島村卯月「マーキング」 (199)

※「アイドルマスター シンデレラガールズ」のSS

※キャラ崩壊あり、人によっては不快感を感じる描写もあるかも

※決して変態的なプレイをする話では無く、健全な純愛物を目指してます

※独自設定とかもあります、プロデューサーは複数人いる設定

以上の事が駄目な方はブラウザバック奨励



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1493044244

「すみません。ちょっと、いいですか?」


私がまだアイドルになる事を夢見て、養成所に通っていた時の事。


養成所のレッスンルームの鏡の前でダンスの練習をしていると、後ろから唐突に、そんな声が聞こえてきました。


その時のレッスンルームには、私以外に利用している人は誰もいません。


なので、私は『声を発した人は、自分に声を掛けたのだ』と、そう思ったのです。


「あっ、はい。何で、しょう……?」


私は相手の顔も見ずに、振り返りながらそう答えました。


けど、振り返ったその先、そこにいたのはピシッとしたスーツを着込んだ私よりも背の高い男性。


誰とも知らない、見覚えも無い、全くの初対面の相手でした。


しばらく声を掛けれず、黙ったままその人を観察していると、


「あの……島村、卯月さんでしょうか?」


と、男性は口を開き、恐る恐るとそう聞いてきました。


「え、えっと……そう、ですけど……」


私は少し緊張していた事もあってか、たどたどしく、そう答えました。


すると、男性は表情を綻ばせて、


「あぁ、良かった」


と、安堵した様に、そう口にしました。


男性のその言葉に『何が良かったんだろう……』と、疑問符が浮かび、私は首を傾げてしまいます。


「おっと、そうだ。俺……じゃない、僕は、こういう者でして……」


それから男性はそう言って、私に向けて何かを差し出してきました。


何だろう……と、そう思いつつ、私は受け取って見てみると……それは名刺でした。


その名刺に書かれていた内容は……


「CGプロダクション……Oプロデューサー……?」


私は書かれていた文字をゆっくりと読み上げつつ、頭の中で何度も反復して、その言葉を復唱しました。


CGプロダクション……それはこの頃にできたばかりの、アイドル事務所の名称。この時の私にとって、とても思い入れの強い言葉です。


何故なら……この一週間前に、私はそこで、新人アイドルの採用オーディションを受けたから。


この時まで、私の下には合格通知も、不合格通知も届いてはいません。


そして、その事務所のプロデューサーさんが今、私の目の前にいる。


という事は、つまり……


「今日は、あなたをスカウトしにきました」


私が名刺を見ながらあれこれと考えていると、男性――Oさんはそう私に告げました。


それを耳にした途端、私は世界が止まってしまった様に思えました。


まるで、それは……そう。夢の様に思えてしまったんです。


だから、私はそうじゃないかを確かめる為に、Oさんの目の前で自分の頬をつねってみました。


「……痛い。夢じゃ、無い」


つねった途端に、頬に広がっていく痛み。


それを感じた事で、私はこれが夢では無く、現実なのだと気づきました。


「それじゃあ、私……オーディションに合格して、アイドルになれるんですねっ!」


そしてそれに気がつくと、私は大声で思わず、Oさんに向けてそう叫んでいました。


嬉しさのあまり、つい大声を上げてしまった……けど、それぐらいに嬉しかったんです。


マーキングに至るまでの卯月のメイキングが始まる...

とりあえず、今日はここまで

別に狙ってた訳では無いが、卯月、誕生日おめでとう

続きはまた明日にでも

期待

一旦乙
楽しみ

乙、楽しみ
卯月かCuヤンデレ四天王とユニット組んでるよな

この闇は何故伝播してるんだ

元から闇を抱えてたのが、まゆ、智絵里2人から一気に伝播したとか
Pとアイドルの闇が深いな…自分で動いて絶対特権を確約した藍子と言う傑物

卯月は何の色にも染めやすいから...

某ヤンデレラではむしろ卯月が闇の発生源だったりしたなぁ

だけど、そんな私に対してOさんは……


「あっ、すみません。実はオーディションなんだけど……そっちは君、不合格になってると思うんだ」


「……え?」


と、喜びに舞い上がる私に向けて、水を差す様にそう言ったんです。


「多分、今頃……島村さんの家に、不合格通知が届いてると思う」


私はそれを聞いて唖然としました。


てっきり私は……オーディションに合格したものだと思っていたけれど、実態はどうも違っていたみたいです。


それなのに、私……舞い上がっちゃって……ちょっと、恥ずかしい。


「でも、それなら……何で、私の所に……?」


「えぇ。事務所は島村さんの事を不合格だと判断したけど……僕は、そうは思わないんだ」


「そう、なんですか……?」


「うん。島村さんには何か、こう……秘めたもの……アイドルとしての素質があると感じたんだ。だから、こうして直接、スカウトしに来た訳で……」


そう語るOさんの目はとても真っ直ぐで、嘘を言っている感じではありません。


本気で私を……不合格になった私を、スカウトしにきてくれたんです。


「それで、どうかな……? 一度は島村さんを落とした事務所だけれども、うちでアイドル……やってくれませんか?」


そう言った後、Oさんは私に向けて深々と頭を下げました。


そんなOさんの真摯な想いに私は……


「あ、あの、私なんかで良ければ……お世話になっても、いいですか?」


と、そう言ってスカウトを受けたのです。


元より、アイドルを目指していた私だったから……その話は、願ったり叶ったりでした。


一度は不合格通知を貰おうと、スカウトされてアイドルになれるのなら、それでも構いません。


「あぁ、良かった。本当に、良かった」


Oさんはそう言うと、ホッとしてか安堵の息を漏らしました。


私の勘違いかもしれないけど、その声は少し、弾んだ様な感じに聞こえたかもしれません。


「それじゃあ、これからよろしく頼むよ、島村さん」


「はい。よろしくお願いします、Oさん――いえ、プロデューサーさん。島村卯月、精一杯頑張りますっ!」



これが私の……アイドル人生の始まりでした。


まだ無垢なまま、何も知らない少女の夢が叶った瞬間でもあります。


この時の私は本当に嬉しくて、幸せだったのを、今でも良く覚えているんです。


養成所から家に帰って……友達に電話をして報告したりとか、ママや家族のみんなに伝えたり。


この日の夜は興奮して中々寝付けなくて……遅くまで、未来の自分の姿をイメージしてみたり。


とにかく、もう……嬉しくて仕方なかったんです。いつになく、舞い上がってました。


「えへへ……早く、デビューできるといいな」


誰に語る訳でも無く、私は一人、自分の部屋でそう呟きました。


それから思い浮かべるのは、日中に出会ったプロデューサーさんの顔。


採用枠から零れ落ちた私を、見い出して手を取ってくれたあの人。


だからこそ、プロデューサーさんの為にも、アイドル活動を頑張ろう……って、思えたんです。


もちろん、アイドル活動は自分の為でもあるけど……その事も、この時の私ににとっては大事でした。


その恩を返せる様、立派なアイドルになってみせる……そう意気込んで、この日は眠りにつきました。


とりあえず、短いですがここまで

この事務所内で闇が伝播しているのは、一応、まだ秘密という事で

その辺はまた別の機会で書いていこうと思います




それから数週間後の事です。


無事、CGプロダクションのアイドル候補生として所属する事のできた私は、事務所内にあるレッスンルームで、トレーナーさんによるレッスンを受ける日々を送っていました。


やる事に関しては、養成所時代とは変わりは無かったですが、こちらの事務所の方が設備が整っていて、快適と言える環境でした。


そんな空間で毎日の様にレッスンを受けていた私でしたが、ある日、こんな話が私の下に飛び込んできたんです。


「ユニット……ですか?」


「そう。島村さんには、ユニットを組んで貰ってデビューする事になったんだ」


私の返答に、プロデューサーさんは明確にそう答えてくれました。


ユニット……その言葉にも惹かれるものがありましたが、それ以上に私が惹かれたのは、デビューという言葉。


そう、私にも遂にその時が巡ってきたのでした。


「そ、それじゃあ……私、遂にアイドルデビューできるんですね」


「そういう事になるかな。ちょっと早い気もするけど、島村さんなら大丈夫だと思う」


「……はいっ! プロデューサーさん、私……頑張りますっ!」


プロデューサーさんの後押しする様な言葉に対して、私は頭を下げて、そう言って返しました。


この事務所に所属してからまだ少ししか経っていなくて、不安もありました。


けど、それ以上にステージに上がれる、デビューできるという、楽しみの方が勝っていました。


「あっ、それで、あの……ユニット、という事は私以外にもメンバーがいるんですよね?」


「あぁ、もちろんだ。えっと、これが……他のアイドルの娘の資料になるから」


私からの問い掛けに、プロデューサーさんはそう答えると、手に持っていた資料を私にへと差し出してきました。


なので、私は資料を両手でしっかりと掴んで受け取ると、その内容にへと目を通していきます。


「渋谷、凛ちゃん……それに……本田、未央ちゃん……」


資料に載っていた名前を、私は意識的に読み上げます。


しかし、それらの名前は聞き覚えの無いものでした。


この事務所に所属になった後、私は他に所属しているアイドルの事を調べてはいましたけれども、その二つの名前は名簿にはありません。


そうなると、彼女達も私と同じく、最近になってスカウトされたかもしれない……と、この時の私は推測してました。


「実はね。彼女達も……島村さんと同時期に、この事務所に入ったんだ」


すると、私が推測した内容と同じ答えを、プロデューサーさんは口にしました。


「でも、私……ここに入ってから数週間は経ちますが、まだ二人には会った事は無いんですけど……」


「あぁ、それは……養成所に通っていた島村さんとは違い、彼女らは経験が無かったからね。だから、別の場所でレッスンを受けていたんだ」


「あっ、そうだったんですね」


「それと、元々はユニットでデビューさせる予定でも無かったから、それもあるかな」


という事は……その話が無ければ、私はソロデビューからのスタートだったみたいです。


今だからわかるけれど、事務所としては同時期に入った候補生を纏めて売り出そう……そんな算段でいたのでしょう。


「けど、これからはユニットを組む仲間になるから、明日からは一緒に練習して貰う事になる。大変だろうけど、ぜひとも頑張って欲しい」


「はいっ! 頑張りますっ!」


私がそう返すと、プロデューサーさんは満足そうにうんうんと頷きました。


その様子から、私はプロデューサーさんが私に期待してくれてるのだと感じました。


だから、私は期待に応える為、初のデビューライブを成功させる為、全力を尽くそう……と、心の中で自分に向けて誓ったんです。





この時に組んだユニット、ニュージェネレーションは問題等は起こりはせず、無事にデビューする事ができました。


しっかり者でみんなを支えてくれる凛ちゃん。


元気で明るく、場を盛り上げてくれる未央ちゃん。


この二人がいたからこそ、私も思う存分に頑張れました。


ユニットを結成してから随分経ち、今ではソロ活動も増えてきた私達。


ニュージェネレーションの活動がメインだった頃と比べると、凛ちゃんや未央ちゃんと会う回数は減ってしまいました。


それでも……二人は変わる事無く、今でも私の友達でいてくれます。


頻繁に会えないのは少し寂しいけど……凛ちゃんも未央ちゃんもそれぞれ頑張っているので、私も負けない様に、もっともっと頑張ります。


あっ、そうだ。私達の陰で支えてくれた、プロデューサーさんにも、感謝しないといけません。


活動中のスケジュールはとても忙しく、地方や都市部で営業したり、テレビに出て宣伝したりと大変でした。


けど、そんな中でもプロデューサーさんは日程を調整してくれて休日を入れてくれたり、私達に無理が無い様に体調を気遣ってくれたりと、色々と面倒を見てくれました。


職業柄、当然の事かもしれませんが……それでも、それがあったから、私は忙しいスケジュールをやり通せたんです。


それに、辛い事や苦しい事があった時……プロデューサーさんは何でも相談に乗ってくれました。


どんな些細な事でも、嫌な顔一つしないで聞いてくれる……そんな気配りのできる、優しい人なんです。


それだから……いつしか私も、自然とプロデューサーさんを信用し、信頼する様になっていきました。


最初の頃と比べると、その想いは格段と強くなっていると思います。


という具合に、私のアイドル活動は思っていた以上に順調で、上手くいっていました。


私自身も、色んな活動を通して経験を積み、自信が生まれ、成長できてました。


何より、私を、私達を見て、ファンの皆さんが笑顔になってくれるのが、私にとって幸せな事でした。


本当に、嬉しくて……幸せで、楽しい毎日を、私は送っていました。








……この時までは。


順調に回っていたはずの、私のアイドル人生という歯車。


常に潤滑油を与えられ、歪み無く回り続けていたそれ。


それが何時しか、狂いが生じ、徐々におかしくなっていったんです。


今ではもう、元には戻せない……戻れない程に、大きく捻じ曲がって。


アイドル島村卯月は……あの日、あの時、あの瞬間から変質してしまったのです。


私が目指したアイドル像とは、全く真逆なものにへと……。



とりあえずここまで

また書き溜めたら投下していきます




「卯月、ちょっといいか?」


「あっ、はい。何でしょう?」


ニュージェネレーションを結成し、ある程度の月日が経った頃の事。


レッスンを受ける為、事務所にいた私はプロデューサーさんにそう声を掛けられました。


この頃になると、プロデューサーさんとも大分打ち解けた間柄となり、私の事を名字では無く、名前で呼んでくれる様になっていました。


私にしろ、プロデューサーさんにしろ、気が置けない関係になってきたという事なのでしょう。


まぁ、それはいいとして……私はプロデューサーさんの目をジッと見つめ、何の用事で呼び止めたのかを聞くべく、続きの言葉を待ちました。


「実はだな……今後の事で、話しておきたい事があるんだ」


今後の事……そう言われれば、話す内容については私のアイドル活動の事以外に考えられません。


「これからレッスンだろうけど……少しだけ、時間を貰えないか?」


「はい、大丈夫ですよ」


自分の事に関わる事なので、私は断る事無く、笑顔で快くそう応じました。


そもそも……プロデューサーさんの頼みを断る理由なんて、私にはありません。


私をここまで導いてくれた恩人に対して、そんな不義理な事なんてできませんから。


「そうか。それなら、応接室に来て貰えるか? ここで立ち話なのもあれだし、そこで話をしよう」


私が応じると、プロデューサーさんはそう言ってから、応接室に向かって移動し始めました。


なので、私もその後を追う様に、後ろに着いて歩いていきます。


私がいた場所から応接室までの距離は、そう遠くはありません。


ですから、歩いて数分もしない内に、目的地にへと辿り着きました。


私は一言、「失礼します」と言ってから、部屋の中にへと入っていきます。


しかし、プロデューサーさんは、


「ちょっと準備があるから、すまないが待っていてくれ」


と言った後、離れてどこかにへと行ってしまいました。


『準備……って、何だろう?』と思いつつ、私は室内のソファに腰掛けて、プロデューサーさんが帰ってくるのを待ちます。


そわそわと時計や室内の様子を見回しながら、帰ってくるのを待つ事数分。


『まだかなぁ……』なんて私が思い始めた頃、ようやく準備が整ったのか、プロデューサーさんが戻ってきました。


「悪いな、卯月。待たせたりして」


「いえ、大丈夫です。それ程は待ってませんから」


申し訳無さそうに謝るプロデューサーさんに、私はそう返しました。


確かにちょっとは待ちました。でも、我慢できない程ではありません。


「それで話なんだが……卯月は今、ニュージェネレーションとソロでの活動……二足の草鞋で良く頑張っていると思う」


「あっ、はい。そうですね。けど、毎日が充実してますので、楽しんでやれてます」


「それなら良かった。でだ、そうして卯月が頑張ってくれているお陰で……世間での人気も徐々に伸びてはいる。それで一つ、提案があるんだが……」


「提案……ですか?」


「あぁ。実は卯月にはもう一つ、ユニットを請け負って欲しいんだ」


その話を聞いて、私は目を丸くして驚きました。


突拍子も無い様な話です。今までそんな気配、微塵としてありませんでしたから。


そして、まだ理解の追い付いていない私を置いたまま、プロデューサーさんは話を続けます。


「ニュージェネレーションの時は事務所が主導の企画だったが、今回はそれとは違い、俺が主導となって企画立案する事になった。そして、その為のメンバー候補の選抜も……俺の方で既に決めてある」


