちゃんおかえりなさい」

みく「ご、ごめんにゃ」

みく「あれ?Pチャンは?」

菜々「オーディションの結果の電話が掛かってきたみたいですよ」

みく「そう」

モバP「……」スタスタ

モバP「……」




みく「あ、Pチャン……」

菜々「……どうでした?」

モバP「……すまん、俺のミスだ」

モバP「今回は見送りになったよ……」

みく「……」

菜々「……残念です」

モバP「俺がもっと情報をリサーチ出来てたら、お前らを……」

みく「Pチャンがそこまで落ち込むことないにゃ」

みく「次こそもっと頑張るにゃ」





菜々「そうですねっ!そんなに落ち込まないで下さいプロデューサー」

モバP「……ああ」

モバP「今日はこれで終了だ、また明日な」

菜々「はい!じゃ、菜々は先に帰りますねっ」

モバP「ああ」

菜々「お疲れ様でしたっ」スタスタ

みく「……!」

みく「ナナチャン待って!」

みく「みくも一緒に帰るにゃ!」

モバP「……」





事務所帰り道


ザーザー

菜々「雨……降ってますね」

みく「うん……」

菜々「……」

みく「……」

菜々「今回は残念でしたね」

菜々「みくちゃんならきっと次は大丈夫ですよっ!」

菜々「みくちゃんにはアイドルの才能がありますっ」




菜々「ウサミンアイでバリバリ見えてますよっ!」

菜々「だから次は……」

みく「ナナチャンは……?」

菜々「……え?」

みく「……ナナチャンは『次』どうするの?」

菜々「……」

菜々「何か……プロデューサーから聞いてますか……?」

みく「ん、ちょっとだけ……」




みく「ナナチャン……アイドル絶対辞めないでね」

みく「最初にナナチャンに会ったその日からみくは……!」

みく「辞めたりなんかしないでよ……!」

菜々「みくちゃん……」

菜々「ごめんね、それでもナナには『約束』があるんです」

みく「約束……?」

菜々「そんな大層なものじゃないんですけどね」




菜々「でも、ウサミン星人は絶対約束を守るんです」

菜々「『約束は守らなければいけない』それがウサミン星の法律だから」

みく「そんな……」

菜々「いいんですナナは……!」

菜々「それに、まだ辞めるわけじゃないんですよ!」

菜々「……」

みく「……」

菜々「……また、一緒に頑張りましょうねっ」

みく「うん……」

菜々「じゃ、ナナはこっちなので」

菜々「みくちゃん、また明日ね」

みく「うん、また明日」

スタスタ




スタスタ

みく「……」

みく「……」

みく「……ナナチャンのバカ」

みく「本当は……」

みく「……」

みく「……」

みく「……やってやる」

みく「やってやるにゃ!!」






事務所最寄り駅


みく「……」

みく「……」ゴクリ

みく「えい」

Pi ガコン
きらきらきらーん

みく「……」スタスタ

みく「……」

みく「時間駅……本当にまた来れた……」キョロキョロ

みく「本物みたい……この白いカード」

みく「……」スタスタ





みく「……」スタスタ

みく「……」

みく「……昨日見たこの案内板」

みく「次の駅は『1日前』」

みく「そして、次の駅は『2日前』」

みく「一駅ごとに1日ずつ前に戻れるのなら……」

みく「オーディション当日の3日前に戻って、オーディション受け直してやる!」

みく「……」

みく「どういう理屈なのかわかんないけど、せいぜい利用させて貰うよ!」

駅内アナウンス「まもなく電車が参ります」

みく「よし、行こう……」

みく「……」スタスタ

ガタンゴトン プシュー





3日前
オーディション会場
昼(オーディション前)

菜々「あわわ、緊張しますね、みくちゃん……!」

みく「……」

菜々「?」

菜々「みくちゃん?」

みく「ナナチャン、話があるにゃ」

菜々「?」

菜々「なんでしょう?」

みく「今回のこのオーディション」

みく「やっぱり自分たちのキャラクターを全面に出すべきだと思うにゃ」

菜々「!」



菜々「で、でも、プロデューサーさんは……」

みく「ナナチャン!!」

菜々「!」

みく「後悔したく……ないんだよね……?」

菜々「!!」

菜々「もしかして……何かプロデューサーさんから聞いてますか?」

みく「……ううん、何も聞いてないよ?」

みく「……」

みく「でも……自分自身を全部出せずに失敗するのは絶対後悔するはずだにゃ!」

菜々「……」

菜々「……そう、ですよね」





菜々「……」

菜々「……分かりました、みくちゃん!」

菜々「やれるだけやってみましょうっ!」

みく「うんっ!!」

ガチャリ

審査員「それじゃあ◯◯事務所の安部さん前川さんよろしくお願いします」

菜々みく「はいっ!」






オーディション会場
夕方(オーディション終了後)


