美嘉「どうしよ……」 (32)
アタシこと、城ヶ崎美嘉は迷っていた。
とめどなく流れる汗。呼吸は荒く、心臓がバクバクと脈打っているのが分かる。昔、同じような感覚を経験したことがあるのを思い出す。確かあの時は、髪を染めようと思って、いつも行く美容室に足を運んでいた時だったっけ。
言うならば、「悪いことをする」時の、何とも言えない緊張感。
明日、学校の先生に何か言われるかな? 友達からの反応はどうだろう? 目立つ色にしちゃって、引かれちゃったりしないかな?
そうやって迷って、最終的にアタシは髪を染めた。先生には少し注意されちゃったけど、友達からは好評で、結果、その時染めた髪の色は今でも変わっていない。
でも、今回はそんな簡単にいくものじゃないし、行動を起こしてしまったらどうなってしまうのか予想もつかない。
もし、彼が。途中で起きてしまったら? アタシに失望してしまったら? あるいは――襲われてしまったら?
色々な想像を誤魔化すように、ごくりとつばを飲み込む。静かで穏やかな空間に、その音が聞こえてしまうような気がして、アタシは殊更に緊張感が高まっていくのを感じていた。
こうなったきっかけは少し前に遡る。
◇
正確な時刻はわからないけど、多分日付が変わるか変わらないかくらいの時間だったはずだ。アタシはそろそろと住んでいる寮から抜け出して、事務所に向かって歩みを進めていた。
別に、門限があるわけじゃない。だけど、深夜の女性の一人歩きがどれほど危険かは聞かされていたし、ましてやアイドルが夜遊びしているなんてイメージダウンにつながりかねない。そう言った理由から、寮に住んでいるアイドルの中で深夜の外出をしないことは暗黙の了解になっていた。
そんな中、アタシが事務所に向かっているのは理由があった。お昼の仕事でテレビ局に行くとき、スマートフォンの入った小さなバッグを事務所に置き忘れてきてしまったのだ。人によってはなんてくだらない、なんて笑われるかもしれないけど、アタシにとってスマートフォンは命とメイクの次に大切なものだった。
幸い、事務所から寮までの距離は10分歩けば移動できるくらいの短い距離だったから、散歩がてら軽く外出するくらいいいかと思う気持ちがあった。それに――今の時間でも頑張って仕事をしているであろうプロデューサーに、ちょっとくらいねぎらいの言葉をかけてあげたいな、なんていう小さな下心もあった。
プロデューサー。
死んだような目をしてキーボードを叩いている彼の姿を想像して、ちょっと面白くなった。プロデューサーはアタシの仕事についてくると、いつも「キャラだな」なーんて言ってからかってきて、そのたびにちょっとした口論になるんだけど、別に嫌いなわけじゃない。アタシのやりたい仕事を考えて優先的に持ってきてくれるし、事務員のちひろさんが、
「プロデューサーさん、美嘉ちゃんの為に毎晩遅くまでいろいろな仕事をしてくれているんですよ」
なんてことを言っていた。気の置けない、年上のお兄さんみたいな感じ。アタシは、この関係を結構気に入っている。
月明りと街灯が照らすいつも通っている道は、暗いだけでいつもより随分と頼りなく見えた。無意識のうちに歩くスピードも速まってくる。遠くに事務所が見えて、窓から光が漏れているのを発見した時、アタシは軽く息をついた。
「お疲れ様です」
普段と違って抑えめにそう言って、事務所のドアを開ける。忌々しげにパソコンを操作する彼の姿は、ない。予想に反して、部屋中を照らす蛍光灯はアタシだけを照らし出していた。
誰もいないのかと、一瞬この会社の疑ってしまいそうになったけど、それは杞憂だとすぐにわかった。いつもプロデューサーが使っているPCの電源が付いていたからだ。画面は真っ暗だけど、パソコンのファンが動く音がしていて、その隣にアタシのバッグも置いてある。ここに来た理由を思い出してバッグのあるプロデューサーのデスクの前に移動すると、バッグには「ミカ」と汚いカタカナで書かれた付箋が貼ってあった。
「中身、見たの?」
当人はいないが、そう口に出してみる。女の子のカバンの中身を勝手に見るなんて……と思ったけど、よくよく考えたらプロデューサーが見たかはわからないし、それに、アタシのバッグだってそもそも知っていた可能性だってある。この件については、次に事務所に来るであろう明後日に言及してやろうと心に誓った。
プロデューサーもいないし帰ろう。
そう思ってカバンを手に取ってから、アタシが帰ってしまうのはまずいんじゃないかという気がしてきた。プロデューサーは多分、近くのコンビニで夜食でも買っているのではないか。アタシは事務所の鍵を持っていないし、そもそも鍵をかけずに外出するプロデューサーがカギを持って出かけるとも思えない。
