モバP「白魚の指」 (35)
モバマスSSです。
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事務所
P「……」
ちひろ「どうかしましたか?」
P「いえ、健康診断の結果を見てまして」
ちひろ「あぁ、この間やってましたね。どうでしたか?メタボじゃなさそうですけど」
P「えぇ、お腹周りとかは全く問題ありませんでしたね」
ちひろ「それじゃあ……高血圧か、コレステロールが?」
P「いや、許容値に入ってました」
ちひろ「それは良かったですね」
P「えぇ、まだ無理が効くんだなって実感しました」
ちひろ「一度くらい検査で異常が見つかった方が良いかもですね」
P「スタドリが肝臓に負荷掛けるとかありますか?」
ちひろ「それは自分の体が一番御存知じゃないんですか?」
P「健康体万歳ですね」
ちひろ「それは良かったです。あ、勿論変なモノなんて入れてませんから」
P「それは良かったです」
ちひろ「えぇ、一本いかがですか?」
P「いただきますね」
ちひろ「そう言えば、私もこの間健康診断受けましたよ」
P「身長伸びてました?」
ちひろ「幸か不幸か成長期は終わってましたね」
P「そうでしたか」
ちひろ「心電図を計ったりしていたので色々とまぁ長かったです」
P「ドキドキしてましたか?」
ちひろ「いたって平常心でしたが、しっかり動いてましたよ」
P「そうですか」
ちひろ「えぇ。良かったです」
P「心臓と言えば」
ちひろ「どうかされましたか?」
P「よくノミの心臓とか言われることありますが、ノミにはしっかりとした心臓がある訳じゃないんですって」
ちひろ「まぁ、人間みたいなのが入ってるって言われても驚きますね」
P「確かにそうですね」
ガチャ
菜々「こんにちはー」
P「お疲れ様です」
ちひろ「お疲れ様です」
菜々「お二人共なに見られてるんですか?」
P「健康診断の結果だな」
菜々「どこか問題でも?」
P「いや、大丈夫ですね。菜々さんはどうですか?」
菜々「あ、はい。えっと、きっと大丈夫です。多分」
P「無理しないで下さいね」
菜々「ありがとうございまーす」
P「こういうのは予防が大事だからな」
菜々「そうですね。年々無茶が利かなくなってきます」
ちひろ「その年齢で言ってたら割とマズイ気が…」
菜々「あはは…体は正直ですから」
P「あ、そう言えばちひろさん、頼子見てませんか?」
ちひろ「頼子ちゃんですか?」
P「はい。レッスンの時間が変わったのを伝えようと思ったんですけど」
ちひろ「見たような見てないような……」
菜々「あ、ナナが入ってくる時、下ですれ違いましたよ」
P「来てはいるのか」
P(電話してみるか)ピポパ
頼子『はい…古澤です』
P「あ、頼子か?今どこだ?」
頼子『今ですか? 最上階にいますよ」
P「また、なんでそんなところに」
頼子『なんとかと煙は高い所が好きと言いますから』
P「いや、どうなんだそれは」
頼子『フフ…冗談…です。宜しければ一緒にどうですか?』
P「そうだな。伝えなきゃいけないこともあるしそっちに行くよ」
頼子『それでは…お待ちしてますね』
P「なんだ、絵描いてたのか」
頼子「お疲れ様です」
P「もっと自然が多い所に事務所があれば絵も色鮮やかになったのにな」
頼子「その意見は…尤もですが、この街並みも嫌いでは…ありません」
P「まぁ、いい景色と言えばいい景色か」
頼子「はい。あとは…こんな感じなのかな。とは思っています」
P「なにが?」
頼子「人の上に立った景色です」
頼子「こうして目線を合わせていても…伝えることが出来ないのが難点ですが」
頼子「荒唐無稽とも言える世界に踏み込めたのはPさんのお蔭ですね」
P「たまたまだよ」
頼子「人生は運命と僅かばかりの勇気で構成されていますから」
