娘「伝説のソーセージ?」 (23)
父「そうだ。世界にはそう呼ばれているソーセージが存在する」
娘「それは所謂お父さんのーっていう下ネタ?」
父「可愛らしい女の子がそんなこと言っちゃいけません」
娘「その伝説のソーセージがどうしたの」
父「お母さんがそのソーセージを食べたいと言ってるんだ」
娘「もう一度聞くけど私にセクハラしてるわけじゃないんだよね」
父「とにかくそういうことだから、私は今日から旅に出る。すまないがお店のことはまかせる」
娘「お母さん病気で寝込んでるのに、これ以上人手が減るなんて」
父「大丈夫、知っての通りこの宿屋に泊まる旅人も殆どいない」
娘「だから私が雑貨屋でアルバイトしてるんじゃない」
父「では行ってくる。留守とお母さんを頼んたぞ」
娘「いや、アルバイトに行かないと生活費が・・・って行っちゃった」
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男「こんにちはー。あれ、めずらしいね。娘ちゃんが店番してるなんて」
娘「男ちゃん、聞いてよ。お父さん店番を私に押し付けて、旅に出ちゃった」
男「雑貨屋のバイトどうするの?」
娘「お父さんが帰ってくるまで休ませてもらうかなぁ。家空けるわけにいかないし、お母さんいるし」
男「おじさんもいきなりだね」
娘「なんか伝説のソーセージっていうのを探しに行くんだって」
男「なーにそれ?」
娘「さあ。お母さんが食べたいんだって」
男「食材かなぁ。あ、そうそうこれ。いつものパンと野菜。人参は一本おまけだよ」
娘「ありがとう男ちゃん」
旅人「こんにちは、宿泊したいのですが」
男「珍しいね、お客さんだ。じゃあ僕はこれで帰るね」
娘「ありがとうね男ちゃん。はい、旅人さん何泊されますか?」
旅人「とりあえず一週間おねがいします」
娘「一週間、ですか」
旅人「滞在が伸びそうであれば、追加でまたお金を払います。部屋は空いてますでしょうか」
娘「部屋はいくらでも空いてますので心配ないですよ。滞在期間はお金さえ用意してもらえれば」
旅人「よかった。荷物を置いたら少し外出しますので。お昼ご飯は食べてきます」
娘「分かりました。ではここにお名前と滞在期間を。これがお部屋の鍵です」
男「一週間も泊まるお客さん?すごいね」
娘「でも一部屋だけだし儲かるとは言えないかな」
男「どんな人?女の人だったよね」
娘「うん。綺麗な人。私もあんな女の人になりたいなー。旅もしてるなんて憧れちゃう」
男「旅といえば娘ちゃんのおじさんは大丈夫かな」
娘「どうだろう。旅なんてしたことない田舎宿屋の店主だし」
旅人「戻りました」
娘さん「あ、旅人さん。お昼ご飯はお外でということでしたので、ご用意していませんが」
男「あ、僕帰ったほうがいいかな」
旅人さん「いや、君にも手伝ってほしいことがある」
男「手伝い?」
旅人さん「店主さん」
娘「私は店主の娘です」
旅人「娘さん、厨房を貸してはくれませんか」
娘「構いませんが、調味料などの代金は払ってくださいね」
旅人「もちろんです。娘さんも手伝ってはくれませんか?アルバイト代は払います」
娘「いくらほどですか」
旅人「一週間分の宿代を倍額出しましょう」
娘「手伝います」
旅人「実は私、これを求めて旅をしておりました。伝説のソーセージというものです」
娘「あ、それ」
男「おじさんが探しに行ったやつだよね」
旅人「この町のどこかに眠るという情報をやっとのこと掴んで、そして今まさに見つけ出したのです」
娘「どこにあったんですか?」
旅人「雑貨屋の奥さんが数十年に一度、寿命を削って作ると言われる最高級ソーセージだったのです」
娘「たったの一本しか貰えなかったんですか」
旅人「いえ、一本しか作れないというのが正しいです。寿命を削るようなので」
男「雑貨屋のおばちゃんにそんな裏話が」
娘「お母さんこの事絶対知ってたよね。なんでお父さん知らずに旅に出ちゃったんだろう」
男「絶対知らされてないよね」
旅人「私はグルメハンターなので、世界中の美味しいものを食べて旅をしているのですよ」
娘「そういう旅の仕方もあるんですね」
