【ミリマス】「至高のサンドイッチを作るんだ!」 (40)

===1.

「至高のサンドイッチを作るんだ!」

 ハッキリくっきりしっかりと、男の力強い発言に、
 その場の全員が「マジやべぇ」と真顔になって息を飲む。

 場所は765劇場会議室。関係者以外は絶対立ち入り厳禁の、超々超々秘密会議。

「はいはいはいはい、プロデューサーさん!」

「ハイは一回……なんだ未来」

「あのぉ~、しこうって一体なんですか?」

 いの一番に手を上げた、春日未来の質問を男は鼻で笑い飛ばすと。

「瑞希、説明してやってくれ」

 自分の隣でノートにペンを走らせる、書記係の真壁瑞希へと話を振る。

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「歯垢、それは虫歯の原因となる物です」

「虫歯になるサンドイッチを作るんですか!?」

「そうとも! 最終的に食べた者が、歯医者さんで泣く羽目になるサンドイッチ――違ぁーうっ!」

 まるでお手本のようなノリツッコミ。
 男の抗議の視線を受けて、瑞希はふいっと目を逸らした。

 ……とはいえ、場を和まそうとした彼女を責めるのも酷な話。

 その証拠に瑞希の隣、未来の向かいに座っていた徳川まつりが可笑しそうに笑いながら
「未来ちゃん。至高というのは、極上や最高といった意味の言葉なのです」とフォローを入れる。


「ごくじょうに……さいこう?」

 すると未来と男に挟まれる形で座っていた、大神環が首を傾げながら聞き返し。

「それって、最強のサンドイッチを作るってこと? たまき、なんだかワクワクしてきたぞ!」

 ああ、無垢なる子供は愛しきかな。
 環に同意するように、未来もうんうんと頷いて。

「最強のサンドイッチ……中身が硬くて食べられないのかなぁ~」

 ぽわんぽわんなんて擬音が聞こえてきそうな面持ちで、彼女は空想を広げていく。

 食べようとした者の歯をことごとくへし折り、
 最終的には差し歯にせざるを得なくなる極悪非道のサンドイッチ……。


「やっぱり歯医者さんで泣く羽目に!?」

「お前は何を言っとるんだ?」

 なんて恐ろしい食べ物だと、青ざめて悲鳴を上げる未来に男が突っ込む。

 そうして彼は疲れた様子で頭を振ると
「とにかくだ――」胸の前でグッと拳を握りしめ。

「各々が用意するプレゼントとは別に、飛び切り美味いサンドイッチで彼女をもてなすこの計画。
 万に一つの失敗だって許されない、スペシャルなミッションだってことを肝に銘じておいてくれ!」

 大見得を切って無理くりに、議題を締めくくったのである。

===

 そして、翌日の劇場調理室。

「それじゃあ、材料の方は私が揃えてあげたけど……」

 水瀬伊織がこの日の為に集まった、エプロン姿の面々を見回し
 ――まつり、未来、環に瑞希。要は会議室に集まっていた四人である――心配そうに言葉を続ける。

「ほんっ……とーにアンタたちに任せて大丈夫? 何だか不安しか感じないわ」

 それは至極真っ当な感想だった。

 恐らく誰がどう見ても、彼女たちがもたらすのは
 不幸か破滅のどちらかだと想像したことだろう。

 まつりは基本人任せキャラ、瑞希は真面目だがどこか抜けている、
 環は四人の中で一番幼く手がかかり、未来は何といっても未来なのだ。


 伊織の感じる不安をよそに、
 まつりが「大丈夫、心配なんてないのです!」と胸を張る。

 その自信の根拠は何処にあるのか? 