そう言った後、プロデューサさんは傍らに置いてあった資料を手に取り、それを私に向けて差し出しました。


私はそれを受け取ると、静かにそこに書かれている内容に目を通していきます。


「小日向、美穂ちゃん……? 五十嵐、響子ちゃん……?」


二人共、聞いた事の無い名前でした。


それなりの期間、この事務所に所属している私でも聞いた事の無い名前。


という事は、彼女達は新しく所属したばかりの、以前の私と同じ、候補生なのかもしれません。


「アイドル候補生として所属していた娘達だけど……今度から俺が担当を請け負う事になった」


と、思っていたらプロデューサーさんの口から、そんな説明が飛び出てきました。


聞き覚えの無かったのは、やっぱりそういう事だったみたいです。


「二人共、まだ経験も浅く、候補生のままでデビューもできていない。そこで……卯月にはユニットのリーダーとなって、二人を引っ張って貰いたい」


「リーダー……って、私がですかっ!?」


「そうだ。ニュージェネレーションの時に色々と経験しているから、大丈夫だとは思う。あとは卯月次第だが……どうだ、やれないか?」


少し不安そうな視線を送りながら、プロデューサーさんは私にそう問い掛けました。


正直、私もこの話を聞いて少し悩みました。


この話を受ければ……ニュージェネレーション、ソロ活動に加え、その新しいユニットでの活動。


今の状況と比べれば、更に忙しくなる事が予測されます。


それに、私なんかがリーダーなんて……という不安もありました。


確かに経験は積んでますが……リーダーを務める程の自信は、私にはまだありません。


だからこそ、二人を私が引っ張れるのか……と、思ってしまうんです。


……でも、この話を私に持ち掛けてくれたのは……プロデューサーさんが私の事を信頼してでの事でしょう。


きっと、私なら何とかやり遂げれる……そう考えてでの、提案だったのだと思います。


それなら……私が取る道は、一つです。これしかありません。


「私……やります! やらせて下さいっ!」


私はプロデューサーさんの目をジッと見つめた後、そう告げました。


「……ありがとう、卯月。大変だろうけど……卯月ならやれるはずだ。頑張ってくれ」


「はいっ! 頑張りますっ!!」


プロデューサーさんからの激励の言葉に、私はいつもの様にそう言って答えました。


自信も無いし、不安もあった。けれど、やる気だけはありました。


プロデューサーさんからの信頼や期待に応えたい……というやる気だけは。


それが……この時の私を、私の心を支えてくれていたんです。


それで結果を出せて、プロデューサーさんが笑顔になってくれるのなら……私は、嬉しかったから。






「さて、それじゃあ早速だが……」


話が纏まった後、プロデューサーさんはそう言うと、立ち上がって部屋の出入り口の方にへと、歩いていきました。


それから扉を少しだけ開けて「入って貰ってもいいかな?」と、外に向けて声を発します。


『一体、誰に話し掛けてるんだろう……?』なんて私が思っていると、扉が大きく開き、外から二人、人が入ってきます。


「し、しし、失礼しますっ!」


「あの、失礼します」


二人共、声を震わせて、緊張した面持ちで中にへと入ってきます。


そして、その顔は……私には見覚えのあるものでした。


先程の資料の中にあった、添付されていた写真に写っていたものと同じだったから。


つまり、彼女達が……


「え、えっと、初めまして! こ、小日向美穂です。せ、精一杯、が、がが、頑張りますので、よ、よろしく、お願いします!」


「私、五十嵐響子、十五歳です! 得意な事は家事全般ですけど、アイドル活動も得意になれる様に頑張っていきますので、よろしくお願いします」


そう言った後、二人は私とプロデューサーさんに向けて、深々と頭を下げました。


小日向美穂ちゃんに、五十嵐響子ちゃん。


この二人が、これから私とユニットを組む事となる、仲間なのでした。


「あ、あの……卯月ちゃん、ですよね?」


「えっ、は、はい。私が、島村卯月ですけど……」


二人が挨拶を終えると、美穂ちゃんは私にそう聞いてきたので、咄嗟にそう返しました。


すると、美穂ちゃんはその表情をキラキラと輝かせ、


「私、実は卯月ちゃんに憧れてたんです!」


と、そう言いました。


「あ、憧れ……ですか?」


「は、はい。私も……卯月ちゃんがこの事務所に入ったのと同じぐらいに入所はしてるんですけど、一向にデビューできなくて。で、でも、卯月ちゃんは所属してから間もない頃にデビューしてて、す、凄いなぁ……なんて、思ってたんです」


「そ、そんな……私は別に、凄くなんてありませんよ」


私を褒める様な美穂ちゃんの言葉に、私はそう言って否定をしました。


これは謙遜でも無く、本心からの言葉です。


だって、ニュージェネレーションの中で私が突出して凄かったという訳でも無いですし。


あのユニットが成功したのは、凛ちゃんに未央ちゃん……私達三人がお互いに支えあい、頑張った結果だったからだと思います。


それに、私が早くにデビューできたのはプロデューサーさんのお陰でしたし、私自身の力で勝ち取ったものではありません。


「お仕事でも失敗する事もありますし、まだまだ未熟なアイドルですから」


そう言った後、私は美穂ちゃんの傍にへと近寄り、その手をギュッと握ります。


「え、えっ!?」


「だから、私ももっと成長できる様に、頑張ります。美穂ちゃんも……これからは同じユニットのメンバーですし、お互いに頑張っていきましょう」


「う、うん。よろしくね、卯月ちゃん」


「はい、よろしくお願いします。響子ちゃんも、一緒に頑張りましょう」


「こちらこそ、よろしくお願いしますね、卯月ちゃん」


私達はそう言い合ってから、固く握手を交わしました。


全員が初めて会う関係でしたけど、中々良い感じにスタートが切れたと思います。


ちょっぴり恥ずかしがり屋の美穂ちゃんに、しっかり者の響子ちゃん。


それと……私とプロデューサーさんの四人で組んだ一つのチーム。


『ピンクチェックスクール』はこの時から、歩みを始めたのです。


『きっと今回も……成功できるだろうな』なんて……私はこの時に漠然と、楽観的に考えてました。


いえ、結果的に言いますと……私達の新しいユニットは順調に軌道に乗って……無事、成功を収めました。


それはもう、ニュージェネレーションの時と比べても、変わらないぐらいの人気でした。


でも、それに対して……私達の関係は順調とはいきませんでした。


最初の内は良好な関係だった私達……それがいつか、歪んでいってしまったんです。


その原因を作ったのは……他でも無い、私自身でした。


ピンクチェックスクールを結成してから随分経ったある日。


美穂ちゃんや響子ちゃんとも、ある程度の気が置けない関係になった頃の事。


私はこの日、ソロでの活動の為、一人で営業先にへと出向いていました。


営業先のテレビ局に着くと、スタッフの方に案内されて、私は待機場所の楽屋にへと足を運びます。


「ふぅ……」


私は楽屋に入ると直ぐに荷物をその辺に置き、椅子に座ってから軽く一息吐きました。


それから……私は意味も無く、周りを見回しました。


本当なら、プロデューサーさんも私に同行してくれるはずなんですが……傍には姿も気配もありません。


それもそのはず……だって、プロデューサーさんは美穂ちゃんと響子ちゃんの二人の所にいるのだから。


二人も今は、別の営業先でピンクチェックスクールの宣伝活動の真っ最中だと思います。


けど、ニュージェネレーションの頃から経験を積んでいる私とは違い、二人はまだ、新人と同じ様なもの。


右も左も分からないというのに、放任させる訳にはいかない……と、プロデューサーさんはそう言ってました。


その結果、プロデューサーさんは二人に同行し、私はこうして、一人で行く事になったんです。


『卯月には悪いが……本当に、申し訳ない』


数時間前、私に向けて頭を下げたプロデューサーさんの姿が思い起こされます。


こうして現場に一人で訪れるのも、初めての事ではありません。


時には一人で、時には他のアイドルと一緒に、プロデューサーさんを伴わないで、現場に訪れていました。


ニュージェネレーションの時には、いつも私の隣で支えてくれていたプロデューサーさん。


担当アイドルは私しかおらず、凛ちゃんや未央ちゃんにもそれぞれに担当プロデューサーが付いていたから、今回の様な事はありませんでした。


けど、今は前の時とは状況は違ってます。


プロデューサーさんも担当するアイドルが増え、以前にも増して、忙しそうにしていました。


一人を担当していたのが、三人分に増えたのなら、当然かもしれません。


そのせいか、私がプロデューサーさんに会える頻度も、前に比べて減ってきていました。


前に会ったのも、一週間も前の事でしたから。


「ちょっと、寂しい……かも」


誰もいない空間に向けて、私はポツリと、独り言を呟きます。


あれだけ隣に、直ぐ傍に、当たり前にいた存在がいなくなったのだから。


そう思うのも、無理はありませんでした。


寂寥感からか、私は顔を机の上にへと突っ伏しました。


「少しでもいいから……お話、したいなぁ……」


そう言ってから取り出したのは、自分の携帯電話。


これに備わっている通話機能を使えば、今すぐにでも、プロデューサーさんと会話ができるはず。


けど、それは難しい事なのでした。


きっと今は、仕事中である為に、出られはしないと思います。


仮に出たとしても、私の寂しさを埋める為の会話に、時間を割いてくれるとは思えません。


『すまんが、本番中だから……また、あとでな』


と、そう言って……断られるのがオチです。


それに、私の方も……本番まで、それ程に時間がある訳じゃありません。


どちらにしろ、プロデューサーさんと話すのは、叶わない事なのでした。


「前はこういう時……直ぐに話せたのになぁ……」


私が不安の表情で出番を待っていると、それを和らげ様として、プロデューサーさんは必ずといって声を掛けてくれました。


話す内容は何でも無い様な事ばかりでしたが……それでも、不安は和らいだ気がしました。


それがあったから……私も安心して、本番にへと臨めました。


でも、それが今はありません。


言葉を発しても、それは返ってくる事も無く、宙に消えるだけです。


「私……大丈夫、かな」


私は自分でそう言った後、それを打ち消そうと首を左右に振りました。


そうです。駄目です。こんな事を考えてはいけません。


今頃、美穂ちゃんや響子ちゃん……それに、プロデューサーさんも頑張って仕事をしているんですから……私も、頑張らないと。


私は挫けそうになりかけた自分の心にそう言い聞かせて、奮起を促しました。


それに、仕事が終わった後でなら……プロデューサーさんとも話せる機会があるでしょう。


事務所に戻って直接話すのもいいですし、それが駄目なら、電話でもいいんです。


とにかく、今は頑張って仕事を終わらせる……それが、第一でした。


「島村さーん、出番ですので、お願いします」


「あっ、はい。直ぐに行きます」


楽屋の扉をノックする音が聞こえ、その後に、外からそんな声が聞こえてきました。


私はその声に反応すると、立ち上がって現場に向けて歩き出します。


『今日も一日、精一杯頑張りましょうっ!!』


私は心の中でそう宣言すると、楽屋を出ました。


この後に待ち受けている自らの幸福の為、私は全力で仕事をやり遂げるのでした。





仕事を終えると、私は直ぐにテレビ局を出て、事務所にへと向かいました。


道中、私は左腕の袖を捲り、そこに付いている腕時計で時刻を確認します。


既に日は沈み、夜も更けていて遅い時間。


けど、この時間ならきっと……プロデューサーさんは事務所に戻っているはず。


私はそう思いながらも、事務所にへとスピードを緩める事無く、進んでいきます。


途中で電車に乗り、最寄り駅で降りると事務所に目指して真っ直ぐに走っていく。


そうして息を切らせて、私はようやく、事務所にへと辿り着きました。


焦る気持ちを押さえつつ、私は事務所に入り、中の階段を上がっていきます。


目的の場所は、プロデューサーさんがいつも仕事をしている事務室。


一段一段上がっていく毎に、胸のドキドキが込み上げてきました。


多分、きっと……早く話したくて……早く、会いたいから……自然と、そうなっているのでしょう。


一刻も早く、この寂寥感から解放されたい……そうした思いもあるでしょう。


そして私は目的の階まで辿り着き、あと数メートルで事務室という所まで来ました。


「プロデューサーさん……戻ってきてると、いいな」


そんな期待を口ずさみ、私は事務室にへとゆっくりと近づいていく。


出入り口のドアの目の前に立って、ドアノブに手を掛け、中に入ろうとしたその時でした。


「……あれ?」


私は中から……聞き慣れた声がする事に気が付きました。


ドアノブに掛けていた手を離し、私は扉に左耳を当てて、耳を澄まして中の会話を聞き取ります。


「……やっぱり、美穂ちゃんの声だ。それに、プロデューサーさんも……」


私の耳に入ってきたのは、美穂ちゃんとプロデューサーさんの声。


話している内容は、今日の収録の話だとか、美穂ちゃんの身の回りの近況報告的な話でした。


プロデューサーさんはいつもと変わらないトーンで話している様ですけど、美穂ちゃんは違いました。


声を弾ませて、如何にも楽しそうな感じだといえました。


その声を聞けば……今の美穂ちゃんがどんな表情をしているかも、容易に察せられます。


きっと、嬉しそうに微笑んで……幸せそうな顔をしているのでしょう。


そして、それを思うと……何故だか、私は事務室に入るのが躊躇われました。


二人の楽しい会話を遮るかの様に私が乱入し、邪魔してしまうのは悪い気がしたからでした。


「……今日は、ちょっと……タイミングが、悪かったかな」


少しだけ苦笑して、私はそう言いました。


私もプロデューサーさんと話がしたかったけど……今の雰囲気を壊すのは、良くないですよね。


「うん、そうだね……だから……」








「今は……そう。我慢して……帰ろう」
『何で、我慢なんてしなくちゃいけないんですか?』






とりあえず、短いですがここまで

ようやくGWが終わったので、暇ができてきたから更新できる様になってきました

これからは更新頻度を上げていけたらいいな……

それでは、続きはまた……書き溜めてから投下します

手間が掛からないくらいに成長した長女が。
実は一番寂しい思いをしているんやな。
ままならんなあ

卯月は我慢しすぎて闇に飲まれてしまうのか...
今回は救われるのか、それとも深みに入っちゃうのか期待

卯月は抱え込むタイプだよな、そして闇が深くなると
CuのPは複数のアイドルを担当するのか…次女が一番危険かもあの2人+CuとCo系アイドルと仕事するし

[sage]
続き待ってるよ


別所でも見たけどこの[sage]はネタなの?

