【ミリマス】スモーク・オン・ザ・シアター Seene.2 凶風(かぜ)の戦士 (18)

この話の続きです。
【ミリマス】スモーク・オン・ザ・シアター - SSまとめ速報
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 中野ブロードウェイから少し外れ、サンプラザを視界に入れながら南に進むとその店にたどり着くと誰かが言った。

 レイズ・ザ・フラッグ。
 元アイドルの店主・真壁瑞希が店主を務める、アイドル御用達の酒場だ。

 「ちわーっす」

 カランカラン、と客の来店を知らせるベルがなる。
 ドアを開けて入ってきた恵美の後ろには琴葉、翼、静香、未来の姿。

 「……ちょっと恵美さん。琴葉さんは百歩譲っていいとして。後ろの3人はなに。この店を爆心地(グラウンド・ゼロ)にする気」

 バーカウンターから飛び出してきた少女が恵美に詰め寄る。

 「え?」
 「え? じゃないよ! なんで火薬庫みたいなメンツをそろえてるのって言ってるの!」
 「あー」

 頬をポリポリかきながら恵美が答える。

 「でもさ。この店的には今更じゃない?」

 あごで店の奥を指す。
 そこでは、ゴロツキ二人がすさまじい殴り合いを繰り広げていた。

 銃声。
 恵美のSAAが火を吹き、男達二人は物言わぬ屍となった。

 「とりあえず今日はこれでチャラってことで。オーケー?」
 「そういう問題じゃない! あーもう。杏奈さんに電話しないと……」

 桃子が深い溜息を吐く。これ以上の会話は無駄と諦めたらしい。
 カウンターに戻った桃子に手を振りながら瑞希の元へ。

 「瑞希。いつものやつね」
 「マイヤーズのロックですね。琴葉さん達が座ったテーブルに置いてます」
 「おっ。流石瑞希」
 「お客様は神様ですから」
 「へえ? じゃあさっきの連中は?」
 「恵美さんは焼き鳥をひよこさんとかにわとりさんって呼びますか?」

 眼帯をつけてない方の目をゆがめさせて瑞希がシニカルに笑う。

 「あはは、死体じゃないかそうじゃないかの差ってことね」

 笑いながら琴葉達の席へ。
 琴葉以外の3人はポーカーで盛り上がっていた。

 「あら。やけに楽しそうじゃない? もう酔っぱらってるの?」
 「いやいや、アタシの酒そこに置いてあるでしょ」

 琴葉と軽口を交わしながら席へ。
 置かれていたラムに一口つけ、ポケットから取り出したラッキーストライクを咥え火をつけた。
 口から煙を吐き出しながら、恵美が聞く。

 「それで? 新人さんってどんな子?」
 「セーラー服着てる女の子らしいです。得物はナイフだとか」
 「なにそれ。コミックヒーロー?」

 静香が説明する。
 恵美が茶々を入れる。
 得物がナイフだと聞き、琴葉の目つきが険しくなった。

 「強盗だ! 金を出せ!」

 ドアを蹴破って乱入してきた男達。
 池袋かそこらの流れ者だろう。この町の礼儀を知らないようだ。

 「あーあ」
 「はぁ……」

 溜息をもらしながら、琴葉と恵美が立ち上がる。

 瞬間。
 琴葉の投げナイフよりも、恵美のナイフよりも早く。
 レイズ・ザ・フラッグの奥に座っていた黒い影が、男の喉仏を切り裂いた。

 「えっ」
 「遅い」

 影が吐き捨てる。スぺツナズで心臓を一突き。そのまま切り上げて肩まで切り裂いたところで首元に刃を突き刺した。
 影に向かって生き残った男達の銃撃が向けられる。
 侮るなかれ。影が身に纏うのは何重にも編みこまれたケプラー繊維のマントだ。
 そこらのチンピラが使っている台湾製のグロックじゃ傷一つつけられない。

 マントを脱ぎ捨て、男達に放り投げる。
 目くらましての効果は一瞬。その一瞬が戦場に置いては命取りとなる。

 マントを脱いだ少女が愛銃を腰のホルスターから引き抜く。
 ガバメントから放たれた45ACP弾は、男達の喉を綺麗に貫いた。

 「マントとセーラー服だね」
 「ですね。多分あれが」
 「うちの新人、かな」

 恵美と静香がテーブルに身を寄せ合い言葉を交わす。

 「なんですかあれ。完全にやばい人でしょ」
 「いやいや、静香が来た時もすごかったでしょ。というかあんた。アタシの部屋に空いた穴いつ直してくれんのさ」

 言い合う2人をよそに、琴葉が黒衣の少女に近づいていく。
 息は荒く、視点も定まっていない。
 恍惚とした表情は、いつもの聡明さの影もなかった。

 まずは恵美が。次いで未来が。
 SAAに。備前長船に。
 おのおのの得物に手をかけるがもう遅い。

 少女の返事と同時。
 琴葉の右手に持たれたバタフライナイフが閃いた。
 首を狙った完璧な一撃。その刃に微塵の迷いもない。

 当然彼女もここで殺されるようなタマではない。そうであればレイズ・ザ・フラッグにたどり着くまでに10回は死んでいる。

 迷いのない回避。そのままカバメントを二連射する。

 頭と心臓を狙われた正確な一撃。この至近距離ではまともに当たるだろう。

 「邪魔よ」

 無造作な一閃。
 少女の放った弾丸は、琴葉によって切り裂かれた。

 返す手でバタフライナイフを投擲。
 避ける瞬間に距離をつめ、足を払って押し倒す。

 「……最期に言うことは?」

 予備のナイフを首に押し当て、馬乗りになった琴葉が少女を問い詰める。
 そこで少女は。

 「……迂闊。無力化するなら相手の武装の有無は最後まで確認するべき」

 そう言い捨て、ブーツの踵を地面に叩きつけた。

 ジャキンという金属音。
 つま先から出た刃が琴葉の腹に迫っている。このまま突き刺せば琴葉も間違いなく命はない。


 「……痛み分けってことにする?」
 「あいわかった」

 立ち上がった琴葉が少女に手を差し伸べる。
 それを掴んで立ち上がり、少女はこう自己紹介した。

 「七尾百合子。15歳。プロデューサーさんにスカウトを受けました。今日からよろしくお願いします」
 「田中琴葉よ。同じ得物同士、うまくやりましょう」

 互いの検討を讃え合う2人を、恵美達はどこか遠くの国で起きたよう出来事のようにぼんやりと眺めていた。

 「……どこから見つけてくるんだろうね。あれ。キャラ盛りすぎじゃない? 1人アベンジャーズみたいになってるけど」
 「スタン・リーが薬やってもあんなキャラは作りませんよ」
 「そのスタン・リー日本文化になじみすぎでしょ。セーラー服にナイフって……ああ、スペツナズだっけ。変なところマニアックだねえ」

 恵美と静香がぼやく。
 未来と翼は飽きたのか肩を寄り添って眠っていた。
 琴葉に引き連れられて百合子がやってくる。
 新しいメンツも増えたし、歓迎パーティを派手にやらないと。
 恵美がそんなことを考えていると。

 「め〜ぐ〜み〜さ〜ん〜!!!!!!」

 桃子の怒声が、彼女を現実に引き戻した。

 華奢な身体に不釣り合いな燃料タンク。
 両手に握った2本のバーナーが、桃子の本気さを表していた。

 「店で暴れるなってあれだけ言ったよね! というかさっきも警告はしたよね! バカなの!? ねえバカなの!? 恵美さんの頭の中には脳みそのかわりにドリアでも詰まってるの!?」
 「待って待って桃子。落ち着こう。一回冷静になろう。ほらほら、深呼吸深呼吸。ヒーヒーフー」
 「ドリアじゃなくてパスタじゃない?」

 恵美の言うそれはラマーズ法だし、静香のフォローはフォローになってない。
 どれが琴線に触れたかはわからないが、怒りが頂点に達した桃子は一言。

 「うるさい! どうせ歓迎パーティとか考えてたんでしょ! そんなにパーティがしたいなら今ここでしてあげる! グリルパーティをね!」

 ガスコックをひねりトリガーを引く。
 レイズ・ザ・フラッグは、その日今年八度目の火事に見舞われた。

     まち   ひと
 ───この劇場で、アイドルの命はサイリウムより安い。

終わりです
ことゆりとみずももが書けて楽しかったです

おつおつ
画像先輩は何者なの…?

実際に百合子が同じ事やったらドヤ顔で構えたあと指切って泣きそう

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