急に、防犯意識の低さについてちょっと説教をしてやりたい気分になった。
いつもアタシのことをからかってくるプロデューサーを、反論が難しいであろうことで逆に追い詰める。悔しそうな、それでいて申し訳なさそうな彼の顔が簡単に想像できる。想像するだけでもかなり魅力的な想像だった。
アタシは彼がいつも腰かけている椅子に腰かけて、しばらく時間をつぶすことにした。スマートフォンを起動してみると、丁度土曜日が終わって日曜日になるところだった。幸い、日曜日は仕事がない。予定もないので、別に夜更かしすることになったって問題はない。
溜まっていたLINEの返信をしながら、アタシはプロデューサーを待ち続けた。
◇
「遅い……」
不機嫌を言葉に込めつつ、アタシはそう呟いた。
時刻は24時30分になっていた。つまり、もう30分もアタシは待たされ続けていることになる。
ホントありえないとか、何考えてるのとか、つい数十分前に軽くからかいじみた説教を想定していたころには考えられないような罵倒が頭に浮かんでくる。
いや、本当にありえないって。
予定はないとは言っても、夜更かしは美容にもよくない。それに、もう我慢の限界だった。スマートフォンを起動して、連絡先から彼の名前を見つけて、迷うことなく通話のボタンを押す。
直後、音が聞こえてきた。
この部屋からではない。部屋の外で、少しこもったような電子音がする。それがプロデューサーのいつも使っている携帯電話の着信音だと気が付いたのは数秒経ってからだった。
音のする方向に振り向いて、そしてため息が出た。通話を切ってもう一度ため息。
その部屋は、仮眠室だった。
特に広いわけではないこの事務所では、どうしてだか仮眠室がおかれている。もっとも、部屋としてはベッドを1つ置くと他のものは何も置けないくらいの狭いもので、今まで使っている人をほとんど見かけなかったのもあって、アタシはそこにいる可能性をすっかり失念してしまっていたのだった。
おもわず頭を抱えて、天を仰いでしまう。抜けていたのはアタシの方だった。すぐ横でプロデューサーが寝ているとはいざ知らず、30分間ただむやみやたらにイライラしていたとは。
まぁ、クヨクヨしていても仕方がないか。
数分後、落ち込む自分の心にそう活を入れてから、アタシはプロデューサーを起こしてから帰ることを決めた。バッグを肩にかけ、仮眠室に向かう。
寝ているであろう彼を起こしてしまうのは少し悪いと思ったけど、もう時間帯が時間帯だし、家に帰らず仮眠室で寝ていたとすれば彼も朝まで寝るつもりはない筈だ。少し怒られるかもしれないけど、あの暗い道を一人で帰ることに比べたらずっとずっとマシに思えた。
コンコン、と軽くドアを叩いてみる。返事はない。
「プロデューサー?」
呼びかけてみるも、音一つ聞こえてくることはない。仕方なく、あたしは仮眠室のドアを開けた。
部屋は、少し蒸し暑かった。多分、狭いせいで熱気がこもりやすいのだろう。そんな中、常夜灯の薄いオレンジ色に照らさせて、プロデューサーはすやすやと気持ちがよさそうに眠っている。電話をしても起きなかったのだから、相当疲れているのだろう。
その姿を見て、さっきまでの恥ずかしむような気持ちが薄れて、労いたいという気持ちがわいてきた。きっと、彼はいつもこうして仮眠をとっているんだ。アタシのために、他の皆のために、彼は常に一生懸命に取り組んでいる。知っていた筈のことだったけど、こうして熟睡している姿を見て再確認したような気分だった。
まだ目が慣れず、顔をよく見ることができないけど、ベッドの近くに置いてある椅子に服がかかっていたことはわかった。多分、いつものスーツ姿では寝にくいので着替えているのだろう。外は冷えるので着替えることになることを考えると申し訳ないけど、起こさないわけにもいかない。そうして、アタシはプロデューサーの肩をゆすろうと彼に近づいていって――。
ソレに気が付いた。
その時の驚きを何と表現したらいいのか。危うく悲鳴が出そうになってしまうのをすんでのところでこらえる。急に心拍数が上がって、蒸し暑いと感じていた部屋がさらに暑くなったような気がする。
ソレは、プロデューサーの下腹部にあった。
アタシに足を向けて、仰向けで眠っているプロデューサー。近くで見ると、上半身はシャツ、下半身はハーフパンツのジャージで眠っていることがわかる。そのハーフパンツの、ちょうど――その、性器があるところが、その生地を突き破らんばかりに屹立していた。
これって、アレ? もしかして、もしかしなくても……アレ?