書き込み始めてでした
ごめんなさい

「私は大した用事でも無いですし……また今度でも大丈夫ですから」
『今日一日、一緒にいたはずの美穂ちゃんが……何で、私の邪魔をするんですか?』


私はそう呟くと、ここから離れる事を強く意識して、来た道を引き返していく。


ふらふらとして足取りが重く、中々前にへと勧めない。


けど、それでも……私は外にへと向かって歩いていきました。


「美穂ちゃんだって……まだデビューしたばかりで……不安も多いですから、仕方ないですね」
『仕方がない? そんな事ぐらいで、私が我慢する理由にはなりませんよ』


「私はこれまで、プロデューサーさんを独り占めしてきたんですから……ここは、譲らないと」
『独り占めして、何が悪いんですか?』


「もう、あの人は……私だけの、プロデューサーさんじゃ無いですし」
『違うっ! あの人は……プロデューサーさんは、私だけの、プロデューサーなんですっ!』


足を踏み出す度に、頭痛がズキズキと響き渡る。


あまりの痛さに、私は頭を抱え込みました。


私としては……早くここから出て、帰ってしまいたかった。


けど、そんな簡単な事なのに、できないでいる。


それをする事を、心が拒絶しているのでした。


私の心は……今からでも事務室にへと入り、二人の会話を邪魔しよう……と、そう考えているのです。


「だ、駄目……駄目、ですから……」


私は首を左右に振って、その考えを振り払いました。


今日は、この場は美穂ちゃんに譲ると決めたのですから。


別に、プロデューサーさんと話す事ぐらい、いつだってできる事なんです。


だからこそ、私は身を引こうと……その歩みを進めていく。


そうして、私は長い時間を掛けて、事務所の外にへと出ました。


外に出ると、私は一息吐いてから、振り返って上を見上げます。


私の視線の先……ちょうどそこは、事務室のある場所でした。


まだ煌々と明かりが灯っていて、それが中にまだ、人が残っている事を知らせている。


まだ、あの二人は……楽しく、会話をしているでしょうか。


数十秒程、私はそこを見続けた後、名残を惜しむ様に視線を外しました。


それからは振り返る事無く、自分の家にへと向けて、真っ直ぐに帰っていきました。


明日こそ、プロデューサーさんと会話できる事を信じながら……。


一旦乙
卯月がOプロデューサーと会話出来ると信じて……




翌日。


この日の私は、事務所でレッスンの予定でした。


なので、私は学校が終わるなり、急いで荷物を纏めて事務所にへと向かいました。


「今日こそは、プロデューサーさんと話せるといいな」


その最中、私は軽くそんな事を呟きます。


レッスンの為に事務所に向かっているのに、私の気持ちはその事でいっぱいでした。


本当なら、昨日の内に果たされるはずだった私の目的。


だからこそ、自然と気持ちも逸ってか、進むスピードは徐々に上がっていく。


その為、私は普段よりも早く、事務所にへと辿り着きました。


「まだ時間は……余裕があるから、大丈夫かな」


腕時計を見て、現在時刻を確認します。


早く着いた事で、まだレッスンの始まる時間まで、大分余裕がありました。


プロデューサーさんと話す時間ぐらいなら、十分といえる時間でした。


「ふふっ、どんな事を話そう」


まずは、昨日の仕事の事でも話そう……そんな風に考えつつ、期待で胸を膨らませる。


そして、私は止めていた歩みを進めて、事務所にへと入ろうとしました。


けど、その時でした。


「ん? あれ?」


私が事務所に入るよりも先に、入り口の扉が開き、中から人が出てきました。


その人は私を見るなり、怪訝そうな表情をしてから、そんな声を上げました。


「お、お疲れ様です、プロデューサーさん」


私はその人……プロデューサーさんに向けて、そう挨拶をしました。


こんな所で会えるとは思って無かったから、少しだけ、私の心は動揺気味になっています。


「うん、卯月もお疲れさん。けど、どうしたんだ? 今日はいつもより、来るのが早いな」


「あっ、はい。今日は、学校がいつもより早く終わりましたので、それだからです」


「あぁ、そうだったのか。それでなのか」


そう言いながら、プロデューサーさんはうんうんと頷き、私の言葉に納得していました。


でも、私がプロデューサーさんに言ったのは、嘘の言葉です。


学校が終わった時間は、普段と変わらない時間でしたから。


早くプロデューサーさんに会いたくて、急いで来た……という事実は、私の胸の中に秘めておきました。


「卯月は今からレッスンだったよな。頑張れよ」


「はいっ、頑張ります!」


プロデューサーさんからの言葉に、私は笑顔を見せてそう受け答えました。


プロデューサーさんの言葉は、私の活力であり、道標なのですから。


だから、この人からそう言って貰えると、私はいつも以上に頑張れるんです。


「そ、それで、その……あれ?」


会話の波が途切れた所で、私はそこから話題を変えよう……そう思って、プロデューサーさんに切り出そうとしました。


けど、その時……私は、ある事に気付きました。


プロデューサーさんの姿を落ち着いて良く見てみると、その手には、営業用の鞄が握られていました。


「プロデューサーさん……今から、どこかに出掛けるんですか?」


「ん? まぁな」


持っていた鞄を掲げる様に私に見せて、プロデューサーさんはそう答えました。


「前から検討していた企画案が通ってな。これからテレビ局で、その打ち合わせがあるんだ」


「そ、そうなんですか。大変ですね」


「いや、そうでもないさ。俺としては、嬉しい限りだよ。自分で企画立案しただけにな」


そう言いながら、プロデューサーさんは私に嬉しそうな笑顔を見せました。


屈託の無い、幸せそうなその表情。


そんな表情をされると、私まで嬉しくなってきました。


「なら、おめでとうございます」


「うん、ありがとうな」


「それで……その企画って、どんな企画なんですか?」


「あぁ、それはだな……」




「響子の、ソロでの番組企画なんだ」


「響子ちゃん……の、ソロでの企画……ですか?」


「響子が得意な家事をメインに置いてな。これが成功すれば、初のレギュラー番組になりそうだ」


嬉々として語るプロデューサーさん。それに対し、私の胸中は暗雲が立ち込めてきました。


私だって、嬉しくない訳ではありません。


同じアイドルの……同じユニットの仲間が活躍できるのですから。


でも……それとは裏腹に、複雑な心境なのでした。


企画がもし、軌道に乗った場合……今よりももっと、プロデューサーさんと会えなくなる。


そんな予感が……私の脳裏にふと、よぎったのです。


「きっと……響子ちゃんも、喜ぶでしょうね」
『喜ぶ? 私はちっとも、そんな気はしないのに?』


「そうだといいけどな。とりあえず、今から響子も伴って、打ち合わせてくるから……こっちは美穂と二人で、頼んだぞ」


「はいっ、任せて下さい」
『そんなの嫌です。わたしはもっと……プロデューサーさんの傍にいたいんです』


私にそう声を掛けると、プロデューサーさんは片手を上げ、行ってくるとばかりに手を振りました。


そんなプロデューサーさんを、私は笑顔を作り、見送ります。


無意識に浮かぶいつもの笑顔では無く、取り繕う様な作った笑顔。


自分の裏で湧き上がるどす黒い感情を知られない為に、必死になって偽ったのでした。


そして私の横を通り抜けて、プロデューサーさんはこの場から離れていく。


けど、その歩みは数歩歩いた所で止まってしまいました。


何かを思い出したかの様に立ち止まり、振り返ってから私にへと視線を向けるのでした。


「そうだ、卯月。一つ、言い忘れてた」


「えっ?」


「実は卯月にも、話しておきたい事があったんだ」


話しておきたい事がある。


具体的な内容にも触れないし、指し示さないその一言。


けど、その一言に……私の心は動かされました。


「今日は無理そうだから……明日にでも、時間を作れないか?」


「は、はい。大丈夫です!」


私は何も考えずに、反射的にそう返事をしていました。


「悪いな。それじゃ、また明日にな」


プロデューサーさんはそう言うと今度こそ、この場から去っていきます。


それを私はさっきみたいに取り繕う様な笑顔では無く、自然な笑顔で見送りました。


こうなったのも、プロデューサーさんの言葉で気分が高まったからでしょう。


どんな内容の事を話すかは分からないけれども、プロデューサーさんと話す機会ができたとばかりに、私は思っていました。


けど、実際はそうではありませんでした。


その内容は私の想像していたものとは、まるで違いました。


だって、あれは……私からすれば、死刑宣告の様なものだったからです。


短いけど、今日はここまで

そういえば、総選挙の結果が出ましたね

まゆも頑張ったけど、智絵里も良く頑張った、おめでとう

それではまた、書き溜めたら投下していきます

おつ


誰も悪くないのになぁ…

「―――ライブ、ツアー……ですか?」


「あぁ、そうだ」


翌日。


プロデューサーさんに話があると言われて、楽しみに待ちわびていた私。


けど、あの人からそう告げられると、私は衝撃を受けました。


「ニュージェネレーションの初となるライブツアーで、国内の五ヶ所を回ってもらう。北の札幌から始まって、福岡、大阪、名古屋……最後に東京だな」


「え、えっと……」


「うちの事務所としても、これ程の規模での企画は初となる快挙だ。流石の人気だと言うべきかな。本当に俺も、担当として鼻が高いよ」


興奮気味のプロデューサーさんは捲し立てる様に、私にそう言いました。


確かに、聞いていればこれが凄い事なのは、私にだって分かります。


開催される都市は、どれも大きな都市ばかり。


そして、大人数が収容できる会場が用意されているそうです。


そんな場所でライブができるだなんて……夢の様にも、思えました。


けど、それよりも……


「あ、あの……ちょっと、いいですか?」


「ん? どうしたんだ?」


私が小さく手を挙げながらそう言うと、プロデューサーさんは私に視線を合わせ、そう聞き返しました。


「五ヶ所でのライブ……ともなると、長期的なスケジュールになります……よね?」


「まぁ、そうなるな。短くても……一ヶ月ぐらいの予定にはなるだろうな」


「そ、そうですよね。やっぱり、それぐらいには……なりますよね」


「何か、あるのか? どうしても、外せない用でもあるとか……」


「い、いえ、そういう事ではありません。ただ、一つ……気になる事がありまして……」


「気になる事?」


目を伏せ、俯きながらそう告げる私に、プロデューサーさんは首を傾げつつ、そう言いました。


最初にこの話を聞いた時から、私の脳裏にはある疑念が渦巻いていました。


もしかすると、こうなるのでは……という、確固たる疑念が。


それを私は一呼吸置いた後、プロデューサーさんに向けて、口にしたのでした。


「プロデューサーさんは、今回のツアー……一緒に、着いて回ってくれるんですか?」


この問い掛けは、私の望みを言っている様なものでした。


美穂ちゃんや響子ちゃんが入る前、ニュージェネレーションを結成したばかりの頃。


あの頃は必ずといって、プロデューサーさんは私の傍にいてくれました。


不安な私に対して、落ちつける様にと何かと声を掛けてくれました。


それがあったから、私も精一杯やり通せたし、不安も乗り越える事ができたんです。


……でも、最近は美穂ちゃんと響子ちゃんの傍にいて、構う事の多いプロデューサーさん。


だから、今回は……今回ばかりは、そうしてくれると……私は嬉しかったんです。


「……」


しかし、私がそれを聞くと、プロデューサーさんは黙ってしまいました。


眉間に皺を寄せて、苦々しい感情を隠さずに、その表情に浮かべている。


そんな顔を見てしまえば、私も察してしまいます。


私の、ほんのささやかな願いが……果たされないという事を。


とりあえず、ここまで

亀更新で本当に、申し訳ありません

また書き溜めたら投下します


楽しみに待ってる

卯月…更新楽しみにしてます。

「……悪いが、それは無理そうなんだ」


頭を掻きながら、プロデューサーさんはバツの悪そうに言いました。


「俺も着いて行きたかったが……美穂と響子を放っておく訳にはいかなくてな」


「……はい」


『何で、二人の心配はするのに……私の事は、考えてくれないんですか?』


『私の事は、放っておいても……いいんですか?』


「俺が着いてやれない分は、他の二人のプロデューサーに頼んである。何かあったら、その二人を頼ってくれ」


「……はい」


『他の誰かなんかが、何の役に立つというんですか?』


『私が頼りたいのは、プロデューサーさんなのに……何で、分かってくれないんですか?』


「とはいえ、卯月なら大丈夫だろう。俺なんかがいなくても、いつも通りにやれるな」


「……、は、い」


『……』


プロデューサーさんの言葉を聞く度に、自分のスカートの裾を握る手の力が強まっていきました。


そうして我慢していないと、抑えられなかったからです。


自分の我が儘を貫き通そうと、何かしらをプロデューサーさんに向けて、言ってしまいそうだったから。


「そんな訳で、本当に申し訳無いが……今回のライブ、頼んだぞ」


「……はい、頑張ります」


私がそう答えると、プロデューサーさんは安堵した様な表情を浮かべました。


私が理解して、納得してくれたのだと思ったからでしょう。


先程に浮かべていた苦々しさはもう消えていて、表情は晴れ晴れとしていました。


肩の荷が下りた……いえ、重荷でしょうか。


それが無くなって、楽になれた……私には、そんな感じに見て取れました。


そして、話が終わると……プロデューサーさんは直ぐに私の下から、いなくなってしまいました。


何か用事があるとか、そんな事を言っていましたが、その内容は、入ってきませんでした。


私としては……それ所では、ありませんでしたから。


「どうして……?」
『……何で?』


これまで、私は何度も我慢をしてきました。


あの人に迷惑を掛けては悪いと思って、ずっと耐えてきました。


「どうして……?」
『……何で?』


でも、そうした事で……私が報われた例なんて、一度もありませんでした。


いつも、いつも……私一人が、不安な思いを……寂しい思いを、抱えている。


「どうして……?」
『……何で?』


でも、プロデューサーさんは一向に、私がそんな風に思っているだなんて、気づいてはくれない。


美穂ちゃんや響子ちゃんは、私に気を使って、譲ってはくれない。


「どうして……、」
『……何で、』








「『私の事は、構ってはくれないんですか?』」






あの人にとって、私なんかはどうでもいい存在なんでしょうか。


あの二人がいれば、私はいらない娘なんでしょうか。


私はこんなにも……あの人を、プロデューサーさんの事を必要としているというのに。


「頑張り、ます……」


今まで何度も口にしてきた言葉を、私はそっと呟きました。


とにかく、今の私ができる事は、それしかありませんでしたから。


頑張って、頑張って、頑張って……。


……その先、私は……どうすればいいのかな。


明確な答えや出口を見出せないまま、私は彷徨い続ける。


いつか自分の下に、報われる時が来るのを信じて、求めてもがいていくのでした。


とりあえず、ここまで

また書き溜めてから投下します

ついに心と体(の意見)がつながったか……未来が悲しみの終わる場所と信じて
なにはともあれ一旦乙




「―――月、ねぇ、卯月」


「……えっ?」


とある某所のレッスンスタジオ内。


ライブツアーが始まり、既に二ヶ所での公演を終えた頃の事。


私達はダンスの振り付けの確認を行う為、そこを利用していました。


その休憩中、横からそう声を掛けられた私は、その方向に向けて視線を送りました。


「大丈夫? 何だか、ボーっとしてたみたいだけど」


その視線の先には、ニュージェネレーションでのユニットメンバー、凛ちゃんの顔がありました。


凛ちゃんは若干の不安そうな表情で、私を心配する様に見つめていました。


物思いにふけっていた、私を見兼ねてでの事でしょうか。


「あっ、は、はい。大丈夫ですよ、凛ちゃん。何でもありません」


「……そう。それなら……いいけど」


私がそう言うと、凛ちゃんは納得したかの様にそう返してきました。


けど、本当は納得していないというのは、表情を見れば分かります。


不安が残って曇ったままで、晴れてはいませんでしたから。


「でも、無理はしないようにね。最近の卯月……ちょっと危ないから」


「危ない……ですか?」


「うん。偶にだけど、今みたいに上の空な事が多いし。それに、思い詰めた表情をしてる時もあるからさ」


少し言いにくそうに、表情を変えないまま凛ちゃんはそう言いました。


私はその言葉を……肯定も否定もできずに、黙って受け取るしかできませんでした。


だって、凛ちゃんが言った事に……間違いなんて、ありませんから。


「だから、ね。気を付けた方がいいよ」


「はい、分かりました。これからは……気を付けますね」