みく「はー、疲れたにゃああ」

菜々「そうですねっ!」

菜々「みくちゃんの言うとおり、自分の出す方向でやって良かったです!」

みく「そうだね!前より審査員の表情も良い感じだったし!」

菜々「前……?」

みく「あっ!いや、なんでもないにゃ!」





みく「とにかく、いい感触で安心したにゃ!」

菜々「ふふっ、そうですねっ」

モバP「おつかれー、ふたりとも」

モバP「ん?なんだか嬉しそうだな」

モバP「中で何かあったか?」

みく「ううん!なんでもないにゃ!」


その婆さんから商品買ってハッピーエンドのやつ一人しかいないんですが…頑張れみくにゃん



菜々「えへへ」

モバP「そ、そうか?」

モバP「さて、俺は向こうに挨拶に行ってから会社に戻るよ」

モバP「今日はここで解散だが、ふたりとも帰れるか?」

みく「うん、大丈夫にゃ」

菜々「ナナもですっ」

モバP「じゃ、今日はお疲れだったな、3日後楽しみにしてよう」

菜々みく「はい!」





3日後
事務所


菜々「あいたたたた、腰が……」

みく「ナナチャン大丈夫……?」

菜々「えへへ、大丈夫ですよ、みくちゃん」

菜々「それにしても」

菜々「今日は新しいダンスをレッスンでやってハードだったはずなのに、みくちゃん全然平気そうですね」

菜々「最初っからすごく上手く出来てましたし」

みく「えっ!?あはは……まあみくにかかればこんなもんにゃ」

みく「(もう3回目のレッスンだからとはいえないにゃ)」




モバP「トレーナーさんもみくを褒めてたぞ」

みく「えっ、ほんと!?」

モバP「まあまだまだ基礎がなってないとは言ってたがな」

みく「むむむ」

菜々「みくちゃんは才能があるから大丈夫ですよっ」

菜々「そういえばプロデューサーさん、例のオーディションの結果は」

みく「!」

モバP「うむ、そろそろ自分に連絡があるはずなんだが」

Purupurupurpuru

モバP「お、噂をすれば」

モバP「ちょっと電話出てくるな」スタスタ

ドアバタン



菜々「はーい」

みく「……」

菜々「あはは、緊張しますね」

みく「きっと大丈夫にゃ!」

みく「(きっと……!)」


モバP「……」スタスタ

みく「あ!Pチャン!」

菜々「おかえりなさいっ」

モバP「菜々さん!みく!」

モバP「やったぞ!合格だ!!!」

みく「やったにゃああ!!」



菜々「……!!」

みく「ナナチャンやったにゃ!」

菜々「うん……うん……!」ポロポロ

みく「えっ!泣いてるやん!!」

菜々「だって……嬉しくてですね……!」

みく「……」

モバP「……やったな」

モバP「本当に良かった」ポロポロ

みく「えっ!!Pチャンも泣いてるやん!!!!」

モバP「本当に……良かった……オエッ」ポロポロ

みく「いや、落ち着きなよ」





みく「みくも超嬉しいのにちょっと冷静になっちゃったじゃん」

菜々「みくちゃん本当にありがとうございますっ!」

菜々「あの時のみくちゃんの言葉のおかげですっ」

モバP「……お、それで思い出した」

モバP「お前たち、俺の方針を無視して自分のキャラ全開でオーディション受けたらしいな」

みく「ぎくぎくっ!!!!」

モバP「はぁー、いや、まあ結果が全てだ」





モバP「今回先方に新しいプロデューサーが入ったらしくてな」

モバP「その人はキャラクター要素が強めの人材を求めていたみたいなんだ」

モバP「俺の言うとおり、正統派アイドル路線でいくと落ちてたかもな」

みく「そ、そうなんだ」

菜々「えへへ、それなら運が良かったです!」

モバP「まあ、そうだな」

モバP「よし!今日はこれで終わりだ!」

モバP「明日からイベントに向けてびっしりレッスンだからな!!」





みく「わかってるにゃ!」

菜々「頑張りますねっ」

モバP「あ、菜々さんだけちょっと残って貰えるかな」

菜々「はい、分かりました」

みく「じゃ、みくはこれで失礼するにゃ」

モバP「おつかれ、気をつけて帰れよ」

みく「はーい」

菜々「あ、みくちゃん!」

みく「にゃ?」

菜々「明日、ゴージャスパフェ食べに行きましょうねっ」

みく「あ、忘れてたにゃ」

みく「本当にいいの?」

菜々「ナナは『約束』は絶対守りますからっ」

みく「……えへへ、楽しみにしてるにゃ」






帰り道


みく「……」スタスタ

みく「……」

みく「……ナナチャンもPチャンも泣いてた」

みく「……」

みく「やっぱりナナチャン……」

みく「……」

みく「……はあ、でも本当に良かった」





みく「……」

みく「そういえば、みくが過去に戻って今を変えてしまったせいで落ちちゃった人がいるんだよね」

みく「そうだとしても、みくは……」

みく「……」

みく「……」

みく「よーし!明日からイベントに向けてレッスン頑張ろう!!」

みく「……」

みく「……そういえば」

みく「ようやくみくの知らない1日が始まるからちょっとだけ不安かも」

みく「……ううん、弱気はいけないよね!」

みく「いつもどおり頑張るだけにゃ!」





1ヶ月後
イベントステージ上
ゲーム宣伝イベント当日



菜々「それじゃー、みなさーん△△シリーズ最新作発売まで後2ヶ月!」

みく「楽しみにしててねー!!」

ファン「「うおーーーー!!」」パチパチパチ

みく「それじゃあまたね~」ヒラヒラ

スタスタ






イベント舞台裏


スタッフ「はい、おっけーでーすお疲れ様でしたー」

みく「はぁ~、緊張したにゃあ」

菜々「もうヘトヘトですね……」

菜々「でも……」

みく「でも……とっても楽しかったにゃ!!!」

菜々「ふふ、そうですね♪」

みく「これは大成功!?」

菜々「大大成功ですよっ!!」





モバP「おー、ふたりともお疲れ~」

みく「あ、Pチャン!見ててくれた!?」

モバP「当たり前だろ、後ろの方から見てたよ」

みく「なんでにゃ!最前列で見てよ!」

モバP「おま、そういうわけにいくかよ。関係者だぞ!」

菜々「ふふ」

モバP「菜々さん……お疲れ様、無事終わってよかったよ」

菜々「はい、本当に」

モバP「でも、ここからです」

菜々「……はいっ、そうですね」

みく「ねえ、なに話してるの?向こうのプロデューサー呼んでるよ」

モバP「おっと」




モバP「じゃ、俺はちょっと話してくるよ」

モバP「二人は適当に楽屋に戻っててくれ」

モバP「あ、着替えたら会場見て回っても別にいいぞ、ステージは終わったがイベントはまだ続いているからな」

みく「えっ!ほんと!?」

みく「みくもゲーム体験したかったのにゃ!」

モバP「関係者なんだから体験くらいやらせてもらえるけどな」

みく「もーPチャンこういうのはライブ感が大事なのー!」

菜々「ナナは疲れたので先に楽屋に戻ってますね」

みく「分かったにゃ、みくも適当に戻るにゃ」






イベント会場
昼過ぎ

みく(変装済)「……」

みく「……あれがさっきまでみくたちがいたステージ」

みく「……」

みく「……みく頑張れたよね」ジーン

みく「みんなに知ってもらえるアイドルに向かって歩き出せたよね……!」

みく「……」

みく「そして、ナナチャンも……」

みく「……」

みく「ううん」

みく「ナナチャンの心配ばかりしてる場合じゃない!」

みく「みくもトップアイドル目指して頑張らなきゃ」

みく「よーし、やったるぞー」




みく「でも、今はとりあえずゲーム体験しに行こっかな!」

みく「えーっと、どこのブースだろう」キョロキョロ

女性「あ、あの……」

みく「にゃ?」

女性「前川みくさん……ですか?」