旅人「中でもこの伝説のソーセージは伝説級の伝説!まさに幻の珍味。今から腕によりをかけて調理するので、どうか手伝ってほしいのです」
娘「わかりました、是非手伝わせてください」
男「え、娘ちゃんいいの?お母さんが食べたがっているんでしょ?」
娘「うん。だからすり替える」
男「えっ」
旅人「できた!やはりソーセージはボイルに限る」
娘「私達手伝う必要ありましたか?」
旅人「私の汗を拭く係と私を励ます係は重要です。しかもこんなに可愛い女の子達に囲まれて調理をするなんてなかなかありませんよ」
男「僕、男なんですけど」
旅人「嘘が下手ですね、どうみても女の子ですよ」
男「よく間違われるので、もう慣れました。・・触ってみます?」
旅人「えっ、触ってみるって、えっ」
男「ここですよ、触ってみたら男かどうか分かるのではないですか?」
旅人「こ、こんな可愛い少女のおまたに、一体なにがあるというのでしょう。さ、触ってもいいのですか?ごくり」
娘「はいはーい。さあ、早く食べないとソーセージ冷えちゃいますよー」
旅人「はっ、そうだ。今はこちらのソーセージが優先でした」
娘「男ちゃんありがとう。旅人さんが男ちゃんのを見てる間に、普通のソーセージとうまくすり替えられたよ」
男「なんだか変な気分だったよ。旅人さん、息遣い荒くて少し怖かった」
旅人「それでは、一人分しか無いため、私がソーセージをいただきます。少女と、えー、少女のような少年?いや、まだ少年と決まったわけではない、が!この、伝説のソーセージを、食べる私を見届けてくれて二人ともありがとう」
娘「どうですか味のほうは」
旅人「もぐもぐ。うむ、うむ。うーむ。」
男「どきどき」
旅人「うまい!普通にうまい!」
娘「よかったです」
旅人「ええ、よかったです。しかし幻とまで言われたソーセージが、まさかここまで舌に馴染む、どこか懐かしいような味だとは」
娘「きっと真の伝説の食べ物はみんなが食べておいしいと思えるものかもしれませんね」
旅人「ふむ、たしかに。そうかもしれないですね」
男「ともあれ、伝説のソーセージを食べたことで、旅人さんの新たな旅が、また始まるわけですね」
旅人「そうですね。次は魔界の唐辛子という食材を、探しに行こうと思っています」
娘「応援しています」
旅人「またどこかで会いましょう。あ、男ちゃん、私と一緒に旅をしてみませんか、楽しいですよ」
僕「僕は町で一生を終えるつもりです」
旅人「もったいないですね、世界は広いですよ。男ちゃんなら行く先々から、皆からの注目間違いなしです」
僕「それが嫌なんです」
旅人「そうですか。残念ですが男ちゃんがそういうなら。では娘さん、男ちゃん、さようならー」
娘「その前にお金きっちり置いてから行ってくださいね」
娘「さあ、旅人さんも行ったし、この伝説のソーセージをお母さんに食べさせてあげよう」
男「そうだね」
娘「お母さん起きてる?」
母「入りな」
娘「お母さん、伝説のソーセージ持ってきたよ。食べて」
母「この香り、私の部屋まで届いていたよ」
男「すごい嗅覚ですねおばさん」
母「うむ、うむ、美味いね」
娘「私にも一口ちょーだい」
男「ぼ、僕にも」
娘「むぐむぐ。あっ、おいしい」
男「こんなソーセージ食べたことない。ほっぺたが溶けちゃう」
母「はは、男ちゃん、ほっぺは落ちるくらいにしときな。ところでこいつをボイルした後のゆで汁はどうした」
娘「まだ厨房にあるけど」
母「じゃあ今度はそれをお椀についできておくれ」
娘「??。そんなもの飲んでもおいしくないと思うけど」
母「ん?なにを言っているんだいこの娘は。この伝説のソーセージの主役はソーセージでも味付けでもない。ソーセージをボイルしたあとのゆで汁なんだよ」
娘「え。そんなこと旅人のグルメハンターさんは一言も」
母「ならそいつは二流だ。いや、お前たちにソーセージを出し抜かれたところをみたら三流以下だな」
娘「だ、出し抜いたりしてないよ。もらったんだよ」
男「伝説のソーセージ美味しかったよ?ゆで汁のほうが主役なの?」
母「いいからさっさと持ってきな」
娘「う、うん」
母「うん、この香り。間違いないね、伝説のソーセージのゆで汁だね。では頂くとしよう」
娘「ど、どう?おいしい?」
男「どきどき」
母「ふぅーっ。不味い」
娘「まさかの不味い発言」
男「不味いって言ったね」
母「よっこらせ」
娘「お、お母さん、起きちゃって大丈夫なの?」
母「ああ、問題ないね。ゆで汁のおかげさ」
男「ゆで汁のおかげ?」
母「そうさ、このゆで汁を飲めばありとあらゆる内臓機能が回復し、体内が若返るとまで言われている」
娘「お母さんが今まで寝た切りだったのって」
母「15年前に激辛クジラ牛肉を1万7千頭分食べてな。それであと15年は内臓機能の衰えで動けない、とふんでいたんだが。まさか娘がこのゆで汁を手に入れてくれるとはな」
男「てっきり重い病で寝込んでいるとばかり」
母「男ちゃん馬鹿言っちゃいけないよ。激辛クジラ牛肉は少々やり過ぎたが、病魔に負けるほどわたしゃヤワじゃないよ」
男「病魔より食あたりのほうが強いんだ」
母「ところであのくそ野郎はどこいった。あいつにも伝説のソーセージ持ってくるように言っといたんだが」
娘「お父さんは伝説のソーセージを求めて旅に出たよ」
男「今朝がたの話です」
母「あいつ馬鹿か。雑貨屋んとこの奥さんが、私とマブダチだってこと知ってるだろうに」
娘「そのマブダチがソーセージ職人とは知らなかったんじゃないかな。ちゃんと教えてやらなきゃ」
母「あいつのことだ、どうせ旅半ばで挫折して帰ってくるさ。さあ、元気になったし私も仕事をしようかね」
娘「お客さんいないけどね」
旅人「すいませーん」
男「あれ、この声は」
娘「さっきぶりですね、旅人さん。忘れ物ですか?」
旅人「さっきのソーセージをボイルしたゆで汁は、残っていますか?」
娘「あれならもう家畜の肥料の材料として、使っちゃいまいたけど」
旅人「おおぅおおおう、なんと、なんと贅沢で勿体ないことを」
男「うそですよ旅人さん、ちゃんと残してありますよ」
旅人「それは本当か。くぅーっ、ありがとう男ちゃん。娘さん」
母「あんたがグルメハンターの旅人か」
旅人「はい、この方は女将さんですか」
母「まあ、そんなところだ。ゆで汁は私が先に頂いたぞ」
旅人「なっ」
母「お前みたいな三流以下が私の後輩などとは、グルメハンターの質も落ちたものだ」
娘「えっ、後輩って」
母「娘は知らなかったか。私は若いころ、こいつと同じグルメハンターとして世界を旅していた」
旅人「・・・あっ、その洗練された噛み合わせに、白く虫歯のない歯。世界で最も狂暴と言われるグルメ、地獄のタラバガニを仕留めるときに負ったその頬の傷。あなたは」
母「なんだい、ゆで汁の事も知らないくせに、余計なことは知ってるようだね」
旅人「私、あなたのことを絵本や書物でなんども読んで憧れて、だからグルメハンターになったんです。まさかこんな場所であえるなんて・・・伝説のグルメハンター鬼神の胃袋!」
娘「鬼神の胃袋」
男「こわい」
母「それはお前らが勝手にそう呼んでるだけだろうに。とにかくおいで、まだゆで汁を飲んでいないんだろう。貴重な体験だ。飲ませてやる」
旅人「やったあ。伝説のグルメハンターが直々に料理をふるまってくれる」
娘「期待しないほうがいいですよー」
男「僕たちはまだ飲まなくていいかな。子供だし」
父「ただいま、娘」
娘「あ、お父さんお帰りなさい。夕飯はもう少ししたら作るね」
男「おじゃましてます、おじさん」
父「ああ、ただいま男ちゃん。今日も可愛いね」
男「ありがとうございます」
父「というか娘よ、父がこんなに早く旅から戻ってきて、なにか聞きたいことなどは無いのか?」
娘「じゃあ、なんでこんなに早く戻ってきたの」
父「なんとか大陸を渡る港町まで行ったのは良かったのだ。しかしいつの間にか財布を盗まれてしまっていてな」
娘「えー、もうちょっとましな理由かと思った」
男「まあまあ、おじさんも怪我がなくてよかったじゃない」
父「ありがとう男ちゃん、娘にしたい」
旅人「げ、まっずぅ」
父「お客さんが来ているのかい?」
娘「うん、お金はそれなりに落として行ってくれたよ」
父「そうかそうか、宿屋主人として一つ挨拶を。こんにちは、本日は当店をご利用いただきありがとうございます。挨拶が遅れました、店主でございます」
旅人「あ、ご丁寧に、どうも。まっずぅううう」
母「このゆで汁は貴重なんだよ、ほら、もっと飲まんかい」
父「あれ、お前元気になったの?」
母「そうさ、娘のおかげでね。お前は一体何をやっていたんだい」
父「えーっと、なんかお母さん元気良すぎない?」
娘「あれ飲むと体内が若返るらしいよ」
父「へえ・・・ん?ちょっと旅のお嬢さん、どこかでお会いしませんでしたか?」
旅人「んー?・・げっ。ひ、人違いじゃないでしょうか」
父「うーん、なぜか見たことある気がするんだよなぁ。しかも今日旅に出ているときに」
旅人「きっと旅でお疲れなのでしょう。お財布も落とされて災難だったようですし」
父「そうなんです、あの財布には旅に困らないよう大金が入っていたんですよね」
旅人さん「ほんと、そうなんですよ。盗ったときはびっくりしました。おかげで宿代にも困らずにーって、あれーなんか空気変わっちゃってる気がするのは気のせいですかね」
母「ほら、肉野菜炒めと卵スープ持っていきな。手前のテーブルにはエールを3杯に一角豚の丸焼きだよ。持っていったら今度は、夕食の七色鶏のカレーの仕込みを始めな」
旅人「了解ですお師匠」
母「お前にゃ狩りのほかにも、料理やらなんやら、教えることがたくさんある。ついてこれないならクビにするよ」
娘「最初は盗んだお金を返すために、働いていただけなのに」
男「今じゃこの風景も、当たり前になってるね。あれ、おじさんは?」
娘「また営業に行ってるよ」
男「今回はどこまで?」
娘「隣の大陸の極東にある村を目指しながら、宿屋の宣伝をしていくんだって」
男「まさかあの旅がきっかけで本当に旅人になってしまうなんて」
娘「でもおかげでお客さんが、こんなにたくさん」
男「伝説のグルメハンターがいる宿屋なんて聞いたら、こんな田舎でも人は来るよね」
娘「当り前よ、お母さんの料理は世界一美味しいからね」
男「やっぱりいつも作ってくれる料理が、僕は一番おいしいと思う」
娘「そうだね。男ちゃん・・じゃなくて男君。髪切って短くさっぱりしたのはいいんだけど」
男「まだどこかだめかな」
娘「なんというか、しゃべりかたがまだ女の子っぽいところあるよね」
男「えっ、そんなこと言われても、しゃべり方はなかなか治せないよ」
娘「だめだめ。そんなんじゃ、私のお婿さんにはできないよ。女の子同士だと思われちゃう」
男「うーん」
雑貨屋の奥さん「ほらそこ、おしゃべりしないできちんとお掃除なさい」
娘「ごめんなさい」
男「ごめんなさい」
雑貨屋の奥さん「人は自然体が一番いいんじゃないかね」
男「それは」
雑貨屋の奥さん「鬼神の胃袋は、そりゃあ自分に素直さ。だから自分のやりたいことやって、好きなもん食べて、気が付きゃ今じゃ伝説のグルメハンターさね」
娘「おばちゃん」
雑貨屋の奥さん「あの旅人だって、あそこに居たいから居る。あんたのお父さんも、旅に出たいから出た。旅は素人同然だったあやつがな」
男「おばちゃん、僕は」
雑貨屋の奥さん「お前はお前のやりたいようにやればええ、無理に自分を偽る必要などない。人の目など気にするな。それともおぬしら二人は、人の目を気にして生きるほど偉くなったのかえ?」
娘「なんかすごくお説教された気がする」
男「ふふっ。・・ねえ娘ちゃん」
娘「なに」
男「僕、また髪、伸ばすよ。そうじゃないと僕が僕じゃないみたいだし」
娘「うん、男ちゃんがそう言うなら」
男「女みたいな容姿でも僕は男で、これが僕だから。だから、これからも仲良くしてくれる?」
娘「もちろんだよ男ちゃん。これからもよろしく」
男「えへへ、よろしくね、娘ちゃん」
旅人「ねえねえ男ちゃん、今日こそは私の部屋で、一緒に寝ませんか」
男「怖いです」
娘「あの時大人の女性として憧れた旅人さんは何処へ」
おわり
乙乙
短いのに濃くて面白かった
発想がぶっとんでる
面白かった
乙!
例の勇者かと思った
おつ
下ネタじゃなかった、だと……
面白かった乙
伝説の双生児かと思った
乙
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