凛ちゃんの注意を促す言葉に、私は今度こそ不安を残さない様にと、精一杯の笑顔でそう言いました、


それを見て安心したからか、凛ちゃんは良かったとばかりにちょっとだけ頷き、固かった表情を緩めました。


これで、一先ずは大丈夫でしょう……私はそう思って、話題を変えようと話を切り出しました。


「そういえば……未央ちゃんは? 未央ちゃんの姿が見えませんけど、どこに行ったんでしょう?」


わざとらしく辺りを見渡しつつ、私はそう言いました。


先程までは一緒にいたはずの、同じくメンバーである未央ちゃん。


けど、その姿は今、この周辺には見当たりません。


私が考え事をしている内に、どこかに消えてしまった様でした。


「未央なら……さっき、『ちょっと抜けるね』って言い残して、出掛けたっきり戻ってきてないよ」


「あっ、そうなんですね」


「多分、お手洗いとか……そんな所だと思うけど」


未央ちゃんの行き先を予測してでの、凛ちゃんの言葉。


確かに、それ以外には思い当たるものはありませんでした。


今は休憩中であり、あともう少しもすれば、レッスンが再開される。


それなのに、どこか遠くに行ってしまったとかは考えられません。


「きっと、そんな感じでしょうね」


なので、私は凛ちゃんの言葉に同意する様に、そう言いました。


それから別の話題を出そうとして、口を開こうとした……その時でした。


私の視界の外の方から、ガチャという物音が聞こえてきました。


それが何の音なのかは、考えるまでもなく分かります。


誰かがこの部屋に入ってきた音……きっと、未央ちゃんが帰ってきたんだろうと、私はそう思いました。


その考えに思い至った私は、音のした方向にへと、視線を向けました。


「……あれ?」


けど、その先に待っていたのは、予想していたものとは違った結果でした。


出入り口の前に立つのは、未央ちゃんとは似ても似つかない体格の背の高い男性。


「二人共、お疲れさん」


その人―――凛ちゃんのプロデューサーさんは私達に近づきながら、手を振ってそう言うのでした。


近づいて来るにつれて、その体に染み付いている煙草の臭いが漂ってきました。


凛ちゃんのプロデューサーさんはかなりの喫煙家みたいですので、そればかりは仕方がありませんでした。


「プロデューサー? 何で、ここに?」


そして凛ちゃんにとっても、それは予期せぬ来訪だったらしく、驚いた様にそう言いました。


「確か今、打ち合わせの時間じゃなかった? こんな所にいて、大丈夫なの?」


「いや、打ち合わせの方が早く終わってな。それで、様子を見に来たって訳だ」


「そうだったんだ。でも、わざわざ別に……それだからって、来なくても良かったのに」


凛ちゃんはそんな風に言っていますが、本当は来てくれた事を嬉しく思っているのでした。


ちょっぴり顔を赤らめて、照れた素振りをしていれば、それぐらいは簡単に読み取れます。


「で、こっちの方はどうなんだ? うまくやれてるか?」


「うん、今は休憩中だけど……何とか問題無くやれてる。そうだよね、卯月」


「え? は、はい。そうですね」


同意を求められたので、私は同調する様にそう答えました。


そうした言葉を聞いて、凛ちゃんのプロデューサーさんはうんうんと二度も頷きました。


「それなら安心だな。また今週末も、前の二回と同様に頼んだぞ」


「うん、分かってる。けど、その前に……」


「ん?」


そう言ってから、凛ちゃんは自分とプロデューサーさんとの距離をグッと詰めて接近しました。


それから凛ちゃんのプロデューサーさんの首元―――ネクタイにへと手を伸ばす。


曲がっていたそれをピンと伸ばして、真っ直ぐに正すのでした。


「ネクタイ、曲がってたから。ちゃんとしてよね、もう」


「おっと、すまんな。ありがとう」


凛ちゃんからのしっかりしてという苦言の言葉。


それを凛ちゃんのプロデューサーさんは苦笑しつつ、頭を掻いてそう返しました。


普通なら、この光景を見れば微笑ましくも思えてしまう。


特に二人の知り合いであれば、余計にそう思えるでしょう。


けど、私は……


「そ、そういえば、未央ちゃんの姿を見てませんか?」


「えっ? 本田さんだって?」


ついさっき、凛ちゃんにも投げ掛けたこの質問。


唐突に、脈絡も無く、二人の間に割って入る様にして、私はそう尋ねました。


「どうだったかな……」と小さく呟いた後、凛ちゃんのプロデューサーさんは思い返そうとする。


けれども、心当たりは無かったのか、分からないという風に首を横にへと振りました。


「悪いけど見てないな。何か、あったの?」


「い、いえ。休憩に入ってからどこかに行ったきりで戻ってきませんので、プロデューサーさんは会っていないかなと思いまして……」


「あぁ、そうだったのか」


「もう少しでレッスンも再開されますし、私、心配で……」


「なるほど。そういう事なら、俺が今から探してくるけど?」


「いいの? プロデューサー」


「こんな時ぐらい、任せとけ」


凛ちゃんのプロデューサーさんは右の二の腕で力こぶを作り、私達に向けて頼りがいがある所をアピールしようとしました。


けど、それを見た凛ちゃんの反応は冷ややかなもので……


「じゃあ、行ってらっしゃい」


と、早く行ってとばかりにそう告げるのでした。





来たばかりだというのに、早々に去る事になってしまった凛ちゃんのプロデューサーさん。


その後ろ姿を、私と凛ちゃんは並んで見送るのでした。


「それにしても……凛ちゃんとプロデューサーさんって、仲が良いんですね」


「え、えっ?」


いなくなったタイミングを見計らって、私はそんな質問を凛ちゃんに向けて投げ掛ける。


投げ掛けられた当の本人は、「何を言ってるの?」という表情をその顔に浮かべていました。


「さっきもネクタイを直したりしてましたし、普段からあんな感じなんですか?」


「べ、別に……そんな事は無いよ」


「そうですか? その割には、手馴れてましたけど」


「そ、その、偶に……そう、偶にあんな風にだらしが無いから、仕方なく……」


出ていったばかりの扉を見つめ、右手で髪をいじりながら、凛ちゃんはそう言いました。


まるで迷惑な感じに凛ちゃんは言いますけど、それが満更でも無い事は、良く分かります。


だって、表情が違いますから。


本当に嫌ならば、こんな表情―――嬉しそうな表情はしないはずです。


そして、そんな所を公然と見せつけられでもしたら……








私でも、嫉妬してしまいます。





「だから、ね。本当にしっかりして欲しい……というか、何というか……」


「ふふっ、大変ですね、凛ちゃんも」


切れの悪い凛ちゃんの言葉に、私はそう言って返しました。


心の奥底では嫉妬の炎が燃え上がっている事を悟られない様に、努めて笑顔のままで。


「もし、プロデューサーが何か迷惑を掛ける様なら……私に言ってね。私からきつく言っておくからさ」


『凛ちゃんはプロデューサーさんの保護者か何かなんだろうか』と、思えてしまうその言葉。


私はそれに対して何かを言う訳でも無く、ただ頷いて答えるのでした。


そして、それから数分が経った後、未央ちゃんを引き連れた凛ちゃんのプロデューサーさんが戻ってきた所で、レッスンは再開されました。


短いですがここまで

中々更新速度が上がらない上に、今日から一週間程、海外研修が始まるというジレンマ

という事なので、しばらく海外にいますので、更新は帰国してからします

一週間以上経っても更新されなかったら、死んだとでも思ってください

乙。どんな未開の地に行くんだよ…

乙。無事を祈ってる

何の印を刻むのか楽しみにしてる


生きてくれ

卯月のコレも一種の長女シンドロームだったんだろうか

「はぁ……」


レッスン終了後、ホテルの自室にへと戻った私はため息を吐きつつ、備え付けられたベッドの上にへと突っ伏しました。


戻ってきて直ぐの事ですので、着替えなんてしていません。


「今日も、疲れたなぁ……」


そう呟くと、私は仰向けになって部屋の天井を見上げました。


見上げた先には、何かがある訳ではありません。


ましてや、私が最も話したい相手の顔がある訳でも無いのです。


そんな風に考えていると、私の脳裏には昼間にあった一幕の光景が蘇ってきました。


「……羨ましいなぁ」


思わず私はそう口にしていました。


あの休憩中に、凛ちゃんとそのプロデューサーさんとの一連のやり取りを見てしまったせいか、そう思う様になってしまったのです。


「私だって……同じ事をしたいのに……」


けど、願ってもそれは叶わない。


プロデューサーさんは割りと几帳面なのか、そんな所を見かけた試しは無いですし、いない人のネクタイを直すなんて、更に無理ですから。


「せめて……お話ぐらいは、したいな」


私が天井に向かってそう吐き捨てた、その時でした。


唐突に、どこからか軽快な音楽の音が鳴り、私の耳にへと届きました。


体を起こさずに、顔だけを音のする方向にへ向けると、部屋に隅に置かれた机の上で、チカチカと私の携帯が光を放っている。


音の発生源はそこから……つまり、着信が入った事を、私に知らせているのでした。


「誰からだろう……」


凛ちゃんか、未央ちゃんでしょうか……そう思ってから私は起き上がり、携帯にへと向かってのそのそと歩いていく。


机の上の携帯を手に取り、煌々と輝くディスプレイに表示された名前を見た時、私はカッと目を見開きました。


「プロデューサーさんだ!」


思わず大声を上げてしまった私。けれども、それ程に嬉しかったんです。


プロデューサーさんも美穂ちゃんや響子ちゃんの付き添い、更に自分の仕事もあって忙しいというのにも関わらず、こうして電話を掛けてくれたから。


そして私は慌てながらも電話が切れてしまわない様に、急いで電話に出るのでした。


「もしもしっ! 卯月ですっ!」


『おぉ、卯月。久しぶりだが、随分と元気だな』


携帯越しに聞こえてくる、私が待ち望んでいた声音。


他の誰でも無く、私のプロデューサーさんの声でした。


それを聞くだけで、胸の鼓動が高鳴り、心はときめいてしまう。


さっきまでの憂鬱な気持ちなんて、いつの間にかどこかにへと吹っ飛んでいました。


「はいっ! 島村卯月はいつも元気です」


『うん、それなら良かったよ。実は少し、心配だったからな』


「心配、ですか?」


『あぁ、渋谷さんのプロデューサーから卯月の調子が悪そうだと聞いていたからな。けど、この感じだと、大丈夫そうだな』


調子が悪い……私は凛ちゃんのプロデューサーさんに、そんな事は言った覚えは無い。


という事は、感付かれたかもしくは、凛ちゃんが私の様子を危惧して、伝えたのでしょう。


余計な真似を……なんて、そんな事は思ったりはしません。


寧ろ、ナイスな判断だと思います。


それがあったからこそ、こうしてプロデューサーさんが電話を掛けてくれたのだから。


『それで、どうだ? ライブの方は順調か?』


「はい。凛ちゃんや未央ちゃん……それに、スタッフの皆さんのお陰で、何とか頑張れてます」


『そうか……しかし、ごめんな』


「えっ?」


『本来なら俺も卯月の傍にいてフォローすべきなんだろうが、一緒にいれなくて、本当にすまない』


「い、いえ、仕方がありませんから。プロデューサーさんも、お仕事でお忙しいですし……」


目の前にはいないプロデューサーさんへそうでは無いのだと、私は空いている手を振りながらそう言いました。


「でも……こうして電話してくれたのは、嬉しかったです。私もちょっぴり、不安だったので……プロデューサーさんの声を聞けて、会話ができて、それも解消されました」


『……ふっ、そんな大袈裟な』


「そんな事はありませんよ、本当の事です」


鼻で笑うプロデューサーさんに、私はそう言って返しました。


プロデューサーさんは分かってないけど、私にとって、あなたはそれぐらいに特別な人なんですよ。


少し話しただけで不安が消し飛んでしまう様な、そんな特別な人。


お久しぶりです、何とか帰ってこれました

一週間程、上海に研修に行ってましたが、帰国後に高熱を出して今まで更新できませんでした

またこれから再開していこうと思いますが、その前に明日は特別な日なので

何か別のものを考えれたらなと思っています

実現できたのなら、明日にでも投下すると思います

それでは、短いですが今から出勤なので今回はここまでで

一旦乙

おつ、無理せず自分の体調に合わせて早く書け(無茶苦茶)

「所で、プロデューサーさんの方はどうですか? 美穂ちゃんや響子ちゃんとしっかりやれてますか?」


『あぁ、その辺は大丈夫だ。二人共しっかりとしてるから、心配しなくても良さそうなぐらいだ』


「……なら、良かったです」


『それなら……早く二人から離れて、私の傍に来て下さい』


『私はポンコツで、しっかりなんてしてませんから、心配して下さい』


プロデューサーさんの言葉に反応して、心の奥底からそんな声が込み上げてくる。


私はそれをグッと我慢して、口に出さない様に、また奥底にへと呑み込む。


本当は言いたいけど、言ってはダメなんです。


我が儘な娘だと思われて、敬遠されるのは嫌だから。


『二人も卯月に会えなくて寂しい……って、言ってたぞ。渋谷さんといい、本田さんといい、卯月は友人に恵まれてるな』


「えぇ、本当にその通りだと思います。私も、早く帰って……二人と、お話したいです」


『あの二人なんかより、もっとプロデューサーさんとお話がしたい』


『私が会えなくて寂しいのは、プロデューサーさんだけ』


『それ以外の有象無象なんて、どうだっていいんです』


一瞬の頭痛の後、目の前の景色が歪んだ様に見えました。


心の奥底で声が響く時はいつも頭痛だけが響いたけれども、この時には目眩もしました。


時に揺れる様な、ぐにゃりとした曲がりくねった世界。


時に揺れる様な、ぐにゃりとした曲がりくねった世界。


目が回る様な光景に、気持ち悪くなりそうだった……けど、これにも私は何とか頑張って耐えました。


こんな事なんかで、せっかくのプロデューサーさんとの会話を、止めたくはない。


「だから、今の話……プロデューサーさんから、二人に伝えてくれませんか……?」


『ん? 別にいいが……でも、それだったら直接……』


「私からよりも、プロデューサーさんが伝えてくれた方が、二人に伝わりますから」


『あ、あぁ、そうか。なら、分かったよ』


「はい、よろしく、お願いしますね」


困った様にそう言うプロデューサーさんですが、今頃は、怪訝そうな表情をしているでしょう。


私が言った言葉の意味を、把握できないで、納得していないから。


私が美穂ちゃんと響子ちゃん、二人に直接電話をするのは別に構いません。


けど、今の私が二人と会話をしたら、何を言ってしまうか、分からない。


伝える事を伝えられずに、私の悪意を撒くだけ撒き散らして、それで終わるだけ。


それでしたら、プロデューサーさんを介した方が、問題は起きません。


頭の回らない今の状態でも、それだけは分かって、理解はしています。


だからこそ、こういった話は直ぐに切りにしてしまわないと。


私にとっては、さっきのは話の切り出しでしかありません。


二人の話を聞くよりも、プロデューサーさんには、私の話を聞いて欲しい。


ここしばらくは話せていなかったから、別に、いいよね。


誤って何かを言ってしまう前に、早く、話題を変えてしまいましょう。


『まぁ、二人にはそう伝えておく事にして……引き続き、卯月は卯月で頑張ってくれ』


「あっ、はい。大丈夫です。頑張ります」


『うん、頼むな。……さて、それじゃあ伝える事は伝えたから、そろそろ切るぞ』


『「……えっ?」』


プロデューサーさんが最後に放った一言。


何を言ったのかが分からず、私は咄嗟に、そう聞き返していました。


『いや、そろそろ切らないと、明日に響くからな』


正直、最初は私の聞き間違いかと思いました。


けれども、そうでは無い。違いました。


話題が途切れた所で、別の話を挟もうとした矢先……プロデューサーさんはそう宣言してきたのでした。


私の言葉も聞かず、私の了承も得ずに、一方的に。


『あまり遅くなると、卯月に迷惑が掛かるしな』


『遅くなる』と、言われて私は反射的に時計を見ました。


まだ時刻は夜の九時を指す前。全然と遅くは無い時間帯。


それなのに、電話を切ろうとするなんて、あんまりじゃないですか。


『レッスンとかで疲れていると思うし、今日はもう、ゆっくりと休んでくれ』


「あ、あの……」


だから、ちょっと待って欲しい。まだ終わりにはして欲しくは無い。


まだ私は何も伝えられてはいない。


今日起きた事や昨日の事、それからライブでの詳しい話。


私がどう感じて、どう考えて、どう耐えて、どんな風に頑張ったのか。


プロデューサーさんに聞いて欲しい事は、幾らでもある。


だから、だから、だから……、


『それじゃ、明日も頼ん……』


『「待って下さいっ!」』


プロデューサーさんが私との会話を締め括ろうとして何かを言いかけた時。


私は叫ぶ様にしてそう言って、プロデューサーさんの言葉を遮りました。


『う、卯月……?』


電話越しからでも分かる、プロデューサーさんの困惑する声。


驚きましたか? びっくりしましたか?