頭が混乱する。誤魔化していても、答えはとうにわかっていた。
そう。
プロデューサーは、おちんちんを勃起させていたのだった。
◇
アタシがプロデューサーに「キャラ」だってからかわれるのには理由がある。
城ヶ崎美嘉は、プロダクションとしてはカリスマギャルとして売り出してくれている。デビューするにあたってアタシが出した希望を、そのまま受け入れてもらっているのだ。
ギャル。そう聞いて、普通の人はどんなイメージを持つだろう。きっと、こんなイメージを持つはずだ。髪を染めていて、色々な小物をあちこちにつけて、そして、経験豊富。
最後の、この経験豊富という点が、アタシの決定的に足りない部分だった。
この経験というのは、この場合では男性経験ってことで、プロデューサーにからかわれるのはアタシが「経験がない」って知っていたから。そこをいじられるのはちょっと悔しかったけど、事実なんだから仕方がないとも思っていた。
だから、この状況は。
男性が――アタシにとって今、一番親しい男性がこんな風におちんちんをおっきくしているこの状況は。もちろん、アタシの人生にとって初めてな出来事なわけで。
不意にそんなものを見せつけられてしまったアタシは、まるで固められたように体をカチコチに強張らせてしまっていた。
ゆっくりと、音を立てないように後ずさりする。プロデューサーが起きてしまわないように、アタシの存在を気付かれないように。狭い部屋のはずなのに、かかとが壁に当たるまでは随分と長い時間がかかったように感じた。
軽く震える手でドアノブを触ると、こころなしかひんやりとしているような感覚。どうやら、手汗もかいていたみたいだ。さっきまでは電話をしても起きなかったプロデューサーが、今ではちょっとの刺激でも起きてしまうような気がして、恐る恐るドアを開ける。永遠とも思える時間をかけて、ようやく部屋から出て、アタシはやっと一息をついた。
見なかったことにして帰ろう。
深呼吸をしながら、アタシはそんなことを考える。プロデューサーが言う通り、アタシは男性経験のない初心な女の子なんだ。さっきの光景は、そんなアタシにとって刺激が強すぎる。だから、帰ろう。帰って、明後日からは何もなかったかのようにプロデューサーと仕事をしよう。うん、それがいい。それが……。
そんなことを思った。壁に立てかけてある時計を見ると、アタシが仮眠室にいたのはほんの数分だったみたい。走って帰ればすぐ寮に着く。心なしかおぼつかない足取りで、出口に向かって歩き出すことにした。
その時、カツン、と小さな音が鳴った。
比喩ではなく息が止まったかと思った。思わず振り返って仮眠室を見てしまう。幸いにもプロデューサーが起きたような気配はない。ちょっと安心して、それから音の出何処を探してみる。どうやら右肩にかけてあったバッグが、いちばん端の席にあるパソコンのマウスにぶつかってしまったみたいだった。
パッドからはみ出したマウスを戻してから、アタシはそれがプロデューサーの席であることに気が付いた。聞こえるか聞こえないくらいの、ほんの小さな音だったファンの回る音が少しだけ大きくなる。瞬間、さっきまで暗転していたパソコンの画面がパッと明るくなって、それを見た瞬間、今度こそアタシは息が止まった。
画面には、アタシがいた。
正確には、去年の夏のアタシ。パソコンの画面の中、水着姿のアタシが、人よりも少しだけ大きい胸を強調するようにして写真に写っていた。この仕事のことは、去年の大きな仕事の一つだったこともあって今でも覚えている。そろそろ7月になる今の時期ならば、今年も同じような仕事を取ってくるために、アタシの水着姿を参考にしてもおかしくはない。
でも、タイミングとしては最悪だった。
え、うそ? なんで、アタシの写真。もしかして、そういうことなの? でも、そんな。でも、理由としてはありえないことじゃないし。
そういうことなの?