 それは恐らく彼女にしか分からないが……まぁ、一応彼女は最年長。
 いくらなんでも人並みに仕切ってはくれるハズだろう。

 伊織はそう自分で自分を納得させ「まぁいいわ」と軽く手を振った。

「とにかくあのバカ助の注文通り、一通りの食材は用意しておいてあげたから。
 せいぜい美味しいサンドウィッチで彼女を喜ばせてあげることね」


 そう言って今回のミッションにおけるスポンサー。

 伊織が調理室を後にすると、
 まつりたち実行部隊は早速料理に取り掛かった。

「それにしても……水瀬さんは凄いですね」

「お料理番組が作れるぐらい、沢山の食材があるのです」

 瑞希とまつりが言う通り、調理台の上にはこぼれんばかりの食べ物の山。

 パンにレタスにハム卵、それからカツ用の肉といった
 サンドイッチ作りには欠かせないオーソドックスな食品を始め、

 新鮮だということだけは分かる色とりどりの野菜や果物にチーズや魚、
 エビやカニといった海鮮類の姿も見える。

 他にも小瓶に入った調味料だとか、謎の瓶詰め製品だとか、
 とにかくありとあらゆる材料が、所狭しと並べられていたのだった。


 おまけに本格的なパン切り用の包丁や、およそ素人の手には余るであろう専門的な調理器具も
 セットで準備されている至れり尽くせりっぷりに、瑞希はしたり顔で軽く頷くと。

「これだけの道具があるならば、中々に凝った物が作れるな」

「ほ? 瑞希ちゃんはここにある調理器具、どれも使い方が分かるのです?」

 まつりでなくとも当然浮かぶ質問に、瑞希が小さく肩をすくめる。
 それはまさに自信満々、期待に応えるだけの実力を秘めた者の所作。

 早速彼女は手元にあった金属製のバットを手に取って。


「例えばこれは、噂に聞こえし光画部の――」

「ストップ」

 瑞希からバットをひったくり、まつりがにこやかな笑顔で注意する。

「瑞希ちゃん。危ないネタは止めるのです」

「粉砕するのに便利なのに」

 不満そうな瑞希の手が届かない場所にバットをしまい、まつりは改めて食材を眺めると。

「とはいえこれだけ物が多いと何から手をつければいいか、まつりも迷ってしまうのです」

 彼女は人差し指を頬に添えて、おねだりするようにこう言った。


「だからまつりにコッソリと、作り方を教えて欲しいのです! ね?」

===2.

 と、言うわけで。
 ここからは基本的なサンドイッチの作り方について説明していくことにしよう。

 まず何は無くとも用意するべきは食パンだ。

 予め切り分けられた物を準備しても構わないが、
 出来れば一斤丸々切られてない物の方が良い。

 その理由については……先生、お願い致します。

「はい~、先生役の宮尾美也です~」

 エプロン姿、可愛いですね。

「そうですか? ありがとうございます~」

 いえいえ、そんな。お礼を言われるほどのことなんて……。

「ちょっと、語り手さん!」

 あ、はい。

「デレデレ鼻の下伸ばしてないで、キチンとカメラ支えててよ」

 ……あっ、こちらは助手役の周防桃子ちゃん。

「全く、予算も少ない上にこんな展開。ハッキリ言って邪道だよ?」

 か、返す言葉もございません。全てはこちらの責任で――っと、
 それはひとまず置いておき、美也先生! サンドイッチの作り方を……。


「えぇっと、どこまでお話しを~? オープンサンドとの確執の歴史……だったでしょうか?」

「……そんな話はしてないよ。パンはどうして一斤の方が良いかだよね」

「おお! 流石は桃子ちゃんですね~。何とも頼れる生徒さんで助かります~」

「い、いいから早く進めようよ。……それで、どうしてこっちの方を用意するの?」

 ゴホン! ――桃子が調理台の上にデンと置かれた、存在感溢れるパンに視線をやる。

 しかも話題にあがった一斤だけじゃない、その三倍近い長さの物も一緒になって並んでおり、
 おまけに何やら高級そうなシールが貼られた箱入りだ。


「理由はごく単純に、好みの厚みに切れるからですね~」

「えっ、そんな簡単な理由なの?」

「昔から言うじゃないですか~……えぇっと、帯に短しタスキに長し?」

「……多分それ、間違ってると桃子思うな」

「むむむ……!」

 とはいえ桃子の指摘を受け流し、美也が新たに調理台の影から
 スライスされたサンドイッチ用のパンを取り出した。

 こちらは一枚の厚みは約十ミリ、
 既に耳も取り除かれてパッケージングもされた代物だ。

「ねぇ美也さん。これって普通にスーパーで売ってるやつだよね?」

「時間が無い時には手間いらずで、とっても便利なんですよ~。私も、何度助けられたことか~」

「でも、さっきは一斤丸々用意するべきだって」


 桃子がその薄い食パンを指で摘まみ、まじまじと眺めながら言った。

 すると美也も同じように一枚手に取って、
 しかし何やら含みのある笑顔を浮かべると。

「ではでは、これより定番中の大定番。BLTサンドイッチを作りましょ~」

「え、えぇ? 説明は無し?」

「ほらほら、桃子ちゃんも一緒に……おー!」

「お、おー?」

 カメラに向かって拳を出した美也に釣られ、
 桃子も釈然としないまま調理を開始するのだった。

===

 BLTサンドイッチ。

 聞き慣れない方もいらっしゃるかもしれないが、
 要はベーコン・レタス・トマトを挟んだサンドイッチのことである。

 それぞれの材料の頭文字を取ってB・L・T……何とも単純な話であるがその味わい方は奥深く、
 どのような食べ方、調理法が最もベストなものなのか? 

 侃々諤々、サンドイッチ愛好家の中では日々論争が繰り広げられているとかいないとか。


「でも、結局はただのサンドイッチでしょ?」

 美也から一通りの説明を受け、桃子が腕組みしながら聞き返す。


「食べ方とか、作り方とか……皆こだわり過ぎててバカみたい。ただパンに挟むだけなのに」

「ふっふっふっ……それこそがサンドイッチ道。その奥深さと厳しさなのですぞ~」

 わざとらしく笑いながら、
 美也が材料となる食材を台の上に並べて桃子に問う。

「ここに、レタスとベーコン、それからトマトがありますが――」

「どれも二つずつあるね。えっと……片方は品質が良いやつで、もう片方は悪いやつかな」

「なんと~! 説明する前に当てられてしまうとは、流石は桃子ちゃん、やりますな~」

「そりゃ、こんなしわしわなレタスが置いてあれば誰だってそう思うよ」

 そう言って桃子が、みずみずしく新鮮なレタスと並べて置かれたしわくちゃレタスに指をさす。


「もちろん、材料は新鮮な方が良いワケでしょ?」

「そうですね~、どんな料理でも基本です~」

「だったら、このトマトとレタスと……それからベーコンも高そうな方で作れば良いんだ」

 自身で目利きした材料を選び、桃子が自信満々にニヤリと笑う。

「さっきも美也さんに言ったけど、要は良い食材を使ったら、美味しいサンドイッチができるよね」

 そうして今度は例のパン――あの安物のスライスされた食パンだ――が台の上に並べられると。

「パンはこれを使うんだ」

「一応、こちらに先ほどの一斤パンを切った物も、ちゃんと用意してありますよ~」

「だったら桃子はそっちがいいな。具材だけじゃなくてパンにもこだわった方が、絶対良いに決まってるもん」

 切り分けられたパンのお皿を受け取って、桃子が大胆不敵に胸を張る。


「それじゃあ美也さん。早速作ろ!」

「でしたら、まずはパンの準備から」

 美也が手に取った食パンを、スタジオに用意されたトースターの中へ入れスイッチを押す。

「えっと、パンは基本的に焼いちゃうの?」

「好みの問題なんですが、軽く焦げ目をつけてあげると、風味がグッと増すんです~」

「へぇ、そうなんだ」

 そうして軽く焼き上げられたパンを取り出すと、
 今度は常温に戻しておいたバターをナイフですくい。

「それから、パンの片面にはバターを塗って」

「これも理由がちゃんとあるんだよね? 味付け?」

 バターをパンに塗りながら、桃子が不思議そうに美也に尋ねる。


「これは~、パンに具材の水分を吸わせないためですね~」

「水分を?」

「バターの油が、水を弾くんです~。ちなみにバターにはマヨネーズも混ぜておいて……」

「あっ、さっきやってたやつのことだね。確か、分量は1:1!」

 桃子の模範的な生徒役に、美也も満足そうに頷いて。

「他に辛子を加えても良いですし、この辺りは特に好みで左右される部分だと言えますよ~」

「それを塗り残しが無いように、ベタベタ均一に塗っていけばいいんだね」

 つまりはバターを塗るのはベターだと!

「うるさい。こっちは真剣なんだから、急に話しかけて来ないでよ」

 ……すみません。


「それから、挟む具材もちゃんと注意してくださいね~」

「具材にも?」

「いくらバターを塗っておいても、挟んだ具がびしょびしょでは――」

「そっか。結局パンがふやけちゃうんだ」

 こうして準備が整ったパンをお皿に置くと、今度はレタスとトマトに手をつける。

「ついさっき説明した通り、水分はサンドイッチの天敵。ですが、しなしなの野菜は……桃子ちゃん?」

「分かってる。美味しく無くなっちゃうんだよね」

「はい、その通り。野菜には軽く塩を振り、それからキッチンペーパーを当てがいましょ~」

「余分な水分だけ取る感じかな……桃子、やってみる」

 それから作業をすること数分、調理台の上にはペーパーで包まれたトマトとレタスが仲良く並び、
 桃子たちは最後の食材であるベーコンの調理に取り掛かる。


 フライパンに横たえられた肉がジュウジュウと油を出しながら焼けていく。

 その匂いは何とも食欲をそそり、
 思わず桃子も喉を鳴らしてしまうほど。

「ベーコンは、とにかくカリカリに」

「こ、焦がしちゃったりしないかな?」

「いえいえ、焦げつきそうなぐらいに炒めた方が、後から効いてきますから~」

 一体何が効いて来るのか? 

 桃子にはサッパリ分からなかったが、とにかくここは美也の言う通り、
 焼き過ぎるほどに焼いた方が良いらしい。

「はい。火加減はこのぐらいで……上出来です~」

 そうして焼きあがったベーコンの余分な脂も切ったところで、
 いよいよサンドイッチ作りの難所、具材サンドの瞬間がやって来た。


 調理台に並んだ食材を一睨み、桃子が真剣な顔で美也に訊く。

「それじゃ、パンに具を挟んで行くんだね」

「でも、気をつけてくださいね桃子ちゃん。サンドイッチの具材には、挟む順番があるんですよ~」

「挟む順番……」

 土台となるパンを皿に置き、美也はまず、折り畳んだレタスを手に取った。


「基本的なルールはこうです。汁気がある物は真ん中に」

「今回だと……トマトがそうだね」

「まずはお布団を敷くようにレタスを乗せて、それからトマト」

「ベーコンじゃないの?」

「これはトマトの方が重たいので、食べる時に落っことしてしまわないようにする工夫ですね~」

 だが、それでも美也は「あくまでも、個人の意見ですが~」と一言付け加えることを忘れない。

 何故なら先に説明した通り、サンドイッチのサンドルールは多種多様……
 余計な論争は避けるものであり、個人の主張は尊重されて然るべきだ。

 共通するのはサンドイッチに対する情熱! 今は、それでいいじゃないか。


「トマトの上にベーコンを並べ、もう一度レタスで挟んでパンを乗せれば――」

「できた! BLTサンドの完成だね!」

 喜びはしゃぐ桃子には悪いが、実際にはこの後で食べやすいサイズに切る作業も残っている。

 しかし、こちらもまた果てない論争の種なのだ。

 正方形だの長方形だの、はたまた三角形がベストだの
 耳は残すか切り落とすか……語り始めればキリが無い!


「基本的な作り方のお話は、これでみぃんなおしまいですよ~」

 カメラに向かって美也先生が、にっこり笑顔で微笑みかける。
 すると桃子もすましたように姿勢を正し。

「皆さんも是非ぜひサンドイッチ、作ってみて下さいね! ……それじゃあ現場にお返ししまーす!」

===3.

 まるで長い夢を見ていたようだった。

 まつりが「はいほー! 分かったのです!」と突然声を上げ、
 驚いた瑞希が体をビクリと震わせる。

「安心してください瑞希ちゃん。全ての謎は解けたのです!」

「な、謎とは一体……」

「ズバリ、サンドイッチの作り方……これからまつりがわんだほー! 
 で、びゅーりほー! なキラキラサンドイッチの作り方を――」

 しかし、テンションを上げるまつりとは裏腹に、
 瑞希が冷静、かつ冷淡な口調で彼女の言葉を遮った。


「あの、徳川さん?」

「ほ? 一体どうしたと言うのです? 姫の台詞を遮って」

「真に申し上げにくいのですが……時、既に遅すぎるぞ」


 そして……瑞希が指し示した光景に、まつりは言葉を失った。


「できた! お肉山盛り、たまきのスペシャルサンド!」

「私も私も! 今度のも凄いよ? チーズにカニにウィンナー、それからマグロも挟んだ欲張りサンド!」

「おぉー! やるなみらい! でもでもたまき、負っけないぞー!」

「なんの、私だって負けてられないもんね!」

「最強のサンドイッチを作るのは――」

「最高のサンドイッチを作るのは――」

「二人とも、一体何をしてるのですうぅぅぅっ!!?」


 今や調理台の上は大惨事。

 あれだけあった山盛りの食材は見る影もなく、
 ぐちゃぐちゃに散らかったそれは残飯なのかゴミなのか、本気で判別するのも難しく。


「一体、何が、あったのです!? 一体、何を、したのですっ!?」

「あっ、まつりちゃんだ」

「まつり、やっと起きたのか?」

「姫は寝てなんていないのです! ただ、サンドイッチの作り方を改めて――」

「だって、声をかけても何にも反応しないから」

「たまきたち、自分たちだけでサンドイッチを作ったんだ!」

 すると瑞希も他の調理台に避難させていた、
 まるでピサの斜塔のようなサンドイッチタワーを指さして。

「ちなみに、これは私の自信作……褒めて」

「どさくさに紛れて瑞希ちゃんも! 最後の良心だったのに……」


 まさかまさかの現実に、無残にも打ちのめされたまつりの姿は忍びない。

 我々もかける言葉が見つからないが、
 そんな彼女の傍に未来がスッと歩み寄り。

「まつりちゃん」

「……未来ちゃん」

「えーっとね? 材料無くなっちゃったんだけど。どーしたらいいかなーって」

「そんなの、見れば、分かるのですうぅ……っ!!」

 瀕死の重傷を負ったまつり姫に、飛び切りでんじゃー! な止めを刺したのだった。

===

 結局――まつりが確認したところ、
 まともに食べられるサンドイッチは一つもなく

(瑞希の斜塔は見た目こそ素晴らしい出来ではあったものの、食感はまるでコールタールのようだった)

 それどころか未来の申告した通り、
 用意されていた材料の殆どは廃棄物と化していた始末。

「買い出し班、集合」

「はい!」

「はーい!」

 まつりは目の前で「いい子ちゃんのお返事」をする問題児二人をジトッと見つめ、
 自分の財布から五千円札を取り出すと。

「これで至急、サンドイッチ用のパンとベーコンを買ってくるのです」

「パンとベーコン?」

「まつりー、それだけでいいの?」

「それだけでいいのです。余計なことは何もしない、あんだすたん?」

「あんだすたん?」

「あんだすたん!」

「とにかく時間がないのです! 早くしないと、ライブが終わってしまうのですよ!」


 追い立てられるように調理室を出て行った、未来と環を見送って……
 彼女は傍らで野菜の選別を行う瑞希の方に向き直る。

「任せてください。みずみずしいトマトの見分け方には自信があります」

「……なら、まつりは後片付けに取り掛かるのです。……はぁ」

 全くこんなことをするための姫では無いのだと、心の中で文句を言いながら……
 それでも伊織に大見得を切ってしまった手前、責任を取る必要があるとまつりはちゃんと分かっていた。

 だから彼女はせっせと掃除するのである。

 今頃は美也がバースデーライブの真っ最中、このサプライズミッションを成功させる為には、
 ライブが終わるまでにサンドイッチを完成させなくては……!


「それにしても、不思議ですね」

 ポツリ。トマトを計りに乗せていた瑞希が、素朴な疑問を口にした。

「肉や魚は全滅なのに、どうして野菜は無事だったのか?」

「そんなの、あの子たちが野菜嫌いだから! ……なのです!」


 さて、それから僅かに三十分後。
 まつりは再び絶叫することになる。

「どーしてお菓子やジュースを買って来るのです!? しかもこんなに大量に、沢山! 沢山なのです!」

「だって、お金が余ったから。きっとこのためのやつだねーって」

「パーティーにはつきものでしょ? まつり、いつも言ってるぞ」

 そうして未来たちはお互いに顔を見合わせて。

「わんだほーで」

「びゅーりほー!」

「あれは高級食パンと、ベーコン用の代金なのです!」

 まつりの悲痛な訴えに、未来がフンスと鼻を鳴らして答える。


「心配しなくても大丈夫だよ。ちゃんとパンは買ってあるから」

 だがしかし、誰がその発言を素直に受け取れよう? 
 案の定、彼女がドヤ顔でまつりの前に差し出したのは――。

「はいこれ、サンドイッチ用のパン」

「凄いんだよ、最初から切れてるんだ!」

「後、ベーコンが意外に高い! 予算内で収めるの、結構大変だったよ~」

 この瞬間、まつりは怒ることすら放棄した。

 只々純粋無垢な二人の笑顔に「そう……頑張ったね」と優しく頷き微笑んで……
 そんな彼女の後ろでは、心中察する瑞希が一人、静かに目頭を押さえるのだった。

ロブスターの魂…

===4.

 そして――とうとうその時はやって来た。

 バースデーライブが無事終わり、美也のもとへ劇場のメンバーが駆けつける。

 心のこもった祝福と、想いを込めたプレゼント。
 そんな仲間たちの輪の中に、戦い終えたまつり姫の姿も確かにあった。

「これ、まつりたちで作ったサンドイッチ。……食べてみて欲しいのです」

 それは決して高級でも、高価でも、それに見栄えもそれ程良くは無かったが……
 受け取った美也はとても嬉しそうに喜んで、まつりたちに感謝の言葉を伝えて口に運ぶと。


「……とっても、優しい味がする。極上のサンドイッチですね~」


 この一言が、ああ、まつりをどれだけ救ったか! 

 とにもかくにも当初の予定、至高のサンドイッチはこうして完成したのである。
 その後は皆でパーティーを、夜がふけるまで楽しんだという。

 何はともあれ丸く収まり、物語はこれで幕引きだ。
 最後はこの祝福の言葉で締めくくろう。

 はっぴーばーすでー! わんだほー!


 生っすかスーツの美也は良いぞ。あのミニスカ感が堪らんのじゃ……はい、おしまいです。

 というかさっき誕生日祝いに行ったら桃子先輩が来ててびっくりした。本当に来ちゃったよ。


 美也がメインの話はきっと誰かが書くだろうと、今回は祝う側のメンバーに焦点を当てたちょっと変則的なお話になりました。
 んで、題材は「太眉」「リボン」「サンドイッチ」の三つがありましたので、今回はサンドイッチを。

 だけどこれが良くなかった。サンドイッチは沼だ。深い深い底なし沼。
 詳しく知りたい方は自分で調べてみてください。奥深く、全体が把握できません。

 後、未来と環にはちょっと悪いことしちゃいました。二人とも勿論好きですけど、ついついお馬鹿度を盛り過ぎて……
 本当はこんなにお馬鹿じゃないハズ……です。嫌味な子に映ってないか心配。ただ頑張り過ぎるだけなんだよ……。

 それではここまで長々と、お読みいただきありがとうございました。

>>32
ゲロゲロキッチンは凄惨だったね……

おつおつ
こういう話好き

伊織が用意したならスペパププもありそう

やはり養殖では天然に勝てないのか……
未来ちゃはここまで頭乙女ストームではな……頭乙女スト……頭乙女ストームだな
先輩と一緒に料理が出来てついでに祝ってもらえて中の人も喜んでいそう
面白かった

乙みゃおみゃ~

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