【ガヴドロ】ヴィーネ「最初で最後の、悪魔的行為。」 (32)

朝、いつものように彼女の部屋に入る。

部屋に入ると、まず目に付くのはその汚さ。

脱ぎ捨てられた衣服。
テーブルの周りに散乱する食べかけのお菓子の袋。

とても女の子の部屋とは思えない。
毎日片付けているのに、1日でどうしてこんなに汚くなるのか分からない。

付けっぱなしのPCに表示されている、
オンラインゲームのメニュー画面。
昨夜も遅くまでプレイしていたのが容易に想像できる。

でもまあ、今日はマシな方。
ちゃんとベッドで寝ている。

たまに寝落ちして床で寝てることがあるから、
身体を痛めないかと心配になる。

寝ている彼女を起こさないように静かに歩いて、
軽く部屋の掃除をする。

衣服は洗濯機に、ゴミ袋は一箇所にまとめておく。

大方片付いたら、洗濯機を回してから料理に入る。

食パンを焼いて、その間に手早くベーコンエッグを作る。


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♪~♪~

自然と鼻歌交じりになってしまう。
こうしているのが何だかとても楽しい。

2人分の朝食をテーブルに並べたら、彼女を起こしにかかる。

部屋に戻って、彼女の側に寄る。

華奢な身体つきに、腰まで届く手入れされたサラサラの金髪。

すやすやと寝息を立てて動かない。

いつも思うけど、こうしているとかわいいお人形さんみたい。

軽く肩を揺すって言葉をかける。


「ガヴ、起きて?もう朝よ。」

「・・・」


反応がない。


ヴィーネ「ガ~ヴ~起きてってば。」

ガヴ「・・・ん」

ヴィーネ「早く起きなさいって。」

ガヴ「・・・あと5分。」

ヴィーネ「・・・もう...」

呆れた声を出して見せるが、内心はとても嬉しい。

私だけに見せてくれる、あまりに無防備な表情。

ガヴのかわいい寝顔を見られるのは私だけの特権。

そう思うと幸せな気持ちになれるのだ。

こんな姿を見せられるとこのままもう少し寝かせてあげたくなるが、

朝ごはんが冷めてしまうのでそういう訳にもいかない。

仕方ない、次の手段。

カーテンを勢いよく開ける。
日差しが眩しい。今日は快晴みたい。
洗濯物もよく乾きそう。


「んぅ・・・」


しかめっ面で眩しそうにしているガヴに、追い打ちをかけるように


「起きなさい!朝ごはん冷めちゃうから。」


と、少し大きめの声で、起床を促す。
ようやく目を開けるガヴ。


「ん...ヴィーネ。」


彼女はまだ眠そうに目を擦りながら、おはようとだけ言った。
私もおはようと返す。


「朝ごはんできてるから、さっさと食べちゃいなさい。」

「んぁ...はーい。」

「...」


促されるまま、彼女は気だるそうに歩いてダイニングに向かった。

向かい合わせに座って、ご飯を食べるのも当たり前の光景になった。

もぐもぐとパンを噛むガヴは、ハムスターみたいでかわいい。

しばらく見つめていると視線に気付いたのか、なんだよと聞いてくる。


「別に何でもないわ。」

「ふーん。」


思ったような解答が得られないのが不満そうなガヴ。
しばらくご飯を食べ続けてから、


「ヴィーネも変な奴だよなー」


と、呟いた。

何が、と聞き返す。


「突然あんなことして・・・訳わかんないよ。」

「今までと何も違わなくないか?」

「・・・」


言葉の意味を理解するのに数秒を要した。


「分からなくていいわよ。」

「私がどうしてもしたい...」

「いや、こうしなくちゃって思っただけだから。」

「ふーん。」


それ以上の会話は無かった。

洗濯と洗い物を済ませ、学校へ行く準備もできた。

本当はちゃんとガヴの部屋の掃除をしたいけど、時間に余裕が無い。

学校へ向かう前に、ガヴの部屋へ行く。


「じゃあガヴ、そろそろ学校行って来るね。」

「うん。」


ゲームの画面から目を逸らさず、ガヴは返事をした。


「ガヴ、これ。」

「ん?ああ、忘れてたわ。」

「別にこんなのしなくてもいいのに、ヴィーネは心配症だなぁ。」

「それはダメ。これがないと不安で仕方ないの。」

「はいはい、分かったよ。」


ポーズ画面を表示して、ガヴは私の方を見る。

私はゆっくりとガヴに近づいて、手を首の後ろへ回す。

サラサラの髪に手が触れる感触が少し心地いい。


「少し、じっとしててね。」

「ん...」

手を前に回して、締めすぎないように留める。

顔と顔が近いせいか、微かに香る、私と同じシャンプーの匂い。

柔軟剤の香りも少しする。これも私と同じ物。

そして、ガヴ自身の匂い。少し甘いような、何とも言えないけど
とても落ち着く、そんな匂い。

そのまま彼女を抱き寄せる。

今にも折れてしまいそうな華奢な身体を、包むように優しく。


「ガヴ、好きよ。」

「...」

「大好き。」


自然と言葉が漏れる。
目の前の少女を愛しいと思う気持ちで、
胸がいっぱいになる。


「...」


返事はないが、ガヴも手を後ろへ回して抱き締め返してくれている。

数秒間そのまま抱き合ったあと、お互い手を離す。

「じゃあ、行ってきます。」

「ああ、行ってらっしゃい。」

「どこにも行っちゃダメよ。」

「どこにも行かないよ。これもあるしな。」


自分の首を指差すガヴ。


「ふふっ、そうね。」

「あんまりネトゲばっかしすぎるんじゃないわよ。」

「へいへい。」

「すぐ帰ってくるから、いい子にして待っててね。」


部屋の扉を閉めて、そのまま玄関へ。
玄関の扉を開けて、学校へ向かう道を歩き始める。

通学路を歩きながら考える。
ガヴは大丈夫だろうか。
本当に、待っていてくれるだろうか。


逃げたり、しないだろうか。


大丈夫。
そのためにガヴに着けてもらってるんだから。



彼女の細い首に全く似合わない、真っ黒な首輪を。




ヴィーネ「最初で最後の、悪魔的行為。」


今日はここまで。
こんな感じで続いていきます。

期待

ええぞ

ガヴィーネ達がちゃんと幸せならいいんだ


......

昼休み。
私は、サターニャとラフィと昼食を食べに食堂へ来ていた。



「ガヴちゃん、今日も学校お休みですか・・・」


心配そうにラフィが言った。


「アイツったらほんと何やってるのかしら」

「ついにこのサターニャ様に恐れをなして逃げ出したとか?」


なーっはっはっは!
サターニャの笑い声が食堂に響く。


「サターニャさん大丈夫です。」

「それは絶対にないと思います!」


親指を立てて、グーサインをするラフィ。
何でよ!とサターニャ。

私達4人の、いつものやりとり。
だがそこにガヴリールの姿はない。
それも当然、だってガヴは・・・


「...ーネさん」

「ヴィーネさん?」

「えっ!?」


自分の名前を呼ばれていたことに気づかなかった。


「ごめん、ちょっと考え事してて...」

「どうしたの?ラフィ。」


適当にごまかして、ラフィの方を向く。


「ガヴちゃん、もう5日も学校に来てません。」

「土日も合わせたら1週間もガヴちゃんと会ってないです。」

「ここまで長く休むことなんて
今まで無かったので、心配で」

「あ、でもゼルエルさんとの一件で
1週間程休んだことはありましたね・・・」

「ヴィーネさんは何かご存知で無いですか?」

「うーん・・・」

考え込むふりをする。
もちろん知っているが、言う訳にはいかない。


「私も知らないの。」

「最近色々あって、ガヴの家にも行けてないし。」

「どうせネトゲのイベントかなって思ってたんだけど」

「流石にこんなに長く休みが続くとね・・・」


私もガヴの事が心配だという風に答える。
嘘だ。


「そうですか・・・」


私の嘘に気付かず心配そうにしているラフィを見て、
罪悪感が芽生えた。

だが上手く取り繕って騙し通す必要がある。


「お二人とも、放課後ご予定は空いていますか?」

「もしよろしければ、三人でガヴちゃんのお家に
行きたいと思うのですが...」


突然のラフィの提案。それはまずい。
だが断るのも不自然だ。
しばらく考えた後、


「私はいいわよ、サターニャは?」


と答えた。
良くはない。だが怪しまれる訳には行かない。


「私も大丈夫よ」

「アイツが居ないと...面白くないし・・・」

「このサターニャ様直々に出向いてあげたら、
きっとガヴリールも改心するはずよ!」

「お二人とも、ありがとうございます。」

「...あら、もうこんな時間。昼休みが終わってしまいますね。」

「ではまた放課後に。」


そう言ってラフィは自分の教室に戻って行った。


珍しく授業に集中出来なかった。
頭の中は、今日をどう上手く乗り切るかでいっぱいになっている。

サターニャはどうでもいい。
問題はラフィだ。
天使学校次席、侮っていい相手ではない。

上手く騙せるだろうか。
不安はある。だが、騙し通せる自信もある。

問題はタイミングと、私の演技力にかかっている。

そんなことを延々と考えている内に、
次の授業の始まりを知らせるチャイムが鳴った。

放課後、私達3人はガヴの家へと向かう。


「ガヴちゃんに何もないといいのですが・・・」

「考えすぎよラフィ。何かあったら連絡位くれるわよ。」

「そうですね・・・」

「ガヴのことだし、だるいとかめんどくさいとか
くだらない理由だろうけどね。」

怪しまれないよう慎重に言葉を選ぶ。
学校からガヴの家までの10分程度の道のりが
とても長く感じられる。

だが体感とは裏腹に、すぐにガヴの家に着いた。
ここからが正念場。
うまく二人にバレないようにしないと。

ドアをノックする。
反応がない。

チャイムを鳴らしてみる。
反応がない。

何度もチャイムを鳴らすが反応がない。


「え?どうして?」


思わず声が漏れる。

「ガヴ?ガヴリール!」

「居るんでしょ、出てきなさい!!」


何度もドアを叩いて、呼びかけても返事がない。


「ガヴちゃん?居るなら返事をしてください。」


ラフィもドアをコンコンと叩いて呼びかける。
何の反応もない。


「ガヴリール!このサターニャ様が直々に出向いてあげたのに
無視とはいい度胸ね!!」

「早く出てこないとこのドアぶち破るわよ!!」


続いてサターニャ。
先程のラフィより少し乱暴に、ドアを叩く。

だが何の返事もない。
誰もいないかのように静かだ。


「ガヴ!入るわよ!!」


合鍵を使って中に入り、すぐにガヴの部屋を開ける。


「ガヴリー・・・」

「ガヴちゃ・・・」

「ガヴリール!・・・え?」


言葉が出てこない。

ラフィとサターニャも、この部屋の異質な状況に
言葉を失ってしまっている。


何もない。
ガヴが居ないどころか、ガヴが居た痕跡すらない。

まるで引越しをする前みたいに綺麗な状態だった。

愛用のノートPCも、
食べかけのお菓子なんかで埋まったテーブルも、
あまり使われないベッドも何も。


「どうして・・・」


ようやく口を開いたのはラフィだった。


「なにこれ・・・どういうこと?」


サターニャもそれに続く。

「空き部屋に間違えて入ったとかじゃないわよね?」

「それは有り得ないです。間違いなく204号室、ガヴちゃんのお部屋でした。」

「それに私の合鍵で入ったし...」


「!!」

サターニャが何か閃いた顔をする。


「ラフィエル!千里眼は?」

「...!」

「その手がありました!ナイスですサターニャさん!」


ラフィはお祈りをする時のように両手を絡めると、
元の天使の姿に戻った。

詠唱を始めると、
ラフィの前方に魔法陣の様な物が現れた。

しかし、悪魔の私から見ても違和感があった。
魔界の霧のような、黒いもやがかかっている。


「おかしいです。こんなはずは・・・」


ラフィが呟く。


「ラフィ、これは一体...」

「千里眼は本来距離も障害物も関係なく
相手の姿が見えるはずなのですが...」

「何も見えないんです。この通り黒い霧
の様なものに覆われてしまっていて」

「じゃあガヴは...」

「行方不明、という事になりますね。今のところは...」

「そんな・・・」

暗い空気が辺りを支配する。
ガヴが行方不明。
その事実だけが重くのしかかる。


「そんなことって...有り得ない!」

「ガヴが私たちに何も言わずにどこかに行くなんて!!」

「きっと何かあったんだ!ガヴに何か・・・」

「落ち着いてください!ヴィーネさん。」


取り乱した私をラフィが後ろから
優しく抱きしめてくれた。


「ごめんラフィ・・・」

「いえ、いいんです。気が動転しても仕方ありません。」

「・・・」

ラフィの手が微かに震えているのが分かる。


「ラフィ、大丈夫?」

「...ええ、私も少し動揺してるみたいです。」

ラフィの手を解いて、私の手を重ねる。
優しく握りながら、片手を背中に回す。


「ヴィーネさ...」

「大丈夫よ...」

「・・・」

「大丈夫だから...」

「...はい」


手の震えが止まるまで、暫くそのままで居た。

...

「すいません、恥ずかしい姿をお見せしましたね。」

「いいのよ、それよりガヴを見つけ出す方法を考えましょ。」

「はい...」

それから三人で、手がかりを探した。

些細なことも見逃さないように。
ガヴが居た痕跡を探すまいと必死で。

本当は知っていた。
現状でガヴを見つけ出す方法なんてない。

それでも私達には、これしか
気を紛らわせる方法が思いつかなかった。


ねえガヴ、どこに行っちゃったの?
私の...ガヴ。

ふふっ。

今日はここまでです。
今更ですが改行、文字数等で読みにくかったり、誤字脱字ありましたらご指摘頂けると嬉しいです。


どうなるんだ

良いよ続けて

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