普段の会話の中では、こんな風に大声なんて出した事はありませんからね。


あなたに対して、声を張り上げた事なんて、一度もありませんから。


でも、そうでもしなかったら、電話を切られそうでしたから……ごめんなさい。


『「……まだ、いいですよね?」』


『え、えっ?』


『「もう少し……続けませんか? 私との……お話」』


『あ、いや、その……』


『「プロデューサーさんには、聞いて欲しい事がたくさんあるんです。なのに、切ろうとするなんて、あんまりじゃないですか」』


すらすらと、言葉が淀みなく流れる様にして、口から紡がれる。


まるで、今まで遠慮して抑圧していたものが、堰を切って出てくる様に。


私が何かを考える前に、勝手に自由にと口は動いているのでした。


『けど、卯月も疲れてるんじゃ……』


『「私もプロですから、体調管理は万全です。疲れてませんから、大丈夫ですよ」』


『しかし、だな……』


『「それとも、嫌なんですか? 私と、お話をするのは……」』


『べ、別に、そんな事は言ってない……』


『「なら、いいですよね。私との、お話♪ ふふふっ♪」』


『あ、あぁ……』


プロデューサーさんに対して、こんな我が儘を言うのは、初めてでした。


ずっと、ずっと……私は耐えて、忍んで……迷惑を掛けない様にと、何も言わなかった。


でも、私は遂に言ってしまった。


自分の為の、プロデューサーさんにとって得にはならない、そんな我が儘を。


『まぁ、でも……あまり長くはならない様に、ほどほどでだからな』


『「はい、分かってます。プロデューサーさん」』


以前の私なら、こんな事を言えば罪悪感を感じ、心の中はあの人に対する申し訳無さでいっぱいになっていたかもしれません。


だけど、今の私の心の中には、そんなものは一切無かった。


いつもの曇天模様の心境では無く、清々しいまでの雲一つ無い晴れ空。


嬉しさと興奮からか、不安や寂しさなんて全てが吹き飛んでいました。


『「あっ……それと、もう一つ……いいですか?」』


『ん? どうしたんだ?』


『「こうして電話をするの……今日だけじゃなくて、明日も、明後日も……して、いいですか?」』


『……メールやSNSじゃ、駄目なのか?』


『「駄目です」』


私の要求に妥協案を提示してきたプロデューサーさんに対して、私ははっきりとそう告げて拒否をしました。


というよりも……そんなもの、駄目に決まってるじゃないですか。


私はそんな、文章での言葉のやり取りを求めたいとは思っていません。


私が求めているのは、プロデューサーさんとの会話、それだけです。


それ以外の妥協案だなんて、受け入れられないですから。


1

なんて思いながら、私はプロデューサーさんからの返事を待った。


悩んでいるのか、数秒程考え込み、そして……、


『……分かった、分かったよ』


『「……!!」』


『卯月がそこまで言うのなら……俺としては、構わないぞ』


そう言って、プロデューサーさんは私の要求をそのまま受け入れてくれた。


嬉しさのあまり、胸が弾んで、心が躍る。


『「はいっ、ありがとうございますっ!」』


『ただし、あまり遅くはならない様にな。お互い、忙しくはある事だしな』


だけれども、釘を刺す所はしっかりと刺す。


そこは当然といいますか、プロデューサーとしての責務でしょうか。


でも、何だろうと構いません。


プロデューサーさんとお話ができるのなら、それでいいですから。


『「分かりました。それじゃ、まず……今日の事なんですが……」』


私はそう言った後、手始めに今日起きた事を話し始める。


大事な事も、何でもない様な事も含めて全部を。


その結果、伝えたい事が多過ぎて、通話は数分では終わらずに、数時間も掛かる始末でした。


流石に長過ぎて、プロデューサーさんには苦笑されてしまいました……けど、良かったです。


不安や寂しさのほとんどが、プロデューサーさんとの会話で払拭されましたから。


……貴重な、私とプロデューサーさんの、お互いの睡眠時間を削って、ね。


マダカナー

……………


………





「――――まむー、しまむーってば!」


「え、えっ?」


そう声を掛けられながら横から肩を揺すられて、私はハッと目を覚ましました。


「あ、あれ……?」


二度、三度とまばたきをした後、周りを見渡す。


目の前に広がるのは、主に灰色が目立つ、大型ワゴンの殺風景な車内の光景。


それから左側にある、窓の外にへと視線を向けると、体育館の様な大きな建物が見えました。


この建物が何なのかは、前日に調べてはあったので、はっきりと分かります。


ここは今いる都市でもかなりの規模の多目的ホールで、今日の私達が活動する現場でもありました。


「え、えっと……もう、着いたんですか……?」


寝惚け眼をこすりつつ、まだはっきりとしない意識の中で、私はそう言いました。


私が覚えているのは、移動中の高速道路での風景。


そこまでは覚えているけれども、それ以降はさっぱりと記憶に無い。


どうやら、その辺りからここに至るまで、私はずっと眠っていた様でした。


「もうちょっと……掛かると思いましたけど……」


「いやいや……ホテルを出てから、それなりには時間は経ってるからね」


私の言葉に、そう言って反応してくれた声。


その方向に視線を向けると、そこには苦笑した表情の未央ちゃんが待っていました。


「おはよう、しまむー」


「あっ、はい……おはようございます」


おはようと言われたので、私は未央ちゃんに当たらない角度で頭を下げて、おはようと返しました。


出掛ける前にも未央ちゃんとは一度は挨拶は交わしているので、これで二回目の挨拶になります。


「でもさ、しまむー。本当に良く寝てたね」


「えっ、そ、そうですか? そんなには、寝ていないとは思いますけど……」


「ううん、ぐっすりと熟睡してたよ。どれだけ呼び掛けても、全然反応が無かったから。肩を揺すった所で、ようやく目を覚ましたって感じだね」


「うっ……それは、すみません……」


「けど、どうしたの? それだけぐっすりと眠ってたという事は、昨日は寝れてないとか?」


「え、えっと……」


未央ちゃんからの素朴な疑問による問い掛け。


普通なら答えられるはずの、何でも無い質問。


でも、私はそれを聞いて、何も返す事ができない。


口を一文字に閉じたまま、視線をあちこちにへと泳がせるだけでした。


「あれっ? しまむー?」


返事が無い事を見兼ねて、未央ちゃんは不思議そうに顔を覗かせてくる。


聞いているのに相手が答えないのだから、当然の反応とも言えます。


「……ははーん、なるほど」


けど、未央ちゃんはしばらくすると何やら得心してか、納得をした表情で私から離れていきました。


「そういう事ね、何となく分かっちゃった」


「分かった……ですか?」


「多分だけど、しまむーの事だから……夜遅くまで長電話をしてたとか? それで寝る時間が短くなったんじゃない?」


「そ、それは、その……ははは」


「……うん、その反応を見ると、図星って所だね」


私の空笑いを見て聞いてか、未央ちゃんはうんうんと首を縦に振ってそう言った。


普通なら『何をやってるの』とか、非難されるかもしれなかった。


仕事を前にして、体調管理を考えない行動をしていれば。


けど、未央ちゃんの口から叱責の言葉は飛んではこない。


ただその表情を緩めて、愉快そうに笑みを浮かべていました。


「まぁ、でも、私も実は同じ事をしてたから、人の事は言えないんだけどね」


「えっ? 未央ちゃんも……ですか?」


「うん、そうだよ。あーちゃんと夜遅くまで話し込んでたんだ」


未央ちゃんの言うあーちゃんとは、同じ事務所のアイドルの高森藍子ちゃんの事です。


ゆったりと落ち着いた雰囲気を持つ女の子で、頻繁にではありませんが、私も何度か会って話した事があります。


「ちょっと相談事があって、ついつい長くなって……という訳」


「な、なるほど、そうだったんですね」


「それで、しまむーは誰と話してたの? みほちー? それともきょーちゃん?」


美穂ちゃんに響子ちゃん。


未央ちゃんが予想で上げた話し相手は、私と同じユニットの二人。


けど、違います。そうではありません。


二日、三日前であれば、話し相手はその二人で合ってます。


私が昨日話していたのは……、


「えっと、秘密……です」


私は唇の前でバツ印を両手の人差し指で作り、申し訳無さそうにそう言いました。


「えー、何でさ」


私の『秘密』という言葉を耳にして、未央ちゃんは苦笑しつつも苦情の声を上げます。


「別にいいじゃん、教えてくれてもさ」


「だ、駄目です。こればかりは、教えられません」


どんなに懇願されようとも、私は口にするつもりはありません。


昨日の話し相手が、プロデューサーさんだという事を。


それに、少しでも口を割れば、余計な事まで話してしまいそうですから、言わないんです。


例えば、先週にプロデューサーさんから電話を貰って以降、毎日電話を掛けているとか。


「もう、仕方ないなぁ。しまむーがそこまで言うなら、聞かないでおいてあげる」


「う、うん、ありがとう。ごめんね、未央ちゃん」


「でも、あれだからね。長電話のし過ぎで、体調を崩すとかは無しだよ」


「わ、分かってますよ、それぐらい」


未央ちゃんからの追及に、私は反論する様にしてそう言いました。


心配してそう言ってくれているのでしょうけど、大丈夫です。


眠気に関しては言い訳できませんが、体調に関しては問題はありません。すこぶる調子が良いです。


以前は頻繁に起きた頭痛も吐き気も、最近は起こらなくなってますから。


これも、プロデューサーさんと話せる様になったからかな。


不安や寂しさ、ストレスが解消されて、万全の状態になれているのだと思います。


「おーい、二人共」


と、そんな風に考えていると、前の方から私達を呼ぶ声が聞こえてきました。


顔を上げて視線を向けると、そこには未央ちゃんのプロデューサーさんが顔を覗かせていました。


「そろそろ降りてくれると、助かるんだが」


「ごめんごめん。今出るから」


「す、すみません」


私達は謝りながら頭を下げると、自分の荷物を持ち、ワゴン車の外に向かって移動を始める。


「全く、しっかりしてくれよ、未央」


「だから、ごめんって。この後にしっかりと汚名挽回はするからさ」


「汚名は挽回じゃなくて、返上な」


「はいはい、分かってますよ」


通り過ぎようとする未央ちゃんに対して、未央ちゃんのプロデューサーさんはそう言いました。


更に、任せたとばかりに擦れ違い様にポンッと肩を叩き、見送ったのでした。


それを後ろで見つつ、私も降りて出ようとその横を通り抜けようとする。


「卯月ちゃんも、頑張ってくれよ」


すると、未央ちゃんに続き、未央ちゃんのプロデューサーさんは私にもそう言ってくる。


それから同じ様に通り過ぎようとする私に対して、肩を叩こうとその手を挙げました。


振り上げられたその手は、真っ直ぐ、ゆっくりと私の肩に降り立つ。


軽く触れただけですので、当然痛みは無く、ちょっとした衝撃が走るだけ。


でも、何でだろう。


「……っ!?」


未央ちゃんのプロデューサーさんの手が私の肩に触れた瞬間、ゾクッとした悪寒が背筋を走る。


それと同時に、何故だか腕には鳥肌まで立っていました。


突発的に起きた症状に、私は思わず立ち止まってしまいます。


「……? 卯月ちゃん?」


私が立ち止まったのを不思議に思ってか、未央ちゃんのプロデューサーさんは怪訝そうな表情で私を見ていました。


「えっと、何かあったのかい?」


「な、何でもありません、大丈夫です」


私は首を横に振りながらそう言うと、そそくさとその場から離れていきました。


「……?? 何だったんだろう」


「ん? プロデューサー、どうかしたの?」


「いや、未央と同じ様に卯月ちゃんの肩を叩いたら、何か様子がおかしく……」


「……もしかして、プロデューサー。しまむーにセクハラでもしたんじゃ……」


「いやいや、そんな事してないって!」


後ろから二人のそんな会話が聞こえてきますが、頭には入ってこない。


会話の内容よりも、今の私には何で悪寒なんて走ったのかが気になって仕方がありません。


風邪でも引いたのか……いえ、体調は万全ですから、それとは違います。


なら、一体……何で急にそんな事が?


答えを探ろうと考えてみても、何も思いは浮かばない。


その原因について頭を悩ませつつ、私は会場の中にへと足を踏み入れていくのでした。 



最近、全く更新が出来ていなかった件

というのも、先月末で会社を辞めたので、その引継ぎやら何やらで忙しく、更新できませんでした

まぁ、言い訳なんですがね、そんな事

今は以前に比べたら比較的に落ち着いているので、今月中には完結を目指していきます

そういえば、交流会とかやってるみたいですけど、あれってどうなんでしょう

参加できれば、参加してみたいですね(←こんな事ばかりしてるから、更新が遅れる)

それではまた書き溜めたら投下していきます

お疲れ様です
ゆっくりと待ってるよ


今更だけどこのシリーズ美波以外のアインフェリア、Masque:Radeも李衣菜除いて全員出てるのか

お疲れ様です、色々と
交流会の方は7月からの完全新作だそうで
締切14日までなんで、やるなら今から書き始めないと厳しいですかねー

乙、まずは自分の生活を最優先してくれ

イベントホールに入ってから数十分ぐらい経った頃。


着替えやメイクといったこの後の仕事に必要な準備を済ませて、凛ちゃんと未央ちゃん、それと私の三人は楽屋で出番が来るの待ってました。


いつもならここでみんなとお話とかをしたりして、緊張を和らげたり、気合を入れたりする場。


でも、私は楽屋にいるのが落ち着かなくて「外の空気を吸ってくる」と、言って二人を置いて一人楽屋から抜け出す。


それから少し離れた場所にある、通路に置かれたベンチの上で休んでいました。


「ねぇ、卯月。本当に大丈夫なの?」


そんな私の下に、同じく楽屋から出てきた凛ちゃんがやって来て、そう声を掛けてきました。


最近、思うんだけどさ。
HACHIMANとかいうタグ付ける奴うざくね?
八幡tueee!が嫌いとか言ってる奴、多すぎ。
「キリトの活躍奪うんじゃねえ!」
「ハチアスとかやめて!」
「上条さんの役割奪うなよ!」
「デレマスのヒロインNTRさせんな!」
これ、マジでキモいからね。
いやさ、お前らの気持ちも分かるよ?
何でも出来て、最強の八幡に嫉妬してるんだよね。お前らは葉山みたいな性格だもんね。
でも、落ち着いて考えてみろよ。
お前らが何と言おうと八幡が最強なのは誰の眼に見ても明らかんだから仕方ないじゃん。
ヒロインを奪われる~とかさ、クソみたいなキリト、上条辺りに救われるよりも八幡に救われる方が幸せに決まってるよね。
まずは誰よりも八幡が強い事実から目をそらすなよ。それは誰の目にも明らかだろ?
それを劣っている立場の奴等が「俺達の役割を奪うなよ」っていうのは成り立たないでしょ。
いやね、作品を汚すなってのは分かるよ?
例えばキリトが総武高校に転校してきてヒロインNTRしたなら、俺もキレて潰しにかかるわww
でもさ、八幡なんだから仕方ないじゃん。
もうワガママ言うのやめろよな。
八幡が主人公なら皆が救われるんだって。
キリトも上条も士道も必要ないからね?
あんなん好きな奴等はガイジだからね?
もうさ、他作品をsageするなとかいうガイジの話なんか聞くのも飽々してるんだわ。
あのね、sageしてるんじゃないの。
八幡が最強だから、周りが雑魚に見えてしまうのは仕方ない事なんだよ。
八幡が最強なのが気持ち悪いとか言うけど、実際にその世界に八幡がいれば最強なのは間違いないんだから当たり前だよね。
ゴミみたいな作品なんて八幡に蹂躙されて然るべきなんだよ。それによって俺達の目に触れる機会も増えるんだから感謝しろよ。
以上、クソアンチ共を完全論破。全員、速やかに砕け散れよ。

「えっ? えっと、その……何が、ですか?」


「何って……卯月の体調の事だよ」


『何で分からないの』とばかりに、凛ちゃんは少し強めの口調で訴える。


「先週にも言ったけど、今の卯月はどうも……様子がおかしいからさ」


「そ、そんな事は無いですよ。私は……」


そう、そんな事は無いと思います。それこそ、凛ちゃんの思い過ごしじゃないかと。


体調は万全の状態であって、精神的にも比較的に落ち着いている。


これだけしっかりとしていれば、問題という事は無いはずです。


それなのに、凛ちゃんは何がおかしいのだと言うのでしょうか。


「今の私は、元気が有り余ってますので、大丈夫ですよ」


「……それ、本気で言ってる?」


「えっ?」


私がそう言うと、凛ちゃんは訝しむ様な目で私を見つめてきました。


まるで、私が言っている事が間違いだと告げる様にして。


「私の目にはとてもじゃないけど、卯月が元気そうだなんて見えないよ」


元気そうに見えない? ……何で? 何でそんな事を言うのだろう。


別に、今の私はいつもと変わらない、いつもの島村卯月なのに。


私のどこを……一体、何を見てそう判断をしているんですか。


「移動中はずっと寝てるし、未央のプロデューサーもどこかおかしいって言ってたし……これのどこが元気なの?」


「さ、流石に、疑い過ぎじゃないですか。私は、どこも……」


「……どこも?」


「どこも……おかしくなんて、無い。多分、凛ちゃんの気のせいだと思います」


「……そう、分かった」


凛ちゃんはそう言うと、私の側からゆっくりと離れていく。また楽屋にへと戻る為に。


でも、途中で一度足を止めると、振り返って再び私を見つめる。


「でも、これだけは言わせて。絶対に、無理だけはしないで」


「わ、分かってますよ、それぐらい」


「ううん、分かってない。分かってないから、こうやって言ってるの」


凛ちゃんは首を横に振って、またも私の言葉を否定する。


最近、思うんだけどさ。
HACHIMANとかいうタグ付ける奴うざくね?
八幡tueee!が嫌いとか言ってる奴、多すぎ。
「キリトの活躍奪うんじゃねえ!」
「ハチアスとかやめて!」
「上条さんの役割奪うなよ!」
「デレマスのヒロインNTRさせんな!」
これ、マジでキモいからね。
いやさ、お前らの気持ちも分かるよ?
何でも出来て、最強の八幡に嫉妬してるんだよね。お前らは葉山みたいな性格だもんね。
でも、落ち着いて考えてみろよ。
お前らが何と言おうと八幡が最強なのは誰の眼に見ても明らかんだから仕方ないじゃん。
ヒロインを奪われる~とかさ、クソみたいなキリト、上条辺りに救われるよりも八幡に救われる方が幸せに決まってるよね。
まずは誰よりも八幡が強い事実から目をそらすなよ。それは誰の目にも明らかだろ?
それを劣っている立場の奴等が「俺達の役割を奪うなよ」っていうのは成り立たないでしょ。
いやね、作品を汚すなってのは分かるよ?
例えばキリトが総武高校に転校してきてヒロインNTRしたなら、俺もキレて潰しにかかるわww
でもさ、八幡なんだから仕方ないじゃん。
もうワガママ言うのやめろよな。
八幡が主人公なら皆が救われるんだって。
キリトも上条も士道も必要ないからね?
あんなん好きな奴等はガイジだからね?
もうさ、他作品をsageするなとかいうガイジの話なんか聞くのも飽々してるんだわ。
あのね、sageしてるんじゃないの。
八幡が最強だから、周りが雑魚に見えてしまうのは仕方ない事なんだよ。
八幡が最強なのが気持ち悪いとか言うけど、実際にその世界に八幡がいれば最強なのは間違いないんだから当たり前だよね。
ゴミみたいな作品なんて八幡に蹂躙されて然るべきなんだよ。それによって俺達の目に触れる機会も増えるんだから感謝しろよ。
以上、クソアンチ共を完全論破。全員、速やかに砕け散れよ。

「みんな卯月の事を心配してるの。私や私のプロデューサー……未央や未央のプロデューサーだってそう思ってる」


「……」


「それだけは、忘れないでね」


それだけを言うと、今度こそ凛ちゃんは立ち去っていった。


一人残った私は目の前にある殺風景な通路の壁を見つつ、考える。


私は果たして、無理をしているかという事を。


凛ちゃんは私が分かっていない、無理をしているという風に言った。


けど、そんな事は絶対に無い。私はただ、自分にできる事をやっているだけ。


頑張って、頑張って……自分の仕事をこなしているだけに過ぎないんです。


「そうだよ……私は、頑張ってるだけだから」


私は立ち上がると、凛ちゃんと同じ様に楽屋に戻ろうとして歩き出す。


楽屋に戻れば二人からまた何かを言われるかもしれないけど、構いません。


だって、二人が何を言おうと……私の体調は万全なんですから。


最近、思うんだけどさ。
HACHIMANとかいうタグ付ける奴うざくね?
八幡tueee!が嫌いとか言ってる奴、多すぎ。
「キリトの活躍奪うんじゃねえ!」
「ハチアスとかやめて!」
「上条さんの役割奪うなよ!」
「デレマスのヒロインNTRさせんな!」
これ、マジでキモいからね。
いやさ、お前らの気持ちも分かるよ?
何でも出来て、最強の八幡に嫉妬してるんだよね。お前らは葉山みたいな性格だもんね。
でも、落ち着いて考えてみろよ。
お前らが何と言おうと八幡が最強なのは誰の眼に見ても明らかんだから仕方ないじゃん。
ヒロインを奪われる~とかさ、クソみたいなキリト、上条辺りに救われるよりも八幡に救われる方が幸せに決まってるよね。
まずは誰よりも八幡が強い事実から目をそらすなよ。それは誰の目にも明らかだろ?
それを劣っている立場の奴等が「俺達の役割を奪うなよ」っていうのは成り立たないでしょ。
いやね、作品を汚すなってのは分かるよ?
例えばキリトが総武高校に転校してきてヒロインNTRしたなら、俺もキレて潰しにかかるわww
でもさ、八幡なんだから仕方ないじゃん。
もうワガママ言うのやめろよな。
八幡が主人公なら皆が救われるんだって。
キリトも上条も士道も必要ないからね?
あんなん好きな奴等はガイジだからね?
もうさ、他作品をsageするなとかいうガイジの話なんか聞くのも飽々してるんだわ。
あのね、sageしてるんじゃないの。
八幡が最強だから、周りが雑魚に見えてしまうのは仕方ない事なんだよ。
八幡が最強なのが気持ち悪いとか言うけど、実際にその世界に八幡がいれば最強なのは間違いないんだから当たり前だよね。
ゴミみたいな作品なんて八幡に蹂躙されて然るべきなんだよ。それによって俺達の目に触れる機会も増えるんだから感謝しろよ。
以上、クソアンチ共を完全論破。全員、速やかに砕け散れよ。

最近、思うんだけどさ。
HACHIMANとかいうタグ付ける奴うざくね?
八幡tueee!が嫌いとか言ってる奴、多すぎ。
「キリトの活躍奪うんじゃねえ!」
「ハチアスとかやめて!」
「上条さんの役割奪うなよ!」
「デレマスのヒロインNTRさせんな!」
これ、マジでキモいからね。
いやさ、お前らの気持ちも分かるよ?
何でも出来て、最強の八幡に嫉妬してるんだよね。お前らは葉山みたいな性格だもんね。
でも、落ち着いて考えてみろよ。
お前らが何と言おうと八幡が最強なのは誰の眼に見ても明らかんだから仕方ないじゃん。
ヒロインを奪われる~とかさ、クソみたいなキリト、上条辺りに救われるよりも八幡に救われる方が幸せに決まってるよね。
まずは誰よりも八幡が強い事実から目をそらすなよ。それは誰の目にも明らかだろ?
それを劣っている立場の奴等が「俺達の役割を奪うなよ」っていうのは成り立たないでしょ。
いやね、作品を汚すなってのは分かるよ?
例えばキリトが総武高校に転校してきてヒロインNTRしたなら、俺もキレて潰しにかかるわww
でもさ、八幡なんだから仕方ないじゃん。
もうワガママ言うのやめろよな。
八幡が主人公なら皆が救われるんだって。
キリトも上条も士道も必要ないからね?
あんなん好きな奴等はガイジだからね?
もうさ、他作品をsageするなとかいうガイジの話なんか聞くのも飽々してるんだわ。
あのね、sageしてるんじゃないの。
八幡が最強だから、周りが雑魚に見えてしまうのは仕方ない事なんだよ。
八幡が最強なのが気持ち悪いとか言うけど、実際にその世界に八幡がいれば最強なのは間違いないんだから当たり前だよね。
ゴミみたいな作品なんて八幡に蹂躙されて然るべきなんだよ。それによって俺達の目に触れる機会も増えるんだから感謝しろよ。
以上、クソアンチ共を完全論破。全員、速やかに砕け散れよ。

最近、思うんだけどさ。
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八幡tueee!が嫌いとか言ってる奴、多すぎ。
「キリトの活躍奪うんじゃねえ!」
「ハチアスとかやめて!」
「上条さんの役割奪うなよ!」
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これ、マジでキモいからね。
いやさ、お前らの気持ちも分かるよ?
何でも出来て、最強の八幡に嫉妬してるんだよね。お前らは葉山みたいな性格だもんね。
でも、落ち着いて考えてみろよ。
お前らが何と言おうと八幡が最強なのは誰の眼に見ても明らかんだから仕方ないじゃん。
ヒロインを奪われる~とかさ、クソみたいなキリト、上条辺りに救われるよりも八幡に救われる方が幸せに決まってるよね。
まずは誰よりも八幡が強い事実から目をそらすなよ。それは誰の目にも明らかだろ?
それを劣っている立場の奴等が「俺達の役割を奪うなよ」っていうのは成り立たないでしょ。
いやね、作品を汚すなってのは分かるよ?
例えばキリトが総武高校に転校してきてヒロインNTRしたなら、俺もキレて潰しにかかるわww
でもさ、八幡なんだから仕方ないじゃん。
もうワガママ言うのやめろよな。
八幡が主人公なら皆が救われるんだって。
キリトも上条も士道も必要ないからね?
あんなん好きな奴等はガイジだからね?
もうさ、他作品をsageするなとかいうガイジの話なんか聞くのも飽々してるんだわ。
あのね、sageしてるんじゃないの。
八幡が最強だから、周りが雑魚に見えてしまうのは仕方ない事なんだよ。
八幡が最強なのが気持ち悪いとか言うけど、実際にその世界に八幡がいれば最強なのは間違いないんだから当たり前だよね。
ゴミみたいな作品なんて八幡に蹂躙されて然るべきなんだよ。それによって俺達の目に触れる機会も増えるんだから感謝しろよ。
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最近、思うんだけどさ。
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八幡tueee!が嫌いとか言ってる奴、多すぎ。
「キリトの活躍奪うんじゃねえ!」
「ハチアスとかやめて!」
「上条さんの役割奪うなよ!」
「デレマスのヒロインNTRさせんな!」
これ、マジでキモいからね。
いやさ、お前らの気持ちも分かるよ?
何でも出来て、最強の八幡に嫉妬してるんだよね。お前らは葉山みたいな性格だもんね。
でも、落ち着いて考えてみろよ。
お前らが何と言おうと八幡が最強なのは誰の眼に見ても明らかんだから仕方ないじゃん。
ヒロインを奪われる~とかさ、クソみたいなキリト、上条辺りに救われるよりも八幡に救われる方が幸せに決まってるよね。
まずは誰よりも八幡が強い事実から目をそらすなよ。それは誰の目にも明らかだろ?
それを劣っている立場の奴等が「俺達の役割を奪うなよ」っていうのは成り立たないでしょ。
いやね、作品を汚すなってのは分かるよ?
例えばキリトが総武高校に転校してきてヒロインNTRしたなら、俺もキレて潰しにかかるわww
でもさ、八幡なんだから仕方ないじゃん。
もうワガママ言うのやめろよな。
八幡が主人公なら皆が救われるんだって。
キリトも上条も士道も必要ないからね?
あんなん好きな奴等はガイジだからね?
もうさ、他作品をsageするなとかいうガイジの話なんか聞くのも飽々してるんだわ。
あのね、sageしてるんじゃないの。
八幡が最強だから、周りが雑魚に見えてしまうのは仕方ない事なんだよ。
八幡が最強なのが気持ち悪いとか言うけど、実際にその世界に八幡がいれば最強なのは間違いないんだから当たり前だよね。
ゴミみたいな作品なんて八幡に蹂躙されて然るべきなんだよ。それによって俺達の目に触れる機会も増えるんだから感謝しろよ。
以上、クソアンチ共を完全論破。全員、速やかに砕け散れよ。





……………


………





「それでは島村さん。そろそろ始まりますで、準備の方をよろしくお願いします」


「はい、分かりました。こちらこそ、よろしくお願いします」


開始の報告をする為に声を掛けてきたイベントのスタッフさんに、私はそう言ってから頭を下げました。


それを確認すると、スタッフさんは直ぐに私の下から離れていく。


次は凛ちゃんの下に向かうのか、それとも未央ちゃんの下か。


それとも、自分の持ち場に戻ったのでしょうか……いえ、こんな事を考えても何にもなりませんね。


私は自分の……これからの仕事に向けて、集中するだけですから。


今日のお仕事はファンの皆さんの前で歌ったり踊ったりするライブではありません。


私達、ニュージェネレーションのメンバー一人一人と交流を深める握手会。


ファンの人達と間近で直接触れ合える、又と無い機会です。


「はぁ……やっぱり、緊張するなぁ」


少しでも緊張を和らげようと、私は二度、三度と深呼吸をして心を落ち着かせる。


これまでに握手会の経験が無い訳ではありません。


アイドルとしてデビューした直後に、ユニットの宣伝とCDの販促でみんなと初めて参加しました。


それ以外にも何度か……今のライブツアー中にもと、経験はそれなりには積んでます。


だけど、それでも……何度も経験を積んでも、不安からの緊張は絶対に起きます。


「……でも、頑張らなくちゃ。うん」


けど、それだからといって、沸き起こる不安に負ける訳にはいきません。


私達に会う為に……せっかく来てくれているファンの皆さんに、不安な表情なんて見せられない。


そんな表情で出迎えられでもしたら、失礼ですからね。アイドルとして失格です。


それにファンの人達の声を直接聞けるのは、こうしたイベントの時でしか無い。


だからこそ、私は最高の笑顔で皆さんを出迎えたいと思います。


そしてそんな風に思っていると、外からの騒めきが強まった様に感じました。


列が進みだしたのかな……と、そう思うのと同時に、私の前に一人目のファンの方が現れる。


見た所は二十代ぐらいの痩せぎす男性で、Tシャツやらリストバンド等と、随所に私達のグッズを身に着けている人でした。


この人も緊張しているのか、表情は強張っていて引き攣っている様に見えました。


「こんにちは! 島村卯月です!」


けど、私が笑顔でそう言うと、強張っていた表情が緩んで自然体に近づく。


あぁ、良かった。私の笑顔を見て緊張が和らいだのだったら、嬉しい限りです。


「う、卯月ちゃん。い、いつも、応援してるよ」


男性はそう言うと、私に向けて右手を差し出しました。


握手会なのですから、握手を求めてくるのは当然の事です。


「はいっ、ありがとうございます!」


私はそれに応えるべく、両手で男性の手を包み込む様にして、がっちりと手を握って握手を交わす。


これまでの私のアイドル人生、又は十七年の人生の中で何十、何百以上としてきた行動。


何でも無い……そう、何でも無い普通の行動。それなのに、


「……っ!?」


男性の手に触れた瞬間、何故だかまた、ゾクッと背筋に悪寒が走る。


会場に入る前、未央ちゃんのプロデューサーさんに触られた時と同じ症状が、再び起きたのです。


また、何で?


不可解な出来事にまた直面してか、私は思わず笑顔を崩してしまう。


「……? 卯月ちゃん?」


そんな私の様子を不審に思ってか、男性は覗き込む様に私の顔を見てからそう声を掛けてきました。


どうかしたのだろうか……と、怪訝そうに私の顔を見つめる男性。


それを見た時、『しまった』と思った私は直ぐに元の笑顔に戻る、戻そうとして、


「ご、ごめんなさい。何でも、無いんです」


取り繕う様に、弁明を言う様にして私は男性にそう告げた。


「え、えっと、これからも、私達をよろしくお願いしますね」


「あ、あっ、うん。卯月ちゃんも、頑張ってね」


「はいっ、頑張りますっ!」


取り繕う事に成功したのか、はたまた男性が気を遣ってくれたのかは分からない。


けど、これ以上の事を追及する事はしてきませんでした。


「今度のライブ、楽しみにしてるね」と、言って男性は私の下から去っていく。


その後ろ姿を「ありがとうございました」と、言いつつ手を振って、私は見送りました。


男性が離れて、いなくなったタイミングを見計らって、私は目の前で両手を広げてそれをジッと見つめる。


「……何で、だろう」


何でまた、悪寒なんて走ったのか。


その謎を解こうにも、幾ら考えた所で答えは出てこない。


考えれば考える程、袋小路に迷い込む様なものでした。


そうしている内に、次のファンの人が私の目の前にへと現れる。


私は落としていた視線を元に戻し、気を取り直して笑顔でその人を出迎えました。


「やぁ、卯月ちゃん。今日も頑張ってるね」


さっきの人と違って今度はピンク色の法被を羽織って、頭に鉢巻を巻いた男性。


奇抜な恰好をしていますが、以前にも何度か会った事があって、私も見覚えはありました。


ニュージェネレーション……というよりも、私が出るイベントに毎回の様に現れる、常連さんと言ってもいい人です。


「あっ、はい。今回のイベントも来てくれたんですね。いつもありがとうございます!」


「ははっ、卯月ちゃんの現れる所なら、僕はどこにだって駆けつけるさ」


その言葉通り、本当にどこにだって駆けつけてくれているんです。


このライブツアー中にも最前列で応援している姿を見掛けていますし……こういう人を、ファンの鑑と呼ぶのでしょうか。


私を応援する為だけにそこまでしてくれて……アイドルとして、嬉しく思ってしまいます。


そしてこの人もさっきの男性と同じく、握手を求めて自分の手を私に向けて差し出しました。


「今度のライブも期待してるから、頑張ってね、卯月ちゃん」


「はいっ! 島村卯月、頑張りますっ!」


私はそう言うと、数分前と同じ行動をまたしてみせる。


両手を前に差し出して、男性の手を包み込む様にして握手を交わす。


今度こそは、何も起こらないだろう……と、そう思いながら。


だけど……


「……っ!?」


また、だ。またも男性に手が触れた途端、背筋に悪寒が走り、全身が寒さに包まれる。


以前にもこの男性とは握手を交わした経験はあった。そしてその時には何も起きなかった。


なのに、それなのに、不可思議な症状が再発してしまった。一体、どうして……?


訳の分からない出来事に、思考が止まってしまいそうでした。


でも、私は戸惑いながらも心配されない様に、表情を崩してしまわない様にと、笑顔だけは維持し続ける。


その甲斐があって、男性は私の異変に気づかないまま「またライブで」と、言って満足気に去っていきました。


そして手が離れ、男性がいなくなれば寒さは消えてしまう。まるで何事も無かった様にすっきりと。


そのままの状態が続いてくれれば良かった。でも、そうはいかなかった。


「卯月ちゃん」


「ありがとう、卯月ちゃん」


「頑張ってね」


「今日も可愛いよ」


「卯月ちゃんと話せて良かったよ」


何人、何十人と何回も握手を交わす。その度に悪寒が走り、私を蝕んでいった。


しかも、症状はそれだけに止まらなかった。


回数を重ねていく内に、声を聞くだけで頭痛がして、吐き気が込み上げて、症状はますます悪化していく。


正直な所、その場に立っているのもやっとなぐらいでした。できる事なら、一度この場から抜けて休憩を取りたいぐらい。


でも、握手会が始まってからしばらく経ってるし、会場を見渡せばまだまだ大勢のファンの人達が控えている。


それなのに……体調不良なんかで、そんな理由で抜ける事なんてできません。休みたいなんて、我が儘を言っている場合じゃありません。


「今日は、来てくれてありがとうございます」


声が震えそうになるのを何とか抑えて、荒れていく呼吸を必死に落ち着かせて、表情が歪みそうになるのを笑顔の仮面で隠して。


平然であるのを装い、体調が悪い事を悟られない様にと懸命に立ち回りましたが、うまく隠せていたかは分かりません。


自分ではどう見えているかなんて確認しようが無いので当然ですが、それでも何も言われなかったという事は、隠せていたのでしょう。


『私の目にはとてもじゃないけど、卯月が元気そうだなんて見えないよ』


言い表せない辛さが増していく中、イベント前の凛ちゃんが放った言葉を私は思い出す。


気のせいだと、勘違いだろうと言われた時にはそう思った。けど、実際には違った。


今の私の状態から鑑みれば、凛ちゃんの言葉が正しかったのは明らかでした。


だけど、あの時の私の体調は確かに万全の状態だったはず。


今の様に悪寒も、頭痛も、吐き気も無い……


「あっ……」


それを思い返した時、私は『もしかして……』と、ある答えにへと辿り着いた。


何で人の手に触れただけで悪寒が走るのか。


何で声を聞くだけで頭痛や吐き気が起こるのか。


考えてみれば、体調不良が原因でそんな事が起きる訳が無かった。


その原因は……私の心の奥底、もう一人の私にありました。


『何で、こんな事をしないといけないんですか?』


『私が触れたり話したりしたい相手は、あなたなんかじゃないです』


『やだ……』


『嫌です……』


『嫌だ……嫌だっ!』


奥底から響き渡る、恨みや怒りの籠った魂からの慟哭


心の中の私が、プロデューサーさん以外の人に接する事を拒否していた。


それを私に伝える為、訴える為に拒絶の意思が症状となって表れていたのでした。


そもそもこの症状が起こるのも、初めての事ではありませんでした。


仕事帰りに事務所に立ち寄った際、プロデューサーさんと美穂ちゃんが楽しそうに話をしていた時。


プロデューサーさんからツアーに同伴できないと言われた時。


電話中に私以外の話題が出て、それを話す時。


私が寂しく思ったり、不満を感じると必ずといって症状は起きている。


『……あぁ、そういう事なのか』と、私は心の中で人知れず一人で納得した。


あれだけ我慢する、頑張ってみせると何度も吐いていたのに、実際にはちっともできていなかったのでした。


『絶対に、無理だけはしないで』


それだから凛ちゃんに見透かされて、詰問されたという訳ですか。


……はははっ、私の方が凛ちゃんよりも年上なのに……全然駄目ですね。


『ねぇ……何で、我慢なんかするんですか?』


そんな風に思っていると、心の中の声が私にそう語り掛けてきた。


我慢する、理由……?


だって……私の我が儘を通したら、みんなに迷惑が……。


『みんなって……誰の事?』


誰って……それは私に関わってくる人達。特に美穂ちゃんや響子ちゃん、プロデューサーさん。


私が我慢をするだけで……みんな上手くいくのなら、私……、


『でも、相手の我が儘は通して……自分は迷惑しているのに、それでいいんですか?』


……私はプロデューサーさんに頼まれたから、任されたから。


なら、プロデューサーさんの期待に応える為にも、私は頑張らないと……。


『我慢して……頑張って……それで、あなたは楽しい?』


楽、しい……?


『楽しくないですよね? 自分自身が楽しくない……幸せじゃないのに誰かを笑顔にできるだなんて、本気で思ってますか?』


『昔は今よりももっと楽しかったですよね? あの頃はまだプロデューサーさんは私に付きっ切りでしたから』


『いつまでも我慢してないで、そろそろ正直になりませんか?』


…………


『頑張り続けたって、疲れるだけで何にもなりませんよ?』


『私はあなた、あなたは私。どっちも島村卯月なんですよ。私のしたい事は、あなたのしたい事なんです』


私、は……


『だから、さ……いい加減……』









『 私 と 向 き 合 い ま し ょ う 』






吐き気に耐える島村卯月いいよね……

特訓で自分自身と向き合おう!()

未央含めて、伏線で未央Pに邪悪な一面でもあるのかと思ったらそういう…
これまでの話を2文字で表すなら、智絵里の共有に始まりまゆが愛情ありすが理解文香が変化(錯覚)藍子が管理凛が追跡で、今回は独占だろか

むき、あう……そっか、自分と向き合う……。


そういえば……しばらくできてなかったな、そんな事。


自分に嘘ついて……誰かの為だと言い訳して……私という存在を偽り続けてきた。


だけど、もう……もう、いいんだよね?


私の……自分の心に、正直になってもいいんだよね?


