奈緒「特別な一日」 (19)

アイドルマスターシンデレラガールズ、神谷奈緒のSSです。

初投稿。拙い文章ですがどうぞよろしくお願いします。

地の文、一人称奈緒視点です。書き溜めあり。途中からペースが落ちると思いますがご了承ください。

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「結局今日もほとんど話せなかったなあ…」 

そう呟いて、アタシはベッドの中で目を閉じた。瞼の裏にはここ最近のPさんの様子が次々と浮かび上がってくる。瞼の裏のPさんは、全部仕事をしていた。書類にサインしてたり、テレビ局の人と話してたり。きっと忙しいんだろうな。だからかな。 

最近、Pさんがアタシに構ってくれないんだ。 

いつもは何かにつけてかわいいとか言って来てたんだけど、最近はアタシの付き添いもほとんどないし、事務所でもパソコンに向かってばかりだ。そりゃ最初の頃は今日は忙しいのかな、ぐらいに思って気にしないでいたけどさ、それが1週間も続くってちょっと長すぎないか? 

Pさんの前ではそんな素振りは見せないようにはしてるけど、結構寂しかったりするんだよな…。最初の頃と比べて、アタシとPさんはだいぶ仲良くなれたと思う。話してるうちに趣味も同じだってわかって、思いっきりアニメのことを語れるとわかった時なんかはすごく嬉しかった。こんな風に最初の頃はPさんと仲良くなっていくのがただただ楽しかった。…でも、だんだん楽しいだけじゃなくなってきたんだ。なんかPさんが他のアイドル達と楽しそうに話してるのを見るとなんかモヤモヤっとしたり、逆にPさんと一緒にいると胸がドキドキする。かわいいって言われると、Pさんが本気で言っているわけないとはわかってるけど、それでも嬉しい。…つい恥ずかしくてバカって言い返しちゃうけど。
 
たぶん、アタシの中でPさんの存在はとっても大きいんだ。だから、Pさんと話せない日があったりするとまるで胸にぽっかり穴があいてるような気がしてしまう。 

たった一日でもそうなのに、一週間もそんな日が続いている。もうアタシは限界だ。 

どうにかして明日はPさんと話したいな…。 

それにしても、なんでPさんはこんなにも構ってくれないだろう。仕事を理由にあからさまに避けられてる気がするんだよな…。 

まさかとは思うけどPさんに嫌われたってことは無いよな?嫌われるようなことはしてないはずだし…。
 
もしかしてアタシがいつもバカとか言ってたからかな…。ほんとはそんな事じゃなくてもっと違うことを言いたいけど、つい恥ずかしくなっちまって…。もっと素直になりたいとは思うけど、Pさんの前だとなぜか素直になれない。もしかしたらアタシの照れ隠しでPさんを傷つけちまったのかな…。 

そうだとしたら、なおさらPさんと話さなければならない。早いとこどうしてアタシを避けてるのか理由を聞いて、もしアタシが悪かったらちゃんと謝らないと。もう、Pさんと話せないのは嫌だし、Pさんを傷つけているとしたらそれも嫌だ。兎にも角にも明日は絶対に話をしよう。そう決意したアタシは、今度こそ眠りに落ちていった。

「ごめんな、奈緒」 

は?突然何言ってんだよ。アタシが謝ることはあってもPさんが謝ることなんてないだろ? 

「俺の力じゃ奈緒をトップアイドルにはできないんだ」 

ほんとに何言ってんだよ、プロデューサー。アタシがここまで来れたのはプロデューサーのおかげだよ。こんなアタシをスカウトしてくれて、かわいい衣装を着せてくれて、アタシのための曲まで用意してくれたプロデューサーのおかげなんだよ。
 
「どれだけ頑張っても仕事ひとつ取れないダメプロデューサーの俺なんかじゃ」 

ダメなんかじゃない!今までだってたくさん仕事とってきてくれたし、全然可愛くなかったアタシをちゃんとアイドルにしてくれただろ!仕事が取れないのはPさんのせいじゃなくてアタシの努力が足りないからだって! 