頼子「美術館や博物館に行って鑑賞するのも素晴らしいですが…やはり自分で何かを為す。ということも素晴らしいですね」
P「そうだな」
頼子「拙いのは承知してますが…自分で描いた絵にはやはり愛着が湧きます」
P「あぁ、それは分からんでもない」
頼子「自分で育てたアイドルに…愛着が湧くようなものでしょうか?」
P「どうだろうな」
頼子「確かに…絵と違って思い通りには動いてくれませんものね」クスクス
P「参ったなこりゃ」ポリポリ
頼子「全てが全てPさんの手のひらに収まる……訳じゃないですから」
P「流石にそこまでは思ってないぞ」
頼子「そうでしたか。それは…失礼しました」
頼子「私はプロデュースという仕事の大変さは…正直把握し切れておりません」
頼子「ただ…こういう気持ちなのでしょうか」
P「ん?」
頼子「この何も描かれていないキャンパスに想い想いに筆を走らせるような」
頼子「どこから手を着けるのか。どこから始めるのか。決めるのはその筆を握る人です」
頼子「私と言う筆を執ったPさんは…果たして何を見たんでしょうか」
P「ビビッと来たな」
頼子「そうですか…ただ、意地の悪いことにその筆は意思を持って動き出しまいます」
P「青写真は見えていても筆の行先は筆任せだな」
頼子「いつかその青写真。頂戴致しますね」クスクス
P「あぁ、いつでも待ってるさ」
頼子「その胸ポケットの紙はなんですか?」
P「ん?あぁ、これはこの間の検査結果だな」
頼子「どこかお体が…?」
P「いや、健康診断」
頼子「そうでしたか」
P「あぁ、特に問題なし」
頼子「おめでとうございます」
P「これが普通なのかもしれないけどな」
頼子「ですが…やはり自分の身を顧みるのも難しいのでは…?」
P「まぁ、同業者の誰々が病気したとかは聞くな」
頼子「ご自愛を」
P「ありがとな」
頼子「…はい。貴方あっての私ですから」
頼子「そういえば…人は一生でどのくらい心臓を動かせるの決まってるらしいですよ」
P「えっ」
頼子「23億回だと」
P「多いのか少ないのか分からないな」
頼子「少ない…ということは無さそうですけどね」
P「そりゃそうだな」
頼子「程度の差あれど、動く回数が決まっているならばスポーツ選手は短命になってしまいますね」
P「体の作りが違うかもしれないな」
頼子「かも…しれませんね」
頼子「尤も……私は普通のか弱いの少女ですけども」
P「か弱いか」
頼子「どこか…相違ありますでしょうか?」
P「いや、ないと思うぞ」
頼子「それは良かったです」
P「だから体調が優れなかったりしたら無理しないでくれな」
頼子「あ…はい。ありがとうございます」
頼子「それで……どうして私を探していたんでしょうか?」
P「あぁ、それはだな――」
事務所
周子「Pさんさー」
P「どうかしたか?」
周子「Pさんって美人に囲まれてるじゃんか」
P「否定はしないが周子にしては珍しいこと言うな」
周子「ん?アタシがどうこうって話はしてないけどね」
P「そうか。悪い」
周子「うんうん。それでなんだけどさ」
周子「今は慣れたかもしれないけど、昔はちょっとはドキドキしてたりしたの?」
P「ノーコメントだな」
周子「沈黙はゆうべーん」
P「何が聞きたかったんだ?」
周子「ほら、ドキドキしすぎると心臓に悪いって言うからさ」
P「まぁ、急に運動したりすると体に悪いからな」
周子「新たな刺激を増やし過ぎると体に毒だよってね」
P「そうだな。体がやられそうだ」
周子「まぁ、そうだよね」
P「美人と言えばさ周子」
周子「いきなり大胆なこと言うね」
P「あ、いや、そういう意味じゃ」
周子「まぁ、いいけど。どしたの?」
P「昔から美人は薄命って言うんだけどさ」
周子「言うみたいだね」
P「周子も気を付けてくれよ」
周子「……ん。今ので寿命縮まったかな」