混乱した頭の中で、アタシならいつもなら絶対に考えないようなことを考え出していた。
プロデューサーは、アタシで大きくしていたのではないか、と。
アタシで興奮して、アタシのことを女性として意識して、そして、おっきくしていた、と。
先程から顔は熱くなりっぱなしで、これ以上熱くなるなんて思ってもみなかったのに、それをはるかに超えるくらいに顔に熱が集まるのを感じる。プロデューサーのことを男性として意識したことなんて今までなかったのに、彼がアタシのことをそんな風に見ていたと思うとどうしようもなく胸がどきどきと音を立てた。
プロデューサーのこと、アタシは嫌いじゃない。
じゃあ、好き?
考えてみたけれど、答えは出ない。でも、プロデューサーはアタシのことを意識していて、アタシはプロデューサーのことを嫌いじゃなくって。
なにがなんだか、よくわからなくなってくる。笑っている彼の姿。真剣に仕事に取り組んで、営業先でアタシのために頭を下げて仕事を持ってきてくれる彼の姿。そして、先程見た光景。そんなことが頭でグルグルと回っている。
アタシでおっきくしたのなら、アタシが――。
不意に、そんなことを思いついた。思いついた瞬間、あまりのバカバカしさに頭をブンブンと振って追い出そうとするけど、一度思いついてしまったら中々それが頭から離れない。
今まで、男性とそういった経験はないけれど、別に興味がないってわけじゃない。いつだか、プロデューサーに言ったセリフを思い出す。
「だって、最初は好きな人と経験したいじゃん?」
それを聞いて、プロデューサーは「それがギャルっぽくないんだ」と言ってアタシをからかった。今の状況は、果たしてどうなのだろう。
混乱する頭の中で、アタシはいつしかスマートフォンをポケットに入れて、デスクの上にバッグを置き直していた。よくわからない緊張感を持ちつつ、仮眠室の方を振り返る。胸は依然としてドキドキとうるさく鳴り続けている。
そして、フラフラと。熱に浮かされたようにゆっくりと、アタシは仮眠室のドアノブに手をかけた。
そうして、冒頭の状況に至る。
――――――――――――――――――――――――――――――
よし、やろう。
随分と長い苦悩だったけれど、アタシの出した結論はこうだった。一度そう決めてしまえば、もう迷うことは何もない。ぼやけていた視界がはっきりしてきたような気がするのは、常夜灯の小さな明かりに目が慣れてきたことだけが原因ではないはずだ。
幸いにも、プロデューサーのおちんちんは未だに大きなままだ。細心の注意を払いながらベッドまで移動して、片膝をかけて間近で観察してみると、それの大きさが嫌というほどよくわかる。
不便だな、と思った。
彼のモノが男性の平均より大きいものなのかどうなのかはわからないけど、男性というのは興奮するとここまで大きくなってしまうものなのだろうか。世の中の男性がみんなこの位のサイズだったら、大きくなってしまったら隠すのにも一苦労だろう。
ゴクリ、と喉がなる。もう片方の膝もついて体制を安定させると、ギシッとベッドが軋む音がする。慌ててプロデューサーの顔を見るも、彼はなおも穏やかな表情ですやすやと寝息を立てている。
アタシは焦らないよう自分に言い聞かせつつ、彼のハーフパンツの付け根の部分に手を伸ばした。かかっているシャツを指でつまんで捲り上げると、呼吸に合わせて上下する、少しだけ脂肪のついたお腹があらわになる。一息もつかないまま、そこから慎重に指をジャージにかけると、お目当てのものはすぐに見つけることができた。ズボンが下がらないようにするための紐だ。
手探りで紐の先端を探り当て、まるで今にも崩れ落ちそうなジェンガを引き抜くように慎重に引っ張ると、驚くほど簡単にするりと蝶々結びがほどける感覚があった。
これで、いつでも脱がせることができるようになった。後は、気付かれないようにそっと脱がしてやればいい。
両手を使って引っかかりそうなシャツの裾を捲り上げ、彼のハーフパンツに手をかけてから、アタシは少しだけ逡巡した。
今なら、きっとまだ引き返すことができる。何もなかったことにして帰ることができる。今なら。
それでも、アタシはハーフパンツをずらし始めていた。プロデューサーのことをどうとか、これからの関係性よりも、もうずっとずっと彼のおちんちんに対しての好奇心の方が大きくなっていた。
「んっ……」