「だから今日でお別れだ。でも安心してくれ。後任のプロデューサーはすぐ来るから」 

なぁPさん。前に、ちゃんと言ったよな。アタシのプロデューサーは生涯でたった一人、Pさんだけだって。だからさ……お別れなんて絶対に嫌だよ… 

「いままでありがとう。そしてさようなら」 

まてよ!待ってくれよPさん!アタシ、もっと頑張って仕事もらえるようになるからさ!…まだ言えてないことだってたくさんあるんだぞ。だからさ…だからアタシを置いてかないでよ…! 

「まってよPさん!」 

思わず叫ぶと、そこはベッドの上だった。はぁはぁ、と荒い呼気が口から漏れ出す。胸の動悸も早いし、パジャマは寝汗でびしょ濡れだ。どうやらアタシは悪い夢を見ていたようだ。 

「夢か…」 

そう口に出してどうにか心を落ち着ける。一度落ち着いて考えてみると、 

なんだか不思議と現実味のある夢だったな…。そう思った瞬間、全身の毛穴という毛穴からじっとりとした汗が噴き出す。変だよな。夢のことを現実のように感じるなんて。でも、アタシにはこの夢が本当になってしまうような気がしてならなかった。Pさんが仕事ばかりしてるのはプロデューサーをやめるからなんじゃないかって。

そう思うともう居てもたってもいられなかった。アタシは勢いよくベッドからはね起きると、急いでシャワーを浴びて、朝ごはんも食べずに家を飛び出した。
 
事務所に向かう電車の中でも不安は募るばかりで、もう胸が張り裂けそうだ。と、電車が最寄り駅に着いたみたいだ。乗客をかき分け、駅の出口へ急ぐ。早く、一刻でも早く、Pさんに会いたい。

プロデューサーを辞めることなんてない、そう言って欲しい。そう急かす心の命ずるままに、アタシは脇目も振らず駆け出した。街ゆく人が面食らっているのもお構いなしに走る。事務所についても自動ドアが開くのも、エレベーターを待つのももどかしくて仕方ない。

息を切らして階段を駆け上がり、ドアを開けると…目の前に驚いた顔をしたPさんがいた。 

「どうしたんだ奈緒?そんなに急いで」 

現実のPさんの声は夢とは違って少しとぼけていて、頼りなかった。でも、それ以上に暖かくて、心の底から安心出来る声だった。安心のあまり膝から力が抜けて床にへたりこんでしまう。 

「おい、大丈夫か奈緒!?」 

突然床に倒れ込んだアタシを見て、Pさんが慌ててこちらへ向かってきた。 

そのことになぜかアタシの心はときめいてる。Pさんに迷惑をかけているのはわかるけど、それ以上にPさんがアタシのことを心配してくれていることに喜びを感じている自分がいる。一週間ぶりにPさんがアタシに構ってくれたんだ…。 

おっと、感傷に浸ってる場合じゃないな。ひとまず大丈夫だってPさんに伝えなきゃな。そう思って口を開こうとしても開かない。そういえばなんだか体も重いような…。次の瞬間、突然アタシの視界は黒一色に染まった。そして意識もPさんのアタシを呼ぶ声を聴きながら、ゆっくりと沈み込んでいった。 

「奈緒…………」 

誰かがアタシを呼ぶ声がした。この声はPさんかな。景色は霞んでいて、なんだか全身がふわふわした感覚で包まれている。すると、頭にすうっと手が伸びてきてアタシの頭をやさしくなでた。

まるで子ども扱いされているような仕草だけど、すごく気持ちいい。それはPさんだからなのかな。Pさんの手からは、アタシを大切にしてくれているのが伝わってくるような気がした。そっか。こうやってPさんはいっつもアタシのことをちゃんと考えてくれてたんだ。いつもは恥ずかしくて言えないけど、
 
「Pさん……いつも……ありがとう……」 

「こちらこそありがとな、奈緒」 

……ん?急に視界が鮮明になる。ふわふわしたベッドから身を引き起こすと、真横にPさんがいた。

……やっちまったよ!Pさんの前で思いっきり恥ずかしいこと言っちまったよ!自分でも顔が赤くなっているのがわかる。ああ、もうPさんの顔をまともに見れないよ…。 

「やっと起きたか。突然倒れて心配したぞ?」 

どうやらアタシは睡眠不足と朝食を抜いたせいで倒れてしまったらしい。時計を見ると、アタシは二時間ほど眠ってたみたいだ。もしかして、その間Pさんは… 

「あ…あのさPさん。もしかしてアタシが寝てる間中付きっきりでここにいたのか?」 

「ああ。そうだよ。奈緒は寝顔もかわいかったぞ」 

「か、かわいいってなんだよ…」 

すごく久しぶりにかわいいといわれた気がする。いつもはうれしいより恥ずかしい気持ちのほうが大きいけど、今日はうれしい気持ちが大きかった。一週間ぶりってだけでこんなにうれしいんだな。 