P「そうか。逆パターンも良く聞くよな」
周子「逆? 綺麗じゃないと長生きするとか?」
P「いや、美人だと男がすぐ死ぬってな」
周子「それは血生臭い話?」
P「詳しくは聞いてないけど、そういう話じゃないと思うぞ」
周子「ふーん。あ、八つ橋食べる?」
P「お、ありがとな」
周子「ん。別に。Pさんがウチで買ってきただけだし」
P「道理で見たことあると思った」
周子「アタシも見たことあるからついに手に取っちゃったよ」
P「なるほどな。折角ならお茶でも飲むか?」
周子「おー、気が利くね」
P「俺が飲むついでだからな。ほれ」
周子「ん。ありがと」
周子「なんか…和むね」
P「そうだな」
周子「あたしはこういうのが良いね。長生きしたいし」ヤレヤレ
周子「ドキドキせずに。肩肘張らずにさ」
事務所
頼子「お疲れ様…です」
P「お疲れ様。レッスンの時間ズレて悪いな」
頼子「いえ。特には」
P「ならいいが」
頼子「はい……ですが、少しだけ疲れてしまいました」
P「ソファなら空いてるからゆっくり休んでくれ」
頼子「そうですね…本でも読んでから帰ります」
P「……」カタカタ
頼子「……」
ガチャ
文香「あ、こんばんは…」
P「お。お疲れ様」
文香「お疲れ…様です」
頼子「お疲れ様です」
文香「…はい」
P「レッスンどうだった?」
文香「…特に問題は」
P「そうか」
文香「…はい」
文香「そう言えば……」
P「どうした?」
文香「どこかお体が悪いのでしょうか?」
P「誰が?」
文香「Pさんが」
P「そんなこと誰が言ってた?」
文香「周子さんが…『Pさんはアイドルと結婚でもしたらすぐ死んじゃうんじゃない?』と」
文香「医学には明るくないので…詳しい話は分かりませんが」
文香「それは…少し嫌です」
P「あー……そういうことか。それは周子の悪ふざけだな」
文香「悪ふざけ…?」
P「まぁ、その類だろうな。俺が美人の嫁さんを貰った男は早く死ぬ。みたいなことを言ったから」
文香「あぁ…なるほど」
文香「えぇ…そういうことでしたか」
P「そういうことだな」
文香「なるほど…周子さんは綺麗ですからね」
P「皆、綺麗だと思うけどな」
文香「……それは、アイドル。だからですか?」
P「ん?」
文香「いえ…忘れて下さい」
頼子「趣味。じゃないでしょうか…?」
文香「…そういう考え方も出来ますか」
文香「それはそれで…夢があるお話ですね」クスッ
頼子「言葉の意味は分かりますが…随分といきなりなお話ですね」
P「深い意味はなかったんだけどな」
頼子「そうでしょうけどね」
文香「なんのお話でしょうか?」
P「周子に話した話のことだよ。結論だけ文香に言ったみたいだけどな」
文香「あぁ…早死にのお話でしょうか」
P「そうだな。まぁ、分かりやすく言うとドキドキして早く死ぬってことだ」
文香「ドキドキして…ですか」
P「ちょっと想像してみてくれ」
P「文香が好きな人と結ばれます」
文香「……はい」
P「おめでとう。二人っきりの同棲が始まる訳だ」
文香「……」
P「新婚だったらきっと旦那さんも一緒にご飯を食べようとするだろう」
P「もしかしたらご飯をよそって一緒に配膳もしてくれるかもしれない」
文香「……」
P「その時何かの拍子に指が触れるんだ」
文香「あっ」ピクッ
ちひろ(想像力が豊かですね…)
P「男側からしたら、文香の白魚のような細くて長い指が触れる訳だ」
P「ドキッとしてそっちを見るときっと文香側も照れくさそうにしてるのが見えると」
文香「……」カァァ
頼子「随分と…入り込んでますね」ハァ
P「とまぁ、そこからの話は想像に任せるがそんな感じでドキドキし過ぎて体が持たないって話をしただけだ」
文香「な、なるほど……私の体も持ちそうにありません」ハァ
頼子(何を想像されたんでしょうか…?)