彼のことを刺激しないように注意深くジワジワとハーフパンツをずらしていたが、一瞬だけ彼の肌にアタシの指が触れてしまった。その瞬間、彼から寝言のような、ふわりとした声が聞こえてくる。思わず息が止まる。
大丈夫、まだ大丈夫。
彼の体格に対して随分と大きなサイズのハーフパンツは、おちんちんが引っかかっていて脱がすのにかなり手間がかかる。次第に、まっすぐにそそり立っていた彼のおちんちんがずらされた服に応じてアタシの方に角度がずれてきて、それとは別にアタシの目は何か黒いものを捉え始めていた。
彼の陰毛だ。
女性と違って、男性はあまり処理をしないものなのだろうか。あたしが伸ばしたことのないくらい無造作に長く伸びたそれは、思いがけずアタシを意識させたようだった。
男の人の、プロデューサーの、あそこの毛。
今更ながらにイケないことをしている感覚。頬に流れる汗の感覚は、きっと暑さのせいだけではない。
垂れる汗を拭うこともなく、ハーフパンツとトランクスを、一緒にずらしていく。永遠とも思える時間の後、ついにアタシは彼を脱がすことに成功した。
トランクスに引っかかっていたおちんちんがブルンと勢いよく外れ、お腹に当たるじゃないかってくらい傾く。まだそちらの方を見ないようにして、彼のすべてが見えるようになるまでハーフパンツをずらす。シワシワとした、袋のようなもの――多分、あれが玉袋というものなのだろう、それが見えるようになってから、アタシは服にかけていた手を離して静かにため息を付いた。
初めて見るソレは、とてもグロテスクだった。
小さな光に照らされている中でも、それがプロデューサーについている別の生物のように思えてならなかった。焼けていない白い肌の彼に、焦げ茶色をしたそれはひどくアンバランスに思える。先端の方では色が変わり、赤に黒を混ぜたような色となっていて、その部分が一番グロテスクに映った。
エッチをするときはこんな大きなものをアタシに入ることになるのか、と考えてから、意識せずに相手を彼に想定していた自分に気が付いて眩暈のするような感覚があった。少し、というかかなり、アタシもおかしくなってきているのかもしれない。さっきまで、そんなことを考えるような仲ではなかったはずなのに。
少しのためらいの後、顔を近づけてよくみることにする。鼻息が当たりそうなほど近づけると、よくわからない香りが漂ってくるのに気が付いた。酸っぱいような、どう表現したらいいのかよくわからない独特の香り。でも、嫌いな臭いではなかった。
どうしよう。
服を脱がせて、見る。先程まではとりあえずそのことだけを考えていたが、いざ目にしてしまうと何をしたらよいのかよくわからない。最初に考えていたことを必死に思い出す。
アタシでおっきくしたのなら、アタシが処理しよう。
そうだ。確かそんなことを考えていたはずだった。処理。処理ってどうすればよいのだろう。高校の友達が、彼氏とエッチをしたときの話をしていたことを思い出す。その時、彼女は何をしたら喜ぶって言っていたっけ。
……駄目だ、思い出せない。
しばらく考えてみるも思い出すことはできなかった。思えば、恥ずかしいというのが理由でその手の話題は避けていたし、たとえそういう話になったとしてもアタシは話半分に聞き流すのがいつものことだった。
どうしよう。
暫く思い悩んでアタシがとった行動は、ひとまず彼のおちんちんを触ってみる事だった。何をするにせよ、さしずめおちんちんを刺激してやれば射精するのは間違いがないのだろう。それに、いきなり大胆な事をする勇気があるのかと言われれば悩むところだったし、これくらいから始めるのは不自然な事ではないはずだ。
そろそろと左手の人差し指をおちんちんの、棒の半分くらいのところに近づけていく。ちょん、と触れてみると驚きと一緒にすぐに離すことになった。妹の莉嘉が熱を出したときのおでこと同じくらい熱かったからだ。もう一度、もう一度と触れる回数を増やして、時間も伸ばしてみる。その熱さに慣れるのにさして時間はかからなかった。
そんなことを繰り返していると、アタシがおちんちんに触れるのに合わせてピクピクとプロデューサーの太ももが軽く痙攣するように跳ねていることに気が付いた。それと、つい先ほどまで安らかだった彼の顔が、苦しそうに眉をひそめていることも。それがなんだかおかしくって、いつしか、人差し指だけ振れていたのを中指、親指と本数を増やしていって、ついにはすべての指でおちんちんを軽く握るに至った。
「っ……」