「それよりPさん、仕事はいいのか?最近忙しいみたいだったし…」 

「つい昨日やっと終わったんだよ。ごめんな奈緒。最近仕事が忙しくてあんまり構ってやれなくて」
 
「き…気にしてねえし」 

Pさんにもアタシにあんまり構ってられなかった自覚はあったらしい。でも理由は単純に忙しかったからみたいだ。嫌われたわけじゃなくてよかった。…でもPさんは意図的にアタシを避けていた気がするんだよな。なんでだろう? 

「Pさんはなんで仕事があんなにたくさんあったんだ?」 

アタシが質問すると、Pさんは狼狽えたように早口でまくし立てた。 

「あ、いやさ、最近奈緒も人気が出てきたじゃん。だからさ、もっともっと売り込んでいかないとね、このチャンスにさ。それで最近はだいぶ忙しかったんだけどもう落ち着いたから大丈夫だ」 

…怪しい。すっごく怪しい。普段のPさんはもっと落ち着いた話し方をする。こういう風に早口になるのは、何か隠している時だけだ。

初ライブの時も、ソロ曲が決まった時もそうだった。アタシだって伊達にPさんと二人でやってきた訳じゃないんだからな。 

「Pさん…何か隠してるだろ」 

「いや、なんも隠してないって。ほんとに」 

なかなかPさんも強情だな…。このままじゃ埒が明かないぞ。かくなる上は…。 

「Pさん」 

「今度はなんだ?」 

見とけよPさん。乙女の武器を見せてやる! 

「Pさん…アタシ結構寂しかったんだよ…。Pさんが構ってくれなくて。それなのにPさんはアタシに隠し事までするのか…?そしたらアタシ…」 

目尻に涙を浮かべてPさんに迫る。っ…これ結構、いやかなり恥ずいなこれ。きっとアタシの頬は真っ赤っかだろう。でも、効果はあったみたいだ。 

「…嘘ついてごめんな、奈緒。本当のこと言うからもう泣かないでくれ」
 
そう言ってPさんはアタシの頭を優しく撫でてきた。いつの間にかアタシは涙まで流してたみたいだ。

いつもなら何すんだよ!とかバカ!とか言うところだけど、今は素直に受け入れることが出来た。そうしてもらっているうちにアタシの涙が止まると、改まってPさんが口を開いた。
 
「俺があんなに仕事してたのはな、どうしても休みが貰いたかったからなんだよ」 

…嘘だろ!?あの社畜の鏡のようなPさんが!? 

「おい奈緒。今失礼なこと考えてただろ。…まあいいや。だからそのために休みを貰うぶんの仕事を片付けてたんだよ」 

「そうだったのか…。でもなんでそんなに休みが欲しかったんだ?それに今の答えは全然アタシの質問の答えになってないだろ」 

うまくはぐらかそうとしたってそうは行かないぞ!何が何でも聞き出してやるからな! 

しかし、そんなアタシの覚悟は、Pさんの言葉によって数秒もしないうちに木っ端微塵に砕け散ることとなった。
 
「まあそれは置いといてだな、俺がとった休みって言うのは明日なんだけど、1日付き合ってくれないか?今回のお詫びも兼ねてさ」 

その言葉を聞いてアタシの頭は真っ白になった。Pさんと二人で丸一日過ごすなんて、まるで夢みたいだ。でも恥ずかしがり屋なアタシはつい反対のことを言ってしまう。 

「そ…そんな一日付き合うとかなんだよ!明日はPさんが頑張ってわざわざとった休みなんだろ?それだったらもともとしようと思ってたことをしたほうがいいだろ」 

違う!ほんとはこんなこと言いたいんじゃない!もしPさんと一緒にいれるならうれしいって言いたいんだ!でも、Pさんはそんなアタシのことはお見通しとばかりににっこり笑っていった。 