『はい、その通りですよ』


私の言葉に、心の中の私が頷いてそう答えました。


実体は無い彼女なのに、何故だか笑っている様に私は感じる。それも、満面の笑みで。


それはきっと……仮面の様に張り付いた笑顔と違い、ごくごく自然な……以前の私が浮かべていた笑顔。


心からの衝動をそのまま表情に浮かべた、私のできる最高の笑み。


……あぁ、それです。今までずっと……ずっと、忘れてました。


笑顔は私の魅力の一つなのに……何で、忘れていたんでしょう。


でも、これからは……


「……卯月?」


不意に私を呼ぶ声が横から聞こえてきて、その方向にへと私は顔を向ける。


顔を向けた先、そこには別の場所にいるはずの凛ちゃんが何故か立っていました。


まだ握手会の最中なのに、こっちにやって来るなんてどうしたのでしょう。


そう思って辺りを見回すと、あれだけいたファンの姿は消えていて、周辺には一人としていません。


残っているのは運営スタッフの皆さんや私達の様な関係者のみ。


私があれこれと考えている中、無意識の内にファンの人達と交流を済ませ、握手会を終わらせていたのでした。


「あっ……っ!?」


その事に気付いた瞬間、脳天を鈍器で殴られた様な痛みと衝撃が私を襲った。


今まで蓄積されていた分が一気にきたせいか、その強さは今までで一番のものでした。


「わ、た……し……」


凛ちゃんに何かを言おうとするけれども、口が上手く動かなくて、言葉にならない。


やがて、私の身体は支えを失った人形の如く、がくりと崩れ落ちていく。


どうにか抗おうとしても、身体も精神もとうに限界を超えていて無理でした。


体勢を立て直せなかった私はどさりと音を立てて、床の上に崩れ落ちてしまった。


「卯月っ!?」


視界が徐々に闇に落ちていく中、凛ちゃんの驚愕の声が耳に響いてきました。


でも、私はどうする事も出来ない。大丈夫だとも、もう言えない。


そして、私の意識は完全に闇の中にへと沈んだのでした。







……………


………





「ん……」


どれだけ眠っていたのでしょうか。重たい瞼をグッと開いて、私は目を覚ましました。


「……いたっ」


意識が覚醒すると同時に、ずきっとした痛みが頭に走る。


意識を失った時に比べれば微弱な痛みですけど、それでも辛いものは辛い。


身体も重たくて、目覚めとしては最悪な部類でした。


「ここ、は……」


私は何とかして上半身を起こすと、ここがどこなのかを確認しようと、周囲を見回す。


寝起きの少しだけ霞がかった世界に映るのは、辺り一面は白色の景色で包まれていて、広々とした室内。


私が寝ているベット以外にはテレビや花の活けられた花瓶、パイプ椅子と置いてある物は少ない。


どう考えても、ここはホテルの一室とは違います。病院の個室でした。


視線を下に向けてみれば、服装も握手会の時のステージ衣装から、私が良く着るパジャマにへと変わっていました。


「私……倒れて、ここに……」


あれから一体、どうなったのでしょうか。


私は意識を失っていたので詳細な事は当然分かりませんが、きっと……大変な騒ぎになったのだと思います。


イベントの主役、アイドルの私が握手会終了直後に倒れたのですから。


唐突にそんな事態が起これば、そうなるのも不思議ではありません。


凛ちゃんや未央ちゃん。二人のプロデューサーさん達。会場のスタッフの皆さん。


両手の指では数えきれないぐらいの、大勢の人達に迷惑を掛けた事でしょう。


そして……ここにはいない、私のプロデューサーさんにも。


「……はっ」


申し訳ないという気持ちは強くありました。


自分を偽って目を背けて、突き進み続けた結果が今回の事態です。


関係者全員に謝った所で、許されるかどうかも分かりません。


だからこそ……今の私の心の中では、その気持ちがかなりの割合を占めていました。


「……ははっ」


だけど……だけど、それなのに……、


「あはっ、あははっ……」


笑いが込み上げてきてしまうのは、何ででしょう。


こういった結果を、心の中の私が望んだからなのか。


……いいえ。多分、違います。この笑いは、そういう気持ちでは無いのです。


謝罪よりも、後悔という自責の念よりも、勝ってしまっているのです。


もう我慢をしなくても良いという、解放感の方が。


「私……もう、駄目ですね……」


そう、もう駄目です。前の私には、二度と戻れません。


「アイドルとして……みんなのアイドルとして、失格です……」


そう、失格。堕ちてしまった以上、当然の事でした。


けど、私は決めたのだから。正直になるって、もう我慢はしないって。


だから、これからは……


「私は私らしく生きて、私の自身の歌を歌っていくんです」


久しぶりの更新ヒャッホーウ

あぁ、そうだ。そうしましょう。


誰かの為に自分を犠牲にするんじゃなくて、自分の好きに、自由に行動する。


もう遠慮をする事もしなくたっていい。人に対する気遣いなんて必要はありません。


「うふふっ、あはははっ! 楽しみだなぁ……そんな生活を送れる事が」


考えただけでも、ワクワクとドキドキが止まらない。


こんな気持ちはしばらく感じた事が無かったです。


最後に感じたのはいつの事だったか……まぁ、そんな些細な事はもうどうでもいいですね。


「あぁ、会いたいなぁ……一刻も早く、あの人に会いたい……」


今のありのままの自分を見せたくて、素直な自分を伝えたいから。


こんな病室なんて抜け出して、直ぐにでも会いに行きたい。


ライブツアーがどうなったのかも分かりませんけど、それすらも投げ出して駆けつけてしまいたい。


そんな風に思いを馳せていると、病室に備え付けられた扉が不意にガラッと音を立てて開きました。


そして空いた隙間から、病室内にへと入り込む影が一つ……何でしょう。一体、誰が来たのでしょう。


医師や看護師といった病院関係者か。もしくはうちの事務所の関係者か。


私が視線を向けて確認すると、当てはまった答えは後者の方。


それも、私にしたら喜ばしいぐらいの人物でした。


「……卯月」


扉を開けながら入り口に佇むのは、先程まで会いたいと願ってやまなかった男性。


今の私が最も必要としている人物、私達の……いえ、私のプロデューサーさんでした。


本当なら今頃は東京で仕事をしているはずなのに……。


まさか、私の為にここまで駆けつけて来てくれたのでしょうか。


だとしたら、私はとっても嬉しく思います。倒れて正解だったかな。


「プロデューサーさん……」


「……卯月。あぁ、良かった。目を覚ましたんだな」


プロデューサーさんはそう言うと、私の傍にへと駆け寄ってきました。


久しぶりに見るプロデューサーさんの表情は安堵の色を浮かべていました。


きっと私が目覚めた事に対して、安心しての事のなのでしょう。


「その……どうして、ここに……? 東京でのお仕事は大丈夫なんですか……?」


「そんなものは全部投げ出してきた。企画作成とか付き添いの仕事よりも、卯月の方が大事だからな」


……あぁ、嬉しい。凄く嬉しいなぁ。


やっぱりプロデューサーさんは、私の為に駆けつけてきてくれたんですね。


うふふ……ごめんね、美穂ちゃんに響子ちゃん。


プロデューサーさんは二人に付き添うよりも、私の方が大事なんだって。


二人と違って、私は仕事以上の存在なんだって言ってくれましたよ。あははっ。


「気分の方はどうだ? 辛い所は無いか?」


「えっと、まだ色々と……頭痛とかも酷くて」


「そうか……倒れてからまだ一日ぐらいだし、無理もないか」


一日……あれからそれだけの時間が経っていたのですか。


その間ずっと眠っていた私からすれば、それ程時間が経ったとは感じませんが。


「まぁ、今は安静にしていてくれ。無理は良くないからな」


「はい、ありがとうございます」


「でも、驚いたよ。卯月が倒れたと聞いた時には本当に肝を冷やした」


「……ごめんなさい」


「卯月は謝らなくていい。悪いのは、俺の方だからな」


謝る私に向けて、プロデューサーさんは「本当にすまなかった」と、言って頭を下げました。


「……医者が言うには、今回の原因は過度なストレスによるものだと聞いた」


「……そう、ですか」


ストレス……まぁ、不満によるものもあるから、あながち間違いではありませんね。


本当の原因はもっと複雑で、怨念めいたものですけど……ここは何も言わないでおきましょう。


「それ以外にも日頃の疲れだとか、ツアーに対するプレッシャーとか……要因になるものは幾らでも考えられる」


「……はい」


「だけど俺が傍にいて、それらに気付けていれば卯月が倒れる事もなかった」


「……」


「思えば俺は……卯月に依存し過ぎていたのかもしれない。頼りになるからと任せっきりで、何とかなると過信して……その結果がこれだ。本当に、ごめんな」


そう言うとプロデューサーさんは再び頭を下げました。


今度は深々と下げたまま頭を上げず、長い長い時間を掛けて謝ったのでした。


……そっか、プロデューサーさんもようやく分かってくれたんですね。


でも、いいんですよ。プロデューサーさんが間違っていた様に、私だって間違っていましたから。


「……プロデューサーさん、頭を上げて下さい」


私がそう言うと、プロデューサーさんは指示に従ってくれて頭を上げてくれました。


「プロデューサーさんも謝らなくていいですよ。悪いのは……私だって同じでしたから」


「卯月……」


「本当は、体調が良くないのは分かってました。それでも見ないふりをして、我慢し続けてきたから……悪化しまって、みんなに迷惑を掛けて……だから、私も同罪なんです」


「同罪だなんて、そんな……悪いのは全部俺の……」


「そうじゃありません。私だって、悪いんですから」


そう言った後、私はプロデューサーさんの手を取り、ギュッと握りました。


私の様に細くは無くて、ゴツゴツとした感じの男の人らしい素敵な手。


いつまでも握って、触れたままでいたいけど、今はそんな場合ではありません。


「だから今回は『どっちも悪かった』という事にしませんか?」


「いや、それだと……」


「その代わり、プロデューサーさん。一つだけ……約束して下さい」


「……約束?」


「はい。今回の様な間違いを二度と起こさない……って、誓ってくれますか? そうすれば私……これからも頑張り続けられます」



いよいよ佳境だな…ワクワクテカテカ

PCSでこれなら美穂、卯月、智絵里のユニットなら死人が出るな
美穂も響子もCuヤンデレ9人衆に入ってたな

今回のような間違い

そう、間違いを間違いにしたままだから、今までの様にどんどんとおかしくなっていく。


間違いを正しいと言い張って、その矛盾に首を絞められて苦しみ、そして私は最終的に壊れてしまった。


そうならない様にする為にも、こういった約束は必要だと思います。


私の事を大事だと思ってくれているのなら、きっと誓ってくれる……そうですよね、プロデューサーさん?


「どう、ですか? こんな私なんかの我が儘……聞いてくれますか?」


「……そう、だな」


「……」


「……分かった。俺は卯月のプロデューサーだからな。その誓い……守ってみせるよ」


……あははっ、良かった。本当に、良かった。


また今度と時間を空けたり、曖昧な言葉ではぐらかしたり、もっと躊躇ったりとか。


そんな風に躱されてもおかしく無かったですけど……まさかほぼ即答で誓ってくれるなんて。


私が言った事なんて、所詮は面倒で身勝手な子供の我が儘ぐらいにしか思われない言葉。


普通の人なら、どうでもいいとばかりに受け流されてしまうかもしれない。


けど、そんな事を目の前で誓ってくれるプロデューサーさんは、期待以上の素敵な人です。


「本当? 本当ですかっ!?」


「どこまで卯月の希望通りに添えるかは分からないが……とにかく、頑張ってみせるさ」


「えへへっ♪ ありがとうございます、プロデューサーさん」


私が喜びのあまりに笑顔を浮かべると、目の前のプロデューサーさんも表情を綻ばせました。


……あぁ、これです。久しぶりに見る、この人の笑顔。


最近は難しい表情ばかりしていたから見れてなかったけど、私はこれが見たかったんです。


「でも、もしも約束を破ったら……その時はまた倒れるかもしれませんから、気を付けて下さいね」


「おいおい……それは勘弁してくれ」


「じゃあ、ほら、プロデューサーさん。約束の印に……」


私はそう言った後、右手を少しだけ上げて握りこぶしを作る。


それから小指だけを立て、それをプロデューサーさんにへと向けて……
 

「指切りしましょう。指切り♪」


求める様に小指を動かしながらそう言いました。


「指切り……って、いや、もう俺はそんな歳じゃ……」


「……駄目、ですか?」



「うっ……あぁ、分かったよ。ほら、やればいいんだろ」


哀願する様に私が言うと、仕方ないなとばかりにプロデューサーさんも小指を差し出しました。


あまり乗り気で無いのに受けてくれるのは、さっきの約束を誓った手前、断り難いからでしょう。


でも、それでいいんです。そうでなくては困ります。


さっきのだけで終わってしまうと、それではただの口約束程度にしかならない。


証拠も無く、後で何とでも訂正できる様な中身の無い取り決め。


それじゃあ駄目です。そんな軽々しい絆なんて、私は望んでなんかいない。


私が求めるのはもっと強固な……どんな障害があろうとも断ち切れない様な、強靭な繋がり。


だからこそ、これは第一段階。


プロデューサーさんを私の傍に縫い止める為の楔となるのです。


そして私は差し出されたプロデューサーさんの小指に自分の小指を絡めていく。


その後はギュッと力を入れ、解けてしまわない様に結びつきました。


「それじゃあ、プロデューサーさん。いきますよ?」


「あ、あぁ」


「「ゆーびきりげーんまん、うそついたらはーりせんぼんのーます」」


「「『ゆーびきったっ!』」」


その掛け声と共に、繋がっていた小指同士を私は離しました。


この時を以てして、誓いはしっかりと結ばれたのです。


プロデューサーさんは私に対して、二度と間違いを犯さないという誓いが。


そして……私とプロデューサーさんとの、新たな歩みの一歩目でもありました。


「えへへっ♪ ねぇ、プロデューサーさん?」


「ん? どうした?」


「約束したからには、私をもっと素敵なアイドルにして下さいね」


「……あぁ、分かった」


『……あと、それから……』








『もっと私を幸せに……笑顔にさせて下さいね、プロデューサーさん♪』






どうも、お久しぶりです

最近仕事が11連勤だったり、ウィルスに掛かって寝込んだりとほぼ死んでました

あともう少しで終わりが見えてきたので、今月こそ、今月のうちに何とか終わらせられる様に頑張ろうと思います

それではまた、書き溜めたら投下していきます

11連勤とは一体ウゴゴ...
乙です、ゆっくり書いてください...

11連勤って死にそう…
PCS不仲説思い出した…響子でなく智絵里を入れたピンキーキュートもあったな

藍子や文香のCuバージョンな行動してるな卯月

今月過ぎたけど終わらせるどころか更新なかっただと…(絶望

ね、年内には…

……………


………





「お疲れ様でしたっ!」


撮影のお仕事終了後。私は現場にいるスタッフさん達に向けて元気良くそう声を掛けました。


その声に反応してか「お疲れ様です」と、みなさんから返事が返ってくる。


それを聞き終えると、帰ろうとして外に出ようとしましたが、こっちに向かって近づいてくる人影に気づき、私は足を止める。


近づいてきた人物は恰幅が良く、頭に帽子を被ったここの撮影所の監督さん。


さっきまで私に向けてあれこれと指示を飛ばしていた人でした。


「お疲れ様、卯月ちゃん。今日も輝いていて、凄く良かったよ」


「あっ、はい。ありがとうございます」


ニコニコと機嫌の良さそうな笑みを浮かべている監督さんに向けて、私はぺこりと会釈をしつつそう言いました。


「それにしても……最近の卯月ちゃんは凄いね。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いって感じじゃないかな」


「そ、そんな……私なんてまだまだ……」


「いやいや、謙遜する事は無いよ。それぐらい今の卯月ちゃんは凄いんだって」


まるで私の事を理解しているかの如くの発言。


歯の浮く様な言葉に不快感が露わになってしまいそうでしたが、心の内に抑えて表には出さない。


何を知った上でそんな事を言ってるのか分かりませんが……とりあえず、何も言わないで話を聞いておく事にしました。


「あのライブの後から人気爆上げだし、このままいけばトップアイドルも夢じゃないと思うんだ」


トップアイドル。私の憧れだった称号。少し前までは、届くかどうか分からなかった高みの位置。


それが今、私の手の届きそうな距離にまで近づいている。


中間辺りの位置でフラフラとしていた私なんかの手に。


現状での私の人気を考えると、あともう少し頑張れば辿り着けそうにも思えました。


けど、今の私にとって……トップアイドルなんてものはどうでも良かった。


言ってしまえば、勝手に付いてくるおまけみたいなもの。


そんな称号を手にした所で、何の価値があるというのでしょうか。


それよりももっと……もっと大切で大事なものがあるというのに。


「僕も応援してるから、頑張ってね、卯月ちゃん」


「はいっ! 島村卯月頑張りますっ!」


私はそう言った後「次の仕事があるので……」と、監督さんに告げて撮影所から早々に出ていきました。


次の仕事があるのは事実ですが、ここにあまり長居した所で時間の無駄にしかなりませんからね。


撮影所のあるビルの階段を一気に駆け下り、外に出る為の大きな玄関口を通り抜ける。


そして外に出た私を待ち受けていたは、黒塗りの一台の車。


良く見慣れたデザインのその車は、私達の事務所が所有する商業車の内の一つ。


私は特に躊躇いもせずに助手席側の扉を開けて、その車にへと乗り込んでいきました。


「お迎え、ありがとうございます」


乗り込んでから間髪入れず、私は運転席に座る相手に向けて労いの言葉を掛ける。


もちろん、その相手とは私のプロデューサーさん。


彼は優しく微笑むと「お帰り、卯月」と、言って私を出迎えてくれました。


この笑顔を見てるだけで、撮影での疲れが吹き飛んでしまいそうでした。


「仕事の方はどうだった? しっかりとできたか?」


「ばっちりです。監督さんも『凄く良かった』って、褒めてくれました」


「凄く良かった、か。流石は卯月だな」


「そ、そんな……えへへ」


流石と褒められて、自然と頬が緩んでにやけてしまう。


そんな言葉を掛けられてしまえば、嬉しくなってしまうのは当然の事でした。


だって、先程の監督さんの言葉と比べ、何万倍もの価値のある言葉なんですから。


それから私がシートベルトを締め、移動の準備が整うと、私達を乗せた車は次の現場を目指して進み始める。


ここからそこまでの距離はそこそこ遠く、時間にも余裕があったので、プロデューサーさんはゆったりとしたドライブ気分で車を走らせていきました。


その道中、プロデューサーさんは運転しながら私にへと声を掛けてきました。


「そういえば……最近は体調の方は問題無いか?」


「あっ、はい。問題はありません。寧ろ、元気一杯です」


「……そうか。なら、安心したよ」


私の受け答えに安堵してか、彼は前を向きつつホッと息を吐く。


「正直言うと、まだ不安でな。また卯月が倒れてしまうかもしれない……なんて思ってしまってな」


プロデューサーさんの脳裏には、きっとあの時の私の姿が映っているのでしょう。


ストレスや不安を抱え込み、挙句に倒れてしまって弱った私の姿が。


けど、今の私には無縁のもの。あの頃の弱い自分は、もういません。


「大丈夫ですよ。今は体調管理もしっかりとできてるので、倒れるなんて事はもうありません」


そう、私にはプロデューサーさんがいてくれるから。


私の隣に必ずいてくれて、常に支えてくれるから、問題が無い。


彼がいる限り、私の体調は常に万全の状態。だからこそ、倒れる心配はいらないのです。


「だから、プロデューサーさんも安心して仕事に取り組んでください」


「……そうだな。ありがとう、卯月。本当はこっちが励ます側なのに……」


「気にしなくていいですよ。これからも二人で頑張っていきましょう」


そう、二人で頑張っていくのだ。私と彼の二人で。二人だけで。


それ以外にはもう必要は無い。いや、もういないと言うべきでしょうか。


だって……プロデューサーさんが直接担当するのは、私だけになったのですから。


プロデューサーさんがあの二人……美穂ちゃんと響子ちゃんを担当するのは、今も変わってはいない。


けど、彼女達にはそれぞれ専属のマネージャーが付く事になったのです。


プロデューサーさんの負担が少なくなる様に、私だけを専任できる様にと。


事務所側からそういった指示が出て、今の体制にへとなっているのでした。


……まぁ、こうなったのも私が事務所を脅……お願いしたからなんですが、プロデューサーさんには内緒にしているので、彼がそれを知る事は無いでしょう。


そういった経緯もあって、今は彼を独占する事ができている。頑張った甲斐があったというものですね。


でも、本当は担当からも外してしまいたかったですけど、そればかりは叶いませんでした。


あまり高望みが過ぎると、手に入れたものを手放しかねないので、関わる機会が減っただけでも良しとしましょう。


うふふっ、本当にごめんね二人共。二人からプロデューサーさんを奪ってしまって。


こうなった理由を知る事も無く、新しく付いた人達とせいぜい仲良く頑張ってね、あははっ。


「私……信じてますからね、プロデューサーさん。約束をしっかりと守ってくれる事を」


「あぁ、分かってる。指切りまでしたんだから、破ったりはしないさ」


「えへへ、ありがとうございます」


……あぁ、でも。まだちょっと足りません。


やっぱり今の状態は、独占したと言うにはまだ遠すぎます。何かまた……別の手段を考えておかないと。


もっとプロデューサーさんに私だけを見て、私だけの言葉を聞いて貰いたいから。


その為にも……島村卯月、全力で頑張ってみせます。


だから……その日が来るまで、待ってて下さいね、プロデューサーさん♪ うふふっ♪






終わり


お久しぶりです

大分期間が空いてしまいましたが、何とか卯月編は終わりにへと辿り着くことができました

本当に亀更新で申し訳ありません

書き始めが4月だったのに、終わりが10月とか……

たった5万字未満の内容に半年もかけるとか、遅筆ってレベルじゃない

一応、卯月編は終わりましたが、全体的な話の流れで言うとまだ終わりじゃありません

元々は全部で4部構成で考えてたのですが、執筆が遅すぎてそこまで辿り着けるか分からなくなってきている現状

やる気と執筆できる暇ができれば今後、続卯月編、美穂編、響子編と投稿していけれたらなぁ……なんて思ってます

まぁ、次回は別のアイドルで考えているんですがね

プロットばかりはできるのに、肝心の内容が書けないのは問題だと思う

今回のシナリオを書いてて思ったのが、自分は一人称で書くのがとにかく駄目だという事が分かりました

何度もそれで躓く事もあったので、次回以降からは三人称で書いていこうと考えてます

凛編、卯月編と一人称で書いてた話はどちらも終わりまでに長くなってるので、苦手だというのは確定的に明らかですし

また次回の話も終わりまでに長くなりそうですが、何とか頑張りたいと思います

それでは依頼を出してきます

ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました

お疲れ様です!
4月から書いてたんですっけ....、続編待ってます


卯月愛が重いな、まゆ、智絵里以上に黒い策略考えやがる
ドロドロPCS良いな、Cuヤンデレ6人衆で未登場なの幸子と志希だけか

美穂は元からヤバイのとあの2人との出会いで策に気づいて楽しいことになるんだろうな
闇堕ち卯月ってこんなにも魅力的なのか


締め方にこれで終わり…?って文香編以上に肩透かし感あったから続編の予定聞けただけでもうれしい
美穂響子の依存の対象はマネージャーかプロデューサーか果たして…

美穂はPから引き離されて禁断症状が出てそう、クマのぬいぐるみPの名前付けるし程だし
同郷の蘭子のマーキングは難易度高いだろうな

CuPは複数のアイドルを担当するハメになるのか
ちひろが不遇に思える、鬼悪魔ちひろなのに

アイドルだけがマーキングするとは限らない


次作も楽しみ

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