喉が鳴るような音が聞こえる。突然の刺激に、寝ている彼も無意識に驚いたのではないのだろうか。まるで、アタシが彼のすべてを支配しているような感覚。とても楽しい。
ぎゅ、ぎゅっ。
握る力を変えるだけで、彼の太ももは面白いように反応してくれる。強く握れば強く、弱く握れば弱く跳ねる。それに、さっきよりもおちんちんが大きくなったような気がする。初めて見たとき、これ以上大きくはならないと思っていたのに、いつの間にか一回り大きく、さらには固くなったみたいだった。それがなんとなく楽しい。
暫くそうして反応を楽しんでいたが、一向に彼が射精することはなかった。することはなかったけど、いつの間にか、おちんちんの先端に液体のようなものが溜まっていることに気が付いた。これが精子なのだろうか。いったんおちんちんを握る手を離して、それに触れてみる。最初の方の緊張とためらいは、いつの間にか最初からなかったかのように消え去っていた。
その液体は、とても粘性があった。グロテスクな先端の、液体がある部分に軽く指で触れて離してみると、離れたアタシの指に連れて軽く伸びて、糸が切れる。なんとなく、授業で習ったアメーバみたいだな、なんて思った。
何度か繰り返してアメーバを楽しんでいると、急にいつもだったらありえないようなことを思いついた。
これを、口に含んだらどんな味がするんだろうか。
ピタリ。アタシの動きが止まる。いや、汚いでしょと冷静に却下をするアタシもいたけれど、ここまで来たんだからやってみてもいいでしょと言うアタシもいた。迷ったけど、答えは最初から決まっていたのかもしれない。気が付くと、アタシは人差し指にその液体を擦りつけていた。指先に、爪に、掬い上げるようにしてそれをつけていく。強めに擦りつけた途端、プロデューサーの身体全体がびくりと揺れた。もしかして、先端は敏感なのだろうか。
その指を自分の目の前に持ってきてから、今から自分が何をしようとしているのか考える。テラテラと光る、彼のおちんちんから出た透明な液体。今からアタシは、それを口に含もうとしている。
あまりの変態チックな思考に思わず体がゾクリと震える。そのまま、震える指を口元に持っていき、そして思い切って指先をパクりと咥えた。
おいしくは、ない。ねちょねちょとしていて少ししょっぱい。おまけに生ぬるいのもあって、いつもだったら「不味い」で終わってしまうような味。それでも、これがエッチな味だと考えると決して悪くない。ごくりと音を立ててそれを飲み込んでから、自分のしたことを意識してひどく興奮した。パンツがしっとりと湿っている感覚は、果たして汗なのだろうか。
フェラチオ。
その時、そんなワードが頭に浮かんだ。そうだ、友達はフェラチオをすると喜ぶと話していたのだった。男の人のおちんちんを口で咥えて、舐めて刺激してあげる行為。そういうのに疎いアタシだってそのくらいは知っている。
プロデューサーのおちんちんを、舐める?
自分がそれをすることを想像する。咥えられて、プロデューサーからアタシはどんなふうに映るのだろうか。想像しただけで、今までとは比較にならないくらいの恥ずかしさが襲ってくる。汗で冷えたはずの身体がまた熱を帯びる。いつしか、サウナにいるような気さえしてきていた。
まだやるかはわからないけど、ちょっとみるだけ、ちょっと……。
言い訳をするようにそう考えつつ、今までとは比較にならないくらい近く、鼻息が当たってしまうほど近づいてみる。当然、今までで一番強い匂いがしてきて、クラクラするような感覚を覚える。そっと、反り返っているおちんちんをアタシの方に傾けてみると、皮の部分と赤黒い部分の溝になっているところに白い、ほこりのようなものが溜まっているのが見えた。
いや、無理でしょ。よく考えなくても汚い……し。プロデューサー、お風呂も入ってないだろうし。
それを見て少しだけ冷静になった頭でそう考える。よく鼻を利かせてみると、匂いの発生源もそこであると気が付く。彼はきちんとお風呂でここを洗っているのだろうか? 今まで彼を不潔だと考えたことはなかったけど、見えないところがどうなっているかはわからないものだ。
「バカ……」
そう小さく呟いて、おちんちんを掴んでいない法の手の平であてつけのようにグリグリと先端の部分を強めに刺激してやると、彼の身体が一際大きく跳ね、苦しそうなうめき声が聞こえてくる。折角勇気を出して口でしてあげようと思ったのに、こんなに汚くして、ざまあみろ。