「奈緒と一緒に過ごす休日以上の日なんてないよ。だからもし付き合ってくれたら嬉しいな」 

ぼんっ、と顔が爆発する音が聞こえたような気がした。…Pさんはよくもこんな恥ずかしいことを言えるな。アタシだったらこんなの恥ずかしくて絶対無理だ。でもまあ、Pさんにここまで言われたら付き合うしかないよな。
 
「し…仕方ねえな。そこまで言うんだったら特別に付き合ってやるよ。…特別だからな?」 

「ほんとか!?いやあ、嬉しいよ、奈緒。それじゃあ、明日はよろしくな」 

と言って、Pさんはそのまま部屋を出て行った。部屋にはアタシ一人だけだ。Pさんと二人…考えるだけで胸がどきどきしてくる。 

「へへっ…楽しみだな…」 

そうつぶやいたその瞬間、Pさんが部屋の外からひょこっと頭をのぞかせた。 

「そういやなんで奈緒はわざわざ事務所まで来たんだ?今日と明日はオフだぞ」 

「な、部屋に入るときはノックぐらいしろよ、Pさん!」 

心臓が止まるかと思った。まさか今の聞かれてはないよな…。たぶん。 

「あーすまんすまん。それで、なんでだ?」 

まさかPさんに会いたかったとかPさんががいなくなる夢をみて不安になったとかなんて言えるわけがない。 

「なんでもいいだろ!もう帰るからよ!」 

そういうとアタシはベッドから立ち上がって、そばにおいてあった荷物を持って部屋の外に出た。そこでPさんにもう一度なにか言われる前に、アタシは先手を打って言った。 

「今日は…その…か、看病してくれてありがとな。それと明日も…楽しみにしてるからな!」 

そう言い放ってPさんの返答を待たずに急いで事務所を飛び出した。心臓がバクバク言ってるし、体が熱い。でも、アタシはPさんにちゃんと気持ちを素直に言えたことに、この上ない満足を感じていた。 

奈緒かわええ

事務所から家までの道はよく覚えていない。ただ、明日のことで頭がいっぱいだったのは覚えている。

家についてからもそれは変わらず、アタシはベッドでずっと身もだえていた。

と、その時、アタシはとんでもないことに気が付いた。明日はアタシの誕生日だ!一年にたった一度だけの特別な一日。それをPさんと過ごせるなんて…。

でも、Pさんはこのことには気づいてないだろうな。仕事で忙しかったし、人の誕生日なんてなおさらだろうな…。

今から言ってもPさんに迷惑だと思うし、このことは胸の内に秘めておこう。一緒にいれるだけで十分だ。 

夕食を食べて、お風呂から上がるとPさんからの連絡が入っていた。明日の予定についてだ。

朝の十時に集合して、まずは映画を見る。そのあとはお昼ご飯を食べて、買い物をするらしい。

…なんかこういうのよくアニメでみるよな。デートコースみたいな…。

って言うかこれまさにデートコースじゃないか!?定番もド定番の。

そういえばPさんも何気に20代前半だし、数年前にはこういうデートとかしたのかな…。

で、それを明日はアタシと行くと。つまりPさんとデート。…落ち着けアタシ。ただ出かけるだけただ出かけるだけ…。

アタシはアイドルでPさんはプロデューサー。だからその二人がそういう関係になることなんて100%ありえないよな。

…ありえないにきまってるけど、胸が痛むのはなんでだろう。

Pさんといると楽しくて胸がどきどきするけど、Pさんのことが好き…なのかはよくわからない。

そもそも好きっていうのはどういう気持ちなんだろう。明日Pさんといればわかるのかな。 

次の日、時間に間に合うように準備をする。今日は特別な一日だから、いつもは着ないようなかわいい服を勇気を出して着てみようかな。

クローゼットの奥から引っ張り出した服を着て、鏡の前に立ってみてみる。なんだか、アタシがアタシじゃないみたいだ。

Pさん、よろこんでくれるかな…ってなんでそこでPさんが出てくるんだよ!

ぶんぶんと頭を振って思考からPさんを追い出して、準備を続ける。

うん、よし!服装よし、メイクよし、持ち物もよし。準備はばっちりだ。

夜遅くてもいいのよ~、なんて親として問題のある母親の言葉を背に受けて、アタシは集合場所へと急いだ。 

集合場所についたのは9時30分。約束の時間の30分前だ。ちょっと早すぎたな、とも思ったけど、音楽でも聞いてればあっという間だろう。

そう思った矢先、後ろからトントン、と肩をたたかれた。反射的に振り向くと、そこにはPさんがいた。 

「ずいぶん早かったな、奈緒。もっと遅くてもよかったのに」 

「Pさんこそ早すぎだろ!?何分前からいたんだよ!?」 

「まあ相手より先に待っておくのが社会人の流儀だからな。俺のことはあんまり気にしなくていいぞ。…それよりその服、似合ってるな。かわいいぞ」 

「は!?な、なに言ってんだよ!?ぜんぜんアタシのイメージと違うし、か、かわいいとかそんなこと全然ないから!」 

勇気を出して選んだ服が似合ってるといわれ、その上かわいいと言ってもらえるなんてとっても嬉しい。

でも、Pさんの前でだとなぜだか素直に言葉が出てこないんだよな。他の人ならある程度は大丈夫なのに…。 

「そ、それより早く映画館まで行こうぜ。…ほらいくぞPさん!」 

半ばやけくそ気味にPさんの手を掴んで映画館まで歩き出す。Pさんの手は大きくて、あったかくて、胸の音がいやに大きく聞こえた。

映画館までの道のりはそこまで長くはないみたいだけど、いかんせん人が多い。

少しでも油断するとあっという間に離れ離れになってしまいそうだ。

しばらくすると、案の定人波にのまれて流されそうになる。すると、アタシがただ引っ張っていただけのPさんの手が、ギュッとこちらを握ってきた。

びっくりしてPさんの方を向くと、Pさんも少し恥ずかしそうにしながら言った。 

「ほら、あのさ、離れ離れにならないように手…繋ごうか」 

Pさんがこんな事言うなんて…驚きのあまり声が出ないアタシは、返事のかわりに手を握り返した。 

映画館につく頃には、アタシもPさんも真っ赤になっていた。

落ち着いて考えてみると、アタシ達結構やばいことしてたんじゃないか!?

手とか繋いで歩くとかこ、恋人同士みたいなことしちゃってさ!アイドルとプロデューサーだぜ!?バレたら絶対ヤバいって!

どうやらそう考えたのはPさんも同じだったみたいで、顔を見合わせて二人同時に手を離した。

しばらくの間気まずい沈黙が続く。

それに耐えきれなくなったアタシは、Pさんに尋ねた。
 
「と、ところで今日はなんの映画を見るんだ?」 

Pさんにもこの沈黙は耐え難かったみたいで、アタシのかなり強引な話題にも乗ってきてくれた。
 
「そ、そうだな。まだ奈緒には教えてなかったな。…えっと、ほら、あれだよ。あのポスターの映画」
 
Pさんの指さす方を見ると、そこにはアタシが前から見たいと思っていたアニメの劇場版のポスターが貼ってあった。 

「この前の営業の帰りに映画館の前を通っただろ?その時に奈緒がすごく見たそうにしてたからな。今日はこの映画のチケットを買ったんだよ」 

得意げな様子でPさんが言う。アタシってそんなにわかりやすかったのか…。

まあ確かにこの映画のことはだいぶ気になってたからな。嬉しいとは思う。

…でもPさんとこの映画を見たいとは思わないんだよなあ。だって内容がな…。 

「…チケットとってもらって悪いんだけどさ、違う映画にしないか?ほらあっちのSFとかさ。Pさんが見たいもの見た方がいいって」 

「俺のことは気にしなくていいよ。それより、見たいのか見たくないのかどっちなんだ?」 

正直、見たいか見たくないかと聞かれれば、そりゃ見たい。

でも…うーん…この機会を逃したら次見に行けるのはいつになることやらわからないし…でもPさんがなあ…。
 
…えーい!迷ってるのはアタシらしくないし、やっぱ見たいものは見たいよな!

Pさんのことは考えないようにしよう!うん、そうしよう。
 
「ああもう、わかったよ!見たいよ!その映画!結構前から見たかったやつだしな!ほら、そうと決まったら早く行こうぜ」 

半ばヤケクソで返事をしたアタシは強引にグイグイとPさんの手を引っ張って入場口へ向かった。 

席に着いて手に持ったポップコーンとドリンクをホルダーに入れると、ちょうどタイミングが良かったようで、予告編が流れ始めた。

まだ本編が始まるまでには時間がありそうなので、さっきから気になっていたことを聞いてみる。
 
「ところでPさんはこの映画の内容とか知ってるのか?」 

まあ、もし知ってたらアタシと一緒に見ようとは思わないはずだけど。 

「内容は知らないなあ。あ、でも恋愛映画だっていうのは知ってるぞ。奈緒はそれで見るのためらってたんだろ?まったく、奈緒はかわいいな」 

「はぁ!?か、かわいいとかなんだよ!?別にためらってねえから!ちょっと考えてただけだから!ほんとなん…」 

いきなりPさんの指を唇に押し付けられて言葉が止まる。 

「奈緒…映画館では静かにな?」 

まただ。今日何度目かわからないこの感覚。胸がきゅーってなって、それからかーっと熱がこみ上げてくる感覚。

Pさんと一緒の時だけ感じるドキドキ。ほんとアタシ、どうしちまったんだろう? 

「お、始まるみたいだな。映画なんて久々だな」 

Pさんは人の気も知らないで呑気にポップコーンをつまんでいる。

その仕草が無性にむかついて、アタシはPさんからポップコーンをバケットごとひったくって、スクリーンに注目した。 

主人公は前のめりに元気な女の子。どこにでもいそうな普通の女の子だけど、普通じゃないのはアイドルをやってるってこと。

アイドルの恋愛はもちろん御法度なんだけど、相手はなんとその子のプロデューサー。禁断の恋ってやつかな。

このアニメはもともと深夜でやってたんだけど、これが話題になって大ヒット。

そんでもって最終章が映画になったになったてわけ。

テレビ版ではいろいろな試練を乗り越えてアイドルランクはAに到達、プロデューサーとの仲もだいぶ親密になってたけど、どうやって終わらせるのかな?
 
…ちなみにアタシがこのアニメを見たかったのは、なんだか主人公がアタシみたいだな、って思ったからなんだ。

別に容姿とか性格とかがっていうわけじゃなくて、なんとなく、主人公とプロデューサーとの関係が、アタシとPさんに似てるなって。

好き…なのかどうかは分からないけど一緒に居たい、そう願う主人公とまるで気づかないプロデューサー。この二人の感じは、細部は違えどアタシとPさんみたいだと思ったんだ。 

初めのほうは、テレビ版の軽い復習みたいな感じだったので、アタシはポップコーンをつまみながら見流していた。

15分ほどして、いよいよ物語が動き始めたみたいだ。 

『プロデューサーさんっ!ドームですよっ!ドームっっ!』 

『ははは…落ち着け』 

主人公の活動も一区切りという事で、ドーム球場でライブを開くことになったのか。おお、なんかクライマックス感出てるなあ。

アタシはまだそんな大きな会場でライブをしたことはないけど、いつかはできるかな…なんてな。 

ドームライブは決まったものの、そうすんなりと行くはずもなく、いろんな問題が出てくる。

それらをプロデューサーと協力して乗り越えるも、このライブが終わったらプロデューサーは別のアイドルをプロデュースすることになるということを知ってしまう。 

『おはようございます!』 

『おはよう。今日は、重要な話があるので、黙って聞いていてほしい』 

『なんですか?話って』 

『……実は、今回のライブ限りでの……活動停止が決まった』 

『そんな、急な……』 

『今度のライブが最後のプロデュースになる』 

『………』 

いつかは来ると思っていた、それでも突然すぎる別れに主人公は愕然とし、元気を失ってふさぎ込んでしまう。
 
それでも、主人公はいままで応援してきてくれたファン、仲間、そしてプロデューサーのために、思い出を胸に最後のステージへと臨む。
 
…今まであまり考えたことは無かったけど、アタシもいつか引退するんだよな。

その時までPさんはアタシのことをプロデュースしてくれてるかな。

…たぶんしてくれてるだろうな。だってPさんがプロデュースを終えるのはアタシが辞める時だから。 

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