みく「うぇっ!?変装してるのに……なんで分かったの?」

女性「ああ、ごめんなさいっ」




みく「いやいや大丈夫にゃ、それでえーっと」

女性「実はわたし……」

女性「安部菜々の母です」

みく「ええっ!?ナナチャンのお母さん!?」

菜々母「そうなんです」

みく「えっと、もしかしてステージを見てくれたんですか?」

菜々母「ええ、ちゃんと見させてもらいましたよ」

みく「今ナナチャン……菜々さん裏で休憩中なんですけど呼んできましょうか?」




菜々母「いや、今は前川みくさん、あなたと話したくてこうして声をかけさせて貰ったの」

みく「うぇ!?みくと!?」

菜々母「あなたから見た菜々のことも聞きたくて」

みく「……そうですね」

みく「うーん、ナナチャンは……」

みく「本当にとても可愛くて」

みく「間違いなくいつかトップアイドルになれるはずです」

みく「毎日毎日勉強になることばかりで……」

菜々母「ふふ、あの子頑張ってるみたいね」




みく「努力家でセンスもあって、本当に魅力的なアイドルです」

菜々母「実は菜々から前川さんのことも聞いているんですよ?」

みく「ええっなんて!?」

菜々母「とても真面目で、努力家で間違いなくトップアイドルになる自慢の後輩だって」

菜々母「ふたりとも同じようなこと言うんだから、おかしくて、ふふ」

みく「……ナナチャン」

みく「……」

みく「みくはともかく菜々さんはこの先も頑張れば……」





菜々母「この先も……ね」

菜々母「ねえ、前川さん」

菜々母「菜々から『約束』の話聞いたことある?」

みく「!!」

みく「い、いえ、詳しくは……」

菜々母「そう……あの子……」

みく「……」

菜々母「ごほっごほっっ!!」

みく「!!」




みく「うぇっ、大丈夫!?」

菜々母「……ごめんなさいね、昔から少し身体が弱くて……」

菜々母「最近は割と平気だったんだけど」

みく「スタッフの方呼びますか!?」

菜々母「ううん、大丈夫、もう平気だから」

菜々母「それより、これからも菜々をよろしくね」

菜々母「応援してるわ、ふふ」

みく「え!あ、は、はい!!」

菜々母「それじゃ、またどこかで」

みく「はい、それじゃお気をつけて……」

スタスタ




みく「……」

みく「はあー」

みく「本当にびっくりしたにゃ」

みく「まさか、ナナチャンのお母さんに会うなんて」

みく「凄く美人な人だった……」

みく「……」

みく「身体弱いって大丈夫なのかな……」

みく「……」

みく「それに『約束』……」

みく「一体なんのことなんだろう」

みく「……」






2週間後
事務所夜


モバP「よーし、お疲れ様!」

みく「最近レッスンハード過ぎにゃ……」

菜々「ふふ、みくちゃん頑張ってますね」

みく「ヘトヘトで甘いもの食べたいにゃ」

みく「そういえば、ナナチャンに前食べさせてもらったパフェ美味しかったにゃあ」

菜々「あれは特別なパフェですからっ」

みく「あれ、あんなにハードなレッスンだったのに、ナナチャン全然平気そうだね」

菜々「ふふふ、菜々最近気合入れて頑張ってますからね!!」




みく「やっぱりナナチャンは凄いにゃ」

みく「早くみくも追いつかなきゃ!」

みく「そうそう!特にナナチャン歌が上手いよね!!」

菜々「あはは、実は高校生の頃あの喫茶店でお手伝いしてる時、裏口で発声練習なんかしてたんですよ」

みく「高校生の頃?」

菜々「はぅえっ!いや菜々は今17歳ですけどね、最近の話です最近の!!」

みく「その設定、事務所内でいるの?」

菜々「設定とか言わないで下さいよ、みくちゃーん」

みく「うーん、CDデビューとか出来たらいいのになあ」




モバP「前のゲーム会社のイベントがCDデビューに繋がればと思ったが……」

菜々「……難しいですね」

モバP「次だ……次こそ……!俺も頑張るからお前達も頼むぞ!」

みく「うん!」

モバP「俺は企画作りの仕事がまだ残ってるから残業だが、もうあがっていいぞ」

みく「企画?」

モバP「色々考えてはいるんだよ俺も」

みく「へへん、楽しみにしとくにゃ」

菜々「……」






帰り道



みく「よーし、みくもナナチャンに負けてられない……!」

みく「……あの白いICカード」

みく「時間駅を使えば、みくはレベルアップ出来るはず」

みく「今回のゲームのイベントに向けても結構役に立ったしね」

みく「何度か使っていくうちに分かったこともある……」




みく「まず、時間駅で日にちを前に戻しても、持っていけるのは『記憶』だけ」

みく「持っているものも服装すらも、全部その日のものになっちゃう」

みく「つまり記憶だけ持って、前の日以前の自分に戻るってこと」

みく「ということは時間を繰り返して筋トレしたとしても、元の身体に戻っちゃう」

みく「でも、記憶が持ち越せるってことは、歌やダンスのトレーニングやレッスンで身につけたコツやテクニックはそのまま持っていけるってこと!」

みく「その性質を利用して、どんどん経験値貯めていくにゃ!」

みく「ズルじゃないよ!」

みく「Pチャン風にいえば、みくは運が良かったんだと思おう!」

みく「よーし、明日から?昨日から?とにかく頑張ろう!」









1ヶ月後
事務所


モバP「……」カタカタ

みく「Pチャンお疲れ様―」

モバP「おう、おつかれ」

みく「まだ、お仕事してるの?」

みく「最近遅くまで働きすぎにゃ」

モバP「ん?ああ」

モバP「時間がなくてな」

モバP「家に帰る暇も寝る暇も惜しいよ」





みく「……大丈夫なの?」

モバP「大丈夫ではないが」

モバP「それほど焦ってるのは確かだな」

みく「……」

モバP「お、それよりみく」

モバP「最近頑張ってるらしいな」

モバP「トレーナーさんから報告受けてるよ」

みく「ふふん、みくにかかればこんなもんにゃ」

モバP「最初は基礎が危ういと感じていたが、もうその影もないな」

モバP「どこに出しても安心だよ」




みく「へへん」

みく「(時間を戻して色々練習してる成果が出てるにゃ)」

みく「ん?どこに出してもってことはみくたちについての企画のことをずっと詰めてるの?」

モバP「ん?ああ、うーん」

みく「……へー」

みく「どれどれ見せてにゃ!」ガサガサッ

モバP「お、おい!こらやめろ」




みく「ん?」ピラピラ

みく「CD……デビュー?」

みく「ナナチャンの……?」

モバP「はぁ、見つかったか」

モバP「みくには悪いが、菜々さんのCDデビュー計画を先に進めててな」

モバP「みくはその後、ソロメインで活動していくことになるだろう」

モバP「話してなくてすまないな」

みく「えっ、いやみくは全然大丈夫にゃ」

みく「ナナチャンの足を引っ張りたくないし……」





みく「それより、ナナチャン本当にCDデビュー出来るの!?」

モバP「……」

モバP「……まだ分からん」

みく「?」

みく「どうして、ここまで企画も進んでるみたいなのに」

モバP「……」

モバP「……」





モバP「……」

みく「……?」

みく「Pチャン?」

モバP「……」

モバP「とにかく時間がないんだ……」

みく「時間……ずっと言ってるよね……なんのことなの……?」

モバP「……『約束』があるからな」

みく「!!」




みく「『約束』……」

みく「約束って一体なんなの!?」

モバP「……」

モバP「……」

モバP「菜々さんはな、みくが入る少し前に俺がスカウトしたんだ」

モバP「そりゃもう俺は驚いたよ」

モバP「ダイヤの原石どころか拾った段階から光り輝いていたからな」