文香「あ、お茶飲まれますか? 私…淹れてきますね」
P「お、悪いな。頼んだ」
文香「は、はい…」ピト
文香「っ!」ビクッ
P「だ、大丈夫か?」
文香「…大丈夫です…大丈夫ですから…」
ちひろ「先に文香ちゃんの方が参っちゃいそうですね」アハハ
頼子「心臓には良くないでしょうね」
事務所
P「よし。帰るか」
ちひろ「戸締り確認してきますね」
頼子「あっ、すみません。こんな時間まで…」
P「いや、構わないが。近くまで送るよ」
頼子「す、すみません…」
P「文香もな」
文香「は、はい…」
頼子「ドキドキは収まりましたか…?」
文香「一カ月分くらい心臓を酷使してしまったかもしれません」
P「それは凄いな」
文香「えぇ……暫くは心臓もおやすみを戴きたいと言ってくるかもしれません」
P「仮死状態になりそうだな」
文香「そう…ですね」
頼子「目覚める方法は…王子様のキスでしょうか?」
ちひろ「ロマンチックですねー文香ちゃん」
文香「えっ…そこまで期待しては…いえ、その……あう」
車内
ラジオ『さぁ、スターズ対パイロンズ10回戦も9回裏』
ラジオ『二死一・二塁一打サヨナラの場面でパイロンズベンチ動きました』
頼子「野球…お好きなんですか?」
P「そうだな」
ラジオ『ここでリリーフですっ! ピッチャー代わりまして――』
P「おー、ここで出てくるのか」
頼子「なにか…ありましたか?」
P「球界最年長のピッチャーが出て来たんだよ」
P「大体30歳くらいで引退する人もいるんだが、この人は40代までやってるな」
頼子「凄い…ですね」
P「こうして一線級の活躍が出来るのは凄いな。お、抑えた」
頼子「そう言えば…アイドルの平均寿命ってどれほどなんでしょうか…」
P「どれくらいなんだろうなぁ」
文香「確かに…どれくらいでしょうか」
P「幸か不幸かまだアイドルを引退までプロデュースしたことないから何とも言えないな」
文香「実際のところ、常に若い方が入ってこられるのが…現実ですしね」
P「そうだな。結局のところテレビや雑誌だって枠が決まってる訳だしな」
頼子「勿論…Pさんがプロデュース出来る人数も決まってますしね」
P「まぁ…そうだな」
文香「世代交代…と言うものもいつかあるのかもしれませんね」
文香「寄る年波には勝てない…と言ったところでしょうか」
P「そこまで年がどうこうって訳じゃないとは思うが」
頼子「それでも…新鮮さというものは失われていきますね」
P「それは…まぁそうだな」
頼子「新しい彩りを…見せない限りは」
文香「それでは…お疲れ様です。ありがとうございました」
P「気を付けてな」
文香「…はい」
車内
頼子「一つ…宜しいでしょうか?」
P「どうした?」
頼子「アイドルにも…恐らく寿命があるとは思います」
頼子「常にステージの上で歌い、踊り続けることにもいつか終わりが来るのかも…しれません」
P「まぁ、いつかはな」
頼子「私にとってアイドルはPさんと私で作り上げるものですから」
頼子「私がアイドルで居続ける為に…これからも…よろしくお願い致します」
P「そうだな。頑張ろう」
頼子「取り急ぎ…私も他のアイドルの方のように…ウィンクでもしてみましょうか?」
P「随分と急だな」
頼子「物事には鮮度が…ありますから」パチッ
P「練習でもしてたのか?」
頼子「輝いている物には惹かれますから」
頼子「それに」
P「ん?」
頼子「仮にこの先いつかアイドルとしての寿命が来たとしても」
頼子「その時は普通の女の子に…戻りますから…ね?」
翌日
事務所
頼子「おはよう…ございます」
P「お、おはよう」
頼子「お疲れ様でした」
P「今日も頑張っていこうな」スッ
頼子「……?」
P「ハイタッチでもしようかなと」
頼子「あ、あぁ…なるほど。それは失礼しました」
頼子「それでは……えぃ」パシン
P「よし、頑張ろうな」
頼子「……」
P「どうかしたか?」
頼子「もし、アイドルとしての寿命も心臓の鼓動と同じように決まっていたら…」
頼子「私は…もうPさんに近づけませんね」クスッ
読んで下さった方ありがとうございました。
冒頭に書き忘れましたが、古典シリーズになります。
余談ではありますが、夏コミにはサークル参加させて頂きます。
興味ありましたら是非に。
失礼いたしました。
久しぶりに見た気がする
このシリーズ好き
ああ古典か、乙
面白かった。乙です。
このSSまとめへのコメント
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