せめてこのゴミさえなければ、と思った。ゴミさえなければ別に構わないのに。
そこまで考えてから、あっ、とひらめいた。確か、アルコールの除菌シートがバッグに入っていたはずだ。なんだか嬉しくなって、自然と口の端が上がる。備えあれば患いなしとはまさにこのことだったのか、という謎の感動。ここまでして起きないのだから、きっと起きないほど彼は熟睡しているのに違いない。音が出てしまうこともかまわず、アタシはベッドから這い出して勢いよく仮眠室のドアを開けた。
仮眠室の澱んだ空気とは違った、新鮮で、ひんやりとした空気。それをよく堪能することもなくあたしは一目散にバッグに向かう。ゴソゴソと、急かされているわけでもないのに乱暴に中身をかき混ぜると、お目当てものは果たしてそこにあった。いつもは制汗剤を使っていたのだが、風邪予防のために入れておいた未開封の除菌シート。こんな形で役に立つことになるとは思わなかった。一枚、念のためにもう一枚引き抜いてから再び仮眠室の中に入る。今の自分にとって、外の澄み切った空気よりもこのムンムンとした熱気が相応しいような気がして、アタシは軽く深呼吸をする。
うん、嫌いじゃない。
最初の頃にあった緊張感なんてどこへやら、さっきまでとポジションにつく。ベッドが軋む音がして、手をつくときに彼の足にちょっと触れた。当然のように、彼は苦しそうな顔をしながらも全く起きる気配がない。仮にこれで起きたんだったら文句の一つでもつけてやりたい気分だ。
そうして、元のポジションに戻ったおちんちんを自分の方向にためらいなく曲げてから、アタシは除菌シートを一枚傍に置いて彼の『掃除』を開始した。
溝にたまっているカスを、丁寧に丁寧にシートで取り除いていく。刺激に合わせて彼が反応するのはもう見飽きたし、起きないのだったら今はなんでもよかった。先端を掃除し終わった頃には、あの独特の匂いは随分と弱くなっていた。一息ついて、どうせなら全部綺麗にしてしまおうと思い立ってもう一枚のシートに手を伸ばした。いつの間にかまたジワリと出ていた先端の液体をふき取り、棒の部分をさっと一拭きしてから、さらに下の方にある袋の部分まで。シート越しにコリコリとした球体の感触があって、なんだか不思議な感じがして拭き終わってからもそのふにょふにょとした感触を楽しんでいたら、くすぐったがるように彼が足を閉じようとした。アタシの身体が足の間にあったから閉じることはできなかったみたいだったけど、反応を見る限りではここもそこそこ気持ちがいいみたい。
フェラチオをしようと思って掃除をしたわけだが、いざおちんちんを持って口元を近づけてみると緊張した。弱まったとはいえ、お世辞にもいい匂いとは言えない香りが鼻を刺激する。それでも、これを咥えたらプロデューサーはどんな反応をしてくれるんだろう。そんな期待感と好奇心が勝り、口を大きく開く。歯が当たったら痛いかもしれないから、出来るだけ大きく、歯医者に行った時のことをイメージしながら。
「うぐっ!?」
パクり。赤黒くなっている部分を口に入れた瞬間、プロデューサーからひときわ大きな声が上がった。もう寝言の範疇を超えて、うめき声と表現してもいいかもしれない。アルコールと、ちょっとしょっぱい味を感じながら思わず彼の方向に目線を向ける。今までで見た中で一番苦しそうに、それでも彼は起きなかった。
ふと、思う。今彼が起きて、アタシを見たとしたらどんな風に思うんだろうか。担当アイドルで、いつもからかっていたギャルを「キャラ」にしていたはずの少女が、起きたら上目遣いで自分の物を咥えこんでいる。さぞ混乱することだろう。もしかしたら「これは夢か」なんて思うかもしれない。
けれども、これは夢じゃない。夢じゃないんだよ、プロデューサー。
そんな、よくわからない優越感を感じつつ、アタシは舌を動かし始める。
最初の頃にしていたアルコールの味は次第に薄れ、彼の先端から出る液体の味が強くなってくるのを感じる。そこを強めに舐めてみると「うっ」と声が聞こえて、さっきまでゴミの溜まっていた溝の部分を舐めてみると「ううっ」と大きめの声が聞こえてくる。どうやら、溝の部分の方が気持ちいいみたい。集中的に溝を舐める。唾液が溜まってきて、その度に休憩して飲み込むと、それと一緒に彼のしょっぱい液体も飲み込ことになる。とても倒錯的な気分だった。