みく「……」

モバP「是非うちの事務所に来て欲しいと、すぐ言ったよ」

モバP「そうして、菜々さんはうちに来ることになったんだが」

モバP「その時に……ひとつだけ条件を出してきたんだ」




みく「条件……」

モバP「ああ」

モバP「……」

モバP「菜々さんの実家では母親が一人で暮らしているようでな」

モバP「あまり身体が強くないらしい」

モバP「病弱でな、かなり前だが大きな手術もしていたようだ」

みく「……!」

モバP「とは言っても、その時の手術は成功したようでな」

モバP「今ではほとんど良くなってるから心配はいらないとのことだが」

モバP「……」





モバP「……話しを戻そうか」

モバP「実は菜々さん、うちが拾う前にどこかの芸能事務所に長いこと入っていたようでな」

みく「えっ!?初耳にゃ」

モバP「ああ、誰にも言ってないんだろう」

モバP「そこでは……碌な仕事は回ってこなかったようでな」

モバP「自身の輝く夢であったアイドルという道が少しずつ霞んでしまっていた」

みく「……」

モバP「別に変な仕事というわけじゃあないが、菜々さんの目指す道とかズレていたんだろう」

モバP「口の上手い経営者だったようでな、口先だけの良いことを菜々さんに吹き込み続け」

モバP「菜々さんもあの性格だからな、辞めるに辞められない状況が長く続いたんだと」




モバP「……」

モバP「そして……そんな時に菜々さんの母親は倒れたみたいなんだ」

みく「!」

モバP「幸い、手術も上手くいき何事もなかったんだが」

モバP「菜々さんはやはり動揺したようでな」

モバP「本当に自分はこのまま夢を追い掛けて良いのかと不安になったようだ」

モバP「年齢のこともあるしな」


モバP「そして……母親に『もうアイドルは諦める』と告げたんだ」


みく「!」




モバP「しかし、菜々さんの母親はな、菜々さんのアイドルになりたいという強い気持ちを知っていた」

モバP「だからまだアイドル続けてもいいんだよと」

モバP「これからも夢を追いかけてもいいだんよと」

モバP「そう言ってくれたんだ」

みく「……」

モバP「でも、菜々さんも譲らなかった」

モバP「やはり母のことが心配だったんだろう」

モバP「実家からも離れて暮らしているしな」

モバP「良くなったとはいえ、もしまた一人でいる時に何かあったらと……」





みく「……」

モバP「だからな、そこで二人で話し合ったんだと」

モバP「そうして一つの『約束』が生まれた」

モバP「それがうちの事務所に来た時に菜々さんが言ってきた条件そのものにもなる」

みく「!」

みく「その条件って……」

モバP「菜々さんの昔からの夢であるCDデビュー……」

モバP「……」

モバP「その夢であるCDデビューを○◯年○月までに出来なかった時は」



モバP「アイドルを諦める」



モバP「それが条件」

モバP「そして、それが母親と交わした『約束』だ」





みく「アイドルを……!?」

みく「それに◯年◯月って!?」

みく「もうすぐじゃん!」

モバP「だから言ったろ、時間がないって」

モバP「菜々さんは我儘でごめんなさい、それでもこの約束は絶対なんだと言って、この条件を提示してきた」

モバP「菜々さんは業界は長いとは言えまだ無名だし、時間もなかったことからかなり厳しいだろうと事務所も俺も思った」

モバP「しかし、菜々さんの可能性を信じ、それを受け入れた」

モバP「それが全てだよ」




みく「……前のゲーム会社のイベント」

みく「あれに落ちてたら引退の方向にって話は……」

モバP「そんな話したっけな」

モバP「実質そこまでCDデビューに繋がるような話もなかったからな」

モバP「約束までに間に合わないという意味でその方向になるだろうという話だったわけだ」

みく「……」

みく「今回の企画はどうなの……まだCD出せるか分からないって……」

モバP「……」




モバP「CDデビューってのはな本当に色んな人が関わるプロジェクトになるんだ」

モバP「適当なものをポンと出すだけなら、まあすぐにでも出来るだろう」

モバP「そんなもので菜々さんの約束を守ったことになるか?」

モバP「……」

モバP「作曲、編曲、作詞だけじゃあない」

モバP「ジャケット撮影や録音、広報PRまで本当に色々な人たちが関わってようやく出来るのがCDだ」

モバP「だからな、とにかく時間が足りないんだ」

みく「……」





モバP「例えばだ、あと少しでCD出せる段階まで色んな人と作業を進めていたとする」

モバP「しかし、完成まで寸前のところで『約束』の日が来たら全部おじゃんだ」

モバP「それを取引先や作家の人にどう説明する」

みく「えっ、それはナナチャンに後数日待ってくれってお願いすれば……」

みく「だって完成間近なんでしょ!?」

モバP「それは無理だ」

みく「!?」

モバP「菜々さんの『約束』は絶対だ」

モバP「菜々さんは必ず約束を守る」

みく「ど、どうして……そんな」





モバP「もう少し菜々さんがうちに来るのが早かったら、あと少し時間があれば……」

モバP「しかし、これが現状、すべてだ」

モバP「……」

モバP「正直、約束には間に合わないかもしれん」

モバP「みく、お前の言うとおり、俺が無能だっただけの話なんだ」

みく「……」






後日
レッスン室
レッスン終了後


菜々「いやー、みくちゃん今日も凄かったですねえ」

菜々「もうどこからでもお声が掛かりそうなレベルじゃないですか!」

菜々「ナナが今まで見てきたアイドルで一番凄いですよっ」

菜々「えへへ、みくちゃんがTVに出てる姿早く見たいですねえ」

みく「……」

菜々「?」

菜々「どうかしました?」

菜々「あ、もしかしてどこか怪我でも!?」





みく「……ナナチャン」

みく「なんで最近自分の夢の話はしてくれないの」

菜々「みくちゃん……?」

みく「もう諦めちゃったの!?」

菜々「……」

菜々「……」

菜々「……もしかして聞いちゃいましたか?」

菜々「『約束』のこと」




みく「……」コクン

菜々「隠しているわけでもないですしね」

菜々「……」

菜々「これは『約束』ですから、仕方ないんです……」

みく「仕方ないって顔じゃないにゃ!ナナチャン!!」

菜々「でも、ナナは絶対約束を守るんです」

菜々「それだけは絶対なんです」





みく「……じゃあ!」

みく「じゃあ、ここでみくと約束してよ!」

みく「絶対諦めないって!」

みく「絶対トップアイドルになるって!!!!」

菜々「みくちゃん……」

菜々「でも……それは出来ないんです」


菜々「新しくその約束をしようとすると、”前の約束を破っちゃう”ことになるから」


みく「……」





みく「もうどうしようもないの……?」

菜々「……」

みく「ナナチャン!!」

菜々「……」

みく「本当はアイドル続けたいって言ってよ……!」ポロポロ

みく「アイドルのお仕事が好きだって言ってよ……!!」ポロポロ

菜々「……」

菜々「『約束』は絶対ですから」

菜々「我儘でごめんなさい、みくちゃん」





帰り道


みく「……」

みく「……」

みく「もう出来ることはないのかな……」

みく「Pチャンは頑張ってるけど……」

みく「……」

みく「……」




みく「……」

みく「でも、ゲーム会社のイベントに合格した時」

みく「ナナチャンもPチャンも泣いてたはずにゃ……」

みく「……」

みく「あの時はなんとか時間を戻して、合格に出来たけど」

みく「今回は……」

みく「時間を戻してどうこう出来る話じゃないよね……」

みく「色々な人が関わっているんだし」

みく「過去のPチャンに助言出来る程度じゃ……」

みく「……」

みく「もう無理なのかな……」

みく「ナナチャン……」

みく「……」






約束の日



菜々「それじゃあ、短い間でしたが、お世話になりましたっ!」

みく「……」

モバP「……」

モバP「……菜々さん、本当にすまない」

モバP「あと少し、あと少しで……」

モバP「俺にもっと力があれば……」

菜々「な、なに言ってるんですかプロデューサーさん!」

菜々「元々はナナがこんなに無理な我儘をプロデューサーさんに、そして事務所に押し付けてたのが悪いんです」




菜々「謝らなきゃいけないのはこっちです」

菜々「それに、プロデューサーさんにはとても感謝しているんですよ」

菜々「イベントもとっても楽しかったですし、前にいた事務所ではそういうの全然なかったですしね!」

菜々「だから、そんなに謝らないで下さい」

菜々「この楽しかった日々も否定されてる気分になっちゃいます」

モバP「……そうか」

みく「……」





菜々「それに、みくちゃんに会わせてくれたこと、一緒にお仕事出来たことも感謝しているんです」

みく「!」

モバP「ああ」

菜々「これからもみくちゃんをトップアイドルにする手助けしてあげて下さいね」

モバP「もちろんだ」

菜々「みくちゃん……」

菜々「ずっとずっと応援してますよ」

菜々「みくちゃんならきっと、いや間違いなくトップアイドルになれます」

菜々「そうなったら、みんなに一緒にお仕事したことがあるって自慢させてもらうね」

みく「ナナチャン……」ポロポロ




菜々「みくちゃん」スタスタ

菜々「……」ギュ

菜々「ごめんね」ボソッ

みく「……」

菜々「プロデューサーさん、色々手続きもあるんですよね?書類はこれですか?」

モバP「あ、ああ。そうだな、まずはこれを……」ピラ

みく「……」スタスタ

ガチャリ バタン






事務所外
昼過ぎ

みく「……」

みく「外寒いにゃ」

みく「……」

みく「……」

みく「ナナチャン……」

みく「みくはナナチャンの……」




スタスタ

女性「あの」

みく「?」

女性「お久しぶりです、前川さん」

みく「あ、ナナチャンのお母さん!」

菜々母「ふふ、覚えていてくださったんですね」

みく「え、なんでここに……」

菜々母「退職の手続きと一緒に、引っ越しの手伝いもしているのよ」

みく「引っ越し……?」




菜々母「聞いていなかったかしら」

菜々母「今日中に荷物をまとめて、実家に戻ってくる予定なの」

みく「……あ」

みく「そうなんだ……」

菜々母「そんな今生の別れみたいな顔をしないで……」

菜々母「家はそこまで遠いわけでもないし、是非遊びに来て頂戴ね」

みく「は、はい!是非にゃ」





菜々母「……」

菜々母「あの子、どんな今日事務所の挨拶では様子だったかしら」

菜々母「笑ってた?」

みく「笑って……ました」

菜々母「……」

菜々母「『約束』の話聞いたかしら?」

みく「……はい」

菜々母「そう……」




菜々母「私としてはね」

菜々母「菜々とこんな『約束』をしたけれど」

菜々母「全然アイドル続けてもらってもよかったの」

菜々母「気が済むまで、夢を追い掛けてもらってもいいの」

みく「!!」

みく「それじゃあ……」

菜々母「それでも……菜々は『約束』を守るほうを取るの」

菜々母「約束は絶対だって言ってね」



菜々母「自分がどれだけ辛くてもね」

みく「……」


菜々母「あの子にとって約束は『呪い』だった」



菜々母「感じなくてもいい負い目の重さに潰されてるの」

菜々母「こんなことになるなら、あんな約束なんてしなければ……ね」

菜々母「正直後悔もしてるわ」

菜々母「でも、もう遅いの。こんなこと言っても仕方ない」

みく「……」

菜々母「それじゃあ、私はもう行くわね」

菜々母「アイドル、菜々の分まで頑張ってね」

みく「……はい」

スタスタ

みく「……」

みく「……」




期待






半年後
TV局廊下



モバP「ほら、みく早くしろ」

みく「わ、分かってるにゃ」

モバP「収録始まってしまうぞ」

みく「元はと言えば、Pチャンがこんなにタイトなスケジュール立てるのが悪いにゃ!」

モバP「売れっ子アイドルなんだから我慢しろっ」

モバP「ちょっと前まで『仕事欲しいにゃあ』って言ってたくせに」

みく「ぐぬぬ、その下手くそなモノマネが腹立つ」

モバP「ありがたく思ってくれ」

モバP「あれから半年でCDデビューまで出来たんだ」

モバP「今日はその宣伝もあってのTV番組収録だ、遅れるわけにはいかん」

みく「うん」




みく「……」

みく「……Pチャンありがとね」

モバP「なんだ急に……」

みく「みく、Pチャン無能なのかと思ってたにゃ」

モバP「おい」

モバP「……」

モバP「まあ、無能なのは否定しないさ」

モバP「一人の女の子の夢すら守れないんだからな」

みく「……」

モバP「みくがこうして人気になれたのも、俺の力じゃない」

モバP「みくの実力だよ。歌もダンスも今じゃ1級品だ」




みく「アイドルが売れるのに必要なのは実力だけじゃ駄目だって、Pチャンが言ってたはずにゃ」

モバP「……そうだったかな」

みく「まあ、みくの容姿が可愛いから売れたのは事実だけどね」キャルルン

モバP「よし、とにかく急ぐぞ」

みく「えっ!無視!?」

モバP「その意気でしっかり自分を売り込んでこい」

みく「ぐぬぬ、分かってるにゃ!」





数週間後
事務所



モバP「おっし、打合せ終わりだ」

モバP「じゃあ、午後からはファッション誌取材、夕方からラジオ局だな」

モバP「最近は収録もばっちりだから問題ないと思うが……」

みく「うに゛ゃ~~~~」

モバP「おいおい、聞いてんのか」

みく「つ、疲れたにゃ……」

みく「仕事くれって言ったのはみくだけど、これはあまりにも……」

モバP「まあ、多忙なのは認めるよ」

モバP「アイドルは売れ始めが肝心だからな」

モバP「TVまで出れて、立派な売れっ子アイドルだ」

モバP「街も変装なしでは歩けんだろう」

みく「そうだね」




みく「……」

みく「……でも」

みく「欲を言えば、ナナチャンとあの場に立ちたかったな……」

モバP「……」

モバP「……そうだな」

モバP「俺も見たかったよ」

みく「ごめん……しんみりさせちゃったにゃ」

モバP「いや……寂しいのは分かるさ」

モバP「お、そういや明後日は丸一日オフの予定になってるはずだぞ」





みく「あれっ、そうだっけ?」

モバP「まあ、そういう日も必要だろう」

モバP「ここのところ働き詰めだからな、調整しておいたよ」

みく「へー、Pチャンありがとにゃ」

みく「えへへ、なにしよっかな~」

モバP「そうだ」

モバP「それこそ、菜々さんのとこに遊びに行ってみたらどうだ?」

モバP「菜々さんの実家そんなに遠くないしな」

みく「えっナナチャンの!?」





モバP「よし、そうと決まれば連絡とってやろう」

Pipipi メルメルメル

モバP「よし、これでオッケー」

みく「こんな急にいいのかな……」

モバP「菜々さんとちょこちょこ連絡取っててな」

モバP「みくに遊びに来て欲しいって言ってたから大丈夫だろ」

みく「えっ!?なんでナナチャンと連絡とってんの!?」

みく「みくあれから全然喋ってないにゃ!!」

モバP「せっかくのオフだ、積もる話もあるだろ?」

モバP「ほら、住所メモしてやるから」

みく「なんで実家の住所知ってんのさ!!!」

モバP「のさ!って……キャラ変わってんぞ」

みく「もー!!」






2日後
千葉 住宅街最寄り駅


みく「ふう、ようやくのオフ日……」

みく「最寄り駅にも着いたし」

みく「さっそく、ナナチャンの実家に向かおう」

みく「……」

みく「それにしても、久しぶりにあんなに長く電車に乗ったよ」

みく「というより普通の電車自体久しぶりな気がする……」

みく「最近はお仕事のスケジュールがびっしりで車移動の方が多いしね」

みく「それこそ……」

みく「時間駅で『時間を戻したい時』くらいしか駅も使ってないし」

みく「……」





みく「……」

みく「時間を戻してレッスンを受けてたおかげで、今では歌もダンスもそこそこ出来るようになったのも」

みく「大失敗した収録やインタビュー、撮影日も時間を戻しやり直して成功させてるのも」

みく「今売れっ子アイドルになれてるのは、みくの本当の力じゃない」

みく「全部時間駅とPチャンの力のおかげ……」

みく「……」

みく「……」

みく「みくズルいよね」

みく「みくなんかより、やっぱりナナチャンの方が売れるべきだったのかな……」

みく「……」

みく「いや!変なことは考えないようにするにゃ!」

みく「せっかくのオフ!」

みく「ナナチャンに会えるの楽しみ!」

スタスタ





住宅街
安部菜々宅前
昼過ぎ


みく「ここがナナチャンのおうち」

みく「……」

みく「……よし!」

ピンポーン

みく「……」ドキドキ

ガチャリ

菜々「はーい」

みく「ナナチャン!!」

菜々「あ、みくちゃん!」

菜々「お久しぶりですっ!元気そうでなによりです」

みく「うわーん、ナナチャン会いたかったにゃー!」

菜々「ふふ、とりあえず中でお話ししましょうか」






菜々宅居間
昼過ぎ


菜々「遠いとこありがとね、みくちゃん」

みく「そんな遠くもなかったにゃ!」

みく「オフの度に遊びに来れるくらいだよっ!」

菜々「ふふ、いつでも歓迎ですよ♪」

みく「あ、今日菜々ちゃんのお母さんは?」

菜々「えっと、今日は用事で出かけてますが……顔見知りでしたっけ?」

みく「実は、何度か会ったことあるにゃ」

みく「とても美人なお母様だにゃ」

菜々「ありがとうございますっ、たしかにナナから見ても若く見えますねえ」

みく「最近、お母さんは体調は大丈夫なの?」




菜々「そうですねえ」

菜々「心配ではありますけど、最近は調子もいいみたいで、大丈夫です」

菜々「まあ菜々ももう家に帰ってるので安心ですよっ」

みく「大丈夫なら安心にゃ」

みく「……」

みく「ナナチャンは……最近何してるの?」

菜々「ん?ナナですか?」

菜々「そうですね、家にいるって言ってもちゃんと働いているんですよ?」

みく「えっ、そうなの?」




菜々「はい、お手伝いしてた喫茶店があるって言いましたよね?」

菜々「今はそこのお手伝いをさせてもらってますよ」

みく「あれ、都内のあの喫茶店だよね?」

菜々「そうですそうです、あのゴージャスパフェの店です」

菜々「プロデューサーさんも時々来てくれるんですよ?」

みく「えっ、Pチャンが?」

みく「あっ、それで最近もナナチャンと連絡取ってたんだ」

菜々「ふふ、そうですね♪」





菜々「菜々が17歳のころからだからもう長いこと良くしてもらってる店でしてね、融通も利くので働きやすいですよ」

みく「17歳のころから長いことって」アハハッ

菜々「?」

みく「あれっ!?そこは『わわっ、私は今も17歳JKですけどねっ!』って感じじゃないの?」

菜々「ふふ、だってもうナナはアイドルじゃないですから」

みく「あっ……」

みく「……そっかそうだよね」



菜々「えへへ、いいんですよ、ナナの話なんて!」

菜々「そんなことより、みくちゃんのお話しを聞かせてくださいっ」

菜々「あ、前のTV番組見ましたよーっ」

菜々「みくちゃん可愛かったですっ」

みく「見てくれたんだ……」

菜々「デビュー曲可愛い曲ですよねー」




菜々「キラキラの舞台で」

菜々「可愛いヒラヒラの衣装を着て」

菜々「とっても楽しそうでした……!」

みく「うん……そうだね」

みく「すごく楽しかったにゃ」

菜々「あんな舞台から客席ってどう見えるんですか??」

菜々「きっと綺麗なんでしょうね」

みく「……」





菜々宅前
夕方


菜々「久しぶりにみくちゃんといっぱいお喋りできて楽しかったですっ」

みく「みくもにゃ」

菜々「明日もお仕事なんですか?」

みく「うん、朝からびっしりにゃ」

菜々「そうなんですね」

みく「……」

みく「ナナチャンまた遊びに来てもいい?」

菜々「は、はいっ!もちろん!楽しみにしてますねっ」

みく「そうさせて貰うにゃ」




みく「……」

みく「ナナチャン……もう一つ聞いてもいい?」

菜々「……?」

菜々「なんでしょう」

みく「……」

みく「……ナナチャン」

みく「本当にこの業界に、アイドルに戻る気はないの?」

みく「戻りたいって気持ちはないの?」

菜々「……」





菜々「……」

菜々「……」

菜々「何言ってるんですかみくちゃんっ」

菜々「ナナにとって、アイドルはもう違う世界の話なんです」

菜々「もうウサミン星へは戻れない」

菜々「帰り方を忘れちゃいましたから」

みく「……」

菜々「でも、寂しくなんてないんですよ?」

菜々「みくちゃんの活躍を見るのがナナの楽しみですから♪」

みく「……」





みく「……」

みく「本当なの?」

菜々「はいっ」

みく「ナナチャン……じゃあなんであの時……」

菜々「?」

みく「……なんでもないにゃ」

みく「ごめんね、変な質問しちゃって」

みく「じゃあ、ナナチャンまたね」

菜々「はいっ」ヒラヒラ

スタスタ






駅までの道
夕暮れ


みく「……」

みく「……ナナチャンじゃあなんで」

みく「なんで……イベントのオーディションに合格した時泣いてたの?」

みく「アイドル、やっぱり諦めたくなかったからじゃないの?」

みく「……」

みく「……」





みく「……」

みく「みくはナナチャンの気持ちを勝手に想像してるだけなのかな」

みく「『本当はアイドル続けたい』」

みく「『トップアイドルになりたい』」

みく「ナナチャンはまだ諦めてないって、みくが勝手に思っていたいだけなのかな……」

みく「……」

みく「……」





みく「……」

みく「それを、確かめたかったけれど」

みく「ナナチャンはまだ呪いに縛られてる」

みく「……」

みく「みく、ただのお節介猫にゃ」

みく「ようやく心の整理を付けて諦めたナナチャンには苦しい問いかけだったのかな」

みく「……」




みく「……」

みく「……」

みく「……もうわかんない」

みく「……」

みく「……」

みく「それでも……みくは……」

みく「可能性を信じたいよ……ナナチャン!」

みく「だって……」





2ヶ月後
事務所



モバP「みくアイドル部門新人賞おめでとう!!」

みく「えへへ、ありがとにゃ」

モバP「ほんとうに凄いよ」

モバP「トップアイドルまであと一歩だ」

モバP「間違いなくみくならなれるよ」

みく「……」

みく「Pチャンのおかげにゃ」

モバP「?」




モバP「そんなわけないだろう」

モバP「名誉ある賞ではあるが、みくはそれに値するアイドルだぞ」

みく「ううん、みくなんて……」

みく「……」

みく「……Pチャンここまで連れてきてくれて本当にありがとね」

モバP「お、おう」

モバP「……」

モバP「なにかあったのか?」

みく「えへへ、なんでもないにゃ!」




みく「授賞式は明日だよね?」

モバP「ああ、そうだな」

モバP「次の日もすぐ収録だからゆっくりは出来ないが……」

みく「TV番組の収録だっけ?」

モバP「おう、今をときめくアイドル前川みくの素顔に迫るって番組だぞ」

みく「おー、主役にゃ!」

モバP「みくの子どもの頃のエピソードや、アイドルになったルーツなんかも聞かれるな」




モバP「恩師や尊敬する人をゲストに呼べるんだが」

モバP「ふーむ、どうしたもんかな」

みく「尊敬する人……?」

みく「……」

みく「それって……」

みく「……」

みく「……」

みく「ナナチャンでもいいの?」

モバP「……」




モバP「……」

モバP「そうだな」

モバP「みくならそう言うと思った」

モバP「みくにとっての菜々さんはそういう人だろう」

モバP「アイドル前川みくに間違いなく多大な影響を与えてる」

みく「じゃあ……」

モバP「……」

モバP「無理だ」

みく「……」




モバP「菜々さんはもう違う世界の人間だ」

モバP「もちろんTV出演は菜々さんのアイドルとしての夢のひとつだった」

モバP「だからこそ、こんな形で出てもらえない」

みく「……」

モバP「みくなら意味は分かるよな?」

みく「そうだね……」





みく「……」

みく「ねえ、Pチャン」

モバP「なんだ?」

みく「Pチャンはナナチャンが……」

みく「ナナチャンがアイドルをちゃんと心の底から諦められたと思う?」

モバP「……」

モバP「菜々さんがアイドルを心の底から諦める……ね」

モバP「……」

モバP「……」

モバP「それこそ無理さ」

モバP「諦めるなんて出来るわけないだろ」







事務所から駅までの小道



みく「……」

みく「……」

みく「……」

みく「……やっぱり」

みく「アイドルしてるナナチャンにまた会いたい」

みく「みくにはアイドルのナナチャンが必要なの」

みく「……」




みく「……」

みく「決めた!」

みく「覚悟を決めたにゃ……!」

みく「……」

みく「ナナチャンの呪いを……!!」

みく「みくなら出来るはず」

みく「いや、みくにしか出来ない」

みく「……」

みく「……」

みく「そして、これはみく自身のためでもある……よね」

みく「……Pチャン」

みく「ごめんね」

みく「……」

みく「……よし」

みく「やってやるにゃ!」





~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~


TV局

番組収録中


司会者「いやー、前川みくちゃん凄い人気ですね」

みく「ありがとにゃ♪」

司会者「さっきのVTRだと、幅広い年齢層の人から支持されてるようだね」

司会者「人気の秘訣なんかあるのかな?」

みく「やっぱりみくが可愛いからかな」キャルルン

司会者「はい、じゃあ次のコーナーです」

みく「えっ!無視!?」

司会者「静かにしてくれませんか?」

みく「扱いが芸人!!」

みく「ちょっと!みくバラエティ路線のアイドルになっちゃうじゃん!!」





司会者「次は感動のコーナーです」

みく「感動とか先に言っちゃ駄目じゃない?」

司会者「今人気沸騰中アイドルの前川みくさんですが」

司会者「実は、本日前川みくさんが尊敬しているという人にスタジオまで来て貰ってます!」

みく「おー!」

みく「誰だろう!!?」

司会者「事前に打合せしてるから誰か知ってるでしょ?」

みく「そういうの言っちゃ駄目にゃ!」





司会者「どんな関係の人なのでしょう?」

みく「……」

みく「うーん」

みく「一言で言い表すのは難しいけど」

みく「みくにとって『憧れの人』にゃ」

司会者「なるほど、憧れの人」

司会者「それじゃあ、早速呼んでみましょう!!」

みく「……」




司会者「”今をときめく人気アイドル”!!」

司会者「安部菜々さんでーす!!」


パチパチパチパチ
ガコン スタスタ




菜々「どうも、ウサミンことJKアイドル安部菜々でーすっ!!」バーン

菜々「前川みくちゃん、よろしくお願いしますねっ♪」





TV局

TV番組収録中



司会者「ははは、そうなんですねー」

菜々「ええ、あの時は困っちゃいましたよ~」

みく「ははは」

菜々「あっ!な、ナナはJKアイドルだから芸歴そんなに長くないんですけどねっ!」

司会者「前川さんと一回り年齢違うって本当なんですか?」

菜々「ななななななな、何言ってるんですか!?」

菜々「JKアイドルですよっ!17歳ですよ!!」

司会者「そういえば、安部菜々さんのアイドルのルーツはなんなのかな?」

菜々「そうですねえ」

菜々「実はお手伝いしてる喫茶店がありまして」

菜々「休憩中に路地裏で発声練習や歌の練習をしてた時なんですけど」

菜々「その時、小さな女の子に出会ったんです」






~~~~~~~~~~~~~~~

都内喫茶店裏口の路地裏
ある日の夕方

菜々「ららら~♪」

菜々「う、うぅん」

菜々「あまり上手くいかないですねえ」

女の子「……」ジー

菜々「?」

菜々「どこの子でしょう?5歳くらいの女の子……お客様のお子さんですかね」

女の子「お姉さん歌が上手いね」

菜々「おおー!ありがとうございますっ」

菜々「これでもアイドルを目指してるんですよっ♪」

女の子「凄い、アイドル!」




女の子「どんなアイドルになりたいの?」

菜々「そうですねえ」

菜々「歌って踊れて、みんなに愛されるキラキラしたアイドルになりたいかな!」

菜々「現役JKアイドル!ウサミンこと、安部菜々ですっ♪」クルクルキラーン

女の子「……おお!」パァ

菜々「えへへ」

菜々「……」

菜々「でも、アイドルになるってとてもとても大変なんです……」

菜々「本当になれるかどうか……」




女の子「そんなに歌が上手でも?」

菜々「厳しい世界なんです」

菜々「だからこうやってたくさん練習してるんですよ」

女の子「……そうなんだ」

菜々「誰もがなれるものじゃないし、とても大変だけど……」

菜々「ナナはみんなに夢を届けるアイドルになりたいんですっ」キラキラ

菜々「……」

菜々「でも、頑張っても頑張っても報われなかったらどうしようと不安になることも……」

女の子「……」



女の子「……」

女の子「駄目だったら、いつか諦めちゃうの?」

菜々「え?うーん、どうだろう」

菜々「その時になってみないと分からないですね……」

女の子「そんなに凄いのに諦めちゃ駄目」

女の子「じゃあ約束してよ」

菜々「約束……ですか?」

女の子「うん」

みく「みんなに夢を与えるアイドルになれるまで絶対諦めないって」

女の子「キラキラなアイドルになれるまで絶対諦めないって」

菜々「……」




菜々「……」

女の子「夢なんだよね?」

菜々「そうです……!」

女の子「じゃあ約束だよ、指切りしよっ」

菜々「はいっ!」

菜々「『約束』です!」ユビキリ

女の子「キラキラのステージで歌って踊ってる姿を見るのを楽しみにしてるね」




~~~~~~~~~~~~


TV局

番組収録中


菜々「その子との約束があるから頑張ってるんです♪」

司会者「ほー、良い話だねえ」

みく「……」

司会者「それじゃあ、安部菜々さんにも”大ヒット曲”を披露してもらいましょう!!」

司会者「キラキラのステージで思う存分歌ってください!」

菜々「はいっ♪」

みく「……」

みく「……」





TV局廊下
夕方(収録終了後)


みく「……」スタスタ

菜々「あ、みくちゃーん」ヒラヒラ

みく「あ……!」

菜々「さっきの収録はありがとうございました」

菜々「こうして話すのは『初めて』ですね♪」

菜々「あれ?」

菜々「どこかで会ったことありましたっけ?」

みく「……いや」





菜々「今日は番組に呼んでくれてありがとうございます」

菜々「ナナなんかがみくちゃんの憧れだなんて……」

みく「ううん、ナナチャン……あ、安部さんのこと……」

菜々「ナナでいいですよっ♪」ニコ

みく「……!」

みく「うんっ」

みく「……」

みく「ナナチャンがいなかったら……今のみくはなかったの」

みく「ナナチャンがいたからみくはここまで来れたの……!」

みく「……」

みく「ナナチャン、アイドルでいてくれて本当にありがとう」






~~~~~~~~~~~~~

事務所から駅までの小道
いつかの夜

みく「……」

みく「……」

みく「……」

みく「……やっぱり」

みく「アイドルしてるナナチャンにまた会いたい」

みく「みくにはアイドルのナナチャンが必要なの」

みく「……」





みく「……」

みく「決めた!」

みく「覚悟を決めたにゃ……!」

みく「……」

みく「ナナチャンの呪いを……!!」

みく「みくなら出来るはず」

みく「いや、みくにしか出来ない」

みく「……」

みく「……」

みく「そして、これはみく自身のためでもある……よね」

みく「……Pチャン」

みく「ごめんね」

みく「……」

みく「……よし」

みく「やってやるにゃ!」

みく「そうとなれば」

みく「時間駅を使って過去に戻ろうっ!」






時間駅


ガコン

みく「ここに来るのはもう何度目だろう」スタスタ

みく「ここで時間を戻せるおかげで1日を何度もやり直して、みくはアイドルとして成功してきた……」

みく「アイドルとして成功するにはタイミング、ニーズ、容姿、実力」

みく「そして、運が必要」

みく「何度も何度も時間を繰り返して、自分の都合の良いものだけ選んできた」

みく「運という要素を完全に排除していた」

みく「……」





みく「……」

みく「やっぱりそれはズルいよね」

みく「みんなに夢を与えるのがアイドルの仕事」

みく「ズルをして、夢を与えることなんか出来ない」

みく「そして、みく自身の夢も叶えたとは言えない」

みく「この『帰れるICカード』……」

みく「……これを利用するのは最後にする」

みく「……これが最後」

みく「……」

駅内アナウンス「まもなく電車が参ります、お乗りの方はお急ぎ下さい」

みく「さあ、ナナチャンを救いに行くにゃ」






時間電車車内(過去行き)
時間不明


ガタンゴトン

ガタンゴトン

車内放送「次は―――まえ――」

みく「……ん」

みく「……」

みく「……ふわぁ」

みく「……」

みく「……ウトウトしてたにゃ」

みく「……」

みく「あとちょっとかな」

みく「……」





みく「……」

みく「……」

みく「……もう後戻りは出来ない」

みく「今までの自分を捨てる覚悟は出来てる」

みく「”次”は上手くいかないかもしれない」

みく「それでもみくは……!」

みく「今を捨てて、最初からやり直す!」



車内放送「次は3650日前―、3650日前―」



みく「みくはこうするべきだったのにゃ」

プシュー 
ガコン

みく「よし、行こう!」






『10年前』
喫茶店裏口の路地裏
ある日の夕方



菜々「ららら~♪」

菜々「う、うぅん」

菜々「あまり上手くいかないですねえ」

みく「……」ジー

菜々「?」

菜々「どこの子でしょう?“5歳くらいの女の子”……お客様のお子さんですかね」

みく「……」

みく「お姉さん歌が上手いね」

菜々「おおー!ありがとうございますっ」

菜々「これでもアイドルを目指してるんですよっ♪」

みく「凄い、アイドル!」




みく「どんなアイドルになりたいの?」

菜々「そうですねえ」

菜々「歌って踊れて、みんなに愛されるキラキラしたアイドルになりたいかな!」

菜々「現役JKアイドル!ウサミンこと、安部菜々ですっ♪」クルクルキラーン

みく「……」パァ

菜々「えへへ」

菜々「……」

菜々「でも、アイドルになるってとてもとても大変なんです……」

菜々「本当になれるかどうか……」




みく「そんなに歌が上手でも?」

菜々「厳しい世界なんです」

菜々「だからこうやってたくさん練習してるんですよ」

みく「……そうなんだ」

菜々「誰もがなれるものじゃないし、とても大変だけど……」

菜々「ナナはみんなに夢を届けるアイドルになりたいんですっ」キラキラ

菜々「……」

菜々「でも、頑張っても頑張っても報われなかったらどうしようと不安になることも……」

みく「……」





みく「……」

みく「駄目だったら、いつか諦めちゃうの?」

菜々「え?うーん、どうだろう」

菜々「その時になってみないと分からないですね……」

みく「そんなに凄いのに諦めちゃ駄目」

みく「じゃあ『約束』してよ」

菜々「約束……ですか?」

みく「うん」





みく「みんなに夢を与えるアイドルになれるまで絶対諦めないって」

みく「キラキラなアイドルになれるまで絶対諦めないって」

菜々「……」

みく「夢なんだよね?」

菜々「そうです……!」

みく「じゃあ約束だよ、指切りしよっ」

菜々「はいっ!」

菜々「『約束』です!」ユビキリ

みく「キラキラのステージで歌って踊ってる姿を見るのを楽しみにしてるね」

菜々「……」

菜々「……どうしてナナの夢を応援してくれるんですか?」

みく「……」

みく「だって……」






10年前
都内某所
夕方


みく「……」

みく「……」

みく「これで良かったよね」

みく「これで」

みく「……」

みく「……」





みく「……」

みく「……」

みく「随分前にみくが『絶対諦めないで』と約束してくれとお願いした時に」

みく「ナナチャンは言った」



みく「『新しくその約束をしようとすると、”前の約束を破っちゃう”ことになるから』」



みく「その約束は出来ないって」

みく「……」

みく「……だからみくは」

みく「みくのこの『約束』で」







みく「ナナチャンが呪いにかかる前に呪いをかけた」

みく「ナナチャンがあの呪いにかからないように」






みく「……」

みく「……」

みく「これでも」

みく「上手くいくとは限らない」

みく「この新しい呪いがまたナナチャンを苦しめるかもしれない」

みく「……」

みく「それでも」

みく「それでもナナチャンは」

みく「本当にアイドルになりたいなら、そうするべきにゃ」

みく「ナナチャンの夢、みくが呪ってでも叶えて貰うにゃ!」

みく「……」





みく「……」

みく「後は、ナナチャン次第」

みく「……」

みく「みくはもうあの事務所には戻らない」

みく「有能なPチャンに会えたのも運が良かったから……かな」

みく「みくはみくで1からアイドルを目指そう」

みく「次は駄目かもしれない」

みく「上手くいかない可能性もある」

みく「それでも、それが自分が納得出来る道なの」

みく「……そしてナナチャンのような夢を届けられるアイドルになろう」

みく「……」





みく「……」

みく「……」ゴソゴソ

みく「……」

みく「『帰れるICカード』……今までありがとね」

みく「……」

みく「えいっ!!」

パキッ

みく「見事に真っ二つに折れたにゃ」

みく「……」






みく「……」

みく「これで本当に後戻りは出来ない」

みく「もう帰れない」

みく「何があっても逃げ出せない」

みく「……」

みく「それでも!」

みく「みくならやれるにゃ」

みく「よーし!」

みく「……」

みく「……」

みく「まずは……!!」

みく「5歳でお金もないみくがどうやって都内から関西の実家に帰るのかってとこから考えようかな!」






10年後
TV局廊下
夕方(収録終了後)



みく「……」スタスタ

菜々「あ、みくちゃーん」ヒラヒラ

みく「あ……!」

菜々「さっきの収録はありがとうございました」

菜々「こうして話すのは初めてですね♪」

菜々「……」

菜々「あれ?」

菜々「どこかで会ったことありましたっけ?」

みく「……いや」






菜々「今日は番組に呼んでくれてありがとうございます」

菜々「ナナなんかがみくちゃんの憧れだなんて……」

みく「ううん、ナナチャン……あ、安部さんのこと……」

菜々「ナナでいいですよっ♪」ニコ

みく「……!」

みく「うんっ」

みく「……」

みく「ナナチャンがいなかったら……今のみくはなかったの」

みく「ナナチャンがいたからみくはここまで来れたの……!」

みく「……」

みく「ナナチャン、アイドルでいてくれて本当にありがとう」

菜々「うぇっ!?そこまでですか?」






みく「みくにとっては……」

みく「いや、みんなにとってもそうにゃ」

みく「ナナチャンはみんなに夢を届けるアイドルだにゃ」

菜々「えへへ」

菜々「ナナ、いつの間にか理想のアイドルになれてたんですね」

菜々「あの子と『約束』したとおりに」

みく「……」

みく「『約束』……」

みく「ナナチャンはその約束を抱えてここまで来たんだよね?」

菜々「はいっ、そうです♪」




みく「……」

みく「そっか……そうなんだ」


スタスタ


モバP「……おーい!菜々さん事務所戻るぞ~」

菜々「あ、プロデューサーさん」

みく「!」

モバP「ん?」

モバP「お、△△事務所の前川みくちゃんか」

モバP「今日はありがとな」

モバP「色々なとこで活躍してるようだな!」

モバP「どうだ?うちの事務所に移籍して来ないか??」

みく「あはは、遠慮しとくにゃ」

モバP「そっか、残念だよ」ハハハ






モバP「よし、じゃあ菜々さん行こうか」

菜々「はい!」

菜々「じゃ、みくちゃんお元気で♪」

スタスタ

みく「……」

みく「……ナナチャン!」

菜々「?」

みく「最後に聞いてもいい??」

菜々「なんでしょう」

みく「……」






みく「……」

みく「……」

みく「さっきの小さい子どもとの約束」



みく「その約束を重荷だとか『呪い』だと感じたことはなかったの?」



菜々「……」





菜々「……」

菜々「えへへ」

菜々「そんなこと全くないですよっ」

菜々「むしろ逆です」

菜々「その約束のおかげで」

菜々「その約束があるからこそ、ナナはここまで頑張れたんですっ」

菜々「今の私があるのはあの子のおかげ」

菜々「だからあの子には感謝してるんです」










菜々「だって、やっぱりナナはアイドルのお仕事が大好きだから」








みく「……!」

菜々「辛いことも挫けそうなことも諦めそうなこともたくさんあったけれど」

菜々「大好きなアイドルになれるまで頑張れたのは、その約束のおかげ」

菜々「えへへ、さっきの番組のナナの姿もあの子が見てくれてたらいいなって」

菜々「そう思うんです♪」

みく「……」








みく「……」

みく「……そっか」

みく「そうなんだ……」

みく「ナナチャン……」

みく「……ありがとにゃ」

みく「……」ポロポロ






菜々「うぇっ!?」

菜々「みくちゃんはなんでそこまでナナのことを……」

みく「……」グスン

みく「えへへ、だって……」

みく「……」

みく「自分の夢を話すナナチャンの笑顔が素敵だったから」

みく「その時からナナチャンはみくにとってのアイドル」

みく「えへへ、それだけにゃ」




終わり

みく「笑顔が素敵だから」

おつおつ

乙です

なんか幸せな気持ちになった
おつおつ

icが黒から白に
菜々さんのお母さんは無事なのか邪推してしまう

乙乙

相変わらず好みの話ではあるが
重複が特に活きてる感じでもなかったから
タイトルをうまいこと新人賞後の場面に挟んで
>>178で〆でも綺麗だったんじゃないかな

しんみりだけど面白かった
また読みたい

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