暫く続けて余裕が出てきたころ、そういえば袋を刺激してもいい反応をしてくれたことを思い出す。それと、棒の部分を触った時にも身体が跳ねていたことも。やっておいて損はないはずだ。おちんちんを持っている左手を、握るだけじゃ味気ないから前後にこすってみて、残った右手は袋の部分を適当に揉んでみる。予想していた通り、プロデューサーはいつもは聞けないような情けないうめき声をあげながら体を震わせている。それが楽しくって、舌も、手も、動きが自然と速くなってくる。
先端から出る液体の量が増えて、おちんちんがびくりと震えたような気がした。もう、射精も近いのではないだろうか。そう思って、ラストスパートをかけるように一段と速く舌と手を大きく動かす。溝の部分を舌で往復して、棒の握る手をギュッとつかんでこすり上げて、袋の部分を大きく揉みしだくと、あっさりとプロデューサーは射精した。
「あっ……うっ……!」
「んぶっ!?」
うめき声がプロデューサー、驚いたような声をあげたのがアタシ。口中に、驚くほど苦くて、さっきまでとは比べ物にならないくらいネバネバした液体がまき散らされているのを感じる。予想もしていなかった苦さに思わず口を離しそうになってしまうのをすんでのところでこらえて、おちんちんから精子が出るのが止まってから、あたしは逃げるように口を離した。
口にたまった精子の感覚は正直、気持ちが悪い。トイレにでも行って吐き出せばよかったんだろうけど、そんなことも思いつかないほど混乱していたアタシは、それを我慢して飲み込むことにする。ゴクン、と喉が鳴って、途端に生臭さが襲い掛かってくる。部屋の暑さのせいもあってもう全身汗でびしょびしょだ。肩で息をしながら、ようやくプロデューサーに目を向けると、いつの間にか彼も肩で息をしていた。
やってしまった。
彼のおちんちんに少しだけ付いている白い精子を眺めながら、アタシはそんなことを考えていた。それは、深夜に我慢できなくなって夜食を食べてしまった時のような、そんな罪悪感を強くしたものだった。
これから、これまでのようにプロデューサーと接することができるだろうか。彼を見るたびに、今夜の出来事を思い出してしまうのではないか。そもそも、プロデューサーは彼女とかいるんじゃないだろうか。そうじゃなくても、好きな人くらいならいるのかもしれない。それだとしたら、今夜のことは、これからアタシは――。等々。
グルグルとした思考は、不意に終わりを告げた。
「おい……」
プロデューサーが、そうこちらに呼びかけてきたからである。その声は低く、怒っているのか寝起きなのか皆目見当がつかない。その一言ではっと冷静になったアタシは、ガタリと何かが落ちる音にも構わずに一目散に仮眠室から飛び出すと、バッグを元あった彼のデスクの上に移動させ、「ミカ」と書かれた付箋を貼り直してから事務所を飛び出した。火照る体に夜の風が心地よい気がしたが、それを感じる余裕もなく、走る、走る。寮につくまで5分とかからなかった。
仮眠室にスマートフォンを落としてしまったことに気が付いて本格的に頭を抱えることになったのは、家についてからだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
モバP「……」ムクッ
モバP「いや、結構早い段階で俺起きてたんですけどおおおおおおおおお!!!!」
おわり
読んでいただいてありがとうございました。
エロを書いた経験があまりないため、もし文章に関して読みづらい部分がありましたら教えていただけると助かります。投稿してから気が付いたけど、おちんちん連呼のせいで文章がバカっぽくなってますね……。
乙
(城ヶ崎姉妹って実家住まいじゃなかったっけ…)
>>21
すみません、注意書き書くの忘れてました。本当に申し訳ございません。
後日談期待しちゃう
乙
すごく良い!
(玉って気持ちいいのかな…?)
凄く良かった、いいよいいよ
続編次回作も期待するし、このスレで教えてくれると助かる
乙
良かったからもっと書いてくれてもいいのよ
乙、続きはよ
あとどうでもいいかもしれないけど
アレにアルコール除菌シートは使ったら駄目だよ
エタノールぶっかけたならともかく除菌シート程度なら問題ないよ
ムッツリ姉ヶ崎いいゾ~
スースーするな
最高すぎる、ぜひもっと沢山書いてほしい
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません